熱放射部材用セラミックスの製造方法、熱放射部材用セラミックス、該セラミックスを用いてなる太陽電池モジュールおよびLED発光モジュール
【課題】熱伝導率が高く、効率のよい放熱性を達成でき、電子機器等の発熱部位における冷却用途に利用でき、しかも機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる、アルミナ焼結体である熱放射部材用セラミックスの製造方法、および上記の機能が発揮できる結晶粒の成長を抑えたアルミナ焼結体である熱放射部材用セラミックスの提供。
【解決手段】アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、かつ、平均粒子径が0.2〜1μmであるアルミナ粉末を原料として用い、該粉末を50〜100μmの顆粒状にする顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体を得る焼成工程とを有する熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【解決手段】アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、かつ、平均粒子径が0.2〜1μmであるアルミナ粉末を原料として用い、該粉末を50〜100μmの顆粒状にする顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体を得る焼成工程とを有する熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が高く、しかも熱衝撃および機械的強度にも優れた効率のよい放熱部材として実用化が可能な、特有の結晶状態をもつアルミナ系焼結体からなる熱放射部材用セラミックスを提供する技術に関し、さらには、該セラミックスの高い放熱機能を利用した製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機系材料に比べて安定な無機系材料が見直されてきており、アルミナ(Al2O3)をはじめとして、ステアタイト、ジルコン、コーディエライト等からなるセラミックスは、それぞれに特有の性質を生かした機能性材料として多方面に利用され、電子部品や半導体製造装置などへ応用される例も増えている。例えば、アルミナは、機械的強度、電気絶縁性、高周波損失等に優れた機能性材料として利用されている。その中で、本願出願人は、既に、大気雰囲気中で1,400〜1,700℃で焼成して得られる、アルミナの含有率が95質量%と高い陶磁器(セラミックス)が、熱伝導率と熱放射率に優れることを見い出し、これを発熱部の冷却に用いることについて提案している(特許文献1参照)。該陶磁器は、電気絶縁性に優れ、無機材料製の不燃物であることから、発熱部位に直接接触させて冷却できるので、電子機器や装置を含めた冷却効果が所望される分野における使用が期待される。
【0003】
機能性材料としてのアルミナ系焼結体(セラミックス)に関しては、そのほかにも、機械的特性や電気的特性等に着目して、それぞれの用途に有用な様々な提案がなされている(特許文献2〜7等参照)。
【0004】
ここで、近年、地球規模での環境保護の観点からも注目されているものとして、太陽光を利用する発電セルを用いた太陽光発電装置や、LED素子を搭載した発光装置がある。そして、これらの装置では、エネルギーの変換効率或いはその発光効率の向上および製品の長寿命化の観点から、発電や発光の際に発生する熱を効果的に冷却することが望まれており、(特許文献8〜10)、先述した出願人が提案する特許文献1に記載の技術が適用できれば、非常に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−298703号公報
【特許文献2】特開2010−83729号公報
【特許文献3】特開2005−53758号公報
【特許文献4】特開2003−112963号公報
【特許文献5】特開平8−40765号公報
【特許文献6】特開2000−128625号公報
【特許文献7】特開2003−306386号公報
【特許文献8】特開2004−259797号公報
【特許文献9】特開2009−147258号公報
【特許文献10】特開2010−225607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願出願人が提案した上記特許文献1の技術は、熱伝導率および熱放射率に優れたアルミナ焼結体を開示しているものの、近年の電子機器等における小型化、精密化や高機能化の進展は著しく、これらの機器の機能を安定してより高めることのできる機能性材料としては十分とはいえず、改善の余地があった。すなわち、実用化のためには、より効率のよい冷却効果を実現することができ、しかも強度等に優れ、耐久性における問題もなく、安定して確実に冷却効果の発現が可能なセラミックス材料の開発、さらには、このような材料を歩留まりよく製造できる技術の開発が望まれる。これに対し、アルミナ焼結体の製造にあたっては、下記に述べるように、種々の条件が、焼結体の機能性に影響を及ぼすことが知られている。このため、特許文献1の技術では、高機能化が進んだ電子機器等の発熱部位における冷却に対して高い効果を確実にかつ安定して得ることができ、機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる冷却部材として実用化が可能なアルミナ焼結体を安定して提供するまでには至っていない。
【0007】
各種電気部品に用いられる従来の一般的なアルミナ焼結体は、用いる原料粉末の一次粒子の粒子径は5〜10μmと大きく、成形圧力は比較的低く設定されており、焼結を1,600〜1,700℃という高温で行うことによって粉末粒子間の結合を促進し、強固な焼結体としていた。しかしながら、本発明者らの検討によれば、例えば、図12に示す1,610℃で焼成したアルミナ焼結体のように、このような高温環境下で焼成した場合は、焼結体内の結晶粒が異常成長して結晶の粗大化が起こり、機械的強度や耐熱衝撃性が低下したものとなってしまう。先に挙げた特許文献2では、この問題に対して、アルミナ焼結体の結晶粒径を20〜70μmと大きくすると同時に、板状の結晶を配向させずにランダムにすることで強度を向上させている。しかし、結晶粒径の粗大化は、表面研磨時に、欠けや破損の原因となるといった別の問題を生じる。
【0008】
このような課題に対して、或いはその他の目的から、従来より、アルミナ焼結体の結晶の粒成長を抑えることについての検討は行われており、下記に述べるような種々の提案がされている。例えば、特許文献3では、アルミナが本来有する、高強度、高熱伝導特性、低誘電損失を維持しつつ、材料コストを削減でき、かつ製造時の作業性の良好なアルミナ焼結体を提供することを目的として、下記の提案がされている。すなわち、特許文献3では、平均粒径が0.1〜1.0μmのアルミナ原料と、さらに特定量の焼結助剤とを用い、焼結温度を1,150〜1,350℃と低くすることで、アルミナ焼結体中のアルミナ粒子の平均粒径が、0.5〜2.0μm、熱伝導率が10W/m・K以上の、結晶の粒成長が抑制されたアルミナ焼結体を得ている。しかし、この材料は、熱放射機能に劣り、本発明が目的とする冷却部材として使用できるものではなかった。また、特許文献4では、アルミナ焼結体において、不純物量だけでなく結晶粒径も誘電損失に影響を与えることを開示しているが、熱伝導率や熱放射率などの熱特性については検討されていない。
【0009】
また、特許文献5では、長時間高温に置かれる部材に適用可能な、不純物含有量を低減し、高純度化すると共に、全体として緻密化され均質性に優れる高密度なアルミナ焼結体を得る方法を提案している。しかし、冷却部材として使用できるアルミナ焼結体を提供するものではなく、結晶粒径を制御することを示唆するものでもない。先に挙げた特許文献6によれば、アルミナ焼結体は焼成温度が1,550℃未満では焼結体の緻密化が十分には進行せず、1,650℃超では異常な粒成長が発生し、焼結体密度の低下を来たすとされている。しかし、この文献に記載の技術は、粒子径の異なる2種類の原料と、成形方法に泥漿鋳込み法などを用いてアルミナ焼結体を得る際の技術に関し、高純度で低粘度のスラリー調製を可能とすることで粒成長を制御しているものであり、アルミナ焼結体を冷却部材として使用可能にすることを目的とする本発明とは、課題もアルミナ焼結体の製造方法も異なる。また、先に挙げた特許文献7には、高純度アルミナ原料を用いたアルミナ焼結体が開示されているが、これは部品などの焼成時に用いられるセラミックスセッターに関するものであり、上記と同様、冷却部材として実用化が可能なアルミナ焼結体の提供を目的としたものではない。
【0010】
また、本願出願人は、これまでに、基体表面に塗布して焼き付けすることで、ガス、電気などで加熱することにより遠赤外線を放射する塗膜を得ることができる遠赤外線放射コーティング組成物を提案している(特公昭63−54031号公報参照)。しかし、この技術は、ガス、電気などの熱を、特定の塗膜を設けることで、所望する波長領域の遠赤外線に変化させるための技術であり、勿論、効率のよい放熱(すなわち冷却)を目的としたものではない。
【0011】
先に述べたとおり、近年の電子機器等における小型化、精密化や高機能化の進展は著しく、これらの電子機器の機能をより高めることのできる冷却部材を形成し得る機能性材料の開発が待望されているが、電子機器に限らず、その高効率化や長寿命化のため冷却が必要とされる装置は多い。また、この場合も装置の小型化が求められることが多いため、空冷、水冷などの冷却機構よりも構造の簡単な熱伝導性の高い材料などを用いた熱放射部材(ヒートシンク)が望まれており、より小型で簡単な構造を実現し得る、より放熱性に優れた部材や機構の開発が求められている。
【0012】
例えば、結晶系シリコン発電素子などの発電セルを用いた光エネルギーを直接電力に変換する太陽電池は、二酸化炭素を発生しない電力源として近年注目を浴びており、より高い電力への変換効率の実現が求められている。しかし、受光中の太陽電池モジュールの温度は80℃以上に達することもあり、このことに起因する太陽電池の出力の低下が問題となっている。これに対し、太陽電池モジュールを水冷するなど、様々な冷却機構が提案されている(上記特許文献8)。しかし、水冷などは機構が複雑となり付帯装置が大型化し、さらに設置後のメンテナンスが必要となるといった問題もあり、その実用化は難しく、電力への変換効率を高めて太陽電池の普及をより促進するためにも、できるだけシンプルな構造の冷却機構あるいは熱放射部材の開発が急務となっている。
【0013】
また、太陽電池と同様の課題を有するものとして、発光ダイオード(LED)素子を用いたLED発光モジュールがある。近年、発光効率がよく消費電力の少ない照明として発光ダイオード(LED)素子を用いた発光装置が急速に普及しているが、LED素子は熱に弱く、80℃以上で素子が劣化して寿命が低下してしまうという課題がある。このため、LED素子では、放熱の必要性は従来の白熱球や蛍光灯よりも高く、適切に放熱しないと、発光効率の低下や寿命の短縮、さらには発熱による発火事故に繋がる懸念もある。このため、LED発光モジュールの場合も、太陽電池モジュールの場合と同様に、LED素子からの熱を放熱する技術は、その普及を促進させるために不可欠なものと言える。すなわち、これらのモジュールを冷却するための、シンプルな構造の冷却機構あるいは熱放射部材の開発の実現は、地球規模での環境保全に寄与し得る重要なものである。
【0014】
LED素子の冷却に関しては、下記に挙げるような提案があるが、いずれも実用化する技術としては十分とは言えない。先に挙げた特許文献9では、LED素子を搭載する基体として金属板、絶縁体および金属基体の積層構造を採用し、貫通溝を形成することで、LED素子からの放熱性に優れた発光装置としているが、放熱のための貫通溝は、絶縁体の一部を除去して形成した複雑な構造を有し、生産性の向上は難しい。
【0015】
また、先に挙げた特許文献10では、高純度アルミナ基板にLED素子を配設した発光装置を開示しており、該高純度アルミナ基板は高い熱伝導率を有し放熱性に優れることが記載されている。しかし、特許文献10の技術は、特定の波長の光についての基板の光線反射率を高めることで、これに配設したLED素子の発光効率を高める技術であり、アルミナ焼結体の有する結晶構造と放熱性との関係を示唆したものではない。
【0016】
従って、本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、熱伝導率が高く、効率のよい放熱性を達成でき、電子機器等の発熱部位における冷却用途に利用でき、しかも機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる、アルミナ焼結体である熱放射部材用セラミックスの製造方法、および、上記の機能が発揮できる結晶粒の成長が抑制されたアルミナ焼結体である熱放射部材用セラミックスを提供することにある。さらに本発明は、上記熱放射部材用セラミックス表面を改質することにより、放熱性をさらに向上させた熱放射部材用セラミックスを提供することを目的とする。
【0017】
さらに、本発明の目的は、上記した放熱性に優れる有用な熱放射部材用セラミックスの利用を促進することにあり、具体的には、各種電子機器の放熱機構における代替品として、さらに、シンプルかつ効果的な放熱手段が求められている太陽電池モジュールやLED発光モジュールにおける発熱の問題を解決し得る放熱部材として、種々の用途に適用可能な熱放射部材用セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、かつ、平均粒子径が0.2〜1μmであるアルミナ粉末を原料として用い、該粉末を50〜100μmの顆粒状にする顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体を得る焼成工程とを有することを特徴とする熱放射部材用セラミックスの製造方法を提供する。
【0019】
上記本発明の熱放射部材用セラミックスの製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
(1)前記焼成温度が、1,500〜1,592℃である上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(2)前記成形工程において、密度が少なくとも2.40g/cm3の成形体を得る上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(3)さらに、前記焼成工程後に、該焼成工程における焼成温度までの昇温速度に対して、1.3〜2.0倍の速度で焼成物を急冷して焼結体を得る冷却工程を有する上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(4)前記焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行う上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(5)さらに、前記焼成工程で得られた焼結体の表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射コーティング組成物からなるコーティング膜を形成し、焼き付けして遠赤外線放射膜を形成する工程を有する上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(6)前記遠赤外線放射コーティング組成物は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を97:3〜20:80の質量比率で含有する上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【0020】
本発明の別の実施形態では、アルミナの含有量が99.5質量%以上、シリカ(SiO2)の含有量が0.1質量%以下のアルミナの焼結体であり、その結晶粒径が1〜10μmで、かつ、30×20μmの面積中に結晶粒を30〜55個の範囲で含有してなり、その熱伝導率が33W/m・K以上であることを特徴とする熱放射部材用セラミックスを提供する。
【0021】
上記本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
(1)前記焼結体密度が、3.8g/cm3以上である上記の熱放射部材用セラミックス。
(2)前記アルミナの含有量が99.8質量%以上、シリカの含有量が0.05質量%以下である上記の熱放射部材用セラミックス。
(3)表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射膜をさらに有する上記の熱放射部材用セラミックス。
(4)前記遠赤外線放射膜は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を、97:3〜20:80の質量比率で含有する遠赤外線放射コーティング組成物のコーティング膜を焼き付けてなる上記の熱放射部材用セラミックス。
【0022】
本発明の別の実施形態では、本発明の熱放射部材用セラミックスをそれぞれに利用した下記の太陽電池モジュール、又は、LED発光モジュールを提供する。具体的には、発電セルの裏面に、上記した本発明の熱放射部材用セラミックスを配置してなることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。また、基板表面に回路が形成され、該回路上にLED素子が設けられているLED発光モジュールにおける上記基板が、上記した本発明の熱放射部材用セラミックスのいずれかであることを特徴とするLED発光モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特に、その使用原料とその焼成温度を精密に制御することによって、熱伝導率が高く、効率のよい効果的な放熱が達成され、電子機器等の発熱部位における冷却用途に利用でき、しかも機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる、熱放射部材用として有用な新規なアルミナ焼結体を安定して得ることができるアルミナ焼結体の製造方法が提供される。かかる方法によって得ることのできるアルミナ焼結体は、従来のアルミナ焼結体とは異なり、結晶成長を生じておらず、結晶粒径が小さく、比較的均一に結晶粒径が適切に制御されており、しかも結晶粒の界面への不純物の析出がほとんどない、高純度で緻密なアルミナ焼結体であるため、上記したように従来にない優れた機能性材料となる。
【0024】
さらに、本発明の好ましい形態によれば、アルミナ焼結体の表面の少なくとも一部、例えば、熱を放熱させる面に、遠赤外線放射コーティング組成物からなる遠赤外線放射膜を設けることで、発熱部位からの熱を放熱するだけでなく、熱を遠赤外線に変換して外部に放射することができるため、より放熱性に優れた熱放射部材用セラミックスの提供が可能となる。
【0025】
本発明によれば、熱伝導率が高く、効率のよい効果的な放熱を達成でき、また機械的強度や耐熱衝撃性にも優れているアルミナ焼結体を太陽電池モジュールやLED発光モジュールに適用することで、下記の効果が得られる。すなわち、本発明で提供するアルミナ焼結体を適用した場合、極めてシンプルなアルミナ焼結体からなる部材のみで、太陽電池モジュールの温度上昇に起因して生じる発電セルの出力低下が抑制でき、発電効率の向上がみられ、また、熱に弱いLED素子にあっては素子の劣化を有効に抑制し、LED素子の長寿命化や発熱による発火事故の発生の防止を可能にする。このため、本発明によれば、自然環境保護に有用な太陽電池モジュールやLED発光モジュールを用いた各種製品の実用化に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における昇温・焼成・冷却の条件の概略を説明するための図である。
【図2】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例1)。
【図3】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例2)。
【図4】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例3)。
【図5】図4に示す電顕写真の一部を拡大して示す図である。
【図6】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例4)。
【図7】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例7)。
【図8】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例8)。
【図9】比較例1の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図10】比較例2の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図11】比較例3の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図12】従来のアルミナ焼結体の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図13】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)のFT−IRによる分光放射率スペクトルである。
【図14】参考例1の遠赤外熱放射膜の放射強度を示すFT−IRによる分光放射率スペクトルである。
【図15】遠赤外熱放射膜を形成していないステンレス板の放射強度を示すFT−IRによる分光放射率スペクトルである。
【図16】評価(B−I)における実施例10のヒータ表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図17】実施例10の遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体について、ヒータ表面温度測定時のヒータと温度センサの配置を示す図である。
【図18】実施例1のアルミナ焼結体について、ヒータ表面温度測定時のヒータと温度センサの配置を示す図である。
【図19】評価(B−II)における実施例1のアルミナ焼結体およびヒータの表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図20】本発明のアルミナ焼結体の、面積を一定としたときの厚みによる熱放射特性の違いを示すグラフである。グラフ中、◆はヒータ単独の場合のヒータ表面温度を示し、□は厚さ4.5mm、▲は厚さ5.5mm、△は厚さ6.5mm、■は厚さ7.5mm、○は厚さ8.5mmのアルミナ焼結体をそれぞれ接触させた場合のヒータ表面温度を示す。
【図21】評価(B−II)における実施例1のアルミナ焼結体およびヒータの表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図22】本発明のアルミナ焼結体の、体積を一定としたときの厚みによる熱放射特性の違いを示すグラフである。グラフ中、◆はヒータ単独の場合のヒータ表面温度を示し、■はアルミナ焼結体A(縦横厚さがそれぞれ31.0mm、18.0mm、5.0mm)、▲プロットはアルミナ焼結体B(縦横厚さがそれぞれ19.4mm、18.0mm、8.0mm)、□はアルミナ焼結体C(縦横厚さがそれぞれ14.1mm、18.0mm、11.0mm)をそれぞれ接触させた場合のヒータ表面温度を示す。
【図23】評価(B−III)における実施例1のヒータ表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図24】投入電力3Wのときのヒータ表面温度の変化を表すグラフである。グラフ中、直線はヒータ単独の場合、破線はアルミナ焼結体をヒータに重ねた場合、点線は銅板をヒータに重ねた場合、を示す。
【図25】本発明のアルミナ焼結体および銅板について、それぞれの面積に対する80℃飽和エネルギーを表すグラフである。グラフ中、◆はアルミナ焼結体、▲は銅板を示す。
【図26】本発明の熱放射部材用セラミックスの応用例の一例として、太陽電池モジュールの放射冷却効果を測定する実験装置の一例を示す図である。
【図27】図26において測定した発電力を示す図である。グラフ中、■は本発明のアルミナ焼結体を配置した場合、◆はアルミナ焼結体の代わりにガラス板を配置した場合を示す。
【図28】本発明の熱放射部材用セラミックスの応用例の一例として、表面に回路を形成したLED発光モジュールの基板の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のアルミナ焼結体の製造方法は、特定のアルミナ原料粉末を調整する顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体(セラミックス)を得る焼成工程とからなる。本発明の特徴は、原料に、高純度のアルミナの微粒粉末を用い、該微粒粉末を顆粒状にした点、該顆粒化した原料を加圧成形した点、成形体を大気雰囲気中で制御された特定の温度範囲で焼成した点にある。以下、それぞれについて説明する。
【0028】
(原料及びその顆粒化工程)
<原料>
原料となるアルミナ粉末は、平均粒子径が0.2〜1μmであればそのまま使用することができ、特に粉砕する必要はないが、後述するように、粒子径の分布は狭い方が好ましい。このため、ボールミルなどで粉砕して、粒度分布を揃えて用いることが好ましい。本発明では、焼結体中のアルミナ含量を99.5質量%以上とするため、アルミナ含有量が99.5質量%以上、好ましくは99.9質量%以上の高純度のアルミナ原料を用いる。
【0029】
アルミナ原料としては、一般に入手可能な公知のアルミナ原料粉末をいずれも用いることができる。例えば、金属アルミニウム精錬プロセスにおける中間生成物であるキブサイトを1,000℃以上で仮焼する、バイヤー法と呼ばれる方法によって得られるα−アルミナ粉末を用いることができる。また、金属アルコキシドを加水分解および重縮合反応して得られるゲルを加熱して得られるゾル−ゲル法によるアルミナ粉末を用いてもよい。ゾル−ゲル法によって得られるアルミナ粉末は、バイヤー法などで得られるアルミナ粉末よりも純度が高く、また、粒子径が小さく、かつ均一であり、さらに真球に近い球形の粒子である。このため、例えば、ゾル−ゲル法によって得られる99.9質量%以上の純度のアルミナ粉末を原料として用いると、よりアルミナ純度が高い焼結体が得られ、焼結体中の粒界にガラス相が形成されるのを抑えることができるので、より熱伝導性に優れた焼結体になる。また、ゾル−ゲル法によって得られる球形粒子のアルミナ粉末を用いると、バイヤー法で得られるアルミナ粉末を用いた場合に比べて、後述する成形工程において、より緻密な成形体が得られ、下記に述べるように、より低い焼成温度でアルミナが焼結し、細かく均一な結晶状態の良好なアルミナ焼結体を得ることができる。
【0030】
例えば、同様の粒径のアルミナ粉末で比較した場合、バイヤー法で得られるアルミナ粉末を用いた場合は、焼成温度が1,550℃を下回ると焼結しにくくなるが、ゾル−ゲル法で得られるアルミナ粉末を用いた場合は、1,480℃でも十分に焼結し、より低温域で良好な焼成が可能である。このように、ゾル−ゲル法で得られるアルミナ粉末は、原料コストは高いが、焼成温度を低くできるという利点がある。なお、いずれの原料を用いた場合も焼成温度が1,600℃を超えると結晶粒の成長がみられ、本発明の効果が十分に得られるアルミナ焼結体となり難い。
【0031】
また、例えばゾル−ゲル法で得られるような、より粒径が小さく均一なアルミナ粉末を原料に用いることで、後述するように、より強度および熱伝導性などに優れるアルミナ焼結体にできる。本発明者らの詳細な検討によれば、上記したように、用いるアルミナ粉末原料によって最適な焼成が行われる温度範囲に多少の違いがみられ、それに起因して熱特性などにも若干の違いはあるが、平均粒子径が0.2〜1μmで、アルミナ含有量が99.5質量%以上のアルミナ粉末原料を用い、本発明で規定する手順および条件で調製すれば、上記に限らず、いずれの製造方法によって得られたアルミナ粉末を原料に用いた場合も、強度および熱伝導性に優れ、従来のアルミナ焼結体では達成し得なかった熱放射部材として有用な機能を示すアルミナ焼結体となる。
【0032】
本発明者らの検討によれば、原料にゾル−ゲル法によって得られるアルミナ粉末を用いた場合、同様の粒径のバイヤー法によって得られるアルミナ粉末を用いた場合に比較して、より低温域で焼成でき、しかも強度および熱伝導性に優れたアルミナ焼結体となる。その理由は、ゾル−ゲル法によって得られるアルミナ粉末は、純度が高く、粒子が小さくて均一であり、また、粒子形状が真球に近いためであると考えられる。したがって、本発明に用いるアルミナ粉末原料は、できるだけ純度が高く、より粒子が小さくて均一であり、さらに好ましくは粒子形状が球形であるものが好ましい。本発明では、アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、平均粒子径が1.0μm以下の微粒のアルミナを原料として用いるが、例えば、バイヤー法によるアルミナ粉末でも、平均粒子径が0.3μm程度のものまで市場から入手可能である。ゾル−ゲル法などによるアルミナ粉末であれば、平均粒子径が0.2〜0.4μm程度の、より微粒で、シャープな粒度分布をもつ、形状が真球に近いものを市場から入手できる。勿論、上記した製法のアルミナ粉末に限らず、本発明に用いる原料は、本発明で規定する高純度の微粒のアルミナであればいずれの製法のものであってもよく、また、市場から入手したアルミナ粉末を粉砕あるいは精製して本発明で規定する粒径および純度としたものでもよい。さらに、原料のアルミナ粉末を球形化して用いることも好ましい。
【0033】
アルミナ粉末には不可避的な不純物が含まれているので、本発明で用いる原料粉末には焼結助剤を加えなくても焼結体が得られるが、結晶粒成長を抑制するために、原料中に焼結助剤としてマグネシア、シリカを加えてもよい。これらを加えることで、より緻密なアルミナ焼結体を安定して製造することが可能になる。ただし、これらの焼結助剤は結晶粒界に析出し熱的特性に影響を与えるので、できる限り少ないことが好ましい。このため、本発明では、原料粉末中のアルミナの含有量を99.5質量%以上とし、焼結助剤などの添加剤の含有量を合計で0.5質量%未満とした。合計で0.5質量%未満であれば焼結助剤として、例えば、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化鉄(Fe2O3)を加えてもよい。
【0034】
<原料粉末の顆粒化>
本発明者らの検討によれば、上記したような粒子径が非常に小さいアルミナ粉末原料を、適度な粒径に顆粒化することで、より緻密な成形体が得られ、さらには、より密度の高いアルミナ焼結体の製造が可能になる。顆粒化の方法は特に限定されないが、例えば、アルミナ原料粉末に後述するような有機質結合剤を添加してスラリー化した後、噴霧、乾燥させることで、粒子径が50〜100μmの成形用の顆粒を容易に得ることができる。このようにして得られる顆粒は、球状のものとなる。また、顆粒化することで、微粒子からなるアルミナ粉末原料のハンドリング性を向上させることができるので、製造上も有利である。
【0035】
(成形工程)
次に、上記のようにして得た、粒子径が50〜100μmの球状顆粒を原料として、適宜に保形性を与えるために有機質結合剤等を添加して、この顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形して成形体を作成する。成形方法は特に限定されないが、成形体に圧力をかけることで、例えば、得られる成形体の密度が2.40g/cm3以上の緻密なものとなるような方法を用いればよい。具体的には、例えば、金型を用いて、成形圧力として1,000〜2,500kg/cm2を加えて成形体を作成することが挙げられる。この場合に、成形圧力が1,000kg/cm2より小さいと、成形体における粒子間の間隙が多く、後に行う焼成の際における熱伝導性が悪いため、より緻密な焼結体を得るために焼成温度を高くしなければならなくなる。後述するが、本発明においては、焼結体に所望する機能性を付与するためには焼成温度が極めて重要であり、本発明で規定するよりも焼成温度が高くなると、得られた焼結体中に結晶粒の成長がひき起されて所望する特性が得られなくなるので、成形工程では、より緻密な成形体とすることが好ましい。一方、成形圧力が2,500kg/cm2より大きいと、成形体にひび割れや破損が生じ、歩留まりが低下するので好ましくない。本発明者らの検討によれば、特に、成形圧力が1,200〜2,500kg/cm2であると、密度が2.40g/cm3以上の成形体が得られ、後に焼成することで、本発明が所望する緻密なアルミナ焼結体が得られる。さらに、成形圧力が1,500〜2,000kg/cm2であることがより好ましい。例えば、前記したゾル−ゲル法によるアルミナ粉末を原料に用いると、密度が2.45g/cm3以上の、より密度の高い緻密な成形体を容易に得ることができる。なお、本発明において、成形体の密度は、成形体の重量と、成形体の測定寸法から求めた体積から算出した。
【0036】
成形体を作成する方法は、上記の乾式金型成形法に限らず、他の成形方法、例えば、冷間静水圧成形(CIP)、ホットプレス(HP)、熱間静水圧成形(HIP)、押出成形、射出成型などを用いてもよい。いずれの成形方法を用いた場合でも、密度が2.40g/cm3以上の成形体とすれば、後の焼成工程を経ることにより、緻密で特定の結晶状態を有する、所望性能を実現したアルミナ焼結体を安定して得ることができる。
【0037】
上記した顆粒化工程や成形工程で使用する有機質結合剤としては、従来、セラミックスの製造において使用されているものをいずれも用いることができる。具体的には、加熱時に溶融して適度な粘性を示し、加熱・焼成して焼成物とした後に残留しないような特性を有する有機化合物を使用する。このようなものとしては、分子中に酸素原子が多く含まれているポリビニルアルコール、ポリエステルやセルロースの誘導体、更には、適宜な重合度のアクリル樹脂、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド、プロピレンオキシドに任意の量のエチレンオキシドを共重合させたポリエーテルがある。また、セルロースの誘導体である水溶性セルロースエーテル、中でも、メチルセルロースを用いることができる。アクリル樹脂やポリビニルアルコールは、従来よりファインセラミックス製品の押出し成形時の結合剤として用いられており、本発明で用いる原料粉末を顆粒化する際に、或いは、顆粒化した原料に保形性を付与するための有機質結合剤として好適に用いることができる。
【0038】
(脱脂及び乾燥工程)
本発明の製造方法では、上記のようにして得た成形体から前記のような有機質結合剤などを除去するために、例えば脱脂炉にて、大気中で500℃まで約100時間かけて一定の昇温速度(約5℃/時)で昇温することが好ましい。このように長い時間をかけて徐々に温度を上げることにより、成形体に含まれる有機質成分を完全に、しかも成形体に割れやひびを生じない状態で除去することができる。
【0039】
(焼成工程)
本発明の製造方法では、上記した成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で、より好ましくは、1,500〜1,592℃、さらには、1,550〜1,592℃の焼成温度で焼成することで、本発明が所望する熱放射性に優れるアルミナ焼結体を得る。下記に述べるように、使用するアルミナ原料粉末の粒子径や粒子形状によって、好適な焼成温度は若干異なる。例えば、平均粒径が1.0μm程度と比較的に粒径が大きく真球状とは言えないアルミナ粉末原料を用いた場合に、所望する緻密なアルミナ焼結体を安定して得るためには、1,550℃以上、より好ましくは、1,555℃以上の焼成温度で焼成するとよい。本発明者らの詳細な検討によれば、この場合に、所望する緻密なアルミナ焼結体をより安定に得るためには、焼成温度を1,592℃以下とすることが好ましい。これに対し、例えば、ゾル−ゲル法によるアルミナ粉末のように、平均粒径がより小さく、均一な真球状に近いアルミナ粉末を原料とする場合は、前記したように、成形工程で得られる成形体をより緻密にできるので、1,500℃以下の低い温度でも所望する緻密なアルミナ焼結体を安定して得ることができる。また、焼成温度が1,600℃以下であれば、所望の緻密なアルミナ焼結体を得ることができるが、焼成温度が低い方が、結晶粒径が小さく、より熱特性、強度に優れた焼結体が得られる傾向にあり、また、エネルギー効率の観点からも焼成温度はできるだけ低い方が好ましい。さらに、焼成温度を低くすると焼成時間が長くなるため、上記したようなアルミナ粉末原料を用いた場合は、1,500℃以上、さらには1,550℃以上にすることが好ましい。上記のことから、アルミナ粉末原料の性状にかかわらず、所望する緻密なアルミナ焼結体をより安定して得ることのできる好適な焼成温度範囲としては、1,500〜1,592℃、さらには、1,550〜1,592℃である。
【0040】
前記焼成温度における焼成時間は2時間以内にすることが好ましい。これ以上長くなると、結晶粒が成長するおそれがあるので好ましくない。また、本発明では、焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行うことが好ましい。さらに、上記焼成工程後に、焼成温度に至るまでの昇温速度に対して、1.3〜2.0倍の速度で焼成物を急冷して焼結体を得る冷却工程を有することが好ましい。すなわち、本発明において重要なことは、その焼成温度を、焼成温度としては比較的低く、しかも、1,480〜1,600℃、より好適には、1,500〜1,592℃、さらには1,550〜1,592℃と、極めて狭い温度範囲に制御して行うことで所望の結晶状態にすることにあり、焼成後は、結晶粒の成長が抑制されるように急冷することが好ましい。具体的な昇温速度、冷却速度や焼成温度に保持する時間は、成形体の大きさや厚みによっても異なり、一義的に決定できないが、上記した焼成温度までの昇温速度に比べて、焼成温度からの冷却速度(降温速度)を1.5倍程度、速くすることが好ましい。
【0041】
図1に、焼成工程と、それに続く冷却工程における、昇温・焼成・冷却の条件の一例を模式的に示した。例えば、アルミナを99.5質量%以上含む成形体を、大気雰囲気中にて、昇温速度を100〜200℃/時、より好ましくは140〜160℃/時とし、および降温速度を、200〜300℃/時、より好ましくは240〜270℃/時として焼成を行う。また、焼成温度における保持時間は2時間以下、具体的には1〜2時間とした。保持時間が1時間より短いと焼結が不十分になるおそれがあり、2時間を超えると結晶の粒成長を生じるおそれがある。より好ましい保持時間は2時間である。本発明では、低めの特定の狭い範囲の焼成温度、さらに好ましくは昇温速度および降温速度を適切に制御することによって、焼結体が高温に曝される時間を短くでき、これによって焼結体中の結晶粒の成長を抑えることができる。この結果、結晶粒径が適切に制御された、高純度で緻密なアルミナ焼結体を製造できる。得られるアルミナ焼結体は、その原料の純度が極めて高いことに加えて、本発明で規定する温度制御によって、結晶粒の界面への不純物の析出がほとんどみられず、その結果、高い熱伝導率が得られ、これに起因する効率のよい放熱性(熱放射性)の達成が実現できる材料とできたものと考えられる。また、焼結体中の結晶粒の成長が抑制され、結晶粒径が適切に制御されているため、熱伝導性に優れるとともに、その機械的強度に優れ、熱衝撃に強く、実用に耐える耐久性の高いものになったと考えられる。なお、本発明で規定する特定範囲の焼成温度によって、得られる焼結体の結晶状態、さらには性能が異なるものになることについては、実施例をもって詳述する。
【0042】
なお、本発明の製造方法でも、通常のセラミックスの製造方法と同様に、焼成工程の前に成形体の脱脂及び乾燥を行うことが好ましいが、成形体の脱脂及び乾燥は、前述するように焼成工程に先立って別途行ってもよい。しかし、これに限らず同じ炉内において脱脂及び乾燥工程と、その後の焼成工程を行ってもよい。その場合には、得られた成形体をバッチ式の炉にて空気を流通させながら、500℃まで100時間程度かけて、ゆっくりと昇温した後、500℃から前述の昇温速度、焼成温度、冷却温度で焼成する。このように同じ炉内において続けて昇温することにより、工程を簡略化することができる。
【0043】
また、前述のように、脱脂後、一旦成形体を取り出し、再度同じ炉または異なる炉内にて焼成することもできる。この場合は、室温から前述の昇温速度で昇温して焼成することができ、さらに約1,000℃までは、成形体にひび割れなどが生じない範囲でさらに速い昇温速度にすることが可能である。よって、脱脂及び乾燥用の炉と、焼成用の炉を使い分け、より効率的に大量の熱放射部材用セラミックスを焼成することが可能となる。
【0044】
後述する本発明の実施例では、焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行った。本発明の実施例で用いた炉は、炉内温度をプロパンなどのガスによって加熱した空気の流量で直接制御するので、温度制御が容易であり、前記の昇温速度、焼成温度、および降温速度を適切な範囲に制御できる。ただし、本発明において焼成に用いる炉は、上記のものに限られるものではなく、大気雰囲気中において、焼成温度を制御しての焼成が可能な炉であれば、いずれのものを用いてもよい。
【0045】
(熱放射部材用セラミックス)
次に、上記したような製造方法によって得ることのできる、高純度でかつ緻密な焼結体からなる本発明の熱放射部材用セラミックス(以下、単に「本発明のアルミナ焼結体」とも言う)について説明する。本発明の熱放射部材用セラミックスは、アルミナの含有量が99.5質量%以上、好ましくは99.8質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上であり、シリカ(SiO2)の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下のアルミナの焼結体であり、その結晶粒は、粒径が1〜10μmで、かつ、30×20μmの面積中に結晶粒を30〜55個の範囲で有してなり、その熱伝導率が33W/m・k以上であることを特徴とする。このように、本発明のアルミナ焼結体は、極めて高純度でシリカの量が少ないこと、その結晶粒の粒径が適切に制御された状態になっていることで、熱伝導率が高く、効率のよい放熱性が達成されることに加え、機械的強度に優れ、熱衝撃に強いものになる。本発明のアルミナ焼結体は、高純度でかつ緻密な焼結体であるが、アルミナ焼結体の密度は、3.8g/cm3以上であることが好ましい。より好ましくは3.93g/cm3以上、さらに好ましくは3.96g/cm3以上であり、アルミナの理論密度3.987g/cm3に近い、極めて緻密な焼結体である。
【0046】
アルミナ焼結体は、アルミナを99.5質量%以上含む、高純度の焼結体である。より純度の高いアルミナ粉末を原料とした場合には、アルミナ純度が99.9質量%以上のさらに高純度の焼結体が得られる。残部は焼結助剤に由来する、マグネシア(0.07〜0.15質量%)、シリカ(0.03〜0.35質量%)、Na2O(0.03〜0.05質量%)、Fe2O3(0.01〜0.02質量%)であるが、いずれも合計で0.5質量%未満であり、より好ましくは合計で0.1質量%未満である。
【0047】
本発明のアルミナ焼結体の結晶粒径は、1〜10μmの範囲内、より好ましくは1〜5μmの範囲内である。また結晶粒径の平均値は2〜7μm、より好ましくは2〜4μmである。結晶粒径が10μmより大きくなる粒成長がみられる焼結体は強度が低く、また熱伝導率が低い傾向にあり、熱放射部材用としての効果に劣る。すなわち、本発明の目的を達成し得るアルミナ焼結体の結晶状態としては、結晶粒径が小さく、さらに、下記に述べるように均一な大きさで緻密に焼結していることが求められる。なお、焼結体中の結晶粒の粒子径は、後述する測定方法によるものである。結晶粒は前記のように1〜10μmと粒子径が小さいだけでなく、アルミナ焼結体表面の30×20μmの面積中に30〜55個含まれていることを要し、均一な大きさの結晶粒が緻密に焼結していることが求められる(図2〜8参照)。
【0048】
前記したように、例えば、ゾル−ゲル法などによって得られる、粒子径が小さく、より均一で、その形状がほぼ真球に近い球状であるアルミナ粉末を原料とした場合には、原料粉末の粒子径のばらつきが小さく最密充填されるためと考えられるが、結晶粒の粒子径が1〜5μmとより小さく、平均粒子径も2〜4μmとより均一で緻密なものとできる(図7,8参照)
【0049】
先に述べたように、本発明のアルミナ焼結体は極めて緻密であり、好適なものの密度は3.93g/cm3以上であり、アルミナの理論密度3.987g/cm3に近い。さらに、原料に、例えば、粒子径がより小さく、より均一で、さらには真球に近い形状を有するアルミナ粉末を用いた場合には、3.96g/cm3以上、例えば3.98g/cm3の密度を有するより緻密なアルミナ焼結体とすることができる。なお、本発明のアルミナ焼結体はアルミナの含有量が増えるに従って、密度が高くなる傾向を示す。例えば、アルミナ含有量が99.9質量%の焼結体の密度は3.98g/cm3であり、理論密度に非常に近いものになる。このことは、アルミナ含有量が既知であるアルミナ焼結体の密度を測定することにより、結晶粒の粒子径の大きさを推測することが可能であることを意味している。アルミナ焼結体中の結晶粒の大きさを密度から算出すると、1〜10μmであり、結晶粒の大きさを観察した表面、または断面だけでなく、焼結体内部も同じ大きさの結晶粒からなる焼結体であることがわかる。
【0050】
本発明のアルミナ焼結体の熱伝導率は、使用するアルミナ粉末原料、添加する焼結助剤、焼成温度によって異なるが、33(W/m・k)以上、さらには36(W/m・k)以上のものにできる。前記したような、粒子径がより小さく、より均一で、さらには真球に近い形状を有するアルミナ粉末原料を用いて製造したアルミナ焼結体は、熱伝導率が41(W/m・k)以上で、さらに高い熱伝導率を有するものとできる。このような本発明のアルミナ焼結体の熱放射率は0.97以上であり、従来のアルミナ焼結体に比べて熱放射率が高く、電子機器等の発熱部位に設置した場合に顕著な放熱性が認められ、電子機器類の放熱部品として有効に機能できることを確認した。このことは、本発明のアルミナ焼結体は、平板状などの簡単な形状のものを単に発熱部位に接触させた状態に配置するという極めて簡単な構成によって、従来、電子機器類が必須としていた冷却ファンや、複雑な構造や形状の冷却用部品(ヒートシンク)などに代替し得ることを意味しており、その効果は極めて大きい。これは、本発明のアルミナ焼結体は、その高い熱伝導率によって、接触する物体からすばやく熱を吸収し、その高い熱放射率で熱を放射する結果、優れた冷却効果を発揮し、電子機器類におけるヒートシンクとして有効に機能し得るものになったものと考えられる。
【0051】
さらに、熱放射部材用とする場合、その放熱効果を上げるために放熱が要求される電子機器等の物体との接触面積を大きくすることが有効であるが、この点でも本発明の熱放射部材用セラミックスは有利である。すなわち、本発明の熱放射部材用セラミックスは、前述したように結晶粒が小さくかつ均一で緻密であるため、焼結体表面の平滑性が高く、発熱部位に接触させたときの接触面積を大きくできる。そのため、表面を研磨しなくても熱放射部材用セラミックスとして使用でき、生産性に優れる。また、表面を研磨することにより、表面を平滑にして発熱部位との密着性をさらに高くし、より高い放熱効果の実現が可能となるが、本発明のアルミナ焼結体は前述のように結晶粒が小さくかつ均一で緻密であるため、表面研磨時に破損やひび割れが起こりにくく、平滑度の高い鏡面仕上げが可能であり、この点においても、実用性が高いと言える。なお当然のことながら、熱伝導の低下につながるため、本発明の熱放射部材用セラミックスを発熱部位に接触させる場合には、間に接着層など他の層を設けずに直接接触させることが好ましい。
【0052】
上記したように、高い熱伝導率を有し、高い熱放射率を示す本発明の熱放射性部材用セラミックスを有効に機能させるためには、放熱する必要がある物体の発熱部の形状にできるだけ合致した形状とし、発熱部との密着性が高い形状とすることが好ましい。例えば、平板状あるいは角柱状、または円板状あるいは円柱状などの簡単な形状のものとすれば、成形が容易である。さらに表面研磨も容易にできるので、発熱部との接触面を平滑にすることで、発熱部との密着性をより高めることも可能である。本発明のアルミナ焼結体は、成形体を焼成することで得ることができるため、加工性に優れ、放熱を必要とする電子機器の形状や、その発熱部の形状に合致した最適な形状に容易にすることができるので、この点でも有利である。
【0053】
本発明のアルミナ焼結体の曲げ強度は、380〜500(MPa)の範囲であり、機械的強度に優れる。さらに、前記したような粒子径がより小さく、より均一で、さらには真球に近い形状を有するアルミナ粉末原料を用いることで得たアルミナ焼結体は、曲げ強度が400〜520(MPa)程度と、さらに高い機械的強度を示す。また、本発明のアルミナ焼結体の耐熱衝撃は300〜320(℃)であり、急冷による熱衝撃にも強い。このように本発明のアルミナ焼結体は充分な機械的強度を有するとともに、耐久性に優れており、実用に十分耐えうるものである。また、絶縁抵抗は1016(Ω・cm)より大きく、電気的特性にも優れている。
【0054】
本発明のアルミナ焼結体は、先に述べたように、それ自体の熱伝導率および熱放射率が高いため、そのままの状態で電子機器類の発熱部や発熱体に接触させた場合に、熱放射部材(ヒートシンク)として有効に機能し得るものとなる。本発明者らの検討によれば、本発明のアルミナ焼結体は、例えば、後述するように、放熱性の指標とされている80℃飽和エネルギーが大きく、発熱体から与えられる多くの熱量を外へ放出し、発熱体自体を80℃の一定温度に保つことができる。本発明のアルミナ焼結体は、このように優れた放熱性を示し、しかも絶縁体であることから、その用途として、例えば、温度が80℃を超えないことが求められる太陽電池モジュールの発電セルや、LED発光モジュールのLED素子に直接接触可能な熱放射部材としても極めて有用である。
【0055】
これらの用途に適用されている従来の熱放射部材(ヒートシンク)の多くは、銅やアルミなど熱伝導率が高い金属を材料とし、ヒートシンク性能を向上させるために、蛇腹状としたり多数の凹凸を設けるなど表面積を大きくするために複雑な形状に形成されることが多く、それでも足りない場合にはファンを取り付けて強制的に空気を流すこともあるなど、構造や機構が複雑であった。これに対し、本発明のアルミナ焼結体は、焼結体自体が放熱性に優れるため、従来のような複雑な構造や機構を必要とせず、平板状あるいは円板状などの単純な形状、あるいはこれらに厚みを持たせた形状(角柱状あるいは円柱状)でも十分にその冷却効果を発揮することができる。ここで、80℃飽和エネルギーは、後述するように平板状のアルミナ焼結体の表面積や厚みに依存するため、電子機器や装置に影響を与えない範囲で、できるだけ面積を大きくして発熱部に接する面積が大きくなるようにすることや、厚みを大きくしてより多くの熱を放熱させるようにすることが有効である。また、本発明が提供する熱放射部材は、発熱部に接触させて熱を放射させるので、前記したようにアルミナ焼結体の表面を研磨して発熱部との密着性を高めて接触面積を大きくすることがより好ましい。
【0056】
本発明者らは、上記した有用な機能性材料となり得る本発明のアルミナ焼結体の利用可能性について詳細な検討を行った。本発明者らの検討によれば、本発明のアルミナ焼結体は、太陽電池モジュールの熱放射部材として有効であり、これによって発電効率を向上させることができる。例えば、本発明のアルミナ焼結体を、太陽電池モジュールの発電セルの裏面側に設置し、発電セルと接触させる構造としただけで、後述するように太陽電池モジュールの発電力を、設置しない場合(従来のガラス板を使用する場合)に比べて最大で26%高くすることができることがわかった。アルミナ焼結体の面積が大きいほど、80℃飽和エネルギーは大きいため、発電セルの基体として用いる場合には、できるだけアルミナ焼結体の面積が大きくなるように、例えば、大きな平板状にすることが好ましい。さらに表面を研磨して凹凸を減らすと、アルミナ焼結体の表面と、発電セルとの接触面積を大きくすることができるので研磨して鏡面加工することも好ましい。なお、発電セルの裏面側にアルミナ焼結体を設ける場合に接着剤を使用すると、接着剤が、発電セルからの熱をアルミナ焼結体へ移動させる際の抵抗となるので、アルミナ焼結体を発電セルに直接接触させる構造とすることが好ましい。
【0057】
また、本発明のアルミナ焼結体をLED発光モジュールに適用し、LED素子の基板とすれば、LED素子から発生する熱をアルミナ焼結体から放熱することができ、この結果、LED素子の温度上昇を防ぎ、発光効率の低下や寿命の短縮を抑制でき、さらには、懸念される発熱による発火事故の発生を未然に防止することが可能になる。本発明者らは、本発明のアルミナ焼結体における、LED発光モジュールのLED素子基板への適用可能性を、下記のようにして検討した。まず、本発明のアルミナ焼結体を図28に示す形状(外径50mm、厚さ5mm)に形成し、その表面に、PVD(物理気相成長法)やCVD(化学的気相成長法)などで、銀、ニッケル、銅などの導電性金属を薄膜形成し、あるいは、上記金属を粒子として含むインクを印刷することにより配線25を形成する。形成した配線上に、LED素子をのせ、導電性接着剤で前記配線と接続し、さらにLED素子を樹脂により封止する。放熱性の向上のため、配線を形成する前にアルミナ焼結体表面を研磨してより平滑にしたものについても検討した。また、この検討の過程で、基体表面、あるいは研磨した基体表面に白色度の高い酸化チタン粒子層を形成すると、LED素子からの光反射率を高めることができることを確認した。酸化チタンは熱伝導率が高いためアルミナ焼結体からの熱放射性を大きく妨げるものではないが、影響を最小限にするためには、できるだけ緻密な粒子層を形成することが好ましい。
【0058】
同じ表面積を有するアルミナ焼結体の80℃飽和エネルギーは、後述するように、その厚みが大きくなるほど高い。すなわち、アルミナ焼結体の厚みが大きいほうがより放熱性に優れるため、LED素子の基板に適用する場合にはアルミナ焼結体の厚みを厚くすることが有効である。ただし、厚すぎると、LED発光モジュールが大きい、重いなどの問題が生じるので、例えば、1.8〜10mm程度、より好ましくは4.5〜5mm程度とすることが好ましい。
【0059】
本発明のアルミナ焼結体は、先に述べたように、アルミナ結晶粒子が特定の結晶粒径のものが緻密に焼結した構造を有するため、表面が平滑であり、上記のように金属の薄膜形成や印刷を容易に行うことができる。このように配線パターン形成が容易であるため、パターンは図28に限られず、さらに複雑なパターンも形成可能である。この場合、本発明のアルミナ焼結体の表面を研磨するなどして表面平滑性を向上させれば、さらに細かく複雑な配線パターンを形成できる。先に述べたように、本発明のアルミナ焼結体は、成形体を焼成する加工性に優れた本発明の製造方法で容易に得ることができるので、その形状は所望する適宜なものとできる。例えば、図28に示すような円板状に限らず、凹部を有するものなど、用途に応じた任意の形状のアルミナ焼結体を適宜に適用すればよい。本発明のアルミナ焼結体は、緻密に焼結しているため、切削加工時に結晶粒の脱離や破壊が起こりにくく、焼結体に凹部や貫通孔を形成することも容易であるので、熱放射部材として幅広い用途への実用化が期待できる。例えば、LED素子の基板だけでなく、様々な形状の基板上に複雑なパターンで配線形成が行われるICパッケージやパワートランジスタなどの基板とすることもできる。これらICパッケージやパワートランジスタなども発熱による劣化が問題とされており、放熱性に優れたアルミナ焼結体を基板とすることで、製品の劣化を防ぎ長寿命化を図ることが可能となる。
【0060】
(遠赤外線放射膜を表面に形成したアルミナ焼結体)
本発明のアルミナ焼結体は、上述のように高い熱伝導率および熱放射率を有し、熱放射性に優れるが、本発明者らの検討によれば、さらにアルミナ焼結体表面の少なくとも一部に遠赤外線放射膜を形成し、該表面に遠赤外線放射特性を賦与すると、その熱放射性能がさらに向上することがわかった。これは、アルミナ焼結体の熱放射面の少なくとも一部に、遠赤外線放射膜を形成することで、熱源(発熱部)からの熱が該遠赤外線放射膜面において遠赤外線に変換され、その結果、より効率よく熱が外部に放射されるようになったものと考えられる。例えば、六面体形状(四角柱状)のアルミナ焼結体において、発熱部に接触する面以外の面(五面)を熱放射面とし、該表面の少なくとも一部に遠赤外線放射コーティング組成物を用いて遠赤外線放射膜を形成すれば、さらにアルミナ焼結体の放熱性を向上させることができる。この場合、発熱部に接触する面以外の五面の一部または全部に遠赤外線放射膜を形成してもよいし、前記熱源に接触する面以外の五面が、一部に遠赤外線放射膜が形成された面を含むものであってもよい。
【0061】
本発明のアルミナ焼結体の形状を、例えば六面体形状とした場合には、熱伝導および熱放射性の観点から、放熱が要求される電子機器等の発熱部に接触する面の面積が最も大きくなるような形状とすることが好ましい。また、遠赤外線放射膜を設ける場合は、例えば、高さの低い四角柱状とした場合、発熱部との接触面に対向する面の少なくとも一部に形成してもよいが、遠赤外線放射膜の膜面積が大きいほど高い熱放射性が得られるため、高い熱放射性を有するアルミナ焼結体とするためには、遠赤外線放射膜を形成する範囲をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0062】
<遠赤外線放射コーティング組成物>
前記遠赤外線放射膜は、遠赤外線放射コーティング組成物を塗布した後、乾燥および焼き付けすることで形成されるが、本発明に好適な遠赤外線放射コーティング組成物としては、下記のものが挙げられる。すなわち、耐熱性無機接着剤(A)と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物(B)を、A:Bが97:3〜20:80の質量比率で含有してなるものを用いることができる。上記の耐熱性無機接着剤(A)としては、シリカ・アルミナ系接着剤が好ましく、上記の遷移元素酸化物としては、MnO2、Fe2O3を主成分とし、さらに、CoO、CuOおよびCr2O3から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0063】
上記したように、前記遠赤外線放射コーティング組成物は、A:Bが、97:3〜20:80の質量比率で含有してなるものが好ましい。前記遷移元素酸化物の仮焼成物(B)が3質量%より少ないと、形成した膜が十分な遠赤外線放射特性を示すものとならない。一方、前記(B)が80質量%より多いとコーティング特性に欠け、塗膜形成が難しくなる。中でも、遠赤外線放射特性およびコーティング特性の面から、前記(B)が20〜50質量%、特に30〜40質量%の範囲で含有されてなるものが好ましい。
【0064】
前記仮焼成物(B)中の遷移元素酸化物の好ましい組成としては、例えば以下の配合割合が挙げられる。
MnO2:10〜80質量%
Fe2O3:5〜80質量%
CoO:5〜50質量%
CuO:10〜80質量%
Cr2O3:2〜30質量%
上記遷移元素酸化物の種類および量を上記範囲内で変化させると、形成される遠赤外線放射膜が放射する赤外線の波長領域を変化させることができるので、適宜に設計することで、より放熱効率を高めることが可能になる。例えば、遷移元素酸化物の量が多いと、形成される遠赤外線放射膜に近赤外線の波長が認められるため、より熱放射性を高めることができる。ただし、コーティング膜を形成できるよう、上記のように耐熱性無機接着剤を少なくとも20質量%含むことが好ましい。
【0065】
また、前記仮焼成物(B)の粒径は1〜50μmであることが好ましい。粒径が大きいと、塗膜を形成したとき塗膜面にムラが生じ塗膜剥がれを生じやすいので、粒径はできるだけ小さいことが望ましいが、小さすぎると作業性に劣るため、上記範囲が適当である。
【0066】
<遠赤外線放射膜>
遠赤外線放射膜は、例えば、前記した組成からなる遠赤外線放射コーティング組成物からなるコーティング膜を形成し、これを焼き付けして形成したものであればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、遠赤外線放射コーティング組成物を、刷毛またはスプレーなどで、アルミナ焼結体表面に塗布し、塗布後50〜250℃の温度で乾燥、焼き付けすることで、アルミナ焼結体の所望の位置に遠赤外線放射膜を形成することができる。このときの塗膜の厚さは、0.1〜0.5mmとすることができるが、厚さが下限値より小さいと十分な遠赤外線放射効果が得られない。また、上限値より厚くても、遠赤外線放射効果の向上がみられない。前記遠赤外線放射コーティング組成物は前記乾燥および焼き付けによって収縮することがほとんどないので、所望の遠赤外線放射膜の厚さに塗布すればよい。
【0067】
上記のようにして形成してなる遠赤外線放射膜は、その基体の表面温度が室温(20℃)程度であっても遠赤外線を放射するが、高温に加熱されるほど遠赤外線放射効果が高い。例えば、100℃より高い高温において、遠赤外線をより多く放射し、おおよそ500〜650℃の範囲に加熱されると、遠赤外線の放射効果が十分に得られる。このように、上記した遠赤外線放射膜は、一般にその基体の表面温度が高いほど熱を遠赤外線に変換する効果が高い。本発明の熱放射部材用セラミックスは、発熱部位における冷却用途に利用するものであり、その使用状態において、アルミナ焼結体表面は室温(20℃)より高く、例えば50〜200℃になると考えられるが、このようなアルミナ焼結体表面に、上記遠赤外線放射膜を形成した場合にも十分な放熱効果を得ることができる。
【0068】
本発明のアルミナ焼結体は、前述のように熱伝導率および熱放射率が高く、冷却効果に優れた熱放射部材として機能するものであるが、上記したように、その表面に、上記したような遠赤外線放射膜を形成すると、後述の実験に示されるように、遠赤外線放射膜が熱を遠赤外線として効率よく放射するため、さらに放熱効果が高くなり、より好適なものとなる。例えば、後述の実験に示されるように、遠赤外線放射膜を表面に形成したアルミナ焼結体に加熱したヒータを接触させると、遠赤外線放射膜を形成しないアルミナ焼結体を接触した場合に比べ、ヒータ表面の温度を大きく下げることができる。また、後述する放熱性の指標となる熱抵抗値についても、遠赤外線放射膜を表面に形成したアルミナ焼結体は、遠赤外線放射膜を形成しないアルミナ焼結体よりも、その値が小さく、放熱性に優れ、アルミナ焼結体に接触させた物体の低温化に有利であることが検証される。この点については、後述する。
【実施例】
【0069】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0070】
(熱放射部材用セラミックス)
〔実施例1〕
原料粉末としてバイヤー法によって得られたアルミナ粉末を用いた。用いたアルミナ粉末には、平均粒子径0.7μmのものを使用した。この原料は、アルミナ99.5質量%、マグネシア0.16質量%、およびシリカ0.34質量%を含む。このアルミナ粉末を水と共にボールミル(ボール材料:アルミナ質)に入れ、10時間粉砕混合した。得られた粉末の平均粒径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したところ3μmであった。この粉末に有機質結合剤(アクリル樹脂およびポリビニルアルコール)を加えスラリー化し、噴霧乾燥して50〜100μmの顆粒を作成した。得られた顆粒を金型を用いて、成形圧力2,000kg/cm2で乾式成形法により成形し、縦、横、厚さがそれぞれ20mm、30mm、5mmの大きさの平板状の成形体を得た。この成形体の密度は2.40g/cm3であった。
【0071】
得られた成形体を、脱脂炉に入れ、室温から500℃まで100時間かけて昇温して脱脂した。冷却後成形体を取り出し、ガス炉に入れ150℃/時の昇温速度で1,580℃まで昇温し、大気雰囲気中で2時間保持した。その後、炉内に室温の空気を流入させて、258℃/時で冷却した。図1に焼成プロファイルを示す。上記ガス炉は空気を流通させたバッチ式の炉であり、プロパンガスによる燃焼を熱源としている。温度の制御は、プロパンガスの流量およびプロパンガスに混ぜる空気の流量を調節することによって行った。得られた熱放射部材用セラミックスは、緻密に焼結しており、焼成前の成形体に比べて若干小さかった。
【0072】
〔実施例2〕
焼成温度を1,583℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0073】
〔実施例3〕
焼成温度を1,555℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0074】
〔実施例4〕
焼成温度を1,592℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0075】
〔実施例5〕
焼成温度を1,570℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0076】
〔実施例6〕
原料粉末として、ゾル−ゲル法によって得られたアルミナ粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。なお、用いた原料アルミナ粉末は不純物をほとんど含まない、アルミナ含有量99.95%と高純度であり、平均粒子径0.5μmのものを用いた。また、粒子形状は真球状に近かった。
【0077】
〔実施例7〕
原料粉末として、ゾル−ゲル法によって得られた平均粒子径0.3μmのアルミナ粉末を用い、かつ焼成温度を1,550℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。アルミナ粉末原料のアルミナ含有量は実施例6と同様、99.95%あった。また、粒子の形状は真球状に近かった。
【0078】
〔実施例8〕
原料粉末として、実施例7で用いたと同様のアルミナ粉末を用い、かつ焼成温度を1,500℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。この場合は、2時間では焼成が十分でなく、焼成に時間が長くかかった。
【0079】
〔実施例9〕
原料粉末として、実施例7で用いたと同様のアルミナ粉末を用い、かつ焼成温度を1,600℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。この場合は、2時間の焼成では一部に結晶成長がみられ、焼成時間を短くする必要があった。
【0080】
〔比較例1〕
焼成温度を1,611℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0081】
〔比較例2〕
焼成温度を1,630℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0082】
〔比較例3〕
焼成温度を1,650℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0083】
〔比較例4〕
焼成温度を1,470℃とした以外は、実施例7と同様にして、熱放射部材用セラミックスを作製した。この場合は、焼成を長時間行っても焼成が十分にされないことがわかった。
【0084】
<評価A(熱放射部材用セラミックスの特性)>
上記で得られた実施例1〜7及び比較例1〜3のそれぞれの熱放射部材用セラミックスについて、下記に示す方法に従って、密度、結晶粒径、結晶数、耐熱衝撃温度、曲げ強さ、熱伝導率および絶縁抵抗を測定した。表1にその結果を示した。また、実施例1〜4,7,8および比較例1〜3の熱放射部材用セラミックスについて表面の結晶の様子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を、図2〜図11に示した。さらに、実施例1の熱放射部材用セラミックスについて、下記に示す方法に従い、熱放射率および全放射率を測定し、得られた測定スペクトルを図13に示した。なお、熱放射率は、分光放射率の最大値を指すが、本発明者らの検討によれば、アルミナ焼結体において、この値を比較した場合、この値が大きい方が放熱性に優れるので、放熱性を判断する一つの指標となり得る。
【0085】
〔密度〕
アルキメデス法による。具体的には、試料の大きさを直径30mm、厚さ5mmの円盤状とし、100℃2時間乾燥後の乾燥重量(W1)と水中重量(W2)をそれぞれ測定して、密度=(W1)/(W1−W2)により求めた。
【0086】
〔結晶粒径および結晶数〕
走査型電子顕微鏡観察(SEM)による。具体的には、直径10mm、厚さ5mmの大きさの試料の表面を、1,550℃でサーマルエッチングを行い、さらに金を蒸着した。走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製)により表面の結晶粒の様子を観察した。得られた3,000倍の顕微鏡写真から、30×20μmの面積内に存在する結晶の数(粒子全てが前記面積内に含まれるもの)を計測した。さらに、それぞれの結晶粒について、結晶の横方向および縦方向の最大寸法をそれぞれ測定し、これらの寸法の平均を結晶粒径とした。結晶の数および結晶粒径は30×20μmの面積を有するそれぞれ異なる3箇所について測定した。
【0087】
〔耐熱衝撃〕
水中投下法による。具体的には、試料(直径30mm、厚さ5mm)を、120、170、220、320、370℃の各温度に設定した恒温槽に30分間保持した後、20℃の水中へ投下する。投下後、探傷液を用いて、目視または顕微鏡観察にて亀裂や破壊の有無を測定した。亀裂または破壊が観察されなかった最も高い温度と20℃との温度差を、耐熱衝撃温度とした。
【0088】
〔曲げ強さ〕
三点曲げ試験による。具体的には、縦4mm、横40mm、厚さ3mmの試料を、曲げ強さ試験機により、三点曲げで測定した。
【0089】
〔熱伝導率〕
レーザーフラッシュ法による熱伝導率測定装置を用いて測定した。測定用試料には、直径10mm、厚さ3mmの大きさの鏡面仕上げしたものを用いた。そして試料の密度を上記アルキメデス法により測定後、測定装置を用いて比熱、熱拡散率を測定し、次式により熱伝導率(W/m・k)を算出した。
熱伝導率=(密度)×(比熱)×(熱拡散率)
【0090】
〔絶縁抵抗〕
絶縁抵抗計を用いて測定した。測定用試料として、それぞれの条件で作製した縦、横、高さがそれぞれ10mmの立方体形状の試料を用い、該試料の対向する2面に銀電極を設け、絶縁抵抗計で測定した。
【0091】
〔熱放射率〕
熱放射率は、加熱板法を用いて、発熱体表面の温度上昇を測定することにより行った(測定機;温度計HFT−40−安立計器(株))。即ち、マイカヒータを発熱体として用い、印加電圧を調整してその表面(上面)温度を一定に維持した後、当該発熱体表面に熱放射部材用セラミックスを密着させ、熱放射部材用セラミックスが密着していない部分の発熱体表面温度を測定することにより行った。
【0092】
〔全放射率〕
JIS R1801(遠赤外ヒータに放射部材として用いられるセラミックスのFTIRによる分光放射率測定方法)に従い、全放射率を測定した。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:Perkin Elmer製 System2000型)を用い、試料の形状を縦50mm、横50mm、厚さ5mmとし、測定波長領域370〜7,800cm-1(有効範囲:400〜6,000cm-1)について室温にて反射スペクトルを測定した。得られた分光放射率スペクトルから、各波長での分光放射率を測定し、全波長領域で平均して全放射率を求めた。
【0093】
【0094】
表1より、焼成温度が1,555〜1,592℃である実施例1〜5は、いずれも、結晶粒径の大半が1〜5μmで、30×20μm中に結晶を30〜55個有する緻密なアルミナ焼結体であった。また、図2〜6に示されるように結晶の粒成長が見られず、前記の大きさの結晶粒が均一に焼結していた。また、結晶粒の界面にシリカが析出している様子は観察されなかった。
【0095】
またゾル−ゲル法によって得られたアルミナ粉末を用いた実施例6〜9も緻密な焼結体であったが、結晶粒径が1〜3μmとさらに小さく、また30×20μm中の結晶数もバイヤー法によって得られたアルミナ粉末を原料とした実施例1〜5より多く、より緻密で高い熱伝導率および曲げ強度を有する焼結体が得られた。これは、原料粉末の純度が高いこと、および粒径がより均一であり、真球状に近いことによると考えられる。なお、バイヤー法によって得られたアルミナ粉末を原料としている実施例5も結晶粒径が1〜3μmであるが、これは実施例6より焼成温度が低く結晶の粒成長が抑えられたためと考えられる。
【0096】
実施例1の結晶粒径は、表1において2〜4μmと示しているが、これは上記方法によって測定された粒子径の最小値が2μm、最大値が4μmであり、30×20μmの観察面積内に観察される結晶粒全てが2〜4μmの範囲内にあることを示している。他の実施例2〜7および比較例1〜3についても同様である。実施例1において観察される結晶粒の粒径の平均値は3μmであった。同様に、他の実施例の結晶粒径の平均値は、実施例2および3は3μm、実施例4は4μm、実施例5は2μm、実施例6は2μm、実施例7は2μmであり、各実施例の結晶粒の平均値はそれぞれの結晶粒の範囲の中央値にほぼ等しかった。表1には実施例8および9の熱放射部材用セラミックスについて示していないが、焼成体密度、結晶粒径などの特性は実施例7のものとほぼ同じであった。
【0097】
実施例1〜9の熱放射部材用セラミックスは、いずれも優れた耐熱衝撃性、高い熱伝導率を有し、熱特性に優れた焼結体であった。また、曲げ強さの値も高く、機械的特性に優れた緻密な焼結体であった。表1には示していないが、実施例1ないし9の熱放射部材用セラミックスの熱放射率は、いずれも0.97であり、高い熱放射率を有していた。また、比較例1〜3について、表1に示す熱伝導率の値から熱放射率を算出すると、比較例1は0.91、比較例2は0.88、比較例3は0.85であり、実施例のものよりも低い値であった。
【0098】
実施例1の熱放射部材用セラミックスについてFT−IRを用いて全放射率を測定したところ70.6%であった。全放射率の値は、分光放射率を測定した波長領域370〜7,800cm-1(有効範囲400〜6,000cm-1)における分光放射率を平均し、100℃における値に換算して求めた。図13に、FT−IRを用いて測定された分光放射率スペクトルを示したが、図13に示されるように、実施例1の熱放射部材用セラミックスは1,100cm-1付近において最大放射率を示し、その分光放射率は0.97であった。
【0099】
本発明では、高純度のアルミナ焼結体を対象としているため、その結晶粒に違いがあったとしても分光放射率スペクトルに大きな違いは生じない。上記で検討した比較例においても、実施例と同じ原料を用い、狭い範囲で焼成温度を変えた例であるので、最大放射率や全放射率、特に分光放射率に大きな違いは認められなかった。本発明が目的とする放熱性に優れるアルミナ焼結体であることは、その熱伝導率と、結晶粒の大きさとを指標とすれば、適用試験をすることなく、十分に放熱性を予想できることを確認した。なお、勿論、原料中の焼結助剤の量を多くした場合等では、分光放射率スペクトルに明らかな違いが生じるので、熱放射部材用セラミックス製品の品質管理に、分光放射率スペクトルや、該スペクトルから求めた分光放射率を用いることは有用であると考えられる。
【0100】
比較例1〜3の熱放射部材用セラミックスは、10μmより小さい粒径の結晶粒もあったが、10μmより大きい結晶がみられ結晶成長が進んでおり、大きい結晶が含まれる分30μm×20μm中に含まれる結晶の数が少なかった。また結晶の粒成長による粗大化がみられた(図9〜11)。結晶粒径の平均値は8〜15μmであった。また、結晶粒の界面にガラス質のシリカが析出している様子が観察された。
【0101】
(遠赤外線放射膜の組成と特性)
〔参考例1〕
下記の遷移元素酸化物を混合し、800℃で仮焼成した。
MnO2 :50質量%
Fe2O3 :35質量%
CoO :5質量%
CuO :10質量%
シリカ・アルミナ系接着剤70質量%に対し、上記で得られた遷移元素酸化物の仮焼成微粉末30質量%を添加し、ボールミルにてよく混合し、遠赤外線放射コーティング組成物を得た。このコーティング組成物を、基体として縦横それぞれ50mm、厚さ1mmのステンレス板(SUS−304)の片側表面に、0.25mmの厚さで塗布し、120℃で30分間焼き付けして、遠赤外線放射膜コーティング板を得た。
【0102】
上記で得た板の遠赤外線放射強度を、先のアルミナ焼結体の全放射率と同様、JIS R1801(遠赤外ヒータに放射部材として用いられるセラミックスのFTIRによる分光放射率測定方法)に従い、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:Perkin Elmer製 System2000型)を用いて測定温度141.6℃にて測定した。図14に、得られた分光放射率スペクトルを示した。図14より、この遠赤外線放射膜コーティング板は、波長帯10〜20μmにおいて90〜95%の遠赤外線放射強度を示すことがわかる。
【0103】
比較として、コーティング組成物を塗布していないステンレス板そのものの遠赤外線放射強度を測定した。上記で遠赤外線放射膜を形成したものと同じ、縦横それぞれ50mm、厚さ1mmのステンレス板(SUS−304)について、上記と同様に遠赤外線放射強度を測定温度144.9℃にて測定した分光放射率スペクトルを、図15に示した。図15に示されるように、ステンレス板は波長帯4〜20μmにおける放射強度が15〜20%である。したがって、上記で遠赤外線放射膜を形成した基体であるステンレス板からは遠赤外線の放射はほとんどなく、上記図14において遠赤外線放射膜コーティング板が示す、波長帯10〜20μmにおける遠赤外線放射強度はそのほとんどが赤外線放射膜によるものであることがわかる。
【0104】
(遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体)
〔実施例10〕
実施例1と同様の方法で、縦横がそれぞれ50mm、厚さが5mmの平板状のアルミナ焼結体を作成した。得られたアルミナ焼結体の一方の表面(50mm×50mm)に、口径2mmのスプレーガンを用いて参考例1の遠赤外線放射コーティング組成物を塗布し、250℃の温度で焼き付けて遠赤外線放射膜を形成し、これを、本実施例の遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体とした。
【0105】
<評価B(熱放射部材用セラミックスの放熱特性)>
(B−I)ヒータ表面温度、放熱温度および熱抵抗値
上記で得た実施例10にかかる遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体と、実施例10で作成した遠赤外線放射膜を形成する前の、大きさのみが実施例1と異なるアルミナ焼結体(以下、実施例1のアルミナ焼結体と呼ぶ)について、下記に示す方法に従って、加熱時のヒータ表面温度、放熱温度、および熱抵抗値を測定し、それぞれの熱放射特性(放熱性)を評価した。また、縦横が50mm、厚さが5mmと、大きさのみが実施例7のアルミナ焼結体と異なるアルミナ焼結体(以下、実施例7のアルミナ焼結体と呼ぶ)についても同様の評価を行った。なお、試験に用いた各アルミナ焼結体は、いずれも焼成したままであり、研磨処理は行っていない。
【0106】
また、本発明にかかる熱放射部材用セラミックスの放熱効果、特に、アルミナ焼結体の表面に遠赤外線放射膜を形成することで向上する放熱効果を検証するため、比較例として、ヒートシンクの材料として用いられている金属銅板と、さらに基体を該金属銅板にして、該銅板上に遠赤外線放射膜を形成したものを用意して、同様の測定を行い、放熱効果の違いを比較した。具体的には、縦、横が50mm、厚さが5mmの平板状の金属銅板(比較例5)と、該銅板の平板状の上表面(50mm×50mm)に、実施例10と同様にして遠赤外線放射膜を形成した金属銅板(比較例6)を用いた。具体的な、それぞれの測定方法及び算出方法は、下記に示す通りである。結果は、表2〜4にまとめて示した。
【0107】
〔加熱時のヒータ表面温度〕
ヒータ(熱源)として、縦、横が50mm、厚さが4mmの平板状で、表面がSUS製であって内部にマイカヒータが内蔵されているものを用いた。図17に示すように、実施例10の遠赤外線放射膜2を有するアルミナ焼結体1を、アルミナ焼結体の膜2が設けられていない側の50mm×50mmの面を下にしてヒータ10の上表面にのせて両者を密着させた。そして、ヒータの下表面に温度センサ5(K種熱電対、安立計器株式会社製 モデルHFT−40)を取り付けて、ヒータ10に通電し、通電30分経過後のヒータ表面温度を測定した。表2中に、投入電力をそれぞれ1、3、5、7Wとしたときのヒータ表面温度をそれぞれ示した。温度測定は、図16に示したように、測定用のガラス製の箱(縦260mm、横220mm、高さ360mm)内において、支持具を用いてヒータの下面を箱の底面から50mm離した高さにセットし、同じガラス製の蓋で密閉して行った。なお、ヒータ通電後1分おきに温度測定を行った。投入電力によって多少の違いはあったが、いずれの場合も約20分経過後は温度変化がみられなくなり恒温になったため、30分後の温度を測定温度とした。
【0108】
図18に示すように、遠赤外線放射膜を設けていない実施例1および実施例7のアルミナ焼結体1についても上記と同様にして、通電30分経過後のヒータ表面温度の変化を測定した。測定結果を表2中に示した。さらに、比較例5の金属銅板、および比較例6の一方の表面に遠赤外線放射膜を形成した金属銅板についても、上記と同様にして、通電30分経過後のヒータ表面温度の変化を測定した。結果を表2中に示した。また、温度低下率を算出するため、何も載せないヒータ10単独の場合について、上記と同様にして通電30分経過後のヒータ表面温度を測定した。測定結果を表2に「ヒータのみ」として示した。
【0109】
【0110】
〔放熱温度〕
実施例10の遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体、実施例1および実施例7のアルミナ焼結体、比較例5の金属銅板および比較例6の遠赤外線放射膜を有する金属銅板について、それぞれの投入電力におけるヒータ表面温度と、ヒータを単独で加熱した場合のヒータ表面温度との差を放熱温度として算出し、結果をそれぞれ表3に示した。また、ヒータ単独の表面温度と比較して生じた、各試験体を載せたことによるヒータ表面温度の低下率(%)を算出し、それぞれ表3中の括弧内に示した。その結果、従来のヒートシンクの材料である金属銅板と比較し、本発明の実施例のアルミナ焼結体はいずれも、その温度低下率において明らかに有意な差がみられ、ヒートシンクの材料として有用であることが確認できた。さらに、アルミナ焼結体とする場合に用いるアルミナ粉末原料の粒径をより細かく、より均一にし、より真球状にすることや、一方の面に遠赤外線放射膜を形成することによって、温度低下率をさらに高めることができることが確認された。特に、遠赤外線放射膜を形成することによる効果は大きく、原料に、より細かくて真球状に近く、均一な粒径のアルミナ粉末を用いることはコスト面での課題があることから、遠赤外線放射膜を形成する方法は実用化の際に有効である。
【0111】
【0112】
〔熱抵抗値〕
さらに、上記の放熱温度の測定で得た値を用い、各焼結体について下記の方法で熱抵抗値を算出して、それぞれを評価した。具体的には、表2に示した投入電力を1Wと7Wとした場合における各ヒータ表面温度の値を使用して、下記の方法によって熱抵抗値を算出した。すなわち、表2に示した投入電力1Wの場合のヒータ表面温度と7Wの場合のヒータ表面温度との差を算出し、次に、この値を投入電力の差(6W)で除した値を算出し、これを熱抵抗値(℃/W)とした。このようにして算出した熱抵抗値の値を表4に示した。
【0113】
【0114】
表4の結果は、特に、アルミナ焼結体の表面に遠赤外線放射膜を形成する方法の適用は、放熱効果をさらに高めることを可能にし得ることを示している。また、表4に示した熱抵抗値の算出結果では、金属銅板について行った比較例の場合は、表面に遠赤外線放射膜を形成したことによる有意な差がみられなかったことから、この効果は、特に本発明のアルミナ焼結体の場合に大きいことがわかった。また、実施例のアルミナ焼結体は、従来のヒートシンク材料の金属銅板に比べて熱放射性(放熱性)に優れ、熱放射性部材として有用な材料であること、さらに、アルミナ焼結体の表面に遠赤外線放射膜を形成することによって、熱放射性(放熱性)をさらに向上でき、熱放射性部材としてさらに高い効果が期待できることが確認できた。
【0115】
なお一般に、熱抵抗値は、ヒータと測定物を接触させた状態において、ヒータに与えられた電力W(W)に対する、ヒータ表面温度(T1)と測定物の表面温度(T2)の差として(1)式のように表されるが、本試験では上記の方法で算出した値とした。
熱抵抗(℃/W)=(T2−T1)/W (1)
【0116】
(B−II)熱放射性の厚みによる違い
実施例1と同じ原料および焼成条件で、厚さを変えてそれぞれ製造したアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)を用い、アルミナ焼結体の厚みによる熱放射性の違いを検討した。具体的には、ヒータに接触させる面積が同じで厚みの異なるアルミナ焼結体について、図19に示す装置を用い、ヒータで加熱した時のヒータ表面およびアルミナ焼結体表面の温度を測定することにより、熱放射性の違いを評価した。図19に示す装置は図16に示す(B−I)における前記熱放射特性の評価に用いた装置と基本構造は同じであるが、本試験ではアルミナ焼結体およびヒータを鉛直方向に立て、アルミナ焼結体のヒータに接触しない側の表面温度も同時に測定した。測定は、厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板製の箱(縦440mm、横170mm、高さ170mm)内で行った。
【0117】
アルミナ焼結体1として、縦および横がそれぞれ23mm(表面の面積530mm2)で、それぞれヒータに接触する側の表面が同じ面積を有し、その厚さがそれぞれ、4.5mm、5.5mm、6.5mm、7.5mm、8.5mmと異なる5種類を用意した。縦23mm、横23mmの面のほぼ中央に、縦20mm、横10mm、厚さが2mmの抵抗加熱ヒータ10を密着させ(接触面積200mm2)、ヒータ表面およびアルミナ焼結体表面に温度センサ5を取り付けた。アルミナ焼結体1を木製台13に鉛直方向に立て、ヒータに通電し、通電後それぞれの時間経過後のヒータ表面およびアルミナ焼結体表面の温度をそれぞれ測定した。所定時間経過後のそれぞれの温度を表5および図20に示した。ヒータ単独の場合についても通電後所定時間経過後の表面温度を測定し、表5および図20中に合わせて示した。
【0118】
図20に、厚みの異なるアルミナ焼結体を密着させた場合におけるヒータ表面温度の変化をそれぞれ示した。この結果、ヒータ単独の場合その表面温度が95℃であるのに対して、該ヒータにアルミナ焼結体を接触させた場合は、いずれの場合も、ヒータの表面温度は、いずれも70℃程度で安定に推移することがわかった。表5よりヒータと反対側のアルミナ焼結体の表面温度も同様である。このことは、本発明の実施例1のアルミナ焼結体を発熱部に設置することで、ヒータによって付与され続ける熱エネルギーが、連続的にアルミナ焼結体から放出されることを示している。また、アルミナ焼結体の厚みを厚くした方が放熱の効果が高くなるものの、4.5mmの厚さのものでもヒータ表面温度を73℃以下と、ヒータの温度より20℃以上も低い温度に維持することができた。また、6.5mm以上にすればヒータ表面温度を70℃以下に維持させることもできるが、それ以上厚くしてもヒータ表面温度はほとんど変化しなかった。いずれの厚さのアルミナ焼結体を用いた場合もヒータ通電後約60分でヒータ表面温度が一定となった。この一定となった温度を平衡温度として、熱放射効果(ヒータ単独の場合のヒータ表面温度と前記平衡温度との差)とともに、アルミナ焼結体のそれぞれの厚さについて表6に示した。表6に示したように、前記平衡温度は厚さが厚くてもあまり変化しなかった。このことは、アルミナ焼結体の熱放射性は、アルミナ焼結体のヒータと接触する側の面の面積に占めるヒータ表面に接触している面積が同じ場合は、その厚みを増大させても熱放射性を向上させる効果が少ないことを意味している。上記した試験条件であれば、熱放射部材(放熱材)として十分な機能を示すアルミナ焼結体は厚さが4〜6mm程度であるとできる。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
次に、実施例1のアルミナ焼結体について、体積を一定とし、厚さがそれぞれに異なる平板状のアルミナ焼結体、すなわち、ヒータ側の表面積が異なるアルミナ焼結体を用いて熱放射性を評価した。この場合は、図21に示す装置を用い、ヒータで加熱した時のヒータ表面およびアルミナ焼結体表面の温度を測定することにより、熱放射性の違いを評価した。図21に示す装置は図19に示す試験装置と基本構造は同じであるが、本試験ではアルミナ焼結体およびヒータを水平方向に支持して測定した。測定は、図19と同じアクリル樹脂板製の箱(縦440mm、横170mm、高さ170mm)内で行った。
【0123】
評価対象のアルミナ焼結体1として、縦31.0mm、横18.0mm、厚さ5.0mmのもの(A)、縦19.4mm、横18.0mm、厚さ8.0mmのもの(B)、縦14.1mm、横18.0mm、厚さ11.0mmのもの(C)、の3種類を用意した。これらの体積はA:2,790mm3、B:2,794mm3、C:2,792mm3でほぼ一定である。A〜Cのアルミナ焼結体のほぼ中央に、縦20mm、横10mm、厚さが2mmの抵抗加熱ヒータ10を密着させ(接触面積200mm2)、ヒータ表面およびアルミナ焼結体表面に温度センサ5を取り付けた。アルミナ焼結体1を木製台13にヒータ10が下側になるように支持して、ヒータ10に通電し、通電後それぞれの時間経過後のヒータ10表面およびアルミナ焼結体1表面の温度をそれぞれ測定した。所定時間経過後のそれぞれの温度を表7に示した。ヒータ単独の場合についても通電後、所定時間経過後の表面温度を測定し、表7中に合わせて示した。また、ヒータ単独およびA〜Cのアルミナ焼結体の場合の、ヒータ表面温度の変化を図22に示した。
【0124】
表7および図22に示したように、いずれのアルミナ焼結体を用いた場合も、ヒータ表面温度は80℃以下に維持され、これらの形状のアルミナ焼結体も高い熱放射性を示すことが確認された。また、表7および表8の結果から、アルミナ焼結体の熱放射性は、アルミナ焼結体のヒータと接触する側の面の面積に占めるヒータ表面に接触している面積が小さい方が、より高い熱放射性を示す傾向があることがわかった。このことは、同じ体積であれば、よりヒータ表面に接触する側の面積が広くなるような形状とすることが熱放射性の向上に有効であることを示している。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
(B−III)80℃飽和エネルギー
実施例1のアルミナ焼結体(実施例1と同じ原料および焼成条件で製造したアルミナ焼結体)について、下記に示す方法に従って、「80℃飽和エネルギー」を測定することにより、本発明の熱放射部材用セラミックスの熱放射性(放熱性)を評価した。ここで「80℃飽和エネルギー」とは、アルミナ焼結体と接触させた発熱体の温度を80℃に保つために与えるエネルギー量(投入電力(W))のことである。すなわち、エネルギー量を増やしていった場合に、アルミナ焼結体からの放熱によって同量のエネルギーが放出されることで、発熱体およびアルミナ焼結体の温度が80℃を超えないで維持される最大のエネルギー量を指し、この値が大きいほど放熱性に優れる。具体的には図23に示す装置を用いて測定した。
【0129】
図23に示す試験装置は、図16に示す(B−I)、図19および図21に示す(B−II)における熱放射特性の評価に用いた試験装置などと基本構造は同じである。ただし、本試験ではアルミナ焼結体などの被測定物の四隅に竹製ニードル14(外径3mm、長さ50mm、熱伝導率0.15W/m・k)をそれぞれ1本ずつ立て、対象とするアルミナ焼結体への荷重が40kgf/m2となるように重り15を1つのせてアルミナ焼結体1を抵抗加熱ヒータ10に強く密着させ、ヒータ10下側の四隅を上記と同じニードル14で支持した状態で測定を行った。上記重り15には、アルミナを90質量%含有するセラミックス製の直方体(縦25mm、横45mm、厚さ130mm)を用いた。測定は、図16の試験装置と同様、ガラス製の箱11内に密閉した状態で、箱11内に設置した温度計16および風速計17(Model AM−B11/11−2111)によって、温度が20〜25℃の範囲、風速が0.05m/sec以下を測定開始条件とし、さらに測定中も温度および風速を記録しながら行った。なお、測定中は箱内の風速はほぼ0m/secの無風状態であった。
【0130】
上記試験装置を用い、縦20mm、横40mm、厚さが2mmの大きさの抵抗加熱ヒータ10の上面(20mm×40mm)上に、ヒータ10と同じ大きさの実施例1のアルミナ焼結体1を重ね、ヒータの下表面に温度センサ5(K種熱電対、安立計器株式会社製 モデルHFT−40)を取り付けて測定を行った。まず、ヒータ10に投入電力3Wで通電し、ヒータ通電後のヒータ表面温度の変化を図24に示した。図24中の破線は、アルミナ焼結体1をヒータ表面に重ねて測定した場合における温度変化を示し、点線は、アルミナ焼結体1の代わりにアルミナ焼結体1と同じ大きさの銅板(熱放射率は0.1より小さい)を重ねて測定した場合における温度変化を示す。実線は、ヒータ単独の場合に測定されたヒータ表面温度の変化である。
【0131】
図24に示したように、投入電力3Wで通電によりヒータの表面温度は100℃近くに達するが、銅板を重ねるとヒータ表面温度は約10℃下がる。これに対し、アルミナ焼結体をヒータ表面に重ねた場合には、ヒータ表面温度はそれよりもさらに20℃以上下がって、約68℃で平衡に達した。また、アルミナ焼結体をヒータ表面に重ねた場合には平衡に達する時間も約13分と短いことがわかった。このことから、本発明のアルミナ焼結体は、銅板より放熱性に優れ、しかも、接触しているヒータの表面温度の上昇に速やかに追随して放熱が行われ、ヒータ表面温度を70℃に迅速に下げることができることが確認された。
【0132】
次に、アルミナ焼結体をヒータ表面に重ねたままの状態でヒータ投入電力をさらに上げて付与するエネルギー量を増やしていき、ヒータ表面温度が80℃に保たれるように電力を調整し、80℃で一定に達したときの投入電力(4.5W)を80℃飽和エネルギーとした。銅板をヒータ表面に重ねた場合について同様に試験したところ、この場合は、投入電力を調整することなく80℃に達してしまったので、この投入電力(3.0W)を80℃飽和エネルギーとした。
【0133】
実施例1と同じ原料および焼成条件で製造した、ヒータに接触させる面積が異なる形状のアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)を用い、これを、それぞれのアルミナ焼結体の接触面と同じ大きさをもつヒータ10上に重ね、上記と同様にして80℃飽和エネルギーを測定した。銅板についても上記と同様にして80℃飽和エネルギーを測定した。測定した80℃飽和エネルギーを、アルミナ焼結体および銅板の面積(縦×横)を横軸として図25に示した。図25より、◆で示したアルミナ焼結体、▲で示した銅板のいずれの場合も、80℃飽和エネルギーは、ヒータに接触する面積に比例して大きくなることがわかる。両者の比較において、アルミナ焼結体の80℃飽和エネルギーは、例えば面積が約10,000mm2の場合では、銅板の約9倍と大きく、放熱効果に極めて優れていることがわかった。なお、アルミナ焼結体と銅板について、外挿線が縦軸(横軸=0)と交わる値はニードルを介して移動したエネルギー量である。
【0134】
次に、実施例1と同じ原料および焼成条件で、下記に示すような形状の異なるアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)をそれぞれ製造し、これらのアルミナ焼結体について、図23に示す試験装置を用いる上記した方法で、80℃飽和エネルギーをそれぞれ測定した。具体的には、縦70mm、横90mmの大きさで、厚さをそれぞれ表9に示す厚さとしたアルミナ焼結体と、縦50mm、横50mmの大きさで、表9に示す厚さにしたアルミナ焼結体をそれぞれ作製した。表9に、これらのアルミナ焼結体についての80℃飽和エネルギーの測定値を示した。表9の結果から、ヒータに接触させる面積が同じであるアルミナ焼結体では、厚みが大きくなるほど80℃飽和エネルギーが大きいことがわかる。また、同じ厚さのアルミナ焼結体同士で比較すると、80℃飽和エネルギーは、ヒータに接触させる面積と相関があり、上記試験の場合は厚みにかかわらず、面積が大きい方が2倍弱の80℃飽和エネルギーを示した。
【0135】
【0136】
上記(B−III)の試験では、全て上記実施例1と同一の製造条件で得られたアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)で形状がそれぞれ異なるものを用いて試験を行った。また、試験に用いた各アルミナ焼結体は表面を研磨することなく用い、ヒータとの間には何らの接着剤を配することなく密着させてそれぞれの試験を行った。さらに、先に述べた(B−I)の結果から、表面に遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体も、アルミナ焼結体と同様あるいはそれ以上の熱放射特性を発揮することから、アルミナ焼結体表面に遠赤外線放射膜を形成しても、同様の放熱効果、あるいはさらに優れた放熱効果を有すると考えられる。
【0137】
<評価C(熱放射部材用セラミックスの応用例−太陽電池モジュールへの応用)>
上記(B−III)で示されるように、本発明のアルミナ焼結体は、80℃飽和エネルギーが大きいことから、太陽電池モジュールへの応用を検討した。
【0138】
図26に示すように、発電セル18の裏面側(太陽光の受光側と反対面)に実施例1の製造条件で得たアルミナ焼結体1を配置したときの発電力を測定し、結果を図27に示した。発電セルには、ポリクリスタルシリコンからなり、(Isc)0.72A、(Voc)0.6V、の起電力を発生させることが可能なセルを用いて、下記のようにして試験を行った。アルミナ焼結体1の上に配置した発電セル18が水平面に対し30°の角度を有するように傾け、図23に示した支持体と同じニードル14でアルミナ焼結体の四隅を支持した。図23に示す装置と同じガラス製の箱11内にセットし、屋外に置いて太陽光が十分に当たるようにした。測定前および測定中のガラス箱内は風速0.05m/sec以下の無風状態であった。また測定開始前の温度は35〜40℃であった。上記と同様にして、アルミナ焼結体の代わりにガラス板を配置した状態で発電セルの発電力を測定し、図27に結果を合わせて示した。図27中の■はアルミナ焼結体を配置した場合であり、◆は、アルミナ焼結体を配置しない場合(ガラス板を配置した場合)を示す。ガラス板およびアルミナ焼結体は縦横いずれも50mm、厚さ5mmとした。
【0139】
図27に示すように、太陽電池セルの発電力は、裏面側にアルミナ焼結体を置いた場合(■)、置かない場合(◆)に比べて、最大26%高かった。これより、本発明の熱放射部材用セラミックスは、太陽電池セルの冷却機構として使用可能であることが示された。さらに、本発明の熱放射部材用セラミックスは熱放射特性に優れており、太陽電池セルに接して設置するだけで上記のような発電効率の向上がみられることから、太陽電池セルの冷却機構として有効であることが示唆された。
【0140】
なお、上記試験では、前記実施例1と同一の製造条件で得られたアルミナ焼結体を用いて試験を行ったが、前記(B−I)に示されるように、表面に遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体も、アルミナ焼結体と同様あるいはそれ以上の熱放射特性を発揮することから、表面に遠赤外線放射膜を形成したアルミナ焼結体も同様の放熱効果、あるいはさらに優れた放熱効果を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の活用例としては、従来のセラミックスでは達成されなかった高い熱伝導率を有し、効率のよい放熱性を実現でき、しかも、機械的強度や耐熱衝撃性にも優れることから、電子機器等において問題となっている動作中における発熱の問題を、アルミナ焼結体、さらに好ましくは遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体を発熱部位に密着させた状態で直接設置するだけで放熱器として機能させることができるので、その利用価値は絶大である。特に、近年における電子機器は、小型化、精密化および高機能化の傾向が著しく、また、近年における地球温暖化の問題は深刻であり、装置や電子機器に対する省エネの要求は強く、ファン等の冷却装置の設置を不要とし、放熱器として機能し得る本発明の熱放射部材用セラミックスへの期待は、各方面において極めて大きい。本発明において応用例の一例として示した太陽電池モジュールやLED発光モジュールに限らず、高い放熱性を有する本発明の熱放射部材用セラミックスは、各種電子機器など高い放熱が期待される機器におけるヒートシンク材としての利用が期待される。
【符号の説明】
【0142】
1:アルミナ焼結体
2:遠赤外線放射膜
5:温度センサ
10:ヒータ
11:測定用箱
12:支持具
13:木製台
14:ニードル
15:重り
16:温度計
17:風速計
18:発電セル
25:配線
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が高く、しかも熱衝撃および機械的強度にも優れた効率のよい放熱部材として実用化が可能な、特有の結晶状態をもつアルミナ系焼結体からなる熱放射部材用セラミックスを提供する技術に関し、さらには、該セラミックスの高い放熱機能を利用した製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機系材料に比べて安定な無機系材料が見直されてきており、アルミナ(Al2O3)をはじめとして、ステアタイト、ジルコン、コーディエライト等からなるセラミックスは、それぞれに特有の性質を生かした機能性材料として多方面に利用され、電子部品や半導体製造装置などへ応用される例も増えている。例えば、アルミナは、機械的強度、電気絶縁性、高周波損失等に優れた機能性材料として利用されている。その中で、本願出願人は、既に、大気雰囲気中で1,400〜1,700℃で焼成して得られる、アルミナの含有率が95質量%と高い陶磁器(セラミックス)が、熱伝導率と熱放射率に優れることを見い出し、これを発熱部の冷却に用いることについて提案している(特許文献1参照)。該陶磁器は、電気絶縁性に優れ、無機材料製の不燃物であることから、発熱部位に直接接触させて冷却できるので、電子機器や装置を含めた冷却効果が所望される分野における使用が期待される。
【0003】
機能性材料としてのアルミナ系焼結体(セラミックス)に関しては、そのほかにも、機械的特性や電気的特性等に着目して、それぞれの用途に有用な様々な提案がなされている(特許文献2〜7等参照)。
【0004】
ここで、近年、地球規模での環境保護の観点からも注目されているものとして、太陽光を利用する発電セルを用いた太陽光発電装置や、LED素子を搭載した発光装置がある。そして、これらの装置では、エネルギーの変換効率或いはその発光効率の向上および製品の長寿命化の観点から、発電や発光の際に発生する熱を効果的に冷却することが望まれており、(特許文献8〜10)、先述した出願人が提案する特許文献1に記載の技術が適用できれば、非常に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−298703号公報
【特許文献2】特開2010−83729号公報
【特許文献3】特開2005−53758号公報
【特許文献4】特開2003−112963号公報
【特許文献5】特開平8−40765号公報
【特許文献6】特開2000−128625号公報
【特許文献7】特開2003−306386号公報
【特許文献8】特開2004−259797号公報
【特許文献9】特開2009−147258号公報
【特許文献10】特開2010−225607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願出願人が提案した上記特許文献1の技術は、熱伝導率および熱放射率に優れたアルミナ焼結体を開示しているものの、近年の電子機器等における小型化、精密化や高機能化の進展は著しく、これらの機器の機能を安定してより高めることのできる機能性材料としては十分とはいえず、改善の余地があった。すなわち、実用化のためには、より効率のよい冷却効果を実現することができ、しかも強度等に優れ、耐久性における問題もなく、安定して確実に冷却効果の発現が可能なセラミックス材料の開発、さらには、このような材料を歩留まりよく製造できる技術の開発が望まれる。これに対し、アルミナ焼結体の製造にあたっては、下記に述べるように、種々の条件が、焼結体の機能性に影響を及ぼすことが知られている。このため、特許文献1の技術では、高機能化が進んだ電子機器等の発熱部位における冷却に対して高い効果を確実にかつ安定して得ることができ、機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる冷却部材として実用化が可能なアルミナ焼結体を安定して提供するまでには至っていない。
【0007】
各種電気部品に用いられる従来の一般的なアルミナ焼結体は、用いる原料粉末の一次粒子の粒子径は5〜10μmと大きく、成形圧力は比較的低く設定されており、焼結を1,600〜1,700℃という高温で行うことによって粉末粒子間の結合を促進し、強固な焼結体としていた。しかしながら、本発明者らの検討によれば、例えば、図12に示す1,610℃で焼成したアルミナ焼結体のように、このような高温環境下で焼成した場合は、焼結体内の結晶粒が異常成長して結晶の粗大化が起こり、機械的強度や耐熱衝撃性が低下したものとなってしまう。先に挙げた特許文献2では、この問題に対して、アルミナ焼結体の結晶粒径を20〜70μmと大きくすると同時に、板状の結晶を配向させずにランダムにすることで強度を向上させている。しかし、結晶粒径の粗大化は、表面研磨時に、欠けや破損の原因となるといった別の問題を生じる。
【0008】
このような課題に対して、或いはその他の目的から、従来より、アルミナ焼結体の結晶の粒成長を抑えることについての検討は行われており、下記に述べるような種々の提案がされている。例えば、特許文献3では、アルミナが本来有する、高強度、高熱伝導特性、低誘電損失を維持しつつ、材料コストを削減でき、かつ製造時の作業性の良好なアルミナ焼結体を提供することを目的として、下記の提案がされている。すなわち、特許文献3では、平均粒径が0.1〜1.0μmのアルミナ原料と、さらに特定量の焼結助剤とを用い、焼結温度を1,150〜1,350℃と低くすることで、アルミナ焼結体中のアルミナ粒子の平均粒径が、0.5〜2.0μm、熱伝導率が10W/m・K以上の、結晶の粒成長が抑制されたアルミナ焼結体を得ている。しかし、この材料は、熱放射機能に劣り、本発明が目的とする冷却部材として使用できるものではなかった。また、特許文献4では、アルミナ焼結体において、不純物量だけでなく結晶粒径も誘電損失に影響を与えることを開示しているが、熱伝導率や熱放射率などの熱特性については検討されていない。
【0009】
また、特許文献5では、長時間高温に置かれる部材に適用可能な、不純物含有量を低減し、高純度化すると共に、全体として緻密化され均質性に優れる高密度なアルミナ焼結体を得る方法を提案している。しかし、冷却部材として使用できるアルミナ焼結体を提供するものではなく、結晶粒径を制御することを示唆するものでもない。先に挙げた特許文献6によれば、アルミナ焼結体は焼成温度が1,550℃未満では焼結体の緻密化が十分には進行せず、1,650℃超では異常な粒成長が発生し、焼結体密度の低下を来たすとされている。しかし、この文献に記載の技術は、粒子径の異なる2種類の原料と、成形方法に泥漿鋳込み法などを用いてアルミナ焼結体を得る際の技術に関し、高純度で低粘度のスラリー調製を可能とすることで粒成長を制御しているものであり、アルミナ焼結体を冷却部材として使用可能にすることを目的とする本発明とは、課題もアルミナ焼結体の製造方法も異なる。また、先に挙げた特許文献7には、高純度アルミナ原料を用いたアルミナ焼結体が開示されているが、これは部品などの焼成時に用いられるセラミックスセッターに関するものであり、上記と同様、冷却部材として実用化が可能なアルミナ焼結体の提供を目的としたものではない。
【0010】
また、本願出願人は、これまでに、基体表面に塗布して焼き付けすることで、ガス、電気などで加熱することにより遠赤外線を放射する塗膜を得ることができる遠赤外線放射コーティング組成物を提案している(特公昭63−54031号公報参照)。しかし、この技術は、ガス、電気などの熱を、特定の塗膜を設けることで、所望する波長領域の遠赤外線に変化させるための技術であり、勿論、効率のよい放熱(すなわち冷却)を目的としたものではない。
【0011】
先に述べたとおり、近年の電子機器等における小型化、精密化や高機能化の進展は著しく、これらの電子機器の機能をより高めることのできる冷却部材を形成し得る機能性材料の開発が待望されているが、電子機器に限らず、その高効率化や長寿命化のため冷却が必要とされる装置は多い。また、この場合も装置の小型化が求められることが多いため、空冷、水冷などの冷却機構よりも構造の簡単な熱伝導性の高い材料などを用いた熱放射部材(ヒートシンク)が望まれており、より小型で簡単な構造を実現し得る、より放熱性に優れた部材や機構の開発が求められている。
【0012】
例えば、結晶系シリコン発電素子などの発電セルを用いた光エネルギーを直接電力に変換する太陽電池は、二酸化炭素を発生しない電力源として近年注目を浴びており、より高い電力への変換効率の実現が求められている。しかし、受光中の太陽電池モジュールの温度は80℃以上に達することもあり、このことに起因する太陽電池の出力の低下が問題となっている。これに対し、太陽電池モジュールを水冷するなど、様々な冷却機構が提案されている(上記特許文献8)。しかし、水冷などは機構が複雑となり付帯装置が大型化し、さらに設置後のメンテナンスが必要となるといった問題もあり、その実用化は難しく、電力への変換効率を高めて太陽電池の普及をより促進するためにも、できるだけシンプルな構造の冷却機構あるいは熱放射部材の開発が急務となっている。
【0013】
また、太陽電池と同様の課題を有するものとして、発光ダイオード(LED)素子を用いたLED発光モジュールがある。近年、発光効率がよく消費電力の少ない照明として発光ダイオード(LED)素子を用いた発光装置が急速に普及しているが、LED素子は熱に弱く、80℃以上で素子が劣化して寿命が低下してしまうという課題がある。このため、LED素子では、放熱の必要性は従来の白熱球や蛍光灯よりも高く、適切に放熱しないと、発光効率の低下や寿命の短縮、さらには発熱による発火事故に繋がる懸念もある。このため、LED発光モジュールの場合も、太陽電池モジュールの場合と同様に、LED素子からの熱を放熱する技術は、その普及を促進させるために不可欠なものと言える。すなわち、これらのモジュールを冷却するための、シンプルな構造の冷却機構あるいは熱放射部材の開発の実現は、地球規模での環境保全に寄与し得る重要なものである。
【0014】
LED素子の冷却に関しては、下記に挙げるような提案があるが、いずれも実用化する技術としては十分とは言えない。先に挙げた特許文献9では、LED素子を搭載する基体として金属板、絶縁体および金属基体の積層構造を採用し、貫通溝を形成することで、LED素子からの放熱性に優れた発光装置としているが、放熱のための貫通溝は、絶縁体の一部を除去して形成した複雑な構造を有し、生産性の向上は難しい。
【0015】
また、先に挙げた特許文献10では、高純度アルミナ基板にLED素子を配設した発光装置を開示しており、該高純度アルミナ基板は高い熱伝導率を有し放熱性に優れることが記載されている。しかし、特許文献10の技術は、特定の波長の光についての基板の光線反射率を高めることで、これに配設したLED素子の発光効率を高める技術であり、アルミナ焼結体の有する結晶構造と放熱性との関係を示唆したものではない。
【0016】
従って、本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、熱伝導率が高く、効率のよい放熱性を達成でき、電子機器等の発熱部位における冷却用途に利用でき、しかも機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる、アルミナ焼結体である熱放射部材用セラミックスの製造方法、および、上記の機能が発揮できる結晶粒の成長が抑制されたアルミナ焼結体である熱放射部材用セラミックスを提供することにある。さらに本発明は、上記熱放射部材用セラミックス表面を改質することにより、放熱性をさらに向上させた熱放射部材用セラミックスを提供することを目的とする。
【0017】
さらに、本発明の目的は、上記した放熱性に優れる有用な熱放射部材用セラミックスの利用を促進することにあり、具体的には、各種電子機器の放熱機構における代替品として、さらに、シンプルかつ効果的な放熱手段が求められている太陽電池モジュールやLED発光モジュールにおける発熱の問題を解決し得る放熱部材として、種々の用途に適用可能な熱放射部材用セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、かつ、平均粒子径が0.2〜1μmであるアルミナ粉末を原料として用い、該粉末を50〜100μmの顆粒状にする顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体を得る焼成工程とを有することを特徴とする熱放射部材用セラミックスの製造方法を提供する。
【0019】
上記本発明の熱放射部材用セラミックスの製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
(1)前記焼成温度が、1,500〜1,592℃である上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(2)前記成形工程において、密度が少なくとも2.40g/cm3の成形体を得る上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(3)さらに、前記焼成工程後に、該焼成工程における焼成温度までの昇温速度に対して、1.3〜2.0倍の速度で焼成物を急冷して焼結体を得る冷却工程を有する上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(4)前記焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行う上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(5)さらに、前記焼成工程で得られた焼結体の表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射コーティング組成物からなるコーティング膜を形成し、焼き付けして遠赤外線放射膜を形成する工程を有する上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
(6)前記遠赤外線放射コーティング組成物は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を97:3〜20:80の質量比率で含有する上記の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【0020】
本発明の別の実施形態では、アルミナの含有量が99.5質量%以上、シリカ(SiO2)の含有量が0.1質量%以下のアルミナの焼結体であり、その結晶粒径が1〜10μmで、かつ、30×20μmの面積中に結晶粒を30〜55個の範囲で含有してなり、その熱伝導率が33W/m・K以上であることを特徴とする熱放射部材用セラミックスを提供する。
【0021】
上記本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
(1)前記焼結体密度が、3.8g/cm3以上である上記の熱放射部材用セラミックス。
(2)前記アルミナの含有量が99.8質量%以上、シリカの含有量が0.05質量%以下である上記の熱放射部材用セラミックス。
(3)表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射膜をさらに有する上記の熱放射部材用セラミックス。
(4)前記遠赤外線放射膜は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を、97:3〜20:80の質量比率で含有する遠赤外線放射コーティング組成物のコーティング膜を焼き付けてなる上記の熱放射部材用セラミックス。
【0022】
本発明の別の実施形態では、本発明の熱放射部材用セラミックスをそれぞれに利用した下記の太陽電池モジュール、又は、LED発光モジュールを提供する。具体的には、発電セルの裏面に、上記した本発明の熱放射部材用セラミックスを配置してなることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。また、基板表面に回路が形成され、該回路上にLED素子が設けられているLED発光モジュールにおける上記基板が、上記した本発明の熱放射部材用セラミックスのいずれかであることを特徴とするLED発光モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特に、その使用原料とその焼成温度を精密に制御することによって、熱伝導率が高く、効率のよい効果的な放熱が達成され、電子機器等の発熱部位における冷却用途に利用でき、しかも機械的強度や耐熱衝撃性にも優れる、熱放射部材用として有用な新規なアルミナ焼結体を安定して得ることができるアルミナ焼結体の製造方法が提供される。かかる方法によって得ることのできるアルミナ焼結体は、従来のアルミナ焼結体とは異なり、結晶成長を生じておらず、結晶粒径が小さく、比較的均一に結晶粒径が適切に制御されており、しかも結晶粒の界面への不純物の析出がほとんどない、高純度で緻密なアルミナ焼結体であるため、上記したように従来にない優れた機能性材料となる。
【0024】
さらに、本発明の好ましい形態によれば、アルミナ焼結体の表面の少なくとも一部、例えば、熱を放熱させる面に、遠赤外線放射コーティング組成物からなる遠赤外線放射膜を設けることで、発熱部位からの熱を放熱するだけでなく、熱を遠赤外線に変換して外部に放射することができるため、より放熱性に優れた熱放射部材用セラミックスの提供が可能となる。
【0025】
本発明によれば、熱伝導率が高く、効率のよい効果的な放熱を達成でき、また機械的強度や耐熱衝撃性にも優れているアルミナ焼結体を太陽電池モジュールやLED発光モジュールに適用することで、下記の効果が得られる。すなわち、本発明で提供するアルミナ焼結体を適用した場合、極めてシンプルなアルミナ焼結体からなる部材のみで、太陽電池モジュールの温度上昇に起因して生じる発電セルの出力低下が抑制でき、発電効率の向上がみられ、また、熱に弱いLED素子にあっては素子の劣化を有効に抑制し、LED素子の長寿命化や発熱による発火事故の発生の防止を可能にする。このため、本発明によれば、自然環境保護に有用な太陽電池モジュールやLED発光モジュールを用いた各種製品の実用化に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における昇温・焼成・冷却の条件の概略を説明するための図である。
【図2】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例1)。
【図3】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例2)。
【図4】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例3)。
【図5】図4に示す電顕写真の一部を拡大して示す図である。
【図6】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例4)。
【図7】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例7)。
【図8】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である(実施例8)。
【図9】比較例1の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図10】比較例2の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図11】比較例3の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図12】従来のアルミナ焼結体の一例の結晶状態を示す電顕写真の図である。
【図13】本発明の熱放射部材用セラミックス(アルミナ焼結体)のFT−IRによる分光放射率スペクトルである。
【図14】参考例1の遠赤外熱放射膜の放射強度を示すFT−IRによる分光放射率スペクトルである。
【図15】遠赤外熱放射膜を形成していないステンレス板の放射強度を示すFT−IRによる分光放射率スペクトルである。
【図16】評価(B−I)における実施例10のヒータ表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図17】実施例10の遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体について、ヒータ表面温度測定時のヒータと温度センサの配置を示す図である。
【図18】実施例1のアルミナ焼結体について、ヒータ表面温度測定時のヒータと温度センサの配置を示す図である。
【図19】評価(B−II)における実施例1のアルミナ焼結体およびヒータの表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図20】本発明のアルミナ焼結体の、面積を一定としたときの厚みによる熱放射特性の違いを示すグラフである。グラフ中、◆はヒータ単独の場合のヒータ表面温度を示し、□は厚さ4.5mm、▲は厚さ5.5mm、△は厚さ6.5mm、■は厚さ7.5mm、○は厚さ8.5mmのアルミナ焼結体をそれぞれ接触させた場合のヒータ表面温度を示す。
【図21】評価(B−II)における実施例1のアルミナ焼結体およびヒータの表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図22】本発明のアルミナ焼結体の、体積を一定としたときの厚みによる熱放射特性の違いを示すグラフである。グラフ中、◆はヒータ単独の場合のヒータ表面温度を示し、■はアルミナ焼結体A(縦横厚さがそれぞれ31.0mm、18.0mm、5.0mm)、▲プロットはアルミナ焼結体B(縦横厚さがそれぞれ19.4mm、18.0mm、8.0mm)、□はアルミナ焼結体C(縦横厚さがそれぞれ14.1mm、18.0mm、11.0mm)をそれぞれ接触させた場合のヒータ表面温度を示す。
【図23】評価(B−III)における実施例1のヒータ表面温度の測定方法を表す概念図である。
【図24】投入電力3Wのときのヒータ表面温度の変化を表すグラフである。グラフ中、直線はヒータ単独の場合、破線はアルミナ焼結体をヒータに重ねた場合、点線は銅板をヒータに重ねた場合、を示す。
【図25】本発明のアルミナ焼結体および銅板について、それぞれの面積に対する80℃飽和エネルギーを表すグラフである。グラフ中、◆はアルミナ焼結体、▲は銅板を示す。
【図26】本発明の熱放射部材用セラミックスの応用例の一例として、太陽電池モジュールの放射冷却効果を測定する実験装置の一例を示す図である。
【図27】図26において測定した発電力を示す図である。グラフ中、■は本発明のアルミナ焼結体を配置した場合、◆はアルミナ焼結体の代わりにガラス板を配置した場合を示す。
【図28】本発明の熱放射部材用セラミックスの応用例の一例として、表面に回路を形成したLED発光モジュールの基板の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のアルミナ焼結体の製造方法は、特定のアルミナ原料粉末を調整する顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体(セラミックス)を得る焼成工程とからなる。本発明の特徴は、原料に、高純度のアルミナの微粒粉末を用い、該微粒粉末を顆粒状にした点、該顆粒化した原料を加圧成形した点、成形体を大気雰囲気中で制御された特定の温度範囲で焼成した点にある。以下、それぞれについて説明する。
【0028】
(原料及びその顆粒化工程)
<原料>
原料となるアルミナ粉末は、平均粒子径が0.2〜1μmであればそのまま使用することができ、特に粉砕する必要はないが、後述するように、粒子径の分布は狭い方が好ましい。このため、ボールミルなどで粉砕して、粒度分布を揃えて用いることが好ましい。本発明では、焼結体中のアルミナ含量を99.5質量%以上とするため、アルミナ含有量が99.5質量%以上、好ましくは99.9質量%以上の高純度のアルミナ原料を用いる。
【0029】
アルミナ原料としては、一般に入手可能な公知のアルミナ原料粉末をいずれも用いることができる。例えば、金属アルミニウム精錬プロセスにおける中間生成物であるキブサイトを1,000℃以上で仮焼する、バイヤー法と呼ばれる方法によって得られるα−アルミナ粉末を用いることができる。また、金属アルコキシドを加水分解および重縮合反応して得られるゲルを加熱して得られるゾル−ゲル法によるアルミナ粉末を用いてもよい。ゾル−ゲル法によって得られるアルミナ粉末は、バイヤー法などで得られるアルミナ粉末よりも純度が高く、また、粒子径が小さく、かつ均一であり、さらに真球に近い球形の粒子である。このため、例えば、ゾル−ゲル法によって得られる99.9質量%以上の純度のアルミナ粉末を原料として用いると、よりアルミナ純度が高い焼結体が得られ、焼結体中の粒界にガラス相が形成されるのを抑えることができるので、より熱伝導性に優れた焼結体になる。また、ゾル−ゲル法によって得られる球形粒子のアルミナ粉末を用いると、バイヤー法で得られるアルミナ粉末を用いた場合に比べて、後述する成形工程において、より緻密な成形体が得られ、下記に述べるように、より低い焼成温度でアルミナが焼結し、細かく均一な結晶状態の良好なアルミナ焼結体を得ることができる。
【0030】
例えば、同様の粒径のアルミナ粉末で比較した場合、バイヤー法で得られるアルミナ粉末を用いた場合は、焼成温度が1,550℃を下回ると焼結しにくくなるが、ゾル−ゲル法で得られるアルミナ粉末を用いた場合は、1,480℃でも十分に焼結し、より低温域で良好な焼成が可能である。このように、ゾル−ゲル法で得られるアルミナ粉末は、原料コストは高いが、焼成温度を低くできるという利点がある。なお、いずれの原料を用いた場合も焼成温度が1,600℃を超えると結晶粒の成長がみられ、本発明の効果が十分に得られるアルミナ焼結体となり難い。
【0031】
また、例えばゾル−ゲル法で得られるような、より粒径が小さく均一なアルミナ粉末を原料に用いることで、後述するように、より強度および熱伝導性などに優れるアルミナ焼結体にできる。本発明者らの詳細な検討によれば、上記したように、用いるアルミナ粉末原料によって最適な焼成が行われる温度範囲に多少の違いがみられ、それに起因して熱特性などにも若干の違いはあるが、平均粒子径が0.2〜1μmで、アルミナ含有量が99.5質量%以上のアルミナ粉末原料を用い、本発明で規定する手順および条件で調製すれば、上記に限らず、いずれの製造方法によって得られたアルミナ粉末を原料に用いた場合も、強度および熱伝導性に優れ、従来のアルミナ焼結体では達成し得なかった熱放射部材として有用な機能を示すアルミナ焼結体となる。
【0032】
本発明者らの検討によれば、原料にゾル−ゲル法によって得られるアルミナ粉末を用いた場合、同様の粒径のバイヤー法によって得られるアルミナ粉末を用いた場合に比較して、より低温域で焼成でき、しかも強度および熱伝導性に優れたアルミナ焼結体となる。その理由は、ゾル−ゲル法によって得られるアルミナ粉末は、純度が高く、粒子が小さくて均一であり、また、粒子形状が真球に近いためであると考えられる。したがって、本発明に用いるアルミナ粉末原料は、できるだけ純度が高く、より粒子が小さくて均一であり、さらに好ましくは粒子形状が球形であるものが好ましい。本発明では、アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、平均粒子径が1.0μm以下の微粒のアルミナを原料として用いるが、例えば、バイヤー法によるアルミナ粉末でも、平均粒子径が0.3μm程度のものまで市場から入手可能である。ゾル−ゲル法などによるアルミナ粉末であれば、平均粒子径が0.2〜0.4μm程度の、より微粒で、シャープな粒度分布をもつ、形状が真球に近いものを市場から入手できる。勿論、上記した製法のアルミナ粉末に限らず、本発明に用いる原料は、本発明で規定する高純度の微粒のアルミナであればいずれの製法のものであってもよく、また、市場から入手したアルミナ粉末を粉砕あるいは精製して本発明で規定する粒径および純度としたものでもよい。さらに、原料のアルミナ粉末を球形化して用いることも好ましい。
【0033】
アルミナ粉末には不可避的な不純物が含まれているので、本発明で用いる原料粉末には焼結助剤を加えなくても焼結体が得られるが、結晶粒成長を抑制するために、原料中に焼結助剤としてマグネシア、シリカを加えてもよい。これらを加えることで、より緻密なアルミナ焼結体を安定して製造することが可能になる。ただし、これらの焼結助剤は結晶粒界に析出し熱的特性に影響を与えるので、できる限り少ないことが好ましい。このため、本発明では、原料粉末中のアルミナの含有量を99.5質量%以上とし、焼結助剤などの添加剤の含有量を合計で0.5質量%未満とした。合計で0.5質量%未満であれば焼結助剤として、例えば、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化鉄(Fe2O3)を加えてもよい。
【0034】
<原料粉末の顆粒化>
本発明者らの検討によれば、上記したような粒子径が非常に小さいアルミナ粉末原料を、適度な粒径に顆粒化することで、より緻密な成形体が得られ、さらには、より密度の高いアルミナ焼結体の製造が可能になる。顆粒化の方法は特に限定されないが、例えば、アルミナ原料粉末に後述するような有機質結合剤を添加してスラリー化した後、噴霧、乾燥させることで、粒子径が50〜100μmの成形用の顆粒を容易に得ることができる。このようにして得られる顆粒は、球状のものとなる。また、顆粒化することで、微粒子からなるアルミナ粉末原料のハンドリング性を向上させることができるので、製造上も有利である。
【0035】
(成形工程)
次に、上記のようにして得た、粒子径が50〜100μmの球状顆粒を原料として、適宜に保形性を与えるために有機質結合剤等を添加して、この顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形して成形体を作成する。成形方法は特に限定されないが、成形体に圧力をかけることで、例えば、得られる成形体の密度が2.40g/cm3以上の緻密なものとなるような方法を用いればよい。具体的には、例えば、金型を用いて、成形圧力として1,000〜2,500kg/cm2を加えて成形体を作成することが挙げられる。この場合に、成形圧力が1,000kg/cm2より小さいと、成形体における粒子間の間隙が多く、後に行う焼成の際における熱伝導性が悪いため、より緻密な焼結体を得るために焼成温度を高くしなければならなくなる。後述するが、本発明においては、焼結体に所望する機能性を付与するためには焼成温度が極めて重要であり、本発明で規定するよりも焼成温度が高くなると、得られた焼結体中に結晶粒の成長がひき起されて所望する特性が得られなくなるので、成形工程では、より緻密な成形体とすることが好ましい。一方、成形圧力が2,500kg/cm2より大きいと、成形体にひび割れや破損が生じ、歩留まりが低下するので好ましくない。本発明者らの検討によれば、特に、成形圧力が1,200〜2,500kg/cm2であると、密度が2.40g/cm3以上の成形体が得られ、後に焼成することで、本発明が所望する緻密なアルミナ焼結体が得られる。さらに、成形圧力が1,500〜2,000kg/cm2であることがより好ましい。例えば、前記したゾル−ゲル法によるアルミナ粉末を原料に用いると、密度が2.45g/cm3以上の、より密度の高い緻密な成形体を容易に得ることができる。なお、本発明において、成形体の密度は、成形体の重量と、成形体の測定寸法から求めた体積から算出した。
【0036】
成形体を作成する方法は、上記の乾式金型成形法に限らず、他の成形方法、例えば、冷間静水圧成形(CIP)、ホットプレス(HP)、熱間静水圧成形(HIP)、押出成形、射出成型などを用いてもよい。いずれの成形方法を用いた場合でも、密度が2.40g/cm3以上の成形体とすれば、後の焼成工程を経ることにより、緻密で特定の結晶状態を有する、所望性能を実現したアルミナ焼結体を安定して得ることができる。
【0037】
上記した顆粒化工程や成形工程で使用する有機質結合剤としては、従来、セラミックスの製造において使用されているものをいずれも用いることができる。具体的には、加熱時に溶融して適度な粘性を示し、加熱・焼成して焼成物とした後に残留しないような特性を有する有機化合物を使用する。このようなものとしては、分子中に酸素原子が多く含まれているポリビニルアルコール、ポリエステルやセルロースの誘導体、更には、適宜な重合度のアクリル樹脂、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド、プロピレンオキシドに任意の量のエチレンオキシドを共重合させたポリエーテルがある。また、セルロースの誘導体である水溶性セルロースエーテル、中でも、メチルセルロースを用いることができる。アクリル樹脂やポリビニルアルコールは、従来よりファインセラミックス製品の押出し成形時の結合剤として用いられており、本発明で用いる原料粉末を顆粒化する際に、或いは、顆粒化した原料に保形性を付与するための有機質結合剤として好適に用いることができる。
【0038】
(脱脂及び乾燥工程)
本発明の製造方法では、上記のようにして得た成形体から前記のような有機質結合剤などを除去するために、例えば脱脂炉にて、大気中で500℃まで約100時間かけて一定の昇温速度(約5℃/時)で昇温することが好ましい。このように長い時間をかけて徐々に温度を上げることにより、成形体に含まれる有機質成分を完全に、しかも成形体に割れやひびを生じない状態で除去することができる。
【0039】
(焼成工程)
本発明の製造方法では、上記した成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で、より好ましくは、1,500〜1,592℃、さらには、1,550〜1,592℃の焼成温度で焼成することで、本発明が所望する熱放射性に優れるアルミナ焼結体を得る。下記に述べるように、使用するアルミナ原料粉末の粒子径や粒子形状によって、好適な焼成温度は若干異なる。例えば、平均粒径が1.0μm程度と比較的に粒径が大きく真球状とは言えないアルミナ粉末原料を用いた場合に、所望する緻密なアルミナ焼結体を安定して得るためには、1,550℃以上、より好ましくは、1,555℃以上の焼成温度で焼成するとよい。本発明者らの詳細な検討によれば、この場合に、所望する緻密なアルミナ焼結体をより安定に得るためには、焼成温度を1,592℃以下とすることが好ましい。これに対し、例えば、ゾル−ゲル法によるアルミナ粉末のように、平均粒径がより小さく、均一な真球状に近いアルミナ粉末を原料とする場合は、前記したように、成形工程で得られる成形体をより緻密にできるので、1,500℃以下の低い温度でも所望する緻密なアルミナ焼結体を安定して得ることができる。また、焼成温度が1,600℃以下であれば、所望の緻密なアルミナ焼結体を得ることができるが、焼成温度が低い方が、結晶粒径が小さく、より熱特性、強度に優れた焼結体が得られる傾向にあり、また、エネルギー効率の観点からも焼成温度はできるだけ低い方が好ましい。さらに、焼成温度を低くすると焼成時間が長くなるため、上記したようなアルミナ粉末原料を用いた場合は、1,500℃以上、さらには1,550℃以上にすることが好ましい。上記のことから、アルミナ粉末原料の性状にかかわらず、所望する緻密なアルミナ焼結体をより安定して得ることのできる好適な焼成温度範囲としては、1,500〜1,592℃、さらには、1,550〜1,592℃である。
【0040】
前記焼成温度における焼成時間は2時間以内にすることが好ましい。これ以上長くなると、結晶粒が成長するおそれがあるので好ましくない。また、本発明では、焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行うことが好ましい。さらに、上記焼成工程後に、焼成温度に至るまでの昇温速度に対して、1.3〜2.0倍の速度で焼成物を急冷して焼結体を得る冷却工程を有することが好ましい。すなわち、本発明において重要なことは、その焼成温度を、焼成温度としては比較的低く、しかも、1,480〜1,600℃、より好適には、1,500〜1,592℃、さらには1,550〜1,592℃と、極めて狭い温度範囲に制御して行うことで所望の結晶状態にすることにあり、焼成後は、結晶粒の成長が抑制されるように急冷することが好ましい。具体的な昇温速度、冷却速度や焼成温度に保持する時間は、成形体の大きさや厚みによっても異なり、一義的に決定できないが、上記した焼成温度までの昇温速度に比べて、焼成温度からの冷却速度(降温速度)を1.5倍程度、速くすることが好ましい。
【0041】
図1に、焼成工程と、それに続く冷却工程における、昇温・焼成・冷却の条件の一例を模式的に示した。例えば、アルミナを99.5質量%以上含む成形体を、大気雰囲気中にて、昇温速度を100〜200℃/時、より好ましくは140〜160℃/時とし、および降温速度を、200〜300℃/時、より好ましくは240〜270℃/時として焼成を行う。また、焼成温度における保持時間は2時間以下、具体的には1〜2時間とした。保持時間が1時間より短いと焼結が不十分になるおそれがあり、2時間を超えると結晶の粒成長を生じるおそれがある。より好ましい保持時間は2時間である。本発明では、低めの特定の狭い範囲の焼成温度、さらに好ましくは昇温速度および降温速度を適切に制御することによって、焼結体が高温に曝される時間を短くでき、これによって焼結体中の結晶粒の成長を抑えることができる。この結果、結晶粒径が適切に制御された、高純度で緻密なアルミナ焼結体を製造できる。得られるアルミナ焼結体は、その原料の純度が極めて高いことに加えて、本発明で規定する温度制御によって、結晶粒の界面への不純物の析出がほとんどみられず、その結果、高い熱伝導率が得られ、これに起因する効率のよい放熱性(熱放射性)の達成が実現できる材料とできたものと考えられる。また、焼結体中の結晶粒の成長が抑制され、結晶粒径が適切に制御されているため、熱伝導性に優れるとともに、その機械的強度に優れ、熱衝撃に強く、実用に耐える耐久性の高いものになったと考えられる。なお、本発明で規定する特定範囲の焼成温度によって、得られる焼結体の結晶状態、さらには性能が異なるものになることについては、実施例をもって詳述する。
【0042】
なお、本発明の製造方法でも、通常のセラミックスの製造方法と同様に、焼成工程の前に成形体の脱脂及び乾燥を行うことが好ましいが、成形体の脱脂及び乾燥は、前述するように焼成工程に先立って別途行ってもよい。しかし、これに限らず同じ炉内において脱脂及び乾燥工程と、その後の焼成工程を行ってもよい。その場合には、得られた成形体をバッチ式の炉にて空気を流通させながら、500℃まで100時間程度かけて、ゆっくりと昇温した後、500℃から前述の昇温速度、焼成温度、冷却温度で焼成する。このように同じ炉内において続けて昇温することにより、工程を簡略化することができる。
【0043】
また、前述のように、脱脂後、一旦成形体を取り出し、再度同じ炉または異なる炉内にて焼成することもできる。この場合は、室温から前述の昇温速度で昇温して焼成することができ、さらに約1,000℃までは、成形体にひび割れなどが生じない範囲でさらに速い昇温速度にすることが可能である。よって、脱脂及び乾燥用の炉と、焼成用の炉を使い分け、より効率的に大量の熱放射部材用セラミックスを焼成することが可能となる。
【0044】
後述する本発明の実施例では、焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行った。本発明の実施例で用いた炉は、炉内温度をプロパンなどのガスによって加熱した空気の流量で直接制御するので、温度制御が容易であり、前記の昇温速度、焼成温度、および降温速度を適切な範囲に制御できる。ただし、本発明において焼成に用いる炉は、上記のものに限られるものではなく、大気雰囲気中において、焼成温度を制御しての焼成が可能な炉であれば、いずれのものを用いてもよい。
【0045】
(熱放射部材用セラミックス)
次に、上記したような製造方法によって得ることのできる、高純度でかつ緻密な焼結体からなる本発明の熱放射部材用セラミックス(以下、単に「本発明のアルミナ焼結体」とも言う)について説明する。本発明の熱放射部材用セラミックスは、アルミナの含有量が99.5質量%以上、好ましくは99.8質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上であり、シリカ(SiO2)の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下のアルミナの焼結体であり、その結晶粒は、粒径が1〜10μmで、かつ、30×20μmの面積中に結晶粒を30〜55個の範囲で有してなり、その熱伝導率が33W/m・k以上であることを特徴とする。このように、本発明のアルミナ焼結体は、極めて高純度でシリカの量が少ないこと、その結晶粒の粒径が適切に制御された状態になっていることで、熱伝導率が高く、効率のよい放熱性が達成されることに加え、機械的強度に優れ、熱衝撃に強いものになる。本発明のアルミナ焼結体は、高純度でかつ緻密な焼結体であるが、アルミナ焼結体の密度は、3.8g/cm3以上であることが好ましい。より好ましくは3.93g/cm3以上、さらに好ましくは3.96g/cm3以上であり、アルミナの理論密度3.987g/cm3に近い、極めて緻密な焼結体である。
【0046】
アルミナ焼結体は、アルミナを99.5質量%以上含む、高純度の焼結体である。より純度の高いアルミナ粉末を原料とした場合には、アルミナ純度が99.9質量%以上のさらに高純度の焼結体が得られる。残部は焼結助剤に由来する、マグネシア(0.07〜0.15質量%)、シリカ(0.03〜0.35質量%)、Na2O(0.03〜0.05質量%)、Fe2O3(0.01〜0.02質量%)であるが、いずれも合計で0.5質量%未満であり、より好ましくは合計で0.1質量%未満である。
【0047】
本発明のアルミナ焼結体の結晶粒径は、1〜10μmの範囲内、より好ましくは1〜5μmの範囲内である。また結晶粒径の平均値は2〜7μm、より好ましくは2〜4μmである。結晶粒径が10μmより大きくなる粒成長がみられる焼結体は強度が低く、また熱伝導率が低い傾向にあり、熱放射部材用としての効果に劣る。すなわち、本発明の目的を達成し得るアルミナ焼結体の結晶状態としては、結晶粒径が小さく、さらに、下記に述べるように均一な大きさで緻密に焼結していることが求められる。なお、焼結体中の結晶粒の粒子径は、後述する測定方法によるものである。結晶粒は前記のように1〜10μmと粒子径が小さいだけでなく、アルミナ焼結体表面の30×20μmの面積中に30〜55個含まれていることを要し、均一な大きさの結晶粒が緻密に焼結していることが求められる(図2〜8参照)。
【0048】
前記したように、例えば、ゾル−ゲル法などによって得られる、粒子径が小さく、より均一で、その形状がほぼ真球に近い球状であるアルミナ粉末を原料とした場合には、原料粉末の粒子径のばらつきが小さく最密充填されるためと考えられるが、結晶粒の粒子径が1〜5μmとより小さく、平均粒子径も2〜4μmとより均一で緻密なものとできる(図7,8参照)
【0049】
先に述べたように、本発明のアルミナ焼結体は極めて緻密であり、好適なものの密度は3.93g/cm3以上であり、アルミナの理論密度3.987g/cm3に近い。さらに、原料に、例えば、粒子径がより小さく、より均一で、さらには真球に近い形状を有するアルミナ粉末を用いた場合には、3.96g/cm3以上、例えば3.98g/cm3の密度を有するより緻密なアルミナ焼結体とすることができる。なお、本発明のアルミナ焼結体はアルミナの含有量が増えるに従って、密度が高くなる傾向を示す。例えば、アルミナ含有量が99.9質量%の焼結体の密度は3.98g/cm3であり、理論密度に非常に近いものになる。このことは、アルミナ含有量が既知であるアルミナ焼結体の密度を測定することにより、結晶粒の粒子径の大きさを推測することが可能であることを意味している。アルミナ焼結体中の結晶粒の大きさを密度から算出すると、1〜10μmであり、結晶粒の大きさを観察した表面、または断面だけでなく、焼結体内部も同じ大きさの結晶粒からなる焼結体であることがわかる。
【0050】
本発明のアルミナ焼結体の熱伝導率は、使用するアルミナ粉末原料、添加する焼結助剤、焼成温度によって異なるが、33(W/m・k)以上、さらには36(W/m・k)以上のものにできる。前記したような、粒子径がより小さく、より均一で、さらには真球に近い形状を有するアルミナ粉末原料を用いて製造したアルミナ焼結体は、熱伝導率が41(W/m・k)以上で、さらに高い熱伝導率を有するものとできる。このような本発明のアルミナ焼結体の熱放射率は0.97以上であり、従来のアルミナ焼結体に比べて熱放射率が高く、電子機器等の発熱部位に設置した場合に顕著な放熱性が認められ、電子機器類の放熱部品として有効に機能できることを確認した。このことは、本発明のアルミナ焼結体は、平板状などの簡単な形状のものを単に発熱部位に接触させた状態に配置するという極めて簡単な構成によって、従来、電子機器類が必須としていた冷却ファンや、複雑な構造や形状の冷却用部品(ヒートシンク)などに代替し得ることを意味しており、その効果は極めて大きい。これは、本発明のアルミナ焼結体は、その高い熱伝導率によって、接触する物体からすばやく熱を吸収し、その高い熱放射率で熱を放射する結果、優れた冷却効果を発揮し、電子機器類におけるヒートシンクとして有効に機能し得るものになったものと考えられる。
【0051】
さらに、熱放射部材用とする場合、その放熱効果を上げるために放熱が要求される電子機器等の物体との接触面積を大きくすることが有効であるが、この点でも本発明の熱放射部材用セラミックスは有利である。すなわち、本発明の熱放射部材用セラミックスは、前述したように結晶粒が小さくかつ均一で緻密であるため、焼結体表面の平滑性が高く、発熱部位に接触させたときの接触面積を大きくできる。そのため、表面を研磨しなくても熱放射部材用セラミックスとして使用でき、生産性に優れる。また、表面を研磨することにより、表面を平滑にして発熱部位との密着性をさらに高くし、より高い放熱効果の実現が可能となるが、本発明のアルミナ焼結体は前述のように結晶粒が小さくかつ均一で緻密であるため、表面研磨時に破損やひび割れが起こりにくく、平滑度の高い鏡面仕上げが可能であり、この点においても、実用性が高いと言える。なお当然のことながら、熱伝導の低下につながるため、本発明の熱放射部材用セラミックスを発熱部位に接触させる場合には、間に接着層など他の層を設けずに直接接触させることが好ましい。
【0052】
上記したように、高い熱伝導率を有し、高い熱放射率を示す本発明の熱放射性部材用セラミックスを有効に機能させるためには、放熱する必要がある物体の発熱部の形状にできるだけ合致した形状とし、発熱部との密着性が高い形状とすることが好ましい。例えば、平板状あるいは角柱状、または円板状あるいは円柱状などの簡単な形状のものとすれば、成形が容易である。さらに表面研磨も容易にできるので、発熱部との接触面を平滑にすることで、発熱部との密着性をより高めることも可能である。本発明のアルミナ焼結体は、成形体を焼成することで得ることができるため、加工性に優れ、放熱を必要とする電子機器の形状や、その発熱部の形状に合致した最適な形状に容易にすることができるので、この点でも有利である。
【0053】
本発明のアルミナ焼結体の曲げ強度は、380〜500(MPa)の範囲であり、機械的強度に優れる。さらに、前記したような粒子径がより小さく、より均一で、さらには真球に近い形状を有するアルミナ粉末原料を用いることで得たアルミナ焼結体は、曲げ強度が400〜520(MPa)程度と、さらに高い機械的強度を示す。また、本発明のアルミナ焼結体の耐熱衝撃は300〜320(℃)であり、急冷による熱衝撃にも強い。このように本発明のアルミナ焼結体は充分な機械的強度を有するとともに、耐久性に優れており、実用に十分耐えうるものである。また、絶縁抵抗は1016(Ω・cm)より大きく、電気的特性にも優れている。
【0054】
本発明のアルミナ焼結体は、先に述べたように、それ自体の熱伝導率および熱放射率が高いため、そのままの状態で電子機器類の発熱部や発熱体に接触させた場合に、熱放射部材(ヒートシンク)として有効に機能し得るものとなる。本発明者らの検討によれば、本発明のアルミナ焼結体は、例えば、後述するように、放熱性の指標とされている80℃飽和エネルギーが大きく、発熱体から与えられる多くの熱量を外へ放出し、発熱体自体を80℃の一定温度に保つことができる。本発明のアルミナ焼結体は、このように優れた放熱性を示し、しかも絶縁体であることから、その用途として、例えば、温度が80℃を超えないことが求められる太陽電池モジュールの発電セルや、LED発光モジュールのLED素子に直接接触可能な熱放射部材としても極めて有用である。
【0055】
これらの用途に適用されている従来の熱放射部材(ヒートシンク)の多くは、銅やアルミなど熱伝導率が高い金属を材料とし、ヒートシンク性能を向上させるために、蛇腹状としたり多数の凹凸を設けるなど表面積を大きくするために複雑な形状に形成されることが多く、それでも足りない場合にはファンを取り付けて強制的に空気を流すこともあるなど、構造や機構が複雑であった。これに対し、本発明のアルミナ焼結体は、焼結体自体が放熱性に優れるため、従来のような複雑な構造や機構を必要とせず、平板状あるいは円板状などの単純な形状、あるいはこれらに厚みを持たせた形状(角柱状あるいは円柱状)でも十分にその冷却効果を発揮することができる。ここで、80℃飽和エネルギーは、後述するように平板状のアルミナ焼結体の表面積や厚みに依存するため、電子機器や装置に影響を与えない範囲で、できるだけ面積を大きくして発熱部に接する面積が大きくなるようにすることや、厚みを大きくしてより多くの熱を放熱させるようにすることが有効である。また、本発明が提供する熱放射部材は、発熱部に接触させて熱を放射させるので、前記したようにアルミナ焼結体の表面を研磨して発熱部との密着性を高めて接触面積を大きくすることがより好ましい。
【0056】
本発明者らは、上記した有用な機能性材料となり得る本発明のアルミナ焼結体の利用可能性について詳細な検討を行った。本発明者らの検討によれば、本発明のアルミナ焼結体は、太陽電池モジュールの熱放射部材として有効であり、これによって発電効率を向上させることができる。例えば、本発明のアルミナ焼結体を、太陽電池モジュールの発電セルの裏面側に設置し、発電セルと接触させる構造としただけで、後述するように太陽電池モジュールの発電力を、設置しない場合(従来のガラス板を使用する場合)に比べて最大で26%高くすることができることがわかった。アルミナ焼結体の面積が大きいほど、80℃飽和エネルギーは大きいため、発電セルの基体として用いる場合には、できるだけアルミナ焼結体の面積が大きくなるように、例えば、大きな平板状にすることが好ましい。さらに表面を研磨して凹凸を減らすと、アルミナ焼結体の表面と、発電セルとの接触面積を大きくすることができるので研磨して鏡面加工することも好ましい。なお、発電セルの裏面側にアルミナ焼結体を設ける場合に接着剤を使用すると、接着剤が、発電セルからの熱をアルミナ焼結体へ移動させる際の抵抗となるので、アルミナ焼結体を発電セルに直接接触させる構造とすることが好ましい。
【0057】
また、本発明のアルミナ焼結体をLED発光モジュールに適用し、LED素子の基板とすれば、LED素子から発生する熱をアルミナ焼結体から放熱することができ、この結果、LED素子の温度上昇を防ぎ、発光効率の低下や寿命の短縮を抑制でき、さらには、懸念される発熱による発火事故の発生を未然に防止することが可能になる。本発明者らは、本発明のアルミナ焼結体における、LED発光モジュールのLED素子基板への適用可能性を、下記のようにして検討した。まず、本発明のアルミナ焼結体を図28に示す形状(外径50mm、厚さ5mm)に形成し、その表面に、PVD(物理気相成長法)やCVD(化学的気相成長法)などで、銀、ニッケル、銅などの導電性金属を薄膜形成し、あるいは、上記金属を粒子として含むインクを印刷することにより配線25を形成する。形成した配線上に、LED素子をのせ、導電性接着剤で前記配線と接続し、さらにLED素子を樹脂により封止する。放熱性の向上のため、配線を形成する前にアルミナ焼結体表面を研磨してより平滑にしたものについても検討した。また、この検討の過程で、基体表面、あるいは研磨した基体表面に白色度の高い酸化チタン粒子層を形成すると、LED素子からの光反射率を高めることができることを確認した。酸化チタンは熱伝導率が高いためアルミナ焼結体からの熱放射性を大きく妨げるものではないが、影響を最小限にするためには、できるだけ緻密な粒子層を形成することが好ましい。
【0058】
同じ表面積を有するアルミナ焼結体の80℃飽和エネルギーは、後述するように、その厚みが大きくなるほど高い。すなわち、アルミナ焼結体の厚みが大きいほうがより放熱性に優れるため、LED素子の基板に適用する場合にはアルミナ焼結体の厚みを厚くすることが有効である。ただし、厚すぎると、LED発光モジュールが大きい、重いなどの問題が生じるので、例えば、1.8〜10mm程度、より好ましくは4.5〜5mm程度とすることが好ましい。
【0059】
本発明のアルミナ焼結体は、先に述べたように、アルミナ結晶粒子が特定の結晶粒径のものが緻密に焼結した構造を有するため、表面が平滑であり、上記のように金属の薄膜形成や印刷を容易に行うことができる。このように配線パターン形成が容易であるため、パターンは図28に限られず、さらに複雑なパターンも形成可能である。この場合、本発明のアルミナ焼結体の表面を研磨するなどして表面平滑性を向上させれば、さらに細かく複雑な配線パターンを形成できる。先に述べたように、本発明のアルミナ焼結体は、成形体を焼成する加工性に優れた本発明の製造方法で容易に得ることができるので、その形状は所望する適宜なものとできる。例えば、図28に示すような円板状に限らず、凹部を有するものなど、用途に応じた任意の形状のアルミナ焼結体を適宜に適用すればよい。本発明のアルミナ焼結体は、緻密に焼結しているため、切削加工時に結晶粒の脱離や破壊が起こりにくく、焼結体に凹部や貫通孔を形成することも容易であるので、熱放射部材として幅広い用途への実用化が期待できる。例えば、LED素子の基板だけでなく、様々な形状の基板上に複雑なパターンで配線形成が行われるICパッケージやパワートランジスタなどの基板とすることもできる。これらICパッケージやパワートランジスタなども発熱による劣化が問題とされており、放熱性に優れたアルミナ焼結体を基板とすることで、製品の劣化を防ぎ長寿命化を図ることが可能となる。
【0060】
(遠赤外線放射膜を表面に形成したアルミナ焼結体)
本発明のアルミナ焼結体は、上述のように高い熱伝導率および熱放射率を有し、熱放射性に優れるが、本発明者らの検討によれば、さらにアルミナ焼結体表面の少なくとも一部に遠赤外線放射膜を形成し、該表面に遠赤外線放射特性を賦与すると、その熱放射性能がさらに向上することがわかった。これは、アルミナ焼結体の熱放射面の少なくとも一部に、遠赤外線放射膜を形成することで、熱源(発熱部)からの熱が該遠赤外線放射膜面において遠赤外線に変換され、その結果、より効率よく熱が外部に放射されるようになったものと考えられる。例えば、六面体形状(四角柱状)のアルミナ焼結体において、発熱部に接触する面以外の面(五面)を熱放射面とし、該表面の少なくとも一部に遠赤外線放射コーティング組成物を用いて遠赤外線放射膜を形成すれば、さらにアルミナ焼結体の放熱性を向上させることができる。この場合、発熱部に接触する面以外の五面の一部または全部に遠赤外線放射膜を形成してもよいし、前記熱源に接触する面以外の五面が、一部に遠赤外線放射膜が形成された面を含むものであってもよい。
【0061】
本発明のアルミナ焼結体の形状を、例えば六面体形状とした場合には、熱伝導および熱放射性の観点から、放熱が要求される電子機器等の発熱部に接触する面の面積が最も大きくなるような形状とすることが好ましい。また、遠赤外線放射膜を設ける場合は、例えば、高さの低い四角柱状とした場合、発熱部との接触面に対向する面の少なくとも一部に形成してもよいが、遠赤外線放射膜の膜面積が大きいほど高い熱放射性が得られるため、高い熱放射性を有するアルミナ焼結体とするためには、遠赤外線放射膜を形成する範囲をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0062】
<遠赤外線放射コーティング組成物>
前記遠赤外線放射膜は、遠赤外線放射コーティング組成物を塗布した後、乾燥および焼き付けすることで形成されるが、本発明に好適な遠赤外線放射コーティング組成物としては、下記のものが挙げられる。すなわち、耐熱性無機接着剤(A)と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物(B)を、A:Bが97:3〜20:80の質量比率で含有してなるものを用いることができる。上記の耐熱性無機接着剤(A)としては、シリカ・アルミナ系接着剤が好ましく、上記の遷移元素酸化物としては、MnO2、Fe2O3を主成分とし、さらに、CoO、CuOおよびCr2O3から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0063】
上記したように、前記遠赤外線放射コーティング組成物は、A:Bが、97:3〜20:80の質量比率で含有してなるものが好ましい。前記遷移元素酸化物の仮焼成物(B)が3質量%より少ないと、形成した膜が十分な遠赤外線放射特性を示すものとならない。一方、前記(B)が80質量%より多いとコーティング特性に欠け、塗膜形成が難しくなる。中でも、遠赤外線放射特性およびコーティング特性の面から、前記(B)が20〜50質量%、特に30〜40質量%の範囲で含有されてなるものが好ましい。
【0064】
前記仮焼成物(B)中の遷移元素酸化物の好ましい組成としては、例えば以下の配合割合が挙げられる。
MnO2:10〜80質量%
Fe2O3:5〜80質量%
CoO:5〜50質量%
CuO:10〜80質量%
Cr2O3:2〜30質量%
上記遷移元素酸化物の種類および量を上記範囲内で変化させると、形成される遠赤外線放射膜が放射する赤外線の波長領域を変化させることができるので、適宜に設計することで、より放熱効率を高めることが可能になる。例えば、遷移元素酸化物の量が多いと、形成される遠赤外線放射膜に近赤外線の波長が認められるため、より熱放射性を高めることができる。ただし、コーティング膜を形成できるよう、上記のように耐熱性無機接着剤を少なくとも20質量%含むことが好ましい。
【0065】
また、前記仮焼成物(B)の粒径は1〜50μmであることが好ましい。粒径が大きいと、塗膜を形成したとき塗膜面にムラが生じ塗膜剥がれを生じやすいので、粒径はできるだけ小さいことが望ましいが、小さすぎると作業性に劣るため、上記範囲が適当である。
【0066】
<遠赤外線放射膜>
遠赤外線放射膜は、例えば、前記した組成からなる遠赤外線放射コーティング組成物からなるコーティング膜を形成し、これを焼き付けして形成したものであればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、遠赤外線放射コーティング組成物を、刷毛またはスプレーなどで、アルミナ焼結体表面に塗布し、塗布後50〜250℃の温度で乾燥、焼き付けすることで、アルミナ焼結体の所望の位置に遠赤外線放射膜を形成することができる。このときの塗膜の厚さは、0.1〜0.5mmとすることができるが、厚さが下限値より小さいと十分な遠赤外線放射効果が得られない。また、上限値より厚くても、遠赤外線放射効果の向上がみられない。前記遠赤外線放射コーティング組成物は前記乾燥および焼き付けによって収縮することがほとんどないので、所望の遠赤外線放射膜の厚さに塗布すればよい。
【0067】
上記のようにして形成してなる遠赤外線放射膜は、その基体の表面温度が室温(20℃)程度であっても遠赤外線を放射するが、高温に加熱されるほど遠赤外線放射効果が高い。例えば、100℃より高い高温において、遠赤外線をより多く放射し、おおよそ500〜650℃の範囲に加熱されると、遠赤外線の放射効果が十分に得られる。このように、上記した遠赤外線放射膜は、一般にその基体の表面温度が高いほど熱を遠赤外線に変換する効果が高い。本発明の熱放射部材用セラミックスは、発熱部位における冷却用途に利用するものであり、その使用状態において、アルミナ焼結体表面は室温(20℃)より高く、例えば50〜200℃になると考えられるが、このようなアルミナ焼結体表面に、上記遠赤外線放射膜を形成した場合にも十分な放熱効果を得ることができる。
【0068】
本発明のアルミナ焼結体は、前述のように熱伝導率および熱放射率が高く、冷却効果に優れた熱放射部材として機能するものであるが、上記したように、その表面に、上記したような遠赤外線放射膜を形成すると、後述の実験に示されるように、遠赤外線放射膜が熱を遠赤外線として効率よく放射するため、さらに放熱効果が高くなり、より好適なものとなる。例えば、後述の実験に示されるように、遠赤外線放射膜を表面に形成したアルミナ焼結体に加熱したヒータを接触させると、遠赤外線放射膜を形成しないアルミナ焼結体を接触した場合に比べ、ヒータ表面の温度を大きく下げることができる。また、後述する放熱性の指標となる熱抵抗値についても、遠赤外線放射膜を表面に形成したアルミナ焼結体は、遠赤外線放射膜を形成しないアルミナ焼結体よりも、その値が小さく、放熱性に優れ、アルミナ焼結体に接触させた物体の低温化に有利であることが検証される。この点については、後述する。
【実施例】
【0069】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0070】
(熱放射部材用セラミックス)
〔実施例1〕
原料粉末としてバイヤー法によって得られたアルミナ粉末を用いた。用いたアルミナ粉末には、平均粒子径0.7μmのものを使用した。この原料は、アルミナ99.5質量%、マグネシア0.16質量%、およびシリカ0.34質量%を含む。このアルミナ粉末を水と共にボールミル(ボール材料:アルミナ質)に入れ、10時間粉砕混合した。得られた粉末の平均粒径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したところ3μmであった。この粉末に有機質結合剤(アクリル樹脂およびポリビニルアルコール)を加えスラリー化し、噴霧乾燥して50〜100μmの顆粒を作成した。得られた顆粒を金型を用いて、成形圧力2,000kg/cm2で乾式成形法により成形し、縦、横、厚さがそれぞれ20mm、30mm、5mmの大きさの平板状の成形体を得た。この成形体の密度は2.40g/cm3であった。
【0071】
得られた成形体を、脱脂炉に入れ、室温から500℃まで100時間かけて昇温して脱脂した。冷却後成形体を取り出し、ガス炉に入れ150℃/時の昇温速度で1,580℃まで昇温し、大気雰囲気中で2時間保持した。その後、炉内に室温の空気を流入させて、258℃/時で冷却した。図1に焼成プロファイルを示す。上記ガス炉は空気を流通させたバッチ式の炉であり、プロパンガスによる燃焼を熱源としている。温度の制御は、プロパンガスの流量およびプロパンガスに混ぜる空気の流量を調節することによって行った。得られた熱放射部材用セラミックスは、緻密に焼結しており、焼成前の成形体に比べて若干小さかった。
【0072】
〔実施例2〕
焼成温度を1,583℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0073】
〔実施例3〕
焼成温度を1,555℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0074】
〔実施例4〕
焼成温度を1,592℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0075】
〔実施例5〕
焼成温度を1,570℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0076】
〔実施例6〕
原料粉末として、ゾル−ゲル法によって得られたアルミナ粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。なお、用いた原料アルミナ粉末は不純物をほとんど含まない、アルミナ含有量99.95%と高純度であり、平均粒子径0.5μmのものを用いた。また、粒子形状は真球状に近かった。
【0077】
〔実施例7〕
原料粉末として、ゾル−ゲル法によって得られた平均粒子径0.3μmのアルミナ粉末を用い、かつ焼成温度を1,550℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。アルミナ粉末原料のアルミナ含有量は実施例6と同様、99.95%あった。また、粒子の形状は真球状に近かった。
【0078】
〔実施例8〕
原料粉末として、実施例7で用いたと同様のアルミナ粉末を用い、かつ焼成温度を1,500℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。この場合は、2時間では焼成が十分でなく、焼成に時間が長くかかった。
【0079】
〔実施例9〕
原料粉末として、実施例7で用いたと同様のアルミナ粉末を用い、かつ焼成温度を1,600℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。この場合は、2時間の焼成では一部に結晶成長がみられ、焼成時間を短くする必要があった。
【0080】
〔比較例1〕
焼成温度を1,611℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0081】
〔比較例2〕
焼成温度を1,630℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0082】
〔比較例3〕
焼成温度を1,650℃とした以外は、実施例1と同様にして、熱放射部材用セラミックスを得た。
【0083】
〔比較例4〕
焼成温度を1,470℃とした以外は、実施例7と同様にして、熱放射部材用セラミックスを作製した。この場合は、焼成を長時間行っても焼成が十分にされないことがわかった。
【0084】
<評価A(熱放射部材用セラミックスの特性)>
上記で得られた実施例1〜7及び比較例1〜3のそれぞれの熱放射部材用セラミックスについて、下記に示す方法に従って、密度、結晶粒径、結晶数、耐熱衝撃温度、曲げ強さ、熱伝導率および絶縁抵抗を測定した。表1にその結果を示した。また、実施例1〜4,7,8および比較例1〜3の熱放射部材用セラミックスについて表面の結晶の様子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を、図2〜図11に示した。さらに、実施例1の熱放射部材用セラミックスについて、下記に示す方法に従い、熱放射率および全放射率を測定し、得られた測定スペクトルを図13に示した。なお、熱放射率は、分光放射率の最大値を指すが、本発明者らの検討によれば、アルミナ焼結体において、この値を比較した場合、この値が大きい方が放熱性に優れるので、放熱性を判断する一つの指標となり得る。
【0085】
〔密度〕
アルキメデス法による。具体的には、試料の大きさを直径30mm、厚さ5mmの円盤状とし、100℃2時間乾燥後の乾燥重量(W1)と水中重量(W2)をそれぞれ測定して、密度=(W1)/(W1−W2)により求めた。
【0086】
〔結晶粒径および結晶数〕
走査型電子顕微鏡観察(SEM)による。具体的には、直径10mm、厚さ5mmの大きさの試料の表面を、1,550℃でサーマルエッチングを行い、さらに金を蒸着した。走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製)により表面の結晶粒の様子を観察した。得られた3,000倍の顕微鏡写真から、30×20μmの面積内に存在する結晶の数(粒子全てが前記面積内に含まれるもの)を計測した。さらに、それぞれの結晶粒について、結晶の横方向および縦方向の最大寸法をそれぞれ測定し、これらの寸法の平均を結晶粒径とした。結晶の数および結晶粒径は30×20μmの面積を有するそれぞれ異なる3箇所について測定した。
【0087】
〔耐熱衝撃〕
水中投下法による。具体的には、試料(直径30mm、厚さ5mm)を、120、170、220、320、370℃の各温度に設定した恒温槽に30分間保持した後、20℃の水中へ投下する。投下後、探傷液を用いて、目視または顕微鏡観察にて亀裂や破壊の有無を測定した。亀裂または破壊が観察されなかった最も高い温度と20℃との温度差を、耐熱衝撃温度とした。
【0088】
〔曲げ強さ〕
三点曲げ試験による。具体的には、縦4mm、横40mm、厚さ3mmの試料を、曲げ強さ試験機により、三点曲げで測定した。
【0089】
〔熱伝導率〕
レーザーフラッシュ法による熱伝導率測定装置を用いて測定した。測定用試料には、直径10mm、厚さ3mmの大きさの鏡面仕上げしたものを用いた。そして試料の密度を上記アルキメデス法により測定後、測定装置を用いて比熱、熱拡散率を測定し、次式により熱伝導率(W/m・k)を算出した。
熱伝導率=(密度)×(比熱)×(熱拡散率)
【0090】
〔絶縁抵抗〕
絶縁抵抗計を用いて測定した。測定用試料として、それぞれの条件で作製した縦、横、高さがそれぞれ10mmの立方体形状の試料を用い、該試料の対向する2面に銀電極を設け、絶縁抵抗計で測定した。
【0091】
〔熱放射率〕
熱放射率は、加熱板法を用いて、発熱体表面の温度上昇を測定することにより行った(測定機;温度計HFT−40−安立計器(株))。即ち、マイカヒータを発熱体として用い、印加電圧を調整してその表面(上面)温度を一定に維持した後、当該発熱体表面に熱放射部材用セラミックスを密着させ、熱放射部材用セラミックスが密着していない部分の発熱体表面温度を測定することにより行った。
【0092】
〔全放射率〕
JIS R1801(遠赤外ヒータに放射部材として用いられるセラミックスのFTIRによる分光放射率測定方法)に従い、全放射率を測定した。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:Perkin Elmer製 System2000型)を用い、試料の形状を縦50mm、横50mm、厚さ5mmとし、測定波長領域370〜7,800cm-1(有効範囲:400〜6,000cm-1)について室温にて反射スペクトルを測定した。得られた分光放射率スペクトルから、各波長での分光放射率を測定し、全波長領域で平均して全放射率を求めた。
【0093】
【0094】
表1より、焼成温度が1,555〜1,592℃である実施例1〜5は、いずれも、結晶粒径の大半が1〜5μmで、30×20μm中に結晶を30〜55個有する緻密なアルミナ焼結体であった。また、図2〜6に示されるように結晶の粒成長が見られず、前記の大きさの結晶粒が均一に焼結していた。また、結晶粒の界面にシリカが析出している様子は観察されなかった。
【0095】
またゾル−ゲル法によって得られたアルミナ粉末を用いた実施例6〜9も緻密な焼結体であったが、結晶粒径が1〜3μmとさらに小さく、また30×20μm中の結晶数もバイヤー法によって得られたアルミナ粉末を原料とした実施例1〜5より多く、より緻密で高い熱伝導率および曲げ強度を有する焼結体が得られた。これは、原料粉末の純度が高いこと、および粒径がより均一であり、真球状に近いことによると考えられる。なお、バイヤー法によって得られたアルミナ粉末を原料としている実施例5も結晶粒径が1〜3μmであるが、これは実施例6より焼成温度が低く結晶の粒成長が抑えられたためと考えられる。
【0096】
実施例1の結晶粒径は、表1において2〜4μmと示しているが、これは上記方法によって測定された粒子径の最小値が2μm、最大値が4μmであり、30×20μmの観察面積内に観察される結晶粒全てが2〜4μmの範囲内にあることを示している。他の実施例2〜7および比較例1〜3についても同様である。実施例1において観察される結晶粒の粒径の平均値は3μmであった。同様に、他の実施例の結晶粒径の平均値は、実施例2および3は3μm、実施例4は4μm、実施例5は2μm、実施例6は2μm、実施例7は2μmであり、各実施例の結晶粒の平均値はそれぞれの結晶粒の範囲の中央値にほぼ等しかった。表1には実施例8および9の熱放射部材用セラミックスについて示していないが、焼成体密度、結晶粒径などの特性は実施例7のものとほぼ同じであった。
【0097】
実施例1〜9の熱放射部材用セラミックスは、いずれも優れた耐熱衝撃性、高い熱伝導率を有し、熱特性に優れた焼結体であった。また、曲げ強さの値も高く、機械的特性に優れた緻密な焼結体であった。表1には示していないが、実施例1ないし9の熱放射部材用セラミックスの熱放射率は、いずれも0.97であり、高い熱放射率を有していた。また、比較例1〜3について、表1に示す熱伝導率の値から熱放射率を算出すると、比較例1は0.91、比較例2は0.88、比較例3は0.85であり、実施例のものよりも低い値であった。
【0098】
実施例1の熱放射部材用セラミックスについてFT−IRを用いて全放射率を測定したところ70.6%であった。全放射率の値は、分光放射率を測定した波長領域370〜7,800cm-1(有効範囲400〜6,000cm-1)における分光放射率を平均し、100℃における値に換算して求めた。図13に、FT−IRを用いて測定された分光放射率スペクトルを示したが、図13に示されるように、実施例1の熱放射部材用セラミックスは1,100cm-1付近において最大放射率を示し、その分光放射率は0.97であった。
【0099】
本発明では、高純度のアルミナ焼結体を対象としているため、その結晶粒に違いがあったとしても分光放射率スペクトルに大きな違いは生じない。上記で検討した比較例においても、実施例と同じ原料を用い、狭い範囲で焼成温度を変えた例であるので、最大放射率や全放射率、特に分光放射率に大きな違いは認められなかった。本発明が目的とする放熱性に優れるアルミナ焼結体であることは、その熱伝導率と、結晶粒の大きさとを指標とすれば、適用試験をすることなく、十分に放熱性を予想できることを確認した。なお、勿論、原料中の焼結助剤の量を多くした場合等では、分光放射率スペクトルに明らかな違いが生じるので、熱放射部材用セラミックス製品の品質管理に、分光放射率スペクトルや、該スペクトルから求めた分光放射率を用いることは有用であると考えられる。
【0100】
比較例1〜3の熱放射部材用セラミックスは、10μmより小さい粒径の結晶粒もあったが、10μmより大きい結晶がみられ結晶成長が進んでおり、大きい結晶が含まれる分30μm×20μm中に含まれる結晶の数が少なかった。また結晶の粒成長による粗大化がみられた(図9〜11)。結晶粒径の平均値は8〜15μmであった。また、結晶粒の界面にガラス質のシリカが析出している様子が観察された。
【0101】
(遠赤外線放射膜の組成と特性)
〔参考例1〕
下記の遷移元素酸化物を混合し、800℃で仮焼成した。
MnO2 :50質量%
Fe2O3 :35質量%
CoO :5質量%
CuO :10質量%
シリカ・アルミナ系接着剤70質量%に対し、上記で得られた遷移元素酸化物の仮焼成微粉末30質量%を添加し、ボールミルにてよく混合し、遠赤外線放射コーティング組成物を得た。このコーティング組成物を、基体として縦横それぞれ50mm、厚さ1mmのステンレス板(SUS−304)の片側表面に、0.25mmの厚さで塗布し、120℃で30分間焼き付けして、遠赤外線放射膜コーティング板を得た。
【0102】
上記で得た板の遠赤外線放射強度を、先のアルミナ焼結体の全放射率と同様、JIS R1801(遠赤外ヒータに放射部材として用いられるセラミックスのFTIRによる分光放射率測定方法)に従い、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:Perkin Elmer製 System2000型)を用いて測定温度141.6℃にて測定した。図14に、得られた分光放射率スペクトルを示した。図14より、この遠赤外線放射膜コーティング板は、波長帯10〜20μmにおいて90〜95%の遠赤外線放射強度を示すことがわかる。
【0103】
比較として、コーティング組成物を塗布していないステンレス板そのものの遠赤外線放射強度を測定した。上記で遠赤外線放射膜を形成したものと同じ、縦横それぞれ50mm、厚さ1mmのステンレス板(SUS−304)について、上記と同様に遠赤外線放射強度を測定温度144.9℃にて測定した分光放射率スペクトルを、図15に示した。図15に示されるように、ステンレス板は波長帯4〜20μmにおける放射強度が15〜20%である。したがって、上記で遠赤外線放射膜を形成した基体であるステンレス板からは遠赤外線の放射はほとんどなく、上記図14において遠赤外線放射膜コーティング板が示す、波長帯10〜20μmにおける遠赤外線放射強度はそのほとんどが赤外線放射膜によるものであることがわかる。
【0104】
(遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体)
〔実施例10〕
実施例1と同様の方法で、縦横がそれぞれ50mm、厚さが5mmの平板状のアルミナ焼結体を作成した。得られたアルミナ焼結体の一方の表面(50mm×50mm)に、口径2mmのスプレーガンを用いて参考例1の遠赤外線放射コーティング組成物を塗布し、250℃の温度で焼き付けて遠赤外線放射膜を形成し、これを、本実施例の遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体とした。
【0105】
<評価B(熱放射部材用セラミックスの放熱特性)>
(B−I)ヒータ表面温度、放熱温度および熱抵抗値
上記で得た実施例10にかかる遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体と、実施例10で作成した遠赤外線放射膜を形成する前の、大きさのみが実施例1と異なるアルミナ焼結体(以下、実施例1のアルミナ焼結体と呼ぶ)について、下記に示す方法に従って、加熱時のヒータ表面温度、放熱温度、および熱抵抗値を測定し、それぞれの熱放射特性(放熱性)を評価した。また、縦横が50mm、厚さが5mmと、大きさのみが実施例7のアルミナ焼結体と異なるアルミナ焼結体(以下、実施例7のアルミナ焼結体と呼ぶ)についても同様の評価を行った。なお、試験に用いた各アルミナ焼結体は、いずれも焼成したままであり、研磨処理は行っていない。
【0106】
また、本発明にかかる熱放射部材用セラミックスの放熱効果、特に、アルミナ焼結体の表面に遠赤外線放射膜を形成することで向上する放熱効果を検証するため、比較例として、ヒートシンクの材料として用いられている金属銅板と、さらに基体を該金属銅板にして、該銅板上に遠赤外線放射膜を形成したものを用意して、同様の測定を行い、放熱効果の違いを比較した。具体的には、縦、横が50mm、厚さが5mmの平板状の金属銅板(比較例5)と、該銅板の平板状の上表面(50mm×50mm)に、実施例10と同様にして遠赤外線放射膜を形成した金属銅板(比較例6)を用いた。具体的な、それぞれの測定方法及び算出方法は、下記に示す通りである。結果は、表2〜4にまとめて示した。
【0107】
〔加熱時のヒータ表面温度〕
ヒータ(熱源)として、縦、横が50mm、厚さが4mmの平板状で、表面がSUS製であって内部にマイカヒータが内蔵されているものを用いた。図17に示すように、実施例10の遠赤外線放射膜2を有するアルミナ焼結体1を、アルミナ焼結体の膜2が設けられていない側の50mm×50mmの面を下にしてヒータ10の上表面にのせて両者を密着させた。そして、ヒータの下表面に温度センサ5(K種熱電対、安立計器株式会社製 モデルHFT−40)を取り付けて、ヒータ10に通電し、通電30分経過後のヒータ表面温度を測定した。表2中に、投入電力をそれぞれ1、3、5、7Wとしたときのヒータ表面温度をそれぞれ示した。温度測定は、図16に示したように、測定用のガラス製の箱(縦260mm、横220mm、高さ360mm)内において、支持具を用いてヒータの下面を箱の底面から50mm離した高さにセットし、同じガラス製の蓋で密閉して行った。なお、ヒータ通電後1分おきに温度測定を行った。投入電力によって多少の違いはあったが、いずれの場合も約20分経過後は温度変化がみられなくなり恒温になったため、30分後の温度を測定温度とした。
【0108】
図18に示すように、遠赤外線放射膜を設けていない実施例1および実施例7のアルミナ焼結体1についても上記と同様にして、通電30分経過後のヒータ表面温度の変化を測定した。測定結果を表2中に示した。さらに、比較例5の金属銅板、および比較例6の一方の表面に遠赤外線放射膜を形成した金属銅板についても、上記と同様にして、通電30分経過後のヒータ表面温度の変化を測定した。結果を表2中に示した。また、温度低下率を算出するため、何も載せないヒータ10単独の場合について、上記と同様にして通電30分経過後のヒータ表面温度を測定した。測定結果を表2に「ヒータのみ」として示した。
【0109】
【0110】
〔放熱温度〕
実施例10の遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体、実施例1および実施例7のアルミナ焼結体、比較例5の金属銅板および比較例6の遠赤外線放射膜を有する金属銅板について、それぞれの投入電力におけるヒータ表面温度と、ヒータを単独で加熱した場合のヒータ表面温度との差を放熱温度として算出し、結果をそれぞれ表3に示した。また、ヒータ単独の表面温度と比較して生じた、各試験体を載せたことによるヒータ表面温度の低下率(%)を算出し、それぞれ表3中の括弧内に示した。その結果、従来のヒートシンクの材料である金属銅板と比較し、本発明の実施例のアルミナ焼結体はいずれも、その温度低下率において明らかに有意な差がみられ、ヒートシンクの材料として有用であることが確認できた。さらに、アルミナ焼結体とする場合に用いるアルミナ粉末原料の粒径をより細かく、より均一にし、より真球状にすることや、一方の面に遠赤外線放射膜を形成することによって、温度低下率をさらに高めることができることが確認された。特に、遠赤外線放射膜を形成することによる効果は大きく、原料に、より細かくて真球状に近く、均一な粒径のアルミナ粉末を用いることはコスト面での課題があることから、遠赤外線放射膜を形成する方法は実用化の際に有効である。
【0111】
【0112】
〔熱抵抗値〕
さらに、上記の放熱温度の測定で得た値を用い、各焼結体について下記の方法で熱抵抗値を算出して、それぞれを評価した。具体的には、表2に示した投入電力を1Wと7Wとした場合における各ヒータ表面温度の値を使用して、下記の方法によって熱抵抗値を算出した。すなわち、表2に示した投入電力1Wの場合のヒータ表面温度と7Wの場合のヒータ表面温度との差を算出し、次に、この値を投入電力の差(6W)で除した値を算出し、これを熱抵抗値(℃/W)とした。このようにして算出した熱抵抗値の値を表4に示した。
【0113】
【0114】
表4の結果は、特に、アルミナ焼結体の表面に遠赤外線放射膜を形成する方法の適用は、放熱効果をさらに高めることを可能にし得ることを示している。また、表4に示した熱抵抗値の算出結果では、金属銅板について行った比較例の場合は、表面に遠赤外線放射膜を形成したことによる有意な差がみられなかったことから、この効果は、特に本発明のアルミナ焼結体の場合に大きいことがわかった。また、実施例のアルミナ焼結体は、従来のヒートシンク材料の金属銅板に比べて熱放射性(放熱性)に優れ、熱放射性部材として有用な材料であること、さらに、アルミナ焼結体の表面に遠赤外線放射膜を形成することによって、熱放射性(放熱性)をさらに向上でき、熱放射性部材としてさらに高い効果が期待できることが確認できた。
【0115】
なお一般に、熱抵抗値は、ヒータと測定物を接触させた状態において、ヒータに与えられた電力W(W)に対する、ヒータ表面温度(T1)と測定物の表面温度(T2)の差として(1)式のように表されるが、本試験では上記の方法で算出した値とした。
熱抵抗(℃/W)=(T2−T1)/W (1)
【0116】
(B−II)熱放射性の厚みによる違い
実施例1と同じ原料および焼成条件で、厚さを変えてそれぞれ製造したアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)を用い、アルミナ焼結体の厚みによる熱放射性の違いを検討した。具体的には、ヒータに接触させる面積が同じで厚みの異なるアルミナ焼結体について、図19に示す装置を用い、ヒータで加熱した時のヒータ表面およびアルミナ焼結体表面の温度を測定することにより、熱放射性の違いを評価した。図19に示す装置は図16に示す(B−I)における前記熱放射特性の評価に用いた装置と基本構造は同じであるが、本試験ではアルミナ焼結体およびヒータを鉛直方向に立て、アルミナ焼結体のヒータに接触しない側の表面温度も同時に測定した。測定は、厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板製の箱(縦440mm、横170mm、高さ170mm)内で行った。
【0117】
アルミナ焼結体1として、縦および横がそれぞれ23mm(表面の面積530mm2)で、それぞれヒータに接触する側の表面が同じ面積を有し、その厚さがそれぞれ、4.5mm、5.5mm、6.5mm、7.5mm、8.5mmと異なる5種類を用意した。縦23mm、横23mmの面のほぼ中央に、縦20mm、横10mm、厚さが2mmの抵抗加熱ヒータ10を密着させ(接触面積200mm2)、ヒータ表面およびアルミナ焼結体表面に温度センサ5を取り付けた。アルミナ焼結体1を木製台13に鉛直方向に立て、ヒータに通電し、通電後それぞれの時間経過後のヒータ表面およびアルミナ焼結体表面の温度をそれぞれ測定した。所定時間経過後のそれぞれの温度を表5および図20に示した。ヒータ単独の場合についても通電後所定時間経過後の表面温度を測定し、表5および図20中に合わせて示した。
【0118】
図20に、厚みの異なるアルミナ焼結体を密着させた場合におけるヒータ表面温度の変化をそれぞれ示した。この結果、ヒータ単独の場合その表面温度が95℃であるのに対して、該ヒータにアルミナ焼結体を接触させた場合は、いずれの場合も、ヒータの表面温度は、いずれも70℃程度で安定に推移することがわかった。表5よりヒータと反対側のアルミナ焼結体の表面温度も同様である。このことは、本発明の実施例1のアルミナ焼結体を発熱部に設置することで、ヒータによって付与され続ける熱エネルギーが、連続的にアルミナ焼結体から放出されることを示している。また、アルミナ焼結体の厚みを厚くした方が放熱の効果が高くなるものの、4.5mmの厚さのものでもヒータ表面温度を73℃以下と、ヒータの温度より20℃以上も低い温度に維持することができた。また、6.5mm以上にすればヒータ表面温度を70℃以下に維持させることもできるが、それ以上厚くしてもヒータ表面温度はほとんど変化しなかった。いずれの厚さのアルミナ焼結体を用いた場合もヒータ通電後約60分でヒータ表面温度が一定となった。この一定となった温度を平衡温度として、熱放射効果(ヒータ単独の場合のヒータ表面温度と前記平衡温度との差)とともに、アルミナ焼結体のそれぞれの厚さについて表6に示した。表6に示したように、前記平衡温度は厚さが厚くてもあまり変化しなかった。このことは、アルミナ焼結体の熱放射性は、アルミナ焼結体のヒータと接触する側の面の面積に占めるヒータ表面に接触している面積が同じ場合は、その厚みを増大させても熱放射性を向上させる効果が少ないことを意味している。上記した試験条件であれば、熱放射部材(放熱材)として十分な機能を示すアルミナ焼結体は厚さが4〜6mm程度であるとできる。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
次に、実施例1のアルミナ焼結体について、体積を一定とし、厚さがそれぞれに異なる平板状のアルミナ焼結体、すなわち、ヒータ側の表面積が異なるアルミナ焼結体を用いて熱放射性を評価した。この場合は、図21に示す装置を用い、ヒータで加熱した時のヒータ表面およびアルミナ焼結体表面の温度を測定することにより、熱放射性の違いを評価した。図21に示す装置は図19に示す試験装置と基本構造は同じであるが、本試験ではアルミナ焼結体およびヒータを水平方向に支持して測定した。測定は、図19と同じアクリル樹脂板製の箱(縦440mm、横170mm、高さ170mm)内で行った。
【0123】
評価対象のアルミナ焼結体1として、縦31.0mm、横18.0mm、厚さ5.0mmのもの(A)、縦19.4mm、横18.0mm、厚さ8.0mmのもの(B)、縦14.1mm、横18.0mm、厚さ11.0mmのもの(C)、の3種類を用意した。これらの体積はA:2,790mm3、B:2,794mm3、C:2,792mm3でほぼ一定である。A〜Cのアルミナ焼結体のほぼ中央に、縦20mm、横10mm、厚さが2mmの抵抗加熱ヒータ10を密着させ(接触面積200mm2)、ヒータ表面およびアルミナ焼結体表面に温度センサ5を取り付けた。アルミナ焼結体1を木製台13にヒータ10が下側になるように支持して、ヒータ10に通電し、通電後それぞれの時間経過後のヒータ10表面およびアルミナ焼結体1表面の温度をそれぞれ測定した。所定時間経過後のそれぞれの温度を表7に示した。ヒータ単独の場合についても通電後、所定時間経過後の表面温度を測定し、表7中に合わせて示した。また、ヒータ単独およびA〜Cのアルミナ焼結体の場合の、ヒータ表面温度の変化を図22に示した。
【0124】
表7および図22に示したように、いずれのアルミナ焼結体を用いた場合も、ヒータ表面温度は80℃以下に維持され、これらの形状のアルミナ焼結体も高い熱放射性を示すことが確認された。また、表7および表8の結果から、アルミナ焼結体の熱放射性は、アルミナ焼結体のヒータと接触する側の面の面積に占めるヒータ表面に接触している面積が小さい方が、より高い熱放射性を示す傾向があることがわかった。このことは、同じ体積であれば、よりヒータ表面に接触する側の面積が広くなるような形状とすることが熱放射性の向上に有効であることを示している。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
(B−III)80℃飽和エネルギー
実施例1のアルミナ焼結体(実施例1と同じ原料および焼成条件で製造したアルミナ焼結体)について、下記に示す方法に従って、「80℃飽和エネルギー」を測定することにより、本発明の熱放射部材用セラミックスの熱放射性(放熱性)を評価した。ここで「80℃飽和エネルギー」とは、アルミナ焼結体と接触させた発熱体の温度を80℃に保つために与えるエネルギー量(投入電力(W))のことである。すなわち、エネルギー量を増やしていった場合に、アルミナ焼結体からの放熱によって同量のエネルギーが放出されることで、発熱体およびアルミナ焼結体の温度が80℃を超えないで維持される最大のエネルギー量を指し、この値が大きいほど放熱性に優れる。具体的には図23に示す装置を用いて測定した。
【0129】
図23に示す試験装置は、図16に示す(B−I)、図19および図21に示す(B−II)における熱放射特性の評価に用いた試験装置などと基本構造は同じである。ただし、本試験ではアルミナ焼結体などの被測定物の四隅に竹製ニードル14(外径3mm、長さ50mm、熱伝導率0.15W/m・k)をそれぞれ1本ずつ立て、対象とするアルミナ焼結体への荷重が40kgf/m2となるように重り15を1つのせてアルミナ焼結体1を抵抗加熱ヒータ10に強く密着させ、ヒータ10下側の四隅を上記と同じニードル14で支持した状態で測定を行った。上記重り15には、アルミナを90質量%含有するセラミックス製の直方体(縦25mm、横45mm、厚さ130mm)を用いた。測定は、図16の試験装置と同様、ガラス製の箱11内に密閉した状態で、箱11内に設置した温度計16および風速計17(Model AM−B11/11−2111)によって、温度が20〜25℃の範囲、風速が0.05m/sec以下を測定開始条件とし、さらに測定中も温度および風速を記録しながら行った。なお、測定中は箱内の風速はほぼ0m/secの無風状態であった。
【0130】
上記試験装置を用い、縦20mm、横40mm、厚さが2mmの大きさの抵抗加熱ヒータ10の上面(20mm×40mm)上に、ヒータ10と同じ大きさの実施例1のアルミナ焼結体1を重ね、ヒータの下表面に温度センサ5(K種熱電対、安立計器株式会社製 モデルHFT−40)を取り付けて測定を行った。まず、ヒータ10に投入電力3Wで通電し、ヒータ通電後のヒータ表面温度の変化を図24に示した。図24中の破線は、アルミナ焼結体1をヒータ表面に重ねて測定した場合における温度変化を示し、点線は、アルミナ焼結体1の代わりにアルミナ焼結体1と同じ大きさの銅板(熱放射率は0.1より小さい)を重ねて測定した場合における温度変化を示す。実線は、ヒータ単独の場合に測定されたヒータ表面温度の変化である。
【0131】
図24に示したように、投入電力3Wで通電によりヒータの表面温度は100℃近くに達するが、銅板を重ねるとヒータ表面温度は約10℃下がる。これに対し、アルミナ焼結体をヒータ表面に重ねた場合には、ヒータ表面温度はそれよりもさらに20℃以上下がって、約68℃で平衡に達した。また、アルミナ焼結体をヒータ表面に重ねた場合には平衡に達する時間も約13分と短いことがわかった。このことから、本発明のアルミナ焼結体は、銅板より放熱性に優れ、しかも、接触しているヒータの表面温度の上昇に速やかに追随して放熱が行われ、ヒータ表面温度を70℃に迅速に下げることができることが確認された。
【0132】
次に、アルミナ焼結体をヒータ表面に重ねたままの状態でヒータ投入電力をさらに上げて付与するエネルギー量を増やしていき、ヒータ表面温度が80℃に保たれるように電力を調整し、80℃で一定に達したときの投入電力(4.5W)を80℃飽和エネルギーとした。銅板をヒータ表面に重ねた場合について同様に試験したところ、この場合は、投入電力を調整することなく80℃に達してしまったので、この投入電力(3.0W)を80℃飽和エネルギーとした。
【0133】
実施例1と同じ原料および焼成条件で製造した、ヒータに接触させる面積が異なる形状のアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)を用い、これを、それぞれのアルミナ焼結体の接触面と同じ大きさをもつヒータ10上に重ね、上記と同様にして80℃飽和エネルギーを測定した。銅板についても上記と同様にして80℃飽和エネルギーを測定した。測定した80℃飽和エネルギーを、アルミナ焼結体および銅板の面積(縦×横)を横軸として図25に示した。図25より、◆で示したアルミナ焼結体、▲で示した銅板のいずれの場合も、80℃飽和エネルギーは、ヒータに接触する面積に比例して大きくなることがわかる。両者の比較において、アルミナ焼結体の80℃飽和エネルギーは、例えば面積が約10,000mm2の場合では、銅板の約9倍と大きく、放熱効果に極めて優れていることがわかった。なお、アルミナ焼結体と銅板について、外挿線が縦軸(横軸=0)と交わる値はニードルを介して移動したエネルギー量である。
【0134】
次に、実施例1と同じ原料および焼成条件で、下記に示すような形状の異なるアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)をそれぞれ製造し、これらのアルミナ焼結体について、図23に示す試験装置を用いる上記した方法で、80℃飽和エネルギーをそれぞれ測定した。具体的には、縦70mm、横90mmの大きさで、厚さをそれぞれ表9に示す厚さとしたアルミナ焼結体と、縦50mm、横50mmの大きさで、表9に示す厚さにしたアルミナ焼結体をそれぞれ作製した。表9に、これらのアルミナ焼結体についての80℃飽和エネルギーの測定値を示した。表9の結果から、ヒータに接触させる面積が同じであるアルミナ焼結体では、厚みが大きくなるほど80℃飽和エネルギーが大きいことがわかる。また、同じ厚さのアルミナ焼結体同士で比較すると、80℃飽和エネルギーは、ヒータに接触させる面積と相関があり、上記試験の場合は厚みにかかわらず、面積が大きい方が2倍弱の80℃飽和エネルギーを示した。
【0135】
【0136】
上記(B−III)の試験では、全て上記実施例1と同一の製造条件で得られたアルミナ焼結体(実施例1のアルミナ焼結体)で形状がそれぞれ異なるものを用いて試験を行った。また、試験に用いた各アルミナ焼結体は表面を研磨することなく用い、ヒータとの間には何らの接着剤を配することなく密着させてそれぞれの試験を行った。さらに、先に述べた(B−I)の結果から、表面に遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体も、アルミナ焼結体と同様あるいはそれ以上の熱放射特性を発揮することから、アルミナ焼結体表面に遠赤外線放射膜を形成しても、同様の放熱効果、あるいはさらに優れた放熱効果を有すると考えられる。
【0137】
<評価C(熱放射部材用セラミックスの応用例−太陽電池モジュールへの応用)>
上記(B−III)で示されるように、本発明のアルミナ焼結体は、80℃飽和エネルギーが大きいことから、太陽電池モジュールへの応用を検討した。
【0138】
図26に示すように、発電セル18の裏面側(太陽光の受光側と反対面)に実施例1の製造条件で得たアルミナ焼結体1を配置したときの発電力を測定し、結果を図27に示した。発電セルには、ポリクリスタルシリコンからなり、(Isc)0.72A、(Voc)0.6V、の起電力を発生させることが可能なセルを用いて、下記のようにして試験を行った。アルミナ焼結体1の上に配置した発電セル18が水平面に対し30°の角度を有するように傾け、図23に示した支持体と同じニードル14でアルミナ焼結体の四隅を支持した。図23に示す装置と同じガラス製の箱11内にセットし、屋外に置いて太陽光が十分に当たるようにした。測定前および測定中のガラス箱内は風速0.05m/sec以下の無風状態であった。また測定開始前の温度は35〜40℃であった。上記と同様にして、アルミナ焼結体の代わりにガラス板を配置した状態で発電セルの発電力を測定し、図27に結果を合わせて示した。図27中の■はアルミナ焼結体を配置した場合であり、◆は、アルミナ焼結体を配置しない場合(ガラス板を配置した場合)を示す。ガラス板およびアルミナ焼結体は縦横いずれも50mm、厚さ5mmとした。
【0139】
図27に示すように、太陽電池セルの発電力は、裏面側にアルミナ焼結体を置いた場合(■)、置かない場合(◆)に比べて、最大26%高かった。これより、本発明の熱放射部材用セラミックスは、太陽電池セルの冷却機構として使用可能であることが示された。さらに、本発明の熱放射部材用セラミックスは熱放射特性に優れており、太陽電池セルに接して設置するだけで上記のような発電効率の向上がみられることから、太陽電池セルの冷却機構として有効であることが示唆された。
【0140】
なお、上記試験では、前記実施例1と同一の製造条件で得られたアルミナ焼結体を用いて試験を行ったが、前記(B−I)に示されるように、表面に遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体も、アルミナ焼結体と同様あるいはそれ以上の熱放射特性を発揮することから、表面に遠赤外線放射膜を形成したアルミナ焼結体も同様の放熱効果、あるいはさらに優れた放熱効果を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の活用例としては、従来のセラミックスでは達成されなかった高い熱伝導率を有し、効率のよい放熱性を実現でき、しかも、機械的強度や耐熱衝撃性にも優れることから、電子機器等において問題となっている動作中における発熱の問題を、アルミナ焼結体、さらに好ましくは遠赤外線放射膜を有するアルミナ焼結体を発熱部位に密着させた状態で直接設置するだけで放熱器として機能させることができるので、その利用価値は絶大である。特に、近年における電子機器は、小型化、精密化および高機能化の傾向が著しく、また、近年における地球温暖化の問題は深刻であり、装置や電子機器に対する省エネの要求は強く、ファン等の冷却装置の設置を不要とし、放熱器として機能し得る本発明の熱放射部材用セラミックスへの期待は、各方面において極めて大きい。本発明において応用例の一例として示した太陽電池モジュールやLED発光モジュールに限らず、高い放熱性を有する本発明の熱放射部材用セラミックスは、各種電子機器など高い放熱が期待される機器におけるヒートシンク材としての利用が期待される。
【符号の説明】
【0142】
1:アルミナ焼結体
2:遠赤外線放射膜
5:温度センサ
10:ヒータ
11:測定用箱
12:支持具
13:木製台
14:ニードル
15:重り
16:温度計
17:風速計
18:発電セル
25:配線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、かつ、平均粒子径が0.2〜1μmであるアルミナ粉末を原料として用い、該粉末を50〜100μmの顆粒状にする顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体を得る焼成工程とを有することを特徴とする熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記焼成温度が、1,500〜1,592℃である請求項1に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記成形工程において、密度が少なくとも2.40g/cm3である成形体を得る請求項1又は2に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項4】
さらに、前記焼成工程後に、該焼成工程における焼成温度までの昇温速度に対して、1.3〜2.0倍の速度で焼成物を急冷して焼結体を得る冷却工程を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項6】
さらに、前記焼成工程で得られた焼結体の表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射コーティング組成物からなるコーティング膜を形成し、焼き付けして遠赤外線放射膜を形成する工程を有する請求項1に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記遠赤外線放射コーティング組成物は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を、97:3〜20:80の質量比率で含有してなる請求項6に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項8】
アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上、シリカ(SiO2)の含有量が0.1質量%以下のアルミナの焼結体であり、その結晶粒径が1〜10μmで、かつ、30×20μmの面積中に結晶粒を30〜55個の範囲で含有してなり、その熱伝導率が33W/m・K以上であることを特徴とする熱放射部材用セラミックス。
【請求項9】
前記焼結体密度が、3.8g/cm3以上である請求項8に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項10】
前記アルミナ(Al2O3)の含有量が99.8質量%以上、シリカ(SiO2)の含有量が0.05質量%以下である請求項8又は9に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項11】
表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射膜をさらに有する請求項8〜10のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項12】
前記遠赤外線放射膜は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を、97:3〜20:80の質量比率で含有する遠赤外線放射コーティング組成物のコーティング膜を焼き付けてなる請求項11に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項13】
発電セルの裏面に請求項8〜12のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスを配置してなることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項14】
基板表面に回路が形成され、該回路上にLED素子が設けられているLED発光モジュールにおける上記基板が、請求項8〜12のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスであることを特徴とするLED発光モジュール。
【請求項1】
アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上で、かつ、平均粒子径が0.2〜1μmであるアルミナ粉末を原料として用い、該粉末を50〜100μmの顆粒状にする顆粒化工程と、該顆粒化工程で得られた顆粒状のアルミナを含む原料を加圧成形する成形工程と、該成形工程で得られた成形体を大気雰囲気中で加熱して、1,480〜1,600℃の焼成温度で焼成して焼結体を得る焼成工程とを有することを特徴とする熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記焼成温度が、1,500〜1,592℃である請求項1に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記成形工程において、密度が少なくとも2.40g/cm3である成形体を得る請求項1又は2に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項4】
さらに、前記焼成工程後に、該焼成工程における焼成温度までの昇温速度に対して、1.3〜2.0倍の速度で焼成物を急冷して焼結体を得る冷却工程を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程における焼成を、空気を流通させたバッチ式の炉内で行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項6】
さらに、前記焼成工程で得られた焼結体の表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射コーティング組成物からなるコーティング膜を形成し、焼き付けして遠赤外線放射膜を形成する工程を有する請求項1に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記遠赤外線放射コーティング組成物は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を、97:3〜20:80の質量比率で含有してなる請求項6に記載の熱放射部材用セラミックスの製造方法。
【請求項8】
アルミナ(Al2O3)の含有量が99.5質量%以上、シリカ(SiO2)の含有量が0.1質量%以下のアルミナの焼結体であり、その結晶粒径が1〜10μmで、かつ、30×20μmの面積中に結晶粒を30〜55個の範囲で含有してなり、その熱伝導率が33W/m・K以上であることを特徴とする熱放射部材用セラミックス。
【請求項9】
前記焼結体密度が、3.8g/cm3以上である請求項8に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項10】
前記アルミナ(Al2O3)の含有量が99.8質量%以上、シリカ(SiO2)の含有量が0.05質量%以下である請求項8又は9に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項11】
表面の少なくとも一部に、遠赤外線放射膜をさらに有する請求項8〜10のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項12】
前記遠赤外線放射膜は、耐熱性無機接着剤と、少なくとも2種の遷移元素酸化物を混合し、700〜1,300℃で仮焼した微粉末状の混合仮焼成物を、97:3〜20:80の質量比率で含有する遠赤外線放射コーティング組成物のコーティング膜を焼き付けてなる請求項11に記載の熱放射部材用セラミックス。
【請求項13】
発電セルの裏面に請求項8〜12のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスを配置してなることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項14】
基板表面に回路が形成され、該回路上にLED素子が設けられているLED発光モジュールにおける上記基板が、請求項8〜12のいずれか1項に記載の熱放射部材用セラミックスであることを特徴とするLED発光モジュール。
【図1】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−180275(P2012−180275A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131567(P2012−131567)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2012−503826(P2012−503826)の分割
【原出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000196336)西村陶業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2012−503826(P2012−503826)の分割
【原出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000196336)西村陶業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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