説明

熱可塑性重合体組成物

【課題】ポリオキシメチレン系重合体を含み、ストランド状に溶融押出した際の安定性に優れていて溶融成形性に優れ、しかも、弾性率等の力学物性にも優れる熱可塑性重合体組成物を提供すること。
【解決手段】ポリオキシメチレン系重合体(A)とポリビニルアセタール系重合体(B)とを含む熱可塑性重合体組成物であって、当該ポリビニルアセタール系重合体(B)は、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)と炭素数4以上のアルデヒド(D2)の両方でアセタール化された構造を有し、ポリオキシメチレン系重合体(A)の質量/ポリビニルアセタール系重合体(B)の質量=10/90〜99/1を満たす、熱可塑性重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオキシメチレン系重合体とポリビニルアセタール系重合体とを含む熱可塑性重合体組成物、ならびに当該熱可塑性重合体組成物を用いた成形体および複合成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレン系重合体は優れた機械的性質、電気特性、耐薬品性、耐熱性を有するエンジニアリング・プラスチックとして広く利用されている。しかし、利用する分野が拡大するに伴って、ポリオキシメチレン系重合体を含む材料の性質も一層の改良が要求されている。例えば、ポリオキシメチレン系重合体は結晶化速度が速く、溶融押出成形が非常に困難である。また、溶融状態での粘度安定性が悪く、Tダイ法によってフィルムを成形する際の安定性にも問題があった。
【0003】
ポリオキシメチレン系重合体の結晶化速度を低下させたり、溶融状態での粘度を安定させたりする方法として、高温(例えば125℃以上)で一定時間保持する等の温度コントロールによる方法が挙げられるが、温度コントロールによる方法は煩雑であって工業的に有利な方法とは言えず、また、温度コントロールを採用した場合には結晶化する過程で成形品が変形しやすい等の欠点がある。
【0004】
ところで、ポリオキシメチレン系重合体に他の重合体をブレンドして結晶化速度や結晶化度を低下させることでポリオキシメチレン系重合体の成形性を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献1〜3および非特許文献1などを参照)。また、ポリオキシメチレン系重合体にポリビニルアセタール系重合体をブレンドしたり、あるいは、ポリオキシメチレン系重合体の骨格中にポリビニルアセタール系重合体の骨格を導入することにより、ポリオレフィン材料との接着性や溶着性を向上させる方法が知られている(特許文献4および5参照)。しかしながら、上記した従来のポリオキシメチレン系重合体のブレンド物や変性されたポリオキシメチレン系重合体は、溶融成形性や弾性率の点で、さらなる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−233962号公報
【特許文献2】特開平5−98039号公報
【特許文献3】特開平7−292214号公報
【特許文献4】特開2002−348437号公報
【特許文献5】特開2002−348345号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高分子論文集、第48巻、第7号、第443〜447頁(1991年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はポリオキシメチレン系重合体を含み、ストランド状に溶融押出した際の安定性に優れていて溶融成形性に優れ、しかも、弾性率等の力学物性にも優れる熱可塑性重合体組成物、ならびに当該熱可塑性重合体組成物を用いた成形体および複合成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリオキシメチレン系重合体と特定のポリビニルアセタール系重合体とを特定の質量割合で含む熱可塑性重合体組成物が、ストランド状に溶融押出した際の安定性に優れていて溶融成形性に優れ、しかも、弾性率等の力学物性にも優れていることを見出し、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ポリオキシメチレン系重合体(A)とポリビニルアセタール系重合体(B)とを含む熱可塑性重合体組成物であって、当該ポリビニルアセタール系重合体(B)は、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)と炭素数4以上のアルデヒド(D2)の両方でアセタール化された構造を有し、ポリオキシメチレン系重合体(A)の質量/ポリビニルアセタール系重合体(B)の質量=10/90〜99/1を満たす、熱可塑性重合体組成物、
[2]前記ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度が40モル%以上である、上記[1]の熱可塑性重合体組成物、
[3]前記ポリビニルアルコール系重合体(C)の粘度平均重合度が200〜4,000である、上記[1]または[2]の熱可塑性重合体組成物、
[4]示差走査熱量測定を行った際に、100〜160℃の範囲において2本以上の発熱ピークが現れる、上記[1]〜[3]のいずれか1つの熱可塑性重合体組成物、
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1つの熱可塑性重合体組成物を成形してなる成形体、
[6]上記[5]の成形体と他部材とが融着されてなる複合成形品、
[7]上記[6]の複合成形品の製造方法であって、前記熱可塑性重合体組成物を溶融押出成形または射出成形する工程を含む、製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、ストランド状に溶融押出した際の安定性に優れていて溶融成形性に優れ、しかも、弾性率等の力学物性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性重合体組成物は、ポリオキシメチレン系重合体(A)と特定のポリビニルアセタール系重合体(B)とを含む。
【0012】
ポリオキシメチレン系重合体は、オキシメチレン単位(−O−CH−)を主たる構成単位とする重合体である。本発明において使用されるポリオキシメチレン系重合体(A)の種類に特に制限はなく公知のポリオキシメチレン系重合体のいずれも使用することができ、例えば、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの環状オリゴマーであるトリオキサンやテトラオキサン等のオキシメチレン単位形成性化合物を重合して得られるポリオキシメチレンホモ重合体;主鎖の大部分がオキシメチレン単位からなり、さらにエチレンオキサイド、1,3−ジオキソランのような少なくとも2個の隣接炭素原子を有する環状エーテルに由来する単位をオキシメチレン単位に対して少量(例えば、0.01〜5モル%)含むポリオキシメチレン系共重合体;オキシメチレン単位形成性化合物、オキシメチレン単位形成性化合物と共重合し得る単官能性化合物、および、オキシメチレン単位形成性化合物と共重合し得る多官能性化合物を共重合して得られる分岐状または網状の分子鎖を有するポリオキシメチレン系共重合体(例えば、トリオキサン、エチレンオキサイド、および、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを共重合して得られるポリオキシメチレン系共重合体等);上記のポリオキシメチレンホモ重合体またはポリオキシメチレン系共重合体をさらにアセタール化したり、イソシアネート化合物と反応させたりしたポリオキシメチレン系重合体などのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0013】
本発明に用いられるポリビニルアセタール系重合体(B)は、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)と炭素数4以上のアルデヒド(D2)の両方でアセタール化された構造を有する。
【0014】
ポリビニルアルコール系重合体(C)としては、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルおよび必要に応じてさらにビニルエステルと共重合可能な他の単量体(例えば、エチレン等)を重合して得られるポリビニルエステル系重合体をアルカリまたは酸によってけん化することにより得られるものを使用することができる。また、ポリビニルアルコール系重合体(C)は、カルボン酸等が導入された変性ポリビニルアルコール系重合体であってもよい。ポリビニルアルコール系重合体(C)を構成する全構成単位のモル数に対する、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計のモル数の占める割合は50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。なお、ポリビニルアルコール系重合体(C)は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ポリビニルアルコール系重合体(C)の粘度平均重合度に特に制限はないが、200〜4,000の範囲内であることが好ましく、300〜3,000の範囲内であることがより好ましく、500〜2,500の範囲内であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコール系重合体(C)の粘度平均重合度が200未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物の力学物性、特に靱性や耐衝撃性が低下する傾向がある。一方、ポリビニルアルコール系重合体(C)の粘度平均重合度が4,000を超えると、熱可塑性重合体組成物を溶融混練法などによって製造する際の粘度が高くなって、その製造が困難になる傾向がある。
【0016】
ポリビニルアルコール系重合体(C)のけん化度に特に制限はないが、80モル%以上であることが好ましく、97モル%以上であることがより好ましい。また、本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融混練法により製造する場合には、99.5モル%以上であることが特に好ましい。
【0017】
上記の炭素数3以下のアルデヒド(D1)としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどが挙げられる。ポリビニルアセタール系重合体(B)は、1種の炭素数3以下のアルデヒド(D1)でアセタール化された構造を有していてもよいし、2種以上の炭素数3以下のアルデヒド(D1)でアセタール化された構造を有していてもよい。これらの炭素数3以下のアルデヒド(D1)のうち、ポリビニルアセタール系重合体(B)の製造の容易性などの観点から、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドが好ましく、アセトアルデヒドが特に好ましい。
【0018】
上記の炭素数4以上のアルデヒド(D2)としては、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。ポリビニルアセタール系重合体(B)は、1種の炭素数4以上のアルデヒド(D2)でアセタール化された構造を有していてもよいし、2種以上の炭素数4以上のアルデヒド(D2)でアセタール化された構造を有していてもよい。これらの炭素数4以上のアルデヒド(D2)のうち、ポリビニルアセタール系重合体(B)の製造の容易性などの観点から、n−ブチルアルデヒドが特に好ましい。
【0019】
ポリビニルアセタール系重合体(B)は、上記のように、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)と炭素数4以上のアルデヒド(D2)の両方でアセタール化された構造を有するが、ポリビニルアセタール系重合体(B)は、このような構造を有していればよく、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)と炭素数4以上のアルデヒド(D2)の両方でアセタール化されたポリビニルアセタール系重合体そのものに限定されない。すなわち、例えば、ポリビニルアルコール系重合体(C)が、炭素数3以下のアルデヒド(D1)そのものではなく、パラホルムアルデヒド、パラアセトアルデヒド、トリオキサン等、炭素数3以下のアルデヒド(D1)の誘導体や、あるいは、炭素数4以上のアルデヒド(D2)そのものではなく、n−ブチルアルデヒドのジメチルアセタール等、炭素数4以上のアルデヒド(D2)の誘導体でアセタール化された重合体であっても、上記のような構造を有している限り、このような重合体はポリビニルアセタール系重合体(B)に包含される。
【0020】
ポリビニルアルコール系重合体(C)がアルデヒドでアセタール化された場合には、通常、ポリビニルアルコール系重合体(C)が有する2つのビニルアルコール単位が当該アルデヒドでアセタール化された構造に相当するビニルアセタール単位が形成される。すなわち、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)でアセタール化された場合には、通常、2つのビニルアルコール単位が当該炭素数3以下のアルデヒド(D1)でアセタール化された構造に相当するビニルアセタール単位(d1)が形成され、また、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数4以上のアルデヒド(D2)でアセタール化された場合には、通常、2つのビニルアルコール単位が当該炭素数4以上のアルデヒド(D2)でアセタール化された構造に相当するビニルアセタール単位(d2)が形成される。ポリビニルアセタール系重合体(B)が有するビニルアセタール単位(d1)とビニルアセタール単位(d2)との割合に特に制限はないが、[ビニルアセタール単位(d1)のモル数]/[ビニルアセタール単位(d2)のモル数]が、10/90〜99/1の範囲内であることが好ましく、20/80〜90/10の範囲内であることがより好ましく、30/70〜75/25の範囲内であることがさらに好ましく、50/50〜70/30の範囲内であることが特に好ましい。このようなポリビニルアセタール系重合体(B)を用いることで、得られる熱可塑性重合体組成物の力学的物性がより向上するとともに、ポリオキシメチレン系重合体(A)が本来有していた高剛性、摺動性などの特性を保持しつつ、且つ、靱性や耐衝撃性がより向上した熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0021】
ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度に特に制限はないが、得られる熱可塑性重合体組成物の力学物性の観点から、40モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。アセタール化度が40モル%未満の場合には、得られる熱可塑性重合体組成物の力学物性、特に靱性や耐衝撃性が低下する傾向がある。一方、ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度があまりに高すぎると、ポリビニルアセタール系重合体(B)を製造する際に非常に長い時間を要し、経済的に不利になる傾向があることから、アセタール化度は85モル%以下であることが好ましい。
【0022】
本明細書において、ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度とは、ビニルアセタール単位を構成する構成単位、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計モル数に対する、ビニルアセタール単位を構成する構成単位のモル数の割合を意味する。ここで、1つのビニルアセタール単位は2つのビニルアルコール単位から形成されると考えられることから、ビニルアセタール単位を構成する構成単位のモル数は、通常、ビニルアセタール単位のモル数の2倍になる。具体的には、ポリビニルアセタール系重合体(B)が、ビニルアセタール単位:nモル、ビニルアルコール単位:nIIモル、および、ビニルエステル単位:nIIIモルから形成される場合には、ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度は、以下の式により求めることができる。
アセタール化度(モル%)=100×[n×2]/[n×2 + nII + nIII
なお、ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度は、H−MMR測定または13C−NMR測定によって求めることができる。
【0023】
本発明において、[ビニルアセタール単位(d1)のモル数]/[ビニルアセタール単位(d2)のモル数]が20/80〜90/10の範囲内であるポリビニルアセタール系重合体(B)を用いるか、または、アセタール化度が70〜85モル%の範囲内であるポリビニルアセタール系重合体(B)を用いると、得られる熱可塑性重合体組成物の靱性や耐衝撃性などがより一層向上する。ここで、ポリビニルアセタール系重合体(B)は、[ビニルアセタール単位(d1)のモル数]/[ビニルアセタール単位(d2)のモル数]が20/80〜90/10の範囲内であり、且つ、アセタール化度が70〜85モル%の範囲内であることが好ましい。
【0024】
ポリビニルアセタール系重合体(B)のビニルアルコール単位の含有率に特に制限はないが、得られる熱可塑性重合体組成物の力学物性の観点から、60モル%以下であることが好ましく、35モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましく、20モル%以下であることが特に好ましい。一方、ビニルアルコール単位の含有率があまりに低いポリビニルアセタール系重合体は、その製造に非常に長い時間を要し、経済的に不利になる傾向があることから、ポリビニルアセタール系重合体(B)のビニルアルコール単位の含有率は10モル%以上であることが好ましい。ここで、ポリビニルアセタール系重合体(B)のビニルアルコール単位の含有率とは、ビニルアセタール単位を構成する構成単位、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計モル数に対する、ビニルアルコール単位のモル数の割合を意味する。
【0025】
ポリビニルアセタール系重合体(B)の製造方法に特に制限はなく、例えば、水溶液の状態にあるポリビニルアルコール系重合体(C)と、炭素数3以下のアルデヒド(D1)またはその誘導体、および、炭素数4以上のアルデヒド(D2)またはその誘導体とを酸触媒の存在下でアセタール化反応させてポリビニルアセタール系重合体(B)の粒子を析出させる水媒法;ポリビニルアルコール系重合体(C)を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下で炭素数3以下のアルデヒド(D1)またはその誘導体、および、炭素数4以上のアルデヒド(D2)またはその誘導体とアセタール化反応させ、この反応液をポリビニルアセタール系重合体(B)に対する貧溶媒である水等により析出させる溶媒法などが挙げられる。これらのうち水媒法が好ましい。
アセタール化に用いられる炭素数3以下のアルデヒド(D1)またはその誘導体、および、炭素数4以上のアルデヒド(D2)またはその誘導体は、すべてを同時に仕込んでもよいし、1種類ずつを別々に仕込んでもよい。炭素数3以下のアルデヒド(D1)またはその誘導体、および、炭素数4以上のアルデヒド(D2)またはその誘導体の添加順序および酸触媒の添加順序を変えることで、ポリビニルアセタール系重合体(B)のビニルアセタール単位のランダム性を変化させることができる。
【0026】
アセタール化反応に用いられる酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸類;炭酸ガス等の、水溶液にした際に酸性を示す気体;陽イオン交換体、金属酸化物等の固体酸触媒などが挙げられる。
【0027】
上記の水媒法、溶媒法等において生成したポリビニルアセタール系重合体(B)のスラリーは、通常、酸触媒によって酸性を呈している。酸触媒を除去する方法としては、例えば、pHが好ましくは5〜9の範囲内、より好ましくは6〜9の範囲内、さらに好ましくは6〜8の範囲内になるように水洗を繰り返す方法;該スラリーに酸触媒を除去するための化合物を添加して、pHを好ましくは5〜9の範囲内、より好ましくは6〜9の範囲内、さらに好ましくは6〜8の範囲内に調整する方法などが挙げられる。
【0028】
上記酸触媒を除去するための化合物としては、例えば、中和剤やアルキレンオキサイド類などを使用することができる。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物やアンモニア、アンモニア水溶液などが挙げられる。また、アルキレンオキサイド類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類などが挙げられる。
【0029】
酸触媒を除去するための化合物を添加することにより生成した塩や反応生成物、使用したアルデヒドの反応残渣などは、脱水と水洗を繰り返すなど、公知の方法を採用することにより除去することができる。
脱水と水洗を繰り返すことによって塩や反応生成物、反応残渣等が除去された含水状態のポリビニルアセタール系重合体(B)は、必要に応じて乾燥され、必要に応じてパウダー状、顆粒状またはペレット状に加工される。パウダー状、顆粒状またはペレット状に加工される際に、減圧状態で脱気することによりアルデヒドの反応残渣や水分などを低減しておくことが好ましい。
【0030】
本発明の熱可塑性重合体組成物において、ポリオキシメチレン系重合体(A)とポリビニルアセタール系重合体(B)との質量割合([ポリオキシメチレン系重合体(A)の質量]/[ポリビニルアセタール系重合体(B)の質量])は、その値があまりに小さすぎると、得られる熱可塑性重合体組成物の表面硬度や剛性が低下する傾向があり、また、あまりに大きすぎると、得られる熱可塑性重合体組成物の靱性や耐衝撃性等の力学物性の改善効果が低下する傾向があることから、10/90〜99/1の範囲内であることが必要であり、20/80〜95/5の範囲内であることが好ましく、40/60〜90/10の範囲内であることがより好ましく、60/40〜85/15の範囲内であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、ポリオキシメチレン系重合体(A)およびポリビニルアセタール系重合体(B)のみを含んでいてもよいが、これら以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、充填剤(ガラス、金属等)、可塑剤、着色剤、安定剤、耐光剤、帯電防止剤などが挙げられる。本発明の熱可塑性重合体組成物の質量に占めるこれらの他の成分の質量の割合は、50質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることがさらに好ましく、98質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、示差走査熱量測定を行った際に100〜160℃の範囲において2本以上の発熱ピークが現れることが好ましい。単独のポリオキシメチレン系重合体について示差走査熱量測定を行うと、多くの場合、145℃付近に発熱ピークが1本現れる。また、ポリオキシメチレン系重合体にポリビニルアセタール系重合体を単純に配合した熱可塑性重合体組成物について同様に示差走査熱量測定を行ったとしても、100〜160℃の範囲において上記145℃付近の発熱ピークが1本のみ現れることが多い。これに対し、本発明の熱可塑性重合体組成物について示差走査熱量測定を行った際に100〜160℃の範囲において、上記145℃付近の発熱ピークよりもさらに低温側に別の発熱ピークが現れるなどして合計で2本以上の発熱ピークが現れると、結晶化温度が部分的に低下するため溶融成形性が一層向上する。本発明の熱可塑性重合体組成物について示差走査熱量測定を行った際に100〜160℃の範囲において現れる発熱ピークの数は、本発明の熱可塑性重合体組成物が含む成分などにもよるが、2本であることが好ましい。
【0033】
示差走査熱量測定を行った際に100〜160℃の範囲において2本以上の発熱ピークが現れる上記の熱可塑性重合体組成物は、例えば、ポリビニルアセタール系重合体(B)として、上記した[ビニルアセタール単位(d1)のモル数]/[ビニルアセタール単位(d2)のモル数]が50/50〜90/10程度のものを使用するとともに、熱可塑性重合体組成物におけるポリオキシメチレン系重合体(A)とポリビニルアセタール系重合体(B)との質量割合([ポリオキシメチレン系重合体(A)の質量]/[ポリビニルアセタール系重合体(B)の質量])を30/70〜65/35程度とするなど、使用されるポリビニルアセタール系重合体(B)の種類およびポリオキシメチレン系重合体(A)とポリビニルアセタール系重合体(B)との質量割合を適宜選択乃至調整するなどして、容易に製造することができる。
【0034】
本発明の熱可塑性重合体組成物を成形することにより各種成形体とすることができる。本発明の熱可塑性重合体組成物を成形する際の成形方法に特に制限はないが、本発明の熱可塑性重合体組成物はストランド状に溶融押出した際の安定性に優れていて溶融成形性に優れるため、例えば、溶融押出成形、射出成形等の溶融成形法により成形体とすることが好ましい。本発明の熱可塑性重合体組成物を成形してなる成形体の形状に特に制限はなく、フィルム状、板状、円柱状、球状等の他、各種最終製品の形状や、さらには各種最終製品を製造するためのペレットの形状などが挙げられる。
【0035】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物はポリオレフィン系重合体等の各種重合体、金属、ガラスなどとの接着性に優れていることから、それを形成してなる成形体と各種重合体、金属、ガラスなどからなる他部材とを融着させることによって各材料の長所を共に具備した複合成形品を容易に製造することができる。このような複合成形品を製造する際の製造方法に特に制限はないが、所望の形状を有する複合成形品を容易に製造することができることから、本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融押出成形または射出成形する工程を含む方法を採用するのが好ましい。
【実施例】
【0036】
次に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
(1)ポリビニルアセタール系重合体の構造分析
以下の実施例または比較例で使用したポリビニルアセタール系重合体の構造を13C−NMRによって分析した。具体的には、13C−NMR分析により、n−ブチルアルデヒドに基づくアセタール化度、アセトアルデヒドに基づくアセタール化度、ビニルアルコール単位の含有率、および、酢酸ビニル単位の含有率をそれぞれ求めた。
【0038】
(2)引張強さの測定
以下の実施例または比較例で得られた熱可塑性重合体組成物(比較例1ではポリオキシメチレン系重合体)をプレス成形して得られた厚さ100μmの薄膜成形体から、株式会社ダンベル製スーパーダンベルカッターを用いて、JIS K6251:2010に記載のダンベル状2号形の試験片と同様の試験片(但し、厚さは100μm)を打ち抜いた。この試験片について、株式会社島津製作所製オートグラフ「AG−5000B」を用いて、引張速度5mm/minで引張強さを測定した。当該引張強さを弾性率の指標とした。
【0039】
(3)ストランド安定性の評価
メルトテンション測定によりストランド状に溶融押出した際の安定性を評価した。具体的には、以下の実施例または比較例で得られた熱可塑性重合体組成物(比較例1ではポリオキシメチレン系重合体)を用いて、CEAST社製「RHEOLOGIC 5000」により、ノズル径:1mm、ノズル長:30mm、測定温度:200℃、ピストンスピード:0.2mm/sの条件下で溶融張力を測定し、以下の基準によって評価した。
○:ストランド切れが発生せず、引取速度を上げた場合にも溶融張力の大きな低下が見られない。
△:ストランド切れは発生しないが、引取速度を上げた場合に溶融張力の大きな低下が見られる。
×:ストランド切れが発生する。
【0040】
(4)結晶化温度(Tc)の測定
以下の実施例で得られた熱可塑性重合体組成物(比較例4ではポリオキシメチレン系重合体)について、ティー・エイ・インスツルメント社製「DSCQ1000」を用いて、200℃で2min保持後、−5℃/minの降温条件下で25℃まで冷却しながら示差走査熱量測定を行い、現れた発熱ピークのピーク温度を結晶化温度(Tc)とした。
【0041】
[実施例1〜3および比較例1〜3]
ポリオキシメチレン系重合体(ポリプラスチックス株式会社製、「ジュラコン」M90−44)と、表1に示す構造を有するポリビニルアセタール系重合体とを、表1に示す質量割合で溶融混練して熱可塑性重合体組成物を得た。当該熱可塑性重合体組成物を用いて、上記の方法により、引張強さを測定するとともに、ストランド安定性の評価を行った。なお、比較例1ではポリオキシメチレン系重合体を単独で使用した。結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
[比較例4および実施例4〜6]
ポリオキシメチレン系重合体(ポリプラスチックス株式会社製、「ジュラコン」M90−44)と、実施例2で使用したポリビニルアセタール系重合体とを表2に示す質量割合で溶融混練して熱可塑性重合体組成物を得た。当該熱可塑性重合体組成物を用いて、上記の方法により、結晶化温度(Tc)を測定した。なお、比較例4ではポリオキシメチレン系重合体を単独で使用した。結果を表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
表1に示すように、実施例1〜3の熱可塑性重合体組成物は、ストランド安定性に優れていて溶融成形性に優れるとともに、引張強さが高くて弾性率が高いことが分かる。また、表2に示すように、実施例5の熱可塑性重合体組成物は、示差走査熱量測定を行った際に100〜160℃の範囲において2本の発熱ピークが現れていて、当該熱可塑性重合体組成物は結晶化温度が部分的に低下し溶融成形性により優れることが分かる。この熱可塑性重合体組成物を偏光顕微鏡で観察したところ、ポリオキシメチレン系重合体単独では確認されない球晶が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシメチレン系重合体(A)とポリビニルアセタール系重合体(B)とを含む熱可塑性重合体組成物であって、当該ポリビニルアセタール系重合体(B)は、ポリビニルアルコール系重合体(C)が炭素数3以下のアルデヒド(D1)と炭素数4以上のアルデヒド(D2)の両方でアセタール化された構造を有し、ポリオキシメチレン系重合体(A)の質量/ポリビニルアセタール系重合体(B)の質量=10/90〜99/1を満たす、熱可塑性重合体組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアセタール系重合体(B)のアセタール化度が40モル%以上である、請求項1に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系重合体(C)の粘度平均重合度が200〜4,000である、請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項4】
示差走査熱量測定を行った際に、100〜160℃の範囲において2本以上の発熱ピークが現れる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体組成物を成形してなる成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体と他部材とが融着されてなる複合成形品。
【請求項7】
請求項6の複合成形品の製造方法であって、前記熱可塑性重合体組成物を溶融押出成形または射出成形する工程を含む、製造方法。

【公開番号】特開2012−241058(P2012−241058A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110412(P2011−110412)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】