説明

熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、電子回路基板用樹脂組成物、これを用いた電子回路基板、及びシアン酸エステル化合物

【課題】 耐熱性と高周波領域とくにギガヘルツ帯での誘電特性に優れたシアン酸エステル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、該組成物を用いた電子回路基板用樹脂組成物、これをマトリックス樹脂として用いた電子回路基板、及び新規シアン酸エステル化合物を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるシアン酸エステル化合物、及びこれを含有する熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、及び該組成物を用いた電子回路基板用樹脂組成物、これをマトリックス樹脂として用いた電子回路基板。〔式中,Rは置換基を有していてもよいアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。〕。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性と誘電特性が求められる電子回路基板用のマトリックス樹脂、半導体封止材料、樹脂注型材料、接着剤、ビルドアップ基板用層間絶縁材料、絶縁塗料等のコーティング材料等の原料として好適に用いることができる、熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、電子回路基板用樹脂組成物、該組成物をマトリックス樹脂として用いた電子回路基板、及び新規シアン酸エステル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子工業や通信、コンピューターなどの分野において使用される周波数はギガヘルツ帯のような高周波領域になりつつある。このような高周波領域で用いられる電気用積層板などの絶縁層には低誘電率、低誘電正接の材料が求められている。このため各種の低誘電率、低誘電正接樹脂が開発されてきた。中でもシアン酸エステル化合物は熱硬化性樹脂として、硬化後の耐熱性と誘電率、誘電正接の誘電特性が優れている。
代表的なシアン酸エステル化合物としては、2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)誘導体であるビスフェノールA型シアン酸エステル化合物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、該化合物を含む従来のシアン酸エステル樹脂組成物では、一般に電子回路基板のマトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂組成物、ポリエステル樹脂組成物、フェノール樹脂組成物、ポリイミド樹脂組成物等に比べては、耐熱性と高周波領域とくにギガヘルツ帯での誘電特性のバランスに優れるものの、現在では一層優れる耐熱性と誘電特性が要求されており、満足されるレベルにはなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−69156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐熱性と高周波領域とくにギガヘルツ帯での誘電特性に優れたシアン酸エステル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、該組成物を用いた電子回路基板用樹脂組成物、これをマトリックス樹脂として用いた電子回路基板、及び新規シアン酸エステル化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はこの様な課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で表わされるシアン酸エステル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いた硬化物が、耐熱性と高周波領域とくにギガヘルツ帯での誘電特性に優れ、特に該熱硬化性樹脂組成物は電子回路基板用のマトリックス樹脂として好適に用いることができることを見出し、本発明を完成した。(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基である。)
【0006】
【化1】

【0007】
すなわち、本発明は前記一般式(1)で表されるシアン酸エステル化合物、及びこれを含有する熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、及び該組成物を用いた電子回路基板用樹脂組成物、これをマトリックス樹脂として用いた電子回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性と、高周波領域とくにギガヘルツ帯での誘電特性に優れたシアン酸エステル化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、該組成物を用いた電子回路基板用樹脂組成物、これをマトリックス樹脂として用いた電子回路基板、及び新規シアン酸エステル化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のシアン酸エステル化合物は、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物である。該シアン酸エステル化合物としては、該構造式に該当するものであれば特に制限されるものではないが、例えば下記構造式(2)〜(4)で表されるものなどが挙げられる。
【0010】
【化2】

【0011】
これらの中でも前記一般式(2)で表されるような置換基Rがメチル基であるものが、耐熱性と電気特性のバランスに優れることから特に好ましい。
【0012】
該シアン酸エステル化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、目的とするシアン酸エステル化合物のシアン酸エステル基がヒドロキシ基で置き換わった下記一般式(5)で表される特定の構造を有する置換ビフェノール類と、ハロゲン化シアン化合物などのシアン酸エステル前駆物質とを反応させて得られる。(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基である。)
【0013】
【化3】

【0014】
前記一般式(2)で表される置換ビフェノール類の製造方法等は特に限定されるものではないが,例示するならば,2,6−ジアルコキシフェノール類の2量化カップリング反応が挙げられる。この2量化カップリング反応に関しても,特に方法は限定されるものではなく,例えば,金属系触媒を用いた酸化カップリング反応や,酵素反応を用いた酸化カップリング反応がある。金属系触媒を用いた酸化カップリング反応が一般的であるが,酵素反応を用いた酸化カップリング反応は金属系触媒を用いた酸化カップリング反応に比較して,反応速度が極めて速く,副生成物が少ないという経済的な利点が大きい。
【0015】
酵素反応を用いた酸化カップリング反応の方法を詳しく述べると,水性媒質中で、2,6−アルコキシフェノール類と、マンガンペルオキシダーゼと、酸化剤と、二価のマンガンイオン(Mn2+)とを反応させてジアルコキシキノン2量体を含む第一生成物を得る第一工程と、前記第一工程に引き続いて該第一生成物に還元剤を添加する第二工程を経ることにより合成できる。具体的には、例えば、マンガンペルオキシダーゼと、2,6−ジアルコキシフェノール類と、硫酸マンガンなどのマンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物とを、水やpH緩衝液、またはpH緩衝液と有機溶媒の混合溶液などの水性媒質中に溶解あるいは分散させた反応液を調製し、室温条件下で該反応液に過酸化水素などの酸化剤を添加する第一工程(マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素が挙げられ、マンガンペルオキシダーゼの中でも、「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1992年、第267巻、第33号の「MATERIALS AND METHODS」の項に記載されている、担子菌であるファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から単離精製されたマンガンペルオキシダーゼが、ジアルコキシフェノールから後述のジアルコキシキノン2量体を生成する反応の反応触媒活性が高いため好ましい)と、これら第一工程に引き続いて、第一工程で得られた第一生成物に水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を添加する第二工程を経ることにより、2,6−ジアルコキシキノン類の2量体が第二工程で還元されて2,6−ジアルコキシフェノール類の2量体を合成することができる。
【0016】
次いで、該シアン酸エステル化合物の製造方法を更に詳細に説明する。例えば、該置換ビフェノール類と、ハロゲン化シアン化合物として、例えば臭化シアンをアセトン等の有機溶媒に溶解させて、それに−5℃〜15℃でトリエチルアミン等の脱ハロゲン化水素剤を加え、この際に生じた臭化水素酸塩を水洗等で除去した後、有機溶媒を留去して得られた生成物を再結晶などの方法で精製する方法が挙げられる。
【0017】
次に本発明の熱硬化性樹脂組成物を詳述する。この組成物には、本発明のシアン酸エステル化合物の単量体を単独で使用してもよいが、必要に応じて、該化合物以外に、該化合物中のシアン酸エステル基が環状3量化してトリアジン骨格(シアヌレート構造)を形成した、シアン酸エステルプレポリマーを併用してもよい。特に、熱硬化性樹脂組成物として後述の有機溶媒に溶解している場合、或いは後述のそれ以外の樹脂を併用している場合は、シアン酸エステルプレポリマーが混合されていることが好ましい。この場合のシアン酸エステル化合物の単量体とシアン酸エステルプレポリマーの混合比率は、混合物中の全シアン酸エステル基の5〜50モル%が環状3量化している様に混合することが、有機溶媒やそれ以外の樹脂との相溶性の面から好ましい。
【0018】
前記環状3量化の方法は特に限定されるものではないが、前記シアン酸エステル化合物の単量体を、例えば、100〜160℃で、必要に応じて有機溶媒を用い、触媒としてフェノール類或いはアミン化合物を用いて、0.5〜15時間反応させる。
【0019】
このシアン酸エステル化合物の単量体、或いはシアン酸エステルプレポリマーとしては、これを1種類で使用してもよく、2種類以上のシアン酸エステル化合物の単量体、及び/または、シアン酸エステルプレポリマーを混合使用しても良い。
【0020】
また本発明の熱硬化性樹脂組成物には、その他の樹脂として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、スピロピラン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイドなど熱可塑性樹脂の1種類以上の樹脂と混合して使用しても良い。これらの中でも、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の具体例としては、後述する樹脂が挙げられる。
【0021】
これらのその他の樹脂類を本発明の熱硬化性樹脂組成物に配合して使用する際の配合比に関しては特に限定されるものではないが、硬化を速める、または、プリプレグ用のマトリックス樹脂として使用し、プレスによって積層板を作製する際のプレス温度を下げる等の場合には、本発明の熱硬化性樹脂組成物100重量部に対して、その他の樹脂類を30重量部〜70重量部配合することが好ましい。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、例えば、170〜300℃で、必要に応じて触媒としてフェノール類或いはアミン化合物を用いて反応させることによって、硬化物を得ることができる。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の使用用途としては、積層板や電子回路基板等に用いられるプリプレグ等のマトリックス樹脂、その他高周波特性を必要とする注型材料、接着剤及び絶縁塗料等のコーティング材料等が挙げられ、これらの中でも、電子回路基板用のマトリックス樹脂に好適に用いることができる。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として使用する場合、該組成物とフェノール化合物、硬化触媒の混合物をこれらが可溶な溶媒に溶解したワニスを調製する。このワニスを通常の方法で基材に含浸し乾燥し半硬化させることによって、プリプレグを得る。
【0025】
前記硬化触媒としてはイミダゾール類、第3級アミン、有機金属化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機金属化合物が好ましく、例えばオクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛等が挙げられる。
【0026】
前記フェノール化合物は硬化促進の目的で用いられるが、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等の各種ビスフェノール類やノニルフェノール等が挙げられる。
【0027】
前記溶媒としては、熱硬化性樹脂組成物を溶解させられるものであれば特に限定されるものではないが、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類やトルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、エタノール、メタノール、iso−プロピルアルコール等のアルコール類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド等の単独あるいは混合溶媒が挙げられ、これらの中でも芳香族系溶媒およびアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が好ましい。
【0028】
前記基材としては繊維状物質からなる基材が好ましく、例えば、ガラスクロス、ガラス不織布などのガラス基材、クラフト紙、リンター紙などの紙基材、アラミド不織布、アラミド織布などの合成繊維基材の単体または複合が挙げられる。
【0029】
また必要に応じて、無機フィラーを混合しても良い。無機フィラーとしては、アルミナ、水酸化アルミ、クレー、タルク、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化チタン、溶融シリカ、ガラス粉、石英粉、シラスバルーン等を単独で混合しても良いし、2種類以上を混合使用してもよい。
【0030】
また本発明における熱硬化性樹脂組成物を加熱溶解させて前記基材に含浸させてプリプレグを作製することもできる。この際、前記フェノール化合物と前記硬化触媒を加熱溶解した樹脂に配合することもできる。
【0031】
前記の熱硬化性樹脂組成物を本発明の電子回路基板用樹脂組成物に調製する場合は、本発明のシアン酸エステル化合物を必須成分とし、好ましくは本発明のシアン酸エステル化合物と前記シアン酸エステルプレポリマーとを併用し、それ以外に必要に応じて、更にエポキシ樹脂、フェノール樹脂等を配合してもよい。また、前記プリプレグのマトリックス樹脂用として調製した熱硬化性樹脂組成物をそのまま本発明の電子回路基板用樹脂組成物として用いることもできる。この際の溶剤の使用量は、電子回路基板用樹脂組成物100重量部中で通常10〜70重量部、好ましくは15〜65重量部、特に好ましくは30〜65重量部を占める量を用いる。なお、前記電子回路基板としては、例えば、プリント配線基板、プリント回路板、フレキシブルプリント配線板、ビルドアップ配線板等が挙げられる。
【0032】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられ、これらの中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。またこれらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0033】
またフェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、フェノールトリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。またこれらのフェノール樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0034】
前記フェノール樹脂の中でも、特に耐熱性が優れる点では、例えば、フェノールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェノールトリメチロールメタン樹脂類が特に好ましく、耐湿性が優れる点では、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂が特に好ましく、難燃性が優れる点では、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂が特に好ましい。
【0035】
電子回路基板の作製手法は、様々な方法があり特に限定されるものではないが、例えば、(1)積層プレス法、(2)加圧連続製造法、(3)無圧連続製造法が挙げられる。これらのうち(1)及び(2)は、前記プリプレグのマトリックス樹脂として本発明の熱硬化性樹脂組成物を使用した方法と同様の手法でプリプレグを得た後、後述の方法で電子回路基板を得ることができる。
【0036】
前記の電子回路基板の作製方法を詳細に説明するならば、(1)積層プレス法は、熱硬化性樹脂組成物を含浸し、溶剤除去後、半硬化しプリプレグを通常の方法でプレス熱板間にセットして上下に金属箔を配して加熱加圧硬化させることによって両面金属張積層板を製造する。(2)加圧連続積層法は、紙管に連続的に巻取ったプリプレグと金属箔を用いることにより、積層板を得る。(3)無圧連続積層法は、連続的に繰り出される複数の基材に対して、加熱溶解した熱硬化性樹脂組成物を連続的に含浸した後、これらの含浸基材を金属箔と連続的に積層し、硬化させることによって金属張積層板を得る。
【0037】
また本発明の熱硬化性樹脂組成物を接着剤や塗料等のコーティング材料として使用する場合は、該組成物を溶融してコーティングしても良いし、該組成物を前記溶剤に溶解したものを通常の方法でコーティングした後、溶剤を乾燥除去させ硬化させても良い。この際、必要に応じて、前記硬化触媒を使用してもよい。また、前記の無機フィラー等を混合しても良い。
【実施例】
【0038】
以下本発明の実施例について説明する。
【0039】
合成例1 〔テトラメトキシビフェノールの合成〕
以下、単位「M」は「mol/L」を示す。
反応器中で、50mM、pH4.5のマロン酸バッファ(Malonate Buffer)に、マンガンペルオキシダーゼ(*1)の最終濃度が5μM、2,6‐ジメトキシフェノールの終濃度が0.1Mとなるように添加して、反応液を調製した。さらに、硫酸マンガンを終濃度0.5Mとなるように添加した。さらに、酸化剤として過酸化水素を、終濃度0.05Mとなるように添加し、温度25℃の条件で保持し、経時的に吸光度(*2)を測定した。吸光度の最大が確認された、過酸化水素の添加から5分後に、還元剤を添加した。温度25℃の条件に制御して30秒経過後、下記構造式(A−1)で表されるテトラメトキシビフェノール(A−1)160gを得た。得られた化合物の水酸基当量は154g/eq、融点(DSC法)は192℃であった。マススペクトルを測定したところM=306が確認された。GPCチャートを図1に、C13−NMRチャートを図2に示す。
【0040】
【化4】

【0041】
前記マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から得られたマンガンペルオキシダーゼを用いた。このマンガンペルオキシダーゼの調製方法は以下の通りとした。
【0042】
白色腐朽菌ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)ATCC34541を、Kirk液体培地(組成を表1に示す)で37℃にて培養した。培養は2L三角フラスコ中で上記した培地1Lにて培養し、37℃で3日間培養後、100%酸素をパージし、その後毎日一回酸素パージを行った。所定時間培養した後、培養液を吸引濾過して培養濾液を得、得られた培養濾液を粗酵素溶液とした。粗酵素溶液のpHを7.2に調整後、pH7.2のリン酸緩衝液にて膨潤後カラムに充填されたDEAE Sepharose(DEAE−セファロース)にチャージした。カラム中に充填されたDEAE Sepharoseに吸着されたマンガンペルオキシダーゼを、pH6.0のリン酸緩衝液にて流出させ、回収した。
【0043】
【表1】

【0044】
前記吸光度測定条件:2,6−ジメトキシキノン2量体(2,2’,6,6’−テトラメトキシキノン)の最大吸収波長(469nm)における吸光度を、日立社製吸光光度計「HITACHI U‐3000 spectrophotometer」を用いて測定した。
【0045】
合成例2 〔テトラエトキシビフェノール(A−2)の合成〕
合成例1の2、6‐ジメトキシフェノールを2、6−ジエトキシフェノールに変更する以外は、合成例1と同様の操作で、下記構造式(A−2)で表されるテトラエトキシビフェノール160gを得た。得られた化合物の水酸基当量は181g/eq、融点(DSC法)は151℃であった。マススペクトルを測定したところM+=362が確認された。
【0046】
【化5】

【0047】
実施例1 〔シアン酸エステル(B−1)の合成〕
滴下ロート、温度計、攪拌装置、加熱装置、冷却還流管を取り付けた4つ口フラスコに窒素ガスを流しながら、臭化シアン106g(1.0モル)と合成例1で合成したビスフェノール化合物(A−1)153g(0.5モル)を仕込みアセトン1000gに溶解させた後、−3℃に冷却した。次に、トリエチルアミン111g(1.1モル)を滴下ロートに仕込み、攪拌しながらフラスコ内温が10℃以上にならない様な速度で滴下した。滴下終了後、2時間10℃以下の温度下で攪拌し、生じた沈澱を濾過により除いた後、大量の水に注ぎ再沈した。これを塩化メチレンで抽出し、水洗することによりクルード物を得た。これを再結晶して純度96重量%(GPC)の化合物75gを得た。この化合物のIRスペクトルは2260cm−1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、かつ水酸基の吸収は示さず、またマススペクトルはM=356のピークを示したことから、下記の構造式で表される目的のシアン酸エステル化合物(B−1)であることが確認された。
【0048】
【化6】

【0049】
実施例2 〔シアン酸エステル(B−2)の合成〕
実施例1のビスフェノール化合物(A−1)をビスフェノール化合物(A−2)に変更する以外は、実施例1と同様の操作で、下記構造式で表されるシアン酸エステル(B−2)85gを得た。
【0050】
【化7】

【0051】
この化合物のIRスペクトルは2260cm−1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、かつ水酸基の吸収は示さず、またマススペクトルはM=412のピークを示したことから、下記の構造式で表される目的のシアン酸エステル化合物(B−2)であることが確認された。
【0052】
実施例3〜4及び比較例1
実施例1〜2で得られたシアン酸エステル化合物(B−1)、(B−2)と、比較としてビスフェノールA(BPA)型シアン酸エステル化合物(BPA−DCE)とを160℃で1時間加熱した後、これを金型に流し込んで200℃で2時間、250℃で3時間加熱硬化させて5mm厚のシアン酸エステル樹脂の硬化物を作製した。この硬化物を用いて、ガラス転移温度(DMA)と誘電特性(1GHz)を測定した結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例5〜6及び比較例2 (シアン酸エステルプレポリマーの合成とそれを用いた銅張積層板の作製と物性評価)
攪拌装置、加熱装置、冷却還流管が付いた4つ口フラスコに実施例1のシアン酸エステル化合物(B−1)300gとシクロヘキサンノン150gを仕込み、窒素ガスを流しながら、150℃で10時間加熱攪拌して、シアン酸エステル基が35モル%環状3量化して、トリアジン骨格を形成したシアン酸エステルプレポリマーを含有するワニスを合成した。該ワニス100重量部に対してオクチル酸亜鉛0.1重量部を加え、ガラスクロスに含浸し、100℃で5分間乾燥後、150℃で10分加熱処理して、樹脂含有率50重量%のプリプレグを得た。該プリプレグを7枚重ね、その両側に厚さ18μmの電解銅箔2枚を置き、加熱プレス機にはさんで加熱加圧し、1.6mm厚の両面銅張積層板を得た。この時のプレス条件は180℃で2時間、圧力は20kg/cm であった。この積層板を220℃で2時間アフターキュアした後、銅箔をエッチングにより取り除いて積層板物性測定用のサンプルを作製した。
【0055】
同様にしてシアン酸エステル化合物(B−2)及びビスフェノールA型シアン酸エステル化合物を用いたシアン酸エステルプレポリマーを含有するワニスを合成し、それらを用いた両面銅張積層板を作製した。表2にガラス転移温度(DMA)と誘電特性(1GHz)の値を示す。
【0056】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】合成例1ので得られた構造式(A−1)のGPCチャートである。
【図2】合成例1ので得られた構造式(A−1)の13C−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるシアン酸エステル化合物。(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基である。)
【化1】

【請求項2】
がメチル基であることを特徴とする請求項1記載のシアン酸エステル化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシアン酸エステル化合物を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、請求項1または2に記載のシアン酸エステル化合物中のシアン酸エステル基が環状3量化してトリアジン骨格を形成したシアン酸エステルプレポリマーを含有するものである請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項6】
請求項3または4に記載の熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする電子回路基板用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6記載の電子回路基板用樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いた電子回路基板。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−56059(P2007−56059A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239692(P2005−239692)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】