説明

熱回収塔の運転方法

【課題】リボイラー、コンデンサーを持たず、反応工程からの水蒸気を含有するガスを熱源として、次反応工程で使用する炭化水素化合物を冷却源として供給して熱交換させるとともに、塔内またはポンプアラウンドの任意の位置に設けられた油水分離可能な構造のコレクター部でガス中の水蒸気と炭化水素化合物とが凝縮分離するように、供給する冷却源の炭化水素化合物の量を炭化水素化合物供給管に設けたバイパスラインを用いて制御する熱回収塔の運転方法において、該バイパスラインを経由して直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物を加熱して熱回収する熱回収塔の運転方法を提供することを目的とする。
【解決手段】バイパスラインに熱交換器を設け、バイパスラインを経由して直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物を、他の高温プロセス流体、例えば、スチーム凝縮水と熱交換させることにより、炭化水素化合物を加熱して熱回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱回収塔の運転方法に関する。さらに詳しくは、リボイラー、コンデンサーなどの温度を調整するための手段を有しない熱回収塔であって、該熱回収塔の運転条件下では非凝縮性を示す、反応工程からの窒素、酸素、炭化水素化合物および水蒸気を含有するガスを熱源として、次反応工程で使用する炭化水素化合物を供給して熱交換させるとともに、塔内またはポンプアラウンドの任意の位置に設けられた油水分離可能な構造のコレクター部でガス中の水蒸気と炭化水素化合物とが凝縮分離するように、供給する冷却源の炭化水素化合物の量を、炭化水素化合物供給管に設置されたバイパスラインを用いて制御し、回収された炭化水素化合物は塔下段へ流下させ、塔底部から熱交換された炭化水素化合物とともに抜き出すとともに、バイパスラインから直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物をバイパスラインに設けた熱交換器で他の高温プロセス流体と熱交換する熱回収塔の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反応工程からの窒素、酸素、炭化水素化合物および水蒸気を含有するガスを熱源として、次反応工程で使用する炭化水素化合物を供給して熱交換させるとともに、塔内またはポンプアラウンドの任意の位置に設けられた油水分離可能な構造のコレクター部でガス中の水蒸気と炭化水素化合物とが凝縮分離するように供給する冷却源の炭化水素化合物の量を、炭化水素化合物供給管に設けたバイパスラインを用いて制御する熱回収塔の運転方法において、バイパスラインを経由して直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物は、通常、常温程度の低温であるため、次反応工程で必要な温度になるようにスチーム等により加熱しているのが現状である。しかしながら、常温程度の原料炭化水素化合物を次工程の反応に必要とされる温度にまで加熱するにはかなりのスチームを必要としていた。
また、プロセス内等には高温のプロセス流体、例えば、100℃程度のスチーム凝縮水等が存在しており、従来、この程度の温度のスチーム凝縮水等は熱回収に使用されることなく、ボイラー給水として再利用するか、海水等で冷却して純水として回収し、プロセス内に再利用していた。ボイラー給水として再利用する場合においても、イオン交換等の処理を行なうために一定の温度まで海水等で冷却しなければならなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、リボイラー、コンデンサーを持たず、反応工程からの窒素、酸素、炭化水素化合物および水蒸気を含有するガスを熱源として、次反応工程で使用する炭化水素化合物を冷却源として供給して熱交換させるとともに、塔内またはポンプアラウンドの任意の位置に設けられた油水分離可能な構造のコレクター部でガス中の水蒸気と炭化水素化合物とが凝縮分離するように、供給する冷却源の炭化水素化合物の量を炭化水素化合物供給管に設けたバイパスラインを用いて制御する熱回収塔の運転にあたり、該バイパスラインに熱交換器を設置して、バイパスラインから直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物を他の高温プロセス流体、例えば、100℃程度の温度のプロセス流体と熱交換して該炭化水素化合物を加熱することにより熱回収することを可能にした熱回収塔の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究した結果、前記熱回収塔に設けられた炭化水素化合物供給管のバイパスラインに熱交換器を設置することにより、該バイパスラインを経由して直接次反応工程へ供給される常温程度の原料炭化水素化合物を、100℃程度のプロセス流体、例えば、スチーム凝縮水等と熱交換して熱回収することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0005】
本発明は下記から構成される。
(1)リボイラーなどの温度を調整するための手段を有しない熱回収塔であって、該熱回収塔の運転条件下では非凝縮性を示す、反応工程からの窒素、酸素、炭化水素化合物および水蒸気を含有するガスを熱源として、該ガスを塔底側部より導入し、塔側部より次反応工程で使用する原料炭化水素化合物を供給して熱交換させるとともに、塔内またはポンプアラウンドの任意の位置に設けられた油水分離可能な構造のコレクター部でガス中の水蒸気と炭化水素化合物とが凝縮分離する最適温度になるように塔側部に供給する炭化水素化合物の量を、冷却源の炭化水素化合物供給管に設置されたバイパスラインを用いて制御し、コレクター部で凝縮された水は別途抜き出し、回収された炭化水素化合物は塔下段へ流下させて、塔底部から熱交換された炭化水素化合物とともに抜き出すとともに、該バイパスラインから直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物をバイパスラインに設けられた熱交換器で高温のプロセス流体と熱交換することを特徴とする熱回収塔の運転方法。
【0006】
(2)高温のプロセス流体がスチーム凝縮水である上記(1)の熱回収塔の運転方法。
(3)炭化水素化合物が、エチルベンゼンである上記(1)または(2)の熱回収塔の運転方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、前記熱回収塔の運転にあたり、バイパスラインに熱交換器を設け、バイパスラインを経由して直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物を高温の他のプロセス流体、例えば、100℃程度のスチーム凝縮水と熱交換して該炭化水素化合物を加熱することにより、熱回収することを可能とした熱回収塔の運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の熱回収塔はガス中の水蒸気を除去する目的で油水分離可能な構造のコレクターが任意の位置に設けられている。このようなコレクターは市販品を使用することができ、例えばスルザー社製のチムニートレイを例示することができる。
この油水分離可能な構造のコレクター部で、ガス中の水蒸気が凝縮された水相と回収された炭化水素化合物相との二相を形成し、比重の大きい水相が下層に比重の小さい有機相が上層の二相に分離する。水相部は排水として系外に抜き出し、該有機相である炭化水素化合物相はオーバーフローによって下段へ流下される(図1参照)。
また、熱回収塔の任意の段より液を抜き出し、デカンターにて有機相と水相との分離を行い、有機相部のみを再び塔内に回収するポンプアラウンドのコレクターも例示することができる(図3参照)。
熱回収塔へ供給されるガス量や流量は熱回収塔を設置する際、任意の前提をおいて設計されるため、設計条件と温度、流量、組成などのずれが発生した場合に最適な条件で運転することができなくなるため、フラッディングなどの現象が発生する。
ガス中の水蒸気が油水分離可能な構造のコレクター部で凝縮するためには該コレクター部の温度を適正に制御することが必要であり、このため、塔底圧と塔頂圧との差圧が最小になるように、またコレクター部から抜き出される排水の量が増大するように、冷却源である炭化水素化合物の塔内への供給量を制御することにより塔内温度分布を調整する。
反応工程からの窒素、酸素、炭化水素化合物および水蒸気を含有するガスを熱源として、該ガスを塔底側部より導入し、塔側部より次反応工程で使用する原料炭化水素化合物を供給して熱交換させる熱回収塔の運転において、供給する冷却源としての炭化水素化合物は次反応工程で使用する原料であるため、供給しなければならない原料の量は決まっており、この決められた量の全量を該熱回収塔を経由して熱回収の上、次反応工程へ供給しようとすると、熱回収塔のコレクター部で水蒸気の凝縮が起こる最適温度を達成するための温度制御が困難となり、その結果、フラッディング現象等をおこして熱回収塔の安定的な運転が不可能になる。これを回避するためには、塔内へ供給する炭化水素化合物の量を、次工程へ供給しなければならない炭化水素化合物の量に関係なく、自由に制御できるようにすることが重要で、このため熱回収塔への炭化水素化合物の供給管にバイパスラインを設けることによって塔内へ供給する炭化水素化合物の供給量を制御する。
熱回収塔へ供給される炭化水素化合物以外の炭化水素化合物は、バイパスラインを通って、直接次反応工程への供給ラインに導かれる。このとき、冷却源である該炭化水素化合物は温度が低いため、次反応工程で必要な温度にまで加熱する必要がある。
本発明にあっては、図2に例示したように、このバイパスラインに熱交換器を設け、この原料炭化水素化合物の加熱源として、プロセス内等で発生する他の高温のプロセス流体、例えば、従来、海水等で冷却して得られていた温度100℃程度のスチーム凝縮水を用いて熱交換することにより原料炭化水素化合物を加熱して熱回収するとともに、スチーム凝縮水は冷却されて純水としてプロセス内等で冷却水やプロセス水(ボイラー水)として有効利用するものである。
【実施例】
【0009】
つぎに実施例、比較例により、本発明を具体的に説明する。
実施例1
図2に示すような、9段目に油水分離可能な構造を有するチムニートレイを設けた17段のトレーを有する熱回収塔を用いて、塔底側部より,エチルベンゼンを酸素含有気体で酸化してエチルベンゼンハイドロパーオキサイドを製造する酸化反応工程からのガスで原料炭化水素化合物を75質量%、水蒸気等を0.3質量%含有する、温度150℃のガスを170トン/hrで導入し、塔側部に設けられたバイパスラインを有する供給管より、温度40℃〜90℃の範囲のエチルベンゼン545トン/hrのうち430トン/hrを塔内に供給し、残り115トン/hrはバイパスして運転した。このとき、熱回収塔の塔頂圧は200kPaG、塔底圧は210kPaG(塔内差圧10kPa)、塔頂部の温度35℃、コレクター部(チムニートレー部)の温度74℃、塔底温度141℃の塔内温度分布を示した。塔頂部から排ガスを40トン/hrで排出し、コレクター部からは凝縮水が480kg/hrで抜き出され、塔底からエチルベンゼンが560トン/hrで抜き出された。
バイパスしたエチルベンゼン115トン/hrを、104℃程度のスチーム凝縮水32トン/hrと熱交換して、77℃のエチルベンゼン115トン/hrと57℃の純水32トン/hrを得た。熱回収量は5.8GJ/hrで、1000kPaGの水蒸気で2.6トン/hrに相当するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱回収塔のチムニー型コレクターの模式図を示す。
【図2】実施例における熱回収塔のバイパスラインに熱交換器を設けた本発明の熱回収塔の運転状況の一例を示した図である。
【図3】本発明の熱回収塔のポンプアラウンドの模式図を示す。
【符号の説明】
【0011】
A:冷却源である炭化水素化合物の供給口
B:ガスの供給口
C:バイパスライン
D:排水ライン
E:熱回収塔
F:デカンター
G:回収ライン
H:排水ライン
(1):塔頂温度計
(2):コレクター部温度計
(3):塔底温度計
(4):有機相
(5):水相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボイラー、コンデンサーなどの温度を調整するための手段を有しない熱回収塔であって、該熱回収塔の運転条件下では非凝縮性を示す、反応工程からの窒素、酸素、炭化水素化合物および水蒸気を含有するガスを熱源として、該ガスを塔底側部より導入し、塔側部より次反応工程で使用する原料炭化水素化合物を供給して熱交換させるとともに、塔内またはポンプアラウンドの任意の位置に設けられた油水分離可能な構造のコレクター部でガス中の水蒸気と炭化水素化合物とが凝縮分離する最適温度になるように、塔側部に供給する炭化水素化合物の量を、冷却源の炭化水素化合物供給管に設置されたバイパスラインを用いて制御し、コレクター部で凝縮された水は別途抜き出し、回収された炭化水素化合物は塔下段へ流下させて、塔底部から熱交換された炭化水素化合物とともに抜き出すとともに、該バイパスラインから直接次反応工程へ供給される炭化水素化合物をバイパスラインに設けられた熱交換器で高温のプロセス流体と熱交換することを特徴とする熱回収塔の運転方法。
【請求項2】
高温のプロセス流体がスチーム凝縮水である請求項1に記載の熱回収塔の運転方法。
【請求項3】
炭化水素化合物が、エチルベンゼンである請求項1または2に記載の熱回収塔の運転方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−247613(P2006−247613A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71348(P2005−71348)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(503108115)日本オキシラン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】