説明

熱処理炉

【課題】 接圧付与機能を低下させずに、ゾーン間の温度差を大きくすることができ、熱収縮による皺やうねり等を低減できる熱処理炉を提供する。
【解決手段】 原料シート4を加熱処理して製品シート40を製造する熱処理炉2であって、原料シート入口部8を形成すると共にその内部に接圧ローラー22a、22bを有する上流炉部16と、製品シート出口部12を形成すると共にその内部に接圧ローラー22d、22eを有する下流炉部18と、炉2内を上流炉部16と下流炉部18とを仕切ると共にシート搬送窓20を形成した隔壁14と、前記シート搬送窓20に取り付けた断熱ローラー22cと、炉内に備えた加熱手段32a、32b、……、36dとを有する熱処理炉とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートの加熱処理を行う耐炎繊維を素材とするシートから炭素繊維シートを製造する際など、原料シートを加熱処理して製品シートを製造する際に使用する熱処理炉において、炉内の上流炉部と下流炉部との間で温度差を確実に形成できると共に原料シートに充分の接圧を与えて、得られる製品シートの品位を向上させる熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維シートは、補強材、断熱材、耐火材などの用途がある。更に、導電性、通気性が良いため、導電材や電極材としての用途が期待されている。特に、電池用電極材としての用途は重要である。
【0003】
炭素繊維シートを電極材用として用いる場合、近年の電池の小型化、軽量化に対応できるように、炭素繊維シート自体の厚さを小さくすることが求められている。
【0004】
従来より薄層の炭素繊維シートの製造方法としては、炭素繊維、耐炎繊維等の原料繊維を紙、不織布、フェルト、織物等の薄層シートに加工し、これを連続的に加熱処理する方法が知られている。
【0005】
従来の耐炎繊維シートを原料とする薄層の炭素繊維シートの製造方法においては、温度域800℃以下の低温における加熱処理(第1炭素化処理)と温度域1500〜2500℃の高温における加熱処理(第2炭素化処理)の2段の加熱処理を行う方法が主流である。この2段の加熱処理において、耐炎繊維の低温熱処理は無緊張下で行われていることが多い。低温熱処理をした薄層シートの高温処理は通常無緊張下で行われるか、張力付与下で行われるか、加熱体へ接触させてシート表面を加圧した状態で行われる。
【0006】
しかし、従来の炭素繊維シートの製造方法においては、耐炎繊維シートを低温熱処理する場合、処理中のシートの熱収縮が大きいので、無緊張下で加熱処理するとシートには皺やうねりが発生し、得られる炭素繊維シートの表面品位(皺、うねり)が低下する問題がある。
【0007】
上記炭素繊維シートの製造中に生ずる熱収縮に起因する表面品位低下の改善を目的とする製造装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
特許文献1には、低温熱処理炉と高温熱処理炉とを基本構成とする炭素繊維シートの製造装置において、高温熱処理炉の下流に皺加熱矯正炉を設けることにより、耐炎繊維シートの熱収縮に起因する表面品位を改善することが開示されている。
【0009】
特許文献2には、低温処理前の耐炎繊維シートを熱板や金型で連続加熱加圧することにより、低温処理後のシートの表面品位を改善することが開示されている。
【0010】
しかし、特許文献1及び2に開示された製造装置は何れも、基本構成の熱処理炉以外にシート表面品位改善のための付帯設備が必要になり、製造装置全体の大型化や、コストが上昇する問題がある。
【0011】
炭素繊維シートの製造に際しては、温度域500〜1000℃における低温熱処理(第1炭素化処理)と温度域1500〜2300℃における高温熱処理(第2炭素化処理)の2回の熱処理を行うことが好ましい。
【0012】
本発明者の属する研究グループは、加熱処理時に皺やうねり等の形状変化を起こさない炭素繊維シートの製造方法を検討しているうちに、第1炭素化炉における炉内の温度分布を適正にし、更にこの第1炭素化炉内にローラーを配設して原料の耐炎繊維シートにテンションを付与した状態で、ローラーで接圧を負荷しながら加熱処理する方法に想到した。この方法によれば、シートに生ずる熱収縮に起因する皺やうねり等の問題を生ずることなく炭素繊維シートを連続生産できることを知得し、先に出願した(特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−256959号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0008]〜[0010]、[0017]〜[0020]、[0040]、図1〜3)
【特許文献2】特開2004−308098号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0006]、[0029]〜[0044]、[0062]〜[0069]、図1〜2)
【特許文献3】特開2005−344246号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、更に温度域500〜1000℃で低温熱処理を行う第1炭素化炉において、接圧ローラー、ニップローラー、プレス等の接圧付与手段を用いて耐炎繊維シートに150Pa以上の接圧を付与する加熱処理を試みた。この接圧を加える方法を採用することにより、加熱処理時に皺やうねり等の形状劣化を起こすことなく、高表面品位の中間シートが得られた。この中間シートを温度域1500〜2300℃の高温熱処理を行う第2炭素化炉において加熱処理することにより、加熱処理時に皺やうねり等の形状変化を起こさない高表面品位の炭素繊維シートが得られることが解った。
【0014】
接圧付与手段のうちプレスは通常バッチ操作になる。連続生産を考慮すると、接圧付与手段として接圧ローラー、ニップローラー等のローラーを備える熱処理炉を用いて、原料の耐炎繊維シートにテンションを付与しながらローラーで接圧を負荷させて加熱処理する方法が効率的である。この場合、接圧ローラー間の距離が充分小さい状態で、炉内に数多く配設し、それら接圧ローラー間に耐炎繊維シートをジグザグに張り渡すことにより、耐炎繊維シートとの接触面積が大きくなり、その結果、接圧付与機能が有効に発揮されることが解った。
【0015】
炉内に接圧ローラー等を備えていない通常の熱処理炉と比較し、その内部に接圧ローラーを備える熱処理炉は、必然的に耐炎繊維シートの搬送方向に直交する炉内開口断面積や炉内高さが大きくなる。炉内開口断面積が大きくなると、加熱手段を炉内下流側に設置していても、その開口断面を通る加熱手段からの輻射量が多くなることによって炉内の温度は均一化されるため、炉内の入口部の温度を低く保てない。その結果、炉入口部における炉外から炉内に向かう温度上昇が急激なものとなり、耐炎繊維シートは炉入口部を通過する際に急激に加熱され、炉入口部において収縮して皺が発生してしまう。
【0016】
炉内の入口部の温度を低くするには、上記先願特許(特許文献3)に記載されているように、炉長手方向に沿って隔壁を設け、昇温域温度ゾーン、高温域温度ゾーンなどのゾーンを設けてゾーン間の温度差を大きくすることが考えられる。しかし、ゾーン間の隔壁を接圧ローラー間に設けると、その箇所において接圧ローラー間の距離が増加し、その結果、隔壁設置箇所においてローラーとシートとの非接触部が大きくなる。従って、炉内全体としては、ローラーとシートとの接触面積が小さくなり、接圧付与機能が低下する問題がある。
【0017】
本発明者は、シートの表面品位の改善について更に検討を重ねるうちに、接圧ローラー間に隔壁を設けるのではなく、炉内の上流部と下流部とを仕切る隔壁に形成したシート搬送窓に、断熱ローラーを配置することにより、接圧付与機能を低下させずに、ゾーン間の温度差を大きくすることができ、その結果、加熱処理の際のシートの熱収縮による皺やうねり等を低減できることを知得した。更に上記熱処理炉は、炭素化処理以外の加熱処理にも適用できることを知得した。本発明は上記知見に基づき完成するに至ったもので、その目的とするところは、上記問題を解決した熱処理炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0019】
〔1〕 原料シートを加熱処理する熱処理炉であって、炉の上流側に原料シート入口部を形成すると共にその内部に1以上のローラーを有する上流炉部と、炉の下流側に製品シート出口部を形成すると共にその内部に1以上のローラーを有する下流炉部と、炉内を上流炉部と下流炉部とに仕切ると共にシート搬送窓を形成した隔壁と、前記シート搬送窓に取り付けた断熱ローラーと、上流炉部、下流炉部に備えた加熱手段であって下流炉部の加熱手段が上流炉部の加熱手段よりも高発熱量である加熱手段とを有する熱処理炉。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱処理炉によれば、炉内に隔壁を設け、その隔壁のシート搬送窓に断熱ローラーを取り付けているので、接圧付与機能を低下させずに、ゾーン間の温度差を大きくすることができる。その結果、熱収縮による皺やうねり等を抑制した炭素繊維シート等の製品シートを連続生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の熱処理炉の一例を示す概略側面図である。2は内部中空の直方体状の熱処理炉で、炉を構成する炉壁5内に断熱材が積層されて断熱材層6が形成されている。
【0023】
熱処理炉2で熱処理される原料シート4の搬送方向に沿って炉2の最上流側の炉壁5及び断熱材層6には、これらを貫通して原料シート入口部8が設けられている。炉2の最下流側の炉壁5及び断熱材層6には、これらを貫通して製品シート出口部12が設けられている。この製品シート出口部12から製品シート40が搬出される。
【0024】
原料シート入口部8及び製品シート出口部12は、不図示のシール手段で窒素ガス等の不活性ガスを用いてガスシールされており、これにより炉2内に空気が混入することの無いように構成されている。
【0025】
炉2内は、シートの搬送方向に垂直に設けられた隔壁14により上流炉部16と下流炉部18とに仕切られている。前記隔壁14にはシート搬送窓20が形成されている。
【0026】
炉2内には、複数(本図においては5本)のローラー22a、22b、22c、22d、22eが上流側から下流側に向かって順次配設されている。更に詳述すると、上流炉部16内にはシートに接触してシート表面を押圧する接圧ローラー22a、22bが配設され、シート搬送窓20には断熱ローラー22cが取り付けられ、下流炉部18内には接圧ローラー22d、22eが配設されている。
【0027】
上記断熱ローラー22cは接圧ローラーとしても作用している。
【0028】
図2は、図1の装置におけるA〜A線に沿った正面断面部分拡大図であり、隔壁14、シート搬送窓20、断熱ローラー22c及びその付近を示している。
【0029】
図2に示されるように、断熱ローラー22cは、内部中空で軸方向両端が閉塞された円筒状のケーシング24と、前記ケーシング24と軸芯を一致させてケーシング24内に挿入された回転軸26とからなる。ケーシング24と回転軸26との間の中空部28には断熱材が充填されている。
【0030】
断熱ローラー22cのケーシング24の材料は、使用温度に応じて適宜選択される材料(金属、セラミック、カーボン等)が適用できる。
【0031】
中空部28に充填する断熱材としては、使用温度に応じて適宜選択される断熱材(ガラス、セラミック、カーボンよりなるウェブ、紙、フェルト、不織布等)が適用できる。
【0032】
図1の熱処理炉2において、30a、30bは上部加熱手段収納ボックスで、上部加熱手段収納ボックス30aには上流側から下流側に向かって順次上部加熱手段32a、32bが収納され、上部加熱手段収納ボックス30bには上流側から下流側に向かって順次同様の上部加熱手段32c、32dが収納されている。
【0033】
34a、34bは下部加熱手段収納ボックスで、上部加熱手段収納ボックス30aと同様に、下部加熱手段収納ボックス34aには下部加熱手段36a、36bが収納され、下部加熱手段収納ボックス34bには下部加熱手段36c、36dが収納されている。
【0034】
加熱手段としては、電熱ヒーター、スチームヒーター、赤外ヒーター等が例示される。前記下流炉部18の加熱手段32c、32d、36c、36dの発熱量は、上流炉部16の加熱手段32a、32b、36a、36bの発熱量よりも大きくなるように設計されている。これにより上流炉部16よりも下流炉部18の炉内温度が高くなるようになっている。
【0035】
38は上流炉部16に取り付けられた排ガス処理室で、炉2内で発生する排ガスを燃焼処理する。
【0036】
上記熱処理炉2は、対象とする原料シート、製品シート等その目的に応じて寸法等が適宜決定される。
【0037】
炉長、炉高、滞留時間は、原料シート4の目付や熱処理条件によって異なる。例えば、硬く、曲げ強度が低いシートを焼成する場合は、下流炉部18内に設置する接圧ローラー22d、22eの径を、シートが破断しない程度に大きくする必要がある。これらは適宜決定される。
【0038】
図1の熱処理炉2で対象とする原料シート4には、樹脂フィルム、セラミックシート、耐炎短繊維を抄紙した紙、紡績糸やフィラメント束の織物、ステープルの不織布、ウェブをニードルパンチしたフェルト等が適用できる。
【0039】
なお、上記断熱ローラーとしてはその内部に断熱材を入れたが、必ずしも断熱材を入れる必要はなく、中空のまま使用しても良い。更に、内部を中空にすることなく、ローラー自体を断熱材で製作しても良い。
【0040】
製品シートとして電極材料用の炭素繊維シートを製造する場合、この処理対象の原料シートの耐炎繊維シートは、厚さ0.1〜2mm、目付50〜400g/m2が好ましい。厚さが0.1mm未満の場合はシートの強度が不足する。厚さが2mmを超える場合は最終製品が大きくなり過ぎる。目付が50g/m2未満の場合はシートの強度が不足する。目付が400g/m2以上を超える場合はシートが柔軟性に欠ける。
【0041】
上記原料シート4を焼成する場合、隔壁14は原料シート4の熱収縮の30〜60%が完了する位置に設ける。通常この位置は、炉2の最下流側断熱材層6から炉長の40%以上、60%以下の位置である。
【0042】
更に、上部加熱手段32c、32d、下部加熱手段36c、36dからの輻射熱等の伝熱、並びに、上部加熱手段32a、32b、下部加熱手段36a、36bにより上流炉部16は上流から下流に向かうに従って高温になる温度勾配を有する昇温域が形成されても良い。
【0043】
なお、上記説明においては、断熱ローラーを隔壁に形成した1個のシート搬送窓20に設けたが、これに限られず隔壁を複数形成して各隔壁にそれぞれ断熱ローラーを取り付けることにより、更に精密な炉内温度設定を行っても良い。その他本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【実施例】
【0044】
図1に示す熱処理炉2を用いて製品シート40(本例の場合は炭素繊維シート)を製造した。
【0045】
シート搬送方向の炉内長さは上流炉部16で2m、下流炉部18で2m、炉内幅は1.2m、炉内高さは0.8mであった。隔壁14の位置は、炉2の最下流側断熱材層6から炉長の50%の位置であった。接圧ローラー22a、22b、22d、22e、断熱ローラー22cの径は何れも0.5mであった。
【0046】
断熱ローラー22cのケーシング24の材料はカーボンであり、中空部28に充填した断熱材は、カーボンよりなる不織布であった。
【0047】
炉2内は、窒素雰囲気下加熱し、原料シート入口部8の炉内部分の温度を50℃、上流炉部16の隔壁14近傍の温度を550℃、下流炉部18の隔壁14近傍の温度を650℃、炭素繊維シート出口部12の炉内部分の温度を700℃に調節した。
【0048】
この熱処理炉2内を、厚さ0.4mm、幅1000mm、目付200g/m2の耐炎繊維シートを、接圧ローラー22a、22b、22d、22e、断熱ローラー22cにおける接圧150Pa、搬送速度50m/hrで搬送させた。
【0049】
得られた炭素繊維シートは、厚さ0.38mm、目付154g/m2のものであり、皺、うねりの無い高品位のものであった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の熱処理炉の一例を示す概略側面図である。
【図2】図1の熱処理炉におけるA〜A線に沿った正面断面図であり、隔壁、シート搬送窓、断熱ローラー及びその付近を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0051】
2 熱処理炉
4 原料シート
5 炉壁
6 断熱材層
8 原料シート入口部
12 製品シート出口部
14 隔壁
16 上流炉部
18 下流炉部
20 シート搬送窓
22a、22b、22d、22e 接圧ローラー
22c 断熱ローラー
24 ケーシング
26 断熱ローラーの回転軸
28 断熱ローラーの中空部
30a、30b 上部加熱手段収納ボックス
32a、32b、32c、32d 上部加熱手段
34a、34b 下部加熱手段収納ボックス
36a、36b、36c、36d 下部加熱手段
38 排ガス処理室
40 製品シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料シートを加熱処理する熱処理炉であって、炉の上流側に原料シート入口部を形成すると共にその内部に1以上のローラーを有する上流炉部と、炉の下流側に製品シート出口部を形成すると共にその内部に1以上のローラーを有する下流炉部と、炉内を上流炉部と下流炉部とに仕切ると共にシート搬送窓を形成した隔壁と、前記シート搬送窓に取り付けた断熱ローラーと、上流炉部、下流炉部に備えた加熱手段であって下流炉部の加熱手段が上流炉部の加熱手段よりも高発熱量である加熱手段とを有する熱処理炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−303029(P2007−303029A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133318(P2006−133318)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】