説明

熱硬化性組成物の製造方法並びに熱硬化性組成物を用いた熱硬化性複合シート及び金属張積層板

【課題】10GHz以上の高周波帯域で低誘電率・低誘電正接性、低吸湿性、低誘電ドリフト性及び金属箔の剥離強さが良好なプリント配線板を製造できる熱硬化性組成物の製造方法、この組成物を用いた熱硬化性複合シート及び金属張積層板を提供する。
【解決手段】本発明は、溶剤中で、ポリフェニレンエーテル(a)を50質量%以上含み架橋構造及び架橋反応性を有しない高分子化合物(A)の存在下で、1,2−ブタジエン単位を40質量%以上含有するポリブタジエン(B)と架橋剤(C)とをラジカル架橋反応させて高分子複合体を得る工程と、無機粒子の表面を、スチリルトリアルコキシシランで表面処理後、さらに続けてアルコキシシラン系(ビニル基含有物は除く)及び/又はシリコーン系化合物で表面処理するか又はその逆順で表面処理して無機粒子(D)を得る工程と、高分子複合体と無機粒子(D)とを混合する工程とを有する、熱硬化性組成物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物の製造方法、特にプリント配線用に適した熱硬化性組成物の製造方法並びにこの製造方法によって得られる熱硬化性組成物を用いた熱硬化性複合シート及び金属張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー及びルーター等のネットワーク関連電子機器、並びに大型コンピュータ等では、低損失かつ高速で、大容量の情報を伝送・処理することが要求されている。大容量の情報を伝送・処理する場合、電気信号が高周波数の方が高速に伝送・処理できる。ところが、電気信号は、基本的に高周波であるほど減衰しやすくなる、すなわちより短い伝送距離で出力が弱くなりやすく、損失が大きくなりやすい性質を有する。したがって、上述の低損失かつ高速との要求を満たすためには、機器に搭載された伝送・処理を行うプリント配線板自体の特性において、伝送損失、特に高周波帯域での伝送損失を一層低くする必要がある。
【0003】
低伝送損失のプリント配線板を得るために、従来、比誘電率及び誘電正接の低いフッ素系樹脂を使用した基板材料が使用されてきたが、フッ素系樹脂は低温下でのプレス成形性、加工性、寸法安定性及び金属めっきとの接着性が不充分であるという課題があった。近年、これらの課題を解決するため、ポリフェニレンエーテルと、熱硬化性樹脂とを併用した樹脂組成物が用いられてきており、その中で、接着性を改善する観点から、ポリフェニレンエーテルと変性ポリブタジエンの併用系が検討され(特許文献1)、さらに、吸湿時の誘電特性を改善する観点から、ポリフェニレンエーテルとポリブタジエンの相容性を向上させたセミIPN型複合体を含む熱硬化性樹脂が提案されている(特許文献2)。
【0004】
一方、誘電率を高め、誘電損失を低減するような誘電特性の改善を目的として、上述した熱硬化性樹脂に誘電体粉末を含有させることが提案されている。そして、誘電体粉末の表面の接着性を制御するために、表面処理を行うことが検討されており、通常のシラン系処理剤またはシリコーン系処理剤では望ましい効果が得られないが、アミノ及び/又はアクリル系シランカップリング剤のような特定のシランカップリング剤については、誘電特性のドリフトが抑えられるとともに、耐熱性及び寸法安定性が得られることが開示されている(特許文献3参照)。また、ビニル基含有シランカップリング剤は、金属箔との間の引き剥がし強さを高くできることが明らかにされている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−339342号公報
【特許文献2】特開2008−133414号公報
【特許文献3】特開平6−52716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらシランカップリング剤はアミノ基やアクリル基の極性が高く、3GHzを超える高周波帯域では、誘電特性(特に吸湿後)が悪化するため、10GHz近傍又は10GHzを大きく超える高周波帯域で使用される自動車用アンテナ、携帯電話基地アンテナ、衝突防止用レーダー等の用途に展開することが困難であった。
【0007】
また、これらの高周波帯域で使用され長期信頼性が必要な用途では、85℃85%RH程度の穏やかな条件で吸湿を行い、吸湿後の誘電率や誘電損失の変化(吸湿ドリフト)が一定レベル以下でなければならないという要求がある。特許文献2記載の樹脂組成物は前述した熱可塑性の欠点が改善され、かつ誘電特性にも優れた、ポリフェニレンエーテルを含有する熱硬化性組成物であるが、上記吸湿ドリフトの要求に対し不十分である。
【0008】
そこで、本発明は、10GHz以上の高周波帯域での良好な誘電特性(以下、低誘電率・低誘電正接性ともいう)を備え、低吸湿性に優れ、吸湿時の誘電特性の変化が小さく(以下、吸湿時の低誘電ドリフト性ともいう)、かつ金属箔との間の引き剥がし強さ(以下、高接着性ともいう)を満足させるプリント配線板を製造可能な熱硬化性組成物の製造方法、並びにこの製造方法で得られる熱硬化性組成物を用いた熱硬化性複合シート及び金属張積層板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の発明(1)〜(4)に関する。
(1)ポリフェニレンエーテルである化合物(a)と架橋構造を有するポリブタジエンである化合物(b)とを含む高分子複合体と無機粒子(D)とを含有する熱硬化性組成物の製造方法であって、
前記製造方法が、
溶剤中で、架橋構造を有さずラジカル架橋反応性を有しない高分子化合物(A)の存在下で、
1,2−ブタジエン単位を分子中に40〜100質量%含有するポリブタジエンである化合物(B)と、ラジカル架橋反応性を有する化合物(C)(但し、前記化合物(B)は除く)とをラジカル架橋反応させて前記高分子複合体を得る工程(1)と、
無機粒子の表面を、
第1表面処理化合物で表面処理された後、さらに続けて第2表面処理化合物で表面処理するか、
第2表面処理化合物で表面処理された後、さらに続けて第1表面処理化合物で表面処理して前記無機粒子(D)を得る工程(2)と、
前記高分子複合体と無機粒子(D)とを混合する工程(3)とを有し、
前記化合物(A)中、前記化合物(a)の含有量が50〜100質量%であり、
前記第1表面処理化合物が、スチリルトリアルコキシシランであり、
前記第2表面処理化合物が、アルコキシシラン系化合物(但し、ビニル基を有する化合物は除く)及び/又はシリコーン系化合物であることを特徴とする熱硬化性組成物の製造方法。
(2)前記製造方法で得ることができる熱硬化性組成物。
(3)シート状基材の表面の少なくとも一部が、前記熱硬化性組成物で被覆されてなる熱硬化性複合シート。
(4)前記シート状基材と、金属箔とが、前記熱硬化性組成物の熱硬化物を介して積層してなる金属張積層板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、10GHz以上の高周波帯域での良好な誘電特性(低誘電率・低誘電正接性)を備え、低吸湿性に優れ、吸湿時の誘電特性の変化が小さく(吸湿時の低誘電ドリフト性)、かつ金属箔との間の引き剥がし強さ(高接着性)を満足させるプリント配線板を製造可能な熱硬化性組成物の製造方法、並びにこの製造方法で得られる熱硬化性組成物を用いた熱硬化性複合シート及び金属張積層板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法の工程(1)でラジカル架橋反応させないで得た混合物を使用した樹脂板の外観
【図2】本発明の製造方法の工程(1)で得た高分子複合体を使用した樹脂板の外観
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明の実施態様は先行技術の問題全てを解決する発明に限定されない。
【0013】
本発明の製造方法は、
ポリフェニレンエーテルである化合物(a)(以下、化合物(a)ともいう)と架橋構造を有するポリブタジエンである化合物(b)(以下、化合物(b)ともいう)を含む高分子複合体と、無機粒子(D)とを含有する熱硬化性組成物の製造方法であって、
溶剤中で、架橋構造を有さずラジカル架橋反応性を有しない化合物(A)(以下、化合物(A)ともいう)の存在下で、
側鎖に1,2−ブタジエン単位を分子中に40〜100質量%含有するポリブタジエンである化合物(B)(以下、化合物(B)ともいう)と、ラジカル架橋反応性を有する化合物(C)(但し、化合物(B)は除く)(以下、化合物(C)ともいう)とを、ラジカル架橋反応させて前記高分子複合体を得る工程(1)を有し、
化合物(A)中、化合物(a)の含有量が50〜100質量%である。
【0014】
〔高分子複合体〕
即ち、本発明の製造方法における工程(1)(以下、工程(1)ともいう)で得られる高分子複合体(以下、高分子複合体ともいう)は、
架橋構造を有さずラジカル架橋反応性を有しない化合物(A)と、
化合物(B)と化合物(C)とがラジカル架橋反応して得る架橋構造を有する化合物(b)とから構成され、
化合物(A)の主成分はポリフェニレンエーテル(化合物(a))であり、
化合物(B)は特定のポリブタジエンであり、
化合物(b)は、化合物(B)に由来する架橋構造を有するポリブタジエンである。
【0015】
高分子複合体は、
架橋構造を有さずラジカル架橋反応性を有しない化合物(A)と、
架橋構造を有する化合物(b)とによって、
いわゆるセミIPN構造が形成されていると考えられ、
この高分子複合体と後述する無機粒子(D)とを併用することで、
本発明の製造方法により得られる熱硬化性組成物(以下、本発明の熱硬化性組成物ともいう)の低誘電率・低誘電正接性、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保していると考えられている。
【0016】
高分子ゲルの分野では、架橋されていない直鎖状高分子と架橋網目を有する高分子とが、相互に化学的な結合を持つこととなく、分子間相互作用によって独立に存在する状態でお互いに絡み合って形成される物理ゲルの構造をセミIPN(Semi-Interpenetrating Polymer Network)構造と呼ぶ(吉田亮、「高分子ゲル」(高分子先端材料One Point 2)、2004年6月10日初版、共立出版)。
【0017】
工程(1)で得られる高分子複合体は、
化合物(A)が、上記の架橋されていない直鎖状高分子に対応し、
化合物(b)が、上記の架橋網目を有する高分子に対応し、
セミIPN構造に相当する化合物(A)と化合物(b)との凝集構造(以下、相容構造ともいう)を有していると推定される。
【0018】
以下に、化合物(A)と化合物(b)の相容構造の概念図を挙げる。太い実線が化合物(A)を表し、破線が化合物(b)を表し、破線中の点は化合物(b)中の架橋点を表す。
【0019】
【化1】

【0020】
ポリフェニレンエーテルとポリブタジエンとは本来、互いに非相溶であり、引用文献1に開示されるような従来のポリフェニレンエーテルとポリブタジエンとの単なる混合物は、ポリフェニレンエーテルとポリブタジエンとが独立に凝集する相分離構造となり混合物全体を均一な構造にすることが困難であった。しかし、本発明における高分子複合体は、ポリフェニレンエーテル(化合物(a))と架橋構造を有するポリブタジエン(化合物(b))とが、相容構造をなし、高分子複合体全体がミクロなレベルで均一な構造を形成していると考えられる。
【0021】
ポリフェニレンエーテルとポリブタジエンとの単なる混合物を使用した熱硬化性樹脂等の従来の熱硬化性組成物は、ポリフェニレンエーテルとポリブタジエンとが相分離構造を形成するため外観上不均一であり、工程(1)により得た高分子複合体を有する熱硬化性組成物は外観上均一である。
【0022】
例えば、本発明の製造方法の工程(1)でラジカル架橋反応させないで得た混合物を使用した樹脂板では、外観上不均一(斑模様が顕著)である上(図1参照)、ポリブタジエン由来のタック性が残る場合があった。しかし、本発明の製造方法の工程(1)で得た高分子複合体を使用した樹脂板は、外観上均一(斑模様がほとんど認められない)で(図2参照)、ポリブタジエン由来のタック性を抑制でき、タック性の問題を大きく低減できる。本発明の製造方法の工程(1)で得た高分子複合体と無機粒子(D)とを含む本発明の製造方法で得られる熱硬化性組成物を使用した樹脂板やプリプレグも、上記の本発明の製造方法の工程(1)で得た高分子複合体を使用した樹脂板と同等に、外観上均一で、ポリブタジエン由来のタック性を抑制でき、タック性の問題を大きく低減できる。
【0023】
図2の樹脂板は、後述する調整例1で得た高分子複合体溶液10gをガラス板上に置き、乾燥機内で110℃、10分間乾燥させてBステージ樹脂とした後、ガラス盤上のBステージ樹脂を185℃ 、90分間、2MPaの条件で加圧成型して得た。図1の樹脂板は、後述する調整例1で、架橋反応しなかった以外は、図2の樹脂板と同様にして得た。
図1及び2は、画像処理ソフト(Microsoft社製Microsoft Photoeditor)で、コントラスト=80の条件で画像処理をして斑模様を明瞭にした。
【0024】
本発明の金属張積層板は、プリプレグと同様に、熱硬化した本発明の熱硬化性組成物の部分は、外観上も均一であり、相容構造を形成するポリフェニレンエーテルと架橋構造を有するポリブタジエンの分子鎖同士が、部分的かつ物理的に絡み合った状態で均一な架橋密度で硬化するため、相分離構造を形成する従来のポリフェニレンエーテルとポリブタジエンの単なる混合物を含む熱硬化性樹脂を硬化させた場合よりも、弾性率が向上するため熱膨張係数が低くなると考えられる。さらに、本発明の熱硬化性組成物を熱硬化して得た樹脂は、弾性率の向上と相容構造と考えられる構造の形成により、低誘電率・低誘電正接性を維持しつつ、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を大幅に高めることができたと考えられる。
【0025】
低誘電率・低誘電正接性を維持しつつ、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を大幅に高める観点から、工程(1)で得られる高分子複合体中、化合物(A)の含有量は1〜50質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましく、化合物(B)及び(C)の含有量は後述するような化合物(A)の質量部との関係で好適範囲にあることである。
【0026】
〔化合物(A)〕
化合物(a)は、化合物(A)の主成分であり、本発明の熱硬化性組成物の低誘電率・低誘電正接性と低温下での成形性等の加工性及び金属めっきとの接着性を確保し、化合物(b)と相容構造と考えられる構造を形成して低誘電率・低誘電正接性を維持しつつ、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する(以下、「相容構造と考えられる構造を形成して低誘電率・低誘電正接性を維持しつつ、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する」ことを相容構造形成性ともいう)観点から、
2,6−ジメチルフェノールの単独重合で得られるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、
2,3,6,−トリメチルフェノールの単独重合で得られるポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテル、及び
2,6−ジメチルフェノールと2,3,6,−トリメチルフェノールとの共重合体からなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、この中では、
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルがより好ましい。
【0027】
化合物(a)以外の化合物(A)としては、本発明の熱硬化性組成物の効果を損なわない範囲で、架橋構造を有さずラジカル架橋反応性を有しない高分子化合物を選択できるが、溶媒への溶解性、化合物(a)との相溶性及び化合物(b)との相容構造形成性の観点から、
2,6−ジメチルフェノール及び/又は2,3,6,−トリメチルフェノールと、
ポリスチレン及び/又はスチレン−ブタジエンコポリマーとのアロイ化ポリマー等のいわゆる変性ポリフェニレンエーテル、及び/又は、後述する化合物(H)が好ましく、化合物(H)がより好ましい。化合物(H)の中では、化合物(a)との相溶構造形成性を確保する観点から、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
【0028】
化合物(A)の数平均分子量は、本発明の熱硬化性複合シートのボイド発生の抑制、ピール強度の確保、板厚の安定性及び樹脂分の確保の観点から、本発明の熱硬化性複合シートを製造する際の本発明の熱硬化性組成物の流動性(Bステージ樹脂の流れ性)を適な範囲に確保し、本発明の熱硬化性複合シートをプリント配線板とした時の低誘電率・低誘電正接性、並びに、化合物(b)との相容構造形成性の観点から、
好ましくは7000〜100000であり、より好ましくは10000〜50000であり、さらに好ましくは10000〜30000である。
【0029】
なお、本発明において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定され、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算されたものである。
・装置:JASCO 860−CO
・カラム:TOSOH TSKgel SuperHZ2000
・溶離液:THF
・溶離液流量:1ml/min
・カラム温度:40℃
・検出方法:UV
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0030】
全化合物(A)中の化合物(a)の含有量比(質量%)は、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低誘電率・低誘電正接性、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点、及び溶媒への溶解性の観点から、50〜100質量%であり、好ましくは80〜100質量%であり、より好ましくは90〜100質量%であり、さらに好ましくは95〜100質量%であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0031】
〔化合物(B)〕
化合物(B)は、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の金属めっきとの接着性を確保し、化合物(b)の化合物(a)との相容構造形成性の観点から、側鎖に1,2−ブタジエン単位を分子中に40〜100質量%、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%、さらに好ましくは80〜100質量%含有する。
【0032】
化合物(B)は、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性及び吸湿時の低誘電ドリフト性を改善する観点から、分子中の側鎖1,2−ビニル基や末端の両方又は片方を、エポキシ化、グリコール化、フェノール化、マレイン化、(メタ)アクリル化及びウレタン化等の化学変性されていないものの含有量が多いことが好ましく、このような化学変性がされていないポリブタジエンの含有量は、化合物(B)中、好ましくは80〜100質量%であり、より好ましくは90〜100質量%であり、さらに好ましくは95〜100質量%であり、さらに好ましくは99〜100質量%であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0033】
化合物(B)は、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性及び吸湿時の低誘電ドリフト性を改善する観点から、
−〔CH−CH=CH−CH〕−単位(j)及び
−〔CH−CH(CH=CH)〕−単位(k)からなることが好ましく、
jとkの比(j:k)が60:40〜5:95であるものを用いることがより好ましい。
【0034】
化合物(B)の好ましい具体例として、B−1000、B−2000、B−3000(日本曹達社製、商品名)、B−1000、B−2000、B−3000(新日本石油化学社製、商品名)、Ricon142、Ricon150、Ricon152、Ricon153、Ricon154(SARTOMER社製、商品名)等が挙げられ、これらは商業的に入手可能である。
【0035】
化合物(B)の数平均分子量は、化合物(A)、特に化合物(a)との相容構造形成性を確保し、本発明の熱硬化性複合シートを製造する際の本発明の熱硬化性組成物の流動性(Bステージ樹脂の流れ性)を確保する観点から、好ましくは500〜10000、より好ましくは700〜8000、さらに好ましくは1000〜5000である。
【0036】
〔化合物(C)〕
化合物(C)は、化合物(B)に対してラジカル架橋反応性を有する官能基を分子中に有する化合物(但し、化合物(B)は除く)で、下記の観点から、ビニル化合物、マレイミド化合物、ジアリルフタレート、(メタ)アクリロイル化合物、不飽和ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、ビニル化合物及び/又はマレイミド化合物がより好ましく、マレイミド化合物がさらに好ましい。
【0037】
化合物(C)は、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性及び高接着性を確保する観点から、化合物(A)と共に相容構造を形成すると考えられる化合物(b)の分子運動を拘束させるのに好ましいと思われる。
【0038】
なお、化合物(C)の中で、数平均分子量が好ましくは500〜10000、より好ましくは700〜8000、さらに好ましくは1000〜5000の、例えば、ポリマレイミドのような高分子化合物は、工程(1)において、化合物(B)と共に、化合物(A)と相容構造をとりうる。但し、低誘電率・低誘電正接性、吸湿時の誘電ドリフト性を確保する観点から、化合物(C)中の化合物(B)と共に化合物(A)と相容構造をとりうる高分子化合物は、化合物(B)とこの高分子化合物との総量中、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%、さらに好ましくは0重量%である。
【0039】
化合物(C)としてマレイミド化合物を使用する場合、マレイミド化合物は単独でも、二種類以上を組み合わせて用いてもよく、又はこれら一種以上のマレイミド化合物と上記に化合物(C)として例示した化合物の一種以上とを併用して用いてもよい。
【0040】
化合物(C)として、マレイミド化合物と上記に化合物(C)として例示した化合物とを併用する場合は、化合物(C)中のマレイミド化合物の割合は、本発明における熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性及び吸湿時の低誘電ドリフト性を確保する観点から、
好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、さらに好ましくは95〜100質量%であり、さらに好ましくは100質量%、すなわち化合物(C)がすべてマレイミド化合物であることである。
【0041】
化合物(C)として用いられるマレイミド化合物は、
本発明における熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性に加えて、難燃性等のトータルバランスが優れるという観点から、
下記一般式(1)で表される分子中に1個以上のマレイミド基を含有することが好ましく、
下記一般式(2)で表されるマレイミド化合物の1種以上の化合物を含むことがより好ましい。
【0042】
【化2】


(式中、Rはm価の脂肪族性、脂環式、芳香族性、複素環式のいずれかである一価又は多価の有機基であり、Xa及びXbは水素原子、ハロゲン原子及び脂肪族性の有機基から選ばれた同一又は異なっていてもよい一価の原子又は有機基であり、mは1以上の整数を示す。)
【0043】
【化3】


(式中、Rは、−C(Xc)−、−CO−、−O−、−S−、−SO−、又は連結する結合であり、それぞれ同一又は異なっていてもよい、Xcは炭素数1〜4のアルキル基、−CF、−OCH、−NH、ハロゲン原子又は水素原子を示し、それぞれ同一又は異なっていてもよく、それぞれベンゼン環の置換位置は相互に独立であり、n及びpは、0〜10の整数を示す)
【0044】
化合物(C)として使用できるマレイミド化合物は、モノマレイミド及びポリマレイミドが挙げられ、
本発明の熱硬化性複合シートの成形性を高める観点から、緩やかな硬化反応となるモノマレイミドが好ましく、
本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性、吸湿後の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点から、ポリマレイミドが好ましく、ポリマレイミドの中では、ビスマレイミドがより好ましい。
【0045】
化合物(C)として使用できる公知のモノマレイミドは、例えば、特許文献2段落0059及び0060に記載される化合物が挙げられるが、本発明の熱硬化性複合シートのボイド発生の抑制、ピール強度の確保、板厚の安定性及び樹脂分の確保の観点から、本発明の熱硬化性複合シートを製造する際の樹脂の流動性(Bステージ樹脂の流れ性)を適性にする観点から、
N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド及びN−シクロヘキシルマレイミドからなる群から選ばれる1種以上の化合物(I)が好ましく、コストの観点からは、N−フェニルマレイミドがより好ましい。
【0046】
化合物(C)として使用できる好ましいビスマレイミドとして、
2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンを含有する一種以上の化合物(II)、
ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタンを含有する一種以上の化合物(III)、
及びジビニルビフェニルを含有する一種以上の化合物(IV)からなる群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0047】
化合物(C)として使用されるマレイミド化合物は、プリント配線板とした時の低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性の観点からは、芳香族性のポリマレイミドが好ましく、破壊強度及び金属箔引き剥がし強さをさらに高める点では、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンを用いることがより好ましい。
【0048】
化合物(C)として用いられるビニル化合物は、
化合物(B)とのラジカル架橋反応架橋性に優れ、本発明における熱硬化性組成物を製造する際の溶媒中での化合物(A)及び化合物(b)との相容構造形成性を確保して、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性に加えて、難燃性等のトータルバランスを確保する観点から、スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ジビニルビフェニルからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、ジビニルビフェニルがより好ましい。
【0049】
化合物(C)として使用されるビニル化合物の好ましい具体例としては、ジビニルビフェニル(新日鐵化学社製)が挙げられ、商業的に入手可能である。
【0050】
〔工程(1)〕
工程(1)では、溶剤中で、化合物(A)の存在下で、化合物(B)と化合物(C)とをラジカル架橋反応させて高分子複合体を得る。
工程(1)では、より好ましくは、化合物(A)を溶剤に溶解させる等により媒体中に展開させた後、化合物(A)を含むこの溶液中に、化合物(B)及び化合物(C)を溶解又は分散させて、60〜170℃で、0.1〜20時間、加熱・撹拌してラジカル架橋反応させて高分子複合体を得ることである。
【0051】
高分子複合体を溶剤中で分散液又は溶液(以下、まとめて溶液という)にして製造する場合、濃縮等により固形分(不揮発分)濃度を高くした溶液としてもよく、溶液中の固形分(不揮発分)濃度が通常5〜80重量%となるように溶媒の使用量を調節することが好ましい。そして、第2の複合体を得た後は、濃縮等により溶媒を完全に除去して無溶媒の樹脂組成物としてもよく、又は高分子複合体をそのまま溶媒に溶解又は分散させた溶液としてもよい。
【0052】
高分子複合体の製造に用いられる化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)の配合割合は、
溶媒中での化合物(A)及び化合物(b)との相容構造形成性を確保する観点、低誘電率・低誘電正接性及び吸湿時の低誘電ドリフト性等の誘電特性と樹脂ワニス等の本発明の熱硬化性組成物のスラリーの粘度に起因する塗工作業性、並びに本発明の熱硬化性組成物の溶融粘度に起因する、本発明の熱硬化性組成物を使用したプリント配線板を製造する際の成形性の観点から、
化合物(A)の配合割合は、化合物(B)と化合物(C)との合計量100質量部に対して2〜200質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましく、15〜50質量部がさらに好ましい。
【0053】
化合物(C)の配合割合は、高分子複合体中の化合物(A)及び化合物(b)の相容構造形成性をより向上させる観点から、
化合物(B)100質量部に対して2〜200質量部が好ましく、5〜100質量部がより好ましく、10〜75質量部がさらに好ましい。
【0054】
化合物(A)の存在下で、化合物(B)と化合物(C)とを架橋反応させて高分子複合体を得る際に、本発明の熱硬化性複合シートの外観が均一でかつタック性が抑制される観点から、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板として使用した際の、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点から、架橋反応に伴う化合物(C)の反応率(以下、転化率ともいう)が5〜100%となるように架橋反応させることが好ましい。
【0055】
架橋反応に伴う化合物(C)の転化率とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した高分子複合体中の化合物(C)と予め作成した化合物(C)の検量線とから換算したものである。具体的には、工程(1)において、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)の合計で、例えば、10〜60質量%の濃度の混合溶剤溶液を使用する場合、
・ラジカル架橋反応前の混合溶剤溶液20mgを採取し、テトラヒドロフラン(THF)5mlで希釈した希釈溶液について、化合物(C)のGPCによるピーク面積Sを測定する。
・ラジカル架橋反応後の混合溶剤溶液20mgを採取し、THF5mlで希釈した希釈溶液について、化合物(C)のGPCによるピーク面積Saを測定する。
・(1−S/S)×100 から算出された値を化合物(C)の転化率とする。なお、GPCの測定条件は、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算されたものである。
・装置:JASCO 860−CO
・カラム:TOSOH TSKgel SuperHZ2000
・溶離液:THF
・溶離液流量:1ml/min
・カラム温度:40℃
・検出方法:UV
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0056】
ラジカル架橋反応に伴う化合物(C)の好ましい転化率は、高分子複合体を得る際の化合物(B)及び化合物(C)の配合割合によって異なり、
化合物(B)100質量部に対して、化合物(C)の配合割合が、
2〜10質量部の場合、転化率は10〜100%が好ましく、
10〜100質量部の場合、転化率は7〜90%がより好ましく、
100〜200質量部の場合、転化率は5〜80%がさらに好ましい。
【0057】
工程(1)において、高分子複合体を得る際の化合物(B)と化合物(C)とのラジカル架橋反応において、ラジカル架橋反応を開始させるための化合物(以下、反応開始剤ともいう)が、化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)と共に混合されてラジカル架橋反応が行われることが好ましい。反応開始剤は、例えば、過酸化物、アゾ化合物、レドックス開始剤、トリエチルボラン、ジエチル亜鉛等を使用できるが、後述する有機過酸化物系化合物である化合物(E)が、化合物(B)と化合物(C)とがラジカル架橋反応して形成される化合物(b)と化合物(A)との相容構造形成性の観点から好ましい。
【0058】
化合物(E)の配合割合は、化合物(B)と化合物(C)とがラジカル架橋反応して形成される化合物(b)と化合物(A)との相容構造形成性の観点から、化合物(B)と化合物(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.01〜5質量部であり、さらに好ましくは0.01〜2質量部であり、さらに好ましくは0.02〜1質量部であり、さらに好ましくは0.05〜1質量部である。
【0059】
〔工程(2)〕
本発明の製造方法における工程(2)(以下、工程(2)ともいう)は、
無機粒子の表面を、
第1表面処理化合物で表面処理された後、さらに続けて第2表面処理化合物で表面処理するか、
第2表面処理化合物で表面処理された後、さらに続けて第1表面処理化合物で表面処理して(以下、以上の2態様の表面処理をまとめて、2回表面処理ともいう)前記無機粒子(D)を得る工程であって、
第1表面処理化合物が、スチリルトリアルコキシシランであり、
第2表面処理化合物が、アルコキシシラン系化合物(但し、ビニル基を有する化合物は除く)及び/又はシリコーン系化合物である。
【0060】
なお、無機粒子の表面が、第1表面処理化合物又は第2表面処理化合物で処理されるとは、無機粒子の表面に第1表面処理化合物又は第2表面処理化合物が物理的及び/又は化学的に吸着及び/又は結合するように、第1表面処理化合物又は第2表面処理化合物を無機粒子の表面に接触させることをいう。
【0061】
本発明では、高分子複合体と組み合せる無機充填剤の態様と、これらの特性との関係が詳細に検討され、異なる表面処理剤を処理した無機粒子を単に混合するのではなく、特定の異なる表面処理剤を一の無機粒子に2回表面処理して得た無機粒子(D)を使用することで、プリント配線用に対して、低誘電率・低誘電正接性を維持しつつ、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を大きく改善した本発明の熱硬化性組成物を得ることができた。
【0062】
無機粒子を2回表面処理する方法は、湿式法及び/又は乾式法を使用でき、無機粒子表面と第1及び第2表面処理化合物との反応性の観点からは乾式法が好ましく、第1表面処理化合物のスチリル基を保護する観点からは湿式法が好ましく、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板として使用した際の、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点から湿式法がより好ましい。
【0063】
無機粒子に湿式法及び/又は乾式法で第1表面処理化合物(又は第2表面処理化合物)を処理し、続いて湿式法及び/又は乾式法で第1表面処理化合物(又は第2表面処理化合物)を重ねて処理してもよく、
予め第1表面処理化合物(又は第2表面処理化合物)で処理された無機粒子(C)を購入し、これを湿式法及び/又は乾式法で第2表面処理化合物(又は第1表面処理化合物)を処理してもよい。
【0064】
湿式法の場合は、無機粒子を有機溶媒等(分散媒)で第1表面処理化合物及び第2表面処理化合物を湿式処理して得た無機粒子(D)を含むスラリーをそのまま本発明の製造方法の後述する工程(3)の原材料として用いることができ、
乾式法の場合は、無機粒子を第1表面処理化合物及び第2表面処理化合物で乾式処理して得た無機粒子(D)を有機溶媒等に分散させたスラリーを本発明の製造方法の後述する工程(3)の原材料として用いることができる。
【0065】
第1表面処理化合物を第2表面処理化合物よりも先に吸着及び/又は結合させる方法は、高接着性の改善効果を優先して確保する点で好ましく、
第2表面処理化合物を第1表面処理化合物よりも先に吸着及び/又は結合させる方法は、低吸湿性及び吸湿時の低誘電ドリフト性を優先して確保する点で好ましい。
【0066】
湿式法において、無機粒子を2回表面処理する時間は、各表面処理化合物について、通常、0.001〜48時間であり、製造効率と所望の特性の確保のバランスの観点から、温度条件等を考慮して制御すればよい。なお、湿式法においては、一方の表面処理化合物だけを含む分散液中に無機粒子を投入してから、少なくとも1日経過後に他方の表面処理化合物をこの分散液中に添加することが好ましい。
【0067】
湿式法において、無機粒子の表面を処理する際の温度は、一般に、0〜200℃であればよく、温度が高ければ処理する時間を短縮でき、温度が低ければスチリル基の保護において好適である。
【0068】
無機粒子の表面に処理される第1表面処理剤及び第2表面処理剤の合計の質量は、無機粒子(D)の樹脂材料への分散性や硬化物とした時の耐熱性を考慮して、無機粒子の質量に対して0.01〜20質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましく、0.1〜7質量%がさらに好ましい。また、無機粒子の表面に処理される第1表面処理剤と第2表面処理剤の合計100質量%に対するそれぞれの質量割合(第1表面処理剤/第2表面処理剤)は、低吸湿性と高接着性を確保する観点から、
10/90〜90/10が好ましく、30/70〜80/20がより好ましく、50/50〜70/30がさらに好ましい。
【0069】
〔無機粒子(D)〕
無機粒子(D)を得るために使用する無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化チタン、マイカ、酸化ケイ素、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー等のクレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群より選ばれる1種以上の無機粒子が好ましく、
低誘電率・低誘電正接性の観点から、
酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる1種以上の無機粒子がより好ましく、
酸化ケイ素、酸化アルミニウム及びケイ酸アルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の無機粒子がさらに好ましく、
酸化ケイ素がさらに好ましい。
【0070】
無機粒子(D)は、通常、樹脂に充填剤又はフィラーとして使用される態様であることが望ましく、
低吸湿性の観点から、球状であることが好ましく、吸水性を抑制する観点と、本発明の熱硬化性組成物のドリル加工やプレス加工を円滑に行うことができるという観点から、無機粒子(D)の平均粒径は0.1〜15μmの範囲が好ましく、0.25〜 10μmがより好ましく、0.5〜5μmがさらに好ましい。
【0071】
なお、無機粒子(D)が球状であるとは、倍率1000〜10000の顕微鏡写真から、20個の無機粒子について求めた無機粒子の断面積(S)及び周囲長(L)から算出される球形度=(L2/S)/(4π)の算術平均値を指標とし、本発明の製造方法で得られる熱硬化性組成物を使用した樹脂板やプリプレグの低吸湿性とプレス成形時の銅箔等の材料の安定性を確保する観点から、球形度の算術平均値が、1〜1.2であることが好ましく、1〜1.1であることがより好ましい。
【0072】
また、無機粒子(D)の平均粒径は、倍率1000〜10000の顕微鏡写真から、20個の無機粒子について求めた無機粒子の断面積(S)から算出される円換算直径=2(S/π)1/2の算術平均値を指標とする。本発明の製造方法で得られる熱硬化性組成物を使用した樹脂板やプリプレグのドリル開孔時のドリル刃の安定性を確保し、プレス成形時の流動性を確保する観点から、円換算直径の算術平均値が、0.1〜15μmであることが好ましく、0.25〜10μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることがさらに好ましい。
【0073】
〔表面処理化合物〕
無機粒子の2回表面処理に使用する第1表面処理化合物は、スチリルトリアルコキシシランであり、無機粒子との反応性がよく、本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板として使用した際の、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点から、
スチリルトリメトキシシラン及び/又はスチリルトリエトキシシランが好ましく、スチリルトリメトキシシランがより好ましい。
【0074】
無機粒子の2回表面処理に使用する第2表面処理化合物は、極性が低く耐吸湿性に優れるシラン系処理化合物であるアルコキシシラン系化合物(但し、ビニル基を有する化合物は除く)及び/又はシリコーン系化合物である。
【0075】
無機粒子の表面において、耐吸湿性に優れる第2表面処理化合物が第1表面処理化合物の直近に配されることに加え、第1表面処理化合物が適切に選択されることにより、第1表面処理化合物の低吸湿性が顕著に向上し、第1表面処理化合物の低誘電率・低誘電正接性及び吸湿時の低誘電ドリフト性の改善効果が飛躍的に向上するものと考えられる。
【0076】
第2表面処理化合物として使用される化合物としては、低吸湿性に優れるC〜C30アルキルトリアルコキシシラン、C〜C30アルキルジアルコキシシラン、C〜C30アルキルトリアルコキシシラン、シクロアルキルトリアルコキシシラン、シクロアルキルジアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、トリス(トリアルキルシロキシ)シラン、シリコーンオリゴマー、アルコキシシリコーンオリゴマー、長鎖アルキル変性非反応性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性非反応性シリコーンオイル、及びシリコーンコーティング剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0077】
その中でも、低吸湿性の観点から、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、下記式(C−1)で表されるシリコーンオリゴマー、下記式(C−2)で表されるシリコーンオイル、及び下記式(C−3)で表されるシリコーンコーティング剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物がより好ましい。即ち、式(C−1):
【0078】
【化4】


(式中、R及びRは、H、CH3、C65、Ca2a+1、C24CF3、又は
【0079】
【化5】


のうちのいずれかであり、aは1以上の整数であり、nは1以上の整数である)
で表されるシリコーンオリゴマー、式(C−2):
【0080】
【化6】


(式中、R、R、a及びnは、上記と同義であり、
、R、R、R、R及びRは、H、CH3、C65、Ca2a+1、C24CF3、又は
【0081】
【化7】


のうちのいずれかである)
で表されるシリコーンオイル、及び式(C−3):
【0082】
【化8】


(式中、R、R、R、R、R、R、a及びnは、上記と同義であり、
及びRは、H、CH3、C65、Ca2a+1、C24CF3、又は
【0083】
【化9】


のうちのいずれかであり、bは1以上の整数であり、cは1以上の整数であり、dは1以上の整数である)で表されるシリコーンコーティング剤からなる群より選択される少なくとも一種の化合物が、より好ましい。
【0084】
〔熱硬化性組成物〕
本発明の熱硬化性組成物を熱硬化させるにあたり、
高分子複合体中に、高分子複合体を製造する際に使用されたラジカル架橋反応性を有する化合物(例えば、化合物(B)及び/又は化合物(C))(以下、架橋剤ともいう)と反応開始剤(例えば、化合物(E))が残存する場合、これらの残存物を、本発明の熱硬化性組成物に架橋を形成して熱硬化させるための架橋剤及び反応開始剤として作用させてもよい。なお、化合物(C)の転化率が100%であっても、化合物(B)の分子中に二重結合が残れば架橋剤として作用しうるので、例えば、化合物(A)と化合物(b)との相容構造形成性を向上する観点からの前述の化合物(B)と化合物(C)の好適質量部と、その好適質量部に応じた前述の化合物(C)の好適転化率との関係から、化合物(B)内の二重結合残存量を見積もることができる。
【0085】
本発明の熱硬化性組成物を熱硬化させるにあたり、
上記の残存物がない、又は、残存量が不十分な場合は、
本発明の熱硬化性組成物の熱硬化反応を開始又は促進させるため、
本発明の熱硬化性組成物に、さらに、反応開始剤として化合物(E)及び/又は架橋剤として分子中に1個以上のエチレン性不飽和結合基を含有する架橋性モノマー又は架橋性ポリマーである化合物(F)を含有していることが好ましい。化合物(E)及び/又は化合物(F)は、後述する本発明の製造方法における工程(3)において、高分子複合体と無機粒子(D)と共に混合される。
【0086】
本発明の製造方法で得られる熱硬化性組成物の低誘電率・低誘電正接性、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点から、熱硬化性組成物中、高分子複合体の含有量は、10〜80質量%が好ましく、15〜60質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。
【0087】
〔工程(3)〕
本発明の製造方法における工程(3)(以下、工程(3)ともいう)は、高分子複合体と無機粒子(D)とを混合する工程である。
【0088】
工程(3)における無機粒子(D)の配合割合は、本発明の熱硬化性組成物の熱硬化物が、低誘電率・低誘電正接性を維持しつつ、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保する観点から、
化合物(A)、化合物(B)及び化合物(C)の合計量100質量部に対して、1〜1000質量部が好ましく、5〜500質量部がより好ましく、10〜350質量部がさらに好ましい。
【0089】
工程(3)においては、本発明の熱硬化性組成物の低誘電率・低誘電正接性、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を確保することに加え、本発明の熱硬化性組成物を使用してプリント配線基板を製造する際の熱硬化性、難燃性等を確保するために、高分子複合体と無機粒子(D)に加えて、必要に応じて、後述する化合物(E)、(F)、(G)、(H)及びその他添加剤を混合することが好ましい。
【0090】
反応開始剤である化合物(E)は、工程(1)を経て高分子複合体が製造された後に、工程(3)において好ましく混合される。化合物(E)としては、公知の反応開始剤を選択することができ、例えば、特許文献2段落0078に記載される化合物が好適に使用できる。このうち、
反応開始温度を高温にできるという観点から、
ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド及びパーオキシエステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、
ケトンパーオキサイド及び/又はジアルキルパーオキサイドがより好ましく、
ジアルキルパーオキサイド、中でも、α,α′−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンがさらに好ましい。
【0091】
工程(3)において、化合物(E)の混合割合は、低誘電率・低誘電正接性等の誘電特性の観点から、二重結合を含む化合物100質量物に対して、
好ましくは0.1〜10質量部であり、
より好ましくは0.5〜5質量部であり、
さらに好ましくは1〜5質量部である。
【0092】
架橋剤である化合物(F)は、工程(1)を経て高分子複合体が製造された後に、工程(3)において好ましく混合される。化合物(F)は、化合物(B)及び化合物(C)として好適に挙げられた化合物を用いることができるが、化合物(B)として好適な化合物としては、数平均分子量が10000を超えるポリブタジエンも使用できる。化合物(F)として化合物(B)又は化合物(C)と同一のものを使用する場合、工程(1)で用いたものと、それぞれ同種のものを用いても、異なる種類のものを用いてもよい。
【0093】
化合物(F)として、数平均分子量が10000を超えるポリブタジエンを配合する場合、液状タイプでも固形タイプでも用いることができ、1,2−ビニル結合比率及び1,4−結合比率については特に制限されない。
【0094】
本発明の熱可塑性組成物における化合物(F)の混合割合は、耐熱性及び低誘電率・低誘電正接性等の誘電特性の観点から、高分子複合体100質量部に対して、好ましくは2〜100質量部、より好ましくは2〜80質量部、さらに好ましくは2〜60質量部である。
【0095】
工程(3)においては、本発明の熱硬化性組成物の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、
臭素系難燃剤及び/若しくはリン系難燃剤である化合物(G)並びに/又は飽和型熱可塑性エラストマーである化合物(H)がさらに混合されてよく、
さらに、各種熱硬化性樹脂、各種熱可塑性樹脂及び各種添加剤からなる群から選ばれる1種以上(以下、その他添加剤ともいう)を配合してもよい。
【0096】
化合物(G)は、本発明の熱硬化性組成物の熱硬化後に難燃性が要求される場合に、工程(1)を経て高分子複合体が製造された後に、工程(3)において好ましく混合される。化合物(G)は、公知の臭素系及び/又はリン系の難燃剤を選択することができ、例えば、特許文献2段落0086及び0087に記載される化合物が好適に使用できる。このうち、本発明の熱硬化性組成物の低誘電率・低誘電正接性を損なわない観点から、
臭素系では、臭素化添加型難燃剤である、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の臭素化エポキシ樹脂、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン及び2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、
ヘキサブロモベンゼン及び/又はエチレンビス(ペンタブロモフェニル)がより好ましく、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)がさらに好ましい。
リン系では、芳香族系リン酸エステルである、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ−2,6−キシレニルホスフェート及びレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)並びに赤リンからなる群から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、トリフェニルホスフェート及び/又は赤リンがより好ましく、トリフェニルホスフェートがさらに好ましく、
臭素系難燃剤がより好ましい。
【0097】
工程(3)において、化合物(G)の混合割合は、
本発明の熱硬化性組成物をプリント配線板とした時の難燃性を確保し、低誘電率・低誘電正接性、低吸湿性、吸湿時の低誘電ドリフト性及び高接着性を損なわない観点から、高分子複合体100質量部に対して、好ましくは5〜200質量部であり、より好ましくは5〜150質量部であり、さらに好ましくは5〜100質量部である。
【0098】
化合物(H)は、本発明の熱硬化性組成物の低誘電率・低誘電正接性等の誘電特性を調整する場合に、工程(1)を経て高分子複合体が製造された後に、工程(3)において好ましく混合される。
化合物(H)は、高分子複合体との相溶性を確保する観点から、高分子複合体中の化合物(A)、特に化合物(a)との相溶性の良いスチレン系飽和型熱可塑性エラストマー、芳香環を有するポリオレフィン等のポリオレフィンが好ましく、スチレン系飽和型熱可塑性エラストマーでは、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体が挙げられる。スチレン−エチレン−ブチレン共重合体は、スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンブロックの不飽和二重結合部分を水素添加する方法等により得ることができる。
【0099】
化合物(H)としてスチレン系飽和型熱可塑性エラストマーを用いる場合、高分子複合体との相溶性と、本発明の熱硬化性組成物を硬化させた場合の熱膨張の抑制性とのバランスから、スチレン系飽和型熱可塑性エラストマーの分子中におけるスチレンブロックの含有比率が20〜70モル%であることが好ましい。さらに、化合物(H)は、スチレン系飽和型熱可塑性エラストマーの分子中にエポキシ基、水酸基、カロボキシル基、アミノ基、酸無水物等の官能基を付与した化学変性飽和型熱可塑性エラストマーを用いることもできる。化合物(H)は単独種類でも、二種類以上を組み合わせて用いてもよく、スチレン系飽和型熱可塑性エラストマーを用いる場合、スチレン含有量の異なる二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
工程(3)における、化合物(H)の混合割合は、本発明の熱硬化性組成物の熱硬化後の低誘電率・低誘電正接性等の誘電特性の向上効果と熱膨張の抑制の観点から、高分子複合体100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部であり、より好ましくは2〜50質量部であり、さらに好ましくは5〜30質量部である。
【0101】
本発明の熱硬化性組成物に必要に応じて配合される各種熱硬化性樹脂及び各種熱可塑性樹脂としては、公知の樹脂から選択することができ、例えば、特許文献2段落0093に記載されている化合物が好ましく、このうち、
本発明の熱硬化性組成物の誘電特性を向上する観点から、
熱硬化性樹脂では、ベンゾシクロブテン樹脂および/又はジシクロペンタジエン樹脂が好ましく、
熱可塑性樹脂では、ポリオレフィン類及びその誘導体が好ましく、
これらの化合物は、熱硬化性組成物及び熱可塑性樹脂のそれぞれにおいて、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
〔本発明の製造方法〕
本発明の製造方法は、好ましくは、以下の態様がある。
[態様1]
工程(1)において、高分子複合体をペレット、粉体等の固形物として製造する。
工程(2)において、無機粒子(D)を粉体等の固形物として製造する。
工程(3)において、固形物である高分子複合体と無機粒子(D)とを、必要に応じて、化合物(E)〜(H)、その他添加剤と共に溶剤中で混合して高分子組成物スラリーとする。
これらは、それぞれ独立に(工程(3)に混合する化合物、その他添加剤は適宜組み合せてもよい)、予め溶剤中で溶液(なお、高分子複合体は相容構造を維持した凝集単位で溶解していると考えられる)又はスラリーにしてから混合して高分子組成物スラリーとしてもよい。
例えば、工程(3)において、工程(1)で製造した固形物である高分子複合体の溶液を製造しておいて、その溶液に無機粒子(D)を混合してスラリー(以下、高分子複合体スラリーともいう)を予め製造し、必要に応じて、化合物(D)〜(G)、その他添加剤を混合して高分子組成物スラリーとすることが好ましい。
このようにして得た高分子組成物スラリーから溶剤を除去して乾燥し、樹脂状又はフィルム状の本発明の熱硬化性組成物とする。
【0103】
[態様2]
溶剤中で、化合物(A)の存在下で化合物(B)と化合物(C)をラジカル架橋反応させて高分子複合体溶液を製造し(工程(1))、得られた高分子複合体溶液に、別途工程(2)で製造した無機粒子(D)を固形物又はスラリーの状態で混合して高分子複合体スラリーを製造し(工程(3))、そこに、必要に応じて、化合物(D)〜(G)、その他添加剤を混合して高分子組成物スラリーを製造し(工程(3))、この高分子組成物スラリーから溶剤を除去し、乾燥して樹脂状又はフィルム状の本発明の熱硬化性組成物とする。
【0104】
[態様3]
溶剤中で、化合物(A)の存在下で化合物(B)と化合物(C)をラジカル架橋反応させて高分子複合体溶液を製造し(工程(1))、得られた高分子複合体溶液中で、無機粒子の2回表面処理をして無機粒子(D)を製造して(工程(2))複合体スラリーを得て(工程(3))、そこに、必要に応じて、化合物(D)〜(G)、その他添加剤を混合して高分子組成物スラリーを製造し(工程(3))、この高分子組成物スラリーから溶剤を除去し、乾燥して樹脂状又はフィルム状の本発明の熱硬化性組成物とする。
【0105】
本発明の熱硬化性組成物を製造する際に使用する溶剤としては、
例えば、特許文献2段落0092に記載されるものが好ましく、
トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類及び/又は芳香族炭化水素類とアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類との混合溶媒が好ましく、芳香族炭化水素類とアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類との混合溶剤がさらに好ましい。
【0106】
これらの溶剤のうち、芳香族炭化水素類及びケトン類を混合溶剤として用いる場合のそれらの配合割合は、芳香族炭化水素類100質量部に対して、ケトン類が、好ましくは5〜100質量部、より好ましくは10〜80質量部、さらに好ましくは15〜60質量部である。
【0107】
なお、無機粒子の2回表面処理をして得た無機粒子(D)のスラリーを本発明の原材料として用いる場合も、上記に示した溶剤等が使用でき、これらは一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよく、複合体の製造の際に用いられる溶媒と同種のものでも、異なる種類の溶剤を用いてもよい。
【0108】
〔樹脂ワニス〕
本発明の熱硬化性組成物として、高分子複合体、無機粒子(D)を含む本発明の熱硬化性組成物である高分子組成物スラリーを、本発明の熱硬化性複合シートを製造するのに好適な樹脂ワニス(以下、樹脂ワニスともいう)として使用できる。また、一度、樹脂状で得られた本発明の熱硬化性組成物を適当な溶剤に混合して高分子組成物スラリーとして、これを樹脂ワニスとして使用できる。
【0109】
樹脂ワニスに用いられる溶剤は、高分子複合体及び化合物(E)〜(H)の溶解性及び無機粒子(D)の分散性の観点から、複合体の製造の際に用いられる溶剤について記載したものが好ましく、これらは一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよく、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類や、芳香族炭化水素類とアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類との混合溶媒がより好ましい。なお、ワニス化する際の溶媒は、上記ポリフェニレンエーテル変性ブタジエンプレポリマーの製造の際に用いられる溶媒と同種のものでも、異なる種類の溶媒を用いてもよい。
【0110】
樹脂ワニス中の固形分(不揮発分)濃度は、5〜80重量%となるように溶剤の使用量を調節することが好ましいが、樹脂ワニスを用いて本発明のプリプレグを製造する際、溶剤量を調節することにより、塗工作業に最適な(例えば、良好な外観及び適正な本発明の熱硬化性組成物付着量となるように)固形分(不揮発分)濃度や樹脂ワニスの粘度に調製することができる。
【0111】
〔熱硬化性複合シート〕
上述した樹脂ワニスを、シート状基材に含浸させて、シート状基材の表面の少なくとも一部が、本発明の熱硬化性組成物で被覆されてなる熱硬化性複合シートを得ることができる。例えば、樹脂ワニスを、ガラス繊維や有機繊維等の強化繊維織物に含浸させた後、乾燥炉中等で通常、60〜200℃、好ましくは80〜170℃の温度で、2〜30分間、好ましくは3〜15分間乾燥させることによって熱硬化性複合シートとしてプリプレグが得られる。
【0112】
シート状基材としては、好ましくは、織物、不織布、フィルム等が挙げられ、プリント配線基板用途では、本発明の熱硬化性組成物のシート状基材への浸透密着性、ドリルによる穿孔性等の加工性の観点から、より好ましくは織物である。
【0113】
本発明の熱硬化性複合シートに使用するシート状基材としては、プリント配線基板用途では、
材質として、ガラス、紙、セラミックス等、
厚みとして、0.01〜1mm程度の範囲、
織物としてのガラス布では、坪量が10〜300g/m
の中から、要求される誘電特性やサイズに応じて適宜選択される。
【0114】
シート状基材がガラスクロスのようにガラス質を含む場合、硬化性複合シートの低誘電率を確保する観点から、シート状基材が含むガラス質の含有比率は、熱硬化性複合シート中、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%、さらに好ましく30〜50質量%、さらに好ましくは40〜50質量%である。
【0115】
〔金属張積層板〕
本発明の熱硬化性複合シートを1枚又は複数枚重ねた、その片面又は両面に金属箔を配置し、所定の条件で加熱及び/又は加圧することにより両面又は片面の金属張積層板が得られる。この場合の加熱は、好ましくは100℃〜250℃の温度範囲で実施することができ、加圧は、好ましくは0.5〜10.0MPaの圧力範囲で実施することができる。加熱及び加圧は真空プレス等を用いて同時に行うことが好ましく、この場合、これらの処理を30分〜10時間実施することが好ましい。
【0116】
また、上述のようにして製造されたプリプレグや金属張積層板を用いて、公知の方法によって、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔をエッチング等による回路形成加工及び多層化接着加工を行うことによって、片面、両面又は多層プリント配線板が得られる。
【0117】
本発明は、上記の形態、態様に限定されず、その発明の目的から逸脱しない範囲内において、任意の変更、改変を行うことができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0119】
〔工程(1)〕
調製例1
温度計、還流冷却器、減圧濃縮装置及び撹拌装置を備えた1リットル容のセパラブルフラスコに、トルエン333質量部(333g)と、化合物(a)としてのポリフェニレンエーテル(S202A、旭化成ケミカルズ社製、Mn:16000)13質量部を投入し、フラスコ内の温度を90℃に設定して撹拌溶解した。次いで、化合物(B)としてポリポリブタジエン(B−3000、日本曹達社製、Mn:3000、1,2−ブタジエン単位:90%)100質量部と、化合物(C)としてのN−フェニルマレイミド(イミレックス−P、日本触媒社製)16質量部を投入し、撹拌を続けた。これらが溶解又は均一分散した化合物(a)、化合物(B)及び化合物(C)の混合液を得たことを確認した。その後、液温を110℃に上昇させた。なお、上記の化合物(B)は、分子中の側鎖1,2−ビニル基や末端の両方又は片方を、エポキシ化、グリコール化、フェノール化、マレイン化、(メタ)アクリル化及びウレタン化による化学変性がなされていない。
【0120】
上記の化合物(a)、化合物(B)及び化合物(C)の混合液の温度を110℃に保ったまま、反応開始剤として、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(パーヘキサTMH、日本油脂社製)0.5質量部を配合した。反応開始剤を配合した上記の混合液を撹拌しながら約1時間架橋反応させて、高分子複合体溶液を得た。
【0121】
この高分子複合体溶液中のN−フェニルマレイミドの転化率をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したところ転化率は30%であった。
【0122】
高分子複合体溶液から、減圧条件で溶剤を除去し、160℃30分乾燥して得た高分子複合体樹脂を、IR分析したところ、ポリフェニレンエーテル(化合物(a))とポリブタジエンが含まれていることが確認でき、NMR分析によりこのポリブタジエンは架橋しており化合物(b)を構成していることが確認できる。
【0123】
〔工程(2)及び工程(3)〕
上記のようにして得たフラスコ内の高分子複合体溶液の液温を80℃に設定した。その後、撹拌しながら溶液の固形分濃度が60質量%となるように減圧濃縮した。次に、溶液を室温まで冷却した。
【0124】
次いで、予め溶剤中で第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン(KBM−3063、信越化学工業社製)を無機粒子の質量に対して1質量%の処理量で先に入れ、次いで無機粒子として球形シリカ(SO−25R、平均粒径:0.5μm、アドマテックス社製)を入れ、1日放置してから第1表面処理化合物としてスチリルトリメトキシシラン(KBM−1403、信越化学工業社製)を無機粒子の質量に対して1質量%の処理量で混合したスラリー(固形分:70質量%、溶剤:MIBK)315質量部(固形分:220質量部)を作成し(工程(2))、室温の高分子複合体溶液210質量部(固形分濃度60質量%)に配合して高分子複合体スラリーを得た(工程(3))。
【0125】
次いで、化合物(H)としてスチレン−エチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物2種(タフテックH1043およびタフテックH1051、旭化成ケミカルズ社製)の24.5%トルエン溶液を155質量部(固形分:各19質量部)、室温の高分子複合体スラリーに配合した(工程(3))。
【0126】
次いで、化合物(F)としてビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(BMI−5100、大和化成工業社製)4質量部を配合した(工程(3))。
次いで、化合物(G)としてのエチレンビス(ペンタブロモフェニル)(SAYTEX8010、アルベマール社製)50質量部を配合した(工程(3))。
【0127】
次いで、化合物(E)としてα,α′−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(パーブチルP、日本油脂社製)3質量部を添加して高分子組成物スラリーを得た(工程(3))。この高分子組成物スラリーの固形分中、高分子複合体は29.1質量%である。
【0128】
〔樹脂ワニス〕
上記の高分子組成物スラリーに、メチルイソブチルケトン(MIBK)を配合して、調製例1の樹脂ワニス(固形分濃度約50質量%)を調製した(工程(3))。
【0129】
調製例2
調製例1において、第2表面処理化合物と第1表面処理化合物の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例2の樹脂ワニスを調製した。
【0130】
調製例3
調製例1において、第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにデシルトリメトキシシラン(KBM−3103、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして調製例3の樹脂ワニスを調製した。
【0131】
調製例4
調製例3において、第2表面処理化合物と第1表面処理化合物の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例4の樹脂ワニスを調製した。
【0132】
調製例5
調製例1において、第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにシクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CHMS−112、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして調製例5の樹脂ワニスを調製した。
【0133】
調製例6
調製例5において、第2表面処理化合物と第1表面処理化合物の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例6の樹脂ワニスを調製した。
【0134】
調製例7
調製例1において、第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにトリス(トリメチルシロキシ)シラン(S−1003TS、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして調製例7の樹脂ワニスを調製した。
【0135】
調製例8
調製例7において、第2表面処理化合物と第1表面処理化合物の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例8の樹脂ワニスを調製した。
【0136】
調製例9
調製例1において、第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにシリコーンオリゴマー(KR−2000、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして調製例9の樹脂ワニスを調製した。
【0137】
調製例10
調製例9において、第2表面処理化合物と第1表面処理化合物の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例10の樹脂ワニスを調製した。
【0138】
調製例11
調製例1において、第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりに長鎖アルキル変性非反応性シリコーンオイル(KF−4917、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして調製例11の樹脂ワニスを調製した。
【0139】
調製例12
調製例11において、第2表面処理化合物と第1表面処理化合物の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例12の樹脂ワニスを調製した。
【0140】
調製例13
調製例1において、第2表面処理化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにシリコーンコーティング剤(KPN−3504、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして調製例13の樹脂ワニスを調製した。
【0141】
調製例14
調製例13において、第2表面処理剤と第1表面処理剤の配合順を逆にしたこと以外は同様にして調製例14の樹脂ワニスを調製した。
【0142】
比較調製例1
調製例1において、ヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにビニルトリメトキシシラン(KBM−1003、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして比較調製例1の樹脂ワニスを調製した。
【0143】
比較調製例2
調製例1において、ヘキシルトリメトキシシラン1%とスチリルトリメトキシシラン1%の代わりにビニルトリメトキシシラン(KBM−1003、信越化学工業社製)2%を用いたこと以外は同様にして比較調製例2の樹脂ワニスを調製した。
【0144】
比較調製例3
調製例1において、ヘキシルトリメトキシシラン1%の代わりにスチリルトリメトキシシラン(KBM−1403、信越化学工業社製)を用い、スチリルトリメトキシシラン合計2%としたこと以外は同様にして比較調製例3.の樹脂ワニスを調製した。
【0145】
比較調製例4
温度計、還流冷却器、減圧濃縮装置及び撹拌装置を備えた1リットル容のセパラブルフラスコに、トルエン350質量部と、化合物(a)としてのポリフェニレンエーテル(S202A、旭化成ケミカルズ社製、Mn:16000)50質量部を投入し、フラスコ内の温度を90℃に設定して撹拌溶解した。
次いで、化合物(B)としてのポリポリブタジエン(B−3000、日本曹達社製、Mn:3000、1,2−ブタジエン単位:90%)100質量部と、化合物(C)としてのビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(BMI−5100、大和化成工業社製)35質量部と、溶液中の固形分(不揮発分)濃度が30質量%となるように、溶媒としてのメチルイソブチルケトン(MIBK)を投入し、撹拌を続けた。これらが溶解又は均一分散したことを確認した。その後、液温を110℃に上昇させた。
【0146】
その温度110℃を保ったまま、反応開始剤として、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(パーヘキサTMH、日本油脂社製)0.5質量部を配合した。配合した物を撹拌しながら約1時間架橋反応させて、複合体溶液を得た。
【0147】
この複合体溶液中のビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン転化率をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したところ、転化率28%であった。
【0148】
次いで、フラスコ内の液温を80℃に設定した。その後、撹拌しながら溶液の固形分濃度が45質量%となるように濃縮した。次に、溶液を室温まで冷却した。
【0149】
次いで、予め溶剤中でビニルトリメトキシシラン(KBM−1003、信越化学工業社製)を処理量2質量%で表面処理した球形シリカ(SO−25R、平均粒径:0.5μm、アドマテックス社製)のスラリー(固形分:70質量%、溶剤:MIBK)128質量部(固形分:90質量部)とを配合した。
【0150】
次いで、α,α′−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(パーブチルP、日本油脂社製)5質量部を添加した。次いで、メチルエチルケトン(MEK)を配合して、調製例1の樹脂ワニス(固形分濃度約50質量%)を調製した。
【0151】
比較調製例5
比較調製例4において、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタンの代わりに、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン(BMI−4000、大和化成工業社製)40質量部を用いたこと以外は、比較調製例4と同様にして複合体を得た。
【0152】
このポリフェニレンエーテル変性ブタジエンプレポリマー溶液中のイミレックス−Pの転化率をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したところ31%であった。
【0153】
続いて、この溶液を比較調製例4と同様にして濃縮した。次いで、液温を80℃に保ったまま、成分(H)の飽和型熱可塑性エラストマとしてスチレン−エチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物(タフテックH1051、スチレン含有比率:42%、旭化成ケミカルズ社製)30質量部を配合した。スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物は溶解しづらいので、撹拌羽根等によって好ましくは1時間程度の攪拌をして、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物を全て溶解させる。その後、撹拌しながら室温まで冷却し、予め溶剤中でp−スチリルトリメトキシシラン(KBM−1403、信越化学工業社製)を処理量2質量%で表面処理した球形シリカ(SO−25R、平均粒径:0.5μm、アドマテックス社製)のスラリー(固形分:70質量%、溶剤:MIBK)157質量部(固形分:110質量部)と、難燃剤としてエチレンビステトラブロモフタルイミド(BT−93W、アルベマール社製)70質量部を配合した。
【0154】
次いで、成分(E)としてα,α′−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(パーブチルP、日本油脂社製)5質量部を添加した。次いで、メチルエチルケトン(MEK)を配合して、比較調製例5の樹脂ワニス(固形分濃度約50質量%)を調製した。
【0155】
比較調製例6
調製例1において、第1表面処理化合物の代わりにシリコーンオリゴマー(KR−2000、信越化学工業社製)1%を用いたこと以外は同様にして比較調製例6の樹脂ワニスを調製した。
【0156】
比較調製例7
調製例1において、第1表面処理化合物の代わりにビニルトリメトキシシラン1%を用いたこと以外は同様にして比較調製例6の樹脂ワニスを調製した。
【0157】
調製例1〜14及び比較調製例1〜7の樹脂ワニス(硬化性樹脂組成物)の調製に用いた第1及び第2表面処理化合物を表1にまとめて示す。
【0158】
【表1】

【0159】
〔熱硬化性組成物の樹脂〕
調製例1〜14及び比較調製例1〜7で得られた樹脂ワニスを、ガラス板上に0.3mmのギャップで塗工した。次いで、110℃で10分間加熱乾燥して、Bステージの樹脂を得た。これをテフロン(登録商標)の型枠に所定量入れ、両面に厚さ18μmのロープロファイル銅箔(F3−WS、M面Rz:3μm、古河電気工業社製)をM面が接するように配置し、185℃、2MPa、90分のプレス条件で加熱加圧成形して、本発明の熱硬化性組成物の樹脂の板(厚さ:0.1mm)を作製した。
【0160】
〔熱硬化性複合シート〕
調製例1〜14及び比較調製例1〜7で得られた樹脂ワニスを、厚さ0.1mmのガラス布(Eガラス、日東紡績社製)に含浸した。
次いで、100℃で6分間加熱乾燥して、樹脂含有割合56〜57質量%(ガラス布が含むガラス質が44〜43質量%)の本発明の熱硬化性複合シートとしてプリプレグを作製した。
【0161】
〔金属張積層板〕
上述のプリプレグ6枚を重ねてなる基材の両面に、厚さ18μmのロープロファイル銅箔(F3−WS、M面Rz:3μm、古河電気工業社製)をM面が接するように配置し、185℃、4MPa、80分のプレス条件で真空加熱加圧成形して、本発明の金属張積層板である両面銅張積層板(厚さ:0.7mm)を作製した。
【0162】
上述の樹脂板及びエッチングした両面銅張積層板について、10GHzでの誘電特性、吸水率、銅箔引き剥がし強さ(ピール強度)を評価した。
特性評価方法は以下の通りである。
【0163】
誘電特性の測定
誘電特性は、空洞共振器法により測定した。
さらに、誘電特性(比誘電率、誘電正接)は、恒温恒湿槽(条件:85℃、85%RH)中に500時間保持した後のもの(略称:C−500/85/85)についても測定した。常態と吸湿後の誘電率の差をΔDk、誘電正接の差をΔDfとした。
なお、測定条件は常態の場合と同様とした。
【0164】
吸水率の測定
吸水率は、吸湿前後の質量変化から求めた。吸湿処理は上記C−500/85/85の条件で行った。吸湿前のエッチングした樹脂板及びエッチングした銅張積層板の質量をWd、吸湿後の質量をWwとし、((Ww/Wd)−1)*100の値(%)を吸水率とした。
【0165】
ピール強度の測定
ピール強度は、樹脂板及び銅張積層板に5mm幅のテープを貼り、過硫酸アンモニウム水溶液で銅箔を5mm幅にエッチングし、テープをはがしてから銅箔引き剥がし強さを測定した。
【0166】
樹脂板の特性評価結果を表2に、銅張積層板の結果を表3にまとめて示す。
【0167】
【表2】

【0168】
【表3】

【0169】
まず、表2において樹脂板を85℃85%RHに500時間おいたときの誘電率変化量ΔDk(C−500/85/85)を見ると、第一の表面処理剤としてビニル基含有シランカップリング剤を使用した比較例1のΔDkが0.043であるのに対し、実施例では0.032〜0.038と小さい値を示している。特許文献15によると比較例のビニル基含有シランカップリング剤を使用した樹脂系は誘電特性に優れており吸湿後の誘電率変化も小さいが、本発明の処理剤群を使用すると、それよりも誘電率変化量が小さく、さらに優れていることが分かる。誘電正接変化量ΔDf(C−500/85/85)も比較例1の0.0020と比べ、実施例では0.0012〜0.0018と小さな値を示しており、こちらも本発明の処理剤群のほうが優れていることが分かる。吸水率(C−500/85/85)も同様に、比較例1が0.23%であるのに対し、実施例では0.15〜0.22%と耐吸湿性に優れている。
【0170】
次に、第二の表面処理剤の添加手順の影響を見てみると、第一の処理剤を先に加えた実施例1ではΔDkが0.033、ΔDfが0.0013、吸水率が0.15%と、吸湿特性に優れている。また、第二の処理剤を先に加えた実施例2では、ピール強度が実施例1の0.53に対して0.58と高い値を示している。このことから、耐吸湿性に優れた第一の処理剤を先に添加すると吸湿特性が良好となり、金属箔引き剥がし強さを増加させる第二の処理剤を先に添加するとピール強度が上がることが分かる。
これらのことは、他の実施例や表3の銅張積層板の特性についても当てはまる。
【0171】
以上より、本発明の処理剤群は、誘電特性の吸湿依存性に優れた特許文献15のビニル基含有シランカップリング剤よりも吸湿依存性に優れているといえる。
これらのことは、表3の銅張積層板の特性についても当てはまる。
【0172】
以上より、本発明の処理剤群は、誘電特性の吸湿依存性に優れた特許文献2のビニル基含有シランカップリング剤よりも吸湿依存性に優れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の熱硬化性組成物の製造方法等は、10GHzを超える高周波信号を扱う移動体通信機器やその基地局装置、サーバー、ルーター等のネットワーク関連電子機器及び大型コンピュータ等の各種電気・電子機器に使用されるプリント配線板の部材・部品用途として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテルである化合物(a)と架橋構造を有するポリブタジエンである化合物(b)とを含む高分子複合体と無機粒子(D)とを含有する熱硬化性組成物の製造方法であって、
前記製造方法が、
溶剤中で、架橋構造を有さずラジカル架橋反応性を有しない高分子化合物(A)の存在下で、
1,2−ブタジエン単位を分子中に40〜100質量%含有するポリブタジエンである化合物(B)と、ラジカル架橋反応性を有する化合物(C)(但し、前記化合物(B)は除く)とをラジカル架橋反応させて前記高分子複合体を得る工程(1)と、
無機粒子の表面を、
第1表面処理化合物で表面処理された後、さらに続けて第2表面処理化合物で表面処理するか、
第2表面処理化合物で表面処理された後、さらに続けて第1表面処理化合物で表面処理して前記無機粒子(D)を得る工程(2)と、
前記高分子複合体と無機粒子(D)とを混合する工程(3)とを有し、
前記化合物(A)中、前記化合物(a)の含有量が50〜100質量%であり、
前記第1表面処理化合物が、スチリルトリアルコキシシランであり、
前記第2表面処理化合物が、アルコキシシラン系化合物(但し、ビニル基を有する化合物は除く)及び/又はシリコーン系化合物であることを特徴とする熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記化合物(A)が、飽和型熱可塑性エラストマーである化合物(H)を含む請求項1記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(B)が、
−〔CH−CH=CH−CH〕−単位(j)、及び
−〔CH−CH(CH=CH)〕−単位(k)からなるポリブタジエンであり、
j:kの比が60:40〜5:95であり、
前記化合物(C)が、分子中に1個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である請求項1又は2記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(A)の配合割合が、前記化合物(B)と前記化合物(C)との合計量100質量部に対して2〜200質量部であり、
前記化合物(C)の配合割合が、前記化合物(A)100質量部に対して2〜200質量部であり、
前記無機粒子(D)の配合割合が、前記化合物(A)と前記化合物(B)と前記化合物(C)との合計量100質量部に対して1〜1000質量部である請求項1〜3記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記第1表面処理化合物と前記第2表面処理化合物の合計の質量が、前記無機粒子の質量に対して、0.01〜20質量%である、請求項1〜4いずれか1項記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項6】
前記無機粒子が、酸化アルミニウム、酸化チタン、マイカ、酸化ケイ素、酸化ベリリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上の無機粒子である、請求項1〜5いずれか1項記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項7】
前記無機粒子が平均粒子径0.01〜30μmの酸化ケイ素である請求項1〜6いずれか1項記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記工程(1)において、さらに、ラジカル架橋反応開始性を有する化合物(E)を混合して、前記ラジカル架橋反応をさせる、請求項1〜7いずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)を経た後に、前記工程(3)において、さらに、
ラジカル架橋反応開始性を有する化合物(E)及び/又は分子中に1個以上のエチレン性不飽和二回結合基を含有するラジカル架橋反応性単量体又はラジカル架橋反応性高分子である化合物(F)を混合する請求項1〜8いずれか1項記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程(1)を経た後に、前記工程(3)において、さらに、
臭素系難燃剤及び/又はリン系難燃剤である化合物(G)及び/又は
飽和型熱可塑性エラストマーである化合物(H)を混合する請求項1〜9いずれか1項記載の熱硬化性組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか1項記載の製造方法で得ることができる熱硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1記載の工程(1)で得られた高分子複合体と、
請求項1記載の工程(2)で得られた無機粒子(D)と、
前記高分子複合体及び無機粒子(D)を溶解又は分散する溶剤と
を含むスラリーである請求項11記載の熱硬化性組成物。
【請求項13】
シート状基材の表面の少なくとも一部が、請求項11記載の熱硬化性組成物で被覆されてなる熱硬化性複合シート。
【請求項14】
前記シート状基材がガラス質を含み、
前記熱硬化性複合シート中の前記ガラス質の含有比率が20〜70質量%である請求項13記載の熱硬化性複合シート。
【請求項15】
請求項13又は請求項14記載のシート状基材と、金属箔とが、請求項11記載の熱硬化性組成物の熱硬化物を介して積層してなる金属張積層板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77107(P2012−77107A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220628(P2010−220628)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】