説明

熱可塑性シリコーン樹脂

【課題】取扱性および保存安定性に優れるとともに、製造効率の向上を図ることができる熱可塑性シリコーン樹脂を提供すること。
【解決手段】アミノ基を含有する側鎖を有するポリシロキサンと、カルボキシル基を含有する核酸塩基化合物とを反応させて、熱可塑性シリコーン樹脂を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性シリコーン樹脂、詳しくは、各種産業製品に広く利用できる熱可塑性シリコーン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーン樹脂は、各種皮膜形成材料や封止材、電気絶縁体などに広く利用されている。
【0003】
これらシリコーン樹脂の多くは、通常、常温において、液体であるために、取り扱いや保存が困難となる場合がある。そこで、取扱性および保存安定性に優れるシリコーン樹脂が種々検討されている。
【0004】
このようなシリコーン樹脂としては、例えば、アミノ酸部位を有する側鎖を含有するシリコーン樹脂(例えば、特許文献1参照)や、オルガノポリシロキサン−ポリ尿素のブロックコポリマーからなる熱可塑性シリコーン樹脂が提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−540040号公報
【特許文献2】特開2003−247173号公報
【特許文献3】特開2005−2340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のシリコーン樹脂は、アミノ酸部位による架橋度合が弱く、常温において、半固形または高粘性液体であるため、取扱性および保存安定性の向上を十分に図ることができないという不具合がある。
【0007】
また、特許文献2および3に記載の熱可塑性シリコーン樹脂は、尿素による多重水素結合により、常温において固体であるが、その製造段階において、水に対して高い反応性を有するイソシアネートを用いるため、湿気を避けて作業する必要がある。そのため、熱可塑性シリコーン樹脂の製造工程が煩雑となるという不具合がある。
【0008】
そこで、本発明は、取扱性および保存安定性に優れるとともに、製造効率の向上を図ることができる熱可塑性シリコーン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、アミノ基を含有する側鎖を有するポリシロキサンと、カルボキシル基を含有する核酸塩基化合物とを反応させることにより得られることを特徴としている。
【0010】
また、本発明では、前記核酸塩基化合物が、チミン、ウラシル、アデニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の核酸塩基を含有することが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、ポリシロキサンの側鎖が含有するアミノ基と、核酸塩基化合物が含有するカルボキシル基とが反応するため、核酸塩基を含む側鎖を有している。そして、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂では、側鎖の核酸塩基同士が2つ以上の水素結合を形成して、主鎖同士を疑似架橋するので、常温において、固体状態となり、取扱性および保存安定性の向上を図ることができる。
【0012】
また、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂では、原料となるポリシロキサンと核酸塩基化合物とが、定量的に反応し、また、イソシアネートと比較して水に対する反応性が低いため、製造効率の向上を図ることができる。
【0013】
したがって、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、取扱性および保存安定性の向上を図ることができながら、製造効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の熱可塑性シリコーン樹脂が、核酸塩基として、チミンおよびアデニンを有している場合の疑似架橋構造を説明するための概略説明図である。
【図2】本発明の熱可塑性シリコーン樹脂が、核酸塩基として、2つのチミンを有している場合の疑似架橋構造を説明するための概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、カルボキシル基を含有する核酸塩基化合物(以下、カルボキシル基含有核酸塩基化合物とする。)と、アミノ基を含有する側鎖を有するポリシロキサン(以下、アミノ基含有ポリシロキサンとする。)とを反応させることにより調製される。
【0016】
本発明の熱可塑性シリコーン樹脂を調製するには、まず、カルボキシル基含有核酸塩基化合物と、アミノ基含有ポリシロキサンとを混合し、混合物を調製する。
【0017】
カルボキシル基含有核酸塩基化合物は、カルボキシル基が炭化水素基を介して結合されている核酸塩基を含有する化合物であって、例えば、下記一般式(1)で示される。
一般式(1):
NB−Y−COH・・・(1)
一般式(1)におけるNBは、2以上の水素結合(多重水素結合)を形成可能な核酸塩基を示し、Yは、二価の炭化水素基を示し、−COHはカルボキシル基を示す。
【0018】
上記一般式(1)において、NBで示される核酸塩基は、水素結合を形成可能な原子団を2つ以上有する。詳しくは、水素結合を形成可能な原子団として、水素ドナーと水素アクセプターとを併有する。
【0019】
水素ドナーは、窒素、酸素、硫黄などの電気陰性度が大きな原子に共有結合している水素原子であって、例えば、水やアルコールのOH基、アミンやアミドのNH基、チオールのSH基などが挙げられる。
【0020】
水素アクセプターは、孤立電子対を有する電気的に陰性な原子であって、例えば、水やカルボニル基の酸素原子、含窒素芳香族化合物の窒素原子などが挙げられる。
【0021】
このような核酸塩基としては、例えば、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシルなどが挙げられる。
【0022】
このような核酸塩基のなかでは、好ましくは、アデニン、チミン、ウラシルが挙げられる。
【0023】
上記一般式(1)において、Yで示される二価の炭化水素基としては、例えば、直鎖、分岐鎖または環状の飽和または不飽和炭化水素基などが挙げられる。
【0024】
このような二価の炭化水素基の炭素数は、例えば、1〜60、入手性および得られる熱可塑性シリコーン樹脂の耐熱性を考慮すると、好ましくは、1〜50、さらに好ましくは、1〜30、とりわけ好ましくは、1〜6である。
【0025】
このような二価の炭化水素基のなかでは、好ましくは、メチレン、フェニレンが挙げられる。
【0026】
このようなカルボキシル基含有核酸塩基化合物としては、具体的には、1−(カルボキシメチル)チミン(下記化学式(1))、1−(4−カルボキシベンジル)チミン(下記化学式(2))、1−(カルボキシメチル)ウラシル(下記化学式(3))、1−(カルボキシメチル)シトシン(下記化学式(4))、9−(カルボキシメチル)アデニン(下記化学式(5))、9−(カルボキシメチル)グアニン(下記化学式(6))などが挙げられる。
【0027】
このようなカルボキシル基含有核酸塩基化合物のなかでは、入手性および経済性を考慮すると、好ましくは、カルボキシメチル基を有する核酸塩基である、1−(カルボキシメチル)チミン(下記化学式(1))、1−(カルボキシメチル)ウラシル(下記化学式(3))、1−(カルボキシメチル)シトシン(下記化学式(4))、9−(カルボキシメチル)アデニン(下記化学式(5))、9−(カルボキシメチル)グアニン(下記化学式(6))が挙げられ、さらに好ましくは、1−(カルボキシメチル)チミン(下記化学式(1))、1−(カルボキシメチル)ウラシル(下記化学式(3))、9−(カルボキシメチル)アデニン(下記化学式(5))が挙げられる。
化学式(1):
【0028】
【化1】

化学式(2):
【0029】
【化2】

化学式(3):
【0030】
【化3】

化学式(4):
【0031】
【化4】

化学式(5):
【0032】
【化5】

化学式(6):
【0033】
【化6】

このようなカルボキシル基含有核酸塩基化合物は、例えば、市販品を用いることもでき、また、例えば、特開昭47−30696号公報や、Journal of the American Chemical Society誌、1995年、117巻、5453頁などに記載の方法に従って合成したものを用いることもできる。
【0034】
カルボキシル基含有核酸塩基化合物の混合割合は、混合物全量に対して、例えば、0.1〜60質量%、好ましくは、0.1〜50質量%、さらに好ましくは、1〜20質量%である。
【0035】
アミノ基含有ポリシロキサンは、ポリシロキサンからなる主鎖と、その主鎖から枝分かれする、アミノ基を含有する側鎖とを有する高分子化合物であって、例えば、下記一般式(2)で示される。
一般式(2):
【0036】
【化7】

(式中、A、B、CおよびDは構成単位であり、AおよびDが末端単位、BおよびCが繰り返し単位を示し、Rは一価の炭化水素基を示し、Zは二価の有機基を示す。aは0または1以上の整数、bは2以上の整数を示す。但し、Rは、各構成単位A、B、CおよびDにおいて、それぞれ同一または異なっていてもよい。Zは、各構成単位Cにおいて、それぞれ同一または異なっていてもよい。)
上記一般式(2)において、Rで示される一価の炭化水素基としては、例えば、直鎖、分岐鎖または環状の飽和または不飽和の炭素数1〜18の炭化水素基などが挙げられ、入手性および得られる熱可塑性シリコーン樹脂の耐熱性を考慮すると、好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、さらに好ましくは、メチル基が挙げられる。
【0037】
上記一般式(2)において、Zで示される二価の有機基としては、例えば、アルキレン基、イミノ基含有アルキレン基(―R−NH−R−)などが挙げられる。
【0038】
アルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、iso−プロピレン、ブチレン、iso−ブチレン、sec−ブチレン、tert−ブチレン、ペンチレン、iso−ペンチレン、sec−ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2−エチルヘキシレン、ノニレン、デシレン、イソデシレン、ドデシレン、テトラデシレン、ヘキサデシレン、オクタデシレンなどの炭素数1〜18のアルキレン基が挙げられる。
【0039】
イミノ基含有アルキレン基((Si側)―R−NH−R−(NH側))としては、例えば、メチレン−イミノ−メチレン(−CHNHCH−)、メチレン−イミノ−エチレン(−CHNHCHCH−)、エチレン−イミノ−プロピレン(−CHCHNHCHCHCH−)、プロピレン−イミノ−エチレン(−CHCHCHNHCHCH−)、ヘキシレン−イミノ−エチレン(−CHCHCHCHCHCHNHCHCH−)などの炭素数1〜18のイミノ基含有アルキレン基が挙げられる。
【0040】
このような二価の有機基のなかでは、入手性および反応性を考慮すると、好ましくは、炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のイミノ基含有アルキレン基が挙げられ、さらに好ましくは、プロピレン、プロピレン−イミノ−エチレン((Si側)―CHCHCH−NH−CHCH−(NH側))が挙げられる。
【0041】
構成単位AおよびDは、末端単位であり、アミノ基含有ポリシロキサンの両末端にそれぞれ位置する。
【0042】
構成単位Bは、繰り返し単位であり、その繰り返し単位数(a)は、例えば、0〜15000、安定性を考慮すると、好ましくは、1〜10000、さらに好ましくは、5〜1000である。
【0043】
構成単位Cは、繰り返し単位であり、その繰り返し単位数(b)は、例えば、2〜15000、安定性を考慮すると、好ましくは、2〜10000、さらに好ましくは、5〜1000である。
【0044】
構成単位Bと構成単位Cとの繰り返し単位数の和(a+b)は、例えば、2〜15000、好ましくは、2〜10000、さらに好ましくは、10〜2000である。
【0045】
また、構成単位Cの繰り返し単位数に対する、構成単位Bの繰り返し単位数の比(a/b)は、例えば、1500/1〜1/1500、好ましくは、1000/1〜1/1000、さらに好ましくは、100/1〜1/100である。
【0046】
また、構成単位Bと構成単位Cとは,ランダム共重合していてもよく、ブロック共重合していてもよい。
【0047】
このようなアミノ基含有ポリシロキサンの分子量は、例えば、100〜1500000、安定性および取扱性を考慮すると、好ましくは、100〜1000000、さらに好ましくは、100〜100000である。
【0048】
また、このようなアミノ基含有ポリシロキサンのアミノ基当量は、例えば、100〜100000g/mol、好ましくは、1000〜10000g/molである。
【0049】
アミノ基当量は、H−NMR測定により求めることができる。
【0050】
また、このようなアミノ基含有ポリシロキサンとしては、具体的には、トリメチルシリル末端ポリ{ジメチルシロキサン−CO−メチル(3−アミノプロピル)シロキサン}、トリメチルシリル末端ポリ{ジメチルシロキサン−CO−メチル[3−(アミノエチルアミノ)プロピル]シロキサン}などが挙げられる。
【0051】
このようなアミノ基含有ポリシロキサンは、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。
【0052】
アミノ基含有ポリシロキサンの混合割合は、混合物全量に対して、例えば、40〜99.9質量%、好ましくは、50〜99.9質量%、さらに好ましくは、80〜99質量%である。
【0053】
また、アミノ基含有ポリシロキサンの構成単位Cにおけるアミノ(NH)基に対する、カルボキシル基含有核酸塩基化合物のカルボキシル(CO2H)基のモル比(カルボキシル基含有核酸塩基化合物のCO2H基/アミノ基含有ポリシロキサンの構成単位CにおけるNH基)は、例えば、1/15〜15/1、過不足なく反応させることを考慮すると、好ましくは、1/10〜10/1、さらに好ましくは、1/2〜2/1であり、とりわけ好ましくは、実質的に等量である。
【0054】
このため、アミノ基含有ポリシロキサンと、カルボキシル基含有核酸塩基化合物との配合割合は、構成単位CにおけるNH基と、カルボキシル(CO2H)基とのモル比を考慮して、適宜調整される。
【0055】
カルボキシル基含有核酸塩基化合物と、アミノ基含有ポリシロキサンとの混合方法としては、均一に混合されるのであれば、特に制限されないが、例えば、各成分に必要により、有機溶媒を加えて混合する。
【0056】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0057】
このような有機溶媒のなかでは、相溶性を考慮すると、好ましくは、アルコール類が挙げられる。
【0058】
有機溶媒の添加量は、混合物100質量部に対して、例えば、0.1〜1000質量部、好ましくは、1〜500質量部である。
【0059】
次いで、得られた混合物を、攪拌しながら、必要により加熱する。
【0060】
攪拌することにより、カルボキシル基含有核酸塩基化合物のカルボキシル基と、アミノ基含有ポリシロキサンの構成単位CにおけるNH基とが、中和塩形成反応により結合して、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂が調製される。
【0061】
反応条件としては、反応温度が、例えば、0〜200℃、好ましくは、20〜100℃、反応時間が、例えば、0.5〜96時間、好ましくは、10〜30時間である。
【0062】
なお、中和塩形成化反応の進行度は、IR測定によって、カルボキシル基含有核酸塩基化合物のカルボキシル基に由来するシグナルの強度によって確認することができ、シグナルが消失した段階で、反応が完結したものとみなす。
【0063】
以上のように、カルボキシル基含有核酸塩基化合物と、アミノ基含有ポリシロキサンとの混合物を攪拌することによって、熱可塑性シリコーン樹脂が調製される。
【0064】
また、調整された熱可塑性シリコーン樹脂には、上記成分に加えて、例えば、補強剤、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤など公知の添加剤を適宜の割合で添加することもできる。
【0065】
このような熱可塑性シリコーン樹脂は、アミノ基含有ポリシロキサンに由来する、ポリシロキサンからなる主鎖と、カルボキシル基含有核酸塩基化合物に由来する、主鎖から枝分かれする側鎖を有する。
【0066】
そして、側鎖は、水素結合を形成可能な原子団を2つ以上有する核酸塩基を含んでいる。
【0067】
そのため、このような本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、その核酸塩基が多重水素結合を形成し、主鎖同士を疑似架橋する。
【0068】
例えば、図1には、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂が、核酸塩基として、チミンおよびアデニンを有する場合に形成される多重水素結合が示されている。
【0069】
チミンは、水素結合を形成可能な原子団として、水素ドナーである窒素原子に結合した水素原子と、水素アクセプターであるカルボニル基の酸素原子とを有している。
【0070】
また、アデニンは、水素結合を形成可能な原子団として、水素ドナーであるアミノ基の水素原子と、水素アクセプターである芳香族環の窒素原子を有している。
【0071】
そして、チミンおよびアデニンが互いに近傍に位置するとき、チミンの水素ドナーとアデニンの水素アクセプター、および、チミンの水素アクセプターとアデニンの水素ドナーとが、それぞれ水素結合し、二重水素結合を形成する。そのため、熱可塑性シリコーン樹脂の主鎖は、その二重水素結合により、互いに疑似架橋される。
【0072】
また、図2には、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂が、核酸塩基として、2つのチミンを有する場合に形成される多重水素結合が示されている。
【0073】
この場合、それぞれのチミンが互いに近傍に位置するとき、一方のチミンの水素ドナーと他方のチミンの水素アクセプター、および、一方のチミンの水素アクセプターと他方のチミンの水素ドナーとが、それぞれ水素結合し、二重水素結合を形成する。そのため、熱可塑性シリコーン樹脂の主鎖は、その二重水素結合により、互いに疑似架橋される。
【0074】
このような多重水素結合の結合エネルギーは、一般に、共有結合の結合エネルギーよりは、はるかに小さいものの単一の水素結合の結合エネルギーよりも大きい。
【0075】
その結果、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、主鎖同士が多重水素結合により疑似架橋されるため、常温において固体となる。また、加熱すると水素結合が解離してゲル状または液状となり、熱可塑性挙動を示し、再度冷却すると、多重水素結合を形成して、樹脂は固体状態に戻る。つまり、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂の熱可塑性挙動は可逆的である。なお、本願明細書において、「常温」とは、15〜35℃を意味している。
【0076】
このような熱可塑性シリコーン樹脂の軟化点は、例えば、40〜150℃、好ましくは、45〜100℃である。
【0077】
そのため、熱可塑性シリコーン樹脂の取扱性および保存安定性の向上を図ることができる。
【0078】
また、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂では、原料となるアミノ基含有ポリシロキサンと、カルボキシル基含有核酸塩基化合物とが、定量的に反応し、また、イソシアネートと比較して水に対する反応性が低いため、製造効率の向上を図ることができる。
【0079】
したがって、本発明の熱可塑性シリコーン樹脂は、取扱性および保存安定性の向上を図ることができながら、製造効率の向上を図ることができる。
【0080】
本発明の熱可塑性シリコーン樹脂の用途としては、透明性に優れることから、例えば、コーティング剤、半導体封止材、レンズ材料、シリコーン樹脂の添加剤などが挙げられる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではない。
【0082】
実施例1
トリメチルシリル末端ポリ{ジメチルシロキサン−CO−メチル(3−アミノプロピル)シロキサン}6.28g(上記一般式(2)におけるRがすべてメチル基、Zがプロピレン基で表されるアミノ基含有ポリシロキサン、アミノ基当量3800g/mol)と、1−(カルボキシメチル)チミン0.301g(1.60mmol)とをエタノール7mLに溶解し、室温で1時間攪拌した。その後、減圧下、で溶媒を留去することにより、熱可塑性シリコーン樹脂を得た。なお、アミノ基含有ポリシロキサンのNH基に対する、1−(カルボキシメチル)チミンのカルボキシル基のモル比(COH/NH)は1/1であった。
【0083】
実施例2
実施例1の1−(カルボキシメチル)チミンに代えて、1−(カルボキシメチル)ウラシル0.280g(1.61mmol)を用いた点、攪拌時間を24時間に変更した点以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性シリコーン樹脂を得た。なお、アミノ基含有ポリシロキサンのNH基に対する、1−(カルボキシメチル)ウラシルのカルボキシル基のモル比(COH/NH)は1/1であった。
【0084】
実施例3
1−(カルボキシメチル)チミンに代えて、1−(カルボキシメチル)アデニン0.311g(1.61mmol)を用いた点、攪拌時間を24時間に変更した点以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性シリコーン樹脂を得た。なお、アミノ基含有ポリシロキサンのNH基に対する、1−(カルボキシメチル)アデニンのカルボキシル基のモル比(COH/NH)は1/1であった。
【0085】
実施例4
トリメチルシリル末端ポリ{ジメチルシロキサン−CO−メチル[3−(アミノエチルアミノ)プロピル]シロキサン}8.50g(上記一般式(2)におけるRがすべてメチル基、Zがプロピレン−イミノ−エチレン基(−CHCHCHNHCHCH−)で表されるアミノ基含有ポリシロキサン、アミノ基当量1700g/mol)と、1−(カルボキシメチル)チミン0.937g(4.98mmol)とをエタノール10mLに溶解し、室温で1時間攪拌した。その後、減圧下、で溶媒を留去することにより、熱可塑性シリコーン樹脂を得た。なお、アミノ基含有ポリシロキサンのNH基に対する、1−(カルボキシメチル)チミンのカルボキシル基のモル比(COH/NH)は1/1であった。
【0086】
実施例5
1−(カルボキシメチル)チミンを0.703g(3.74mmol)を用いた以外は、実施例4と同様にして、熱可塑性シリコーン樹脂を得た。なお、アミノ基含有ポリシロキサンのNH基に対する、1−(カルボキシメチル)チミンのカルボキシル基のモル比(COH/NH)は0.75/1であった。
【0087】
比較例1
トリメチルシリル末端ポリ{ジメチルシロキサン−CO−メチル(3−アミノプロピル)シロキサン}6.28g(上記一般式(2)におけるRがすべてメチル基、Zがプロピレン基で表されるアミノ基含有ポリシロキサン、アミノ基当量3800g/mol)と、N−アセチルアラニン0.210g(1.60mmol)とをエタノール7mLに溶解し、室温で1時間攪拌した。その後、減圧下、で溶媒を留去することにより、熱可塑性シリコーン樹脂を得た。なお、アミノ基含有ポリシロキサンのNH基に対する、N−アセチルアラニンのカルボキシル基のモル比(COH/NH)は1/1であった。
【0088】
試験例1(熱可塑性)
各実施例および比較例で得られた熱可塑性シリコーン樹脂をホットプレートを用いて、30〜200℃に加熱し、固体状態のものが完全に液状になる温度を目視により確認した。その結果を表1に示す。
【0089】
試験例2(耐熱性)
各実施例および比較例で得られた熱可塑性シリコーン樹脂を、加熱して軟化させた状態で、アプリケーターを用いて厚さ500μmになるように成膜し、フィルムを調製した。このフィルムの波長450nmにおける光透過率(%)を、分光光度計(U−4100、日立ハイテク社製)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を含有する側鎖を有するポリシロキサンと、
カルボキシル基を含有する核酸塩基化合物とを反応させることにより得られることを特徴とする、熱可塑性シリコーン樹脂。
【請求項2】
前記核酸塩基化合物が、チミン、ウラシル、アデニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の核酸塩基を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性シリコーン樹脂。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−214684(P2012−214684A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268708(P2011−268708)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】