説明

熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型

【課題】 本発明の目的は、金型への充填方向を変更することにより、樹脂充填性への影響(泡の巻き込み方)を評価できることを可能にした金型であり、さらには量産を意識した多数個取り成形を想定し、成形品のバラツキ性も同じ金型で評価できることを提供するものである。
【解決手段】 本発明は樹脂を成形するための金型であって、
1)金型内には最低2個以上の同形状のキャビティが存在する、
2)キャビティはずべて樹脂の充填開始部から同じ距離に存在するようにゲート、およびランナー部が存在する、
3)キャビティの最終充填部にはエアベント、及びオーバーフロー溝は存在しない、
ことを特徴とする液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
また、4)キャビティ、ランナー部、ゲートなど樹脂の充填ルートにはエジェクターピンは存在しないことも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂の射出成形時における成形性の評価が可能な金型に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性が高く、耐熱性が高い光学材料としてはガラス材料が一般的に用いられてきているが、近年ではその加工性の低さやコスト面及び材料の軽量化の観点から熱硬化性の樹脂材料が使用されるようになってきている。そして、これらの熱硬化性樹脂は、一般的に熱可塑性樹脂と同様に、横型の射出成形機などを用いて成形され、製品化されている。しかし、溶融状態の熱可塑性樹脂に比べ、金型に充填される前の樹脂の熱硬化性樹脂の粘度は非常に低いために、金型充填時にエアーを巻き込みやすく、また製品の最終充填部などに泡噛み跡が残りやすいことも特長である。
【0003】
これらの充填時のエアーの巻き込みは、樹脂の粘度、成形条件あるいは金型のエアベントの設け方などによって影響を受けることが判っており、例えば特許文献1、あるいは特許文献2には、複数のキャビティに凹部を設けた金型により、樹脂の充填性を評価する試みがなされている。
【0004】
一方で、こうした射出成形による成形品は、量産化のために成形サイクル性や多数個取りが重要となるため、そのランナーシステムも多様化している。しかし、熱硬化性樹脂は樹脂の粘度が低いため、一般的に知られた横型射出成形機の金型の場合、樹脂の充填開始場所にあたるスプルー部分やコールドランナー部分に対して製品部に相当するキャビティの位置が上側にあるか、あるいは下側にあるかによって樹脂の充填の仕方が異なるという現象が生じる。すなわち樹脂が上向きにキャビティに充填される場合、重力に逆らうために、液面は水平を保ち、キャビティが満たされる。
【0005】
しかし、下向きにキャビティに充填される場合、重力の働きもありキャビティに達した樹脂はその壁面に沿って樹脂は充填される傾向がある。このことは、例えば、同一形状の成形品を一度に複数個成形する多数個取り成形金型を用いた場合には、充填方向の違いによって、最終成形品の外観(表面性や泡の巻き込みの有無)や物性(製品寸法)などにも影響を及ぼす場合がでてくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−244071号公報
【特許文献2】特開平9−39056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は前記事情に鑑み、金型への充填方向を変更することにより、樹脂充填性への影響(泡の巻き込み方)を評価できることを可能にした金型であり、さらには量産を意識した多数個取り成形を想定し、成形品のバラツキ性も同じ金型で評価できることを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0009】
1). 樹脂を成形するための金型であって、
(1)金型内には最低2個以上の同形状のキャビティが存在する、
(2)キャビティはすべて樹脂の充填開始部から同じ距離に存在するようにゲート、およびランナー部が存在する、
(3)キャビティの最終充填部にはエアベント、及びオーバーフロー溝は存在しない、
ことを特徴とする液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【0010】
2). 充填ルートにはエジェクターピンは存在しない事を特徴とする1)記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【0011】
3). 各キャビティ内において、凹凸部が設けられていることを特徴とする1)または2)に記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【0012】
4). キャビティとゲートが接続する側のキャビティの最大幅を(X)、キャビティとゲートの接続部のゲート幅を(Y)としたときに、(Y)<(X)/2の関係にある1)〜3)いずれかに記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【0013】
5). 液状熱硬化性樹脂の23℃で測定したE型粘度が0.1〜100Pa・sの範囲であることを特徴とする1)〜4)いずれかに記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【発明の効果】
【0014】
本発明による射出成形用金型を用いれば、樹脂の充填方向による充填性への影響、ならびに成形ショット毎の製品バラツキを評価できるため、光学部品用としての金型作成において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明で用いる金型の1例であり、上向きに樹脂が充填されるように可動側に取り付けた場合の金型平面図である。
【図2】本発明で用いる金型の1例であり、下向きに樹脂が充填されるように可動側に取り付けた場合の金型平面図である。
【図3】本発明で用いる金型の1例であり、図1、図2示されるキャビティ部分の1部を拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1、2は本発明の射出成形金型の平面図である。図1はキャビティは上向きに充填されるように射出成形機の可動側面に設置させた場合のものであり、図2はキャビティは下向きに充填されるように射出成形機の可動側面に設置させた場合のものである。また図3は、図1にある複数のキャビティの一部を拡大したものである。
【0017】
通常、金型は固定側面と可動側面がパーティングラインをはさんで一対とものとなしているが、図1、図2はその可動側面であり、特にその成形部分、ランラー部、ゲート部分のみを示している。尚、本発明では固定側面については、特に示さないが、樹脂が充填されるための穴(ピンホール)のみがあり、キャビティ、およびランナー部、ゲート部などの彫り込みはないものが好ましい。
【0018】
図1に示されたランナー部やゲート部を含むキャビティ面については、可動側面に直接彫り込まれていてもよく、可動側面をベースプレートと呼ばれる主型と内部に入れ子を設けた方式にした場合には、その入れ子にキャビティ面が彫り込まれていても良い。図1の金型平面図では、同形状のキャビティ4つが設けられているが、キャビティの数は特に限定はなく、その個数は任意に設定することができるが、本願発明の成形性を評価するためには複数個あることが好ましく、また、樹脂の充填性に偏りが生じるため、その形状は同じであることが好ましい。
【0019】
本発明では、これらのキャビティはすべて樹脂充填開始部2からランナー部3を介して、同じ距離に存在させることが好ましい。ここでいう同じ距離とは、キャビティに至るまでの樹脂が、均等に同じ幅、深さ、距離のランナー部及びゲートを経由し、好ましくは同じ数だけのコーナーに接しながら到達することである。
【0020】
ランナーの距離を同じにするためには、樹脂充填開始部から放射線状(同心円状)にランナー部を設けることも考えられるが、この場合はランナー部により傾き角度が異なるので好ましくない。実際には図1に示されるようにランナー部はトーナメントのような経路をとることが好ましい。
【0021】
本発明では、キャビティの最終充填部4に相当する部分には、通常設けられる泡抜き(気泡抜き)用のエアベント、真空ベント、あるいはオーバーフロー溝は存在させない。これらのベントや溝を設けず、袋小路とさせると、金型内に最初から存在する空気について、硬化性樹脂を充填させた場合に、充填方向、あるいは成形条件により、充填量や泡の巻き込み方を評価することができる。キャビティの最終充填部4に限らず、キャビティ内にエアベント、真空ベント、あるいはオーバーフロー溝は存在させないことが好ましい。
【0022】
本発明の金型は、キャビティ、ランナー部、ゲートなど樹脂の充填ルートにはエジェクターピンの設置を避けることが好ましい。一般的な金型の可動側面については、成形品を離型させるために、突き出し機構であるエジェクターピンが存在する。しかし、本発明で使用する硬化性樹脂は粘度の低い液状であるために、エジェクターピンなどが存在すると樹脂の摺動部(隙間)への入り込みや、エジェクターピンによる凹凸が結果としてキャビティへの充填性が不均一になる原因となる恐れがある。
【0023】
しかし、摺動部(隙間)、エジェクターピンによる凹凸の程度を少なくしたり、これらの問題を考慮する必要がない場合にはエジェクターピンを設けても構わない。また、充填する樹脂の粘度によってもエジェクターピンを設けても構わない。
【0024】
尚、エジェクターピンを設けない場合の成形品の離型については、エアブロワーや、ゴム吸盤、あるいは振動による離型方法を採用することができる。
【0025】
これらの条件を満たした射出成形金型について、液状の熱硬化性樹脂を樹脂充填開始部2より充填することで、ランナー部3を経由し、各キャビティ1に樹脂が充填され、最終充填部4まで満たされることになる。充填方向については、図1のように金型を可動側面に取り付けた場合は上向きの充填方向における評価が可能となり、図2のように金型面を取り付けた場合は下向きの充填方向における評価ができることになる。
【0026】
本発明の金型は、キャビティ内に成形品の収縮率を計測するための凹部あるいは凸部(凹凸部)を設けておくこと、金型の凹凸部が成形品に転写されてできた凹凸部(平面の収縮率を求める場合は長さ)を計測することにより、成形品の収縮率を簡便に求めることができる。キャビティ内に凹凸部を設けることにより、成形性評価と同時に成形品の収縮率を計測でき、金型設計、成形条件の確認に役立てることができる。
【0027】
凹凸部は樹脂の流動性に影響を与えることを少なくするために深さ(高さ)を小さくすることが好ましい。また大きさも小さくすることが好ましい。得られた成形品の測定の容易性、樹脂流動への影響の少なさから、凹部であることが好ましい。
【0028】
凹凸部の形状は、測定したい長さ部分の両端に十字状、好ましくは点状に設けることが好ましい。測定する部分は1カ所に止まらず、場合によっては複数箇所も受けても構わない。また、収縮率の方向性を求めるために測定する部分の方向性を変えて測定できる様に凹凸部を設けておくことが好ましい。
【0029】
特定に凹部が彫り込まれていてもよい。ここでいう凹部とは、キャビティ側に目印となるために彫り込まれた印のことを表す。印の形や大きさは任意に設定することができるが、金型側面に彫り込まれた凹部が熱硬化性樹脂成形後の成形体表面に凸部となり転写される範囲で彫り込むことが重要である。
【0030】
本発明の図1では、例として凹部5に示されるように十字を彫り込んでいる。尚、成形品に転写された凸部は、寸法測定(成形収縮率)を行うことが主たる目的であり、
複数の成形品の寸法を比較することにより、成形ショット毎に得られる成形品間のバラツキを評価することができる。
【0031】
本発明の金型において、図3に示すようにキャビティ1の最大幅(X)とキャビティとゲートとの接触部分6の幅(Y)との関係は、(Y)<(X)/2となることが好ましい。キャビティ幅(X)に対してゲート幅(Y)が小さいことで、図3に示されるゲート近傍側にあるコーナー7における気泡の巻き込みなども評価することができる。
【0032】
なお、図3ではゲートがランナー部と同じ幅で示しているが、通常の射出成形の金型のようにゲートが狭くなるようにしておくことも構わない。
【0033】
本発明における射出成形用金型を用いて成形する熱硬化性樹脂は、一般に知られた液状性の熱硬化性樹脂を任意に用いることができる。また熱硬化性樹脂の粘度についても任意のものが使用できるが、23℃におけるE型粘度計で測定した粘度が0.01〜1000Pa・sの範囲になる熱硬化性樹脂が好適に用いられる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下によって限定されるものではない。
【0035】
(実施例1〜6)
シリコーン系液状熱硬化性樹脂(23℃における粘度:2.0Pa・s)を用い、下記の成形条件で射出成形を行った。成形が安定したところで、評価用成形品を取得し、その充填結果を表1に示した。
【0036】
射出成形機:型閉力40tの液状射出成形機(ソディックプラステック製)
金型温度と硬化時間:135℃×120秒
金型充填方向:上向きと下向きの両方
ランナー、ゲート幅:4mm
ランナー、ゲート深さ:0.5mm
キャビティ大きさ:10mm×20mm(厚さ0.5mm)
キャビティ全充填時の計量:シリンダー位置にして3mm分
射出圧力:1.00MPa。
【0037】
表1の実施例1、実施例4のように未充填ぎみに計量を調整し、射出速度が低い場合には、上向き、下向きの充填方向を問わず、ゲート近傍から樹脂は充填された。実施例2、実施例5のように全充填できるように計量を調整し、射出速度が低い場合には、ゲート近傍より充填され、最終充填部のコーナー部に気泡残りが確認できた。実施例3は実施例1よりも射出速度を高めたものだが、充填の仕方は実施例1と同様だった。一方で、実施例6のように下向きで射出速度を高めた場合は、実施例3と異なりゲート近傍の片側の壁を伝って最終充填部より樹脂が充填された。
【0038】
(実施例7〜8)
実施例1と同じシリコーン系液状熱硬化性樹脂を用い、下記の成形条件で射出成形を行った。成形が安定したところで、評価用成形品を取得し、評価用成形品に刻まれた凸部間(十字間)距離(金型実寸6.00mm)をマイクロハイスコープで測定(23℃下)した(5つの成形品における平均値)。
【0039】
射出成形機:型閉力40tの液状射出成形機(ソディックプラステック製)
金型充填方向:上向き
射出時の計量:シリンダー位置にして3mm分
金型温度と硬化時間:135℃×120秒、150℃×30秒
射出圧力:1.00MPa。
【0040】
尚、1ショットの射出成形により評価用成形品は4個得られるため、それぞれA〜Dの名称をつけ、結果を表2に示した。
表2に示すとおり、実施例7、実施例8ともに各サンプルの寸法はほぼ同等レベルであった。実施例8のように金型温度を上げたほうが寸法が小さいことが判った。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【符号の説明】
【0043】
1:キャビティ
2:樹脂充填開始部
3:ランナー部
4:最終充填部
5:凹部
6:ゲートとキャビティの接触部
7:ゲート近傍側のキャビティ内コーナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を成形するための金型であって、
(1)金型内には最低2個以上の同形状のキャビティが存在する、
(2)キャビティはすべて樹脂の充填開始部から同じ距離に存在するようにゲート、およびランナー部が存在する、
(3)キャビティの最終充填部にはエアベント、及びオーバーフロー溝は存在しない、
ことを特徴とする液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【請求項2】
充填ルートにはエジェクターピンは存在しない事を特徴とする請求項1記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【請求項3】
各キャビティ内において、凹凸部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【請求項4】
キャビティとゲートが接続する側のキャビティの最大幅を(X)、キャビティとゲートの接続部のゲート幅を(Y)としたときに、(Y)<(X)/2の関係にある請求項1〜3いずれかに記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。
【請求項5】
液状熱硬化性樹脂の23℃で測定したE型粘度が0.1〜100Pa・sの範囲であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の液状熱硬化性樹脂の射出成形性評価用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−274488(P2010−274488A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128124(P2009−128124)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】