説明

熱可塑性ポリカーボネート組成物、その製造方法及び使用方法

【課題】
ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物とを組み合わせて含む熱可塑性組成物。
【解決手段】
衝撃改良剤組成物の成分はポリカーボネートを劣化させる化学種を実質的に含まず、これらの成分は塊状重合したABS及びABSとは異なる衝撃改良剤を含んでいる。本組成物は良好な熱安定性及び/又は衝撃強さと組み合わせて大幅に増大した加水分解安定性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネートを含む熱可塑性組成物、その製造方法、及びその使用方法、特に改良された安定性を有する耐衝撃性が改良された熱可塑性ポリカーボネート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、自動車部品から電子機器まで広範囲の用途の物品や部品の製造に有用である。一般に、組成物の靭性を改良するために芳香族ポリカーボネートに衝撃改良剤を添加する。この衝撃改良剤は、比較的硬質の熱可塑性相とエラストマー性(ゴム質)相とを有することが多く、塊状又は乳化重合によって形成され得る。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)衝撃改良剤を含むポリカーボネート組成物は、例えば、米国特許第3130177号及び米国特許第3130177号に一般的に記載されている。乳化重合したABS衝撃改良剤を含むポリカーボネート組成物は、特に、米国特許出願公開第2003/0119986号に記載されている。米国特許出願公開第2003/0092837号は、塊状重合したABSと乳化重合したABSの組合せの使用について開示している。
【0003】
もちろん、ポリカーボネート組成物中に使用される多種多様な他のタイプの衝撃改良剤も既に記載されている。靭性を改良するという意図された目的には適切であるが、多くの衝撃改良剤はまた、特に東南アジアで見られるような高湿及び/又は高温に長期にわたって曝露されたときに加工性、加水分解安定性、及び/又は低温衝撃強さのような他の性質に悪影響を及ぼすこともある。特に、ポリカーボネート組成物の熱老化安定性は、ゴム質衝撃改良剤の添加により低下することが多い。従って、靭性及び加水分解安定性を含めて良好な性質の組合せを有する耐衝撃性が改良された熱可塑性ポリカーボネート組成物が相変わらず求められている。さらに、ポリカーボネートの他の望ましい性質に大きな悪影響を及ぼすことなく加水分解安定性を改良することができれば有利であろう。
【特許文献1】米国特許第3130177号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0119986号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0092837号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0039091号明細書
【特許文献5】米国特許第3511895号明細書
【特許文献6】米国特許第3635895号明細書
【特許文献7】米国特許第3981944号明細書
【特許文献8】米国特許第4001184号明細書
【特許文献9】米国特許第4046836号明細書
【特許文献10】米国特許第4126602号明細書
【特許文献11】米国特許第4238597号明細書
【特許文献12】米国特許第4284549号明細書
【特許文献13】米国特許第4304709号明細書
【特許文献14】米国特許第4327012号明細書
【特許文献15】米国特許第4348500号明細書
【特許文献16】米国特許第4487896号明細書
【特許文献17】米国特許第4530965号明細書
【特許文献18】米国特許第4542187号明細書
【特許文献19】米国特許第4555384号明細書
【特許文献20】米国特許第4600632号明細書
【特許文献21】米国特許第4640959号明細書
【特許文献22】米国特許第4654400号明細書
【特許文献23】米国特許第4696972号明細書
【特許文献24】ドイツ国特許出願公開第4016417号明細書
【特許文献25】欧州特許出願公開第0206006号明細書
【特許文献26】欧州特許第0247430号明細書
【特許文献27】欧州特許出願公開第0248308号明細書
【特許文献28】欧州特許第0254054号明細書
【特許文献29】欧州特許第0272425号明細書
【特許文献30】欧州特許第0376052号明細書
【特許文献31】欧州特許第0387570号明細書
【特許文献32】欧州特許第0434848号明細書
【特許文献33】欧州特許第0517927号明細書
【特許文献34】米国特許第4746701号明細書
【特許文献35】米国特許第4767818号明細書
【特許文献36】米国特許第4777212号明細書
【特許文献37】米国特許第4788252号明細書
【特許文献38】米国特許第4861829号明細書
【特許文献39】米国特許第4879342号明細書
【特許文献40】米国特許第4927880号明細書
【特許文献41】米国特許第4931503号明細書
【特許文献42】米国特許第4997883号明細書
【特許文献43】米国特許第5023297号明細書
【特許文献44】米国特許第5109076号明細書
【特許文献45】米国特許第5322882号明細書
【特許文献46】米国特許第5380795号明細書
【特許文献47】米国特許第5391603号明細書
【特許文献48】米国特許第5414045号明細書
【特許文献49】米国特許第5451632号明細書
【特許文献50】米国特許第5488086号明細書
【特許文献51】米国特許第5608026号明細書
【特許文献52】米国特許第5616674号明細書
【特許文献53】米国特許第6001929号明細書
【特許文献54】欧州特許出願公開第0522753号明細書
【特許文献55】欧州特許第0628600号明細書
【特許文献56】欧州特許出願公開第0645422号明細書
【特許文献57】欧州特許第0781808号明細書
【特許文献58】国際公開第86/00083号パンフレット
【特許文献59】国際公開第91/18052号パンフレット
【特許文献60】米国特許第6072011号明細書
【特許文献61】米国特許第6376605号明細書
【特許文献62】米国特許第6391965号明細書
【特許文献63】米国特許第6545089号明細書
【特許文献64】米国特許第6559270号明細書
【特許文献65】米国特許第6576706号明細書
【特許文献66】米国特許第6727319号明細書
【特許文献67】米国特許出願公開第2003/0105226号明細書
【特許文献68】米国特許出願公開第2003/0191245号明細書
【特許文献69】特開平04−225062号公報
【特許文献70】米国特許出願公開第2004/059031号明細書
【特許文献71】米国特許出願公開第2002/151624号明細書
【特許文献72】英国特許出願公開第2143242号明細書
【特許文献73】欧州特許出願公開第0933396号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの実施形態において、熱可塑性組成物はポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物とを組み合わせて含んでなり、衝撃改良剤組成物の成分はポリカーボネートを劣化させる化学種を実質的に含まず、これら成分は塊状重合したABS及びABSとは異なる衝撃改良剤を含んでいる。
【0005】
別の実施形態において、物品は上記熱可塑性組成物を含んでなる。
【0006】
さらに別の実施形態において、物品の製造方法は上記熱可塑性組成物を型成形する、押し出す、又は賦形することを含んでなる。
【0007】
さらに別の実施形態において、改良された加水分解及び/又は熱安定性を有する熱可塑性組成物の製造方法は、ポリカーボネート、塊状重合したABS、及びABSとは異なる衝撃改良剤を混和することを含んでなり、組成物の各々の成分はポリカーボネートを劣化させる化学種を本質的に含まない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者により、特定の衝撃改良剤の組合せを使用すると、ポリカーボネートを含有する熱可塑性組成物に大いに改良された加水分解安定性が付与されると同時にその熱安定性及び/又は耐衝撃性が維持されるということが発見された。熱安定性に大きな悪影響を及ぼすことなく加水分解安定性が改良されるということは、類似の組成物の熱安定性は著しく悪くなり得るので、特に予想外のことである。さらに、衝撃改良剤のこの特定の組合せを使用することにより、良好な加水分解安定性に加えて有利な組合せの他の物理的性質も得ることができるということが発見された。
【0009】
本明細書で使用する場合、用語「ポリカーボネート」及び「ポリカーボネート樹脂」は次式(1)の繰返し構造カーボネート単位を有する組成物を意味する。
【0010】
【化1】

式中、R基の総数の約60パーセント以上は芳香族有機基であり、残りは脂肪族、脂環式、又は芳香族基である。1つの実施形態において、各々のRは芳香族有機基であり、より具体的には次式(2)の基である。
【0011】
【化2】

式中、各々のA及びAは単環式二価アリール基であり、YはAとAを隔てる1又は2個の原子を有する橋架け基である。代表的な実施形態においては、1個の原子がAとAとを隔てている。このタイプの基の具体的な非限定例は−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、メチレン、シクロヘキシルメチレン、2−[2.2.1]−ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、及びアダマンチリデンである。橋架け基Yはメチレン、シクロヘキシリデン、又はイソプロピリデンのような炭化水素基又は飽和炭化水素基でよい。
【0012】
ポリカーボネートは、次式(3)のジヒドロキシ化合物を含めて式HO−R−OHを有するジヒドロキシ化合物の界面反応によって製造できる。
【0013】
【化3】

式中、Y、A及びAは上記の通りである。また、次の一般式(4)のビスフェノール化合物も包含される。
【0014】
【化4】

式中、R及びRは各々ハロゲン原子又は一価炭化水素基を表し、同一でも異なっていてもよく、p及びqは各々独立に0〜4の整数であり、Xは次式(5)の基の1つを表す。
【0015】
【化5】

式中、R及びRは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環式炭化水素基を表し、Rは二価炭化水素基である。
【0016】
適切なジヒドロキシ化合物の幾つかの具体的な非限定例として以下のものがある。レゾルシノール、4−ブロモレゾルシノール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルメタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブテン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、trans−2,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブテン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンチン、(α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トルエン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセトニトリル、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−n−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1−ジブロモ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(5−フェノキシ−4−ヒドロキシフェニル)エチレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン、1,6−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘキサンジオン、エチレングリコールビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオリン、2,7−ジヒドロキシピレン、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチルスピロ(ビス)インダン(「スピロビインダンビスフェノール」)、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタリド、2,6−ジヒドロキシジベンゾ−p−ジオキシン、2,6−ジヒドロキシチアントレン、2,7−ジヒドロキシフェノキサチン、2,7−ジヒドロキシ−9,10−ジメチルフェナジン、3,6−ジヒドロキシジベンゾフラン、3,6−ジヒドロキシジベンゾチオフェン、及び2,7−ジヒドロキシカルバゾール、など。上記ジヒドロキシ化合物を1種以上含む組合せも使用できる。
【0017】
式(3)で表され得るタイプのビスフェノール化合物の特定例の包括的なリストには、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以後、「ビスフェノールA」又は「BPA」という)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパンが含まれる。上記ビスフェノール化合物を1種以上含む組合せも使用できる。
【0018】
枝分れポリカーボネート、並びに線状ポリカーボネートと枝分れポリカーボネートを含むブレンドも有用である。枝分れポリカーボネートは、重合中に枝分れ剤、例えばヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル、及び上記官能基の混合物から選択される3つ以上の官能基を含有する多官能性有機化合物を添加することによって製造することができる。特定例としては、トリメリト酸、トリメリト酸無水物、トリメリト酸三塩化物、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビス−フェノール、トリス−フェノールTC(1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス−フェノールPA(4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−エチル)α,α−ジメチルベンジル)フェノール)、4−クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸、及びベンゾフェノンテトラカルボン酸がある。枝分れ剤は約0.05〜2.0wt%のレベルで添加することができる。あらゆるタイプのポリカーボネート末端基が、かかる末端基が熱可塑性組成物の所望の性質に大きな影響を及ぼすことがないという条件で、ポリカーボネート組成物に有用であると考えられる。
【0019】
適切なポリカーボネートは界面重合や溶融重合のようなプロセスで製造することができる。界面重合の反応条件は変化し得るが、代表的なプロセスでは一般に、二価フェノール反応体を水性苛性ソーダ又はカリに溶解又は分散させ、得られた混合物を適切な水不混和性溶媒媒質に添加し、この反応体を、トリエチルアミンや相間移動触媒のような適切な触媒の存在下制御されたpH条件下、例えば約8〜約10でカーボネート前駆体と接触させる。最も一般的に使用される水不混和性溶媒としては、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、などがある。適切なカーボネート前駆体としては、例えば、臭化カルボニルや塩化カルボニルのようなハロゲン化カルボニル、又は二価フェノールのビスハロホルメート(例えば、ビスフェノールA、ヒドロキノン、などのビスクロロホルメート)若しくはグリコールのビスハロホルメート(例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、などのビスハロホルメート)のようなハロホルメートがある。上記タイプのカーボネート前駆体を1種以上含む組合せも使用できる。
【0020】
使用できる代表的な相間移動触媒の中には式(RXの触媒がある。ここで式中の各々のRは同一か又は異なり、C1−10アルキル基であり、Qは窒素又はリン原子であり、Xはハロゲン原子又はC1−8アルコキシ基若しくはC6−188アリールオキシ基である。適切な相間移動触媒としては、例えば、[CH(CHNX、[CH(CHPX、[CH(CHNX、[CH(CHNX、[CH(CHNX、CH[CH(CHNX、及びCH[CH(CHNXがあり、ここでXはCl、Br、C1−8アルコキシ基又はC6−188アリールオキシ基である。相間移動触媒の有効量はホスゲン化混合物中のビスフェノールの重量を基準として約0.1〜約10wt%であり得る。別の実施形態において、相間移動触媒の有効量はホスゲン化混合物中のビスフェノールの重量を基準として約0.5〜約2wt%でよい。
【0021】
或いは、溶融プロセスを使用してもよい。一般に、溶融重合プロセスにおいては、ジヒドロキシ反応体(1種以上)とジフェニルカーボネートのようなジアリールカーボネートエステルとを、エステル交換触媒の存在下溶融状態で共に反応させることによってポリカーボネートを製造することができる。溶融している反応体から蒸留により揮発性の一価フェノールを除去し、溶融残渣としてポリマーを単離する。
【0022】
1つの特定の実施形態において、ポリカーボネートはビスフェノールAから誘導された線状ホモポリマーであり、この場合各々のAとAはp−フェニレンであり、Yはイソプロピリデンである。このポリカーボネートは、クロロホルム中25℃で決定される固有粘度が約0.3〜約1.5デシリットル/グラム(dl/gm)、具体的には約0.45〜約1.0dl/gmであり得る。また、ポリカーボネートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される重量平均分子量が約10000〜約200000、具体的には約20000〜約100000であり得る。ポリカーボネートは、ポリカーボネートの加水分解を触媒し得る不純物、残留酸、残留塩基、及び/又は残留金属を実質的に含まない。
【0023】
本明細書で使用する場合、「ポリカーボネート」及び「ポリカーボネート樹脂」は、さらに、異なるタイプの連鎖単位と共にカーボネート連鎖単位を含むコポリマーを包含する。かかるコポリマーはランダムコポリマー、ブロックコポリマー、樹枝状樹脂などであり得る。使用できる1つの特定のタイプのコポリマーはコポリエステル−ポリカーボネートともいわれるポリエステルカーボネートである。かかるコポリマーは、式(1)の繰返しカーボネート連鎖単位に加えてさらに式(6)の繰返し単位を含有する。
【0024】
【化6】

式中、Eはジヒドロキシ化合物から誘導された二価基であり、例えばC2−10アルキレン基、C6−20脂環式基、C6−20芳香族基又は、アルキレン基が2〜約6個の炭素原子、具体的には2、3、又は4個の炭素原子を含有するポリオキシアルキレン基であり得、Tはジカルボン酸から誘導された二価基であり、例えば、C2−10アルキレン基、C6−20脂環式基、C6−20アルキル芳香族基、又はC6−20芳香族基であり得る。
【0025】
1つの実施形態において、EはC2−6アルキレン基である。別の実施形態において、Eは次式(7)の芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される。
【0026】
【化7】

式中、各々のRは独立にハロゲン原子、C1−10炭化水素基、又はC1−10ハロゲン置換炭化水素基であり、nは0〜4である。ハロゲンは好ましくは臭素である。式(7)で表され得る化合物の例としては、レゾルシノール、置換レゾルシノール化合物、例えば5−メチルレゾルシノール、5−エチルレゾルシノール、5−プロピルレゾルシノール、5−ブチルレゾルシノール、5−t−ブチルレゾルシノール、5−フェニルレゾルシノール、5−クミルレゾルシノール、2,4,5,6−テトラフルオロレゾルシノール、2,4,5,6−テトラブロモレゾルシノール、など、カテコール、ヒドロキノン、置換ヒドロキノン、例えば2−メチルヒドロキノン、2−エチルヒドロキノン、2−プロピルヒドロキノン、2−ブチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2−フェニルヒドロキノン、2−クミルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラ−t−ブチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラフルオロヒドロキノン、2,3,5,6−テトラブロモヒドロキノン、など、又は上記の化合物を1種以上含む組合せがある。
【0027】
ポリエステルを製造するのに使用できる芳香族ジカルボン酸の例としては、イソフタル酸又はテレフタル酸、1,2−ジ(p−カルボキシフェニル)エタン、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ビス安息香酸、及び上記酸を1種以上含む混合物がある。1,4−、1,5−、又は2,6−ナフタレンジカルボン酸のような縮合環を含有する酸も存在することができる。特定のジカルボン酸はテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、又はこれらの混合物である。特定のジカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸の重量比が約10:1〜約0.2:9.8であるイソフタル酸とテレフタル酸の混合物からなる。別の特定の実施形態において、EはC2−6アルキレン基であり、Tはp−フェニレン、m−フェニレン、ナフタレン、二価環式脂肪族基、又はこれらの混合物である。このクラスのポリエステルにはポリ(アルキレンテレフタレート)がある。
【0028】
コポリエステル−ポリカーボネート樹脂も界面重合により製造される。ジカルボン酸自体を使用するのではなく、対応する酸ハロゲン化物、特に酸二塩化物及び酸二臭化物のような酸の反応性誘導体を使用することが可能であり、好ましいことさえある。従って、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、及びこれらの混合物を使用する代わりに、イソフタロイルジクロリド、テレフタロイルジクロリド、及びこれらの混合物を使用することが可能である。コポリエステル−ポリカーボネート樹脂は、クロロホルム中25℃で決定される固有粘度が約0.3〜約1.5デシリットル/グラム(dl/gm)、具体的には約0.45〜約1.0dl/gmであり得る。またコポリエステル−ポリカーボネート樹脂はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定して約10000〜約200000、具体的には約20000〜約100000の重量平均分子量を有し得る。コポリエステル−ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートの加水分解を触媒し得る不純物、残留酸、残留塩基、及び/又は残留金属を実質的に含まない。
【0029】
ポリカーボネート成分はさらに、上記ポリカーボネートに加えて、ポリカーボネートと他の熱可塑性ポリマーの組合せ、例えばポリカーボネートホモポリマー及び/又はコポリマーとポリエステルなどの組合せを含んでいてもよい。本明細書で使用する場合、「組合せ」とは、あらゆる混合物、ブレンド、アロイ、などを包含する。適切なポリエステルは式(6)の繰返し単位を含んでおり、例えば、ポリ(アルキレンジカルボキシレート)、液晶ポリエステル、及びポリエステルコポリマーであり得る。枝分れ剤、例えば、3つ以上のヒドロキシル基を有するグリコール又は三官能性若しくは多官能性カルボン酸が配合されている枝分れポリエステルを使用することも可能である。さらにまた、組成物の最終的な使用目的に応じて、ポリエステル上に様々な濃度の酸及びヒドロキシル末端基を有することが望ましいときもある。
【0030】
1つの実施形態においては、ポリ(アルキレンテレフタレート)を使用する。適切なポリ(アルキレンテレフタレート)の特定例は、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレンナフタノエート)(PEN)、ポリ(ブチレンナフタノエート)(PBN)、(ポリプロピレンテレフタレート)(PPT)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)、及び上記ポリエステルを1種以上含む組合せである。また、以上のポリエステルで、脂肪族二酸及び/又は脂肪族ポリオールから誘導された単位を少量、例えば約0.5〜約10重量パーセント含んでいてコポリエステルを形成しているものも考えられる。
【0031】
ポリカーボネートとポリエステルのブレンドは約10〜約99wt%のポリカーボネートとそれに対応して約1〜約90wt%のポリエステル、特にポリ(アルキレンテレフタレート)からなり得る。1つの実施形態において、このブレンドは約30〜約70wt%のポリカーボネートとそれに対応して約30〜約70wt%のポリエステルからなる。上記量はポリカーボネートとポリエステルを合わせた重量を基準とする。
【0032】
ポリカーボネートと他のポリマーとのブレンドが考えられるが、1つの実施形態においてポリカーボネート成分は本質的にポリカーボネートからなる。すなわち、ポリカーボネート成分はポリカーボネートホモポリマー及び/又はポリカーボネートコポリマーからなり、熱可塑性組成物の加水分解安定性、熱安定性、及び/又は衝撃強さに有意な悪影響を与える他の樹脂を含まない。別の実施形態において、ポリカーボネート成分はポリカーボネートからなり、すなわち、ポリカーボネートホモポリマー及び/又はポリカーボネートコポリマーのみから構成される。
【0033】
熱可塑性組成物はさらに、ポリカーボネートの劣化を生起し得る化学種を本質的に含まない衝撃改良剤組成物及びその他の任意の添加剤を含んでいる。本明細書で使用する場合、「ポリカーボネートの劣化」とは、ポリカーボネートの分子量の測定可能な低下を意味しており、限定されることはないが、エステル交換及び/又は加水分解による劣化がある。かかる劣化は経時的に生じ得、湿度及び/又は熱の条件によって促進され得る。ポリカーボネートの劣化の測定方法は公知であり、例えば、スパイラルフロー、溶融粘度、メルトボリューム、分子量などの変化の決定がある。
【0034】
ポリカーボネートの劣化を生じ得る化学種としては、限定されることはないが、ポリカーボネートの劣化を触媒し得る不純物、副生物、及び衝撃改良剤組成物の成分の製造に使用した残留化合物、例えばある種の残留酸、残留塩基、残留乳化剤、及び/又は残留金属、例えばアルカリ金属がある。本明細書で使用する場合、「化学種」とは、ポリカーボネートの劣化を生じ得るあらゆる形態の物質、例えば、化合物、陰イオン、陽イオン、塩、バルク材、などを含む。さらに、本明細書で使用する場合、化学種は、ポリカーボネートの劣化を直接、例えば、例えば触媒として劣化に関与することにより、又は間接的に「生起し」得る。例えば、ある化学種は、組成物中の別の物質と反応して、ポリカーボネートの劣化を起こす第3の化学種を生成することにより、間接的にポリカーボネートの劣化を生起し得る。
【0035】
衝撃改良剤その他の添加剤のような成分がポリカーボネートの劣化を生起し得る化学種を本質的に含まないかどうかを決定する1つの方法は、個々の成分のスラリー又は溶液のpHを測定することである。1つの実施形態において、成分のスラリーは約4〜約8、具体的には約5〜約7、より具体的には約6〜約7のpHを有する。成分の組合せのpHを決定してもよいが、各々の成分のpHを個別に決定する方がポリカーボネートを劣化させる化学種の存在をより正確に反映することができる。また、成分を水で抽出し、水層のpHを決定することもできる。幾つかの場合には、ポリカーボネートの劣化を抑制するために、残りの成分と混和する前に成分のスラリー又は溶液のpHを調節することが有効であることがある。
【0036】
成分がポリカーボネートの劣化を生起し得る化学種を本質的に含まないかどうかを決定するもう1つ別の方法は、その成分を特定の化学種について分析することである。1つの実施形態において、熱可塑性組成物の各々の成分は、百万部当たりの1部(ppm)の分析感度で検出不可能なアルカリ金属含有量を有する。或いは、各々の成分は約1ppm未満、具体的には約0.1ppm未満、より具体的には約0.01ppm未満のアルカリ金属含有量を有する。さらに別の実施形態において、各々の成分のナトリウム及びカリウム含有量は約1ppm未満、より具体的には約0.1ppm未満である。さらに別の実施形態において、各々の成分の炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム含有量は約1ppm未満、より具体的には約0.1ppm未満である。
【0037】
別の実施形態において、熱可塑性組成物の各々の成分は約50ppm未満、具体的には約1ppm未満のアミン含有量を有する。さらに別の実施形態において、熱可塑性組成物の各々の成分は約100ppm未満、具体的には約1ppm未満のアンモニア含有量を有する。各々の成分のアミド含有量は約100ppm未満、具体的には約1ppm未満であり得る。良好な加水分解及び/又は熱安定性の結果は、熱可塑性組成物の各々の成分がアルカリ金属、アミン、アンモニア、及びアミドに関する上記制限の1以上を含む組合せを満たす場合、特に熱可塑性組成物の各々の成分が1ppmの分析検出限界で検出不可能なアルカリ金属含有量、50ppm未満のアミン含有量、100ppm未満のアンモニア含有量、及び約100ppm未満のアミド含有量を有する場合に得られ得る。
【0038】
というわけで、本発明者により、有効な衝撃改良剤組成物は、塊状重合したABSと共に、ポリカーボネートを劣化させる化学種を本質的に含まない1種以上の追加の衝撃改良剤を含むことが判明した。かかる衝撃改良剤を使用すると、優れた加水分解安定性及び/又は熱安定性を有する熱可塑性組成物を得ることができる。
【0039】
塊状重合したABSは、(i)ブタジエンからなり、約10℃未満のTgを有するエラストマー性相と、(ii)約15℃より高いTgを有し、スチレン及びアクリロニトリルのような不飽和ニトリルのようなモノビニル芳香族モノマーのコポリマーからなる硬質ポリマー性相とを含んでなる。かかるABSポリマーは、まずエラストマー性ポリマーを提供し、次にそのエラストマーの存在下で硬質相の構成成分モノマーを重合させてグラフトコポリマーを得ることによって製造することができる。このグラフトはグラフト枝として、又はシェルとしてエラストマーコアに結合することができる。シェルは単に物理的にコアをカプセル化してもよいし、又はシェルが部分的に若しくは本質的に完全にコアにグラフト化していてもよい。
【0040】
ポリブタジエンホモポリマーをエラストマー相として使用することができる。或いは、塊状重合したABSのエラストマー相は、約25wt%以下の次式(8)の別の共役ジエンモノマーと共重合したブタジエンからなる。
【0041】
【化8】

式中、各々のXは独立にC〜Cアルキルである。使用できる共役ジエンモノマーの例は、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、メチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−及び2,4−ヘキサジエン、など、並びに上記共役ジエンモノマーを1種以上含む混合物である。特定の共役ジエンはイソプレンである。
【0042】
エラストマー性ブタジエン相は、さらに、25wt%以下、具体的には約15wt%以下の別のコモノマー、例えばビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどのような縮合芳香環構造を含有するモノビニル芳香族モノマー、又は次式(9)のモノマーと共重合されていてもよい。
【0043】
【化9】

式中、各々のXは独立に水素、C〜C12アルキル、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール、C〜C12アラルキル、C〜C12アルカリール、C〜C12アルコキシ、C〜C12シクロアルコキシ、C〜C12アリールオキシ、クロロ、ブロモ、又はヒドロキシであり、Rは水素、C〜Cアルキル、ブロモ、又はクロロである。ブタジエンと共重合可能な適切なモノビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、3−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、α−クロロスチレン、α−ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ−クロロスチレン、など、及び上記モノビニル芳香族モノマーを1種以上含む組合せがある。1つの実施形態において、ブタジエンは約12wt%以下、具体的には約1〜約10wt%のスチレン及び/又はα−メチルスチレンと共重合されている。
【0044】
ブタジエンと共重合することができるその他のモノマーは、モノビニル系モノマー、例えば、イタコン酸、アクリルアミド、N−置換アクリルアミド若しくはメタアクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、N−アルキル−、アリール−、若しくはハロアリール−置換マレイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、及び次の一般式(10)のモノマーがある。
【0045】
【化10】

式中、Rは水素、C〜Cアルキル、ブロモ、又はクロロであり、Xはシアノ、C〜C12アルコキシカルボニル、C〜C12アリールオキシカルボニル、ヒドロキシカルボニル、などである。式(10)のモノマーの例としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、β−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリル、アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、など、及び上記モノマーを1種以上含む組合せがある。アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸2−エチルヘキシルのようなモノマーが一般にブタジエンと共重合可能なモノマーとして使用される。
【0046】
ブタジエン相の粒径はあまり重要ではなく、例えば約0.01〜約20マイクロメートル、具体的には約0.5〜約10マイクロメートルでよく、より具体的には約0.6〜約1.5マイクロメートルを塊状重合したゴム基材として使用することができる。粒径は、光透過法又は毛管流体力学クロマトグラフィー(CHDF)で測定することができる。ブタジエン相はABS衝撃改良剤コポリマーの総重量の約5〜約95wt%、より具体的には約20〜約90wt%であることができ、さらにより具体的にはABS衝撃改良剤の約40〜約85wt%であることができ、残りは硬質グラフト相である。
【0047】
硬質グラフト相は、ニトリル基を有する不飽和モノマーを含むスチレン系モノマー組成物から形成されたコポリマーからなる。本明細書で使用する場合、「スチレン系モノマー」としては、式(9)で各々のXが独立に水素、C〜Cアルキル、フェニル、C〜Cアラルキル、C〜Cアルカリール、C〜Cアルコキシ、フェノキシ、クロロ、ブロモ、又はヒドロキシであり、Rが水素、C〜Cアルキル、ブロモ、又はクロロであるモノマーがある。特定の例はスチレン、3−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、α−クロロスチレン、α−ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ−クロロスチレン、などである。上記スチレン系モノマーを1種以上含む組合せを使用してもよい。
【0048】
さらに、本明細書で使用する場合、ニトリル基を含む不飽和モノマーとしては、式(10)でRが水素、C〜Cアルキル、ブロモ、又はクロロであり、Xがシアノであるモノマーがある。特定の例としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、β−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリル、などがある。上記モノマーを1種以上含む組合せも使用できる。
【0049】
塊状重合したABSの硬質グラフト相は、さらに場合により、イタコン酸、アクリルアミド、N−置換アクリルアミド又はメタアクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、N−アルキル−、アリール−、若しくはハロアリール−置換マレイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、及び一般式(10)のモノマーのような共重合可能な他のモノビニル芳香族モノマー及び/又はモノビニル系モノマーを始めとする他のモノマーを含んでいてもよい。特定のコモノマーとしては、C〜Cアルキル(メタ)アクリレート、例えばメタクリル酸メチルがある。
【0050】
硬質コポリマー相は、一般に、約10〜約99wt%、具体的には約40〜約95wt%、より具体的には約50〜約90wt%のスチレン系モノマー、約1〜約90wt%、具体的には約10〜約80wt%、より具体的には約10〜約50wt%のニトリル基を含む不飽和モノマー、及び0〜約25wt%、具体的には1〜約15wt%の他のコモノマーを含んでおり、各々硬質コポリマー相の総重量を基準とする。
【0051】
塊状重合したABSコポリマーは、さらに、ABSと同時に得られる非グラフト化硬質コポリマーの別のマトリックス又は連続相を含んでいてもよい。このABSはABSの総重量を基準として約40〜約95wt%のエラストマー変性グラフトコポリマーと約5〜約65wt%の硬質コポリマーからなり得る。別の実施形態において、ABSはABSの総重量を基準として約15〜約50wt%、より具体的には約15〜約25wt%の硬質コポリマーと共に約50〜約85wt%、より具体的には約75〜約85wt%のエラストマー変性グラフトコポリマーを含み得る。
【0052】
ABSタイプの樹脂に関して各種の塊状重合法が公知である。マルチゾーン栓流塊状法では、一連の重合容器(又は塔)が互いに連続的に連結されて複数の反応ゾーンを形成する。硬質相を形成するのに使用する1種以上のモノマーにエラストマー性ブタジエンを溶解させることができ、このエラストマー溶液を反応系中に供給する。熱的又は化学的に開始させることができる反応の間、エラストマーに硬質コポリマー(すなわち、SAN)がグラフト化する。溶解したゴムを含有する連続相内ではバルクコポリマー(遊離コポリマー、マトリックスコポリマー、又は非グラフト化コポリマーともいう)も形成される。重合が続くにつれて、ゴム/コモノマーの連続相内に遊離コポリマーの領域が形成されて、二相系が得られる。重合が進行し、より多くの遊離コポリマーが形成されるにつれて、エラストマー変性コポリマー自体が粒子として遊離コポリマー中に分散し始め、遊離コポリマーが連続相となる(転相)。一般に、幾らかの遊離コポリマーがエラストマー変性コポリマー相内にも吸蔵される。転相の後、追加の加熱を使用して重合を完了させてもよい。この基本的なプロセスの数多くの変形が既に記載されており、例えば米国特許第3511895号には、三段階反応器系を使用して制御可能な分子量分布及びミクロゲル粒径が得られる連続塊状ABSプロセスが記載されている。第1の反応器では、エラストマー/モノマー溶液を高撹拌下で反応混合物中に導入して、離散したゴム粒子を反応器塊全体に均一に析出させた後に感知し得る架橋を生起させることができる。第1、第2、及び第3の反応器の固形分レベルを慎重に制御して、分子量が望ましい範囲に入るようにする。米国特許第3981944には、ニトリル基を含む不飽和モノマー及びその他のあらゆるコモノマーを添加する前にエラストマー粒子を溶解/分散させるためにスチレン系モノマーを使用したエラストマー粒子の抽出が開示されている。米国特許第5414045号には、栓流グラフト化用反応器で、スチレン系モノマー組成物、不飽和ニトリルモノマー組成物、及びエラストマー性ブタジエンポリマーからなる液体供給組成物を転相前の点まで反応させ、得られた第1の重合生成物(グラフト化エラストマー)を連続撹拌槽型反応器内で反応させて転相した第2の重合生成物を得、次にこれを仕上げ用反応器内でさらに反応させ、その後揮発分を除去して所望の最終生成物を生成することができることが開示されている。
【0053】
衝撃改良剤組成物は、塊状重合したABSに加えて、ABSとは異なる追加の衝撃改良剤を含んでいる。これらの衝撃改良剤としては、(i)約10℃未満、より具体的には約−10℃未満、又はより具体的には約−40〜−80℃のTgを有するエラストマー性(すなわち、ゴム質)ポリマー基材(基幹)と、(ii)エラストマー性ポリマー基材にグラフト化した硬質ポリマー性枝とからなるエラストマー変性グラフトコポリマーがある。これらグラフトはグラフト枝として、又はシェルとしてエラストマーコアに結合していることができる。シェルはコアを単に物理的にカプセル化していてもよいし、或いはシェルは部分的又は本質的に完全にコアにグラフト化していてもよい。
【0054】
エラストマー相として使用するのに適切な材料としては、例えば、共役ジエンゴム、共役ジエンと約50wt%未満の共重合可能なモノマーとのコポリマー、エチレンプロピレンコポリマー(EPR)やエチレン−プロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)のようなオレフィンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、シリコーンゴム、エラストマー性C1−8アルキル(メタ)アクリレート、C1−8アルキル(メタ)アクリレートとブタジエン及び/又はスチレンとのエラストマー性コポリマー、又は上記エラストマーを1種以上含む組合せがある。
【0055】
エラストマー相を製造するのに適切な共役ジエンモノマーは、上記式(8)で、各々のXが独立に水素、C〜Cアルキル、などであるものである。使用できる共役ジエンモノマーの例は、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、メチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−及び2,4−ヘキサジエン、など、並びに上記共役ジエンモノマーを1種以上含む混合物である。特定の共役ジエンホモポリマーとして、ポリブタジエン及びポリイソプレンがある。
【0056】
共役ジエンゴムのコポリマーも使用することができ、例えば、共役ジエン及びこれと共重合可能な1種以上のモノマーの水性ラジカル乳化重合で製造されるものがある。共役ジエンとの共重合に適切なモノマーとしては、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどのような縮合芳香環構造を含有するモノビニル芳香族モノマー、又は上記式(9)で、各々のXが独立に水素、C〜C12アルキル、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール、C〜C12アラルキル、C〜C12アルカリール、C〜C12アルコキシ、C〜C12シクロアルコキシ、C〜C12アリールオキシ、クロロ、ブロモ、若しくはヒドロキシであり、Rが水素、C〜Cアルキル、ブロモ、若しくはクロロであるモノマーがある。使用することができる適切なモノビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、3−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、α−クロロスチレン、α−ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ−クロロスチレン、上記化合物を1種以上含む組合せ、などがある。スチレン及び/又はα−メチルスチレンは、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして一般に使用されている。
【0057】
共役ジエンと共重合することができるその他のモノマーは、モノビニル系モノマー、例えばイタコン酸、アクリルアミド、N−置換アクリルアミド若しくはメタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、N−アルキル−、アリール−、若しくはハロアリール−置換マレイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、及び一般式(10)でRが水素、C〜Cアルキル、ブロモ、若しくはクロロであり、Xがシアノ、C〜C12アルコキシカルボニル、C〜C12アリールオキシカルボニル、ヒドロキシカルボニル、などであるモノマーである。式(10)のモノマーの例としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、β−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリル、アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、など、及び上記モノマーを1種以上含む組合せがある。アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸2−エチルヘキシルのようなモノマーが一般に共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして使用される。上記モノビニルモノマーとモノビニル芳香族モノマーの混合物も使用することができる。
【0058】
ある種の(メタ)アクリレートモノマーもエラストマー相を提供するのに使用することができ、例えば、C1−16アルキル(メタ)アクリレート、具体的にはC1−9アルキル(メタ)アクリレート、特にC4−6アルキルアクリレート、例えばアクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、など、及び上記モノマーを1種以上含む組合せの架橋した粒子状乳化ホモポリマー又はコポリマーがある。場合により、C1−16アルキル(メタ)アクリレートモノマーを15wt%以下の広く上記した一般式(8)、(9)、又は(10)のコモノマーと混和して重合してもよい。代表的なコモノマーとしては、限定されることはないが、ブタジエン、イソプレン、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸フェニル、フェネチルメタクリレート、N−シクロヘキシルアクリルアミド、ビニルメチルエーテル又はアクリロニトリル、及び上記コモノマーを1種以上含む混合物がある。場合により、5wt%以下の多官能性架橋性コモノマー、例えばジビニルベンゼン、アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、例えばグリコールビスアクリレート、アルキレントリオールトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスアクリルアミド、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、クエン酸のトリアリルエステル、リン酸のトリアリルエステル、など、並びに上記架橋剤を1種以上含む組合せ存在していてもよい。
【0059】
エラストマー相は、連続式、半回分式、又は回分式プロセスを用いて、塊状、乳化、懸濁、溶液又は塊状−懸濁、乳化−塊状、塊状−溶液その他の技術のような複合法により重合することができる。エラストマー基材の粒径は重要ではない。例えば、乳化系重合ゴム格子の場合、約0.001〜約25マイクロメートル、具体的には約0.01〜約15マイクロメートル、又はさらにより具体的には約0.1〜約8マイクロメートルの平均粒径を使用することができる。塊状重合したゴム基材の場合は、約0.5〜約10マイクロメートル、具体的には約0.6〜約1.5マイクロメートルの粒径を使用することができる。エラストマー相は共役ブタジエン又はC4−9アルキルアクリレートゴムから誘導された粒子状の適度に架橋したコポリマーでよく、好ましくは70%より大きいゲル含有量を有する。ブタジエンとスチレン、アクリロニトリル、及び/又はC4−6アルキルアクリレートゴムとの混合物から誘導されたコポリマーも適切である。
【0060】
エラストマー性相はエラストマー変性グラフトコポリマーの約5〜約95wt%、より具体的には約20〜約90wt%、さらにより具体的には約40〜約85wt%であることができ、残りは硬質グラフト相である。
【0061】
エラストマー変性グラフトコポリマーの硬質相は、1種以上のエラストマー性ポリマー基材の存在下で、モノビニル芳香族モノマー及び場合により1種以上のコモノマーを含む混合物のグラフト重合によって形成することができる。広く上記した式(9)のモノビニル芳香族モノマーを硬質グラフト相に使用することができ、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ジブロモスチレンのようなハロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ブチルスチレン、パラ−ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、など、又は上記モノビニル芳香族モノマーを1種以上含む組合せがある。適切なコモノマーとしては、例えば、広く上記したモノビニル系モノマー及び/又は一般式(10)のモノマーがある。1つの実施形態において、Rは水素又はC〜Cアルキルであり、Xはシアノ又はC〜C12アルコキシカルボニルである。硬質相に使用するのに適切なコモノマーの特定例としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、など、及び上記コモノマーを1種以上含む組合せがある。
【0062】
1つの特定の実施形態において、硬質グラフト相はアクリル酸エチル及び/又はメタクリル酸メチルと共重合したスチレン又はα−メチルスチレンから形成される。他の特定の実施形態において、硬質グラフト相は と共重合したスチレン、メタクリル酸メチルと共重合したスチレン、並びにメタクリル酸メチル及びアクリロニトリルと共重合したスチレンから形成される。
【0063】
硬質グラフト相中のモノビニル芳香族モノマーとコモノマーの相対割合は、エラストマー基材のタイプ、モノビニル芳香族モノマーのタイプ、コモノマーのタイプ、及び衝撃改良剤の所望の性質に応じて広く変化し得る。硬質相は一般に100wt%以下のモノビニル芳香族モノマー、具体的には約30〜約100wt%、より具体的には約50〜約90wt%のモノビニル芳香族モノマーを含み得、残りがコモノマーである。
【0064】
存在するエラストマー変性ポリマーの量に応じて、追加のエラストマー変性グラフトコポリマーと共に非グラフト化硬質ポリマー又はコポリマーの別個のマトリックス又は連続相が同時に得られ得る。通例、かかる衝撃改良剤は、衝撃改良剤の総重量を基準として約40〜約95wt%のエラストマー変性グラフトコポリマーと約5〜約65wt%の硬質(コ)ポリマーとからなる。別の実施形態において、かかる衝撃改良剤は、衝撃改良剤の総重量を基準として約50〜約85wt%、より具体的には約75〜約85wt%のゴム変性硬質コポリマーを、約15〜約50wt%、より具体的には約15〜約25wt%の硬質(コ)ポリマーと共に含む。
【0065】
塊状重合したABSとは異なるエラストマー変性グラフトコポリマーの特定例としては、限定されることはないが、アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸ブチル(ASA)、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(MABS)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)、及びアクリロニトリル−エチレン−プロピレン−ジエン−スチレン(AES)がある。このMBS樹脂は、米国特許第6545089号に記載されているように、ポリブタジエンの存在下でメタクリレート及びスチレンの乳化重合によって製造することができ、このプロセスは以下で要約する。
【0066】
塊状重合したABSコポリマーとは異なるエラストマー変性衝撃改良剤のもう1つ別の特定のタイプは、1種以上のシリコーンゴムモノマー、式HC=C(R)C(O)OCHCHを有する枝分れアクリレートゴムモノマー(式中のRは水素又はC〜C線状若しくは枝分れヒドロカルビル基であり、Rは枝分れC〜C16ヒドロカルビル基である)、第1のグラフト結合モノマー、重合性アルケニル含有有機材料、及び第2のグラフト結合モノマーから誘導された構造単位を含んでいる。シリコーンゴムモノマーは、例えば環式シロキサン、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、若しくはアリルアルコキシシランの単独、又は例えばデカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はテトラエトキシシランとの組合せからなり得る。
【0067】
代表的な枝分れアクリレートゴムモノマーとしては、アクリル酸イソ−オクチル、アクリル酸6−メチルオクチル、アクリル酸7−メチルオクチル、アクリル酸6−メチルヘプチル、などの単独又は組合せがある。重合性アルケニル含有有機材料は、例えば、式(9)若しくは(10)のモノマー、例えばスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、又はメタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、などのような非枝分れ(メタ)アクリレートの単独又は組合せであり得る。
【0068】
1種以上の第1のグラフト結合モノマーは、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、若しくはアリルアルコキシシランの単独、又は例えば(γ−メタクリルオキシプロピル)(ジメトキシ)メチルシラン及び/又は(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシランとの組合せであり得る。1種以上の第2のグラフト結合モノマーは、1以上のアリル基を有するポリエチレン性不飽和化合物、例えばメタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、若しくはイソシアヌル酸トリアリルの単独又は組合せである。
【0069】
シリコーン−アクリレート衝撃改良剤組成物は乳化重合によって製造することができる。例えば、1種以上のシリコーンゴムモノマーを、ドデシルベンゼンスルホン酸のような界面活性剤の存在下約30〜約110℃の温度で1種以上の第1のグラフト結合モノマーと反応させてシリコーンゴムラテックスを形成させる。また、環式シロキサン、例えばシクロオクタメチルテトラシロキサン及びテトラエトキシオルトシリケートを第1のグラフト結合モノマー、例えば(γ−メタクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシランと反応させて、約100ナノメートル〜約2ミクロンの平均粒径を有するシリコーンゴムを得ることができる。次に、場合によりアリルメタクリレートのような架橋性モノマーを存在させて過酸化ベンゾイルのような遊離基発生性重合触媒の存在下で、1種以上の枝分れアクリレートゴムモノマーをシリコーンゴム粒子と重合する。次いで、このラテックスを重合性アルケニル含有有機材料及び第2のグラフト結合モノマーと反応させる。グラフトシリコーン−アクリレートゴムハイブリッドのラテックス粒子は、凝集(凝集剤での処理による)によって水性相から分離し、微粉末にまで乾燥させてシリコーン−アクリレートゴム衝撃改良剤組成物を生成させることができる。この方法は、約100ナノメートル〜約2マイクロメートルの粒径を有するシリコーン−アクリレート衝撃改良剤を製造するのに一般的に使用することができる。
【0070】
実施の際、塊状重合したABSとは異なる上記衝撃改良剤のいずれも、ポリカーボネートの劣化を生起する化学種を本質的に含まない限り使用することができる。エラストマー変性グラフトコポリマーを形成するプロセスとしては、連続式、半回分式、又は回分式プロセスを用いる塊状、乳化、懸濁、溶液法、又は塊状−懸濁、乳化−塊状、塊状−溶液その他の技術のような複合法がある。かかるプロセスは、ポリカーボネートを劣化させる化学種の使用若しくは生成を回避するように、及び/又は所望のpHを有する追加の衝撃改良剤が得られるように実施することができる。
【0071】
1つの実施形態において、衝撃改良剤は、ポリカーボネートを劣化させる化学種の使用又は生成を回避する乳化重合プロセスによって製造される。別の実施形態において、衝撃改良剤は、塩基性化学種、例えばC6−30脂肪酸のアルカリ金属塩、例えばステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、など、アルカリ金属炭酸塩、ドデシルジメチルアミン、ドデシルアミン、などのようなアミン、及びアミンのアンモニウム塩のような化学種を使用しない乳化重合プロセスによって製造される。かかる物質は一般に重合助剤、例えば乳化重合における界面活性剤として使用され、エステル交換及び/又はポリカーボネートの劣化を触媒し得る。代わりに、イオン性のスルフェート、スルホネート又はホスフェート系界面活性剤を、衝撃改良剤、特に衝撃改良剤のエラストマー性基材部分を製造するのに使用することができる。適切な界面活性剤としては、例えば、C1−22アルキル又はC7−25アルキルアリールスルホネート、C1−22アルキル又はC7−25アルキルアリールスルフェート、C1−22アルキル又はC7−25アルキルアリールホスフェート、置換シリケート、及び上記界面活性剤を1種以上含む組合せがある。特定の界面活性剤はC6−16、具体的にはC8−12アルキルスルホネートである。この乳化重合プロセスは、Rohm & Haas及びGeneral Electric Companyのような会社の様々な特許及び文献に記載され開示されている。
【0072】
塊状重合したABS及び塊状重合したABSとは異なる追加の衝撃改良剤に加えて、衝撃改良剤組成物はさらに非グラフト化硬質コポリマーを含んでいてもよい。この硬質コポリマーは、塊状重合したABS又は追加の衝撃改良剤中に存在するいかなる硬質コポリマーとも別途の追加的なものである。これはエラストマー変性を伴わない上記硬質コポリマーのいずれかと同一であってもよい。この硬質コポリマーは一般に約15℃より高く、具体的には約20℃より高いTgを有しており、例えば、縮合芳香環構造を含有するモノビニル芳香族モノマー、例えばビニルナフタレン、ビニルアントラセンなど、又は広く上記した式(9)のモノマー、例えばスチレン及びα−メチルスチレン、モノビニル系モノマー、例えばイタコン酸、アクリルアミド、N−置換アクリルアミド若しくはメタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、N−アルキル、アリール若しくはハロアリール置換マレイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、並びに広く上記した一般式(10)のモノマー、例えばアクリロニトリル、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルから誘導されたポリマー、並びに上記のもののコポリマー、例えばスチレン−アクリロニトリル(SAN)、スチレン−α−メチルスチレン−アクリロニトリル、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン、及びメタクリル酸メチル−スチレンが包含される。
【0073】
硬質コポリマーは、約1〜約99wt%、具体的には約20〜約95wt%、より具体的には約40〜約90wt%のビニル芳香族モノマーを、1〜約99wt%、具体的には約5〜約80wt%、より具体的には約10〜約60wt%の共重合可能なモノビニル系モノマーと共に含み得る。1つの実施形態において、硬質コポリマーはSANであり、これは約50〜約99wt%のスチレンを含み得、残りがアクリロニトリルであり、具体的には約60〜約90wt%のスチレン、より具体的には約65〜約85wt%のスチレンを含み得、残りがアクリロニトリルである。
【0074】
硬質コポリマーは、塊状、懸濁、又は乳化重合で製造することができ、ポリカーボネートの加水分解を触媒し得る不純物、残留酸、残留塩基又は残留金属を実質的に含まない。1つの実施形態において、硬質コポリマーは沸騰反応器を用いて塊状重合により製造される。硬質コポリマーはポリスチレン標準を用いるGPCで測定して約50000〜約300000の重量平均分子量を有し得る。1つの実施形態において、硬質コポリマーの重量平均分子量は約70000〜約190000である。
【0075】
熱可塑性組成物の各々の成分の相対量は、使用するポリカーボネートの特定のタイプ、他の樹脂の存在、及び硬質グラフトコポリマーを始めとする特定の衝撃改良剤、並びに組成物の所望の性質に依存する。個々の量は本明細書に記載した指針を用いて当業者が容易に選択し得る。
【0076】
1つの実施形態において、熱可塑性組成物は約1〜約95wt%のポリカーボネート成分、約5〜約98wt%の塊状重合したABS、及び約1〜約95wt%の追加のエラストマー変性衝撃改良剤からなる。別の実施形態において、熱可塑性組成物は約10〜約90wt%のポリカーボネート成分、約5〜約75wt%の塊状重合したABS、及び約1〜約30wt%の他のエラストマー変性衝撃改良剤からなる。別の実施形態において、熱可塑性組成物は約20〜約84wt%のポリカーボネート成分、約5〜約50wt%の塊状重合したABS、及び約4〜約20wt%の追加のエラストマー変性衝撃改良剤からなる。別の実施形態において、熱可塑性組成物は約64〜約74wt%のポリカーボネート成分、約5〜約35wt%の塊状重合したABS、及び約2〜約10wt%の追加のエラストマー変性衝撃改良剤からなる。別の実施形態において、熱可塑性組成物は約68〜約72wt%のポリカーボネート成分、約17〜約23wt%の塊状重合したABS、及び約4〜約8wt%の追加のエラストマー変性衝撃改良剤からなる。上記組成物はさらに0〜約50wt%、具体的には0〜約35wt%、より具体的には約1〜約20wt%、さらにより具体的には約3〜約8wt%、最も具体的には約6wt%の硬質コポリマーを含んでいてもよい。上記の量は全て、ポリカーボネート組成物と衝撃改良剤組成物の合わせた重量を基準としている。
【0077】
上記実施形態の特定例として、約65〜約75wt%のポリカーボネート成分、約16〜約30wt%の塊状重合したABS衝撃改良剤、約1〜約10wt%のMBS、及び0〜約6wt%の硬質コポリマー、例えばSANからなる熱可塑性組成物が提供される。上記の量を使用すると、特に低温における良好な熱安定性及び耐衝撃性と共に高まった加水分解安定性を有する組成物を得ることができる。
【0078】
ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物に加えて、熱可塑性組成物は充填材、強化材、安定剤、などのような様々な添加剤を含むことができるが、これらの添加剤が熱可塑性組成物の所望の性質、特に加水分解及び/又は熱安定性に悪影響を及ぼさないことを条件とする。従って、不純物を含有する添加剤、又は湿気及び/又は熱の存在下で劣化触媒を生成する添加剤、例えば加水分解に対して不安定なホスファイトは望ましくないであろう。また、自身が湿気及び/又は熱の存在下でポリカーボネートの劣化に対して触媒として機能し得る添加剤も望ましくないであろう。
【0079】
1つの実施形態において、各々の添加剤は、ポリカーボネートの劣化を生起する化学種を本質的に含まない。上述のように、ある添加剤がポリカーボネートの劣化を生起し得る化学種を本質的に含まないかどうかを決定する1つの方法は、個々の添加剤のスラリー又は溶液のpHを測定することである。1つの実施形態において、添加剤のスラリーは、約4〜約8、具体的には約5〜約7、より具体的には約6〜約7のpHを有する。添加剤の組合せのpHを決定することもできるが、各々の成分のpHを個別に決定する方がポリカーボネートを劣化させる化学種の存在をより正確に反映し得る。幾つかの場合には、残りの成分との混和の前にある成分のスラリー又は溶液のpHを調節するのが有効であることがある。
【0080】
別の実施形態において、添加剤は、あらゆる劣化活性を抑制するか又は実質的に低下させるように処理することができる。かかる処理としては、シリコーン、アクリル、又はエポキシ樹脂のような実質的に不活性な物質によるコーティングを挙げることができる。処理はまた、触媒部位を除去、遮断、又は中和する化学的不動態化からなることもできる。複数の処理の組合せを使用してもよい。充填材、強化材、及び顔料のような添加剤を処理してもよい。
【0081】
添加剤の混合物を使用してもよい。かかる添加剤は、組成物を形成する成分の混合中の適切なときに混合することができる。使用できる適切な充填材又は強化材としては、例えば、ケイ酸塩及びシリカ粉末、例えばケイ酸アルミニウム(ムライト)、合成ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、溶融シリカ、結晶質シリカ黒鉛、天然珪砂、など、ホウ素粉末、例えば窒化ホウ素粉末、ホウケイ酸塩粉末、など、酸化物、例えばTiO、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、など、硫酸カルシウム(無水物、二水和物又は三水和物)、炭酸カルシウム、例えばチョーク、石灰石、大理石、合成沈降炭酸カルシウム、など、タルク、例えば繊維状、モジュール状、針状、ラメラ状タルク、など、ウォラストナイト、表面処理ウォラストナイト、ガラス球、例えば中空及び中実ガラス球、ケイ酸塩球、セノスフェア、アルミノケイ酸塩(アーモスフェア(armosphere))、など、カオリン、例えば硬質カオリン、軟質カオリン、焼成カオリン、ポリマー性マトリックス樹脂との相溶性を助けることが当技術分野で公知の様々なコーティングを含むカオリン、など、単結晶繊維又は「ウィスカー」、例えば炭化ケイ素、アルミナ、炭化ホウ素、鉄、ニッケル、銅、など、繊維(長繊維及びチョップトファイバーを含む)、例えばアスベスト、炭素繊維、ガラス繊維、例えばE、A、C、ECR、R、S、D、又はNEガラス、など、硫化物、例えば硫化モリブデン、硫化亜鉛など、バリウム化学種、例えばチタン酸バリウム、バリウムフェライト、硫酸バリウム、重晶石、など、金属及び金属酸化物、例えば粒子状又は繊維状アルミニウム、青銅、亜鉛、銅及びニッケルなど、フレーク状充填材、例えばガラスフレーク、フレーク状炭化ケイ素、二ホウ化アルミニウム、アルミニウムフレーク、スチールフレークなど、繊維状充填材、例えば無機短繊維、例えば1種以上のケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び硫酸カルシウム半水和物を含むブレンドから誘導されたものなど、天然の充填材及び強化材、例えば木材、繊維状生成物、例えばセルロース、綿、サイザル、ジュート、澱粉、コルク粉、リグニン、挽いたナッツ殻、トウモロコシ、もみ殻などを粉砕することによって得られる木粉、有機充填材、例えばポリテトラフルオロエチレン(Teflon)など、繊維を形成することができる有機ポリマー、例えばポリ(エーテルケトン)、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリエステル、ポリエチレン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリ(ビニルアルコール)などから形成される強化用有機繊維状充填材、並びに、その他の充填材及び強化材、例えば雲母、粘土、長石、煙塵、フィライト(fillite)、石英、石英岩、パーライト、トリポリ、ケイ藻土、カーボンブラック、など、並びに上記充填材及び強化材を1種以上含む組合せがある。これらの充填材/強化材は、コートしてマトリックスとの反応を抑制することもできるし、又は化学的に不動態化して、加水分解若しくは熱分解を促進し得る触媒劣化部位を中和することもできる。
【0082】
これらの充填材及び強化材は、金属材料の層でコートして導電性を促進することもできるし、又はシランで表面処理してポリマー性マトリックス樹脂との接着及び分散を改良することもできる。また、強化用充填材はモノフィラメント又はマルチフィラメント繊維の形態で得ることができ、単独で、又は例えば共織り又はコア/シース(鞘)により、並べて、オレンジ−タイプ若しくはマトリックス及びフィブリル構造により、若しくはその他繊維製造の当業者に公知の方法によって他のタイプの繊維と組み合わせて使用することができる。適切な共織り構造としては、例えば、ガラス繊維−炭素繊維、炭素繊維−芳香族ポリイミド(アラミド)繊維、及び芳香族ポリイミド繊維ガラス繊維などがある。繊維状充填材は、例えば、ロービング、0〜90度ファブリックなどのような織った繊維状強化材、連続ストランドマット、チョップトストランドマット、ティッシュー、紙及びフェルトなどのような不織繊維状強化材、又は組み紐・編み紐のような三次元強化材の形態で供給され得る。充填材は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0〜約100重量部の量で使用される。
【0083】
適切な酸化防止剤添加剤としては、例えば、アルキル化モノフェノール若しくはポリフェノール、ポリフェノールとジエンのアルキル化反応生成物、例えばテトラキス[メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、など、パラ−クレゾール若しくはジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、アルキル化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデン−ビスフェノール、ベンジル化学種、β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸と一価若しくは多価アルコールとのエステル、β−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−プロピオン酸と一価若しくは多価アルコールとのエステル、など、並びに上記酸化防止剤を1種以上含む組合せがある。酸化防止剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の重量部の100重量部を基準として約0.01〜約1、具体的には約0.1〜約0.5重量部の量で使用される。
【0084】
適切な熱及び色安定剤添加剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトのようなオルガノホスファイトがある。熱及び色安定剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の重量部の100重量部を基準として約0.01〜約5、具体的には約0.05〜約0.3重量部の量で使用される。
【0085】
適切な第二熱安定剤添加剤としては、例えば、チオエーテル及びチオエステル、例えばペンタエリトリトールテトラキス(3−(ドデシルチオ)プロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ペンタエリトリトールオクチルチオプロピオネート、ジオクタデシルジスルフィド、など、並びに上記熱安定剤を1種以上含む組合せがある。第二安定剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の重量部の100重量部を基準として約0.01〜約5、具体的には約0.03〜約0.3重量部の量で使用される。
【0086】
紫外光(UV)吸収性添加剤を始めとする光安定剤も使用できる。このタイプの適切な安定性添加剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール及びヒドロキシベンゾトリアゾール、例えば2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノール(CYASORB 5411、Cytec製)、及びCiba Specialty Chemical製のTINUVIN 234、ヒドロキシベンゾトリアジン、ヒドロキシフェニル−トリアジン又は−ピリミジン系UV吸収剤、例えばTINUVIN 1577(Ciba)、及び2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)−フェノール(CYASORB 1164、Cytec製)、置換ピペリジン部分及びそのオリゴマーを含む非塩基性ヒンダードアミン系光安定剤(以後「HALS」とする)、例えば4−ピペリジノール誘導体、例えばTINUVIN 622(Ciba)、GR−3034、TINUVIN 123、及びTINUVIN 440、ベンゾキサジノン、例えば2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン)(CYASORB UV−3638)、ヒドロキシベンゾフェノン、例えば2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン(CYASORB 531)、オキサニリド、シアノアクリレート、例えば1,3−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン(UVINUL 3030)及び1,3−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル]プロパン、並びにナノサイズの無機材料、例えば酸化チタン、酸化セリウム、及び酸化亜鉛(いずれも粒径が約100ナノメートル未満)、など、並びに上記安定剤を1種以上含む組合せがある。光安定剤はポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の重量部の100重量部を基準として約0.01〜約10、具体的には約0.1〜約1重量部の量で使用し得る。UV吸収剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0.1〜約5重量部の量で使用される。
【0087】
可塑剤、滑剤、及び/又は離型剤添加剤も使用できる。これらのタイプの材料にはかなりの重複があり、例えば、フタル酸エステル、例えばジオクチル−4,5−エポキシ−ヘキサヒドロフタレート、トリス−(オクトキシカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリステアリン、二−又は多官能性芳香族ホスフェート、例えばレゾルシノールテトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェート、並びにビスフェノール−Aのビス(ジフェニル)ホスフェート、ポリ−α−オレフィン、エポキシド化大豆油、シリコーン、例えばシリコーン油、エステル、例えば脂肪酸エステル、例えばアルキルステアリルエステル、例えばステアリン酸メチル、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリトリトールテトラステアレート、など、ステアリン酸メチルと、ポリエチレングリコールポリマー、ポリプロピレングリコールポリマー、及びこれらのコポリマーを含む親水性及び疎水性非イオン性界面活性剤との混合物、例えば、適切な溶媒中のステアリン酸メチルとポリエチレン−ポリプロピレングリコールコポリマー、ワックス、例えば蜜蝋、モンタンワックス、パラフィンワックスなど、並びにポリαオレフィン、例えばEthylflo 164、166、168、及び170がある。かかる材料は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0.1〜約20重量部、具体的には約1〜約10重量部の量で使用される。
【0088】
顔料及び/又は染料添加剤のような着色料も存在し得る。適切な顔料としては、例えば、無機顔料、例えば金属酸化物及び混合金属酸化物、例えば酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化鉄など、硫化物、例えば硫化亜鉛、など、アルミン酸塩、ナトリウムスルホ−シリケートスルフェート、クロム酸塩、など、カーボンブラック、亜鉛フェライト、ウルトラマリンブルー、Pigment Brown 24、Pigment Red 101、Pigment Yellow 119、有機顔料、例えばアゾ、ジ−アゾ、キナクリドン、ペリレン、ナフタレンテトラカルボン酸、フラバントロン、イソインドリノン、テトラクロロイソインドリノン、アントラキノン、アンタントロン(anthanthrone)、ジオキサジン、フタロシアニン、及びアゾレーク、Pigment Blue 60、Pigment Red 122、Pigment Red 149、Pigment Red 177、Pigment Red 179、Pigment Red 202、Pigment Violet 29、Pigment Blue 15、Pigment Green 7、Pigment Yellow 147及びPigment Yellow 150、並びに上記顔料を1種以上含む組合せがある。顔料はコートしてマトリックスとの反応を抑制することができるし、又は化学的に不動態化して加水分解若しくは熱分解を促進し得る触媒劣化部位を中和することができる。顔料は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の重量部の100重量部を基準として約0.01〜約10重量部の量で使用する。
【0089】
適切な染料は一般に有機物質であり、例えば、クマリン染料、例えばクマリン460(青)、クマリン6(緑)、ナイルレッドなど、ランタニド錯体、炭化水素及び置換炭化水素染料、多環式芳香族炭化水素染料、シンチレーション染料、例えばオキサゾール又はオキサジアゾール染料、アリール−若しくはヘテロアリール−置換ポリ(C2−8)オレフィン染料、カルボシアニン染料、インダンスロン染料、フタロシアニン染料、オキサジン染料、カルボスチリル染料、ナフタレンテトラカルボン酸染料、ポルフィリン染料、ビス(スチリル)ビフェニル染料、アクリジン染料、アントラキノン染料、シアニン染料、メチン染料、アリールメタン染料、アゾ染料、インジゴイド染料、チオインジゴイド染料、ジアゾニウム染料、ニトロ染料、キノンイミン染料、アミノケトン染料、テトラゾリウム染料、チアゾール染料、ペリレン染料、ペリノン染料、ビス−ベンゾオキサゾリルチオフェン(BBOT)、トリアリールメタン染料、キサンテン染料、チオキサンテン染料、ナフタルイミド染料、ラクトン染料、フルオロフォア、例えばアンチストークスシフト染料(近赤外波長で吸収し、可視波長で放出する)、など、発光染料、例えば5−アミノ−9−ジエチルイミノベンゾ(a)フェノキサゾニウムペルクロレート、7−アミノ−4−メチルカルボスチリル、7−アミノ−4−メチルクマリン、7−アミノ−4−トリフルオロメチルクマリン、3−(2’−ベンズイミダゾリル)−7−N,N−ジエチルアミノクマリン、3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4−ビフェニリル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4−ビフェニル)−6−フェニルベンゾオキサゾール−1,3、2,5−ビス−(4−ビフェニリル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス−(4−ビフェニリル)−オキサゾール、4,4’−ビス−(2−ブチルオクチルオキシ)−p−クォーターフェニル、p−ビス(o−メチルスチリル)−ベンゼン、5,9−ジアミノベンゾ(a)フェノキサゾニウムペルクロレート、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン、1,1’−ジエチル−2,2’−カルボシアニンヨージド、1,1’−ジエチル−4,4’−カルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチル−4,4’,5,5’−ジベンゾチアトリカルボシアニンヨージド、1,1’−ジエチル−4,4’−ジカルボシアニンヨージド、1,1’−ジエチル−2,2’−ジカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチル−9,11−ネオペンチレンチアトリカルボシアニンヨージド、1,3’−ジエチル−4,2’−キノリルオキサカルボシアニンヨージド、1,3’−ジエチル−4,2’−キノリルチアカルボシアニンヨージド、3−ジエチルアミノ−7−ジエチルイミノフェノキサゾニウムペルクロレート、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン、7−ジエチルアミノ−4−トリフルオロメチルクマリン、7−ジエチルアミノクマリン、3,3’−ジエチルオキサジカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチルチアカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチルチアジカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチルチアトリカルボシアニンヨージド、4,6−ジメチル−7−エチルアミノクマリン、2,2’−ジメチル−p−クォーターフェニル、2,2−ジメチル−p−ターフェニル、7−ジメチルアミノ−1−メチル−4−メトキシ−8−アザキノロン−2、7−ジメチルアミノ−4−メチルキノロン−2、7−ジメチルアミノ−4−トリフルオロメチルクマリン、2−(4−(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル)−3−エチルベンゾチアゾリウムペルクロレート、2−(6−(p−ジメチルアミノフェニル)−2,4−ネオペンチレン−1,3,5−ヘキサトリエニル)−3−メチルベンゾチアゾリウムペルクロレート、2−(4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル)−1,3,3−トリメチル−3H−インドリウムペルクロレート、3,3’−ジメチルオキサトリカルボシアニンヨージド、2,5−ジフェニルフラン、2,5−ジフェニルオキサゾール、4,4’−ジフェニルスチルベン、1−エチル−4−(4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル)−ピリジニウムペルクロレート、1−エチル−2−(4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル)−ピリジニウムペルクロレート、1−エチル−4−(4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル)−キノリウムペルクロレート、3−エチルアミノ−7−エチルイミノ−2,8−ジメチルフェノキサジン−5−ウムペルクロレート、9−エチルアミノ−5−エチルアミノ−10−メチル−5H−ベンゾ(a)フェノキサゾニウムペルクロレート、7−エチルアミノ−6−メチル−4−トリフルオロメチルクマリン、7−エチルアミノ−4−トリフルオロメチルクマリン、1,1’,3,3,3’,3’−ヘキサメチル−4,4’,5,5’−ジベンゾ−2,2’−インドトリカルボシアニンヨージド、1,1’,3,3,3’,3’−ヘキサメチルインドジカルボシアニンヨージド、1,1’,3,3,3’,3’−ヘキサメチルインドトリカルボシアニンヨージド、2−メチル−5−t−ブチル−p−クォーターフェニル、N−メチル−4−トリフルオロメチルピペリジノ−<3,2−g>クマリン、3−(2’−N−メチルベンズイミダゾリル)−7−N,N−ジエチルアミノクマリン、2−(1−ナフチル)−5−フェニルオキサゾール、2,2’−p−フェニレン−ビス(5−フェニルオキサゾール)、3,5,3””,5””−テトラ−t−ブチル−p−セキシフェニル、3,5,3””,5””−テトラ−t−ブチル−p−キンケフェニル、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−9−アセチルキノリジノ−<9,9a,1−gh>クマリン、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−9−カルボエトキシキノリジノ−<9,9a,1−gh>クマリン、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−メチルキノリジノ−<9,9a、1−gh>クマリン、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−9−(3−ピリジル)−キノリジノ−<9,9a,1−gh>クマリン、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジノ−<9,9a,1−gh>クマリン、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロキノリジノ−<9,9a,1−gh>クマリン、3,3’,2”,3’”−テトラメチル−p−クォーターフェニル、2,5,2””,5’”−テトラメチル−p−キンケフェニル、P−ターフェニル、P−クォーターフェニル、ナイルレッド、ローダミン700、オキサジン750、ローダミン800、IR 125、IR 144、IR 140、IR 132、IR 26、IR5、ジフェニルヘキサトリエン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、ナフタレン、アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、ピレン、クリセン、ルブレン、コロネン、フェナントレンなど、及び上記染料を1種以上含む組合せがある。染料は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の重量部の100重量部を基準として約0.1ppm(百万部当たりの部)〜約10重量部の量で使用される。
【0090】
物品上に噴霧したり熱可塑性組成物中に加工混入することができるモノマー性、オリゴマー性、又はポリマー性帯電防止添加剤を使用することができ有利である。モノマー性帯電防止剤の例としては、長鎖エステル、例えばグリセロールモノステアレート、グリセロールジステアレート、グリセロールトリステアレート、など、ソルビタンエステル、並びにエトキシル化アルコール、アルキルスルフェート、アルキルアリールスルフェート、アルキルホスフェート、アルキルアミンスルフェート、アルキルスルホン酸塩、例えばステアリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど、フッ素化アルキルスルホン酸塩、ベタイン、などがある。上記帯電防止剤の組合せも使用できる。代表的なポリマー性帯電防止剤としては、各々がポリアルキレングリコール部分を含有するある種のポリエーテルエステル、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、などがある。かかるポリマー性帯電防止剤は市販されており、例えば、PELESTAT 6321(Sanyo)、PEBAX MH1657(Atofina)、並びにIRGASTAT P18及びP22(Ciba−Geigy)がある。帯電防止剤として使用できるその他のポリマー性物質は本質的に導電性のポリマー、例えばポリチオフェン(Bayerから市販されている)であり、これは高温で溶融加工した後でもその固有の導電性をある程度保持する。1つの実施形態において、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、カーボンブラック又はこれらの任意の組合せを、化学的帯電防止剤を含有するポリマー性樹脂中に使用して、その組成物を静電気的に散逸性とすることができる。帯電防止剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0.1〜約10重量部、具体的には約 の量で使用される。
【0091】
フォーム(発泡体)が望まれる場合、適切な発泡剤としては、例えば、低沸点ハロ炭化水素及び二酸化炭素を生成するもの、室温では固体であり、その分解温度より高い温度に加熱されたときに窒素、二酸化炭素、アンモニアガスのようなガスを生成する発泡剤、例えばアゾジカーボンアミド、アゾジカーボンアミドの金属塩、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、など、又は上記発泡剤を1種以上含む組合せがある。発泡剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0.5〜約20重量部の量で使用する。
【0092】
添加することができる適切な難燃剤は安定であり、具体的には加水分解に対して安定である。加水分解に対して安定な難燃剤は、製造及び/又は使用条件下で、ポリカーボネート組成物の劣化を触媒し得るか又はその他の意味で関与することができる化学種を生成するように実質的に劣化することがない。かかる難燃剤は、リン、臭素、及び/又は塩素を含む有機化合物であり得る。上記したポリシロキサン−ポリカーボネートコポリマーも使用できる。ある種の用途では、規制上の理由から、非臭素化及び非塩素化リン含有難燃剤、例えばある種の有機ホスフェート及び/又はリン−窒素結合を含有する有機化合物が好ましいことがある。
【0093】
1つのタイプの代表的な有機ホスフェートは式(GO)P=Oの芳香族ホスフェートであり、式中、各々のGは独立にアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、又はアラルキル基であるが、1つ以上のGが芳香族基である。2つのG基は互いに結合して環式基を形成してもよい。例えば、Axelrodの米国特許第4154775号に記載されているジフェニルペンタエリトリトールジホスフェートがある。その他の適切な芳香族ホスフェートは、例えば、フェニルビス(ドデシル)ホスフェート、フェニルビス(ネオペンチル)ホスフェート、フェニルビス(3,5,5’−トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジ(p−トリル)ホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)p−トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスフェート、ビス(ドデシル)p−トリルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2−クロロエチルジフェニルホスフェート、p−トリルビス(2,5,5’−トリメチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、などであり得る。特定の芳香族ホスフェートは、各々のGが芳香族であるもの、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、イソプロピル化トリフェニルホスフェート、などである。
【0094】
二−又は多官能性の芳香族リン含有化合物も有用であり、例えば次式の化合物がある。
【0095】
【化11】

式中、各々のGは独立に1〜約30個の炭素原子を有する炭化水素であり、各々のGは独立に1〜約30個の炭素原子を有する炭化水素又は炭化水素オキシであり、各々のXは独立に臭素又は塩素であり、mは0〜4であり、nは1〜約30である。適切な二−又は多官能性芳香族リン含有化合物の例としては、レゾルシノールテトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのビス(ジフェニル)ホスフェート、及びビスフェノール−Aのビス(ジフェニル)ホスフェート、これらのオリゴマー性及びポリマー性対応物、などがある。
【0096】
リン−窒素結合を含有する代表的な適切な難燃剤化合物としては、塩化ホスホニトリル及びトリス(アジリジニル)アジリジニルオキシドがある。存在する場合、リン含有難燃剤は一般にポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約1〜約20重量部の量で存在する。
【0097】
ハロゲン化物質、例えば次式(11)のハロゲン化化合物及び樹脂も難燃剤として使用できる。
【0098】
【化12】

式中、Rはアルキレン、アルキリデン又は環式脂肪族結合、例えば、メチレン、プロピレン、イソプロピリデン、シクロヘキシレン、シクロペンチリデン、など、酸素エーテル、カルボニル、アミン、又はイオウ含有結合、例えば、スルフィド、スルホキシド、スルホン、など、又は芳香族、アミノ、エーテル、カルボニル、スルフィド、スルホキシド、スルホン、などの基のような基によって連結された2以上のアルキレン若しくはアルキリデン結合であり、Ar及びAr’は各々独立にモノ−又はポリ炭素環式芳香族基、例えばフェニレン、ビフェニレン、ターフェニレン、ナフチレン、などであり、ここでAr及びAr’上のヒドロキシル及びY置換基は芳香環上のオルト、メタ又はパラの位置で変わることができ、これらの基は互いに可能な任意の幾何学的関係にあることができ、各々のYは独立に有機、無機又は有機金属基、例えば(1)ハロゲン、例えば塩素、臭素、ヨウ素、又はフルオリン、(2)一般式−OEのエーテル基(ここで、EはXと類似の一価炭化水素基である)、(3)Rで表されるタイプの一価炭化水素基、又は(4)その他の置換基、例えば、ニトロ、シアノ、などであり、これらの置換基は本質的に不活性であるが、アリール核1個当たり1個以上、好ましくは2個のハロゲン原子が存在し、各々のXは独立に一価C1−18炭化水素基、例えばメチル、プロピル、イソプロピル、デシル、フェニル、ナフチル、ビフェニル、キシリル、トリル、ベンジル、エチルフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、などであり、各々場合により不活性な置換基を含有していてもよく、各々のdは独立に1から、Ar又はAr’からなる芳香環上の置換された置換可能な水素の数と等しい最大値までであり、各々のeは独立に0から、R上の置換可能な水素の数と等しい最大値までであり、各a、b、及びcと独立に0を含む整数であるが、bが0である場合a又はcのいずれか(両方ではない)が0であり得、bが0でない場合には、aもcも0にはなれない。
【0099】
上記式の範囲内にはビスフェノール類が入り、その代表例はビス(2,6−ジブロモフェニル)メタン、1,1−ビス−(4−ヨードフェニル)エタン、2,6−ビス(4,6−ジクロロナフチル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジクロロフェニル)ペンタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジクロロ−3−メトキシフェニル)メタン、及び2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである。また、上記構造式には、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジブロモベンゼン、及びビフェニル、例えば2,2’−ジクロロビフェニル、ポリ臭素化1,4−ジフェノキシベンゼン、2,4’−ジブロモビフェニル、及び2,4’−ジクロロビフェニル、並びにデカブロモジフェニルオキシド、なども含まれる。また、オリゴマー性及びポリマー性のハロゲン化芳香族化合物、例えばビスフェノールA及びテトラブロモビスフェノールA及びカーボネート前駆体、例えばホスゲンのコポリカーボネートも有用である。金属相乗剤、例えば、酸化アンチモンを難燃剤と共に使用してもよい。存在する場合、ハロゲン含有難燃剤は一般にポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約1〜約50重量部の量で使用される。
【0100】
もう1つ別の有用なタイプの難燃剤は次式(12)の繰返し構造単位を含むポリジオルガノシロキサンブロックを有するポリシロキサン−ポリカーボネートコポリマーである。
【0101】
【化13】

式中、各々のRは同一又は異なり、C1−13一価有機基である。例えば、RはC〜C13アルキル基、C〜C13アルコキシ基、C〜C13アルケニル基、C〜C13アルケニルオキシ基、C〜Cシクロアルキル基、C〜Cシクロアルコキシ基、C〜C10アリール基、C〜C10アリールオキシ基、C〜C13アラルキル基、C〜C13アラルコキシ基、C〜C13アルカリール基、又はC〜C13アルカリールオキシ基でよい。上記R基の組合せを同一のコポリマーに使用してもよい。式(6)中のRは二価C〜C脂肪族基である。式(7)中の各々のMは同一でも異なっていてもよく、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C〜Cアルキルチオ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケニル、C〜Cアルケニルオキシ基、C〜Cシクロアルキル、C〜Cシクロアルコキシ、C〜C10アリール、C〜C10アリールオキシ、C〜C12アラルキル、C〜C12アラルコキシ、C〜C12アルカリール、又はC〜C12アルカリールオキシでよく、各々のnは独立に0、1、2、3、又は4である。
【0102】
式(6)中のDは、ポリカーボネート組成物に有効なレベルの難燃性を提供するように選択される。従って、Dの値は、ポリカーボネート組成物中の各々の成分の相対量、例えばポリカーボネート、衝撃改良剤、ポリシロキサン−ポリカーボネートコポリマー、及びその他の難燃剤の量に応じて変化する。Dの適切な値は、当業者が本明細書中に教示された指針を用いて過度の実験をすることなく決定することができる。一般に、Dは10〜約250、具体的には約10〜約60の平均値を有する。
【0103】
1つの実施形態において、Mは独立にブロモ若しくはクロロ、C〜Cアルキル基、例えばメチル、エチル、若しくはプロピル、C〜Cアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、若しくはプロポキシ、又はC〜Cアリール基、例えばフェニル、クロロフェニル、若しくはトリルであり、Rはジメチレン、トリメチレン又はテトラメチレン基であり、RはC1−8アルキル、ハロアルキル、例えばトリフルオロプロピル、シアノアルキル、又はアリール、例えばフェニル、クロロフェニル若しくはトリルである。別の実施形態において、Rはメチル、又はメチルとトリフルオロプロピルの混合物、又はメチルとフェニルの混合物である。さらに別の実施形態において、Mはメトキシであり、nは1であり、Rは二価C〜C脂肪族基であり、Rはメチルである。
【0104】
ポリシロキサン−ポリカーボネートコポリマーは、対応するジヒドロキシポリシロキサンと、ポリカーボネートに関して上記したようなカーボネート源及び式(3)のジヒドロキシ芳香族化合物との反応によって製造することができる。一般に、ジヒドロキシポリジオルガノシロキサンの量は、ポリカーボネートブロックのモル数に対して約1〜約60モルパーセントのポリジオルガノシロキサンブロック、より一般的にはポリカーボネートブロックのモル数に対して約3〜約50モルパーセントのポリジオルガノシロキサンブロックを含むコポリマーが生成するように選択される。存在する場合、これらのコポリマーは、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約5〜約50重量部、より具体的には約10〜約40重量部の量で使用することができる。
【0105】
無機難燃剤、例えばC2−16アルキルスルホン酸の塩、例えばペルフルオロブタンスルホン酸カリウム(Rimar塩)、ペルフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸テトラエチルアンモニウム、及びジフェニルスルホンスルホン酸カリウム、CaCO、BaCO3、及びBaCOのような塩、フルオロ−陰イオン錯体の塩、例えばLiAlF、BaSiF、KBF、KAlF、KAlF、KSiF6、及びNaAlF、なども使用できる。存在する場合、無機難燃剤塩は一般にポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0.01〜約25重量部、より具体的には約0.1〜約10重量部の量で存在する。
【0106】
ドリップ抑制剤、例えばフィブリル形成性又は非フィブリル形成性のフルオロポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)も使用できる。ドリップ抑制剤は上記したような硬質コポリマー、例えばSANでカプセル化してもよい。SAN中にカプセル化されたPTFEはTSANとして公知である。カプセル化されたフルオロポリマーは、フルオロポリマー、例えば水性分散液の存在下でカプセル化用ポリマーを重合させることによって作成することができる。TSANは、TSANが組成物中により容易に分散することができるという点でPTFEと比べて多大な利点を提供し得る。適切なTSANは、例えば、カプセル化されたフルオロポリマーの総重量を基準として約50wt%のPTFEと約50wt%のSANからなることができる。SANは、例えば、このコポリマーの総重量を基準として約75wt%のスチレンと約25wt%のアクリロニトリルからなることができる。また、フルオロポリマーは、何らかの方法で第2のポリマー、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂又はSANと予めブレンドして、ドリップ抑制剤として使用される凝集した物質を形成してもよい。いずれの方法を用いてカプセル化されたフルオロポリマーを製造してもよい。ドリップ抑制剤は一般に、ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物の100重量部を基準として約0.1〜約10重量部の量で使用される。
【0107】
熱可塑性組成物は当技術分野で一般に利用可能な方法によって製造することができ、例えば、1つの実施形態において、1つの手順では、最初に、粉末化されたポリカーボネート、使用する場合にはその他の樹脂、衝撃改良剤組成物、及び/又は他の任意成分を、、場合によりチョップトガラスストランド又はその他の充填材と共に、Henschel高速ミキサーでブレンドする。他の低剪断プロセス、例えば限定されることはないが手練りを用いて、このブレンド操作を行ってもよい。次に、このブレンドをホッパーを介して二軸式押出機の喉部へ供給する。或いは、1以上の成分を、喉部で及び/又は下流でサイドスタッファーを介して直接押出機に供給することにより組成物中に混入してもよい。かかる添加剤はまた、所望のポリマー性樹脂と共にコンパウンディングしてマスターバッチとし、押出機に供給してもよい。これらの添加剤は、ポリカーボネート母材材料又はABS母材材料のいずれかに添加して濃縮物を作成した後、これを最終生成物に添加してもよい。押出機は一般に、組成物を流動させるのに必要な温度より高い温度、通例500°F(260℃)〜650°F(343℃)で作動する。押出物は即座に水浴でクエンチし、ペレット化する。こうして製造されたペレットは、押出物を切断するときに、所望により1/4インチ以下の長さとし得る。かかるペレットはその後の型成形(molding)、賦形(shaping)、又は造形(forming)に使用することができる。
【0108】
熱可塑性組成物からなる賦形、造形、又は成形した物品も提供される。熱可塑性組成物は、射出成形、押出、回転成形、ブロー成形及び熱成形のような各種の手段により有用な造形品に成形して、例えば、コンピューター及び事務機器ハウジング、例えばモニター用ハウジング、手持ち式電子機器ハウジング、例えば携帯電話用ハウジング、電気コネクター、及び照明器具部品、装飾、家庭用電気製品、屋根、温室、サンルーム、スウィミングプールエンクロージャー、などのような物品を形成することができる。
【0109】
本組成物は、自動車用途、例えば、インストルメントパネル、オーバーヘッドコンソール、インテリヤートリム、センターコンソール、などのような内装部品、及びボディーパネル、エクステリヤートリム、バンパー、などのような外装部品に特に有用である。
【0110】
本明細書に記載した熱可塑性組成物は大幅に改良された加水分解エージング安定性を有する。特に有利な点として、本熱可塑性組成物は熱老化安定性が有意に劣化することなく改良された加水分解エージング安定性を達成し得る。さらに、幾つかの実施形態では、熱老化安定性と衝撃強さが有意に劣化することなく改良された加水分解エージング安定性を達成し得る。
【0111】
本熱可塑性組成物は、高湿及び/又は高温条件に曝露された後のメルトフローレート(MFR)の変化の低下に反映されるように大幅に改良された加水分解エージング安定性を有する。MFRは、所定の温度と荷重でオリフィスを通る熱可塑性物質の押出の速度であり、ISO 1133又はASTM D1238に従って測定することができる。これは、溶融材料の流動性を測定する手段を提供し、熱及び/又は湿度に曝露された結果としての熱可塑性材料の劣化の程度を決定するのに使用することができる。劣化した材料は一般に、低下した分子量の結果としてより速く流動し、低下した物理的性質を示し得る。通例、フローレートは高湿条件下での貯蔵の前後で決定された後、差の程度(%)が計算される。
【0112】
例えば、1つの実施形態において、260℃、5キログラム(Kg)で(6分予熱後)測定されるMFRの変化は、90℃/95%相対湿度(RH)の環境に1000時間曝露後、初期MFR値の約60%未満、具体的には約50%未満、より具体的には約40%未満、より具体的には約30%未満である。別の実施形態において、これらの組成物はまた、260℃、5Kg(6分予熱後)で測定されるMFRの変化が、110℃の環境に1000時間周囲湿度(一般に1〜2%湿度)で曝露後、初期MFR値の約50%未満、具体的には約40%未満、より具体的には約30%未満、より具体的には約20%未満であり得る。
【0113】
別の実施形態において、本熱可塑性組成物は、高湿条件に曝露後の分子量の低下が少なくなったことによって反映されるように大幅に改良された加水分解エージング安定性を有し得る。分子量は塩化メチレン溶媒中でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定される。ポリスチレン校正標準を使用して相対分子量を決定する。重量平均分子量の変化が通例使用される。これにより、ポリマー性材料の鎖長の変化を測定する手段が提供され、熱及び/又は湿度に曝露された結果としての熱可塑性材料の劣化の程度を決定するのに使用することができる。劣化した材料は一般に低下した分子量を示し、低下した物理的性質を示し得る。通例、分子量は高湿条件での貯蔵の前後に決定され、次いで差の程度(%)が計算される。
【0114】
例えば、1つの実施形態において、ポリスチレン標準を用いてジクロロメタン中でGPCにより測定される重量平均分子量の変化は、90℃/95%相対湿度(RH)の環境に1000時間曝露後、初期値の約60%未満、具体的には約50%未満、より具体的には約40%未満、より具体的には約30%未満である。別の実施形態において、ポリスチレン標準を用いてジクロロメタン中でGPCにより測定される重量平均分子量の変化は、110℃の環境に1000時間周囲湿度で1000時間曝露した後に、初期値の約60%未満、具体的には約50%未満、より具体的には約40%未満、より具体的には約30%未満である。
【0115】
別の実施形態において、本熱可塑性組成物は、高湿条件に曝露後の溶融粘度(MV)のより小さい増大に反映されるように大幅に改良された加水分解エージング安定性を有し得る。溶融粘度は、所与の温度におけるポリマーの分子鎖が互いに対して動き得る尺度である。溶融粘度は分子量に依存し、分子量が高いほど、絡み合いが多くなり溶融粘度も大きくなり、従って熱及び/又は湿度への曝露の結果としての熱可塑性材料の劣化の程度を決定するのに使用することができる。劣化した材料は一般に増大した粘度を示し、低下した物理的性質を示し得る。溶融粘度はいろいろな剪断速度に対して決定され、DIN 54811によって便利に決定することができる。通例、溶融粘度は高湿条件下で貯蔵の前後で決定され、次いで差の程度(%)が計算される。
【0116】
例えば、1つの実施形態において、260℃で、100、500、1000、1500、5000、及び10000s−1の剪断速度で測定されるMVの変化は、90℃/95%相対湿度(RH)の環境に1000時間曝露後、初期MV値の約60%未満、具体的には約50%未満、より具体的には約40%未満、より具体的には約30%未満、さらにより具体的には約20%未満である。別の実施形態において、MVの変化は、110℃の環境に1000時間周囲湿度で1000時間曝露した後に、初期値の約60%未満、具体的には約50%未満、より具体的には約40%未満、より具体的には約30%未満、さらにより具体的には約20%未満である。
【0117】
本明細書に記載した組成物はさらに、優れた物理的性質と良好な加工性を有し得る。例えば、本熱可塑性ポリカーボネート組成物は、ISO 75Aeに従って4mmの太さの試験棒に対して1.8MPaで測定して約80〜約120℃、より具体的には約100〜約110℃の加熱撓み温度(HDT)を有し得る。
【0118】
本熱可塑性ポリカーボネート組成物は、さらに、ISO 180/1Aに従い4mmの太さの試験棒を用いて−30℃で決定して約25KJ/mより大きく、具体的には約35KJ/mより大きい低温ノッチ付きアイゾット衝撃を有し得る。
【0119】
本熱可塑性ポリカーボネート組成物は、さらに、ISO 179/1eAに従い4mmの太さを用いて−30℃で決定して約25KJ/m、より具体的には−30℃で決定して約35KJ/mのCharpy Impactを有し得る。
【0120】
本熱可塑性ポリカーボネート組成物は、さらに、ISO 306に従い4mmの太さの試験棒を用いて決定して約120〜約140℃、より具体的には約126〜約132℃のVicat B/50を有し得る。
【0121】
本熱可塑性ポリカーボネート組成物は、さらに、ASTM D3763に従い−30℃において4−インチ(10cm)の直径のディスク、1/2−インチ(12.7mm)の直径の槍、及び6.6メートル/秒(m/s)の衝撃速度を用いて決定して約20ft−lbs以上、好ましくは約30ft−lbs以上の最大荷重におけるInstrumented Impact Energy(落槍衝撃)を有し得る。
【0122】
もう1つ別の驚くべき特徴として、本組成物からの炭素及び/又はVOC(揮発性有機化学物質)の放出が低減していることが判明した。低いVOC放出は、曇りが少なくなるので、自動車内装部品のような用途で望ましい。本組成物はさらにまた臭気が少ない。試料からの炭素放出はPV 3341に従って決定することができる。炭素放出は組成物1グラム当たり約30未満、具体的には約25未満、より具体的には約20マイクログラム未満の炭素であり得る。FOG及びVOC放出は、大きい自動車内装部品に対して標準的な80℃で2時間の試料処理を用いてVDA 278に従って決定することができる。VOC放出は約10ppm未満、具体的には約0.1〜約6ppm、より具体的には約3〜約4ppmであり得る。FOGは約5ppm未満、約0.1〜約3ppm、より具体的には約0.5〜約1ppmであり得る。臭気は約4未満、具体的には約1〜約3であり得る。
【実施例】
【0123】
以下の非限定実施例により本発明をさらに例示する。
【0124】
これらの実施例において、ポリカーボネート(PC)はビスフェノールAに基づいており、分子量は10000〜120000、より具体的には18000〜40000(絶対分子量スケール)であり、GE Advanced Materialsから商標LEXANとして入手可能である。これらのポリカーボネートの初期メルトフローはASTM D1238に従い1.2Kgの荷重を用いて300℃で測定して約6〜約27であった。
【0125】
MBSはRohm & HaasのEXL2691A(粉末)又はRohm & HaasのEXL3691A(ペレット化)であり、公称75〜82wt%がブタジエンコアで残りがスチレン−メタクリル酸メチルシェルである。このMBSは好ましくは米国特許第6545089号に記載の方法に従って製造され、ポリカーボネートの加水分解を触媒し得る不純物、残留酸、残留塩基又は残留金属を実質的に含まない。約6〜約7のpHを有するMBSのスラリーが得られるようにMBS製造を制御することにより、最適の加水分解安定性が得られる。各成分のスラリーのpHは、成分1gと、湿潤剤としてイソプロピルアルコールを1滴含有するpH7での蒸留水10mLとを用いて測定する。
【0126】
使用したSANはアクリロニトリル含有量が25wt%の塊状法材料である。
【0127】
この塊状法ABS(BABS)は公称15wt%のブタジエンと公称15wt%のアクリロニトリル含有量を有していた。微細構造は転相され、SANマトリックス中のブタジエン相中にSANが吸蔵される。このBABSは、例えば、米国特許第3981944号及び同第5414045号に記載されているように撹拌沸騰反応器と直列の栓流反応器を用いて製造された。
【0128】
スチームストリッピングをしてない試料は、Werner & Pfleiderの30mm二軸式押出機で、公称溶融温度525°F(274℃)、25インチ(635mm)の水銀柱の真空、及び500rpmを用いて溶融押出によって調製した。押出物をペレット化し、約120℃で約4時間乾燥した。スチームストリッピングをした試料は、Werner & Pfleiderの25mm二軸式押出機で、スチームストリッピング用に設計されたスクリュー、公称溶融温度260℃、25インチ(635mm)の水銀柱の真空、及び450rpmを用いて溶融押出によって調製した。押出物をペレット化し、約120℃で約2時間乾燥した。
【0129】
試験片を作成するために、乾燥したペレットを、85トンの射出成形機で公称温度525℃で射出成形した。ここで、射出成形機のバレル温度は約285〜約300℃で変化させた。試験片を上記ASTM又はISO規格に従って試験した。
【0130】
下記表1に、90℃/95%RHで500及び1000時間の加水分解エージング後、並びに110℃で500及び1000時間の熱エージング後の予測されたメルトフローの変化率を示す。比較例A及びBは、乳化重合したABSを用い、MBSを含有しない従来のPC/ABS系の例である。比較例Cは、改良された加水分解安定性に対して最適化された安定剤組成物を使用し、MBSを含有しない従来のPC/ABS系の例である。本発明の実施例Dは、70wt%のPC、21.5wt%のBABS、及び8.5wt%のMBS、並びに当技術分野で公知の安定剤及び離型剤を含んでいる。この表に挙げた値は、これらの組成を体系的に変化させた設計空間(design space)からのモデル予測値を表す。使用したモデルは、Design Expert 6.01 Experimental設計プログラムを用いて開発されたD−Optimal Crossed Mixture設計であった。このプログラムでは、下記表に挙げたデータを用い、全てのエージング条件下でメルトフローのシフトが最小になるように数量最適化を選択した。
【0131】
【表1】

以上の結果は、本発明の組成物が、90℃/95%RHで500及び1000時間の加水分解エージング、並びに110℃で500及び1000時間の熱エージングの前後のメルトフローの変化率において顕著な改良を示すことを立証している。
【0132】
下記表2に示す実施例1〜23は本発明であり、実施例24〜37は比較である。比較例33〜37は、乳化重合したABSを用い、MBSを含有しない従来のPC/ABS系の例である。これらの実施例の性質を表2に示す。「DMFR」は、ASTM D1238に従い6分間予熱した後5Kgの荷重を用いて260℃で測定された、90℃/95%RHでのエージング後のメルトフローレートの変化である。
【0133】
【表2】

*実施例は、真空脱気の前に押出機内の溶融体中に蒸気を注入することによりスチームストリッピングして揮発分を除去した。
【0134】
上記の結果は、エージング前後のメルトボリューム指数の変化率の低下によって立証されているように、高い熱及び湿度の条件に曝露した際の本発明の組成物のより良好な溶融安定性を明白に示している。特に、本発明の実施例は粘度の変化率が約13〜約31%であるのに対して、比較例の粘度の変化率は53〜2084%である。
【0135】
本明細書で使用する場合、「(メタ)アクリレート」はアクリレートとメタクリレートの両方を含む。さらに、本明細書で使用する場合、用語「第1の」、「第2の」などは順序や重要性を示すものではなく、ある要素を他の要素から区別するために使用しており、またある用語を用いる場合は量的制限を意味するのではなく、その用語で表されるものが存在していることを表す。同一の性質又は量に対して本明細書に開示した範囲は全てその終端を含み、その終端は独立に組合せ可能である。引用した特許、特許出願その他の文献は全て援用により本明細書に内容の一部をなす。
【0136】
好ましい実施形態に関連して本発明を説明してきたが、当業者には理解されるように、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であり、その要素に代えて等価なものを使用することができる。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正が可能である。従って、本発明は本発明を実施する上で考えられる最良の態様として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に入るあらゆる実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート成分と衝撃改良剤組成物とを組み合わせて含んでなる熱可塑性組成物であって、衝撃改良剤組成物の成分はポリカーボネートを劣化させる化学種を実質的に含まず、該成分は
塊状重合したABS、及び
ABSとは異なる衝撃改良剤
を含んでなる熱可塑性組成物。
【請求項2】
衝撃改良剤組成物の個々の成分の各々のスラリーが約3〜約8のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
さらに添加剤を含んでなり、個々の添加剤の各々のスラリーが約4〜約7のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
さらに添加剤を含んでなり、個々の添加剤の各々のスラリーが約6〜約7のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
1〜約95wt%のポリカーボネート、約5〜約98wt%の塊状重合したABS、約1〜約95wt%のABSとは異なる衝撃改良剤、及び約50wt%以下の硬質コポリマーを含んでなり、上記量の各々はポリカーボネート、塊状重合したABS、ABSとは異なる衝撃改良剤、及び硬質コポリマーの総重量を基準とする、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
約20〜約84wt%のポリカーボネート、約5〜約50wt%の塊状重合したABS、約4〜約20wt%のABSとは異なる衝撃改良剤、及び1〜約20wt%の硬質コポリマーを含んでなり、上記量の各々はポリカーボネート、塊状重合したABSとは異なる衝撃改良剤、及び硬質コポリマーの総重量を基準とする、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
約64〜約74wt%のポリカーボネート、約5〜約35wt%の塊状重合したABS、約2〜約10wt%のABSとは異なる衝撃改良剤、及び約2〜約8wt%の硬質コポリマーを含んでなり、上記量の各々はポリカーボネート、塊状重合したABS、ABSとは異なる衝撃改良剤、及び硬質コポリマーの総重量を基準とする、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
塊状重合したABS以外の衝撃改良剤が乳化重合により製造されたものである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
乳化重合がポリカーボネートを劣化させる化学種の不在下で行われる、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
乳化重合が塩基性化学種の不在下で行われる、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
塊状重合したABS以外の衝撃改良剤が、C1−22アルキルスルホネート、C7−25アルキルアリールスルホネート、C1−22アルキルスルフェート、C7−25アルキルアリールスルフェート、C1−22アルキルホスフェート、C7−25アルキルアリールホスフェート、置換シリケート、又は上記の界面活性剤を1種以上含む組合せを用いて乳化重合することにより製造されたものである、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
塊状重合したABS以外の衝撃改良剤が、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンジエンモノマーゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、シリコーンゴム、C4−8アルキル(メタ)アクリレートから誘導されたエラストマー性ゴム、C1−8アルキル(メタ)アクリレートとブタジエン及び/又はスチレンとのエラストマー性コポリマー、又は上記エラストマーを1種以上含む組合せからなるエラストマー性相を、下記式(9)のモノマーと下記一般式(10)のモノマーとの共重合により誘導された硬質コポリマー相と共に含んでなる、請求項8記載の組成物。
【化1】

式中、各Xは独立に水素、C〜C12アルキル、C〜C12シクロアルキル、C〜C12アリール、C〜C12アラルキル、C〜C12アルカリール、C〜C12アルコキシ、C〜C12シクロアルコキシ、C〜C12アリールオキシ、クロロ、ブロモ、又はヒドロキシであり、Rは水素、C〜Cアルキル、ブロモ、又はクロロである。
【化2】

式中、Rは水素、C〜Cアルキル、ブロモ、又はクロロであり、Xはシアノ、C〜C12アルコキシカルボニル、C〜C12アリールオキシカルボニル、又はヒドロキシカルボニルである。
【請求項13】
エラストマー相がポリブタジエンからなり、硬質コポリマー相が、スチレン、α−メチルスチレン、ジブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ブチルスチレン、パラ−ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、又は上記スチレン類を1種以上含む組合せと、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、β−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリル、アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、又は上記コモノマーを1種以上含む組合せとの共重合により誘導された単位を含んでいる、請求項8記載の組成物。
【請求項14】
塊状重合したABS以外の衝撃改良剤がMBS、AES、MABS、ASA又は上記衝撃改良剤を1種以上含む組合せである、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
さらに、ポリカーボネートを劣化させる化学種を実質的に含まないか、及び/又はポリカーボネートの劣化を抑制するように処理されている添加剤を含んでいる、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
添加剤が充填材、強化材、顔料、又は上記添加剤を1種以上含む組合せである、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記処理がコーティング及び/又は化学的不動態化である、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
90℃/95%RHでエージングした後のメルトフローレートの変化率が約60%未満であり、ここで、メルトフローは、ASTM D1238に従い6分間予熱した後5Kgの荷重を用いて260℃で測定される、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
110℃/2%RHでエージングした後のメルトフローレートの変化率が約60%未満であり、ここで、メルトフローは、ASTM D1238に従い6分間予熱した後5Kgの荷重を用いて260℃で測定される、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
ISO 180/1Aに従い4mmの太さの試験棒を用いて−30℃で決定されるノッチ付きアイゾット衝撃強さが約25KJ/mより大きい、請求項1記載の組成物。
【請求項21】
90℃/95%RHでエージングした後の重量平均分子量の変化率が約60%未満であり、ここで、重量平均分子量は、ジクロロメタン中でポリスチレン標準を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される、請求項1記載の組成物。
【請求項22】
90℃/95%RHでエージングした後の重量平均分子量の変化率が約20%未満であり、ここで、重量平均分子量は、ジクロロメタン中でポリスチレン標準を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される、請求項1記載の組成物。
【請求項23】
90℃/95%RHでエージングした後の溶融粘度の変化率が約60%未満であり、ここで、溶融粘度は、DIN 54811に従い100、500、1000、1500、5000、及び10000s−1の剪断速度を用いて260℃で測定される、請求項1記載の組成物。
【請求項24】
請求項1記載の組成物を含んでなる物品。
【請求項25】
自動車部品の形態である、請求項24記載の物品。
【請求項26】
さらに、ポリカーボネートを劣化させる化学種を実質的に含まないか、及び/又はポリカーボネートの劣化を抑制するように処理されている着色料を含んでいる、請求項24記載の物品。
【請求項27】
請求項1記載の組成物を型成形する(molding)、押し出す、又は賦形する(shaping)ことを含んでなる、物品の製造方法。
【請求項28】
添加剤を、ポリカーボネート、塊状重合したABS、ABSとは異なる衝撃改良剤、硬質コポリマー、又は上記のものを1種以上含む組合せと合わせて混合し、この合わせて混合した添加剤を、型成形、押出、又は賦形中の熱可塑性組成物に添加する、請求項27記載の方法。
【請求項29】
請求項27記載の方法によって作成された物品。
【請求項30】
改良された加水分解及び/又は熱安定性を有する熱可塑性組成物の製造方法であって、ポリカーボネート、塊状重合したABS、及びABSとは異なる衝撃改良剤を混和することを含んでなり、前記組成物の各々の成分がポリカーボネートを劣化させる化学種を本質的に含まない、方法。
【請求項31】
請求項30記載の方法によって作成された熱可塑性組成物。
【請求項32】
請求項31記載の熱可塑性組成物から作成された物品。

【公表番号】特表2008−505220(P2008−505220A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519387(P2007−519387)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/023069
【国際公開番号】WO2006/014283
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【復代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
【Fターム(参考)】