説明

熱接着用多層テープ及び包装体

【課題】雰囲気改良効果を発揮できる優れた熱接着用多層テープ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】雰囲気改良物質を含むスチレン系エラストマーからなる基材層1と、基材層の上下表面1a、1bを被覆する、ポリオレフィン系樹脂を含む表面層2a、2bからなる熱接着用多層テープ10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装、薬品包装、医薬品包装、化粧品包装、衣料品包装等に好適に使用できる熱接着用多層テープ及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
包装袋、容器は被包装物を光や衝撃又はホコリ付着から保護する目的で使用されているが、さらに積極的に包装袋、容器内の酸素を除去する、除湿するあるいは殺虫剤を気化させて殺虫する等の雰囲気改良機能が求められている。
【0003】
従来から包装袋内に小袋形態の乾燥剤や防虫剤を同封し、包装袋内の湿気を吸収したり、包装袋内の衣料品を害虫から保護することが行われている。
しかし、この様に包装袋内に小袋を添付することは、投入工程が増えるため、産業的には包装効率や包装コストの面で問題がある。また、投入漏れ等の危険が常に存在する。
【0004】
これらを解決するために包装袋用フィルムを形成する1部の層に乾燥剤を含有させること(特許文献1)や不織布に樹脂と忌避剤を塗工して固着させること(特許文献2)等が提案されている。
【0005】
特許文献1は、吸湿基材として一般的ポリオレフィンを用いているので、そのままでは吸湿速度が遅いため、乾燥剤層の吸湿速度を向上させるために吸湿基材と接するフィルムに無数の微孔が開けられている。この技術は吸湿速度が速くなるものの熱接着強度の低下や微孔から吸湿剤の一部が脱離する恐れがある。また、微孔加工するため、フィルム材質に制限を受ける。
吸湿力を長く保持するためには、樹脂に分散させる乾燥剤を可能な限り多く入れる方がよいが、量が多過ぎるとフィルム外観が低下するとともに、生産時にメルトウェブが切れる等製造上の問題が非常に起きやすくなる。
さらに乾燥剤が分散されている樹脂層は強度が弱くなるため、製袋して使用するとき、シール表面層が破れなくても、次層の乾燥剤層が破断することが起こる。
【0006】
一方、特許文献2の不織布に樹脂と忌避剤を塗工して固着させて製造したテープは、薬剤がテープ表面に露出してテープ間がブロッキングしたり、不透明となる問題がある。また、塗工のため、固着できる薬剤濃度が低く、またポリオレフィンへの吸着量は少ないため持続性に劣ると共に固着できる薬剤の種類に制限がある。さらに、表面のこすれ等により、薬剤部分が剥離し易い。
【特許文献1】特開2001−823号公報
【特許文献2】特開平5−320003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の包装材には以下の課題があった。
(1)乾燥剤や酸素吸収剤が表面層から脱離したり、表面層にある薬剤によりフィルムどうしがブロッキングする。
(2)表面層の熱接着強度が弱い。
(3)一般的なポリオレフィンを基材形成樹脂として用いると水蒸気や酸素吸収速度が遅くなる。
(4)ポリオレフィンへの薬剤吸着量は少なく、薬剤の徐放に持続性がない。
(5)フィルムとしての包装体への利用は、生産性、機械的物性が悪い。
【0008】
本発明の目的は、雰囲気改良効果を発揮できる優れた熱接着用多層テープ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の熱接着用多層テープ等が提供される。
1.雰囲気改良物質を含むスチレン系エラストマーからなる基材層と、前記基材層の上下表面を被覆する、ポリオレフィン系樹脂を含む表面層からなる熱接着用多層テープ。
2.前記スチレン系エラストマーが、ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、及びこれらの水添物より選ばれる少なくとも一種のブロック共重合体である1記載の熱接着用多層テープ。
3.前記雰囲気改良物質が、脂溶性揮発物質、粉体状酸素吸収剤又は粉体状乾燥剤である1又は2記載の熱接着用多層テープ。
4.前記脂溶性揮発物質が、香料、抗菌剤、殺虫剤、防ダニ剤、動物忌避剤、防黴剤又は防錆剤である3記載の熱接着用多層テープ。
5.前記基材層が、液状炭化水素及び脂溶性揮発物質を含む1〜4のいずれか記載の熱接着用多層テープ。
6.前記表面層がポリオレフィン系樹脂と、ガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂とを含み、両者の総和100重量%に対するガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂の割合が50重量%未満である1〜5のいずれかに記載の熱接着用多層テープ。
7.液状炭化水素を含むスチレン系エラストマーに脂溶性揮発物質が含浸しているペレットと、液状炭化水素を含まないスチレン系エラストマーとをドライブレンドした後、ポリオレフィンと共押出しする5記載の熱接着用多層テープの製造方法。
8.1〜6のいずれか記載の熱接着用多層テープが接着している包装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、雰囲気改良効果を発揮できる優れた熱接着用多層テープ及びその製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、表面層にガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂、好ましくは非晶性ナイロン又はエチレン−ビニルアルコール共重合体を配合することにより、熱接着性を損なうことなく、揮発性物質の揮発性を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明の熱接着性多層テープの形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る多層テープの断面図である。この多層テープ10は基材層1と表面層2a、2bで構成され、表面層2a、2bが基材層1の上下表面1a、1bをそれぞれ被覆している。
図1(b)は、本発明の他の実施形態に係る多層テープの断面図である。この多層テープ20は基材層1と表面層2cで構成されているが、表面層2cが基材層1の上下表面1a、1b及び左右の耳部1c、1dを被覆している。
多層テープの形状としては、特に制限はないが、通常、長尺な矩形状である。また、断面の形態としては、図1(a)、図1(b)に示すように、矩形状の基材層が表面層に覆われている形態、円形の基材層のまわりがドーナツ形の表面層に覆われている形態等、種々の形態を採用できる。
基材層と、表面層の厚みは用途に応じて適宜設定できるが、一般には、それぞれ20〜300μm、5〜100μmである。
本発明の形態はテープ状であるため、基材層の選択範囲が広く生産安定性に優れている。
尚、本発明の多層テープは、基材層と表面層の他、剛性や伸びを調整するための層を含み得る。また、基材層と表面層の間に、ガス、水蒸気バリア層等の中間層を含んでもよい。基材層より袋内側に中間層があると、雰囲気改良物質が袋内へ徐放する速度を遅くすることもできる。
【0012】
次に、本発明の熱接着性多層テープを構成する各層の材料について説明する。
(1)表面層
表面層を形成する材料はポリオレフィン系樹脂であればよく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系エラストマー等が挙げられる。ポリエチレンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン(HPP)、ランダムポリプロピレン(RPP)、ブロックポリプロピレン(BPP)、エチレン−αオレフィン共重合エラストマー、オレフィン系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの素材は、単独で用いてもよく、2種以上の樹脂を混合して用いてもよい。
【0013】
表面層は、通常、40重量%以上、好ましくは50重量%を超え100重量%以下のポリオレフィン系樹脂を含む。ポリオレフィン系樹脂が40重量%未満であると、得られる多層テープを実用上問題ない強度でラミネート袋の最内層等へヒートシールすることが難しくなるおそれがある。また、ポリオレフィン系樹脂の配合量が40重量%未満になり、後述するガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂の配合量が多くなると、基材層からの雰囲気改良物質の揮発速度が遅くなりすぎて、本発明の多層テープの雰囲気改良効果が不足するおそれがある。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、通常1〜30g/10分、好ましくは5〜15g/10分の範囲内である。MFRが1g/10分未満であると、製造における吐出量が低減するおそれがあり、30g/10分を超えると、溶融テープの垂れ下がりが大きくなり、引き取り、巻き取り工程に支障を来すおそれがある。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂の市販品としては、F−724NP(出光興産株式会社製、ランダムポリプロピレン、MFR=7g/10分)、エボリューSP1540(三井化学株式会社製、LLDPE、MFR=3.8g/10分、密度=0.913g・cm)、0628G(プライムポリマー社製LLDPE、MFR=6g/10分)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
表面層を形成するポリオレフィン系樹脂に、ガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂(以下、バリア性樹脂という)を配合し、バリア性樹脂の配合量を調整することにより、多層テープの熱接着性能を損なうことなく、後述する、基材層に含まれる揮発性の雰囲気改良物質の揮発性(経時的放出量)を調節し、除放性を持たせることができる。用途に応じて雰囲気改良物質の揮発性(経時的放出量)を調節することができるため、本発明の多層テープをより広い範囲の用途に適用することが可能となる。
ここで、ガスバリア性樹脂とは、包装業界で汎用するガスバリア性樹脂を意味し、通常はポリプロピレンやポリエチレンよりも酸素が透過し難い樹脂を意味する。気体状の薬品をバリアできる樹脂とは、基材層に含まれる雰囲気改良物質が、表面層を構成するポリオレフィン系樹脂よりも透過し難い樹脂を意味する。
【0017】
バリア性樹脂の配合量を増加させていくと、基材層に含まれる雰囲気改良物質がより除放されるようになる。表面層中におけるバリア性樹脂の配合量は、ポリオレフィン系樹脂とバリア性樹脂の総和を100重量%として、50重量%未満、好ましくは10〜45重量%である。50重量%以上になると、雰囲気改良効果の寿命は長くなるが、雰囲気改良物質の放出量が少ないために雰囲気改良効果があまり発現せず、実用的価値の低いものとなる恐れがある。また、多層テープの熱接着性能が低下するおそれもある。
【0018】
バリア性樹脂の配合量は、10重量%以上であることが好ましいが、これは、10重量%未満であると、ポリオレフィン系樹脂を透過しやすい雰囲気改良物質の場合、短時間、例えば、20日程度で雰囲気改良物質が基材層から殆ど放出されてしまい、雰囲気改良効果の寿命が短くなるおそれがあるからである。しかしながら、本発明は、バリア性樹脂の配合量を10重量%未満とすることを否定するものではない。例えば、本発明の多層テープを適用する内容物(製品)の賞味期限や保管期限が短い場合には、本発明の多層テープに対して長期間の雰囲気改良効果を求められず、短期間であっても雰囲気改良効果が大きい方が望ましい場合がある。そのような場合には、敢えてバリア性樹脂の配合量を10重量%未満に減らすこともあり得る。また、ポリオレフィン系樹脂を透過する速度が低い雰囲気改良物質を用いる場合には、バリア性樹脂を配合する必要がないことは当然のことである。
【0019】
バリア性樹脂の例としては、非晶性ナイロン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、非晶性ポリエチレンテレフタレート等が挙げられるが、バリア性の優秀さ、ポリオレフィン系樹脂との混合し易さ、製膜し易さ等から、非晶性ナイロン及びエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0020】
非晶性ナイロンの市販品としては、シーラーPA3426(三井デュポンケミカル社製、230℃におけるMFR=3.5g/10分)等が挙げられる。
【0021】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、特に限定されないが、その融点が、混練するポリオレフィン系樹脂の融点に近い方が押出性が良くなるため望ましい。
【0022】
エチレン−ビニルアルコール共重合体の市販品の例としては、エバール(クラレ社製)、ソアノール(日本合成化学株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
(2)基材層
基材層はスチレン系エラストマーから形成される。スチレン系エラストマーとして、例えば、ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、及びこれらの水添物等のブロック共重合体が挙げられる。
【0024】
スチレン系エラストマーのメルトフローレート(MFR)は、表面層を構成する材料のMFRよりも高い方が好ましい。このようにすると、表面層を構成する材料が基材層を構成する材料より流れやすくなり、表面層が基材層を被覆しやすくなる。
【0025】
スチレン系エラストマーの市販品としては、セプトン2063(株式会社クラレ製、MFR=7g/10分、比重=0.88)、セプトンコンパウンドJS−20N(クラレプラスチックス株式会社製、190℃におけるMFR=40g/10分、密度=0.9g・cm)、クインタック3421(日本ゼオン株式会社製、MFR=10g/10分、密度=0.88)、Kraton、Cariflex TR(シェル化学社製)、Solprene(フィリップスペトロリアム社製)、Europrene SOLT(アニッチ社製)、タフブレン(旭化成社製)、ソルブレン−T(日本エラストマー社製)、JSR TR(JSR社製)、電化 STR(電気化学社製)、Quintac(日本ゼオン社製)等が挙げられる。
【0026】
基材層には周囲、例えば包装体内部の雰囲気を改良する物質(雰囲気改良物質)が含まれている。
雰囲気改良物質としては、香料、抗菌剤、殺虫剤、防ダニ剤、動物忌避剤、防黴剤、防錆剤等として使用される揮発物質、脱臭剤、酸素吸収剤、乾燥剤等が挙げられる。
【0027】
香料としては、リモネン、リナロール、メントール等が挙げられる。
【0028】
揮発性抗菌剤としては、イソチアン酸化合物、ヒノキチオール、タケ抽出オイル、シソ抽出オイル、チアゾリルスルファミド化合物等が挙げられる。
【0029】
揮発性殺虫剤としては、ジクロルボス、ダイアジノン、ピリダフェンチオン、トリクロルホン、フェニトロチオン、フェンチオン、プロチオホス、プロペンタホス、クロロピリホスメチル等の有機リン系殺虫剤や、アレスリン、エトフェンプロックス、ジョチュウギクエキス、d1・d−T80アレスニン、d−T80レスメトリン、フェノトリン、フタルスリン、ペルメトリン、レスメトリン等のピレスロイド系殺虫剤、カルバミン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0030】
揮発性防ダニ剤としては、アレスリン、テトラメスリン、レスメトリン、フェノトフラメトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、トラロメスリン、エンペントリン、DDVP、フェニチオン、テメホス、ジフルベンズロン、ブプロフェジン、ピリプロキシフェン、ハッカ油等が挙げられる。防虫剤としては、クレゾール、o−フェニルフェノール、パラチオン、イミダゾール等が挙げられる。
【0031】
揮発性動物忌避剤としては、ピレトリン、ロテノン、フタルスリン、アレスリン、ペルメトリン、サイバーメトリン、アルファサイバーメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、メントール、ヒノキオイル、スギオイル、ヒバオイル、ジチオカルバモリルスルファイド系化合物、シンナミックアルデヒド、リナロール等が挙げられる。
【0032】
揮発性防黴剤としては、有機スズ化合物、有機硫黄化合物、塩素系化合物、フェノール系化合物、チモール等が挙げられる。
【0033】
揮発性防錆剤としては、二環のベンゾアゾール化合物、単環のイミダゾール、トリアゾール、ロジン、亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム、安息香酸、カブリル酸、亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム、炭酸ジシクロアンモニウム、ニトリット等が挙げられる。
【0034】
酸素吸収剤としては、鉄、亜鉛等の金属粉、FeO、FeTiO2、Fe23等の鉄の還元性低位酸化物、有機金属錯体、遷移金属化合物、アスコルビン酸、フェノール系物質、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、シュウ酸塩、ピロガロール、カテコール、ロンガリット、ビタミンC、ナノコンポジットナイロンレジン、ブタンジオールが分子内に分岐されたポリエステル、グルコース等が挙げられる。
【0035】
脱臭剤としては、シリカゲル、活性アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン系光触媒等が挙げられる。
【0036】
乾燥剤としては、酸化カルシウム、アルミナ乾燥剤、シリカゲル、マグネシウム塩、ゼオライト等が挙げられる。
【0037】
揮発物質は、好ましくは脂溶性であり、常温で液体のものはそのまま基材層に含浸することができる。常温で固体のものは、加熱して液状にしたり、エタノール等の溶媒に溶かしたものを基材層に含浸することができる。
【0038】
基材層における雰囲気改良物質の配合量は、雰囲気改良物質の種類、多層テープの使用目的及び形態等によって適宜決定すべきであるが、通常は100ppm〜20重量%、好ましくは500ppm〜5重量%の範囲内である。
【0039】
スチレン系エラストマーは脂溶性揮発物質を包含しやすいので、各種の香料や防錆剤、防虫剤等の揮発物質を取り込むことができ、その結果揮発物質の揮発持続性が得られる。
さらに予め、常温で液状の炭化水素をスチレン系エラストマーに含浸させることにより、含浸可能な脂溶性揮発物質の種類を増やすことができる。
液状炭化水素は脂溶性揮発物質を容易に取り込み、多量の揮発物質を基材層に含浸させることができる。
【0040】
液状炭化水素としては、芳香族系、ナフテン系又はパラフィン系の石油系炭化水素が好適に用いられ、例えば、出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW−90等が用いられる。
含浸可能な脂溶性揮発物質として、例えば、リモネン、リナロール、メントール等の香料、イソチアン酸アリル、ヒノキチオール、シソオイル等の抗菌剤、アレスリン、テトラメスリン、シフェノトリン、エンペントリン、ペルメトリン、メントール等の防虫・防ダニ剤、ジチオカルバモイルジスルフィド系化合物等の動物忌避剤、ベンゾアゾール、イミダゾール、トリアゾール、ロジン等の防錆剤が挙げられる。
【0041】
基材層中の液状炭化水素の配合量は、炭化水素及び雰囲気改良物質の種類、多層テープの使用目的及び形態等によって適宜決定すればよい。
【0042】
さらに基材層内の通気性を高めるため、タルク系の無機フィラー、重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤やアゾジカルボン酸アジド(ADCA)等の有機系発泡剤を添加してもよい。
【0043】
スチレン系エラストマーは、通気性、透湿性がよく、内部に混練された酸素吸収剤や吸湿剤の酸素又は水分吸収速度を向上させることができる。
【0044】
表面層のポリオレフィンと基材層のスチレン系エラストマーは、共に接着強度が強く、包装袋内面に容易に熱接着でき、しかも、表面層と基材層が剥離しにくい。
【0045】
次に基材層用材料の調製方法について説明する。
基材層に脂溶性揮発物質を導入する場合は、予め液状炭化水素が含浸されているペレット状のスチレン系エラストマーに、目的の脂溶性揮発物質を含浸させる。含浸処理したペレットと含浸処理していない(液状炭化水素と脂溶性揮発物質を含まない)ペレット状のスチレン系エラストマーを、ドライブレンドすることにより基材層用材料を調製することができる。
【0046】
上記の方法で調製することにより、押出し機において脂溶性揮発物質のホッパーからの通常供給が可能になる。さらに、テープ状の比較的狭幅での押出しであるためT−ダイによる広幅押出しの場合に比べ、ダイ内流動が安定であるため多層流が安定する。
【0047】
基材層に粉体状酸素吸収剤や粉体状乾燥剤等の固形物質を導入する場合は、スチレン系エラストマーペレットと目的の固形物質の混合物を溶融混練等の周知の方法によりペレット成形したものを基材層用材料として用いる。
【0048】
次に、表面層用材料と基材層用材料を共押出成形することにより、図1(a)又は(b)に示される多層テープを得ることができる。
共押出成形による製造方法として具体的には以下の方法が挙げられる。
(1)多層異形押出し成形にて一丁取り、又は数丁取りにしてテープを得る方法
(2)多層フィルムに、テープ状にスリットを多数列いれ、テープを得る方法
また(2)については、多層フィルムのスリット部をスリット前に一対の加熱ロールで押圧してスリット後の端面から基材層が露出しないように処理する場合もある。
【0049】
上記の方法によれば、脂溶性揮発物質であればスチレン系エラストマーペレットに容易に含ませることができ、そのまま共押出し可能なため、フィルムやテープの製造工程が非常に簡素化される。また、人体に害毒のある揮発物質を取り込ませたフィルムを製造するのに比べ、テープ製造装置はコンパクトにすることができ、揮発物質の大気への拡散が容易に防止できる。加えて、基材層を露出しないようにすれば、その点でも大気への拡散が防止できる。
【0050】
さらに共押出成形で製造することにより、表面層と基材層の熱接着強度が強くなり、基材層に含有する乾燥剤、脱酸素剤等の脱離を防ぐことができる。吸収活性を高めるために粉体状酸素吸収剤や粉体状乾燥剤の濃度を高めても、テープ状なのでフィルムにおける製造のように表面外観不良、メルトウェブの切断、厚み調整不良による巻き取りロールの巻きコブ等、生産上のトラブルが非常に低減される。
【0051】
本発明の多層テープは、袋、容器等の各種包装体に付着させて使用できる。その際、テープに含まれる雰囲気改良物質によって、包装体内部の雰囲気を改善できる。具体的な使用方法としては、例えば、本発明のテープを一般フィルムの製袋時に袋の内側に熱接着したり、あるいはテープが熱接着されたフィルムを成形容器の蓋材として使用したりする。本発明の多層テープは、既存の包装体内面に熱接着するだけなので既存素材構成を全く変更する必要がなく、包装体内の環境を変えるために、その他の性能、例えば強度や透明性が犠牲になることはない。
具体的用途としては、例えば、酸素吸収剤を基材層に混合させた多層テープは相対湿度(水分活性)が90%以下の食品の防黴を目的とした袋として、乾燥剤を基材層に混合させた多層テープは乾燥海苔等の袋として、防錆剤を基材層に染み込ませた多層テープは機械部品保管・輸送用袋及び容器として、防虫・防ダニ剤を基材層に混合させた多層テープは寝具、医療保管用袋としてそれぞれ利用される。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
基材層を形成する押出し機としてφ40mm押出し機(Ex.1と呼称)を用い、両表面層をそれぞれ形成する押出し機としてφ30mm押出し機(Ex.2、Ex.3とそれぞれ呼称)を用いた。
Ex.1での押出し樹脂は以下の配合樹脂を用いた。
スチレン系エラストマーとして、ペレット状のセプトン2063(株式会社クラレ製、MFR=7g/10分、比重=0.88)を用い、上記ペレットに香料成分であるリナロールを3000ppm添加し均一に攪拌した。香料成分は上記ペレット内に直ちに取り込まれた。
Ex.2とEx.3での押出し樹脂としてランダムポリプロピレン(出光興産株式会社製、F−724NP、MFR=7g/10分)を用いた。
これらの押出し機と接続された共押出しダイキャスティング装置にて総厚み100μm、幅50mm、各層厚み10μm/80μm/10μmの3層テープを製造した。ペレット間のブロッキングや、押出し時にホッパー下での滑りによるサージング等の現象は全くみられず容易に外観美麗な透明テープが得られた。
得られたテープとポリエチレンテレフタレート(PET)12μm/ナイロン(Ny)15μm/無延伸ポリプロピレン(CPP)50μmのフィルムのCPP側とをインパルスシーラー及びヒーター(通電時間0.5秒)で熱接着したのち、剥離を試みたが接着強度が30N/15mm程度あり十分な強度を有していた。その結果このテープはラミネートフィルム袋の最内層への熱接着が可能と判断された。
テープ表面は香料成分のブリードによるベタつきはなく、常温で3ヶ月間放置したのちにも芳香が感じられた。
【0053】
<実施例2>
スチレン系エラストマー(セプトン2063)にJIS Z 0701におけるB型シリカゲル(30メッシュ)を60重量%混合しホットカットタイプの増粒機にてペレットを製造した。このペレットを実施例1におけるEx.1での押出し原料として用いて押出した。
また、Ex.2とEx.3の使用原料はメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、三井化学株式会社製、エボリューSP1540、MFR=3.8g/10分、密度=0.913g/cm)を用いた。
共押出し装置の積層設備(ディストリビューター)はEx.1の樹脂をEx.2とEX.3の樹脂で囲い込む構造とし、その他実施例1と同様に概略断面が10mm×100μmのテープを連続的にキャストした。
両表面層の厚みは各10μm、耳部のポリエチレン幅は各2mmであった。
このテープを三方袋用製袋機に連続的に供給して、袋となるフィルムに熱接着し、これをそのまま熱接着による製袋により図2に示す袋を得た。図2において、30は接着した多層テープ、32は包装袋本体、34は包装袋のヒートシール部を示す。
尚、製袋に使用したフィルムは酸化ケイ素蒸着PET(12μm)/LLDPE(50μm)であった。テープと袋内層との接着強度はテープを剥がそうとすると、フィルム側が材料破壊するほど強固であった。
テープの外観において、粉体は露出してなく滑らかであった。
この袋に粉末コーヒーを2グラム充填し、ヒートシールにより袋の開口部を封止した後、30℃75%RHの恒温恒湿槽に1ヶ月保管した。1ヶ月経過後も袋の中の粉末コーヒーは充填時の状態を保持していた。
【0054】
<実施例3>
基材層に以下の樹脂を用いてEx.1の押出し機で押出した以外は、実施例2と同様にテープを製造した。液状炭化水素としてプロセスオイルを予め含浸させたスチレン系エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製、セプトンコンパウンドJS−20N、MFR=40g/10分at190℃、密度=0.9g/cm)(プロセスオイルとスチレン系エラストマーの重量比は2:1)10部に対し局方ハッカ油2部を吸着させておき、押出し直前に、これと前記セプトン2063を90部とをドライブレンドした。
テープの概略断面は10mm×100μmでありLLDPE表面層の厚みは10μm、耳部のポリエチレン幅は各2mmであった。
このテープのLLDPE面と製袋用フィルムの内層面とを熱接着させながら実施例2と同形状の袋を得た。
テープ製造において溶解性の高いプロセスオイルを含浸させたエラストマーを用いると揮発性薬剤を高濃度に含浸したマスターバッチとなるので、臭気の強いハッカ油の取り扱いが小規模ですみ製造時の臭いの漏洩が少ない等の利点があった。
袋に10匹のコナヒョウヒダニをガーゼで包んで入れて密封した。1日後に開封して前記ダニを確認したところ全て死滅していた。
【0055】
<比較例1>
スチレン系エラストマーの代りにランダムポリプロピレン(F−724NP)を用いてEx.1の押出しを行った以外は実施例1と同様にテープを製造した。
Ex.1の押出しにおいて樹脂が滑る傾向があり、押出し変動(サージング)がみられた。
また、製造したフィルムは常温で3ヶ月間放置したのち官能検査したが、芳香は消失していた。
【0056】
<比較例2>
スチレン系エラストマーの代りにメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(SP1540)を用いた以外は実施例2と同様にテープを製造し、評価をした。
1ヶ月経過後の袋の中の粉末コーヒーはテープの吸湿速度が遅かったため、凝固していた。
【0057】
<実施例4>
ペレット状のスチレン系エラストマー(セプトン2063)に対し、香料成分であるリナロール3000ppmを添加し、均一に撹拌し、Ex.1での押出原料とした。香料成分は直ちにスチレン系エラストマーペレット内に取り込まれた。
また、Ex.2とEx.3での押出し樹脂として、プライムポリマー社製LLDPE「0628G」(MFR=6g/10分)に、三井デュポンケミカル社製非晶性ナイロン「シーラーPA3426」(230℃におけるMFR=3.5g/10分)を、0重量%、25重量%、45重量%、又はクラレ社製エチレン−ビニルアルコール共重合体「エバールE−105」(mp=165℃、エチレン共重合率=44モル%)を、15重量%、30重量%配合したものを用いた。
上記押出し機と接続された共押出しダイキャスティング装置にて、総厚み100μm、幅50mm、各層厚み10μm/80μm/10μmの3層テープを製造した。Ex.1の押出し原料であるペレット間のブロッキングや、押出し時におけるホッパー下での滑りによるサージング等の現象は全く見られず、容易に外観美麗は透明テープが得られた。
【0058】
上記のようにして得られた5種類の多層テープを、それぞれ10g切り取り、30℃雰囲気に放置し、その総重量を経時的に測定し、揮発成分の残存率の推移から揮発成分の除放性を評価した。尚、n日後の揮発成分(リナロール)の残存率は、下記式により求めた。結果を表1に示す。
n日後のリナロール残存率(%)=(Wn−Wm)/(W0−W1)×100
ここで、
W0:保存日数ゼロ日のテープ(初期テープ)重量
W1:初期テープを150℃で24時間真空乾燥させた後の重量
W0−W1:初期テープに含まれるリナロール重量
Wn:保存日数n日のテープ重量
Wm:保存日数n日のテープを150℃で24時間真空乾燥させた後の重量
Wn−Wm:保存日数n日のテープに含まれるリナロール重量
【0059】
また、上記5種類のテープについて、インパルスシーラーを用いて、Ny(15μm)/L−LDPE(50μm)フィルムのL−LDPE面に熱接着して手剥離により接着強度を調べたところ、強固に接着しており剥離が困難であった。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から、非晶性ナイロン又はエチレン−ビニルアルコール共重合体をポリオレフィン系樹脂に配合することにより、その配合量に応じて揮発速度を調節することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の熱接着性多層テープは、食品包装、薬品包装、医薬品包装、化粧品包装、衣料品包装等の包装体に熱接着させて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る熱接着性多層テープの断面図であり、(b)は本発明の他の実施形態に係る熱接着性多層テープの断面図である。
【図2】実施例2で製造した包装袋を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 基材層
1a、1b 基材層の表面
1c、1d 基材層の耳部
2a、2b、2c 表面層
10、20、30 多層テープ
32 包装袋本体
34 包装袋のヒートシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気改良物質を含むスチレン系エラストマーからなる基材層と、
前記基材層の上下表面を被覆する、ポリオレフィン系樹脂を含む表面層からなる熱接着用多層テープ。
【請求項2】
前記スチレン系エラストマーが、ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、及びこれらの水添物より選ばれる少なくとも一種のブロック共重合体である請求項1記載の熱接着用多層テープ。
【請求項3】
前記雰囲気改良物質が、脂溶性揮発物質、粉体状酸素吸収剤又は粉体状乾燥剤である請求項1又は2記載の熱接着用多層テープ。
【請求項4】
前記脂溶性揮発物質が、香料、抗菌剤、殺虫剤、防ダニ剤、動物忌避剤、防黴剤又は防錆剤である請求項3記載の熱接着用多層テープ。
【請求項5】
前記基材層が、液状炭化水素及び脂溶性揮発物質を含む請求項1〜4のいずれか一項記載の熱接着用多層テープ。
【請求項6】
前記表面層がポリオレフィン系樹脂と、ガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂とを含み、両者の総和100重量%に対するガスバリア性樹脂及び/又は気体状の薬品をバリアできる樹脂の割合が50重量%未満である請求項1〜5のいずれか一項記載の熱接着用多層テープ。
【請求項7】
液状炭化水素を含むスチレン系エラストマーに脂溶性揮発物質が含浸しているペレットと、液状炭化水素を含まないスチレン系エラストマーとをドライブレンドした後、ポリオレフィンと共押出しする請求項5記載の熱接着用多層テープの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項記載の熱接着用多層テープが接着している包装体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−306024(P2006−306024A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361389(P2005−361389)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】