説明

熱潜在性触媒

【課題】
優れた潜在性を有しながら、無色透明である熱潜在性触媒を提供する。
【解決手段】
N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)−アルキレンジアミン(A)と、下記式(2)で表される金属塩(B)とを反応させて得られる熱潜在性触媒。
MXn2 ・・・ (2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、酸素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、アシルオキシ基、であり、n2が2以上の場合はXで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される基は互いに結合して環を形成していてもよい。n2はMの価数を満たす整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱潜在性触媒、および該触媒を添加した熱硬化性樹脂組成物、より詳しくは、エポキシ化合物を含む熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ルイス酸触媒が様々な分野において用いられている。特にエポキシ樹脂組成物をはじめとする熱硬化性樹脂組成物においては、より低温短時間で硬化物を得るために金属塩をはじめとするルイス酸触媒が用いられている。しかしながら、ルイス酸触媒を添加した時点より反応が進行するため、ルイス酸触媒を添加することで熱硬化性樹脂組成物のポットライフが短縮してしまうことが問題となっていた。
以上のような問題を解決すべく、常温では活性を示さず、加熱した際に始めて活性を示す熱潜在性触媒の開発が行われている(例えば、非特許文献1、特許文献1)。しかしながら、これまで開発された熱潜在性触媒においては、熱潜在性が必ずしも高いとはいえず、特に室温では全く活性を示さず、100〜150℃といった比較的低温で顕著な活性を示す熱潜在性触媒は無かった。さらには、熱潜在性触媒の多くは工業的に生産することが難しく、製造コストが高いものが多かった。
また、特許文献1や2に記載のヘミアセタールエステル基含有化合物は熱潜在性を有する硬化剤としてエポキシ樹脂組成物などに用いられる。しかしながら、保護基の解離反応に時間を要するため、低温短時間で硬化する熱硬化性樹脂組成物を得ることが難しかった。保護基の解離反応はルイス酸触媒によって活性化される。したがって、ヘミアセタールエステル基含有化合物を硬化剤とした熱硬化性樹脂組成物を幅広い用途に適応するためには、熱潜在性の高いルイス酸触媒が求められていた。
【0003】
一方、不斉合成反応に用いられる触媒として、N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンなどのサレン錯体が知られている(非特許文献2)。サレン錯体は、2個の窒素原子と2個の酸素原子からなる配座が剛直なサレン骨格に固定された構造をとることによって、反応場を立体規制して触媒反応を進める働きを有している。
非特許文献3には、サレン錯体の熱潜在性触媒としての用途が開示されている。しかしながら、一般的にN,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンなどのサレン化合物は、剛直骨格構造を保つようにC=N結合と芳香環とが配置されているが、一方でこの間の結合の共役構造によって可視光を吸収するため、黄色〜橙色に着色している。そのため熱硬化性組成物を硬化させた際に、透明性が要求される用途には使用することができない。
熱硬化性組成物の分野では、硬化用の触媒として用いて、優れた潜在性を有しながら、無色透明である熱潜在性触媒が求められているのである。
【0004】
【特許文献1】特開平08−041208号公報
【特許文献2】特開平10−025406号公報
【特許文献3】特開2006−312675号公報
【非特許文献1】遠藤剛他、「高分子」、1996年、45巻、128−131頁
【非特許文献2】香月勗、「サレン錯体触媒の新たな可能性:C−Hσ結合の不斉酸化と配位子配座の動的制御」、有機合成化学協会誌、1999年、第57巻、第10号、824−834頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の目的は、優れた潜在性を有しながら、無色透明である熱潜在性触媒を提供することにある。
本発明の第二の目的は、保存安定性と硬化特性、さらに硬化物の透明性に優れた熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の金属錯体が優れた潜在性を有する熱潜在性触媒になりうることの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔2〕である。
〔1〕下記式(1)で表されるジアミン化合物(A)と、下記式(2)で表される金属塩(B)とを反応させて得られる熱潜在性触媒。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中のRは炭素数1〜8の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜6の炭化水素基である。n1は0〜4の整数である。)
MXn2 ・・・ (2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、酸素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、アシルオキシ基であり、n2が2以上の場合はXで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される基は互いに結合して環を形成していてもよい。n2はMの価数を満たす整数である。)
〔2〕前記の〔1〕に記載の熱潜在性触媒0.01〜10重量%、ヘミアセタールエステル基含有化合物29.99〜70重量%、エポキシ基含有化合物29.99〜70重量%からなる熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、室温(40℃)以下ではルイス酸触媒活性を示さず、高温雰囲気下において優れたルイス酸触媒活性を有する熱潜在性触媒が提供される。
また、本発明によれば、保存安定性と硬化特性、さらに硬化物の透明性に優れた熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において本発明を詳しく説明する
1.熱潜在性触媒
本発明の熱潜在性触媒は、ジアミン化合物(A)と金属塩(B)とを反応させて得られる。前記の反応は、ジアミン化合物(A)と金属塩(B)の両者の等モル比での反応である。本発明の熱潜在性触媒は、ジアミン化合物(A)の2つのアミンのN原子が、金属塩(B)の金属に対して配位した構造を有する。
本発明の熱潜在性触媒に用いるジアミン化合物(A)は下記式(1)で表される構造を有する。
【0012】
【化2】

【0013】
式(1)において、R1は炭素数1〜8の脂肪族または芳香族炭化水素基である。R1の炭素数が8を超えるとジアミン化合物(A)と金属塩(B)の金属原子からなる環が不安定となり、熱潜在性が低下する。
【0014】
式(1)において、R1の炭素数1〜8の脂肪族または芳香族炭化水素基としては具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等のアルキレン基;1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基;o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基等のアリーレン基などが挙げられる。これらの中で調製の容易性からメチレン基、エチレン基、プロピレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、o−フェニレン基、m−フェニレン基が好ましく挙げられる。
【0015】
式(1)においてRは水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜6の炭化水素基である。式(1)におけるRのアルコキシ基および炭化水素基の炭素数が6を超えるとジアミン化合物(A)の分子量が大きくなり、熱硬化性樹脂組成物としたときの熱潜在性触媒の配合量が大きくなるため、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた際に可塑成分として働き、硬化物の物性を低下させるおそれがある。
式(1)における炭素数1〜6のアルコキシ基の具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などが挙げられる。炭素数1〜6の炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中で好ましくは水素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0016】
本発明において、ジアミン化合物(A)と金属塩(B)との反応は0〜80℃という比較的低温で進行し、反応時間1〜8時間で比較的高収率で熱潜在性触媒を得ることができる。
前記の反応を行う際に、反応系を均一にし、粘度を下げる目的で溶剤を用いても良い。前記の反応の際に用いられる溶剤としては特に限定されないが、ジアミン化合物(A)と金属塩(B)とが溶解し、得られる熱潜在性触媒は溶解しない溶剤であることが製造工程上好ましい。このような溶剤としてはエタノールをはじめとしたアルコール類が挙げられる。
ジアミン化合物(A)は下記式(3)で表されるジイミン化合物の還元的アミノ化により合成することができる。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中のRは炭素数1〜8の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜6の炭化水素基である。n1は0〜4の整数である。)
還元的アミノ化には水素化アルミニウムリチウム(LAH)、水素化アミノホウ素リチウム(LAB)、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化シアノホウ素ナトリウム、ピリジンボラン、ピコリンボランなどの還元剤を使用することができる。
さらに上記式(3)で表されるジイミン化合物は下記式(4)のように、比較的安価で入手性の良いジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)とを反応させることにより得ることができる。ジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)との反応は0〜80℃という比較的低温で進行し、反応時間1〜8時間において比較的高収率でジイミン化合物を得ることができる。
【0019】
【化4】

【0020】
(式中のRは炭素数1〜8の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜6の炭化水素基である。n1は0〜4の整数である。)
上記式(4)の反応に用いられるジアミン化合物(a1)としてはエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,2−ブタンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミンなどの脂肪族ジアミン化合物;o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン化合物などが挙げられる。金属塩(B)と反応させ、錯体としたときに金属原子Mと配位子とが形成する環の安定性の観点から、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,2−ブタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、o−フェニレンジアミンが好ましく挙げられる。
上記式(4)の反応に用いられるアルデヒド化合物(a2)としてはサリチルアルデヒド構造を有しているものであればよい。好ましくはサリチルアルデヒド、3−メチルサリチルアルデヒド、4−メチルサリチルアルデヒド、3,5−ジメチルサリチルアルデヒド、3−メトキシサリチルアルデヒド、4−メトキシサリチルアルデヒド、3−エトキシサリチルアルデヒド、4−エトキシサリチルアルデヒドなどが挙げられる。
上記式(4)の反応を行う際に、反応系を均一にし、粘度を下げる目的で溶剤を用いても良い。この際に用いられる溶剤としては特に限定されないが、ジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)とが溶解する溶剤であることが製造工程上好ましい。得られるジイミン化合物(A)と金属塩(B)との反応において好ましく用いられることから、ジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)との反応においても、メタノールをはじめとするアルコール類、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0021】
本発明において用いられる金属塩(B)は、下記式(2)で表される構造を有する。
MXn2 ・・・ (2)
上記式(2)においてMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、酸素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、アシルオキシ基、であり、n2が2以上の場合はXで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される基は互いに結合して環を形成していてもよい。n2はMの価数を満たす整数である。
MXn2としては酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの亜鉛、ジルコニウムまたはチタンの酸化物、亜鉛プロポキシド、亜鉛ブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシドなどの亜鉛、ジルコニウムまたはチタンのアルコキシド;亜鉛フェノキシド、ジルコニウムフェノキシド、チタンフェノキシドなどの亜鉛、ジルコニウムまたはチタンのフェノキシド;シュウ酸亜鉛、酢酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、酢酸ジルコニウム、2−エチルヘキサン酸ジルコニウム、2−エチルヘキサン酸酸化ジルコニウム、酢酸チタン、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸酸化チタンなどの亜鉛、ジルコニウムまたはチタンのカルボン酸塩が挙げられる。これらの中で調製の容易性と入手性から、好ましくはシュウ酸亜鉛、酢酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、酢酸ジルコニウム、2−エチルヘキサン酸酸化ジルコニウム、酢酸チタン、2−エチルヘキサン酸酸化チタンなどの亜鉛、ジルコニウムまたはチタンのカルボン酸塩が挙げられる。
【0022】
本発明の熱潜在性触媒は、配座を形成する窒素原子が芳香環からメチレン基で結ばれた構造を有することによって、高いアミン塩基性を維持して、中心金属をしっかりと保持することができる。このため、嵩高い2つの芳香環が反応性の被触媒分子に対して、低温での潜在化温度領域では立体的な排除効果を示しながら、高温での非潜在化温度領域では非常に高い触媒活性を示すもとの考えられる。また、上記のようにサレン錯体のように弱い共役塩基を補う平面配座構造で潜在性を保持する必要が無く、二重結合の共役からの着色の問題も起こりえない。
【0023】
本発明の熱潜在性触媒は常温ではルイス酸触媒活性を有しないため、ルイス酸により触媒される熱硬化性樹脂と組み合わせると、ポットライフに優れる熱硬化性樹脂組成物が得られる。熱硬化性樹脂としては、代表的にエポキシ樹脂やビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂(ウレタン樹脂など)、ポリイミド樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂の中では、触媒活性化効果の点からエポキシ樹脂が好ましく挙げられる。
【0024】
2.熱硬化性樹脂組成物
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前記本発明の熱潜在性触媒、ヘミアセタールエステル基含有化合物、およびエポキシ基含有化合物からなる。
<ヘミアセタールエステル基含有化合物>
本発明において、ヘミアセタールエステル基含有化合物とは、1分子中に2個以上のヘミアセタールエステル基を有する化合物をいう。ヘミアセタールエステル基含有化合物は、カルボン酸のカルボキシル基がビニルエーテル化合物によって潜在化された化合物であり、特開平08−041208号公報などに記載の公知の方法により合成することが出来る。
ヘミアセタールエステル基含有化合物は低温短時間の加熱ではカルボン酸を再生することが難しい。したがって、エポキシ基含有化合物の硬化剤として使用する際には、カルボン酸を再生する反応の触媒であるルイス酸触媒を添加することが望まれる。しかしながら、熱潜在性の無いルイス酸触媒を添加した際には、室温においてもカルボン酸を再生する反応が進行し、十分なポットライフを得ることが難しい。本発明の熱潜在性触媒は潜在性が高いため、ヘミアセタールエステル化合物と組み合わせることによって、ポットライフが長く保存安定性に優れる熱硬化性樹脂組成物となる。さらには、ジアミン化合物(A)の塩基性が低いため、ヘミアセタールエステル化合物のカルボキシル基再生反応を阻害することなく、良好な硬化物を得ることができる。
【0025】
前記のカルボン酸のうち本発明において好適に用いられるものは、アジピン酸などの脂肪族多価カルボン酸;フタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(以下、トリメリット酸)などの芳香族トリカルボン酸;1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸(以下、CHTA)などの脂環式トリカルボン酸;1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸)などの芳香族テトラカルボン酸;シクロヘキサンテトラカルボン酸などの脂環式テトラカルボン酸が挙げられる。さらには、グリセリンやポリビニルアルコールなどの多価アルコールと無水フタル酸、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸−3,4−無水物(無水トリメリット酸)などの酸無水物との反応により得られるハーフエステル体も好ましく挙げられる。なお、以上のカルボン酸の中では、硬化性に優れる硬化物が得られることから、ピロメリット酸、トリメリット酸またはCHTAが、より好適に挙げられる。
前記のビニルエーテル化合物としては、例えばイソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルへキシルビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテルなどの炭素数3〜8のアルキルビニルエーテル類が挙げられる。本発明のエポキシ樹脂組成物用いることができるビニルエーテル化合物として、好ましくは前記カルボン酸との反応性、ヘミアセタールエステルとしたときの安定性などの観点からn−プロピルビニルエーテルおよびイソブチルビニルエーテルが挙げられる。
【0026】
<エポキシ基含有化合物>
本発明において、エポキシ基含有化合物とは、エポキシ基を1分子中に2個以上有する化合物をいう。前記のエポキシ基含有化合物としては、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型またはビキシレノール型のエポキシ樹脂またはそれらの混合物、ナフタレン基含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂およびその誘導体、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、DPP(ジ−n−ペンチルフタレート)型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂などの芳香族ポリグリシジルエーテル;
【0027】
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、各種芳香族グリシジルエーテル類の水添または半水添エポキシ樹脂、その他脂肪族ポリオールのグリシジルエーテルなどの脂肪族グリジジルエーテル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルなどの炭素数2〜50の脂肪族ポリジグリシジルエステル;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2,3−エポキシプロピル)エステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、3級カルボン酸グリシジルエステルなどの脂肪族グリジジルエステル類;フタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステルなどの炭素数7〜50の芳香族ジグリシジルエステル;1,2:8,9ジエポキシリモネン、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変成3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、3,1−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル3−)−スピロ[1,3−ジオン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ジシクロペンタジエンジオキサイドなどの脂環式エポキシ化合物;N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、テトラグリシジルジアミノフェニルメタン、アニリンジグリシジルエーテル、N−(2−メチルフェニル)−N−(オキシラニルメチル)オキシランメタンアミン、N−グリシジルフタルイミドなどのグリジジルアミン類;トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートなどの複素環式エポキシ化合物;その他に、ブタジエンの単独重合体または共重合体のエポキシ基含有化合物;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有モノマーの重合体などが挙げられる。
以上のエポキシ基含有化合物の中では、硬化性と透明性に優れる硬化物が得られることから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有モノマーの重合体などがより好適に挙げられる。
【0028】
<熱硬化性樹脂組成物の配合>
本発明の熱硬化性樹脂組成物における本発明の熱潜在性触媒の配合量は0.01〜10重量%であり、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは、0.5〜2重量%である。0.01重量%未満であると触媒としての効果が発現せず、10重量%を上回ると触媒配位子の可塑化効果が硬化性に悪影響を及ぼす。
本発明の熱硬化性樹脂組成物におけるヘミアセタールエステル基含有化合物の配合量は29.99〜70重量%であり、好ましくは34.49〜60重量%、さらに好ましくは、49.99〜55重量%である。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ基含有化合物の配合量は29.99〜70重量%であり、好ましくは39.99〜65重量%、さらに好ましくは、44.99〜50重量%である。ヘミアセタールエステル基含有化合物が29.99重量%未満であったり、エポキシ基含有化合物が70重量%を上回ったりすると、成分の相溶性の違いから熱硬化性樹脂組成物の硬化物の透明性に悪影響を及ぼす可能性があり、ヘミアセタールエステル基含有化合物が70重量%を上回ったり、エポキシ基含有化合物が29.99重量%未満であったりすると、熱硬化性樹脂組成物の効果反応の進行に必要なモル比が不均衡になり硬化性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0029】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、溶剤、増粘剤、チキソ剤、紫外線吸収剤、充填材、炭酸ガス発生防止剤、可撓性付与剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、表面処理剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、レベリング剤、イオントラップ剤、摺動性改良剤、耐衝撃性付与剤、揺変性付与剤、表面張力低下剤、消泡剤、光拡散剤、抗酸化剤、蛍光剤等の添加剤を添加して使用することができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の調整に際しては、上記の必須成分を一括配合しても良いし、熱硬化性樹脂組成物の溶剤希釈物を得るべく各成分を溶剤に溶解した後に逐次配合しても良い。各成分配合後、羽根形撹拌機、デソルバー、ニーダー、ボールミル混和機、ロール分散機等の既知の混和装置を用いて成分の混和を行うことができる。
【実施例】
【0030】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
以下に本実施例および比較例で用いた測定方法、評価方法を示す。
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製SUPER HZ−Mを用い、測定温度40℃、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
<粘度>
粘度は、循環式恒温水浴を装備したB型粘度計(東機産業(株)製)を用いて温度20℃で測定した。
酸価および全酸当量は、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」の加水分解酸価測定によって測定した。
<エポキシ当量>
エポキシ当量は、JIS K 7236:2001「エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方」によって規定される方法によって測定した。
<核磁気共鳴スペクトル(NMR)>
核磁気共鳴スペクトル(NMR)は、BRUKER製AVANCE400(溶媒は、クロロホルム−d(CDCl)あるいはDMSO−d6を用い、化学シフトは、内部標準としてテトラメチルシランのピークを0.00ppmとした。)にて測定を行い、δおよびJ値はppmで表し、400MHzとした。
【0031】
<合成例1:ジアミン化合物A−1の合成>
撹拌子、滴下ロート、三方コックを備え、窒素置換した2口フラスコに、和光純薬工業(株)製N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミン5.64重量部とメタノール10重量部を入れて撹拌し、そこにピコリンボラン2.10重量部を投入し室温で3時間撹拌し続けた。反応液に10%塩酸を50重量部加えて室温で30分撹拌し、その後、氷温に冷却したところに20%炭酸ナトリウム水溶液を50重量部加えて30分撹拌した。反応液を酢酸エチル100重量部で2回抽出し、飽和食塩水100重量部で洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し溶媒を減圧留去してジアミン化合物A−1を得た(乾燥後重量4.90重量部)。得られた生成物の構造は、HNMRにて同定を行った。
【0032】
HNMR(CDCl、400MHz):13.4(s,2H,−OH),7.16(m,2H,−C−),6.99(m,2H,−C−),6.81(m,4H,−C−),3.99(s,4H,−CH−),2.75(t,4H,J=2.35,−CH−),1.79(q,2H,J=2.22,−CH−)
<合成例2:ジアミン化合物A−2の合成>
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンの代わりにN,N’−ビス(3−エトキシサリチリデン)−1,3−エチレンジアミンを5.36重量部使用した以外は合成例1と同様な手法でA−2を合成し、生成物の同定を行った。
<合成例3:ジアミン化合物A−3の合成>
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンの代わりにN,N’−ビス(4−メチルサリチリデン)−o−フェニレンジアミンを6.32重量部使用した以外は合成例1と同様な手法でA−3を合成し、生成物の同定を行った。
<合成例4:ジアミン化合物A−4の合成>
N,N’−ビス(サリチリデン)−1,3−プロパンジアミンの代わりにN,N’−ビス(3,5−ジメチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミンを7.57重量部使用した以外は合成例1と同様な手法でA−3を合成し、生成物の同定を行った。
合成例1〜4の結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表中のR、Rは、それぞれ式(1)におけるR、Rに相当する。
<合成例4:多価ヘミアセタールエステル化合物(BTMA)の合成>
温度計、還流冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、PMA27重量部、三菱ガス化学(株)製トリメリット酸(以下、TMA)を27重量部、n−プロピルビニルエーテルを46重量部加え、撹拌しながら加熱し70℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら6時間撹拌し続けたところ、溶液の酸価0.73mgKOH/gの潜在化された硬化剤溶液(BTMA)が得られた。
<合成例5:多価ヘミアセタールエステル化合物(BCHTA)の合成>
TMAの代わりにCHTAを使用した以外は合成例4と同様の方法で、溶液の酸価0.82mgKOH/gの潜在化された硬化剤溶液(BCHTA)を得た。
【0035】
<重合例1:エポキシ基含有重合体(PGMA)の合成>
温度計、還流冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた容量500mLの4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを160g仕込み、撹拌しながら加熱して80℃に昇温した。次いで、80℃の温度でグリシジルメタクリレート114重量部、シクロヘキシルメタクリレート86重量部、日本油脂(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO(;商品名、純度93%)」9重量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート33gを予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、98℃の温度を7時間維持した後、反応を終了した。重量平均分子量(Mw)32,000、固形分52%、粘度21Pa・s(20℃)および溶液のエポキシ当量520g/molのエポキシ基を有する重合体溶液(PGMA)を得た。
【0036】
<実施例1:熱潜在性触媒L−1の合成>
撹拌子を備え、窒素置換した2口フラスコに、ジアミン化合物A−1を2.86重量部、酢酸亜鉛1.83重量部、メタノール10重量部を投入し、室温で8時間撹拌した。反応終了後の反応液から白色沈殿を濾別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥して熱潜在性触媒L−1を得た(乾燥後重量2.98重量部)。
<実施例2:熱潜在性触媒L−2の合成>
撹拌子を備え、窒素置換した2口フラスコに、ジアミン化合物A−2を2.72重量部、2−エチルヘキサン酸酸化ジルコニウム3.94重量部、メタノール10重量部を投入し、室温で8時間撹拌した。反応終了後の反応液から白色沈殿を濾別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥して熱潜在性触媒L−2を得た(乾燥後重量5.68重量部)。
<実施例3:熱潜在性触媒L−3の合成>
撹拌子を備え、窒素置換した2口フラスコに、ジアミン化合物A−3を3.20重量部、2−エチルヘキサン酸酸化チタン3.50重量部、メタノール10重量部を投入し、室温で8時間撹拌した。反応終了後の反応液から白色沈殿を濾別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥して熱潜在性触媒L−3を得た(乾燥後重量6.12重量部)。
【0037】
<実施例4:熱潜在性触媒L−4の合成>
撹拌子を備え、窒素置換した2口フラスコに、ジアミン化合物A−4を3.79重量部、チタンプロポキシド2.84重量部、メタノール10重量部を投入し、室温で8時間撹拌した。反応終了後の反応液から白色沈殿を濾別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥して熱潜在性触媒L−4を得た(乾燥後重量6.28重量部)。
<参考例1:熱潜在性触媒L−5の合成>
撹拌子を備え、窒素置換した2口フラスコに、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−プロパンジアミンを2.82重量部、酢酸亜鉛1.83重量部、メタノール10重量部を投入し、室温で8時間撹拌した。反応終了後の反応液から黄色沈殿を濾別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥して熱潜在性触媒L−5を得た(乾燥後重量2.85重量部)。
<熱硬化性樹脂組成物の配合>
十分に乾燥させた試験管に撹拌子、エポキシ基含有化合物、ヘミアセタールエステル基含有化合物、および熱潜在性触媒を所定量加えて均一になるまで撹拌して熱硬化性樹脂組成物を得た。
調製した熱硬化性樹脂組成物に対して、保存安定性、硬化性および硬化膜の透明性についての試験評価を行い、熱潜在性触媒としての性能を判断した。
【0038】
<保存安定性>
上記熱硬化性樹脂組成物について、調製直後の粘度と40℃にて10日間静置した後の粘度の比から保存安定性を評価した。粘度上昇率(%)は次式に基づく。
粘度上昇率(%)=(40℃にて10日放置後の粘度)/(調製直後の粘度)×100
粘度上昇率が110%以下であると、実用に供することができると判断できる。
<硬化性>
また、前記の熱硬化性樹脂組成物を、ブリキ板にバーコーターで塗布し、150℃、1時間の条件で硬化させて熱硬化性樹脂組成物の硬化物としての硬化膜を得た。この硬化膜に対し、アセトンをしみこませたティシュー紙で擦ることによって、熱硬化性樹脂組成物の硬化性を確認した。100往復擦っても傷が目視で確認できなければ○、傷が目視で確認できれば×と判定した。
<硬化膜の透明性>
さらに、前記の熱硬化性樹脂組成物を、1mm厚のガラス板にバーコーターで塗布し、150℃、1時間の条件で硬化させて熱硬化性樹脂組成物の硬化物としての硬化膜を得た。この硬化膜の透明性を(株)島津製作所製分光光度計UV−2450を用いて波長400nmでの透過率を測定することにより評価した。透過率(%)は、未塗工のガラス板の透過率を100%としたときの波長400nmでの透過率(%)で表した。
透過率が90%以上であると、実用に供することのできる透明性であると判断できる。
<実施例1〜4、および比較例1〜5>
実施例1〜4、および比較例1〜5について、配合組成と性能評価結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表中の略号は、下記の通りである。
L−5: 2−エチルヘキサン酸亜鉛
L−6: オクチル酸亜鉛とN−メチルモルホリンの反応物(特開2001−350010号公報記載:LCAT−1)
L−7:塩化亜鉛とO,O−ジ−p−メチルベンジルフェニルフォスフォネートの反応物(Macromolecules、33巻,2359頁(2000年)記載)
【0041】
実施例1〜4において、本発明の熱潜在性触媒L−1〜L−4は熱硬化性樹脂組成物として配合たときに40℃、10日の保存期間においても活性を示さず、150℃、1時間の硬化温度においては触媒活性を示すことから、優れた熱潜在性触媒であることが明らかとなった。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化膜が非常に優れた透明性を有することも判った。
一方、比較例1において触媒を配合しない場合では硬化性が不足しており、本発明の熱潜在性触媒とは構造の異なる熱潜在性触媒を用いた場合、硬化膜の透明性が不足したり(比較例2、5)保存安定性が不足したり(比較例3、4)して、本発明の課題を解決し得ないことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジアミン化合物(A)と、下記式(2)で表される金属塩(B)とを反応させて得られる熱潜在性触媒。
【化1】

(式中のRは炭素数1〜8の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜6の炭化水素基である。n1は0〜4の整数である。)
MXn2 ・・・ (2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、酸素原子、アルコキシ基、フェノキシ基、アシルオキシ基、であり、n2が2以上の場合はXで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される基は互いに結合して環を形成していてもよい。n2はMの価数を満たす整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の熱潜在性触媒0.01〜10重量%、ヘミアセタールエステル基含有化合物29.99〜70重量%、エポキシ基含有化合物29.99〜70重量%からなる熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−272673(P2008−272673A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119589(P2007−119589)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】