説明

熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】カーボンナノファイバーが分散された熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、エラストマー30と、を含むマトリクスと、マトリクス中に分散されたカーボンナノファイバー40と、を含む。エラストマー30は、カーボンナノファイバー40に対して親和性を有する不飽和結合または基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複合材料としては、マトリクス材料と強化繊維もしくは強化粒子を組み合わせて用途に応じた物理的性質を付与していた。特に、半導体製造機器、光学機器、超微細化加工機器などの分野では、部品の熱膨張による影響を低減することが求められており、そのため、種々の強化繊維例えば炭素繊維による複合材料が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、本発明者等が先に提案した複合材料として、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させた炭素繊維複合材料がある(例えば、特許文献2参照)。このような炭素繊維複合材料は、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練することで、凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。
【0004】
しかしながら、熱硬化性樹脂にカーボンナノファイバーを均一分散させる技術は、いまだ確立されていない。
【特許文献1】国際公開00/64668号パンフレット
【特許文献2】特開2005−68386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノファイバーが分散された熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーと、熱硬化性樹脂と、を混練する工程(b)と、
を含む。
【0007】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法によれば、カーボンナノファイバーが均一に分散された複合エラストマーを熱硬化性樹脂と混練することで、カーボンナノファイバーが均一に分散された熱硬化性樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0008】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂と、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーと、を混練する工程(c)と、
前記熱硬化性樹脂と前記エラストマーとの混合物に、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させる工程(d)と、
を含む。
【0009】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法によれば、熱硬化性樹脂とエラストマーとの混合物を得ることで、熱硬化性樹脂にエラストマーの弾性を与えることができ、カーボンナノファイバーが均一に分散された熱硬化性樹脂組成物を容易に得ることができる。ここで、カーボンナノファイバーをマトリクス中に分散させるためには、マトリクス材料が粘性と弾性と極性とを有している必要がある。粘性については熱硬化性樹脂及びエラストマーが有しており、弾性についてはエラストマーが有しており、さらに極性についてはエラストマーがカーボンナノファイバーと親和性のある不飽和結合や基を有している。したがって、熱硬化性樹脂組成物中にカーボンナノファイバーを比較的容易に分散させることができる。
【0010】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法において、前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmとすることができる。
【0011】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法において、前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒とすることができる。
【0012】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法において、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、前記エラストマーは、エポキシ化エラストマーとすることができる。
【0013】
このようにすることで、カーボンナノファイバーとの親和性の特によいエポキシ基をエポキシ化エラストマー及びエポキシ樹脂双方が有することで、カーボンナノファイバーを容易に熱硬化性樹脂組成物中に分散させることができる。
【0014】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、エラストマーと、を含むマトリクスと、
前記マトリクス中に分散されたカーボンナノファイバーと、
を含み、
前記エラストマーは、前記カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有する。
【0015】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、カーボンナノファイバーがマトリクス中に均一に分散されている。
【0016】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物おいて、前記熱硬化性樹脂組成物における前記エラストマーと前記熱硬化性樹脂と前記熱硬化性樹脂の硬化剤とを合わせたポリマー成分中の前記エラストマーの含有率は10〜40重量%とすることができる。このような構成とすることで、カーボンナノファイバーが均一に分散した高剛性の熱硬化性樹脂組成物とすることができる。熱硬化性樹脂組成物におけるエラストマーの重量割合が10重量%未満だとカーボンナノファイバーの分散が不充分となり、40重量%を超えると熱硬化性樹脂組成物の剛性が低下するので好ましくない。
【0017】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物おいて、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、前記エラストマーは、エポキシ化エラストマーとすることができる。
【0018】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物おいて、30℃における動的弾性率(E’)が20〜30GPaとすることができる。このような構成とすることで、金属構造材料に近い高剛性を有する熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。しかも、エポキシ樹脂を用いているので、所望形状への成形も金属材料に比べて低温・短時間で成形することができ、製造過程でのコストダウンとなり、かつ、軽量化も達成することが可能である。
【0019】
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物おいて、破断伸びが4%以上とすることができる。このような構成とすることで、金属材料と同等程度の高剛性でありながら、柔軟性を有する熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。原料エラストマーとしては、ゴム系エラストマーの場合、未架橋体が用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、例えば以下の2つの形態を挙げることができる。
【0023】
(1)本実施の形態にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーと、熱硬化性樹脂と、を混練する工程(b)と、を含む。
【0024】
(2)本実施の形態にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、熱硬化性樹脂と、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーと、を混練する工程(c)と、前記熱硬化性樹脂と前記エラストマーとの混合物に、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させる工程(d)と、を含む。
【0025】
本実施の形態にかかる熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、エラストマーと、を含むマトリクスと、前記マトリクス中に分散されたカーボンナノファイバーと、を含み、前記エラストマーは、前記カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有する。
【0026】
(I)まず、熱硬化性樹脂及びエラストマーについて説明する。
【0027】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、一般に用いられる熱硬化性樹脂であって、選択されたエラストマーと相溶性のよいものを適宜選択することができる。熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂、熱硬化性ポリウレタン系樹脂などの重縮合または付加縮合系樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの付加重合系樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で用いてもよいし、二種類以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。また、熱硬化性樹脂の硬化剤は、用途に応じて選択された熱硬化性樹脂に合わせて公知の硬化剤を適宜選択することができる。
【0028】
カーボンナノファイバーをマトリクス材料に混合して、分散させるためには、マトリクス材料はカーボンナノファイバーと吸着するための極性と、凝集したカーボンナノファイバーの空隙中に浸入するための粘性及び流動性と、強い剪断力によってカーボンナノファイバーを解繊して均一に分散させるための弾性と、が必要とされている。したがって、熱硬化性樹脂は、極性基を有することが好ましい。また、前記弾性についての要求を満たすために、エラストマーを弾性成分として用いることが好ましい。
【0029】
極性基を有する熱硬化性樹脂としてカーボンナノファイバーと親和性のよいエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は、一般に工業上使用されているエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。代表的なエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAから得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFから得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールSから得られるビスフェノールS型エポキシ樹脂などの分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の硬化剤は、一般に工業上使用されている硬化剤の中から用途に応じて適宜選択することができる。硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤などがある。
【0030】
エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂は、エラストマーと混合する工程の温度において液状であり、粘性を有しているもののエラストマーのような弾性を有していないので熱硬化性樹脂単体ではカーボンナノファイバーを混合しても分散させることはできない。例えば、エポキシ樹脂は、エラストマーとしてエポキシ化エラストマーを用いた場合には、エポキシ化エラストマーとの相溶性もよいので、混合工程において、全体に均質化することができ、エポキシ基(極性)によって吸着されたカーボンナノファイバーをエラストマーの弾性によって分散させることができる。
【0031】
(エラストマー)
エラストマーは、熱硬化性樹脂にゴム弾性を与えるものであって、選択された熱硬化性樹脂と相溶性のよいものを適宜選択することができる。また、エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーはカーボンナノファイバーを分散させるために良好な弾性を有している。エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノファイバー同士を分離することができる。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけても弾性が小さいためカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0032】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、非架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、エラストマーは粘性を有しているので、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすく、弾性が小さいため、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0033】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、前記の条件を有する未架橋体を架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ前記範囲に含まれる。
【0034】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0035】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0036】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。特に、エポキシ基がカーボンナノファイバーとの親和性に優れている。
【0037】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0038】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0039】
エラストマーとしては、特にエポキシ基を含有するエラストマーであるエポキシ化エラストマーが好ましい。エポキシ化エラストマーは、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して最も親和性を有するエポキシ基を含有するため、カーボンナノファイバーをエラストマー中に均一に分散させることができる。エポキシ化エラストマーとしては、ポリマー中にエポキシ基を含有するエラストマーであり、例えば、エポキシ化天然ゴム、エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマー(E−SBSなど)、末端エポキシ変成スチレン−ブタジエンゴム(E−SBR)などを用いることができる。エポキシ化エラストマーのエポキシ化率は、0.01〜10%であること、特には0.5ないし3%であることが好ましい。0.01%よりエポキシ基の量が少ないとカーボンナノファイバーの分散性改良効果が乏しく、その反面、10%を越えると、固くなって加工性が悪くなる。
【0040】
本実施の形態のエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは未架橋体が好ましい。
【0041】
(II)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましく、熱硬化性樹脂組成物の強度を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。
【0042】
また、カーボンナノファイバーは、アスペクト比が50以上が好ましく、さらに好ましくはアスペクト比が100〜2万である。
【0043】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0044】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0045】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0046】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0047】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0048】
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0049】
最初に、本実施の形態にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法(1)について説明する。
【0050】
(III)まず、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によ
って分散させて複合エラストマーを得る工程(a)について説明する。
【0051】
工程(a)は、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法などを用いて行うことができる。
【0052】
本実施の形態では、工程(a)として、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いた例について述べる。
【0053】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば1.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。
【0054】
まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマー30がたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内にカーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させると、エラストマーとカーボンナノファイバーの混合物が得られる。この混合物をオープンロールから取り出す。さらに、第1のロール10と第2のロール20の間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔に設定し、得られたエラストマーとカーボンナノファイバーの混合物をオープンロールに投入して薄通しを行ない、複合エラストマーを得る。薄通しの回数は、例えば10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0055】
このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。
【0056】
また、この工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。なお、エラストマーとしてEPDMを用いた場合には、2段階の混練工程を行なうことが望ましく、第1の混練工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、EPDMとカーボンナノファイバーとの混合は、第2の混練工程より50〜100℃低い第1の温度で行なわれる。第1の温度は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の第1の温度である。ロールの第2の温度は、50〜150℃の比較的高い温度に設定することでカーボンナノファイバーの分散性を向上させることができる。
【0057】
また、この工程では、剪断力によって剪断されたエラストマーにフリーラジカルが生成され、そのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化される。例えば、エラストマーに天然ゴム(NR)を用いた場合には、各天然ゴム(NR)分子はロールによって混練される間に切断され、オープンロールへ投入する前よりも小さな分子量になる。このように切断された天然ゴム(NR)分子にはラジカルが生成しており、混練の間にラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃するので、カーボンナノファイバーの表面が活性化する。
【0058】
このとき、本実施の形態にかかるエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、特にカーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(一端分散したカーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた複合エラストマーを得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0059】
この工程(a)は、前記オープンロール法に限定されず、既に述べた密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離でき、かつエラストマー分子を切断してラジカルを生成する剪断力をエラストマーに与えることができればよい。
【0060】
エラストマーにカーボンナノファイバーを分散させる工程(a)において、あるいはこの工程(a)に続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。なお、複合エラストマーは、架橋させないことが好ましい。なお、複合エラストマーは、架橋させなくてもよいが、製品用途などによって耐ヘタリ性やクリープ特性を向上させるために、架橋剤を混合しておき、例えば工程(b)において架橋させてもよい。
【0061】
(IV)次に、工程(a)によって得られた複合エラストマーについて述べる。
図2は、本実施の形態にかかる複合エラストマーの一部を拡大して示す模式図である。複合エラストマー50は、基材であるエラストマー30にカーボンナノファイバー40が均一に分散されている。このことは、エラストマー30がカーボンナノファイバー40によって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマーの分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。
本実施の形態にかかる複合エラストマーは、エラストマーと、該エラストマーに分散された15〜50体積%のカーボンナノファイバーと、を含むことが好ましい。複合エラストマーにおけるカーボンナノファイバーが15体積%より少ないと、熱硬化性樹脂組成物中におけるカーボンナノファイバーの量が少なくなり、効果が得にくい。また、複合エラストマーにおけるカーボンナノファイバーが50体積%を超えると、工程(a)の加工が困難となる。
【0062】
複合エラストマーは、架橋剤を含んでも含まなくてもよく、用途に応じて適宜選択することができる。複合エラストマーが架橋剤を含まない場合には、熱硬化性樹脂組成物に成形した際にマトリクスが無架橋になるので、リサイクルすることができる。
【0063】
本実施の形態の複合エラストマーは、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる複合エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。
【0064】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。
【0065】
以上のことから、本実施の形態にかかる複合エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0066】
すなわち、無架橋体の複合エラストマーにおいて、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0067】
また、架橋体の複合エラストマーにおいて、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし2000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないかあるいは1000ないし5000μ秒であり、前記第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0068】
パルス法NMRを用いた反転回復法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。したがって、カーボンナノファイバーが均一に分散した複合エラストマーは、分子運動性が低くなり、上述のT2n,T2nn,fnnの範囲となる。
【0069】
本実施の形態にかかる複合エラストマーは、動的粘弾性の温度依存性測定における流動温度が、原料エラストマー単体の流動温度より20℃以上高温であることが好ましい。本実施の形態の複合エラストマーは、エラストマーにカーボンナノファイバーが良好に分散されている。このことは、上述したように、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、流動性が低下する。
【0070】
(V)次に、前記複合エラストマーと、熱硬化性樹脂と、を混練する工程(b)について説明する。
工程(b)は、工程(a)と同様に、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法などを用いて行うことができる。例えば、工程(b)で多軸押出し混練法として二軸押出機を使用する場合、まず、熱硬化性樹脂及び複合エラストマーを二軸押出機に投入し、これらを溶融させると共に混練する。さらに、二軸押出機のスクリュウを回転させることで、複合エラストマーは熱硬化性樹脂中に分散される。そして、二軸押出機から熱硬化性樹脂組成物が押し出される。押し出された熱硬化性樹脂組成物は、用いられた熱硬化性樹脂の所定の加熱条件によって加熱され、硬化させることができる。なお、工程(b)において、例えば二軸押出機に架橋剤を添加して、あるいは、工程(a)において予め架橋剤を添加しておき、複合エラストマーを架橋してもよく、例えば、前記硬化した熱硬化性樹脂組成物をさらに架橋温度で加熱して架橋してもよい。
【0071】
工程(a)において用いられるエラストマーは、工程(b)で用いる熱硬化性樹脂と相溶性のよいものを適宜選択することが好ましい。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であれば、エラストマーはエポキシ化エラストマー例えばエポキシ化スチレン−ブタジエンゴム(E−SBS)が好ましく、熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であれば、エラストマーはNBRやE−SBSが好ましい。
【0072】
また、熱硬化性樹脂組成物中の複合エラストマーの割合は、2体積%〜50体積%が好ましく、熱硬化性樹脂組成物中のカーボンナノファイバーの割合は、0.3体積%〜25体積%が好ましい。熱硬化性樹脂組成物中の複合エラストマーが2体積%よりも少ないと、カーボンナノファイバーの量が少なくなり効果が得にくい。また、熱硬化性樹脂組成物中の複合エラストマーが50体積%を超えると、工程(b)の加工が困難となる。
【0073】
次に、本実施の形態にかかる熱硬化性樹脂組成物の製造方法(2)について説明する。
【0074】
(VI)熱硬化性樹脂と、エラストマーと、を混練する工程(c)と、前記熱硬化性樹脂と前記エラストマーとの混合物に、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させる工程(d)と、について説明する。
【0075】
工程(c)は、樹脂ロールなどのオープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法などを用いて行うことができ、エラストマーに液状の熱硬化性樹脂(主剤)を混合するため、粘度に応じて混練機(加工機)を選択する。本実施の形態のように液状の熱硬化性樹脂を用いる場合には、ヘンシェルミキサーなどの密閉式混練機が好ましいが、3本ロールや2本ロールのオープンロール機でもよい。例えば、工程(c)で多軸押出し混練法として二軸押出機を使用する場合、まず、熱硬化性樹脂及びエラストマーを二軸押出機に投入し、これらを溶融させると共に混練する。さらに、二軸押出機のスクリュウを回転させることで、エラストマーは熱硬化性樹脂中に分散される。また、例えば、工程(c)において2本のオープンロール機を使用する場合には、2本のロール間隔を好ましくは0.5〜5mm、例えば1.0mmの間隔で配置させて回転させ、一方のロールに、エラストマーを巻き付け、バンク内に、熱硬化性樹脂を加えて、エラストマーと熱硬化性樹脂とを混合する。混合工程(c)を低温で行う場合には、この工程(c)で硬化剤を加えてもよい。例えば、このときの一方のロールの回転速度は20rpmであり、他方のロールの回転速度は22rpmである。これにより、エラストマーと熱硬化性樹脂とが混ざり合い、シート状の混合物を得る。
【0076】
工程(d)は、さらに、二軸押出機で溶融状態にある熱硬化性樹脂とエラストマーとの混合物に、カーボンナノファイバーを投入し混合させ、スクリュウを回転させることで混合物に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーが混合物中のエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、混合物中に分散されて、二軸押出機から熱硬化性樹脂組成物が押し出される。押し出された熱硬化性樹脂組成物は、用いられた熱硬化性樹脂の所定の加熱条件によって加熱され、硬化させることができる。なお、工程(c)もしくは(d)において、例えば二軸押出機に架橋剤を添加して、熱硬化性樹脂組成物中のエラストマーを架橋してもよく、例えば前記硬化した熱硬化性樹脂組成物をさらに架橋温度で加熱して架橋してもよい。また、例えば、工程(c)に引き続いて、オープンロール機を用いて工程(d)を行う場合には、混合物のバンク内に、カーボンナノファイバーを加えて、2本のロールを回転させ、混合物とカーボンナノファイバーとを混合し、薄通しを複数回行なう。このときのロールの回転速度は工程(c)のオープンロール機と同様である。そして、2本のロール間隔を狭めて、好ましくは0.1mm〜0.5mmの間隔、例えば0.1mmの間隔とし、この状態でロールをで回転(例えばロール表面の回転速度比は1.1)させる。これにより、ロールの間からでてきた混合物には高い剪断力が作用し、この剪断力によって凝集していたカーボンナノファイバーが1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、混合物中に分散される。さらに、ロール表面の回転速度比を1.3(例えば26rpm/20rpm)に上げ、ロール間隔を例えば0.5mmの間隔として圧延したシート状の熱硬化性樹脂組成物を得る。
【0077】
この熱硬化性樹脂組成物を硬化する工程は、一般的な熱硬化性樹脂の成形加工法を採用することができる。例えば、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を所定の温度に加熱した金型内に入れ、所定圧力で圧縮成形してもよいし、トランスファー成形機などで成形しても良い。成形温度及び成形時間は、選択された熱硬化性樹脂及び硬化剤の種類によって適宜設定できる。加熱された金型内で所定時間加圧された熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤によってエポキシ樹脂が架橋され、硬化した後、金型内から取出される。
【0078】
工程(c)及び(d)において用いられるエラストマーは、前記(a)及び(b)と同様に、熱硬化性樹脂と相溶性のよいものを適宜選択することが好ましい。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であれば、エラストマーはエポキシ化エラストマー例えばエポキシ化スチレン−ブタジエンゴム(E−SBS)が好ましく、熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であれば、エラストマーはNBRやE−SBSが好ましい。
【0079】
熱硬化性樹脂組成物におけるエラストマーと熱硬化性樹脂と熱硬化性樹脂の硬化剤とを合わせたポリマー成分中のエラストマーの含有率は、10〜40重量%とすることが好ましい。このような構成とすることで、カーボンナノファイバーが均一に分散した高剛性の熱硬化性樹脂組成物とすることができる。ポリマー成分中のエラストマーの含有率が10重量%未満だとカーボンナノファイバーの分散が不充分となり、40重量%を超えると熱硬化性樹脂組成物の剛性が低下するので好ましくない。
【0080】
また、熱硬化性樹脂組成物におけるカーボンナノファイバーの含有率は、0.3〜45重量%であることが好ましく、さらに好ましくは8〜30重量%である。カーボンナノファイバーの含有率が0.3重量%より少ないと熱硬化性樹脂組成物の剛性の向上が小さく、45重量%を超えると剛性が大きすぎて加工が困難となる。
【0081】
(VII)最後に、熱硬化性樹脂組成物について説明する。
本実施の形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、エラストマーと、を含むマトリクスと、前記マトリクス中に分散されたカーボンナノファイバーと、を含み、前記エラストマーは、前記カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有する。
【0082】
熱硬化性樹脂組成物は、マトリクス中にカーボンナノファイバーが均一に分散しているため、強さ、剛性、耐久性などの物性が熱硬化性樹脂に比べて向上する。また、熱硬化性樹脂組成物は、エラストマー成分を配合することにより、耐衝撃性が向上する。特に、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、エラストマーがエポキシ化エラストマーである熱硬化性樹脂組成物は、30℃における動的弾性率(E’)が20〜30GPaの高剛性であることが好ましく、破断伸びが4%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0083】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜7、比較例1〜3)
(1)サンプルの作製
工程(c):
6インチオープンロール(ロール温度10〜50℃)に、エポキシ化エラストマーを投入して、ロールに巻き付かせ、エポキシ樹脂(主剤)をエポキシ化エラストマーに投入し、混合して第1の混合物を得た。このとき、ロール間隙は1mm、ロール回転速度は22rpm/20rpmとした。なお、エポキシ化エラストマー及びエポキシ樹脂の種類・配合量(phr)については表1、表2に示す通りである。
工程(d):
第1の混合物にフィラーを投入し、混合し、さらに、ロール間隙を0.1mmと狭くして、この混合物を5回薄通しして第2の混合物を得た。このとき、ロール回転速度は22rpm/20rpmとした。さらに、ロール間隔を1mm、ロール回転速度を22rpm/20rpmにセットして、第2の混合物を投入し、さらに、硬化剤を投入し、混合した。なお、フィラーの種類・配合量(phr)については表1、表2に示す通りである。このときのロールの温度は、10℃〜50℃に設定されている。
硬化剤を含む第2の混合物をオープンロールから取り出し、厚さ2mmのモールドに入れ、10MPaの圧力で150℃、5分間プレス成形して硬化(架橋)した熱硬化性樹脂組成物サンプルを得た。
【0084】
表1、表2において、エポキシ樹脂の主剤は、「エピコート828」がジャパンエポキシレジン社製ビスフェノールA型のエポキシ樹脂であり、粘度が120〜150Poise/25℃、エポキシ当量が172〜178である。また、表1、表2において、エポキシ樹脂の硬化剤は、「アミキュアVDH」が味の素ファインテクノ社製のヒドラジド系硬化剤(白色粉体、融点120℃)である。また、表1、表2において、エポキシ化エラストマーは、「E−SBS」がダイセル化学工業社製エポキシ化スチレン−ブタジエンブロック共重合体(商品名:エポフレンドA1005(分子量10万、エポキシ化率1.7%))である。また、表1、表2において、「CNT13」はILJIN社製の平均直径が13nmのマルチウォールカーボンナノチューブ(CVD法)であり、「HAF」は平均粒径27nmのHAFグレードのカーボンブラックである。
【0085】
また、表1、表2において、「エラストマーの割合(重量%)」はポリマー成分(主剤+硬化剤+エポキシ化エラストマー)中のエポキシ化エラストマーの含有率であり、「フィラーの割合(重量%)」は熱硬化性樹脂組成物(エポキシ樹脂+エポキシ化エラストマー+フィラー)中のフィラーの含有率である。
【0086】
(2)引張強度(MPa)の測定
各サンプルを1A形のダンベル形状に切り出した試験片について、東洋精機社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K7161に基づいて引張試験を行い引張強度(MPa)を測定した。これらの結果を表1、表2に示す。
【0087】
(3)破断伸び(%)の測定
各サンプルをJIS−K6251−1993のダンベル型に切り出した試験片について、東洋精機社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minで引張破壊試験を行い破断伸び(%)を測定した。これらの結果を表1、表2に示す。
【0088】
(4)動的弾性率(GPa)の測定
各サンプルを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、30℃、動的ひずみ±0.05%、周波数10Hzで動的粘弾性試験を行い30℃における動的弾性率(E’)を測定した。これらの結果を表1、表2に示す。
【0089】
(5)パルス法NMRを用いた測定
各エポキシ化エラストマーについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は30℃であった。この測定によって、エポキシ化エラストマー単体のスピン−スピン緩和時間の第1成分(T2n)を求めた。エポキシ化エラストマーのスピン−スピン緩和時間(T2n)は、「E−SBS」が860(μsec)であった。
【0090】
【表1】

【表2】

【0091】
表1、表2に示されるように、マルチウォールカーボンナノチューブ(CNT13)を用いた実施例1〜7は、フィラーを用いなかった比較例1,2や他のフィラー(カーボンブラック)を用いた比較例3に比べて高い動的弾性率を有していた。カーボンナノファイバーの含有量が8.3重量%の実施例4であっても動的弾性率が20GPa以上であることがわかった。しかも、実施例1〜7の熱硬化性樹脂組成物は、適度にエポキシ化エラストマーを含むため、柔軟性も備えており、特に実施例1〜5,7の熱硬化性樹脂組成物は、破断伸びが4%以上あった。カーボンナノファイバーの含有量が34.5重量%の実施例6は、破断伸びが2%と小さかった。また、カーボンナノファイバーの含有量が8重量%未満の実施例7は、動的弾性率が20GPaを超えなかった。
【0092】
以上のことから、本発明の熱硬化性樹脂組成物は高剛性と柔軟性とを有することが明かとなった。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態にかかる複合エラストマーの一部を拡大して示す模式図である。
【符号の説明】
【0094】
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
50 複合エラストマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーと、熱硬化性樹脂と、を混練する工程(b)と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
熱硬化性樹脂と、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーと、を混練する工程(c)と、
前記熱硬化性樹脂と前記エラストマーとの混合物に、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させる工程(d)と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、
前記エラストマーは、エポキシ化エラストマーである、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの製造方法によって得られた熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
熱硬化性樹脂と、エラストマーと、を含むマトリクスと、
前記マトリクス中に分散されたカーボンナノファイバーと、
を含み、
前記エラストマーは、前記カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有する、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7において、
前記熱硬化性樹脂組成物における前記エラストマーと前記熱硬化性樹脂と前記熱硬化性樹脂の硬化剤とを合わせたポリマー成分中の前記エラストマーの含有率は10〜40重量%である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、
前記エラストマーは、エポキシ化エラストマーである、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9において、
30℃における動的弾性率(E’)が20〜30GPaである、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10において、
破断伸びが4%以上である、熱硬化性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154150(P2007−154150A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82871(P2006−82871)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】