説明

熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物

【課題】 層状粘土鉱物が均一に分散されてなることから、強度、透明性等に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ウレタンプレポリマー及びジオールの合計量100重量部に対して、HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を混合し、該ウレタンプレポリマーを鎖延長反応して得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に関するものであり、特に強度、透明性等に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、引張強度、圧縮永久歪みなどの力学物性、耐摩耗性に優れ、幅広い温度範囲でゴム弾性を示すことから、工業部品、日用品、車両内装材、スポーツ用品等として幅広く利用されている。一般的に熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネートおよび低分子量ジオールなどの鎖延長剤を反応することにより得られ、ジイソシアネートと鎖延長剤からなるハードセグメント、およびポリオールを主成分とするソフトセグメントにより構成される。
【0003】
そして、熱可塑性ポリウレタン樹脂の力学物性や耐熱性、ガスバリア性等を向上させるため、熱可塑性ポリウレタン樹脂に層状粘土鉱物を分散させる試みがなされている。しかしながら、層状粘土鉱物は親水性が高く、単に熱可塑性ポリウレタン樹脂と混合する方法では、ポリウレタン樹脂中で層状粘土鉱物が凝集してしまい、層状粘土鉱物の添加効果が十分に得られない、という課題があった。
【0004】
そこで、層状粘土鉱物を熱可塑性ポリウレタン樹脂中に均一に分散する方法として、様々な方法が提案されており、例えば、陽イオン交換容量が30ミリ当量/100g以上の層状珪酸塩を、灰分量として0.01ないし10重量%含むことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン組成物とすること(例えば特許文献1参照。)、有機変性層状粘土鉱物を層間分離させて熱可塑性ウレタンエラストマー中に微分散させた熱可塑性ウレタンエラストマー複合材料(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−041315号公報(特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開2004−059660号公報(特許請求の範囲参照。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1における層状珪酸塩の均一な分散性とは、分散粒子の平均粒径が5000オングストローム以下である状態を指し、該平均粒径は、例えば透過型電子顕微鏡観察による画像により求められる量であることが記載されている。また、特許文献2では、層状粘土鉱物の微分散とは熱可塑性ウレタンエラストマー中に有機変性層状粘土鉱物を分散した際、有機変性層状粘土鉱物の層間距離が1.3ナノメートル以上広がっている状態のことをいう、と記載されており、これら分散性は、層状粘土鉱物の配合効果を十分に発揮させるうえで依然課題を有するものあり、更なる分散性の向上が望まれていた。
【0007】
さらに、特許文献1の熱可塑性ポリウレタン組成物は層間化合物0.01〜40重量部と、熱可塑性ポリウレタン100重量部とを機械的剪断下溶融混合して得られるものであり、また、特許文献2の熱可塑性ウレタンエラストマーは層間に有機物を挿入した層状粘土鉱物と数平均分子量が5000〜40000である熱可塑性ウレタンエラストマーとを溶融混錬することで得られるものである。これら溶融混錬により製造された熱可塑性エラストマーについては、熱劣化や黄変が懸念され、また、溶融混錬によるコストを伴うものとなる、等の課題を有するものであった。
【0008】
そこで、本発明は、層状粘土鉱物の分散性を高め、強度、透明性等に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、特定の有機化剤で処理された層状粘土鉱物との組み合わせからなり、かつ特定の方法で製造された熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が、優れた強度、透明性等を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ウレタンプレポリマー及びジオールの合計量100重量部に対して、HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物0.1〜10重量部を混合し、該ウレタンプレポリマーを鎖延長反応して得られることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に関するものである。
【0011】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物の存在下で、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤であるジオールにより鎖延長し熱可塑性ポリウレタンとすることにより調製される樹脂組成物である。
【0012】
そして、該ウレタンプレポリマーは、ポリオールと該ポリオールに対して過剰量のジイソシアネートとを反応させることにより得られ、末端基としてイソシアネート基を有するものである。
【0013】
該ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDIと記すこともある。)、トルエンジイソシアネート、1,5−フタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられ、なかでも、特に優れた強度を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートであることが好ましい。
【0014】
また、該ポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等のポリアルキレングリコール;アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、フマル酸等の2塩基酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコ−ル,ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の低分子量ジオール成分との重縮合により得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトンやメチルバレロラクトン等の環状エステルの開環重合によって得られるラクトン系ポリエステルポリオール;1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の低分子量ジオール成分に炭酸ジフェニルあるいはホスゲンを作用させて縮合させたポリカーボネートジオール;ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、およびこれらの水添物等のポリオレフィンポリオール;ヒマシ油変性ポリオール、ダイマー酸変性ポリオール、大豆油変性ポリオール等の植物油系ポリオールなどが挙げられ、なかでも、特に優れた強度の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、ポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0015】
該ポリオールの分子量としては、目的とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物に応じて選択すればよく、特に強度に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、500〜3000のものが好ましい。該ポリオールは1種類または2種以上が組み合わされたものであってもよく、また、その比率は特に制限はなく、用途に応じて任意に設定できる。
【0016】
そして、該ウレタンプレポリマーは、該ジイソシアネートおよび該ポリオールを混合し、ウレタン化反応の際には、必要に応じ、アミン化合物や有機金属化合物などの触媒を添加することができる。アミン触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルヘキシレンジアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノオクチルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。また、有機金属化合物としては、例えば、酢酸錫、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジメチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジクロリドなどの錫系触媒などが挙げられる。触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0017】
なお、該ウレタンプレポリマーとする際の該ジイソシアネートと該ポリオールとの割合はウレタンプレポリマーが得られる限りにおいて任意であり、その中でも、柔軟性と強度のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、ポリオールの水酸基モル数を(MOH1)、ジイソシアネートのイソシアネート基モル数を(MNCO)とした場合の(MNCO)/(MOH1)の値が、1.5〜8の範囲のウレタンプレポリマーであることが好ましい。
【0018】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂は、該プレポリマーを鎖延長剤であるジオールにより鎖延長することにより得られるものである。そして、該ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール,ジエチレングリコ−ル,2−メチル−1,3−プロパンジオール,3−メチル−1,5−ペンタンジオール,シクロヘキサンジオール,シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、このなかでも、特に優れた強度の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が得られることから、1,4−ブタンジオールであることが好ましい。
【0019】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成する層状粘土鉱物としては、HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物であれば如何なるものを用いることも可能であり、該層状粘土鉱物は、層状粘土鉱物をHLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンで処理し、層間に存在するナトリウムやカルシウムなどの交換性陽イオンをアンモニウムイオンによりイオン交換する方法、層状粘土鉱物の表面に存在する水酸基を利用し、化学結合あるいは水素結合により変性する方法、等の方法により得ることができる。ここで、未処理の層状粘土鉱物又はHLB値が−5〜1の範囲外である4級アンモニウムイオンで処理した層状粘土鉱物である場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂への分散性が乏しくなり、目的の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得ることはできない。ここで、HLB値とは親水性と疎水性の程度を表す値であり、HLB値が高い程、親水性が高いことを示す。また、本発明におけるHLB値とは、例えばデイビス法により求めることが可能であり、デイビス法によれば、官能基に固有の基数を定め、「HLB値=7+親水基の基数の総和−親油基の基数の総和」と定義される。
【0020】
そして、層状粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイトなどのスメクタイト系粘土鉱物;バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等が挙げられ、これら層状粘土鉱物は天然物であっても、合成物であってもよく、更に、1種類又は2種以上が組み合わされたものでもよく、その比率は特に制限されるものではない。
【0021】
また、HLB値が−5〜1の範囲内の4級アンモニウムイオンとしては、該HLB値の範囲内であるものであれば特に制限はなく、例えば炭素数1〜20のアルキル基、該アルキル基の混合物である牛脂、該牛脂を水素化した水素化牛脂、を有する4級アンモニウムイオンが挙げられる。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、あるいはテトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基を挙げることができる。そして、該4級アンモニウムイオンの具体的例示としては、ジメチルジオクタデシル4級アンモニウムイオン(HLB値;−1.7)、ジメチルジ牛脂4級アンモニウムイオン(HLB値;−0.9)、ジメチルジ水添牛脂4級アンモニウムイオン(HLB値;−0.9)、などが挙げられる。
【0022】
そして、該HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物は、市販品であってもよく、例えばジメチルジ水添牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理されたモンモリロナイト(Southern Clay Products社製、(商品名)Cloisite20A)、ジメチルジオクタデシル4級アンモニウムイオンで有機化処理されたモンモリロナイト(株式会社ホージュン製、(商品名)エスベンNX)、ジメチルジ牛脂4級アンモニウムイオンで有機化処理された膨潤性マイカ(コープケミカル株式会社製、(商品名)ソマシフMAE)などが市販品として入手が可能である。
【0023】
該4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物に含まれる4級アンモニウムイオン量に特に制限なく、その中でも特に透明性と強度に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、10〜70重量%であることが好ましい。
【0024】
また、該4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物は、特に透明性に優れる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、0.5μm〜10μmの平均一次粒子径を有するものであることが好ましい。
【0025】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、該ウレタンプレポリマー及び該ジオールの合計量100重量部に対して、HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理された層状粘土鉱物0.1〜10重量部を混合し、該ウレタンプレポリマーを鎖延長反応させてなるものであり、特に強度、透明性に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから1〜10重量部を配合してなるものであることが好ましい。ここで、該層状粘土鉱物が0.1重量部未満である場合、得られるポリウレタン樹脂組成物は機械強度に乏しいものとなる。一方、該層状粘土鉱物が10重量部を超える場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物中で層状粘土鉱物が凝集し、分散性が乏しくなる結果、強度、透明性が劣る熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となる。
【0026】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、ウレタンプレポリマー及びジオールからなる混合物とHLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理した層状粘土鉱物を混合した後、該ウレタンプレポリマーを鎖延長反応により高分子量化し、熱可塑性ポリウレタン樹脂とするものであり、これにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に層状粘土鉱物が良好に分散し、その結果、強度、透明性に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となるものである。ここで、熱可塑性ポリウレタン樹脂に直接層状粘土鉱物を混合、分散させて得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の場合、層状粘土鉱物の分散性が劣るものとなり、強度、透明性に劣るものとなる。この理由については、低分子量のポリマーは高分子量のポリマーに対して、微細な粒子をポリマー中により良好に分散させる性質を有することから、予め、ウレタンプレポリマー中に層状粘土鉱物を分散させておき、その後に、鎖延長反応させることで、熱可塑性ポリウレタン樹脂中でも良好な分散性が維持されるものと考えられる。また、層状粘土鉱物表面のHLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンはウレタンプレポリマーとの親和性が高く、その結果、層状粘土鉱物の表面と熱可塑性ポリウレタン樹脂との界面の接着性が高まるため、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の強度が特に優れたものとなる。
【0027】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、該層状粘土鉱物の分散性に優れ、透明性、強度に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、JIS K 7136(2000年版)に準拠し、試験片の厚み0.5mmの条件で測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のヘイズ値より同様にして測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂のヘイズ値を差し引いた値、すなわちデルタヘイズが0〜10%の範囲内を有するものであることが好ましい。
【0028】
そして、従来、層状粘土鉱物の分散性を評価する方法として、透過型電子顕微鏡(TEMと称することもある。)による分散状態の直接観察、X線回折法による層状粘土鉱物の層間距離の測定が利用されている。しかし、TEMによる直接観察は試料の極めて限られた部分の分散状態を観察する場合に適した評価方法であり、TEM観察の結果が必ずしも試料全体の平均的な分散性を示すものとは言えない。また、層状粘土鉱物の層間距離については、該評価方法により必ずしも層状粘土鉱物の凝集の有無を判断できるものではない。一方、デルタへイズの増加は、ヘイズを指標とした熱可塑性ポリウレタン樹脂の透明性が層状粘土鉱物を配合することで悪化することであり、これは層状粘土鉱物の凝集物がポリウレタン樹脂内に生成し、分布していることを示す。そして、このような凝集物の生成により、層状粘土鉱物の配合効果が乏しくなるばかりか、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の透明性、強度は著しく低下するのである。従い、該デルタヘイズによる評価は本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物における層状粘土鉱物の分散性評価に適したものであり、透明性、強度等の指標ともなるものである。
【0029】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成するHLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理した層状粘土鉱物を熱可塑性ポリウレタン樹脂中に均一に分散させた場合の強度に対する効果としては、例えば引張強さの向上などが挙げられる。
【0030】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法としては、例えば、該ウレタンプレポリマーおよびジオールからなる混合物とHLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理した層状粘土鉱物とを一般的な方法により混合した後、該ウレタンプレポリマー混合物を溶融混錬装置に供給し、ウレタンプレポリマーをジオールにより鎖延長反応させる方法、あるいは該ウレタンプレポリマー混合物を金型に充填し、該金型内で鎖延長反応させる方法などにより製造することができる。また、鎖延長反応は溶媒中に該ウレタンプレポリマー混合物を溶解あるいは分散させて行うこともできる。このように、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する工程において層状粘土鉱物を混合、分散することにより得られるものであることから、熱可塑性ポリウレタン樹脂と層状粘土鉱物を溶融混錬するなどして得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と比較して、製造コストを低く抑えたものとなるのである。
【0031】
また、該ウレタンプレポリマーを鎖延長させる反応においては、必要に応じ、アミン化合物や有機金属化合物などの触媒を添加することができる。アミン触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルヘキシレンジアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノオクチルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。また、有機金属化合物としては、例えば、酢酸錫、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジメチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジクロリドなどの錫系触媒などが挙げられる。触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0032】
なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物とする際の該ウレタンプレポリマーと該ジオールとの割合は熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が得られる限りにおいて任意であり、その中でも、特に強度や成形性に優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂となることから、ポリオールの水酸基モル数を(MOH1)、該ジオールの水酸基モル数を(MOH2)、ジイソシアネートのイソシアネート基モル数を(MNCO)とした場合の(MNCO−MOH1)/(MOH2)の値が0.9〜1.2の範囲であることが好ましい。
【0033】
このようにして得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、特に強度と成形性のバランスに優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物となることから、50000〜1000000の範囲であることが好ましい。
【0034】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、従来公知の成形方法により成形体とすることができ、例えば射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト法射出成形、溶融押出成形、多層押出成形、溶液キャスティング(溶液流延)、カレンダー成形、回転成形、熱プレス成形、ブロー成形、インフレーション成形、発泡成形などの方法により、射出成形体、フィルム、チューブ、シート、パイプ、ボトルなどに成形することができる。
【0035】
また、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は優れた強度、透明性等を有することから、例えば下記の用途に使用することができる。
【0036】
自動車部品;タイヤ用インナーライナー、ボールジョイント、ダストカバー、ペダルストッパー、ドアーロックストライカー、ブッシュ、スプリングカバー、軸受け、防振部品、内外装部品、タイヤチェーン、サイドモールド、タイミングベルト、ヘッドレスト、座席シート。
【0037】
機械、工業部品;各種ギアー、シール材、ローラー、パッキン、防振部品、ピッカー、ブッシュ、軸受け、キャップ、コネクター、ラバースクリーン、印字ドラム、Oリング、キャスター。
【0038】
靴;野球、ゴルフ、サッカーシューズ等のソールおよびポイント、エアークッション、婦人靴トップリフト、スキー靴、安全靴。
【0039】
ホース、チューブ;高圧ホース、医療用チューブ、油・空圧チューブ、エアチューブ、燃料チューブ、塗装用ホース、消防用ホース。
【0040】
電線、ケーブル;電力・通信ケーブル、コンピュータ・自動車配線、各種カールコード
その他;コンベアーベルト、エアーマット、ダイアフラム、キーボードシート、防水シート、合成皮革、ライフジャケット、ウェットスーツ、ローラー、グリップ、時計バンド、ゴルフボール、イヤータッグ、各種ロープ、丸ベルト、Vベルト、スリップ止め、視線誘導標、フレキシブルコンテナー、バインダー、ホットメルト、接着剤、合成皮革、ロープ・ワイヤ・手袋等のコーティング、食品・医療用包装材料、人工臓器、人工皮膚、紙おむつ、傷バンド、壁紙。
【発明の効果】
【0041】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、層状粘土鉱物が均一に分散され、強度や透明性等に優れるものであることから、様々な用途において使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0043】
以下に、各物性値の測定方法を示す。
【0044】
〜引張強さ、伸び〜
JIS K 7311(1995年)に準拠し、引張速度:300mm/分の条件で測定した。試験片の厚みは0.5mmとした。
【0045】
〜デルタヘイズの測定〜
JIS K 7136(2000年)に準拠して測定した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のヘイズ値より熱可塑性ポリウレタン樹脂のヘイズ値を差し引いた値をデルタヘイズとして求めた。試験片の厚みは0.5mmとした。
【0046】
〜YIの測定〜
JIS K 7373(2006年)に準拠し測定した。試験片の厚みは0.5mmとした。
【0047】
〜ポリオール〜
ポリオールA;日本ポリウレタン工業(株)製ポリエステルポリオール、(商品名)ニッポラン152、分子量:2000、水酸基価:56mgKOH/g。
【0048】
ポリオールB;日本ポリウレタン工業(株)製ポリエステルポリオール、(商品名)ニッポラン141、分子量:1000、水酸基価:105mgKOH/g。
【0049】
〜ジイソシアネート〜
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す。);日本ポリウレタン工業(株)製(商品名)ミリオネートMT。
【0050】
〜層状粘土鉱物〜
層状粘土鉱物A;株式会社ホージュン製、(商品名)エスベンNX(ジメチルジオクタデシル4級アンモニウムイオン(HLB値;−1.7)で有機化処理されたモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.6μm、有機物量=42重量%)。
【0051】
層状粘土鉱物B;株式会社ホージュン製、(商品名)エスベンNX80(ジメチルジオクタデシル4級アンモニウムイオン(HLB値;−1.7)で有機化処理されたモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.6μm、有機物量=50重量%)。
【0052】
層状粘土鉱物C;Southern Clay Products社製、(商品名)Cloisite20A(ジメチルジ水添牛脂4級アンモニウムイオン(HLB値;−0.9)で有機化処理されたモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.7μm、有機物量=38重量%)。
【0053】
層状粘土鉱物D;コープケミカル株式会社製、(商品名)ソマシフMAE(ジメチルジ牛脂4級アンモニウムイオン(HLB値;−0.9)で有機化処理された膨潤性マイカ、平均一次粒子径=7μm、有機物量=39重量%)。
【0054】
層状粘土鉱物E;株式会社ホージュン製、(商品名)エスベンNz(ジメチルオクタデシルベンジル4級アンモニウムイオン(HLB値;3.6)で有機化処理されたモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.6μm、有機物量=38重量%)。
【0055】
層状粘土鉱物F;株式会社ホージュン製、(商品名)エスベンNz70(ジメチルオクタデシルベンジル4級アンモニウムイオン(HLB値;3.6)で有機化処理されたモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.6μm、有機物量=51重量%)。
【0056】
層状粘土鉱物G;株式会社ホージュン製、(商品名)エスベンE(トリメチルオクタデシル4級アンモニウムイオン(HLB値;6.4)で有機化処理されたモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.6μm、有機物量=26重量%)。
【0057】
想像粘土鉱物H;Southern Clay Products社製、(商品名)CloisiteNa(有機化処理されていないモンモリロナイト、平均一次粒子径=1.7μm)
合成例1
窒素パージした1リットルセパラブルフラスコにMDI142g(MNCO:1.13mol)、ポリオールA420g(MOH1:0.42mol)を仕込み、80℃で1時間20分反応を行い、ウレタンプレポリマーAを得た。
【0058】
合成例2
窒素パージした1リットルセパラブルフラスコにMDI165g(MNCO:1.32mol)、ポリオールA330g(MOH1:0.33mol)を仕込み、80℃で1時間20分反応を行い、ウレタンプレポリマーBを得た。
【0059】
合成例3
窒素パージした1リットルセパラブルフラスコにMDI215g(MNCO:1.72mol)、ポリオールB340g(MOH1:0.64mol)を仕込み、80℃で1時間20分反応を行い、ウレタンプレポリマーCを得た。
【0060】
参考例1
300mlのポリプロピレン製ビーカーに合成例1で得られたウレタンプレポリマーA105gを供し、これに1,4−ブタンジオール6.6g(MOH2:0.15mol)を添加した後、分散機(プライミクス(株)製、(商品名)T.K.ロボミックス)を用い、該ウレタンプレポリマー混合物を1400回転の条件で2分間攪拌した。次いで、得られたウレタンプレポリマー混合物を内容量100mlのバッチ式溶融混錬ミキサーに充填し、190℃の条件で11分間溶融混錬を行うことにより鎖延長反応させ、熱可塑性ポリウレタン樹脂Aを得た。
【0061】
次いで、得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂を用い、190℃の条件で熱プレス成形を行い、厚み:0.5mmの試験片を得た。なお、得られた試験片は105℃、16時間の条件で熱処理を行った後、23℃、湿度:50%の雰囲気下に24時間以上静置した後、物性測定を行った。その結果を表3に示す。
【0062】
参考例2〜3
ウレタンプレポリマーB〜C、1,4−ブタンジオールの配合割合を表3に示すように変更した以外は、参考例1と同様の方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂B〜Cおよび試験片を得た。本試験片を用いて物性測定を行った結果を表3に示す。
【0063】
実施例1
300mlのポリプロピレン製ビーカーに合成例1で得られたウレタンプレポリマーA105gを供し、これに1,4−ブタンジオール6.6g(MOH2:0.15mol)および層状粘土鉱物A3.0gを添加した後、分散機(プライミクス(株)製、(商品名)T.K.ロボミックス)を用い、該ウレタンプレポリマー混合物を1400回転の条件で2分間攪拌した。次いで、得られたウレタンプレポリマー混合物を内容量100mlのバッチ式溶融混錬ミキサーに充填し、190℃の条件で11分間溶融混錬を行うことにより鎖延長反応させ、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0064】
次いで、得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を用い、190℃の条件で熱プレス成形を行い、厚み:0.5mmの試験片を得た。なお、得られた試験片は105℃、16時間の条件で熱処理を行った後、23℃、湿度:50%の雰囲気下に24時間以上静置した後、物性測定を行った。その結果を表2に示す。
【0065】
実施例2〜7
ウレタンプレポリマーA〜C、1,4−ブタンジオール、層状粘土鉱物A〜Dの配合割合を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物および試験片を得た。本試験片を用いて物性測定を行った結果を表4に示す。
【0066】
比較例1
参考例1の方法により得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂A111gと層状粘土鉱物A3.0gを内容量100mlのバッチ式溶融混錬ミキサーに充填し、190℃の条件で11分間溶融混錬を行うことにより熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を得た。次いで、実施例1と同様の方法により、試験片を得た。本試験片を用いて物性測定を行った結果を表5に示す。
【0067】
比較例2
参考例2の方法により得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂Bを用い、比較例1と同様の方法により熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物および試験片を得た。本試験片を用いて物性測定を行った結果を表5に示す。
【0068】
比較例3
参考例3の方法により得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂Cを用い、比較例1と同様の方法により熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物および試験片を得た。本試験片を用いて物性測定を行った結果を表5に示す。
【0069】
比較例4〜8
ウレタンプレポリマーA、1,4−ブタンジオール、層状粘土鉱物A、E、F、G、Hの配合割合を表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物および試験片を得た。本試験片を用いて物性測定を行った結果を表5に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、強度や透明性等に優れるものであることから、産業上の様々な用途の原材料として利用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンプレポリマー及びジオールの合計量100重量部に対して、HLB値が−5〜1の範囲内である4級アンモニウムイオンにて処理した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を混合し、該ウレタンプレポリマーを鎖延長反応して得られることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
ウレタンプレポリマーが4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびポリエステルポリオールよりなるウレタンプレポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
ジオールが1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
層状粘土鉱物が、平均一次粒子径0.5μm〜10μmを有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
JIS K 7136(2000年版)に準拠し、試験片の厚み0.5mmの条件で測定したヘイズ値より、下記式(1)により算出したデルタヘイズ値が0〜10%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
デルタヘイズ(%)=(a−b) (1)
(ここで、aは熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のヘイズ値、bは熱可塑性ポリウレタン樹脂のヘイズ値を示す。)
【請求項6】
ウレタンプレポリマー及びジオールの合計量100重量部に対して、HLB値が−5〜1の範囲内にある4級アンモニウムイオンにて処理した層状粘土鉱物0.1〜10重量部を混合し、該ウレタンプレポリマーを鎖延長反応してなることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−153859(P2012−153859A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16616(P2011−16616)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】