説明

熱硬化型銀ペースト

【課題】カチオン系硬化剤を使用したエポキシ系銀ペーストについて、当該カチオン系硬化剤に応じた低温速硬化性を実現できるようにする。
【解決手段】銀粉末、エポキシ化合物、成膜性樹脂及びカチオン系硬化剤を含有する熱硬化型銀ペーストは、銀粉末として脂肪酸を50ppm以下の濃度で有するものを使用する。脂肪酸は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸である。銀粉末が、エポキシ化合物及び成膜性樹脂の合計100質量部に対し、600〜850質量部の割合で配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルのタッチ位置検出のための光透過性配線回路の形成に適した熱硬化型銀ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
現在主流となっているタッチパネルの方式には、大きく分けて、抵抗膜方式と投影型静電容量方式とがある。これらの方式では、ITO等の透明性の高い物質から蒸着法により形成した電極を有する光透過性基板が用いられている。このような光透過性基板を有するタッチパネルにおいては、その外表面に接した物体(例えば指)の位置を検出するために、光透過性基板の電極面の電気的変化を検出する必要がある。このため、光透過性基板には、その電極面の電気的変化を検出機器まで伝達するための配線回路が形成されている。そのような配線回路としては、蒸着した金属薄膜を利用して形成された蒸着金属配線回路や、熱硬化型のエポキシ系銀ペースト(特許文献1)を用いてスクリーン印刷により非常に薄い配線回路パターンを印刷し、熱硬化処理して形成した銀ペースト印刷配線回路が挙げられるが、コスト面から後者の銀ペースト印刷配線回路がより広く使用されている。
【0003】
ところで、近年、タッチパネルに対しては、軽量化やコスト削減の要請のために、一対のガラス基板の一方もしくは双方を、ガラス基板に比べて熱により反りや寸法変化が生じ易い透明プラスチックフィルム基板に代替させることが行われるようになっている。このため、タッチパネルの配線回路形成用のエポキシ系の銀ペーストに対しては、熱硬化の際により低温で速硬化することが要請されるようになっており、その要請に応えるため、エポキシ化合物を比較的低温速硬化させることができるカチオン系硬化剤を使用することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−49148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カチオン系硬化剤、特にスルホニウム塩硬化剤を使用したエポキシ系の熱硬化型の銀ペーストの場合、使用する銀粉末の製造時の表面処理条件により、一定した低温速硬化性を実現することができず、場合により、硬化開始温度が上昇し、硬化速度も遅くなり、基板に対する銀ペースト配線回路の密着性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の従来の技術の問題を解決しようとするものであり、カチオン系硬化剤を使用したエポキシ系の熱硬化型銀ペーストについて、当該カチオン系硬化剤に応じた低温速硬化性を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、カチオン系硬化剤の作用を阻害する原因を調査したところ、「銀粉末の潤滑性やバインダーへの分散性等を改善するために銀粉末に混合される脂肪酸がカチオン系硬化剤の触媒活性を阻害していること」、また「上述の目的を達成するためには脂肪酸量を特定量以下にすればよいこと」を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、銀粉末を、エポキシ化合物、成膜性樹脂及びカチオン系硬化剤を含有するバインダー組成物に分散させてなる熱硬化型銀ペーストであって、分散前の銀粉末が、脂肪酸を50ppm以下の濃度で有することを特徴とする熱硬化型銀ペーストを提供する。
【0009】
また、本発明は、上述の熱硬化型銀ペーストの製造方法であって、銀粉末を、エポキシ化合物、成膜性樹脂及びカチオン系硬化剤を含むバインダー組成物に分散させることを含む、熱硬化型銀ペーストの製造方法において、
銀粉末として、脂肪酸量が50ppm以下のものを使用することを特徴とする製造方法を提供する。
【0010】
更に、本発明は、上述の熱硬化型銀ペーストを用いて、一対の透明基板のそれぞれの対向面に配線回路パターンに対応した銀ペーストパターンを形成し、
銀ペーストパターンを加熱硬化させて配線回路パターンを形成し、
配線回路パターンが対向するように、一対の透明基板をスペーサーを介して重ね合わすことによりタッチパネルを製造する方法、並びにその方法により得られたタッチパネルを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化型銀ペーストによれば、銀粉末として脂肪酸量が50ppm以下のものを使用する。このため、脂肪酸によるカチオン系硬化剤の硬化作用の阻害を抑制することができ、良好な低温速硬化性を実現することができる。よって、本発明の熱硬化型銀ペーストを使用して形成したタッチパネル配線回路は、基板に対して優れた密着性を示し、良好な体積抵抗率を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱硬化型銀ペーストは、銀粉末、エポキシ化合物、成膜性樹脂及びカチオン系硬化剤を含有するものであり、銀粉末が脂肪酸を50ppm以下、好ましくは48ppm以下、より好ましくは40ppm以下の濃度で有することを特徴とする。脂肪酸濃度が50ppmを超えると、カチオン系硬化剤の硬化作用を無視できない程度で阻害するからである。他方、脂肪酸濃度の下限については、銀粉末のバインダー組成物への分散性を確保するために、好ましくは8ppm以上、より好ましくは20ppm以上であることが望まれる。従って、銀粉末の好ましい脂肪酸量は8〜48ppmとなる。
【0013】
本発明において注目する脂肪酸としては、銀粉末の分散性改善に使用される通常の炭素数12〜18の脂肪酸であり、好ましくは飽和脂肪酸である。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸である。これら以外の脂肪酸は、後述する脂肪酸測定条件では未検出であるので、無視することができる。
【0014】
本発明において、銀粉末の脂肪酸量は、他の成分に分散する前の銀粉末を以下に示す手法により測定することができる。
1)銀粉末100質量部を試薬1級グレードのテトラヒドロフラン(THF)100質量部と混合し、蓋付きの円筒容器に投入する。
2)円筒容器を回転撹拌装置(例えば、ミックスローターMRC−5、アズワン(株))を用い、室温下、40rpm、1時間という条件で撹拌する。
3)撹拌終了後、円筒容器を遠心分離機にセットし、室温下、1500rpm、10分という条件で遠心分離処理をし、分離した上澄み液(THF溶液)を試料液として採取する。
4)試料液から、マイクロシリンジで試料を採取し、脂肪酸のGC−MS測定(m/z33〜700スキャン)を行う。GC−MS装置としては、例えば、アジレント・テクノロジー(株)のアジレント6890N−5975MSDを使用することができる。
5)GC−MS測定により検出された数値から、THFと混合前の銀粉末に含まれている脂肪酸の絶対質量を算出し、その絶対質量をTHFと混合前の銀粉末質量で除することにより銀粉末の脂肪酸量を算出することができる。
【0015】
本発明の熱硬化型銀ペーストを構成する銀粉末としては、従来の銀ペーストにおいて使用されている銀粉末の中から適宜選択して使用することができ、その場合、脂肪酸量が50ppmを超えているものは、THF等の有機溶剤で50ppm以下になるまで洗浄した後に使用することができる。
【0016】
銀粉末の平均粒径は、小さすぎると銀ペーストの硬化後の体積抵抗率が高くなる傾向があり、大きすぎるとスクリーン印刷時の目詰まりや外観上の不均一さにつながる原因となるので、好ましくは2.5〜10μm、より好ましくは4〜9μmである。なお、銀粉末の平均粒径は公知のレーザー回折式測定法により測定することができる。
【0017】
また、銀粉末のタップ密度(JIS Z2512)は、小さすぎると印刷後の銀粉末同士が接触し難くなり、銀ペーストの硬化後の体積抵抗率が上昇する傾向があり、大きすぎると本発明においては銀粉末の配向性の低下に伴って、銀粒子同士の接触面積が低下し、銀ペーストの硬化後の抵抗値が高くなる傾向があるので、好ましくは1.0〜6.0ml/g、より好ましくは2.0〜5.0ml/gである。
【0018】
また、銀粉末の比表面積(JIS Z8830)は、小さすぎると銀ペーストの硬化後の体積抵抗率が高くなり、また粘度が低くなり過ぎる傾向があり、大きすぎると銀粉末のエポキシ化合物や成膜性樹脂への混練が困難になる傾向があるので、好ましくは0.4〜1.1m/g、より好ましくは0.6〜0.9m/gである。
【0019】
銀粉末の配合量は、少なすぎると意図した導電性が得られ難くなる傾向があり、多すぎると相対的にエポキシ化合物や成膜性樹脂の配合量が減少するので、銀ペーストを硬化させて形成した配線回路の基板への密着性が低下する傾向がある。従って、エポキシ化合物及び成膜性樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは600〜850質量部、より好ましくは650〜800質量部の割合で配合する。
【0020】
本発明の熱硬化型銀ペーストを構成するエポキシ化合物、成膜性樹脂、カチオン系硬化剤としては、それぞれ、従来の銀ペーストに用いられている対応成分と同様なものを使用することができる。
【0021】
例えば、エポキシ化合物としては、分子内に1つまたは2つ以上のエポキシ基を有する化合物、オリゴマー、ポリマーが好ましく挙げられる。これらは液状であっても、固体状であってもよい。具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヘキサヒドロビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ジアリールビスフェノールA、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、クレゾール、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ベンゾフェノン、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン、ビキシレノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテル、またはグリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、チレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル;
p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、あるいはフタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸のようなポリカルボン酸から得られるポリグリシジルエステル;
アミノフェノール、アミノアルキルフェノールから得られるグリシジルアミノグリシジルエーテル;
アミノ安息香酸から得られるグリシジルアミノグリシジルエステル;
アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホンなどから得られるグリシジルアミン;
エポキシ化ポリオレフィン等の公知のエポキシ樹脂類が挙げられる。また、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル-3′4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物も使用することができる。
【0022】
このようなエポキシ化合物の熱硬化型銀ペースト中の配合量は、少なすぎると銀ペーストの硬化物の被着面への接着力が低下する傾向があり、多すぎると銀ペーストの硬化後の体積抵抗率が大きくなる傾向があるので、エポキシ化合物と成膜性樹脂との合計に対し、好ましくは15〜40質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0023】
成膜性樹脂は、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂であり、フェノキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができ、これらの2種以上を併用することができる。これらの中でも、製膜性、加工性、接続信頼性の観点から、フェノキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0024】
成膜性樹脂の熱硬化型銀ペースト中の配合量は、少なすぎると銀ペーストを硬化させて形成した配線回路の柔軟性が低下し、タッチパネルに使用した場合、タッチパネルの繰り返し耐久性が低下する傾向があり、多すぎると特に印刷時の銀ペーストの粘度が高くなり印刷性が低下する傾向があるので、エポキシ化合物と成膜性樹脂との合計に対し、好ましくは60〜85質量%、より好ましくは70〜80質量%である。
【0025】
カチオン系硬化剤としては、エポキシ化合物の熱カチオン重合触媒として使用されているものを適宜選択して使用することができる。例えば、公知のヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、フェロセン類等を用いることができ、芳香族スルホニウム塩を好ましく使用することができる。カチオン系硬化剤の好ましい例としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロボレート、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロボレートが挙げられる。具体的には、旭電化工業(株)製のSP−150、SP−170、CP−66、CP−77;日本曹達(株)製のCI−2855、CI−2639;三新化学工業(株)製のサンエイドSI−60、ユニオンカーバイド(株)製のCYRACURE−UVI−6990、UVI−6974等が挙げられる。
【0026】
カチオン系硬化剤の熱硬化型銀ペースト中の配合量は、少なすぎると反応性が不十分となる傾向があり、多すぎると急激な反応が発生し被着体の変形や、銀ペーストから形成された回路の断線等の悪影響を与える傾向があるので、エポキシ化合物100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは8〜40質量部である。
【0027】
本発明の熱硬化型銀ペーストは、上述した成分の他に、ペーストの粘度調整と、成膜性樹脂の溶解性向上のために有機溶媒を含有することができる。有機溶媒としては、沸点が150℃以上のものを好ましく使用することができる。例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテルまたはそのアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類またはジエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルまたはそのアセテート類;ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類またはジプロピレングリコールジアルキルエーテル類;メチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルセルソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルメチルケトン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン、石油エーテル、石油ナフサ、ソルベントナフサ等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0028】
有機溶剤の添加量は、成膜性樹脂の溶解性と銀粉末の塗布方法に応じた粘度、更には所定時間での乾燥を考慮し設定される。成膜性樹脂と有機溶剤の合計量に対して、有機溶剤は好ましくは60〜80質量%、より好ましくは65〜70質量%であり、且つ、銀ペーストの粘度が好ましくは5〜30Pa・s(25℃、5rpmにおけるE型粘度計での測定値)となるように設定される。通常、タッチパネル配線回路用銀ペースト中の最終的な溶剤の含有量は、5〜25質量%である。
【0029】
本発明の熱硬化型銀ペーストには、更に、必要に応じて、無機フィラー、シランカップリング剤、顔料、酸化防止剤、希釈剤、帯電防止剤等を配合することができる。
【0030】
本発明の熱硬化型銀ペーストは、銀粉末として脂肪酸量が50ppm以下のものを使用すること以外は、従来の銀ペーストと同様に製造することができる。即ち、銀粉末を、エポキシ化合物、成膜性樹脂、及びカチオン系硬化剤を含むバインダー組成物に分散させることにより製造することができる。
【0031】
本発明の熱硬化型銀ペーストは、以下に説明するように、タッチパネルを製造する場合に好ましく適用することができる。また、本発明の熱硬化型銀ペーストを使用し、以下に説明するようにして得られたタッチパネル自体も本発明の態様の一つである。
【0032】
まず、この熱硬化型銀ペーストを用いて、一対の透明基板のそれぞれの対向面に、スクリーン印刷により配線回路パターンに対応した銀ペーストパターンを形成する。
【0033】
一対の透明基板としては、双方とも透明ガラス基板、一方が透明ガラス基板で他方が透明樹脂シート、例えば、透明ポリステルシート、双方が透明樹脂シートである場合が挙げられる。これらの透明基板は、従来のタッチパネルの透明基板として利用されているものの中から適宜選択して使用することができる。
【0034】
スクリーン印刷の手法として、特に限定はなく、通常の銀ペーストに適用されるスクリーン印刷法を使用することができる。
【0035】
次に、銀ペーストパターンを加熱硬化させて配線回路パターンを形成する。加熱硬化は、通常、窒素雰囲気下で銀ペーストの硬化温度以上に設定された加熱炉を用いて行うことができる。
【0036】
次に、配線回路パターンが対向するように、一対の透明基板を基板の内側面に全面に均一に規則的もしくは不規則的にガラスビーズ等のスペーサーを介して重ね合わすことによりタッチパネルを製造することができる。一対の透明基板の外周対向面を必要に応じて接着剤で接合してもよく、また、必要に応じて外部接続用のフレキシブル配線板を挟持してもよい。なお、タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式等に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0038】
実施例1〜5及び比較例1〜5
表1の成分を撹拌装置(泡とり錬太郎・自動公転ミキサー、(株)シンキー)で均一に混合することによりタッチパネル配線回路の形成に適した熱硬化型銀ペーストを得た。また、フェノキシ樹脂は予めジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに溶解させてから混合した。但し、比較例5の場合、銀粉末が凝集してしまい、均一に分散することができなかった。
【0039】
なお、使用した銀粉末の脂肪酸量は、以下のようにして算出した。
1)銀粉末5g部を試薬1級グレードのテトラヒドロフラン(THF)5gと混合し、蓋付きのガラス容器(内径20mm、高さ45mm)に投入した。
2)円筒容器を回転撹拌装置(ミックスローターMRC−5、アズワン(株))を用い、室温下、40rpm、1時間という条件で撹拌した。
3)撹拌終了後、円筒容器を遠心分離機にセットし、室温下、1500rpm、10分という条件で遠心分離処理をし、上澄み液(THF溶液)を試料液として分取した。
4)試料液から、マイクロシリンジで1μml採取し、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸のGC−MS測定(m/z 33〜700スキャン、アジレント・テクノロジー(株)のアジレント6890N−5975MSD)を行った。
5)GC−MS測定により検出された数値から、THFと混合前の銀粉末に含まれている脂肪酸の絶対質量を算出し、その絶対質量をTHFと混合前の銀粉末質量で除することにより銀粉末の脂肪酸量を算出した。
【0040】
得られた実施例及び比較例の熱硬化型銀ペーストについて、以下に説明するように塗膜密着性と体積抵抗率とを試験した。
【0041】
また、使用した銀粉末a〜fは、いずれも平均粒子径が4〜6μmであり、タップ密度が2.5〜4.0ml/gであった。
【0042】
<塗膜密着性(JIS K−5400に準拠)>
銀ペーストを、ITO蒸着膜が形成された厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(エレクリスタ、日東電工(株))に、乾燥厚が20μmとなるようにバーコーターで塗布し、そのポリエチレンテレフタレートフィルムを100℃(又は120℃)の加熱炉に15分(又は20分)投入し、硬化・乾燥させた。得られた銀ペーストの硬化膜に対し、クロスカットガイドCCJ−1(コーテック(株)、碁盤目試験切り込み用定規)を用いて1mm間隔で縦横11本の切れ込みを入れ、1mm角の100個の碁盤目状の升目を形成し、所定の粘着テープを升目に貼り付けた後、引きはがし、粘着テープ側に移行しない升目の数をカウントし、得られたカウント数を表2に示す。この数が多いほど塗膜密着性が良好であることを意味し、実用的には95以上であることが望ましい。
【0043】
<体積抵抗率(JIS K−7194に準拠)>
銀ペーストを、表面未処理の100μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーS10、東レ(株))にバーコーターを用いて、乾燥厚が40μmとなるように塗布し、そのポリエチレンテレフタレートフィルムを100℃(又は120℃)の加熱炉に15分(又は20分)投入し、硬化・乾燥させた。得られた銀ペーストの硬化膜に対し、抵抗率計(ロレスタGP MCP−T610型、(株)三菱化学アナリテック)を用いて、4端子4探針法により5カ所の体積抵抗率を測定し、平均値を求めた。得られた体積抵抗率を表2に示す。この数値が小さいほど好ましいが、実用的には7.0×10−5Ω・cm以下であることが望ましい。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1の配合並びに表2の結果から、実施例1〜5の銀ペーストは、芳香族スルホニウム塩系硬化剤を使用しているにも関わらず、銀粉末の脂肪酸量が50ppm以下であったので、硬化条件の強弱に拘わらず、塗膜密着性も体積抵抗率も良好な結果を示したことがわかる。
【0047】
なお、実施例1と2、3と4とを対比すると、有機溶媒の量を3/4とし、その減少分を銀粉末の添加量で補うと、体積抵抗率が減少する傾向にあることがわかる。
【0048】
それに対し、比較例1の銀ペーストは、銀粉末の脂肪酸量が195ppmであったので、低温側の硬化条件では塗膜密着性が大きく低下し、体積抵抗率も増大してしまった。
【0049】
比較例2の銀ペーストは、比較例1の銀ペーストに比べ、有機溶媒の量を3/4とし、その減少分を銀粉末の添加量で補った例であるが、塗膜密着性が低温側の硬化条件のみならず高温側の硬化条件でも塗膜密着性が大きく低下してしまった。
【0050】
比較例3の場合、銀粉末の脂肪酸量が2000ppmであったので、低温側の硬化条件では硬化せず、高温側の硬化条件でも、塗膜密着性と体積抵抗率とは問題のある結果であった。
【0051】
比較例4の銀ペーストは、スルホニウム塩系硬化剤に代えてイミダゾール系硬化剤を使用したので、特に低温側の硬化条件での塗膜密着性に非常に問題のある結果であった。
【0052】
比較例5の銀ペーストは、脂肪酸量が0ppmであったので、銀粉末がバインダーに均一に分散せず、塗布可能な銀ペーストが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の熱硬化型銀ペーストは、銀粉末として脂肪酸量が50ppm以下のものを使用する。このため、脂肪酸によるカチオン系硬化剤の硬化作用の阻害を抑制することができ、良好な低温速硬化性を実現することができる。よって、本発明の熱硬化型銀ペーストは、基板に対して優れた密着性を示し、良好な体積抵抗率を示すタッチパネル配線回路の形成に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉末を、エポキシ化合物、成膜性樹脂及びカチオン系硬化剤を含有するバインダー組成物に分散させてなる熱硬化型銀ペーストであって、分散前の銀粉末が、脂肪酸を50ppm以下の濃度で有することを特徴とする熱硬化型銀ペースト。
【請求項2】
銀粉末が、脂肪酸を8〜48ppmの濃度で有する請求項1記載の熱硬化型銀ペースト。
【請求項3】
脂肪酸が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸である請求項1または2記載の熱硬化型銀ペースト。
【請求項4】
銀粉末が、エポキシ化合物及び成膜性樹脂の合計100質量部に対し、600〜850質量部の割合で配合されている請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化型銀ペースト。
【請求項5】
カチオン系硬化剤が、芳香族スルホニウム塩である請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化型銀ペースト。
【請求項6】
更に、有機溶媒を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化型銀ペースト。
【請求項7】
タッチパネル配線形成用に用いるための請求項1〜6のいずれかに記載の熱硬化型銀ペースト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化型銀ペーストの製造方法であって、銀粉末を、エポキシ化合物、成膜性樹脂及びカチオン系硬化剤を含むバインダー組成物に分散させることを含む、熱硬化型銀ペーストの製造方法において、
銀粉末として、脂肪酸量が50ppm以下のものを使用することを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化型銀ペーストを用いて、一対の透明基板のそれぞれの対向面に配線回路パターンに対応した銀ペーストパターンを形成し、
銀ペーストパターンを加熱硬化させて配線回路パターンを形成し、
配線回路パターンが対向するように、一対の透明基板をスペーサーを介して重ね合わすことによりタッチパネルを製造する方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法により得られたタッチパネル。

【公開番号】特開2012−89252(P2012−89252A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232437(P2010−232437)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】