説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】輸送時、特に低温下での耐衝撃性に優れ、かつ収縮時の仕上がりもよく、充分な溶剤接着性をもつ、特に缶詰集積用の熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】95℃、10秒での主収縮方向の温湯収縮率が55%以上であり、以下の振動試験において、横裂け不良発生率が20%以下である熱収縮性ポリエステル系フィルム。フィルムをチューブ状に接合加工したものを、特定サイズの食用絞り缶を高さ方向に3缶集積したものに被せ、シュリンクトンネルで収縮装着後、集積体を特定サイズの段ボール箱に縦6列、横3列、計18パックを入れ封をする。次に、この段ボール梱包体を、縦方向に水平に、振動幅50mm、振動速度180往復/分で30分間振動させた後、缶の円周上に30mm以上の裂け疵を生じたものを不良とし、18パック中の不良パック数の割合を横裂け不良発生率(%)と定義する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、特に、ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。さらに詳しくは、集積包装のラベル用、特に缶詰集積のラベル用であって、輸送時、特に低温下での耐衝撃性に優れ、かつ収縮時の仕上がりもよく、十分な溶剤接着性をもつ熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性フィルムは、特に缶詰等の集積包装用収縮フィルムの分野では、従来からポリ塩化ビニル、ポリスチレン等からなるフィルムが主として用いられているが、近年、ポリ塩化ビニルについては廃棄時に燃焼する際の塩素ガス発生の問題、ポリスチレンについては印刷が困難である問題等があり、熱収縮性ポリエステル系フィルムが注目を集めている。
【0003】
ところが、従来のラベル用熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いて収縮包装した場合では、輸送時の集積体同士の衝撃や集積体を梱包した箱との摩擦等により傷が生じやすく、さらにフィルム製膜において一方向へ延伸している性質上、フィルムが主収縮方向に大きく裂け、被包装体を保持できず、商品価値を損なう問題がある。特に低温下においては、現行集積包装用に用いられている柔軟で裂けにくいポリ塩化ビニルを使用しても同様にフィルムが裂けるという問題が発生する。
【0004】
これらの問題に対し、フィルム製膜時に主収縮方向と直交する方向にも配向させ、一方向に裂けるのを防ぐ技術が考えられるが、主収縮方向と直交する方向との配向のバランスが悪いと、収縮のバランスがとれず、収縮装着の際に仕上がりが悪く、また環境問題から使用が好ましい非塩素系溶剤を用いてフィルムからチューブを作製する際に十分な溶剤接着性が得られないといった問題が発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの有する問題点を解決し、輸送時、特に低温下での耐衝撃性に優れ、かつ収縮時の仕上がりもよく、充分な溶剤接着性をもつ熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを目的とする。
【0006】
本発明の他の目的は、上記特性を有する集積用包装ラベル用、特に缶詰集積用の熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の熱収縮惟ポリエステル系フィルムは、95℃、10秒での主収縮方向の温湯収縮率が55%以上であり、以下に示す振動試験において、横裂け不良発生率が20%以下であることを特徴とする。
【0008】
振動試験:フィルムをチューブ状に接合加工したものを、直径72mm、高さ55mmの食用絞り缶を高さ方向に3缶集積したもの(総重量660g)に被せ、シュリンクトンネルで収縮装着後、該集積体を縦455mm、横230mm、高さ165mmの段ボール箱に縦6列、横3列、計18パックを入れ封をする。次に、この段ボール梱包体を、縦方向に水平に、振動幅50mm、振動速度180往復/分で30分間振動させた後、フィルムの裂け具合いを目視にて評価する。
【0009】
缶の円周上に30mm以上の裂け疵を生じたものを不良とし、18パック中の不良パック数の割合を横裂け不良発生率(%)と定義する。
【0010】
本発明の好適な実施態様においては、フィルム縦方向の屈折率Nx、およびフィルム横方向の屈折率Nyが下式(1)および(2)を満足することを特徴とする。
【0011】
1.561<Nx<1.566 (1)
0.040<Ny−Nx<0.070 (2)
【0012】
本発明の好適な実施態様においては、95℃、10秒での主収縮方向と直交する方向においての温湯収縮率が10〜25%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の好適な実施態様においては、1,3−ジオキソランによる溶剤接着性を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の好適な実施態様においては、集積包装用フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムによれば、輸送時、特に低温下での耐衝撃性に優れ、かつ収縮時の仕上がりもよく、充分な溶剤接着性を有している。
【0016】
従って、集積用包装ラベル用、特に缶詰集積用の熱収縮性ポリエステル系フィルムとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの実施の形態を説明する。
【0018】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、典型的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートあるいはこれらのポリエステルに脂肪族の酸成分又は長鎖グリコール成分を共重合したポリエステルを示すことができる。
【0019】
本発明では、前記ポリエステルを構成するテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸からなる酸成分以外にも、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、イソフタル酸、デカンジカルボン酸、ダイマー酸等の公知のジカルボン酸の1種又は2種以上を使用してもよく、また、ブタンジオールからなるジオール成分以下にもエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマー酸ジオール、テトラメチレングリコールエチレンオキサイド付加物等の公知のジオールの1種又は2種以上を使用してもよい。
【0020】
また、振動試験に特に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るためには、ネオペンチルグリコールをジオール成分の1種として用いることが好ましい。
【0021】
さらに、熱収縮性ポリエステル系フィルムの易滑性を向上させるためには無機滑剤、有機滑剤を含有させたものが好ましい。また、必要に応じて安定剤、着色剤、酸化防止剤、消溶剤、静電防止剤等の添加剤を含有させたものであってもよい。
【0022】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、振動試験において、横裂け不良発生率が20%以下であることが必要である。好ましくは10%以下である。横裂け不良発生率が20%を越えるときは、実輸送において、フィルムに多数の裂けが発生するので好ましくない。
【0023】
さらに、本発明では、屈折率Nx、Nyが下式(1)および(2)を満足することが好ましい。
【0024】
1.561<Nx<1.566 (1)
0.040<Ny−Nx<0.070 (2)
屈折率Nxのさらに好ましい範囲は、1.562〜1.565である。また値(Ny−Nx)のさらに好ましい範囲は、0.050〜0.060である。屈折率Nxの値が1.561未満である場合には、横裂けに対する強度が不足し、1.566を越える場合は、主収縮方向と直交する方向の収縮率が大きくなり、収縮仕上がり性が悪くなる。
【0025】
さらに、値(Ny−Nx)が0.040未満である場合には、フィルム縦方向と横方向の収縮バランスが悪くなり、収縮むらが発生し、0.070を越える場合には横裂け不良率が悪化する。
【0026】
本発明のフィルムは、95℃、10秒での主収縮方向の温湯収縮率が50%以上であることが好ましい。さらに好ましくは55%以上である。95℃、10秒での主収縮方向の温湯収縮率が50%未満の場合には、収縮不足、収縮むらが起き易く仕上がりが悪くなる。
【0027】
本発明のフィルムは、95℃、10秒での主収縮方向と直交する方向においての温湯収縮率が10〜25%であることが好ましい。さらに好ましくは10〜20%以上である。この温湯収縮率が10%未満の場合には、横裂けに対する強度とのバランスがとれず、25%を越えると収縮むらや飛び上がりが発生し、仕上がりが悪くなる。
【0028】
さらに、本発明のフィルムは、1,3−ジオキソランによる溶剤接着性を有することが好ましい。
【0029】
本発明の目的を達成するには、主収縮方向がフィルム横方向(幅方向)であるポリエステル系フィルムが実用的であるので以下主収縮方向が横方向である場合の製膜法の例を示すが、本発明は主収縮方向が縦方向である場合ももちろん含むものである、本発明では、ホッパードライヤー、パトルドライヤー等の乾燥機又は真空乾燥機を用いて乾燥したポリエステル原料を200〜300℃の温度で押し出し、急冷して未延伸フィルムを得る。主収縮方向が横方向の熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造するためには、得られた未延伸フィルムを80〜95℃で1.1〜1.3倍縦延伸した後、70〜85℃で3〜5倍横延伸する方法が典型的であるが、適宜延伸条件を設定できることをはもちろんである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限リ、これらの実施例に限定されるものではい。
【0031】
(1)熱収縮率フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、95±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬処理して熱収縮させた後、フィルムの縦及び横方向の寸法を測定し、下式に従い熱収縮率を求めた。該熱岐縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
【0032】
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
【0033】
(2)屈折率Abbeの屈折計を使用し、フィルムの縦、横、厚み方向の屈折率を測定した。
【0034】
ただし、縦方向(主収縮方向)の屈折率をNxとし、横方向(主収縮方向と直交する方向)の屈折率をNyとする。
【0035】
(3)溶剤接着性1,3−ジオキソランを用いてフィルムをチューブ状に接合加工し、該チューブ状体を加工時の流れ方向と直交方向に15mm幅に切断してサンプルを取り、接合部分を上記方向に引っ張り剥離し、充分な剥離抵抗力が得られたものを溶剤接着性「○」とした。
【0036】
(4)収縮仕上がり性協和電機社製のユニバーサルシュリンカー(型式:K2000)を用い、市販の絞り缶(フリスキー社製フリスキー)に装着し、シュリンカー通過時間15秒、(1ゾーン温度/2ゾーン温度)=(170℃/170℃)で仕上がリ性を下記のように評価した。(n=10)
O:外観欠点がないもの×:シワ、収縮不足があるもの
【0037】
(5)振動試験図1に示すように、フィルムをチューブ状に接合加工したチューブ1を、直径72mm、高さ55mmの食用絞り缶を高さ方向に3缶集積した缶の集積体2(総重量660g)に被せ、シュリンクトンネルで収縮装着後、図2に示すように、該集積体3を縦455mm、横230mm、高さ165mmの段ボール箱4に縦6列、横3列、計18パックを入れ、封をした。
【0038】
この段ボール梱包体4を、縦方向(矢印A方向)に水平に、振動幅50mm、振動速度180往復/分で30分間振動させた後、フィルムの裂け具合いを目視にて評価した。
【0039】
図3に示すように、缶5の円周上においてフィルム7に30mm以上(図中の寸法L)の裂け疵6を生じたものを不良とし、18パック中の不良パック数の割合を不良率(%)と定義し、不良率20%以下を「○」、20%を越える場合を「×」とした。
【0040】
(6)実輸送試験前記「振動試験」の項に記載の段ボール梱包体4を3ケース陸送し、54パック中の不良パック数の割合を不良率(%)と定義し、不良率20%以下を「○」、20%を越える場合を「×」とした。
【0041】
なお、実施例、比較例に用いたポリエステルは以下のとおりである。
ポリエステルA:ポリエチレンテレフタレート(IV 0.75)
ポリエステルB:エチレングリコール70モル%、ネオペンチルグリコール30モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル(IV0.72)
ポリエステルC:ポリブチレンテレフタレート(IV 1.20)
【0042】
(実施例1)
表1に示すように、ポリエステルAを37重量%、ポリエステルBを53重量%、ポリエステルCを10重量%混合したポリエステルを280℃でTダイから溶融押し出しし、チルロールで急冷して未延伸フィルムを得た。該未延伸フィルムを多連ロール式縦型延伸機(ロール温度80℃)で1.1倍縦延伸した後、テンターでフィルム温度73℃で横方向に3.9倍延伸し、82℃で10秒間熱処理して厚み45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0043】
(実施例2〜4及び比較例1〜4)
表1に示すように、ポリエステルの配合割合、および延伸条件を変えたこと以外は、実施例1と同様にして厚み45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0044】
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたフィルムの評価結果を表1に合わせて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、実施例1〜4で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムはいずれも良好な収縮仕上がり(収縮不足、シワ、歪み等の欠点がない)を示し、溶剤接着性を示し、振動試験での耐衝撃性および実輸送での耐衝撃性において良好であった。
【0047】
このように本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高品質で実用性が高く、特に低温下で使用される缶詰集積のラベル用として好適である。
【0048】
一方、比較例1〜4で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、耐衝撃性に劣っていた。このように比較例の熱収縮性ポリエステル系フィルムはいずれも品質が劣り、実用性が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムによれば、輸送時、特に低温下での耐衝撃性に優れ、かつ収縮時の仕上がりもよく、充分な溶剤接着性を有している。
【0050】
従って、集積用包装ラベル用、特に缶詰集積用の熱収縮性ポリエステル系フィルムとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】熱収縮性ポリエステル系フィルムの振動試験の説明図である。
【図2】熱収縮性ポリエステル系フィルムの振動試験の説明図である。
【図3】缶の円周上においてフィルムに裂け疵が生じた場合の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 チューブ
2 缶の集積体
3 集積体
4 段ボール梱包体
5 缶
6 裂け疵
7 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
95℃、10秒での主収縮方向の温湯収縮率が55%以上であり、以下に示す振動試験において、横裂け不良発生率が20%以下であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
振動試験:フィルムをチューブ状に接合加工したものを、直径72mm、高さ55mmの食用絞り缶を高さ方向に3缶集積したもの(総重量660g)に被せ、シュリンクトンネルで収縮装着後、該集積体を縦455mm、横230mm、高さ165mmの段ボール箱に縦6列、横3列、計18パックを入れ封をする。次に、この段ボール梱包体を、縦方向に水平に、振動幅50mm、振動速度180往復/分で30分間振動させた後、フィルムの裂け具合いを目視にて評価する。缶の円周上に30mm以上の裂け疵を生じたものを不良とし、18パック中の不良パック数の割合を横裂け不良発生率(%)と定義する。
【請求項2】
フィルム縦方向の屈折率Nx、およびフィルム横方向の屈折率Nyが下式(1)および(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
1.561<Nx<1.566 (1)
0.040<Ny−Nx<0.070 (2)
【請求項3】
95℃、10秒での主収縮方向と直交する方向においての温湯収縮率が10〜25%であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
1,3−ジオキソランによる溶剤接着性を有することを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
集積包装用フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−239999(P2008−239999A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161819(P2008−161819)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【分割の表示】特願平11−60898の分割
【原出願日】平成11年3月8日(1999.3.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】