説明

熱処理油

【課題】金属材料の焼入れなどの処理において、冷却性が良好であると共に、引火点が高く、火災の危険性が低減された熱処理油を提供する。
【解決手段】α−オレフィンオリゴマー系化合物70質量%以上を含み、かつ引火点FP(℃)と40℃動粘度ν(mm2/s)とが、式(1)
FP≧250loglogν+200 (1)
の関係を満たす基油を含有することを特徴とする熱処理油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱処理油に関し、さらに詳しくは、α−オレフィンオリゴマー系化合物を主体とする基油を含み、金属材料の焼入れなどの処理において、冷却性が良好であると共に、引火点が高く、火災の危険性が低減された熱処理油に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の熱処理、特に焼入れにおいては、その熱処理条件に適した熱処理油の選定が重要であり、その選定が不適切な場合には十分な焼入れ硬さが得られないことがあり、また著しいひずみが発生することがある。
鋼材の焼入れにおいては、例えばオーステナイト状態にある加熱された鋼材を上部臨界冷却速度以上で冷却し、マルテンサイトなどの焼入れ組織に変態させる処理であり、この焼入れによって、処理物は非常に硬くなる。この際、冷却剤としては、一般に油系、水系(水溶液系)、エマルジョン系の熱処理液が用いられる。鋼材の焼入れについて説明すると、加熱された鋼材を冷却剤である熱処理液に投入した場合、冷却速度は一定ではなく、通常三つの段階を経る。即ち、(1)鋼材が熱処理液の蒸気で包まれる第1段階(蒸気膜段階)、(2)蒸気膜が破れて沸騰が起こる第2段階(沸騰段階)、そして(3)鋼材の温度が熱処理液の沸点以下となり、対流により熱が奪われる第3段階(対流段階)を経て冷却される。この三つの段階において、冷却速度は第2段階の沸騰段階が最も大きい。従来の熱処理油においては、冷却性能を示す熱伝達率が、特に沸騰段階で急激に立ち上がり、処理物表面で蒸気膜段階と沸騰段階が混在する状態において極めて大きな温度差が生じ、それに伴う熱収縮の差や変態の時間差に起因する熱応力や変態応力が発生して焼入れ歪が増大する。
このような従来の熱処理油が有する欠点を克服し、金属材料の焼入れにおいて、冷却むらが生じにくく、焼入れ処理物の硬さを確保すると共に、焼入れ歪を低減し得る熱処理油組成物として、(A)温度40℃における動粘度が5〜60mm2/sの低粘度基油50〜95重量%と、(B)温度40℃における動粘度が300mm2/s以上の高粘度基油50〜5重量%とからなる混合基油及び場合により(C)蒸気膜破断剤を含む熱処理油組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、一般に、炭素鋼はいわゆる「焼き」が入りにくい鋼材であることから、炭素鋼の焼入れには焼入れ性向上剤として、合成高分子炭化水素やアスファルト質の石油系高分子炭化水素を含有する40℃動粘度が10〜20mm2/s程度の焼入れ油が使用されているが、特に焼入れ性が良好であるとの理由から、焼きの入りにくい鋼材の焼入れ油としてはできるだけ粘度の低い熱処理油が選ばれるのが普通である。しかし、一般的な傾向としては粘度の低い熱処理油には比較的多量の低沸点鉱油が配合されている関係で、引火性が高くなる不都合がある。焼入れは高温に加熱した鋼材を油中に投入して急冷する作業であるので、引火性の高い熱処理油の使用は常に危険性を孕んでいると言える。
このような事情のもとで、焼入れ硬化性に乏しい鋼材にも充分な硬度を付与することができ、しかも引火性の低い熱処理油として、5%留出温度が290〜310℃であり、かつ40℃における動粘度が12〜30mm2/sであることを特徴とする熱処理油が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
一般に、熱処理油においては、油面上での発火の危険性を避けるために、高い引火点のものが望まれ、したがって高い粘度の基油が採用される。ところが、熱処理油の冷却性は、粘度が高いほど低い傾向にある。すなわち、引火点を上げたい場合、冷却性が犠牲になる。
前記公報に開示されている熱処理油組成物及び熱処理油は、高引火点と良好な冷却性の両方を、必ずしも充分に満足し得るとは言えなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−327191号公報
【特許文献2】特開平10−158677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、金属材料の焼入れなどの処理において、冷却性が良好であると共に、引火点が高く、火災の危険性が低減された熱処理油を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の好ましい性質を有する熱処理油を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、α−オレフィンオリゴマー系化合物をある値以上の割合で含み、かつ引火点と動粘度が特定の関係にある基油を含有する熱処理油が、その目的に適合し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1]α−オレフィンオリゴマー系化合物70質量%以上を含み、かつ引火点FP(℃)と40℃動粘度ν(mm2/s)とが、式(1)
FP≧250loglogν+200 (1)
の関係を満たす基油を含有することを特徴とする熱処理油、
[2]基油の40℃動粘度が4〜100mm2/sである上記[1]に記載の熱処理油、
[3]蒸気膜破断剤を含む上記[1]又は[2]に記載の熱処理油、
[4]α−オレフィンオリゴマー系化合物が、式(2)〜式(8)で表される構造を有する炭素数8〜72の化合物の中から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱処理油、
【0007】
【化1】

[式中、p、q及びrは、それぞれ独立に0〜18の整数、nは0〜8の整数を示し、nが2以上の場合、qは繰り返し単位毎同一でも異なっていてもよく、p+n×(2+q)+rの値は4〜52である。
a、b及びcは、それぞれ独立に0〜18の整数、mは0〜8の整数を示し、mが2以上の場合、bは繰り返し単位毎同一でも異なっていてもよく、a+m×(2+b)+cの値は4〜52である。
1〜R12は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基を示し、R1〜R4の合計炭素数、R5〜R8の合計炭素数及びR9〜R12の合計炭素数は、それぞれが0〜64の整数である。
13及びR16は炭素数2〜22の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基、R14及びR15は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜22の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基を示し、R13〜R15の合計炭素数及びR16〜R18の合計炭素数は、それぞれ2〜66の整数である。]
【0008】
[5]式(2)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いて、炭素数2〜20のα−オレフィンをオリゴマー化して得られた炭素数8〜72のα−オレフィンオリゴマーである上記[4]に記載の熱処理油、
[6]式(3)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いて、炭素数2〜20のα−オレフィンをオリゴマー化して得られた炭素数8〜72のα−オレフィンオリゴマーの水素添加物である上記[4]に記載の熱処理油、
[7]式(4)及び式(5)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンを、酸触媒を用いてさらに二量化してなるα−オレフィン四量体である上記[4]に記載の熱処理油、
[8]式(6)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンを、酸触媒を用いてさらに二量化してなるα−オレフィン四量体の水素添加物である上記[4]に記載の熱処理油、
[9]式(7)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒を用いて、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加してなる化合物である上記[4]に記載の熱処理油、及び
[10]式(8)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒を用いて、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加させ、さらに水素添加してなる化合物である上記[4]に記載の熱処理油、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、α−オレフィンオリゴマー系化合物を主体とする基油を含み、金属材料の焼入れなどの処理において、冷却性が良好であると共に、引火点が高く、火災の危険性が低減された熱処理油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の熱処理油においては、基油として、α−オレフィンオリゴマー系化合物を70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含むものが用いられる。基油中のα−オレフィンオリゴマー系化合物の含有量が70質量%未満では、以下に示す式(1)の関係を満たす基油が得られにくい。
当該基油は、引火点FP(℃)と40℃動粘度ν(mm2/s)とが、式(1)
FP≧250loglogν+200 (1)
の関係を満たすことが必要である。引火点が「250loglogν+200」(νは前記と同じである。)の値より低い場合、基油は必要とする動粘度(良好な冷却性を有する粘度)において、蒸発量が多く、引火点が低くなり、金属材料の焼入れ処理時などにおいて、火災が生じるおそれがあり、本発明の目的が達せられない。
当該基油としては、好ましくは、式(1−a)
FP≧250loglogν+205 (1−a)
より好ましくは、式(1−b)
FP≧250loglogν+210 (1−b)
(FP及びνは前記と同じである。)
の関係を満たすものが望ましい。
【0011】
当該基油においては、40℃における動粘度は、4〜100mm2/sの範囲にあることが好ましく、4〜50mm2/sの範囲にあることがより好ましい。当該基油の40℃における動粘度が4〜100mm2/sの範囲にあれば、良好な焼入れ性(冷却性、ひずみや焼割れ発生の防止性)を有すると共に、引火点が160〜260℃程度となり、引火の危険性が小さい。
なお、前記動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定した値であり、引火点は、JIS K 2265に準拠し、COC法で測定した値である。
また、当該基油に用いられるα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、式(2)〜式(8)
【0012】
【化2】

【0013】
で表される構造を有する炭素数8〜72の化合物の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。このα−オレフィンオリゴマー系化合物の炭素数が8〜72の範囲にあれば、低温流動性、高引火点、低蒸発性を有し、酸化安定性の良好な基油が得られ、それを用いた熱処理油は、本発明の目的が達せられる。好ましい炭素数は8〜40の範囲である。
まず、前記式(2)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物について説明する。
この式(2)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物は、末端にビニリデン結合をもつ構造を有しており、式(2)において、p、q及びrは、それぞれ独立に0〜18の整数、nは0〜8の整数を示し、nが2以上の場合、qは繰り返し単位毎同一でも異なっていてもよく、p+n×(2+q)+rの値は4〜52である。
このようなα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、その製造方法に特に制限はなく、前記構造を有し、かつ引火点FPと40℃動粘度νとの関係が、前記式(1)を満たすような化合物が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、特にメタロセン触媒を用いて、炭素数2〜20のα−オレフィンをオリゴマー化して得られた炭素数8〜72のα−オレフィンオリゴマーが好適である。
【0014】
前記原料の炭素数2〜20のα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−イコセンを挙げることができる。これらのα−オレフィンは直鎖状であっても、分岐を有するものであってもよい。また、本発明においては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、α−オレフィンのオリゴマー化に用いられるメタロセン触媒としては、従来公知の触媒、例えば(a)周期律表第4族元素を含有するメタロセン錯体と、(b)(b−1)前記(a)成分のメタロセン錯体又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成し得る化合物及び/又は(b−2)アルミノキサンと、所望により用いられる(c)有機アルミニウム化合物との組み合わせを挙げることができる。
【0015】
前記(a)成分の周期律表第4族元素を含有するメタロセン錯体としては、チタン、ジルコニウム又はハフニウム、好ましくはジルコニウムを含有する共役炭素5員環を有する錯体を用いることができる。ここで、共役炭素5員環を有する錯体としては、置換又は無置換のシクロペンタジエニル配位子を有する錯体を、一般的に挙げることができる。
前記(a)触媒成分のメタロセン錯体としては、従来公知の化合物、例えばビス(n−オクタデシルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、ビス[(t−ブチルジメチルシリル)シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロリド、ビス(ジ−t−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、エチリデンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド、エチリデンビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリドおよびビス[3,3−(2−メチル−ベンズインデニル)]ジメチルシランジイルジルコニウムジクロリド、(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロリドなどが挙げられる。
これらのメタロセン錯体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
前記(b−1)化合物である、メタロセン錯体又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成し得る化合物としては、例えばジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートなどのボレート化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、(b−2)化合物であるアルミノキサンとしては、例えばメチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサンなどの鎖状アルミノキサンや環状アルミノキサンを挙げることができる。これらのアルミノキサンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、(b)触媒成分として前記(b−1)化合物を1種以上用いてもよいし、(b−2)化合物を1種以上用いてもよく、また、(b−1)化合物1種以上と(b−2)化合物1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
(a)触媒成分と(b)触媒成分との使用割合は、(b)触媒成分として(b−1)化合物を用いた場合には、モル比で好ましくは10:1〜1:100、より好ましくは2:1〜1:10の範囲が望ましく、上記範囲を逸脱する場合は、単位質量ポリマーあたりの触媒コストが高くなり、実用的でない。また(b−2)化合物を用いた場合には、モル比で好ましくは1:1〜1:1000000、より好ましくは1:10〜1:10000の範囲が望ましい。この範囲を逸脱する場合は単位質量ポリマーあたりの触媒コストが高くなり、実用的でない。
また、所望により用いられる(c)触媒成分の有機アルミニウム化合物としては、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムフルオリド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムヒドリド、エチルアルミニウムセスキクロリド等が挙げられる。
これらの有機アルミニウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0018】
前記(a)触媒成分と(c)触媒成分との使用割合は、モル比で好ましくは1:1〜1:10000、より好ましくは1:5〜1:2000、さらに好ましくは1:10ないし1:1000の範囲が望ましい。該(c)触媒成分を用いることにより、遷移金属当たりの重合活性を向上させることができるが、あまり多いと有機アルミニウム化合物が無駄になるとともに、重合体中に多量に残存し、好ましくない。
(a)触媒成分と(b)触媒成分を用いて触媒を調製する場合、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で接触操作を行うことが好ましい。
また、(a)触媒成分、(b)触媒成分および(c)有機アルミニウム化合物を用いて触媒を調製する場合、(b)触媒成分と(c)有機アルミニウム化合物を事前に接触させてもよいが、α−オレフィンの存在下、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を接触することによっても充分高活性な触媒が得られる。
上記触媒成分は、予め、触媒調製槽において調製したものを使用してもよいし、オリゴマー化工程において調製したものを反応に使用してもよい。
α−オレフィンのオリゴマー化は、バッチ式、連続式のいずれであってもよい。オリゴマー化において溶媒は必ずしも必要とせず、オリゴマー化は、懸濁液、液体モノマー或いは不活性溶媒中で実施できる。溶媒中でのオリゴマー化の場合には、液体有機炭化水素、例えばベンゼン、エチルベンゼン、トルエンなどが使用される。オリゴマー化は液体モノマーが過剰に存在する反応混合物中で実施することが好ましい。
【0019】
オリゴマー化の条件は、温度が15〜100℃程度であり、圧力は大気圧〜0.2MPa程度である。また、α−オレフィンに対する触媒の使用割合は、α−オレフィン/(A)成分のメタロセン錯体モル比が、通常1000〜106、好ましくは2000〜105であり、反応時間は、通常10分〜48時間程度である。
オリゴマー反応の後処理としては、まず、反応系に水やアルコール類を加える公知の失活処理を行い、オリゴマー化反応を停止したのち、アルカリ水溶液やアルコールアルカリ溶液を用いて触媒の脱灰処理を行う。次いで、中和洗浄、蒸留操作などを行い、未反応のα−オレフィン、オリゴマー化反応で副生したオレフィン異性体をストリッピングにより除去し、さらに所望の重合度を有する式(2)で表されるα−オレフィンオリゴマーを単離する。
このようにして、メタロセン触媒によって製造されたα−オレフィンオリゴマーは、二重結合を有するが、特に末端ビニリデン結合の含有量が高い。
【0020】
次に、前記式(3)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物について説明する。
この式(3)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物は、分子内に不飽和結合をもたない飽和構造を有しており、式(3)において、a、b、c及びmは、前記式(2)におけるp、q、r及びnと同じである。
このようなα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、その製造方法に特に制限はなく、前記構造を有し、かつ引火点FPと40℃動粘度νとの関係が、前記式(1)を満たすような化合物が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、下記の方法を採用することが好ましい。すなわち、メタロセン触媒を用いて、前記式(2)の化合物と同様な方法により、α−オレフィンをオリゴマー化したのち、前記のようにして単離された所望の重合度を有するα−オレフィンオリゴマーを、公知の方法によって水素添加することにより製造する方法、あるいは前記のオリゴマー化反応後、脱灰処理、中和処理、洗浄処理を行ったのち、蒸留によるα−オレフィンオリゴマーの単離操作を行わずに、水素添加を行い、その後蒸留により所望の重合度のα−オレフィンオリゴマーの水素添加物を単離することによって製造する方法により、得ることができる。
【0021】
α−オレフィンオリゴマーの水素添加反応は、公知の水添触媒、例えばNi、Co系触媒や、Pd、Ptなどの貴金属触媒、具体的には珪藻土坦持Ni触媒、コバルトトリスアセチルアセトナート/有機アルミニウム触媒、活性炭担持パラジウム触媒、アルミナ担持白金触媒などの触媒を用いて行われる。
水素添加反応の条件としては、Ni系触媒であれば、通常150〜200℃、Pd、Ptなどの貴金属触媒であれば、通常50〜150℃、コバルトトリスアセチルアセトナート/有機アルミニウムなどの均一系触媒であれば、通常20〜100℃の温度範囲とし、水素圧は、常圧〜20MPa程度である。
各触媒における反応温度が前記範囲にあれば、適度の反応速度を有すると共に、同一重合度を有するオリゴマーにおける異性体の生成を抑制することができる。
【0022】
次に、前記式(4)及び式(5)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物について説明する。
この式(4)及び式(5)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物は、分子内に二重結合を有しており、式(4)及び式(5)において、R1〜R8は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基であるが、本発明においては、炭素数8〜16の直鎖状アルキル基であることが好ましい。この炭素数8〜16の直鎖状アルキル基としては、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基およびn−ヘキサデシル基が挙げられる。R1〜R4の合計炭素数及びR5〜R8の合計炭素数は、それぞれ0〜64の整数である。
このようなα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、その製造方法に特に制限はなく、前記構造を有し、かつ引火点FPと40℃動粘度νとの関係が、前記式(1)を満たすような化合物が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、特にメタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンを、酸触媒を用いてさらに二量化し、α−オレフィン四量体とすることが好ましい。
原料のα−オレフィンとしては、一般式
2C=CH−(CH2n−CH3
(式中、nは7〜15の整数を示す。)
で表される直鎖状α−オレフィンが好ましく、例えば1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセンおよび1−オクタデセンなどが挙げられる。これらの中でnが、7,9及び11のα−オレフィンである、1−デセン、1−ドデセンおよび1−テトラデセンが好適に用いられる。これらのα−オレフィンは1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。
このα−オレフィンの二量化に用いられるメタロセン触媒、二量化反応条件、後処理などについては、前述の式(2)で表されるα−オレフィンオリゴマーにおいて説明したとおりである。
【0023】
本発明においては、メタロセン触媒を用いて得られたビニリデンオレフィンを、酸触媒を用いてさらに二量化する。この場合、同一のビニリデンオレフィン同士を反応させてもよいし、異なるビニリデンオレフィンを反応させてもよい。
この二量化反応における酸触媒としては、ルイス酸触媒や固体酸触媒などを用いることができるが、後処理操作の簡便さなどの点から、固体酸触媒が好適である。
前記固体酸触媒としては、酸性ゼオライト、酸性ゼオライトモレキュラシーブ、酸処理した粘土鉱物、酸処理した多孔質乾燥剤またはイオン交換樹脂等が挙げれる。すなわち、固体酸触媒は、HY等の酸性ゼオライト、約0.5〜2nmの孔径を有する酸性ゼオライトモレキュラシーブ、シリカアルミナ、シリカマグネシア、モンモリロナイトあるいはハロイサイトなどの粘土鉱物に硫酸などの酸により処理したもの、シリカゲルやアルミナゲルなどの多孔質乾燥剤に塩酸、硫酸、燐酸、有機酸、BF3などを付着させたもの、又は、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体のスルホン化物などをはじめとするイオン交換樹脂系の固体酸触媒などである。
【0024】
固体酸触媒の添加量は、ビニリデンオレフィンの仕込み量100質量部に対し、通常0.05〜20質量部である。固体酸触媒の添加量が、20質量部より多くなると、不経済であるだけでなく、副反応が進み、反応液の粘度が上昇したり、収率が低下する可能性がある。0.05質量部より少ない場合は、反応効率が低くなり、反応時間が長くなる。
より好ましい添加量は固体酸触媒の酸性度の影響を受けるのであるが、例えば、モンモリロナイト系の粘土鉱物の硫酸処理の場合は、ビニリデンオレフィンの仕込み量100質量部に対し、3〜15質量部であり、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体のスルホン化物系のイオン交換樹脂では1〜5質量部が好ましい。反応条件に応じ、これらの固体酸触媒の2種類以上を併用してもかまわない。
反応は、通常50〜150℃の温度で行うが、70〜120℃で行うと活性や選択率を向上させることができるので好ましい。反応圧力については、大気圧から1MPa程度の範囲で行うが、圧力の反応に与える影響は少ない。
このようにして、前記式(4)や式(5)で表されるα−オレフィン四量体が得られる。
このビニリデンオレフィン二量化反応液には、前記のビニリデンオレフィン二量体(α−オレフィン四量体)以外に、未反応のビニリデンオレフィンや、ビニリデンオレフィン三量体などが含まれている。したがって、この二量化反応液から、固体酸触媒をろ去したのち、必要に応じ蒸留処理して、前記式(4)や式(5)で表されるビニリデンオレフィン二量体(α−オレフィン四量体)を単離してもよい。
【0025】
次に、前記式(6)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物について説明する。
この式(6)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物は、分子内に不飽和結合をもたない飽和構造を有しており、式(6)において、R9〜R12は、それぞれ前記式(4)におけるR1〜R4、あるいは式(5)におけるR5〜R8と同じである。
このようなα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、その製造方法に特に制限はなく、前記構造を有し、かつ引火点FPと40℃動粘度νとの関係が、前記式(1)を満たすような化合物が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、下記の方法を採用することが好ましい。すなわち、まず前述の式(4)や式(5)の化合物と同様にして、メタロセン触媒を用い、α−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンを、さらに酸触媒を用いて二量化し、ビニリデンオレフィン二量体(α−オレフィン四量体)を生成させる。
次いで、固体酸触媒除去後のビニリデンオレフィン二量体を含む反応液、あるいは該反応液の蒸留処理により単離されたビニリデンオレフィン二量体を水素添加することにより、得ることができる。反応液を水素添加した場合には、必要に応じ、蒸留処理して、ビニリデンオレフィン二量体の水素添加物を単離してもよい。
この水素添加反応の触媒、反応条件などについては、前記式(3)のα−オレフィンオリゴマーの水素添加物において、説明したとおりである。
このようにして、式(6)で表されるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物を得ることができる。
【0026】
次に、式(7)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物について説明する。
この式(7)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物は、分子内に二重結合を有しており、式中のR13は炭素数2〜22の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基、R14及びR15は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜22の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基を示し、R13〜R15の合計炭素数が2〜66の整数である。
このようなα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、その製造方法に特に制限はなく、前記構造を有し、かつ引火点FPと40℃動粘度νとの関係が、前記式(1)を満たすような化合物が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、下記の方法を採用することが好ましい。すなわち、まず前述の式(4)や式(5)の化合物と同様にして、メタロセン触媒を用い、α−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒の存在下に、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加させることにより、式(7)で表される化合物を得ることができる。
【0027】
前記メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化する方法は、前述の式(4)や式(5)で表されるα−オレフィンオリゴマーの製造におけるビニリデンオレフィン製造工程と同じであり、該工程と同様にしてα−オレフィンを二量化することにより、ビニリデンオレフィンを選択的に、しかも高収率で得ることができる。
このようにして得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒を用いて、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加させる。
この付加反応に用いる酸触媒、その使用量、反応条件などについては、前述の式(4)や式(5)で表される化合物の製造方法において説明したビニリデンオレフィンの二量化工程の場合と同じである。炭素数4〜24のα−オレフィンは、直鎖状であっても分岐を有するものであってもよい。また、本発明においては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
次に、式(8)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物について説明する。
この式(8)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物は、分子内に不飽和結合をもたない飽和構造を有しており、式中のR16、R17及びR18は、それぞれ式(7)におけるR13、R14及びR15と同じである。
このようなα−オレフィンオリゴマー系化合物としては、その製造方法に特に制限はなく、前記構造を有し、かつ引火点FPと40℃動粘度νとの関係が、前記式(1)を満たすような化合物が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、下記の方法を採用することが好ましい。すなわち、まず、前述の式(7)の化合物と同様にしてメタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒を用いて、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加させ、さらに水素添加することにより、式(8)の化合物を得ることができる。
水素添加反応の方法、触媒、反応条件などについては、前記式(3)のα−オレフィンオリゴマーの水素添加物について説明したとおりである。
【0029】
本発明の熱処理油においては、基油として、前記式(2)〜式(8)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物を、それぞれ単独で用いてもよいし、適宜2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、二重結合を有するα−オレフィンオリゴマー系化合物と飽和のα−オレフィンオリゴマー系化合物を比べた場合、熱安定性や酸化安定性の観点から、飽和のα−オレフィンオリゴマー系化合物が好ましい。
当該基油には、引火点FPと40℃動粘度νとの関係が前記式(1)を満たす限りにおいて、前述したα−オレフィンオリゴマー系化合物以外の鉱油や合成油を、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で含むことができる。
前記鉱油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などを挙げることができる。また、合成油としては、例えばアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、リン酸エステル(トリクレジルホスフェートなど)、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィンなど)、シリコーン油等を挙げることができる。
【0030】
本発明の熱処理油には、蒸気膜破断剤を含有させることができる。この蒸気膜破断剤を含有させることにより、蒸気膜段階が短く、かつ沸騰段階の冷却性能の増加が抑制されることから、冷却むらによる焼入れ歪を低減することができる。また、沸騰段階の温度範囲が広く、処理物の硬さを確保することができる。
この蒸気膜破断剤としては、例えば高分子ポリマー、具体的にはエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリオレフィン、ポリメタクリレート類などや、アスファルタムなどの高分子量有機化合物、油分散型の無機物などを挙げることができる。これらの蒸気膜破断剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記蒸気膜破断剤の含有量は、熱処理油全量に基づき、通常1〜10質量%、好ましくは3〜6質量%の範囲で選定される。この含有量が1質量%以上であると、蒸気膜破断剤の効果が発揮され、一方10質量%以下であると、熱処理油の粘度が高くなって、その性能が低下するのを抑制することができる。
【0031】
本発明の熱処理油には、本発明の目的が損なわれない範囲で、その使用目的に応じて、従来熱処理油に使用されている公知の各種添加剤を、所望により適宜含有させることができる。
各種添加剤としては、例えば光輝性向上剤、酸化防止剤、清浄分散剤などを挙げることができる。
前記光輝性向上剤としては、従来公知の化合物、例えばオレイン酸、綿実油脂肪酸などの脂肪酸、油脂などの脂肪酸エステル、テルペン樹脂、アルケニルコハク酸イミド類、置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸エステル誘導体などが挙げられる。これらの光輝性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤としては、従来公知のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を用いることができる。
【0032】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール;2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール;2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール;n−オクタデシル3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートなどの単環フェノール類、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などの多環フェノール類などが挙げられる。
【0033】
アミン系酸化防止剤としては、例えばジフェニルアミン系のもの、具体的にはジフェニルアミンやモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミン;テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン:テトラノニルジフェニルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンなど、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン、さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ナフチルアミン系よりジフェニルアミン系の方が、効果の点から好ましく、特に炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン、とりわけ4,4’−ジ(C3〜C20アルキル)ジフェニルアミンが好適である。
本発明においては、酸化防止剤として、前記フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
清浄分散剤としては、無灰清浄分散剤及び/又は金属系清浄分散剤を用いることができる。
ここで、無灰清浄分散剤としては、例えばアルケニルコハク酸イミド類、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などが挙げられ、金属系清浄剤としては、例えば中性金属スルホネート、中性金属フェネート、中性金属サリチレート、中性金属ホスホネート、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、塩基性サリチレート、過塩基性スルホネート、過塩基性サリチレート、過塩基性ホスホネートなどが挙げられる。これらの清浄分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記清浄分散剤は、熱処理油の繰り返し使用により生じたスラッジの分散効果を有するが、金属系清浄剤は、劣化酸中和剤としての作用も有している。また、アルケニルコハク酸イミド類は、光輝性向上剤としての作用も有している。
【0035】
本発明の熱処理油は、α−オレフィンオリゴマー系化合物を主体とする基油を含み、金属材料の熱処理において、冷却性が良好であると共に、引火点が高く、火災の危険性が低減されるなどの特徴を有し、例えば炭素鋼、ニッケル−マンガン鋼、クロム−モリブデン鋼、マンガン鋼などの各種合金鋼に焼入れ、焼きなまし、焼戻し等の熱処理を施す際の熱処理油、好ましくは焼入れを行う際の熱処理油として用いることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、基油の性状及び熱処理油の冷却性は、以下に示す方法に従って求めた。
<基油の性状>
(1)40℃動粘度[ν]
JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)引火点
JIS K 2265に準拠し、COC法で測定した。
<熱処理油の冷却性>
(3)JIS 400℃秒数
JIS K 2242に準拠し、銀棒冷却曲線から、800℃→400℃の秒数を求めた。短いほど冷却性が高い。
(4)H値(焼入れ強烈度)
JIS K 2242に準拠して冷却曲線を作成し、H値(cm-1)を求めた。値が大きいほど、冷却性が高い。
【0037】
製造例1
下記の方法に従い、メタロセン触媒を用いてなるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物(mPAO−1)を製造した。
(a)デセンの二量化
窒素置換した内容積5リットルの三つ口フラスコに、1−デセン3.0kg、メタロセン錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(ジルコノセンジクロライドともいう)0.9g(3ミリモル)及びメチルアルミノキサン(アルベマール社製,Al換算8ミリモル)を順次添加し、室温(20℃以下)にて攪拌を行った。反応液は、黄色から赤褐色に変化した。反応を開始してから48時間経過後、メタノールを加えて反応を停止させ、続いて塩酸水溶液を反応液に添加して有機層を洗浄した。次に、有機層を真空蒸留し、沸点120〜125℃/26.6Pa(0.2Torr)の留分(デセン二量体)2.5kgを得た。この留分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、デセン二量体の濃度は99質量%であり、デセン二量体中のビニリデンオレフィン比率は97モル質量%であった。
このmPAO−1の引火点[FP]は178℃、40℃動粘度[ν]は4.975mm2/sであった。
【0038】
製造例2
下記の方法に従い、メタロセン触媒を用いてなるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物(mPAO−2)を製造した。
(a)デセンのオリゴマー化
内容積5リットルの三つ口フラスコに、不活性ガス気流下、デセンモノマー(出光興産(株)製:リニアレン10)4リットル(21.4モル)を仕込み、更に、トルエンに溶解したビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド(錯体質量1168mg:4ミリモル)と同じくトルエンに溶解したメチルアルモキサン(Al換算:40ミリモル)を添加した。これらの混合物を40℃に保ち、20時間攪拌を行った後、メタノール20mlを添加してオリゴマー化反応を停止させた。次いで、反応混合物をオートクレーブから取出し、これに5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液4リットルを添加し、室温で強制攪拌を4時間した後、分液操作を行なった。上層の有機層を取出し、未反応のデセンおよび副反応生成物のデセン異性体をストリッピングして除去した。
(b)デセンオリゴマーの水素化
内容積5リットルのオートクレーブに、窒素気流下、(a)で製造したデセンオリゴマー3リットルを入れ、トルエンに溶解させたコバルトトリスアセチルアセトナート(触媒重量3.0g)とトルエンで希釈したトリイソブチルアルミニウム(30ミリモル)を添加した。添加後、水素で系内を2回置換してから、昇温し、反応温度80℃で、水素圧を0.9MPaに保持した。水素化は発熱を伴いながら直ちに進行し、反応開始後4時間の時点で降温し、反応を停止した。その後、脱圧し、内容物を取出してから、反応生成物を単蒸留し、留出温度240〜270℃、圧力530Paの留分(目的の化合物)を分離した。
このmPAO−2の引火点[FP]は230℃、40℃動粘度[ν]は13.97mm2/sであった。
【0039】
製造例3
下記の方法に従い、メタロセン触媒を用いてなるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物(mPAO−3)を製造した。
(a)デセンの二量化
窒素置換した内容積5リットルの三つ口フラスコに、1−デセン3.0kg、メタロセン錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(ジルコノセンジクロライドともいう)0.9g(3ミリモル)及びメチルアルミノキサン(アルベマール社製,Al換算8ミリモル)を順次添加し、室温(20℃以下)にて攪拌を行った。反応液は、黄色から赤褐色に変化した。反応を開始してから48時間経過後、メタノールを加えて反応を停止させ、続いて塩酸水溶液を反応液に添加して有機層を洗浄した。次に、有機層を真空蒸留し、沸点120〜125℃/26.6Pa(0.2Torr)の留分(デセン二量体)2.5kgを得た。この留分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、デセン二量体の濃度は99質量%であり、デセン二量体中のビニリデンオレフィン比率は97モル質量%であった。
(b)デセン二量化物の二量化および水添工程
窒素置換した5Lの三つ口フラスコに、前項で得られた二量体2.5kgとモンモリロナイトK−10(アルドリツチ製)250gを室温下添加・配合してから、攪拌しながら110℃に昇温し、その温度で9時間反応を行なった。その後、降温し室温下で触媒のモンモリロナイトを濾別した。次に、二量化反応生成物を内容積5Lオートクレーブに移し、これに5質量%パラジウム・アルミナ5gを添加してから窒素置換し、更に水素置換してから昇温し、水素圧0.8MPaにて水添反応を8時間行なった。水素の吸収がそれ以上起きないことを確かめてから、降温・脱圧し、水添生成物をオートクレーブから取り出した。水添物から触媒を濾別し、無色透明で油状物2.2kgを得た。油状物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、炭素数20、炭素数40および炭素数60の飽和炭化水素がそれぞれ45質量%、52質量%および3質量%の割合で生成した。
(c)水素添加物の単離および同定
シリコーンオイル浴に浸した内容積5Lの蒸留フラスコに、前項の油状物2.2kgを移し、真空度26.6Pa(0.2torr)としオイル浴を室温から150℃に昇温して減圧蒸留を行なった。150℃にて炭素数20の飽和炭化水素を留去させた後、更に、昇温し190℃・26.6Pa(0.2torr)にて30分間減圧を保った。留出残(目的の化合物)は1.2kg(全工程の粗収率40%)であった。これをガスクロマトグラフィーにて分析したところ、炭素数20の炭化水素が0.3質量%、炭素数40の炭化水素が92.7質量%、炭素数60の炭化水素が7.0質量%であった。
このmPAO−3の引火点[FP]は264℃、40℃動粘度[ν]は41.77mm2/sであった。
【0040】
実施例1〜3及び比較例1〜8
第1表に示す引火点及び40℃動粘度をもつ基油からなる各熱処理油について、その冷却性を評価した。結果を第1表に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(注)
1)mPAO−1:製造例1で得られたメタロセン触媒を用いてなるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物
2)mPAO−2:製造例2で得られたメタロセン触媒を用いてなるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物
3)mPAO−3:製造例3で得られたメタロセン触媒を用いてなるα−オレフィンオリゴマーの水素添加物
4)鉱油−1:パラフィン系鉱油
5)鉱油−2:パラフィン系鉱油
6)鉱油−3:パラフィン系鉱油
7)鉱油−4:パラフィン系鉱油
8)PAO−1:従来法により、酸触媒を用いて得られた1−デセンのオリゴマー[出光興産社製、商品名「出光PAO‐5002」]
9)PAO−2:従来法により、酸触媒を用いて得られた1−デセンのオリゴマー[出光興産社製、商品名「出光PAO‐5004]
10)PAO−3:従来法により、酸触媒を用いて得られた1−デセンのオリゴマー[出光興産社製、商品名「出光PAO‐5006」]
11)PAO−4:従来法により、酸触媒を用いて得られた1−デセンのオリゴマー[出光興産社製、商品名「出光PAO‐5010」]
【0043】
実施例4〜6及び比較例9〜16
第2表に示す基油95質量%と蒸気膜破断剤であるPAS(アスファルタム)[日本ケミカルズ販売社製、商品名「NC−505」]5質量%とからなる各熱処理油について、その冷却性を評価した。結果を第2表に示す。
【0044】
【表2】

(注)
1)〜11)は、第1表の脚注と同じである。
【0045】
第1表及び第2表から分かるように、本発明の熱処理油(実施例1〜6)は、良好な冷却性を維持すると共に、引火点が高く、火災の危険性が低減される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の熱処理油は、α−オレフィンオリゴマー系化合物を主体とする基油を含み、金属材料の焼入れなどの処理において、冷却性が良好であると共に、引火点が高く、火災の危険性が低いなどの特徴を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィンオリゴマー系化合物を70質量%以上含み、かつ引火点FP(℃)と40℃動粘度ν(mm2/s)とが、式(1)
FP≧250loglogν+200 (1)
の関係を満たす基油を含有することを特徴とする熱処理油。
【請求項2】
基油の40℃動粘度が4〜100mm2/sである請求項1に記載の熱処理油。
【請求項3】
蒸気膜破断剤を含む請求項1又は2に記載の熱処理油。
【請求項4】
α−オレフィンオリゴマー系化合物が、下記式(2)〜(8)で表される構造を有する炭素数8〜72の化合物の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理油。
【化1】

[式中、p、q及びrは、それぞれ独立に0〜18の整数、nは0〜8の整数を示し、nが2以上の場合、qは繰り返し単位毎同一でも異なっていてもよく、p+n×(2+q)+rの値は4〜52である。
a、b及びcは、それぞれ独立に0〜18の整数、mは0〜8の整数を示し、mが2以上の場合、bは繰り返し単位毎同一でも異なっていてもよく、a+m×(2+b)+cの値は4〜52である。
1〜R12は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基を示し、R1〜R4の合計炭素数、R5〜R8の合計炭素数及びR9〜R12の合計炭素数は、それぞれ0〜64の整数である。
13及びR16は炭素数2〜22の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基、R14、R15、R17及びR18は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜22の直鎖状若しくは分岐を有するアルキル基を示し、R13〜R15の合計炭素数及びR16〜R18の合計炭素数は、それぞれ2〜66の整数である。]
【請求項5】
式(2)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いて、炭素数2〜20のα−オレフィンをオリゴマー化して得られた炭素数8〜72のα−オレフィンオリゴマーである請求項4に記載の熱処理油。
【請求項6】
式(3)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いて、炭素数2〜20のα−オレフィンをオリゴマー化して得られた炭素数8〜72のα−オレフィンオリゴマーの水素添加物である請求項4に記載の熱処理油。
【請求項7】
式(4)及び式(5)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンを、酸触媒を用いてさらに二量化してなるα−オレフィン四量体である請求項4に記載の熱処理油。
【請求項8】
式(6)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンを、酸触媒を用いてさらに二量化してなるα−オレフィン四量体の水素添加物である請求項4に記載の熱処理油。
【請求項9】
式(7)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒を用いて、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加してなる化合物である請求項4に記載の熱処理油。
【請求項10】
式(8)で表されるα−オレフィンオリゴマー系化合物が、メタロセン触媒を用いてα−オレフィンを二量化して得られたビニリデンオレフィンに、酸触媒を用いて、炭素数4〜24のα−オレフィンを付加させ、さらに水素添加してなる化合物である請求項4に記載の熱処理油。

【公開番号】特開2008−69321(P2008−69321A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251234(P2006−251234)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】