説明

熱処理炉用のヒータ回路

【課題】熱処理炉の連続稼働時間を飛躍的に長くするとともに、漏電の危険性を低下させることのできる熱処理炉用のヒータ回路を提供する。
【解決手段】ヒータ回路10を、n個のリレー12と(nは、2あるいは2よりも大きい整数)、各リレー12のそれぞれに電気的に接続されたn個のヒータ14と、熱処理炉30の内部温度に応じて、ヒータ稼働基準サイクルタイムAをn等分した時間をヒータ個別稼働サイクルタイムBとしたときにおける「ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)」の時間内で、各ヒータ14が稼働するヒータ個別稼働時間Cを決定してヒータ個別稼働時間信号S3を出力する温度調節回路16と、ヒータ個別稼働時間信号S3を受け、各リレー12に対してヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータ個別稼働時間Cだけヒータオン信号HSを出力するオン信号出力回路18とで構成することにより上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解性ガスの熱分解処理等に用いられる熱処理炉用のヒータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分解性ガスの熱分解処理や鋼材の均熱処理等に用いられる熱処理炉では、熱源として装置構成が比較的簡単で、かつ、エネルギーの熱への変換効率に優れる電気式のヒータを備えるヒータ回路が使用されることが多い(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1のヒータ回路は、複数のヒータと、これら複数のヒータの配列を当該ヒータの抵抗変化に応じて直列から並列へ変換するヒータ配列変換装置とを備える点に特徴を有している。
【0004】
このヒータ回路によれば、直列あるいは並列に配列されたすべてのヒータを同時に稼働あるいは停止させ、これらヒータの稼働/停止時間を調節することにより、熱処理炉の内部温度を所定の温度に設定することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−55886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ヒータは、自身が発した熱によって高温となることから、ある程度の時間使用すると断線する。ヒータの断線が生じると、熱処理を継続することができないので、熱処理炉を停止させ、当該熱処理炉内の温度が冷めるのを待ってから断線が生じたヒータを交換しなければならず、ヒータの断線は、熱処理の効率を著しく低下させる原因となる。
【0007】
これに対し、予備のヒータを設けておき、あるヒータが断線したら当該ヒータに代えて予備のヒータを使用することにより、熱処理炉の連続稼働時間を長くすることも考えられるが、このように予備のヒータを設けたとしても、その予備の数だけ熱処理炉の停止間隔が長くなるにすぎない(例えば、n個の予備のヒータを設けた場合、熱処理炉の連続稼働時間は、「1本のヒータが断線する時間」×(1+n)である)。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みて開発されたものである。それゆえに本発明の主たる課題は、熱処理炉の連続稼働時間を飛躍的に長くすることのできる熱処理炉用のヒータ回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載した発明(図1〜図6)は、「電源20に対して互いに並列に接続されたn個のリレー12と(nは、2あるいは2よりも大きい整数)、
前記各リレー12のそれぞれに電気的に接続され、熱処理炉30に配設されたn個のヒータ14と、
前記各ヒータ14が配設された熱処理炉30の内部温度に応じて、ヒータ稼働基準サイクルタイムAをn等分した時間をヒータ個別稼働サイクルタイムBとしたときにおける『ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)』の時間内で、前記各ヒータ14が稼働するヒータ個別稼働時間Cを決定し、ヒータ個別稼働時間信号S3を出力する温度調節回路16と、
前記温度調節回路16からの前記ヒータ個別稼働時間信号S3を受け、前記各リレー12に対して前記ヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順に前記ヒータ個別稼働時間Cだけヒータオン信号HSを出力するオン信号出力回路18とを有することを特徴とする熱処理炉用のヒータ回路10」である。
【0010】
このヒータ回路10によれば、熱処理炉30の内部温度に応じて温度調節回路16から出力されるヒータ個別稼働時間信号S3(図3(a))に基づき、オン信号出力回路18は、各リレー12a、12b、12c…に対し、n個のヒータ14a、14b、14c…が1回ずつ順に稼働する1サイクルの時間であるヒータ稼働基準サイクルタイムAをn等分したヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータ個別稼働時間Cだけヒータオン信号HSを出力する(図3(b)〜(d))。
【0011】
ヒータ個別稼働時間Cは、「ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)」の時間内で決定されるので、個々のリレー12a、12b、12c…に対してヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータオン信号を出力することにより、ヒータ稼働基準サイクルタイムA全体を通じてn個のヒータ14a、14b、14c…がすべて同時に稼働することはなく、ヒータ14a、14b、14c…の稼働台数は、最大でも(n−1)個となる(図3(e))。すなわち、ヒータ14の稼働率を低下(=(n−1)/nになる)させることができる。
【0012】
ところで、ヒータ14a、14b、14c…の稼働率とヒータ寿命との関係は、図5に示すように、ヒータ14a、14b、14c…の稼働率が50%になるとヒータ寿命は約4倍になり、稼働率が30%になるとヒータ寿命は約7倍になる。したがって、複数のヒータを配設し、1のヒータをその寿命に到達するまで連続的に使用し、1のヒータが寿命に到達すると次のヒータをその寿命に到達するまで連続的に使用する…といった従来のヒータ回路に比べ、本発明のヒータ回路10のように、n個のヒータ14a、14b、14c…を熱処理炉30に配設し、ヒータ稼働基準サイクルタイムA内で各ヒータ14a、14b、14c…を順番に稼働させて個々のヒータ14a、14b、14c…の稼働率を低下させることで、熱処理炉の連続稼働時間を飛躍的に長くすることができる。
【0013】
なお、ヒータ14a、14b、14c…の個数は、例えば、単相ヒータであれば1つの単相ヒータ=1個のヒータとしてカウントし、三相ヒータ(3つの単相ヒータが組み合わされたヒータ)であれば、1つの三相ヒータ(つまり、3つの単相ヒータ)を一組として1個のヒータとしてカウントする。
【0014】
請求項2に記載した発明(図7、8、9)は、請求項1に記載のヒータ回路を複数の熱処理炉30に適用したものであり、「電源20に対して互いに並列に接続されたn個のリレー12と(nは、2あるいは2よりも大きい整数)、
前記各リレー12のそれぞれに電気的に接続され、n基の熱処理炉30にそれぞれ配設されたn個のヒータ14と、
前記各ヒータ14が配設された各熱処理炉30の内部温度に応じて、ヒータ稼働基準サイクルタイムAをn等分した時間をヒータ個別稼働サイクルタイムBとしたときにおける『ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)』の時間内で、前記各ヒータ14が稼働するヒータ個別稼働時間Cを決定し、ヒータ個別稼働時間信号S3を出力するn個の温度調節回路16と、
前記各温度調節回路16からの前記ヒータ個別稼働時間信号S3を受け、前記各リレー12に対して前記ヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順に前記ヒータ個別稼働時間Cだけヒータオン信号HSを出力するオン信号出力回路18とを有することを特徴とする熱処理炉用のヒータ回路10」である。
【0015】
この発明では、請求項1に記載した発明と同様の作用効果を奏することができるのに加えて、さらにヒータ14の長寿命化を図ることができる。すなわち、熱処理炉30が1基だけの場合には、処理すべき熱分解性ガス等の流量が少ないときであっても、熱処理炉30内の温度を維持するために本来であれば必要のないヒータ14まで稼働させなければならない可能性があるものの、本発明のヒータ回路10では、ヒータ14は複数の熱処理炉30に配設されていることから、熱分解性ガス等の流量が少ない場合には必要なだけの熱処理炉30を請求項2のヒータ回路10に従って稼働させ、それ以外の熱処理炉30に配設したヒータ14を停止させることができる。
【0016】
なお、本発明では、請求項1に記載した発明と異なり、熱処理炉30に配設されたヒータ14への電源供給が一時的に止まって熱供給が停止することになるが、ヒータ個別稼働サイクルタイムAを短く(例えば、1秒間)するとともに、熱容量の大きいヒータ14を使用することにより、熱供給の停止時間中に熱処理炉30自身の熱容量にも相俟って、当該熱処理炉30内の温度が低下するのを回避することができる。
【0017】
請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した熱処理炉用のヒータ回路10に関し、「前記ヒータ個別稼働時間Cは、前記ヒータ個別稼働サイクルタイムB以内で決定される」ことを特徴とする。
【0018】
この熱処理炉用のヒータ回路10によれば、ヒータ個別稼働時間Cは、ヒータ個別稼働サイクルタイムB内で決定される(つまり、ヒータ個別稼働サイクルタイムBよりも長くなることはない)ので、個々のリレー12a、12b、12c…に対してヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータオン信号を出力することにより、ヒータ稼働基準サイクルタイムAにおいて各ヒータ14a、14b、14c…を互いに重複することなく稼働させることができる(図6(e))。
【0019】
これにより、各ヒータ14a、14b、14c…の稼働率がさらに低くなることから、各ヒータ14a、14b、14c…の寿命がさらに延び、熱処理炉の連続稼働時間をさらに長くすることができるだけでなく、ヒータ回路10には1つのヒータ14を駆動するのに必要な電流だけが流れることになるので、ヒータ回路10内におけるブレーカ21や給電線Wの容量(太さ)を小さくできるとともに、ヒータ回路10における漏電の危険性をさらに低下させることができるので、ヒータ回路10のコストダウンおよび省スペース化を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る熱処理炉用のヒータ回路によれば、熱処理炉の連続稼働時間を飛躍的に長くするとともに、漏電の危険性を低下させることのできる熱処理炉用のヒータ回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施例にかかる熱処理炉用のヒータ回路を示す図である。
【図2】温度調節回路を示す図である。
【図3】ヒータ個別稼働時間信号および矩形パルス波のタイミングを示すタイムチャートである。
【図4】第1実施例にかかるオン信号出力回路を示す図である。
【図5】ヒータの稼働率とヒータ寿命との関係を示すグラフである。
【図6】第1実施例の変形例にかかるヒータ個別稼働時間信号および矩形パルス波のタイミングを示すタイムチャートである。
【図7】第2実施例にかかる熱処理炉用のヒータ回路を示す図である。
【図8】第2実施例にかかるオン信号出力回路を示す図である。
【図9】第2実施例にかかるヒータ個別稼働時間信号および矩形パルス波のタイミングを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための実施例について、ヒータ回路を利用した熱処理炉が1つのケースを第1実施例として、次に、熱処理炉が複数存在するケースを第2実施例として図面を用いて説明する。なお、第1実施例と第2実施例との間では、主として熱処理炉の数が相違するだけであることから、まず第1実施例について詳細に説明した後、第2実施例について、第1実施例との共通部分については、第1実施例の説明を援用してその説明を省略し、相違部分を中心に説明する。
【0023】
(第1実施例)
図1は、第1実施例に係るヒータ回路10の概略構成図である。ヒータ回路10は、リレー12、ヒータ14、温度調節回路16、オン信号出力回路18、熱処理炉内温度測定器19、およびこれらを互いに電気的に接続する給電線Wと信号線Lとで構成されている。
【0024】
リレー12は、交流電源20(もちろん、直流電源でもよい)とヒータ14とを電気的に接続する給電線Wに取り付けられ、該給電線Wの接続/切断を行うことによって、交流電源20からの電力をヒータ14に供給/停止する装置であり、ヒータ14の数(本実施例では3つのヒータ14a、14b、14cが用いられているが、もちろん、2つでも、4つ以上でもよい)と同じ数のリレー12a、12b、12cがそれぞれ対応するヒータ14a、14b、14cに電気的に接続されている。また、各リレー12a、12b、12cは、交流電源20に対して互いに並列に接続されており、給電線Wの分岐位置W1と交流電源20との間には、ブレーカ21が取り付けられている。
【0025】
本実施例では、リレー12として、いわゆるソリッドステートリレー(以下、「SSR」という)が使用されている。SSRとは、可動接点部分がないタイプのリレー(無接点リレー)であり、上述のように交流電源20とヒータ14とを接続する給電線Wの接続/切断を行う出力側回路22と、後述する信号線Lを介して送られてくるヒータオン信号HSを受けたときに出力側回路22における給電線Wを接続状態とし、ヒータオン信号HSを受けていないときは出力側回路22における給電線Wを切断状態とする入力側回路24とを有している。
【0026】
出力側回路22は、サイリスタ、トライアック、ダイオードあるいはトランジスタなどの半導体スイッチング素子を用いて給電線Wの接続/切断を行う回路であり、交流電源20からの給電線が接続される入力側端子25と、ヒータ14への給電線が接続される出力側端子26との間に設けられている。
【0027】
一方、入力側回路24は、フォトカプラと呼ばれる光半導体(図示せず)を有しており、ヒータオン信号HSを受ける一対の端子28、29の間に設けられている。一対の端子28、29間にヒータオン信号HSが入力されたときに上記光半導体から放射された光Kは、リレー12の絶縁された内部空間を通って出力側回路22の半導体スイッチング素子を導通状態にする。
【0028】
なお、SSRに代えて、コイルに入力電圧を印加して電磁力を発生させ、この電磁力によって可動鉄片を動かすことにより給電線の接続/切断を行う電磁リレーをリレー12に使用してもよいし、その他の方式のリレーを使用してもよいが、上述のようにSSRを用いるのが好適である。なぜならば、SSRのような無接点リレーの方が、給電線Wの接続/切断を繰り返すことによる接点の消耗がなく、また、入力側回路24が光Kを用いて出力側回路22を制御するので、高速・高頻度の接続/切断に対応でき、またノイズの発生も少ない(動作音がない)といった利点を有しているからである。
【0029】
ヒータ14は、有蓋かつ有底円筒形状の熱処理炉30内に配設されたシーズヒータであり(もちろん、他にカーボンヒータなど、電気エネルギーを熱エネルギーに変換できるものであればよい)、その上端には、給電線が接続される端子31が設けられている。
【0030】
なお、熱処理炉30は、半導体製造装置から排出される熱分解性ガスを含む排ガスを処理するための熱分解炉や鋼の表面改質処理である浸炭処理や電気炉などといった、すべての熱処理炉を対象とすることができる。
【0031】
温度調節回路16は、図2に示すように、温度設定器32と、比較器34と、信号生成器36とで構成されている。
【0032】
温度設定器32は、作業者によって入力された熱処理炉30内の設定温度を記憶するとともに、当該設定温度を比較器34に出力するものであり、作業者が設定温度を入力するためのキーボードおよびディスプレイあるいはタッチパネル等(図示せず)を備えている。
【0033】
比較器34は、温度設定器32から出力された設定温度と、熱処理炉30内の温度を測定する熱処理炉内温度測定器19から出力された温度信号S5に基づく熱処理炉内温度とを比較し、設定温度が炉内温度よりも高い場合は、後述するヒータ個別稼働時間Cを増加させるヒータ個別稼働時間増加信号S1を出力し、逆に、設定温度が炉内温度よりも低い場合は、ヒータ個別稼働時間Cを減少させるヒータ個別稼働時間減少信号S2を出力するものである。
【0034】
信号生成器36は、後述するヒータ稼働基準サイクルタイムAをヒータ14の数n(nは、2あるいは2よりも大きい整数であり、本実施例ではn=3)で等分して得られた時間をヒータ個別稼働サイクルタイムBとしたとき、「ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)」の時間内で、ヒータ14ひとつ当たりのヒータ個別稼働時間Cを決定し、このヒータ個別稼働時間Cを示すヒータ個別稼働時間信号S3を出力する。
【0035】
この点について図3を用いて詳述すると、ヒータ稼働基準サイクルタイムAは、各ヒータ14a、14b、14cが1回ずつ順に稼働する1サイクルの時間をいい、この時間は予め設定されている(例えば、1秒間)。また、ヒータ個別稼働サイクルタイムBは、このヒータ稼働基準サイクルタイムAをヒータ14の数n(本実施例ではn=3)で等分して得られた時間である。ヒータ14の数nはヒータ回路10を設計する段階ですでに判っていることから、ヒータ個別稼働サイクルタイムBも予め設定される。そして、上述した比較器34からのヒータ個別稼働時間増加信号S1あるいはヒータ個別稼働時間減少信号S2に基づき、信号生成器36において「ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)」の時間内で、ヒータ個別稼働時間Cが決定される。
【0036】
このように信号生成器36で決定されたヒータ個別稼働時間Cは、図3(a)に示すように、各ヒータ稼働基準サイクルタイムAにおける最初のヒータ個別稼働サイクルタイムBにおいて、上述のように決定されたヒータ個別稼働時間Cの長さ分(図3(a)では、ヒータ個別稼働サイクルタイムB×1.5の長さに設定されている)の矩形パルス波形(後述するように、この矩形パルスがヒータオン信号HSのトリガーとなる)を有するヒータ個別稼働時間信号S3としてオン信号出力回路18に出力される。
【0037】
オン信号出力回路18は、図4に示すように、信号分配器38と、遅延回路40と、オン信号出力器42とで構成されており、遅延回路40およびオン信号出力器42は、それぞれリレー12の数nと同数設けられている。
【0038】
信号分配器38は、温度調節回路16の信号生成器36から出力されたヒータ個別稼働時間信号S3を個々の遅延回路40a、40b、40cに分配するものである。
【0039】
遅延回路40は、信号分配器38と対応するオン信号出力器42とを互いに電気的に接続する信号線Lに取り付けられ、信号分配器38から分配されたヒータ個別稼働時間信号S3を、後述のように、各遅延回路40a、40b、40c毎に個別に設定された時間だけ遅らせた後、オン信号出力器42に出力する回路である。
【0040】
オン信号出力器42は、遅延回路40を介して信号分配器38からヒータ個別稼働時間信号S3を受け、そのヒータ個別稼働時間信号S3における矩形パルスと同じタイミングで、対応するリレー12にヒータオン信号HSを出力するものである。
【0041】
熱処理炉内温度測定器19(図1)は、熱処理炉30内の温度を測定する熱電対19xと、この熱電対19xで測定された炉内温度を温度信号S5として温度調節回路16へ送信する発信器19yとを備えている。なお、熱処理炉30内の温度を測定できるものであれば、熱電対に限られず、放射温度計その他の温度計を使用してもよい。
【0042】
次に、このヒータ回路10を用いて熱処理炉30を稼働する手順について説明する。ヒータ回路10の図示しないメインスイッチをオンにすると、熱処理炉内温度測定器19は熱処理炉30内の温度測定を開始し、測定された炉内温度は、温度信号S5として温度調節回路16の比較器34へ送られる。
【0043】
温度信号S5を受けた比較器34は、温度設定器32に予め設定された設定温度と炉内温度とを比較し、設定温度が炉内温度よりも高ければヒータ個別稼働時間増加信号S1を出力し、逆に、低ければヒータ個別稼働時間減少信号S2を出力する。
【0044】
比較器34からのヒータ個別稼働時間増加信号S1あるいはヒータ個別稼働時間減少信号S2を受けた信号生成器36は、当該信号に基づいて増加あるいは減少させたヒータ個別稼働時間Cを決定し、ヒータ個別稼働時間信号S3をオン信号出力回路18の信号分配器38に出力する。そして、ヒータ個別稼働時間信号S3を受けたオン信号出力回路18の信号分配器38は、各遅延回路40a、40b、40cに当該ヒータ個別稼働時間信号S3を分配送信する。
【0045】
ここで、ヒータ個別稼働時間信号S3は、各オン信号出力器42a、42b、42cに至る前に、各遅延回路40a、40b、40cを通過することになるが、各遅延回路40a、40b、40cの遅延時間に関し、予め、遅延回路40aの遅延時間をゼロ、遅延回路40bの遅延時間をヒータ個別稼働サイクルタイムB×1、そして遅延回路40cの遅延時間をヒータ個別稼働サイクルタイムB×2といったようにそれぞれ設定しておく。
【0046】
このように設定すれば、オン信号出力器42aに向けて分配されたヒータ個別稼働時間信号S3aの矩形パルス波は、遅延することなく即座にオン信号出力器42aに到達し、オン信号出力器42aは、この矩形パルス波のタイミングでヒータオン信号HSを出力する(図3(b))。オン信号出力器42aからのヒータオン信号HSを端子28、29に受けたリレー12aの入力側回路24aは、出力側回路22aを導通状態にするので、交流電源20からの電力がリレー12aを介してヒータ14aに供給されてヒータ14aが発熱することになる。
【0047】
この間、他のオン信号出力器42b、42cに対するヒータ個別稼働時間信号S3b、S3cは遅延回路40b、40cで遅延されており、未だ矩形パルスのタイミングには至っていないことから、オン信号出力器42b、42cは、リレー12b、12cに対してヒータオン信号HSを出力せず、リレー12b、12cは給電線Wの切断状態を維持しており、ヒータ14b、14cには電力が供給されていない。
【0048】
オン信号出力器42aにヒータ個別稼働時間信号S3aが到達してからヒータ個別稼働時間Cが経過すると、当該オン信号出力器42aは、リレー12aに対するオン信号の出力を停止する。この結果、リレー12aは給電線を切断することになり、ヒータ14aは停止する。
【0049】
そして、オン信号出力器42aにヒータ個別稼働時間信号S3aが到達してからヒータ個別稼働サイクルタイムBが経過すると、遅延回路40bによって遅延されていたヒータ個別稼働時間信号S3bを受けたオン信号出力器42bにおいて矩形パルスのタイミングが到達する(図3(c))。すると今度は、ヒータ14bに交流電源20からの電力が供給され、ヒータ14bが発熱する。その後、ヒータ個別稼働時間Cが経過すると、上述のように、ヒータ14bは停止する。
【0050】
さらに、オン信号出力器42bに矩形パルスのタイミングが到達してからヒータ個別稼働サイクルタイムBが経過すると(図3(d))、同様にヒータ14cに交流電源20からの電力が供給されてヒータ14cが発熱し、その後、ヒータ個別稼働時間Cが経過するとヒータ14cは停止する。
【0051】
以上より、少なくとも1台のヒータ14が停止することになり、ヒータ14a、14b、14cの稼働数は、常に1台あるいは2台となる(図3(e))。また、ヒータ稼働基準サイクルタイムAにおける各ヒータ14a、14b、14cの稼働率は50%となる。
【0052】
オン信号出力器42cに矩形パルスのタイミングが到達してからヒータ個別稼働サイクルタイムBが経過するとヒータ稼働基準サイクルタイムAが終了し、次のヒータ稼働基準サイクルタイムAが開始する。次のヒータ稼働基準サイクルタイムAが開始すると、再び、上述したように、まずヒータ14aが発熱することになる。
【0053】
熱処理炉30の内部温度が設定温度よりも低い場合、温度調節回路16は、ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)以内でヒータ個別稼働時間Cを延長するように作動する。この結果、オン信号出力回路18から各リレー12a、12b、12cに対して出力されるヒータオン信号HSの出力時間(=ヒータ個別稼働時間C)が長くなる(ヒータ14が1台だけ稼働している時間が短く、ヒータ14が2台稼働している時間が長くなる)ことから、各ヒータ14a、14b、14cの稼働時間が長くなってヒータ稼働基準サイクルタイムA当たりに熱処理炉30に与えられる熱量が増加することにより、熱処理炉30の内部温度は、設定温度に向けて上昇する。
【0054】
逆に、熱処理炉30の内部温度が目的の値よりも高い場合、温度調節回路16は、各ヒータ個別稼働時間Cを短縮するように作動する。この結果、オン信号出力回路18から各リレー12a、12b、12cに対して出力されるヒータオン信号HSの出力時間(=ヒータ個別稼働時間C)は短くなるので、各ヒータ14a、14b、14cの稼働時間が短くなり、ヒータ稼働基準サイクルタイムA当たりに熱処理炉30に与えられる熱量が減少することにより、熱処理炉30の内部温度は、設定温度に向けて低下する。
【0055】
このヒータ回路10によれば、熱処理炉30の内部温度に応じて温度調節回路16から出力されるヒータ個別稼働時間信号S3(図3(a))に基づき、オン信号出力回路18は、各リレー12a、12b、12cに対し、3個のヒータ14a、14b、14cが1回ずつ順に稼働する1サイクルの時間であるヒータ稼働基準サイクルタイムAを3等分したヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータ個別稼働時間Cだけヒータオン信号HSを出力する(図3(b)〜(d))が、ヒータ個別稼働時間Cは、「ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)」の時間内で決定されるので、個々のリレー12a、12b、12cに対してヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータオン信号を出力することにより、ヒータ稼働基準サイクルタイムA全体を通じて3個のヒータ14a、14b、14cがすべて同時に稼働することはなく、ヒータ14a、14b、14cの稼働台数は、最大でも(n−1)=2個となる(図3(e))。すなわち、このヒータ回路10によれば、ヒータ14の稼働率を低下させることができる(本実施例では、ヒータ個別稼働時間Cをヒータ個別稼働サイクルタイムB×1.5の長さに設定していることから、ヒータ稼働率は50%となる。なお、本実施例における稼働率の最大値は、ヒータ個別稼働時間Cをヒータ個別稼働サイクルタイムB×(3−1)としたときにおける約66%である)。
【0056】
ところで、ヒータ14a、14b、14c…の稼働率とヒータ寿命との関係は、図5に示すように、ヒータ14a、14b、14c…の稼働率が50%になるとヒータ寿命は約4倍になり、稼働率が30%になるとヒータ寿命は約7倍になる。
【0057】
したがって、3個のヒータ14a、14b、14cを熱処理炉30に配設し、ヒータ稼働基準サイクルタイムA内で各ヒータ14a、14b、14cを順番に稼働させて個々のヒータ14a、14b、14cの稼働率を低下させることで、熱処理炉の連続稼働時間を飛躍的に長くすることができる。
【0058】
なお、図6に示すように、ヒータ個別稼働時間Cは、ヒータ個別稼働サイクルタイムB以内で決定することが好適である。ヒータ個別稼働時間Cをヒータ個別稼働サイクルタイムB内で決定する(つまり、ヒータ個別稼働時間Cは、ヒータ個別稼働サイクルタイムBよりも長くならない)ことにより(図6(a))、個々のリレー12a、12b、12cに対してヒータ個別稼働サイクルタイムBを空けて順にヒータオン信号を出力したとき(図6(b)〜(d))、ヒータ稼働基準サイクルタイムAにおいて各ヒータ14a、14b、14cを互いに重複することなく稼働させることができるからである(図6(e))。
【0059】
これにより、各ヒータ14a、14b、14cの稼働率がさらに低くなることから、各ヒータ14a、14b、14cの寿命がさらに延び、熱処理炉30の連続稼働時間をさらに長くすることができるだけでなく、ヒータ回路10には1つのヒータ14を駆動するのに必要な電流だけが流れることになるので、ヒータ回路10内におけるブレーカ21や給電線Wの容量(太さ)を小さくできるとともに、ヒータ回路10における漏電の危険性を低下させることができ、ヒータ回路10のコストダウンおよび省スペース化を実現することができる。
【0060】
(第2実施例)
第2実施例に係るヒータ回路10も、図7に示すように、第1実施例と同様、リレー12、ヒータ14、温度調節回路16、オン信号出力回路18、熱処理炉内温度測定器19、およびこれらを互いに電気的に接続する給電線Wと信号線Lとで構成されている。前述のように、第1実施例ではヒータ回路10が1つの熱処理炉30に適用されているのに対し、この第2実施例ではヒータ回路10が複数の熱処理炉30に適用されている点で相違しているだけであることから、共通部分については第1実施例の説明を援用し、相違する部分を中心に説明する。
【0061】
本実施例では、3本のヒータ14d、14e、14fが3つの熱処理炉30d、30e、30f内にそれぞれ配設されており、各熱処理炉30d、30e、30fには、熱処理炉内の温度を測定する熱処理炉内温度測定器19d、19e、19fが取り付けられている。
【0062】
また、熱処理炉30d、30e、30fの数に応じて、3つの温度調節回路16d、16e、16fが設けられている。
【0063】
オン信号出力回路18の信号分配器38は、図8に示すように、信号線Ld、Le、Lfで各温度調節回路16d、16e、16fと電気的に接続されており、各温度調節回路16d、16e、16fから出力されたヒータ個別稼働時間信号S3x、S3y、S3zを対応する遅延回路40d、40e、40fに分配するようになっている(なお、本実施例の場合、信号分配器38はヒータ個別稼働時間信号S3d、S3e、S3fをそれぞれ対応する遅延回路40d、40e、40fに出力しているだけであるから、この信号分配器38を削除して信号線Ld、Le、Lfをそれぞれ直接遅延回路40d、40e、40fに接続してもよい。)。
【0064】
第2実施例のヒータ回路10を用いて3つの熱処理炉30d、30e、30fを稼働する手順について簡単に説明する(図7、8参照)。ヒータ回路10の図示しないメインスイッチをオンにすると、各熱処理炉内温度測定器19d、19e、19fは対応する熱処理炉30d、30e、30f内の温度測定を開始し、測定された炉内温度は、温度信号S5d、S5e、S5fとして対応する温度調節回路16d、16e、16fへ送られる。
【0065】
各熱処理炉内温度測定器19d、19e、19fからの温度信号S5d、S5e、S5fを受けた各温度調節回路16d、16e、16fは、予め設定された設定温度と当該温度信号S5d、S5e、S5fによる熱処理炉内温度とに基づいて、対応するヒータ14d、14e、14fのヒータ個別稼働時間Cd、Ce、Cfを示すヒータ個別稼働時間信号S3x、S3y、S3zを出力する(図9参照)。したがって、各熱処理炉30d、30e、30f内の温度が互いに異なれば、ヒータ個別稼働時間Cd、Ce、Cfも当然に異なることになるが、上述のように、これらの稼働時間は「ヒータ個別稼働サイクルタイムB×(n−1)」の時間内で設定される。
【0066】
温度調節回路16d、16e、16fから出力されたヒータ個別稼働時間信号S3x、S3y、S3zは、対応する信号線Ld、Le、Lfを介して信号分配器38に導かれ、当該信号分配器38によって対応する遅延回路40d、40e、40fに分配され、然る後、各遅延回路40d、40e、40fで設定された時間だけヒータ個別稼働時間信号S3x、S3y、S3zを遅延させて(遅延後のヒータ個別稼働時間信号をそれぞれS3d、S3e、S3fという。)各リレー12d、12e、12fに送る。
【0067】
遅延回路40d、40e、40fでは、第1実施例の場合と同様に、予め遅延回路40dの遅延時間をゼロ、遅延回路40eの遅延時間をヒータ個別稼働サイクルタイムB×1、そして遅延回路40fの遅延時間をヒータ個別稼働サイクルタイムB×2に設定されている。
【0068】
このように設定すれば、第1実施例で詳細に説明したように、3台のヒータ14d、14e、14fの内、少なくとも1台が停止することになり、ヒータ14d、14e、14fの稼働数は常に1台あるいは2台となることから、電源20からブレーカ21を流れる電流のピーク値が低下し、この結果、ヒータ回路10における漏電の危険性をさらに低下させることができる。
【0069】
また、処理すべき熱分解性ガス等の流量が少ない場合には、その流量に応じて稼働させる熱処理炉30の台数を低減することができる(その場合、各熱処理炉30における熱分解ガス等導入用配管にバルブが設けられることになる。)。これにより、熱処理炉30が1基だけの場合と比較して、1基当たりの処理流量が大幅に変動するのを回避して、より均質な熱処理を行うことができるとともに、非稼働熱処理炉30に配設したヒータ14を停止させることによって、ヒータ14の長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
10…ヒータ回路
12…リレー
14…ヒータ
16…温度調節回路
18…オン信号出力回路
19…熱処理炉内温度測定器
20…電源(交流電源)
21…ブレーカ
22…出力側回路
24…入力側回路
25…(出力側回路の)入力側端子
26…(出力側回路の)出力側端子
28…(入力側回路の)端子
29…(入力側回路の)端子
30…熱処理炉
31…(ヒータの)端子
32…温度設定器
34…比較器
36…信号生成器
38…信号分配器
40…遅延回路
42…オン信号出力器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に対して互いに並列に接続されたn個のリレーと(nは、2あるいは2よりも大きい整数)、
前記各リレーのそれぞれに電気的に接続され、熱処理炉に配設されたn個のヒータと、
前記各ヒータが配設された熱処理炉の内部温度に応じて、ヒータ稼働基準サイクルタイムをn等分した時間をヒータ個別稼働サイクルタイムとしたときにおける「ヒータ個別稼働サイクルタイム×(n−1)」の時間内で、前記各ヒータが稼働するヒータ個別稼働時間を決定し、ヒータ個別稼働時間信号を出力する温度調節回路と、
前記温度調節回路からの前記ヒータ個別稼働時間信号を受け、前記各リレーに対して前記ヒータ個別稼働サイクルタイムを空けて順に前記ヒータ個別稼働時間だけヒータオン信号を出力するオン信号出力回路とを有することを特徴とする熱処理炉用のヒータ回路。
【請求項2】
電源に対して互いに並列に接続されたn個のリレーと(nは、2あるいは2よりも大きい整数)、
前記各リレーのそれぞれに電気的に接続され、n基の熱処理炉にそれぞれ配設されたn個のヒータと、
前記各ヒータが配設された各熱処理炉の内部温度に応じて、ヒータ稼働基準サイクルタイムをn等分した時間をヒータ個別稼働サイクルタイムとしたときにおける「ヒータ個別稼働サイクルタイム×(n−1)」の時間内で、前記各ヒータが稼働するヒータ個別稼働時間を決定し、ヒータ個別稼働時間信号を出力するn個の温度調節回路と、
前記各温度調節回路からの前記ヒータ個別稼働時間信号を受け、前記各リレーに対して前記ヒータ個別稼働サイクルタイムを空けて順に前記ヒータ個別稼働時間だけヒータオン信号を出力するオン信号出力回路とを有することを特徴とする熱処理炉用のヒータ回路。
【請求項3】
前記ヒータ個別稼働時間は、前記ヒータ個別稼働サイクルタイム以内で決定されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理炉用のヒータ回路。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−86945(P2010−86945A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171415(P2009−171415)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(592010106)カンケンテクノ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】