説明

熱線反射性透明材料、熱線反射性透明材料の製造方法及び熱線反射性透明材料を備えた温室

【課題】製造工程が簡易で、可視光透過性及び熱線反射性に優れた熱線反射性透明材料を提供する。
【解決手段】透明基材の表面に、金属ドープ酸化インジウム膜が成膜された透明材料であって、前記金属ドープ酸化インジウム膜の膜厚が、120〜150nmであり、前記金属ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が3×10−3Ω・cm以上であり、前記透明材料の可視光透過率が85%以上、日射透過率が82%以下、可視光透過率の値と日射透過率の値との差が7以上である熱線反射性透明材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性及び熱線反射性に優れた熱線反射性透明材料及びその製造方法、並びに、該熱線反射性透明材料を備えた温室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラスや透明樹脂等の透明材料は、建築用窓材、車両用窓材、温室等の用途に使用されている。しかしながら、夏季など日射の強い時期では、日射が該透明材料を透過して室内に流入するので、室内温度が上昇し、冷房負荷が嵩む。そこで近年では、省エネルギーの観点から、かかる透明材料に熱線反射性を付与する技術が種々提案されている。
【0003】
下記特許文献1には、透明導電膜を含む多層構成の熱線反射膜が基板表面に成膜された透明性基板を用いた温室が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、基板上に、スズ添加酸化インジウム膜、耐熱膜及び二酸化ケイ素膜を順に重ねて配した熱線反射基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2006/098285号パンフレット
【特許文献2】特開2008−105297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示された熱線反射基材は、熱線反射膜がいずれも多層構成をなしているので、製造工程が煩雑化し、製造コストが嵩む問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、製造工程が簡易で、可視光透過性及び熱線反射性に優れた熱線反射性透明材料及びその製造方法、並びに、該熱線反射性透明材料を備えた温室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1] 透明基材の表面に、金属ドープ酸化インジウム膜が成膜された透明材料であって、前記金属ドープ酸化インジウム膜の膜厚が120〜150nmであり、前記金属ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が3×10−3Ω・cm以上であり、前記透明材料の可視光透過率が85%以上、日射透過率が82%以下、可視光透過率の値と日射透過率の値との差が7以上であることを特徴とする熱線反射性透明材料。
[2] 前記金属ドープ酸化インジウム膜が、遷移金属ドープ酸化インジウム膜である[1]に記載の熱線反射性透明材料。
[3] 前記遷移金属ドープ酸化インジウム膜が、錫ドープ酸化インジウム膜、亜鉛ドープ酸化インジウム膜、タングステンドープ酸化インジウム膜及びタンタルドープ酸化インジウム膜からなる群より選ばれる少なくとも1種である[2]に記載の熱線反射性透明材料。
[4] 前記透明基材が、ガラス又はフッ素樹脂である[1]〜[3]のいずれか記載の熱線反射性透明材料。
[5] 前記透明基材が、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体である[4]に記載の熱線反射性透明材料。
[6] 前記透明基材の表面に、金属ドープ酸化インジウムの単層膜が成膜されている、[1]〜[5]のいずれか記載の熱線反射性透明材料。
[7] 金属ドープ酸化インジウムをターゲット材とし、スパッタリングチャンバーに不活性ガスと酸素ガスとを導入し、スパッタリング法により透明基材上に金属ドープ酸化インジウム膜を成膜する熱線反射性透明材料の製造方法であって、成膜圧力を0.05〜10Paとし、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を1.8体積%以上とすることを特徴とする熱線反射性透明材料の製造方法。
[8] 前記スパッタリング法が、マグネトロンスパッタリング装置を用いた直流スパッタリング法である[7]に記載の熱線反射性透明材料の製造方法。
[9] [1]〜[6]のいずれかに記載の熱線反射性透明材料を備えた温室。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱線反射性透明材料によれば、透明基材の表面に、比抵抗が3×10−3Ω・cm以上で、膜厚が120〜150nmの金属ドープ酸化インジウム膜を成膜したことにより、可視光透過率が85%以上、日射透過率が82%以下、可視光透過率の値と日射透過率の値との差が7以上となり、可視光透性に優れ、かつ、熱線反射性に優れる。また、この金属ドープ酸化インジウム膜は、耐候性等の耐久性に優れるので、保護層等を成膜する必要がなく、単層膜で十分な耐久性が得られる。このため、製造工程を簡略化でき、製造コストを低減できる。
また、本発明の熱線反射性透明材料の製造方法によれば、金属ドープ酸化インジウムをターゲット材とし、成膜圧力を0.05〜10Paとし、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を1.8体積%以上にして、スパッタ法により成膜することで、透明基材の表面に、比抵抗が3×10−3Ω・cm以上の金属ドープ酸化インジウム膜を成膜できる。
そして、本発明の温室は、このような熱線反射性透明材料を備えているので、植物の生育を促進しつつ、室内温度の上昇を抑制できるので、冷房負荷を低減でき、温室のランニングコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スパッタリング装置の概略構成図である。
【図2】実施例1の熱線反射性透明材料(透明基材上に錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されたもの)と、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルム(透明基材のみ)との分光スペクトルである。
【図3】スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度と、成膜された錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗との関係図である。
【図4】スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度と、熱線反射性透明材料の可視光透過率及び日射透過率との関係図である。
【図5】錫ドープ酸化インジウム膜の膜厚と、熱線反射性透明材料の可視光透過率及び日射透過率との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱線反射性透明材料は、透明基材の表面に、金属ドープ酸化インジウム膜が成膜されてなるものである。
【0012】
本発明における透明基材としては、特に限定されるものではなく、少なくとも可視光領域で透明性を有する材料が用いられる。ここで、可視光領域で透明性を有するとは、可視光透過率が少なくとも70%以上であることをいう。可視光透過率は、透明性基材の厚さに依存することから、透明性の低い基材は、必要とされる特性を損なわない範囲で、基材を薄くすることにより、透明性を向上できる。本発明における透明基材の可視光透過率は、85%以上であり、87%以上が好ましい。透明基材の可視光透過率は高いものほど好ましい。
【0013】
透明基材の材質としては、ガラス(ソーダライムガラス、ほう珪酸ガラス、結晶化ガラス等)、透明性樹脂(ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等)等が挙げられる。これらの中でも、耐候性等の耐久性に優れることから、ガラス、フッ素樹脂が好ましく用いられる。より好ましくはフッ素樹脂である。フッ素樹脂は、ガラスに比べて極めて軽量であるので、熱線反射性透明材料を、建築用窓材、車両用窓材、温室等の用途に使用する際において、太い骨組等が不要となり、建築物、車両、温室等の材料コストを低減できる。更には、例えば、温室に使用する場合においては、骨組みによって生じる日陰部位をより少なくできるので、植物の生育を促進しやすくできる。
【0014】
上記のフッ素樹脂としては、樹脂の分子構造中にフッ素を含有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、公知のフッ素樹脂が使用可能である。例えば、テトラフルオロエチレン系樹脂、クロロトリフルオロエチレン系樹脂、フッ化ビニリデン系樹脂、フッ化ビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、耐候性、防汚染性等に優れるという理由から、テトラフルオロエチレン系樹脂が好ましい。
【0015】
テトラフルオロエチレン系樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、エチレン・トリクロロフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。これらのうち、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、エチレン・トリクロロフルオロエチレン共重合体が好ましい。中でも、コスト、機械的強度、スパッタ成膜性等の点から、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体が特に好ましい。
【0016】
テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体は、エチレン及びテトラフルオロエチレンを主体とするものである。テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体を構成するエチレンに基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位とのモル比(エチレンに基づく繰返し単位/テトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位)は、40/60〜70/30が好ましく、40/60〜60/40がより好ましい。また、必要に応じ、少量のその他のコモノマーを共重合させたものであってもよい。
【0017】
その他のコモノマーとしては、エチレン及びテトラフルオロエチレンと共重合可能なモノマーであれば特に限定はない。例えば、1)CF=CFCl、CF=CH等の含フッ素エチレン類、2)CF=CFCF、CF=CHCF等の含フッ素プロピレン類、3)CH=CHC、CH=CHC、CH=CFC、CH=CF(CFH等のフルオロアルキル基の炭素数が2〜10の含フッ素アルキルエチレン類、4)CF=CFO(CFCFXO)Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基、mは1〜5の整数を示す)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類、5)CF=CFOCFCFCFCOOCH、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF等のカルボン酸基やスルホン酸基に変換可能な基を有する含フッ素ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0018】
コモノマーに基づく繰返し単位の含有量は、全モノマーに基づく繰返し単位に対して、0.01〜10モル%が好ましく、0.05〜5モル%がより好ましく、0.1〜4モル%が最も好ましい。
【0019】
透明基材の形状は、特に限定されるものではなく、板状、シート状、フィルム状等いずれの形状であっても好ましく用いられる。
【0020】
透明基材の厚さは、特段に限定されるものではなく、材質、用途、形状等により適宜選定すればよい。例えば、板状の透明基材の場合は、2mm〜50mmが好ましく、2mm〜20mmがより好ましい。また、フィルム状やシート状の透明基材の場合は、10μm〜1mmが好ましく、12μm〜300μmがより好ましく、60μm〜200μmが最も好ましい。
【0021】
本発明における金属ドープ酸化インジウム膜としては、遷移金属ドープ酸化インジウム膜が好ましい。遷移金属ドープ酸化インジウム膜としては、錫ドープ酸化インジウム膜(Indium−Tin−Oxide:ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム膜(Indium−Zinc−Oxide:IZO)、タングステンドープ酸化インジウム膜及びタンタルドープ酸化インジウム膜からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、錫ドープ酸化インジウム膜、タングステンドープ酸化インジウム膜であり、錫ドープ酸化インジウム膜が最も好ましい。錫ドープ酸化インジウム膜やタンステンドープ酸化インジウム膜は、屈折率がおよそ2と比較的大きいために光学干渉により日射透過率を小さくすることができる。
【0022】
金属ドープ酸化インジウム膜の組成としては、金属とインジウムとの質量比率(金属/インジウム)が、5/95〜50/50であることが好ましく、10/90〜40/60であることがより好ましい。また、金属ドープ酸化インジウム膜の酸素含有量は、50〜55質量%が好ましく、51〜54質量%がより好ましい。
【0023】
本発明において、金属ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は、3×10−3Ω・cm以上であり、1×10−2Ω・cm以上が好ましく、1×10−1Ω・cm以上がより好ましく、1×10Ω・cm以上が最も好ましい。金属ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が3×10−3Ω・cm以上であれば、熱線反射性透明材料の可視光透過率を高めつつ、日射透過率を低下できる。そして、比抵抗が1×10Ω・cm以上であれば、熱線反射性透明材料の可視光透過率をより高めつつ、日射透過率を低下できる。
【0024】
金属ドープ酸化インジウム膜の膜厚は、120〜150nmであり、125〜145nmが好ましい。金属ドープ酸化インジウム膜の膜厚を上記範囲とすることで、熱線反射性透明材料の可視光透過率を高めつつ、日射透過率を低下できる。
【0025】
本発明の熱線反射性透明材料は、金属ドープ酸化インジウム膜の表面に、二酸化ケイ素膜、ダイヤモンドライクカーボン、アルミナ等の保護膜が成膜されていてもよい。なお、本発明の熱線反射性透明材料は、金属ドープ酸化インジウム膜の表面にこのような保護膜を有していなくても、耐候性等の耐久性に優れる。このため、製造工程を簡略化して、製造コストを低減できるという理由から、保護膜を有さないこと、すなわち、透明基材の表面には、金属ドープ酸化インジウムの単層膜が成膜されてなるものが好ましい。
【0026】
本発明の熱線反射性透明材料は、可視光透過率が85%以上であり、87%以上が好ましい。可視光透過率は高い方が好ましいが、可視光透過率が85%以上であれば、透明性に優れ、例えば、本発明の熱線反射性透明材料を温室に使用した場合において、栽培する植物の生育を効果的に促進できる。なお、本発明における可視光透過率とは、ガラスなどの基板面に垂直に入射する昼光の光束について、透過光束の入射光束に対する比をいう。昼光とは、国際照明委員会(略称CIE:International Commision on Illumination)が定めたCIE昼光を意味するものとする。CIE昼光では、観測データに基づき、黒体放射の色温度と同じ色温度の昼光の分光照度分布を波長560nmの値に対する相対値で示している。また、光束とは、放射の波長ごとの放射束と視感度の値の積の数値を波長について積分したものである(日本工業規格JIS Z 8113及びJIS Z 8120参照)。
【0027】
本発明の熱線反射性透明材料は、日射透過率が82%以下であり、80%以下が好ましい。日射透過率は低い方が好ましいが、日射透過率が82%以下であれば、日射を遮蔽して、室内温度の上昇を抑制でき、冷房負荷を低減できる。なお、本発明における日射透過率とは、ガラスなどの基板面へ垂直に入射する日射の放射束について透過放射束の入射放射束に対する比をいう。また、日射とは、直達日射、すなわち、大気圏を透過して地上に直接到達する近紫外、可視及び近赤外の波長域(300〜2500nm)の放射をいう。
【0028】
本発明の熱線反射性透明材料は、可視光透過率の値と日射透過率の値との差が7以上である。前記差は、10以上が好ましく、12以上がより好ましい。可視光透過率の値と日射透過率の値との差は大きい方が好ましいが、前記差が7以上であれば、可視光透過性に優れ、かつ、熱線反射性に優れたものとなる。なお、本発明における可視光透過率の値と日射透過率の値との差とは、熱線反射性透明材料の可視光透過率の値から、熱線反射性透明材料の日射透過率の値を引いた値を意味する。
【0029】
本発明の熱線反射性透明材料が、上記した可視光透過率、日射透過率となる理由としては、以下によるものであると考えられる。すなわち、比抵抗を小さくするためには、酸素導入量を小さくし酸素欠陥を誘起する必要があるが、その結果として酸素欠陥による光吸収が生じ可視光透過率を大きくすることが出来ない。一方、比抵抗を大きくするために酸素導入量を多くした場合、酸素欠陥は消失し可視光透過率を大きくすることができる。日射透過率は電気抵抗とともに大きくなるが、3×10−3Ω・cm以上であれば飽和する。このようにして可視光透過率を高めつつ、日射透過率を抑えることができる。
【0030】
次に、本発明の熱線反射性透明材料の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の熱線反射性透明材料の製造方法は、金属ドープ酸化インジウムをターゲット材とし、スパッタリングチャンバーに不活性ガスと酸素ガスとを導入し、スパッタリング法により透明基材上に金属ドープ酸化インジウム膜を成膜して製造することである。スパッタリング法であれば、緻密で、表面状態が平滑で、均一な膜厚の金属ドープ酸化インジウム膜を透明基材上に成膜できる。更には、透明基材と金属ドープ酸化インジウム膜との密着性を高めることができる。
【0032】
本発明において、スパッタリング法としては、特に限定はなく、いずれの方法も使用できる。例えば、直流スパッタリング法、交流スパッタリング法、高周波スパッタリング法等が挙げられる。また、スパッタリング装置としては、マグネトロンスパッタリング装置、2極スパッタリング装置、4極スパッタリング装置等が挙げられる。なかでも、マグネトロンスパッタリング装置を用いた直流スパッタリング法で成膜することが好ましい。マグネトロンスパッタリング装置を用いた直流スパッタリング法は、成膜速度が速く、大面積の透明基材であっても効率よく金属ドープ酸化インジウム膜を成膜できる。更には、間欠的な負の直流電流をターゲット材に印加することにより、成膜時のアーキングを効果的に抑制できるので、投入電力を増大させ、更に大きな成膜速度を長時間持続することが可能である。
【0033】
金属ドープ酸化インジウム膜の厚さは、使用する装置毎に、ロール搬送速度と成膜の繰り返し回数を適宜選定することにより、制御することが好ましい。
【0034】
図1に、本発明の熱線反射性透明材料の製造方法において使用できるスパッタリング装置の概略構成図を示す。図中の1は、スパッタリングチャンバーであり、2は真空ポンプであり、3は不活性ガス源であり、4は酸素ガス源であり、5は巻き取り装置であり、6は被巻き取り装置であり、7は透明材料であり、8はターゲット材であり、9はメインローラである。このスパッタリング装置での成膜は、以下のようにして行われる。すなわち、まず、真空ポンプ2を作動させてスパッタリングチャンバー1内を真空引きする。次に、真空引きされたスパッタリングチャンバー1内に、スパッタリングガスとして、不活性ガス3と酸素ガス4とを所定の割合で導入する。そして、巻き取り装置5及び被巻き取り装置6を作動させ、ターゲット材8に電力を印加する。このようにすると、被巻き取り装置6から引き出された透明基材7は、メインローラ9と係合されてターゲット材8と対向しながらメインローラ9の外周面に沿って移動し、ターゲット材8のスパッタリングによって発生する粒子が、メインローラ9に接した透明基材7の外面側(成膜面)に付着して成膜し、成膜された透明基材が巻き取り装置5で巻き取られる。
【0035】
本発明では、スパッタリングガスとして、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いるが、該混合ガス中の酸素ガス濃度は1.8体積%以上であり、2〜60体積%が好ましく、3〜50体積%がより好ましく、3〜20体積%が最も好ましい。スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を1.8体積%以上にする、すなわち、スパッタガス(不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス)中の酸素濃度を1.8体積%以上にすることで、比抵抗が3×10−3Ω・cm以上の金属ドープ酸化インジウム膜を、透明基材の表面に成膜できる。スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を調整するには、スパッタリングチャンバーに不活性ガスと酸素ガスとを導入する際、不活性ガスと酸素ガスとの流量比を調整することで制御できる。例えば、スパッタリングチャンバー内を5×10−5Pa以下まで真空引きした後、不活性ガスと酸素ガスとの流量比(不活性ガス/酸素ガス)が、90sccm/10sccm〜98.2sccm/1.8sccmとなるようにそれぞれ導入することで、スパッタリングチャンバー内の酸素ガス濃度を1.8体積%以上に調整できる。なお、sccmとは、standard cc/minの略号であり、1atm(大気圧1013hPa)、0℃で規格化されたcc/minであることを示す。
【0036】
また、スパッタリングガスに用いる前記不活性ガスとしては、アルゴンガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス等が挙げられる。なかでも、安価で、放電安定性に優れるという理由からアルゴンガスが好ましい。
【0037】
スパッタリング時の成膜条件としては、成膜圧力は、0.05〜10Paとし、0.3〜3Paが好ましい。成膜圧力が0.05Pa未満であると、金属ドープ酸化インジウム膜を成膜できない傾向にある。また、成膜圧力が10Paを超えると、装置負荷が大きくなり、更には、緻密な金属ドープ酸化インジウム膜を成膜できない傾向にある。
【0038】
ターゲット材(金属ドープ酸化インジウム)に対する電力密度は、0.35〜7w/cmであることが好ましく、0.7〜3w/cmがより好ましい。電力密度が0.35w/cm未満であると、緻密な金属ドープ酸化インジウム膜を成膜できない傾向にある。また、電力密度が7w/cmを超えると、ターゲットが破損する傾向にある。
【0039】
成膜速度は、ターゲット材の種類により異なるが、0.3〜6nm・m/minが好ましく、0.9〜3.5nm・m/minがより好ましい。成膜速度が0.3nm・m/min未満であると、膜の緻密性が不十分となる傾向にある。また、成膜速度が6nm・m/minを超えると、ターゲット負荷が大きくなり、ターゲットを破損しやすくなる傾向にある。
【0040】
このようにすることで、透明基材上に、比抵抗が3×10−3Ω・cm以上の金属ドープ酸化インジウム膜を形成できる。
【0041】
ここで、酸素ガス濃度が1.8体積%以上の雰囲気下でスパッタリングを行うことで、成膜される金属ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が大きくなる理由としては、以下のように考えられる。
【0042】
比抵抗は、キャリア濃度とキャリア移動度の積で表せる。スパッタリングチャンバー内の酸素ガス濃度が大きくなると膜中に過剰な酸素が取り込まれるために、酸素欠損ドナーによるキャリア濃度の減少を引き起こすために比抵抗が増加するものと考えられる。
そして、後述する、実施例において、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度と、成膜された錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗との関係図を図3に示し、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度と、熱線反射性透明材料の可視光透過率(Tv)及び日射透過率(Te)との関係図を図4に示したが、図3に示されるように、成膜時のスパッタリングチャンバー内の酸素濃度が増加するに伴い、錫ドープ酸化インジウム膜は化学量論比の組成に近づき、酸素欠損が少なくなるためにキャリア濃度が減少し、比抵抗は増加している。日射透過率を支配する因子としては、比抵抗が小さいときに生ずるプラズマ吸収に依る近赤外反射と、比抵抗によらない透明基材と金属酸化ドープインジウム膜との屈折率差に起因する光学干渉効果がある。また可視光透過率を支配因子としては、酸素割合が少ない時に生ずる酸素欠陥に起因する光の吸収がある。
このため、図4に示されるように、上記の理由により比抵抗が小さい、つまり成膜時の酸素割合が少ないときには日射透過率は小さくできるが、酸素欠陥による光吸収のために可視光透過率を大きくすることができない。一方、比抵抗が3×10−3Ω・cm以上の金属酸化ドープインジウム膜については、日射透過率は、透明基材と金属酸化ドープインジウム膜の光学干渉による効果のみとなるため一定となる。このとき酸素欠陥による光吸収が少なくなるため可視光透過率は増大し、1×10Ω・cm以上では一定となる。このように、金属酸化ドープインジウム膜の比抵抗が3×10−3Ω・cm以上であれば、可視光透過率を高めつつ日射透過率を低減できる。
【0043】
このようにして得られた熱線反射性透明材料は、可視光透過率が85%以上、日射透過率が82%以下、可視光透過率の値と日射透過率の値との差が7以上であって、可視光透過性及び熱線反射性に優れているので、建築用窓材、車両用窓材、温室等の用途に使用でき、温室の用途に用いることが好ましい。
【0044】
本発明の熱線反射性透明材料を備えた温室としては、例えば、フィルム状の熱線反射性透明材料の場合においては、温室の骨組みの全面あるいは上面が覆われるように熱線反射性透明材料が展張されたパイプハウスなどの温室等が挙げられる。また、シート状や板状の熱線反射性透明材料の場合においては、熱線反射性透明材料の周囲を枠体等で囲い、これを温室の上面あるいは側面に取り付けた温室等が挙げられる。
【0045】
本発明の熱線反射性透明材料を備えた温室は、可視光透過性に優れ、更には熱線反射性に優れるので、特に、夏季における室温上昇を抑制でき、冷房負荷を低減できる。このため、温室内で植物を栽培する際において、夏季の昼間でも、植物の葉温が高温になりにくいので、生育阻害が生じにくく、例えば、ナス、トマト、ピーマン、唐辛子等のナス科の果菜類、キュウリ、カボチャ、ウリ、ズッキーニ、メロン、スイカ等のウリ科の果菜類、オクラ等のアオイ科の果菜類等の促成栽培に適している。したがって、植物栽培用の温室に特に好ましく用いられる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[使用材料、装置]
・透明基材:厚さ200μmのテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルム(商品名「アフレックスフィルム」、旭硝子社製)
・ターゲット材:錫ドープ酸化インジウム(三井金属鉱業社製、組成(質量比):錫/インジウム=10/90、酸素含有量17〜18質量%)
・成膜装置:巻き取り式直流マグネトロンスパッタ装置(エイコー・エンジニアリング社製)を用いた。装置概要を図1に示す。
【0048】
[成膜条件]
・真空度:5×10−5Pa以下
・酸素ガス流量:0.5〜4sccm
・アルゴンガス流量:96〜99.5sccm
・ロール搬送速度:0.096〜0.236m/sec
・繰返し回数:7〜9回
・成膜圧力:1.5Pa
・直流出力:200W
・電源:直流
【0049】
[測定方法]
・錫ドープ酸化インジウム膜の膜厚測定方法
膜厚を分光エリプソメトリー装置(製品名「M−2000DI」、J.A.WOOLLAM JAPAN社製)を用いて測定し、WVASE32(J.A.WOOLLAM社製)により光学フィットを行うことにより算出した。
・錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗値測定方法
シート抵抗を非接触式導電計(Delcom社製)を用いて測定し、膜厚を掛け算することで算出した。なお、本測定装置で測定可能な抵抗値の上限値は、1×10Ω・cmであった。
・熱線反射性透明材料の可視光透過率の測定方法
熱線反射性透明材料の分光スペクトルを、分光器(製品名「UV−3100PC」、Shimadzu社製)を用いて測定し、JIS Z8113、JIS 8120に基づいて算出した。
・熱線反射性透明材料の日射透過率の測定方法
熱線反射性透明材料の分光スペクトルを、分光器(製品名「UV−3100PC」、Shimadzu社製)を用いて測定し、JIS Z8113、JIS 8120に基づいて算出した。
・耐久性評価方法
熱線反射性透明材料の分光スペクトルを、分光器(製品名「UV−3100PC」、Shimadzu社製)を用いて測定し、サンシャインウエザーメーター試験による時間変化を測定した。
【0050】
(実施例1)
スパッタリングチャンバー1を真空引きした後、アルゴンガス3と酸素ガス4とを、アルゴンガス/酸素ガスで表わされる流量比が、98sccm/2sccmの割合でスパッタリングチャンバー1に導入した。スパッタリングチャンバー1内の雰囲気ガス中の酸素濃度は2体積%であった。ロール搬送速度0.123m/secにて7回搬送を繰り返した。
そして、巻き取り装置5及び被巻き取り装置6を作動させ、錫ドープ酸化インジウム8に電力を印加して、メインローラ9に接したテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルム7の外面側(成膜面)に錫ドープ酸化インジウムを付着させ、実施例1の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に125nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は5.4×10−3Ω・cmであった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は86.7%であり、日射透過率は77.8%であった。
【0051】
図2に、実施例1の熱線反射性透明材料(透明基材上に錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されたもの)と、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルム(透明基材のみ)との分光スペクトルを示す。図中のAは、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルム(透明基材のみ)との分光スペクトルであり、図中のBは、実施例1の熱線反射性透明材料の分光スペクトルである。
図2に示すように、実施例1の熱線反射性透明材料は、可視光透過率が86.7%であり、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの可視光透過率85.8%とほぼ同じであった。一方、日射透過率は77.8%であり、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの日射透過率に89.1%比べ著しく低かった。
このことから、実施例1の熱線反射性透明材料は、可視光透過性、熱線反射性に優れていることが分かる。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、アルゴンガス3と酸素ガス4とを、アルゴンガス/酸素ガスで表わされる流量比が、96sccm/4sccmの割合でスパッタリングチャンバー1に導入し、スパッタリングチャンバー1内の雰囲気ガス中の酸素濃度を4体積%にし、ロール搬送速度0.182m/secにて9回搬送を繰り返した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に125nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は89.0%であり、日射透過率は79.8%であった。また、耐久性試験を3500時間経過した後では、可視光透過率88.4%、日射透過率は80.4%であり、可視光透過率および日射透過率の変化は±2%以内であった。このように、耐久性試験後も優れた光学特性を維持しており、耐久性に優れていた。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、アルゴンガス3と酸素ガス4とを、アルゴンガス/酸素ガスで表わされる流量比が、97sccm/3sccmの割合でスパッタリングチャンバー1に導入し、スパッタリングチャンバー1内の雰囲気ガス中の酸素濃度を3体積%とし、ロール搬送速度0.151m/secにて9回搬送を繰り返した以外は、実施例1と同様にして成膜を行い、実施例3の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に125nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は89.4%であり、日射透過率は79.2%であった。
【0054】
(比較例1)
実施例1において、アルゴンガス3と酸素ガス4とを、アルゴンガス/酸素ガスで表わされる流量比が、99.5sccm/0.5sccmの割合でスパッタリングチャンバー1に導入し、スパッタリングチャンバー1内の雰囲気ガス中の酸素濃度を0.5体積%とし、ロール搬送速度0.128m/secにて7回搬送を繰り返した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に120nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1.1×10−3Ω・cmであった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は77.4%であり、日射透過率は73.4%であった。
【0055】
(比較例2)
実施例1において、アルゴンガス3と酸素ガス4とを、アルゴンガス/酸素ガスで表わされる流量比が、99sccm/1sccmの割合でスパッタリングチャンバー1に導入し、スパッタリングチャンバー1内の雰囲気ガス中の酸素濃度を1体積%とし、ロール搬送速度0.128m/secにて7回搬送を繰り返した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に127nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は7.5×10−4Ω・cmであった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は80.2%であり、日射透過率は75.7%であった。
【0056】
(比較例3)
実施例1において、アルゴンガス3と酸素ガス4とを、アルゴンガス/酸素ガスで表わされる流量比が、98.5sccm/1.5sccmの割合でスパッタリングチャンバー1に導入し、スパッタリングチャンバー1内の雰囲気ガス中の酸素濃度を1.5体積%とし、ロール搬送速度0.126m/secにて7回搬送を繰り返した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に127nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は9.9×10−4Ω・cmであった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は84.3%であり、日射透過率は79.2%であった。
【0057】
実施例1〜3、比較例1〜3の結果に基づき、図3に、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度と、成膜された錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗との関係図を、図4に、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度と、熱線反射性透明材料の可視光透過率(Tv)及び日射透過率(Te)との関係図を示す。
【0058】
図3から明らかなように、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度が1.8体積%未満(比較例1〜3)であると、錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が小さく、3×10−3Ω・cm未満であった。これに対し、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度を1.8体積%以上であると、錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が大きくなり、3×10−3Ω・cm以上となった。
そして、図4から明らかなように、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素濃度を1.8体積%以上とする、すなわち、錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗を3×10−3Ω・cm以上とすることで、熱線反射性透明材料の可視光透過率を高めつつ、日射透過率を低減できた。
【0059】
(実施例4)
ロール搬送を速度0.145m/secに変更する以外は実施例3と同様にして成膜を行い、実施例4の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に130nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は90.7%であり、日射透過率は80.0%であった。
【0060】
(実施例5)
ロール搬送を速度0.140m/secに変更する以外は実施例3と同様にして成膜を行い、実施例5の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に135nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は91.2%であり、日射透過率は79.9%であった。
【0061】
(実施例6)
ロール搬送を速度0.134m/secに変更する以外は実施例3と同様にして成膜を行い、実施例6の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に140nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は89.5%であり、日射透過率は81.0%であった。
【0062】
(比較例4)
ロール搬送を速度0.236m/secに変更する以外は実施例3と同様にして成膜を行い、比較例4の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に80nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は66.0%であり、日射透過率は73.0%であった。
【0063】
(比較例5)
ロール搬送を速度0.096m/secに変更する以外は実施例3と同様にして成膜を行い、比較例5の熱線反射性透明材料を得た。
この熱線反射性透明材料は、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体フィルムの表面に195nmの錫ドープ酸化インジウム膜が成膜されていた。また、この錫ドープ酸化インジウム膜の比抵抗は1×10Ω・cm以上であった。また、熱線反射性透明材料の可視光透過率は69.5%であり、日射透過率は78.5%であった。
【0064】
実施例3〜6、比較例4〜5の結果に基づき、図5に、錫ドープ酸化インジウム膜の膜厚と、熱線反射性透明材料の可視光透過率(Tv)及び日射透過率(Te)との関係図を示す。
【0065】
図5から明らかなように、錫ドープ酸化インジウム膜の膜厚を120〜150nmとすることで、可視光透過率を高めつつ、日射透過率をより低減できた。
【0066】
以下の表1に、実施例1〜6、比較例1〜5の熱線反射性透明材料の製造条件及び特性をまとめて記す。
【0067】
【表1】

【符号の説明】
【0068】
1:スパッタリングチャンバー
2:真空ポンプ
3:不活性ガス
4:酸素ガス
5:巻き取り装置
6:被巻き取り装置
7:透明基材
8:ターゲット材
9:メインローラ
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の熱線反射性透明材料は、建築用窓材、車両用窓材、温室等に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の表面に、金属ドープ酸化インジウム膜が成膜された透明材料であって、前記金属ドープ酸化インジウム膜の膜厚が120〜150nmであり、前記金属ドープ酸化インジウム膜の比抵抗が3×10−3Ω・cm以上であり、前記透明材料の可視光透過率が85%以上、日射透過率が82%以下、可視光透過率の値と日射透過率の値との差が7以上であることを特徴とする熱線反射性透明材料。
【請求項2】
前記金属ドープ酸化インジウム膜が、遷移金属ドープ酸化インジウム膜である請求項1に記載の熱線反射性透明材料。
【請求項3】
前記遷移金属ドープ酸化インジウム膜が、錫ドープ酸化インジウム膜、亜鉛ドープ酸化インジウム膜、タングステンドープ酸化インジウム膜及びタンタルドープ酸化インジウム膜からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の熱線反射性透明材料。
【請求項4】
前記透明基材が、ガラス又はフッ素樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱線反射性透明材料。
【請求項5】
前記透明基材が、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体である請求項4に記載の熱線反射性透明材料。
【請求項6】
前記透明基材の表面に、金属ドープ酸化インジウムの単層膜が成膜されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱線反射性透明材料。
【請求項7】
金属ドープ酸化インジウムをターゲット材とし、スパッタリングチャンバーに不活性ガスと酸素ガスとを導入し、スパッタリング法により透明基材上に金属ドープ酸化インジウム膜を成膜する熱線反射性透明材料の製造方法であって、
成膜圧力を0.05〜10Paとし、スパッタリングチャンバー内の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を1.8体積%以上とすることを特徴とする熱線反射性透明材料の製造方法。
【請求項8】
前記スパッタリング法が、マグネトロンスパッタリング装置を用いた直流スパッタリング法である請求項7に記載の熱線反射性透明材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱線反射性透明材料を備えた温室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−284873(P2010−284873A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140080(P2009−140080)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】