説明

熱安定性に優れた電解液およびそれを用いた二次電池

【課題】熱安定性が高く、通常の車両搭載用二次電池に使用できる高電圧の電解液およびその電解液を使用した二次電池を提供する。
【解決手段】本発明によれば、アルカリ金属イオンを吸蔵脱離する正極および負極並びに電解液を含む二次電池に使用される電解液であって、電解液の溶媒としてグライムのみと、電解液の溶質としてアルカリ金属塩と、を含み、前記グライムと前記アルカリ金属塩との少なくとも一部が錯体を形成していることを特徴とする電解液が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、特に車両用への使用に適した電解液に関する。より詳細には、熱安定性および電気化学的安定性に優れた電解液に関し、さらにその電解液を使用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。これらのいわゆる電動車両においては、放電・充電ができる電源装置の活用が不可欠なためである。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等が利用される。このうち、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有し、かつ繰り返し充放電に対する耐久性の高さから、リチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池をはじめとする二次電池の性能向上のため、その構成要素は様々に検討が重ねられているが、電解液についても同様である。電解液の溶媒としては、一般的にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の有機溶媒が使用されている。例えば、有機溶媒の溶媒和能を低下させ、負極での分解を抑制させるために、高分子固体電解質の可塑剤として、グライム類を添加した電解液が提案されている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−106920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池用の電解液については、その熱安定性についても改善が進められている。電池の高容量化、高出力化に伴い、安全性に対する要求は厳しくなっているため、電解液の熱安定性の確保は重要である。しかし、従来の電解液においては、熱安定性を向上させると、イオン伝導性、電気化学的安定性などの電気特性が低下するトレードオフの関係があった。この関係を両立させる上で、例えば、複雑な電池制御システム追加を必要とするなど、従来はコストアップの要因となっていた。そのため、二次電池に適用可能な、熱安定性および電気化学的安定性に優れた電解液の実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の提供する電解液は、電解液の溶媒としてグライムのみと、電解液の溶質としてアルカリ金属塩と、を含む。さらに、前記グライムと前記アルカリ金属塩との少なくとも一部が電解液中で錯体を形成している。また、本発明の電解液は、アルカリ金属イオンを吸蔵脱離する正極および負極を含む二次電池に使用することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電解液は、溶媒にグライムのみを使用することで、アルカリ金属塩とグライムとが錯体を含む錯構造を形成している。このことにより、優れた熱安定性と、電気化学的安定性に由来する良好な電気特性とが電解液に両立する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の電解液について、以下詳細に説明する。
【0009】
本発明の電解液は、溶媒としてグライムのみを使用する。グライムは、直鎖状のグリコールジエーテルの総称である。グライムは分子内に極性があり、電池に使用されるアルカリ金属塩を溶解させるのに適している。しかしながら、グライムはエーテル構造を有するため、耐酸化性に劣り、電池の正極材料と組み合わせることが困難であると一般的には考えられてきた。加えて、車両用等の二次電池に通常使用される程度の電圧を実現するには、電解液とした時に酸化電位が低く、グライムのみを電解液の溶媒に使用することは困難であるというのが、従来の技術的な常識であった。しかし、本発明者らは、実験の結果、電解液の溶媒としてグライムのみを使用しても、通常使用される正極材料と共に充放電が可能であり、二次電池使用に十分な酸化電位を得られることを見出した。その上、グライムのみを使用した電解液は、同時に、優れた熱安定性を示すことが分かった。
【0010】
このように溶媒にグライムのみを使用しても、電解液が十分な酸化電位および優れた熱安定性を示す理由は、以下のように推測される。グライムとアルカリ金属塩とを混合すると、グライムのエーテル構造の酸素部分がアルカリ金属イオンに配位し、電解液中の少なくとも一部に錯体が形成されると考えられる。この錯体形成により、電解液は耐酸化性が向上し、同時に熱安定性が向上したと考えられる。しかしながら、電解液中の錯体形成は、必ずしも、アルカリ金属イオンとグライムが1:1で特定の構造をとって他から遊離しているというように明確な形態が決まるものではないと推測される。グライムのエーテル部分とアルカリ金属イオンとが相互に弱い結合を保ちながら、1:1の錯体のような形態を含みつつ、全体が何らかの錯構造を形成しまとまりをなしていると思われる。そして、このような全体のまとまりが、耐酸化性すなわち電気化学的安定性、および、熱安定性の向上に寄与していると考えられる。
【0011】
本発明の電解液において、グライムに対するアルカリ金属塩の混合比、すなわち、アルカリ金属塩/グライムは、モル換算で0.70〜1.25であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2である。このような範囲であれば、高い酸化電位がより確実に実現できる。特に、通常、車両搭載用等の二次電池に使用する電解液の酸化電位は、少なくとも4.5V程度の高電圧が必要とされることが多い。上記のように、グライムを使用した電解液は酸化電位が低く、従来は通常の電池への適用が考えられていなかった。しかし、上記のような混合比であれば、電解液は4.5V以上の酸化電位を十分に実現でき、通常の二次電池への使用が可能である。アルカリ金属塩/グライムの混合比範囲が、モル換算で、0.70〜1.25であれば、電解液の電気化学的安定性が確保されやすく、4.5V以上の酸化電位の実現がより確実になる。その理由としては、混合比がこの範囲にあれば、上記のような電解液中の錯構造がもっとも効果的に電気化学的安定性に貢献する状態になっていると考えられる。混合比が0.70を下回ると、正極上でグライムが酸化分解される恐れがある。一方で、混合比が1.25を上回ると、アルカリ金属塩が溶解しきらず、電解液中に析出する可能性がある。
【0012】
本発明の電解液に用いられるグライムは、下記化学式で示される少なくとも一種が好ましい。グライムは、一種が単独で使用されても、二種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、Rは、炭素数1〜9のフッ素置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、およびハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基のいずれかであり、xは1〜5である。このようなグライムを使用することにより、電解液の熱安定性、イオン伝導性、電気化学的安定性をより向上できる。
【0015】
上記式中のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。これらのアルキル基は、任意の位置がフッ素で置換されていてもよい。アルキル基の数が9を超えると、グライムの極性が弱くなるため、アルカリ金属塩の溶解性が低下する傾向がある。そのため、アルキル基の炭素数は少ない方が好ましく、好ましくはメチル基およびエチル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0016】
ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基としては、特に制限はないが、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2,4−ジブロモフェニル基、2−ヨードフェニル基、3−ヨードフェニル基、4−ヨードフェニル基、2,4−ヨードフェニル基等が挙げられる。
【0017】
ハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基としては、特に制限はないが、2−クロロシクロヘキシル基、3−クロロシクロヘキシル基、4−クロロシクロヘキシル基、2,4−ジクロロシクロヘキシル基、2−ブロモシクロヘキシル基、3−ブロモシクロヘキシル基、4−ブロモシクロヘキシル基、2,4−ジブロモシクロヘキシル基、2−ヨードシクロヘキシル基、3−ヨードシクロヘキシル基、4−ヨードシクロヘキシル基、2,4−ジヨードシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0018】
エチレンオキシド単位の繰り返し数を表わすxについては、1〜5が好ましく、より好ましくは2〜5、最も好ましくは3または4である。xが1〜5の範囲であれば、電解液としたときに電気化学的な安定性が確保されやすく、高電圧に耐え得る電解液となる。実験によれば、xが3または4のときがもっとも酸化電位が高く二次電池に好適である。
【0019】
本発明の電解液には、上記化学式で表わされるグライムはいずれも好ましく使用できるが、グライムの種類によっても電解液の酸化電位は変化する。そのため、上記のように二次電池に適用することを考慮すると、酸化電位が4.5〜5.3Vになるように混合比等を調整することが好ましい。酸化電位はより好ましくは5.0〜5.3Vである。
【0020】
本発明の電解液に使用するアルカリ金属塩は、MXで表わすことができ、Mはアルカリ金属、Xは対の陰イオンとなる物質である。アルカリ金属としては特に制限はなく、通常の電池に支持塩や活物質として使用されているアルカリ金属がいずれも使用可能である。具体的には、Li、Na、K、RbおよびCsが挙げられる。より好ましくはLi、NaおよびKであり、汎用性の点から最も好ましくはLiである。Xとしては、特に制限はないが、Cl、Br、I、BF、PF、CFSO、ClO、CFCO、AsF、SbF、AlCl、N(CFSO、およびN(CFCFSOが挙げられる。好ましくはBF、PF、ClO、N(CFSOおよびN(CFCFSOである。グライムに対する溶解性や、錯構造の形成しやすさの点から、より好ましくはN(CFSOおよびN(CFCFSOである。上記アルカリ金属塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合物の形態で使用してもよい。
【0021】
本発明の電解液には、上記のグライムおよびアルカリ金属塩の他に、可塑剤等の任意の添加剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4−フルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート類が例示される。しかしながら、添加剤は、グライムとアルカリ金属塩との錯体形成を妨げないようにするため、電解液全体に対して1質量%以下であることが好ましい。また、添加剤の種類としては、錯体形成に過度の影響を与えることのないように、グライムよりも極性の低いものを加えることが好ましい。
【0022】
以下、本発明の電解液を適用することのできる二次電池について説明する。まず、二次電池の代表的な形態である非双極型二次電池および双極型二次電池の基本的な構成をそれぞれ図面を用いて説明する。
【0023】
[電池の全体構造]
図1は、本発明の電池の代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)の二次電池(以下、単に非双極型二次電池ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の非双極型二次電池10では、電池外装材22にて発電要素(電池要素)17を収納し密封した構成を有している。正極集電体11の両面に正極(正極活物質層)12が形成され、負極集電体14の両面(発電要素の最下層および最上層用は片面)に負極(負極活物質層)15が形成されている。発電要素(電池要素)17は、正極板、電解質層13、および負極板を積層した構成を有している。この際、一の正極板片面の正極(正極活物質層)12と前記一の正極板に隣接する一の負極板片面の負極(負極活物質層)15とが電解質層13を介して向き合うように複数積層されている。
【0025】
これにより、隣接する正極(正極活物質層)12、電解質層13、および負極(負極活物質層)15は、一つの単電池層16を構成する。したがって、本実施形態の二次電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。発電要素(電池要素;積層体)17の両最外層に位置する最外層正極集電体11aには、いずれも片面のみに正極(正極活物質層)12が形成されている。図1とは配置を変え、発電要素(電池要素)17の両最外層に最外層負極集電体(図示せず)が位置するようにし、該最外層負極集電体の場合にも片面のみに負極(負極活物質層)15が形成されているようにしてもよい。
【0026】
また、正極板及び負極板と導通される正極タブ18および負極タブ19が、正極端子リード20および負極端子リード21を介して各電極板の正極集電体11及び負極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられる。各リードは熱融着部に挟まれて上記の電池外装材22の外部に露出される構造を有している。
【0027】
図2は、本発明の電池の他の代表的な一実施形態である双極型の扁平型(積層型)の二次電池(以下、単に双極型二次電池とも称する)の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。
【0028】
図2に示すように、本実施形態の双極型二次電池30は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素(電池要素)37が、電池外装材42の内部に封止された構造を有する。発電要素(電池要素)37は、1枚または2枚以上で構成される双極型電極34で電解質層35を挟み、隣合う双極型電極34の正極(正極活物質層)32と負極(負極活物質層)33とが対向するようになっている。ここで、双極型電極34は、集電体31の片面に正極(正極活物質層)32を設け、もう一方の面に負極(負極活物質層)33を設けた構造を有している。すなわち、双極型二次電池30は、集電体31の片方の面上に正極(正極活物質層)32を有し、他方の面上に負極(負極活物質層)33を有する双極型電極34を、電解質層35を介して複数枚積層した構造の発電要素(電池要素)37を具備してなる。
【0029】
隣接する正極(正極活物質層)32、電解質層35および負極(負極活物質層)33は、一つの単電池層36を構成する。従って、双極型二次電池30は、単電池層36が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層35からの電解液の漏れによる液絡を防止するために単電池層36の周辺部にはシール部(絶縁層)43が配置されている。該シール部(絶縁層)43を設けることで隣接する集電体31間を絶縁し、隣接する電極(正極32及び負極33)間の接触による短絡を防止することもできる。
【0030】
なお、発電要素(電池要素)37の最外層に位置する正極側電極34a及び負極側電極34bは、双極型電極構造でなくてもよい。最外層集電体31a、31b(または端子板)に必要な片面のみの正極(正極活物質層)32または負極(負極活物質層)33を配置した構造としてもよい。発電要素(電池要素)37の最外層に位置する正極側の最外層集電体31aには、片面のみに正極(正極活物質層)32が形成されているようにしてもよい。同様に、発電要素(電池要素)37の最外層に位置する負極側の最外層集電体31bには、片面のみに負極(負極活物質層)33が形成されているようにしてもよい。また、双極型二次電池30では、上下両端の正極側最外層集電体31a及び負極側最外層集電体31bにそれぞれ正極タブ38および負極タブ39が、必要に応じて正極端子リード40及び負極端子リード41を介して接合されている。ただし、正極側最外層集電体31aが延長されて正極タブ38とされ、電池外装材42であるラミネートシートから導出されていてもよい。同様に、負極側最外層集電体31bが延長されて負極タブ39とされ、同様に電池外装材42から導出される構造としてもよい。
【0031】
また、双極型二次電池30でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素(電池要素;積層体)37部分を電池外装材42に封入し、正極タブ38及び負極タブ39を電池外装材42の外部に取り出した構造とするのがよい。この双極型二次電池30の基本構成は、複数積層した単電池層36が直列に接続された構成ともいえるものである。
【0032】
上記した通り、非双極型二次電池と双極型二次電池の各構成要件および製造方法に関しては、二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。また、本発明の非双極型二次電池および/または双極型二次電池を用いて、組電池や車両を構成することもできる。 次に、上記のような二次電池の各部材について説明する。
【0033】
[集電体]
集電体は、ニッケル、銅、ステンレス(SUS)などの導電性の金属材料を用いた箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタルなどから構成される。メッシュの目開き、線径、メッシュ数などは、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。また、金属に限られず、導電性を有する樹脂または導電性フィラーを含有させた樹脂を集電体として使用してもよい。集電体の一般的な厚さは、5〜30μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。
【0034】
[活物質層]
集電体上には、活物質層が形成される。活物質層は、充放電反応の中心を担う活物質を含む層である。電極が正極として用いられる場合、活物質層は正極活物質を含む。一方、電極が負極として用いられる場合、活物質層は負極活物質を含む。以下、正極活物質層と負極活物質層を一括して活物質層とも称する。同様に、正極活物質と負極活物質を一括して活物質とも称する。
【0035】
正極に含まれる正極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵脱離するよう作用する。正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物やLiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物が挙げられる。より具体的には、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiNi0.7Co0.2Mn0.1が好ましく挙げられる。またリチウム以外にも、任意のアルカリ金属イオンを電気化学的に挿入、脱離する物質であれば、制限なく用いることができ、例えば、ナトリウム、などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0036】
負極に含まれる負極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵脱離するよう作用する。負極活物質としては、リチウム、炭素、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛およびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。より具体的には、チタン酸リチウム、リチウム金属、リチウムアルミ合金、リチウムスズ合金、リチウムケイ素合金等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンなどの結晶性炭素材や非結晶性炭素材等の炭素材料といった従来公知の負極材料を用いることができる。このうち、容量、出力特性に優れた電池を構成できることから、炭素材料もしくはリチウム、リチウム遷移金属複合酸化物を用いるのが望ましい。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0037】
活物質の平均粒子径は特に制限されないが、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜20μmである。ただし、これらの範囲を外れる形態もまた、採用されうる。活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定することができる。
【0038】
また、活物質層における活物質の含有量は、好ましくは活物質層の合計質量に対して70〜98質量%であり、より好ましくは80〜98質量%である。活物質の含有量が前記範囲であれば、エネルギー密度を高くすることができるため好適である。
【0039】
活物質層の厚さ(塗布層の片面の厚さ)は、好ましくは、20〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは20〜150μmである。
【0040】
活物質層にはその他の物質が含まれてもよく、例えば、バインダ、導電助剤、支持塩等が含まれうる。これらの成分の配合比は、特に限定されず、二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0041】
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、黒鉛などのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)などの種々の炭素繊維などが挙げられる。支持塩としては、前記の電解液に含まれるものが同様に使用できる。
【0042】
活物質層に含まれるバインダとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
[電解質層]
電解質層としては、上記の本発明の電解液を含んだセパレータまたはゲル電解質が挙げられる。
【0044】
セパレータとしては、例えば、上記電解液を吸収保持するポリマーからなる多孔性シートおよび不織布を挙げることができる。
【0045】
多孔性シートは、例えば、微多孔質のポリマーで構成される。このような多孔性シートを構成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドが挙げられる。特にポリオレフィン系微多孔質セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質があり、電解液との反応性を低く抑えることができることから好ましい。
【0046】
セパレータの厚みとしては、用途により異なることから一義的に規定することはできない。しかし、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。また、セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、十nm程度の孔径である)、その空孔率は20〜80%であることが望ましい。
【0047】
不織布としては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン(登録商標)、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。不織布のかさ密度は、含浸させた電解液により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。不織布セパレータの空孔率は50〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満では電解質の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大することになる。
【0048】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、電解液が注入されてなる構成を有する。電解液は、上記の本発明の電解液を使用する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(VDF−HEP)の共重合体、ポリ(メチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系高分子には、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0049】
[絶縁層]
絶縁層(シール部)は、二次電池において、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止するために単電池層の周辺部に配置されている。絶縁層を構成するシール材としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよい。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0050】
[タブ]
タブ(正極タブおよび負極タブ)の材質は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、これらの合金などを用いることができる。これらは特に制限されず、タブとして従来用いられている公知の材質が用いられうる。
[電池外装材]
電池外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができるほか、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた発電要素(電池要素)を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。該ラミネートフィルムには、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロン(登録商標)をこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。 [組電池]
本発明はまた、前記の電池を用いた組電池を提供する。
【0051】
本発明の組電池は、本発明のリチウムイオン二次電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。なお、本発明の組電池では、本発明の非双極型リチウムイオン二次電池と双極型リチウムイオン二次電池を用いて、これらを直列に、並列に、または直列と並列とに、複数個組み合わせて、組電池を構成することもできる。
【0052】
図3は、本発明に係る組電池の代表的な実施形態の外観図であって、図3Aは組電池の平面図であり、図3Bは組電池の正面図であり、図3Cは組電池の側面図である。
【0053】
図3に示すように、本発明に係る組電池300は、本発明のリチウムイオン二次電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池250を形成し、この装脱着可能な小型の組電池250をさらに複数、直列に又は並列に接続した組電池300であってもよい。作成した装脱着可能な小型の組電池250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続し、この組電池250は接続治具310を用いて複数段積層される。
【0054】
[車両]
本発明はまた、前記の電池、または組電池を搭載した車両を提供する。
【0055】
本発明の車両は、本発明の双極型二次電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を搭載したことを特徴とするものである。本発明の双極型二次電池またはこれを複数個組み合わせてなる組電池は、車両の駆動用電源として用いられる。本発明の双極型二次電池または組電池を車両、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0056】
図4は、上記の組電池を搭載した車両の概念図である。図4に示したように、組電池300を電気自動車400のような車両に搭載するには、電気自動車400の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池300を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームでも良い。以上のような組電池300を用いた電気自動車400は高い耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。本発明の組電池を搭載した車両としては、図4に示すような電気自動車のほか、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などに幅広く適用できるものである。
【0057】
続いて、本発明の電解液およびそれを用いた二次電池の製造方法を説明する。
【0058】
[製造方法]
(1)電解液
本発明の電解液は、溶媒であるグライムに、アルカリ金属塩を混合して溶解させれば調製でき、特に混合方法等に制限はない。混合の際は、水の混入を防ぐために不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の雰囲気下で混合することが好ましい。より好ましくはアルゴンガス雰囲気下である。混合する際の温度は20〜80℃が好ましい。また、アルカリ金属塩を溶解させるために、スターラー等を用いて攪拌してもよい。グライムの種類の選定、アルカリ金属塩とグライムの混合比等の条件は、上記したとおりである。
【0059】
(2)正極活物質層の形成
正極活物質材料は通常はスラリー(正極用スラリー)として得られ、集電体の表面に塗布される。正極用スラリーは、正極活物質を含み、他成分として、導電助剤、バインダ、重合開始剤、電解液、支持塩およびスラリー粘度調整溶媒などが任意で含まれる。正極用スラリーは、これらの材料を所定の比率で溶媒中で混合して作製することができる。
【0060】
バインダは、活物質などの固形分と粉末状態で混合してから溶媒を加えて混合する方法で正極用スラリー中に混合できる。または、あらかじめ少量の溶媒に溶解させてから活物質および溶媒を含む混合物に添加する方法で正極用スラリー中に混合してもよい。
【0061】
溶媒の種類や混合手段は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の一例を挙げると、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが用いられうる。
【0062】
続いて、調製した正極用スラリーを、集電体の一面に塗布し、塗膜を形成する。正極用スラリーを塗布するための塗布手段も特に限定されないが、例えば、アプリケータ、自走型コータなどの一般的に用いられている手段が採用されうる。塗布手段として、スクリーン印刷、インクジェット方式、ドクターブレード方式、またはこれらの組み合わせを用いると、薄い層が形成されうる。
【0063】
その後、集電体の表面に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、正極用スラリーの塗布量やスラリーの溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。乾燥は真空乾燥機などを用いることができる。乾燥の条件は塗布された正極用スラリーに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は40〜150℃で5分〜20時間である。
【0064】
(3)負極活物質層の形成
集電体の表面に、負極活物質材料(負極用スラリー)を塗布する。負極用スラリーは、負極活物質を含む溶液である。他成分として、導電助剤、バインダ、重合開始剤、電解液、支持塩およびスラリー粘度調整溶媒などが任意で含まれる。使用される原料や添加量については、上述したとおりである。
【0065】
負極用スラリーは、上記の正極活物質層形成の場合と同様にして集電体上に塗布する。その後、負極用スラリーが塗布された集電体を乾燥して、含まれる溶媒を除去する。乾燥についても、上記の正極活物質層形成の場合と同様である。
【0066】
(4)プレス工程
上記の手順で正極活物質層を形成した集電体および負極活物質層を形成した集電体は、それぞれ、表面の平滑性および厚さの均一性を向上させるため、かつ所望の膜厚になるように、プレス操作を行うことが好ましい。
【0067】
プレス操作は冷間でプレスロールする方法または熱間でプレスロールする方法のいずれの方法でもよい。熱間でプレスロールする方法の場合は、電解質支持塩や重合性ポリマーが活物質層に含まれていれば、それらが分解する温度以下で行うのが望ましい。プレス圧力は好ましくは線圧で20〜100t/m、より好ましくは30〜80t/m、さらに好ましくは40〜70t/mとすることが望ましい。しかしながら、プレス圧力や時間等の条件は材料や所望の膜厚によって変わってくるため、この範囲に特に限定はされない。
【0068】
ロールプレス機としては、特に制限されるものではなく、カレンダーロールなど従来公知のロールプレス機を適宜利用することができる。但し、平板プレスなど従来公知の他の
プレス装置やプレス技術を適宜利用してもよい。
【0069】
(6)電解質層の形成
電解質層は、上記のように、セパレータに本発明の電解液を保持させて構成することができる。電解質層を構成するにはセパレータに電解液を含浸させればよく、例えば、あらかじめ電解液をセパレータに浸み込ませてもよく、電解液含浸前のセパレータと電極を積層した後に、電解液を各セパレータに含浸させてもよい。二次電池内に電解質層を設けるには、従来公知の各種製造方法、例えば、電解液を浸み込ませたセパレータを双極型電極に挟み込んで積層する方法や真空注液法などにより製造できる。
【0070】
また、セパレータに高分子ゲル電解質を保持させてなる高分子ゲル電解質層を用いることもできる。この場合には、セパレータに、例えば、高分子ゲル電解質の原料として、マトリックスポリマーと本発明の電解液、アルカリ金属塩、重合開始剤等からなるプレゲル溶液を含浸させる。その後、不活性雰囲気下で加熱乾燥と同時に重合(架橋反応を促進)させることによって製造される。
【0071】
あるいは、別途、電極間に積層される電解質層またはその一部(電解質層厚さの半分程度の電解質膜)を準備する。この場合には、プレゲル溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルムなど適当なフィルム上に塗布し、不活性雰囲気下で硬化または加熱乾燥と同時に重合(架橋反応を促進)することによって製造される。
【0072】
硬化または加熱乾燥は真空乾燥機(真空オーブン)などを用いることができる。加熱乾燥の条件は溶液またはプレゲル溶液に応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は30〜110℃で0.5〜12時間である。
【0073】
(7)電極と電解質層との積層
上記のように、電極と電解質層とを別個に製造した場合には、双方を高真空下で十分加熱乾燥する。その後、所望によりそれぞれを適当なサイズに複数個切り出してもよい。この電極と電解質層とを所定数重ね合わせて、二次電池本体(電極積層体)を作製する。電極積層体の積層数は、二次電池に求める電池特性を考慮して決定される。電極と電解質層とを積層させて二次電池を得る工程では、電池内部に水分等が混入するのを防止する観点から、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、アルゴン雰囲気下や窒素雰囲気下で双極型電池を作製するとよい。
【0074】
(8)絶縁層の形成
絶縁層を形成するには、例えば、電極積層体の電極形成部の周囲を、所定の幅でエポキシ樹脂(前駆体溶液)等を塗布する。この際、事前に電圧検知タブや電極端子板や電極リードや電極タブ、あるいはこれらを接続する必要のある集電体部分等を離型性マスキング材等を用いてマスキング処理しておく。その後エポキシ樹脂等を硬化させて、絶縁層を形成し、その後、マスキング材を剥がせばよい。
【0075】
(9)端子板、電極リード及びタブ(端子)の接続
二次電池本体(電池積層体)の両最外層の集電体上にはそれぞれ、正極タブ、負極タブを接合(電気的に接続)する。タブの接合方法としては、接合温度の低い超音波溶接等が好適に利用し得るものであるが、これに限定されるべきものではなく、従来公知の接合方法を適宜利用することができる。
【0076】
(10)パッキング(電池の完成)
最後に、電池積層体全体を、外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、電池缶に封入するか、アルミラミネートフィルム等の電池外装材で封止し、双極型電池を完成させる。封止の際には、正極タブ、負極タブの一端を電池外部に取り出す。
【0077】
本発明の二次電池の構造としては、特に限定されず、形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
電解液の溶媒のグライムとして、以下に示すトリエチルグリコールジメチルエーテル(以下G3と称する)を使用した。アルカリ金属塩としては、以下の化学式で示すリチウム塩(以下LiTFSIと称する)を使用した。
【0079】
【化2】

【0080】
【化3】

【0081】
G3とLiTFSIを、モル換算で、Li/G3の比が、0.05、0.50、0.70、0.90、1.00、1.05、1.25となるように、25℃アルゴンガス雰囲気下でそれぞれ混合した。したがって、7種類の電解液を調製した。混合比の確認は、トリフルオロトルエンを基準物質として用いたNMR測定により実施した。
【0082】
(実施例2)
電解液の溶媒のグライムとして、以下に示すテトラエチルグリコールジメチルエーテル(以下G4と称する)を使用した。アルカリ金属塩としては、実施例1で使用したものと同様のLiTFSIを使用した。
【0083】
【化4】

【0084】
G4とLiTFSIを、モル換算で、Li/G4の比が、0.05、0.50、0.70、0.90、1.00、1.05、1.25となるように、25℃アルゴンガス雰囲気下でそれぞれ混合し、7種類の電解液を調製した。混合比の確認は、トリフルオロトルエンを基準物質として用いたNMR測定により実施した。
【0085】
(実施例3)
実施例3では、実施例1と同様のG3およびLiTFSIを用いて、モル換算で、Li/G3の比が、2.0となるように混合し、電解液を調製した。
【0086】
(実施例4)
実施例4では、実施例2と同様のG4およびLiTFSIを用いて、モル換算で、Li/G4の比が、2.0となるように混合し、電解液を調製した。
【0087】
(比較例1)
比較例1では、実施例1との比較のために、アルカリ金属塩を溶解させず、実施例1の溶媒と同様のG3のみを使用した。
【0088】
(比較例2)
比較例2では、実施例2との比較のために、アルカリ金属塩を溶解させず、実施例1の溶媒と同様のG4のみを使用した。
【0089】
(導電性評価)
実施例1〜4で得られた電解液の導電性(イオン伝導度)を、交流インピーダンス法により測定して評価した。インピーダンスアナライザとしては、Princeton Applied Research社製 EG8/PAR、 VMPs Multi Potentiostatを評価装置として用いた。測定条件は、測定周波数範囲500kHz〜1Hz、印加電圧10mVとした。導電性については、実施例1および2では、グライムとアルカリ金属塩の混合比1:1(モル比)の電解液について測定を行った。測定結果を、下記表1に示す。
【0090】
(熱安定性評価)
実施例1〜4および比較例1〜2で得られた電解液の熱安定性の評価は、Seiko Instrument社製 TG/DTA6200を用いた熱重量測定により行った。測定は、昇温速度を10℃/minとして室温から550℃まで昇温させる方法と、温度を100℃に固定して、時間経過により重量減少を求める方法で行った。熱安定性については、実施例1および2では、グライムとアルカリ金属塩の混合比1:1(モル比)の電解液について測定を行った。測定結果を、下記表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1から分かるように、溶媒がG3である実施例1および3と、比較例1とを比較すると、熱安定性については、重量が5%減少する温度は、本発明の電解液は溶媒のみの場合よりも高くなっている。加えて、100℃における10%重量減少までの時間も、本発明の電解液は溶媒のみの場合よりも大幅に長くなっている。したがって、本発明の電解液は、グライムとアルカリ金属塩が錯体を形成することにより、熱安定性に優れたものとなっていることが分かる。また、特にグライムに対するアルカリ金属塩の混合比が、モル換算で、0.70〜1.25の範囲にある実施例1は、実施例3に比較して、同程度の導電性を確保しつつも、熱安定性がさらに向上していることが分かる。
【0093】
また、溶媒がG4である実施例2および4と、比較例2とを比較すると、溶媒がG3の場合と同様の傾向があることが分かる。すなわち、熱安定性については、重量が5%減少する温度は、本発明の電解液は溶媒のみの場合よりも高く、100℃における10%重量減少までの時間も、本発明の電解液は溶媒のみの場合よりも長くなっている。したがって、本発明の電解液は、グライムの種類が異なっても、グライムとアルカリ金属塩が錯体を形成することにより、熱安定性に優れたものとなっていることが分かる。また、特にグライムに対するアルカリ金属塩の混合比が、モル換算で、0.70〜1.25の範囲にある実施例2は、実施例4に比較して、同程度の導電性を確保しつつも、熱安定性がさらに向上していることが分かる。
【0094】
(電気化学的安定性評価)
実施例1および2で得られた7種類の混合比の電解液の電気化学的安定性を、Linear sweep voltammetry法により評価した。評価装置として、Princeton Applied Research社製 EG8/PAR, VMPs Multi Potentiostatを使用した。この際、作用極:白金、対極兼参照極:リチウムとした2極式セルで測定した。測定結果は図5のグラフに示す。
【0095】
図5のグラフの横軸は、Li/G3またはLi/G4の混合モル比を示し、縦軸は電解液の酸化電位を表わしている。酸化電位は溶媒の種類によって異なるものの、本発明の電解液は、車両用二次電池に必要とされる4.5V以上の酸化電位を実現できることが分かる。また、そのような高電圧に耐えうる電解液を得るには、グライムに対するアルカリ金属塩の混合比が、モル換算で、0.70〜1.25の範囲であると好適であることが分かる。
【0096】
(実施例5)
電解液は、アルカリ金属塩としてLiTFSI、溶媒としてG3を使用し、G3に対するLiTFSIの比が、モル換算で混合比1.0となるように、25℃でアルゴンガス雰囲気下で混合した。
【0097】
正極活物質として、LiCoO、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用した。これらの材料を、LiCoOまたはLiFePO:アセチレンブラック:PVdFが、質量比で85:9:6になるように混合した。この際、溶媒として適量のN−メチルピロリドン(NMP)を使用し、ペースト状に混合した。得られた混合物を、集電体としてアルミニウム箔(厚さ10μm)上にプレス後の厚みが20μm程度になるように塗付した。ペーストを塗布した集電体を0.1MPa、80℃で24時間充分に乾燥後、プレスして正極とした。
【0098】
上記のように調製した電解液を厚さ20μmのポリオレフィン製セパレータに25℃で30分間浸漬させた。このセパレータを、作製した正極と、金属リチウム(厚さ200μm)をステンレスディスク(厚さ7mm)に貼り付けた負極で挟んだ。これらをSUS304製の電池缶に配し、密封した。
【0099】
上記のようにして得られた二次電池について、充放電試験を行い、放電容量を求めた。充放電評価は、0.125Cレートで定電流充電し、充放電電圧は3.0−4.2Vの範囲として実施した。放電条件は0.125Cであった。以上の評価は、30℃一定に保持された恒温槽中で実施した。評価結果は、後掲の表2に示す。表2中、−は、放電容量が低下したため測定を終了したことを示す。
【0100】
(実施例6)
実施例6では、正極活物質としてLiFePOを使用した以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0101】
(実施例7)
実施例7では、電解液の溶媒としてG4を使用した以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0102】
(実施例8)
実施例8では、電解液の溶媒としてG4、正極活物質としてLiFePOを使用した以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0103】
(実施例9)
実施例9では、電解液のLiTFSIとG3とを、モル換算で混合比4.0(Li/G3)とした以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0104】
(実施例10)
実施例10では、電解液のLiTFSIとG3とを、モル換算で混合比4.0(Li/G3)とし、正極活物質としてLiFePOを使用した以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0105】
(実施例11)
実施例11では、電解液の溶媒としてG4を使用し、電解液のLiTFSIとG4とを、モル換算で混合比4.0(Li/G4)とした以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0106】
(実施例12)
実施例12では、電解液の溶媒としてG4、正極活物質としてLiFePOを使用し、電解液のLiTFSIとG4とを、モル換算で混合比4.0(Li/G4)とした以外は、実施例5と同様にして二次電池を作製した。得られた二次電池について、実施例5と同様
の充放電試験を実施した。その結果を後掲の表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】
表2の結果から、本発明の二次電池はいずれも10サイクル程度まで安定したサイクル特性を示したことが分かる。そのうち、アルカリ金属塩とグライムとの混合比がモル換算で0.7〜1.25の範囲にある実施例5〜8は、特に優れたサイクル特性を示し、200サイクル以上の安定した充放電が行えることが分かる。このことは、リチウム塩とG3またはG4との錯構造の形成が、電解液の電気化学的安定性に寄与したためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の一実施形態である非双極型二次電池の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態である双極型二次電池の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。
【図3】本発明の組電池の一実施形態の外観図であって、図3Aは平面図であり、図3Bは正面図であり、図3Cは側面図である。
【図4】本発明の組電池を搭載した車両の概念図である。
【図5】実施例1および2で得られた電解液の電気化学的安定性評価の結果である。
【符号の説明】
【0110】
10 非双極型二次電池、
11 正極集電体、
11a 最外層正極集電体、
12、32 正極、
13、35 電解質層、
14 負極集電体、
15、33 負極、
16、36 単電池層、
17、37 発電要素、
18、38 正極タブ、
19、39 負極タブ、
20、40 正極端子リード、
21、41 負極端子リード、
22、42 電池外装材、
30 双極型二次電池、
31 集電体、
31a 正極側最外層集電体、
31b 負極側最外層集電体、
34 双極型電極、
34a 正極側電極
34b 負極側電極、
43 シール部(絶縁層)、
250 小型の組電池、
300 組電池、
310 接続治具、
400 電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンを吸蔵脱離する正極および負極並びに電解液を含む二次電池に使用される電解液であって、
電解液の溶媒としてグライムのみと、
電解液の溶質としてアルカリ金属塩と、
を含み、前記グライムと前記アルカリ金属塩との少なくとも一部が錯体を形成していることを特徴とする電解液。
【請求項2】
前記グライムに対する前記アルカリ金属塩の混合比が、モル換算で0.70〜1.25である請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記電解液の酸化電位が4.5〜5.3Vである請求項1または2に記載の電解液。
【請求項4】
前記グライムが、下記式
【化1】

ここで、Rは、炭素数1〜9のフッ素置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、およびハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基のいずれかであり、xは1〜5である、
で表される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩がMXで表され、ここで、Mはアルカリ金属、Xは、Cl、Br、I、BF、PF、CFSO、ClO、CFCO、AsF、SbF、AlCl、N(CFSOおよびN(CFCFSOからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項6】
アルカリ金属イオンを吸蔵脱離する正極および負極並びに請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解液を含む二次電池。
【請求項7】
前記正極にアルカリ金属イオンを吸蔵脱離する正極活物質が含まれ、該正極活物質がリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一種を含む請求項6に記載の二次電池。
【請求項8】
前記負極にアルカリ金属イオンを吸蔵脱離する負極活物質が含まれ、該負極活物質が、リチウム、炭素、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛およびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む請求項6または7に記載の二次電池。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の二次電池が複数個接続された組電池。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の二次電池または請求項9に記載の組電池を駆動用電源として搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−73489(P2010−73489A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239782(P2008−239782)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】