説明

熱式空気流量計

【課題】高額なトリミング設備を必要とすることなく、ヒータ温度制御部7に使用される抵抗体20、21の温度差ばらつきを調整できる熱式空気流量計を提供する。
【解決手段】ヒータ温度制御部7のブリッジ回路に電圧を供給する電圧供給部9は、第1の給電端子30に接続される一方の直列アームに第1の電圧を供給する第1の電圧供給手段9aと、第2の給電端子32に接続される他方の直列アームに第2の電圧を供給する第2の電圧供給手段9bとを有し、第1の電圧供給手段9aと第2の電圧供給手段9bのうち、少なくとも一方の電圧供給手段は、供給電圧を調整可能な電圧調整機能を備えている。電圧の調整は、コネクタの内部に設けられたトリム端子に外部からの電気信号を入力して、回路チップ12に組み込まれたEPROM等のメモリに所定の電圧が得られる様にデータを書き込むことで行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のエンジンに供給される空気の流量を計測する熱式空気流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気やガス等の流体流量を計測する熱式流量計がある。この熱式流量計は、流体温度より一定温度だけ高い基準温度に加熱される発熱ヒータと、流体の流れ方向に対し発熱ヒータの上流側と下流側とにそれぞれ配置される上流側感温抵抗体と下流側感温抵抗体とを有し、この上流側感温抵抗体と下流側感温抵抗体との温度差により流体流量を計測する方式であり、発熱ヒータの温度を基準温度に制御するブリッジ回路を備えている。
例えば、特許文献1では、図10に示す様に、給電端子100とアース側端子110との間に二つのブリッジアームが並列に接続され、一方のアームブリッジには、発熱ヒータ120の温度を検出する感温抵抗体130と、抵抗値が調整可能な抵抗体140とが直列に接続され、他方のブリッジアームには、流体温度を検出する感温抵抗体150と、抵抗値が調整可能な抵抗体160と、抵抗値が固定された抵抗体170とが直列に接続され、給電端子100とアース側端子110との間に一定電圧が供給される。抵抗値が調整可能な抵抗体140、160は、支持体上の厚膜抵抗により形成され、感温抵抗体130と感温抵抗体150との温度差が略一定になるように調整される。
【0003】
また、特許文献2では、図11に示す様に、給電端子200とアース側端子210との間に二つのブリッジアームが並列に接続され、一方のアームブリッジには、発熱ヒータ220の温度を検出する感温抵抗体230と他の感温抵抗体240とが直列に接続され、他方のブリッジアームには、流体温度を検出する感温抵抗体250と他の感温抵抗体260とが直列に接続され、給電端子200とアース側端子210との間に一定電圧が供給される。このブリッジ回路を形成する4つの感温抵抗体230〜260は、それぞれ、同じプロセス、同じ材料で形成され、略同じ抵抗温度係数を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−160142号公報
【特許文献2】特許第3817497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、個体毎に抵抗体140、160の抵抗値を調整することにより、感温抵抗体130と感温抵抗体150との温度差を調整可能であるが、抵抗値が調整可能な抵抗体140、160は、面積が大きいため、回路が大きくなる。
また、厚膜抵抗は、通常、レーザ等でトリミング調整されるため、そのレーザトリミングを行うために高額な設備が必要である。
さらに、厚膜抵抗を調整した後に、シリコンゲル等により保護した後、カバー等を被せる必要があるため、後工程で特性が変動する恐れがあると共に、工程が複雑で装置が高価になる。
【0006】
一方、特許文献2では、ブリッジ回路を形成する4つの感温抵抗体230〜260が、同じ材料、同じプロセスで形成され、略同じ抵抗温度係数を有しているので、特許文献1のように、個体毎に調整しなくても温度差のばらつきは小さい。ところが、実際には、4つの感温抵抗体230〜260のセンサ素子上での配置、形状、温度が異なるため、高精度な流量計測を達成するには、温度差を個別に調整する必要がある。しかし、同文献2に開示された従来技術では、調整機能がなく、高精度な流量計測ができないという問題がある。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、高額なトリミング設備を必要とすることなく、ヒータ温度制御部に使用される抵抗体の温度差ばらつきを調整できる熱式空気流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1に係る発明)
本発明は、通電により発熱する発熱ヒータを有して空気通路に配置されるセンサ部と、空気通路を流れる空気と発熱ヒータとの温度差が一定となる様に発熱ヒータの温度を制御するヒータ温度制御部と、発熱ヒータからの放熱量を基に空気通路を流れる空気流量を検出する流量検出部とを備える熱式空気流量計であって、ヒータ温度制御部は、発熱ヒータの温度を検出するヒータ温度検出抵抗と、空気通路を流れる空気の温度を検出する空気温度検出抵抗と、ヒータ温度検出抵抗と直列に接続される第1の抵抗体と、空気温度検出抵抗と直列に接続される第2の抵抗体と、ヒータ温度検出抵抗と第1の抵抗体とが接続される一方の直列アームに第1の電圧を供給し、空気温度検出抵抗と第2の抵抗体とが接続される他方の直列アームに第2の電圧を供給する電圧供給手段とを有し、この電圧供給手段は、ヒータ温度検出抵抗と空気温度検出抵抗との温度差が一定となるように、第1の電圧と第2の電圧の少なくとも一方の電圧を調整可能な電圧調整機能を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、電圧調整機能によって第1の電圧と第2の電圧の少なくとも一方の電圧を調整することにより、第3、第2の抵抗体をレーザ等でトリミング調整した場合と同等の効果を得ることができる。これにより、ヒータ温度検出抵抗と空気温度検出抵抗との温度差が一定となる様に発熱ヒータの温度を制御できる、つまり、発熱ヒータの温度を空気温度に対し一定の温度差に制御できるので、発熱ヒータからの放熱量を基に空気流量を精度良く検出できる。
また、本発明によれば、抵抗体の劣化や汚損による流量特性の変化および特性ばらつきを抑制できるので、個体毎(製品毎)の温度差ばらつきを容易に調整できる。
【0009】
(請求項2に係る発明)
請求項1に記載した熱式空気流量計において、ヒータ温度制御部及び流量検出部を基板上に回路構成する回路チップを有し、外部からの電気信号を入力して、回路チップに組み込まれたメモリにデータを書き込むことにより、第1の電圧と第2の電圧の少なくとも一方の電圧を調整することを特徴とする。
本発明によれば、電圧調整機能により、製品組み立て後に電圧調整を行うことができる。言い換えると、熱式空気流量計として完成された状態で、外部からの電気信号により、EPROM等のメモリにデータを書き込むことで電圧を調整できる。この場合、後工程によって特性が変動することはないので、高精度な熱式空気流量計を提供できる。また、レーザトリミング等の高額な設備を使用する必要がないので、製造コストを低く抑えることが出来る。
【0010】
(請求項3に係る発明)
請求項1または2に記載した熱式空気流量計において、センサ部は、基板の一部にメンブレンを有するセンサチップによって構成され、発熱ヒータとヒータ温度検出抵抗は、メンブレン上に配置され、空気温度検出抵抗は、センサチップ上でメンブレンより外側の領域に配置されていることを特徴とする。
基板の熱容量が小さいメンブレン上に発熱ヒータとヒータ温度検出抵抗を配置することで、発熱ヒータへの供給電圧を低く設定できる。
【0011】
(請求項4に係る発明)
請求項3に記載した熱式空気流量計において、第1の抵抗体と第2の抵抗体の少なくも一方の抵抗体は、センサチップ上でメンブレンより外側の領域に配置されていることを特徴とする。
この場合、センサチップ上に配置される第1の抵抗体と第2の抵抗体の少なくも一方の抵抗体は、発熱ヒータ及びヒータ温度検出抵抗と同一工程で形成できる。この場合、抵抗比ばらつきを小さくでき、温度差ばらつきの調整範囲を小さくできるので、高精度で温度差を調整できる。
【0012】
(請求項5に係る発明)
請求項3または4に記載した熱式空気流量計において、回路チップとセンサチップは、共通のケースに一体に収容されてセンサアセンブリとして構成されていることを特徴とする。
センサチップと回路チップを共通のケースに一体に収容することで、センサチップと回路チップとの配線接続をワイヤボンディング等によって容易にでき、且つ、一つのセンサアセンブリとして構成することにより小型化が可能となる。
【0013】
(請求項6に係る発明)
請求項1〜5に記載した何れか一つの熱式空気流量計において、センサ部は、空気の流れ方向に対して発熱ヒータの上流側と下流側にそれぞれ配置される測温抵抗体を有し、流量検出部は、上流側の測温抵抗体と下流側の測温抵抗体との温度差より空気流量を検出することを特徴とする。
本発明の構成によれば、発熱ヒータの上流側と下流側にそれぞれ測温抵抗体を配置しているので、順方向の空気流量、つまり、発熱ヒータの上流側から下流側へ向かう空気の流量だけでなく、逆方向の空気流量、つまり、発熱ヒータの下流側から上流側へ逆流する空気の流量も検出できる。これにより、例えば、自動車のエンジンに吸入される吸気量を計測するエアフロメータに本発明の熱式空気流量計を適用した場合に、エンジンに吸入される順方向の吸気量だけでなく、例えば、吸気脈動等によって生じる逆流時の空気流量も計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒータ温度制御部と電圧供給部の回路図である(実施例1)。
【図2】熱式空気流量計を吸気ダクトに取り付けた状態を示す断面図である。
【図3】(a)流量センサの平面図、(b)同図(a)のA−A断面図である。
【図4】センサチップの断面図である。
【図5】メンブレン上に配置された抵抗体の形状を示す平面図である。
【図6】流量検出部の回路図である。
【図7】(a)流量検出の原理を示す温度分布図、(b)空気の流れ方向に沿って切断したセンサチップの断面図である。
【図8】熱式空気流量計の出力特性を示すグラフである。
【図9】ヒータ温度制御部と電圧供給部の回路図である(実施例2)。
【図10】発熱ヒータの温度を制御するブリッジ回路である(特許文献1)。
【図11】発熱ヒータの温度を制御するブリッジ回路である(特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
この実施例1では、自動車のエンジンに吸入される空気流量(吸気量と呼ぶ)を計測する熱式空気流量計1の一例を説明する。
熱式空気流量計1は、図2に示す様に、エンジンの吸気ダクト2に取り付けられるセンサハウジング3と、このセンサハウジング3に保持される流量センサ4(図3参照)とを備える。吸気ダクト2は、吸気量を調節するスロットルバルブ(図示せず)より上流側の吸気通路であり、例えば、吸気通路の最上流に配置されるエアクリーナの出口パイプ、あるいは、この出口パイプに接続される吸気管等である。
センサハウジング3は、吸気ダクト2の壁面に空けられた取付け孔より吸気ダクト2の内部に挿入され、センサハウジング3に設けられるフランジ部3aを介して吸気ダクト2にボルト等によって着脱可能に固定される。
【0017】
センサハウジング3には、吸気ダクト2の内部を上流側(エアクリーナ側)から下流側(エンジン側)に向かって流れる空気、つまり、エンジンに吸入される空気の一部を取り込むバイパス通路が形成されている。このバイパス通路は、吸気ダクト2の上流側に向かって開口する入口5aと、吸気ダクト2の下流側に向かって開口する出口5bとの間を連通するメイン通路5と、このメイン通路5を流れる空気の一部を取り込むサブ通路6とを有する。
メイン通路5は、入口5aと出口5bとの間が略直線的に形成され、且つ、出口側の流路断面積が出口5bに向かって次第に減少するテーパ形状に形成されている。
サブ通路6は、メイン通路5の途中から分岐するサブ入口6aと、メイン通路5の出口5bの周囲に環状に開口するサブ出口6bとの間を連通して形成される。このサブ通路6は、通路途中に大きな曲がり部が設けられて、メイン通路5より通路長が長く形成されている。
【0018】
流量センサ4は、後述するヒータ温度制御部7、流量検出部8、電圧供給部9、および、デジタル演算部10等の機能を有し、これらの機能が、センサチップ11と回路チップ12とに形成されている。センサチップ11と回路チップ12は、共通の樹脂ケース13に一体に収容されてセンサアセンブリとして構成されている。
センサチップ11には、図4に示す様に、センサ基板14の一部にメンブレン15が形成されている。このメンブレン15は、センサ基板14の表面にスパッタ法あるいはCVD法等により形成される絶縁膜であり、例えば、異方性エッチングにより、センサ基板14の裏面から絶縁膜との境界面までセンサ基板14の一部を除去して空洞部14aを設けることにより形成される。
【0019】
メンブレン15の表面上には、図5に示す様に、発熱ヒータ16、傍熱抵抗体17、測温抵抗体18が配置され、メンブレン15から外れた領域には、吸気温検出抵抗体19、第1の抵抗体20、および、第2の抵抗体21が配置されている。
発熱ヒータ16は、メンブレン15の略中央部に配置され、ヒータ温度制御部7によって基準温度に制御される。
傍熱抵抗体17は、発熱ヒータ16の周囲を囲む様に近接して配置されて、発熱ヒータ16の温度を検出する。
測温抵抗体18は、図7(b)に示す様に、空気の流れ方向に対して発熱ヒータ16の上流側(図示左側)に配置される2個の測温抵抗体18(第1測温抵抗体18a、第2測温抵抗体18b)と、発熱ヒータ16の下流側に配置される2個の測温抵抗体18(第1測温抵抗体18c、第2測温抵抗体18d)とを有し、上流側の測温抵抗体18と下流側の測温抵抗体18との温度差より空気流量を検出する。
【0020】
吸気温検出抵抗体19は、空洞部14aが形成されていないセンサ基板14の厚肉部分に配置されて空気の温度(吸気温度と呼ぶ)を検出する。この吸気検出抵抗体19は、発熱ヒータ16の熱が温度検出に影響を及ぼさないように、発熱ヒータ16から所定距離だけ離れた位置に配置される。
第1の抵抗体20と第2の抵抗体21は、吸気温検出抵抗体19と同様に、センサ基板14の厚肉部分に配置され、発熱ヒータ16の熱影響を受けないように、発熱ヒータ16から所定距離だけ離れた位置に配置される。なお、第1の抵抗体20と第2の抵抗体21は、どちらか一方あるいは両方を回路チップ12の基板上に設けることもできる。
上記の発熱ヒータ16、傍熱抵抗体17、測温抵抗体18、吸気温検出抵抗体19、第1の抵抗体20、および、第2の抵抗体21は、例えば、スパッタあるいは蒸着などの成膜技術により薄膜形成した後、エッチングにより所望の形状にパターニングして形成することができる。抵抗体の材料としては、例えば、信頼性の高い白金を使用することが望ましい。
【0021】
また、センサチップ11には、図4に示す様に、各抵抗体16〜21にそれぞれ接続される配線パターン22と、これらの配線パターン22の端部に設けられるボンディングパッド23が形成され、このボンディングパッド23と回路チップ12に設けられる電極部(図示せず)とがワイヤボンディング24によって電気的に接続されている。
さらに、センサチップ11の表面には、ボンディングパッド23の表面のみ露出した状態で、各抵抗体16〜21、および、配線パターン22を保護する保護膜25が形成されている。なお、図4では、保護膜25が二層に形成されているが、一層だけでも良い。
このセンサチップ11は、サブ通路6を流れる空気に晒される様に、サブ通路6に露出した状態に配置される(図2参照)。
【0022】
ヒータ温度制御部7は、図1に示す様に、二本の直列アームを有するブリッジ回路と、このブリッジ回路の二つの中点端子26、27に接続されるオペアンプ28と、このオペアンプ28の出力に基づいてオン/オフするトランジスタ29より構成され、発熱ヒータ16の温度を吸気温より所定温度(例えば200℃)だけ高い基準温度に制御する。
ヒータ温度制御部7のブリッジ回路は、第1の給電端子30とアース端子31との間に接続される一方の直列アームと、第2の給電端子32とアース端子31との間に接続される他方の直列アームとを有し、一方の直列アームには、発熱ヒータ16の温度を検出する傍熱抵抗体17と第1の抵抗体20とが直列に接続され、他方の直列アームには、吸気温度を検出する吸気温検出抵抗体19と第2の抵抗体21とが直列に接続される。
【0023】
このヒータ温度制御部7による発熱ヒータ16の温度制御は、以下の様に行われる。
発熱ヒータ16の温度が基準温度より低下すると、発熱ヒータ16の抵抗値が低下してブリッジ回路の二つの中点端子26、27間に電位差が生じるため、オペアンプ28の出力によりトランジスタ29がオンする。その結果、電源33(図1参照)より発熱ヒータ16に電流が供給されて、発熱ヒータ16の温度が上昇する。その後、発熱ヒータ16の温度が基準温度まで上昇すると、二つの中点端子26、27間の電位差が無くなる、つまり、ブリッジ回路の平衡が保たれることにより、トランジスタ29がオフして発熱ヒータ16に供給される電流が遮断される。その結果、発熱ヒータ16の温度が基準温度に保たれる。
【0024】
流量検出部8は、図6に示す様に、4個の測温抵抗体18を各辺に配置して形成されるブリッジ回路と、このブリッジ回路の二つの中点端子34、35に接続されるオペアンプ36とで構成され、上流側の測温抵抗体18(第1測温抵抗体18a、第2測温抵抗体18b)と下流側の測温抵抗体18(第1測温抵抗体18c、第2測温抵抗体18d)との温度差より吸気量を検出する。
流量検出部8のブリッジ回路は、所定の電圧が印加される給電端子37と、アースに接続されるアース端子38との間に二本のブリッジアームを有し、一方のブリッジアームには、発熱ヒータ16より上流側の第1測温抵抗体18aと下流側の第1測温抵抗体18cとが直列に接続され、他方のブリッジアームには、発熱ヒータ16より下流側の第2測温抵抗体18dと上流側の第2測温抵抗体18bとが直列に接続されている。
【0025】
ここで、発熱ヒータ16からの放熱量と測温抵抗体18の検出温度との関係について、図7を基に説明する。
サブ通路6に空気流れが発生していない時は、図7(a)の破線グラフで示す様に、発熱ヒータ16を中心として上流側と下流側とで温度分布が対称となり、上流側の測温抵抗体18a、18bと下流側の測温抵抗体18c、18dとの間に温度差は生じない。
これに対し、サブ通路6に順方向の空気流れが発生している場合は、上流側の測温抵抗体18a、18bの方が下流側の測温抵抗体18c、18dより空気流れによる冷却効果が大きいため、図7(a)の実線グラフで示す様に、発熱ヒータ16の下流側(図示右側)へ偏った温度分布が生じる。
つまり、上流側の測温抵抗体18a、18bの方が下流側の測温抵抗体18c、18dより検出温度が低くなる。一方、サブ通路6に逆方向の空気流れが発生すると、発熱ヒータ16の上流側へ偏った温度分布が生じるため、上流側の測温抵抗体18a、18bの方が下流側の測温抵抗体18c、18dより検出温度が高くなる。
【0026】
上記の様に、サブ通路6に空気の流れが発生すると、図8に示す様に、空気流量(吸気量)および空気の流れ方向に応じて、上流側の測温抵抗体18a、18bの検出温度と下流側測の測温抵抗体18c、18dの検出温度との間に温度差ΔTが生じるため、この温度差ΔTより吸気量および空気の流れ方向を検出できる。
上流側の測温抵抗体18a、18bの検出温度と下流側測の測温抵抗体18c、18dの検出温度との間に温度差ΔTが生じた場合、つまり、上流側の測温抵抗体18a、18bの抵抗値と下流側の測温抵抗体18c、18dの抵抗値とがそれぞれ変化して、ブリッジ回路の二つの中点端子34、35間に電位差が生じると、その電位差がオペアンプ36により増幅されてデジタル演算部10へ出力される(図6参照)。
【0027】
電圧供給部9は、図1に示す様に、電源電圧より基準電圧を生成する基準電圧発生手段9Aと、基準電圧を基に第1の電圧と第2の電圧を生成し、第1の電圧を第1の給電端子30に印加する第1の電圧供給手段9aと、第2の電圧を第2の給電端子32に印加する第2の電圧供給手段9bとを有している。また、第1の電圧供給手段9aと第2の電圧供給手段9bのうち、少なくとも一方の電圧供給手段は、供給電圧を調整可能に構成され、本発明の電圧調整機能を備える。
電圧の調整は、図2に示すフランジ部3aと一体に樹脂成形されたコネクタ39の内部にトリム端子(図示せず)が設けられており、このトリム端子に外部からの電気信号を入力して、回路チップ12に組み込まれたEPROM等のメモリに所定の電圧が得られる様にデータを書き込むことで行うことができる。
【0028】
デジタル演算部10(図6参照)は、流量検出部8で検出される吸気量に応じた電圧信号(アナログ値)をデジタル変換するA/D変換器と、温度補正に関するデータを組み込んだ補正マップを記憶するメモリと、このメモリに記憶された補正マップを基に温度特性のずれを補正する補正部と、温度補正された電圧値を周波数値に変換して、センサ信号として外部のECU(図示せず)へ出力する信号出力部等より構成される。なお、センサ信号は、電圧値を周波数値に変換することなく、電圧値のままECUへ出力することもできる。このデジタル演算部10および上記の電圧供給部9は、回路チップ12の基板上に構成されている。
【0029】
(実施例1の作用および効果)
本実施例の熱式空気流量計1は、第1の電圧供給手段9aと第2の電圧供給手段9bのうち、少なくとも一方の電圧供給手段が本発明の電圧調整機能を備えている。よって、第1の給電端子30を介して一方の直列アームに印加される第1の電圧と、第2の給電端子32を介して他方の直列アームに印加される第2の電圧のうち、少なくとも一方の電圧は、トリム端子を通じて外部から入力される電気信号によって所定の電圧に調整することができる。これにより、ヒータ温度制御部のブリッジ回路に使用される第1の抵抗体20および第2の抵抗体21は、両者の抵抗温度係数にばらつきがあっても、上記の電圧調整を行うことにより、例えば、レーザ等でトリミング調整した場合と同等の効果を得ることができる。
【0030】
上記の構成によれば、第1の電圧と第2の電圧のうち少なくとも一方の電圧を調整することで、傍熱抵抗体17と吸気温検出抵抗体19との温度差を一定に保つことができる。言い換えると、発熱ヒータ16の温度を吸気温度より所定温度だけ高い基準温度に制御できるので、発熱ヒータ16からの放熱量を基に空気流量を精度良く検出できる。また、抵抗体の劣化や汚損による流量特性の変化および特性ばらつきを抑制できるので、個体毎(製品毎)の温度差ばらつきを容易に調整できる。
【0031】
また、抵抗体をレーザ等でトリミング調整する場合は、後工程(シリコンゲル等による保護、カバー等を被せる工程等)で特性が変動する恐れがあるが、本実施例の熱式空気流量計1は、コネクタ39の内部に外部からの電気信号を入力するトリム端子を備えているので、熱式空気流量計1として完成された状態、つまり、製品組み立て後に電圧の調整を行うことができる。よって、後工程で特性が変動することはなく、高精度な熱式空気流量計1を提供できる。また、レーザトリミングを行うための高額な設備を使用する必要がないので、製造コストを低く抑えることが出来る。
【0032】
(実施例2)
実施例2に示す熱式空気流量計1は、ヒータ温度制御部7に使用されるブリッジ回路の一方の直列アームに接続される傍熱抵抗体17と第1の抵抗体20、および、他方の直列アームに接続される吸気温検出抵抗体19と第2の抵抗体21の配置が実施例1とは異なる。つまり、この実施例2では、図9に示す様に、一方の直列アームには、第1の給電端子30側に傍熱抵抗体17が接続され、アース端子31側に第1の抵抗体20が接続される。他方の直列アームには、第2の給電端子32側に吸気温検出抵抗体19が接続され、アース端子31側に第2の抵抗体21が接続される。
上記の構成において、電圧供給部9より、第1の給電端子30を通じて一方の直列アームに第1の電圧が供給され、第2の給電端子32を通じて他方の直列アームに第2の電圧が供給される。
【0033】
また、傍熱抵抗体17と吸気温検出抵抗体19との温度差が一定となるように、第1の電圧と第2の電圧のうち、少なくとも一方の電圧を調整可能に設けられている。電圧の調整は、実施例1と同じく、トリム端子に外部からの電気信号を入力して、EPROM等のメモリに所定の電圧が得られる様にデータを書き込むことで行われる。すなわち、この実施例2は、ブリッジ回路の一方の直列アームに接続される傍熱抵抗体17と第1の抵抗体20、他方の直列アームに接続される吸気温検出抵抗体19と第2の抵抗体21の配置が実施例1の場合と異なるだけであり、第1の電圧と第2の電圧のうち、少なくとも一方の電圧を調整することで、傍熱抵抗体17と吸気温検出抵抗体19との温度差が一定となる様に制御しているので、実施例1と同じ効果を得ることができる。
【0034】
(変形例)
実施例1に記載した熱式空気流量計1は、発熱ヒータ16の上流側に配置される測温抵抗体(第1測温抵抗体18a、第2測温抵抗体18b)と、発熱ヒータ16の下流側に配置される測温抵抗体(第1測温抵抗体18c、第2測温抵抗体18d)との温度差を基に空気流量を検出しているが、例えば、センサチップ11のメンブレン15上に少なくとも2個の発熱ヒータ16を配置し、空気の流れ方向に対し上流側に配置される発熱ヒータ16からの放熱量と、下流側に配置される発熱ヒータ16からの放熱量との差より空気流量を検出する方式の熱式空気流量計に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 熱式空気流量計
6 サブ通路(空気通路)
7 ヒータ温度制御部
8 流量検出部
9 電圧供給部
9a 第1の電圧供給手段(電圧調整機能)
9b 第2の電圧供給手段(電圧調整機能)
11 センサチップ(センサ部)
12 回路チップ
13 回路チップとセンサチップを収容する共通の樹脂ケース
14 センサ基板
15 メンブレン
16 発熱ヒータ
17 傍熱抵抗体(ヒータ温度検出抵抗)
18 測温抵抗体
19 吸気温検出抵抗体(空気温度検出抵抗)
20 第1の抵抗体
21 第2の抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱する発熱ヒータを有して空気通路に配置されるセンサ部と、
前記空気通路を流れる空気と前記発熱ヒータとの温度差が一定となる様に前記発熱ヒータの温度を制御するヒータ温度制御部と、
前記発熱ヒータからの放熱量を基に前記空気通路を流れる空気流量を検出する流量検出部とを備える熱式空気流量計であって、
前記ヒータ温度制御部は、
前記発熱ヒータの温度を検出するヒータ温度検出抵抗と、
前記空気通路を流れる空気の温度を検出する空気温度検出抵抗と、
前記ヒータ温度検出抵抗と直列に接続される第1の抵抗体と、
前記空気温度検出抵抗と直列に接続される第2の抵抗体と、
前記ヒータ温度検出抵抗と前記第1の抵抗体とが接続される一方の直列アームに第1の電圧を供給し、前記空気温度検出抵抗と前記第2の抵抗体とが接続される他方の直列アームに第2の電圧を供給する電圧供給手段とを有し、
この電圧供給手段は、前記ヒータ温度検出抵抗と前記空気温度検出抵抗との温度差が一定となるように、前記第1の電圧と前記第2の電圧の少なくとも一方の電圧を調整可能な電圧調整機能を備えることを特徴とする熱式空気流量計。
【請求項2】
請求項1に記載した熱式空気流量計において、
前記ヒータ温度制御部と前記流量検出部を基板上に回路構成する回路チップを有し、
前記電圧調整機能は、外部からの電気信号を入力して、前記回路チップに組み込まれたメモリにデータを書き込むことにより、前記第1の電圧と前記第2の電圧の少なくとも一方の電圧を調整できることを特徴とする熱式空気流量計。
【請求項3】
請求項2に記載した熱式空気流量計において、
前記センサ部は、基板の一部にメンブレンを有するセンサチップによって構成され、
前記発熱ヒータと前記ヒータ温度検出抵抗は、前記メンブレン上に配置され、
前記空気温度検出抵抗は、前記センサチップ上で前記メンブレンより外側の領域に配置されていることを特徴とする熱式空気流量計。
【請求項4】
請求項3に記載した熱式空気流量計において、
前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の少なくも一方の抵抗体は、前記センサチップ上で前記メンブレンより外側の領域に配置されていることを特徴とする熱式空気流量計。
【請求項5】
請求項3または4に記載した熱式空気流量計において、
前記回路チップと前記センサチップは、共通のケースに一体に収容されてセンサアセンブリとして構成されていることを特徴とする熱式空気流量計。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れか一つの熱式空気流量計において、
前記センサ部は、空気の流れ方向に対して前記発熱ヒータの上流側と下流側にそれぞれ配置される測温抵抗体を有し、
前記流量検出部は、上流側の前記測温抵抗体と下流側の前記測温抵抗体との温度差より空気流量を検出することを特徴とする熱式空気流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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