説明

熱式流量計、及び熱式流量計向け流量検知部保護装置

【課題】万が一、流量検知部が真空の雰囲気下に晒されても、流量検知部に熱的なダメージがかかるのを回避することができる熱式流量計を提供することを目的とする。また、流量検知部が真空の雰囲気下に晒される可能性のある位置に配置される既存の熱式流量計に対し、万が一、真空の雰囲気下になったときでもこの流量検知部を保護することができる熱式流量計向け流量検知部保護装置を提供することを目的とする。
【解決手段】熱式流量計101は、気体GSの流量を計測する計測流路Mに、ヒータである加熱用抵抗線4と、流速計測用抵抗線5A,5Bと、測温抵抗体6とを有した流量検知部3を配置し、流量検知部3により気体GSの流量を計測する熱式流量計1において、流量検知部3が、真空の雰囲気下に晒されたとき、流量検知部3を保護するため、加熱用抵抗線4への通電をオフにするスイッチ作動制御手段80を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発熱抵抗線を有した流量検知部により気体の流量を計測する熱式流量計に関する。また、熱式流量計のうち、流量検知部が真空の雰囲気下に晒される可能性のある位置に配置される既存の熱式流量計を対象に付加する熱式流量計向け流量検知部保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、Nガス等のガスが、半導体製造装置に微少な流量で供給され、このときの流量を計測する流量計として、例えば、特許文献1に開示されているような熱式流量計が用いられている。
図10に、特許文献1の熱式流量計を説明する断面図を示し、図11に、図10に示す熱式流量計に設けた基板の説明図を示す。図12は、図11に示す測定チップの平面図である。
【0003】
特許文献1は、図10乃至図12に示すように、流量検知部として、測定チップ11を実装した基板21を計測流路Mに配置し、測定チップ11のシリコンチップ12の溝13に架設した温度センサ用熱線18及び流速センサ用熱線19により、計測流路Mを流れる計測対象気体GSの流量を計測する熱式流量計1である。
温度センサ用熱線18、流速センサ用熱線19は、測定チップ11の熱線用電極14,15,16,17、及びプリント基板22の電気回路用電極24,25,26,27を介して、電気素子31,32,33,34等により基板21の裏面(図11中、下面)に構成された電気回路と導通している。
計測対象気体GSの流量は、温度センサ用熱線18と流速センサ用熱線19(上流側温度検知用抵抗線及び下流側温度検知用抵抗線)との温度差に基づき、この電気回路により電気信号に変換して算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−329503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来の熱式流量計では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1には記載されていないが、Nガス等のガス(計測対象気体GS)を半導体製造装置に供給するときには、通常、計測対象気体GSは、計測流路Mを正圧で流れ、この状態のときに、計測対象気体GSの流量が熱式流量計によって計測されている。
熱式流量計には、ガスが入力ポート側から出力ポートに直通で流れる主流路のほか、主流路より格段に細い流路で、主流路とバイパスして連通する計測流路が形成されており、熱式流量計は、この計測流路に配置された流量検知部により、ガス(Nガス等)の流れを、検知するようになっている。
【0006】
すなわち、熱式流量計の流量検知部では、上流側温度検知用抵抗線と下流側温度検知用抵抗線とは、加熱用抵抗線を挟み、計測流路に沿う方向に並んで配置され、加熱用抵抗線に通電中、加熱用抵抗線で生じる熱はNガス等の温度よりも高温になる。計測時には、加熱用抵抗線の熱は、計測流路を流れるNガス等に放熱され、上流側温度検知用抵抗線と下流側温度検知用抵抗線に伝熱する。
熱式流量計は、このときの放熱により、上流側温度検知用抵抗線及び下流側温度検知用抵抗線のそれぞれにおいて、温度変化量に対応して変化した抵抗値を基に、電気回路で計測処理されてNガス等の流量を計測している。
【0007】
ところで、半導体製造工程では、半導体ウエーハは、真空の雰囲気下、半導体製造装置のバッチ槽内で製造される。バッチ槽は、種々の弁等を介してAr等の不活性ガスの管路と連通している。
そのため、半導体製造装置の運転中、Nガス等の流量を熱式流量計で計測しているときには、例えば、作業者による人的な操作ミス、半導体製造装置の各種制御機器による誤作動等、何らかの理由に起因して、流量検知部が、計測中のNガス等と共に、真空の雰囲気下(負圧下)に晒されてしまう虞がある。
【0008】
ガスがNガスの場合、Nガスは真空度の高い負圧状態になると、Nガスの物性として、熱伝導率が急激に低下する傾向にある。
万が一、計測中のNガスが真空度133Pa(絶対圧)を下回る高い真空状態となり、Nガスの熱伝導率が急激に低下すると共に、熱式流量計の流量検知部もこのような高い真空状態の雰囲気に晒されてしまうと、加熱用抵抗線で生じた熱が、計測流路を流れるNガスに奪われ難い状況となり、上流側温度検知用抵抗線及び下流側温度検知用抵抗線に伝熱し難くなる。
【0009】
ガスの伝熱性が極端に低下してしまうと、加熱用抵抗線で発熱した熱や、上流側温度検知用抵抗線及び下流側温度検知用抵抗線に伝熱した熱が、Nガスにほとんど放熱できなくなり、加熱用抵抗線、上流側温度検知用抵抗線、及び下流側温度検知用抵抗線の温度は上昇する。
さらに計測時、作業者が、Nガスに放熱できないまま加熱用抵抗線が通電されていることに気付かず、加熱用熱線への通電が継続されていると、通電による発熱により、熱が、加熱用抵抗線のほか、上流側温度検知用抵抗線及び下流側温度検知用抵抗線に蓄熱して異常に上昇してしまい、流量計測センサ部に熱的なダメージを与え、流量計測センサ部の寿命が短くなる虞があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、万が一、流量検知部が真空の雰囲気下に晒されても、流量検知部に熱的なダメージがかかるのを回避できる熱式流量計を提供することを目的とする。また、流量検知部が真空の雰囲気下に晒される可能性のある位置に配置される既存の熱式流量計に対し、万が一、真空の雰囲気下になったときでもこの流量検知部を保護することができる熱式流量計向け流量検知部保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題点を解決するために、本発明の熱式流量計、及び熱式流量計向け流量検知部保護装置は、次の構成を有している。
(1)気体の流量を計測する計測流路に、ヒータである加熱用抵抗線と、流速計測用抵抗線と、測温抵抗体とを有した流量検知部を配置し、流量検知部により気体の流量を計測する熱式流量計において、流量検知部が、真空の雰囲気下に晒されたとき、流量検知部を保護するため、加熱用抵抗線への通電をオフにするスイッチ作動制御手段を備えることを特徴とする。
(2)(1)に記載する熱式流量計において、当該式流量計のうち、少なくとも加熱用抵抗線への通電をオン/オフするスイッチと、通電状態で加熱用抵抗線が昇温したときに、加熱用抵抗線の温度と測温抵抗体の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線で増加した分の抵抗値に応じて、加熱用抵抗線に流す電流を小さく制御する電流制御手段とを備え、スイッチ作動制御手段が、通電時に計測流路が流量検知部と共に真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線の電圧を検出できる検出電圧部の電圧値Vが、基準電圧値Vから、閾値として予め設定された遮断電圧値V以下に変化したときに、加熱用抵抗線が真空の雰囲気下に晒されていると判断して、スイッチをオフに切り替えることを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する熱式流量計において、スイッチとスイッチ作動制御手段とが、インターロック回路で電気的に接続されていることを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する熱式流量計において、測温抵抗体は、白金からなることを特徴とする。
(5)気体の流量を計測する計測流路に、ヒータである加熱用抵抗線と、流速計測用抵抗線と、測温抵抗体とを有した流量検知部を配置し、流量検知部により気体の流量を計測する既存の熱式流量計に対して付加する熱式流量計向け流量検知部保護装置において、当該熱式流量計向け流量検知部保護装置は、(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する熱式流量計に有するスイッチ、電流制御手段、及びスイッチ作動制御手段からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明の熱式流量計、及び熱式流量計向け流量検知部保護装置の作用・効果について説明する。
本発明の熱式流量計では、
(1)気体の流量を計測する計測流路に、ヒータである加熱用抵抗線と、流速計測用抵抗線と、測温抵抗体とを有した流量検知部を配置し、流量検知部により気体の流量を計測する熱式流量計において、流量検知部が、真空の雰囲気下に晒されたとき、流量検知部を保護するため、加熱用抵抗線への通電をオフにするスイッチ作動制御手段を備えているので、万が一、流量検知部が真空の雰囲気下に晒され、流量検知部で生じる熱が、計測流路を流れる気体に放熱できなくなる状態になっても、流量検知部で発生する熱が過剰に上昇しようとする事態が生じる前に、流量検知部で熱を発生させている加熱用抵抗線への通電を、スイッチ作動制御手段によりオフにさせるため、流量検知部は、加熱用抵抗線の発熱による熱的ダメージを受けない。ひいては、流量検知部が、真空の雰囲気下に晒されても、流量計測センサ部の寿命が短くなることもない。
【0013】
従って、不測の事態により、万が一、熱式流量計の流量検知部が真空下の雰囲気に晒され、加熱用抵抗線で発生する熱のほか、流速計測用抵抗線に伝わる熱が、計測流路内の気体に放熱できない状況になっても、加熱用抵抗線自体の熱的ダメージのほか、加熱用抵抗線と隣接する流速計測用抵抗線への熱的ダメージ等、流量検知部にかかる熱的ダメージを回避することができる、という優れた効果を奏する。
【0014】
(2)当該式流量計のうち、少なくとも加熱用抵抗線への通電をオン/オフするスイッチと、通電状態で加熱用抵抗線が昇温したときに、加熱用抵抗線の温度と測温抵抗体の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線で増加した分の抵抗値に応じて、加熱用抵抗線に流す電流を小さく制御する電流制御手段とを備え、スイッチ作動制御手段が、通電時に計測流路が流量検知部と共に真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線の電圧を検出できる検出電圧部の電圧値Vが、基準電圧値Vから、閾値として予め設定された遮断電圧値V以下に変化したときに、加熱用抵抗線が真空の雰囲気下に晒されていると判断して、スイッチをオフに切り替えるので、不測の事態により、万が一、当該熱式流量計の流量検知部が真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線で発生する熱のほか、流速計測用抵抗線に伝わる熱が、計測流路内の気体に放熱できない状況になっても、加熱用抵抗線の温度が上昇する前に、少なくとも加熱用抵抗線への通電を遮断することができる。
これにより、加熱用抵抗線自体の熱的ダメージのほか、加熱用抵抗線と隣接する流速計測用抵抗線への熱的ダメージ等、流量検知部への熱的ダメージがより確実に回避できる。
【0015】
すなわち、熱式流量計で流量を計測する気体が、例えば、Nガスの場合、その熱伝導率は、正圧の領域において約0.025( W・m-1・K-1)であり、Nガスは放熱性を有する。
ガスが、通常、熱式流量計の計測流路を正圧で流れている状態では、加熱用抵抗線で生じる熱はNガスに放熱され、加熱用抵抗線自体は、所定の温度以上に上昇せず、温度と共に変化する加熱用抵抗線の抵抗値も、所定の抵抗値以上に大きくならない。
加熱用抵抗線がこのような所定の抵抗値にあるときには、本発明の熱式流量計では、検出電圧部で検出される電圧は、基準電圧値Vとなっている。
【0016】
一方、Nガスが、特に、真空度133Pa(1Torr)(絶対圧)を下回るところまで真空度の高い負圧状態になると、Nガスの物性として、熱伝導率が急激に低下する傾向にある。
万が一、熱式流量計で計測中のNガスが真空度133Paを下回る高い真空状態となり、Nガスの熱伝導率が急激に低下すると共に、熱式流量計の流量検知部もこのような高い真空状態の雰囲気に晒されてしまうと、加熱用抵抗線で生じる熱は、計測流路を流れるNガスに放熱され難くなる。この状態のまま加熱用抵抗線に通電を続けていると、加熱用抵抗線自体の温度がさらに上昇し、温度上昇分、加熱用抵抗線の抵抗値が増加する。
【0017】
本発明の熱式流量計では、電流制御手段により、加熱用抵抗線の温度と測温抵抗体の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線で増加した温度、すなわち抵抗値の増加分に応じて、加熱用抵抗線に流す電流を小さく制御している。これにより、検出電圧部の電圧値Vは、加熱用抵抗線を流れる電流の電流値に比例するため、加熱用抵抗線に流れる電流を抑制した分、基準電圧値Vより小さくなる。
【0018】
その一方で、前述したように、加熱用抵抗線で発生する熱が、計測流路内の気体に放熱できない状況になったときには、電流制御手段で加熱用抵抗線の電流値を抑制しただけでは、加熱用抵抗線に通電されている限り、加熱用抵抗線の温度上昇を完全に阻止できない。そのため、スイッチ作動制御手段が、検出電圧部の電圧値Vが基準電圧値Vから下がり始めて遮断電圧値Vとなった時点で、スイッチをオフに切り替えて、加熱用抵抗線への通電を遮断して、加熱用抵抗線の温度上昇を完全に阻止している。
この遮断電圧値Vは、加熱用抵抗線の電流が電流制御手段で抑制できる範囲に対応させて設定されることで、加熱用抵抗線で発生する熱が、計測流路内の気体に放熱できない状況になったときでも、加熱用抵抗線の温度が上昇する前に、少なくとも加熱用抵抗線への通電が遮断できる。
【0019】
(3)スイッチとスイッチ作動制御手段とが、インターロック回路で電気的に接続されているので、気体の流量計測時に、例えば、作業者が、本発明の熱式流量計の流量検知部が真空下の雰囲気に晒されているという不測の事態に気付かない場合等でも、スイッチ作動制御手段により、スイッチが自動で作動できるようになることから、本発明の熱式流量計は、保全上、より信頼性の高い装置となる。
【0020】
(4)測温抵抗体は、白金からなるので、抵抗値が温度に対しリニアに変化すると共に、単位温度当たりの抵抗値の変化量が比較的大きくできるため、電流制御手段が、加熱用抵抗線で増加した温度、すなわち抵抗値の増加分に応じて、加熱用抵抗線に流す電流を小さく制御するときに、加熱用抵抗線に流す電流を精度良く制御することができる。
【0021】
また、本発明の熱式流量計向け流量検知部保護装置では、
(5)気体の流量を計測する計測流路に、ヒータである加熱用抵抗線と、流速計測用抵抗線と、測温抵抗体とを有した流量検知部を配置し、流量検知部により気体の流量を計測する既存の熱式流量計に対して付加する熱式流量計向け流量検知部保護装置において、当該熱式流量計向け流量検知部保護装置は、(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する熱式流量計に有するスイッチ、電流制御手段、及びスイッチ作動制御手段からなるので、前述したように、万が一、既存の熱式流量計の流量検知部が真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線の熱が計測流路内の気体に放熱できない状況になっても、加熱用抵抗線自体の熱的ダメージのほか、加熱用抵抗線と隣接する流速計測用抵抗線への熱的ダメージ等、流量検知部への熱的ダメージが確実に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1に係る流量検知部保護装置の回路図である。
【図2】実施形態1に係る流量検知部保護装置の取付け対象となる既存の熱式流量計の測定チップを示す平面図である。
【図3】図2中、A−A矢視断面図である。
【図4】図2に示す測定チップが実装される基板の説明図である。
【図5】図10中、B−B矢視断面に相当する図である。
【図6】Nガスにおける真空度と検出電圧との関係を示すグラフであり、実施形態1,2に係る流量検知部保護装置において遮断電圧値Vの設定に用いるグラフである。
【図7】実施例に係る流量検知部保護装置の効果を検証する実験データであり、この流量検知部保護装置を既存の熱式流量計に取付けた場合を示す実験結果である。
【図8】比較例に係る実験データであり、実施形態1に係る流量検知部保護装置を既存の熱式流量計に取付けない場合を示す実験結果である。
【図9】実施形態2に係る熱式流量計の説明図である。
【図10】特許文献1の熱式流量計を説明する断面図である。
【図11】図10に示す熱式流量計に設けた基板の説明図を示す。
【図12】図11に示す測定チップの平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
以下、本発明に係る熱式流量計向け流量検知部保護装置について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、実施形態1に係る流量検知部保護装置(熱式流量計向け流量検知部保護装置)の回路図である。図2は、実施形態1に係る流量検知部保護装置の取付け対象となる既存の熱式流量計の測定チップを示す平面図である。図3は、図2中、A−A矢視断面図である。図4は、図2に示す測定チップが実装される基板の説明図である。図5は、図10中、B−B矢視断面に相当する図である。
【0024】
熱式流量計が一般的に知られている。一例として挙げる既存の熱式流量計1は、図1乃至図5、及び参照する図10に示すように、気体GSの流量を計測する計測流路Mに、ヒータである加熱用抵抗線4と、該加熱用抵抗線4を挟んで上流側と下流側にそれぞれ設けた流速計測用抵抗線5A,5Bと、測温抵抗体6とを有した流量検知部3を配置し、流量検知部3により気体GSの流量を検知する。
【0025】
はじめに、既存の熱式流量計1について、図1乃至図5、及び参照する図10を用いて簡単に説明する。
既存の熱式流量計1では、基板21が、図10に示すように、螺合によりOリング48を介してボディ41に密着して固定されている。ボディ41には、入力ポート42、入力側流路43、主流路44、計測流路M、出力側流路45、出力ポート46が形成されており、主流路44に底板47が設けられている。
【0026】
基板21について説明する。
基板21には、参照する図10に示すように、その裏側(図10中、上側)に、電気素子31,32,33,34のほか、加熱用抵抗線4に通電するための電源等の電気回路部2(図1参照)が設けられている。
この基板21の表側(図10中、下側)には、図4に示すように、プリント基板22が設けられていると共に、このプリント基板22の内部に基板溝23が形成されている。
この基板溝23を跨いだ両側には、抵抗線電極4a,4bと電気的に接続する電気回路用電極24a,24bと、抵抗線電極5Aa,5Ab,5Ba,5Bbと電気的に接続する電気回路用電極25Aa,25Ab,25Ba,25Bbと、抵抗線電極6a,6bと電気的に接続する電気回路用電極26a,26bとが、それぞれ設けられている。
電気回路用電極24a,24b、電気回路用電極25Aa,25Ab,25Ba,25Bb、及び電気回路用電極26a,26bは、プリント基板22を介して、電気回路部2と電気的と接続している。
【0027】
また、プリント基板22には、測温抵抗体6の抵抗線電極6a,6bと電気的に接続する電気回路用電極26a,26bが設けられている。このプリント基板22には、基板溝23に合わせて次述する測定チップ11Aが実装されている。
【0028】
測定チップ11Aについて説明する。
測定チップ11Aには、半導体マイクロマシニング加工を施すことにより、図2及び図3に示すように、測定チップ溝13がシリコンチップ12に形成されている。加熱用抵抗線4及び流速計測用抵抗線5A,5Bは、測定チップ溝13に架設されている。
この測定チップ溝13を跨いだ両側には、上流側の流速計測用抵抗線5Aの抵抗線電極5Aa,5Abと、下流側の流速計測用抵抗線5Bの抵抗線電極5Ba,5Bbとが、加熱用抵抗線4の抵抗線電極4a,4bを挟んで設けられている。
また、測定チップ11Aには、測温抵抗体6が設けられている。
【0029】
流量検知部3は、図4及び図5に示すように、測定チップ溝13と基板溝23とが対向する向きに測定チップ11Aと基板21とを一体に接合して構成されている。
加熱用抵抗線4は、抵抗線電極4a,4b、プリント基板22、電気回路用電極24a,24b、及び電気素子31を介して、電気回路部2と電気的に接続している。また、流速計測用抵抗線5A,5Bは、抵抗線電極5Aa,5Ab,5Ba,5Bb、プリント基板22、電気回路用電極25Aa,25Ab,25Ba,25Bb、及び電気素子32,33を介して、電気回路部2と電気的に接続している。また、測温抵抗体6は、抵抗線電極6a,6b、プリント基板22、電気回路用電極26a,26b、及び電気素子34を介して、電気回路部2と電気的に接続している。
【0030】
既存の熱式流量計1では、気体GSが、参照する図10に示すように、ボディ41の入力ポート42から入力側流路43に流入すると、主流路44とそのバイパスである計測流路Mとに分流し、計測流路Mを流れる気体GS流量を計測する。計測後、気体GSは、主流路44を流れる気体GS出力側流路45で合流して、出力ポート46から流出する。
【0031】
ところで、半導体製造工程では、Nガス等のガスが、半導体製造装置に微少な流量で供給され、このときの流量を計測する流量計として、前述したような既存の熱式流量計1が用いられている。
半導体製造工程では、半導体ウエーハは、真空の雰囲気下、半導体製造装置のバッチ槽内で製造される。バッチ槽は、種々の弁等を介してAr等の不活性ガスの管路と連通している。
そのため、半導体製造装置の運転中、ガスの流量を熱式流量計で計測しているときには、例えば、作業者による人的な操作ミス、半導体製造装置の各種制御機器による誤作動等、何らかの理由に起因して、計測中のガスと共に、既存の熱式流量計1の流量検知部3が、真空の雰囲気下に晒されてしまう虞がある。
【0032】
本実施形態では、流量検知部保護装置50は、周知の熱式流量計1のうち、計測する流量が微量で、流量検知部3が真空下の雰囲気に晒される可能性のある位置に配置される既存の熱式流量計1を対象に付加して設けられる。
【0033】
次に、流量検知部保護装置50について、図1を用いて説明する。
流量検知部保護装置50は、図1に示すように、スイッチ60と、電流制御手段70と、スイッチ60とインターロック回路で電気的に接続されたスイッチ作動制御手段80とからなり、既存の熱式流量計1の電気回路部2のうち、加熱用抵抗線4に通電するための電源と電気的に接続される。
スイッチ60は、既存の熱式流量計1の電気回路部2のうち、加熱用抵抗線4に通電するための電源と電気的に接続され、この電源から加熱用抵抗線4への通電をオン/オフする。
【0034】
電流制御手段70は、通電状態で加熱用抵抗線4が昇温したときに、加熱用抵抗線4の温度と測温抵抗体6の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線4で増加した分の抵抗値に応じて、加熱用抵抗線4に流す電流を小さく制御する。
具体的には、電流制御手段70では、図1に示すように、トランジスタ71のコレクタとスイッチ60の端子とが接続すると共に、トランジスタ71のベースがコンパレータ72の出力端子に接続されている。また、このトランジスタ71のエミッタは、分岐点P1を通じて分岐点P2で並列に分岐され、一方で分岐点P4を通じて加熱用抵抗線4と直列に、他方で測温抵抗体6と直列に、それぞれ接続されている。加熱用抵抗線4と測温抵抗体6とは分岐点P6で並列に接続し、アナロググラウンドになっている。
コンパレータ72の非反転入力端子は、測温抵抗体6と分岐点P3で並列に接続され、非反転入力端子は、加熱用抵抗線4と分岐点P4で並列に接続されている。
【0035】
スイッチ作動制御手段80は、流量検知部3が真空の雰囲気下に晒されたとき、流量検知部3を保護するため、加熱用抵抗線4への通電をオフにする。
具体的には、スイッチ作動制御手段80では、図1に示すように、コンパレータ81の非反転入力端子が、分岐点P8を介して分岐点P1で、トランジスタ71のエミッタと並列に接続している。コンパレータ81の非反転入力端子とアナロググラウンドとは、分岐点P8で並列に分岐している。コンパレータ81の反転入力端子は、コンパレータ81の出力端子と分岐点P7で接続され、この出力端子は、分岐点P7を通じて周知のCPU82と接続されている。
すなわち、スイッチ作動制御手段80は、加熱用抵抗線4への通電時に、計測流路Mが流量検知部3と共に真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線4の電圧を検出できる検出電圧部Vhの電圧値Vが、基準電圧値Vから、閾値として予め設定された遮断電圧値V以下に変化したときに、加熱用抵抗線4が真空下の雰囲気に晒されていると判断して、スイッチ60をオフに切り替える。
【0036】
また、スイッチ作動制御手段80には、CPU82のほか、図1に図示していないが、ROM及びRAM等公知の構成のマイクロコンピュータを備えている。ROM及びRAMには、スイッチ60をオン/オフさせるプログラム、遮断電圧値Vを任意に設定できるプログラム、その他のプログラムが記憶されている。
スイッチ作動制御手段80は、このようなプログラムをCPU82にロードすることにより、検出電圧部Vhの電圧値Vが、基準電圧値Vから、閾値として予め設定された遮断電圧値V以下に変化したときに、加熱用抵抗線が真空下の雰囲気に晒されていると判断して、スイッチ60をオフに切り替えるようになっている。
【0037】
次に、流量検知部保護装置50の制御内容について、説明する。
加熱用抵抗線4が真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線4から放熱できなくなると、加熱用抵抗線4自体の温度(抵抗値)が上昇する。加熱用抵抗線4の抵抗値が上昇すると、加熱用抵抗線4での電圧が増加する。コンパレータ72は、加熱用抵抗線4の温度上昇に伴い、測温抵抗体6の温度(抵抗値)との温度差(抵抗値の差)を一定に保とうとし、トランジスタ71が、電気回路部2から通電される電流を、加熱用抵抗線4の温度で上昇し過ぎた分だけ、抑制する。
その結果、スイッチ作動制御手段80において、検出電圧部Vhの電圧値Vは低下する。スイッチ作動制御手段80では、CPU82により、検出電圧部Vhの電圧値Vが遮断電圧値Vに達しているか否かを判断する。検出電圧部Vhの電圧値Vが遮断電圧値Vに達していれば、スイッチ60をオフに切り替えて、電気回路部2から加熱用抵抗線4への通電を遮断する。検出電圧部Vhの電圧値Vが遮断電圧値Vに達していなければ、スイッチ60をオンのままにして、電気回路部2から加熱用抵抗線4に通電を継続する。
【0038】
ところで、半導体製造工程において、既存の熱式流量計1により流量を計測する気体GSがNガスである場合がある。
気体GSがNガスの場合、その熱伝導率は、正圧の領域において約0.025( W・m-1・K-1)の近傍であるが、真空度が1.33kPa(10Torr)(絶対圧)を下回るところで、熱伝導率は低下し始める。特に、真空度が133Pa(1Torr)より小さい真空度の高い負圧状態になると、Nガスの物性として、熱伝導率が急激に低下する傾向にあり、熱がNガスに伝わり難くなる。
万が一、計測中に、Nガスが真空度133Paを下回り、Nガスの熱伝導率が急激に低下すると共に、既存の熱式流量計1の流量検知部3もこのような高い真空状態の雰囲気に晒されてしまうと、加熱用抵抗線4で発熱した熱が、計測流路Mを流れるNガスにより奪われ難く、流速計測用抵抗線5A,5Bに伝熱し難くなる。
【0039】
特に、既存の熱式流量計1において計測流路Mは主流路44より細く、元来、計測流路Mを流れるNガスは微量であるところに、このNガスの伝熱性が極端に低下してしまうと、加熱用抵抗線4で発熱した熱や、流速計測用抵抗線5A,5Bに伝熱した熱が、Nガスにほとんど放熱できなくなり、加熱用抵抗線4、及び流速計測用抵抗線5A,5Bの温度は上昇する。
【0040】
次に、流量検知部保護装置50の効果を検証する実験を行った。実験結果について、図6乃至図8を用いて説明する。
図6は、Nガスにおける真空度と検出電圧との関係を示すグラフであり、本実施形態に係る流量検知部保護装置において遮断電圧値Vの設定に用いるグラフである。図7は、実施例に係る流量検知部保護装置の効果を検証する実験データであり、この流量検知部保護装置を既存の熱式流量計に取付けた場合を示す実験結果である。
【0041】
(実施例)
実施例は、図1に示すように、流量検知部保護装置50を既存の熱式流量計1に取付けた場合であり、流量計測する気体GSがNガスである場合である。
本実施例は、図7に示すように、検出電圧部Vhの基準電圧値VをV=3.7(V)、遮断電圧値V=2.9(V)にそれぞれ設定し、検出電圧部Vhの電圧Vが2.9(V)以下になったときに、スイッチ60をオフとした。
【0042】
流量検知部保護装置50では、気体GSがNガスの場合、遮断電圧値Vは、図6に示すように、真空度133Pa(1Torr)近傍で基準電圧値Vが最も低くなった後、再び上昇する前に、すなわち真空度665Pa(5Torr)〜1.33kPa(10Torr)の付近になったときに、スイッチ60をオフさせるように設定しておく。
なお、既存の熱式流量計1の流量検知部3には、その特性上、製品毎に微妙なバラツキがあり、基準電圧値Vや遮断電圧値Vの設定にあたり、既存の熱式流量計1の流量検知部3の対象を特定しておくことが好ましい。例えば、ある製品の既存の熱式流量計1では、図6に示すように、基準電圧値VがV=3.5(V)、遮断電圧値VがV=3.1(V)であるが、本実施例に係る実験で用いる製品の既存の熱式流量計1では、適用する基準電圧値V及び遮断電圧値Vは何れも前者の製品と異なっている。
【0043】
実験結果を図7に示す。図7に示すように、Nガスが正圧で計測流路Mを流れているときには、加熱用抵抗線4のヒータ温度は、概ね100〜250℃で推移しており、検出電圧部Vhの電圧Vは、基準電圧値V=3.7(V)をコンスタントに維持している。
その一方で、計測流路Mを流れているこのNガスが負圧下になると、正圧から負圧に変化した直後に、検出電圧部Vhの電圧Vは、一気に低下し始め、閾値として予め設定された遮断電圧値V=2.9(V)以下に変化した途端、スイッチ作動制御手段80により、スイッチ60への通電が遮断されていることが判る。
【0044】
(比較例)
比較例は、流量検知部保護装置50を既存の熱式流量計1に取付けない場合であり、実施例と同様、流量計測する気体GSがNガスである場合である。
比較例は、実施例に係る検出電圧部Vhの基準電圧値Vに相当する検出電圧を、既存の熱式流量計1の電気回路部2で計測した。また、実施例に係る電流制御手段70に相当する電流制御手段として、通電状態で加熱用抵抗線4が昇温したときに、加熱用抵抗線4の温度と測温抵抗体6の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線4で増加した分の抵抗値に応じて、加熱用抵抗線4に流す電流を小さく制御するようにした。
【0045】
図8は、比較例に係る実験データであり、本実施形態に係る流量検知部保護装置を既存の熱式流量計に取付けない場合を示す実験結果である。
実験結果を図8に示す。図8に示すように、Nガスが正圧で計測流路Mを流れているときには、加熱用抵抗線4のヒータ温度は、概ね100〜250℃で推移しており、検出電圧は、V=3.9(V)をコンスタントに維持している。
【0046】
ところが、計測流路Mを流れているこのNガスが負圧下になると、正圧から負圧に変化した直後に、検出電圧は一気に降下し始め、V=1.9(V)付近になったところで、加熱用抵抗線4のヒータ温度は、急激に上昇してしまう。
一方で、検出電圧は、通電時間の経過と共に、V=1.9(V)付近からさらにV=1.5(V)まで低下したら、そのまま横ばい状態となる。
【0047】
このような現象は、Nガス(気体GS)の熱伝導率は、真空度が1.33kPa(10Torr)を下回るところで、低下し始め、特に、真空度が133Pa(1Torr)より小さい真空度の高い負圧状態になると、熱がNガスに伝わり難くなるために生じる。
すなわち、既存の熱式流量計1の流量検知部3もこのような高い真空状態の雰囲気に晒されてしまうと、加熱用抵抗線4で発熱した熱が、計測流路Mを流れるNガスにより奪われ難く、流速計測用抵抗線5A,5Bに伝熱し難くなって、加熱用抵抗線4の温度は上昇する。
特に、既存の熱式流量計1において計測流路Mは主流路44より細く、元来、計測流路Mを流れるNガスは微量であるところに、このNガスの伝熱性が極端に低下してしまうと、加熱用抵抗線4で発熱した熱や、流速計測用抵抗線5A,5Bに伝熱した熱が、Nガスにほとんど放熱できなくなる。その結果、加熱用抵抗線4、及び流速計測用抵抗線5A,5Bの温度は急激に上昇する。
【0048】
また、実施例に係る電流制御手段70に相当する電流制御手段により、加熱用抵抗線4に流す電流を小さく制御し、図8に示すように、検出電圧をV=3.9(V)からV=1.5(V)まで低下させることはできても、一定の時間、加熱用抵抗線4の温度は急激に上がらないが、その一定時間が経過した後、加熱用抵抗線4に通電している限り、加熱用抵抗線4の温度上昇は回避できないからである。
【0049】
(実施形態2)
次に、本発明の熱式流量計について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
実施形態1の流量検知部保護装置50は、別体である既存の熱式流量計1に付加して設け、既存の用熱式流量計1の電気回路部2と任意に後付けで接続する構成となっていた。
これに対し、実施形態2の熱式流量計101は、既存の熱式流量計1に相当する熱式流量計に、その仕様として流量検知部保護装置50に相当する流量検知部保護ユニット150を予め備えた熱式流量計である。
すなわち、実施形態2は、実施形態1と、流量検知部保護装置50(流量検知部保護ユニット150)を熱式流量計に予め具備しているか否かの点で異なるが、それ以外の部分は、実施形態1と同様である。
従って、実施形態1とは異なる部分を中心に説明し、その他について説明を簡略または省略する。
【0050】
図9は、実施形態2に係る熱式流量計の説明図である。本実施形態では、熱式流量計101は、図9に示すように、実施形態1において例示して説明した既存の熱式流量計1と、実施形態1に係る流量検知部保護装置50に相当する流量検知部保護ユニット150とを有している。流量検知部保護装置50と流量検知部保護ユニット150とは、実質的に同じ機能である。
熱式流量計101は、既存の熱式流量計1の電気回路部2に相当する電気回路部102を有している。流量検知部保護ユニット150のスイッチ60は、電気回路部102のうち、加熱用抵抗線4に通電するための電源と電気的に接続され、この電源から加熱用抵抗線4への通電をオン/オフする。流量検知部3の測温抵抗体6は白金からなる。
また、本実施形態でも、実施形態1の流量検知部保護装置50と同様、スイッチ60とスイッチ作動制御手段80とは、インターロック回路で電気的に接続されている。
【0051】
なお、実施形態1において、流量検知部保護装置50の効果を検証する実験を行ったことについて、言及した。本実施形態に係る熱式流量計101についても、流量検知部保護ユニット150の効果を検証するため、実施形態1で説明した内容の実験と同じ実験を行ったが、参照する図7及び図8と同じ実験結果が得られた。よって、本実施形態に係る熱式流量計101の効果を検証実験に関する説明と、実験データの開示は省略する。
【0052】
前述した構成を有する実施形態1,2に係る流量検知部保護装置50、及び熱式流量計101の作用・効果について説明する。
実施形態1に係る流量検知部保護装置50では、気体GSの流量を計測する計測流路Mに、ヒータである加熱用抵抗線4と、流速計測用抵抗線5A,5Bと、測温抵抗体6とを有した流量検知部3を配置し、流量検知部3により気体GSの流量を計測する既存の熱式流量計1に対して付加する流量検知部保護装置50において、当該流量検知部保護装置50は、実施形態2に係る熱式流量計101に備えた流量検知部保護ユニット150と実質的に同じ機能であり、流量検知部保護ユニット150も、流量検知部保護装置50と同様、スイッチ60、電流制御手段70、及びスイッチ作動制御手段80からなるので、前述したように、万が一、既存の熱式流量計1の流量検知部3が真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線4の熱が計測流路M内の気体GSに放熱できない状況になっても、加熱用抵抗線4自体の熱的ダメージのほか、加熱用抵抗線4と隣接する流速計測用抵抗線5A,5Bへの熱的ダメージ等、流量検知部3への熱的ダメージが確実に回避できる、という優れた効果を奏する。
【0053】
また、実施形態1に係る流量検知部保護装置50は、既存の熱式流量計1に対しても、その電気回路部2のうち、加熱用抵抗線4に通電するための電源と電気的に接続するだけで、簡単にかつ安価に取り付けることができる。
また、流量検知部保護装置50は、例示した半導体製造装置の他にも、幅広い産業分野にも適用することができ、流量検知部が真空下の雰囲気に晒される可能性のある位置に配置される熱式流量計を対象に取り付けられれば、真空検知器としての役割も担う装置とすることができる。
【0054】
実施形態2に係る熱式流量計101では、気体GSの流量を計測する計測流路Mに、ヒータである加熱用抵抗線4と、流速計測用抵抗線5A,5Bと、測温抵抗体6とを有した流量検知部3を配置し、流量検知部3により気体GSの流量を計測する熱式流量計101において、流量検知部3が、真空の雰囲気下に晒されたとき、流量検知部3を保護するため、加熱用抵抗線4への通電をオフにするスイッチ作動制御手段80を備えているので、万が一、流量検知部3が真空の雰囲気下に晒され、流量検知部3で生じる熱が、計測流路をM流れる気体GSに放熱できなくなる状態になっても、流量検知部3で発生する熱が過剰に上昇しようとする事態が生じる前に、流量検知部3で熱を発生させている加熱用抵抗線4への通電を、スイッチ作動制御手段80によりオフにさせるため、流量検知部3は、加熱用抵抗線4の発熱による熱的ダメージを受けない。
ひいては、流量検知部3が、真空の雰囲気下に晒されても、流量計測センサ部3の寿命が短くなることもない。
【0055】
従って、不測の事態により、万が一、熱式流量計1の流量検知部3が真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線4で発生する熱のほか、流速計測用抵抗線5A,5Bに伝わる熱が、計測流路M内の気体GSに放熱できない状況になっても、加熱用抵抗線4自体の熱的ダメージのほか、加熱用抵抗線4と隣接する流速計測用抵抗線5A,5Bへの熱的ダメージ等、流量検知部3にかかる熱的ダメージを回避することができる、という優れた効果を奏する。
【0056】
また、実施形態2に係る熱式流量計101では、熱式流量計101のうち、少なくとも加熱用抵抗線4への通電をオン/オフするスイッチ60と、通電状態で加熱用抵抗線4が昇温したときに、加熱用抵抗線4の温度と測温抵抗体6の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線4で増加した分の抵抗値に応じて、加熱用抵抗線4に流す電流を小さく制御する電流制御手段70とを備え、スイッチ作動制御手段80が、通電時に計測流路Mが流量検知部3と共に真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線4の電圧を検出できる検出電圧部Vhの電圧値Vが、基準電圧値Vから、閾値として予め設定された遮断電圧値V以下に変化したときに、加熱用抵抗線4が真空下の雰囲気に晒されていると判断して、スイッチ60をオフに切り替えるので、不測の事態により、万が一、当該熱式流量計101の流量検知部3が真空の雰囲気下に晒され、加熱用抵抗線4で発生する熱のほか、流速計測用抵抗線5A,5Bに伝わる熱が、計測流路M内の気体GS(Nガス)に放熱できない状況になっても、加熱用抵抗線4の温度が上昇する前に、少なくとも加熱用抵抗線4への通電を遮断することができる。
これにより、加熱用抵抗線4自体の熱的ダメージのほか、加熱用抵抗線4と隣接する流速計測用抵抗線5A,5Bへの熱的ダメージ等、流量検知部3への熱的ダメージがより確実に回避できる。
【0057】
すなわち、熱式流量計101で流量を計測する気体GSがNガスの場合、その熱伝導率は、正圧の領域において約0.025( W・m-1・K-1)であり、Nガスは放熱性を有する。
ガスが、通常、熱式流量計101の計測流路Mを正圧で流れている状態では、加熱用抵抗線4で生じる熱はNガスに放熱され、加熱用抵抗線4自体は、所定の温度(例えば、概ね100〜250℃)以上に上昇せず、温度と共に変化する加熱用抵抗線の抵抗値も、所定の抵抗値以上に大きくならない。
加熱用抵抗線4がこのような所定の抵抗値にあるときには、流量検知部保護ユニット150では、検出電圧部Vhで検出される電圧Vは、基準電圧値V(参照する実施例に係る実験では、基準電圧値V=3.7(V))となっている。
【0058】
一方、Nガスが、特に、真空度133Pa(1Torr)を下回るところまで真空度の高い負圧状態になると、Nガスの物性として、熱伝導率が急激に低下する傾向にあり、熱がNガスに伝わり難くなる。
万が一、熱式流量計101で計測中のNガスが真空度133Paを下回る高い真空状態となり、熱式流量計1の流量検知部3もこのような高い真空状態の雰囲気に晒されると、加熱用抵抗線4で生じる熱は、計測流路Mを流れるNガスに放熱され難くなる。この状態のまま加熱用抵抗線4に通電を続けていると、加熱用抵抗線4自体の温度がさらに上昇し、温度上昇分、加熱用抵抗線4の抵抗値が増加する。
【0059】
流量検知部保護ユニット150では、電流制御手段70により、加熱用抵抗線4の温度と測温抵抗体6の温度との差を一定に保つよう、加熱用抵抗線4で増加した温度、すなわち抵抗値の増加分に応じて、加熱用抵抗線4に流す電流を小さく制御している。これにより、検出電圧部Vhの電圧値Vは、加熱用抵抗線4を流れる電流の電流値に比例するため、加熱用抵抗線4に流れる電流を抑制した分、基準電圧値Vより小さくなる。
【0060】
その一方で、前述したように、加熱用抵抗線4で発生する熱が、計測流路M内のNガス(気体GS)に放熱できない状況になったときには、電流制御手段70で加熱用抵抗線4の電流値を抑制しただけでは、加熱用抵抗線4に通電されている限り、加熱用抵抗線4の温度上昇を完全に阻止できない。
そのため、スイッチ作動制御手段80が、検出電圧部Vhの電圧値Vが基準電圧値Vから下がり始めて遮断電圧値Vとなった時点で、スイッチ60をオフに切り替えて、加熱用抵抗線4への通電を遮断して、加熱用抵抗線4の温度上昇を完全に阻止している。
この遮断電圧値Vは、加熱用抵抗線4の電流が電流制御手段70で抑制できる範囲に対応させて設定されることで、加熱用抵抗線4で発生する熱が、計測流路M内の気体GSに放熱できない状況になったときでも、加熱用抵抗線4の温度が上昇する前に、少なくとも加熱用抵抗線4への通電が遮断できる。
【0061】
また、実施形態2に係る熱式流量計101では、スイッチ60とスイッチ作動制御手段80とが、インターロック回路で電気的に接続されているので、Nガス(気体GS)の流量計測時に、例えば、作業者が、当該熱式流量計101の流量検知部3が真空下の雰囲気に晒されているという不測の事態に気付かない場合等でも、スイッチ作動制御手段80により、スイッチ60が自動でオフに作動できるようになる。
よって、本実施形態に係る熱式流量計101は、保全上、より信頼性の高い装置となる。
【0062】
また、実施形態2に係る熱式流量計101では、測温抵抗体6は、白金からなるので、抵抗値が温度に対しリニアに変化すると共に、単位温度当たりの抵抗値の変化量が比較的大きくできるため、電流制御手段70が、加熱用抵抗線4で増加した温度、すなわち抵抗値の増加分に応じて、加熱用抵抗線4に流す電流を小さく制御するときに、加熱用抵抗線4に流す電流を精度良く制御することができる。
【0063】
以上において、本発明を実施形態1,2に即して説明したが、本発明は上記実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
(1)例えば、実施形態1,2では、電流制御手段70において、加熱用抵抗線4に通電する電流の大きさの制御を、トランジスタ71を用いて行ったが、電流制御手段は、トランジスタ71に代えて、FET(Field Effect Transistor)を用いて構成しても良い。
(2)実施形態1,2で例示した既存の熱式流量計1の構造は、実施形態に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 既存の熱式流量計
101 熱式流量計(本発明の熱式流量計)
3 流量検知部
4 加熱用抵抗線
5A,5B 流速計測用抵抗線
6 測温抵抗体
M 計測流路
50 流量検知部保護装置(本発明の熱式流量計向け流量検知部保護装置)
150 流量検知部保護ユニット(本発明の熱式流量計向け流量検知部保護装置)
60 スイッチ
70 電流制御手段
80 スイッチ作動制御手段
Vh 検出電圧部
GS,GS,GS 気体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の流量を計測する計測流路に、ヒータである加熱用抵抗線と、流速計測用抵抗線と、測温抵抗体とを有した流量検知部を配置し、前記流量検知部により前記気体の流量を計測する熱式流量計において、
前記流量検知部が、真空の雰囲気下に晒されたとき、前記流量検知部を保護するため、前記加熱用抵抗線への通電をオフにするスイッチ作動制御手段を備えることを特徴とする熱式流量計。
【請求項2】
請求項1に記載する熱式流量計において、
当該式流量計のうち、少なくとも前記加熱用抵抗線への通電をオン/オフするスイッチと、
通電状態で前記加熱用抵抗線が昇温したときに、前記加熱用抵抗線の温度と前記測温抵抗体の温度との差を一定に保つよう、前記加熱用抵抗線で増加した分の抵抗値に応じて、前記加熱用抵抗線に流す電流を小さく制御する電流制御手段とを備え、
前記スイッチ作動制御手段が、通電時に前記計測流路が前記流量検知部と共に真空の雰囲気下に晒され、前記加熱用抵抗線の電圧を検出できる検出電圧部の電圧値Vが、基準電圧値Vから、閾値として予め設定された遮断電圧値V以下に変化したときに、前記加熱用抵抗線が真空の雰囲気下に晒されていると判断して、前記スイッチをオフに切り替えることを特徴とする熱式流量計。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する熱式流量計において、
前記スイッチと前記スイッチ作動制御手段とが、インターロック回路で電気的に接続されていることを特徴とする熱式流量計。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する熱式流量計において、
前記測温抵抗体は、白金からなることを特徴とする熱式流量計。
【請求項5】
気体の流量を計測する計測流路に、ヒータである加熱用抵抗線と、流速計測用抵抗線と、測温抵抗体とを有した流量検知部を配置し、前記流量検知部により前記気体の流量を計測する既存の熱式流量計に対して付加する熱式流量計向け流量検知部保護装置において、
当該熱式流量計向け流量検知部保護装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する熱式流量計に有する前記スイッチ、前記電流制御手段、及び前記スイッチ作動制御手段からなることを特徴とする熱式流量計向け流量検知部保護装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−189568(P2012−189568A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132888(P2011−132888)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000106760)CKD株式会社 (627)
【Fターム(参考)】