説明

熱収縮性樹脂チューブおよび画像形成装置用回転体

【課題】製造時の擦り傷がほとんどない熱収縮性樹脂チューブ、およびその熱収縮性樹脂チューブを用いた画像形成装置用回転体を提供する。
【解決手段】この熱収縮性樹脂チューブは、画像形成装置における帯電ローラや現像ローラ、転写ローラなどの作像部用回転体や支持用回転体、排紙用回転体などに樹脂層を形成するための熱収縮性樹脂チューブであって、その熱収縮性樹脂チューブ表面の線状傷の最大深さが0.8μm以下であり、一実施態様では、その線状傷の長さが1mm以下であり、樹脂チューブの厚みが100μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置における作像部用回転体や支持用回転体、排紙用回転体等に樹脂層を形成するための熱収縮性樹脂チューブ、およびその樹脂チューブを用いた画像形成装置用回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、その静電プロセスにおいて、現像ローラや帯電ローラ、転写ローラなど各種の作像部用回転体が用いられる。その作像部用回転体には、耐久性や耐摩耗性、トナー離型性などを確保したりするために熱収縮性樹脂チューブにより樹脂層を形成したものがある。特許文献1は、熱収縮性導電性芳香族ポリエステルチューブにより帯電ローラ、転写ローラまたは現像ローラを被覆することを記載している。
【0003】
このような樹脂チューブには、少なくとも径方向にチューブを延伸することで、熱収縮性が付与される。チューブを延伸する方法には、例えば、延伸管内に未延伸のチューブを連続的に送り込み、そのチューブに内圧をかけて膨張させ、膨張したチューブを延伸管内壁に接触させてその膨張径を規制する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−211542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の熱収縮性樹脂チューブは、その製造時に延伸管や案内板等の固定部材に擦れて生じた擦り傷や擦れ跡を内外面に有する。擦れ跡を含む擦り傷は、チューブの割れや裂けの原因となる。特にチューブの肉厚が薄い場合、その擦り傷により破れ易くなり製造が難しくなる。さらに擦り傷は熱収縮や焼成により目立たなくなったとしても、被覆時や実使用時に割れや裂けを生じさせるおそれがある。その割れや裂けは作像用回転体の使用時において、それによって形成される作像画像の不良の要因となる。また作像用回転体を含む画像形成装置における各種回転体の製造上の支障となる。
本発明は、このような問題を解決するために、割れや裂けの要因となる擦り傷を抑えた熱収縮性樹脂チューブ、およびその樹脂チューブを用いた画像形成装置用回転体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の提供する熱収縮性樹脂チューブは、画像形成装置用回転体に樹脂層を形成するための熱収縮性樹脂チューブであって、樹脂チューブ表面の線状傷の最大深さが0.8μm以下である。
【0007】
この熱収縮性樹脂チューブは線状傷の最大深さが0.8μm以下であり、製造時の擦り傷は実質的にない。このため、製造時や作像部用回転体の被覆時、実使用時にも割れや裂けが生じ難い。したがって、この樹脂チューブにより作像部用回転体に樹脂層を形成すれば、その作像部用回転体を用いた画像形成装置では良好な画像が安定して得られる。
【0008】
線状傷の深さは、樹脂チューブの外表面を構成する円周線を基準とした深さで表すことができる。線状傷の最大深さは、一または複数の線状傷が樹脂チューブ表面に形成されている場合に、それら線状傷の深さのうち最大のものをいう。最大深さを基準とすることで、割れや裂けの要因となる傷を良好に評価することができる。
【0009】
この樹脂チューブにおいて、線状傷の最大長さは1mm以下であることが好ましい。チューブ表面が製造時に固定部材と擦れた場合、少なくともいずれかの擦り傷の長さは1mmを超える。このような擦り傷を有さないことで、割れや裂けの発生が抑えられる。
【0010】
熱収縮性樹脂チューブの厚み(平均厚み)は例えば100μm以下であり、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下である。このような薄肉のチューブの場合でも、擦り傷が原因となった破れ等がない。
【0011】
画像形成装置用回転体は、例えば現像、帯電、または転写のためのローラまたはベルトである。転写ローラまたは転写ベルトは二次転写のためのものを含んでもよい。回転体はクリーニングローラであってもよい。
【0012】
本発明の他の観点によれば、上述の熱収縮性樹脂チューブにより形成された樹脂層を有する画像形成装置用回転体が提供される。この回転体では、割れや裂けの要因となる擦り傷を抑えた樹脂チューブが用いられるので、その製造が簡便になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱収縮性樹脂チューブに製造時の擦り傷がほとんどなく、製造時や回転体の被覆時、回転体の実使用時にも割れや裂けの発生が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】画像形成装置の作像ユニットの構成例を簡略的に示す図である。
【図2】熱収縮性樹脂チューブの線状傷の深さについて説明する図である。
【図3】2対のピンチローラを用いて延伸した熱収縮性樹脂チューブの表面状態を示す図である。
【図4】従来の熱収縮性樹脂チューブの表面状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱収縮性樹脂チューブは、画像形成装置の作像部で用いられる作像部用回転体に樹脂層を形成するための熱収縮性樹脂チューブである。作像部用回転体は、例えば現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ、またはこれらのエンドレスベルトタイプである。
【0016】
図1は画像形成装置における作像ユニットの構成例を簡略的に示す図である。この例における作像ユニット101は、タンデム型カラー画像形成装置の作像ユニットの一つである。タンデム型カラー画像形成装置は、CMYK各色用の作像ユニットを作像部に有する。この作像部において、各色の作像ユニット101は、当該色のトナー像を形成し、そのトナー像を中間転写ベルト102上に転写する。中間転写ベルト102上で各色のトナー像が順次重ね合わされ、その中間転写ベルト102から、用紙や合成樹脂シートのような被転写材に転写される。
【0017】
作像ユニット101は、感光体ドラム103上に静電潜像およびトナー像を形成し、そのトナー像を中間転写ベルト102に転写する。感光体ドラム103は矢印104方向に回転可能であり、感光体ドラム103の周囲には、帯電ローラ105、現像ユニット106、転写ローラ107、およびクリーニングブレード108がこの順に配置されている。
【0018】
作像ユニット101において、帯電ローラ105は感光体ドラム103の表面を一様に帯電させる。一様に帯電した感光体ドラム103の表面には、濃度に応じて変調されたレーザ光が照射され、静電潜像が形成される。現像ユニット106は、現像ローラ109を有し、その現像ローラ109によってトナーを感光体ドラム103表面の静電潜像に付着させ、感光体ドラム103表面上にトナー像を形成する。転写ローラ107は、中間転写ベルト102の感光体ドラム103と近接する部分の内側に配置されており、感光体ドラム103表面上に形成されたトナー像を中間転写ベルト102に転写する。クリーニングブレード108は、トナー像の転写後も感光体ドラム103表面上に残留したトナーを除去する。本発明の熱収縮性樹脂チューブは、作像部における上述のような中間転写ベルト102や帯電ローラ105、現像ローラ109に樹脂層を形成するのに例えば利用することができる。
【0019】
熱収縮性樹脂チューブの材料には、フッ素樹脂やアイオノマー樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、その他の各種樹脂を用いることができる。フッ素樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を用いる。PFAでは押出成形によって、連続的に長尺なチューブを安定して得易い。その他、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の種々のフッ素樹脂を1種あるいは複数種の組み合わせ等により用いることができる。さらに複数層の多重押出であってもよい。樹脂にはカーボン等を配合することで導電性を付与することもできる。
【0020】
導電性を付与するには、電子導電性フィラーや、イオン導電性有機リン塩、第4級アンモニウム塩などのイオン導電剤が用いられている。電子導電性フィラーとしては、ケイ素等の金属粉や、カーボン、カーボンナノチューブ、黒鉛、無機フィラーを用いることができる。無機フィラーには、炭化ケイ素、ボロンナイトライド、アルミナ、窒化アルミニウム、チタン酸カリウム、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0021】
樹脂チューブには、押出成形されたチューブを膨張させて少なくとも径方向に延伸することで熱収縮性が付与される。この熱収縮性チューブで作像部用回転体(の基材)の外周面を被覆した状態で加熱して、樹脂チューブを外周面に融着させる。これによって作像部用回転体に樹脂層を形成する。延伸倍率は、所望の熱収縮率に応じて適宜設定することができる。例えば軸方向および径方向とも1.00〜2.0倍であり、好ましくは1.02倍〜1.5倍である。
【0022】
樹脂チューブの熱収縮率は、試料を恒温槽中(乾燥雰囲気中)に30分間放置して測定したとき、通常5〜50%、好ましくは10〜30%である。温度は例えばポリオレフィン系樹脂であれば90℃であり、使用する樹脂によって異なる。測定試料としては、例えば樹脂チューブを軸方向と円周方向に沿って10cm四方の大きさに切り取ったものを用いることができる。10cm四方の大きさを確保できない場合、軸方向は10cmの長さでチューブを切断したものを用い、径方向は折径の変化で測るようにしてもよい。
【0023】
樹脂チューブの厚み(平均厚み)は例えば100μm以下であり、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは5μm以上20μm以下である。樹脂チューブの長さは、基材の長さに応じて適宜設定することができる。ローラ形状の場合、樹脂チューブの収縮後の長さは、軸受け部が露出する程度の長さとすることが好ましい。
【0024】
樹脂チューブの内径は、被覆対象の外径に対して、通常0.5〜30%、好ましくは1〜10%大きくなるように調整する。被覆対象の外径に対する樹脂チューブの内径の割合が小さすぎると、樹脂チューブで当該対象を円滑に被覆するのが難しくなる。逆にその割合が大きすぎると、被覆作業性は比較的良好となるものの、被覆対象に対する融着性が低下したり、熱収縮と融着後の被覆層に凹凸やシワなどの乱れが発生し易くなったりする。また大きすぎると、導電性樹脂の場合、収縮のバラツキにより抵抗値にバラツキが生じ易くなる。
【0025】
本発明の熱収縮性樹脂チューブは、上述のように転写ベルトやその他の作像部用回転体に用いることができる。転写ベルトには、例えば熱硬化型ポリイミドチューブの外周面に熱収縮性PFAチューブを熱融着させた2層構造のものを用いることができる。接着層を介した3層構造としてもよく、さらに耐磨耗性や電気抵抗の制御を目的として最外層にもう1層設けてもよい。
【0026】
熱硬化型ポリイミドは、ポリイミド前駆体(「ポリアミド酸」または「ポリアミック酸」ともいう)ワニスを円柱状金型または円筒状金型の外面に塗布し、乾燥後、加熱して硬化させることにより得ることができる。ポリイミド前駆体ワニスを円筒状金型の内面に塗布して、チューブを形成してもよい。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、金型の外面にポリイミド前駆体ワニスを塗布した後、金型の外側に金型の外径よりも大きな内径を有するダイスを通過させて、所望の膜厚の被膜を形成する方法が挙げられる。
【0027】
ポリイミド前駆体ワニスを乾燥後、ポリイミド前駆体チューブを金型表面に付着した状態で加熱硬化するか、あるいは管状物としての構造を保持し得る強度となった時点で、金型からポリイミド前駆体チューブを取り外し、加熱硬化する。ポリイミド前駆体は、最高温度として350℃から450℃まで加熱すると、ポリアミド酸が脱水閉環してポリイミド化する。
【0028】
熱硬化型ポリイミドとしては、耐熱性や機械的強度などの観点から縮合型の全芳香族ポリイミドが好ましい。熱硬化型ポリイミドチューブとしては、例えば、ピロメリット酸二無水化物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物などの酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノベンズアニリドなどのジアミンとを有機溶媒中で重合反応させてポリイミド前駆体を合成し、このポリイミド前駆体の有機溶媒溶液(ワニス)を用いてチューブの形状に賦形した後、加熱して脱水閉環したものを挙げることができる。このようなポリイミドワニスとしては、独自に合成したものの他、市販品を用いることができる。
【0029】
熱硬化型ポリイミドチューブの厚み、外径、長さなどは、用途に応じて適宜選択することができる。熱硬化型チューブの厚みは、通常30〜150μm、好ましくは50〜80μmとし、その外径を、通常15〜80mm、好ましくは15〜40mmとする。熱硬化型ポリイミドチューブの長さは、被転写材の大きさに応じて適宜設定することができる。
【0030】
熱硬化型ポリイミドチューブには、必要に応じて無機フィラーや、カーボン、カーボンナノチューブ(CNT)、黒鉛等の導電性フィラーや金属フィラーを含有することができる無機フィラーとしては、例えばシリカ、アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、チタンカーバイド、タングステンカーバイド、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、タルクが挙げられる。これらの中でも、高熱伝導率を有する点で、アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、及び窒化ホウ素が好ましい。耐熱性樹脂チューブに無機フィラーを含有させる場合、通常50容量%以下、多くの場合40容量%以下の割合で使用される。その下限値は、多くの場合5容量%である。
【0031】
PFAとしては、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製350−J、451HP−J、950HP−Plus、951HP−PlusなどのHPシリーズ、PF−059などの各種市販品を使用することができる。結晶化温度は例えばデュポン社製950HP−plusであれば、270℃であり、この温度に達するとPFA分子は半溶融状態となり、フッ素樹脂が配合されたプライマと接着する。また、このチューブは押出品であり押出により軸方向に分子の配向が強く残ることから、使用環境によっては配向方向に沿って亀裂が入る可能性がある。この場合、再度融点以上に加熱(再焼成)することにより、配向状態を緩和することができる。または、最初から融点以上に加熱し、プライマとの接着と、配向の緩和を同時に行うことも選択できる。このPFAチューブの融着によって熱硬化型ポリイミドチューブに樹脂層が形成される。
【0032】
チューブの接着方法としては、たとえばPFAチューブを被せたゴムローラを300℃の恒温槽に入れ収縮と接着を行う方法や、300℃のホットプレートに加圧しながら回転させ接着を行う方法がある。なお、恒温槽やホットプレートの温度は300℃に限らず、結晶化温度以上、融点以上等、積層する材質やプライマまたは使用目的にあわせて自由に選択すればよい。また、これらの接着を行う前にたとえば250℃の恒温槽に30分間入れ予備収縮させてもよい。各層の接着には、それぞれ適した接着剤や、エッチング等の物理的接着手法及びそれらの組み合わせた手法を取ることが出来る。また電子線照射により、接着或いは接着力を強化することも出来る。
【0033】
さらにフッ素樹脂チューブは、電子線照射によって架橋密度を挙げることにより耐熱性や耐磨耗性の改質を行っても良い。電子線照射は未膨張品でも膨張品であってもよく、また予備収縮後や接着後に行っても良い。
【0034】
本発明の熱収縮性樹脂チューブを現像ローラや帯電ローラに用いる場合、そのローラは、基材、ゴム層、熱収縮性樹脂チューブにより形成される樹脂層、および表層、によって構成することができる。ゴム層および表層は必要に応じて選択可能である。基材には、鉄、アルミニウム等の金属材料、樹脂、紙管を用いることができ、その直径は例えば4〜10mmである。ゴム層は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴムでソリッドタイプ、発泡タイプのいずれから選択されたものであってもよい。熱収縮性樹脂チューブは、収縮前の内径と被覆材の外径との差を小さくしておくと、収縮による肉厚変化や、電気抵抗のバラツキが少なくすることができる。例えば被覆材の外径が16mmであれば、樹脂チューブの内径は17mmとする(半径でのクリアランスを0.01〜1.0mmとする)。表層にはウレタン、ウレタン変性シリコーン、シリコーン、エポキシ樹脂等を用いることができ、その厚みは例えば5μm〜20μmである。耐磨耗性や電気抵抗の制御を目的としてカーボン、イオン導電性の充填材を添加可能である。さらに帯電性の付与を目的として、充填剤を配合することができる。充填剤としてはアクリル、ナイロン等の樹脂、木綿やセルロース等で、塊状、球状を問わず目的に合わせて配合することができる。基材と熱収縮性チューブの接着にはそれぞれに適したものを用いることができる。たとえばフッ素であればフッ素系樹脂とPAI、PES等の配合物、ポリオレフィンであればポリアミドであり、溶液や水に分散させたものを塗布してもよい。
【0035】
このように作像部用回転体の熱収縮性樹脂チューブで樹脂層を形成する場合に、樹脂チューブ表面の傷が要因となって樹脂チューブに割れや裂けが発生することがある。本発明の熱収縮性樹脂チューブは、これを裂けるために、チューブ表面の線状傷の深さが大きくとも0.8μmとなっている。樹脂チューブ表面に付いた線状傷の最大深さが0.8μm以下であれば、その傷によるチューブの割れや裂けの発生を抑制することができる。その割れや裂けの発生を熱収縮性樹脂チューブ全体にわたって十分に抑えるには、線状傷を全くなくすか、線状傷のいずれについてもその深さを0.8μm以下にとどめる。
【0036】
線状傷は、樹脂チューブの軸方向に対して略平行かまたは最大で例えば20°以下の角度で傾くものである。この傾きは線状傷を直線近似することで定めてもよい。線状傷の長さは少なくとも製造時点において1mm以下であることが好ましい。これらの測定には光学顕微鏡を用いることができる。チューブの割れや裂けの要因となる線状傷として特に対象となるのは、樹脂チューブの膨張前後で外径を規制する規制部材やその他の固定部材に樹脂チューブの表面が擦れて発生する擦り傷である。この擦り傷は、チューブの軸方向に平行かそれから多少傾いた角度に形成されチューブの円周方向には形成されない。さらに連続的に送られるチューブの表面にはほぼその全長にわたって擦り傷が形成され、その擦り傷の長さは1mmを超える。樹脂チューブの表面には、この擦り傷のほか、研磨時などに傷が生じる可能性がある。研磨はチューブの円周方向に行われるので、通常それによって軸方向に沿った線状傷は生じない。
【0037】
図2は樹脂チューブの線状傷の深さについて説明する図である。図2ではチューブの外周面を構成する円周線201を基本とする断面曲線の一部を示しており、その一部には線状傷202が一つ形成されている。線状傷202の深さは、その円周線201から傷202の最深部203までの深さ204として測定することができる。傷形成時に円周線201より突出する部分205が生じても、その部分の頂上206から最深部203までではなく、円周線201から最深部203までの深さで線状傷202の深さを表す。円周線201を基準とすることで、チューブにおける割れや裂けの要因となる傷を評価できる。樹脂チューブ表面に一または複数の線状傷202が形成されている場合には、それら線状傷202の深さで最大のものが最大深さとなる。
【0038】
この樹脂チューブは、例えば2つの方法で延伸することができる。一つは、バッチ方式で未延伸のチューブをパイプ内に配置し、チューブに内圧をかけて膨張させる方法である。もう一つは、その内部に空気を送り込んで膨張させたチューブを2対のピンチローラで挟むことにより空気を封入し、そのピンチローラ間の距離を短縮することでチューブの内圧を高めチューブを膨張させるとともにその膨張径を調整する方法である。これらの方法では、膨張した樹脂チューブの表面が固定部材に擦れない。後者の方法では、チューブの両端がピンチローラで挟まれる。しかしながら、そのピンチローラによりチューブが送られるため、チューブの表面は擦られない。必要に応じてチューブの経路にリールを用いる場合でも、そのリールが連れ廻りするので擦られない。チューブの内面にも擦り傷は生じない。これによって、線状傷があっても、その最大深さが0.8μm以下の樹脂チューブが得られる。
【0039】
なお、ピンチローラで挟む場合、チューブがつぶされるため折り目が付く場合があるが、その折り目を軽減または無くすために、チューブに過剰な圧力が加わらないように、挟持圧力を一定値以下にとどめたり、ローラを正クラウン形状にしたりするのが好ましい。
【0040】
図3は2対のピンチローラを用いて延伸したチューブの表面状態を示す図である。図3Aは上記方法によってポリオレフィン系樹脂チューブの表面状態を示し、図3BはPFAチューブの表面状態を示す。これらの表面状態は20倍の光学顕微鏡で撮像したものである。図3AおよびBにおける横方向がチューブの軸方向であり、縦方向が円周方向である。いずれの樹脂チューブの表面にも線状傷が全く観察されない。したがって、これら樹脂チューブを回転体に用いたときには、樹脂層に割れや裂けが生じ難く良好な画像が長期間安定して得られる。
【0041】
図4は従来の熱収縮性樹脂チューブの表面状態を示す図である。図4Aはポリオレフィン系樹脂チューブの表面状態を示し、図4Bはポリエチレン樹脂チューブの表面状態を示し、図4CはPFAチューブの表面状態を示す。図4A,BおよびCにおいても横方向はチューブの軸方向であり、縦方向が円周方向である。これらのチューブは、膨張したチューブを延伸管内壁に接触させてその膨張径を規制する方法でそれぞれ製造したものである。このような従来の樹脂チューブではいずれも、延伸時に生じた線状傷が横方向にのびている。その線状傷の深さは0.8μmを超え、長さは1mmを大きく超える。このような線状傷を有する樹脂チューブで作像部用回転体を被覆して樹脂層を形成すると、収縮によりその傷が目立たなくなっても深い傷が内在することになる。その状態では作像部用回転体の使用時においても割れや裂けが発生する可能性がある。
【0042】
以上説明した実施の形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば保護や導電性付与を目的とした層を熱収縮性樹脂チューブの表面にコーティングやチューブビングにより積層してもよい。この場合でも、熱収縮性樹脂チューブに線状傷があると、割れや裂けの原因となる。
【0043】
また本発明の熱収縮性チューブは、作像部用回転体のほかに、たとえばエンドレスベルトを支持するローラ、排紙ローラ、ゴミ取りローラ、搬送ローラなど画像形成装置における各種回転体に樹脂層を形成するのにも利用することができる。本発明の熱収縮性チューブを用いれば、割れや裂けを抑えられるので、これら各種回転体をより簡便に製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の熱収縮性樹脂チューブおよび画像形成装置用回転体は、上述のように割れや裂けの容易となる線状傷が実質的になく、複写機やプリンタ、ファクシミリなどの各種の画像形成装置において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
101 作像ユニット
102 中間転写ベルト
103 感光体ドラム
104 感光体ドラムの回転方向
105 帯電ローラ
106 現像ユニット
107 転写ローラ
108 クリーニングブレード
109 現像ローラ
201 円周線
202 線状傷
203 線状傷の最深部
204 線状傷の深さ
205 線状傷の突出部分
206 線状傷の突出部分の頂上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置用回転体に樹脂層を形成するための熱収縮性樹脂チューブであって、
前記樹脂チューブ表面の線状傷の最大深さが0.8μm以下である樹脂チューブ。
【請求項2】
前記線状傷の最大長さが1mm以下である請求項1記載の樹脂チューブ。
【請求項3】
前記樹脂チューブの厚みが100μm以下である請求項1または請求項2記載の樹脂チューブ。
【請求項4】
前記回転体が、現像、帯電、または転写のためのローラまたはベルトである請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂チューブ。
【請求項5】
請求項1に記載の熱収縮性樹脂チューブにより形成された樹脂層を有する画像形成装置用回転体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−209709(P2011−209709A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47486(P2011−47486)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】