説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐衝撃性、特に低温面衝撃強度に優れ、流動性に優れる熱可塑性樹脂組成物および成形品を提供する。
【解決手段】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物0.01〜4重量部を配合してなる樹脂組成物であり、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂とが構造周期0.01〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、特に低温面衝撃強度に優れ、流動性に優れる成形品を与える熱可塑性樹脂組成物および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性を有すものの、耐薬品性や流動性に劣るため、各種樹脂とのポリマーアロイによる改良検討がなされている。
【0003】
中でもポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とのブレンド物は、耐衝撃性、機械的特性、耐熱性、耐薬品性などに優れていることから、幅広く用いられている。更に近年では、耐衝撃性や剛性を改良するために、ゴム質重合体やガラス繊維、タルク、マイカ、ウィスカーなどの微細な無機充填剤を配合したものも広く用いられている。一方でポリカーボネートの特徴である耐衝撃性等が低下する問題があった。
【0004】
また、近年、工業用成形品の大型成形、軽量化・薄肉化に対する要求がますます高まっており、特に自動車や電気・電子機器用途に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂とのブレンド物は、これらの要求に対し、特性を低下させることなく、溶融時の流動性を改良させることが望まれている。
【0005】
これらの課題を解決するために、特許文献1には、熱可塑性樹脂と3つ以上の官能基を有する多官能性化合物を配合してなる樹脂組成物が提案されている。しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂とのブレンド物に関する記載はなく、低温面衝撃強度および流動性を高度に両立する樹脂組成物を得る方法は示されていない。
特許文献2では芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、塩基性無機充填材および特定のホスファイト安定剤を配合してなる樹脂組成物が提案されている。
【0006】
しかし、二軸押出機による混練時に高剪断応力状態を形成していないため、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂とが相溶せず、スピノーダル分解に伴う構造周期0.01〜1.0μmの両相連続構造を形成していない。そのため、低温面衝撃強度が十分に発現しないという問題があった。
【0007】
特許文献3ではポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、特定構造のワラステナイト、ゴム質重合体を配合してなる樹脂組成物が提案されている。しかし、流動性が十分でなく、成形品サイズが大きいときに成形できないことがあり、問題となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−31439号公報
【特許文献2】特開2004−359913号公報
【特許文献3】特開2007−254611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐衝撃性、特に低温面衝撃強度に優れ、流動性に優れる成形品を与える熱可塑性樹脂組成物および成形品を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果得られたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物0.01〜4重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂とが構造周期0.01〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
(2)(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物が、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物である上記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
【0012】
【化1】

【0013】
(3)(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物が、アルキレンオキシド単位を一つ以上含むことを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(4)(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の官能基が水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、エステル基、アミド基から選択される少なくとも1種の官能基である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(5)さらに(D)充填剤を配合してなる(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(6)(D)充填剤が、板状、粒状および繊維状から選択される少なくとも1種である(5)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載された熱可塑性樹脂組成物からなる成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、特に低温面衝撃強度に優れ、流動性に優れる成形品を与える熱可塑性樹脂組成を得ることができる。加えて、上記の熱可塑性組成物は、各種成形品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明で用いる(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン或いは炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体と反応させることにより容易に製造される。反応は公知の方法、例えば、ホスゲンを用いる場合は界面法により、又炭酸ジエステルを用いる場合は溶融状で反応させるエステル交換法等が採用される。
【0017】
上記原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が代表的である。その他、たとえば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用されるが、これらの他にピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル類を混合して使用してもよい。更に、フロログルシン等の多官能性化合物を併用した分岐を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することも出来る。
【0018】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、ホスゲン、またはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類が挙げられる。
【0019】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは10,000〜50,000であり、より好ましくは15,000〜40,000であり、最も好ましくは18,000〜30,000である。
【0020】
所望の分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、末端停止剤或いは分子量調節剤を用いる方法や重合反応条件の選択等公知の方法が採用される。
【0021】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂は、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体、(ハ)ラクトンから選択された一種以上を重縮合してなる重合体または共重合体であり、液晶性を示さないポリエステルである。
【0022】
上記ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸単位およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0023】
また、上記ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体としては、炭素数2〜20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなど、あるいは分子量200〜100000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、芳香族ジオキシ化合物すなわち、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0024】
また、上記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。上記ラクトンとしてはカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどを挙げることができる。
【0025】
これらの重合体ないしは共重合体の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ビスフェノールA(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレ−ト)、ポリプロピレンナフタレート、ポリプロピレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)テレフタレート、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)/ビスフェノールA、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)/ビスフェノールAなどの芳香族ポリエステルや、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバテート)、ポリプロピレン(テレフタレート/セバテート)、ポリエチレン(テレフタレート/セバテート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリ−ε−カプロラクトンなどポリエーテルあるいは脂肪族ポリエステルを芳香族ポリエステルに共重合した共重合体や、ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリネオペンチルグリコールオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレン(サクシネート/アジペート)、ポリプロピレン(サクシネート/アジペート)、ポリエチレン(サクシネート/アジペート)、ポリヒドロキシ酪酸及びβ−ヒドロキシ酪酸とβ−ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーなどのポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル、ポリブチレンサクシネート・カーボネートなどの脂肪族ポリエステルカーボネートが挙げられる。
【0026】
これらの中で、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体が好ましく、具体的には、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)テレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)を好ましく挙げることができる。上記芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体中の全ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の割合が30モル%以上であることがさらに好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。
【0027】
また、これらの中では、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体がさらに好ましく、具体的には、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート)を挙げることできる。上記テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体中の全ジカルボン酸に対するテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の割合が30モル%以上であることがさらに好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明における上記(B)芳香族ポリエステル樹脂の具体例のさらなる好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネートを挙げることができ、中でも特に成形性や耐熱性の点で、ポリブチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートから選択される少なくとも1種が主成分であることが好ましく、ポリブチレンテレフタレートが主成分であることがより好ましい。
【0029】
また、(B)熱可塑性ポリエステル樹脂は共重合体でもよく、具体例としてはポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)などが挙げられ、単独で用いても2種以上混合して用いても良い。
【0030】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂の粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜3.0dl/gであることが好ましい。特に、0.9〜2.0dl/gの範囲にあるものが成形性の点から好適である。固有粘度が0.36dl/g未満では機械的特性が不良であり、また、固有粘度が3.0dl/gを越えると成形性が不良となる傾向がある。
【0031】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、耐熱性の点から120℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、特に220℃以上であることが好ましい。上限は350℃である。さらに、成形性および生産性の点で、220℃〜250℃の範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、(B)芳香族ポリエステル樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度20℃/分で測定した値である。
【0032】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めたCOOH末端基量が1〜50eq/t(ポリマー1トン当りの末端基量)の範囲にあるものが耐久性の点から好ましく使用できる。
【0033】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができ、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができる。カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合が好ましく、コストの点で、直接重合が好ましい。
【0034】
本発明における(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%である。(A)芳香族ポリカーボネート樹脂10〜90重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂10〜90重量%がより好ましく、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜80重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂40〜60重量%が最も好ましい。(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の配合量が1重量%未満であると、熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下する傾向にあり、99重量%を超えると流動性が低下したり、熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性が低下する。
【0035】
本発明で用いる(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物は、本発明の熱可塑性樹脂の流動性を向上させるために必要な成分である。(C)成分としては、分子中に3つ以上の官能基を有するものであれば限定はされず、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。また、(C)成分としては、3官能性化合物、4官能性化合物および5官能性化合物などの3つ以上の官能基を有する化合物であれば、いずれでもよいが、流動性および機械物性が優れるという点で、3官能性化合物または4官能性化合物であることがより好ましく、4官能性化合物であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明で用いる(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物は、流動性および耐衝撃性に優れるという点で、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物であることが好ましく、特に流動性および機械特性に優れるという点で、官能基を有する末端構造の二つ以上が式(1)で表される構造である化合物であることがより好ましく、官能基を有する末端構造の三つ以上が式(1)で表される構造である化合物であることがさらに好ましく、官能基を有する末端構造の全てが式(1)で表される構造である化合物であることが最も好ましい。
【0037】
【化2】

【0038】
ここで、Rは、炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは、1〜10の整数を表し、Xは、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択される少なくとも1種の官能基を表す。
【0039】
本発明においては、流動性、耐久性および機械物性などが優れるという点で、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜7の整数を表し、Xは、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、エステル基、アミド基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことが好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜5の整数を表し、Xは、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、エステル基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことがより好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜4の整数を表し、Xは、水酸基、アミノ基、グリシジル基、エステル基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことがさらに好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜3の整数を表し、Xは、水酸基であることが特に好ましい。なお、本発明において、Rが、アルキレン基の場合、式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示す。
【0040】
本発明において、(C)成分中の多官能性官能基は、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択された少なくとも1種類以上であることが好ましく、(C)成分中の官能基は、これらの中から同一あるいは異なる3つ以上の官能基を有していることが好ましい。また、本発明において、(C)成分が、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の二つ以上が式(1)で表される構造である化合物である場合には、官能基としては、上記の中の同一のものでもよく、あるいは異なるものでもよいが、流動性、機械物性、耐久性、耐熱性および生産性の点で、同一のものであることが好ましい。
【0041】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、トリエタノールアミン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、スクロース、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンなどの炭素数3〜24の多価アルコールやポリビニルアルコールなどのポリマーが挙げられる。なかでも、流動性、機械物性の点から分岐構造を有するグリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが好ましい。
【0042】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がカルボン酸基の場合は、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−2,5,7−トリカルボン酸、ピリジン−2,4,6−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸などの多価カルボン酸やアクリル酸、メタクリル酸などのポリマーが挙げられ、それらの酸無水物も使用できる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有するプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸およびその酸無水物が好ましい。
【0043】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の官能基がアミノ基の場合は、3つ以上の置換基のうち少なくとも1つは1級または2級アミンであることが好ましく、いずれも1級または2級アミンであることがさらに好ましく、いずれも1級アミンであることが特に好ましい。(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は、1,2,3−トリアミノプロパン、1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、1,2,4−トリアミノブタン、1,2,3,4−テトラミノブタン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、1,2,3−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、1,2,3−トリアミノベンゼン、1,2,4,5−テトラミノベンゼン、1,2,4−トリアミノナフタレン、2,5,7−トリアミノナフタレン、2,4,6−トリアミノピリジン、1,2,7,8−テトラミノナフタレン、1,4,5,8−テトラミノナフタレン等が挙げられる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有する1,2,3−トリアミノプロパン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましい。
【0044】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がグリシジル基の場合は、トリグリシジルトリアゾリジン−3,5−ジオン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの単量体や、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリメチルメタクリレート、グリシジル基含有アクリルポリマー、グリシジル基含有アクリル/スチレンポリマーなどのポリマーが挙げられる。
【0045】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がイソシアネート基の場合は、ノナントリイソシアネート(例えば4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(TIN))、デカントリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0046】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0047】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0048】
また、流動性、機械物性の点から、(C)3つ以上の官能基を有する化合物がアルキレンオキシド単位を一つ以上含むことが好ましい。なお、本発明において、(C)成分が、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物であり、式(1)中のRが、アルキレン基の場合、式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示すものであり、特に流動性に優れるという点で、(C)成分としては、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、アルキレンオキシド単位を含有する多官能性化合物であることが最も好ましい。本発明において、アルキレンオキシド単位の好ましい例として、炭素原子数1〜4である脂肪族アルキレンオキシド単位が有効であり、具体例としてはメチレンオキシド単位、エチレンオキシド単位、トリメチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、テトラメチレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位、2,3−ブチレンオキシド単位若しくはイソブチレンオキシド単位などを挙げることができ、本発明においては、特に、流動性、リサイクル性、耐久性、耐熱性および機械物性に優れるという点で、アルキレンオキシド単位としてエチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用するのが好ましく、耐衝撃性に優れるという点で、プロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用することが特に好ましい。
【0049】
本発明で用いる(C)成分において、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物に含まれるアルキレンオキシド単位数については、流動性および機械物性に優れるという点で、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位が0.1〜20であることが好ましく、0.5〜10であることがより好ましく、1〜2であることがさらに好ましい。
【0050】
アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシメチレングリセリン、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシトリメチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシテトラメチレングリセリン、(ポリ)オキシメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシトリメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシテトラメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシテトラメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレングルコース、(ポリ)オキシエチレングルコース、(ポリ)オキシトリメチレングルコース、(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシテトラメチレングルコース等を挙げることができる。
【0051】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸等を挙げることができる。
【0052】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン等を挙げることができる。
【0053】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0054】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0055】
流動性の点からアルキレンオキシド単位を一つ以上含む(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の特に好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトールが挙げられ、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸が挙げられ、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼンが挙げられる。
【0056】
本発明で用いる、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の粘度は、25℃において15000m・Pa以下であることが好ましく、流動性、機械物性の点から5000m・Pa以下であることがさらに好ましく、2000m・Pa以下であることが特に好ましい。下限は特にないが、成形時のブリード性の点から100m・Pa以上であることが好ましい。25℃における粘度が15000m・Paよりも大きいと流動性改良効果が不十分であるため好ましくない。
【0057】
本発明で用いる、(C)3つ以上の官能基を有する化合物の分子量または重量平均分子量(Mw)は、流動性の点で、50〜10000の範囲であることが好ましく、150〜8000の範囲であることがより好ましく、200〜3000の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、(B)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物のMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0058】
本発明で用いる、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の含水分は1%以下であることが好ましい。より好ましくは含水分0.5%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。(C)成分の含水分の下限は特にない。含水分が1%よりも高いと機械物性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0059】
本発明における、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)成分が0.01〜4重量部の範囲であることが必須であり、流動性と耐衝撃性の点から、0.05〜2重量部の範囲で配合することが好ましく、0.1〜0.7重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0060】
本発明においては、(C)成分が少なくとも1つ以上の水酸基、あるいはカルボン酸基を有していることが流動性の点から好ましく、(C)成分が3つ以上水酸基、あるいはカルボン酸基を有していることがより好ましく、(C)成分が3つ以上水酸基を有していることがさらに好ましく、(C)成分の全ての官能基が水酸基であることが特に好ましい。
【0061】
本発明において、樹脂組成物の機械強度等、その他の特性を付与するために、(D)充填剤を配合することができる。
【0062】
(D)充填剤の種類としては、繊維状、針状、板状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維等の繊維状の充填剤、ワラステナイト、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの針状の充填剤、タルク、マイカ、ガラスフレーク、合成ハイドロタルサイト、グラファイト、カオリン、クレー等の板状の充填剤、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、シリカビーズなどの各種ビーズ、ガラスマイクロバルーン等の各種バルーン、二硫化モリブデン、モンモリロナイト、酸化チタン、硫酸バリウムなどの粒状の充填剤が例示される。
【0063】
本発明の(D)充填材でタルクを用いる場合、タルクの嵩密度は、0.1〜2.0が好ましく、0.3〜1.5がより好ましく、0.5〜1.0であることが最も好ましい。嵩比重が0.1以上であることで樹脂組成物の剛性、耐衝撃性、熱安定性がより向上する傾向にあり、嵩比重が2.0以下であることで樹脂組成物の成形品外観や耐衝撃性がより向上する傾向にある。
【0064】
ここで嵩密度とは、以下の方法により求めた値である。
(1)タルクを目開きが1.4mmの篩上に乗せ、ハケで均等に軽く掃きながら篩を通す。
(2)篩に通したタルクをJISK5101に規定された嵩密度測定装置に付属する受器に山盛りになるまで投入する。
(3)受器の投入口から上部の山盛りになったタルクをヘラで削り取り、受器内のタルクの重量を測定し、下式にて嵩密度を算出する。
嵩密度= 受器内のタルクの重量(g)/受器の容量(ml)
【0065】
原料タルクを用いて嵩密度を高くする方法としては従来公知の任意の造粒方法を使用でき、バインダーを使用しない場合とバインダーを使用する方法とがある。
【0066】
バインダーを使用しない方法の例として、通常脱気圧縮の方法が挙げられる。かかる方法は、脱気しながらブリケッティングマシーンなどでローラー圧縮する方法を代表例として挙げることができる。
【0067】
バインダーを使用する方法の例として、バインダーとなる樹脂などが溶解または分散した液体とタルクをスーパーミキサーなどの混合機で均一に混合し、造粒機を通して造粒する方法がある。更にその後かかるタルクを乾燥処理をして十分に水などの成分をそこから取り除くことが好ましい。
【0068】
前記タルクは、予め表面処理をすることもできる。表面処理としては例えば、シランカップリング剤、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、およびポリアルキレングリコールなどの各種処理剤での化学的処理のほか、メカノフュージョン法、高速気流中衝撃法などの物理的な表面処理も可能である。
【0069】
好適なタルクの具体的な事例としては、ハリマ化成(株)製HT−7000、松村産業(株)製B−10、R−10が挙げられる。
【0070】
本発明の(D)充填材で炭素繊維を用いる場合、特に制限がなく、公知の各種炭素繊維、例えばポリアクリロニトリル、ピッチ、レーヨン、リグニン、炭化水素ガス等を用いて製造される炭素質繊維や黒鉛質繊維であり、また、これらの繊維を金属でコートした繊維でもよい。炭素繊維は通常チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状であり、直径15μm以下、好ましくは5〜10μmである。
【0071】
本発明に用いる炭素繊維はチョップドストランドを用いることが好ましく、チョップド炭素繊維の前駆体である炭素繊維ストランドのフィラメント数は1,000〜150,000本が好ましい。フィラメント数が1,000本未満であると、製造コストが上昇し、150,000本を越えると製造コストが上昇するとともに、生産工程における安定性が大きく損なわれることがある。
【0072】
本発明に用いる炭素繊維は各種のサイジング剤で集束されたものが好適に使用できる。サイジング剤としてはエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ変性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリル樹脂、及びポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂成分からなるものである。本発明では、かかる樹脂成分の中でも、エポキシ樹脂とポリウレタン樹脂を含むものが、熱可塑性樹脂との相溶性の観点から好適に用いられる。
【0073】
本発明の(D)充填材でガラス繊維を用いる場合、特に制限はないが、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維を用いることができ、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられ、シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていても良い。また、繊維径は1〜30μm、好ましくは5〜15μmである。また、前記の繊維断面は円形状であるが任意の縦と横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる特徴がある。
【0074】
これら(D)充填剤のうち、得られる熱可塑性樹脂組成物において、良好な表面外観、優れた面衝撃強度および低線膨張率が必要である場合は、板状または粒状の充填材が好ましく、板状の充填材がより好ましく、タルクが特に好ましい。また、高剛性および低線膨張率が必要な場合は、繊維状の充填材が好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。更には高剛性、低比重および低線膨張率が必要な場合は、繊維状の充填材が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。
【0075】
上記の(D)充填剤は、2種以上を併用して使用することもでき、タルク/ガラス繊維、タルク/炭素繊維の2種を併用することにより、良好な表面外観と高剛性とを高度に両立することが可能になる。
【0076】
また上記の(D)充填剤は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆または集束処理されていてもよく、予め表面処理をすることもできる。表面処理としては例えば、シランカップリング剤、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、およびポリアルキレングリコールなどの各種処理剤での化学的処理のほか、メカノフュージョン法、高速気流中衝撃法などの物理的な表面処理も可能である。
【0077】
(D)充填剤の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、0.1〜200重量部の範囲で配合することが機械物性の点で好ましく、1〜150重量部の範囲で配合することがより好ましく、20〜100重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0078】
本発明において、樹脂組成物の機械強度その他の特性を付与するために、(E)耐衝撃性改良剤を配合することができる。
【0079】
(E)耐衝撃性改良剤としては、熱可塑性樹脂に対して公知のものを使用することができ、具体的には、天然ゴム、低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、耐衝撃改質ポリスチレン、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエチレンテレフタレート/ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体などのポリエステルエラストマー、MBSなどのブタジエン系コアシェルエラストマーまたはアクリル系のコアシェルエラストマーが挙げられ、これらは1種または2種以上使用することができる。ブタジエン系またはアクリル系のコアシェルエラストマーとしては、三菱レイヨン製“メタブレン”、カネカ製“カネエース”、ローム&ハース製“パラロイド”などが挙げられる。
【0080】
得られる熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数が優れることから、ブタジエン系コアシェルエラストマーまたはアクリル系のコアシェルエラストマーを用いることが好ましい。
【0081】
(E)耐衝撃性改良剤の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、0.1〜100重量部の範囲で配合することが流動性および耐衝撃性の点から好ましく、1〜70重量部の範囲で配合することがより好ましく、1〜50重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0082】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物の熱安定性等を向上する目的で、(F)有機酸を用いることができる。
【0083】
(F)有機酸には種々のタイプのものを使用することができ、例えば、炭素数6〜30の脂肪酸が挙げられ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、無水マレイン酸、酸変性のシロキサンなどが代表的な化合物として例示される。とりわけ無水マレイン酸、カプリン酸が好適に用いられる。
【0084】
(F)有機酸の配合量は、熱安定性の向上効果と流動性の点から、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として0.001〜〜5重量部であることが好ましく、0.01〜1重量部であることがより好ましい。(F)有機酸の配合量が0.001重量部未満であると溶融安定性の向上効果が発現せず、5重量部を超えると流動性、耐衝撃性が低下する。
【0085】
このように(F)有機酸を配合することにより、溶融安定性が向上し、耐衝撃性および外観に優れた成形品を得ることができる。
【0086】
本発明においては、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが構造周期0.01〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有する必要がある。
【0087】
かかる構造周期をもつ樹脂組成物を得るためには、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂が、一旦相溶解し、後述のスピノーダル分解によって構造形成せしめることが好ましい。さらにこの構造形成の実現のためには、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが、後述の部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系であることが好ましい。
【0088】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、相溶系、非相溶系および半相溶系がある。相溶系は、平衡状態である非剪断下において、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な温度の全領域において相溶な系である。非相溶系は、相溶系とは逆に、全領域で非相溶となる系である。半相溶系は、ある特定の温度および組成の領域で相溶し、別の領域で非相溶となる系である。さらにこの半相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0089】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶する系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶した相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系などがある。 本発明においては、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂以外の3成分以上からなるポリマーアロイの場合、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂以外の3成分目が、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の少なくともいずれかに分配される系であることが好ましい。この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる非相溶系の構造と同等になる。以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0090】
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0091】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0092】
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
【0093】
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends,Leszek A Utracki, hanserPublishers,Munich Viema New York,P64に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0094】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0095】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
【0096】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行するが、本発明で規定する構造を得るには、この最終的に巨視的な2相に分離する前の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0097】
また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0098】
本発明でいう、両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0099】
また、本発明にいう分散構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックスの中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0100】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造に構造制御されたものである必要がある。構造周期0.001〜0.5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜0.5μmの範囲の分散構造に制御することが好ましく、さらには、構造周期0.005〜0.1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.005〜0.1μmの範囲の分散構造に制御することがより好ましい。
【0101】
構造周期0.001μm未満、あるいは粒子間距離0.001μm未満の場合、耐熱性などの特性が低下することがあり、構造周期1μmを超える場合、または粒子間距離1μmを超える場合においては、落球衝撃強度が低下することがある。
【0102】
一方、上述の準安定領域での相分離である核生成と成長では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0103】
上記スピノーダル分解を実現させるためには、各熱可塑性樹脂を相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。
【0104】
まずこの2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。
【0105】
溶融混練により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組み合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。相溶化のための温度は、部分相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
【0106】
次に上記溶融混練により相溶状態とした樹脂組成物をスピノーダル曲線の内側の不安定状態として、スピノーダル分解せしめるに際し、不安定状態とするための温度、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより設定することができる。
【0107】
スピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間で相分離相の一方または両方の成分の構造固定や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定や、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定が挙げられる。
【0108】
本発明において(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とを上記スピノーダル分解により相分離させて本発明の熱可塑性樹脂組成物とするには、前述したように部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系である樹脂を組み合わせることが好ましい。
【0109】
一般に部分相溶系には、同一組成において低温側で相溶しやすくなる低温相溶型相図を有するものや、逆に高温側で相溶しやすくなる高温相溶型相図を有するものが知られている。この低温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も低い温度を、下限臨界共溶温度(lower critical solution temperature、略してLCST)と呼び、高温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も高い温度を、上限臨界共溶温度(upper critoical solution temperature、略してUCST)と呼ぶ。
【0110】
部分相溶系を用いて相溶状態となった2成分以上の樹脂は、低温相溶型相図の場合、LCST以上の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることで、また高温相溶型相図の場合、UCST以下の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることでスピノーダル分解を行わせることができる。
【0111】
またこの部分相溶系によるスピノーダル分解の他に、非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発すること、例えば溶融混練時等の剪断下で一旦相溶し、非剪断下で再度不安定状態となり相分解するいわゆる剪断場依存型相溶解・相分解によってもスピノーダル分解による相分離が可能であり、この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの剪断場依存型相溶解・相分解は、スピノーダル曲線が剪断場により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となるためより好ましく用いられる。かかる溶融混練時の剪断下により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組み合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。この場合における相溶化のための温度、初期過程を形成させるための熱処理温度、および初期過程から構造発展させる熱処理温度や、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、種々の剪断条件下での相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより条件を設定することができる。また上記射出成形機の可塑化工程での相溶化を確実に実現させる方法として、予め2軸押出機で溶融混練し相溶化させ、吐出後氷水中などで急冷し相溶化状態で構造を固定させたものを用いて射出成形する方法などが好ましい例として挙げられる。
【0112】
また、本発明を構成する熱可塑性樹脂組成物に、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどのコポリマーである第3成分を添加することは、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させるため、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましく用いられる。この場合通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
【0113】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが、構造周期0.001〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造であることが好ましく、その測定法としてはヨウ素染色法によりポリカーボネート成分を染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて観察し、構造の観察が可能な箇所を任意で100箇所選び出し、それぞれの構造周期または粒子間距離を測定した上で、平均値を計算して得られる。
【0114】
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上の樹脂を、一旦相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解においては、相溶条件下で溶融混練後、非相溶域に温度ジャンプさせることによって、スピノーダル分解を生じさせ得る。一方、上記剪断場依存型スピノーダル分解においては、非相溶系において、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化しているため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。
【0115】
本発明の(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とを配合してなるポリマーアロイは、上記剪断場依存型スピノーダル分解に属し、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化するため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。なお、上記において剪断速度は、例えば平行円盤型剪断賦与装置を用いる場合、所定の温度に加熱し溶融状態とした樹脂を平行円盤間に投入し、中心からの距離(r)、平行円盤間の間隔(h)、回転の角速度(ω)から、ω×r/hとして求めることが可能である。
【0116】
かかるポリマーアロイの具体的な製造方法としては、上記剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が好ましい例として挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とを、2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0117】
かかる2軸押出機を用いる場合、ニーディングブロックを多用したスクリューアレンジにしたり、樹脂温度を下げたり、スクリュー回転数を高くしたり、使用ポリマーの粘度を上げることによってより高剪断応力状態を形成することにより、適宜調節することができる。
【0118】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などの添加剤、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を添加することができる。
【0119】
酸化防止剤の例としては、フェノール系化合物、リン系化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ系化合物が挙げられる。
【0120】
フェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2、2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ジ−t−ブチルフェノール)、4、4’−チオビス(3−メチル−t−ブチルフェノール)、1、1、3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−トが好ましい。
【0121】
フェノール系化合物は1種類、又は2種類以上を同時に用いる事ができる。フェノール系化合物の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部が好ましい。
【0122】
リン系化合物の例としては、トリフェニルフォスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ビス(3−メチル−1,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイトが好ましい。
【0123】
リン系化合物は1種類、又は2種類以上を同時に用いる事ができる。リン系化合物の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部が好ましい。
【0124】
離型剤の例としては、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物系ワックス、蜜ろう、ラノリン等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス、ひまし油及びその誘導体、脂肪酸及びその誘導体等の油脂系ワックスが挙げられる。
【0125】
安定剤の例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを含むベンゾトリアゾール系化合物、ならびに2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンのようなベンゾフェノン系化合物、モノまたはジステアリルホスフェート、トリメチルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0126】
これらの各種添加剤は、2種以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用して使用してもよい。
【0127】
なお、例えば酸化防止剤として例示した添加剤は、安定剤や紫外線吸収剤として作用することもある。また、安定剤として例示したものについても酸化防止作用や紫外線吸収作用のあるものがある。すなわち前記分類は便宜的なものであり、作用を限定したものではない。
【0128】
紫外線吸収剤の例としては、例えば2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤、また2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0129】
またビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も含むことができ、かかる光安定剤は上記紫外線吸収剤や各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0130】
難燃剤の例としては、ハロゲン系、リン酸エステル系、金属塩系、赤リン、シリコン系、金属水和物系などであり、難燃助剤としては、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなどが挙げられる。
【0131】
熱可塑性樹脂の例としては、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0132】
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、本発明のポリエステル樹脂成形体を構成するポリエステル樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂のいずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0133】
本発明の熱樹脂可塑性樹脂組成物は、これら配合成分が均一に分散されていることが好ましく、その配合方法は任意の方法を用いることができる。代表例として、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなど、公知の溶融混合機を用いて、200〜350℃の温度で溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に付着している水分は少ない方がよく、予め事前乾燥しておくことが望ましいが、必ずしも全ての成分を乾燥させる必要がある訳ではない。
【0134】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する好ましい方法は、高剪断を付与することのできる二軸押出機内で、シリンダー温度150〜300℃、好ましくは180〜250℃において、(A)〜(C)およびその他の添加物を配合した原料を該押出機に供給し、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を一旦相溶化させ、剪断場依存型スピノーダル分解を利用し溶融混練する方法である。
【0135】
そこで上述特異的な相分離構造を実用的な成形加工条件下で安定して得るために、各成分を溶融混練することにより得られるが、溶融混練を樹脂圧力1.5〜10MPaで行うことが好ましい。
【0136】
本発明の製造方法における樹脂圧力とは、溶融混練装置に取り付けた樹脂圧力計で測定した値であり、ゲージ圧を樹脂圧力とする。
【0137】
上記溶融混練時の樹脂圧力とは、一貫して1.5MPa以上が必要ではなく、少なくとも1ヵ所以上樹脂圧力が1.5MPa以上となる領域が存在すれば良く、押出機を用いて溶融混練する際には、通常最も樹脂圧力が高くなる箇所、例えば逆フルフライトやニーディングブロックによる樹脂滞留箇所で樹脂圧力が2MPa以上となるようにすることが好ましい。
【0138】
溶融混練時の樹脂圧力は1.5MPa以上であれば機械的性能が許す限り特に制限はないが、好ましくは2〜10MPaの範囲で用いられ、特に2〜5MPaの範囲であれば、両相連続構造がより安定して得られやすく、樹脂の劣化が小さいため好ましく用いられる。
【0139】
溶融混練時の樹脂圧力を調整する方法としては、特に制限はないが、例えば(イ)溶融混練温度の低下による樹脂粘度の向上、(ロ)目的の樹脂圧力になるような分子量のポリマーを選択する、(ハ)逆フルフライト、ニーディングブロック導入などのスクリューアレンジ変更による樹脂滞留、(ニ)原料供給速度の向上、ダイス部へのメッシュ導入によるバレル内のポリマー充満率を上げる、(ホ)スクリュー回転数を上げる、(ヘ)任意の添加剤を混合することによる樹脂粘度の向上、(ト)炭酸ガス導入などの超臨界状態などが挙げられる。
【0140】
芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を一旦相溶化させ、それを押出機から吐出後直ぐに冷却することによって、芳香族ポリカーボネート樹脂相と芳香族ポリエステル樹脂相が相溶化した状態で構造が固定されたペレットか、あるいはスピノーダル分解の初期状態である構造周期が0.4μm以下の両相連続構造のペレットを製造した後、このペレットを射出成形し、その射出成形の過程においてスピノーダル分解をさらに進行させ、構造周期が0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を有するポリエステル樹脂成形品を形成せしめる方法である。
【0141】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0142】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の熱可塑性樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより中空成形品とすることも可能である。
【0143】
かくして得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、幅広い分野に使用することが可能であり、自動車部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、機械部品、その他農業資材、搬送容器、包装容器、および雑貨などの各種用途にも有用である。特に耐熱性、剛性、および耐衝撃性との両立、並びに成形品寿命に対する要求が厳しい車輌内装用部品および車輌外装用部品に適したものである。
【0144】
自動車部品の例としては、センターパネル、インストルメンタルパネル、ダッシュボード、コンソールボックス、インナードアハンドル、リアボード、インナーピラーカバー、インナードアカバー、インナードアポケット、シートバックカバー、インナールーフカバー、ラゲッジフロアボード、カーナビゲーション・カーテレビジョンなどのディスプレーハウジングなどの内装部品、アウタードアハンドル、フェンダーパネル、ドアパネル、スポイラー、ガーニッシュ、ピラーカバー、フロントグリル、ルーフレール、バンパー、リアボディパネル、モーターバイクのカウル、トラックの荷台カバーなどの外装部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エアフローメーター、エアポンプ、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、サーモスタットハウジング、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブ−スター部品、各種ケース、燃料関係・排気系・吸気系等の各種チューブ、各種タンク、燃料関係・排気系・吸気系等の各種ホース、各種クリップ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、各種パイプ、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、ブレーキパッド摩耗センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスイッチ基板、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、スタータースイッチ、スターターリレー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、デュストリビューター、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジング、ドアミラーステー、ホーンターミナル、ウィンドウォッシャーノズル、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプソケット、ランプハウジング、ランプベゼル、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクターなどの各種コネクターなどが挙げられる。
【0145】
また電子・電気機器部品の例としては、コネクター、コイル、各種センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネット、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク・DVD等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、携帯電話関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライター関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等の光学機器/精密機械関連部品などが挙げられる。
【実施例】
【0146】
以下に実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0147】
実施例および比較例の評価方法を次に示す。なお特に断りがない限り、「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。
【0148】
(1)流動性
厚み1mm、幅10mmの短冊型成形品を用い、流動長により判断した。住友重機械社製SG75H−MIVを使用し、射出条件は、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、射出圧50MPaである。
【0149】
(2)落錘衝撃強度
シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、住友重機械社製SG75H−MIVを使用し、80mm×80mm、厚さ1〜3mmの角板を作製した。
島津製作所製の高速計装化面衝撃装置(ハイドロショット)を用い、落錘速度3.3mm/秒、ポンチ先端径1/2インチ、サンプル受け部口径3インチの試験条件に設定し、サンプル数=5、試験温度−30℃で行った。各条件で試験を行い、ポンチの抜けた穴が白化し、全体として割れが生じなかったものを延性、板全体が割れた場合を脆性と判定した。
【0150】
(3)落球衝撃強度
上記で作製した厚み3mmの角板を、(縦)85mm×(横)85mm×(高さ)50mmの受け台上に置き、その中心に100cmの高さより200gの剛球を落下し、割れや亀裂発生の有無を確認した。−30℃に調製したサンプル10枚について試験を行った後、高さを変更して同様の試験を行い、5枚以上の試験片が破壊した高さを求めた。
【0151】
(4)表面外観
上記で作製した厚み3mmの角板について、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いてRa(中心線平均粗さ、μm)を測定することにより表面外観の評価を行った。
【0152】
(5)線膨張係数
上記で作製した厚さ約3mmの角板の中心部分を用いて、樹脂の流動方向にサンプル約5mm×12mmに切り取り、紙ヤスリで表面を研磨した。測定はセイコー電子(株)製のSSC−5200およびTMA−120Cを用いて行い、測定条件は、窒素雰囲気下、−30℃で10分間保持した後、−40℃から100℃の範囲を昇温速度5℃/分で昇温し、−30〜80℃の範囲の線膨張係数を算出した。
【0153】
(6)曲げ弾性率
射出成形により作製した1/8インチ曲げ試験片を用い、ASTM−D−790に準拠して測定した。
【0154】
(7)構造周期または粒子間距離の測定
上記で作成した角板から、厚み100μmの切片を切り出し、ヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて1万倍に拡大して観察を行い、構造の観察が可能な箇所を任意で100箇所選び出し、それぞれの構造周期を測定した上で、平均値を計算した。
【0155】
以下に実施例および比較例に使用した配合組成物を示す。
【0156】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
A−1:芳香族ポリカーボネート樹脂;商品名「タフロンA1900」、出光興産(株)製、粘度均分子量19、000。
【0157】
(B)芳香族ポリエステル樹脂
B−1:ポリブチレンテレフタレート樹脂;商品名「トレコン1100M」、東レ(株)製、融点225℃
B−2:ポリブチレンテレフタレート樹脂;商品名「トレコン1200M」、東レ(株)製、融点222℃。
【0158】
(C)3つ以上の官能基を有する化合物
C−1:オキシプロピレントリメチロールプロパン;商品名「TMP−F32」、日本乳化剤製、分子量308、1官能基当たりのアルキレンオキシド(プロピレンオキシド)単位数1
C−2:トリメチロールプロパン;分子量134、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位数0、ARDRICH製
C−3:ポリオキシエチレンジグリセリン;商品名「SC−E450」、阪本薬品製、分子量410、1官能基当たりのアルキレンオキシド(エチレンオキシド)単位数1.5
C−4:ポリオキシプロピレンジグリセリン(分子量750、1官能基当たりのアルキレンオキシド(プロピレンオキシド)単位数2.3、阪本薬品製SC−P750)。
【0159】
(C’)3つ未満の官能基を有する化合物
C’−1:1,6−ヘキサンジオール;ARDRICH製。
【0160】
(D)充填剤
D−1:タルク;商品名「B−10」、松村産業(株)製
D−2:タルク;商品名「LMS200F」、富士タルク工業(株)製
D−3:マイカ;商品名「A−21」、(株)山口雲母工業所製
D−4:ガラス繊維;商品名「CS3J948」、日東紡績(株)製、繊維径約10μmのチョップドストランド状
D−5:炭素繊維;商品名「TS−15」、東レ(株)製。
【0161】
(E)耐衝撃性改良剤
E−1:商品名「EXL2600」、ロームアンドハース製、MBS樹脂
E−2:商品名「S2001」、三菱レイヨン製、シリコーンアクリル系コアシェルゴム。
【0162】
(F)有機酸
F−1:無水マレイン酸;商品名「CRYSTAL MAN AB」、日油(株)製。
【0163】
実施例1〜26、比較例1〜3、比較例5〜7、比較例9〜10
表1〜3に示す組成になるように原料を配合し、ドライブレンドした後、シリンダー温度を220℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した、3ヶ所のニーディングブロック部を有するTEX30α二軸押出機(日本製鋼所製)でダイ部の樹脂圧力が2〜5MPaとなるよう溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各ペレットは、110℃の熱風乾燥機で8時間乾燥した後、前記の評価方法で成形し、評価を行った。
【0164】
比較例4、比較例8、比較例11〜13
表1〜3に示す組成になるように原料を配合し、シリンダー温度を220℃、スクリュー回転数を200rpmに設定したニーディングブロック部を有しないPCM30押出機を用いた以外は、実施例1と同様の方法により溶融混練し、ペレットを作製した。この時の樹脂圧力は0.2MPaであった。得られた各ペレットを用い、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
【表3】

【0168】
実施例1〜12の熱可塑性樹脂組成物は低温面衝撃強度に優れ、流動性に優れている。一方比較例1〜4の熱可塑性樹脂組成物は低温面衝撃強度、流動性のいずれかが劣っていることが分かる。
【0169】
実施例13〜20の熱可塑性樹脂組成物は低温面衝撃強度に優れ、表面外観、線膨張係数および流動性が優れている。一方比較例5〜8の熱可塑性樹脂組成物は低温面衝撃強度、表面外観、線膨張係数および流動性のいずれかが劣っていることが分かる。
【0170】
実施例21〜26の熱可塑性樹脂組成物は低温面衝撃強度に優れ、剛性、表面外観、線膨張係数および流動性が優れている。一方比較例9〜13の熱可塑性樹脂組成物は剛性、低温面衝撃強度、表面外観、線膨張係数および流動性のいずれかが劣っていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物0.01〜4重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリブチレンテレフタレート樹脂とが構造周期0.01〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物が、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(Rは、炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは、1〜10の整数を表し、Xは、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択される少なくとも1種の官能基を表す。)
【請求項3】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物が、アルキレンオキシド単位を一つ以上含むことを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の官能基が水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、エステル基、アミド基から選択される少なくとも1種の官能基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(D)充填剤を配合してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
(D)充填剤が、板状、粒状および繊維状から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2010−132893(P2010−132893A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248414(P2009−248414)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】