説明

熱硬化性樹脂組成物とその製造方法

【課題】 微粒無機充填材の配合による高い特性向上効果を有する熱硬化性樹脂組成物と、このような熱硬化性樹脂組成物を簡易に製造する方法とを提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの無機充填材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、上記無機充填材は、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物、及び、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に、上記無機充填材を添加混合することを特徴とする上記熱硬化性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は、硬化物の機械的特性、電気的特性が良好であり、軽量で耐久性にも優れるため、各種民生分野から産業機器分野に至るまで、多くの用途で用いられている。
熱硬化性樹脂は、硬化剤などを併用して樹脂成分のみで用いられることもあるが、樹脂とともに、有機充填材や無機充填材のような充填材のほか、可撓性付与剤などの添加剤を併用した熱硬化性樹脂組成物として、用途に応じて目的とする特性を向上させる試みが行われている。熱硬化性樹脂に各種充填材を配合する効果としては、例えば、繊維形状の充填材による機械的補強効果や、樹脂成分よりも高硬度である充填材による耐摩耗性向上効果などが挙げられる。
【0003】
このような組成物として、熱硬化性樹脂に、サブミクロン以下の大きさを有する無機充填材を配合したナノコンポジットと呼ばれるものがあり、硬化物の機械的強度や対擦傷性などの特性を向上できるものとして注目されている。
【0004】
このような微粒無機充填材を、熱硬化性樹脂と混合する方法としては、例えば、固形樹脂を熱溶融したものに微粒充填材を添加して混練したり、固形または液状の樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液とし、これに微粒充填材を添加して撹拌混合したりする方法が挙げられる。
しかし、微粒充填材は、その大きさが極めて小さいこと、凝集性を有することなどにより、樹脂成分中に均質分散させるのが難しいという問題があった。混合精度を高めるためには混練や撹拌に大きなエネルギーを与える必要があるが、高温下での混合あるいは長時間にわたる混合は、樹脂成分の変質や反応を促進することがあり、適用できる樹脂種が限定されるという問題もあった。
【0005】
これとは別に、フェノール樹脂の溶液中で、シリコンアルコキシドなどの金属アルコキシドを加水分解・重縮合させることにより、フェノール樹脂中に金属酸化物を均質に含有させたフェノール樹脂と金属酸化物との複合体を得る方法がある(例えば、特許文献1又は2参照。)。
この方法によれば、フェノール樹脂と金属酸化物とが相互作用を有しているため、均質混合性の高い複合体を得ることができる。しかし、シリカ、チタン、アルミニウムなど、限られた金属酸化物のみに適用することしかできず、また、複合体中の無機成分は、結合構造などにおいて既存の無機充填材、例えば溶融シリカなどとは性質が異なるものであった。
【0006】
このような背景から、特に無機充填材の種類に制限なく適用することができ、しかも、簡易な方法で熱硬化性樹脂中に微粒無機充填材を高精度に分散させることができる熱硬化性樹脂組成物の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開平08−259782号公報
【特許文献2】特開平09−328557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微粒無機充填材の配合による高い特性向上効果を有する熱硬化性樹脂組成物
と、このような熱硬化性樹脂組成物を簡易に製造する方法とを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、以下の本発明(1)〜(5)によって達成される。
(1)熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの無機充填材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、上記無機充填材は、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
(2)上記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及び、尿素樹脂から選ばれるものである上記(1)に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(3)上記無機充填材は、シリカを含有するものである上記(1)又は(2)に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(4)上記熱硬化性樹脂組成物は、上記熱硬化性樹脂100重量部に対して、上記無機充填材0.1〜10重量部を含有する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に、上記無機充填材を添加混合することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの無機充填材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、上記無機充填材は、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とするものである。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、このような微粒充填材の配合による高い特性付与効果を有するものであり、種々の用途に好適に用いることができるものである。
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、このような熱硬化性樹脂組成物を得る方法を提供することができるものである。
【0011】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物、及び、その製造方法について詳細に説明する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物(以下、単に「組成物」ということがある)は、熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの無機充填材(以下、単に「微粒充填材」ということがある)とを含有する組成物であって、上記微粒充填材は、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とする。
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、上記本発明の組成物の製造方法であって、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に、上記微粒充填材を添加混合することを特徴とする。
【0012】
本発明の組成物に用いられる熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などのフェノール樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種類以上を併せて用いることもできる。
【0013】
本発明の組成物に用いられる微粒充填材としては特に限定されないが、例えば、無水シリカ、コロイダルシリカのようなシリカ、マグネシア、ジルコニア、シリコンカーバイド、無水酸化アルミ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウムなどを用いることができる。
熱硬化性樹脂にこのような微粒充填材を配合することにより、いわゆるナノコンポジット組成物とすることができ、微粒充填材の配合量が少量であっても、例えば、組成物の硬化物の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0014】
これらの微粒充填材の中でも、無水シリカ、コロイダルシリカのようなシリカを含有するものであることが好ましい。シリカは安全性が高く、また、比較的低価格で入手することができるので、組成物を製造するコストの高騰を抑えることができる。
そして特に、コロイダルシリカを用いることが好ましい。コロイダルシリカは取り扱い性に優れるとともに、水あるいは有機溶媒中に分散させることができるので、本発明の組成物あるいはその製造方法において、熱硬化性樹脂の合成反応前の原材料、あるいは合成反応中の熱硬化性樹脂中へ、容易に分散させることができる。
また、シリカを水あるいは有機溶剤中に分散させた形態のものでも、好ましく用いることができる。このような形態のシリカを得る方法としては特に限定されないが、例えば、クレアミックス(エム・テクニック社製)、T.K.フィルミックス(特殊機化工業社製)などの高速撹拌装置を用いて、水あるいは有機溶剤中に所定量のシリカ粒子を高速で撹拌して分散させる方法により得ることができる。
【0015】
本発明の組成物に用いられる微粒充填材は、一次粒子の平均粒径が5〜100nmのものである。このような微粒充填材を用いることにより、微粒充填材の配合量は少量であっても、粒子単位でみた場合、熱硬化性樹脂相内に高い比率で存在させることができる。そして、粒径の大きなものと比べると比表面積が大きいため、熱硬化性樹脂成分との相互作用を有する場合、これを効果的に発現させることができる。
また、組成物を熱硬化性樹脂と微粒充填材との複合ミクロユニットのマクロ集合体であると考えると、複合ユニットの大きさがごく小さなものとなり、組成物の硬化物に付与できる特性向上効果を、微小なユニットから発現させることができるので、上記効果を高い均一性で発現させることができる。
さらに、このような大きさのものを用いることにより、熱硬化性樹脂の色調や取り扱い性を大きく低下させることがないので、それぞれの熱硬化性樹脂を用いた組成物を適用していた用途に対しても、本発明の組成物をそのまま適用することができる。
このような目的のためには、上記微粒充填材は、一次粒子の平均粒径が10〜50nmのものであることがさらに好ましい。
【0016】
一次粒子の平均粒径が上記下限値より小さいと、本発明の組成物を製造する段階、あるいは、その原材料を準備する段階で、微粒充填材の配合量によっては粘度が高くなりやすく、作業性が低下することがある。一方、上記上限値を越えると、微粒充填材の配合による効果及びその均一性が低下することがある。また、大きさによっては組成物の色調が変わるため、組成物を適用できる用途範囲が限定されることがある。
【0017】
本発明の組成物において、上記熱硬化性樹脂と微粒充填材との配合割合としては特に限定されないが、熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましい。さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
微粒充填材の配合割合が上記下限値未満では、微粒充填材を配合する効果を充分に発現できないことがある。また、上記上限値を越えると、本発明の組成物を製造する段階、あるいは、その原料を準備する段階で、それらの系の粘度が高くなって作業性が低下することがある。
【0018】
本発明の組成物において、微粒充填材は、熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とする。これにより、微粒充填材の凝集を抑制することができるとともに、熱硬化性樹脂と微粒充填材との混合精度を高めることができる。
熱硬化性樹脂の合成反応後に微粒充填材を添加すると、微粒充填材の種類や配合量、混合方法などによっては、微粒充填材の分散が充分ではなく、微粒充填材の凝集に起因すると考えられる呈色を生ずることがあるが、熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中
に添加することにより、熱硬化性樹脂の合成反応後においても透明性を維持することが容易となる。そして、この現象から、微粒充填材が系中において良好な分散性を維持できていると考えられる。
本発明において、微粒充填材が良好な分散性を維持できる理由は明確ではないが、微粒充填材を混合する際の系の粘度が低いこと、及び、熱硬化性樹脂の反応が未進行もしくは充分に進行していない段階、すなわち、熱硬化性樹脂の分子サイズが小さい段階で混合することによると推測される。
【0019】
このような方法としては特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂の合成反応前に、原材料成分の一部又は混合物に、微粒充填材を混合しておき、これを用いて熱硬化性樹脂の合成を行う方法、熱硬化性樹脂の合成反応中に、微粒充填材を混合して、さらに合成反応を進める方法、などが挙げられる。
【0020】
上記方法の中でも、微粒充填材は、熱硬化性樹脂の合成反応前に混合されることが好ましい。
通常、熱硬化性樹脂の合成反応系は、樹脂の生成に伴い粘度上昇するため、微粒充填材の混合タイミングが後になるほど、混合精度を高くするために多くのエネルギーを要するようになる。また、合成反応に用いている装置内で微粒充填材を混合する必要があるため、混合方法にも制約を生ずることがある。
これに対して、合成反応前に原材料に予め混合しておく場合は、混合温度、時間、撹拌速度などの混合条件のほか、混合に用いる装置の選択に際しても自由度が大きいため、原材料成分の性状に合わせて微粒充填材の混合精度を充分に高めることができる。
【0021】
熱硬化性樹脂の原材料成分に微粒充填材を混合する方法としては特に限定されないが、例えば、通常の撹拌羽根を備えた撹拌装置、ディスパーザー、ホモミキサーなどのほか、高速撹拌装置として、例えば、クレアミックス(エム・テクニック社製)、T.K.フィルミックス(特殊機化工業社製)、振動混合装置として、バイブロミキサー(冷化工業社製)などを用いることもできる。
混合方法及び装置は、原材料成分の粘度などの性状、微粒充填材の配合量、原材料成分と微粒充填材との親和性の強弱等を考慮して選択することができ、混合に際して付与するエネルギーについても適宜設定することができる。
【0022】
なお、上記原材料成分が水溶性のものであれば、微粒充填材を予め水中に分散させておき、これを原材料成分と混合する方法、あるいは同様に、原材料成分が有機溶剤に可溶性のものであれば、微粒充填材を予めその有機溶剤中に分散させておき、これを原材料成分と混合する方法を採用することもできる。ここで、微粒充填材を水中あるいは有機溶剤中に分散させる方法としては特に限定されないが、例えば、上記記載の装置を用いて行うことができ、分散にあたっては、界面活性剤やカップリング剤など、分散を促進できる添加剤を併用することもできる。なお、そのように調製された市販品を用いることもできる。
【0023】
また、熱硬化性樹脂の反応中に微粒充填材を混合する場合は、反応装置に備え付けの撹拌装置を用いることもできるし、微粒充填材の混合のために、反応装置に予め上記混合装置を付設し、これを用いることもできる。
【0024】
本発明の組成物で用いられる熱硬化性樹脂としては、例えば上記に例示したものを用いることができるが、これらの中でも、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及び、尿素樹脂から選ばれるものであることが好ましい。
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるものであるが、その合成工程で反応系の水洗分離除去を必須としない。このため、例えば、これら原材料に微粒充填材を混合したものを用いて反応させた場合でも、最初に配合した微粒充填材
を実質的に全て樹脂中に含有させることができるので、効率的であり、樹脂成分に対する微粒充填材成分の配合比率を精度よく設計することができる。
また、メラミン樹脂の場合は、メラミン類とアルデヒド類との反応により得られたメチロールメラミン及び/又はその縮合物の水溶液を、尿素樹脂の場合も同様に、尿素とアルデヒド類との反応により得られたメチロールユリア及び/又はその縮合物の水溶液を、それぞれそのまま用いることができ、上記フェノール樹脂の場合と同様の利点を有することができる。
【0025】
本発明において、上記熱硬化性樹脂の合成は、各々公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、ノボラック型フェノール樹脂の場合は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを、反応モル比(F/P)=0.5〜0.9程度で仕込み、蓚酸などの酸性触媒を用いて還流条件下で反応させた後、減圧下で脱水し、さらに加温して未反応フェノール類や触媒を除去することで、固形のノボラック型フェノール樹脂を製造することができる。
レゾール型フェノール樹脂の場合は、上記反応モル比(F/P)=1.0〜3.0程度で仕込み、塩基性触媒を用いて還流条件下で反応させた後、酸性物質の中和し、必要に応じて減圧下で脱水して、固形あるいは水溶性のレゾール型フェノール樹脂を製造することができる。
メラミン樹脂の場合は、メラミン(M)とアルデヒド類(F)とを、反応モル比(F/M)=3.0〜3.5程度で仕込み、pHを8〜10程度として、75〜100℃で反応させることにより、メチロールメラミン及び/又はこの初期縮合物を水溶液の形態で得ることができる。
尿素樹脂の場合は、尿素(U)とアルデヒド類(F)とを、反応モル比(U/M)=1.3〜2.0程度で仕込み、中性から弱アルカリ性として、30〜100℃で反応させることにより、メチロール尿素及び/又はこの初期縮合物を水溶液の形態で得ることができる。
【0026】
熱硬化性樹脂としてこれらのものを用いる場合、微粒充填材の配合方法としては、例えば、通常水溶液の形態で用いられるホルムアルデヒド水溶液と微粒充填材とを混合させておき、これを、フェノール類やメラミン、あるいは尿素と反応させる方法を好適に適用することができる。
【0027】
以上に説明したように、本発明の組成物においては、熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの微粒充填材とを含有し、この微粒充填材は、熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されたものであり、熱硬化性樹脂と微粒充填材とが高い精度で混合した組成物を得ることができる。そして、熱硬化性樹脂と微粒充填材との間に化学的相互作用が働く場合には、これを促進させることができる。
本発明の組成物は、微粒充填材の配合量が少量であっても、これを粒子単位で組成物中に高い比率で存在させることができるので、微粒充填材の配合による組成物の硬化物の特性向上効果を、高い均一性で発現させることができ、熱硬化性樹脂を用いた各種組成物に好適に適用することができるものである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0029】
1.樹脂組成物ワニスの調製
<実施例1>
(1)微粒充填材が分散したホルムアルデヒド溶液の調製
37重量%ホルムアルデヒド水溶液に、微粒充填材として扶桑化学社製・「コロイダルシリカ PL−1」(一次粒子の平均粒径15nm)を添加し、これを、撹拌羽根を備え
た混合装置で撹拌混合して、微粒充填材が分散したホルムアルデヒド溶液を調製した。
なお、上記微粒充填材の添加量は、下記(2)で得られるメラミン樹脂固形分100重量部に対して、固形分で5重量部となるように調整した。
【0030】
(2)樹脂組成物溶液の調製
メラミン(M)と、上記で得られたホルムアルデヒド溶液(F)との反応モル比(F/M)が1.7となるように配合し、反応系のpHを9.2として、反応温度95℃で水混和度が16ml/5mlとなるまで反応させ、メラミン樹脂溶液を得た。このメラミン樹脂溶液中のメラミン樹脂固形分は50重量%、溶剤成分の比率は、メタノール:水=5:95であった。
上記メラミン樹脂溶液中の固形分100重量部に対して、硬化促進剤として日東理研工業社製・「キャタニットA」0.8重量部を配合して混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0031】
<実施例2>
(1)微粒充填材が分散したホルムアルデヒド溶液の調製
微粒充填材(扶桑化学社製・「コロイダルシリカ PL−1」(一次粒子の平均粒径15nm))の添加量を、下記(2)で得られるメラミン樹脂固形分100重量部に対して、固形分で1重量部となるように調整した以外は、実施例1と同様にして微粒充填材が分散したホルムアルデヒド溶液を調製した。
【0032】
(2)樹脂組成物溶液の調製
上記ホルムアルデヒド溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物溶液を調製した。
【0033】
<実施例3>
微粒充填材として、扶桑化学社製・「コロイダルシリカ PL−3」(一次粒子の平均粒径35nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、微粒充填材が分散したホルムアルデヒド溶液を調製し、これを用いて樹脂組成物溶液を調製した。
【0034】
<実施例4>
微粒充填材として、触媒化成工業社製・「カタロイド SI30」(一次粒子の平均粒径10nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、微粒充填材が分散したホルムアルデヒド溶液を調製し、これを用いて樹脂組成物溶液を調製した。
【0035】
<比較例1>
メラミン(M)とホルムアルデヒド(F)との反応モル比(F/M)が1.7となるように配合し、これを反応温度95℃で、水混和度が16ml/5mlとなるまで反応させ、メラミン樹脂溶液を得た。このメラミン樹脂溶液中のメラミン樹脂固形分は50重量%、溶剤成分の比率は、メタノール:水=5:95であった。
上記メラミン樹脂溶液中の固形分100重量部に対して、硬化促進剤として日東理研工業社製・「キャタニットA」0.8重量部、微粒充填材として扶桑化学社製・「コロイダルシリカ PL−1」(一次粒子の平均粒径15nm)5重量部(固形分)を配合した。
これを、高速撹拌装置(エム・テクニック社製・「クレアミックス」)を用いて、回転数15000rpmで3分間撹拌処理し、樹脂組成物ワニスを得た。
【0036】
<比較例2>
メラミン(M)とホルムアルデヒド(F)との反応モル比(F/M)が1.7となるように配合し、これを反応温度95℃で、水混和度が16ml/5mlとなるまで反応させ、メラミン樹脂溶液を得た。このメラミン樹脂溶液中のメラミン樹脂固形分は50重量%
、溶剤成分の比率は、メタノール:水=5:95であった。
上記メラミン樹脂溶液中の固形分100重量部に対して、硬化促進剤として日東理研工業社製・「キャタニットA」0.8重量部を配合して、樹脂組成物ワニスを得た。
【0037】
2.評価
以下の方法で樹脂組成物の硬化物を作製し、これを用いて機械的特性の評価を行った。(1)試料の作製
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ワニスを、米坪90g/mの白色チタン紙に含浸させた後、熱風乾燥装置で乾燥させ、米坪190g/m、揮発分6重量%のメラミン樹脂含浸紙繊維基材を得た。
このメラミン樹脂含浸紙繊維基材5枚を積層し、鏡面仕上げのプレスプレートではさみ、平板プレス装置を用いて、160℃、10MPa で、60分間加熱加圧成形して、厚さ約1mmの評価用積層板を作製した。
【0038】
(2)表面硬度の測定
JIS K 6902に準拠して、ダイヤモンド針を用いて積層板表面の引っ掻き硬さを測定した。試験条件は、ダイヤモンド針に付与する荷重を10gから開始し、この荷重を10gずつ増やしていき、ダイヤモンド針が破損する直前の200gまで測定を行った。数値は、引っ掻きキズが確認された直前のg数を示し、200gでも引っ掻きキズが確認されないものは、「>200」で表記した。
【0039】
(3)耐摩耗性の評価
JIS K 6902に準拠して、テーバー型アブレーザーを用いて積層板表面を摩耗させたときの積層板の重量減少分(g)を測定した。測定条件は、摩耗輪が積層板の接触面に及ぼす荷重を500gとし、摩耗輪が200回転、及び、500回転した時点で各々測定した。
【0040】
実施例及び比較例における樹脂組成物の特性について、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜4は、熱硬化性樹脂と微粒充填材とを含有し、微粒充填材が熱硬化性樹脂の合成反応前に添加されてなる本発明の樹脂組成物であり、この樹脂組成物の硬化物の特性評価では、熱硬化性樹脂を合成した後に微粒充填材を配合した比較例1、及び、微粒充填材を配合しなかった比較例2と比べて、いずれも、表面硬度が高く、耐摩耗性を小さいものとすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの無機充填材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、上記無機充填材は、上記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とするものである。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、このような微粒充填材の配合による高い特性向上効果を有するものであり、種々の用途に好適に用いることができるものである。
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、このような熱硬化性樹脂組成物を得る方法を提供することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、一次粒子の平均粒径が5〜100nmの無機充填材とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機充填材は、前記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に添加されてなるものであることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及び、尿素樹脂から選ばれるものである請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材は、シリカを含有するものである請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して、前記無機充填材0.1〜10重量部を含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱硬化性樹脂の合成反応前もしくは合成反応中に、前記無機充填材を添加混合することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−22198(P2006−22198A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201232(P2004−201232)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】