説明

熱伝導率測定方法および熱伝導率測定装置

【課題】測定対象を限定することなく、しかも大型の測定対象であってもサンプリングすることなく容易に熱伝導率が測定できる熱伝導率測定方法および熱伝導率測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の熱伝導率測定方法では、熱伝導率を測定する被測定体Oの表面に熱伝導性の参照体Rをその正面側から当接させて、参照体Rの背面側に設けられたペルチェ素子Pにより参照体Rの背面側から参照体Rの正面側に向かう方向に交流的熱流束Iを生じさせた定常状態で参照体Rの背面側の温度Tと参照体Rの正面側の温度Tとを計測し、これらの温度T,Tの振動的変化の各振幅T10,T20に基づいて被測定体Oの熱伝導率σを導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率測定方法および熱伝導率測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱伝導率測定方法および熱伝導率測定装置が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発明では、金属表面における光の反射率が温度に依存する性質を利用して、金属表面での光の反射率を精密に測定することにより、その金属の表面温度を精密に測定する所謂サーモリフレクタンス法を利用している。
すなわち、予め測定対象となる金属の薄膜を形成して、この金属薄膜の一方の表面にレーザパルス光を照射しつつ、他方の表面に反射率を測定するためのレーザ光を照射して、その反射光量から反射率を精密に測定することにより、金属薄膜の一方の表面側の加熱による他方の表面側の温度応答の情報を得て、これと金属薄膜の膜厚とから金属薄膜の厚さ方向の熱伝導率を測定する。
【0004】
また、この他にも、測定対象となる物質を熱源と温度センサとによって挟んで、熱源の温度と温度センサによって検出される温度との情報から熱伝導率を測定する熱伝導率測定装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−333262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、測定対象となる物質が、光の反射率の温度依存性が明確となっている物質に限定され、さらに測定対象となる物質の薄膜を形成する必要があるので、測定に手間が掛かる。
【0007】
また、測定対象となる物質を熱源と温度センサとによって挟んで測定する熱伝導率測定装置では、物理的制約により測定可能な測定対象の厚さに上限が生じ、測定対象の厚さが、上限を越えるような場合には、この測定対象を薄くサンプリングする必要があるので、測定対象が大型でサンプリングが不可能な場合には測定ができなかった。
【0008】
そこで、本発明では、測定対象を限定することなく、しかも大型の測定対象であってもサンプリングすることなく容易に熱伝導率が測定できる熱伝導率測定方法および熱伝導率測定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、熱伝導率を測定する被測定体表面に熱伝導性の参照体をその正面側から当接させて、前記参照体の背面側に設けられた吸発熱源により前記参照体の背面側から前記参照体の正面側に向かう方向に交流的熱流束を生じさせた定常状態で前記参照体の背面側の温度と前記参照体の正面側の温度とを計測し、これらの温度の振動的変化の各振幅に基づいて前記被測定体の熱伝導率を導出する熱伝導率測定方法を特徴としている。
【0010】
そして、請求項2に記載された発明は、前記参照体の背面側の温度と前記参照体の正面側の温度との各温度振幅の比に基づいて前記被測定体の熱伝導率を導出する請求項1に記載の熱伝導率測定方法を特徴としている。
【0011】
また、請求項3に記載された発明は、前記参照体の背面側の温度振幅をT10、前記参照体の正面側の温度振幅をT20、これらの温度振幅の比をk=T20/T10とし、前記被測定体の熱伝導率σを、前記温度振幅の比kから、関数

(ただし、σは、複数の熱伝導体に対して実測されるkとσとの各値に基づいて決定される定数)により導出する請求項2に記載の熱伝導率測定方法を特徴としている。
【0012】
さらに、請求項4に記載された発明は、板状の参照用熱伝導体と該熱伝導体の両面にそれぞれ当接して設けられた一対の板状の温度検出部とからなる参照体、該参照体の背面側に吸発熱源を有するセンサ部と、前記吸発熱源によって前記参照体の背面側から前記参照体の正面側に向かう方向に交流的熱流束を生じさせる熱源駆動手段と、熱伝導率の測定時に前記参照体の正面側表面部に当接される被測定体の熱伝導率を前記各温度検出部により検出される前記参照体の背面側の温度と前記参照体の正面側の温度との振動的変化の各振幅に基づいて導出する演算部と、を有している熱伝導率測定装置を特徴としている。
【0013】
そして、請求項5に記載された発明は、材質や厚さが異なる前記参照用熱伝導体により構成される前記センサ部が予め複数用意され、これらのセンサ部が交換可能とされている請求項4に記載の熱伝導率測定装置を特徴としている。
【0014】
また、請求項6に記載された発明は、前記参照体の背面側温度検出部により検出される温度の振幅をT10、前記参照体の正面側温度検出部により検出される温度の振幅をT20、これらの温度振幅の比をk=T20/T10として、前記演算部が、前記被測定体の熱伝導率σを、前記温度振幅の比kから、関数

(ただし、σは、複数の熱伝導体に対して実測されるkとσとの各値に基づいて決定される定数)により導出する請求項4または請求項5に記載の熱伝導率測定装置を特徴としている。
【0015】
さらに、請求項7に記載された発明は、前記吸発熱源がペルチェ素子である請求項4ないし請求項6のうちいずれか一項に記載の熱伝導率測定装置を特徴としている。
【0016】
そして、請求項8に記載された発明は、前記熱源駆動手段により前記ペルチェ素子に印加される交流電圧に、所定のバイアス電圧が設定可能とされている請求項7に記載の熱伝導率測定装置を特徴としている。
【0017】
また、請求項9に記載された発明は、温度の検出を可能とする前記各温度検出部の温度検出領域が、前記ペルチェ素子により発生される熱流束の横断面中央位置にそれぞれ配置され、かつ該各温度検出領域の面積が前記ペルチェ素子の吸発熱面の面積に比べて小さく設定されている請求項7または請求項8に記載の熱伝導率測定装置を特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
このように構成された本発明の請求項1に記載のものは、熱伝導率を測定する被測定体表面に熱伝導性の参照体をその正面側から当接させて被測定体の熱伝導率を導出するので、被測定体の表面が露出していれば、この被測定体の熱伝導率を計測することができる。
したがって、従来例の熱伝導率測定装置のように、熱源と温度センサとによって被測定体を挟んで測定する必要がなく、このため、被測定体を薄くサンプリングする必要がないので、例えば、壁や床などを形成している断熱材などの大型の被測定体であっても、その熱伝導率を容易に測定することができる。
【0019】
また、交流的熱流束による温度振動の定常状態で測定しているので、例えば、熱的過渡状態で熱伝導率を測定する場合に比べて、安定かつ正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【0020】
しかも、本請求項に係る熱伝導率測定方法では、計測される温度の時間的な平均をとれば、この温度平均は原理的には環境温度と等しくなるので、平均的には被測定体に熱を加えないので、被測定体の温度が上昇することはなく、一定の環境温度条件の下で、一層、安定かつ正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【0021】
そして、本発明の請求項2に記載のものは、参照体の背面側の温度と参照体の正面側の温度との各温度の相対的な振幅比に基づいて被測定体の熱伝導率を導出しているので、測定環境の変化による上記各温度の絶対的な温度変化の影響を受けにくく、環境の変化に依らず、安定かつ正確な計測が可能となる。
【0022】
このように、環境の変化に依らず安定かつ正確な計測が可能なので、複数の熱伝導体に対して、これらの温度振幅の比と熱伝導率とをそれぞれ比較することにより、温度振幅の比と熱伝導率との相関を正確に得ることができるので、熱伝導率未知の熱伝導体の熱伝導率を、その物質について測定される温度振幅の比から正確に導出することができる。
【0023】
また、本発明の請求項3に記載のものは、複数の熱伝導体に対して実測された温度振幅の比kと熱伝導率σとの各値に基づいて決定された関数σ=f(k)を適用することにより、熱伝導率未知の熱伝導体の熱伝導率を正確に導出することができる。
【0024】
さらに、本発明の請求項4に記載のものは、請求項1と同様の効果を奏する。
【0025】
そして、本発明の請求項5に記載のものは、材質や厚さが異なる参照用熱伝導体により構成されるセンサ部が予め複数用意され、これらのセンサ部が交換可能とされているので、異なるセンサ部に交換することにより、被測定体に流入される熱流束の強度を変えることができ、被測定体に応じて異なるセンサ部に交換することにより熱伝導率の測定レンジを変えることができるので、幅広い測定レンジによる熱伝導率の測定が実現できる。
このため、測定対象が制限されることなく、様々な物質の熱伝導率の測定が可能となる。
【0026】
また、本発明の請求項6に記載のものは、請求項1および請求項2と同様の効果を奏する。
【0027】
さらに、本発明の請求項7に記載のものは、ペルチェ素子を吸発熱源として採用することにより、より一層、安定かつ正確な熱伝導率の測定が可能となる。
ペルチェ素子は、一般に供給電流に対する熱応答性に優れており、しかも交流電流を供給した場合には、それ自体のジュール発熱を除けば、電流0の状態に関して、ほぼ対称に発熱と吸熱とを繰り返すので、本発明の熱伝導率測定装置に使用する吸発熱源として好適である。
【0028】
そして、本発明の請求項8に記載のものは、ペルチェ素子に印加される交流電圧に所定のバイアス電圧が設定可能とされているので、ペルチェ素子により参照体に供給される熱量について、平均の発熱量より平均の吸熱量を大きく設定することが可能となり、ペルチェ素子自体が発生するジュール熱分だけ吸熱量を大きく設定することにより、参照体へのジュール熱の流入を抑制できる。
【0029】
また、本発明の請求項9に記載のものは、温度検出を可能とする各温度検出部の温度検出領域が、ペルチェ素子により発生される熱流束の横断面中央位置にそれぞれ配置され、かつ各温度検出領域の面積がペルチェ素子の吸発熱面の面積に比べて小さく設定されているので、各温度検出部の温度検出領域を通過する熱流束が、ある程度コリメート(平行化)され、被測定体内部での熱拡散が無視できるようになり、正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例に係る熱伝導率測定装置の概略図であり、(a)は熱伝導率測定装置全体を示す平面図、(b)はセンサ本体部の側面図である。
【図2】実施例に係るセンサ部の概略図であり、(a)はセンサ部の側面図、(b)はセンサ部の分解側面図、(c)は温度センサの斜視図である。
【図3】実施例に係る熱伝導率測定装置のブロック構成図である。
【図4】実施例に係る熱伝導率測定装置の動作を示す図であり、(a)は液晶表示部に「計測準備中」と表示された状態、(b)は液晶表示部に「計測可能」と表示された状態、(c)は液晶表示部に被測定体の熱伝導率と環境温度とが表示された状態を示している。
【図5】実施例に係る制御演算部による制御の流れを示すフローチャート図である。
【図6】(a)はバイアス電圧を0に設定した場合のペルチェ素子への印加電圧のグラフ図、(b)はバイアス電圧を負に設定した場合のペルチェ素子への印加電圧のグラフ図、(c)はセンサ部の背面側の温度センサの出力電圧のグラフ図、(d)はセンサ部の表面側の温度センサの出力電圧のグラフ図である。
【図7】(a)はバイアス電圧を0に設定した場合のペルチェ素子への印加電圧のグラフ図、(b)は(a)に対応するペルチェ素子への供給電力のグラフ図、(c)は(a)に対応するセンサ部での熱流束のグラフ図である。
【図8】実施例の温度比平均値取得処理に係るグラフ図であり、(a)はペルチェ素子への平均供給電力と温度センサの出力電圧の実効値との関係を示すグラフ図、(b)はペルチェ素子への平均供給電力と温度振幅の比との関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例に係る熱伝導率測定装置の測定原理を示す図であり、(a)はセンサ部のセンサ面が被測定体に当接された状態の側面図、(b)は参照体と被測定体との接触部近傍における熱流束方向の変位と温度振幅との相関を示す概念図である。
【図10】実施例に係る熱伝導率測定装置の測定原理を示す図であり、参照体と被測定体との接触部近傍における熱流束方向の変位と温度振幅との相関を、異なる2つの被測定体について比較して示した概念図である。
【図11】実施例に係る関数を導出する際に使用されたデータを示す図であり、複数の物質と、それらに対応する各計算値とを示す表図である。
【図12】実施例に係る関数を導出する際に使用されたデータを示す図であり、(a)は比例式の比例関係を示すグラフ図、(b)は最終的に得られた関数のグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、発明を実施するための最良の形態の実施例に基づいて本発明を説明する。
【実施例】
【0032】
〈熱伝導率測定装置の構成〉
図1(a)において、符号1は本実施例に係る熱伝導率測定装置である。
【0033】
熱伝導率測定装置1は装置本体部2とセンサ本体部3とによって構成されており、本装置を使用する際には、装置本体部2とセンサ本体部3とを接続ケーブル4によって接続する。
【0034】
装置本体部2は略直方体形状の薄型ケース5を有しており、ケース5の上面部には熱伝導率の測定値などを表示する液晶表示部6と、電源スイッチ7aと測定開始スイッチ7bとからなる操作部7とが設けられている。
【0035】
ケース5の両側部には、それぞれ接続ケーブル4用のコネクタ8とパーソナルコンピュータ接続用のUSB端子9とが設けられている。
【0036】
図1(b)に示すように、センサ本体部3はセンサユニット3Aと略L字状の握持部3Bとを有しており、センサユニット3Aと握持部3Bとは、センサユニット3A側のコネクタ3Aaと握持部3B側のコネクタ3Baとを介して着脱自在となっている。
【0037】
センサユニット3Aは、センサ部10を内蔵しており、センサユニット3Aの正面側からは、後述するセンサ部10のセンサ面Raが露出している。
【0038】
センサユニット3Aが握持部3Bに装着された状態では、センサ部10のセンサ面Raと握持部3Bの脚部3Bb正面側の端面3Bcとが略面一となるように構成されている。
このため、センサ本体部3を被測定体Oとしての壁材Wに押し当てて測定したり、被測定体Oとしての床材(図示省略)に載置して測定したりすることが可能となっている。
【0039】
図2(a)または図2(b)に示すように、センサ部10は、参照体Rと、吸発熱源としてのペルチェ素子Pと、ペルチェ素子Pの温度を安定させるための高熱容量体Cと、高熱容量体Cと外部環境との間の熱交換を効率化するヒートシンクHとを有している。
【0040】
参照体Rと、ペルチェ素子Pと、高熱容量体Cと、ヒートシンクHとは、センサ部10の正面側から、この順に当接配置されている。
【0041】
高熱容量体CおよびヒートシンクHは、ペルチェ素子P自体が発生するジュール熱を放熱すると共に、ペルチェ素子Pの温度を環境温度に近づけて温度を安定させている。
【0042】
参照体Rは、アクリル(PMMA)製の参照用樹脂板Aと、参照用樹脂板Aの両面にそれぞれ当接配置された一対の温度センサS1,S2とによって構成されている。
【0043】
図2(c)に示すように、本実施例に係る温度センサS1,S2には、ペルチェ素子Pと略同一サイズの正方形基板の中央に、銅線と銅コンスタンタン線とが交互に直列に接続されたサーモパイル部Dが形成されている。
【0044】
図2(a)または図2(b)に示すように、温度の検出を可能とする各温度センサS1,S2のサーモパイル部Dは、ペルチェ素子Pにより発生される熱流束Iの横断面中央位置にそれぞれ配置され、かつ各サーモパイルD部分の面積sがペルチェ素子Pの吸発熱面の面積Sに比べて小さく設定されている。
【0045】
温度センサS2,参照用樹脂板A,温度センサS1,ペルチェ素子P,高熱容量体C,ヒートシンクHの各当接面はそれぞれ接着されており、温度センサS2の参照用樹脂板Aとは当接しない面には、樹脂製の保護膜で覆われたセンサ面Raが形成されている。
【0046】
本実施例に係る熱伝導率測定装置1では、予め複数のセンサユニット3Aが用意されており、これらのセンサユニット3Aに内蔵されるセンサ部10には、異なる材質や厚さの参照用樹脂板Aが設定されている。
【0047】
熱伝導率未知の熱伝導体の熱伝導率を測定する際には、その被測定体Oの物質に応じて、これらのセンサユニット3Aを交換して使用する。
【0048】
図1に示すセンサ本体部3の握持部3Bの内部には、図3に示す2組のプリアンプ11a,11bと熱源駆動回路12とが搭載されている。
【0049】
図3に示すように、センサ本体部3が有する一対の温度センサS1,S2の各電極は、2組のプリアンプ11a,11bの入力にそれぞれ接続されており、プリアンプ11a,11bの出力は、接続ケーブル4とコネクタ8とを介して装置本体部2に接続されている。
【0050】
また、センサ本体部3が有するペルチェ素子Pの電極は、熱源駆動回路12の出力に接続されており、熱源駆動回路12の入力は接続ケーブル4とコネクタ8とを介して装置本体部2に接続されている。
【0051】
装置本体部2は、その内部に、信号処理部13と、制御演算部(マイクロコンピュータ)14と、記憶部(不揮発性メモリ)15と、通信手段(USBインターフェース回路)16とを有している。
【0052】
信号処理部13は、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成されており、2組のADC(ADコンバータ)回路部17a,17bとDAC(DAコンバータ)回路部17cとの他に、2信号の信号値を積算する積算回路部18、ローパスフィルタとしての積分回路部19、任意波形の信号を生成するファンクションジェネレータ回路部20などが組み込まれている。
【0053】
これらのうち、積算回路部18と、積分回路部19とによってロックインアンプ部Lが構成されている。
【0054】
ロックインアンプ部Lは、その機能として、一対の温度センサS1,S2の電圧信号から、温度変化に対応する交流信号とは異なる周波数のノイズ信号を除去する機能(周波数フィルタ手段)と、一対の温度センサS1,S2からの交流信号の位相差Δθを抽出して、Δθに対応する位相信号を出力する機能(位相差抽出手段)とを有している。
【0055】
制御演算部14は、液晶表示部6と、本体操作部7と、信号処理部13と、記憶部15と、通信手段16とに接続されており、後述する全ての処理は、記憶部15に記憶されたプログラムに基づいて制御演算部14により実行される。
【0056】
本実施例に係る熱伝導率測定装置1では、ファンクションジェネレータ回路部20,DAC回路部17c,熱源駆動回路12とからなる熱源駆動手段HCによりペルチェ素子Pに交流電力を供給している。
そして、熱源駆動手段HCは、ペルチェ素子Pにより参照体Rの背面側から正面側に向かう方向に交流的熱流束Iを発生させる。
【0057】
この熱源駆動手段HCがペルチェ素子Pに印加する電圧をV〔V〕とし、電圧Vが正のとき、温度センサS1側から温度センサS2側に向かう方向に熱流束Iが発生するように構成されている。
【0058】
また、本実施例に係る熱伝導率測定装置1では、プリアンプ11a,11b,ADC回路部17a,17b,ロックインアンプ部Lからなるセンサ出力取得手段DUにより参照体Rの温度センサS1,S2よって検出される温度T,Tに比例したセンサ出力電圧V,Vの情報を取得する。
【0059】
そして、制御演算部14は、熱伝導率の測定時に、これらのセンサ出力電圧V,Vの情報に基づいて各温度センサS1,S2により検出される参照体Rの背面側の温度Tと正面側の温度Tとの振動的変化の各振幅T10,T20を導出し、これらの振幅T10,T20に基づいてセンサ本体部3のセンサ面Raに当接される被測定体Oの熱伝導率σを導出する。
【0060】
具体的には、センサ出力電圧V,Vの時系列データを時系列(時間)に関して積分処理して、これらのセンサ出力電圧V,Vの各平均値V1m,V2mを導出し(図6(c),図6(d)参照)、次に、各センサ出力電圧V,Vの時系列データと各平均値V1m,V2mのデータとからセンサ出力電圧V,Vの実効値(V,Vの2乗平均根)V1e,V2eを導出する。
【0061】
サーモパイルにより得られるセンサ出力電圧V,Vは、温度センサS1,S2の各温度T,Tに比例するので、センサ出力電圧V,Vの振動的変化の振幅V10,V20は、各温度センサS1,S2により検出される温度T,Tの振動的変化の各振幅T10,T20にそれぞれ比例する。
【0062】
また、一般に、振幅V10,V20は実効値V1e,V2eにそれぞれ比例するので、温度振幅T10,T20の比kは結果的には、センサ出力電圧V,Vの実効値V1e,V2eに比例する。
【0063】
すなわち、

であるから、制御演算部14により導出されたV1e,V2eからkを導出して、被測定体Oの熱伝導率σを関数

により導出する。
【0064】
ただし、σは、複数の熱伝導体に対して実測されるkとσとの各値に基づいて決定される定数であり、本実施例では、σ

とする。
【0065】
〈作用〉
〔熱伝導率測定装置の使用方法〕
まず、熱伝導率の測定レンジを切り替えるために予め用意された、材質や厚さが異なる参照用樹脂板Aを有する複数のセンサユニット3Aの中から熱伝導率未知の熱伝導体の測定に適したセンサユニット3Aを選択し、このセンサユニット3Aを握持部3Bに装着する(図1(b)参照)。
【0066】
そして、センサ本体部3の接続ケーブル4を装置本体部2の接続ケーブル4用のコネクタ8に接続する。
【0067】
次に、装置本体部2の電源スイッチ7aを押して電源を投入すると、熱伝導率測定装置1が起動し、熱伝導率測定装置1の較正が自動的に開始されると共に、液晶表示部6に「計測準備中」の文字が表示される(図4(a)参照)。
【0068】
そして、熱伝導率測定装置1の較正が完了すると、液晶表示部6に「計測可能」の文字が表示される(図4(b)参照)。
【0069】
次に、被測定体Oをセンサ本体部3のセンサ面Raに当接させた状態で測定開始スイッチ7bを押す。
【0070】
そして、しばらくすると、液晶表示部6に環境温度等の測定条件と共に、被測定体Oの熱伝導率が表示される(図4(c)参照)。
【0071】
〔制御演算部14による制御の流れ〕
次に、本実施例に係る制御演算部14による制御の流れを、図5に示すフローチャート図と対応させて説明する。
【0072】
電源が投入されると、熱伝導率測定装置1が起動し、自動的に以下のStep1〜Step7の処理が実行される。
【0073】
Step1では、液晶表示部6に「計測準備中」と表示する(図4(a)参照)。
【0074】
Step2では、周波数最適化処理を実行する。
周波数最適化処理では、まず、熱源駆動手段HCにより、振幅Vp0,振動数fの交流電圧Vをペルチェ素子Pに印加する(図6(a)参照)。
なお、本実施例に係る熱伝導率測定装置1では、ペルチェ素子Pに印加される交流電圧Vに、交流電圧の基準電圧としてのバイアス電圧Vbiasが設定可能とされている。
【0075】
次に、温度センサS1,S2の各出力電圧V,Vを計測して、ロックインアンプ部Lから出力される位相差信号に基づいて、各出力電圧V,Vの位相差Δθ,Δθを取得し(図6(c),図6(d)参照)、出力電圧Vに対する出力電圧Vの相対的位相差Δθ=|Δθ−Δθ|を導出する。
【0076】
ところで、相対的位相差Δθはペルチェ素子Pに印加される交流電圧Vの振動数fに対して、式

に従うことが知られている。
【0077】
ただし、αは参照用樹脂板Aを構成する物質の熱拡散率、Dは参照用樹脂板Aの厚さである。なお、上式は、本実施例に係る参照用樹脂板Aについて熱伝導方程式を適用することにより導くことができるが、その詳細は省略する。
【0078】
このように、電圧Vに対する電圧Vの相対的位相差Δθは、ペルチェ素子Pに印加する交流電圧Vの振動数fに依存する。
【0079】
そこで、熱源駆動手段HCにより振動数fを変化させつつ、センサ出力取得手段DUによって位相差Δθを計測して、位相差Δθがπの整数倍となるように振動数fを設定することにより、電圧Vの振幅が極大となるように、ペルチェ素子Pへの印加電圧の振動数をfに設定する。
なお、図9(b)に示すグラフ図は、Δθ=2πに設定した場合の概念図となっている。
【0080】
Step3では、液晶表示部6に「計測可能」と表示する(図4(b)参照)。
【0081】
Step4では、測定開始スイッチ7bのON・OFF状態をチェックする。
測定開始スイッチ7bがON状態ならばStep5を実行し、OFF状態ならばStep3に戻る。
【0082】
Step5では、温度比平均値取得処理を実行する。
温度比平均値取得処理では、まず、熱源駆動手段HCにより、振幅Vp0,振動数fの交流電圧Vをペルチェ素子Pに印加する(図6(a)参照)。
【0083】
そして、センサ出力取得手段DUにより、温度センサS1,S2の各出力電圧V,Vの取得する(図6(c),図6(d)参照)。
【0084】
次に、温度センサS1,S2の各出力電圧値V,Vを電圧の振動周期Tで積分して、この振動周期Tで除算することにより各平均電圧V1m,V2mを導出する(図6(c),図6(d)参照)。
【0085】
そして、温度センサS1,S2の各出力電圧値V,Vのデータから各平均電圧V1m,V2mのデータに基づき、電圧の実効値V1e,V2eを導出する。
【0086】
ところで、温度センサS1,S2により検出される各計測温度T,Tと温度センサS1,S2の各出力電圧値V,Vとは、それぞれ比例するので、平均温度T(理想的には、Tは環境温度に等しい。)を基準とした各計測温度T,Tの振幅T10,T20は、温度センサS1,S2の各出力電圧値V,Vの各平均電圧V1m,V2mを基準とした電圧振幅V10,V20に比例し、さらに電圧振幅V10,V20は電圧実効値V1e,V2eに、それぞれ比例するので、各計測温度T,Tの振幅T10,T20と各出力電圧値V,Vの電圧実効値V1e,V2eとは比例する。
【0087】
したがって、各計測温度T,Tの振幅T10,T20の比kは、

となるので、本実施例の熱伝導率測定装置1では、温度センサS1,S2の各計測温度振幅T10,T20から直接k=T20/T10を求める代わりに、V1e,V2eの比V2e/V1eからkを導出する。
【0088】
また、一般にペルチェ素子Pに供給される電力Pは、ペルチェ素子Pへの印加電圧Vの2乗に比例するので、ペルチェ素子Pに振幅Vp0,振動数fの交流電圧V

ことができる(図7(b)参照)。
【0089】
さらに、ペルチェ素子Pにより被測定体Oとセンサ部10とからなる系に発生される熱流束密度iは、ペルチェ素子Pに供給される電力Pに比例すると考えられ(図7(c)参照、ただし、図7(c)のグラフ図では熱流束の向きも考慮されている。)、温度センサS1,S2における各計測温度T,Tは、熱流束密度iに比例すると考えられるので、結果として温度センサS1,S2の各出力電圧の実効値V1e,V2eは、ペル

照)。
このような比例関係は、出願人による実測によっても確認されている。
【0090】

値V2eとの比例定数をαとすると、本実施例に係る温度振幅の比k=V2e/V1eは、

【0091】
そこで、本実施例の熱伝導率測定装置1では、ペルチェ素子Pへの印加電圧V

施例では、n=9としている。)と変化させて、これらに各対応する温度センサS1,S2の各出力電圧の実効値V1e,V2eをそれぞれ計測し、これらの計測された各実効値V1e,V2eに対して、k=V2e/V1eをそれぞれ導出することにより、それらのkの値

【0092】

熱伝導率導出処理を実行する。
【0093】

により、被測定体Oの熱伝導率σを導出する。
【0094】
Step7では、導出された熱伝導率σと環境温度とを液晶表示部6に表示する(図4(c)参照)。
【0095】
〔熱伝導率測定の原理〕

(σは物質の熱伝導率)が成立する。
【0096】
特に本実施例に係る熱伝導率測定装置1では、温度センサS1,S2の各サーモパイル部Dの間を通過する熱流束部分は、ある程度平行になっていると考えられるので、一次元のフーリエの法則、すなわち、

が成立していると考えられる。
【0097】
図9(b)に示すように、参照体の背面側と正面側の温度を、それぞれT,T(T<T)とし、参照体の熱流束方向の長さをD、参照体の熱伝導率をσrefとすると、参照体を通過する熱流束の熱流束密度irefは、参照体を一様とすれば、フーリエの法則より近似的に

と表すことができる。
【0098】
一方、参照体の正面側に当接された被測定体Oについても、被測定体O周囲の環境温度をT、被測定体Oの温度が参照体との当接面の温度Tから環境温度T(T>T)に減衰するまでの距離をdとすると、被測定体Oに流れ込む熱流束の熱流束密度iは、被測定体Oが一様物質であれば、フーリエの法則より近似的に、

と表すことができる。
【0099】
ところで、参照体から出力される熱流束の熱流束密度irefと、被測定体Oに流れ込む熱流束の熱流束密度iとは、おおよそ比例していると考えられるので、

が成立する。
【0100】
一方、本実施例に係る熱伝導率測定装置1では交流的熱流束の熱流束密度を利用しているので、この交流的熱流束により、測定中には参照体と被測定体Oとを含む系に定常的温度波が生じている。
【0101】
そして、フーリエの法則が時間微分を含まないことから、この定常的温度波の振幅についても式(4)が成立していると考えられる。
【0102】
すなわち、環境温度T(実際には各センサ位置での平均温度)からの温度変化の振幅を、それぞれT10,T20(T20<T10)とすると、

と表すことができる。
【0103】
ここで、両辺T10で割って、

【0104】
20/T10=k(温度振幅の比)と置いて、

【0105】
これを整理して、

【0106】
この式(8)の左辺は被測定体Oの熱物性量によって表されており、右辺は参照体の熱物性量を含む測定装置側の計測量によって表されている。
【0107】
すなわち、式(8)より、本実施例で計測される温度振幅の比k(実際には、温度センサS1,S2の出力電圧V,Vから導出される。)には、被測定体Oの熱伝導率σの情報が含まれていることが分かる。
【0108】
ところで、被測定体Oの温度が参照体との当接面の温度Tから環境温度T(T>T)に減衰するまでの距離をdは、被測定体Oの熱伝導率σに依存することが予想される(図10参照)。
【0109】
そこで、式(8)をdについて解いて、

とする。
【0110】
ここで、参照体の熱流束方向の長さDが一定値であり、参照体の熱伝導率σrefは測定条件を整えれば一定値と見なすことができるから、

とし、dに比例する量d(prop)を、別の測定から得られた種々の物質の熱伝導率のデータと、これらの各物質の温度振幅の比kの実測値とにより、これらの値に対応するd(prop)の値が決定できる(図11参照)。
【0111】

との比例関係

を得ることができ、出願人は最終的に実験式

を得た(図12(a)参照)。
【0112】
さらに、この式(12)を式(8)に代入して整理することにより、式

が得られるので、改めて、kの各値と、それらのkの値に対応するσの値との比較から、式(13)の比例係数を導出して、最終的に、温度振幅の比kと熱伝導率σとの間に

の関係式を得ることができる。
【0113】
上述してきたように、本発明の熱伝導率測定装置1では、式(14)を利用して、温度振幅の比kから被測定体Oの熱伝導率を得る(図12(b)参照)。
【0114】
〈効果〉
本実施例に係る熱伝導率測定装置1では、熱伝導率を測定する被測定体Oの表面に熱伝導性の参照体Rをその正面側から当接させて被測定体Oの熱伝導率を導出するので、被測定体Oの表面が露出していれば、この被測定体Oの熱伝導率を計測することができる。
【0115】
したがって、従来例の熱伝導率測定装置のように、熱源と温度センサとによって被測定体Oを挟んで測定する必要がなく、このため、被測定体Oを薄くサンプリングする必要がないので、例えば、壁や床などを形成している断熱材などの大型の被測定体Oであっても、その熱伝導率を容易に測定することができる。
【0116】
また、交流的熱流束Iによる温度振動の定常状態で測定しているので、例えば、熱的過渡状態で熱伝導率を測定する場合に比べて、安定かつ正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【0117】
しかも、計測される温度の時間的な平均をとれば、この温度平均Tは原理的には環境温度と等しくなるので、平均的には被測定体Oに熱を加えないので、被測定体Oの温度が上昇することはなく、一定の環境温度条件の下で、一層、安定かつ正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【0118】
そして、参照体Rの背面側の温度Tと参照体Rの正面側の温度Tとの各温度T,Tの相対的な振幅比kに基づいて被測定体Oの熱伝導率σを導出しているので、測定環境の変化による上記各温度T,Tの絶対的な温度変化の影響を受けにくく、環境の変化に依らず、安定かつ正確な計測が可能となる。
【0119】
このように、環境の変化に依らず安定かつ正確な計測が可能なので、複数の熱伝導体に対して、これらの温度振幅の比kと熱伝導率σとをそれぞれ比較することにより、これらの相関を正確に得ることができるので、熱伝導率未知の熱伝導体の熱伝導率σを、その物質について測定される温度振幅の比kから正確に導出することができる。
【0120】
また、複数の熱伝導体に対して実測された温度振幅の比kと熱伝導率σとの各値に基づいて決定された関数σ=f(k)を適用することにより、熱伝導率未知の熱伝導体の熱伝導率σを正確に導出することができる。
【0121】
そして、材質や厚さが異なる参照用樹脂板Aにより構成されるセンサ部10が予め複数用意され、これらのセンサ部10が交換可能とされているので、異なるセンサ部10に交換することにより、被測定体Oに流入される熱流束Iの強度を変えることができ、被測定体Oに応じて異なるセンサ部10に交換することにより熱伝導率の測定レンジを変えることができるので、幅広い測定レンジによる熱伝導率の測定が実現できる。
このため、測定対象が制限されることなく、様々な物質の熱伝導率の測定が可能となる。
【0122】
さらに、ペルチェ素子Pを吸発熱源として採用することにより、より一層、安定かつ正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【0123】
ペルチェ素子は、一般に供給電流に対する熱応答性に優れており、しかも交流電流を供給した場合には、それ自体のジュール発熱を除けば、電流0の状態に関して、ほぼ対称に発熱と吸熱とを繰り返すので、本実施例に係る熱伝導率測定装置1に使用する吸発熱源として好適である。
【0124】
そして、ペルチェ素子Pに印加される交流電圧Vに所定のバイアス電圧Vbiasが設定可能とされているので、ペルチェ素子Pにより参照体Rに供給される熱量について、平均の発熱量より平均の吸熱量を大きく設定することが可能となり、ペルチェ素子P自体が発生するジュール熱分だけ吸熱量を大きく設定することにより、参照体Rへのジュール熱の流入を抑制できる。
【0125】
また、温度検出を可能とする各温度センサS1,S2のサーモパイル部Dが、ペルチェ素子Pにより発生される熱流束Iの横断面中央位置にそれぞれ配置され、かつ各サーモパイル部Dの面積Sがペルチェ素子Pの吸発熱面の面積sに比べて小さく設定されているので、各温度センサS1,S2のサーモパイル部Dを通過する熱流束Iが、ある程度コリメート(平行化)され、被測定体O内部での熱拡散が無視できるようになり、正確な熱伝導率の測定が可能となる。
【0126】
しかも、本実施例に係る熱伝導率測定装置1は、ペルチェ素子Pに供給される交流電力の振動数fと同一の振動数の温度変化データを抽出する周波数フィルタ手段が設けられているので、環境温度の変化の影響や電気的ノイズの影響を受けにくく、正確な計測できる。
【0127】
さらに、温度センサS1,S2により検出される交流的温度変化の位相差Δθを抽出する位相差抽出手段が設けられており、熱源駆動手段HCにより振動数fを変化させつつ、センサ出力取得手段DUによって位相差Δθを計測して、位相差Δθがπの整数倍となるように振動数fを設定することにより、電圧Vの振幅が極大となるように、ペルチェ素子Pへの印加電圧の振動数をfに設定する周波数最適化処理がなされるので、センサ面Ra側の温度センサS2での交流的温度変化の振幅T20は最大となり、被測定体Oをセンサ面Raに接触させた際の温度変化のダイナミックレンジが増大し、一層正確な計測できる。
【0128】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は本発明に含まれる。
【0129】
なお、実施例では、温度振幅T10,T20の比kと被測定体Oの熱伝導率σとの間の相関関数を

としたが、σの値は、この値に確定するものではなく、複数の熱伝導体に対して実測されるkとσとの各値に基づいて決定された値であればよい。
【符号の説明】
【0130】
1 熱伝導率測定装置
Ra 参照体の正面側表面部
I 熱流束
O 被測定体
10 センサ部
R 参照体
A 参照用樹脂板(参照用熱伝導体)
S1,S2 温度センサ(温度検出部)
P ペルチェ素子(吸発熱源)
HC 熱源駆動手段
14 制御演算部(演算部)
D サーモパイル部(温度検出領域)
s 温度検出領域の面積
S ペルチェ素子の吸発熱面の面積
k 参照体の背面側の温度と参照体の正面側の温度との各温度振幅の比
f(k) 関数
σ 被測定体Oの熱伝導率
σ 複数の熱伝導体に対する実測値に基づいて決定される定数
ペルチェ素子への印加電圧
bias バイアス電圧
参照体の背面側の温度
参照体の正面側の温度
10 参照体の背面側の温度振幅
20 参照体の正面側の温度振幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率を測定する被測定体表面に熱伝導性の参照体をその正面側から当接させて、
前記参照体の背面側に設けられた吸発熱源により前記参照体の背面側から前記参照体の正面側に向かう方向に交流的熱流束を生じさせた定常状態で前記参照体の背面側の温度と前記参照体の正面側の温度とを計測し、
これらの温度の振動的変化の各振幅に基づいて前記被測定体の熱伝導率を導出することを特徴とする熱伝導率測定方法。
【請求項2】
前記参照体の背面側の温度と前記参照体の正面側の温度との各温度振幅の比に基づいて前記被測定体の熱伝導率を導出することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項3】
前記参照体の背面側の温度振幅をT10、前記参照体の正面側の温度振幅をT20、これらの温度振幅の比をk=T20/T10とし、
前記被測定体の熱伝導率σを、前記温度振幅の比kから、関数

(ただし、σは、複数の熱伝導体に対して実測されるkとσとの各値に基づいて決定される定数)により導出することを特徴とする請求項2に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項4】
板状の参照用熱伝導体と該熱伝導体の両面にそれぞれ当接して設けられた一対の板状の温度検出部とからなる参照体、該参照体の背面側に吸発熱源を有するセンサ部と、
前記吸発熱源によって前記参照体の背面側から前記参照体の正面側に向かう方向に交流的熱流束を生じさせる熱源駆動手段と、
熱伝導率の測定時に前記参照体の正面側表面部に当接される被測定体の熱伝導率を前記各温度検出部により検出される前記参照体の背面側の温度と前記参照体の正面側の温度との振動的変化の各振幅に基づいて導出する演算部と、
を有していることを特徴とする熱伝導率測定装置。
【請求項5】
材質や厚さが異なる前記参照用熱伝導体により構成される前記センサ部が予め複数用意され、これらのセンサ部が交換可能とされていることを特徴とする請求項4に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項6】
前記参照体の背面側温度検出部により検出される温度の振幅をT10、前記参照体の正面側温度検出部により検出される温度の振幅をT20、これらの温度振幅の比を
k=T20/T10として、
前記演算部が、前記被測定体の熱伝導率σを、前記温度振幅の比kから、関数

(ただし、σは、複数の熱伝導体に対して実測されるkとσとの各値に基づいて決定される定数)により導出することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項7】
前記吸発熱源がペルチェ素子であることを特徴とする請求項4ないし請求項6のうちいずれか一項に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項8】
前記熱源駆動手段により前記ペルチェ素子に印加される交流電圧に、所定のバイアス電圧が設定可能とされていることを特徴とする請求項7に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項9】
温度の検出を可能とする前記各温度検出部の温度検出領域が、前記ペルチェ素子により発生される熱流束の横断面中央位置にそれぞれ配置され、かつ該各温度検出領域の面積が前記ペルチェ素子の吸発熱面の面積に比べて小さく設定されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の熱伝導率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−2437(P2011−2437A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162210(P2009−162210)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(506354216)株式会社アイフェイズ (2)
【Fターム(参考)】