説明

熱機械耐久性の高く、可撓性のあるハロゲンを含まない難燃性熱可塑性組成物

【課題】ポリオレフィンの主鎖と、平均して少なくとも一つのポリアミドグラフトとを有するポリアミドブロックを有するグラフトコポリマーを含み、ハロゲン化合物は含まず、上記グラフトはアミン末端基を有するポリアミドと反応可能な官能基を有する不飽和モノマー(X)の残基を介して上記のポリオレフィン主鎖に結合し、上記不飽和モノマー(X)の残基はその二重結合からのグラフトまたは共重合によって上記ポリオレフィン主鎖に固定されている、可撓性のある難燃性熱可塑性組成物。電気ケーブル、電気部品の製造、電気工学のケースの成形、自動車用流体輸送ラインの保護層または耐熱スリーブの製造で用いられる。
【解決手段】下記(1)〜(3)を含む混合物からなる:
(1)上記ポリアミドブロックを有するグラフトコポリマー:50〜70重量%、
(2)燐酸、ホスフィン酸、ピロ燐酸およびポリ燐酸アンモニウムの中から選択される難燃剤:25〜35重量%、
(3)モレキュラーシーブ(ゼオライト、ハイドロタルサイト):約2重量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱機械耐久性の高く、可撓性のあるハロゲン化合物も燐含有可塑剤や赤燐も含まない難燃性熱可塑性組成物に関するものである。
本発明の組成物はポリアミド単位をグラフトした官能化ポリオレフィンをベースにし、少なくとも一種の難燃剤、特にポリ燐酸アンモニウムをベースにした難燃剤とゼオライトとを含む可撓性難燃性熱可塑性組成物で、この組成物は電気ケーブルおよび光ファイバーの絶縁および保護を目的とする被覆や、電気部品、例えば電気コネクタの製造やケースのような物品を成形する電気工学で有用である。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリアミドまたはこれらの混合物は優れた絶縁体で、加工し易いため電気装置のケース、コネクタ、ケーブル被覆等で用いられている。電気装置はショートし、発火の原因になることがあり、また、炎と接触して発火し、火がケーブルを伝わって広がることもある。熱可塑性ポリマー材料を不燃化するための添加剤は種々知られており、ハロゲンベースの物質と、非ハロゲン物質とがある。ハロゲンベースの添加剤は環境毒性の理由および毒物学的理由(燃焼で生じる蒸気の毒性と腐食性)から禁止される傾向にある。
【0003】
ISO 1210規格に従ったUL94火炎伝搬試験での最高クラスはV0規格で、難燃物質に相当し、試験時に燃焼滴下物を生じない。物質は容易に着火するが、試験時に燃焼滴下物が生じないのはクラスV1で、V2クラスの物質はV0より着火し易く、試験時に燃焼滴下物を生じる。さらに可燃性の強い材料はNC(分類せず)に分類する。
【0004】
特許文献1(欧州特許第629,678号公報)にはゼオライトとポリ燐酸アンモニウム(脱水剤)とを添加して難燃性にしたポリアミド/ポリオレフィン混合物が開示されている。このポリアミド/ポリオレフィン混合物は57重量%のポリアミド6(PA6)と、33重量%のプロピレンホモポリマーと、無水マレイン酸をグラフトしてからモノアミンポリアミドオリゴマーと縮合した10重量%のポリプロピレンとから成る。この混合物69重量部に30重量部のポリ燐酸アンモニウム(APP)と1重量部のゼオライトとを添加したものを射出成形して厚さ3.2mmの試験片にしている。この試験片はISO 1210規格に従ったUL94火炎伝搬試験でV0規格に分類される。V0はこの試験の最高クラスである。PAマトリクスから成る上記特許の混合物は燐含有可塑剤を含まない。上記特許には機械的特性、特に破断点伸び等に関する記載はない。
【0005】
特許文献2(欧州特許第704,489号公報)にはポリアミドをマトリックスにした組成物が開示されている。ポリアミドマトリックス中には架橋したポリオレフィンのノジュール(結節)と、水酸化マグネシウム、デカブロモジフェニルエーテル、シアヌル酸メラミンおよびペンタエリトリトールの中から選択される難燃剤とが分散している。この組成物は電気ケーブルの被覆に有用であるが、ポリ燐酸塩も、燐含有可塑剤もゼオライトも含んでいない。
【0006】
しかし、従来の組成物は耐火性にすると一般に物質の延性が損なわれ(破断点延びが失われ、室温での衝撃に対して脆くなる)。さらに、従来の組成物は熱安定性が不十分である。「熱安定性」とは種々の熱老化を行わせた後(例えば120℃の空気中に1週間放置した後)でも機械的特性を保持することを意味する。
【0007】
特許文献3(欧州特許第1,375,594号公報、本出願)には下記(1)および(2)を含み、ハロゲン化合物を含まない難燃性組成物(全体で100重量部)が記載されている:
(1)ポリアミド(A)とポリオレフィン(B)との混合物であって、(i)高密度ポリエチレン(HDPE)と、(ii)ポリエチレン(C1)とエラストマー、超低密度ポリエチレンおよびエチレンコポリマーの中から選択されるポリマー(C2)との混合物(C1)+(C2)に不飽和カルボン酸が共グラフトされたもの:50〜75重量部、
(2)下記の混合物:25〜50重量部(下記3成分の合計):
ポリ燐酸アンモニウム型の難燃剤:0.1〜48.4重量部
燐含有可塑剤:0.1〜30重量部
ゼオライト:0.1〜10重量部。
【0008】
この組成物は、厚さ1.6mmの試験片に耐火試験を実施した時に、UL94−VB試験でV0またはV1に分類され、ISO R 527−1B規格に従って測定した破断点延びは100%以上である。
(A)+(B)の混合物はマトリクスとなるポリアミド(A)を60〜70重量%含む。
【0009】
この配合物は燐含有可塑剤を含み、原子燐は材料の難燃性に寄与することが知られている。一方、この可塑剤は分子が小さいので、得られた材料から離れる(浸出する)傾向が観察される。これは用途によっては許容されない。従って、本発明者は可塑化されず(従って浸出せず)に同等な難燃性を有する新規な配合物を見出した。
【0010】
また、官能化ポリオレフィンをハロゲンを使わずに難燃化することは特に被覆用途で周知である。この場合には多量(60〜65重量%)の水和充填剤、例えば三水和アルミナ(ATH)またはマグネシウムジヒドロキシド(MDH)を導入して、所望レベルの難燃性を得る。この難燃化法はPAグラフト化エチレン−アルキル(メタ)アクリレート−無水マレイン酸コポリマー材料に適用される。
【0011】
特許文献4(国際特許第WO 02/28959号公報、本出願人)にはポリオレフィン主鎖と平均して少なくとも一つのポリアミドグラフトとから成るポリアミドブロックを含むグラフトポリマーと可撓性ポリオレフィンとの混合物から成る組成物が記載されている。この組成物の機械的特性、特に破断点伸び(値<100%)は壊滅的に失われる。
【0012】
このPAグラフトコポリマーは耐火炎伝搬性を示さない(ロタデル(Lotader、登録商標)3410−g−PA6の場合、UL94試験はNC=分類せず)。しかし、この材料の対象用途、例えば被覆、電気および電気技術部品、自動車によっては上記特性を組み合わせる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第629,678号公報
【特許文献2】欧州特許第704,489号公報
【特許文献3】欧州特許第1,375,594号公報
【特許文献4】国際特許第WO 02/28959号公報
【特許文献5】米国特許第3,976,720号公報
【特許文献6】米国特許第3,963,799号公報
【特許文献7】米国特許第5,342,886号公報
【特許文献8】フランス国特許第2,291,225号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 1996年, 第5版,Vol.28, 475-504頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、ポリアミドグラフト化、官能化ポリオレフィンをベースにし、ハロゲンを用いない難燃性組成物であって、(UL94試験に従った)耐火炎伝搬性の点で高い性能を有するとともに、機械的および熱機械的特性が高レベルにあり、しかも、熱安定性が高く、十分なレオロジー特性(過剰な粘度上昇がなく、MFI(メルトフローインデックス)が高い)を有する材料となり、得られた材料から浸出がないような組成物を見出すことにある。
【0016】
機械的および熱機械的特性が高レベルにあるということは、曲げ弾性率が室温で400MPa以下で、動的機械分析(DMA)で測定した弾性モジュールが150℃で少なくとも0.5MPaである材料を意味する。DMA分析では被分析材料に−100℃から250℃までの温度範囲で3℃/分の速度で動的(1Hz)張力を加えて弾性モジュールおよび損失の値を求め、さらにその比(損失角の正接に対応する)を記録する。
【0017】
同様に、熱安定性が高い材料とは、熱酸化条件下で老化させた後に初期の機械特性(破断点伸びおよび破断応力)の約70%を保持する材料を意味する。
さらに、十分なレオロジー特性の材料とは、本発明の組成物から得られた材料が一般的な加工方法(押出、射出成形等)で使用できるということを意味する。
本発明の上記目的は本発明の下記難燃性可撓性組成物によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明組成物は、ポリオレフィンの主鎖と、平均して少なくとも一つのポリアミドグラフトとを有するポリアミドブロックを有するグラフトコポリマーを含み、ハロゲン化合物は含まず、上記グラフトはアミン末端基を有するポリアミドと反応可能な官能基を有する不飽和モノマー(X)の残基を介して上記のポリオレフィン主鎖に結合し、上記不飽和モノマー(X)の残基はその二重結合からのグラフトまたは共重合によって上記ポリオレフィン主鎖に固定されている、曲げ弾性率が400MPa以下で、耐熱機械特性が高く、ハロゲン化合物を含まない可撓性のある難燃性熱可塑性組成物であって、下記(1)〜(3)を含む混合物からなることを特徴とする組成物である:
(1)上記ポリアミドブロックを有するグラフトコポリマー:50〜70重量%、
(2)燐酸、ホスフィン酸、ピロ燐酸およびポリ燐酸アンモニウムの中から選択される難燃剤:25〜35重量%、
(3)モレキュラーシーブ、例えばゼオライトまたはハイドロタルサイト:約2重量%。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の上記ポリアミドブロックを含むグラフトコポリマーの(X)を含むポリオレフィン主鎖は、エチレン/無水マレイン酸コポリマーおよびエチレン/アルキル(メタ)アクリレート/無水マレイン酸コポリマーの中から選択するのが好ましい。
ポリオレフィン主鎖に結合した(X)は平均して少なくとも1.3mol存在するのが好ましい。
ポリアミドグラフトのモル質量Mnは1000〜5000g/mol、好ましくは2000〜3000g/molである。
【0020】
難燃剤はポリ燐酸アンモニウムであるのが好ましい。
好ましい実施例では、ゼオライトはゼオライト3A、4A、5A、10Xおよび13Xタイプである。
本発明の難燃性熱可塑性組成物は混合物中にシアヌル酸メラミンおよび/またはペンタエリトリトールをさらに含むことができる。
【0021】
ポリオレフィン主鎖および/またはポリアミドグラフトの全てまたは一部の各々をナノフィラー(例えば、特にナノクレーまたはカーボンナノチューブ)との混合物(この混合物は当業者に「ナノコンポジット」の名称で周知である)に置換しても本発明から逸脱するものではない。
【0022】
本発明の難燃性組成物は電気ケーブルや電気部品、例えば電気コネクタの製造またはケースなどの物品成形の電気工学で有利である。
本発明組成物は自動車産業(特に燃料または冷却剤)での流体輸送ライン(またはパイプ)の保護層または耐熱スリーブの製造でも使用できる。
【0023】
ポリアミドブロックを有するグラフトコポリマーは、アミン末端基を有するポリアミドとポリオレフィン主鎖に結合した不飽和モノマーXの残基とをグラフトまたは共重合によって反応させて得ることができる。
上記不飽和モノマーXは例えば不飽和カルボン酸無水物にすることができる。不飽和カルボン酸無水物は無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水アリル琥珀酸、シクロヘクス−4−エン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−メチレンシクロへクス−4−エン−1,2−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物およびX−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,2−ジカルボン酸無水物の中から選択することができる。無水マレイン酸を用いるのが有利である。無水物の全てまたは一部を不飽和カルボン酸、例えば(メタ)アクリル酸と置換しても本発明から逸脱するものではない。
【0024】
ポリオレフィン主鎖はα−オレフィンまたはジオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテンまたはブタジエンのホモポリマーまたはコポリマーで、例としては下記が挙げられる:
1) ポリエチレンのホモポリマーおよびコポリマー、特にLDPE、HDPE、LLDPE(直鎖低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)およびメタロセンポリエチレン;
2) プロピレンのホモポリマーまたはコポリマー;
3) エチレン/α−オレフィンコポリマー、例えばエチレン/プロピレン、EPR(エチレン−プロピレン−ゴム)およびエチレン/プロピレン/ジエン(EPDM)コポリマー;
4) スチレン/エチレン−ブテン/スチレン(SEBS)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)およびスチレン/エチレン−プロピレン/スチレン(SEPS)のブロックコポリマー;
5) エチレンと不飽和カルボン酸の塩またはエステルの中から選択される少なくとも1種の化合物、例えばアルキル(メタ)アクリレート(例えばメチルアクリレート)または飽和カルボン酸のビニルエステル、例えば酢酸ビニルとのコポリマー(コモノマーの比率は40重量%以下)。
【0025】
不飽和モノマーXの残基が結合するポリオレフィン主鎖は、Xがグラフトしたポリエチレンまたは例えばフリーラジカル重合で得られるエチレン/Xのコポリマーであるのが有利である。Xがグラフトしたポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーを含む。
【0026】
上記コモノマーとしては下記(1)〜(4)を挙げることができる:
(1)α−オレフィン、好ましくは3〜30個の炭素原子を有するα−オレフィン。例は上記で説明したもので、このα−オレフィンは単独または2種類以上の混合物で使用できる。
(2)不飽和カルボン酸のエステル、例えばアルキル基が24個以下の炭素原子を含むアルキル(メタ)アクリレート(アルキルアクリレートまたはメタクリレートの例としては特にメチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる)
(3)飽和カルボン酸ビニルエステル、例えば酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニル等
(4)ジエン、例えば1,4−ヘキサジエン。
ポリエチレンは上記コモノマーの複数を含むことができる。
【0027】
ポリエチレンは2種以上のポリマーの混合物にすることができ、少なくとも50%(モル%)、好ましくは75%のエチレンを含むのが有利である。エチレンのコポリマーの密度は0.86〜0.98g/cm3にすることができ、MFI(190℃、2.16kgでの粘度指数)は20〜1000g/10分であるのが有利である。
ポリエチレンの例としては下記を挙げることができる:
低密度ポリエチレン(LDPE)
高密度ポリエチレン(HDPE)
直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)
超低密度ポリエチレン(VLDPE)
メタロセン触媒によって得られるポリエチレン
EPR(エチレン−プロピレン−ゴム)エラストマー
EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン)エラストマー
ポリエチレンとEPRまたはEPDMとの混合物
60重量%以下、好ましくは2〜40重量%の(メタ)アクリレートを含むエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー。
【0028】
グラフト操作自体は周知の方法である。
エチレンと不飽和モノマーXとのコポリマー(すなわち不飽和モノマーXがグラフトされるのではないコポリマー)はエチレンと、不飽和モノマーXと、必要に応じて用いられる他のモノマー(グラフト用エチレンコポリマーに関して上記で挙げたもの)とのコポリマーである。
エチレン/無水マレイン酸コポリマーおよびエチレン/アルキル(メタ)アクリレート/無水マレイン酸コポリマーを用いるのが有利である。これらのコポリマーは0.2〜10重量%の無水マレイン酸と、0〜40重量%、好ましくは5〜40重量%のアルキル(メタ)アクリレートを含む。コポリマーのMFIは5〜100(190℃/2.16kg)である。アルキル(メタ)アクリレートは上記で説明したものである。融点は80〜120℃である。
【0029】
ポリオレフィン主鎖には1つの鎖当たり平均して少なくとも2mol、好ましくは2〜5molの不飽和モノマーXが結合するのが有利である。この不飽和モノマーXの量は当業者がFTIR解析で容易に決めることができる。例えば、不飽和モノマーXが無水マレイン酸で、ポリオレフィンのMwが95000g/mlの場合、これは不飽和モノマーXを含むポリオレフィン主鎖の全重量の少なくとも1.5重量%、好ましくは2.5〜4重量%の無水物の比率に対応することがわかっている。これらの値をアミン末端基を有するポリアミドの量と組み合わせて、ポリアミドブロックを含むグラフトコポリマー中のポリアミドと主鎖の比率を決定する。
【0030】
アミン末端基を有するポリアミドは下記の縮合化合物のポリアミドである:
1) 単数または複数のアミノ酸、例えばアミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸および12−アミノドデカン酸またはカプロラクタム、エナントラクタムおよびラウリルラクタム等の単数または複数のラクタム;
2) 単数または複数のジアミン、例えばヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、ビス−p−アミノシクロヘキシルメタンおよびトリメチルヘキサメチレンジアミン、その塩またはその混合物と、ジアシッド、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカンジカルボン酸のような二塩基酸との混合物;
3) コポリアミドとなる複数のモノマーの混合物。
【0031】
ポリアミドの混合物を用いることもできる。PA−6、PA−11、PA−12、6タイプの単位および11型の単位を含むコポリアミド(PA−6/11)、6タイプの単位と12タイプの単位を含むコポリアミド(PA−6/12)およびカプロラクタム、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とをベースにしたコポリアミド(PA−6/6,6)を用いるのが有利である。
重合度は広範囲に変えることができ、その値によってポリアミドまたはポリアミドオリゴマーになる。本明細書では両方の表現を区別せずにグラフト基またはグラフトという。
モノアミン末端基を有するポリアミドの場合には下記式の連鎖停止剤を用いればよい:
【0032】
【化1】

【0033】
(ここで、
1は水素または20個以下の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキル基、R2は20個以下の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基、飽和または不飽和脂環式ラジカル、芳香族ラジカルまたは上記の組み合せである)
連鎖停止剤は例えばラウリルアミンまたはオレイルアミンにすることができる。
【0034】
アミン末端基を有するポリアミドのモル質量は1000〜5000g/mol、好ましくは2000〜3000g/molであるのが有利である。
本発明のモノアミノ化オリゴマーを合成するのに好ましいアミノ酸モノマーまたはラクタムはカプロラクタム、11−アミノウンデカン酸またはドデカラクタムから選択される。好ましい一官能価重合停止剤はラウリルアミンおよびオレイルアミンである。
上記定義の重縮合は公知の方法、例えば一般に200〜300℃の温度で、真空下または不活性雰囲気下で反応混合物を撹拌しながら行う。オリゴマーの平均鎖長は一官能価重合停止剤に対する重縮合性モノマーまたはラクタムの初期モル比によって決まる。平均鎖長を計算する際には、一般に1つのオリゴマー鎖に対する単鎖停止剤分子を考える。
【0035】
不飽和モノマーXを含むポリオレフィンの主鎖へのポリアミドのモノアミノ化オリゴマーの付加はオリゴマーのアミン官能基を不飽和モノマーXと反応させて行う。不飽和モノマーXが無水物または酸官能基を有し、それによってアミドまたはイミド結合が作るのが有利である。
不飽和モノマーXを有するポリオレフィンの主鎖にアミン末端基を有するオリゴマーを付加する操作は溶融状態で行うのが好ましい。すなわち、押出し成形機中でオリゴマーと主鎖とを一般に230〜300℃の温度で混練する。押出し機中での溶融物の平均滞留時間は5秒〜5分、好ましくは20秒〜1分である。この付加の効率は遊離ポリアミドオリゴマー(すなわち最終のポリアミドブロックグラフトコポリマーにならない未反応オリゴマー)を選択的に抽出して評価する。
【0036】
アミン末端基を有するポリアミドの製造法と、これを不飽和モノマーXを含むポリオレフィンの主鎖に付加する方法は特許文献5(米国特許第3,976,720号公報)、特許文献5(米国特許第3,963,799号明細書)、特許文献6(米国特許第5,342,886号明細書)および特許文献7(フランス特許第FR2,291,225号公報)に記載されている。
【0037】
本発明のポリアミドブロックグラフトコポリマーは、厚さが10〜50ナノメートルのポリアミド薄片(ラメラ)からなるナノ構造組織によって特徴付けられる。
85〜50重量%の可撓性ポリオレフィンに対して、ポリアミドブロックグラフトコポリマーの比率は15〜50重量%にするのが有利である。
【0038】
本発明混合物は少なくとも80℃、最大130℃までの温度で極めて優れた耐流動性を示す。すなわち、本発明混合物は25kPaでは破断しない。
本発明混合物は押出し成形機(一軸または二軸)、バス(Buss)混練機、ブラベンダー混合機および熱可塑性プラスチックを混合する一般的な装置、好ましくは二軸押出し成形機で溶融混合して得ることができる。本発明混合物には流動化剤、例えばシリカ、エチレンビスアミド、カルシウムステアレートまたはマグネシウムステアレート等を添加することができる。さらに、抗酸化剤、紫外線防止剤、無機充填剤および顔料を含むことができる。
【0039】
本発明混合物は押出し成形機で1段階で作ることができる。押出し成形機の第1領域に不飽和モノマーX(例えばエチレン/アルキル(メタ)アクリレート/無水マレイン酸コポリマー)を含む主鎖とアミン末端基を有するポリアミドとを導入し、第2領域より下流で難燃剤を横から導入する。また、全成分を押出し成形機の第1領域中へ導入することもできる。
【0040】
難燃剤は燃焼時にH3PO4(オルト燐酸)、(HPO3n(メタ燐酸)およびH427(ピロ燐酸)等の酸を生成できる化合物である。このような難燃剤としては燐酸アンモニウム、ピロ燐酸アンモニウムおよびポリ燐酸アンモニウム、燐酸メラミン、亜燐酸メラミン、亜燐酸ピペラジンおよび二亜燐酸、燐酸グアナゾロ、ピロ燐酸メラミンおよびピロ燐酸ピペラジンを挙げることができる。
【0041】
式:(NH4n+2n3n+1(nは2以上の整数を表す)の単鎖ポリマーであるポリ燐酸アンモニウムを用いるのが有利である。
ポリ燐酸アンモニウムはメラミンをベースにした樹脂中に封入することができる。難燃剤の混合物を用いても本発明から逸脱するものではない。難燃剤は官能化することができ、例えばシラン官能基を有することができる。
【0042】
ゼオライトは非特許文献1(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 1996年, 第5版,Vol.28, 475-504頁)に記載されている。A、X、Y、L、ZSMおよびZM型のゼオライトまたは天然のゼオライト、例えば斜方沸石、モルデン沸石およびフォージャサイトを用いることができる。3A、4A、5A、10Xおよび13X型のゼオライトを用いるのが有利である。ゼオライトの混合物を用いても本発明から逸脱するものではない。
一般に、粒径が1μmより大きい、好ましくは2〜50μmの粉末状のゼオライトを用いる。
ゼオライトを「酸補足剤、capteur d'acid」として周知の無機添加剤に置換しても本発明を逸脱するものではない。例えば協和化学工業株式会社のDHT 4Aが挙げられる。
【0043】
少なくとも一種のエチレンとカルボン酸または不飽和エチレンエステルコモノマーとのコポリマーをさらに有するのが特に有利である。
このカルボン酸または不飽和エチレンエステルコモノマーはコポリマーの全モル数の5〜40mol%、好ましくは15〜35mol%の比率で存在するのが有利である。
このコモノマーは酢酸ビニル(VA)、エチルアクリレート(EA)、メチルアクリレート(MA)、n−ブチルアクリレート(BA)、イソブチルアクリレート、メチルメタクリレート、2−エチルへキシルアクリレート(AE2HまたはEH)、アクリル酸およびメタクリル酸の中から選択される少なくとも一種の要素を含むことができる。
【0044】
エチレンとカルボン酸または不飽和エチレンエステルコモノマーとのコポリマーは本発明の組成物の20〜100部の比率で導入するのが好ましい。
上記の化合物に加えて、ポリアミドの分野で周知の任意の非ハロゲン添加物、例えばシアヌル酸メラミン、ペンタエリトリトールおよびシリコンまたはフッ素をベースとする滴下防止剤を加えることができる。このような添加剤は全組成物の20重量%以下の比率で導入する。
本発明の組成物は下記の中から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含むことができる:染料、顔料、蛍光増白剤、抗酸化剤、紫外線安定剤および熱安定剤。
本発明組成物は全ての成分(コポリマー、難燃剤、ゼオライト)を直接混合する「直接法」か、予め調製したコポリマーとPAとの混合物に難燃剤およびゼオライトを添加(「再」加工)して製造することができる。
【実施例】
【0045】
配合物のコンパウンディング
下記の配合物を共回転するウェルナープフライデラー二軸押出機(Coperion Werner and Pfleiderer(登録商標)ZSK 40)でコンパウンディングして調製した(「二軸」プロセスは表中で「二軸」と記載した。スクリュー速度300回転/分、流量70kg/時、フラット温度分布=240℃で加熱、添加剤をバレル4中で溶融ポリマーに横から添加)。
別のコンパウンディングプロセスではバスコニーダ(Buss PR46 co-Kneader)を用いた(「コニーダプロセス」は表中で「コニーダ」と記載した)。この「コニーダ」プロセスでは、金型の温度分布が220/250/250/250/240で、コニーダの回転速度は280回転/分、流量は15kg/時に固定し、難燃性充填剤の半分をポリマーと一緒に第1帯域に、次いで残りの半分を第2帯域に導入し、第3帯域で脱気した。
【0046】
使用材料
ロタデル(Lotader、登録商標)3410: アルケマ社製造のエチレンとブチルアクリレート(18重量%)と無水マレイン酸(3重量%)とのターポリマー。MFIは5g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
ロタデル(Lotader、登録商標)6200: アルケマ社製造のエチレンとエチルアクリレート(6.5重量%)と無水マレイン酸(2.8重量%)とのターポリマー。MFIは40g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
ロタデル(Lotader、登録商標)8200: アルケマ社製造のエチレンとエチルアクリレート(6.5重量%)と無水マレイン酸(2.8重量%)とのターポリマー。MFIは200g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
ロタデル(Lotader、登録商標)7500: アルケマ社製造のエチレンとエチルアクリレート(17.5重量%)と無水マレイン酸(2.8重量%)とのターポリマー。MFIは70g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
ロタデル(Lotader、登録商標)3210: アルケマ社製造のエチレンとブチルアクリレート(6重量%)と無水マレイン酸(3重量%)とのターポリマー。MFIは5g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
【0047】
エバテーヌ(Evatane、登録商標)2403: アルケマ社製造のエチレンと酢酸ビニル(24重量%)とのコポリマー。MFIは3g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
ロトリル(Lotryl、登録商標)35BA40: エチレンとブチルアクリレート(35重量%)とのコポリマー。MFIは40g/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
ロトリル(Lotryl、登録商標)30BA02: エチレンとブチルアクリレート(30重量%)とのコポリマー。MFIは2/10分(190℃/2.16kg、ISO1133規格で測定)。
【0048】
PA6: 末端にアミン官能基を有するポリアミド6。Mnは2500g/mol(GPCで測定)。
イルガノックス(Irganox)1098: CIBA社製造のヒンダードフェノール熱安定剤。
イルガノックス(Irganox)1010: CIBA社製造のヒンダードフェノール熱安定剤。
イルガフォス(Irgafos)168: CIBA社製造の亜燐酸熱安定剤。
スリポライト(Siliporite、登録商標)NK10AP: セカ社製造の4オングストロームモレキュラーシーブのゼオライト。
【0049】
エクソリット(Exolit、登録商標)AP750: CLARIANT社製造のリン含有率が21%で、窒素含有率が12%のポリリン酸アンモニウム。
Budit (登録商標)3167: BUDENHEIM社製造の50%のP25と、21%の窒素とを含むポリリン酸アンモニウム。
ホスフレックス(Phosphflex、登録商標)31L: AKZO社製造のイソプロピルフェニルジフェニルリン酸。
PER: セラニーズ(CELANESE)社製造のモノペンタエリトリトール。
Magnifin H5: MARTINSWERK社製造のマグネシウムジヒドロキシド。
Magnifin H5KV: MARTINSWERK社製造のマグネシウムジヒドロキシド。
Stavinor CA PSE: セカ社製造のステアリン酸カルシウム。
【0050】
材料の特徴付け
押出によるストリップの製造
「二軸」および「コニーダ」プロセスで得た顆粒を210℃に加熱されたThermoHaake Rheocord System 40実験室用二軸押出機(シートダイを装着)を用いてストリップに成形し、このストリップから材料を特徴付けるのに必要な試験片を切り出す。
MFIの測定:
特に記載のない限り、ISO 1133規格に従って230℃、荷重2.16kgの条件下で測定。
耐流動性の測定
上記ストリップから切り出した試験片に、温度調整されたオーブン内で2barの圧力に対応する質量を加える。試験片がこの荷重に15分耐えた場合は、この試験はプラスと評価され、耐えた最大温度を記録する。試験片がこれらの条件に耐えられなかった場合は、試験片が破壊するまでの時間を測定する。
【0051】
破断点伸びおよび破断応力
上記ストリップから切り出した試験片をISO 527:93−1BA規格によって測定。
硬度
ISO 868規格によってショアーDスケールで測定。
限界酸素指数(LOI)
ISO 4589規格によって測定。
耐火炎伝搬性
ISO 1210規格によってUL94試験で測定。
浸出性:
観察し、有無(あり/なし)を記録。
本発明の組成物(実施例1〜5)と従来組成物(比較例CE1〜CE9)の結果を[表1]に示す。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンの主鎖と、平均して少なくとも一つのポリアミドグラフトとを有するポリアミドブロックを有するグラフトコポリマーを含み、ハロゲン化合物は含まず、上記グラフトはアミン末端基を有するポリアミドと反応可能な官能基を有する不飽和モノマー(X)の残基を介して上記のポリオレフィン主鎖に結合し、上記不飽和モノマー(X)の残基はその二重結合からのグラフトまたは共重合によって上記ポリオレフィン主鎖に固定されている、可撓性のある難燃性熱可塑性組成物であって、下記(1)〜(3)を含む混合物からなることを特徴とする組成物:
(1)上記ポリアミドブロックを有するグラフトコポリマー:50〜70重量%、
(2)燐酸、ホスフィン酸、ピロ燐酸およびポリ燐酸アンモニウムの中から選択される難燃剤:25〜35重量%、
(3)モレキュラーシーブ、例えばゼオライトまたはハイドロタルサイト:約2重量%。
【請求項2】
不飽和モノマー(X)を含むポリオレフィン主鎖がエチレン/無水マレイン酸コポリマーおよびエチレン/アルキル(メタ)アクリレート/無水マレイン酸コポリマーの中から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン主鎖に結合した不飽和モノマー(X)が少なくとも1.3molである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
上記ポリアミドグラフトのモル質量が1000〜5000g/mol、好ましくは2000〜3000g/molである請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
難燃剤がポリ燐酸アンモニウムである請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ゼオライトがゼオライト3A、4A、5A、10Xまたは13Xタイプである請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
上記混合物がシアヌル酸メラミンおよび/またはペンタエリトリトールをさらに含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
エチレンとカルボン酸または不飽和エチレンエステルコモノマーとの少なくとも一種のコポリマーをさらに含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の難燃性熱可塑性組成物の電気ケーブル、電気部品、例えばコネクタの製造またはケース成形での電気工学での使用。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の難燃性熱可塑性組成物の自動車での流体輸送ラインの保護層または耐熱スリーブの製造での使用。

【公表番号】特表2009−538954(P2009−538954A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512653(P2009−512653)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051365
【国際公開番号】WO2007/141449
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】