説明

熱延鋼帯巻取装置用ロール

【課題】耐久性に優れた熱延鋼帯巻取装置用ロールを提供する。
【解決手段】芯材であるロール表面に、被覆層を形成する。被覆層は、mass%で、C:0.50〜0.65%、Cr:11.5〜12.5%を、Cr/Cが19.0〜24.5を満足するように含み、さらに、Si:0.3〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、Ni:0.05%以下を含有し、さらにNb、Mo、V、Wのうちの2種以上を合計で4〜6%含有する組成を有する。これにより、腐食、あるいは焼付き起因の表面欠陥の発生が抑制され、また表層剥離等の発生が防止でき、安定的に長期間使用に耐えられる、耐焼付き性と耐食性とを兼備した、耐久性に優れた熱延鋼帯巻取装置用ロールとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の巻取装置用ロールに係り、とくに熱延鋼帯を巻き取る巻取装置で使用される、ピンチロール、ラッパーロール等のロールの耐焼付き性および耐食性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯の圧延ラインでは、鋼帯を巻取装置で巻き取る際に、巻取装置の上流に設置された上下一対のピンチロールで鋼帯を挟持しつつ、該上下一対のピンチロールを回転させ、被巻取材である鋼帯のばたつきを抑制し、被巻取材である鋼帯に適正張力を作用させながら、巻取装置に送り込む。そして、巻取装置では、送り込まれた鋼帯の先端部を、マンドレルに巻き付け、このマンドレルを回転させることで、鋼帯をコイル状に巻き取っている。その際、鋼帯の先端部がマンドレルに巻き付き易くするために、巻取装置にラッパーロールを備え、鋼帯の先端部をマンドレルに沿って案内するとともに、鋼帯をマンドレルに押し付けて摩擦力を発生させて、鋼帯をマンドレルに巻きつけている。
【0003】
このような鋼帯の巻取装置に付属するピンチロールやラッパーロールなどのロールには、被巻取材である鋼帯の先端を噛込むときの衝撃や、あるいは鋼帯の搬送速度とロール周速との不一致によるスリップ等の、鋼帯との接触による摩耗などに晒される、厳しい環境下で使用されている。このため、例えば、鋼帯巻取装置で使用されるピンチロールには、高い硬さを保持できる、質量%で、C:0.4%以上、Cr:5.0%以下を含有するFe系材料が使用されてきた。さらに、とくに、熱延鋼帯の巻取装置では、上記した衝撃や摩耗に加えて、さらに、被巻取材である熱延鋼帯の焼付きや、冷却水や水蒸気による腐食にも晒される。このため、高温の熱延鋼帯が通過するロール中央部では、高温の水蒸気に晒されて腐食されるが、通板によって均一に摩耗する。しかし、ロール両端部では、広幅材が通過する場合のみ被巻取材である鋼帯と接触する。鋼帯と接触しない場合には、冷却水により腐食しやすく、凹凸が生ずる場合がある。そして、このような凹凸に、熱延鋼帯(広幅材)が接触すると、熱延鋼帯に筋模様が転写され、製品不良が発生するという問題があった。
【0004】
このため、更なる耐焼付き性、耐摩耗性に優れた巻取装置用ロールが要望されていた。
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、質量%で、C:2.8〜3.5%、Si:1.5〜2.5%、Mn:0.5〜1.0%、P:0.1%以下、S:0.08%以下、Ni:3.5〜4.5%(4.5%を除く)、Cr:3.5〜5.0%(5.0%を除く)、Mo:0.3〜1.0%を含有し、残部実質的にFeで形成され、黒鉛およびベイナイトを主体とした基地からなる黒鉛晶出クロム鋳鉄で使用層が形成されているコイラー用ピンチロールが記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたピンチロールでは、高温の鋼帯とピンチロールとの接触、その状態でのスリップに起因した焼付は防止できるが、長期間使用していくうちに、ピンチロールの長手方向両クォータ部に、腐食によるプロフィール段差が生じ、この位置より広幅の鋼帯をピンチすると、鋼帯に筋模様が入るようになる、という問題があった。さらに、特許文献1に記載されたピンチロールでは、冷却水による腐食損耗が大きく、さらに熱延鋼帯との衝突により、表層の欠け落ちが生じる場合があり、ロール寿命が短いという問題もある。
【0006】
このような問題に対し、例えば特許文献2には、ロールの長手方向中央部を、質量%で、C:0.4%以上、Cr:5.0%以下を含有し、かつCr/Cが12.5以下で、さらに、Ni:0.5%以下、Mo、Nb、V、Wのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2〜6%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の金属材料で被覆し、一方、ロールの長手方向両端部を、質量%で、C:0.3%以下、Cr:5.0%以上を含有し、かつCr/Cが16以上で、さらに、Ni:0.5%以下、Mo、Nb、V、Wのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2〜6%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の金属材料で被覆してなる巻取装置用ピンチロールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01−278906号公報
【特許文献2】特許第4352819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載されたロールでは、使用に際し、ロール両端部に比較してロール中央部の腐食や摩耗が大きくなり、ロール中央部とロール両端部との境界で、凸状部が形成され、該凸状部が通過する鋼帯と接触し、鋼帯に傷を生じさせる場合が多く、製品不良が多発するという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、優れた耐食性と優れた耐焼付き性とを兼備し、耐久性に優れた熱延鋼帯巻取装置用ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成するためには、芯材であるロール表面に、優れた耐食性と優れた耐焼付き性とを兼備する、耐久性に富む被覆層を形成することが重要であることに想到した。そして、さらに、被覆層の耐食性と耐焼付き性に及ぼす、各種合金元素の影響について鋭意研究した。その結果、被覆層を、mass%で、C:0.50〜0.65%、Cr:11.5〜12.5%を、Cr/Cが19.0〜24.5を満足するように含む組成の鉄系合金とすることにより、耐食性と耐焼付き性とを兼備した被覆層となることを新規に見出した。
【0010】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
芯材表面にサブマージアーク溶接法による肉盛溶接により、被覆層を形成した試験材を作成した。なお、使用する溶接ワイヤの組成を変化させ、種々の組成の被覆層とした。
被覆層は、mass%で、C:0.4〜1.02%、Cr:2.5〜12.4%の範囲で変化させ、Cr/Cを3.8〜30の範囲に変化させた、各種組成の被覆層とした。なお、C、Cr以外の成分は、Si:0.3〜1.3%、Mn:0.45〜3.0%、Ni:0.01〜0.16%の範囲でほぼ一定に含有し、さらにMo、Nb、V、Wは合計で4〜6%とほぼ一定で含み、残部Feおよび不可避的不純物とした。
【0011】
得られた試験材から、試験片を採取し、熱延鋼帯の巻取装置におけるピンチロールの使用条件に対応した条件で、耐食性、耐焼付き性を評価した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)耐食性試験
得られた試験材の被覆層から、耐食性試験片(大きさ:2mm厚×20mm幅×20mm長さ)を採取し、図2に示す試験装置を用いて、耐食性を評価した。
【0012】
試験片29は、トレイ28に載置され、管状電気炉26中の石英管27内に挿入されて、600℃に加熱され、96h間保持されたのち、室温まで冷却される。なお、石英管27には、流量計22により流量を500ml/minに調整され、水槽24内の温水(水温:50℃)25中に吹き出され、飽和空気集合器23により集められた空気が供給される。このため、石英管27中は酸化雰囲気となり、試験片29は酸化される。なお、図2中の21はエアポンプである。
【0013】
室温に冷却された試験片は、トレイ内の剥離酸化物を含めて、試験片重量を測定した。そして、試験片の単位表面積当たりの、酸化による重量変化Δm(μg/cm2)を次式により算出した。
Δm=(酸化後の試験片重量−酸化前の試験片重量)/(酸化前の試験表面積)
得られた、単位表面積当たりの、酸化による重量変化Δm(μg/cm2)に基づき、耐食性を評価した。
【0014】
(2)耐焼付き性試験
得られた試験材から、片面側が被覆層となるように、耐焼付き性試験片(大きさ:20mm厚×20mm幅×50mm長さ)を採取し、図3に示す要領で、耐焼付き性試験を実施し、耐焼付き性を評価した。
耐焼付き性試験は、試験片31を、該試験片31の被覆層33がSUS430製の相手材32(15mm厚×100mm幅×200mm長さ)と接触するように、セットし、相手材の長さ方向に繰り返し摺動させる試験とした。試験条件は次のとおりとした。
・相手材32の表面温度(下面を誘導コイルにより加熱):500℃
・接触面圧:0.49MPa(錘Wにより設定)
・往復摺動回数:700回
・合計摺動距離:42000mm
試験後、試験片31の摺動面の表面粗さを測定した。表面粗さは、試験片の幅方向に、JIS B 0601(2001)に準拠して、最大高さRzを測定した。なお、カットオフ値λc は1mm、基準長さは、試験片幅の両端を除いた中央域(18mm)とした。
【0015】
得られた結果を、Δm,Rzを縦軸に、Cr/Cを横軸にとり、Δm,RzとCr/Cとの関係で、図1に示す。
図1から、Cr/Cが、19.0以上と大きくなると、Δmは0.025 μg/cm2以下と急激に少なくなり、耐食性が向上し、また、Cr/Cが24.5以上に大きくなると、Rzは40μm以上と急激に増加し、耐焼付け性が低下することがわかる。
【0016】
このようなことから、熱延鋼帯巻取装置用ロールの被覆層として好適な、耐食性と耐焼付き性とを兼備した被覆層とするためには、Cr/Cを19.0〜24.5の範囲に限定することが肝要となるという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、つぎのとおりである。
(1)芯材であるロール表面に、被覆層を形成してなる熱延鋼帯巻取り装置用ロールであって、前記被覆層が、mass%で、C:0.50〜0.65%、Cr:11.5〜12.5%を、Cr/Cが19.0〜24.5を満足するように含み、さらに、Si:0.3〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、Ni:0.05%以下を含有し、さらにNb、Mo、V、Wのうちの2種以上を合計で4〜6%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする熱延鋼帯巻取り装置用ロール。
(2)(1)において、前記被覆層が、肉盛溶接で形成されてなることを特徴とする熱延鋼帯巻取り装置用ロール。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、芯材であるロールの表面を被覆する被覆層を、耐食性および耐焼付き性を兼備した被覆層とすることができ、熱延鋼帯巻取り装置用として好適な耐久性に優れたロールを容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、腐食、あるいは焼付き起因の表面欠陥の発生が抑制され、また表層剥離等の発生が防止でき、安定的に長期間使用に耐えるロールとすることができ、補修費の削減が可能になるという効果もある。なお、本発明は熱延鋼帯巻取装置用以外にも、摩耗や腐食などが問題となる、例えば冷間圧延ラインや酸洗ライン、連続焼鈍ラインやリコイリングライン、スキンパスラインなどの巻取装置用にも同様に適用できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】Δm、Rzに及ぼすCr/Cの影響を示すグラフである。
【図2】耐食性試験の試験方法の概要を説明する説明図である。
【図3】耐焼付き性試験の試験方法の概要を説明する説明図である。
【図4】本発明ロールの好ましい形状の一例を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明を適用する熱間圧延ラインの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明熱延鋼帯巻取り装置用ロール3は、芯材であるロール1の表面に、被覆層2を有してなるロールである。被覆層は、mass%で、C:0.50〜0.65%、Cr:11.5〜12.5%を、Cr/Cが19.0〜24.5を満足するように含み、さらに、Si:0.3〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、Ni:0.05%以下を含有し、さらにNb、Mo、V、Wのうちの2種以上を合計で4〜6%含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する。なお、芯材として用いるロール1の材質は、その用途に応じて、適宜選定すればよく、例えば、ピンチロールやラッパーロール等として、負荷される荷重に耐えられる強度、靭性等を有する材料とすればよく、とくに限定する必要はない。
【0020】
まず、被覆層2の組成限定理由について説明する。以下、mass%は単に%で記す。
C:0.50〜0.65%
Cは、Cr、Fe等の炭化物形成元素と結合し、高硬度のCr炭化物およびセメンタイトを形成し、耐摩耗性、耐焼付き性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Cは0.50%以上の含有を必要とする。Cが0.50%未満では、本発明におけるように、とくにCr含有量が高くなる場合には、使用時、例えば熱延鋼帯をピンチするような場合に、被覆層に焼付きが生じやすい。一方、0.65%を超えてC含有量が多くなると、Cr/Cが小さくなり、後述するCr含有量の範囲では、Cr/Cが所定の範囲を外れる場合があり、図1に示すように耐食性が低下する。このようなことから、Cは0.50〜0.65%の範囲に限定した。
【0021】
Cr:11.5〜12.5%
Crは耐食性を向上させるとともに、Cと結合し高硬度のCr炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する元素である。このような効果を得るために、本発明では、11.5%以上含有させる。一方、Crの多量含有は、フェライト相の生成を促進し、耐焼付き性を低下させる。このようなことから、Crは11.5〜12.5%の範囲に限定した。
【0022】
Cr/C:19.0〜24.5
C,Crは、上記した含有範囲内でかつ、Cr/Cが19.0〜24.5の範囲を満足するように調整する。これにより、優れた耐食性と優れた耐焼付き性を兼備した被覆層とすることができる。Cr/Cが、19.0未満では、溶接肉盛により被覆層を形成するに際し、凝固割れを生じるうえ、図1に示すように、Δmが、0.025μg/cm2を超えて増加し、耐食性が低下する。一方、Cr/Cが、24.5を超えて大きくなると、図1に示すように、Rzが40μmを超えて大きくなり、耐焼付き性が低下する。このようなことから、Cr/Cは、19.0〜24.5の範囲に限定した。
【0023】
Si:0.3〜1.0%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度増加にも寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.3%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超えて含有すると、強度が高くなりすぎて研磨性が低下する。このため、Siは0.3〜1.0%の範囲に限定した。
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、脱酸剤として作用するとともに、強度増加にも寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、3.0%を超える含有は、強度が高くなりすぎて研磨性が低下する。このため、Mnは0.5〜3.0%の範囲に限定した。
【0024】
Ni:0.05%以下
Niは、オーステナイト形成元素であり、多量に含有すると、残留オーステナイト相の形成が顕著となり、耐焼付き性の低下を招く。このような耐焼付き性の低下は、Ni:0.05%以下の含有であれば許容できる。このため、本発明では、Niは0.05%以下に限定した。
Nb、Mo、V、Wのうちの2種以上:合計で4〜6%
Nb、Mo、V、Wはいずれも、基地組織を強化し、耐摩耗性、耐衝撃性を向上させる作用を有する元素であり、選択して2種以上を含有する。このような効果を得るためには、Nb、Mo、V、Wの合計で4%以上の含有を必要とする。なお、Nb、Mo、V、Wを合計で4%以上含有することにより、フェライト相の生成を抑制でき、耐焼付き性の低下を防止できるという効果もある。一方、合計で6%を超える含有は、これらの元素の偏析が著しくなり、これら偏析部を起点として表層部の欠け落ちが生じやすくなる。このため、Nb、Mo、V、Wのうちの2種以上を合計で4〜6%の範囲に限定した。なお、焼付き性と凝固割れ性の観点から、各元素の含有量は、Nb:1.0〜2.1%、Mo:0.7〜1.3%、V:0.9〜2.1%、W:0.4〜2.0%の範囲にそれぞれ限定することが好ましい。各元素の含有量が上記した値より少ないと焼付きが、多すぎると凝固割れが発生しやすくなる。
【0025】
上記した成分の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.1%以下、S:0.08%以下がそれぞれ許容できる。
つぎに、芯材であるロール1の表面に形成される被覆層2の、好ましい形成方法について説明する。本発明ロールの被覆層2の形成方法は、とくに限定する必要はないが、簡便さという観点から、肉盛溶接により形成することが好ましい。
【0026】
本発明では、被覆層2は、公知のサブマージアーク溶接法による肉盛溶接を利用し、芯材であるロール1に、上記した組成を有するワイヤを溶接電極として、溶接条件を適宜調整して肉盛溶接して形成したのち、切削および/または研磨により、所望のロール形状に調整することが好ましいが、この方法に限定されないことは言うまでもない。
肉盛溶接は、公知のサブマージアーク溶接方法を利用し、本発明では、溶接電極である溶接ワイヤを溶接アークにより溶融しつつ、溶接電極を、芯材であるロールの軸方向に移動させるとともに、ロールをロールの軸回りに回転させて、被覆層として、ロール表面に、溶融金属をスパイラル状に肉盛する。なお、肉盛溶接は、複数層、好ましくは3層以上積層して所望の厚さ、好ましくは6mm以上の被覆層を形成してもよい。なお、被覆層の厚さは、用途に応じて所定の使用層(使用厚さ)を確保できるように調整することが好ましい。また、使用するワイヤ(溶接電極)として上記した組成のワイヤを用いることにより、上記した組成の被覆層とすることができる。
【0027】
なお、肉盛溶接に代えて、上記した組成の溶湯を芯材であるロール表面に注入し、所望の厚さの被覆層を鋳造する方法としてもよい。
本発明熱延鋼帯巻取り装置用ロールの好ましいロール外形形状(a)および断面形状(b)の一例を図4に示す。本発明では、この形状に限定されないことは言うまでもない。芯材であるロール1は、中実としても、あるいは中空としても、いずれでもよい。中空の場合は内部を水冷することができる。また、図4に示すロール3は、フラットな中央部と、両端部に角度が一定のテーパー部を有するロール形状としている。なお、テーパー部は、サインカーブ、べき関数としてもよく、とくに限定されない。また、必ずしも両端部のテーパー部は必要としない場合には、フラットなロール形状としてもよい。
【実施例】
【0028】
芯材として、中実のロール1(材質:SCM440鋼)を用い、該ロール表面に、被覆層が表1に示す組成となるように調整された、溶接ワイヤを、溶接電極として肉盛溶接し、厚さ:6mmとする被覆層2を形成し、切削・研磨して、図4に示すような形状のロールとした。なお、ロールの中央部Aは、長さ:900mm、直径:650mmφであり、端部Bはそれぞれ長さ:650mm、テーパー量は直径当たり2.5mm/650mmとした。このようなロール3を、図5に示す熱間圧延ラインの巻取装置124用ピンチロール125の上ロールとして組み入れ、最長で45日間の実機圧延に供した。
【0029】
使用期間が14日、30日、45日、ごとにロール表面を観察(目視)し、ロール表面の焼付き、腐食の有無を調査し、被覆層の耐焼付き性、及び耐食性を評価した。
使用期間:14日で、ロール表面に焼付きが発生し、それ以上の使用が不可能な場合を「×」、使用期間:14〜30日の間に焼付きが発生した場合を「△」、使用期間:30日で焼付きが発生しない場合を「○」、として耐焼付き性を評価した。また、使用期間:14日で、ロール表面に段差(腐食)が発生し、それ以上の使用が不可能な場合を「×」、使用期間:14〜30日の間に段差(腐食)が発生した場合を「△」、使用期間:30日で、段差(腐食)が発生しない場合を「○」、として耐腐食性を評価した。
【0030】
得られた結果を表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
本発明例はいずれも、45日間の使用したのちでも、ロール中央部、端部に焼付きや、段差(腐食)の発生は認められず、耐焼付き性および耐食性を兼備したロールとなっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、使用期間:45日未満で、焼付きおよび/または段差(腐食)が発生し、その後の使用が困難となっており、耐焼付き性および/または耐食性が、低下している。
【符号の説明】
【0034】
1 ロール(芯材)
2 被覆層
4 ロール軸芯
A 中央部の長さ
B 両端部の長さ
21 エアポンプ
22 流量計
23 飽和空気発生器
24 水槽
25 温水
26 管状電気炉
27 石英管
28 トレイ
29 試験片
31 摺動試験片
32 相手材
33 被覆層
110 加熱炉
111 被圧延材
112 粗圧延機
114 クロップッシャー
115 デスケーリング装置
116 仕上げ圧延機(タンデム)
117 ワークロール
120 冷却ゾーン
124巻取装置
125ピンチロール(上ピンチロール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材であるロール表面に、被覆層を形成してなる熱延鋼板巻取り装置用ロールであって、前記被覆層が、mass%で、C:0.50〜0.65%、Cr:11.5〜12.5%を、Cr/Cが19.0〜24.5を満足するように含み、さらに、Si:0.3〜1.0%、Mn:0.5〜3.0%、Ni:0.05%以下を含有し、さらにNb、Mo、V、Wのうちの2種以上を合計で4〜6%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする熱延鋼板巻取り装置用ロール。
【請求項2】
前記被覆層が、肉盛溶接で形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼帯巻取り装置用ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161823(P2012−161823A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25275(P2011−25275)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】