説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】種々のインクに対する密着性に優れつつ、アルカリ水溶液中では良好な脱離性を発揮し、しかも、耐ブロッキング性、滑り性等の諸特性に優れた飲料容器ラベルに公的好適な熱収縮ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】フィルムを、10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が50%以上であり、フィルムの第1面の最表層の窒素原子含有量が0.2〜5.0原子%であり、かつフィルムの第2面同士の動摩擦係数μd≦0.28、であり、フィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μd≦0.30であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくは印刷時のインキ密着性に優れ、かつアルカリ水溶液で脱離するタイプのインクに対して優れた脱離性を有し、かつフィルムをラベル状とする際のラベルカット後の開口性に優れ、かつ飲料ボトルのラベル用フィルムとして用いたときの外面の滑り性が良好で自動販売機飲料用ラベルとして好適でかつ印刷工程やチュービング工程での加工性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、包装品の、外観向上のための外装、内容物の直接衝撃を避けるための包装、ガラス瓶またはプラスチックボトルの保護と商品の表示を兼ねたラベル包装等を目的として、
加熱により収縮する性質をもつ熱収縮プラスチックフィルムが広範に使用されている。これらの目的で使用されるプラスチック素材としては、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用されている。
【0003】
ラベル等を製造するには、通常、以下の方法が採用されている。すなわち、原料ポリマーを連続的に溶融押出し、未延伸フィルムを製造する。次いで、延伸を行ってフィルムロールを得る。このフィルムロールからフィルムを繰り出しながら、所望幅にスリットし、再びロール状に巻回する。続いて、各種製品名等の文字情報や図柄を印刷する。印刷終了後は、溶剤接着等の手段でフィルムの左右端部を重ね合わせて接合してチューブを製造する(チュービング工程)。なお、スリット工程と印刷工程は順序が逆の場合もある。得られたチューブを適宜長さに裁断すれば筒状ラベルとなり、この筒状ラベルの一方の開口端を接合すれば袋を製造できる。
【0004】
そして、上記ラベルや袋等を容器に被せ、スチームを吹きつけて熱収縮させるタイプの収縮トンネル(スチームトンネル)や、熱風を吹きつけて熱収縮させるタイプの収縮トンネル(熱風トンネル)の内部を、ベルトコンベアー等にのせて通過させ、ラベルや袋等を熱収縮させることにより、容器に密着させて、最終製品(ラベル化容器)を得ている。
【0005】
ところで、近年ではPETボトル用ラベル等では、リサイクルを目的としてアルカリ水溶液中で脱離するタイプのインクや、環境に悪影響を及ぼす有機溶剤を削減あるいは使用しない水性タイプのインク等が開発されているが、これらのインクは所定の目的達成するために、フィルムに対する密着性等の性能が従来タイプのものよりも低下している場合がある。しかし、印刷工程においてインクのフィルムに対する密着性が悪いと、インクの脱落、剥がれ等が発生して、商品としての価値を損なってしまう。このため、これらの様々なインクとの密着性に優れ、しかも、アルカリ水溶液中で良好な脱離性を発揮する熱収縮性フィルムが望まれていた。
【0006】
インクとの密着性を向上させるためには、例えばフィルム表面に通常の空気雰囲気下でのコロナ処理等の表面処理を施してフィルム表面の濡れ張力を高くする方法があるが、これらの表面処理によってフィルム表面の濡れ張力を高めると、テトラヒドロフランや1,3−ジオキソランによって溶剤接着してチューブ状にする際にフィルムの耐溶剤性が低下して、溶剤接着部分が平面性を失い、いわゆるワカメ状になったり、チューブの溶剤接着部分が他のフィルム部分とブロッキングすることがあった。また、チューブをカットしてラベルを製造する工程では、カット部分で上下のフィルムが融着・ブロッキングを起こし、ラベルを飲料ボトルに装着する際に開口不良が発生することがあった。
【0007】
さらに、ボトル入り飲料のラベルとして使用した場合、自動販売機内部での商品輸送の際に、ラベルの滑性不足によって商品が通路内で詰まって出口に到達しなかったり、ラベルのブロッキングによって商品同士がフィルム内面においても付着しあって多重に排出されてしまうことがあった。
この問題に対し、フィルム表面に滑り性の良好な層を積層するという方法がなされてきた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−339734号公報
【0008】
しかしながら、スチームによりラベルを収縮・装着するという工程を経た場合、滑り性の不足、バラツキが発生するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来の熱収縮フィルムが抱える種々の問題を解決することのできる熱収縮フィルムの提供を目的とし、具体的には、種々のインクに対する密着性に優れつつ、アルカリ水溶液中では良好な脱離性を発揮し、しかも、耐ブロッキング性、滑り性等の諸特性に優れた熱収縮ポリエステル系フィルムを提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムを、10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が50%以上であり、フィルムの両面をそれぞれ第1面、第2面としたときにフィルムの第1面の最表層の窒素原子含有量が0.2〜5.0原子%であり、かつフィルムの第2面同士の動摩擦係数μd≦0.28であり、フィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μd≦0.30であるところに要旨を有する。
【0011】
上記の特性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムは、優れた収縮加工性を有し、様々なタイプのインクに対する印刷加工性、密着性等の印刷適性に優れ、アルカリ脱離タイプのインクに対してはアルカリ脱離性に優れている。また、ラベルカット時においても、カット部分の融着やブロッキングが発生しない。さらに、上記摩擦係数の要件を満たすことで、ボトル飲料のラベルとして用いたとき、自動販売機内の詰りを防止することができた。
【0012】
フィルムの第1面の濡れ張力が40mN/m以上であると、インクに対する密着性が充分であり、フィルム第1面同士を75℃でヒートシール後の剥離強度が5N/15mm巾以下であるとラベルカット時の耐ブロッキング性が良好となるため、いずれも本発明の好ましい実施態様である。
【0013】
なお、本発明には、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られた熱収縮性ラベルも含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱収縮性フィルムは、様々なタイプのインクに対するインク密着性に優れ、かつアルカリ水溶液で脱離するタイプのインクに対して優れた脱離性を有している。また、耐ブロッキング性にも優れているので、フィルムをラベル状とする際のラベルカット後の開口不良等のトラブルの発生も抑制できる。また、滑り性に優れており、飲料用ラベルに使用した際、自動販売機内部での詰りを防止できる。従って、ボトル飲料等の容器被覆用ラベルとして非常に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
熱収縮性ポリエステル系フィルムのみならず、フィルムの製膜時あるいは製膜後に、フィルム表面の片面あるいは両面に空気雰囲気下でコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線処理等を実施して様々なインクに対する密着性を向上させることが行われている。中でも工業的操業においては、表面処理として、空気雰囲気下でのコロナ処理が最も広く行われている。
【0016】
熱収縮性ポリエステル系フィルムもコロナ処理を行うと、他のフィルムと同様に、表面の濡れ張力が増加して、様々なタイプのインクに対する密着性が向上する。ただし、コロナ処理を行った場合、アルカリで脱離するタイプのインクのアルカリ脱離性は向上するが、熱収縮性ポリエステル系フィルムをラベルカットする際に融着やブロッキングが発生しやすくなるという問題が発生した。
【0017】
熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを最多構成ユニットとして強度等を確保しているが、ポリマーの結晶性を低下させ、非晶化する作用を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールやネオペンチルグリコール等のモノマー成分(以下、非晶化成分という)や、ガラス転移温度(Tg)を低下させて低温での熱収縮率を発現させるための1,4−ブタンジオールや1,3−プロパンジオール等の低Tgモノマー成分を用いることで必要な熱収縮率を得ている。特に非晶化成分の効果によって、フィルム表面処理が施されていない状態(未処理状態)でも、未処理のPETフィルムに比べるとインクに対する密着性は優れている。
【0018】
しかしながら、さらに密着性を高めようとして、一般のPETフィルムで実施されているエネルギーレベルのコロナ処理を熱収縮性フィルムに施すと、前記非晶化成分の存在によって、フィルム表面が過度に酸化処理されてしまい、濡れ張力が必要以上に増加してしまうことがわかった。この結果、フィルムをラベルカットする際に融着やブロッキングが発生する、フィルム表面の滑り性が低下してフィルムの加工性が悪化する、フィルムをロール巻きの状態で保管した際にフィルム同士のブロッキングが発生する等のトラブルが発生していた。
【0019】
そこで、一般のPETフィルムで実施されているエネルギーレベルのコロナ処理よりも低いエネルギーレベルのコロナ処理(低レベル処理)を行うことが考えられたが、通常のPETフィルム用のコロナ処理設備ではこのような低レベル処理を行うことが難しく、低レベル処理用の特殊な電源や電極設備を新たに導入する必要が生じる。また、このような低レベルのコロナ処理でインクに対する密着性を向上させることは可能であるが、実用上必要なインク密着性のレベルまでコロナ処理を行うと、やはりフィルムをラベルカットする際に融着やブロッキングが発生する問題があり、両方の特性を両立することが難しかった。
【0020】
これらのインク密着性とアルカリ脱離タイプのインクに対する脱離性を確保し、かつフィルムをラベルカットする際に融着やブロッキングを発生させないためには、フィルムの第1面の表面に窒素原子を存在させることが有効である。
以下本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の熱収縮性フィルムは、10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、50%以上である熱収縮性フィルムである。フィルムの熱収縮率が50%未満であると、フィルムの熱収縮力が不足して、容器等に被覆収縮させたときに、容器に密着せず、外観不良が発生するため好ましくない。より好ましい熱収縮率は52%以上、さらに好ましくは55%以上である。
【0022】
ここで、最大収縮方向の熱収縮率とは、試料の最も多く収縮した方向での熱収縮率の意味であり、最大収縮方向は、正方形の縦方向または横方向の長さで決められる。また、熱収縮率(%)は、10cm×10cmの試料を、95℃±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に無荷重状態で10秒間浸漬した後の、フィルムの縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求めた値である(以下、この条件で測定した最大収縮方向の熱収縮率を、単に「熱収縮率」と省略する)。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)
【0023】
また、本発明のフィルムは、フィルムの第1面の最表層の窒素原子含有量が0.2〜5.0原子%でなければならない。この範囲とすることで、種々のインクに対する密着性を高めつつ、アルカリ脱離タイプのインクのアルカリ脱離性を付与し、しかも、耐ブロッキング性も高め得たからである。この窒素原子含有量は、XPS(X線光電子分光法)によって測定することのできるフィルム最表層(数十Åレベル)における全元素量に対する窒素原子の比率である。フィルム表面の窒素原子の含有量が0.2原子%未満では、様々なタイプのインクに対する密着性が不充分となる。また、窒素原子含有量が5.0原子%を超える場合には、ラベルカット後の融着・ブロッキングが発生し、フィルムの表面性状の変化によって滑性の低下が発生する。より好ましい窒素原子含有量の下限は0.25原子%、さらに好ましい下限は0.3原子%である。また、より好ましい窒素原子含有量の上限はは4.9原子%、さらに好ましい上限は4.8原子%である。
【0024】
フィルム第1面の窒素原子の形態としては、窒素原子(N)の形態、窒素イオン(N+)の形態のいずれでもよい。フィルムの第1面に窒素原子を含有させる方法としては、フィルム第1面に対し、窒素雰囲気下でコロナ処理又はプラズマ処理をする方法が好ましい。窒素雰囲気下でコロナ処理又はプラズマ処理をすることにより、窒素原子は窒素原子(N)の形態か、窒素イオン(N)の形態でフィルム表面に存在させることができる。
【0025】
また、フィルム第1面の表層における窒素原子量をコントロールするには、コロナ処理又はプラズマ処理での設備や処理条件を変更することが挙げられる。設備面では例えばコロナ処理設備の電源の周波数や放電電極の材質、形状、本数、処理ロールの材質、放電電極とフィルム処理面とのギャップ、窒素雰囲気下での窒素ガス濃度のコントロールが挙げられ、条件面では、フィルム走行速度、雰囲気温度や処理時のロール表面温度等のコントロールが挙げられる。
【0026】
例えばコロナ処理において好ましい設備を例示すると、電源の周波数としては、8KHzから60KHzの範囲が好ましい。放電電極の材質としては、アルミニウム又はステンレスが好ましく、放電電極の形状はナイフエッジ状、バー状、又はワイヤー状であることが好ましい。また、放電電極の本数はフィルム表面を均一処理するために、2本以上であることが好ましい。処理ロールは、コロナ放電を行う場合の対極となるものであるが、少なくとも表面の材質は誘電体である必要がある。誘電体材質としては、シリコーンゴム、ハイパロンゴム(ハイパロンはデュポン社の登録商標;クロロスルホン化ポリエチレン)、EPTゴム等を用いることが好ましく、少なくとも処理ロール表面を1mm厚以上の厚さで被覆することが好ましい。また、放電電極とフィルム処理面のギャップは0.2mm〜5mm程度の範囲内であることが好ましい。
【0027】
また、条件面では,フィルムの走行速度(処理速度)は設備能力の範囲内で任意の速度で処理を行えばよいが、窒素雰囲気下でのコロナ処理時のフィルム表面温度は20〜50℃の範囲内に制御し、かつ、窒素雰囲気下中の酸素濃度を300ppm以下に制御すると、フィルム表面の窒素原子含有量を上記範囲内に制御することができる。処理ロール表面は温調設備により温度制御することが好ましく、30℃から40℃に調整することが好ましい。必要に応じて処理ロールの前または後に調温ロールを配置することもできる。
【0028】
さらに、コロナ処理またはプラズマ処理を行う際の雰囲気の窒素濃度が変動すると、フィルム表面の窒素原子含有量が変動する要因のとなるので、雰囲気窒素濃度が変動しないような手法を採用することがすることが好ましい。コロナ処理は、通常、空気雰囲気下で行われているため、コロナ処理設備は窒素雰囲気下にするための密閉手段を備えていない。そこで、窒素雰囲気下にするためにコロナ処理設備そのものをチャンバー内に入れる必要がある。このとき、窒素でチャンバー内部の空気を置換して窒素雰囲気にして、チャンバー内部をコロナ処理を施しながらフィルムを走行させると、走行フィルムの随伴流として空気が流れ込んでしまって、雰囲気の窒素濃度が変動してしまうのである。
【0029】
この窒素濃度の変動を防ぐには、フィルムとコロナ処理設備を囲い込んだチャンバーにおけるフィルム入口外周とのギャップを0.4mm以下、より好ましくは0.3mm以下とすることが推奨される。また、プラスチックフィルムや布で、このギャップを覆って随伴流をカットすることも好ましい手段である。チャンバーを2層以上の構造にして、外層側で随伴流カットのための窒素を別途供給することも有効な手段である。
【0030】
また、空気の流入によって酸素もコロナ処理の雰囲気に存在することになるが、酸素はフィルムの濡れ張力を必要以上に上げてしまうことがあるので、コロナ処理又はプラズマ処理を行う窒素雰囲気中の酸素濃度は、300ppm以下にコントロールすることが好ましい。より好ましくは250ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。連続的に長尺のフィルムロールを生産する場合においては、ロールの巻き始めから巻き終わりまでの窒素雰囲気中の酸素濃度の変動幅を平均酸素濃度±80ppm以下にすることが好ましい。さらに好ましくは平均酸素濃度±60ppm以下である。
【0031】
上記したようにフィルムの第1面の最表層の窒素原子含有量を特定範囲に設定することで、インクに対する密着性と、耐ブロッキング性との両方を満足するフィルムを得ることができたが、このインクに対する密着性と耐ブロッキング性との両方を満足するフィルムは濡れ張力を目安にすることもでき、本発明では、フィルムの第1面の濡れ張力が45mN/m以上であることが好ましい。フィルム表面の濡れ張力が45mN/m未満であると、様々なタイプのインクに対する密着性が不充分となる。より好ましい濡れ張力の下限は47mN/m、さらに好ましい下限は48mN/mである。また、このフィルム第1面の濡れ張力の上限は特に制限されるものではないが、ラベルカット後の融着、ブロッキングの発生を抑制し、フィルム滑性を確保できるという観点からは58mN/m以下にすることが好ましい。
【0032】
一方、耐ブロッキング性はヒートシール部の剥離強度で評価することもできる。フィルム第1面同士を75℃でヒートシールしたとき、ヒートシール部の剥離強度が5N/15mm巾以下であると、前記したようなフィルムの融着・ブロッキングによる様々なトラブルを防止することができる上に、高速でラベルカットできるようになるため好ましい。より好ましい剥離強度(75℃)の上限は4.5N/15mm幅、さらに好ましい上限は4N/15mm幅である。また、85℃でのヒートシール後の剥離強度の場合は7N/15mm幅以下が好ましい。さらに好ましくは、6N/15mm幅以下、さらに好ましくは5N/15mm幅以下である。なお、これらの値は第2面においても満足していることが好ましい。
【0033】
滑り性の点で、本発明のフィルムはフィルム第2面同士の動摩擦係数μdが0.28以下、フィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdが0.30以下でなければならない。μdが前記範囲を満足すると、飲料用ボトルのラベルとして使用されたときの自動販売機内の滑性が良好なフィルムを提供することができ、例えば自動販売機内部との接触面積が大きく詰りが発生しやすい角型ボトルであっても詰りの発生を防ぐことができる。さらに、ボトルへの収縮装着処理をスチームを使用して行った場合も同様の効果を得ることができる。しかし、この範囲を超えると滑性不足となり、自動販売機で容器が詰まるといったトラブルが発生する。より好ましくはμdの上限はフィルム第2面同士の動摩擦係数μdが0.26以下、フィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdが0.28以下であり、さらに好ましくはμdの上限はフィルム第2面同士の動摩擦係数μdが0.24以下、フィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdが0.26以下である。フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdの下限は滑りすぎとなるのを防止する意味から0.10以上が好ましく、0.12以上がより好ましい。フィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdの好ましい下限は0.12以上、より好ましくは0.14以上である。なお、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdはJIS K 7125に準拠して、23℃、65%RHの環境下で測定した値である。
【0034】
本発明の熱収縮性フィルムは、上述した各特性を満足するものであれば、その組成、製造方法は特に限定されないが、以下、好ましい態様を説明する。
【0035】
本発明の熱収縮性フィルムを構成するポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸、それらのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸の1種以上を用い、多価アルコール成分と重縮合した公知の(共重合)ポリエステルを用いることができる。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。またこれらのエステル誘導体としては、ジアルキルエステル、ジアリールエステル等の誘導体が挙げられる。また脂肪族ジカルボン酸としては、ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等が挙げられる。また、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の多価のカルボン酸を、必要に応じて併用してもよい。
【0036】
多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、1,3−プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等のアルキレングリコール、ビスフェノール化合物またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。また、多価アルコールではないが、ε−カプロラクトンも使用可能である。
【0037】
ポリエステル系熱収縮性フィルムを構成するポリエステル原料は、単独でもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。単独の場合は、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチルテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエチレンテレフタレート以外のホモポリエステルが好ましい。ポリエチレンテレフタレート単独では、熱収縮性が発現しないからである。
【0038】
ただし、フィルムの耐破れ性、強度、耐熱性等を考慮すれば、結晶性のエチレンテレフタレートユニットが主たる構成成分であることが好ましく、具体的には、ポリエステル原料の構成ユニット100モル%中、エチレンテレフタレートユニットが50モル%以上となるように選択することが推奨される。従って、ジカルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分を50モル%以上、多価アルコール成分100モル%中、エチレングリコール成分を50モル%以上、とすることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットは、55モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい。そして、エチレンテレフタレートユニット以外のユニットは、ポリエステル原料の構成ユニット100モル%中、5モル%以上、好ましくは7モル%以上、さらに好ましくは9モル%以上とすることが推奨される。非晶性向上成分を上記程度導入することで、フィルムの溶剤接着性や熱収縮性を確保することが可能となるからである。非晶性向上成分としてはネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましく、含有量は3〜40モル%が好ましく、4〜35モル%がより好ましく、5〜30モル%がさらに好ましい。さらに1,4−ブタンジオールや1,3−プロパンジオール等のTgを下げる成分を好ましくは2〜20モル%、より好ましくは3〜18モル%、さらに好ましくは4〜16モル%含有することが好適な実施様態である。
【0039】
熱収縮特性の点および生産性の点からは、Tgの異なる2種以上のポリエステルをブレンドして使用することが好ましい。ポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエステル(2種以上であってもよい)を混合して使用することが好ましいが、共重合ポリエステル同士の組み合わせであってもよい。また、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチルテレフタレート、ポリエチレンナフタレート同士を組み合わせたり、これらと他の共重合ポリエステルを組み合わせて用いることもできる。最も熱収縮特性的に好ましいのは、ポリエチレンテレフタレートと、ポリブチレンテレフタレート、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとの混合ジオール成分とテレフタル酸とからなる共重合ポリエステルとの3種類のブレンドタイプである。2種以上のポリエステルを併用する場合は、それぞれのポリマーのチップをホッパ内でブレンドすることが、生産効率の点からは好ましい。
【0040】
ポリエステルは常法により溶融重合することによって製造できるが、ジカルボン酸類とグリコール類とを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステル体とグリコールとをエステル交換反応させたのちに重縮合する、いわゆるエステル交換法等が挙げられ、任意の製造法を適用することができる。また、その他の重合方法によって得られるポリエステルであってもよい。ポリエステルの重合度は、固有粘度にして0.3〜1.3dl/gのものが好ましい。
【0041】
ポリエステルには、着色やゲル発生等の不都合を起こさないようにするため、酸化アンチモン、酸化ゲルモニウム、チタン化合物等の重合触媒以外に、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のMg塩、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等のCa塩、酢酸マンガン、塩化マンガン等のMn塩、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等のZn塩、塩化コバルト、酢酸コバルト等のCo塩を、ポリエステルに対して、各々金属イオンとして300ppm以下、リン酸またはリン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル等のリン酸エステル誘導体を燐(P)換算で200ppm以下、添加してもよい。
【0042】
上記重合触媒以外の金属イオンの総量がポリエステルに対し300ppm、またP量が200ppmを超えるとポリマーの着色が顕著になるのみならず、ポリマーの耐熱性や耐加水分解性が著しく低下するため好ましくない。
【0043】
このとき、耐熱性、耐加水分解性等の点で、総P量(P)と総金属イオン量(M)とのモル原子比(P/M)は、0.4〜1.0であることが好ましい。モル原子比(P/M)が0.4未満または1.0を超える場合には、フィルムが着色したり、フィルム中に粗大粒子が混入することがあるため好ましくない。
【0044】
上記金属イオンおよびリン酸及びその誘導体の添加時期は特に限定されないが、一般的には、金属イオン類は原料仕込み時、すなわちエステル交換前またはエステル化前に、リン酸類は重縮合反応前に添加するのが好ましい。
【0045】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、滑剤として無機粒子、有機塩粒子や架橋高分子粒子を添加することができる。無機粒子としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リオチウム等が挙げられる。特に、良好なハンドリング性を得た上に更にヘイズの低いフィルムを得るためには無機粒子としては1次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子が好ましい。有機塩粒子としては、蓚酸カルシウムやカルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。
【0046】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いても良い。
【0047】
なお、フィルムに滑性を付与しようとする場合、上記滑剤粒子等により表面を粗面化し接触面積を減少させる方法があるが、多量に入れすぎると、フィルムの透明性が低下し、商品価値を損なう場合がある。このため、フィルムの第2面における中心面平均粗さを0.03以下に抑えるレベルで、上記滑剤粒子を使用することが好ましい。この範囲内においてはラベル用フィルムの透明性を損なうことなく、滑性を付与することができる。
【0048】
上記滑剤の添加方法としては、フィルム原料として使用するポリエステルの重合工程中で滑剤を分散する方法、または重合後のポリエステルを再度溶融させて添加する方法等が挙げられる。フィルムロール全長に亘って均一に滑剤を分散させるためには、前述のいずれかの方法でポリエステル中に滑剤を分散させたあと、滑剤を分散させたポリマーチップの形状を合わせてホッパー内での原料偏析の現象を抑止することが好ましい。ポリエステルは、重合後に溶融状態で重合装置よりストランド状で取り出され、直ちに水冷された後ストランドカッターでカットされてチップ化されるが、このチップは底面を楕円形とする円筒状の形状となる。原料偏析を抑えるためには、楕円状底面の長径、短径及び円筒状の高さのそれぞれの平均サイズが、最も使用比率の高い原料種のチップサイズ±20%以内の範囲である異種の原料チップを用いることが好ましく、前記サイズが±15%以内の範囲内とすることがより好ましい。
【0049】
フィルムを製造するための原料組成物中には、上記ポリエステルと滑剤の他に、必要に応じて各種の公知の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、帯電防止剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;着色剤(染料等)が挙げられる。
上記原料組成物は、公知の方法(例えば、押し出し法、カレンダー法)によりフィルム状に成形される。フィルムの形状は、例えば平面状またはチューブ状であり、特に限定されない。
【0050】
未延伸フィルムに熱収縮性を付与するために、延伸工程を行う。延伸方法としては、例えば、ロール延伸法、長間隙延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等の公知の方法が採用できる。これらの方法のいずれにおいても、逐次2軸延伸、同時2軸延伸、1軸延伸、およびこれらの組み合わせで延伸を行えばよい。上記2軸延伸では、縦横方向の延伸は同時に行われてもよく、どちらか一方を先に行ってもよい。延伸倍率は1.0倍から7.0倍の範囲が好ましく、所定の一方向(最大収縮方向となる)の倍率を3.5倍以上とすることが好ましい。
【0051】
延伸工程においては、フィルムを構成する重合体が有するガラス転移温度(Tg)以上でかつ例えばTg+80℃以下の温度で予熱を行うことが好ましい。延伸時のヒートセットでは、例えば、延伸を行った後に、30〜150℃の加熱ゾーンを約1〜30秒通すことが推奨される。また、フィルムの延伸後、ヒートセットを行う前もしくは行った後に、所定の度合で延伸を行ってもよい。さらに上記延伸後、伸張あるいは緊張状態に保ってフィルムにストレスをかけながら冷却する工程、あるいは、この処理に引き続き、緊張状態を解除した後の冷却工程を付加してもよい。
【0052】
熱収縮性ポリエステル系フィルムからラベルを製造する場合には、1,3−ジオキソランでチューブ化加工を行うことが好ましい。充分な接着力が付与されるからである。チューブ化に際しては、1,3−ジオキソランをフィルムの片面に塗布し、塗布面にフィルムの他方の面を圧着すればよい。接着性が不足である場合、ラベルの熱収縮装着時、または、飲料ボトル取扱い時にラベル接着部の剥離が発生するおそれがある。なお、本発明において溶剤接着可能であるとは、後述の実施例の評価方法において溶剤接着強度が3N/15mm以上であることをさす。
【0053】
前記した動摩擦係数μdを有するフィルムを得るには、フィルムの第2面側に易滑層が形成されている構成が好ましい。易滑層の形成方法としては、フィルム表面に均一に形成できればよいが、フィルム製膜工程中の易滑層用塗布液の塗布(インラインコート)、フィルム製膜後の易滑層用塗布液の塗布(オフラインコート)の方法が簡便であるが、特に、コスト面、また、塗布後の延伸時に熱処理されて塗布層とフィルムの密着性が良好となる効果が期待されることから、インラインコートでの製造が好ましい。塗布方法としては、リバースロール方式、エアナイフ方式、ファウンテン方式等、公知の方法がいずれも採用可能である。また、コーティングに用いる塗布液中には、滑剤を含有させ、また、フィルムの溶剤接着性を高めるためにバインダー樹脂を含有させることが望ましい。
【0054】
塗布液中にバインダー樹脂を含有させることは、印刷適性悪化防止にも効果を持つ。透明フィルムラベルでは、通常、印刷は容器と接する面に施されることが多く、特に飲料容器の滑り性向上を目的としたものの場合、易滑層面がラベルが容器と接する面と反対の面になるように使用され、印刷は易滑層と逆の面に施されることが多い。よって、易滑層とは逆の面であるフィルム第1面の印刷適性が重要となのである。この、フィルム第1面の印刷性を阻害する原因となるのが、易滑層の転写である。易滑層を有するフィルムをロールにして巻き取った際、易滑層が逆面に一部あるいは全部移行することによって起きるのである。バインダー樹脂はこの転写を防止する効果を持つ。
【0055】
滑剤として粒子状の滑剤成分を使用すると、フィルムの透明性を阻害することがあり、また、粒子が凝集することもあるので注意すべきである。こうした問題を生じることのない好ましい滑剤としては、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、エチレン−アクリル系ワックス、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、硬化ヒマシ油、ステアリン酸ステアリル、シロキサン、高級アルコール系高分子、ステアリルアルコール、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸鉛 シリコーン(ジメチルシロキサン)系の低分子量物(オイル)又はシリコーン(ジメチルシロキサン)系の樹脂などが挙げられ、これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を併用しても構わない。これらの中でもシリコーン系化合物、シリコーン樹脂、特に、シリコーン成分を含む共重合樹脂が推奨される。フィルム表面の動摩擦係数を低減し、かつ、熱水処理前後の同摩擦係数の変化が少ない上、フィルムの溶剤接着性を阻害し難く、易滑層の転写を防ぐ効果が大きいためである。
【0056】
ここでシリコーン系とは、オルガノシロキサン類をいい、その性状は油状、ゴム状、樹脂状のものがあり、それぞれシリコーン油、シリコーンゴム、シリコーン樹脂と呼ばれる。これらは、何れも撥水作用、潤滑作用、離型作用などを有しているので、フィルム最表層部に含有させることで表面の摩擦を低下させるのに有効である。また飲料容器ラベルとして使用する際には、蒸気や熱風を利用して熱収縮させて装着することが多く、耐水性の低い易滑層では、蒸気を用いた熱収縮処理で滑性低下を起こし易いが、シリコーン本来の撥水効果により、蒸気処理後も良好な滑り性を維持できるのである。
【0057】
シリコーン系の中でも特に好ましいのはシリコーン成分を含む有共重合樹脂あり、例えば、シリコーン・アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ポリエステル系フィルムの表面に易滑層として形成した後ロール状に巻き取ったときに、接触するフィルム裏面への転写を起こり難くする効果が大きい。また、飲料ラベルとして使用する際にはフィルム表面に印刷加工が施されるが、印刷性を阻害することが少ない。
【0058】
シリコーン成分の含有量は、易滑層中に占める存在量として10〜80重量%が好ましく、より好ましくは20〜70%である。含有量が10重量%未満では滑り性の改善効果が小さく、80重量%を超えると、ロール状に巻いたとき裏面に易滑層成分が転写しやすくなる。
【0059】
さらに、易滑層成分中にはバインダーの働きをもつ樹脂成分を含むことが推奨される。
樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。シリコーン成分含有共重合体のバインダーとして用いる際には、共重合成分と類似の成分を用いるとバインダーとしての効果が大きい。また、本発明におけるバインダーとして使用する樹脂は耐水性が必要であるため、本質的に水不溶性である必要がある。
【0060】
上記滑剤およびバインダー樹脂成分の何れについても、水溶性または水分散性のものを使用することは、安全性や環境対応という観点からも好ましい。
【0061】
塗布液の量は、延伸後のフィルム上に存在する量としては0.002〜0.5g/mが好ましく、より好ましくは0.005〜0.4g/mである。0.002g/m未満では、滑り性が小さくなり、0.5g/mを超えると、フィルムの透明性の低下が発生する他、溶剤接着性の低下が起きたり、加工時に摩耗屑が発生しやすくなり、生産性の低下に繋がることがあるため、好ましくない。
【0062】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、インクに対する密着性が優れているので、インク層をフィルム第1面側に設けることができる。特に、アルカリ脱離性を有するインクに対しても優れた密着性を発揮する。このような、アルカリ脱離性を有するタイプのインクとは、例えば熱収縮性フィルム上にインク層を積層した試料1gを1cm角に切断して100ccのNaOH3%水溶液(90℃)中で30分撹拌した後、水洗乾燥したときのインク除去率が90質量%以上であるインクを意味する。除去されるのは、インク層がアルカリ性の温湯中で主として膨潤または溶解されることによる。実用的には弱アルカリ性温湯による洗浄は通常20〜30分前後行われ、その間にインク層が脱落するものが好ましい。
【0063】
インク層にアルカリ脱離性を付与する方法としては特に制約はないが、例えばアルカリ性温湯中で可溶なまたは膨潤性の化合物を、通常使用されるインク、例えば顔料または染料からなる着色体、バインダー、揮発性有機溶剤を構成成分とするインクに添加する方法が挙げられる。アルカリ性温湯中で可溶または膨潤性の化合物としては、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機塩、アスコルビン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の有機酸またはその塩、ポリエチレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド等の高分子ポリエーテル、ポリ(メタ)アクリル酸またはその金属塩あるいはそれらの共重合体(例えばスチレンと(メタ)アクリル酸等のアクリル系化合物等との共重合体)等が挙げられる。また、上記化合物としては常温で液体のものも挙げられ、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールのモノエチル、モノプロピル、モノブチルエーテルあるいはモノメチル、モノエチル、モノプロピル、モノブチルエーテルあるいはモノメチル、モノエチルエステル等、その他、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。中でもインク層中に残存することが必要であることから高沸点であることが好ましく、具体的には沸点が50℃以上のものが好ましく、さらにアルカリ性温湯への可溶性から多価アルコールのモノアルキルエーテルが特に好ましい。
【0064】
なお、本発明の熱収縮性フィルムの厚みは特に限定するものではないが、例えばラベル用熱収縮性フィルムとしては、10〜200μmが好ましく、20〜100μmがさらに好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施する場合は、本発明に含まれる。なお、実施例および比較例で得られたフィルムの物性の測定方法は以下の通りである。
【0066】
(1)最大収縮方向の熱収縮率
フィルムを長手方向およびその直交方向に沿うように10cm×10cmの正方形に裁断し、95℃±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬した後、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求めた。最も収縮率の大きい方向を最大収縮方向とした。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)
【0067】
(2)フィルム表面の窒素原子含有量(原子%)
X線光電子分光法測定装置(ESCAスペクトロメーター「ES―200型」;国際電気株式会社製))を用い、試料フィルム第1面の全元素量に対する窒素原子量の比率を定量して求めた。
【0068】
(3)フィルム表面の濡れ張力
フィルム第1面の濡れ張力をJIS K 6768の方法で測定した。
【0069】
(4)インク密着性
大日精化工業製インク「ダイエコロSRF915紅」と「SRF希釈溶剤No.2」を100:10の重量比で混合し、マイヤーバー#5を使用してフィルム第1面に塗布し、その後、直ちにドライヤーの冷風で15秒間乾燥した。得られたサンプルにセロハンテープを貼りつけた後、テープを剥離して剥離後のインクピンホールの発生状況を以下に従い評価した。
○:インクピンホールの発生なし
△:インクピンホール発生するが全て1mm未満のサイズ
×:インクピンホールが発生して1mm以上のサイズのものあり
【0070】
(5)インクのアルカリ脱離性
(4)の方法にてフィルム第1面にインクを塗布した後、2cm×20cmのサイズにサンプルを切り出し、温度を85℃±2℃の範囲内に制御した1.5%NaOH水溶液中に20分間浸漬後した。サンプルを取り出して直ちに25℃±2℃の水の中に20秒間浸漬し、取り出した後のインク層の脱離状態を目視により下記基準で判定した。
○:インク層が全て脱離
△:インク層が部分的に脱離、または取り出し後に綿棒でインク層をこすると容易に剥離可能
×:インク層が脱離せず、かつ取り出し後に綿棒でインク層をこすっても剥離不可能
【0071】
(6)ラベルカット後の開口性
熱収縮フィルムをスリットし、続いて、センターシールマシンを用いて易滑層コート面が外側になるように1,3−ジオキソランで溶剤接着してチューブを作り、2つ折状態で巻き取った。次いで、25±1℃、RH65±2%にコントロールした室内にチューブを24時間放置した。その後、同じ室内雰囲気条件下で、裁断機でチューブを連続的に裁断して(裁断ラベル数200)、熱収縮フィルムラベルを作成した。ラベルを手で全数開口して、裁断部の開口性を下記基準(3点満点)により判定した。
3:抵抗なく開口できる
2:軽い抵抗がある場合があるが開口可能
1:裁断部が開口不可能な部分あり
【0072】
(7)ヒートシール部の剥離強度
ヒートシーラーにて、シールバーの表面温度を評価温度±0.5℃の範囲とし、圧力40N/cm、時間300秒にてフィルム面同士をヒートシールした。ヒートシール部分から15mm幅のサンプルを切り出し、引張試験機で剥離速度200mm/分で剥離強度を測定した。雰囲気温度は23℃とした。
【0073】
(8)摩擦係数
フィルム第2面同士の動摩擦係数μdをJIS K−7125に準拠し、23℃,65%RH環境下で測定した。
また、フィルムに対して最大収縮方向に10%短い金属枠にフィルムを固定し、80℃の温水中で収縮させることで、10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後に上記同様の条件で測定した。
【0074】
(9)溶剤接着性
フィルムの一方の面に1,3−ジオキソランを塗布し、この塗布面に他方の面を圧着し、チューブ状に接合加工した。チューブを加工時の流れ方向と直行方向に15mmは場に切断してサンプルとし、JIS K 6854に準じ、接合部分の上記方向についてのT型剥離試験を引張速度200mm/分の条件で行った。
【0075】
(10)表面処理時のフィルム面積当りエネルギー換算値
表面処理のフィルム面積当りエネルギー換算値(kW/m/min)
=高周波電源装置電流値(A)×電圧(kV)÷電極幅(m)÷フィルム走行速度(m/min)
として求めた。
【0076】
フィルム1
1)ポリエステル系樹脂及び未延伸フィルム
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.75dl/g)40重量%、テレフタル酸100モル%とネオペンチルグリコール30モル%とエチレングリコール70モル%とからなるポリエステル(IV=0.72dl/g)50重量%、およびポリブチレンテレフタレート(IV=1.20dl/g)10重量%を混合したポリエステル組成物を混合し、280℃で単軸式押出し機により溶融押出しし、急冷して、厚さ180μmの未延伸フィルムを得た。
【0077】
(塗布液の調合)
シリコーン・アクリル酸エステル系共重合体の水分散液(シャリーヌ NS−626 日信化学工業製)の固形分を塗布液中の全固形分中70質量%、アクリル酸エステル系共重合体の水分散液(ビニブラン 2585 日信化学工業製)の固形分を固形分中20質量%、アセチレングリコール誘導体(サーフィノール486 エアープロダクツジャパン製)の固形分を固形分中10質量%含み、イソプロピルアルコール20質量%を含む水系液100kgを調合しタンク内に投入した。
【0078】
上記未延伸フィルムに塗布液をファウンテンダイコート・スムージングバー方式でコーティングし、続いて、テンターで、コーティングフィルムを100℃で10秒間予熱後、横方向に80℃で4.0倍延伸し、80℃で10秒間熱処理を行った。フィルムの厚さ45μm、易滑層のコート量は0.01g/mであった。
【0079】
続いてこのフィルムの易滑層形成面と逆面側に対し、以下の条件で窒素雰囲気下でのコロナ処理を施した。コロナ処理装置の処理電極と処理部分を2重のチャンバーで囲い込み、窒素を連続的に供給して窒素雰囲気に置換した。コロナ処理電極はアルミニウム製のバー型電極、処理ロールは表面材質がシリコーンゴム製のものを使用した。処理電極とフィルム間のギャップは0.5mm、フィルムとチャンバー間のギャップは0.3mmとし、ギャップの部分は綿製の布(別珍)で被覆した。高周波電源装置は春日電機社の装置を使用し、発信周波数は45±3KHz、処理雰囲気温度と処理ロール表面温度は共に40℃とし、その他の条件は表1としてコロナ処理を行った。処理時のフィルム表面温度は40℃であり、窒素雰囲気中の酸素濃度は250ppmであった。得られたフィルムをフィルム1とし、フィルムの物性値を表1に示す。
【0080】
フィルム2
塗布液について、シリコーン・アクリル酸エステル系共重合体の水分散液(シャリーヌ FE−230 日信化学工業製)の固形分を塗布液中の全固形分中70質量%、共重合ポリエステル樹脂の水分散液(AGN709 東洋紡製)の固形分を固形分中20質量%、アセチレングリコール誘導体(サーフィノール486 エアープロダクツジャパン製)の固形分を固形分中10質量%含み、イソプロピルアルコール20質量%を含む水系液を塗布液とした以外は、フィルム1と同じ方法で熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムをフィルム2としフィルム物性値を表1に示す。
【0081】
フィルム3
ジメチルシリコーン樹脂(SE4005 日新化学研究所製)の固形分を塗布液中の全固形分中70質量%、共重合ポリエステル樹脂の水分散液(AGN702 東洋紡製)の固形分を固形分中20質量%、アセチレングリコール誘導体(サーフィノール486 信越化学工業製)の固形分を固形分中10質量%含み、イソプロパノール20質量%を含む水系液を塗布液とした以外は、フィルム1と同じ方法で熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムをフィルム3としフィルム物性値を表1に示す。
【0082】
フィルム4
ポリエステル樹脂水分散液(TIE51 竹本油脂製)の固形分を固形分中70重量%、ポリエチレンワックスの水系エマルション(HYTEC E−4BS 東邦化学工業製)を固形分で25質量%、帯電防止剤(商品名「TB702」;竹本油脂製)を固形分で5質量%含む、IPA−水溶液を塗布液とした。その他はフィルム1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。得られたフィルムをフィルム4としフィルム物性値を表1に示す。
【0083】
フィルム5
塗布液について、スルホン酸塩水溶液(TB214 松本油脂製)、イソプロパノール20質量%を含む水系液を塗布液としコート量0.005g/mとした以外は、フィルム1と同じ方法で熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムをフィルム5としフィルム物性値を表1に示す。
【0084】
フィルム6
フィルム1において塗布液を塗布しない以外は同様の方法にて熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムをフィルム6としフィルム物性値を表1に示す。
【0085】
フィルム7
フィルム1において、コロナ処理を施さない以外はフィルム1と同様の方法で厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。得られたフィルムをフィルム7としフィルムの物性値を表1に示す。
【0086】
フィルム8
フィルム1と同様の方法にて未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを100℃で10秒間予熱した後、テンターで横方向に80℃で4.0倍延伸し、80℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを製膜した。続いてこのフィルムを、空気雰囲気下のコロナ処理装置に導き、表1の条件でコロナ処理を施した。このときの処理設備はフィルム1と同じものを使用した。得られたフィルムをフィルム8としフィルム物性値を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
フィルム1〜6について高さ180mm、円周220mmのコート層が外面となるようにして筒状ラベルを作成した。
上記ラベルをFuji Astec Inc製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間15秒、第1ゾーン温度70℃、第2ゾーン温度75℃、第3ゾーン温度82℃で、500mlのPETボトル飲料に熱収縮、装着した。自動販売機に投入したとき、フィルム1〜3では400個のうち、詰りの発生はなく、フィルム4で400個中5件の詰り、フィルム5、6で400個中8件の詰りが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の熱収縮性フィルムは、様々なタイプのインクに対するインク密着性に優れ、かつアルカリ水溶液で脱離するタイプのインクに対して優れた脱離性を有している。また、耐ブロッキング性にも優れているので、フィルムをラベル状とする際のラベルカット後の開口不良等のトラブルの発生も抑制できるため、加工適性に優れ工業生産上において有用である。また、滑り性に優れており、飲料用ラベルに使用した際、自動販売機内部での詰りを防止できる。従って、ボトル飲料等の容器被覆用ラベルとして非常に有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを、10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が50%以上であり、フィルムの両面をそれぞれ第1面、第2面としたときにフィルムの第1面の最表層の窒素原子含有量が0.2〜5.0原子%であり、かつフィルムの第2面同士の動摩擦係数μdが0.28以下であり、かつフィルムを80℃の温水中で最大収縮方向に10%収縮させつつ20秒間浸漬してから引き上げ、23℃・相対湿度65%雰囲気下で24時間自然乾燥させた後の、フィルムの第2面同士の動摩擦係数μdが0.30以下であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
フィルムの第1面側の濡れ張力が40mN/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
フィルムの第1面側同士を75℃でヒートシールした後の剥離強度が5N/15mm巾以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルムの第1面と第2面が1,3−ジオキソランで溶剤接着可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
フィルムの第2面側に、最外層としてシリコーン含有成分を含む易滑層が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
前記易滑層がコート法によって設けられたものであることを特徴とする請求項5に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【公開番号】特開2008−31345(P2008−31345A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207988(P2006−207988)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】