説明

熱転写印刷

熱再転写によって物品上に印刷されるべき画像を受容するための再転写中間シートは、好ましくは熱変形可能な基体と、染料含有インクの印刷、好ましくはインクジェット印刷によって画像を受容するための画像受容層を備える、基体の一方側上の画像受容コーティングとを備え、画像受容層は、非晶質の多孔性シリカと、第1の非染料吸収高分子結合剤と、第2の可撓性高分子結合剤とを備える。シートは3次元物品上に印刷するのに特に有用であり、たとえば加熱および真空成形されて物品と形状一致する。本発明は、印刷の方法および画像が印刷された物品にも及ぶ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は熱転写印刷に関し、熱再転写によって物品上に印刷されるべき画像を受容するための再転写中間シート、印刷の方法および画像が印刷された物品に係る。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
熱再転写印刷は、1つ以上の熱転写可能染料を用いて再転写中間シート上に画像を(反転して)形成することを含む。次に、その画像を物品の表面に接触させ、かつ熱および場合によっては圧力も加えることによって、画像は物品表面に熱的に転写される。熱転写印刷は、直接には容易に印刷できない物品、特に3次元(3D)対象上に印刷するのに特に有用である。昇華染料を用いた染料拡散熱転写印刷による熱再転写印刷が、たとえばWO
98/02315およびWO 02/096661に開示されている。デジタル印刷技術を用いて再転写中間シート上に画像を形成することにより、場合によっては写真品質の高品質画像を、たとえ短時間運転でも比較的好都合にかつ経済的に3D物品上に印刷することができる。実際、そのような対象は経済的に個人用にすることができる。
【0003】
たとえばWO 98/02315およびWO 02/096661に開示されているように、再転写中間シート上の画像は熱転写印刷によって形成され得る。昇華染料を用いたインクジェット印刷によって再転写中間シート上に画像を形成することも可能である。たとえばEP 1102682に開示されているように、そのような再転写印刷に典型的に用いられる媒体は、インクジェットプロセスで印刷される染料を吸収しその後剥離することができる層でコーティングされた紙基体を備える。この種類の材料は、2次元で平坦な物品に画像を転写するのに非常に効果的である。しかし、この材料は3次元対象に画像を転写するのには効果的でない。これは、媒体内で用いられる基体が十分に可撓性を有していないので、対象の周りに形成されると皺になったりゆがんだりしてしまうからである。このため活性表面どうしの接触が不均一となり、加飾されるべき物品の表面上への画像の良好な転写が妨げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3D物品上への印刷画像の再転写を試みる際の活性表面どうしの不十分な接触という問題を克服するため、紙基体の代わりに熱成形可能基体が用いられている。典型的に、用いられる基体は、たとえばWO 01/96123およびWO 2004/022354に開示されているように、非晶質のポリエチレンテレフタレートである。そのような材料を用いる際にしばしば直面する問題は、この種類の印刷において典型的に用いられる昇華染料が基体と非常に相溶性があることである。この結果、最終の再転写ステップを実行する際、染料は、加飾中の物品の表面内に転写されるだけでなく、逆拡散と呼ばれるプロセスにおいて基体内にも移動し得る。これは、再転写シート内に印刷されたすべての染料が最終物品に転写されるわけではないことを意味し、最終画像で達成可能な光学濃度を制限する。その結果、転写された画像はコントラストが欠如しており、したがって低品質であると認識される。基体内への染料の逆拡散を防ぐため、インク吸収層と基体との間にバリア層が適用されている。これらのバリアコーティングは典型的に、アルミニウムなどの金属の薄層のスパッタリングによって塗布される。これにより、シートアセンブリのコストがかなり追加される。また、そのようなバリア層はあまり可撓性を有しない傾向があり、加飾されるべき物品の周りに基体が形成されるときに亀裂が入ることがある。その後に転写される画像は示差(differential)染料転写を通してこの亀裂を再生することになり、こ
れにより、最終製品の全体的な知覚品質が再び損なわれる。
【0005】
US 6686314は、多孔性シリカゲルおよびポリビニルアルコールなどのポリマーを含有し得るインク吸収層を含む、場合によってはポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基体上の複数の層を備える再転写中間シートを開示している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
1つの局面において、この発明は熱再転写によって物品上に印刷されるべき画像を受容するための再転写中間シートであって、基体と、染料含有インクの印刷によって画像を受容するための画像受容層を備える、基体の一方側上の画像受容コーティングとを備え、画像受容層は、非晶質の多孔性シリカと、第1の非染料吸収高分子結合剤と、第2の可撓性高分子結合剤とを備える、シートを提供する。
【発明の効果】
【0007】
使用時、印刷されるべき画像は、染料ベースのインクを用いた印刷によって再転写中間シートの画像受容コーティング上に(反転して)形成される。好適なインクは昇華インクとしばしば称されるが、転写は表面接触の程度に依存して、拡散もしくは昇華、または両者の混合によって起こり得る。そのようなインクは通常、顔料分散の形態で昇華染料を組込む。画像は、スクリーン印刷、フレキソ印刷などを含む多様な印刷技術によって形成され得る。デジタル印刷技術、特にインクジェット印刷を用いることが好ましい。インクジェット印刷が可能となるような粘度などの適切な物性を有する好適なインクジェット印刷可能昇華染料は、たとえばエプソン(エプソンは商標である)およびインクジェットプリンタの他のメーカー用として市販されている。シートは次に、その上に印刷が望まれる物品の表面に画像受容コーティングを接触させて配置され、熱(および通常は圧力も)を加えることによって再転写ドナーシートからの染料が物品表面に転写され、所望の印刷画像を生成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
画像受容層は、非晶質の多孔性シリカゲルの粒子がその中にわたって分散され、好ましくは組成が合理的に均質である、2つの相溶性高分子結合剤の混合物を備える。この層は、物品への後の熱転写のために、昇華染料を含有するインクでの印刷に好適であるように設計される。この層は、インクジェット印刷によって画像を受容可能なように設計され、非晶質の多孔性シリカゲルが液体インク成分を吸収するように機能する。第1の非染料吸収高分子結合剤は、後の昇華転写時に再転写中間シート内の染料の滞留を低減させるように機能する。第2の可撓性高分子結合剤は、加熱および変形時に可撓性を与えて層にクラックが生じるのを防止するように機能し、また塗布されるインクの液体成分を吸収する。
【0009】
非晶質の多孔性シリカゲルは良好な吸収性を有し、油および水を含む広範な流体を吸収するのに効果的である。100グラムのシリカにつき50から350グラムの範囲内の油、より好ましくは100グラムのシリカにつき少なくとも200グラムの油の油吸収特性(すなわち乾燥状態で100グラムのシリカゲルに吸収され得るグラムでの油の量)を有する非晶質の多孔性シリカゲルを用いることが好ましい。シリカゲルの平均粒径は、好ましくは10から20ミクロンの範囲内である。Grace Davison社のSyloid W900(Syloidは商標である)シリカゲルを用いた場合に良好な結果が得られた。これは、平均粒径が12ミクロンで、かつ乾燥時に100グラムのシリカにつき約300グラムの油の油吸収特性を有する、多孔性の、予め湿らせた(重量で55%水)等級の非晶質シリカ充填剤である。
【0010】
非晶質の多孔性シリカゲルは典型的に、画像受容層の全乾燥重量の重量で、20から3
5%、好ましくは25から30%の範囲内の量で存在する。
【0011】
第1の非染料吸収高分子結合剤は、非晶質の多孔性シリカゲル粒子をともに結合し、かつインクの液体成分の吸収にも関与する主高分子結合剤構造の一部を形成する。たとえ加熱されても昇華転写のために用いられる種類の染料を吸収しない加水分解されたポリビニルアルコール、好ましくは完全加水分解されたポリビニルアルコールを用いた場合に良好な結果が得られた。コーティングを容易にするために、比較的低分子量であるが故に、粘度が比較的低い加水分解されたポリビニルアルコールを用いることが好ましい。好適な加水分解されたポリビニルアルコールは、たとえばMowiol 4/98(Mowiolは商標である)の形態で市販されており、これは、株式会社クラレから入手可能な、低分子量(27,000)の完全に加水分解された等級のポリビニルアルコールである。
【0012】
第1の非染料吸収高分子結合剤は典型的に、画像受容層の全乾燥重量の重量で、15から30%、好ましくは20から25%の範囲内の量で存在する。
【0013】
第2の可撓性高分子結合剤も、非晶質のシリカゲル粒子をともに結合する主高分子結合剤構造の一部を形成する。この結合剤はまた、熱変形(典型的に最大200%)中に層にクラックが生じるのを防止し、インクの液体成分を吸収するのに関与する。この可撓性結合剤はしたがって望ましくはある程度水を吸収可能であり、印刷中のインク溶剤の十分で迅速な吸収を可能とする。好適な結合剤材料はポリオキサゾリン(ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン))および水溶ポリウレタン分散を含み、現在はポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)が好まれている。ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)は、たとえばInternational Speciality Products (ISP)社からAquazolの商標で供給されるように、たとえば5,000から500,000の異なる分子量の等級の範囲内で市販されている。分子量が50,000のポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)樹脂であるAquazol 50を用いた場合に良好な結果が得られた。これは、望ましくないほど高い溶液粘度を有することなく良好な性質の画像受容層を生成する。
【0014】
第2の可撓性高分子結合剤は典型的に、画像受容層の全乾燥重量の重量で、35から65%、好ましくは45から55%の範囲内の量で存在する。
【0015】
画像受容層の厚みは好適に10から20ミクロンの範囲内であり、たとえば約15ミクロンである。
【0016】
本発明は、上述のように3D物品上に画像を形成するのに有用な再転写中間シートに特に適用される。そのようなシートは、昇華染料が非常に相溶性がある変形可能基体、特に熱変形可能基体、一般にPET、を利用する。典型的な3D対象上に画像を形成するため、コーティングされる基体を含む再転写中間シートは、割れることなく伸ばされるのに耐えることができなければならない。さまざまな対象を加飾する際に我々が得た経験から、すべての対象表面を加飾するためには、ドナーシートの領域はクラックが生じることなく自身の当初の長さの約3倍まで伸びることができなければならないことが判明した。これは、少なくとも200%の寸法変化に等しい。そのような実施の形態では、基体および画像受容コーティングはこれらの要件を考慮して設計され、両方の構成要素は好適に加熱されると十分に変形可能である。
【0017】
熱変形可能基体はしたがって、典型的に80から170℃の範囲内の温度にまで加熱されると変形可能であり、好ましくは熱の作用下で真空成形されるほど十分に変形可能である材料を好適に備える。熱的に敏感な材料上に印刷可能であるためにはできるだけ低い温度で変形することになる基体を用いることが好ましいが、そのような基体を用いてコーティング製品を製造することはより困難である。基体は好ましくは非晶質の(非結晶の)ポ
リエステル、特に非晶質のポリエチレンテレフタレート(APET)を備える。なぜならそのような材料は熱変形温度が低いからである。基体は典型的にシートまたは膜の形態であり、望ましくは100から250ミクロンの範囲内の、たとえば約150ミクロンの厚みを有する。Ineos Vinyls社によって供給されるPET‘A’の商標で公知の、透明な150ミクロンの厚みの非晶質等級のポリエチレンテレフタレートを用いた場合に良好な結果が得られた。これは市販の最薄等級であると考えられ、複雑な物品の周りにより厚い等級を変形させることはより困難である。他の基体材料が入手可能であるが、あまり望ましくないものもあり、たとえばポリ塩化ビニル(PVC)膜を用いてもよいが、これらは処理中の物品内に転写する傾向を有し得る高レベルの可塑剤を含有し得、これは望ましくない。
【0018】
画像受容コーティングは、基体と画像受容層との間に任意の下塗り層を含み得る。下塗り層は、画像受容層の基体への接着を向上させ、可撓性高分子材料を好適に備える。一般的に、この可撓性高分子材料は、変形時に接着が失われないように画像受容層より可撓性を有するべきである。好適な高分子材料は、たとえばガラス転移温度(Tg)が20℃の、Vylonalの商標で東洋紡から供給されるような、Tgの低い、すなわちTgが50℃より低い、ポリエステル樹脂の水溶分散として入手可能なポリエステル樹脂を含む。そのようなポリエステル樹脂は非晶質のポリエステル基体に良好に接着する。そのようなポリエステル樹脂は一般的に第2の可撓性高分子結合剤よりも高い可撓性を有するが、これは必須ではない。
【0019】
画像受容コーティングは、画像受容層の上に任意の染料バリア層または染料管理層を含み得る。染料バリア層は、最終の印刷ステップにおけるシートから物品への染料の熱転写中に染料の画像受容層内への拡散を低減させるように機能する高分子結合剤を好都合に備える。この目的のための好適な結合剤材料は、画像受容層の第1の非染料吸収高分子結合剤として用いられるものと同一または同様の材料、特に加水分解された、好ましくは完全に加水分解されたポリビニルアルコールを含む。株式会社クラレから入手可能な、分子量が125,000の完全に加水分解された等級のポリビニルアルコールであるMowiol 20/98を用いた場合に良好な結果が得られた。
【0020】
染料バリア層はまた、好ましくは合理的に均質の態様で結合剤中にわたって分散された非晶質の多孔性シリカの粒子を備え得る。シリカゲルは、最初のインクジェット印刷中に液体インク成分が画像受容層内に移ることを可能にするように機能する。シリカゲルはまた、シートにいくらかの表面粗度を与え、これは熱転写中の、たとえば真空成形下のシートと物品表面との間の空気の除去を大幅に向上させる。染料バリア層の厚みは典型的に0.5から7.0ミクロン、好ましくは0.5から1.5ミクロンの範囲内であり、たとえば約0.7ミクロンである。シリカゲルの粒径は、そのような薄い表面コーティング内に組込まれるためには小さいことが好適であり、たとえば平均粒径は10ミクロンより小さい。シリカゲルは一般的に、画像受容層内で用いられるシリカゲルと同一の種類であり得るが、より小さな粒径が通常は適切であろう。たとえば、Grace Davison社から入手可能な、平均粒径が6ミクロンである多孔性の非晶質シリカ充填剤であるSyloid ED3シリカを用いた場合に良好な結果が得られた。
【0021】
シートと加飾中の物品との間に閉じ込められた空気を熱成形段階中に物品の表面から抜くことができるように、画像受容コーティングの低い平滑度(すなわち高い粗度)が必要である。しかし、平滑度が低すぎる(粗度が高すぎる)と、転写段階中の物品への着色剤の転写はあまり効果的ではなくなる。画像受容コーティングの表面は、20℃、60%相対湿度(RH)で1秒と20秒との間、より好ましくは1秒と10秒との間に測定される、10立方センチメートルの気積についてのベック平滑度(空気漏洩による)を有することが好ましい。
【0022】
また、プロセスの熱成形段階中にシートが物品の表面の上を移動可能なように、画像受容コーティングの表面と加飾中の物品との間の摩擦は低いことが望ましい。好ましくは、プロセスの熱成形段階中に良好な性能を発揮するため、20℃、60%RHで測定される静摩擦および動摩擦両方の係数は0.60より小さく、より好ましくは0.50より小さい。熱成形は実際は高温で起こるが、より低い温度測定は熱成形中の性能と相関関係にあると考えられる。
【0023】
好ましい染料管理層が、当社の英国特許出願番号0623997.4の明細書に開示されている。
【0024】
熱変形可能基体を用いる本発明の実施の形態では、シートは、複合曲線を含む曲線形状(凹状または凸状)を含む複雑な形状を場合によっては有する3D物品上の印刷に特に適用される。3D物品上に印刷する際、シートを典型的に、物品に当てる前にたとえば80から170℃の範囲内の温度にまで予め加熱して、シートを柔らかくして変形可能にする。柔らかくなったシートはこうして、物品の輪郭に容易に当てられて形状一致することが可能な状態にある。これは、真空を適用して、柔らかくなったシートを物品にぴったりあわせることによって好都合にもたらされる。シートがたとえば真空の維持によって物品に接触した状態で維持されている間、シート、および場合によっては物品も、好適な時間、典型的に15から150秒の範囲内で、染料転写のための好適な温度、典型的に140から200℃の範囲内の温度にまで加熱される。染料転写後、物品は冷却されることを許されるか冷却され、その後再転写中間シートが除去される。たとえばWO 01/96123およびWO 2004/022354に開示されているように、再転写印刷ステップを実行するための好適な装置が公知である。
【0025】
本発明の再転写中間シートは、3次元対象の表面を加飾するための熱画像再転写備品用として特に適用される。対象は、プラスチック、金属、セラミック、木材および他の複合材料を含む広範な剛性材料製であり得、対象は、中実または薄肉の構造物のいずれかである。その使用の1つの例は、表面外観を高めるための自動車のトリムパネルの加飾におけるものであるが、多くの他の可能な適用例がある。
【0026】
画像が形成されるべき物品の表面の性質に依存して、表面コーティングまたはラッカーの塗布によって表面を事前処理し、転写される染料の吸収を向上させることが適切であり得る。好適な染料受容性ラッカーおよびそれらの使用方法は、たとえばEP 1392517に開示されているように当業者に公知である。ラッカーは典型的にスプレーコーティングによって塗布され、その後50分間90℃でオーブン硬化される。
【0027】
好ましい局面において、本発明は熱再転写によって物品上に印刷されるべき画像を受容するための再転写中間シートであって、熱変形可能基体と、染料含有インクのインクジェット印刷によって画像を受容するための画像受容層を備える、基体の一方側上の画像受容コーティングとを備え、画像受容層は、非晶質の多孔性シリカと、第1の非染料吸収高分子結合剤と、第2の可撓性高分子結合剤とを備える、シートを提供する。
【0028】
本発明はまた、本発明に係る再転写中間シートを用いて物品上に画像を印刷する方法であって、シートの画像受容コーティング上に印刷、好ましくはインクジェット印刷によって画像を形成するステップと、物品の表面にコーティングを接触させるステップと、熱を加えてシートから物品表面への画像の熱転写を生じさせるステップとを備える方法もその範囲内に含む。
【0029】
本発明はまた、本発明の方法によって生成される画像が印刷された物品にも及ぶ。
本発明は、少なくとも好ましい実施の形態において、以下を含む多数の利点を有する。すなわち、
・再転写中間シートは高い可撓性を有し、したがって真空成形に適しており、破損することなく高レベルの寸法変化に耐え得る。
【0030】
・たとえば少なくとも35%の、シートから物品への染料の高レベルの昇華転写を達成することが可能であるため、良好な色濃度の画像を生成することができる。
【0031】
・シートは安く生産可能であり、金属バリア層を有する基体、またはより複雑な多層コーティングアセンブリの使用などの代替的な方策と特に比べて経済的に魅力的である。
【0032】
・コーティング内のシリカ粒子の使用により、真空成形中にシートが入り組んだ形状と一致することができ、転写される画像の高度なカバー範囲を物品へ、小さな凹部内にさえも、与えることができる。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態を、以下の実施例において一例として説明する。すべてのパーセンテージは特に断らない限り重量である。
【実施例】
【0034】
材料
本実施例は、すべて市販されている以下の材料を用いた。
【0035】
Mowiol 4/98−株式会社クラレから入手可能な、低分子量(mw=27,000)の完全に加水分解された等級のポリビニルアルコール(第1の結合剤)。
【0036】
Mowiol 20/98−株式会社クラレから入手可能な、分子量が125,000の完全に加水分解された等級のポリビニルアルコール(バリア層内の結合剤)。
【0037】
Aquazol 50−International Speciality Products社より供給される、分子量が50,000のポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)樹脂(第2の結合剤)。
【0038】
Syloid W900−Grace Davison社から入手可能な、平均粒径が12ミクロンの多孔性の予め湿らせた(重量で55%水)等級の非晶質シリカ充填剤。乾燥時のこの材料の油吸収は、100gのシリカにつき約300グラムの油である(画像受容層用)。
【0039】
Syloid ED3−Grace Davison社から入手可能な、平均粒径が6ミクロンの多孔性の非晶質シリカ充填剤(バリア層用)。
【0040】
PET‘A’−Ineos Vinyl社から供給される、透明の150ミクロンの厚みの、非晶質等級のポリエチレンテレフタレート膜(基体)。
【0041】
下地塗り調合物
純水−64.5%
Mowiol 4/98−4.5%(第1の結合剤)
Aquazol 50−10%(第2の結合剤)
メタノール−10%(溶媒)
Syloid W900−11%(非晶質の多孔性シリカゲル)
(すべてのパーセンテージは重量)
下地塗り調合物は以下のように調製した。
【0042】
冷たい純水を、ヒータジャケットが嵌合された混合機に入れて量った。Mowiol 4/98樹脂を次に、パドル混合機を用いて冷たい純水内に分散した。ヒータジャケットを用いて、溶液温度を次に95℃にまで上げた。完全な溶媒和を確実にするため、溶液温度はこのレベルでその後の30分間維持された。溶液を次に25℃にまで冷却した。Aquazol 50結合剤およびメタノールを次に加え、溶液をその後の2時間混合した。
【0043】
溶液調製プロセスの最終段階は、Syloid W900シリカの分散である。この充填剤が完全に凝集が解けて自身の一次粒子にされることを確実にするため、混合プロセス中に比較的高い剪断力が必要となる。この段階はしたがって、5〜6メートル/秒の先端速度で動作するのこぎり型分散ヘッドを用いて実行した。Syloid W900シリカを、分散ヘッドによって作り出される渦に加え、60分間混合した。
【0044】
頂部/バリア塗り調合物
純水−94.83%
Mowiol 20/98−5%(結合剤)
Syloid ED3−0.17%(非晶質の多孔性シリカゲル)
(すべてのパーセンテージは重量)
頂部塗り調合物は以下のように調製した。
【0045】
冷たい純水を、ヒータジャケットが嵌合された混合機に入れて量った。Mowiol 20/98樹脂を次に、パドル混合機を用いて冷たい純水内に分散した。ヒータジャケットを用いて、溶液温度を次に95℃にまで上げた。完全な溶媒和を確実にするため、溶液温度をこのレベルでその後の30分間維持した。溶液を次に25℃にまで冷却した。Syloid ED3シリカを次に、5〜6メートル/秒の先端速度で動作するのこぎり型分散ヘッドを用いて溶液内に分散した。
【0046】
完成した溶液を2つの別個のコーティングとして、ウェブ被覆機を用いてPET‘A’膜基体上に塗布した。下地塗り調合物を、リバースグラビアコーティングプロセスを用いてPET‘A’膜下地表面に直接塗布した。このコーティングは、約13ミクロンの乾燥塗り厚みを達成するように塗布した。コーティングを機械オーブン内で完全に乾燥させてから、バリアコーティングを塗布した。バリアコーティングを、リバースグラビアコーティングプロセスを用いて下地塗り上に塗布した。この層の乾燥塗り厚みは約0.7ミクロンである。
【0047】
この塗布のために用いられる基体は熱的に不安定な等級のPETであるため、最大乾燥温度は60℃に制限される。
【0048】
20℃、60%RHで測定された、画像受容コーティングの表面の10立方センチメートルの気積についてのベック平滑度(空気漏洩による)は3秒であると判断された。
【0049】
有用性
このインクジェット受容機は、画像転写またはドナーシートとして意図される。これは、3次元対象の表面を加飾するための熱画像再転写備品とともに用いられる。画像再転写技術は、広範な剛性材料の表面を加飾するのに好適である。加飾されるべき対象は、プラスチック、金属、セラミック、木材または他の複合材料製であり得、薄肉または中実の構造物のいずれかであり得る。その使用の1つの例は、表面外観を高めるための自動車のトリムパネルの加飾であるが、多くの他の可能な適用例がある。
【0050】
画像転写備品の簡単な説明
この実施例は、3D対象を加飾するために画像を熱的に転写するように設計された、注
文製の卓上ユニットを用いた。これはユーロA3サイズのドナーシートを収容し得る。備品の下地ユニットは摺動トレーアセンブリを含む。このトレーは、真空ポンプを用いて空気を抜くことができる、穴の開いた下地を有する。真空トレーは幅広の平坦なリムを有し、この上に、予め印刷されたドナーシートが軟質ゴムガスケットを用いて装着されて気密封止を確実にする。このユニットの上方には、真空形成およびその後の画像転写プロセス中に用いられるヒータ構成がある。
【0051】
ドナーシート上への画像の形成
エプソン1290デスクトップインクジェットプリンタなどの好適なプリンタを用いて、ドナーシート上にミラーイメージが形成される。標準的な染料ベースのインクの代わりに昇華インクカートリッジが用いられる。インクジェットプリンタ用の好適な昇華カートリッジはいくつかのメーカーによって製造されている。これらは、いろいろなモデルのエプソンプリンタ用として市販されている。本願の作業は、Sawgrass Technologies, Inc.社から供給されるArTitanium昇華インク(ArTitaniumは商標である)を用いて実行された。
【0052】
対象の準備
熱転写を成功させるためには、対象表面は昇華染料に受容性がなければならない。材料の中には、もともと昇華染料により受容性があり、さらなる準備が不要なものもある。しかし、表面コーティングまたはラッカーを塗布して昇華染料の吸収を向上させる必要がある材料もある。このラッカーはスプレーコーティング技術によって塗布され、その後50分間90℃でオーブン硬化される。好適な染料受容性ラッカー調合物は、EP 1392517に詳細に記載されている。
【0053】
加飾プロセスの説明
加飾されるべき対象は備品の真空トレーに装着される。事前に印刷されたドナーシートは、膜の画像側が、加飾されるべき対象に面するように装着される。
【0054】
ドナーシートは次に、100〜140℃の温度に達するまで加熱される。これにより、真空形成段階前にPET‘A’基体を柔らかくする。
【0055】
真空ポンプを次に用いてトレーから空気を抜くことにより、柔らかくなったドナーシートが対象のすべての露出表面の周りに自らぴったりあうことになる。
【0056】
真空を維持しつつ、「包まれた」対象は次に140〜200℃にまで加熱される。この段階中に、ドナーシート内の染料が対象の受容性表面内に拡散する。加飾されるべき材料のサイズおよび種類に依存して、このプロセスには15秒から150秒がかかり得る。対象は冷却することを許され、その後ドナーシートが除去される。
【0057】
加熱されると、シートはクラックが生じることなく自身の当初の長さの少なくとも3倍まで伸びるができ、これは少なくとも200%の寸法変化に等しい。
【0058】
このシートを用いて、異なる材料のさまざまな異なる3次元物品に写真品質のフルカラー画像を転写することに成功した。少なくとも35%の、物品への染料の良好な転写が得られ、物品上に良好な色濃度の画像が生成された。
【0059】
ラッカーコーティングされた携帯電話筐体裏面に対する、シートの画像受容コーティングの表面の摩擦を測定したところ、20℃、60%RHで測定すると静摩擦係数は0.28であり、動摩擦係数は0.26であると判明し、表面どうしの間の摩擦が低いことが示された

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱再転写によって物品上に印刷されるべき画像を受容するための再転写中間シートであって、
基体と、
染料含有インクの印刷によって画像を受容するための画像受容層を備える、前記基体の一方側上の画像受容コーティングとを備え、
前記画像受容層は、非晶質の多孔性シリカ、第1の非染料吸収高分子結合剤、および第2の可撓性高分子結合剤を備える、シート。
【請求項2】
前記基体は非晶質のポリエチレンテレフタレートを備える、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記基体は、厚みが100から250ミクロンの範囲内の、好ましくは150ミクロンのシートまたは膜を備える、請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
前記シリカは、100グラムのシリカにつき50から350グラムの範囲内の油、好ましくは100グラムのシリカにつき少なくとも200グラムの油の油吸収特性を有する、請求項1、2または3に記載のシート。
【請求項5】
前記シリカの平均粒径は10から20ミクロンの範囲内である、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項6】
前記シリカは、前記画像受容層の全乾燥重量の重量で、20から35%、好ましくは25から30%の範囲内の量で存在する、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項7】
前記第1の非染料吸収高分子結合剤は、加水分解されたポリビニルアルコール、好ましくは完全加水分解されたポリビニルアルコールを備える、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項8】
前記第1の非染料吸収高分子結合剤は、前記画像受容層の全乾燥重量の重量で、15から30%、好ましくは20から25%の範囲内の量で存在する、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項9】
前記第2の可撓性高分子結合剤はポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)を備える、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項10】
前記第2の可撓性高分子結合剤は、前記画像受容層の全乾燥重量の重量で、35から65%、好ましくは45から55%の範囲内の量で存在する、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項11】
前記画像受容層の厚みは10から20ミクロンの範囲内である、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項12】
前記基体と前記画像受容層との間に下塗り層をさらに備える、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項13】
前記下塗り層は、水溶分散として入手可能なポリエステル樹脂を備える、請求項12に記載のシート。
【請求項14】
高分子結合剤および非晶質の多孔性シリカゲルを備える、前記画像受容層の上に染料バ
リア層をさらに備える、先行する請求項のいずれか1つに記載のシート。
【請求項15】
前記結合剤は、加水分解された、好ましくは完全に加水分解された、ポリビニルアルコールを備える、請求項14に記載のシート。
【請求項16】
前記染料バリア層の厚みは0.5から5.0ミクロンの範囲内であり、前記シリカゲルの平均粒径は10ミクロンよりも小さい、請求項14または15に記載のシート。
【請求項17】
先行する請求項のいずれか1つに記載の再転写中間シートを用いて物品上に画像を印刷する方法であって、
シートの画像受容コーティング上に印刷によって画像を形成するステップと、
前記コーティングを物品の表面に接触させるステップと、
熱を加えて、前記シートから前記物品の表面への前記画像の熱転写を生じさせるステップとを備える、方法。
【請求項18】
前記画像はインクジェット印刷によって形成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項17または18の方法によって生成される画像が印刷された物品。

【公表番号】特表2009−523079(P2009−523079A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549920(P2008−549920)
【出願日】平成19年1月8日(2007.1.8)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000024
【国際公開番号】WO2007/080377
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(590000341)インペリアル・ケミカル・インダストリーズ・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL CHEMICAL INDUSTRIES  LTD
【Fターム(参考)】