説明

熱可塑性エラストマー樹脂組成物および複合成形体

【課題】異種成形体の接合において、高い接合強度を有し射出成形などの成形加工性に優れた熱溶着可能な熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とし、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)56〜99重量%と、ポリビニルブチラール樹脂(B)1〜40重量%と、シランカップリング剤(C)0.01〜5.0重量%と、耐熱剤(D)0.01〜5.0重量%とを配合してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種成形体の接合において高い接合力を有し、しかも射出成形などの成形加工性にも優れた熱可塑性エラストマー樹脂組成物およびこの熱可塑性エラストマー樹脂組成物を異種材料の接合剤として用いた複合成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異種材料の接合において樹脂と金属の複合体を得る方法としては、金属部品に表面処理を施した部品に射出成形により樹脂を接合する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、金属部品に特定の表面処理することで作業が煩雑になることから非効率的であり、安定的な接合強度を得ることが困難である。
【0003】
また、レーザーを利用して樹脂と異種材料の間にエラストマーを挟み、エラストマーを溶融させて接合する方法(例えば、特許文献2および3参照)や、レーザー溶着接合用接着剤として分子末端部を変性したエラストマーを使用する方法(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、これらの方法で使用するエラストマーでは十分な接合強度が得られず、特に耐久試験後に接合強度が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−173967号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】特開2008−7584号公報(第1〜2頁)
【特許文献3】特開2008−173967号公報(第1〜2頁)
【特許文献4】特開2009−155402号公報(第1〜3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであり、樹脂、金属、ガラス等の異種材料との接合において高い接合力を有し、しかも射出成形などの成形加工性にも優れた熱可塑性エラストマー樹脂組成物およびこの熱可塑性エラストマー樹脂組成物を異種材料の接合材として用いた複合成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)とを主たる構成成分とし、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66〜99重量%と、ポリビニルブチラール樹脂(B)1〜30重量%と、シランカップリング剤(C)0.01〜5.0重量%と、酸化防止剤(D)0.01〜5.0重量%とを配合してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
なお、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物においては、
前記ポリエステルブロック共重合体(A)のハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなること、
前記ポリエステルブロック共重合体(A)のハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートとイソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート単位からなること、
前記ポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)が、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール単位を主たる構成成分とするものであること、
前記シランカップリング剤(C)が、エポキシ系シランカップリング剤であること、
前記酸化防止剤(D)が、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤からなる群より選ばれた1種または2種以上からなること、
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0008】
また、本発明の複合成形体は、上記の熱可塑性エラストマー樹脂組成物が、異種材料からなる成形体の接合材として使用されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下に説明するとおり、異種成形体の接合において高い接合力を有し、しかも射出成形などの成形加工性にも優れた熱可塑性エラストマー樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)とは、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であり、ハードセグメント(a1)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0011】
前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらに、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0012】
本発明においては、上記酸成分を2種以上使用することが好ましく、例えばテレフタル酸とイソフタル酸、テレフタル酸とドデカンジオン酸、テレフタル酸とダイマー酸などの組み合わせが挙げられる。酸成分を2種以上使用することでハードセグメントの結晶化度を下げることができ、柔軟性を付与することも可能で、かつ他の熱可塑性樹脂との熱接着性も向上する。
【0013】
次に、前記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル、および4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0014】
かかるハードセグメント(a1)の好ましい例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるもの、およびその両者の共重合体が好ましく用いられ、特に好ましくはテレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートとイソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート単位からなるものが使用される。
【0015】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルである。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルのなかで得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性からは、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペートなどの使用が好ましく、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールの使用が好ましい。また、これらのソフトセグメントの数平均分子量としては共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)の共重合量は、通常、20〜95重量%、好ましくは25〜90重量%であり、このように(a1)と(a2)の共重合比を設定することができる。
【0017】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0018】
本発明のポリエステルブロック共重合体(A)の配合量は66重量%〜99重量%、特に好ましくは76〜97重量%であり、66重量%未満では得られる熱可塑性エラストマー樹脂組成物の機械特性が低く成形加工性が劣り、99重量%を越えると接合強度が低下するため好ましくない。
【0019】
本発明に用いられるポリビニルブチラール樹脂(B)としては、特に制限するものはなく市販品を使用することでき、例えば、積水化学工業(株)製エスフレックスBL−1、BL−2、BX−L、BM−S、KS−3等、電気化学工業(株)製デンカブチラール3000−1、3000−2、3000−4、4000−2等があり、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のポリビニルブチラール樹脂(B)の配合量は1〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%であり、1重量%未満では接合強度が低く、30重量%を超えると得られる熱可塑性エラストマー樹脂組成物の機械強度が低く、成型加工性にも劣るため好ましくない。
【0021】
本発明に用いられるシランカップリング剤(C)としては、特に制限するものはないが、好ましくは1分子中にアミノ基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、スルフィド基等を有するもので、中でもエポキシ基を有するシランカップリング剤が好適に使用される。シランカップリング剤の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロキルエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アクリイルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等があり、好ましくはエポキシ基含有化合物であり、これらは1種単独または2種以上併用して使用することができる。
【0022】
本発明のシランカップリング剤(C)の配合量は、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%である。シランカップリング剤の配合量が0.01重量%未満では接合強度が低く、また5重量%を超えると、ブルーミングを生じたり熱安定性が低下したりするため好ましくない。
【0023】
本発明に用いられる酸化防止剤(D)としては、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤からなる群より選ばれた1種、または2種以上が挙げられ、中でも芳香族アミン系酸化防止剤が好適に使用される。
【0024】
芳香族アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニルナフチルアミン、4,4’−ジメトキシジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、および4−イソプロポキシジフェニルアミンなどが挙げられるが、これらの中でもジフェニルアミン系化合物の使用が好ましい。
【0025】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,5−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−4−メチル−6−t−ブチルフェノール、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸のジエチルエステル、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチル−ジフェニルメタン、α−オクタデシル−3(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、6−(ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス−オクチル−チオ−1,3,5−トリアジン、ヘキサメチレングリコール−ビス[β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ桂皮酸アミド)、2,2−チオ[ジエチル−ビス−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゼンホスホン酸のジオクタデシルエステル、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ジ−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス[β−(3,5−ジ−t−ブチル−4ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル]イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの中でも特にテトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンのような分子量が500以上のものの使用が好ましい。
【0026】
イオウ系酸化防止剤とは、チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、およびチオジプロピオンエステル系などのイオウを含む化合物である。これらの中でも、特にチオジプロピオンエステル系化合物の使用が好ましい。
リン系酸化防止剤とは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸誘導体、フェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルペンタエリスリトールジホスファイト、およびジアルキルビスフェノールAジホスファイトなどのリンを含む化合物である。これらの中でも、分子中にリン原子とともにイオウ原子も有する化合物、あるいは分子中に2つ以上のリン原子を有する化合物の使用が好ましい。
【0027】
これらの酸化防止剤の合計配合量は、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1.5重量%である。
【0028】
酸化防止剤の合計配合量が0.01重量%未満では、目的とする改良効果の得られる度合いが小さく、同時に金属と接合する際には銅害を防止する効果もある。また5重量%を超えると、ブルーミングを生じたり、熱可塑性エラストマー樹脂組成物の機械的強度が低下したりするため好ましくない。
【0029】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤を添加することができる。例えば公知の結晶核剤や滑剤などの成形助剤、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系化合物である耐光剤、耐加水分解改良剤、顔料や染料などの着色剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤、充填剤、可塑剤、離型剤などを任意に含有することができる。
【0030】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルブチラール樹脂(B)、シランカップリング剤(C)、酸化防止剤(D)を配合した原料を、スクリュー型押出機に供給し溶融混練する方法など適宜採用することができる。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、射出成形、押出成形など各種方法により成形加工することが可能である。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、異種材料からなる成形体を接合するための接合材として好ましく使用することができ、金属、ガラス、セラミックス、樹脂等各種材質からなる成形体を熱溶着することで接合することができる。
【0033】
成形体の接合方法としては、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を溶融する方法であれば特に制限するものはなく、例えばレーザー光を照射する方法、熱板にて加熱する方法、高周波を使用する方法、金属などの成形体自体を加熱し熱可塑性エラストマー樹脂組成物を溶融させる方法、射出成形機や押出成形機から溶融した熱可塑性エラストマー樹脂組成物を吐出し2色成形等の方法で接合する方法等を選択することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例及び比較例により本発明をより詳しく説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、この発明の要旨の範囲内で、適宣変更して実施することができる。なお、以下の実施例でいう部および%は、特に断らない限りは重量単位を示す。
【0035】
また、以下の実施例における熱可塑性エラストマー樹脂組成物の硬度、引張破断強さ、引張破断伸び、各種材質との接合力の評価は、次の方法により行った。
【0036】
[硬度]
90℃で3時間以上熱風乾燥したペレットを、射出成形機(日精樹脂工業製 NEX−1000)を用いて、シリンダー温度210℃と金型温度50℃の成形条件で、120X75X2mm厚角板を成形し角板を3枚重ねた後、JIS K 7215に従って測定した。
【0037】
[引張破断強さ、引張破断伸び]
90℃で3時間以上熱風乾燥したペレットを、射出成形機(日精樹脂工業製 NEX−1000)を用いて、シリンダー温度210℃と金型温度50℃の成形条件で、JISK7113 2号ダンベル試験片を成形し、JIS K7113に従って測定した。
【0038】
[PBT樹脂との2色射出成形による接合力]
ガラス30%含有PBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”1101G30)を、シリンダー温度250℃に設定したインラインスクリュー型射出成形機を用いて、60℃の金型温度(金型キャビティ表面)において、長さ65mm×幅10mm×肉厚2.0mmの板状成形体を得る。次にシリンダー温度210℃、金型温度50℃に設定した成形機の金型キャビティ内にガラス30%含有PBT樹脂の板状成形体をセットし、板状成形体の長さ方向に10mm重ね合わせた状態で、熱可塑性エラストマー樹脂組成物を射出成形し長さ65mm×幅10mm×肉厚2mmの熱可塑性エラストマー樹脂組成物が、ガラス30%含有PBT樹脂と10mm×10mmの面積で接合された成形体を得る。その後、ガラス30%含有PBT樹脂成形体と、熱可塑性エラストマー樹脂組成物成形体の端を引張試験機のチャックにはさみ、50mm/分の歪み速度で引張り、接合面の引張剪断によって剥がれる力を測定した。引張剪断によって得られた剥がれ力を接合面積の10mmで割り算した値を接合力として算出した。また、各接合試験片については耐久性試験として80℃×95%RH×120hの湿熱処理を施した後にも同様の方法で引張剪断による接合力を測定した。
【0039】
[金属材料との熱プレスによる接合力]
異種材料として、長さ60mm×幅10mm×肉厚1.5mmの各種金属を、下側21
0℃、上側60℃に設定した熱プレスの下側に配置し1分間放置する。その後、縦横10mm×肉厚0.2mmにプレスした熱可塑性エラストマー樹脂組成物シートを、金属板材の上に配置し、さらに10mm重ね合わせるように同じ金属板材を配置する。その後1MPaの加重で30秒間プレスし熱可塑性エラストマー樹脂組成物を溶融させて金属に接合させる。その後、2枚の金属板材からなる接合体を、上側と下側を40℃に設定したプレスにて、1MPa×30秒間プレスして熱可塑性エラストマー樹脂組成物を固化させることにより、2枚の金属板材が10mmの面積で重ね合わせられた引張剪断試験片を得る。その後、引張剪断試験片の両端を引張試験機のチャックにはさみ、50mm/分の歪み速度で引張り接合面の引張剪断によって剥がれる力を測定した。引張剪断によって得られた剥がれ力を接合面積の10mmで割り算した値を接合力として算出した。また、各接合試験片については耐久性試験として80℃×95%RH×120hの湿熱処理を施した後にも同様の方法で引張剪断による接合力を測定した。
【0040】
[スライドガラスとの熱プレスによる接合力]
長さ75mm×幅25mm×肉厚1mmのスライドガラスを、下側210℃、上側60℃に設定した熱プレスの下側に配置し1分間放置する。その後、縦横10mm×肉厚0.2mmにプレスした熱可塑性エラストマー樹脂組成物シートを金属板材の上に配置し、さらに10mm重ね合わせるように同じスライドガラスを配置する。その後、0.3MPaの加重で30秒間プレスし熱可塑性エラストマー樹脂組成物を溶融させてスライドガラスに接合させる。その後、2枚のスライドガラスからなる接合体を、上側と下側を40℃に設定したプレスにて、0.3MPa×30秒間プレスして熱可塑性エラストマー樹脂組成物を固化させることにより、2枚のスライドガラスが10mmの面積で重ね合わせられた引張剪断試験片を得る。その後、引張剪断試験片の両端を引張試験機のチャックにはさみ、50mm/分の歪み速度で引張り接合面の引張剪断によって剥がれる力を測定する。引張剪断によって得られた剥がれ力を接合面積の10mmで割り算した値を接合力として算出した。また、各接合試験片については耐久性試験として80℃×95%RH×120hの湿熱処理を施した後にも同様の方法で引張剪断による接合力を測定した。
【0041】
[アルミ合金とのレーザー溶着による接合力]
長さ60mm×幅10mm×肉厚1.5mmのアルミ合金の上に、縦横10mm×肉厚0.2mmの熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなるシートを配置し、さらにその上に、長さ60mm×幅10mm肉厚2mmのポリカーボネート樹脂成形体(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ユーピロン”H4000)を配置し、0.1MPaの加重で重ね合わせた後ポリカーボネート側から、LEISTER社製MODEULAS Cのレーザー溶着機を使用し、波長940nm、焦点径0.6mm、レーザー出力20W、レーザー走査速度5mm/secの条件でレーザービームを照射することにより、アルミ合金の板材とポリカーボネートの板材とを熱可塑性エラストマー樹脂組成物を介して接合した。アルミ合金の板材とポリカーボネート板材の端を引張試験機のチャックにはさみ、50mm/分の歪み速度で引張り、接合面の引張剪断によって剥がれる力を測定する。引張剪断によって得られた剥がれ力を接合面積で割り算した値を接合力として算出した。また、各接合試験片については耐久性試験として80℃×95%RH×120hの湿熱処理を施した後にも同様の方法で引張剪断による接合力を測定した。
【0042】
また、使用材料の詳細は下記のとおりである。
[ポリエステルブロック共重合体(A)]
東レ・デュポン(株)製 ハイトレル4057N
[ポリビニルブチラール(B)]
積水化学工業(株)製 エスレックBL−1
積水化学工業(株)製 エスレックBM−SZ
[シランカップリング剤(C)]
東レ・ダウコーニング(株)製 Z−6040
東レ・ダウコーニング(株)製 Z−6043
[酸化防止剤(D)]
白石カルシウム(株)製 ナウガード445(芳香族アミン系酸化防止剤)
【0043】
[実施例1〜7、比較例1〜9]
ポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルブチラール(B)、シランカップリング剤(C)、酸化防止剤(D)を、表1、2に示すような配合比率でドライブレンドし、45mmφのスクリューを有する2軸押出機を用いて、220℃の温度設定で溶融混練したのちペレット化した。このペレットを80℃で5時間乾燥した後、各種特性値を試験した。試験結果は表1、2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1、2の結果から明らかなように、実施例の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、硬度、引張破断強さ、引張10%歪応力、引張50%歪応力、引張破断伸びに優れ、PBT樹脂との2色成形における接合力、各種金属の熱プレスにおける接合力、スライドガラスの熱プレスにおける接合力、ポリカーボネートとアルミ合金のレーザー溶着による接合力、及び各々の80℃95%RH×120h処理後の接合力においても高い値を示した。
【0047】
一方、本発明の条件を満たさない比較例1〜9の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物に比較して、硬度、引張破断強さ、引張10%歪応力、引張破断伸びのいずれかまたは全てが劣っているか、各種接合力が低くなっており、シランカップリング剤を含まない組成物では、全体的に湿熱処理後の接合力が低い傾向にあり、ポリビニルブチラールを含まない組成物では、スライドガラストとの接合力や湿熱処理後の接合力が低くなる傾向にあり、酸化防止剤を含まない組成物では特に銅合金との耐湿熱処理後の接合力が低くなる傾向にあった。
【0048】
尚、シランカップリング剤(C)の配合量が規定範囲を超えた比較例2は、2軸押出機を用いた溶融混練の際に吐出が不安定になりペレットを得ることが困難であった。シランカップリング剤の過剰な配合により熱安定性が悪くなりゲル化等を発生させたためと推定される。また、ポリビニルブチラール(B)の配合量が規定範囲を超えた比較例4、8は、射出成形時に金型の固化が不十分で金型から成形品を取り出すことが困難であり、取り出した成形品もヒケや変形が大きく成形加工性が劣り物性測定を断念した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、上記した通り成形体としての充分な強度を有し成形加工性に優れ、各種異種材料と高い接合力を有することから、自動車部品、電機機器、工業用品等の異種材料との接合における接合材として好適に使用することができ、接合方法としては接合したい異種材料に特別な処理を施すことなく、熱可塑性エラストマー樹脂組成物を溶融することで接合することができるため極めて効率的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)とを主たる構成成分とし、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66〜99重量%と、ポリビニルブチラール樹脂(B)1〜30重量%と、シランカップリング剤(C)0.01〜5.0重量%と、酸化防止剤(D)0.01〜5.0重量%とを配合してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステルブロック共重合体(A)のハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステルブロック共重合体(A)のハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートとイソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート単位からなることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)が、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール単位を主たる構成成分とするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
前記シランカップリング剤(C)が、エポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項6】
前記耐熱剤(D)が、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤からなる群より選ばれた1種または2種以上からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物が、異種材料からなる成形体の接合材として使用されていることを特徴とする複合成形体。

【公開番号】特開2012−126833(P2012−126833A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280081(P2010−280081)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】