説明

熱硬化性樹脂組成物とその製造方法、摩擦材バインダーおよび摩擦材

【課題】高温・高負荷の摩擦においても酸化分解されにくい熱硬化性樹脂組成物とその製造方法、摩擦材用バインダー、および摩擦材を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物とその製造方法、該熱硬化性樹脂組成物からなる摩擦材用バインダー、および上記熱硬化性樹脂組成物を含む摩擦材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物とその製造方法、摩擦材バインダーおよび摩擦材に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、高温・高負荷の摩擦においても酸化分解されにくい熱硬化性樹脂組成物とその製造方法、該熱硬化性樹脂組成物からなる摩擦材用バインダー、および上記熱硬化性樹脂組成物を含む摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、自動車部品の軽量化・小型化の要求は、車両の燃費向上や原材料の高騰といったマクロ環境を受けて高まっており、ブレーキ部品においてはブレーキディスクの小径化に伴い摩擦材にかかる熱的、機械的負担が大きくなっている。以上の現状から、摩擦材の耐熱性、耐摩耗性を向上させることが求められている。
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1に記載されたように、フェノール樹脂をバインダーとする摩擦材組成物は、バインダーであるフェノール樹脂が600℃付近で急激に酸化分解を起こし消失する為に、高温・高負荷の摩擦では急激に摩擦材の摩耗量が増大するという課題があり、解決が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2008−174705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、高温・高負荷の摩擦においても酸化分解されにくい熱硬化性樹脂組成物とその製造方法、該熱硬化性樹脂組成物からなる摩擦材用バインダー、および上記熱硬化性樹脂組成物を含む摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に無機質セラミックスを混合してなる熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、上記目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物、
(2)熱硬化性樹脂がフェノール樹脂またはポリベンゾオキサジン樹脂である上記(1)項に記載の熱硬化性樹脂組成物、
(3)無機質セラミックスが、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む上記(1)または(2)項に記載の熱硬化性樹脂組成物、
(4)熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとの重量割合が、97:3〜50:50である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物、
(5)上記(1)〜(4)項のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法において、
熱硬化性樹脂またはその原料と、無機質セラミックスを含む溶液との混合物を加熱処理することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法、
(6)熱硬化性樹脂の原料がフェノール樹脂用原料またはポリベンゾオキサジン樹脂用原料である上記(5)項に記載の方法、
(7)無機質セラミックスを含む溶液が、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む溶液である上記(5)または(6)項に記載の製造方法、
(8)無機質セラミックスを含む溶液が、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物とともにホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む上記(5)〜(7)項のいずれかに記載の方法、
(9)上記(1)〜(4)項のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする摩擦材用バインダー、および
(10)上記(1)〜(4)項のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする摩擦材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温・高負荷の摩擦においても酸化分解されにくい熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0010】
また本発明によれば、該熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、耐熱性、耐摩耗性に優れた摩擦材用バインダー、および耐熱性、耐摩耗性に優れた摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.熱硬化性樹脂組成物
まず、本発明の熱硬化性樹脂組成物について説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と無機質セラミックスを含むことを特徴とするものである。
【0012】
必須成分である熱硬化性樹脂としては、高温で酸化分解を起こしやすい公知の熱硬化性樹脂の中から任意のものを適宜選択して用いることができるが、フェノール樹脂またはポリベンゾオキサジン樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0013】
フェノール樹脂としては、ノボラック型、レゾール型のいずれであってもよいが、レゾール型の場合、耐熱性が低い、貯蔵安定性が悪い等の観点から、ノボラック型が好ましい。
【0014】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒド類とを縮合反応させて得られるものである。
【0015】
原料のフェノール類としては、フェノール、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−アミノフェノール、p−フェニルフェノール等の1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、4,4’−イソプロピリデンジフェノールまたは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等の2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物等の3価以上の多価フェノール類等が挙げられるが、フェノール、クレゾール、レゾルシノールを用いるのが好ましい。
【0016】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等が挙げられるが、パラホルムアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0017】
ノボラック型フェノール樹脂の場合、硬化剤としては、通常ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)が用いられるが、後記するポリベンゾオキサジン樹脂を併用する場合には、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化触媒を用いなくてもよい。
【0018】
ポリベンゾオキサジン樹脂は、フェノール類と1級アミン類とホルムアルデヒド類とを縮合反応させて得られるものである。
【0019】
原料のフェノール類としては、フェノール、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、p−アミノフェノール、p−フェニルフェノール等の1価フェノール類;カテコール、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)、4,4’−イソプロピリデンジフェノールまたは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等の2価フェノール類;トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物、フェノール樹脂等の3価以上の多価フェノール類等を挙げることができる。これらの中で、得られるポリベンゾオキサジン樹脂の性能の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールF、P−アミノフェノールを用いるのが好ましい。
【0020】
他の原料である、1級アミン類としては、脂肪族アミンおよび芳香族アミンが挙げられるが、脂肪族アミンであると、得られるポリベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性の劣るものとなるので、芳香族アミンが好ましい。芳香族アミンとしては、例えばアニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジン等を挙げることができる。これらの中で、アニリンを用いるのが特に好ましい。
【0021】
フェノール類としてP−アミノフェノールなどの1級アミノ基を含有するフェノール類を用いる場合には、これが1級アミン類を兼ねるので、1級アミノ類を用いなくともよい。
【0022】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等を挙げられるが、パラホルムアルデヒドを用いるのが特に好ましい。
【0023】
この縮合反応においては、全フェノール性水酸基1モルに対し、1級アミン類を0.75〜1.25モル程度、より好ましくは0.85〜1モルの割合で、前記1級アミン類1モルに対し、ホルムアルデヒド類を1.5〜2モル程度、より好ましくは1.7〜2モルの割合で反応させるのが好ましい。
【0024】
本発明において用いられる熱硬化性樹脂としては、上記フェノール樹脂およびポリベンゾオキサジン樹脂以外に、エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は各種エポキシ基含有化合物を各種硬化剤で架橋、硬化させて得られるものである。
【0025】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物においてもう一つの必須成分である無機質セラミックスとしては、熱硬化性樹脂と混合したときに熱硬化性樹脂に耐熱性、耐摩耗性を付与するものであればいかなる無機質セラミックスを用いることができるが、特に水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含むものを用いるのが好ましい。
【0026】
水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物は、例えば該反応物を水で希釈したアルカリ性溶液(A)または該アルカリ性溶液(A)にホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む酸性溶液を加えた中性溶液(B)から水分を除去して得られるものである。
【0027】
上記アルカリ性溶液(A)は、特開平10−306521号公報に記載されており、上記中性溶液(B)は特開2002−121424号公報に記載されている。また上記アルカリ性溶液(A)および中性溶液(B)は、(有)共栄工業所からセメスロスアルカリ性液およびセメスロス中性液として市販されており、これらをそのまま用いることができる。
【0028】
熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとの重量割合は、97:3〜50:50が好ましく、95:5〜70:30がより好ましく、95:5〜85:15がさらに好ましい。
【0029】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高温・高負荷時に酸化分解されやすいフェノール樹脂やポリベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂に無機質セラミックスを配合することにより、これを摩擦材のバインダーとして用いたときに、熱硬化性樹脂の酸化分解が抑制されて摩擦材の耐熱性、耐摩耗性が向上するという利点が得られる。
【0030】
2.熱硬化性樹脂組成物の製造方法
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂またはその原料と、無機質セラミックスを含む溶液との混合物を加熱処理することを特徴とするものである。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法において用いられる熱硬化性樹脂としては、上記したとおりフェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。また用いられる熱硬化性樹脂の原料とは、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、エポキシ樹脂等を得るための原料が挙げられる。
【0032】
上記の熱硬化性樹脂およびそれらの原料は、本発明の熱硬化性樹脂組成物の項で詳述したので、ここでの記載は省略する。
【0033】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法においては、上記の熱硬化性樹脂またはその原料と、無機質セラミックスを含む溶液との混合液を加熱処理する。
【0034】
無機質セラミックスを含む溶液としては、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む溶液を用いるのが好ましい。この溶液は上記のアルカリ性溶液(A)に相当し、アルカリ性であるが、この溶液にホウ砂、リン酸およびホウ酸を加えることにより中性液(上記の中性溶液(B)に相当)とし、これを用いることもできる。
【0035】
加熱処理は、無機質セラミックスを含む溶液から水分等の溶媒が蒸発して、予め製造されているか、またはその場で製造された熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとが均一に混合するように攪拌下に行われるのが好ましい。
加熱温度は、50℃〜120℃が好ましく、65℃〜100℃がより好ましい。
加熱時間は、1時間〜24時間が好ましく、6時間〜18時間がより好ましい。
【0036】
このように製造された熱硬化性樹脂組成物は、高温・高負荷の状態においても酸化分解が抑制され、次に述べる摩擦材用バインダーとして好適に用いられる。
【0037】
3.摩擦材用バインダー
次に本発明の摩擦材用バインダーについて説明する。
本発明の摩擦材用バインダーは、上記熱硬化性樹脂組成物からなることを特徴とするものであり、該熱硬化性樹脂組成物を適宜粉砕処理することにより、所望形状および所望サイズを有する本発明の摩擦材用バインダーを得ることができる。
【0038】
摩擦材用バインダーの粒径は、1μm〜100μmであることが好ましく、10μm〜50μmであることがより好ましく、10μm〜30μmであることがさらに好ましい。
【0039】
このように上記熱硬化性樹脂組成物を摩擦材用バインダーに用いることにより、摩擦材中の熱硬化性樹脂の酸化分解が抑制され、摩擦材の耐熱性、耐摩耗性を向上させることができる。
【0040】
4.摩擦材
次に本発明の摩擦材を説明する。
本発明の摩擦材は、上記熱硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とするものであり、通常、これとともに成形材料として、下記の繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材、フィラーを含むものである。
【0041】
(1)繊維状補強材
繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」等)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維等を挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト等の他、アルミナシリカ系繊維等のセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維等の金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(2)潤滑材、摩擦調整材、フィラー
潤滑材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素等を挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
また、摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄等の金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、黄銅、亜鉛、鉄等の金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッド等のゴムダストや、カシューダスト等有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
さらにフィラーとして、粘土鉱物を含有させることができる。この粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母等が挙げられる。また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム等を含有させることができる。
【0045】
本発明の摩擦材は、上記熱硬化性樹脂組成物を繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびフィラーとミキサーで混合後、得られた混合物を金型等に充填し、通常常温にて10〜50MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度130〜220℃、好ましくは150〜200℃、圧力20〜100MPa程度の条件で1〜10分間程度圧縮成形することにより、製造することができる。
【0046】
本発明によれば、熱硬化性樹脂の酸化分解を抑制することにより、耐熱性および耐摩耗性が向上し、特に高温・高負荷での摩耗量を低減し得る摩擦材を得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、熱硬化性樹脂組成物の耐熱性および摩擦材の耐摩耗性は、以下の方法により求めた。
【0048】
〈耐熱性〉
実施例および比較例の各樹脂組成物を、180℃で1時間、250℃で3時間加熱したのちに粉砕して測定試料(平均粒径100μm)を作製し、該測定試料を示差熱天秤(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、機種名[TG/DTA6300])を用いて、空気流量100ml、温度25℃〜800℃の条件で測定し、600℃の重量保持率を比較した。
【0049】
〈耐摩耗性〉
実施例および比較例の各樹脂組成物を用いて作製した摩擦材を、スケールタスタ摩擦試験機(曙エンジニアリング(株)製、機種名[慣性型1/10スケールテスタ])を用いて表1の条件で摩擦試験を行い、高温摩耗試験での平均摩擦係数と摩擦材摩耗量を測定し、比較した。
【0050】
【表1】

【0051】
[熱硬化性樹脂組成物の製造]
実施例1
(i)4つ口フラスコ中に、ポリベンゾオキサジン樹脂用原料であるp−アミノフェノール300gおよびパラホルムアルデヒド165gを加え、さらに溶媒であるテトラヒドロフラン900gを加えて還流下で12時間反応させ、反応溶液を得た。
【0052】
(ii)常温にした上記反応溶液に、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物からなる無機質セラミックスとともにホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む中性溶液((有)共栄工業所製、製品名[セメスロス中性液]。以下、セメスロス中性液という。)450gを加えて6時間攪拌した溶液を、真空オーブン中100℃で10時間減圧乾燥後、粉砕することにより、無機質セラミックスを含むポリベンゾオキサジン樹脂組成物Aを作製した。
【0053】
比較例1
実施例1(i)の工程を実施して反応溶液を得た後、実施例1(ii)の工程において、上記反応溶液にセメスロス中性液を加えずに、直ちに真空オープン中100℃で10時間減圧乾燥後、粉砕することにより、無機質セラミックスを含まないポリベンゾオキサジン樹脂組成物Bを作製した。
【0054】
実施例2
(i)4つ口フラスコ中に、ポリベンゾオキサジン樹脂用原料である4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)200g、アニリン163g、パラホルムアルデヒド105gを加え、さらに溶媒であるメチルエチルケトン200gを加えて40℃で1時間、50℃で1時間加熱攪拌した後、還流下で4時間反応させ反応溶液を得た。
【0055】
(ii)常温にした上記反応溶液にセメスロス中性液500gを加えて6時間攪拌した溶液を、真空オーブン中100℃で10時間減圧乾燥し、ポリベンゾオキサジン樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物490gにフェノール樹脂(カシュー(株)製2075)210gを混合・粉砕することにより、無機質セラミックスを含むポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物Cを作製した。
【0056】
比較例2
実施例2(i)の工程を実施して反応溶液を得た後、実施例2(ii)の工程において、上記反応溶液にセメスロス中性液を加えずに、直ちに真空オーブン中100℃で10時間減圧乾燥し、ポリベンゾオキサジン樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物420gにフェノール樹脂(カシュー(株)製2075)180gを混合・粉砕することにより、無機質セラミックスを含まないポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物Dを作製した。
【0057】
実施例3
4つ口フラスコ中で、フェノール樹脂(カシュー(株)製2075)500gを溶媒であるメチルエチルケトン500gに溶解した溶液に、セメスロス中性液500gを加えて6時間攪拌した溶液を、真空オーブン中100℃で10時間減圧乾燥し、フェノール樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物500gを硬化剤であるヘキサメチレンテトラミン50gと混合・粉砕することにより、無機質セラミックスを含むフェノール樹脂組成物Eを作製した。
【0058】
比較例3
フェノール樹脂(カシュー(株)製2075)500gとヘキサメチレンテトラミン50gを混合・粉砕することにより、無機質セラミックスを含まないフェノール樹脂組成物Fを作製した。
【0059】
[摩擦材の製造]
実施例4
表2に示す配合物をミキサーで混合後、混合物を予備成形型に投入し常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い予備成形体を得た。次いで、該予備成形体と予め接着剤を塗布したプレッシャプレートとを熱成形型にセットし、下記の条件で加熱圧縮成形を行い、摩擦材(100mm×50mm×15mm)を作製した。
【0060】
(成形条件)
(i)実施例1、2および比較例1、2
成形圧力:50MPa
成形温度×時間:180℃×300秒
(ii)実施例3および比較例3
成形圧力:50MPa
成形温度×時間:150℃×300秒
【0061】
各熱硬化性樹脂組成物の耐熱性の測定結果および各熱硬化性樹脂組成物を用いた摩擦材の耐摩耗性の測定結果を表2に示す。

【表2】

【0062】
(注)
熱硬化性樹脂組成物A:実施例1で得られた無機質セラミックスを含有する
ポリベンゾオキサジン樹脂組成物
熱硬化性樹脂組成物B:比較例1で得られた無機質セラミックスを含有しない
ポリベンゾオキサジン樹脂組成物

熱硬化性樹脂組成物C:実施例2で得られた無機質セラミックスを含有する
ポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物
熱硬化性樹脂組成物D:比較例2で得られた無機質セラミックスを含有しない
ポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物

熱硬化性樹脂組成物E:実施例3で得られた無機質セラミックスを含有する
フェノール樹脂組成物
熱硬化性樹脂組成物F:比較例3で得られた無機質セラミックスを含有しない
フェノール樹脂組成物

【0063】
表2より次のことが明らかになった。
(1)実施例1で得られたポリベンゾオキサジン樹脂組成物は、無機質セラミックスを含むことにより、比較例1で得られたポリベンゾオキサジン樹脂組成物に比べ、ポリベンゾオキサジン樹脂組成物単体の600℃での重量保持率が向上しており、耐熱性に優れていることがわかる。
【0064】
また実施例1で得られたポリベンゾオキサジン樹脂組成物を用いて作製した摩擦材は、比較例1で得られたポリベンゾオキサジン樹脂組成物を用いて作製した摩擦材と比べ、高負荷摩擦試験において摩耗量が減少していることが分かる。
【0065】
(2)実施例2で得られたポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物は、無機質セラミックスを含むことにより、比較例2で得られたポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物に比べ、ポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物単体の600℃での重量保持率が向上しており、耐熱性に優れていることがわかる。
【0066】
また、実施例2で得られたポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物を用いて作製した摩擦材は、比較例2で得られたポリベンゾオキサジン樹脂−フェノール樹脂組成物を用いて作製した摩擦材と比べ、高負荷摩擦試験において摩耗量が減少していることが分かる。
【0067】
(3)実施例3で得られたフェノール樹脂組成物は、無機質セラミックスを含むことにより、比較例3で得られたフェノール樹脂組成物に比べ、フェノール樹脂組成物単体の600℃での重量保持率が向上しており、耐熱性に優れていることがわかる。
【0068】
また、実施例3で得られたフェノール樹脂組成物を用いて作製した摩擦材は、比較例3で得られたフェノール樹脂組成物を用いて作製した摩擦材と比べ、高負荷摩擦試験において摩耗量が減少していることが分かる。

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高温・高負荷の摩擦においても酸化分解されにくく、該熱硬化性樹脂組成物からなる摩擦材用バインダーを用いて得られた摩擦材は、優れた耐熱性、耐摩耗性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂がフェノール樹脂またはポリベンゾオキサジン樹脂である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
無機質セラミックスが、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱硬化性樹脂と無機質セラミックスとの重量割合が、97:3〜50:50である請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法において、
熱硬化性樹脂またはその原料と、無機質セラミックスを含む溶液との混合物を加熱処理することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
熱硬化性樹脂の原料がフェノール樹脂用原料またはポリベンゾオキサジン樹脂用原料である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
無機質セラミックスを含む溶液が、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物を含む溶液である請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
無機質セラミックスを含む溶液が、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよびメタルシリコンと水との反応物とともにホウ砂、リン酸およびホウ酸を含む請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする摩擦材用バインダー。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする摩擦材。




【公開番号】特開2010−144034(P2010−144034A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322471(P2008−322471)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】