説明

熱分析装置

【課題】
昇温過程での冷媒液の消費とエネルギーの無駄を省くとともに、昇温過程での熱分析データの乱れを防ぐ。
【解決手段】
測定制御部30には液面センサ8により検出される液面高さにある冷媒がポンプ5による冷媒供給停止から蒸発によりなくなるのに要する待機時間が設定される。測定制御部30は、冷却過程での測定を行なうときは液面センサ8の信号を基にして冷媒槽2内での冷媒の液面レベルが一定になるようにポンプ5の駆動を制御し、昇温過程での測定を行なうときはポンプ5の駆動を停止した後、待機時間の経過時に炉体1のヒータ14への通電を開始するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、示差熱分析装置や示差走査熱量測定装置などの熱分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
示差走査熱量測定装置などの熱分析装置においては、炉体内に測定対象試料と熱的に不活性な参照試料を収容し、炉体の温度を変化させることによりこれら両者を同一の熱環境下で変化させる。その温度変化の過程において、炉体内に設けたセンサ等で測定対象試料と参照試料の温度変化にかかわる情報を検出し、測定対象試料の熱的性質を測定する。このような熱分析装置においては、試料の温度を高温(例えば、500℃程度)に上昇させたり、低温(例えば、−140℃程度)に下降させたりして測定を行なうので、炉体に、加熱のためのヒータ等の加熱装置を備えるとともに、室温以下の温度領域での測定を行うべく、冷却装置を備えている。冷却装置としては、ペルチェ素子を用いたものや、液体窒素などの冷媒を用いて、炉体を直接又は間接的に冷却する冷却手段を設けた装置が実用化されている(特許文献1参照。)。
【0003】
加熱装置を備え内部に試料を収容して温度変化にかかわる試料からの情報を取り出すことのできる炉体と、前記炉体と熱的に接続され、冷媒の液面高さを検出する液面センサを備えた冷媒槽と、前記冷媒槽に冷媒を供給する冷媒供給機構と、前記炉体の加熱装置の駆動と前記冷媒供給機構の駆動とを制御して試料温度を所定のプログラムにしたがって変化させる測定制御部とを備えた熱分析装置も提案されている(特許文献2参照。)。
【0004】
そのような熱分析装置では、冷媒は冷却過程では必要であるが、昇温過程では必要ではない。そのため、冷却過程の測定を終え、昇温過程での測定を行なう際に冷媒供給機構の駆動を停止すればよいが、従来の熱測定装置では冷媒供給機構の駆動を手動で停止しなければならない。冷却過程では冷媒槽には一定量の冷媒が収容されているので、昇温過程での測定に移行した時点でちょうど冷媒が蒸発してなくなっているようにすることは難しい。通常は、昇温過程での測定に移行した時点で冷媒がまだ残っているか、昇温過程に入る前にすでに冷媒がなくなっているかのいずれかである。そのいずれの場合も熱測定データが乱れ、再現性のよい測定を行なうことができない。
そこで、従来は、昇温過程においても冷媒の供給を続け、炉体の発熱装置から冷媒の蒸発により消費される熱量よりも多い熱量を炉体に供給することにより昇温過程の測定を行なっている。
【特許文献1】特開2001−183319号公報
【特許文献2】実用新案登録第3109216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昇温過程においても冷媒の供給を続ける従来の測定方法では、昇温過程での冷媒液の過大消費とそのための無駄なエネルギーが必要になる。
本発明は熱分析装置における昇温過程での冷媒液の消費とエネルギーの無駄を省くとともに、昇温過程での熱分析データの乱れを防ぐことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱分析装置は、冷媒槽は冷媒蒸気を放出できる開放構造とし、測定制御部には液面センサにより検出される液面高さにある冷媒が冷媒供給機構による冷媒供給停止から蒸発によりなくなるのに要する待機時間が設定され、その測定制御部は冷却過程での測定を行なうときは液面センサの信号を基にして冷媒槽内での冷媒の液面レベルが一定になるように前記冷媒供給機構の駆動を制御し、昇温過程での測定を行なうときは前記冷媒供給機構の駆動を停止した後、前記待機時間の経過時に炉体の加熱装置の駆動を開始するようになっていることを特徴とするものである。
前記冷媒供給機構の駆動停止は、例えば、冷却過程において炉体温度が所定の低温度に到達した後に行なうようにすることができる。
【0007】
冷媒槽の冷媒量は冷却過程での必要量があればよい。本発明では昇温過程では冷媒がない状態にするので、必要量以上の冷媒が存在すれば昇温過程に移行する際の待機時間が長くなり、無駄な時間が必要になる。そこで、冷媒槽の冷媒量が最適な量に設定されるようにするために、本発明の好ましい形態では、冷媒槽の外部から内部へ貫通するケーブルが設けられ、冷媒槽内ではそのケーブルの先端に前記液面センサが取りつけられ、冷媒槽外では冷媒槽側と前記ケーブルの一方に指標、他方に目盛が設けられ、かつその目盛は前記指標により指示され得る位置に対向配置されており、冷媒槽内のケーブルの長さを調整可能にすることにより液面センサの高さ位置を可変にしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱分析装置では、冷媒槽にある冷媒が冷媒供給機構による冷媒供給停止から蒸発によりなくなるのに要する待機時間を設定しておき、その待機時間の経過時に炉体の加熱装置の駆動を開始するようにしたので、冷媒槽の冷媒がちょうどなくなった時点から昇温測定を開始することができるので、熱測定データの乱れを抑えつつ、加熱過程での不要な冷媒液注入による冷媒の過大消費をなくすことができ、加熱装置の電力も削減することができる。また、冷媒槽は通常、断熱材で覆われており、昇温過程においても冷媒槽に冷媒が供給され続けている場合にはその断熱材の周囲に結露や結霜が生じるが、本発明では昇温過程では冷媒槽には冷媒は残っていないので、断熱材の周囲の結露や結霜も抑えることができ、クリーンな測定環境を維持できる。
冷媒槽での液面センサの高さ位置を可変にすれば、冷却過程での冷媒槽の冷媒量を最適な量に設定することができ、冷却過程から昇温過程に移行する際の待機時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1の示差走査熱量計(DSC)の概略構成図を参照して一実施例を説明する。
炉体1は、図示していないが、内部に試料を収容できるようになっており、試料の温度変化を検出できる構成となっている。炉体1は加熱装置としてのヒータ14をもつとともに、下部は伝熱板3に密着している。伝熱板3には、炉体1との密着部位に近接してその上面に冷媒槽2が密着しており、この伝熱板3を介して炉体1と冷媒槽2が互いに熱的に結合されている。
【0010】
冷媒槽2には、冷媒として液体窒素が収容されており、冷媒槽気密蓋21及び断熱部材13により、外気から遮断するとともに断熱している。冷媒は冷媒貯蔵容器4中に貯蔵されており、適宜、冷媒供給機構のポンプ5により冷媒供給ホース6を通って冷媒槽2に供給されるようになっている。冷媒槽2中で気化した窒素は、排気ホース7を通り、大気中に放出される。冷媒供給ホース6及び排気ホース7は、供給ホース用断熱チューブ61、排気ホース用断熱チューブ71によりそれぞれ断熱されている。
【0011】
冷媒槽機密蓋21及び断熱部材13には、貫通チューブ9が貫通しており、その冷媒槽外側端には、ゴム栓10が備えられている。その内部を通って、ケーブル81が冷媒槽外側部から冷媒槽内へ貫通されている。ケーブル81の先端には液面センサ8を備えており、冷媒槽内の冷媒液面付近に保持されている。液面センサ8は、例えば白金サーミスタであり、その検出温度により冷媒の液面を検出する。液面センサ8からの信号線はケーブル81の内部を通り、冷媒槽外へ取り出されるようになっている。
【0012】
ケーブル81には目盛12が設けられ、ゴム栓10を貫通するとともに固定されている。冷媒槽外部の貫通チューブ9の外端部付近には、指標11が設けられており、指標11と目盛12によって、液面センサ8の冷媒槽中での位置が容易に予測される。冷媒槽2に残存している冷媒の液面の検知位置を変更する際には、ゴム栓10を緩め、指標11と目盛12を参照しながらケーブル81を冷媒槽内部に出し入れすることでセンサ8の位置を調整し、所望の位置で再度ゴム栓10により固定する。
【0013】
液面センサ8により冷媒残量を検知し、残量が所定量より少なくなれば、冷媒供給機構5により冷媒貯蔵容器4中の液体窒素を汲出し、冷媒槽2に供給すればよい。ここでは、容易に冷媒槽の外から冷媒検出位置を適切な位置に変更することができるので、常に最適な検出位置で熱分析測定を行うことができ、冷媒の無駄な消費を減らすこともできる。
【0014】
目盛及び指標は、挿入時の液面センサ8の冷媒槽底面からの高さ位置と等しくなるように構成してもよいし、測定条件による適切な位置を示しておく構成とすることもできる。
30は測定制御部である。測定制御部30には液面センサ8により検出される液面高さにある冷媒がポンプ5による冷媒供給停止から蒸発によりなくなるのに要する待機時間が設定される。測定制御部30には炉体1内にある試料測定温度と、液面センサ8による検出温度が入力され、測定プログラムにしたがって炉体のヒータ14への通電制御とポンプ5の駆動制御を行なう。
【0015】
測定制御部30は、冷却過程での測定を行なうときは液面センサ8の信号を基にして冷媒槽2内での冷媒の液面レベルが一定になるようにポンプ5の駆動を制御し、昇温過程での測定を行なうときはポンプ5の駆動を停止した後、待機時間の経過時に炉体1のヒータ14への通電を開始するようになっている。
ポンプ5の駆動停止は、冷却過程において炉体温度が所定の低温度に到達した後に行なうようにしてもよい。
【0016】
この実施例によれば、ケーブル81の目盛12と指標11を参照してケーブル81の挿入深さを変更すれば、冷媒槽2の外部から液面センサ8の位置の調整を行なうことができるとともにその位置を確認することもできるので、検知される冷媒の液面位置を容易に所望の位置に変更することができるようになり、液体窒素などの冷媒の無駄な消費を減らす効果も得られる。
【0017】
図2を参照してこの実施例における冷却〜加熱測定プログラムにおける動作を説明する。
(1)冷却過程の測定シーケンス:
冷媒供給用ポンプ5をオンにして冷媒を冷媒槽2に供給し、炉体1の温度を下げる。
液面センサ8が冷媒の溜まりを検出するとポンプ5をオフにするか供給量を減少させ、冷媒の液面が液面センサ8から離れると再びポンプ5をオンにするように、液面センサ8によりポンプ5による供給量の制御を行ない冷媒液面が一定になるようにする。
炉体1が設定温度に到達したら冷却過程での測定が終了したとしてポンプ5をオフにする。
【0018】
(2)昇温過程の測定シーケンス:
ポンプ5をオフにした後、設定された待機時間が経過したら、炉体1のヒータ14により加熱速度を制御しながら炉体温度を上昇させる。
加熱過程に移行した時点で、冷媒槽2に冷媒が残っていると、その冷媒は不要であるが、この待機時間はちょうど冷媒が蒸発してなくなるように設定されているので、加熱過程での炉体温度の制御に影響を与えることがない。
【0019】
図3、4は、この実施例における冷却〜加熱過程でのDSC測定例を示したものであり、いずれも待機時間の設定を意図的にずらした場合を示している。いずれの図においても、t1はポンプ5をオフにした後、冷媒がちょうどなくなった時間、t2はヒータ14による加熱を開始した時間であり、AはDSC曲線、Bは温度曲線である。
【0020】
図3のデータは設定した待機時間が約1分間短かかった場合である。ヒータ14による加熱を開始した時点では冷媒はすでになくなっており、ヒータ14による加熱の前にすでに温度上昇がわずかではあるが始まっており、DSC曲線に乱れがみられる。
【0021】
一方、図4のデータは設定した待機時間が約3分間長かった場合である。ヒータ14による加熱を開始した時点でも冷媒が残っており、ヒータ14による加熱を開始しても予定のプログラムにしたがった温度上昇はみられず、冷媒がなくなるまでの温度上昇が抑えられており、それによりこの場合もDSC曲線に乱れがみられる。
【0022】
本発明はこのようなタイミングのずれをなくすものであり、待機時間を正しく設定することにより、冷媒槽に冷媒がちょうどなくなった時点からヒータ14による加熱が開始されることにより、予定の温度プログラムにしたがった昇温がなされ、DSC曲線の乱れがなくなる。
【0023】
待機時間は冷媒槽中の冷媒の液面レベルだけで決めることはできない。ポンプ5による冷媒供給を停止しても冷媒供給ホース6に残っている冷媒の供給がしばらく続くからである。ポンプ5の停止後にも続く冷媒供給はポンプ送り量に依存する。
【0024】
図5はポンプ5の冷媒送り量と冷媒の液面レベルの設定(液面センサ8の高さの設定により行なう。)に関して、実験により待機時間を求めた結果を示したものである。ポンプの後に付けられた数値(3.6,3.8,4)はそれぞれポンプ5の冷媒送り量を示しており、数値が大きいほど送り量が多いことを示している。冷媒の液面レベルであるLN2レベルは冷媒槽2の底面からの高さを示している。
この実施例では、ポンプ5の冷媒送り量と冷媒の液面レベルに応じて最適な待機時間を求め、それを測定制御部30に設定することにより、DSC曲線に乱れのない測定を行なう。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は示差熱分析装置や示差走査熱量測定装置などの熱分析装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施例の示差走査熱量計を示す概略構成図である。
【図2】同実施例の動作を示すフローチャート図である。
【図3】同実施例における冷却〜加熱過程でのDSCの一測定例を示すグラフである。
【図4】同実施例における冷却〜加熱過程でのDSCの他の測定例を示すグラフである。
【図5】ポンプの冷媒送り量と冷媒の液面レベルと待機時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 炉体
2 冷媒槽
3 伝熱板
5 ポンプ
6 冷媒供給ホース
7 排気ホース
8 液面センサ
9 貫通チューブ
10 ゴム栓
11 指標
12 目盛
13 断熱部材
14 ヒータ
21 冷媒槽気密蓋
30 測定制御部
81 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱装置を備え内部に試料を収容して温度変化にかかわる試料からの情報を取り出すことのできる炉体と、
前記炉体と熱的に接続され、冷媒の液面高さを検出する液面センサを備えた冷媒槽と、
前記冷媒槽に冷媒を供給する冷媒供給機構と、
前記炉体の加熱装置の駆動と前記冷媒供給機構の駆動とを制御して試料温度を所定のプログラムにしたがって変化させる測定制御部と、を備えた熱分析装置において、
前記冷媒槽は冷媒蒸気を放出できる開放構造とし、
前記測定制御部には前記液面センサにより検出される液面高さにある冷媒が前記冷媒供給機構による冷媒供給停止から蒸発によりなくなるのに要する待機時間が設定され、
前記測定制御部は冷却過程での測定を行なうときは前記液面センサの信号を基にして冷媒槽内での冷媒の液面レベルが一定になるように前記冷媒供給機構の駆動を制御し、昇温過程での測定を行なうときは前記冷媒供給機構の駆動を停止した後、前記待機時間の経過時に前記炉体の加熱装置の駆動を開始するようになっていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
前記冷媒供給機構の駆動停止は冷却過程において炉体温度が所定の低温度に到達した後に行なう請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記冷媒槽の外部から内部へ貫通するケーブルが設けられ、前記冷媒槽内ではそのケーブルの先端に前記液面センサが取りつけられ、前記冷媒槽外では冷媒槽側と前記ケーブルの一方に指標、他方に目盛が設けられ、かつその目盛は前記指標により指示され得る位置に対向配置されており、前記冷媒槽内の前記ケーブルの長さを調整可能にすることにより前記液面センサの高さ位置を可変にした請求項1又は2に記載の熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−337129(P2006−337129A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161002(P2005−161002)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】