説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法、熱可塑性樹脂フィルム

【課題】長時間製造するときに、経時に伴い発生する異物の混入に伴う異物故障がなく、フィルターの寿命を延ばし、長時間の製造を行うことが可能な溶融流延製膜法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及び熱可塑性樹脂フィルムの提供。
【解決手段】溶融押出機により溶融した樹脂をフィルターで濾過しダイスより流延する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、前記溶融押出機は前記フィルターの下流側に配設した切換え手段1A3を介して、パージ用の樹脂の第1溶融押出機1A1と、熱可塑性樹脂フィルム用の第2溶融押出機1A2とを有し、前記フィルターは前記第1溶融押出機用の第1フィルター1A13と、前記第2溶融押出機用の超音波振動付与装置を有する第2フィルター1A23とを有し、前記第2溶融押出機1A2を稼動した状態で、前記切換え手段1A3を操作して、前記熱可塑性樹脂フィルムを製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融流延法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及びこの製造方法により製造された熱可塑性樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法として、熱可塑性樹脂を溶剤に溶かしたドープを支持体上に流延した後、溶媒を除去し支持体より剥離し熱可塑性樹脂フィルムを製造する溶液流延製膜法、熱可塑性樹脂を溶融押出し機で押し出しダイスより押出し冷却して熱可塑性樹脂フィルムを製造する溶融流延製膜法が知られている。
【0003】
最近は、溶液流延製膜法は溶剤の回収、工程の溶剤対策、環境への不可等の面から溶剤を使用しない溶融流延製膜法に移行しつつある。熱可塑性樹脂フィルムは多方面に使用されており、その一例として液晶表示装置に使用される光学フィルムが挙げられる。
【0004】
光学フィルムの原料は主にセルロース系の樹脂が一般的であったが、近年アクリル系や、オレフィン系、ポリエステル系等様々な樹脂が使用されてきている。しかし、これらの樹脂は溶剤を使用する溶液流延法に対して、溶融流延法において均一な相溶を求められる光学フィルムには不利な状況であった。
【0005】
例えば、セルロースエステルのように天然高分子のセルロースをアシル化して溶解性や熱可塑性を付与しているものがある。これはアシル基の置換度や分子量に分布を持っているため、平均分布から大きく外れた領域が異物としてフィルム内に存在する。
【0006】
又、合成高分子の場合も重合比や分子量に分布が生じるためフィルムにした際の散乱の因子となる異物が存在する。
【0007】
最近、光学フィルムは性能面で従来以上の品質を求められており、その中でも液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムに使用する光学フィルムでは、コントラストの改良が求められている。コントラスト改善には異物等の散乱因子を排除する必要があるが、異物等の散乱因子を排除する方法として、原料の洗浄やフィルターで除去するといった考え方がある。
【0008】
溶融流延製膜法では、溶融した熱可塑性樹脂の中にある異物を除去するために金属系のフィルター(金属不織布、金属メッシュ等)を使用することが一般的であり、フィルターを使用した異物の除去は次の様な問題点を有していることが知られている。
【0009】
1.溶融流延製膜法では熱を掛けるため、溶融した熱可塑性樹脂の劣化を防止する上から何回もフィルターを通すことは出来ない。
【0010】
2.フィルターに補足された異物(低分子量樹脂)が熱で分解されて徐々に小さくなりフィルターを通過してしまい故障の原因となる。
【0011】
3.目詰まりによりフィルターを交換する時、溶融押出し機の稼動を停止しなければならない及びフィルターを交換した後、製造を再開するに際して、押出し量を安定させる間樹脂のロスが多くなることで生産効率の低下、コストアップを招く。
【0012】
上記に示した様な問題点を避けるため、一定時間でフィルターを交換することで品質の安定化を維持しているのであるが、フィルターを交換するため製造を一旦中止し、フィルター交換後に製造を開始するため生産効率が低下する。この様なことから、フィルターの目詰まりを防止し、長時間の生産を行う方法がこれまでに検討されてきた。
【0013】
例えば、樹脂原料に含まれるか、成形加工時に生成される異物をバブルポイント圧測定法で求めたフィルターメディアの中間孔径が1μmから10μmであるフィルターで除去することでガラス転移温度が160℃以上の耐熱性熱可塑性樹脂フィルム中の不純物や異物であるフィッシュ・アイやブツを、光学用途やディスプレイ分野の透明フィルムに要求される性能レベルまで除去出来、かつフィルターの目詰まりがなく、長時間の運転が可能である透明フィルムを溶融流延製膜法で製造する方法が知られている(特許文献1参照。)。
【0014】
又、濾過精度及び/又は空隙率の異なる2層以上の濾材からなるフィルターを用い、濾材の樹脂流れ方向最下流の濾材の濾過精度が20μm以下で、樹脂流れ方向最下流の濾材とフィルター内部の支持体が直接接触しているリーフディスクフィルターを用いることで、異物が少なく、高い品質のフィルムを長期間フィルター交換をすることなく熱可塑性樹脂フィルムを溶融流延製膜法で製造する方法が知られている(特許文献2参照。)。
【0015】
更に、樹脂原料を成形加工温度よりも低い温度で溶融・混練し、あらかじめ樹脂溶融物に含まれる異物をバブルポイント圧測定法で求めたフィルターメディアの中間孔径が30μm以下のフィルターで除去した後、造粒化し、次に造粒化したペレットを用いて成形加工温度でフィルム成形することでガラス転移温度が160℃以上の耐熱性熱可塑性樹脂フィルム中の不純物や異物であるフィッシュ・アイやブツを除去し、フィルターの目詰まりがなく長時間の運転が可能である溶融流延製膜法で耐熱性熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法が知られている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−315191号公報
【特許文献2】特開2001−322157号公報
【特許文献3】特開2002−52600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1から3に記載の方法で、セルロースエステル系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂に代表される光学フィルムを溶融流延製膜法で製造する場合、外来の無機物や一時的な樹脂由来の異物の捕捉でフィルムへの欠陥はなくなり、フィルターの寿命も目詰まりによる圧力上昇はみられず、長時間フィルターを使用出来ることは確認出来た。しかし、上記樹脂を使用して、溶融流延製膜法で光学フィルムを製造する場合、一定期間連続生産していると、目詰まりによるフィルターの寿命が来る前に光学フィルムでは問題となる故障が発生することがわかり、更には故障が徐々に増加することが判った。目詰まりによるフィルターの寿命よりも早期に交換が必要となるため、その都度ラインを停止する必要が有り、一旦停止することで復旧・安定までに相当な時間を必要としていた。そのため、近年コストダウンを求められるため、長時間連続生産を行う必要が有り、フィルター交換頻度を少なくするため、これらの目詰まりによるフィルターの寿命が来る前に光学フィルムでは問題となる故障が経時で増える課題を解決する方法が早急に求められていた。
【0018】
この様な状況から、長時間製造するときに、フィルターの寿命を延ばし、フィルターの寿命が来る前に光学フィルムでは問題となる故障がない高品質の熱可塑性樹脂フィルムを、長時間の製造を行うことが可能な溶融流延製膜法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及び熱可塑性樹脂フィルムの開発が要望されている。
【0019】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的は長時間製造するときに、フィルターの寿命を延ばし、フィルターの寿命が来る前に光学フィルムでは問題となる故障がなく高品質の熱可塑性樹脂フィルムを、長時間の製造を行うことが可能な溶融流延製膜法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及び熱可塑性樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の上記目的は下記の構成により達成された。
【0021】
1.溶融押出し機で溶融した熱可塑性樹脂をフィルターで濾過し供給管を介してダイスより流延する溶融押出成形方法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、
前記溶融押出し機は前記フィルターの下流側に配設した切換え手段を介して、パージ用の熱可塑性樹脂を押出す第1溶融押出し機と、熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を押出す第2溶融押出し機とを有し、
前記フィルターは前記第1溶融押出し機用の第1フィルターと、前記第2溶融押出し機用の第2フィルターとを有し、
前記第2フィルターは超音波振動付与装置を有し、前記第2溶融押出し機を稼動した状態で、下記のステップ1からステップ5を繰り返し、前記熱可塑性樹脂フィルムを連続して製造することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【0022】
ステップ1
前記第2溶融押出し機を稼動し、前記熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を前記第2フィルターを通して前記ダイスに供給する。
【0023】
ステップ2
前記超音波振動付与装置が稼動する時に、前記パージ用の熱可塑性樹脂を前記ダイスに供給出来る様に、前記第1溶融押出し機の準備を行う。
【0024】
ステップ3
前記第2溶融押出し機を稼動した状態で前記超音波振動付与装置を稼動させる。同時に、前記第1溶融押出し機からの溶融した前記パージ用の熱可塑性樹脂の前記ダイスへの供給、及び前記第2フィルターを通して出る溶融した前記熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を排出する様に前記切換え手段で切換える。
【0025】
ステップ4
前記超音波振動付与装置の停止に合わせ、前記ダイスに溶融した前記熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を供給する様に切換え手段で切換え、熱可塑性樹脂フィルムの生産を開始する。
【0026】
ステップ5
次の前記超音波振動付与装置の稼動に合わせ、前記第1溶融押出し機及び前記ダイスまでの経路にある前記パージ用の熱可塑性樹脂を洗浄し除去する、この後、ステップ2からステップ5を繰り返し行う。
【0027】
2.前記超音波振動付与装置が前記フィルターに与える周波数帯が16kHzから100kHzであることを特徴とする前記1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【0028】
3.前記1又は前記2の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で製造した熱可塑性樹脂フィルムであって、前記熱可塑性樹脂フィルムの滲出異物が0個から50個/mであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【0029】
本発明者は、溶融流延製膜法により熱可塑性樹脂フィルムを製造する時、発生する故障に付き解析した結果、2種類の故障があることが判った。
【0030】
1.樹脂材料に混入しているゴミ、樹脂自身の熱劣化、架橋により高分子化したもの、或いは未融解物等の異物がフィルターを通過して発生させる故障であり、これらはフィルターの濾過精度を上げることで製造初期から防止することは可能である。又、これらの異物はフィルターに捕捉されることで、フィルターの目詰まりが発生し、濾過圧が上昇し管理限界で溶融押出し機からの樹脂の供給を止め、フィルターの交換を必要とする。
【0031】
2.フィルターの目詰まりを発生させることなく、濾過圧を上昇させずに製造の初期では発生しないが、経時に伴い徐々に増加していく故障であり、使用する樹脂により発生する出方が異なり、フィルターの濾過精度を上げても防止することが出来ない。又、故障が発生した時点で溶融押出し機からの樹脂の供給を止め、フィルターの交換を必要とする。
【0032】
上記、2の事象により、本来のフィルターの目詰まりによる寿命の前に、フィルターの交換を余儀なくさせられている。同時にフィルターの交換時に溶融押出し機を止めるため、製造を再開するために交換前の条件に戻すために樹脂のロスが発生する。
【0033】
更に、上記2項により発生する故障に付き更に検討した結果、目詰まりを発生させることなく、濾過圧を上昇させることなく、フィルターの濾過精度を上げても防止することが出来ないことから変形してフィルターを通過し、経時に伴い発生する異物に因るものと推定した。
【0034】
この、経時に伴い発生する異物に付き更に検討した結果、原料である樹脂中に含まれる超高分子、若しくは置換度が平均から少し離れているもの、正常成分が何かのゴミや分解して小さくなってしまった樹脂が核となり、バルク成分が凝集したものなど、完全な異物となり難いが、経時に伴い凝集するとバルク成分と異なる屈折率を持つ異物となり、一旦はフィルターで捕捉されるが、経時でフィルターから滲出した異物(以下、滲出異物とも言う)によるものであることが判った。この滲出異物はバルクとほとんど変わらない組成であるが、輝点異物や外来異物、超高分子量物、架橋物や劣化物等がフィルターで本来捕捉できないごく微量成分含まれ、これらを核とし、周辺にバルク成分が異常凝集をしたことによって光学フィルム故障となる大きさまで成長したものである。フィルターで一旦捕捉されるが、バルクの溶融条件で軟化し、変形しながら滲み出すため、細長い形状を示すものが多い。
【0035】
尚、本発明でバルクとは、凝集、架橋、分解等を起こさず、光学フィルムを構成する成分(樹脂及び添加剤)が均一に分散されている部分を言う。
【0036】
更に、溶融流延製膜法により熱可塑性樹脂フィルムを長時間製造するときに、フィルターの寿命を延ばし、経時に伴い発生する滲出異物の混入に伴う故障がなく高品質の熱可塑性樹脂フィルムを、長時間の製造を行う方法を検討した結果、1.滲出異物の除去した後に製造を再開するため、溶融押出し機の条件を滲出異物の除去前の条件を維持した状態で異物を除去すること、2、滲出異物の除去している間にTダイ及び配管の中に滞留している樹脂の変質を防止することが重要であることが判り、検討を重ねた結果、本発明に至った次第である。
【発明の効果】
【0037】
長時間製造するときに、フィルターの寿命を延ばし、フィルターの寿命が来る前に光学フィルムでは問題となる故障がなく高品質の熱可塑性樹脂フィルムを、長時間の製造を行うことが可能な溶融流延製膜法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法及び熱可塑性樹脂フィルムを提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の溶融流延方式による樹脂フィルムの製造装置の模式図である。
【図2】図1のXで示される部分の拡大概略図である。
【図3】第2フィルターを洗浄している状態の図1のXで示される部分の拡大概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施の形態を図1を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
図1は本発明の溶融流延方式による熱可塑性樹脂フィルムの製造装置の模式図である。
【0041】
図中、1は溶融流延方式の熱可塑性樹脂フィルム製造装置を示す。熱可塑性樹脂フィルム製造装置1は、溶融部1Aと、押出し部1Bと、冷却引取り部1Cと、延伸部1Dと、回収部1Eとを有している。尚、熱可塑性樹脂フィルム製造装置1としては特に限定はなく、本図に示される延伸部1Dは必要に応じて配設することが可能である。
【0042】
溶融部1Aは、第1溶融押出し機1A1と、第2溶融押出し機1A2とを有している。第1溶融押出し機1A1は、供給管1A11と、パージ用の熱可塑性樹脂を供給するホッパー1A12と、第1フィルター1A13とを有している。
【0043】
第2溶融押出し機1A2は、供給管1A21と、熱可塑性樹脂フィルム成形用の熱可塑性樹脂を供給するホッパー1A22と、第2フィルター1A23とを有している。尚、投入される熱可塑性樹脂は予め乾燥しておくことが好ましい。
【0044】
フィルター1A23には清掃用の超音波振動付与装置(不図示)が配設されている。超音波振動付与装置(不図示)としては特に限定はなく市販されている超音波振動付与装置を使用することが可能である。
【0045】
第2フィルター1A23への超音波振動付与装置の配設する位置は、フィルターの形式により異なるため特定することは出来ないが、例えば、リーフディスクフィルターの様な円筒形のハウジングを有するフィルターには、側面に少なくとも四方から、出来れば円周に満遍なく超音波振動付与装置を取り付け、ハウジング内部の樹脂及び、複数枚あるフィルターメディア全体に超音波振動を付与出来るように設置するのが好ましい。
【0046】
又、配設する台数も第2溶融押出し機1A2の大ききにもより異なるため特定することは出来ないので適宜決めることが好ましい。例えば、フィルターメディアが40インチ未満の場合は2方向、40インチ以上の場合は3方向から取り付ける。ハウジング接続部から15cmの部分に超音波振動素子を取り付け、そこから20cm間隔で取り付ける。振動素子の個数はフィルターメディアの枚数、即ちハウジングの長さに従って取り付け個所が増減する。
【0047】
超音波振動付与装置(不図示)を稼動させるタイミングは特に限定はないが、例えば、光学フィルムの性能に影響を与える滲出異物の個数を設定し、設定した個数になった時に稼働させてもよいし、予め、使用する熱可塑性樹脂フィルム成形用の熱可塑性樹脂の性能に合わせ、滲出異物の発生する時間を調べておき、時間に合わせ稼働させてもよい。尚、超音波振動付与装置(不図示)を稼動させる方法は特に限定は内が、例えば、製造工程に配設した、膜面故障検出器により滲出異物の個数を計測し、情報に基づき、手動又は自動で超音波振動付与装置(不図示)を稼動させる方法が挙げられる。
【0048】
第2フィルター1A23に付与する超音波振動は、洗浄性、装置への負荷等を考慮し、周波数は10kHzから120kHzが好ましく、更には20kHzから60kHzがより好ましい。
【0049】
第2融押出し機1A2としては、特に限定はなく、熱可塑性樹脂の押出成形に使用される溶融押出し機を使用することが可能である。例えば単軸スクリュー型押出し機、同方向回転2軸スクリュー型押出し機、異方向回転2軸スクリュー型押出し機、タンデム型押出し機等が代表例として挙げられる。第1溶融押出し機1A1も第2溶融押出し機1A2と同じ溶融押出し機の使用が可能である。
【0050】
第1溶融押出し機1A1に使用するパージ用の熱可塑性樹脂は、超音波振動付与装置(不図示)の稼動による第2フィルター1A23の清掃後の熱可塑性樹脂フィルムへの異種樹脂の混入を避けるため、第2溶融押出し機1A2に使用する熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂と同じであることが好ましい。
【0051】
第2フィルター1A23としては特に限定はなく、例えばスクリーンメッシュと呼ばれるステンレス等の合金からなる金網の単層体、ステンレス等の合金からなる金網を積層し、各層を焼結した焼結金属フィルター、ステンレス鋼の微細繊維を複雑に編み込んだ金網にて繊維間の接点を焼結した焼結金属ファイバフィルター、金属粉末を焼結した焼結金属フィルター等が挙げられ、これらの中で特に焼結金属ファイバフィルターを使用することが好ましい。
【0052】
第1フィルター1A13も第2フィルター1A23と同じフィルターメディアの使用が可能である。又、第1溶融押出し機1A1はパージを目的とするため押出量は第2溶融押出し機1A2程必要としないため、流量面積を第1フィルターよりも小さくすることが出来る。
【0053】
1A3は切換え手段を示し、第2フィルター1A23及び第1フィルター1A13の下流側に配設されており、切換え手段1A3を介して第1溶融押出し機1A1と、第2溶融押出し機1A2とが繋がっており、切換え手段1A3を操作することで第1溶融押出し機1A1と、第2溶融押出し機1A2とを交互に使用することが可能になっている。
【0054】
交互に使用するとは、第2溶融押出し機1A2を稼動した状態でフィルター1A23に配設されている超音波振動付与装置を稼動し第2フィルター1A23を洗浄している間は、第1溶融押出し機1A1からパージ用の溶融した熱可塑性樹脂を供給管1B2を介してTダイ1B1に供給することを言う。具体的な第1溶融押出し機1A1と、第2溶融押出し機1A2とによる第2フィルター1A23の洗浄に付いては後述する。
【0055】
1A31は超音波振動付与装置の切換え手段1A3に繋がっている排出管を示す。1A32は排出される樹脂の受け容器を示す。
【0056】
切換え手段1A3としては、第2フィルター1A23の洗浄している間に、第1溶融押出し機1A1からパージ用の溶融した熱可塑性樹脂を供給管1B2を介してTダイ1B1に供給することが出来ればとくに限定は無く、例えば配管切換え装置、切り換え弁等が挙げられる。配管切換え装置に付いては図2で説明する。
【0057】
押出し部1Bは、溶融部1Aより送られてくる溶解した樹脂を先端の狭い隙間から膜状に押出すダイスとしてTダイ1B1を有している。1B2は溶融部1Aの第2フィルター1A23より送られてくる溶融した樹脂をTダイ1B1に供給する供給管を示す。
【0058】
Tダイ1B1としては、コートハンガータイプとストレートマニフォールドタイプとに分別されるが、本発明では特に限定はなく、使用する樹脂により適宜選択することが可能となっている。又、単層用でも多層用であっても構わない。
【0059】
冷却引取り部1Cは、Tダイ1B1で膜状に押出された樹脂を冷却ロール1C1に押付ける押付けロール1C2と、冷却ロール1C1により冷却固化された未延伸の熱可塑性樹脂フィルム2を搬送する複数の搬送ロール1C3とを有している。
【0060】
延伸部1Dは冷却ロール1C1から剥離され、得られた未延伸フィルム2を延伸する延伸装置を有している。延伸装置としては搬送方向に延伸するMD(Machine Direction)延伸と、横方向に延伸するTD(Transverse Direction)延伸があり、それぞれ延伸する方向により延伸装置が異なっている。例えば、MD延伸の場合は複数のロール群及び/又は赤外線ヒーター等の加熱装置を有するMD延伸装置により熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgからガラス転移温度Tg+100℃の範囲内に加熱し、一段又は多段縦延伸することが好ましい。TD延伸の場合は、TD伸装置としてのテンター延伸装置で延伸することが好ましい。
【0061】
延伸部1Dは、加熱風取り入れ口1D11と排出口1D12とを有する外箱1D13と、外箱1D13の中に入れられたTD延伸装置1D14又はMD伸装置(不図示)とを有する延伸装置1D1を有している。尚、加熱風取り入れ1D11と排出口1D12とは逆であってもよい。
【0062】
TD延伸装置に使用するテンターは特に限定はなく、例えば、クリップテンター、ピンテンター等が挙げられ、必要に応じて選択し使用することが可能である。
【0063】
延伸部1Dで必要とする幅、厚さに延伸した後、テンター工程内の熱固定工程(不図示)に搬送され延伸した状態が固定される。
【0064】
回収部1Eは、延伸部1Dで延伸された熱可塑性樹脂フィルム3が巻き芯に巻き取られる。回収部1Eは、巻取り装置1E1を有している。
【0065】
膜面故障検出器を配設する位置としては特に限定はないが、例えば延伸装置1D1に入る前、又は出た位置が好ましい。
【0066】
図2は図1のXで示される部分の拡大概略図である。
【0067】
図中、1A211は供給管1A21のジョイント部を示し、1B21は供給管1B2のジョイント部を示す。第2溶融押出し機1A2(図1参照)から第2フィルター1A23(図1参照)を通過した溶融した樹脂を供給管1B2からTダイ1B1に供給する場合はジョイント部1A211とジョイント部1B21とをジョイントすることで可能となる。
【0068】
本図は第2溶融押出し機1A2(図1参照)から第2フィルター1A23(図1参照)を経て溶融した樹脂が、ジョイント部1A211とジョイント部1B21とでジョイントされた供給管1A21と供給管1B2とからTダイ1B1に供給されている状態を示している。
【0069】
1A111は供給管1A11のジョイント部を示し、第2フィルター1A23(図1参照)を洗浄している間、供給管1B2のジョイント部1B21とジョイントし、パージ用の樹脂をTダイ1B1に供給する様になっている。供給管1A11は第1溶融押出し機1A1(図1参照)を洗浄する時の洗浄様の樹脂及びパージ用の樹脂を廃棄するための排出管(付図示)にジョイントすることも可能である。
【0070】
1A311は排出管1A31のジョイント部を示し、第2フィルター1A23(図1参照)を洗浄している間、供給管1A21のジョイント部1A2111とジョイントし、第2フィルター1A23(図1参照)からの溶融した樹脂を受け容器1A32(図1参照)に排出する様になっている。
【0071】
供給管1A11は矢印F方向に移動が可能となっている。供給管1A11の矢印F方向の移動方法としては第1溶融押出し機1A1を移動してもよいし、供給管1A11を移動する方式であってもよく必要に応じて選択することが可能である。供給管1A21は矢印G方向、矢印H方向に移動が可能となっている。供給管1A21の移動方式は、第2溶融押出し機1A2を移動してもよいし、供給管1A21を移動する方式であってもよく必要に応じて選択することが可能である。
【0072】
図3は第2フィルターを洗浄している状態の図1のXで示される部分の拡大概略図である。
【0073】
第2フィルター1A23(図1参照)を洗浄している間、供給管1A11は移動し、供給管1B2のジョイント部1B21と供給管1A11のジョイント部1A111とがジョイントした状態となる。供給管1A11と供給管1B2がジョイントすることで、第1溶融押出し機1A1からのパージ用の樹脂がTダイ1B1に供給される。
【0074】
又、第2フィルター1A23(図1参照)を洗浄している間、供給管1A211は移動し、排出管1A31のジョイント部1A311と供給管1A21のジョイント部1A211とがジョイントした状態となる。供給管1A21と排出管1A31がジョイントすることで、第2フィルター1A23(図1参照)からの滲出異物が混入している樹脂が排出される。
【0075】
次に図1に示す第2溶融押出し機1A2を稼動した状態で、第2フィルター1A23を超音波振動付与装置により洗浄するフローを、図2に示す切換え手段としての配管切換え装置を使用して説明する。
【0076】
ステップ1:第2溶融押出し機1A2のホッパー1A22から熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を投入し、第2溶融押出し機1A2を稼動し第2フィルター1A23を通して供給管1B2を介してTダイ1B1に供給する。この時、ジョイント部1A211とジョイント部1B21とでジョイントされた供給管1A21と供給管1B2とからTダイ1B1に供給されている状態となっている。ジョイント部1A211とジョイント部1B21とでジョイントされた供給管1A21と供給管1B2とからTダイ1B1に供給されている状態となっている(図2参照)。
【0077】
ステップ2:滲出異物の個数が管理個数に達した時、超音波振動付与装置の稼動する時に、パージ用の熱可塑性樹脂を供給管1B2を介してTダイ1B1に供給出来る様に、パージ用の熱可塑性樹脂を第1溶融押出し機1A1のホッパー1A12に投入し、第1溶融押出し機1A1を稼動する。
【0078】
ステップ3:滲出異物の個数が管理個数に達した時、第2溶融押出し機1A2を稼動した状態(熱可塑性樹脂フィルムを製造する押出し条件を維持した状態)で超音波振動付与装置を稼動させる。同時に、第1溶融押出し機1A1からの溶融したパージ用の熱可塑性樹脂を供給管1B2を介してTダイ1B1への供給、及び第2溶融押出し機1A2から超音波振動付与装置が稼動している状態の第2フィルター1A23を通して出る溶融した熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を排出管1A31に流す様に供給管1A11と、供給管1A21とを移動する(図3参照)。
【0079】
超音波振動付与装置を稼動させ第2フィルター1A23を洗浄している間、パージ用の熱可塑性樹脂を供給管1B2を介してTダイ1B1への供給することで、供給管1B2及びTダイ1B1に熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂の滞留がなくなり、加熱に伴う変質、コゲを防止することが可能となる。これに伴い、第2フィルター1A23の洗浄後の熱可塑性樹脂フィルム製造の際に異物混入に伴う故障を防止することが出来る。
【0080】
ステップ4:超音波振動付与装置の停止に合わせ、供給管1A11を移動し、供給管1B2とのジョイントを外す。同時に供給管1A21を移動し、排出管1A31とのジョイントを外し、供給管1B2とジョイントし(図2参照)Tダイ1B1に溶融した熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂に供給することで熱可塑性樹脂フィルムの生産を開始する。
【0081】
ステップ5:次の超音波振動付与装置の稼動に合わせ、第1溶融押出し機1A1、供給管1A11にあるパージ用の熱可塑性樹脂を洗浄し除去する、この後、ステップ2からステップ5を繰り返し行う。
【0082】
ステップ1からステップ5を繰り返し行い熱可塑性樹脂フィルムを製造することで次の効果が挙げられる。
【0083】
1.フィルターの目詰まりによる寿命より前にフィルターの交換が必要なくなるためフィルターの寿命を延ばし、滲出異物による故障がない熱可塑性樹脂フィルムを長時間製造することが可能となった。
【0084】
2.溶融押出し機の稼動を止めることなくフィルターの洗浄を行うことで、稼動率の向上と、再稼働に伴う熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂のロスをなくすことが出来、コストダウンが可能となった。
【0085】
3.熱可塑性樹脂フィルムに発生する滲出異物による故障がなくなり、光学フィルムのコントラストの向上や、タッチパネルにした際の誤認識を抑制出来るなど、更なる性能向上が可能となった。
【0086】
次に図1に示す溶融流延方式の熱可塑性樹脂フィルム製造装置1を使用し、熱可塑性樹脂フィルムを製造する時の一般的条件を示す。冷却ロールでの引取り速度は熱可塑性樹脂フィルムの用途により異なるが、例えば熱可塑性樹脂フィルムが光学用途に使用するフィルムの場合は、分子配向性、複屈折性を考慮し5m/分から200m/分で行うことが好ましい。
【0087】
第2溶融押出し機1A2での熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂の溶融温度は使用する熱可塑性樹脂により適宜選択すればよく、その中でも溶融樹脂の熱分解による熱可塑性樹脂フィルム外観性の悪化を避けるため、樹脂を溶融させた後、ダイスから吐出されるまでの間を300℃以下に維持することが好ましく、290℃以下であることが特に好ましい。
【0088】
第2溶融押出し機1A2は、使用する熱可塑性樹脂、添加物等に水等の揮発性成分が含まれていると、押出時にフィルム外観性が悪化するため、揮発性成分を除去するための真空ベント、ホッパドライヤー等が具備されたものが適宜使用される。
【0089】
第2溶融押出し機1A2のシリンダー径、L/D、圧縮比、スクリューデザインは一般的に生産速度、フィルムの寸法などに応じて最適化すればよく、特に光学用途フィルムの製造の際には、吐出速度を安定化させると共に、摩擦発熱の抑制や樹脂温度を分解温度以下に維持することを目的に最適化すればよい。
【0090】
第2溶融押出し機1A2のスクリュー回転数、Tダイ1B1からの吐出量は、製造するフィルムの厚みや引取り速度等に応じて適宜選択することが可能である。又、溶融状態の熱可塑性樹脂の酸化による熱分解や黄変を抑制するため、ホッパー、溶融押出し機シリンダー内部等を窒素、アルゴン等の不活性ガスでパージ或いは真空にすることが好ましい。
【0091】
冷却ロール1C1の温度設定は、得られるフィルムの外観性や特性に与える影響の大きい重要な製造条件の1つであり、Tダイから流下するフィルム状の溶融樹脂の冷却ロールへの密着性及び離型性のバランスを考慮して最適化されるものであり、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対して−40℃から+20℃とすることが好ましく、特に−35℃から+10℃とすることが好ましい。
【0092】
溶融押出し時の溶融物の温度は、通常150℃から300℃の範囲、好ましくは180℃から270℃、更に好ましくは200℃から250℃の範囲である。溶融物の温度は、接触式温度計を使用して測定した値である。
【0093】
次ぎに本発明に使用する熱可塑性樹脂、添加剤に付き説明する。
【0094】
(熱可塑性樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に用いる熱可塑性樹脂は、溶融流延製膜法により製膜可能であれば特に限定されない。ここで、「熱可塑性樹脂」とは、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形出来る樹脂をいう。
【0095】
熱可塑性樹脂としては、一般的汎用樹脂としては、セルロースエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル系樹脂(PMMA)、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0096】
又、強度や壊れ難さを特に要求される場合、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を用いることが出来る。
【0097】
更に高い熱変形温度と長期使用出来る特性を要求される場合は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を用いることが出来る。尚、熱可塑性樹脂フィルムの用途にそって樹脂の種類、分子量の組み合わせを行うことが可能である。
【0098】
以下、本発明において好適に用いることが出来る熱可塑性樹脂の代表例について説明する。
【0099】
〈セルロースエステル系樹脂〉
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係るセルロースエステル樹脂は、光学フィルム用途のセルロースエステルフィルムに含有されることが好ましく、炭素数2以上の脂肪族アシル基を有するセルロースエステルであることが好ましく、更に好ましくは、セルロースエステルのアシル総置換度が1.0から2.95、かつアシル基総炭素数が2.0から9.5であるセルロースエステルである。
【0100】
セルロースエステルのアシル基総炭素数は、好ましくは、4.0から9.0であり、更に好ましくは5.0から8.5である。但し、アシル基総炭素数は、セルロースエステルのグルコース単位に置換されている各アシル基の置換度と炭素数の積の総和である。
【0101】
更に、脂肪族アシル基の炭素数は、セルロース合成の生産性、コストの観点から、2以上6以下が好ましく、2以上4以下が更に好ましい。なお、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。
【0102】
β−1,4−グリコシド結合でセルロースを構成しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。本発明におけるセルロースエステルは、これらの水酸基の一部又は全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル基置換度とは、繰り返し単位の2位、3位及び6位について、セルロースがエステル化している割合の合計を表す。具体的には、セルロースの2位、3位及び6位のそれぞれの水酸基が100%エステル化した場合をそれぞれ置換度1とする。したがって、セルロースの2位、3位及び6位のすべてが100%エステル化した場合、置換度は最大の3となる。
【0103】
アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタネート基、ヘキサネート基等が挙げられ、セルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースペンタネート等が挙げられる。又、上述の側鎖炭素数を満たせば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートペンタネート等のように混合脂肪酸エステルでもよい。この中でも、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネートが光学フィルム用途として好ましいセルロースエステルである。
【0104】
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは炭素原子数2から4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロースエステル樹脂である。
【0105】
式(I) 1.2≦X+Y≦2.95
式(II) 0≦X≦2.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも0.1≦X≦2.5、0.1≦Y≦2.8であることが好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。アシル基置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係るセルロースエステル樹脂は、重量平均分子量Mwが50000から500000のものが好ましく、より好ましくは100000から300000であり、更に好ましくは150000から250000である。
【0107】
セルロースエステル樹脂の平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定出来るので、これを用いて重量平均分子量(Mw)、分子量分布を算出する。
【0108】
測定条件は以下の通りである。
【0109】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)
Mw=1000000から500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0110】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係るセルロースエステル樹脂の原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが。針葉樹パルプが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
【0111】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
【0112】
本発明ではウッドパルプ、リンターなど重合度の高いセルロースを含むものであればいずれでも良いが、例えば、リンターパルプが好ましく、セルロースは、少なくともリンターパルプで構成されたセルロースを使用することが好ましい。セルロースの結晶化度の指標となるα−セルロース含有量は、90%以上(例えば、92%から100%、好ましくは95%から100%、更に好ましくは99.5%から100%程度)である。
【0113】
〈アクリル系樹脂〉
本発明に用いることが出来るアクリル系樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。樹脂としては特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50質量%から99質量%、及びこれと共重合可能な他の単量体単位1質量%から50質量%からなるものが好ましい。
【0114】
共重合可能な他の単量体としては、アルキル数の炭素数が2から18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1から18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン、核置換スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは二種以上を併用して用いることが出来る。
【0115】
これらの中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
【0116】
アクリル系樹脂としては、市販のものも使用することが出来る。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0117】
〈ラクトン環構造を有するアクリル系重合体〉
本発明に用いることが出来るアクリル系樹脂にはラクトン環構造を有するアクリル系重合体も含まれる。
【0118】
ラクトン環構造を有するアクリル系重合体は、好ましくは下記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有するものである。
【0119】
【化1】

【0120】
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1から20の有機残基を表す。)
で表される有機残基として、例えば、炭素数1から18のアルキル基、炭素数3から10のシクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。Rは水素原子が好ましい。
【0121】
で表される有機残基として、例えば、炭素数1から18のアルキル基、炭素数3から10のシクロアルキル基、アリール基、炭素数1から8のヒドロキシアルキル基、−(CH)mNR1112、−(CH)mN(R111213・M、又は(CO)pR14等が挙げられる。ここで、R11、R12及びR13は同一でも異なっていてもよく、各々、炭素数1から8のアルキル基であり、R14は炭素数1から18のアルキル基であり、m=2から5、p=1から80であり、MはCl、Br、SO2−、PO3−、CHCOO又はHCOOである。Rは水素原子、又は炭素数1から18のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基がより好ましい。
【0122】
で表される有機残基として、例えば、炭素数1から18のアルキル基、炭素数3から10のシクロアルキル基、アリール基、炭素数1から8のヒドロキシアルキル基等が挙げられる。Rは水素原子、炭素数1から18のアルキル基、又は炭素数1から8のヒドロキシアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、又は2−ヒドロキシエチル基がより好ましい。
【0123】
ラクトン環構造を有するアクリル系重合体とセルロースエステル樹脂の合計に対し、一般式(1)で表されるラクトン環構造を有するアクリル系重合体の含有割合は、好ましくは5質量%から90質量%、より好ましくは10質量%から70質量%、更に好ましくは10質量%から60質量%、特に好ましくは10質量%から50質量%である。
【0124】
又、ラクトン環構造を有するアクリル系重合体は、他のアクリル系重合体と併用して含まれていてもよく、ラクトン環構造を有するアクリル系重合体と他のアクリル系重合体を合わせたアクリル系重合体総量の含有割合は、好ましくは5質量%から90質量%、より好ましくは10質量%から70質量%、更に好ましくは10質量%から60質量%、特に好ましくは10質量%から50質量%である。
【0125】
ラクトン環構造を有するアクリル系重合体は、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されないが、ラクトン環を有するアクリル系重合体の製造方法として後に説明するような、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシル基(水酸基)含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(2)で表される単量体から選ばれる少なくとも一種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0126】
【化2】

【0127】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1から20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、又はC−O−R基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R及びRは水素原子又は炭素数1から20の有機残基を表す。)
〈シクロオレフィン系樹脂〉
本発明においては、シクロ(以下、「環状」ともいう。)オレフィン系樹脂を用いることも好ましい。シクロオレフィン系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることが出来る。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることが出来る。
【0128】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることが出来る。
【0129】
これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることが出来る。
【0130】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることが出来る。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることが出来る。又、これらの置換基は、同一又は相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0131】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0132】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類及びその誘導体、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエン及びその誘導体などが挙げられる。
【0133】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることが出来る。
【0134】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2から20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0135】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることが出来る。
【0136】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、及びノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることが出来る。
【0137】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90質量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの質量比で100:0から40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光閉じ込めフィルムを得ることが出来る。
【0138】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定される。溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常20,000から150,000である。好ましくは25,000から100,000、より好ましくは30,000から80,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度及び成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0139】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよい。耐久性及び延伸加工性の観点から、好ましくは130℃から160℃、より好ましくは135℃から150℃の範囲である。
【0140】
環状オレフィン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、緩和時間、生産性等の観点から、1.2から3.5、好ましくは1.5から3.0、更に好ましくは1.8から2.7である。
【0141】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。
【0142】
本発明において、環状オレフィン系樹脂には、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、環状オレフィン系樹脂からなるフィルムへ粒子を添加しても、未添加状態からのヘイズの上昇巾が0.05%以下の範囲である量までは許容出来ることを意味する。特に、脂環式ポリオレフィン系樹脂は、多くの有機粒子や無機粒子との親和性に欠けるため、上記範囲を超えた粒子を添加した環状オレフィン系熱可塑性樹脂フィルムを延伸すると、空隙が発生しやすく、その結果として、ヘイズの著しい低下が生じるおそれがある。
【0143】
〈ポリカーボネート系樹脂〉
本発明では、種々の公知のポリカーボネート系樹脂も使用することが出来る。本発明においては、特に芳香族ポリカーボネートを用いることが好ましい。当該芳香族ポリカーボネートについて特に制約はなく、所望するフィルムの諸特性が得られる芳香族ポリカーボネートであれば特に制約はない。
【0144】
一般に、ポリカーボネートと総称される高分子材料は、その合成手法において重縮合反応が用いられて、主鎖が炭酸結合で結ばれているものを総称するが、これらの内でも、一般に、フェノール誘導体と、ホスゲン、ジフェニルカーボネートらから重縮合で得られるものを意味する。通常、ビスフェノール−Aと呼称されている2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とする繰り返し単位で表される芳香族ポリカーボネートが好ましく選ばれるが、適宜各種ビスフェノール誘導体を選択することで、芳香族ポリカーボネート共重合体を構成することが出来る。
【0145】
かかる共重合成分としてこのビスフェノール−A以外に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等を挙げることが出来る。
【0146】
又、一部にテレフタル酸及び/又はイソフタル酸成分を含む芳香族ポリエステルカーボネートを使用することも可能である。このような構成単位をビスフェノール−Aからなる芳香族ポリカーボネートの構成成分の一部に使用することにより芳香族ポリカーボネートの性質、例えば耐熱性、溶解性を改良することが出来るが、このような共重合体についても本発明は有効である。
【0147】
ここで用いられる芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は、10000以上、200000以下であれば好適に用いられる。粘度平均分子量20000から120000が特に好ましい。粘度平均分子量が10000より低い樹脂を使用すると得られるフィルムの機械的強度が不足する場合があり、又400000以上の高分子量になるとドープの粘度が大きくなり過ぎ取扱い上問題を生じるので好ましくない。粘度平均分子量は市販の高速液体クロマトグラフィー等で測定することが出来る。
【0148】
本発明に係る芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度は200℃以上であることが高耐熱性のフィルムを得る上で好ましく、より好ましくは230℃以上である。これらは、上記共重合成分を適宜選択して得ることが出来る。ガラス転移温度は、DSC装置(示差走査熱量分析装置)にて測定することが出来、例えばセイコーインスツル株式会社製:RDC220にて、10℃/分の昇温条件によって求められる、ベースラインが偏奇し始める温度である。
【0149】
〈ポリエステル系樹脂〉
本発明において用いることが出来るポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とジオールを重合することにより得られ、ジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)の70%以上が芳香族ジカルボン酸に由来し、かつジオール構成単位(ジオールに由来する構成単位)の70%以上が脂肪族ジオールに由来する。
【0150】
芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位の割合は70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
【0151】
脂肪族ジオールに由来する構成単位の割合は70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。ポリエステル系樹脂は、二種以上を併用してもよい。
【0152】
前記芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、3,4′−ビフェニルジカルボン酸等及びこれらのエステル形成性誘導体が例示出来る。
【0153】
ポリエステル系樹脂には本発明の目的を損なわない範囲でアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸を用いることが出来る。
【0154】
前記脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、1,3−プロピレンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール等及びこれらのエステル形成性誘導体が例示出来る。
【0155】
ポリエステル系樹脂には本発明の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のモノアルコール類や、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類を用いることも出来る。
【0156】
ポリエステル系樹脂の製造には、公知の方法である直接エステル化法やエステル交換法を適用することが出来る。ポリエステル系樹脂の製造時に使用する重縮合触媒としては、公知の三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酢酸チタン等のチタン化合物、塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物等が例示出来るが、これらに限定されない。
【0157】
好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−1,4−シクロヘキサンジメチレン−テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキレート樹脂、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート−テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−テレフタレート−4,4′−ビフェニルジカルボキシレート樹脂、ポリ−1,3−プロピレン−テレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂等がある。
【0158】
より好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−1,4−シクロヘキサンジメチレン−テレフタレート共重合樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂が挙げられる。
【0159】
ポリエステル系樹脂の固有粘度(フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=60/40質量比混合溶媒中、25℃で測定した値)は、0.7dl/gから2.0dl/gが好ましく、より好ましくは0.8dl/gから1.5dl/gである。固有粘度が0.7以上であるとポリエステル系樹脂の分子量が充分に高いために、これを使用して得られるポリエステル系樹脂組成物からなる成形物が成形物として必要な機械的性質を有すると共に、透明性が良好となる。固有粘度が2.0以下の場合、成形性が良好となる。
【0160】
(添加剤)
本発明の熱可塑性樹枝フィルムの製造方法には、添加剤としては、有機酸と3価以上のアルコールが縮合した構造を有するエステル系可塑剤、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の少なくとも一種の可塑剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤から選択される少なくとも一種の安定剤を含んでいることが好ましく、更にこの他に過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、マット剤、染料、顔料、更には前記以外の可塑剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤以外の酸化防止剤などを含んでも構わない。
【実施例】
【0161】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0162】
(熱可塑性樹脂フィルムの製造)
(熱可塑性樹脂フィルム用熱可塑性樹脂の準備)
熱可塑性樹脂フィルム用熱可塑性樹脂として、以下に示す熱可塑性樹脂No.1からNo.5を準備した。
【0163】
(セルロースエステル樹脂(熱可塑性樹脂No.1)の準備)
粉砕後の原料パルプに酢酸50質量部を加え、1時間活性化処理を行った。この後、含酢酸パルプを反応器に入れ、更に無水プロピオン酸250質量部、無水プロピオン酸400質量部、硫酸9質量部を投入し室温から徐々に40℃まで温度を上昇させ、40℃に保温しながら1時間保温し、エステル化反応を進行させた。次いで1次中和工程で30%酢酸水溶液250部を加え中和した後、熟成工程にて残った無水カルボン酸類を加水分解するために、80質量%の酢酸水溶液を150質量部入れ、60℃に保持し、1時間撹拌させた。その後、硫酸を中和し、反応を停止するため、30質量%の酢酸マグネシウム水溶液を15質量部加えた。熟成反応停止後のドープに親水性基を持つ平均粒径30μmのシリカ微粒子を投入し、5分間撹拌した後、濾過工程において金属不織布フィルターで酢酸ドープを濾過した。次に沈殿工程で析出したセルロースエステルを濾別し、50℃の温水で5回洗浄し、残っている酢酸水溶液を溶出させた後、70℃で3時間乾燥させ、アセチル置換度0.61、プロピオニル置換度2.07、総置換度2.68のセルロースアセテートプロピオネートであるセルロースエステル(熱可塑性樹脂1)を得た。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で測定した結果20万であった。
【0164】
(アクリル系樹脂(熱可塑性樹脂No.2)の準備)
メチルメタクリレート(MMA)とビニルピロリドン(VP)の共重合体を懸濁重合法にてMMA/VP=60/40となるように作製し準備した。
【0165】
(オレフィン系樹脂(熱可塑性樹脂No.3)の準備)
ノルボルネン系重合体(ZEONOR1420、日本ゼオン社製;ガラス転移温度Tg136℃)を準備した。
【0166】
(含ラクトン環樹脂(熱可塑性樹脂No.4)の準備)
特開2010−17874号公報の[0054]から[0056]に記載の方法で含ラクトン環樹脂の直径5mmで円筒高さが4mm程度のペレットを得た。得られたペレットを更にインペラーミル(セイシン企業製 IMP−400)で1mm径未満に細かく粉砕し、含ラクトン環樹脂の原料を得た。
【0167】
(アクリル系樹脂(熱可塑性樹脂No.5の準備)
旭化成ケミカルズ(株)製80N(PMMA)を準備し熱可塑性樹脂No.5とした。
【0168】
(パージ用の熱可塑性樹脂の準備)
使用する熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂と同じ熱可塑性樹脂をパージ用の熱可塑性樹脂として使用した。
【0169】
(第1溶融押出し装置の洗浄用樹脂の準備)
使用する熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂と同じ熱可塑性樹脂を第1溶融押出し装置の洗浄用樹脂として使用した。
【0170】
(熱可塑性樹脂フィルムの製造)
準備した各熱可塑性樹脂No.1から5を図1に示す製造装置を使用し、溶融流延方式で以下に示す条件で熱可塑性樹脂フィルムを明細書本文中に記載のステップ1からステップ5を繰り返して製造し試料No.101から110とした。
【0171】
(第1溶融押出し装置)
単軸スクリュー型溶融押出し機を準備した。
【0172】
スクリュー径:50mm
L/D:28
第2フィルター:50インチ1枚、濾過精度10μの金属不織布のフィルターメディアを取り付けるハウジングを設計し、取り付けた。
【0173】
(第2溶融押出し装置)
単軸スクリュー型溶融押出し機を準備した。
【0174】
スクリュー径:150mm
L/D:32
第1フィルター:50インチ50枚、濾過精度10μの金属不織布のフィルターメディアのリーフディスクフィルター(長瀬産業(株)製)を使用
超音波振動付与装置:ユーシージャパン(株)製超音波振動素子を16台、第2フィルターに配設した。
【0175】
(ダイスの準備)
幅1400mmのコートハンガータイプのTダイを準備した。
【0176】
(溶融押出し条件)
準備した各熱可塑性樹脂に合わせ第1溶融押出し装置の溶融押出し条件を表1に示す様にした。
【0177】
【表1】

【0178】
準備した各熱可塑性樹脂に合わせ第2溶融押出し装置の溶融押出し条件を表2に示す様にした。
【0179】
【表2】

【0180】
(セルロースエステルフィルム(試料No.101)の製造)
準備した熱可塑性樹脂No.1)を下記に示す組成で、表1に示す第1溶融押出し装置の溶融押出し条件、表2に示す第2溶融押出し装置の溶融押出し条件で明細書本文中に記載のステップ1からステップ5を繰り返し、幅1800mm、厚さ20μmのセルロースエステルフィルムを5000mで製造し試料No.101とした。
【0181】
尚、第1溶融押出し装置に使用するパージ用の熱可塑性樹脂は第2溶融押出し装置に使用したセルロースエステル樹脂を使用した。
【0182】
(熱可塑性樹脂組成物の調製)
セルロースエステル(熱可塑性樹脂No.1) 90質量部
グリセリントリベンゾエート 10質量部
Tinuvin928(BASFジャパン(株)製) 1.1質量部
GSY−P101(堺化学工業(株)製) 0.25質量部
Irganox1010(BASFジャパン(株)製) 0.5質量部
SumilizerGS(住友化学(株)製) 0.24質量部
R972V(アエロジル社製) 0.15質量部
尚、準備した、セルロースエステル(熱可塑性樹脂No.1)は70℃、3時間減圧下で乾燥を行い室温まで冷却した後、各添加剤と混合した。
【0183】
(溶融押出しによる熱可塑性樹脂フィルム成形)
以上の混合物を押付けロールとして弾性タッチロールを用い、第2溶融押出し装置から窒素雰囲気下、240℃にて溶融した熱可塑性樹脂組成物をフィルターを介してTダイから冷却引取り部の押付けロールと冷却ロールとの間に膜状フィルムを供給し挟圧して成形した。又溶融押出し機中間部のホッパー開口部から、滑り剤としてシリカ粒子(日本アエロジル社製)を、0.1質量部となるよう添加した。
【0184】
Tダイのギャップの幅が熱可塑性樹脂フィルムの幅方向端部から30mm以内では0.5mm、その他の場所では1mmとなるようにヒートボルトを調整した。弾性タッチロールとしては、その内部に循環式オイルを80℃で流した。
【0185】
冷却後、冷却引取り部から剥離された未延伸熱可塑性樹脂フィルムを延伸工程に導入し、MD方向に延伸する際、160℃にフィルム両面からIRヒーターをあて、2倍延伸する。端部が収縮するため、一旦スリットを通し、次いでTD延伸を実施。TD延伸は端部をクリップした後、徐々に160℃まで昇温するゾーンを設け160℃のゾーンで2倍延伸した後、巾方向に3%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部をスリットし、フィルム両端に幅20mm、高さ25μmのナーリング加工を施し、巻き取り張力220N/m、テーパー40%で巻芯に5000m毎に巻き取った。
【0186】
(アクリル系熱可塑性樹脂フィルム(試料No.102)の製造)
準備した熱可塑性樹脂No.2)を下記に示す組成で、表1に示す第1溶融押出し装置の溶融押出し条件、表2に示す第2溶融押出し装置の溶融押出し条件で試料No.101と同じ方法で、幅1800mm、厚さ40μmのアクリル系熱可塑性樹脂フィルムを5000m毎に巻き取り製造し試料No.102とした。
【0187】
(熱可塑性樹脂組成物の調製)
試料No.101の熱可塑性樹脂組成物の調製に使用したセルロースエステル(熱可塑性樹脂No.1)に代わりにアクリル系樹脂(熱可塑性樹脂No.2)に換えた他は同じ方法で熱可塑性樹脂組成物を調製した。
【0188】
(オレフィン系(ノルボルネン)熱可塑性樹脂フィルム(試料No.103)の製造)
準備した熱可塑性樹脂No.2)を下記に示す組成で、表1に示す第1溶融押出し装置の溶融押出し条件、表2に示す第2溶融押出し装置の溶融押出し条件で試料No.101と同じ方法で、幅1800mm、厚さ30μmのアクリル系熱可塑性樹脂フィルムを5000m毎に巻き取り製造し試料No.103とした。
【0189】
(熱可塑性樹脂組成物の調製)
試料No.101の熱可塑性樹脂組成物の調製に使用したセルロースエステル(熱可塑性樹脂No.1)に代わりにオレフィン系(ノルボルネン)系樹脂(熱可塑性樹脂No.3)に換えた他は試料No.101同じ方法で熱可塑性樹脂組成物を調製した。
【0190】
(含ラクトン環系熱可塑性樹脂フィルム(試料No.104)の製造)
準備した熱可塑性樹脂No.3)を下記に示す組成で、表1に示す第1溶融押出し装置の溶融押出し条件、表2に示す第2溶融押出し装置の溶融押出し条件で試料No.101と同じ方法で、幅1800mm、厚さ30μmの含ラクトン環系熱可塑性樹脂フィルムを5000m毎に巻き取り製造し試料No.104とした。
【0191】
(熱可塑性樹脂組成物の調製)
試料No.101の熱可塑性樹脂組成物の調製に使用したセルロースエステル(熱可塑性樹脂No.1)に代わりに含ラクトン環樹脂(熱可塑性樹脂No.4)に換えた他は同じ方法で熱可塑性樹脂組成物を調製した。
【0192】
(アクリル系熱可塑性樹脂フィルム(試料No.105)の製造)
準備した熱可塑性樹脂No.3)を下記に示す組成で、表1に示す第2溶融押出し装置の溶融押出し条件、表2に示す第1溶融押出し装置の溶融押出し条件で試料No.101と同じ方法で、幅1800mm、厚さ30μmのアクリル系熱可塑性樹脂フィルムを5000m毎に巻き取り製造し試料No.105とした。
【0193】
(熱可塑性樹脂組成物の調製)
試料No.101の熱可塑性樹脂組成物の調製に使用したセルロースエステル(熱可塑性樹脂No.1)に代わりにアクリル系樹脂(熱可塑性樹脂No.5)に換えた他は同じ方法で熱可塑性樹脂組成物を調製した。
【0194】
(比較試料No.106の製造)
超音波振動付与装置を稼動しない他は、全て試料No.101と同じ条件でセルロースエステルフィルムをフィルターの目詰まりが発生するまで連続して製造し、比較試料No.106とした。
【0195】
(比較試料No.107の製造)
超音波振動付与装置を稼動しない他は、全て試料No.102と同じ条件でアクリル系熱可塑性樹脂フィルムをフィルターの目詰まりが発生するまで連続して製造し、比較試料No.107とした。
【0196】
(比較試料No.108の製造)
超音波振動付与装置を稼動しない他は、全て試料No.103と同じ条件でオレフィン系(ノルボルネン)熱可塑性樹脂フィルムをフィルターの目詰まりが発生するまで連続して製造し、比較試料No.108とした。
【0197】
(比較試料No.109の製造)
超音波振動付与装置を稼動しない他は、全て試料No.104と同じ条件で含ラクトン環系熱可塑性樹脂フィルムをフィルターの目詰まりが発生するまで連続して製造し、比較試料No.109とした。
【0198】
(比較試料No.110の製造)
超音波振動付与装置を稼動しない他は、全て試料No.105と同じ条件でアクリル系熱可塑性樹脂フィルムをフィルターの目詰まりが発生するまで連続して製造し、比較試料No.110とした。
【0199】
尚、試料No.101から105を作製するときの熱可塑性樹脂フィルムを製造している間の超音波振動付与装置の稼動のタイミングは、滲出異物の個数が30個/mに達した時に周波数25kHz、時間10分間を1セットとし2セットを第2フィルターに付与した。
【0200】
尚、超音波振動付与装置を稼動しフィルターの洗浄は、第2溶融押出し装置からの押出し量は変更しない状態で行った。
【0201】
超音波振動付与装置の稼動に合わせ、第2溶融押出し装置からの供給管を移動し、排出管とジョイントし、第2溶融押出し装置から押出される溶融した熱可塑性樹脂を排出管を介して収納容器に排出する。又、第1溶融押出し装置からの供給管を移動し、パージ用の熱可塑性樹脂をTダイに超音波振動付与装置が稼動している間供給した。超音波振動付与装置の稼動停止に伴い、第2溶融押出し装置からの供給管を移動し、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに供給し熱可塑性樹脂フィルムの製造を行う。一方、熱可塑性樹脂フィルムの製造が行われている間に第1溶融押出し装置の洗浄を行う。上記の操作をフィルムが製造している間に滲出異物の個数が管理個数に達する毎に行いセルロースエステルフィルムを5000m毎に巻き取り製造した。滲出異物の管理個数は30個/mと設定した。
【0202】
異物の個数の確認は、延伸工程に入る前に配設した膜面検査機(タイヨー電機(株)製レーザー式高速広視野欠陥検査装置LDWS−01)により行った。
【0203】
評価
得られた各試料No.101から110を製造する時の超音波振動付与装置の稼動タイミングと、超音波振動付した直後の滲出異物の個数と、第2フィルターの寿命につき表3に示す。
【0204】
【表3】

【0205】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法により製造した試料No.101から105は、滲出異物の発生上限が30個/mに到達した際、超音波振動付与装置を稼働したところ、フィルターの目詰まりによる正規の圧力上昇の上限による交換タイミング(以下フィルターの寿命)まで交換することなく連続生産が行えた。超音波振動付与装置による洗浄を行わないで製造した試料No.106から110は何れもフィルターの寿命まで使用する前に滲出異物上限を越えてフィルター交換が必要となり、著しく生産効率が低下することが確認され、本発明の有効性が確認された。
【0206】
実施例2
実施例1に示した試料No.101を製造する時、フィルターに付与する超音波振動付与装置の周波数を表4に示す様に変更した他は全て同じ条件でセルロースエステルフィルムを製造し、試料No.201から207とした。
【0207】
評価
得られた各試料No.201から207を製造する時の超音波振動付与装置の稼動タイミングと、超音波振動付した直後の滲出異物の個数と、第2フィルターの寿命につき表4に示す。尚、滲出異物の個数の検出は実施例1砥同じ方法で行った。
【0208】
【表4】

【0209】
超音波振動付与装置のフィルターに与える周波数帯が20kHzから100kHzで製造して作製した試料No.202から206は何れもフィルターライフが70時間以上で、洗浄後の滲出異物が5個/mであった。周波数帯が16kHzとして製造し作製した試料No.201は、性能には影響を及ぼさない滲出異物が、洗浄後も5個/m以上であり、フィルターの寿命が70時間を下回るため、試料No.202から206に比べ多少劣る結果となった。周波数帯が120kHzとして製造し作製した試料No.207は、性能には影響を及ぼさない滲出異物が、洗浄後に6個/m以上であり、フィルターの寿命が70時間を下回るため、試料No.202から206に比べ多少劣る結果となった。
【符号の説明】
【0210】
1 熱可塑性樹脂フィルム製造装置
1A 溶融部
1A1 第1溶融押出し機
1A13 第1フィルター
1A23 第2フィルター
1A2 第2溶融押出し機
1A3 配管切換え装置
1B 押出し部
1B1 Tダイ
1C 冷却引取り部
1C1 冷却ロール
1C2 押付けロール
1D 延伸部
1D1 延伸装置
1E 回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融押出し機で溶融した熱可塑性樹脂をフィルターで濾過し供給管を介してダイスより流延する溶融押出成形方法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、
前記溶融押出し機は前記フィルターの下流側に配設した切換え手段を介して、パージ用の熱可塑性樹脂を押出す第1溶融押出し機と、熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を押出す第2溶融押出し機とを有し、
前記フィルターは前記第1溶融押出し機用の第1フィルターと、前記第2溶融押出し機用の第2フィルターとを有し、
前記第2フィルターは超音波振動付与装置を有し、前記第2溶融押出し機を稼動した状態で、下記のステップ1からステップ5を繰り返し、前記熱可塑性樹脂フィルムを連続して製造することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
ステップ1
前記第2溶融押出し機を稼動し、前記熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を前記第2フィルターを通して前記ダイスに供給する。
ステップ2
前記超音波振動付与装置が稼動する時に、前記パージ用の熱可塑性樹脂を前記ダイスに供給出来る様に、前記第1溶融押出し機の準備を行う。
ステップ3
前記第2溶融押出し機を稼動した状態で前記超音波振動付与装置を稼動させる。同時に、前記第1溶融押出し機からの溶融した前記パージ用の熱可塑性樹脂の前記ダイスへの供給、及び前記第2フィルターを通して出る溶融した前記熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を排出する様に前記切換え手段で切換える。
ステップ4
前記超音波振動付与装置の停止に合わせ、前記ダイスに溶融した前記熱可塑性樹脂フィルム用の熱可塑性樹脂を供給する様に切換え手段で切換え、熱可塑性樹脂フィルムの生産を開始する。
ステップ5
次の前記超音波振動付与装置の稼動に合わせ、前記第1溶融押出し機及び前記ダイスまでの経路にある前記パージ用の熱可塑性樹脂を洗浄し除去する、この後、ステップ2からステップ5を繰り返し行う。
【請求項2】
前記超音波振動付与装置が前記フィルターに与える周波数帯が16kHzから100kHzであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で製造した熱可塑性樹脂フィルムであって、前記熱可塑性樹脂フィルムの滲出異物が0個から50個/mであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−254544(P2012−254544A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128024(P2011−128024)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】