説明

熱物性測定装置,熱物性測定方法

【課題】 熱拡散などの熱物性における重要な情報を得ることが可能であり,なおかつ加熱光の分布ムラによる測定結果の信頼性低下を解消することが可能な熱物性測定装置,熱物性測定方法を提供すること。
【解決手段】 試料7の測定部に向けて加熱光Eを偏向させるダイクロイックミラー18をアクチュエータ17の駆動軸に接続する。また,検出光Dを照射する際に前記ダイクロイックミラー18の向きを変化させて,前記加熱光Eを前記試料7上で走査させる。これにより,前記加熱光Eの照射位置と前記検出光Dの照射位置とを様々に変化させた各状態における,前記検出光Dの反射強度の分布情報を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,試料に対して加熱光を照射し,該加熱光により加熱された前記試料の温度変化を測定することにより前記試料の熱物性を測定する熱物性測定装置,該熱物性測定装置で用いられる熱物性測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料の熱物性を測定する方法として,従来からレーザーフラッシュ法がしばしば用いられている。同方法では,所定の加熱光(レーザ光)を前記試料に照射したときの前記試料の温度変化を測定することにより,熱物性を測定する。また,前記試料の温度変化は前記試料表面における反射率の変化等として観測することが可能である。そこで,前記加熱光以外に前記試料に所定の検出光を照射し,前記試料により反射された前記検出光の強度を測定することにより前記反射率を,ひいては前記熱物性を測定することが可能である。
上記のような原理による熱物性の測定装置として,例えば特許文献1等に記載の装置が知られている。図1は特許文献1に記載の微小領域熱物性測定装置の概略構成図である。以下,図1を参照しつつ,特許文献1等の従来例に記載の微小領域熱物性測定装置について説明する。
【0003】
図1に示される,従来例における微小領域熱物性測定装置Bは,加熱用レーザ光源1,交流変調器2,ハーフミラー3及び4,レンズ5,試料載置台6,ドライバ8,検出用レーザ光源9,光学フィルタ10,検出光測定器11,ロックインアンプ12,関数発生器13等を有して概略構成される。
前記加熱用レーザ光源1から加熱光Eが照射される。前記加熱光Eは交流変調器2を通過する際に周期的に強度変調される。また,前記加熱光Eはハーフミラー3に反射され,前記ハーフミラー4を通過する。更に,前記加熱光Eはレンズ5により集光されつつ前記試料載置台6に載置される試料7の測定部に照射される。前記試料7の測定部は,前記加熱光Eの照射により加熱される。
尚,関数発生器13はドライバ8に対して加熱光の強度変調信号を出力する。前記ドライバ8は,それに基づいて前記交流変調器2に信号を出力し,加熱光の強度を変調する。
一方,前記検出光レーザ光源9からは検出光Dが照射される。前記検出光Dは前記ハーフミラー3,4を透過して前記試料7に照射され反射される。前記試料7により反射された前記検出光Dは前記ハーフミラー4により反射され,光学フィルタ10を通過して検出光測定器11により検出される。また,前記検出光Dは前記検出光測定器11により検出され電気信号に変換され,前記ロックインアンプ12に入力される。
前記ロックインアンプ12は,前記関数発生器13による信号を参照信号として用い,前記加熱光Eに対する前記検出光Dの強度変化(熱反射信号)を観測する。これにより,前記ロックインアンプ12は前記試料7の熱物性を測定する。
【特許文献1】特開2000―121585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上述の例では検出光Dと加熱光Eとの相対的な位置関係は固定されている。従って,例えば前記検出光Dの照射位置と前記加熱光Eの照射位置とを同一にした場合,前記加熱光Eの照射位置一箇所のみにおける前記検出光Dの反射強度しか得られなかった。
ところが,一箇所における反射強度のみでは,前記試料の熱物性において特に重要となる熱拡散等を測定することが不可能である。
また,通常加熱光Eと前記検出光Dとはほぼ同軸になるようにレーザ光源各々及びハーフミラーの配置が調節されるが,レーザ光である前記加熱光Eには分布のムラが生じており,前記加熱光Eと前記検出光Dの相対位置関係に誤差が生じるたびに測定結果にバラツキが生じ,該測定結果の信頼性が低下するという問題点もある。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,熱拡散などの熱物性における重要な情報を得ることが可能であり,なおかつ加熱光の分布ムラによる測定結果の信頼性低下を解消することが可能な熱物性測定装置,熱物性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は,所定の加熱光を試料の測定部に照射する加熱光の光源,該測定部に検出光を照射する検出用の光源,前記測定部から反射した前記検出光を測定する検出器等を備えており,前記試料の測定部における前記加熱光の照射位置と前記検出光の照射位置の相対的な位置関係を変化させつつ,その相対位置が変化した各状態における前記検出器による測定結果の分布を測定することを特徴とする熱物性測定装置として構成される。
このように,前記加熱光と前記検出光の相対位置が変化した各状態に対する前記測定結果の分布を得ることにより,例えば熱拡散等の重要な熱物性を評価することが可能になる。また,従来例において生じていた測定結果のバラツキは,前記相対位置変化に対応する測定結果の分布情報として観測されるので,測定結果の信頼性低下をもたらす要因とはならない。
尚,前記照射位置の相対的な位置関係を変化させる方法としては,前記検出光の照射方向を固定して前記加熱光を前記試料に向けて偏向ミラーの向きを偏向するのが最も簡単である(前記試料に反射された検出光を観測する装置であるため,前記検出光の照射位置を動かすのは煩雑である)。
本発明は,前記熱物性測定装置で採用される熱物性測定方法として捉えたものであっても良い。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,前記加熱光と前記検出光の相対位置に対する前記測定結果の分布情報を得ることが可能であり,例えば熱拡散等の重要な熱物性を評価することが可能になる。また,従来例において生じていた測定結果のバラツキは,前記相対位置変化に対応する測定結果の分布情報として観測されるので,測定結果の信頼性低下をもたらす要因とはならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は従来例における微小領域熱物性測定装置の概略構成図,図2は本発明の実施形態に係る熱物性測定装置の概略構成図,図3は本発明の実施形態に係る熱物性測定装置による加熱光の照射位置変化の様子を示す概略図,図4は加熱光の照射位置と検出光の反射率変化との関係を示すグラフ,図5は本発明の実施形態に係る熱物性測定装置により得られる検出光の強度分布を示すグラフである。尚,従来例と同様の構成については同じ符号を用いるものとして,その説明を省略する。
【0008】
以下,図2を参照しつつ,本発明の実施形態に係る熱物性測定装置について説明する。
図2に示される,本発明の実施形態に係る熱物性測定装置Aは,加熱用レーザ光源1,音響光学変調器14,ビーム調整器15a,15b,制御装置16,アクチュエータ17,ダイクロイックミラー18,ビームスプリッタ19,レンズ5,試料載置台6,ドライバ8,検出用レーザ光源9,光学フィルタ10,検出光測定器11,フィルタ20,ロックインアンプ12等を有して概略構成される。
前記加熱用レーザ光源1(加熱光照射手段の一例)から,例えば波長532nmのYAGレーザ等の加熱光Eが出射される。前記加熱用レーザ光源1より出射された前記加熱光Eは,前記音響光学変調器14を通過する際に,周波数fで強度変調される。詳しくは,前記制御装置16により生成された,強度変調情報を表す変調制御信号が前記ドライバ8に入力されており,該ドライバ8で前記音響光学変調器14を制御することにより,前記加熱光Eは周波数fで強度変調される。
【0009】
前記音響光学変調器14を通過した前記加熱光Eは,前記ビーム調整器15aを通過する際にビームの広がり角が調節され,この広がり角で前記ダイクロイックミラー18に入射し,反射される。前記ダイクロイックミラー18により反射された前記加熱光Eは,前記レンズ5により集光されつつ前記試料載置台6上に載置されている試料7の測定部(測定対象箇所)に照射される。
一方,前記検出用レーザ光源9(検出光照射手段の一例)からは,例えば波長635nmの半導体レーザ等の検出光Dが出射される。前記検出光Dは,前記ビーム調整器15bを通過する際に同じくビームの広がり角が調節された上で前記ビームスプリッタ19に入射し,反射される。前記ビームスプリッタ19により反射された前記検出光Dは前記ダイクロイックミラー18を通過し,前記レンズ5により集光されつつ前記試料7に照射される。前記検出光Dは,前記加熱光Eの照射により変化する前記試料7の表面温度に応じた反射率(反射強度)で反射される。前記検出光Dは入射時と同じ光路を遡り,前記ダイクロイックミラー18及び前記ビームスプリッタ19を通過し,更に光学フィルタ10を通過して,前記検出光Dを測定する前記検出光測定器11に入射する。
前記検出光測定器11は,前記検出光Dをその強度に応じた信号レベルの電気信号に変換し,前記フィルタ20を介して前記ロックインアンプ12に入力する。前記制御装置16から前記ドライバ8に入力された前記変調制御信号は前記ロックインアンプ12にも入力されており,前記ロックインアンプ12は前記変調制御信号を参照信号として用いることで,前記加熱光Eに対する前記検出光Dの強度変化を測定し,前記試料7の熱物性を評価する。以上は,従来例と同様である。
【0010】
本発明の実施形態に係る熱物性評価装置Aの特徴は以下の機能にある。
即ち,図3に示されるように,前記加熱光Eの前記試料7における照射位置を変化させることにより,前記加熱光E及び前記検出光Dの照射位置の相対的な位置関係を変化させる機能である。詳しくは,前記試料7の測定部に向けて前記加熱光Eを反射(偏向の一例)させる前記ダイクロイックミラー18(偏向ミラー)は,前記アクチュエータ17の駆動軸に連結されている。該アクチュエータ17の駆動に伴って反射面(前記加熱光Eが入射する側の面)の向きが変化され,前記加熱光Eの照射方向を変化させることが可能である。
尚,前記アクチュエータ17は前記制御装置16により駆動制御されるものであり,前記アクチュエータ17及び前記制御装置16が光照射位置変更手段の一例である。
【0011】
また,本発明の実施形態に係る熱物性測定装置Aによれば,前記加熱光E及び前記検出光Dの照射位置の相対位置関係が異なる様々な状態において,前記検出光測定器11により前記検出光Dの強度を測定することにより,前記相対位置関係各々に対する前記検出光Dの強度分布を得ることが可能である。前記加熱光Eの照射時にはその照射位置を中心として前記試料7には熱拡散が生じるが,図4に示されるように,前記検出光Dの一次元的な強度分布の測定によれば,前記熱拡散に関する情報(拡散係数等)を得ることが可能である。
前記検出光Dの強度分布の情報は,以下のように得ることが可能である。
即ち,前記加熱用レーザ光源1より前記加熱光Eを照射するとともに前記制御装置16が前記アクチュエータ17の駆動制御を行うと,前記加熱光Eが照射される前記ダイクロイックミラー18の反射面の向きが変化し,前記試料7の測定部において前記加熱光Eが直線状に走査する。一方,前記検出光Dの照射位置は略固定であり,前記加熱光Eの走査に伴って前記検出光Dと前記加熱光Eとの相対的な位置関係が変化する。
この際に,前記試料7で反射された前記検出光Dの,前記検出光測定器11による受光,前記電気信号への変換を継続する。つまり,前記ロックインアンプ12は,前記検出光測定器11により入力された前記電気信号の強度変化を時系列で観測する。また,その観測結果を前記制御装置16に入力する。前記制御装置16は,前記アクチュエータ17の駆動制御の際に,前記アクチュエータ17に対して駆動制御信号を出力した時間情報と,前記駆動制御信号の表す駆動量との対応関係を保持しておくものとする。従って,前記時系列で記録された前記電気信号の強度変化情報(上述の観測結果)は,前記アクチュエータ17の駆動量に対する前記強度の変化に換算することが可能であり,ひいては図5に示されるような,前記加熱光E及び前記検出光Dの照射位置の相対的な位置関係に対する前記検出光Dの強度分布を得ることが可能である。前記ロックインアンプ12及び前記制御装置16が検出光分布測定手段の一例である。
【0012】
尚,図5に示されるx軸は,前記加熱光Eの照射位置と前記検出光Dの照射位置との距離に対応する軸であり,単位はμmである。一方,図5に示されるy軸は前記検出光Dの振幅を表す電気信号の強度に対応する軸であり,単位はμVである。また,y軸は対数スケールである。
図5の黒丸はアルミ蒸着されたガラスに対する測定結果のプロットであり,白四角はシリコンに対する測定結果のプロットである。シリコンに比べて熱伝導率の小さいガラスの場合では,熱拡散が小さい(温度の散逸が低い)ために前記電気信号の強度が高くなり,かつ相対距離の拡大に伴う減衰が大きい。このような相対距離拡大に伴う減衰の大きさなどから,前記試料7における熱拡散などを評価することが可能である。
【実施例】
【0013】
上述の実施例では,試料7において加熱光Eを直線的に走査させる例について開示したが,本発明はこれに限られるものではない。即ち,前記加熱光Eの照射位置を検出光Dの照射位置に対して2次元的に様々な位置に変化させる場合も考えられる。
例えば,加熱用レーザ光源1の位置を,前記加熱光Eの照射位置が前記試料7における走査方向とは直交する向きに変化するように変位させる機構を設ける。これにより,前記加熱光Eの照射位置と検出光Dの照射位置との相対位置関係が変化した各状態において,2次元的な前記検出光Dの強度分布を測定することが可能であり,前記試料7における熱拡散の異方性などを評価することが可能である。
【0014】
尚,前記加熱光Eの代わりに前記検出光Dの照射位置を変化させてもよいが,前記検出光Dの反射光を測定する必要があるため,前記照射位置の変化に応じて検出光測定器11等を変位させる必要があることに注意を要する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来例における微小領域熱物性測定装置の概略構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る熱物性測定装置の概略構成図。
【図3】本発明の実施形態に係る熱物性測定装置による加熱光の照射位置変化の様子を示す概略図。
【図4】加熱光の照射位置と検出光の反射率変化との関係を示すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係る熱物性測定装置により得られる検出光の強度分布を示すグラフ。
【符号の説明】
【0016】
A…本発明の実施形態に係る熱物性測定装置
B…従来例における微小領域熱物性測定装置
1…加熱用レーザ光源
2…交流変調器
3,4…ハーフミラー
5…レンズ
6…試料載置台
7…試料
8…ドライバ
9…検出用レーザ光源
10…光学フィルタ
11…検出光測定器
12…ロックインアンプ
13…関数発生器
14…音響光学変調器
15a,15b…ビーム調整器
16…制御装置
17…アクチュエータ
18…ダイクロイックミラー
19…ビームスプリッタ
20…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加熱光を試料の測定部に照射する加熱光照射手段と,前記試料の測定部に所定の検出光を照射する検出光照射手段と,前記試料の測定部から反射した前記検出光を測定する検出光測定手段と,を備えた熱物性測定装置であって,
前記試料の測定部における前記加熱光及び前記測定光の照射位置の相対位置関係を変化させる光照射位置変更手段と,
前記光照射位置変更手段により前記加熱光及び前記測定光の照射位置の相対位置関係が変化した各状態における前記検出光測定手段による測定結果の分布を測定する検出光分布測定手段と,
を具備してなることを特徴とする熱物性測定装置。
【請求項2】
前記光照射位置変更手段が,前記検出光の照射方向が固定された状態で,前記加熱光を前記試料に向けて偏向させる偏向ミラーの反射面の向きを変更するものである請求項1に記載の熱物性測定装置。
【請求項3】
所定の加熱光を試料の測定部に照射しつつ,前記試料の測定部に所定の検出光を照射し,前記試料の測定部から反射した前記検出光を測定する熱物性測定方法であって,
前記試料の測定部における前記加熱光及び前記測定光の照射位置の相対位置関係を変化させる光照射位置変更工程と,
前記光照射位置変更工程により前記加熱光及び前記測定光の照射位置の相対位置関係が変化した各状態における前記試料の測定部から反射した前記検出光の測定結果の分布を測定する検出光分布測定工程と,
を具備してなることを特徴とする熱物性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−317279(P2006−317279A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140096(P2005−140096)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】