説明

熱可塑性エラストマー組成物

【課題】優れた耐熱性および耐油性を保持し、再成形が可能な熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴム(A)、および、第1級アミノ基を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有するポリアミン化合物(B)を含有し、
更に、ポリアミド化合物(C)および/またはポリエステル化合物(D)を含有する熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性に優れているため、自動車関連の分野などで広く用いられている。
また、近年では、金属部材やオイルなどと接触される部位に使用される部材(例えば、シール材、ホース材、防振材、チューブ材、ベルト材、ブーツ材等)においては、耐熱性、耐油性だけでなく、機械的強度、特に圧縮永久歪に優れることも要求されてきている。
【0003】
このような要求特性を満たすアクリルゴム組成物として、特許文献1には、「アクリル酸エステル単量体(a)単位90〜99.9重量%、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)単位0.1〜10重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(c)単位0〜20重量%からなるアクリルゴム(A)100重量部に対し、モノ第一アミン化合物(B)0.05〜2.5重量部およびジアミン加硫剤(C)0.05〜5重量部を含有するアクリルゴム組成物。」が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「分子内にカルボキシル基を有するアクリルゴム(A)100重量部に対して、ポリアミン化合物(B)を0.05〜5重量部、グアニジン化合物(C)を0.1〜10重量部およびチウラム化合物(D)を0.1〜8重量部含有してなるアクリルゴム組成物」が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−265737号公報
【特許文献2】国際公開第03/004563号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載のアクリルゴム組成物は、耐熱性および耐油性に優れるものの、熱可塑性ではないため再成形ができないという問題点がある。
そこで、本発明は、優れた耐熱性および耐油性を保持し、再成形が可能な熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴムに対して、第1級アミノ基を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有するポリアミン化合物を用い、更にポリアミド化合物および/またはポリエステル化合物を含有する熱可塑性エラストマー組成物が、優れた耐熱性および耐油性を保持し、再成形が可能となることを見出し、本発明を達成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(6)に記載の熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【0008】
(1)カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴム(A)、および、第1級アミノ基(−NH2)を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有するポリアミン化合物(B)を含有し、
更に、ポリアミド化合物(C)および/またはポリエステル化合物(D)を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【0009】
(2)上記ポリアミン化合物(B)が、第3級アミノ基(下記式で表される基)を有する上記(1)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
(3)上記ポリアミン化合物(B)が、第2級アミノ基(−NH−)を有する上記(1)または(2)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
(4)上記ポリアミン化合物(B)が、ポリアルキレンイミンである上記(3)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
(5)上記ポリアミド化合物(C)が、ポリアミドエラストマーである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
(6)上記ポリエステル化合物(D)が、ポリエステル系可塑剤である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0015】
以下に説明するように、本発明によれば、優れた耐熱性および耐油性を保持し、再成形が可能な熱可塑性エラストマー組成物を提供することができるため有用である。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低粘度で成形性に優れ、引張特性や機械的強度にも優れるため、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴム(A)、および、第1級アミノ基(−NH2)を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有するポリアミン化合物(B)を含有し、
更に、ポリアミド化合物(C)および/またはポリエステル化合物(D)を含有する熱可塑性エラストマー組成物である。
次に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有するアクリルゴム(A)およびポリアミン化合物(B)ならびに更に含有するポリアミド化合物(C)および/またはポリエステル化合物(D)について詳述する。
【0017】
<アクリルゴム(A)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有するアクリルゴム(A)は、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴムである。
ここで、アクリルゴムとは、アクリル酸エステルを主成分とするゴムの総称であり、単独または複数のアクリル酸エステルと活性塩素などを含む架橋モノマーを共重合したアクリルゴム(ACM);単独または複数のアクリル酸エステル、エチレンと架橋モノマーを共重合したエチレンアクリルゴム(AEM);単独または複数のアクリル酸エステル、アクリロニトリルと架橋モノマーを共重合したアクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体(ANM)を含むものである。
本発明においては、上記アクリルゴム(A)は、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴムであれば、その製造方法は特に限定されず、例えば、アクリル酸エステルモノマーまたはメタクリル酸エステルモノマーと、分子内にカルボキシル基を有するモノマーとを共重合する方法;分子内にカルボキシル基を有さないアクリルゴムにエステル分解反応等の変性反応を行う方法;無水マレイン酸と共重合させ又は無水マレイン酸で変性(高分子反応)した後、アルコールなどを付加させて、カルボキシ基を発生させる方法;等により得ることができる。
【0018】
以下に、アクリル酸エステルモノマーまたはメタクリル酸エステルモノマー(以下、これらをまとめて「モノマー(Ma)」ともいう。)とカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(以下、「モノマー(Mb)」ともいう。)とを共重合することによりアクリルゴム(A)を得る方法を説明する。
【0019】
上記モノマー(Ma)は、アクリル酸またはメタクリル酸の各種のエステルであり、特に限定されない。
これらのうち、アクリル酸アルキルエステルモノマーもしくはメタクリル酸アルキルエステルモノマー(以下、これらをまとめて「モノマー(Ma−1)」ともいう。)、または、アクリル酸アルコキシアルキルエステルモノマーもしくはメタクリル酸アルコキシアルキルエステルモノマー(以下、これらをまとめて「モノマー(Ma−2)」ともいう。)であるのが好ましく、モノマー(Ma−1)またはモノマー(Ma−2)を単独で用いてもよいが、モノマー(Ma−1)とモノマー(Ma−2)を併用して用いるのがより好ましい。
【0020】
上記モノマー(Ma−1)は、アクリル酸またはメタクリル酸の各種のアルキルエステルであり、その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル;が挙げられる。
これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜8のものが好ましく、2〜4のものがより好ましい。また、メタクリル酸アルキルエステルよりもアクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0021】
上記モノマー(Ma−2)は、アクリル酸またはメタクリル酸の各種のアルコキシアルキルエステルであり、その具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−プロポキシエチル、アクリル酸2−ブトキシエチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、アクリル酸4−メトキシブチル等のアクリル酸アルコキシアルキルエステル;メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−プロポキシエチル、メタクリル酸2−ブトキシエチル、メタクリル酸3−メトキシプロピル、メタクリル酸4−メトキシブチル等のメタクリル酸アルコキシアルキルエステル;が挙げられる。
これらのうち、アルコキシアルキル基の中の炭素数が2〜16のものが好ましく、2〜8のものがより好ましい。また、メタクリル酸アルコキシアルキルエステルよりもアクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましい。
【0022】
上記モノマー(Ma−1)と上記モノマー(Ma−2)を併用する場合、両者の割合は特に限定されないが、上記アクリルゴム(A)中の上記モノマー(Ma)に由来する構成単位のうち、上記モノマー(Ma−1)に由来する構成単位は、50〜97質量%であるのが好ましく、70〜96質量%であるのがより好ましく、80〜95質量%であるのが更に好ましい。モノマー(Ma−1)に由来する構成単位がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性および耐油性がより良好となり、伸び等の引張特性も良好となる。
【0023】
一方、上記モノマー(Mb)は、分子内にカルボキシル基と炭素・炭素不飽和結合を有する化合物である。
上記モノマー(Mb)としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸などのモノカルボン酸モノマー;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などのジカルボン酸モノマー;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノ−n−ブチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、フマル酸モノ−n−ブチルエステルなどのブテンジオン酸モノアルキルエステルモノマー;等が挙げられる。
また、カルボキシ基はカルボン酸無水物基であってもよく、そのようなモノマー(Mb)としては、具体的には、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
これらのうち、ブテンジオン酸モノアルキルエステルモノマーが好ましく、特に、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノ−n−ブチルエステル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチルエステル、フマル酸モノ−n−ブチルエステル等の炭素数1〜4のアルキル基を有するものが好ましい。
【0024】
上記アクリルゴム(A)中の上記モノマー(Ma)に由来する構成単位と上記モノマー(Mb)に由来する構成単位のうち、上記モノマー(Ma)に由来する構成単位は、80〜99.9質量%であるのが好ましく、90〜99.5質量%であるのがより好ましく、95〜99質量%であるのが更に好ましい。モノマー(Ma)の構成単位がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物を十分に加硫させることができ、加硫物が良好なゴム弾性を有する。
【0025】
上記アクリルゴム(A)は、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲で、上記モノマー(Ma)および上記モノマー(Mb)以外のその他のモノマーを共重合したものであってもよい。
その他のモノマーとしては、具体的には、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデンなどハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどのビニルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン類;イソプレン、ブタジエン、ヘキサジエン、クロロプレンなどのジエン類;ピペリレン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ノルボルナジエンなどの脂環式オレフィン類および脂環式ジオレフィン類;エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のポリオールポリアクリル酸エステル類およびポリオールポリメタクリル酸エステル類;等が挙げられる。
このようなその他のモノマーを共重合する場合には、上記アクリルゴム(A)中の上記モノマー(Ma)に由来する構成単位と上記モノマー(Mb)に由来する構成単位と上記その他のモノマーに由来する構成単位のうち、その他のモノマーに由来する構成単位は、60質量%未満であるのが好ましい。
【0026】
本発明においては、このようなアクリルゴム(A)を含有することにより、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、優れた耐熱性および耐油性を保持することができる。
【0027】
また、本発明においては、上記アクリルゴム(A)は、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10〜70であるのが好ましく、15〜65であるのがより好ましく、20〜60であるのが更に好ましい。ムーニー粘度がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成形性がより良好となり、機械的強度もより良好となる。
【0028】
更に、本発明においては、上記アクリルゴム(A)として、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、アクリルゴム(Nipol AR−14、超耐寒タイプ、日本ゼオン社製)、アクリルゴム(Nipol AR−12、耐寒タイプ、日本ゼオン社製)等を用いることができる。
【0029】
<ポリアミン化合物(B)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有するポリアミン化合物(B)は、第1級アミノ基を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有する化合物である。
上記ポリアミン化合物(B)としては、具体的には、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどのポリアルキレンイミン;3,3′−ジアミノ−N−メチルジプロピレン(N−メチル−N−アミノプロピル−プロパンジアミン)、トリス(2−アミノエチル)アミン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパンなどの脂肪族アミン;ジアミノシクロヘキサン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジンなどの脂環族アミン;ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、テトラメチルキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノナフタレン、キシリレンジアミン、アミノベンジルアミン、アミノフェニルエチルアミンなどの芳香族ポリアミン;等が挙げられる。
ここで、分岐炭素とは、ポリアミン化合物(B)の主鎖骨格が分岐している起点となる炭素原子のことをいい、分岐窒素とは、ポリアミン化合物(B)の主鎖骨格が分岐している起点となる窒素原子のことをいう。
【0030】
本発明においては、上記ポリアミン化合物(B)は、第3級アミノ基を有しているのが好ましい。第3級アミノ基を有していると、上述したカルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴム(A)との反応により得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物の水素結合性の架橋部位が増加し、分子間で三次元的架橋するため、機械的強度、特に圧縮永久歪がより良好となる。
ここで、第3級アミノ基とは、いずれの結合手にも水素原子が結合していない窒素原子からなる基のことをいう。
【0031】
また、本発明においては、上記ポリアミン化合物(B)は、第2級アミノ基を有しているのが好まく、具体的には、ポリアルキレンイミンであるのが好ましい。第2級アミノ基を有していると、カルボン酸等と水素結合を形成することができ、機械的強度がより向上する。
ここで、第2級アミノ基とは、イミノ基(−NH−)のことをいう。
【0032】
このようなポリアミン化合物のうち、ポリエチレンイミンであるのが、第1級アミノ基を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有するとともに、第2級アミノ基および第3級アミノ基を有するため好ましい。
ここで、ポリエチレンイミンとは、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基を1:2:1程度の割合で有し、重量平均分子量が300〜100000程度のアミン化合物をいう。具体的には、例えば、以下に示す一般式で表す化合物である。
【0033】
【化2】

【0034】
本発明においては、このようなポリアミン化合物(B)を含有することにより、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物の引張特性や機械的強度が良好となる。
これは、ポリアミン化合物(B)が第1級アミノ基を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有することにより、上記アクリルゴム(A)のエステル結合部位との間でも水素結合が生じうるため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の水素結合性の架橋部位が増加し、分子間で三次元的架橋するためであると考えられる。
【0035】
また、本発明においては、上記ポリアミン化合物(B)の含有量が、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、0.1〜5.0質量部であるのが好ましく、1〜3質量部であるのがより好ましい。特に、上記アクリルゴム(A)中のカルボキシ基の数と上記ポリアミン化合物(B)中のアミノ基とイミノ基の合計数とを一致させるように含有させるのが好ましい。
ポリアミン化合物(B)の含有量がこの範囲であると、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性がより良好となる。
【0036】
更に、本発明においては、上記ポリアミン化合物(B)として、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、ポリエチレンイミン(エポミンSP−018、重量平均分子量1800、日本触媒社製)、ポリエチレンイミン(エポミンSP−200、重量平均分子量10000、日本触媒社製)、ポリエチレンイミン(エポミンSP−003、重量平均分子量300、日本触媒社製)、ポリエチレンイミン(エポミンSP−006、重量平均分子量600、日本触媒社製)、ポリエチレンイミン(エポミンSP−012、重量平均分子量1200、日本触媒社製)等を用いることができる。
【0037】
<ポリアミド化合物(C)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有するポリアミド化合物(C)は、主鎖中にアミド結合を有する重合体であれば特に限定されず、その具体例としては、ナイロン(登録商標。以下同様。)6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテルやポリエステルなどをソフトセグメントとして有するポリアミドエラストマーが好適に挙げられる。
【0038】
本発明においては、このようなポリアミド化合物(C)を含有することにより、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物が低粘度となり、成形性および再成形性が良好となる。これは、上記アクリルゴム(A)と上記ポリアミド化合物(C)とが相溶し、熱可塑性エラストマー組成物としての流動性が向上したためであると考えられる。
【0039】
また、本発明においては、上記ポリアミド化合物(C)は、後述するポリエステル化合物(D)を含有する場合は含有しなくてもよいが、後述するポリエステル化合物(D)とともに含有していてもよい。
上記ポリアミド化合物(C)を含有する場合の含有量は、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、1〜200質量部であるのが好ましく、10〜100質量部であるのがより好ましい。
【0040】
更に、本発明においては、上記ポリアミドエラストマーとしては、具体的には、例えば、UBESTA XPA(宇部興産社製)、VESTAMID(ダイセルヒュルス社製)、PEBAX(東レ社製)、GRILAX(大日本インキ社製)、NOBAMID EL(三菱化学社製)等の市販品を用いることができる。
【0041】
<ポリエステル化合物(D)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含有するポリエステル化合物(D)は、エステル結合を有する化合物であれば特に限定されず、その具体例としては、ポリエーテルエステル系可塑剤、ポリエステルワックス等が好適に挙げられる。
【0042】
本発明においては、このようなポリエステル化合物(D)を含有することにより、得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物が低粘度となり、成形性および再成形性が良好となる。これは上記アクリルゴム(A)と上記ポリエステル化合物(D)とが相溶し、熱可塑性エラストマー組成物としての流動性が向上したためであると考えられる。
【0043】
また、本発明においては、上記ポリエステル化合物(D)は、上述したポリアミド化合物(C)を含有する場合は含有しなくてもよいが、上述したポリアミド化合物(C)とともに含有していてもよい。
上記ポリエステル化合物(D)を含有する場合の含有量は、その種類により異なるため特に限定されないが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形物の伸び等の引張特性や、押出し加工時の肌状態の観点から、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、1〜45質量部であるのが好ましく、10〜30質量部であるのがより好ましい。
【0044】
更に、本発明においては、上記ポリエーテルエステル系可塑剤としては、具体的には、例えば、RS−735(ADEKA社製)等の市販品を用いることができ、上記ポリエステルワックスとしては、具体的には、例えば、グレックG−8205(大日本インキ社製)の市販品を用いることができる。
【0045】
本発明において、上記ポリアミド化合物(C)および上記ポリエステル化合物(D)をいずれも含有する場合の合計の含有量は、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、1〜200質量部であるのが好ましく、10〜100質量部であるのがより好ましい。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、老化防止剤や酸化防止剤を含有していることが好ましい。
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
老化防止剤や酸化防止剤の含有量は、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、0.1〜5質量部であるのが好ましく、0.5〜3質量部であるのがより好ましい。
【0047】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、補強剤としてカーボンブラックおよび/またはシリカを含有していることが好ましい。
カーボンブラックの種類は、用途に応じて適宜選択される。一般に、カーボンブラックは粒子径に基づいて、ハードカーボンとソフトカーボンとに分類される。ソフトカーボンはゴムに対する補強性が低く、ハードカーボンはゴムに対する補強性が強い。本発明では、特に、補強性の強いハードカーボンを用いることが好ましい。
カーボンブラックの含有量(カーボンブラック単独で用いる場合)は、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。
【0048】
シリカは、特に限定されず、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、けいそう土等が挙げられ、その含有量(シリカ単独で用いる場合)は、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。これらのうち、沈降シリカが好ましい。
補強剤としてシリカを用いる場合には、シランカップリング剤を併用できる。シランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(Si69)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(Si75)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、後述するアミノシラン化合物も用いることができる。
【0049】
カーボンブラックおよびシリカを併用する場合の含有量(カーボンブラックおよびシリカの合計量)は、上記アクリルゴム(A)100質量部に対して、0.1〜200質量部であり、1〜100質量部であることが好ましく、1〜80質量部であることがより好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、カーボンブラックおよびシリカ以外の補強剤(充填剤)、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0051】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記ポリアミン化合物(B)が架橋剤として機能するため特に必要ないが、本発明の目的を損わない範囲で加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を併用することもできる。
【0052】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上述したアクリルゴム(A)、ポリアミン化合物(B)、ポリアミド化合物(C)およびポリエステル化合物(D)、ならびに、必要に応じて含有してもよい各種添加剤等とを、ロール、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出し機、二軸押出し機、万能かくはん機等を用いて混合することにより製造する方法等が挙げられる。
【0053】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、自動車周り、ホース、ベルト、シート、防振ゴム、ローラー、ライニング、ゴム引布、シール材、手袋、防舷材、医療用ゴム(シリンジガスケット、チューブ、カテーテル)、ガスケット(家電用、建築用)、アスファルト改質剤、ホットメルト接着剤、ブーツ類、グリップ類、玩具、靴、サンダル、キーパッド、ギア、ペットボトルキャプライナー等の用途に好適に用いられる。
【0054】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、従来のアクリルゴム組成物に比して、同等程度の耐熱性および耐油性を保持しつつ、低粘度で成形性に優れ、引張特性や機械的強度にも優れるため、上記で例示した用途の中でも、耐熱性および耐油性ならびに機械的強度が特に要求される用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜6および比較例1〜3)
まず、200℃に設定した加圧ニーダーに、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴム(カルボン酸含有含有アクリルゴム)、ポリアミドエラストマー、ポリエーテルエステル系可塑剤、ポリエステルワックス、パラフィンオイル、および、フェノール系老化防止剤を下記表1に示す質量部投入し、5分間混練した。
その後、ポリエチレンイミン、または、エチレンジアミンを下記表1に示す質量部投入して更に10分間混練して反応させることで熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0056】
得られた各熱可塑性エラストマー組成物について、後述する方法によりJIS−A硬度、引張特性、機械的強度(圧縮永久歪)、耐油性および粘度を測定し、押出し加工性および成形性(再成形性)を評価した。その結果を下記表1に示す。
【0057】
<JIS−A硬度>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから円板状(直径29mm)の試験片を打ち抜き、得られた円板状試験片を7枚重ね、200℃で20分間熱プレスし、JIS K6253に準拠して、JIS−A硬度を測定した。
【0058】
<引張特性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251に準拠して行い、50%モジュラス(M50)[MPa]、100%モジュラス(M100)[MPa]、破断強度(TB)[MPa]、および、破断伸び(EB)[%]を室温にて測定した。
なお、実施例4で調製した熱可塑性エラストマー組成物は、破断伸びが88%であったため100%モジュラスは測定できず、下記表1中、「−」と表記している。同様に、実施例6で調製した熱可塑性エラストマー組成物は、破断伸びが13%であったため50%モジュラスおよび100%モジュラスは測定できず、下記表1中、「−」と表記している。
【0059】
<機械的強度(圧縮永久歪み)>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
作製したシートを7枚重ね合わせて200℃で20分間熱プレスし、円筒状のサンプル(直径29mm×厚さ12.5mm)を作製した。
この円筒状サンプルを、専用治具で25%圧縮し、100℃で24時間放置した後の圧縮永久歪みをJIS K6262に準じて測定した。
ここで、この圧縮永久歪の値が50%以下であれば、耐熱性および機械的強度が良好であると評価できる。
【0060】
<耐油性>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートから円板状(直径29mm)の試験片を打ち抜き、100℃のJIS 3号オイル中に、72時間浸漬させ、浸漬前後の体積変化率(%)を測定することにより行った。
【0061】
<粘度>
230℃、せん断速度243(s-1)下でのキャピラリー粘度をJIS K7199:1999に準じて測定した。キャピラリー粘度の値が2000Pa・s以下であれば、低粘度であり、作業性に優れるといえる。
【0062】
<押出し加工性>
押出し加工性は、上述した粘度の測定の際にキャピラリーレオメーターから押出された各熱可塑性エラストマー組成物の抽出し物(ストランド)の表面状態を目視により確認し、判定した。
ここで、ストランドの表面肌がスムーズなものを「○(非常に良好)」と評価し、ストランドが所々切断しているものを「×(不良)」と評価し、ストランドの一部表面に凹凸があるものを「△(実施上問題ない)」と評価し、ストランドの極一部の表面に凹凸があるものを「○〜△(良好)」と評価した。
【0063】
<成形性(再成形性)>
得られた各熱可塑性エラストマー組成物を200℃で10分間熱プレスし、2mm厚のシートを作製した。
このシートを細かく切断した後、再度熱プレスを行ってシート状物が成形できるか否かを確認した。
【0064】
【表1】

【0065】
上記表1中、カルボン酸含有アクリルゴム等は、以下に示すものを用いた。
・カルボン酸含有アクリルゴム:AR−14、日本ゼオン社製
・ポリアミドエラストマー:UBESTA XPA、宇部興産社製
・ポリエーテルエステル系可塑剤:RS−735、ADEKA社製
・ポリエステルワックス:グレックG−8205、大日本インキ社製
・パラフィンオイル:Sunpar2280、日本サン石油社製
・フェノール系老化防止剤:Irganox1010、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製
・ポリエチレンイミン:エポミンSP−200、重量平均分子量10000、日本触媒社製)
・エチレンジアミン:東京化成社製
【0066】
上記表1に示す結果から、ポリアミド化合物(C)およびポリエステル化合物(D)を用いずに調製した比較例1の熱可塑性エラストマー組成物は、引張特性に劣り、粘度が高く、成形性および押出し加工性が悪くなることが分かった。
また、ポリアミン化合物(B)には該当しないエチレンジアミンを用いて調製した比較例2の熱可塑性エラストマー組成物は、耐油性、耐熱性および機械的強度(圧縮永久歪)に劣り、押出し加工性が悪くなることが分かった。
更に、ポリアミド化合物(C)およびポリエステル化合物(D)を用いず、パラフィンンオイルを用いて調製した比較例3の熱可塑性エラストマー組成物は、引張特性および耐油性に劣り、粘度が高く、成形性および押出し加工性が悪くなることが分かった。
これに対し、アクリルゴム(A)、ポリアミン化合物(B)ならびにポリアミド化合物(C)および/またはポリエステル化合物(D)を含有する実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、いずれも耐熱性および耐油性を有し、再成形が可能であり、引張特性や機械的強度にも優れていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を側鎖に有するアクリルゴム(A)、および、第1級アミノ基を2個以上有し、かつ、分岐炭素および/または分岐窒素を有するポリアミン化合物(B)を含有し、
更に、ポリアミド化合物(C)および/またはポリエステル化合物(D)を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記ポリアミン化合物(B)が、第3級アミノ基を有する請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ポリアミン化合物(B)が、第2級アミノ基を有する請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記ポリアミン化合物(B)が、ポリアルキレンイミンである請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド化合物(C)が、ポリアミドエラストマーである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル化合物(D)が、ポリエステル系可塑剤である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。

【公開番号】特開2009−155441(P2009−155441A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334599(P2007−334599)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】