説明

熱硬化性樹脂及びその製造方法、熱硬化性樹脂組成物、成形体、硬化体、並びに電子機器

【課題】寸法安定性に優れる、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される構造を含む、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表し、nは、1〜500の整数を表す。なお、*は、結合部位を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂及びその製造方法、熱硬化性樹脂組成物、成形体、硬化体、並びに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
分子構造中にベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、及び低吸水性等が良好であり、他の熱硬化性樹脂には見られない優れた特性を有するため、積層板や半導体封止材等のエレクトロニクス材料、摩擦材や砥石等の結合材として注目されている。
【0003】
ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、オキサジン環がベンゼン環に隣接した構造を有する熱硬化性樹脂であり、例えば、フェノール化合物、アミン化合物、アルデヒド化合物を反応させることにより製造できる。このようなベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の一例としては、フェノール化合物として、フェノールを、アミン化合物として、アニリンを、アルデヒド化合物として、ホルムアルデヒドを用いて製造されるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂が挙げられる(式(i)の左記)。
【0004】
式(i)に示すように、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂(式(i)の左記)は、加熱により開環重合を起こし、ポリベンゾオキサジン(式(i)の右記)となる。
【0005】
【化1】

【0006】
このようなベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂に関して、例えば、特許文献1では、二官能フェノール類、単官能アミン類、及びアルデヒド類を反応させることにより得られる、末端にベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−43547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1等に開示されている熱硬化性樹脂については、特に寸法安定性について改善の余地がある。ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の成形体や、これを硬化させた硬化体は、ある程度良好な物性を有する材料ではあるが、まだ十分ではない。特に、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の硬化体をフィルム等の形状に成形して用いる場合、このような性能改善が強く望まれている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、熱線膨張率が低い、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、繰り返し単位中に特定構造のベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕
下記式(1)で表される構造を含む、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
【化2】

(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表し、nは、1〜500の整数を表す。なお、*は、結合部位を表す。)
〔2〕
前記R1は、下記式(2)で表される構造であり、
前記R2及び前記R3は、メチル基であり、
前記R4は、下記式(3)で表される構造である、〔1〕に記載のベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
【化3】

(式中、*は、結合部位を表す。)
【化4】

(式中、*は、結合部位を表す。)
〔3〕
下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表されるジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を少なくとも反応させることにより得られるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
【化5】

(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。)
【化6】

(式中、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。)
〔4〕
下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表されるジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を少なくとも反応させる工程を含む、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の製造方法。
【化7】

(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。)
【化8】

(式中、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。)
〔5〕
〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂、又は〔4〕に記載の製造方法により得られる熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物。
〔6〕
〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂、〔4〕に記載の製造方法により得られる熱硬化性樹脂、又は〔5〕に記載の熱硬化性樹脂組成物を成形し得られる成形体。
〔7〕
〔6〕に記載の成形体を硬化させて得られる硬化体。
〔8〕
〔6〕に記載の成形体、又は〔7〕に記載の硬化体を含む電子機器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、寸法安定性に優れる、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】製造例1で製造されたイミド骨格含有の二官能フェノールのプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル)である。
【図2】実施例1で製造されたベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂のプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
本実施の形態に係るベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、下記式(1)で表される構造を含む。
【0016】
【化9】

式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表し、nは、1〜500の整数を表す。なお、*は、結合部位を表す。
【0017】
式(1)におけるR1は、炭素数1〜20である4価の有機基を表す。有機基の構造は特に限定されず、例えば、ヘテロ元素若しくは官能基を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基であってもよい。官能基としては、例えば、エーテル基、アルコキシ基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でもR1としては、耐熱性をより一層向上させるという観点から、芳香族の有機基であることが好ましい。R1の好ましい具体例としては、例えば、下記式(2)、下記式(6)、下記式(7)、下記式(8)、下記式(9)、下記式(10)、及び下記式(11)で表される構造等が挙げられ、これらの中でも、耐熱性をより一層向上させるという観点から、下記式(2)で表される構造であることがより好ましい。
【0018】
【化10】

【0019】
式中、*は結合部位を表す。
【0020】
式(1)におけるR2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。R2及びR3が有機基である場合、その構造は特に限定されないが、例えば、ヘテロ元素又は官能基を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基であってもよい。R2及びR3は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。官能基としては、例えば、エーテル基、アルコキシ基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボキシル基等が挙げられる。R2及びR3の具体例としては、樹脂の溶解性に優れるという観点から、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、入手容易性の観点から、いずれもメチル基であることがより好ましい。
【0021】
式(1)におけるR4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。R4の好ましい具体例としては、例えば、下記式(3)、下記式(12)、下記式(13)、下記式(14)、下記式(15)、下記式(16)で表される構造等が挙げられ、これらの中でも、低熱線膨張率化という観点から、下記式(3)で表される構造であることがより好ましい。
【0022】
【化11】

【0023】
式中、*は、結合部位を表す。
【0024】
また、R4は、下記群Aからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0025】
【化12】

【0026】
式中、*は、結合部位を表す。
【0027】
式(1)におけるnは、1〜500の整数であればよく、樹脂の溶解性に優れるという観点から、1〜250の整数であることが好ましい。
【0028】
(製造方法)
本実施の形態のベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表されるジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を少なくとも反応させることにより得ることができる。即ち、本実施の形態によるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の製造方法は、式(4)で表される化合物と、式(5)で表されるジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を反応させる工程を含む。以下、各材料について説明する。
【0029】
本実施の形態のベンゾオキサジン環を有する硬化性樹脂の製造においては、二官能フェノール化合物を用いる。二官能フェノール化合物としては、下記式(4)で表される化合物を少なくとも用いる。
【0030】
【化13】

【0031】
式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。
【0032】
1は、炭素数1〜20である4価の有機基を表す。有機基の構造は特に限定されず、例えば、ヘテロ元素若しくは官能基を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基であってもよい。官能基としては、例えば、エーテル基、アルコキシ基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でもR1としては、耐熱性をより一層向上させるという観点から、芳香族の有機基であることが好ましい。R1の好ましい具体例としては、例えば、下記式(2)、下記式(6)、下記式(7)、下記式(8)、下記式(9)、下記式(10)、及び下記式(11)で表される構造等が挙げられ、これらの中でも、耐熱性をより一層向上させるという観点から、下記式(2)で表される構造であることがより好ましい。
【0033】
【化14】

【0034】
式中、*は結合部位を表す。
【0035】
式(4)におけるR2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。R2及びR3が有機基である場合、その構造は特に限定されないが、例えば、ヘテロ元素又は官能基を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基であってもよい。R2及びR3は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。官能基としては、例えば、エーテル基、アルコキシ基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボキシル基等が挙げられる。R2及びR3としては、樹脂の溶解性に優れるという観点から、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、いずれもメチル基であることがより好ましい。
【0036】
本実施の形態では、式(4)で表される二官能フェノール化合物以外の二官能フェノール化合物を併用してもよい。併用できる二官能フェノール化合物としては、特に限定されないが、例えば、4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(ビスフェノールM)、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(ビスフェノールP)、4,4'−メチレンジフェノール(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノン4,4’−ビフェノール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ベンゼンジオール(ヒドロキノン)、1,3−ベンゼンジオール(レゾルシノール)、1,2−ベンゼンジオール(カテコール)等が挙げられる。これらの中でも、低熱線膨張率化という観点から、4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノンが好ましい。式(4)で表される化合物以外の二官能フェノール化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。例えば、式(4)で表される化合物、4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、及び4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノンを併用することが、より好ましい。
【0037】
本実施の形態のベンゾオキサジン環を有する硬化性樹脂の製造においては、ジアミン化合物を用いる。ジアミン化合物としては、下記式(5)で表される化合物を少なくとも用いる。
【0038】
【化15】

【0039】
式中、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。
【0040】
式(5)におけるR4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。R4の好ましい具体例としては、例えば、下記式(3)、下記式(12)、下記式(13)、下記式(14)、下記式(15)、下記式(16)で表される構造等が挙げられ、これらの中でも、低熱線膨張率化という観点から、下記式(3)で表される構造であることがより好ましい。
【0041】
【化16】

【0042】
式中、*は、結合部位を表す。
【0043】
また、R4は、下記群Aからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0044】
【化17】

【0045】
式中、*は、結合部位を表す。
【0046】
ジアミン化合物としては、上記式(5)で表されるものであれば特に限定されず、例えば、直鎖構造又は分岐構造の脂肪族ジアミン化合物、脂環式ジアミン化合物、芳香族ジアミン化合物等を用いることができる。これらは置換されていてもよいし、無置換でもよく、ヘテロ元素又は官能基を含んでいてもよい。ここで、官能基としては、エーテル基、アルコキシ基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0047】
ジアミン化合物の具体例としては、例えば1,2−ジアミノエタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,18−ジアミノオクタデカン等の直鎖脂肪族ジアミン化合物;テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン等の分岐脂肪族ジアミン化合物;3(4),8(9),−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、2,5(6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の脂環式ジアミン化合物;p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスアニリン(ビスアニリンM)、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスアニリン(ビスアニリンP)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル等の芳香族ジアミン化合物;等が挙げられる。これらのジアミン化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、特に、低熱線膨張率化という観点から、p−フェニレンジアミン(式(3)参照)であることが好ましい。
【0048】
ジアミン化合物の使用量は、特に限定されないが、全二官能フェノール化合物1molに対して、0.5mol〜1.5molであることが好ましい。例えば、二官能フェノール化合物として、式(4)で表される化合物以外の化合物も併用する場合、二官能フェノール化合物の合計1molに対して、ジアミン化合物の使用量を上記範囲とすることを意味する。二官能フェノール化合物1molに対するジアミン化合物の使用量を、1.5mol以下とすることにより、反応溶液のゲル化を効果的に抑制することができる。二官能フェノール化合物1molに対するジアミン化合物の使用量を0.5mol以上とすることにより、二官能フェノール化合物を残存することなく十分に反応させて、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂を更に高分子量化させることができる。
【0049】
本実施の形態のベンゾオキサジン環を有する硬化性樹脂の製造においては、アルデヒド化合物を用いる。アルデヒド化合物としては、特に限定されないが、ホルムアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒドとしては、その重合体であるパラホルムアルデヒド(PFA)や、水溶液であるホルマリン等の形態で使用することができる。また、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドとアルコール類を反応させることで得られる、ヘミアセタールとして使用することも可能である。その際のアルコールとしては特に限定されないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、留去のしやすさという観点からメタノールが好ましい。アルコールは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
アルデヒド化合物の使用量は、特に限定されないが、全ジアミン化合物1molに対して、4mol〜7molであることが好ましい。アルデヒド化合物の使用量を7mol以下とすることにより、人体及び環境への影響を低減できる。アルデヒド化合物の使用量を4mol以上とすることにより、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂を更に高分子量化させることができる。
【0051】
ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の製造方法においては、上述した二官能フェノール化合物と共に単官能フェノール化合物を更に添加して反応させてもよい。単官能フェノール化合物を併用した場合、反応性末端がベンゾオキサジン環で封止された重合体が生成されることになる。その結果、合成反応中において重合体の分子量を制御でき、溶液のゲル化を効果的に防止できる。また、重合体の反応性末端を封止することで、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の保存安定性を向上させることもできる。その結果、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の不溶化を効果的に防止することができる。
【0052】
単官能フェノール化合物としては、特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ドデシルフェノール、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、m−エトキシフェノール、p−エトキシフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール等が挙げられる。単官能フェノール化合物としては、汎用性及びコストの観点からフェノールが好ましい。単官能フェノール化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
単官能フェノール化合物の使用量は、全二官能フェノール化合物1molに対して0.5mol以下が好ましい。単官能フェノール化合物の使用量が全二官能フェノール化合物1molに対して0.5mol以下とすることにより、合成反応中においてベンゾオキサジン環構造を有する熱硬化性樹脂をより高分子量化させることができるとともに、単官能フェノール化合物を十分に反応させることにより、単官能フェノール化合物の残存量を減少させることができる。
【0054】
本実施の形態のベンゾオキサジン環を有する硬化性樹脂の製造に用いる溶媒としては、公知の溶媒を用いることができる。例えば、γ−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、3−メチルオクタノ−4−ラクトン、4−ヒドロキシ−3−ペンテン酸γ−ラクトン等の環状エステル又はラクトン溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メトキシエタノール、及び2−エトキシエタノール等のアルコール溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、プソイドキュメン、メシチレン等の芳香族系非極性溶媒が挙げられる。これらの中でも、原料の溶媒への溶解性に優れ、合成反応を効率的に進行させることができるという観点から、環状エステル又はラクトン溶媒が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
本実施の形態において、溶媒の量は、二官能フェノール化合物の合計mol濃度が0.1mol/L〜5.0mol/Lとなる量であることが好ましい。二官能フェノール化合物のmol濃度を0.1mol/L以上とすることにより、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の合成反応速度をより促進させることができ、反応効率を上昇させることができる。二官能フェノール化合物のmol濃度を5.0mol/L以下とすることにより、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の合成反応時に、反応溶液のゲル化を効果的に抑制できるとともに、得られるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の不溶化を防止できる。
【0056】
本実施の形態に係るベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の製造方法において、原料を添加混合する順序は特に限定されず、例えば、二官能フェノール化合物、ジアミン化合物及びアルデヒド化合物を順に溶媒に添加し混合してもよいが、二官能フェノール化合物と、ジアミン化合物と、溶媒と、を添加し混合して混合溶液とした後、この混合溶液にアルデヒド化合物を添加し混合することが好ましい。すなわち、本実施の形態に係る製造方法は、二官能フェノール化合物と、ジアミン化合物と、溶媒と、を混合させて混合溶液とする工程と、前記混合溶液にアルデヒド化合物を更に添加し、反応させる工程と、を含んでいてもよい。
【0057】
本実施の形態に係る製造方法において、反応効率を向上させる観点から、加熱してもよいし、適宜、撹拌機、撹拌子等を使用して溶媒の撹拌下、二官能フェノール化合物等を添加混合してもよい。反応は、必要に応じて、窒素ガス等の不活性ガスをパージし、不活性ガスの存在下で行ってもよい。
【0058】
加熱の方法は、特に限定されないが、例えば、スチームや油浴等の温度調節器を用いて、所定の温度まで一気に上昇させた後に、その温度で一定に保つ方法が挙げられる。
【0059】
加温処理の際の所定の温度は、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の合成反応の効率化が図られる温度であれば、特に限定されないが、反応溶液温度が10〜150℃の範囲となるように調節することが好ましく、30〜130℃程度の範囲がより好ましい。反応溶液温度を10℃以上とすることにより、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の合成反応を効果的に促進させることができ、反応効率を更に上昇させることができる。反応溶液温度を150℃以下とすることにより、反応溶液のゲル化を効果的に抑制でき、得られるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の不溶化を効果的に防止できる。反応溶液の加熱を行っている間は、溶媒を還流させてもよい。
【0060】
本実施の形態に係る製造方法では、反応により生成する水を除く工程を更に含んでいてもよい。反応により生成する水を除くことで、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の合成反応時間を短縮させることが可能となり、反応の効率化を図ることができる。生成する水を除く方法は、特に限定されないが、反応溶液中の溶媒と共沸させる方法等が挙げられる。例えば、コック付きの等圧滴下ロートとジムロート冷却器の組み合わせや、ディーン・スターク装置等を用いることで生成する水を反応系から除くことができる。また、反応工程中に反応容器内を減圧にすることで、生成する水を系外へ除去してもよい。
【0061】
加熱の継続時間は、特に限定されないが、例えば、加熱開始後1時間〜20時間程度であることが好ましく、2〜15時間程度がより好ましい。加熱開始後1時間〜20時間加熱を継続させた後、反応溶液を、油浴等の温度調節器の接触から開放して放冷してもよいし、あるいは冷媒等を用いて冷却してもよい。
【0062】
本実施の形態に係る製造方法は、式(4)で表される化合物と、ジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を含む溶液を反応させる工程の後に、反応後の溶液を塩基性水溶液により洗浄する工程を、更に含むことが好ましい。洗浄工程を更に含むことにより、反応溶液から未反応の二官能フェノール化合物や単官能フェノール化合物を効率よく取り除くことができる。
【0063】
塩基性水溶液としては、塩基性化合物を水に溶解させた水溶液であればよく、特に限定されない。塩基性化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0064】
洗浄工程において塩基性水溶液で上記反応溶液を洗浄した後、蒸留水等で更に洗浄することが好ましい。例えば、蒸留水により数回洗浄することにより、ナトリウムイオン等の塩基性水溶液由来のイオンを効果的に取り除くことができる。
【0065】
ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂を反応溶液から回収する方法は、特に限定されず、例えば、貧溶媒による再沈法、濃縮固化法(溶媒減圧留去)、スプレードライ法等が挙げられる。また、必要に応じて、前処理として、反応後に反応溶液のろ過を行ってもよい。
【0066】
本実施の形態により得られるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、高分子量化されており、この熱硬化性樹脂を加熱すること等により開環反応を促進させることができ、硬化体とすることができる。本実施の形態に係る熱硬化性樹脂を加熱成形してフィルム等の最終製品とした場合、耐熱性や可とう性等の物性の向上が期待できる。
【0067】
本実施の形態に係るベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られるポリエチレングリコール換算値での重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1000〜300000であり、より好ましくは2000〜200000である。ここで、「高分子量化されたベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂」とは、プレポリマータイプのベンゾオキサジン樹脂、すなわち、繰り返し単位中にベンゾオキサジン環を有する構造の熱硬化性樹脂を指し、その重量平均分子量が1000〜300000程度に制御されていることを意味する。
【0068】
熱硬化性樹脂の重量平均分子量を1000以上とすることで、その後の開環反応により得られる最終製品の耐熱性及び可とう性を上昇させることができる。さらに、本実施の形態に係る製造方法において製造されたベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の回収作業性を上昇させることができ、収率を向上させることができる。重量平均分子量を300000以下とすることで、合成後に得られるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の各種有機溶媒へ溶解性を確保することができる。
【0069】
本実施の形態において、得られる熱硬化性樹脂の重量平均分子量を制御する方法としては、例えば、合成反応中に、反応溶液の一部を採取し、その溶液に溶解している熱硬化性樹脂の分子量をGPCにより測定することで、熱硬化性樹脂の重量平均分子量を制御する方法が挙げられる。
【0070】
ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、ハロゲン原子を構造中に有さないものとすることができ、不純物としてハロゲン化合物を含まない溶媒を用いて製造することもできるため、ハロゲン化合物を実質的に含有しない、熱硬化性樹脂とすることもできる。
【0071】
ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂は、必要に応じて、硬化促進剤、難燃剤、無機充填材、離型剤、接着性付与剤、界面活性剤、着色剤、カップリング剤、レベリング剤、その他の熱硬化性樹脂等を添加して、熱硬化性樹脂組成物とすることができる。ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂組成物は、上記した溶媒を更に含んでいてもよい。ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂組成物は、従来公知の方法により成形又は硬化させることにより、積層板や半導体封止材等のエレクトロニクス材料、摩擦材や砥石等の結合材として好適に用いることができる。
【0072】
硬化促進剤としては特に限定されないが、フェノール化合物が挙げられる。フェノール化合物は、単官能フェノールであってもよいし、二官能フェノールであってもよい。
【0073】
フェノール化合物が単官能フェノール化合物である場合、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ドデシルフェノール、o−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、m−エトキシフェノール、p−エトキシフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール等が挙げられる。
【0074】
フェノール化合物が二官能フェノール化合物である場合、例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(ビスフェノールM)、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール(ビスフェノールP)、4,4’−メチレンジフェノール(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ビフェノール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ベンゼンジオール(ヒドロキノン)、1,3−ベンゼンジオール(レゾルシノール)、1,2−ベンゼンジオール(カテコール)、2,2’−エチレンジオキシジフェノール、3,3’−エチレンジオキシジフェノール等が挙げられる。これらのフェノ−ル化合物は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
無機充填剤としては、特に制限なく種々の無機充填剤を用いることができる。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、又はこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。無機充填剤はこれらを1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
その他の熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、シアネート樹脂やエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0077】
シアネート樹脂としては特に限定されないが、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0078】
エポキシ樹脂としては特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノール・ビフェニレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノトリアジン型エポキシ樹脂およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0079】
その他の熱硬化性樹脂は、これらを1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
本実施の形態に係るベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂、該熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を、従来公知の方法により成形又は硬化して得られる成形体又は硬化体は、電子部品・電子機器及びその材料として、多層基板、積層板、封止剤、接着剤等の用途に好適である。
【0081】
本実施の形態の成形体は、上述した熱硬化性樹脂組成物を、必要により部分硬化させて、若しくは硬化させずに得られる成形体である。すなわち、本実施の形態の熱硬化性樹脂組成物は、成形体とすることもできるし、硬化体とすることもできる。本実施の形態の硬化体としては、前述したベンゾオキサジン構造を有する熱硬化性樹脂が硬化前にも成形性を有しているため、いったん硬化前に成形した後に熱をかけて硬化させたもの(硬化成形体)でも、成形と同時に硬化させたもの(硬化体)でもよい。また、その寸法や形状は特に制限されず、例えばフィルム状、シート状(板状)、ブロック状等が挙げられ、さらに他の部位(例えば粘着層)を備えていてもよい。
【0082】
硬化方法としては、特に限定されず、従来公知の任意の硬化方法を用いることができ、一般には120〜260℃程度で数時間加熱すればよいが、加熱温度がより低かったり、加熱時間が不足したりすると、場合によっては、硬化が不十分となって機械的強度が不足することがある。また、加熱温度がより高すぎたり、加熱時間が長すぎたりすると、場合によっては、分解等の副反応が生じて機械的強度が不都合に低下することがある。よって、本実施の形態の熱硬化性樹脂組成物の特性に応じた適正な条件を選択することが好ましい。
【0083】
本実施の形態の電子機器は、上述したベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂組成物、成形体、及び硬化体のいずれか一つを含む。特に、成形体や硬化体等は、電子部品・電子機器及びその材料として、特に優れた寸法安定性が要求される多層基板、積層板、封止剤、接着剤等の用途に好適に用いることができる。
【0084】
電子機器としては、例えば、携帯電話、表示機器、車載機器、コンピュータ、通信機器等が挙げられる。その他、航空機部材、自動車部材、建築部材等にも使用でき、導電材料、特に金属フィラーの耐熱性結着剤として利用して直流又は交流の電流を流すことができる回路を形成する用途に用いてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、本実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例に用いた測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0086】
〔重量平均分子量(Mw)の測定〕
高速液体クロマトグラフシステム(島津製作所社製)
システムコントローラー:SCL−10A VP
送液ユニット:LC−10AD
VPデガッサー:DGU−12A
示差屈折計(RI)検出器:RID−10A
オートインジェクター:SIL−10AD VP
カラムオーブン:CTO−10AS VP
カラム:SHODEX KD803(排除限界分子量70000)×2(直列)
カラム温度:50℃
流量:1mL/分
溶離液:ジメチルホルムアミド(DMF;和光純薬工業社製、安定剤不含、HPLC用。LiBr(臭化リチウム) 10mmol/L含有)
サンプル:0.1質量%
上記測定条件により、Mwが、それぞれ、20000、14000、10000、8000、6000、4000、3000、2000、1500、1000、900、600、400、300、200の標準ポリエチレングリコール(純正化学社製)により検量線を作成した。
標準ポリエチレングリコール換算により、GPC測定により得られたポリエチレングリコール換算値での重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0087】
1H−NMRの測定〕
下記測定装置、溶媒を用いて、サンプル濃度2質量%で測定を行った。
測定装置:JEOL製、ECX400(400MHz)
溶媒:TMS(テトラメチルシラン)を0.05体積%含有する重DMSO(ジメチルスルホキシド;シグマアルドリッチ社製)
【0088】
〔熱線膨張率(CTE)の測定〕
SIIナノテクノロジー社製「TMA/SS6100」を用い、引っ張りモードで、窒素雰囲気下で、荷重30mN、昇温速度5℃/分で測定し、25℃から150℃の熱線膨張率(CTE)の平均値(ppm/℃)を求めた。測定サンプルは、得られたフィルムを幅4mm、長さ20mmにカットし、チャック間の距離が10mmとなるようにセットした。
【0089】
〔製造例1〕
(イミド骨格含有の二官能フェノールの合成)
室温において、コック付きの等圧滴下ロート及びジムロート冷却器がセットされた500mLのフラスコ内に、N-メチルピロリドン200mL(和光純薬工業社製)、トルエン190mL(和光純薬工業社製)、γ−バレロラクトン 2.72g(0.027mol、和光純薬工業社製)、ピリジン 4.31g(0.054mol、和光純薬工業社製)、無水ピロメリット酸 59.41g(0.27mol、和光純薬工業社製)、4−アミノ−m−クレゾール 67.10g(0.54mol、和光純薬工業社製)を投入し、系内へ窒素ガスパージを開始した(流量100mL/分)。前記フラスコを油浴に浸し、還流させながら3時間反応させた。反応中、生成した水はトルエンと共沸させることで、系外へ除去した。得られた反応溶液を室温まで冷却し、ろ過した後、1Lのメタノール中に注ぎ入れ、生成物を沈殿析出させた。析出した沈殿固体を減圧乾燥し、イミド骨格含有の二官能フェノールを得た。得られたイミド骨格含有の二官能フェノールの1H−NMRスペクトルを図1に示す。
【0090】
〔実施例1〕
(熱硬化性樹脂Aの製造)
室温において、300mLのフラスコ内に、γ−ブチロラクトン 200mL(和光純薬工業社製)、製造例1の二官能フェノール 5.19g(0.012mol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン 18.36g(0.084mol、和光純薬工業社製)、ビスフェノールA 5.48g(0.024mol、日本ジーイープラスチックス社製)、フェノール 0.91g(0.0096mol、和光純薬工業社製)、p−フェニレンジアミン 13.50g(0.125mol、大新化成工業社製、製品名「パラミン」)を入れ、系内へ窒素ガスパージを開始した(流量100mL/分)。前記フラスコを油浴に浸し、目視で原料の溶解を確認した後、パラホルムアルデヒド 19.63g(0.599mol、三菱ガス化学社製、純度91.60%)を、前記フラスコ内に添加し、反応溶液温度102℃で4時間反応させた。このようにして得られた反応溶液を室温まで冷却し、ろ過した後、1Lのメタノール中に注ぎ入れ、生成物を沈殿析出させた。析出した沈殿固体を減圧乾燥し、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂Aを得た。得られたベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた重量平均分子量(Mw)は約6000であった。熱硬化性樹脂Aの1H−NMRスペクトルを図2に示す。
【0091】
〔製造例2〕
コック付きの等圧滴下ロート及びジムロート冷却器がセットされた500mLのフラスコ内に、トルエン 190mL(和光純薬工業社製)、イソブタノール 10mL(和光純薬工業社製)、ビスフェノールA 27.4g(0.12mol、日本ジーイープラスチックス社製)、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン 51.3g(0.125mol、和歌山精化工業社製、製品名「BAPP」)、フェノール 0.91g(0.0096mol)を入れ、系内へ窒素ガスパージを開始した(流量50mL/分)。前記フラスコを油浴に浸し、目視で原料の溶解を確認した後、パラホルムアルデヒド 19.63g(0.599mol、三菱ガス化学社製、純度91.60%)を、前記フラスコ内に添加し、還流させて2時間反応させた。その後、反応中に生成した水を、トルエン、イソブタノールと共沸させることで系外に留去しながら反応させた。留去開始後、6時間還流を行った。このようにして得られた反応溶液を室温まで冷却し、ろ過した後、1Lのメタノール中に注ぎ入れ、生成物を沈殿析出させた。析出した沈殿固体を減圧乾燥することで、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂Bを得た。得られたベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の重量平均分子量は約16000であった。
【0092】
(硬化物の製造)
〔実施例2〕
ガラス容器中で、ジメチルホルムアミド 4.5gに、実施例1で作製した熱硬化性樹脂Aを10g溶解させ、赤色の粘調液を得た。この粘調液を、ポリイミド(PI)フィルム上にアプリケータを用いて塗工し、80℃で10分、150℃で10分、180℃で30分、210℃で10分、240℃で60分それぞれ保持し、オーブン中で熱硬化させた。この熱硬化により、フィルム状の硬化物(フィルムA)が得られた。この硬化物は赤色透明であり、厚さは35μmであった。フィルムAの熱線膨張率の平均値は、42ppm/℃であった。
【0093】
〔実施例3〕
ガラス容器中で、シリカスラリー 8.3g(アドマテックス社製、スラリー組成 エポキシシラン 60質量%、ジメチルホルムアミド 20質量%、メチルエチルケトン 20質量%)、ジメチルホルムアミド 2g、実施例1で作製した熱硬化性樹脂A 10gを混合し、赤色の粘調液を得た。この粘調液を、PIフィルム上にアプリケータを用いて塗工し、80℃で10分、150℃で10分、180℃で30分、210℃で10分、240℃で60分それぞれ保持し、オーブン中で熱硬化させた。この熱硬化により、フィルム状の硬化物(フィルムA’)が得られた。この硬化物は赤色であり、厚さは42μmであった。フィルムA’の熱線膨張率の平均値は、20ppm/℃であった。
【0094】
〔比較例1〕
ガラス容器中で、ジメチルホルムアミド 5gに、製造例2で作製した熱硬化性樹脂Bを5g溶解させ、黄色の粘調液を得た。この粘調液を、PIフィルム上にアプリケータを用いて塗工し、80℃で10分、100℃で10分、150℃で10分、180℃で30分、200℃で30分、220℃で30分、240℃で60分それぞれ保持し、オーブン中で熱硬化させた。この熱硬化により、フィルム状の硬化物(フィルムB)が得られた。この硬化物は黄色透明であり、厚さは51μmであった。フィルムBの熱線膨張率の平均値は、58ppm/℃であった。
【0095】
以上より、本実施例の熱硬化性樹脂フィルムは、熱線膨張率の低減化が図られており、寸法安定性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係るベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂組成物、その成形体、及び硬化体は、積層板や半導体封止材等のエレクトロニクス材料、摩擦材や砥石等の結合材の分野において産業上の利用可能性を有し、更には各種電子機器としても好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を含む、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
【化1】

(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表し、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表し、nは、1〜500の整数を表す。なお、*は、結合部位を表す。)
【請求項2】
前記R1は、下記式(2)で表される構造であり、
前記R2及び前記R3は、メチル基であり、
前記R4は、下記式(3)で表される構造である、請求項1に記載のベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
【化2】

(式中、*は、結合部位を表す。)
【化3】

(式中、*は、結合部位を表す。)
【請求項3】
下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表されるジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を少なくとも反応させることにより得られるベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂。
【化4】

(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。)
【化5】

(式中、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。)
【請求項4】
下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表されるジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を少なくとも反応させる工程を含む、ベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂の製造方法。
【化6】

(式中、R1は、4価の有機基を表し、R2及びR3は、各々独立して、水素又は炭素数1〜20の有機基を表す。)
【化7】

(式中、R4は、炭素数1〜20の、ヘテロ元素を含んでいてもよい、直鎖、分岐、若しくは環状の構造を持つ脂肪族、又は芳香族の有機基を表す。)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂、又は請求項4に記載の製造方法により得られる熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂、請求項4に記載の製造方法により得られる熱硬化性樹脂、又は請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物を成形し得られる成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体を硬化させて得られる硬化体。
【請求項8】
請求項6に記載の成形体、又は請求項7に記載の硬化体を含む電子機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−207995(P2011−207995A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76295(P2010−76295)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】