説明

熱硬化性樹脂組成物

【課題】低複屈折率および耐溶剤性を併せ持つ光学フィルムとして好適に用いられる熱硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ビスフェノール類のエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物または脂環式テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるカルボキシル基を有する化合物(A)と、エポキシ基を有する架橋剤(B)を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性樹脂組成物に関する。より詳しくは、液晶ディスプレイ用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にフレキシブルフィルムディスプレイ用基板として好ましく用いられる熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイ用基板、有機ELディスプレイ用基板としてはガラス基板が用いられているが、より軽量で、曲げたり丸めたりして収納可能なフレキシブル表示パネルが実現できるフィルム基板が求められている。
【0003】
しかし、フィルム基板はガラス基板に比べて複屈折率、耐溶剤性に劣る。例えば、フィルム基板を液晶パネルのカラーフィルターに適用する場合、その製造工程上、ブラックマトリックスやRGB画素形成用の感光性材料の溶剤、あるいは液晶配向膜の溶剤であるγ−ブチロラクトンやN−メチルピロリドンに耐えなければならない。しかしながら、光学フィルムに代表されるポリカーボネートは、耐溶剤性に劣り、複屈折率が大きい。また、ポリエステルフィルム(PET)は、耐溶剤性は良好であるが、複屈折率が大きい。このように、低複屈折率および耐溶剤性を併せ持つフィルム基板としての要求特性を満足する材料は、未だ知られていないのが現状である。
【0004】
近似技術として、ポリカルボン酸、例えば両末端にカルボン酸または酸無水物を有するポリエステルと、エポキシ樹脂および/またはオキセタン樹脂を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物と、かかる熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られる光学フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、耐溶剤性に劣り、また、ブラックマトリックスやRGB画素を硬化する工程(200〜230℃)で着色する課題がある。また、テトラカルボン酸二無水物および多価ヒドロキシ化合物を反応させて得られるポリエステル化合物とN−置換マレイミド共重合体および溶剤を含む熱硬化性重合体組成物(例えば、特許文献2参照)や、テトラカルボン酸二無水物、ジアミンおよび多価ヒドロキシ化合物を反応させて得られるポリエステルアミド酸、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤および溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)が、各々開示されている。これらはいずれも1〜2μmの薄膜で用いるカラーフィルターの保護膜としては適しているが、複屈折率が大きくなる課題がある。
【特許文献1】特開2007−297604号公報
【特許文献2】特開2006−282995号公報
【特許文献3】特開2005−105264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情に鑑み創案されたもので、その目的とするところは、低複屈折率および耐溶剤性を併せ持つ光学フィルムとして好適に用いられる熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。ビスフェノール類のエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物または脂環式テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるカルボキシル基を有する化合物(A)と、エポキシ基を有する架橋剤(B)を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、複屈折率が低く、耐溶剤性に優れる。したがって、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、低複屈折率および耐溶剤性を併せ持つ光学フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の構成要素について説明する。
【0009】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ビスフェノール類のエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物または脂環式テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるカルボキシル基を有する化合物(A)を含有する。
【0010】
ビスフェノール類の例として、例えば、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールB(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン)、ビスフェノールF(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールS(ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン)、ビスフェノールAF(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらを2種以上用いてもよい。
【0011】
ビスフェノール類としては、耐熱性と原料の入手の容易さの観点から、ビスフェノールAが好ましい。また、耐熱性の観点から、分子中に芳香環の占める割合が多い9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のビスフェノールフルオレンがより好ましい。
【0012】
ビスフェノール類に付加させるエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドは、耐熱性の観点から、ビスフェノール類1モルに対して2〜3モルが好ましい。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させてもよく、これらの合計が2〜3モルであることが好ましい。
【0013】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の例としては、ピロメリット酸二無水物(略号:PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(略号:BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(略号:BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(略号:OPDA)、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(略号:BPADA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(略号:DSDA)、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(略号:6FDA)、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられるが、これらに限定されない。また、脂環式テトラカルボン酸の例としては、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物(略号:BTA−H)、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタン−1r,2c,4c−トリカルボン酸−1,4:2,3−二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられるが、これらに限定されない。上記芳香族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物を2種以上用いてもよい。
【0014】
得られる熱硬化性樹脂組成物塗膜の透明性の観点から、BTA−Hに代表される脂環式テトラカルボン酸二無水物がより好ましい。芳香族テトラカルボン酸二無水物の中では、BPADAおよびOPDAが好ましい。
【0015】
本発明における(A)カルボキシル基を有する化合物は、上記ビスフェノール類のエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物と、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物または脂環式テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる。この反応は、実質上当モル(当量)から±5モル%の範囲で行うことが一般的である。この反応の際には、必要に応じて、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、トリフェニルホスフィン、テトラエチルアンモニウムブロマイド等の触媒を添加してもよい。触媒の添加量は、反応原料100重量部に対して0.001〜5重量部が好ましく、0.001〜3重量部がより好ましい。また、必要に応じて、原料を溶解するため、あるいは粘性調整のために、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−3−メチル−ブチルアセテート、γ−ブチロラクトン等の反応温度以上の沸点を持つ溶剤を添加してもよい。溶剤の使用量は、反応原料100重量部に対して5〜500重量部が好ましく、20〜200重量部がより好ましい。また、反応温度は通常90〜180℃であり、好ましくは120〜160℃である。反応時間は通常3〜24時間であり、好ましくは4〜18時間である。着色を抑えるために、反応系内に乾燥窒素を吹き込みながら反応を行うことが好ましい。
【0016】
このようにして、カルボキシル基を有する化合物(A)が得られる。その具体例として、ビスフェノキシエタノールフルオレン(9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)と、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる化合物(A)の構造を式(1)に示す。
【0017】
【化1】

【0018】
ここでnは1以上の実数を表す。
【0019】
化合物(A)の重量平均分子量は1000〜20万の範囲が好ましい。溶媒への溶解性の点で5000〜10万がより好ましい。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ基を有する架橋剤(B)を含有する。エポキシ基を有する架橋剤(B)の例として、エポキシ樹脂およびエポキシシランが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0021】
エポキシ樹脂の例として、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテルなどの2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に代表される多官能エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない。これらを2種以上用いてもよい。特に、透明性の点で、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートが好ましい。
【0022】
エポキシシランの例として、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に、透明性の観点から、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがより好ましい。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、架橋剤(B)の含有量は、化合物(A)のカルボキシル基1当量に対して架橋剤中のエポキシ基が0.9〜5当量となるようにすることが好ましく、0.95〜4.1当量がより好ましく、1.0〜3.3当量がさらに好ましい。架橋剤(B)を0.9当量以上含有することにより、耐溶剤性をより向上させることができる。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、塗布性、塗膜の平滑性やベナードセルを防止する目的で、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の含有量は通常、熱硬化性樹脂組成物の0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜1重量%である。含有量が少なすぎると塗布性、塗膜の平滑性やベナードセルを防止効果がなく、多すぎると逆に塗膜物性が不良となる場合がある。界面活性剤の具体例としては、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどの陰イオン界面活性剤、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの陽イオン界面活性剤、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリウムベタインなどの両性界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ソルビタンモノステアレートなどの非イオン界面活性剤、ポリジメチルシロキサンなどを主骨格とするシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。本発明では、これらに限定されずに界面活性剤を1種または2種以上用いることができる。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、溶剤を含有してもよい。溶剤としては、特に制限はないが、3−メトキシ−3−メチル−ブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、3−メトキシ−ブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトンが、本発明の熱硬化樹脂組成物の溶解性が良く、また毒性の点から好ましい。
【0026】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、透明性を損なわない範囲で可視光領域に吸収を持たない無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーを含有することにより、得られるフィルムの屈折率を調整したり、吸水率や硬度を改善できる。無機フィラーの例としては、シリカ、ガラス粉、石英粉、スメクタイト等が挙げられる。透明性の点で無機フィラーの平均粒子径は1〜10nmが好ましい。
【0027】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を調製する際の混合方法や添加順序に制限はなく、例えばスリーワンモーター、ハイシェアミキサー、三本ロールミル等の機器を用いて、化合物(A)と、エポキシ基を有する架橋剤(B)、溶剤その他添加剤を一括で仕込んで、あるいは順次投入して調製することができる。熱硬化性樹脂組成物の濃度は20〜50重量%の範囲が一般的であり、塗布装置の特性に合致するよう粘度、濃度を調整することが好ましい。調製中の硬化反応を防ぐため、調製中の温度は70℃以下が好ましく、さらに好ましくは40℃以下である。調製後、“テフロン(登録商標)”製フィルターフィルターで濾過してもよい。
【0028】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、スピンナー、ロールコーティング、ダイコーティング装置により、基板に塗布することができる。基板としてはプラスチックフィルム、ソーダガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどが用いられるが、特にこれらに限定されない。
【0029】
塗膜後、加熱処理することによって熱硬化させる。加熱処理は通常、空気中、窒素雰囲気中、あるいは、真空中などで、120〜250℃、好ましくは150〜230℃の温度のもとで、0.25〜2時間、連続的または段階的に行われる。
【0030】
また、離型処理したプラスチックフィルム、金属、ガラスなどに塗布、熱処理後、剥がしてフィルムあるいはシート状にすることも可能である。さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ガラスクロス等に含浸させることにより、シート状に成型することもできる。ガラスクロスとしては、平織で厚みが15〜43μmの極薄ガラスクロス(例えば、日東紡(株)製、電子材料用ガラスクロス)が軽量で好ましい。ガラスクロスに樹脂を含浸させることにより、寸法安定性が向上する効果がある。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られるフィルムは、フレキシブルフィルムディスプレイ用途の光学フィルムとして好ましく使用できる。光学フィルムの厚さは150μm以下が好ましく、用途により適宜設定することができる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、基材フィルム上に塗布し、これを硬化して得られる積層フィルムとしても使用できる。特に、複屈折率の絶対値が0.001より小さい熱硬化性樹脂組成物は、液晶ディスプレイ部材として好適である。また、カラーフィルター用オーバーコート材としても使用できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
(評価法と評価の基準)
(1)重量平均分子量の測定
ウォーターズ(株)製GPCModel510を用いて下記の条件にて化合物(A)の分子量を測定し、標準ポリスチレンの校正曲線を用いて重量平均分子量(Mw)を算出した。
カラム:TSK−GELα2500、TSK−GELα40000(東ソー(株)製)
展開溶媒:N−メチルピロリドン
LiCl 0.05mol/L、HPO0.05mol/L、流速:0.4mL/分。
【0034】
(2)光透過率
ガラス基板(日本電気硝子(株)製OA−10)上に、熱硬化性樹脂組成物を塗布し、120℃×20分乾燥後、200℃×60分熱処理し、さらに230℃×60分空気中で熱処理し、厚み20μmの塗膜を形成した。MultiSpec−1500((株)島津製作所)を用いて、ガラス基板の紫外可視吸収スペクトルをシングルビームで測定し、リファレンスとした。次いで、得られた塗膜の紫外可視吸収スペクトルを測定し、350nmおよび400nmの光透過率を求めた。400nmでの光透過率95%以上が目標である。
【0035】
(3)屈折率、複屈折率
厚み100μmのPETフィルム上に熱硬化性樹脂組成物を塗布し、120℃×20分乾燥後、200℃×60分空気中で熱処理し、剥離して厚み20μmの塗膜を作製した。メトリコン製プリズムカプラ測定装置PC−2010で、633nmのレーザー光で、屈折率nTE、nTMを測定した。屈折率nTE、nTMの差を△nとした。△nの絶対値が複屈折率の絶対値になる。△nの絶対値が0.001未満を目標とする。
【0036】
(4)膜厚
基板上の塗膜の膜厚は東京精密(株)製 膜厚測定器 サーフコム1500Aにて測定した。フィルムについてはダイアルゲージにて測定した。
【0037】
(5)耐アルカリ性、耐溶剤性
ガラス基板に熱硬化性組成物を塗布し、120℃×20分乾燥後、200℃×60分空気中で熱処理し、厚さ20μmの塗膜を形成した。この塗膜を形成したガラス基板を室温で各種溶液に10分浸せき後、表面の異常の有無を観察した。評価は次の通りで、少なくとも、レジストの溶媒であるPMAと現像液2.38%TMAHに耐えることを目標とする。
○は異常なし、×はクラックが発生、△は少し表面に変化がある。
【0038】
また、表中の略号は次の通りである。
2.38%TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの2.38%水溶液(レジスト現像液)
PMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(レジストの溶媒)
γ−BL:γ−ブチロラクトン
NMP:N−メチルピロリドン 。
【0039】
参考例−1
300mlのセパラブルフラスコに、ビスフェノキシエタノールフルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)21.90g(0.05モル)、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(OPDA)15.51g(0.05モル)およびγ−ブチロラクトン56.5gを仕込み、窒素を吹き込みながら昇温し、140℃の温度で18時間反応させ、濃度40重量%の無色透明な粘調溶液(A−1)を得た。(A−1)中の化合物(A)の重量平均分子量は13060、分散度は2.04であった。
【0040】
参考例−2
300mlのセパラブルフラスコに、ビスフェノキシエタノールフルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)21.90g(0.05モル)、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(略号:BPADA)21.90g(0.05モル)、γ−ブチロラクトン47.9gおよび触媒としてベンジルジメチルアミン0.144gを仕込み、濃度50%で窒素を吹き込みながら昇温し、140℃の温度で18時間反応させた後、濃度40%に希釈し、粘調な溶液(A−2)を得た。(A−2)中の化合物(A)の重量平均分子量は34783、分散度2.62であった。
【0041】
参考例−3〜7
参考例−1において、OPDA0.05モルの替わりにPMDA0.05モルを用いたもの(参考例−3)、BTDA0.05モルを用いたもの(参考例−4)、BPDA0.05モルを用いたもの(参考例−5)、DSDA0.05モルを用いたもの(参考例−6)、BTA−H0.05モルを用いたもの(参考例−7)について、参考例−1と同様に反応させ、濃度40%の粘調溶液A−3〜A−7を得た。
【0042】
参考例−8
参考例−1において、ビスフェノキシエタノールフルオレン21.90gの替わりにビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)のプロピレンオキサイド2モル付加物(三洋化成工業(株)商品名:ニューポールBP−2P)17.42g(水酸基当量174.2g/eq×2×0.05)を用いた以外は参考例−1と同様に反応させ、濃度40%の粘調溶液(A−8)を得た。
【0043】
参考例−9
参考例−2において、ビスフェノキシエタノールフルオレンの替わりにビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)のプロピレンオキサイド2モル付加物(三洋化成工業(株)商品名:ニューポールBP−2P)を17.42g(水酸基当量174.2g/eq×2×0.05)を用いた以外は参考例2と同様に反応させ、濃度40%の粘調溶液(A−9)を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
比較例1
参考例−1で得られた溶液(A−1)を用いて上記の評価法と評価の基準に従い評価した結果を表2に示す。なお、自己支持性のあるフィルムが得られなかったので、屈折率はガラス基板上の塗膜で測定した。
【0046】
比較例2
参考例−2で得られた溶液(A−2)を用いて上記の評価法と評価の基準に従い評価した結果を表2に示す。なお、自己支持性のあるフィルムが得られなかったので、屈折率はガラス基板上の塗膜で測定した。
【0047】
実施例1〜7
参考例1〜7で得られた溶液(A−1)〜(A−7)中のカルボキシル基を有する化合物各々と、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル(大阪ガスケミカル(株)製BPEFG:エポキシ当量296g/eq)を表2に記載した割合で混合し、熱硬化性樹脂組成物の溶液に対して1000ppmのフッ素系界面活性剤と、溶媒γ−ブチロラクトンを添加し、濃度40重量%の熱硬化性樹脂組成物を作製した。この熱硬化性樹脂組成物を上記の評価法と評価の基準に従い評価した結果を表2に示す。成分(A)として、脂環式テトラカルボン酸二無水物BTA−Hを用いた(A−7)、および芳香族テトラカルボン酸二無水物OPDAを用いた(A−1)とBPADAを用いた(A−2)が透明性に優れていることがわかる。
【0048】
実施例8〜14
実施例8〜14は成分Aを(A−2)に固定し、架橋剤であるエポキシ樹脂の種類と含有量の影響を調べたデータである。ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル(大阪ガスケミカル(株)製BPFG:エポキシ当量231.g/eq)、ビスフェノールAグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン(株)商品名エピコート827、エポキシ当量185.g/eq、略号:EP827)、ビスフェノールFグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン(株)商品名エピコート807、エポキシ当量165.g/eq、略号:EP807)、テレフタル酸ジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)商品名“デナコール(登録商標)”EX711、エポキシ当量145.8g/eq)、レゾルシンジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)商品名“デナコール”EX201、エポキシ当量117.1g/eq)各々と(A−2)を表3に記載した割合で混合し、熱硬化性樹脂組成物の溶液に対して1000ppmのフッ素系界面活性剤と、溶媒γ−ブチロラクトンを添加し、濃度40重量%の熱硬化性樹脂組成物を作製した。この熱硬化性樹脂組成物を上記の評価法と評価の基準に従い、評価した結果を表3に示す。エポキシ樹脂EP807を使用した組成物以外はいずれも透明性が良好である。
【0049】
また、エポキシ樹脂の含有量については、実施例9〜11、13〜14の結果より、遊離のカルボキシル基を全て反応させるのに必要な理論量である1.0当量前後から4.1当量以下とすることが耐溶剤性をより向上させるために好ましく、さらに好ましくは1.0〜3.3当量であることが分かる。
【0050】
実施例15
実施例15は架橋剤であるエポキシ樹脂をEP827に固定し、上記で透明性が良好であった成分A−1とA−2を比較したデータである。熱硬化性樹脂組成物の作製、評価は上記実施例と同様に行った。実施例9との比較より、テトラカルボン酸二無水物としてはBPADAよりOPDAの方がエポキシ樹脂の含有量による耐溶剤性の影響を受けにくいと言える。
【0051】
実施例16〜18
上記結果から透明性が良好であったテトラカルボン酸二無水物OPDA、BPADAを用いた参考例8〜9で得られた(A−8)と(A−9)中の化合物について評価を行った。脂環式エポキシ樹脂である3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,−4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)商品名“セロキサイド(登録商標)”2021P、略号:2021P)、エポキシ樹脂EP827を表4に記載した割合で混合し、熱硬化性樹脂組成物の溶液に対して1000ppmのフッ素系界面活性剤と、溶媒γ−ブチロラクトンを添加し、濃度40重量%の熱硬化性樹脂組成物を作製した。評価は上記実施例と同様に行った。結果を表4に示す。透明性、複屈折率、耐アルカリ性、耐溶剤性全て良好であった。
【0052】
実施例19〜24
実施例19〜24は上記結果から透明性が良好であった成分A−1、A−2、A−8、A−9と架橋剤エポキシシランとの組み合わせで性能を調べたデータである。KBE402(3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、信越化学工業(株)製品名、分子量248.4)、KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製品名、分子量278.4)、KBM303(2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製品名、分子量246.4)と成分A−1、A−2、A−8、A−9を表4に記載した割合で混合し、熱硬化性樹脂組成物の溶液に対して1000ppmのフッ素系界面活性剤と、溶媒γ−ブチロラクトンを添加し、濃度40重量%の熱硬化性樹脂組成物を作製した。評価は上記実施例と同様に行った。結果を表1に示す。特にKBE402、KBM303を使用した組成物が透明性、複屈折率、耐アルカリ性、耐溶剤性全て良好であった。
【0053】
比較例3
ポリカーボネート樹脂ペレットをNMPで濃度10重量%になるように仕込み、50℃で加熱して溶解した。この溶液を上記の評価法と評価の基準に従い評価した結果を表4に示す。透明性、耐アルカリ性は良好であったが、複屈折率が大きく、耐溶剤性は全て不良であった。
【0054】
比較例4
特許第3120476号公報の実施例1に記載の方法により、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体(重量組成比33/34/33)を合成後、グリシジルメタクリレート33重量部を付加させ、精製水で再沈、濾過、乾燥することにより、平均分子量(Mw)18,000、酸価70(mgKOH/g:JISK−5407による)の特性を有するアクリル樹脂を得た。このアクリル樹脂33.3g、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート33.3g、BPEFG33.4gおよびフッ素系界面活性剤1000ppmをγ−ブチロラクトンで濃度30重量%になるようにアクリル組成物を調合した。評価は上記実施例と同様に行った。なお、自己支持性のあるフィルムが得られなかったので、屈折率はガラス基板上の塗膜で測定した。200℃熱処理では400nmでの透過率が97%と透明性は良好であったが、230℃熱処理すると低下した。耐溶剤性もやや不十分であった。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール類のエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物または脂環式テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるカルボキシル基を有する化合物(A)と、エポキシ基を有する架橋剤(B)を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビスフェノール類が、ビスフェノールAまたはビスフェノールフルオレンであることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビスフェノール類のエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物におけるエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの付加量が、ビスフェノール類1モルに対し2〜3モルであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記テトラカルボン酸二無水物が、脂環式テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物および4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ基を有する架橋剤(B)を、カルボキシル基を有する化合物(A)のカルボキシル基1当量に対して架橋剤中のエポキシ基が0.9〜5当量となるように含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記架橋剤(B)が、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートおよびエポキシシランからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシシランが、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランおよび/または2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
複屈折率の絶対値が0.001より小さいことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物から形成される光学フィルム。

【公開番号】特開2009−235162(P2009−235162A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80175(P2008−80175)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】