説明

熱可塑性ポリマー材料用の可塑剤

本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、可塑剤としてのキサンテンまたはキサンテンベース化合物を含む。本発明の方法は、前記熱可塑性ポリマー材料を改変し、良好な強度または「靱性」を維持しながら、可塑性を向上させることができる。また、本発明の熱可塑性ポリマー組成物を用いて、様々な製品を製造することが可能である。本発明は、半晶質熱可塑性ポリマーに組み込まれ、高非晶質熱可塑性材料組成物を生成することができるキサンテン及びキサンテンベース分子構造体に関する。この新規な組成物は、前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照出発ポリマーよりも、柔軟で曲がりやすく、かつ強度及び靱性が高いポリマー材料を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本願は、2008年12月19日付けで出願された米国特許出願第12/340,409号の優先権を主張するものであり、該出願の内容は本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、可塑性を高めるために、熱可塑性ポリマー材料に組み込むことができる特定の化学添加物に関する。特に、本発明は、半晶質熱可塑性ポリマーにおけるキサンテンまたはキサンテンベース分子構造体の可塑化効果に関する。
【背景技術】
【0003】
固体における分子形状及び分子の配列形態は、ポリマーの巨視的な物理的性質を決定する重要な因子である。特定のポリマー材料の脆弱性または可塑性の相対的な程度は、ポリマーの分子構造、配座及び配向に依存している。分子は集合してより秩序的な構造体を形成するので、自己集合の一般概念は、ミクロ及び巨視的スケールにおける分子の組織化に関連する。液晶の空間的構造と同様に、正多面体の結晶化は自己集合プロセスの一例である。
【0004】
ポリプロピレンやポリ乳酸などの従来の熱可塑性ポリマーは、脆い場合もあるが、比較的硬い傾向にある。製造業者たちは、長年に渡って、従来の熱可塑性材料をより曲がりやすいまたは「柔らかい」ものに改変するか、あるいは、そのような熱可塑性材料を開発することを試みてきたが、成功した者はいなかった。そのため、熱可塑性ポリマー材料を改変して、該材料中の非晶質成分の相対的含有量を増加させるための新規な材料組成物または方法が求められているが、この要求は依然として満たされていない。本発明は、この満たされていない要求を解決するための可塑剤組成物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第11/974,369号明細書
【特許文献2】米国特許出願第11/974,393号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hideto Tsuji and Yoshito Ikada., J. Appl . Polym. Sci. 63: 855-863, 1997
【非特許文献2】Lillie, H. J. CONN'S BIOLOGICAL STAINS, p.326, Williams & Wilkins, 9th ed. 1977
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、半晶質熱可塑性ポリマーに組み込まれ、高非晶質熱可塑性材料組成物を生成することができるキサンテン及びキサンテンベース分子構造体に関する。この新規な組成物は、前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照出発ポリマーよりも、柔軟で曲がりやすく、かつ強度及び靱性が高いポリマー材料を生成することができる。この特徴は、本組成物のユニークで予期せぬ発見であり、両方の利益を提供する。本発明は、1つには、約14〜87重量%の結晶質含有量を有する出発ベース半晶質ポリマーと、前記ポリマー分子内に最大で約6000ppmの量で分散させた、キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物とを含む熱可塑性ポリマー組成物に関する。出発ポリマーにおける結晶質相対非晶質相の比率は14〜87:13〜86であるが、本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、室温で固化したときは、結晶質相対非晶質相の比率は約0〜15:85〜100である。キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物は、非晶質相内に拡散する。その結果得られた熱可塑性ポリマー組成物は、実質的に非晶質であり、キサンテンベース分子構造体を有する前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、結晶化度が少なくとも約40〜99%低い。
【0008】
可塑剤化合物を熱可塑性ポリマー組成物に組み込むと、サンプルを30〜50℃で分析した場合に、ベースまたは基材の熱可塑性ポリマーよりも、靱性を少なくとも約50%、伸張耐性を少なくとも約30%、そして破断点歪み及び破断点応力の両方を少なくとも約40%向上させることができる。このことは、本組成物を、身体と接触するまたは身体に挿入される吸収性物品や医療デバイスに使用する際に、さらに有益となるであろう。前記半晶質ポリマーは、例えばポリ乳酸などの、ポリアルキルカルボン酸のメンバーを含み得る。前記半晶質対照ポリマーは、約14〜87%の結晶質成分と、約13〜86%の非晶質成分を含み得る。キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物は、約1000〜6000ppmの量で存在し、ハロゲン化または混合ハロゲン化されたキサンテンを含み得る。
【0009】
別の態様では、本発明は、キサンテン分子またはキサンテンベース分子構造体を有する化合物を含む可塑剤化合物が組み込まれた半晶質熱可塑性ポリマーマトリクスから製造された製品に関する。該製品は、フィルム、繊維、織布、不織布ウエブ、吸収性物品(例えば、ワイパ、おむつ、成人用失禁用品、女性用パッドなど)、衣服、防護布若しくは服(例えば、手術着若しくはドレープ、作業用オーバーオール、ダスト若しくは化学防護服)、包装紙または包装材料若しくは物品(例えば、おむつバッグ)、フェイスマスク、医療用ドレープ、気管内チューブ、カテーテルチューブ、ブラダーまたはバルーン、あるいは、ある程度の柔軟性及び屈曲性と靱性の高さが必要とされる他の用品であり得る。該物品は、上述した組成物から成形するか、または、上述した組成物を押出成形することにより製造したフィルムから作製することができる。
【0010】
別の態様では、本発明は、結晶質相を有する出発ベース熱可塑性ポリマーの塑性を改変する方法に関する。該方法は、約14〜87%の結晶化度を有する熱可塑性ポリマー及び、キサンテンベース分子構造体を有し全組成に対して最大で約5000〜6000ppmの量で存在する可塑剤化合物の混合物を提供するステップと、前記熱可塑性ポリマー及び前記可塑剤化合物を、約140〜300℃で、溶融または液体状態で完全に混合するステップと、前記溶融混合体中に前記可塑剤化合物を均一に分散させるステップと、前記キサンテンまたはキサンテンベース分子構造体が中間及び非晶質に移動するように、前記溶融混合体を固化させるステップとを含む。固化により形成された固体は、前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、少なくとも40%小さい結晶化度を示す。本発明の方法は、高温の可塑化された熱可塑性材料を押出成形し、室温で、様々な固形形態または製品に形成するステップをさらに含む。
【0011】
キサンテンを含んでいる半晶質熱可塑性ポリマー組成物のさらなる特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載する。上記の概略的な説明及び下記の詳細な説明及び例は、本発明の例示的な説明にすぎず、特許請求の範囲に記載された本発明を理解するための概要を提供することを意図していることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】対照サンプル(PLA対照−溶液キャスト)のDSC曲線のグラフを示す。
【図2】例#1(PLA+5000ppmDBF−溶液キャスト);第1の加熱のDSC曲線のグラフを示す。
【図3】対照サンプル(溶液キャスト)のXRD曲線のグラフを示す。
【図4】例#1(溶液キャスト)のXRD曲線のグラフを示す。
【図5】対照サンプル(PLA対照);冷却及び第2の加熱のDSC曲線のグラフを示す。
【図6】例#1(PLA+5000ppmDBF);冷却及び第2の加熱のDSC曲線のグラフを示す。
【図7】対照サンプルの10℃/分での冷却後のXRD曲線のグラフを示す。
【図8】例#1の10℃/分での冷却後のXRD曲線のグラフを示す。
【図9】対照サンプルの徐冷(オーブン冷却)後のXRD曲線のグラフを示す。
【図10】例#1の徐冷(オーブン冷却)後のXRD曲線のグラフを示す。
【図11】曲線#1は例#7の10℃/分での冷却後のXRD実験曲線のグラフである。曲線#2及び#3は2つの非晶質ハロであり、曲線#4及び#5は2つの結晶質ピークである。
【図12】10℃/分での冷却後の対照サンプル(破線曲線)及び例#1の(実線)の貯蔵弾性率(E´)のDMA変化を示す。
【図13】対照サンプル(PLA、10℃/分;黒丸)及び例#1(PLA+5000ppmDBF、10℃/分;白丸)の応力−歪み曲線@40℃を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
セクションI:定義
【0014】
一般的に、本発明は、キサンテンまたはキサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物によって改変された熱可塑性ポリマー組成物に関する。
【0015】
ここで使用される用語「熱可塑性ポリマー」または「熱可塑性材料」は、多数のモノマーから構成され、約5千から数十万の範囲の分子量を有し、熱に曝されたときに軟化し、室温に冷却したときに元の状態に戻る有機高分子を指し、そのようなものとしては、例えばポリアルキルカルボン酸、より具体的にはポリ乳酸などがある。
【0016】
ここで使用される用語「可塑剤」、「可塑剤化合物」は、熱可塑性ポリマーに添加したときに、ポリマーの分子結合を改変し、加工を容易にすると共に最終製品の柔軟性を高めることができる有機化合物を指す。一般的に、ポリマー分子は、二次原子価結合によって互いに結合される。可塑剤は、前記結合の一部を可塑剤−ポリマー結合に置き換えることによって、ポリマー鎖セグメントの移動を手助けする。
【0017】
ここで使用される用語「キサンテン」または「キサンテンベース」分子は、下記に示すようなキサンテンリング構造を有する未改変のキサンテン分子または誘導体化合物を指す。キサンテン(CH(CO)(三環式ジベンゾピラン{さんかんけい})は、下記の化学構造を有する黄色の有機複素環式化合物である。
【0018】
【化1】

【0019】
キサンテンはエーテルに可溶性であり、融点は101〜102℃であり、沸点は310〜312℃である。キサンテンは、一般的に殺菌剤として使用され、有機合成における媒介物としても有用である。キサンテン分子はハロゲン化(F、Cl、Br、I)することができる。ハロゲン化されたキサンテン構造体としては、例えば、モノフルオロ、ジフルオロ、トリフルオロ若しくはテトラフルオロ・フルオレセイン;モノクロロ、ジクロロ、トリクロロ若しくはテトラクロロ・フルオレセイン;モノブロモ、ジブロモ、トリブロモ若しくはテトラブロモ・フルオレセイン;モノヨード、ジヨード、トリヨード若しくはテトラヨード・フルオレセイン;あるいはそれらの混合物がある。さらに、テトラブロモ・テトラクロロ・キサンテン(例えば、Drug & Cosmetic (D&C) Red No.27)などの混合ハロゲン化キサンテン構造体も意図される。
【0020】
セクションII:説明
【0021】
一般社会において、「グリーン(環境保全)」技術と呼ばれる幅広い社会意識及び再生可能材料から製造された製品を購入したいという要求が高まるに従い、製造業者は、この消費者需要に対応するための問題に直面している。さらに、政府が使い捨て製品の特定の分野において再生可能なまたは再利用可能な材料の使用をますます義務付けることにより、廃棄物を処理するためのより良い革新的な方法の開発の必要性が加速している。近年、プラスチックまたは熱可塑性製品または材料の製造業者は、本質的に生分解性であり、有力な天然の再生可能資源材料であるポリ乳酸(PLA)ポリマーに対する関心を強めている。ポリ乳酸ポリマーは、フィルム、繊維、及び成形部品に熱的に加工することができるので、消費製品及び他の用途においてポリオレフィン及び他の熱可塑性樹脂の代わりとなる可能性がある原材料である。製造業者は、より多くの再生可能なまたは天然の生分解性材料を別の従来のポリマー系製品に組み込むための新しい方法を捜し求めている。ポリ乳酸は、環境を壊さずに利用可能であり、かつ生分解または堆肥化可能なポリマーであるので、例えば包装、ボトル、使い捨て製品などの様々な用途に、この「グリーン」技術を利用することに関心が高まっている。
【0022】
半晶質PLA材料及び非晶質PLAPLA材料は、堆肥化性すなわち生分解性が互いに異なる。ポリ乳酸分子の生分解速度は、非晶質領域の分解においては早いが、結晶質領域の分解においては著しく遅いことを理解されたい(非特許文献1)。したがって、ポリ乳酸廃棄物の生分解速度を高めるためには、ポリ乳酸の実質的に全体を非晶質相にすることが非常に望ましい。本発明の組成物は、ポリ乳酸材料を実質的に非晶質にすることができる。
【0023】
従来、高非晶質性ポリマーに関連する短所は、一般的に、結晶質の割合が高いポリマー試料と比較すると材料の強度/靱性が大幅に弱くなる傾向にあることであった。本発明は、この短所を克服した。本発明のポリ乳酸は、半晶質PLAポリマーの対照サンプルよりも、実際に強度または靱性が高い。この特徴は、本発明の組成物の、ユニークで予期せぬ特徴である。言い換えれば、本組成物の材料は、非結晶性が高く、かつ、類似の半晶質対照材料よりも驚くほどに靱性が高い。これらの性質は、上述したような用途ニーズを満たす、理想的なポリマー組成物を提供する。
【0024】
A.
【0025】
従来、ポリ乳酸は、非常にコストが高い(>$10.00/g)、特殊な医療用ポリマーとして使用されてきた。最近は、ポリマー合成の進歩、並びに、再生可能資源及び農業廃棄物を原料として使用することにより、ポリ乳酸を商品価格で製造することが可能になった。乳酸由来のポリエステルポリマーに関する文献は、このポリマーの命名方法が種々存在するため若干紛らわしい。通常、省略形のPLAは、乳酸の「L」異性体由来のポリマー()だけでなく、「L」異性体及び「D」異性体()の混合物も指す。
【0026】
【化2】

【0027】
さらに、一部の研究者は、ポリ(乳酸)ポリマーは、L(+)酪酸の環式「二量体」である「ラクチド」()から作製されるので、ポリラクラクチドと命名している。
【0028】
【化3】

【0029】
特に明記しない限り、PLAは、総称的に、全てのポリ乳酸ポリマーを指す。
【0030】
L(+)乳酸は、安価な原料であるグルコース(例えば、ジャガイモの廃棄物、チーズホエー浸透液またはトウモロコシなど)の発酵によって得られる。しかし、発酵由来L乳酸は、他の炭水化物副産物及び細菌性細胞破壊産物の全てを除去して精製することは困難である。乳酸のD異性体は得ることは難しいが、研究者たちは、細菌を遺伝子操作してD異性体を作成する方法を研究している。乳酸のラセミ混合体は、アセトアルデヒドから合成される。現時点では、ラセミ混合体はL異性体よりも安価であり、D異性体よりも大幅に安価である。
【0031】
高分子量ポリ(L乳酸)は、スズ、鉛、アンチモンまたは亜鉛触媒、特に、テトラフェニルスズまたは(2−エチルヘキサン酸)オクチル酸第1スズ3a,b,d,5の存在下で、ラクチドを加熱することにより作成される。ラクチドを、水及び酸の痕跡を除去するために厳密に精製すると、高分子量のポリ(L乳酸)が得られる。
【0032】
【化4】

【0033】
生成されたポリ(L乳酸)[D乳酸を用いた場合はポリ(D乳酸)]は、アイソタクチックであり、疎水性であり、脆くて、靱性の高いポリマーであり、約55〜65℃(Tg)でゴム状になる。また、173〜215℃の幅広い溶融点(Tm)を有する半結晶構造(37%)を有する。ポリ(D、L乳酸)は、全体的に非晶質であり、アタクチックであり、非弾性であり、53℃の軟化点でガラス状になる。
【0034】
B.
【0035】
一部のポリマーは完全に非晶質であり得るが、ほとんどのポリマーの形態は半晶質である。すなわち、それらは、結晶質領域を非晶質領域が取り囲んだ、結晶質部分と非晶質部分との組み合わせを形成する。小さな結晶と非晶質材料との混合体は、単一の溶融点の代わりに幅広い温度範囲で溶融する。結晶質材料は、ポリマー鎖を折り畳むまたは積み重ねることによって形成された規則性の高い多面体構造を有する傾向にある。対照的に、非晶質構造は、長い範囲の規則性を有しておらず、捻じれて互いの周りにカーブする長鎖の形態でランダムに配置された分子鎖を有し、高度に構造化された形態の大きな領域を形成することはない。
【0036】
特定のポリマー材料の高い規則性を有する結晶質構造及び非晶質形態は、ポリマーの互いに異なる挙動を決定する。ポリマー鎖がバルクポリマーを通じて配向性がほとんど有さない場合、非晶質固体が形成される。ガラス転移点(Tg)は、ポリマーが硬化して非晶質固体になる温度である。ポリマーのガラス転移点は、特定の所望の使用のためのポリマーの物理的特性及び挙動の重要な因子である。ポリマーの温度がそのTg未満に降下すると、ポリマーは著しく脆弱になる。一方。ポリマーの温度がTgを越えて上昇すると、ポリマーは粘性が高くなる。一般的に、室温(20℃)よりも大幅に低いTg値を有するポリマーはエラストマーの領域を画定し、室温よりも高いTg値を有するポリマーは硬い構造的なポリマーを画定する。
【0037】
Tgは、ポリマー材料の物理的性質に、特に、加えられた力に対する材料の応答、すなわち、弾性及び塑性挙動に影響を与える。前記力を取り除いた後は、弾性材料は元の形状に戻る。塑性材料は、流動体に変形し、元の形状には戻らない。塑性材料では、高粘性液体によく似た流れが生じる。ほとんどの材料は、弾性及び塑性挙動の組み合わせを示し、弾性限界を超えた後は塑性挙動を示す。例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)のTgは83℃であり、例えば冷水管には適切であるが、高温水には不適切である。また、PVCは、室温では、常に脆弱な固体となる。PVCに少量の可塑剤を添加することにより、Tgを約−40℃まで下げることができる。可塑剤の添加は、PVCを、例えば庭用ホースなどの用途に理想的な、室温で柔軟で曲がりやすい材料に改変することができる。一方、可塑化させたPVCホースは、冬は硬く脆くなる。この場合、他の場合と同様に、Tgの大気温度に対する関係が、特定の用途における所与の材料の選択を決定する要因となる。
【0038】
大部分のポリマーにおいては、結晶質構造体と非晶質構造体との組み合わせは、強度と剛性という有益な性質を有する材料を形成する。本発明によれば、特許文献1及び2に記載されている技術を進歩させる一方で、キサンテンまたはキサンテンベース化合物が、結晶化度が約14%を超える様々な結晶質または半晶質熱可塑性ポリマー材料に対して著しい塑性を与えることができる。適切なキサンテンベース化合物の例は、キサンテン色素(例えば、フルオレセイン系のキサンテンベース構造体)を含む。キサンテン色素は、フルオレセイン、エオシン及びローダミンを含む色素の一種である。それらは、フルオレンまたはアミノキサンテン、ロドールまたはアミノヒドロキサンテン、及びフルオロンまたはヒドロキシキサンテンの3つの大きなカテゴリーに分けられる(非特許文献2)。キサンテン色素は、蛍光性を有する、黄色からピンクから青みがかかった赤色の鮮やかな染料の傾向がある。キサンテン構造体は、少なくとも1つの官能基Rを有することができる(Rは水素またはハロゲンである)。
【0039】
本発明の実施形態によれば、キサンテン及び/またはキサンテン染料は、溶融混合させることによって熱可塑性ポリマーマトリックスに組み込むことができ、作製された組成物の可塑性を高めることができる。一般的に、前記溶融混合体は、約140〜280℃の温度で加熱される。前記温度は、特定の熱可塑性ポリマーの溶融温度に応じて、約150℃または180℃から約230℃、250℃または265℃であり得る。
【0040】
しかし、本発明に従って全てのキサンテンベース構造体が可塑剤として良好に機能するわけではない。本願発明者は、ケトンまたはカルボン酸類似体を有するキサンテンベース化合物(例えば、キサンテン、キサンテンカルボン酸)は、良好な可塑性は与えず、むしろ、ポリマー材料を非常に脆弱にし、対照サンプルである元の熱可塑性ポリマー材料よりも脆弱にすらするため、他と同様には機能しないことを見出した。
【0041】
本発明によれば、出発熱可塑性ポリマーは、該ポリマーの総重量を基準にして、約14〜約87%重量%の結晶質含有量を有する半晶質ポリマー材料であり得る。前記ポリマー材料は、一般的には約14〜87重量%の、より一般的には約14〜25重量%の結晶質含有量を有する。キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物は、約1000〜6000ppmの量で存在し得る。一般的に、キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物は、約3000〜5000ppmの量で存在し得る。
【0042】
本発明による出発熱可塑性ポリマーは、約14〜87:86〜13(望ましくは25:75)の比率の結晶質相及び非晶質相を有する。キサンテンまたはキサンテンベース構造体を有する出発ポリマーを含む本発明の組成物の結晶質相は、キサンテンまたはキサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、結晶質相が約40%から最大で約99%の量で減少する。
【0043】
結晶化プロセスにおいて、比較的短い鎖は、比較的長い分子よりも容易に結晶質構造を形成することが観察された。そのため、重合度(DP)は、ポリマーの結晶化度指数度を決定するための重要な因子である。高DPポリマーは、もつれる傾向があるので、層に形成することが難しい。低分子量ポリマー(短鎖)は、一般的に、強度が弱い。結晶化されてはいるが、弱いファン・デル・ワールス力によって格子を互いに結合しているだけだからである。このことは、結晶質層が互いに摺動することを可能にし、材料の破壊をもたらす。しかし、高DP(非晶質)ポリマーは、層間で分子が絡み合うので、より高い強度を有する。繊維の場合、半晶質状態のときに元の長さの3倍以上に引き伸ばすと、鎖配列、結晶化度及び強度が向上する。
【0044】
また、モノマーの置換基のサイズ及び形状もポリマー形態に影響を与える。モノマーが大きくて不規則な場合、ポリマー鎖を規則正しく整列させることが難しくなるため、非晶質性がより高い固体が形成される。同様に、より小さいモノマーや、非常に規則正しい構造を有するモノマー(例えばロッド状の)は、結晶質性がより高いポリマーを形成する。
【0045】
冷却速度も結晶化度に影響を与える。徐冷は、結晶化を大量に発生させる時間を提供する。ここで用いられる「徐冷」または「オーブン冷却」は、オーブン(現状では真空オーブン)を最大温度(例えば300℃)まで加熱し、サンプルをオーブン内に入れ、加熱要素を停止させ、オーブンを大気温度まで徐々に冷却する過程を指す。オーブンは、数字間(例えば4〜7時間)かけて室温まで冷却される。説明するために、例えば、最大温度は225℃(PLAの溶融温度よりも高い)であり、冷却時間は4〜5時間である。この冷却時間は、10℃/分の速度での冷却(すなわち、冷却時間は約22.5分である)と比較される。
【0046】
一方、急冷のように、冷却速度を速くすれば、高非晶質材料を作製することができる。その後にアニーリング(徐冷後に加熱し、結晶溶融点未満の適切な温度で保持する)を行うことによって、ほとんどのポリマーにおいて、結晶化度を著しく増加させると共に応力を除去することができる。
【0047】
C.
【0048】
繰り返すが、本発明は、1つには、熱可塑性ポリマー組成物に関する。本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、約14〜25重量%の結晶質含有量を有する出発ベース半晶質ポリマーと、キサンテンベース分子構造体を有し、前記ポリマーに最大で約6000ppmの量で分散させた可塑剤化合物とを含み、前記ポリマー及び前記可塑剤化合物の混合体では、室温で固化させたときの結晶質相対非晶質相の比率は約0〜15:85〜100である。前記可塑剤化合物は非晶質相内に分散される。前記混合物は、前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、少なくとも約40〜99%低い結晶化度を有する。
【0049】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物が固化したときの結晶質相:非晶質相の比率は、約0〜15:85〜100である。前記半晶質ポリマーは、約0〜15%の結晶質成分と、約100%〜85%の非晶質状態を含む。前記半晶質ポリマーは、ポリアルキルカルボン酸群、特にポリ乳酸から選択される。
【0050】
可塑剤化合物は、少なくとも1つのR基を有する(R基は、水素またはハロゲンである)。言い換えれば、キサンテンベース分子構造体は、ハロゲン化または混合ハロゲン化させることができる。可塑剤化合物は、約3000〜5000ppmの量で存在する。結晶質相は、可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、結晶質相の割合が約40〜100%、または最大で300、400、500%の量で減少する。
【0051】
本発明の組成物は、可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、靱性を少なくとも約40%または約50%または60%高めることができる。本発明の組成物は、可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、伸張耐性を少なくとも約40%または約50%高めることができる。本発明の組成物は、可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、破断点歪みを少なくとも約40%高めることができる。本発明の組成物は、可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、破断点応力を少なくとも約40%高めることができる。
【0052】
本発明の組成物は、キサンテンまたはキサンテンベース添加物を含んでいない同一のポリマーの対照サンプルよりも、生分解及び堆肥化速度が速く、かつ靱性が高い。本発明の組成物は、実質的に非晶質であり、キサンテンまたはキサンテンベース添加物を含んでいない対照ポリマーよりも靱性が高い。
【0053】
本発明の別の態様では、本発明は、結晶質相を有するポリマーを可塑化する方法を開示する。本発明の方法は、約14〜25%の結晶化度指数相を有する出発熱可塑性ポリマーを用意するステップを含む。該方法は、約14〜25%の結晶化度を有する出発ポリマー及び、キサンテンベース分子構造体を有し、全組成に対して最大で約5000〜6000ppmの量で存在する可塑剤化合物の混合物を提供するステップと、前記熱可塑性ポリマー及び前記可塑剤化合物を、約140〜300℃で、一般的には約140℃または150℃から約285℃または290℃で、溶融または液体状態で完全に混合するステップと、前記溶融混合体中に前記可塑剤化合物を均一に分散させるステップと、前記キサンテンまたはキサンテンベース分子構造体が非晶質に移動するように、前記溶融混合体を固化させるステップとを含む。この溶融混合体から製品を成形することができる。本発明の方法は、前記溶融混合体を押出成形し、室温で固体に形成するステップをさらに含む。固化したとき、その結果得られた固体は、可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、結晶化度が少なくとも40%から約100%または500%低い。前記混合物は、約170〜285℃で加熱される。
【0054】
セクションIII:実際の用途
【0055】
別の態様では、本発明は、少なくとも一部が熱可塑性ポリマーにより製造された製品に関する。前記熱可塑性ポリマーは、キサンテン分子またはキサンテンベース分子構造体を有する化合物を含んでいる可塑剤が組み込まれた半晶質ポリマーマトリックスを有する。キサンテン分子またはキサンテンベース分子構造体を有する化合物は、ポリマーマトリックス中に、約3000〜約5000または6000ppmの量で存在する。キサンテン分子またはキサンテンベース分子構造体を有する化合物は、未改変の、ハロゲン化されたまたは混合ハロゲン化されたキサンテンベース化合物から選択される。基材の熱可塑性ポリマーポリマーは、ポリアルキルカルボン酸群から選択される。前記製品は、約14重量%の結晶質含有量を有する出発半晶質ポリマーと、前記ポリマー中に最大で約5000〜6000ppmの量で分散させた、キサンテンベース分子構造体を有する化合物とを含み、前記ポリマー及び前記可塑剤の混合体では、室温で固化させたときの結晶質相対非晶質相の比率が約0〜15:85〜100である可塑性ポリマー組成物を押出成形することによって製造された繊維または長繊維、あるいは繊維ウエブであり得る。前記製品は、フィルム、繊維、繊維ウエブ、吸収性パッド、おむつ、成人用失禁用品、女性用生理用品、防護布、フェイスマスク、医療用ドレープ、ワイパ、衣服または包装用品の形態であり得る。このような実施形態では、前記繊維は、織布の一部であり得る。前記繊維ウエブは、不織布の一部であり得る。前記製品は、前記熱可塑性組成物を押出成形することによって製造されたフィルム層を有する積層構造であり得る。
【0056】
一般的に、本発明によれば、キサンテンベース化合物が組み込まれた熱可塑性ポリマー組成物は、約30〜50℃の温度範囲において靱性が高い傾向にある。これは、改変または可塑化されたポリマーの結晶質含有量が減少したことによる影響によるものだと思われる。可塑剤化合物を熱可塑性ポリマー組成物に組み込むことにより、基材の熱可塑性ポリマー組成物よりも、靭性を少なくとも約20%増加させることができる。特定の実施形態では、靭性を約20〜50%高めることができる。キサンテン含有ポリマーのサンプルの破断点歪みは、対照よりも少なくとも20〜40%増加する。伸張耐性は、少なくとも約20%向上する。このパラメータは、約20%、最大で約50%向上させることもできる。キサンテン含有熱可塑性材料は、ポリマーを引き裂くのに要する破断点応力を少なくとも20%、最大で約50%増加させる。
【0057】
本発明の組成物から製造した、上記の性質を有するフィルム、繊維、繊維ウエブは、より柔らかく(drapable)かつ延性が高い傾向にある。この特性は、製造業者が、快適性を高めると共に肌触りをより柔らかくすべく、前記ポリマーから製造された織布または不織布材料により作製した衣服、カバー、包装材料またはパッケージを提供することを可能にする。衣服には、例えば、オーバーオール(作業着)、ガウン、ドレープ、履物、手袋または防止が含まれる。また、ポリマーのより曲がりやすい品質は、より静かなフィルムを作製することを可能にすると共に、砕いたときや破壊したときの「カサカサとした音」を無くすることができる。キサンテンベース化合物を含んでいる繊維から製造した繊維及び織物は、より柔軟にかつより着用しやすくなる。したがって、例えば、ポリプロピレン不織布をより柔らかいポリエチエン様繊維に変換することができる(手触りのザラザラ感が低くなる)。この特性は、例えば吸収性パッド、女性用生理パッド、おむつ、洗浄布及びワイパなどの、特に消費者またはユーザの肌と接触する不織層を組み込んだ製品に対して理想的である。特に、製造業者は、不織技術及び材料、例えば、コフォーム繊維またはハイドロニット繊維、積層構造体用の組み合わされた繊維、ファイバ及びウエブ(例えば、スパンボンド、スパンボンド・メルトブローン・スパンボンド、スパンボンド・フィルム・スパンボンド)を改変することができる。フィルムは、マイクロ細孔の孔径を約10−50−100ミクロンにすることを可能にする。他の可能性のある製品には、例えば、ブラダー、バルーン、カテーテルチューブまたは気管内チューブなどの射出または押出成形物品が含まれる。従来は、そのようなチューブ及び導管は、剛性が高い熱可塑性ポリマーから製造されていたため、患者の身体の通路に沿ってスムーズに挿入されなかった場合は、痛みや組織の損傷を引き起こすおそれがあった。例えば、気管や食道などの曲がっている部分に接触したときに曲がることができる曲げやすい材料は上記の被害を避けることができるであろう。そのため、本発明のユニークさは、「硬いポリマー」を、柔軟で曲げやすいフィルム、繊維、前記繊維から製造したウエブ、及び/またはラミネート構造体にすることができる能力である。
【0058】
セクションIV:実験
【0059】
1.材料
【0060】
全ての化学物質及び溶液は、シグマ・アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Company, Milwaukee WI)から入手し、以下に特に明記しない限りは、さらなる精製を行うことなく使用した。
【0061】
2.分析方法
【0062】
DSC
サンプルを、以下の実験手順を用いて、ティー・エイ・インスツルメント社(TA Instruments)製のDSC Q 2000装置(T-zero Cell)で分析した。約5mgの試料切片をDSCパン内に封入する。前記試料を10℃/分の加熱/冷却速度で、20℃〜200℃の温度間隔で実行する。受け取ったままの状態の溶液キャスト材料と、真空オーブン内で溶融及び徐冷させた材料(冷却時間は4〜5時間)を試験した。全ての測定は、不活性ガス(He)雰囲気中で実行した。
【0063】
WAXS
前記材料を、二次元(2D)位置敏感型検出器を備えたリガク社(Rigaku Corp.)製のX線回析装置D-max Rapidで分析した。測定は、透過配置でCuKα線(λ=1.5405オングストローム)で実行した。受け取ったままの状態の溶液キャスト材料、溶融後に得られたDSCパン内で再結晶した材料(冷却速度は10℃/分)、及び、真空オーブン内で溶融及び徐冷させた材料(冷却時間は4〜5時間)を試験した。
【0064】
DMA
〜0.25mmの厚さのフィルムを225℃で圧縮成形した後、10℃/分の速度で室温まで冷却した。長さ10mm、幅3mmのストリップを、ティー・エイ・インスツルメント社製のQ 800装置を用いて分析した。サンプルを、引張/引張変形モードで試験した。実験は、−30℃から+50℃の範囲の温度スイープモードで、3℃/分の加熱速度で、一定周波数(2Hz)及び一定静的力(2.5N)で実施した。応力振幅は、前記静的力の±10%であった。
【0065】
結晶化度指数
すべての半晶質材料の結晶質含有量は、結晶化度指数29から計算した。
【0066】
【数1】

【0067】
は、前記材料の結晶質部分から散乱されたXRD強度であり、IはXRD強度の総量であり、kはk=4πsinθ/λの大きさを有する散乱ベクトルである(λはX線の波長であり、θは散乱角度である)。
【0068】
3.サンプル調製
【0069】
例1 ポリ乳酸内の4,5ジブロモフルオレセイン(DBF、5000ppm)
1.0gのポリ乳酸(分子量Mn〜30,000;Mw〜50,000)を20mlのクロロホルムに室温で溶解させ攪拌した。この透明な液体を2つの互いに等しい10mlのアリコートに分配した。その一方に100mgのジブロモフルオレセインを添加し、前記染料を溶解させるために前記混合物を攪拌した。両溶液をアルミニウム測量パン(直径6cm×深さ1cm)にそれぞれ注入して溶媒キャストした。そして、前記溶媒をドラフト内で一晩(8〜12時間)蒸発させた。その後、前記フィルムを取り出して分析した。
【0070】
例2 ポリ乳酸内の4,5ジクロロフルオレセイン(DCF、5000ppm)
ジクロロフルオレセインを用いること以外は、例1において説明した手順を繰り返す。
【0071】
例3 ポリ乳酸内の4,5ジヨードフルオレセイン(DIF、5000ppm)
ジヨードフルオレセインを用いること以外は、例1において説明した手順を繰り返す。
【0072】
例4 ポリ乳酸内のキサンテン(X、5000ppm)
キサンテンを用いること以外は、例1において説明した手順を繰り返す。
【0073】
例5 ポリ乳酸内のo−アセチルクエン酸トリブチル(TBAC、5000ppm)
TBACを用いること以外は、例1において説明した手順を繰り返す。
【0074】
例6 ポリ乳酸内の4,5ジブロモフルオレセイン(DBF、2000ppm)
40gのジブロモフルオレセインを用いること以外は、例1において説明した手順を繰り返す。
【0075】
例7 ポリ乳酸内の4,5ジブロモフルオレセイン(DBF、7000ppm)
350gのジブロモフルオレセインを用いること以外は、例1において説明した手順を繰り返す。
【0076】
4.結果
【0077】
図1及び図2には、2つの材料のDSC熱曲線−第1の加熱が示されている。図1を見ると、サンプル#1はガラス転移過程を明瞭に検出可能であるが、図2のサンプル#2では非常に不明瞭であり識別しにくい。さらに、サンプル#1は、非常に低温の結晶化過程に特徴付けられるが、サンプル#2はそうではない。これらの結果は、サンプル#1(溶液キャスト、対照サンプル)の結晶化度(結晶化度指数により測定した)が比較的低いことと、サンプル#2(溶液キャストPLA+5000ppm DBF)の結晶化度(結晶化度指数)がより高いことを示す。図3及び図4に示されるXRDの結果は、DSCの結果を裏付ける。実験X線曲線を結晶質及び非晶質成分にフィッティングすることにより、サンプル#1の結晶質比が〜14%であり、サンプル#2内の結晶質比が〜52%であることが分かった(表1に示す)。
【0078】
【表1】

【0079】
上記の結果は、DBFは、PLAマトリックス内で核形成剤としての役割を果たすことを示唆する。しかし、DSC冷却曲線及び第2の加熱熱曲線(図5及び図6)は、全く反対のことを示す。溶融したサンプル#1は、10℃/分の速度で冷却させた後は部分的に結晶化する。一方、サンプル#2は、同一条件下では、結晶化度を示さないように見える。XRD曲線(図7及び図8)は、DSCの結果及びフィッティングが〜25%の結晶化度指数を与える(表1では〜0%)ことを裏付ける。溶融させ徐冷した後、両材料は、非常に高い結晶化度指数を示す(図9、図10、表1)。
【0080】
他のキサンテン化合物
【0081】
他のキサンテン化合物をPLAで試験した。下記の表2は、全てのキサンテン化合物が、DBFと同様のユニークな効果をPLAに与えることを示す(DBFの方が効果が大きいが)。TBACサンプルは、キサンテンを従来の可塑剤と比較するために製造した。表2の結果は、TBACの結晶化度(結晶化度指数によって測定した)は冷却サイクル後に減少するが、キサンテンほどは大きくは減少しないことを示す。
【0082】
【表2】

【0083】
XRD曲線の分析についての説明
【0084】
例として、例#7(7000ppmのDBFを含んでいるPLA)を10℃/分で徐冷した後のXRD実験曲線(曲線#1)を図11に示す。この曲線を、PLAポリマーの結晶質成分及び非晶質成分の両方の組成を調べるために分析した。図11の曲線#1は、他の曲線#2〜#5の複合曲線を示す。曲線#2及び#3は2つの非晶質ハロであり、曲線#4及び#5は2つ結晶質ピークである。例#7の材料の結晶化度指数は、4〜5の因子により、出発ポリマー材料の結晶化度よりも減少する。この結果は、DBFの組み込みにより、材料内の非晶質状態の含有量が増加したためだと考えられる。出発ポリマー材料の全体に渡ってキサンテン様分子をより完全に混合すると、より良い結果が得られるであろう。
【0085】
PLA対照及び5wt%DBFを含むPLAの温度と貯蔵弾性率のDMA実験
【0086】
〜0.25mmの厚さのフィルムを225℃で圧縮成形した後、10℃/分の速度で室温まで冷却した。長さ10mm、幅3mmのストリップを、ティー・エイ・インスツルメント社製のQ 800装置を用いて分析した。サンプルを、引張/引張変形モードで試験した。実験は、−30℃から+50℃の範囲の温度スイープモードで、3℃/分の加熱速度で、一定周波数(2Hz)及び一定静的力(2.5N)で実施した。応力振幅は、前記静的力の±10%であった。
【0087】
PLA対照フィルム及び5000ppmのDBFを含むPLAの温度に対する貯蔵弾性率のDMA分析は、非常に珍しいユニークな性質を示す。図12は、顕著な曲線を示している。DBFサンプルは、−30℃〜50℃の温度範囲に渡って、軟化することなく、良好な貯蔵弾性率を維持することが分かる。DBFサンプルは実質的に非晶質であり温度の増加に伴い軟化するはずであることを考えれば、このことは驚くべきことである。対照的に、対照PLAサンプルは、約10℃で劇的に軟化し、約30℃を超えると貯蔵弾性率が大幅に減少する。対照PLAサンプルはいくらかの結晶化度(その結晶化度指数に基づいて約25%)を有しているので、このことは驚くべきことである。明らかに、上記の結果は、当業者が予期または予測したものとは逆のものである。DBFの作用のメカニズムは完全には解明されていないが、DBFは、ある程度は、非晶質ポリマー鎖の緩やかな鎖連結剤としての役割を果たし、非晶質ポリマー鎖を対照非晶質ポリマー鎖のように自由には移動させないようにすると考えられる。
【0088】
【表3】

【0089】
フィルムサンプルの応力−歪み(靱性)の分析
【0090】
サンプルID
対照サンプル・・・PLA対照1(溶液キャスト)
例#1・・・PLA+5000ppmジブロモフルオレセイン(DBF、溶液キャスト)
【0091】
DMA分析用のフィルムサンプルの作製
【0092】
〜0.25mmの厚さのフィルムを225℃で圧縮成形した後、10℃/分の速度で室温まで冷却した(制御的に冷却するためにDMA装置のオーブンを使用した)。長さ20mm、幅3mmのストリップを、ティー・エイ・インスツルメント社製のQ 800装置を用いて分析した。サンプルを、25℃及び40℃で、応力−歪み変形モードで試験した。加える力は、試験試料が破壊されるまで、2N/分の速度で増加させた。
【0093】
図13は、40℃での2つの材料の応力−歪み曲線をプロットしたものである。この結果は、改変された材料が、高い伸張性及び破断点歪みを特徴とすることを示す。関連パラメータを表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
全体的に見て、XRD実験及びDSC実験の結果は、DBFの比較的少量(例えば、約5000ppm)の添加が、PLAの結晶化挙動に大きな影響を与えることを示す。溶液キャスティング法による材料の作製(徐冷と多くの点で類似している)は、DBFが核形成剤としての役割を果たし、結晶化度(結晶化度指数X%により測定される)を著しく増加させることを示唆する。しかしながら、溶融させ、10℃/分で冷却した後は、DBFは結晶形成を完全に抑制する。徐冷(オーブン冷却)は、DBFの存在により影響されない。他のキサンテンも、PLAに対してのこのユニークな効果を示すが、DBF系のように機能的に効果的ではない。
【0096】
上記のフィルムをDMAによって分析したときに、驚くべき結果が得られた。DBF−PLAフィルムは、実質的に非晶質であるが、−10℃から30℃まで加熱したときには、貯蔵弾性率は実質的に変わらない。対照PLAフィルムは、約25%結晶化度指数を有するが、急勾配で加熱したときは、20℃以上で貯蔵弾性率が減少する。このことは、半晶質及び非晶質ポリマーの文献に基づく当業者の予測とはまさに反対である。
【0097】
DMA分析後、上記のサンプルを大気温度でクロロホルム内に入れ、前記溶媒に溶解するかどうかを見る。DBFが架橋結合されたポリマー鎖を有する場合、フィルムは溶媒に溶解しにくくなる。両フィルムサンプルは溶媒内に完全に溶解したので、ポリマー鎖が架橋結合されていないことが分かる。このことにより、DBFの作用が、結晶化を抑制するという非常にユニークな能力をもたらすと共に、実質的に非晶質のPLAフィルムの靱性を向上させるという驚くべき予測不能なユニークな特徴をもたらすことが分かった。
【0098】
メカニズムは完全には解明されていないが、DBFは、非晶質ポリマー鎖間で緩やかなの鎖連結剤としての役割を果たし、対照の非晶質ポリマー鎖と比較して、ポリマー鎖の動きを制限すると考えられる。一部の文献には、既知の架橋剤の添加によりポリ乳酸の強度を高めることができ、添加する架橋剤の濃度を高くすればするほど材料の強度が高くなることが示唆されているが、キサンテンは架橋剤としては知られていない。キサンテンまたはキサンテン様分子は、化学的架橋に参加することができる任意の適切な化学部位を持っていない。そのようなユニークな性質(実質的に非晶質であり、かつ強度が高いという性質)を有する本発明のポリマー組成物は、様々な用途に使用することができる。例えば、実質的に非晶質であるという性質により、本発明の組成物は、生分解/堆肥化速度が高いことが望まれる製品に使用することができる。あるいは、30〜50℃の温度範囲で対照またはベースポリマーよりも靱性が高いことが望まれる、実質的に非晶質であるポリマー物品に使用することができる。前記製品は、フィルム、繊維、織布、不織布ウエブ、吸収性物品(例えば、ワイパ、おむつ、成人用失禁用品、女性用パッドなど)、衣服、防護布若しくは服(例えば、手術着若しくはドレープ、作業用オーバーオール、ダスト若しくは化学防護服)、包装紙または包装材料(例えば、おむつバッグ)、フェイスマスク、医療用ドレープ、気管内チューブ、カテーテルチューブ、ブラダーまたはバルーン、あるいは、ある程度の柔軟性及び屈曲性と靱性の高さが必要とされる他の用品であり得る。
【0099】
本発明を、一般的に、また実施例および図面によって詳細に説明してきた。しかしながら、本発明は、具体的に開示した実施の形態に制限されず、本発明の精神及び範囲から逸脱しない範囲で、種々の代替、改変及び変更を行うことができることは当業者であれば理解できるであろう。そのため、そのような改変は、特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱しない限り、本発明に含まれるものと考えるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマー組成物であって、
約14〜25重量%の結晶質含有量を有する出発ベース半晶質ポリマーと、
前記ポリマー内に最大で約6000ppmの量で分散させた、キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物とを含み、
前記ポリマー及び前記可塑剤化合物の混合体では、室温で固化させたときの結晶質相対非晶質相の比率が約0〜15:85〜100であり、前記可塑剤化合物が前記非晶質内に分散されていることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
キサンテンベース分子構造体を有する前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、少なくとも約40〜99%低い結晶化度を示すことを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記半晶質ポリマーが、ポリ乳酸を含むポリアルキルカルボン酸群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記可塑剤化合物が、少なくとも1つのR基を有することを特徴とする組成物。
(ただし、R基は、水素またはハロゲンである)
【請求項5】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記キサンテンベース分子構造体が、ハロゲン化または混合ハロゲン化されていることを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記可塑剤化合物が、約3000〜5000ppmの量で存在することを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
キサンテンベース分子構造体を有する前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、前記結晶質相の割合が少なくとも約40%〜500%低いことを特徴とする組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、靱性が少なくとも約40〜60%高いことを特徴とする組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、伸張耐性が少なくとも約40〜50%高いことを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、破断点歪みが少なくとも約40%高いことを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物であって、
実質的に非晶質であり、
キサンテンまたはキサンテンベース添加物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、生分解及び堆肥化速度が速く、かつ靱性が高いことを特徴とする組成物。
【請求項12】
熱可塑性ポリマーから成る製品であって、
前記熱可塑性ポリマーが、キサンテン分子またはキサンテン分子構造体を有する化合物を含む可塑剤化合物が組み込まれた半晶質ポリマーマトリクスを含んでおり、
前記半晶質ポリマーが、約0〜15%の結晶質相と、約85%〜100%の非晶質相とを含んでおり、
前記キサンテン分子またはキサンテンベース分子構造体を有する化合物が、前記ポリマーマトリクス内に約3000〜5000ppmの量で存在することを特徴とする製品。
【請求項13】
請求項12に記載の製品であって、
前記キサンテン分子またはキサンテンベース分子構造体を有する化合物が、未改変の、ハロゲン化されたまたは混合ハロゲン化されたキサンテンベース化合物から選択されることを特徴とする製品。
【請求項14】
請求項12に記載の製品であって、
前記熱可塑性ポリマーが、ポリアルキルカルボン酸群から選択されることを特徴とする製品。
【請求項15】
請求項12に記載の製品であって、
約14重量%以上の結晶質含有量を有する出発半晶質ポリマーと、前記ポリマー内に最大で約5000〜6000ppmの量で分散させた、キサンテンベース分子構造体を有する化合物とを含み、前記ポリマー及び前記可塑剤化合物の混合体では、室温で固化させたときの結晶質相対非晶質相の比率が約0〜15:85〜100である前記熱可塑性組成物を押出成形することにより製造された繊維または長繊維あるいは繊維ウエブであることを特徴とする製品。
【請求項16】
請求項15に記載の製品であって、
前記繊維が織布の一部であるか、または前記繊維のウエブが不織布を形成することを特徴とする製品。
【請求項17】
請求項12に記載の製品であって、
前記熱可塑性ポリマー組成物を押出成形することにより製造されたフィルム層を含む積層構造体であることを特徴とする製品。
【請求項18】
請求項12に記載の製品であって、
(a)フィルム、繊維、繊維ウエブ、吸収性パッド、おむつ、成人用失禁用品、女性用生理用品、防護布、フェイスマスク、医療用ドレープ、ワイパ、衣類または包装材、あるいは
(b)気管内チューブ、カテーテルチューブ、ブラダーまたはバルーン
であることを特徴とする製品。
【請求項19】
結晶質相を含むポリマーを可塑化する方法であって、
約14〜25%の結晶化度を有する出発熱可塑性ポリマー及び全組成に対して最大で約5000〜6000ppmの量で存在する、キサンテンベース分子構造体を有する可塑剤化合物の混合物を用意するステップと、
前記熱可塑性ポリマー及び前記可塑剤化合物を、約140〜300℃で、溶融または液体状態で混合するステップと、
前記溶融混合体中に前記可塑剤化合物を均一に分散させるステップと、
前記キサンテンベース分子構造体が非晶質相へ移動するように、前記溶融混合体を固化させるステップとを含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記溶融混合体を押出成形し、室温で固体に形成するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、
固化したとき、前記成形された固体が、前記可塑剤化合物を含まない場合の前記出発ベース半晶質ポリマーからなる対照熱可塑性ポリマーに比較して、少なくとも40%、最大で500%低い結晶化度を示すことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法であって、
前記溶融混合体を約170〜280℃で加熱したことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−512932(P2012−512932A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541694(P2011−541694)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055771
【国際公開番号】WO2010/070588
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】