説明

熱可塑性エラストマー組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】空気入りタイヤのインナーライナーに好適に用いることができる空気バリア性に優れかつ疲労耐久性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリアミドおよびエチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールを含む熱可塑性樹脂組成物中にハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含むゴム組成物が分散し、前記ゴム組成物が架橋されている熱可塑性エラストマー組成物である。エチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールの量は熱可塑性樹脂組成物の総量の1〜25質量%が好ましい。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体の量は熱可塑性樹脂組成物の総量100質量部に対して80〜200質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物中にゴム組成物が分散した熱可塑性エラストマー組成物に関する。特に、空気入りタイヤのインナーライナーに用いることができる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール/エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂にイソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物などのエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを空気透過防止層として用いた空気入りタイヤが知られている(特許文献1)。
また、変性エチレンビニルアルコール共重合体を含む樹脂中に臭素化イソブチレン−p−メチルスチレンなどの粘弾性体を分散させた樹脂組成物からなる層を少なくとも含むフィルムを用いたタイヤ用インナーライナーが知られている(特許文献2)。
また、エチレン−ビニルアルコールコポリマー及び/又はポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の層と、ナイロン666などの熱可塑性樹脂組成物のマトリックス中に臭素化イソブチレン−p−メチルスチレンコポリマーなどの変性ポリマー組成物を分散した熱可塑性ポリマー組成物の層とのラミネートをインナーライナーとして使用した空気入りタイヤが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−273424号公報
【特許文献2】特開2009−263653号公報
【特許文献3】特表2009−523081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリアミド中に臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体を分散させてなる熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーとして用いたときに、空気バリア性が従来のブチルインナーライナーと同等以上ではあるが、近年の安全性や環境性能の要求から、より空気バリア性に優れたものが求められている。
一方、エチレンビニルアルコール共重合体中に臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体を分散させてなる熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーとして用いたときに、空気バリア性には優れるが、疲労耐久性に劣るという問題がある。
本発明は、空気バリア性に優れかつ疲労耐久性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本件第1発明は、ポリアミドおよびエチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールを含む熱可塑性樹脂組成物中にハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含むゴム組成物が分散し、前記ゴム組成物が架橋されている熱可塑性エラストマー組成物である。
【0006】
前記エチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールの量は、好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物の総量の1〜25質量%である。
前記ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体の量は、好ましくは、前記熱可塑性樹脂組成物の総量100質量部に対して80〜200質量部である。
前記ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体は、好ましくは、臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体である。
前記ポリアミドは、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも一種である。
前記エチレンビニルアルコール共重合体は、好ましくは、エチレン組成比1〜55モル%でケン化度90%以上である。
前記ポリビニルアルコールは、好ましくは、ケン化度90%以上である。
前記熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、温度30℃でJIS K 7126−1に準拠して測定した空気透過係数が3.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0007】
本件第2発明は、前記の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、熱可塑性樹脂組成物とゴム組成物とを二軸混練機を使用して連続的に混練し、該混練により前記熱可塑性樹脂組成物中に前記ゴム組成物を分散させるとともに、動的架橋することを特徴とする。
【0008】
本件第3発明は、前記の熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、空気バリア性に優れ、かつ疲労耐久性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂組成物中にゴム組成物が分散したものである。熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物がマトリックス相を構成し、ゴム組成物が分散相を構成する。
【0011】
熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミドおよびエチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールを含む。すなわち、熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミドとエチレンビニルアルコール共重合体とを含む場合、ポリアミドとポリビニルアルコールとを含む場合、およびポリアミドとエチレンビニルアルコール共重合体とポリビニルアルコールとを含む場合がある。
【0012】
熱可塑性樹脂組成物中のポリアミドの量は、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物の総量の75〜99質量%であり、より好ましくは80〜95質量%である。ポリアミドの量が少なすぎると使用(疲労)による空気バリア性の低下が大きく、また耐久性に劣り、逆に多すぎると空気バリア性に劣る。
【0013】
熱可塑性樹脂組成物中のエチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールの量(熱可塑性樹脂組成物がエチレンビニルアルコール共重合体およびポリビニルアルコールを含む場合は、エチレンビニルアルコール共重合体とポリビニルアルコールの合計量)は、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物の総量の1〜25質量%であり、より好ましくは5〜20質量%である。エチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールの量が少なすぎると空気バリア性に劣り、逆に多すぎると使用(疲労)による空気バリア性の低下が大きく、また耐久性に劣る。
【0014】
本発明において使用するポリアミドとしては、限定するものではないが、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも一種である。なかでも、ナイロン6およびナイロン6/66が耐久性と空気バリア性の両立という点で好ましい。
【0015】
本発明において使用するエチレンビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」ともいう。)は、エチレン単位(−CHCH−)とビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)とからなる共重合体であるが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。本発明において使用するエチレンビニルアルコール共重合体は、エチレン単位の含量すなわちエチレン組成比が好ましくは1〜55モル%、より好ましくは20〜50モル%のものを使用する。エチレンビニルアルコール共重合体のエチレン組成比が少なすぎるとエチレンビニルアルコール共重合体の柔軟性が減り、耐久性が落ちる。逆にエチレン組成比が多すぎると空気バリア性が低下する。エチレンビニルアルコール共重合体はエチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物であるが、そのケン化度は、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。エチレンビニルアルコール共重合体のケン化度が小さすぎると空気バリア性が低下し、また熱安定性も低下する。エチレンビニルアルコール共重合体は、市販されており、たとえば、日本合成化学工業株式会社からソアノール(登録商標)の商品名で、株式会社クラレからエバール(登録商標)の商品名で入手することができる。エチレン組成比1〜55モル%でケン化度90%以上であるエチレンビニルアルコール共重合体としては、日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)H4815B(エチレン組成比48モル%、ケン化度99%以上)、A4412B(エチレン組成比42モル%、ケン化度99%以上)、DC3212B(エチレン組成比32モル%、ケン化度99%以上)、V2504RB(エチレン組成比25モル%、ケン化度99%以上)、株式会社クラレ製「エバール」(登録商標)L171B(エチレン組成比27モル%、ケン化度99%以上)、H171B(エチレン組成比38モル%、ケン化度99%以上)、E171B(エチレン組成比44モル%、ケン化度99%以上)などがある。
【0016】
本発明において使用するポリビニルアルコール(以下「PVA」ともいう。)は、ビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)からなる重合体であるが、ビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルのケン化物であるが、そのケン化度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。ケン化度が小さすぎると空気バリア性が低下する。ポリビニルアルコールは、市販されており、たとえば、日本合成化学工業株式会社から「ゴーセノール」(登録商標)の商品名で、株式会社クラレから「クラレポバール」の商品名で入手することができる。ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコールとしては、日本合成化学工業株式会社製「ゴーセノール」(登録商標)N300(ケン化度98%以上)、株式会社クラレ製「クラレポバール」(登録商標)PVA117(ケン化度98%以上)などがある。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール以外の樹脂や添加剤(たとえば可塑剤)などの他の物質を含んでもよい。
【0018】
熱可塑性エラストマー組成物の分散相を構成するゴム組成物は、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含む。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体の量は、熱可塑性樹脂組成物の総量100質量部に対して、好ましくは80〜200質量部であり、より好ましくは90〜150質量部である。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体の量が少なすぎると、低温耐久性に劣り、逆に多すぎると溶融時の流動性が低下しフィルム製膜性が悪化する。
【0019】
本発明に用いるハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体は、イソオレフィンとパラアルキルスチレンの共重合体をハロゲン化することにより製造することができ、ハロゲン化イソオレフィンとパラアルキルスチレンの混合比、重合率、平均分子量、重合形態(ブロック共重合体、ランダム共重合体等)、粘度、ハロゲン原子等は、特に限定されず、熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性等に応じて任意に選択することができる。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を構成するイソオレフィンとしては、イソブチレン、イソペンテン、イソヘキセン等が例示できるが、好ましくはイソブチレンである。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を構成するパラアルキルスチレンはパラメチルスチレン、パラエチルスチレン、パラプロピルスチレン、パラブチルスチレン等が例示できるが、好ましくはパラメチルスチレンである。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を構成するハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示できるが、好ましくは臭素である。特に好ましいハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体は臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体である。
臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体は、式(1)で表される繰り返し単位
【0020】
【化1】

【0021】
を有するイソブチレンパラメチルスチレン共重合体を臭素化したものであり、典型的には式(2)で表される繰り返し単位
【0022】
【化2】

【0023】
を有するものである。臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体は、エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)から、Exxpro(登録商標)の商品名で入手することができる。
【0024】
ゴム組成物は、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体以外に、架橋剤(加硫剤)、架橋(加硫)促進剤、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、可塑剤、オイル、老化防止剤などの、樹脂またはゴム組成物用に一般に配合されている各種添加剤を含むことができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。また、ゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体以外の樹脂またはゴムを含むことができる。
【0025】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコール、およびハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含むが、それら以外の樹脂またはゴムを含んでもよい。たとえば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、変性ポリマーを含んでもよく、用途によっては、変性ポリマーを含むことが好ましい。変性ポリマーとしては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などのエチレン−α−オレフィン共重合体、またはエチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体に、酸無水物基またはエポキシ基を付加したものが挙げられる。そのような変性ポリマーを熱可塑性エラストマー組成物に配合すると、その変性ポリマーは、どちらかといえばゴム組成物分散相に存在し、相溶化剤として機能し、熱可塑性樹脂組成物マトリックス相とゴム組成物分散相の界面の接着向上に寄与する。変性ポリマーを配合する場合の配合量は、熱可塑性樹脂組成物の総量100質量部に対して、好ましくは5〜100質量部であり、より好ましくは20〜80質量部である。
【0026】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、温度30℃でJIS K 7126−1に準拠して測定した空気透過係数が、好ましくは3.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHg以下であり、より好ましくは2.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。空気透過係数が大きすぎると、空気入りタイヤのインナーライナーとして使用するのに不適である。
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物がマトリックス相を形成し、ゴム組成物が分散相を形成している。このような相構造は、熱可塑性樹脂組成物とゴム組成物の配合比率および粘度を適宜選択することにより得ることができる。理論上は、熱可塑性樹脂組成物の配合比率が多いほど、熱可塑性樹脂組成物の粘度が小さいほど、熱可塑性樹脂組成物がマトリックス相を形成しやすい。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物の分散相を構成するゴム組成物は、架橋されている。好ましくは、動的架橋により架橋されている。架橋することにより、熱可塑性エラストマー組成物のマトリックス相と分散相を固定することができる。架橋は、未架橋のゴム組成物を架橋剤とともに溶融混練することによって行なうことができる。
【0029】
架橋に使用される架橋剤としては、亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、m−フェニレンビスマレイミド、アルキルフェノール樹脂およびそのハロゲン化物、第二級アミン(たとえばN−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、重合した2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)などが挙げられる。なかでも亜鉛華、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミンが架橋剤として好ましく使用できる。
【0030】
架橋剤の量は、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体100質量部に対して0.1〜12質量部が好ましく、より好ましくは1〜9質量部である。架橋剤の量が少なすぎると、架橋が不足し、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体の微分散を維持できず、耐久性が低下する。逆に、架橋剤の量が多すぎると、混練、加工中にスコーチしたり、フィルム中に異物を生じる原因となる。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、限定するものではないが、熱可塑性樹脂組成物、未架橋ゴム組成物および架橋剤を、ポリアミドの融点以上の温度で溶融混練することによって製造することができる。架橋剤は、あらかじめ未架橋ゴム組成物と混合しておいてもよいし、溶融混練の前に添加してもよいし、溶融混練の途中で添加してもよい。溶融混練の温度は、ポリアミドの融点以上の温度であるが、好ましくはポリアミドの融点より20℃高い温度、たとえば180〜300℃である。溶融混練の時間は、通常、1〜10分、好ましくは1〜5分である。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物とゴム組成物とを二軸混練機を使用して連続的に混練し、該混練により前記熱可塑性樹脂組成物中に前記ゴム組成物が分散させるとともに、動的架橋することによって、製造することができる。
より具体的には、たとえば、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体と架橋剤と必要に応じてその他の添加剤とを60〜150℃で混合してゴムコンパウンドを調製し、そのゴムコンパウンドとポリアミドとエチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールと必要に応じてその他の樹脂または添加剤とを設定温度220〜250℃の二軸混練機に投入し、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を分散させるとともに動的架橋することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前記した成分以外の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、T型ダイス付きの押出機や、インフレーション成形機などでフィルムとすることができる。そのフィルムは、空気バリア性および耐久性に優れるため、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に使用することができる。
【0034】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、粘接着剤組成物と積層して、積層体とすることもできる。粘接着剤組成物としては、空気入りタイヤを構成するゴムとの接着に優れるものが好ましく、限定するものではないが、エポキシ化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤および粘着付与剤を含む組成物を例示することができる。熱可塑性エラストマー組成物と粘接着剤組成物との積層体は、たとえば、熱可塑性エラストマー組成物と粘接着剤組成物とを共押出することによって、製造することができる。熱可塑性エラストマー組成物と粘接着剤組成物との積層体は、空気入りタイヤを構成するゴムとの接着に優れるため、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に使用することができる。
【0035】
本発明の空気入りタイヤは、前記の熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤである。より具体的には、前記熱可塑性エラストマー組成物のフィルムまたは前記積層体をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤである。タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをインナーライナーとしてタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムから抜き取ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0036】
(1)熱可塑性エラストマー組成物の調製
熱可塑性エラストマー組成物の原材料として、次のものを用いた。
Br−IPMS: エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)製臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体「Exxpro」(登録商標)MDX89−4
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸: 日油株式会社製ビーズステアリン酸
ステアリン酸亜鉛: 堺化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛
ナイロン6/66: 宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5013B
EVOH(Et48%): 日本合成化学工業株式会社製エチレンビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)H4815B(エチレン組成比48モル%、ケン化度99%以上)
EVOH(Et42%): 日本合成化学工業株式会社製エチレンビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)A4412B(エチレン組成比42モル%、ケン化度99%以上)
EVOH(Et32%): 日本合成化学工業株式会社製エチレンビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)DC3212B(エチレン組成比32モル%、ケン化度99%以上)
EVOH(Et25%): 日本合成化学工業株式会社製エチレンビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)V2504RB(エチレン組成比25モル%、ケン化度99%以上)
PVA: 日本合成化学工業株式会社製ポリビニルアルコール「ゴーセノール」(登録商標)N300(ケン化度98%以上)
Mah−EB:三井化学株式会社製マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7010
表1に示す原料のうちゴムおよび架橋剤(酸化亜鉛、ステアリン酸およびステアリン酸亜鉛)を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。前記ゴムコンパウンドのペレットと樹脂(ナイロン6/66およびEVOH)と酸変性ポリマーを二軸混練押出機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物は、樹脂中にゴムが分散したものであった。
【0037】
(2)粘接着剤組成物の調製
粘接着剤組成物の原料として、次のものを用いた。
エポキシ化SBS: ダイセル化学工業株式会社製エポキシ化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体「エポフレンド」AT501
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸: 日油株式会社製ビーズステアリン酸
加硫促進剤: 大内新興化学工業株式会社製「ノクセラー」TOT−N
粘着付与剤: ヤスハラケミカル株式会社製YSレジンD105
表2に示す各原料のペレットを二軸混練押出機(日本製鋼所製TEX44)に投入し、120℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、ストランド状押出物を水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の粘接着剤組成物を得た。
【0038】
(3)熱可塑性エラストマー組成物フィルムの作製
前記(1)で調製した熱可塑性エラストマー組成物および前記(2)で調製した粘接着剤組成物をインフレーション成形装置(プラコー製)を使用して230℃で熱可塑性エラストマー組成物が内側、粘接着剤組成物が外側になるように2層のチューブ状に押出し、空気を吹き込んで膨張させ、ピンチロールで折りたたみ、巻き取ることにより、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性エラストマー組成物層の厚さは100μmであり、粘接着剤組成物層の厚さは30μmであった。
【0039】
(4)空気入りタイヤの作製
インナーライナーとして、前記(3)で作製した積層体を、粘接着剤組成物層が外側(ドラムの反対側)になるようにタイヤ成形用ドラム上に配置する。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより195/65R15サイズのタイヤを作製した。
【0040】
(5)評価
調製した熱可塑性エラストマー組成物について、空気透過係数および耐久性試験によるクラックの個数を測定した。結果を表1に示す。
なお、空気透過係数の測定方法および耐久性試験の方法は次のとおりである。
【0041】
[空気透過係数]
前記(3)で作製した熱可塑性エラストマー組成物の積層体からメチルエチルケトン(MEK)を使用して粘接着剤組成物層を溶解させて拭き取り、JIS K7126−1(差圧法)に準拠して、温度30℃で空気透過係数(cc・cm/cm・sec・cmHg)を求めた。空気透過係数が小さい方が、空気バリア性に優れている。
【0042】
[耐久性試験]
前記(4)で作製したタイヤをリム15×6JJ、内圧200kPaとして、排気量1800ccのFF乗用車に装着し、実路上を30,000km走行した。その後、タイヤをリムから外し、タイヤの内面に配置された積層体を観察し、クラックの個数を調べた。クラックの個数が少ない方が、耐久性に優れる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドおよびエチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールを含む熱可塑性樹脂組成物中にハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含むゴム組成物が分散し、前記ゴム組成物が架橋されている熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記エチレンビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールの量が前記熱可塑性樹脂組成物の総量の1〜25質量%である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体の量が、前記熱可塑性樹脂組成物の総量100質量部に対して80〜200質量部である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体が臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記ポリアミドが、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記エチレンビニルアルコール共重合体が、エチレン組成比1〜55モル%でケン化度90%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコールが、ケン化度90%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
温度30℃でJIS K 7126−1に準拠して測定した空気透過係数が3.0×10−12cc・cm/cm・sec・cmHg以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、熱可塑性樹脂組成物とゴム組成物とを二軸混練機を使用して連続的に混練し、該混練により前記熱可塑性樹脂組成物中に前記ゴム組成物を分散させるとともに、動的架橋することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−46614(P2012−46614A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189357(P2010−189357)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】