説明

熱硬化性樹脂の製造方法、熱硬化性樹脂、それを含む熱硬化性組成物、成形体、硬化体、硬化成形体、並びにそれらを含む電子機器

【課題】本発明は、耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善された熱硬化性樹脂の製造方法とそれにより得られる熱硬化性樹脂の提供を目的の一つとする。
【解決手段】本発明は、a)下記一般式(I)で示される単官能フェノール化合物、b)下記一般式(II)で示されるジアミン化合物、およびc)アルデヒド化合物、を加熱して反応させるジヒドロベンゾキサジン環構造を有する熱硬化性樹脂の製造方法を提供する。


〔式中、Xは炭素数4以上の有機基、Yは炭素数5以上の有機基であり、X及びYは何れもヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。Yの両側のベンゼン環はY中の同一原子には結合しない。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善された熱硬化性樹脂の製造方法とそれにより得られる熱硬化性樹脂、該熱硬化性樹脂を含む組成物、その成形体、硬化体、硬化成形体、並びにそれらを含む電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂は、その熱硬化性という性質に基づき、耐水性、耐薬品性、耐熱性、機械強度、信頼性等が優れているので広い産業分野で使用されている。
【0003】
しかし、フェノール樹脂及びメラミン樹脂は硬化時に揮発性の副生成物を発生する、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂は難燃性が劣る、ビスマレイミド樹脂は非常に高価である等の欠点がある。
【0004】
これらの欠点を解消するために、ジヒドロベンゾキサジン環が開環重合反応し、問題となるような揮発分の発生を伴わずに熱硬化するジヒドロベンゾキサジン化合物(以下、ベンゾキサジン化合物と略することもある)が研究されてきた。ベンゾキサジン化合物は、上記のような熱硬化性樹脂が有する基本的な特徴に加え、保存性に優れており、溶融時には比較的低粘度であり、分子設計の自由度が広い等の様々な利点を有する樹脂である。このようなベンゾキサジン化合物としては、例えば、特開昭49−47378号公報等に開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、近年の電子機器・部品の高密度化(小型化)、及び伝達信号の高速化に対応すべく、誘電特性の改善(低誘電率化及び低誘電体損失化)による信号伝達速度や高周波特性の向上が求められている。
【0006】
また、このような優れた誘電特性を有する熱硬化性樹脂の原料材料として、下記式(1)や式(2)で表されるジヒドロベンゾキサジン化合物が知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
かかるジヒドロベンゾキサジン化合物のベンゾキサジン環が開環重合して得られる樹脂は、熱硬化時に揮発成分の発生を伴うこともなく、また、難燃性や耐水性にも優れるものである。
【0010】
しかし、上記従来のジヒドロベンゾキサジン化合物は、上述の如く、熱硬化性樹脂のなかでは誘電特性に優れるものの、最近の更なる電子機器・部品の高性能化に応じて更に高い誘電特性が望まれている。例えば、メモリや論理プロセッサ等のICのパッケージを構成する多層基板の樹脂材料に対しては、環境温度23℃での100MHz及び1GHzにおける特性として、誘電率が3.5以下、並びに、同条件での誘電体損失がその指標である誘電正接の値で0.015以下であることが要求されている。
【0011】
また、今後予想される技術動向からすれば、更に低い誘電体損失が要求される傾向にある。すなわち、誘電体損失は、通常、周波数と材料の誘電正接に比例する傾向にある一方で、電子機器・部品で用いられる周波数はますます高くなる傾向にあるため、誘電正接が低い材料への要求が更に高くなっている。
【0012】
また、電気特性、耐熱性の向上や、強靭性、可とう性の付与といった要望に対して、特開2005−239827号公報では、微細加工への対応に関する技術が提案されている(特許公報2)。ただし、この技術では、フリーのOH基が存在するため、吸湿性、電気特性の面で不利である。
【0013】
また、特開2003−64180号公報には、主鎖中にベンゾキサジン構造を有する耐熱性、機械特性に優れた熱硬化性樹脂が開示されており、その中で二官能フェノール部がシロキサン基で結合されたものが開示されている(特許文献3)。
【0014】
しかしながら、上記文献に開示の熱硬化性樹脂では、原料のジアミン化合物として芳香族ジアミンを用いている。芳香族ジアミンを使用した場合には、得られた熱硬化性樹脂を硬化させたときに、誘電特性の良好なものを得ることは困難である。この理由は定かではないが、一つは、芳香族アミンはベンゾキサジン環を形成する場合に、脂肪族アミンに比較して環を形成しない副反応の割合が高く、構造が不規則になりやすいこと、あるいは、硬化した際にベンゾキサジン環が開いて生成するフェノール性水酸基が、芳香族アミンとの水素結合性が低いという可能性がある。これらはいずれも芳香族アミンと脂肪族アミンとの塩基性の大きな違いに起因すると考えられる。また、該文献には、可とう性を付与するものとして長鎖芳香族ジアミンが開示されている。ただし、化合物によっては重合体が不溶化しやすいものである。また、スルホン基等の極性の高い基を含むものは不利となる。
【0015】
また、非特許文献3及び特許文献4にも、主鎖中にベンゾキサジン構造を有する特定構造のベンゾキサジン化合物が開示されている。しかし、非特許文献3では、化合物のみ開示があり、特性評価の記載がない。また、特許文献4では、耐熱性向上や、可とう性を付与するための指針や化合物の開示がない。さらに、非特許文献4には、ベンゾキサジン化合物の硬化体の分解機構が開示されている。該文献に記載のアニリン及び単官能のクレゾールは、低温での揮発性を有する。
【特許文献1】特開昭49−47378号公報
【特許文献2】特開2005−239827号公報
【特許文献3】特開2003−64180号公報
【特許文献4】特開2002−338648号公報
【非特許文献1】小西化学工業株式会社ホームページ[2005年11月24日検索]、インターネット<URL:http://www.konishi-chem.co.jp/cgi-data/jp/pdf/pdf_2.pdf>
【非特許文献2】四国化成工業株式会社ホームページ[2005年11月24日検索]、インターネット<URL:http://www.shikoku.co.jp/products/benzo.html>
【非特許文献3】"Benzoxazine Monomers and Polymers: New Phenolic Resins by Ring-Opening Polumerization," J.P.Liu and H. Ishida, "The Polymeric Materials Encyclopedia," J.C.Salamone,Ed.,CRC Press,Florida(1996)pp.484-494
【非特許文献4】H.Y.Low and H.Ishida,Polymer,40,4365(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明の目的は、耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善された熱硬化性樹脂の製造方法とそれにより得られる熱硬化性樹脂を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、上記の熱硬化性樹脂を含む組成物、その成形体、硬化体、硬化成形体、並びにそれらを含む電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、鋭意検討の結果、耐熱性向上の観点から、脂肪族アミン、芳香族モノアミンを使用せず、特定の芳香族ジアミンを用いる、熱硬化性樹脂の製造方法が、前記目的を達成し得ることの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。すなわち本発明の構成は以下の通りである。
【0019】
1.a)下記一般式(I)で示される単官能フェノール化合物、b)下記一般式(II)で示されるジアミン化合物、およびc)アルデヒド化合物、を加熱して反応させることを特徴とするジヒドロベンゾキサジン環構造を有する熱硬化性樹脂の製造方法。
【0020】
【化3】

〔式中、Xは炭素数4以上の有機基であり、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。〕
【0021】
【化4】

〔式中、Yは炭素数5以上の有機基であり、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。ただし、Yの両側のベンゼン環はY中の同一原子には結合しない。〕
【0022】
2.Xが、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい炭素数6以上の有機基である、前記1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0023】
3.Xが、炭素数8以上の炭化水素基である、前記1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0024】
4.Xが主としてOH基のパラ位に置換されており、かつ下記式で示される基である、前記1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0025】
【化5】

【0026】
5.Xが主としてOH基のパラ位に置換されており、かつ下記式で示される基である、前記1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0027】
【化6】

【0028】
6.Yが、下記式で示される基である、前記1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0029】
【化7】

【0030】
7.Yが、ベンゼン環を少なくとも一つ含む、前記1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0031】
8.Yが下記式の群より選択される一以上の基であり、かつYの両側のベンゼン環のNH2基に対してメタ位もしくはパラ位に結合する、前記1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0032】
【化8】

【0033】
9.Yが、ベンゼン環を少なくとも二つ含む、前記1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0034】
10.Yが下記式の群より選択される一以上の基であり、かつYの両側のベンゼン環のNH2基に対してメタ位もしくはパラ位に結合する、前記1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0035】
【化9】

【0036】
11.d)多官能フェノール化合物、をさらに使用する、前記1〜10の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0037】
12.d)の多官能フェノール化合物が下記式の群より選択される一以上である、前記11に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0038】
【化10】

【0039】
13.d)の多官能フェノール化合物が下記式の群より選択される一以上である、前記11に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0040】
【化11】

【0041】
14.d)の多官能フェノール化合物が下記式で示される、前記11に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【0042】
【化12】

〔式中、Zは下記群より選択される基であり、nは0〜10の整数を示す。〕
【0043】
【化13】

【0044】
15.前記1〜14の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法により得られる熱硬化性樹脂。
【0045】
16.前記15に記載の熱硬化性樹脂を少なくとも含む熱硬化性組成物。
【0046】
17.分子内に少なくとも一つのジヒドロベンゾキサジン構造を有する化合物を含む、前記16記載の熱硬化性組成物。
【0047】
18.前記15に記載の熱硬化性樹脂または前記16もしくは17に記載の熱硬化性組成物を、必要により部分硬化させて、もしくは硬化させずに得られる成形体。
【0048】
19.前記15に記載の熱硬化性樹脂または前記16もしくは17に記載の熱硬化性組成物より得られる硬化体。
【0049】
20.前記18記載の成形体を硬化させて得られる硬化成形体。
【0050】
21.前記18記載の成形体、前記19記載の硬化体、または前記20記載の硬化成形体を含む電子機器。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善された熱硬化性樹脂を得ることのできる製造方法と、該製造方法により得られる熱硬化性樹脂、該樹脂を含む組成物、その成形体、硬化体、硬化成形体、並びにそれらを含む電子機器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
〔熱硬化性樹脂の製造方法〕
本発明に係る熱硬化性樹脂の製造方法は、a)下記一般式(I)で示される単官能フェノール化合物、b)下記一般式(II)で示されるジアミン化合物、およびc)アルデヒド化合物、を加熱して反応させることを特徴とする。そして、本発明の製造方法により、ジヒドロベンゾキサジン環構造を有する熱硬化性樹脂を得ることができる。得られる熱硬化性樹脂は、耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善されたものである。
【0053】
【化14】

〔式中、Xは炭素数4以上の有機基であり、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。〕
【0054】
【化15】

〔式中、Yは炭素数5以上の有機基であり、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。ただし、Yの両側のベンゼン環はY中の同一原子には結合しない。〕
【0055】
本発明においては、a)成分として、前記一般式(I)で示される単官能フェノール化合物を用いる。かかる単官能フェノール化合物は、特に溶解性等の加工性を確保できる点で必須である。
【0056】
本発明に用いられるa)成分の単官能フェノール化合物は、側鎖分子量が大きいものであり、前記一般式(I)中のXは炭素数4以上、好ましくは炭素数6以上、更に好ましくは8〜20の有機基である。なお、Xがヘテロ原子として、N、O、Fを有するものでは、電気特性を向上させることができる。
【0057】
Xは、特に高温下での不揮発性、誘電率および誘電正接等の誘電特性の点で、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい炭素数6以上の有機基であることが好ましい。
【0058】
また、Xは、特に高温下での不揮発性、誘電率および誘電正接等の誘電特性の点で、炭素数8以上の炭化水素基であることが好ましい。
【0059】
さらに、Xは、高温下での不揮発性、誘電率および誘電正接等の誘電特性の点で、前記一般式(I)中のベンゼン環における、主としてOH基のパラ位に置換されており、かつ下記式で示される基であることが好ましい。
【化16】

【0060】
また、Xは、高温下での不揮発性、誘電率および誘電正接等の誘電特性の点で、前記一般式(I)中のベンゼン環における、主としてOH基のパラ位に置換されており、かつ下記式で示される基であることが好ましい。
【化17】

【0061】
このようなa)成分の前記単官能フェノール化合物の具体例としては、2−シクロヘキシルフェノール、4−シクロヘキシルフェノール、2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、2−ベンジルフェノール、4−ベンジルフェノール、2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸フェニルエステル、4−フェノキシフェノール、3−ベンジルオキシフェノール、4−ベンジルオキシフェノール、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、4−α−クミルフェノール、4−アダマンチルフェノール、4−トリフェニルメチルフェノール等が挙げられる。これらフェノール化合物は、使用に際して一種又は二種以上で用いられる。
【0062】
本発明においては、b)成分として、前記一般式(II)で示されるジアミン化合物を用いる。かかるジアミン化合物は、特に可とう性向上の点で必須である。
【0063】
本発明に用いられるb)成分のジアミン化合物は、長鎖芳香族ジアミン化合物であり、前記一般式(II)中のYは炭素数5以上、好ましくは炭素数5〜15、更に好ましくは5〜12の有機基である。なお、Yがヘテロ原子として、N、O、Fを有するものでは、電気特性を向上させることができる。また、Yの両側のベンゼン環はY中の同一原子には結合しない。
【0064】
Yは、特に高温下での安定性、誘電率および誘電正接等の誘電特性、靭性の点で、下記式で示される基であることが好ましい。
【化18】

【0065】
また、Yは、特に高温下での安定性、誘電率および誘電正接等の誘電特性、靭性の点で、ベンゼン環を少なくとも一つ含むものが好ましい。
【0066】
Yがベンゼン環を少なくとも一つ含むものの具体例としては、下記式の群より選択される一以上の基であり、かつYの両側のベンゼン環のNH2基に対してメタ位もしくはパラ位に結合するもの等が挙げられる。Yがこれらの基を有する場合は、特に高温下での安定性、誘電率および誘電正接等の誘電特性、靭性に優れるため好ましい。
【化19】

【0067】
また、Yは、特に高温下での安定性、誘電率および誘電正接等の誘電特性、靭性に優れる点で、ベンゼン環を少なくとも二つ含むことが好ましい。
【0068】
Yがベンゼン環を少なくとも二つ含むものの具体例としては、下記式の群より選択される一以上の基であり、かつYの両側のベンゼン環のNH2基に対してメタ位もしくはパラ位に結合するもの等が挙げられる。Yがこれらの基を有する場合は、特に高温下での安定性、誘電率および誘電正接等の誘電特性、靭性に優れるため好ましい。
【化20】

【0069】
このようなb)成分の前記ジアミン化合物の具体例としては、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ネオペンタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(三井化学製 ビスフェノールP、東京化成では「α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン」の化合物名で販売)、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(三井化学製 ビスフェノールM)、等が挙げられる。これらジアミン化合物は、使用に際して一種又は二種以上で用いられる。
【0070】
本発明に用いられるc)成分のアルデヒド化合物としては、特に限定されるものではないが、ホルムアルデヒドが好ましく、該ホルムアルデヒドとしては、その重合体であるパラホルムアルデヒドや、水溶液の形であるホルマリン等の形態で使用することが可能である。パラホルムアルデヒドを使用する方が反応の進行は穏やかである。また、その他のアルデヒド化合物としてアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等も用いることができる。
【0071】
本発明の製造方法においては、前述したa)〜c)成分とともに、d)成分として多官能フェノール化合物をさらに使用することが好ましい。このd)成分の多官能フェノール化合物を用いると、高温下での安定性、力学強度をさらに向上させることができる。
【0072】
d)の多官能フェノール化合物は、特に入手の容易さ、反応性、得られた化合物を硬化させた硬化体の機械的、熱的および電気的特性の点で、下記式の群より選択される一以上であることが好ましい。
【0073】
【化21】

【0074】
また、d)の多官能フェノール化合物は、特に入手の容易さ、反応性、得られた化合物を硬化させた硬化体の機械的、熱的および電気的特性の点で、下記式の群より選択される一以上であることが好ましい。
【0075】
【化22】

【0076】
また、d)の多官能フェノール化合物は、特に入手の容易さ、反応性、得られた化合物を硬化させた硬化体の機械的、熱的および電気的特性の点で、下記式で示されることも好ましい。
【0077】
【化23】

〔式中、Zは下記群より選択される基であり、nは0〜10、好ましくは0〜5 の整数を示す。〕
【0078】
【化24】

【0079】
このようなd)成分の多官能フェノール化合物の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(三井化学製 ビスフェノールP、東京化成では「α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン」の化合物名で販売)、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(三井化学製 ビスフェノールM)、キシリレンノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルノボラック型フェノール樹脂、等が挙げられる。これら多官能フェノール化合物は、使用に際して一種又は二種以上で用いられる。ただしキシリレンノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルノボラック型フェノール樹脂のようなフェノール樹脂を用いる際には、フェノール樹脂側の反応点が2個以上存在する場合が多いため、単官能フェノール化合物との混合比率、あるいはフェノール樹脂とジアミン化合物の化学量論比等を考慮することにより、分子量が大きくなりすぎて不溶化することを防ぐことが好ましい。
【0080】
本発明の製造方法においては、例えば、前記a)、b)及びc)成分、必要に応じて更にd)成分を、適当な溶媒中で加熱して反応させることができる。
【0081】
ここで用いられる溶媒は、特に限定されるものではないが、原料のフェノール化合物やジアミン化合物及び生成物である重合体の溶解性が良好なものの方が高重合度のものが得られやすい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、THF、ジオキサン等のエーテル系溶媒、等が挙げられる。
【0082】
反応温度、反応時間についても特に限定されないが、通常、室温から120℃程度の温度で数十分から数時間反応させればよい。本発明においては、特に30〜110℃で、20分〜9時間反応させれば、本発明に係る熱硬化性樹脂としての機能を発現し得る重合体へと反応は進行するため好ましい。
【0083】
また、反応時に生成する水を系外に取り除くのも反応を進行させる有効な手法である。反応後の溶液に、例えば多量のメタノール等の貧溶媒を加えることで重合体を析出させることができ、これを分離、乾燥すれば目的の重合体が得られる。
【0084】
なお、本発明の熱硬化性樹脂の特性を損なわない範囲で、単官能アミン化合物や三官能アミン化合物、また他のジアミン化合物を使用することもできる。単官能アミンを使用すると重合度を調節することができ、三官能アミンを使用すると、分岐のある重合体が得られることになる。また他のジアミン化合物の併用により、物性を調整することができる。これらは本発明に必須のジアミン化合物と同時に使用することも可能であるが、反応の順序を考慮して後で反応系に添加して反応させることもできる。
【0085】
〔熱硬化性樹脂〕
本発明の熱硬化性樹脂は、前述した熱硬化性樹脂の製造方法により得られるものである。本発明の熱硬化性樹脂は、下記一般式で示される。
【化25】

〔式中、XおよびYは、式(I)および式(II)におけるXおよびYと同一である。〕

ただし、多官能フェノール化合物を併用した場合には上記の限りではない。
【0086】
本発明の熱硬化性樹脂は、特に耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善された特性を有するが、その他、耐水性、耐薬品性、機械強度、信頼性、等に優れ、硬化時における揮発性副生成物やコストの面でも問題がなく、また保存性に優れており、分子設計の自由度が広い等の様々な利点を有する樹脂であり、フィルムやシート等にも容易に加工することができる。
【0087】
〔熱硬化性組成物〕
本発明の熱硬化性組成物は、前述した熱硬化性樹脂を少なくとも含むものである。本発明に係る熱硬化性組成物は、前記熱硬化性樹脂を好ましくは主成分として含むものであり、例えば、主成分として前記熱硬化性樹脂を含み、且つ、副成分として、他の熱硬化性樹脂を含むものが挙げられる。
【0088】
副成分としての他の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ケイ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、この組成物から形成される成形体の耐熱性をより向上させ得る観点から、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂がより好ましい。これらの他の熱硬化性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0089】
また、本発明に係る熱硬化性組成物には、分子内に少なくとも1つ、好ましくは分子内に2つのジヒドロベンゾキサジン環を有する化合物を副成分として用いることが好ましい。この場合には、ベンゾキサジン樹脂の有する優れた特徴を最大限に発現するのに効果的である。このような化合物は、分子内にフェノール性水酸基を有し、かつそのオルト位の一つがHであるような化合物と、分子内に1級アミノ基を有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合反応により得ることができる。このとき、フェノール性水酸基を分子内に複数有する化合物を用いる場合には、1級アミノ基を分子内に一つのみ有する化合物を使用し、1級アミノ基を分子内に複数有する化合物を使用する場合には、フェノール性水酸基を分子内に一つのみ有する化合物を使用する。この分子内に少なくとも1つのジヒドロベンゾキサジン環を有する化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0090】
また、本発明に係る熱硬化性組成物は、必要に応じて、難燃剤、造核剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、防曇剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、着色剤等の各種添加剤を含有していてもよい。これらはそれぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用して用いられても構わない。また本発明に係る熱硬化性組成物を調製する際に、反応性あるいは非反応性の溶剤を使用することもできる。
【0091】
〔成形体〕
本発明に係る成形体は、前述した熱硬化性樹脂、又はそれを含む熱硬化性組成物を、必要により部分硬化させて、もしくは硬化させずに得られるものである。本発明の成形体としては、前述した熱硬化性樹脂が硬化前にも成形性を有しているため、いったん硬化前に成形した後に熱をかけて硬化させたもの(硬化成形体)でも、成形と同時に硬化させたもの(硬化体)でもよい。また、その寸法や形状は特に制限されず、例えば、シート状(板状)、ブロック状等が挙げられ、さらに他の部位(例えば粘着層)を備えていてもよい。
【0092】
その硬化方法としては、従来公知の任意の硬化方法を用いることができ、一般には120〜260℃程度で数時間加熱すればよいが、加熱温度がより低かったり、加熱時間が不足したりすると、場合によっては、硬化が不十分となって機械的強度が不足することがある。また、加熱温度がより高すぎたり、加熱時間が長すぎたりすると、場合によっては、分解等の副反応が生じて機械的強度が不都合に低下することがある。よって、用いる熱硬化性化合物の特性に応じた適正な条件を選択することが望ましい。
【0093】
また、硬化を行う際に、適宜の硬化促進剤を添加してもよい。この硬化促進剤としては、ジヒドロベンゾキサジン化合物を開環重合する際に一般的に使用されている任意の硬化促進剤を使用でき、例えば、カテコール、ビスフェノールA等の多官能フェノール類、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸等のスルホン酸類、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、アジピン酸等のカルボン酸類、コバルト(II)アセチルアセトネート、アルミニウム(III) アセチルアセトネート、ジルコニウム(IV)アセチルアセトネート等の金属錯体、酸化カルシウム、酸化コバルト、酸化マグネシウム、酸化鉄等の金属酸化物、水酸化カルシウム、イミダゾール及びその誘導体、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の第三級アミン及びこれらの塩、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン・ベンゾキノン誘導体、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボロン塩、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のリン系化合物及びその誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0094】
硬化促進剤の添加量は特に限定されないが、添加量が過多となると、成形体の誘電率や誘電正接が上昇して誘電特性が悪化したり、機械的物性に悪影響を及ぼしたりする場合があるので、一般に、前記熱硬化性樹脂100重量部に対し硬化促進剤を好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下の割合で用いることが望ましい。
【0095】
前述の如く、こうして得られる、前記熱硬化性樹脂または前記熱硬化性組成物よりなる本発明の成形体は、重合体構造中にベンゾキサジン構造を有するので、優れた誘電特性を実現することができる。
【0096】
また、本発明の成形体は、前記熱硬化性樹脂または前記熱硬化性組成物の有する熱硬化性という性質に基づいて信頼性、難燃性、成形性、美観性等に優れており、しかもガラス転移温度(Tg)が高いので、応力がかかる部位や可動部にも適用することが可能であり、且つ、重合時に揮発性の副生成物を発生しないので、そのような揮発性の副生成物が成形体中に残存せず衛生管理上も好ましい。
【0097】
本発明の成形体は、電子部品・電子機器及びその材料、特に優れた誘電特性が要求される多層基板、積層板、封止剤、接着剤等の用途に好適に用いることができる。
ここで、電子機器としては、具体的には、携帯電話、表示機器、車載機器、コンピュータ、通信機器等が挙げられる。
その他、航空機部材、自動車部材、建築部材、等の用途にも使用することができる。
【0098】
以下に本発明における代表的な実施例を示すが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0099】
クロロホルム中に、4−α−クミルフェノール(東京化成製、98%)21.66g(0.1mol)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(東京化成製、98%)20.94g(0.05mol)、パラホルムアルデヒド(和光純薬製、94%)6.71g(0.21mol)を投入し、還流下で6時間反応させた。反応スキームを以下に示す。反応後の溶液を多量のメタノールに投じて生成物を析出させた。その後、ろ別により生成物を分離し、メタノールで洗浄した。その後、減圧乾燥により、下記構造のベンゾキサジン化合物を主成分とする熱硬化性樹脂を得た。
【0100】
【化26】

【実施例2】
【0101】
実施例1で得られた熱硬化性樹脂を熱プレス法によりシート状に成形し、180℃で1時間保持し、0.5mmtのシート状の硬化成形体を得た。
得られた成形体について、誘電率測定装置(AGILENT社製、商品名「RFインピーダンス/マテリアル アナライザ E4991A」)を用いて容量法により、23℃、100MHz及び1GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定した。結果を表1に示す。実施例2の硬化成形体は、誘電率、誘電正接ともに良好な特性を示した。
また得られたシートを細かく裁断し、島津製作所製、商品名「DTG−60」を用いてTGA法により、10℃/minの昇温速度で5%重量減少温度(Td5)を評価した。実施例2の硬化成形体はTd5が375℃と良好な値を示した。
【0102】
【表1】

【実施例3】
【0103】
実施例1において、4−α−クミルフェノールの代わりに、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール25.26g(0.12mol)を使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂を合成した。
【実施例4】
【0104】
得られた熱硬化性樹脂を実施例2と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0105】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、耐熱性に優れ、電気特性が良好で、脆性が大きく改善された熱硬化性樹脂の製造方法とそれにより得られる熱硬化性樹脂、該熱硬化性樹脂を含む組成物、その成形体、硬化体、硬化成形体、並びにそれらを含む電子機器として、産業上の利用可能性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)下記一般式(I)で示される単官能フェノール化合物、b)下記一般式(II)で示されるジアミン化合物、およびc)アルデヒド化合物、を加熱して反応させることを特徴とするジヒドロベンゾキサジン環構造を有する熱硬化性樹脂の製造方法。
【化1】

〔式中、Xは炭素数4以上の有機基であり、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。〕
【化2】

〔式中、Yは炭素数5以上の有機基であり、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい。ただし、Yの両側のベンゼン環はY中の同一原子には結合しない。〕
【請求項2】
Xが、ヘテロ原子として、N、O、Fを有していてもよい炭素数6以上の有機基である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項3】
Xが、炭素数8以上の炭化水素基である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項4】
Xが主としてOH基のパラ位に置換されており、かつ下記式で示される基である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化3】

【請求項5】
Xが主としてOH基のパラ位に置換されており、かつ下記式で示される基である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化4】

【請求項6】
Yが、下記式で示される基である、請求項1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化5】

【請求項7】
Yが、ベンゼン環を少なくとも一つ含む、請求項1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項8】
Yが下記式の群より選択される一以上の基であり、かつYの両側のベンゼン環のNH2基に対してメタ位もしくはパラ位に結合する、請求項1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化6】

【請求項9】
Yが、ベンゼン環を少なくとも二つ含む、請求項1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項10】
Yが下記式の群より選択される一以上の基であり、かつYの両側のベンゼン環のNH2基に対してメタ位もしくはパラ位に結合する、請求項1〜5の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化7】

【請求項11】
d)多官能フェノール化合物、をさらに使用する、請求項1〜10の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項12】
d)の多官能フェノール化合物が下記式の群より選択される一以上である、請求項11に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化8】

【請求項13】
d)の多官能フェノール化合物が下記式の群より選択される一以上である、請求項11に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化9】

【請求項14】
d)の多官能フェノール化合物が下記式で示される、請求項11に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【化10】

〔式中、Zは下記群より選択される基であり、nは0〜10の整数を示す。〕
【化11】

【請求項15】
請求項1〜14の何れかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法により得られる熱硬化性樹脂。
【請求項16】
請求項15に記載の熱硬化性樹脂を少なくとも含む熱硬化性組成物。
【請求項17】
分子内に少なくとも一つのジヒドロベンゾキサジン構造を有する化合物を含む、請求項16記載の熱硬化性組成物。
【請求項18】
請求項15に記載の熱硬化性樹脂または請求項16もしくは17に記載の熱硬化性組成物を、必要により部分硬化させて、もしくは硬化させずに得られる成形体。
【請求項19】
請求項15に記載の熱硬化性樹脂または請求項16もしくは17に記載の熱硬化性組成物より得られる硬化体。
【請求項20】
請求項18記載の成形体を硬化させて得られる硬化成形体。
【請求項21】
請求項18記載の成形体、請求項19記載の硬化体、または請求項20記載の硬化成形体を含む電子機器。


【公開番号】特開2007−217650(P2007−217650A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43024(P2006−43024)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】