説明

熱量計およびそれを用いた分析方法

【課題】 生体・化学物質の反応を評価する手法として、反応熱の計測は直接的な使いやすい手法であるが、微量な試料に対応した反応熱分析装置が現在存在していない。多少試料を多く使えば反応熱を検出することは可能であるが、構造的に大きくなるとともに外部からの熱進入が問題となっている。
【解決手段】 サーモモジュールを用いたサンプル熱流センサとリファレンス熱流センサと、それぞれの片面に接する2つの反応容器と、反対面に接する第1のヒートシンクと、第1のヒートシンクの温度を測定する温度センサと、第1のヒートシンクの下面に接する精密温度制御用のペルチェ素子と、ペルチェ素子の下面に接する第2のヒートシンクと、2つの熱流センサを内包する断熱シールドを有しており、断熱シールド外部から間接的なエネルギー供給により、反応容器内部において所定の試薬を混合する混合装置を有する熱量計を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
サーモモジュールを用いた熱量計に関し、とくに熱量評価用試料が化学反応等を伴い温度変化をする反応分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ技術の進展に伴う生体物質の分析、各種新薬の合成、あるいは各種環境物質の検出などこれまでにない様々な生体、化学物質を評価する要求が増えている。さらにそれらは微少量しか合成・収集出来ない非常に貴重な物質が多く、限られた量での分析方法が必要となる。
【0003】
たとえば生体物質の機能評価、薬品同士の親和性や阻害性、環境汚染物質の生体への影響などを調べる場合、起きうる化学反応を定性的、定量的に評価する場合が多く、そのなかには酵素反応や抗原抗体が含まれる。従来、酵素反応や抗原抗体反応を検出する場合、反応によって2次的に発生する物質を分解評価したり、第3の物質を加えて検出しやすい反応を新たに起こさせて検出するということが行われてきた。たとえばそれには、酵素電極や蛍光物質の標識などの方法がある。
【0004】
しかしながら、それらは2次的な反応要素を含むため、より複雑になり再現性がなかったり、あるいは特定の反応系に限られるという問題がある。一方化学反応には大小の差はあるが必ず反応熱の出入りがある。この反応熱を直接的にとらえる方法が提供されるならば、広範囲の化学物質の評価分析が可能となると考えられる。ただし、微量物質の反応熱をとらえるには相当高感度の反応熱検出系が必要である。
【0005】
熱をとらえる手段には一般的に熱流センサというものがあるが、その中の一つに熱電対というものがある。熱電対は極性の異なる2種類の金属または熱電半導体を電気的に接続し、その両端に温度差を与えることにより電圧を発生する。この電圧を検出することで一端に接触している物体の温度あるいは発生熱量を定量的に検出することが出来る。熱電対は一対では発生電圧は低いために、熱流センサとする場合は多数を集積化して利用することが多い。多数の熱電対を整列配置し、電気的に直列化したものを一般的にサーモモジュールと呼んでいる。
【0006】
また熱測定は環境温度の変化に敏感に反応し、大きなノイズを生じさせてしまうことから、環境に影響する温度変化を非常に小さくすることによって、非常に小さな発熱・吸熱も捕らえることができ、高精度の熱分析計などを作ることができる。たとえば特許文献1にはそのような高精度の熱量計が開示されている。
【0007】
引例の熱量計では、断熱構造の改良、ペルチェ素子を使った温度制御、高感度の熱流センサ、適切なヒートシンクの採用などにより、従来に増して非常に高感度な測定器を実現している。この方法を用いることで、微少量の試料から非常に小さな熱の測定が可能であり、さらに駆動部分や流体を用いた温度制御が必要ないので、コンパクトにそして安価な装置が実現可能である。
【0008】
しかし残念なことに、この方法は物質の温度変化に伴う相変態などの物理現象を捉える、いわゆる超高感度熱分析装置としては非常に有効な手段であるが、異種物質との化学反応の熱を測定する事はできない。
【0009】
これに対して、化学反応を捉える熱分析装置も市販されているものがある。たとえば
、等温滴定カロリメトリー装置VP−ITC(MicroCal社)などがそうである。これは断熱された恒温槽の中で小型セルに評価試料を入れ、ビュレット状の導管から反応液を滴下し、セルに接触しているサーモモジュールを使って反応熱量を検出するする構造になっている。
【0010】
この場合、装置が大掛かりであるため、評価試料がmLオーダーで必要である。またサンプルの安定した反応を起こさせるには何らかの撹拌機構が必要であるが、この場合は導管の先端にあるプロペラ状の攪拌装置を利用している。この攪拌装置の軸あるいは導管は外部から挿入されているため、外部の熱を持ち込んでしまい、一定以上の温度制御が難しい。あるいはその対策として内部の温度を安定化させるために、軸の途中も温度調節が必要であり、さらに装置が大型化される。
【特許文献1】特開2004−20509号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上従来の熱量計をふまえ、本発明が解決しようとする従来の課題をまとめる。1)生体・化学物質の反応を評価する手法として、反応熱の計測は直接的な使いやすい手法であるが、微量な試料に対応した反応熱分析装置が存在しない。2)微量な試料の熱量を測定する手法は提案されているが、化学反応における熱を検出する手段はない。3)多少試料を多く使えば反応熱を検出することは可能であるが、構造的に大きくなるとともに外部からの熱進入が問題となる。
【0012】
そこで本発明の目的は、外部からの熱進入を最小限に抑え、微少な評価試料の反応熱量を高感度に測定できる小型で安価な熱量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために本発明の熱量計の構造およびそれを用いた分析方法においては下記に記載する手段を採用する。
【0014】
本発明の熱量計は、サーモモジュールを用いたサンプル熱流センサとサーモモジュールを用いたリファレンス熱流センサと、2つの熱流センサそれぞれの片面に接する2つの反応容器と、2つの熱流センサの反対面に接する第1のヒートシンクと、第1のヒートシンクの温度を測定する温度センサと、第1のヒートシンクの下面に接する温度制御用のペルチェ素子と、ペルチェ素子の下面に接する第2のヒートシンクと、少なくとも2つの熱流センサを内包する断熱シールドを有している熱量計であり、サンプル熱流センサの反応容器内部において所定の試薬を混合する混合装置を有することを特徴とする。
【0015】
そして混合装置は断熱シールドの外部に有し、機械的結合を有せずに間接的に断熱シールド内部にエネルギーを供給することで、所定の試薬を混合することが好ましい。混合装置には磁気撹拌装置、超音波振動撹拌装置、揺動型撹拌装置、液体吐出装置から少なくとも1つを利用するとよい。
【0016】
あるいは第1のヒートシンクは相対的に熱伝導率の異なる材料を積層した構造を有することが好ましく、断熱シールドを複数有し、さらに第1のヒートシンクの温度を間接的に調節する補助温調装置を有するとなお良い。
【0017】
また本発明の熱量計を用いた分析方法は、ペルチェ素子を用い第1のヒートシンクを介してサンプル熱流センサとリファレンス熱流センサを所定の温度に保つ工程と、混合装置を用いてサンプル熱流センサの反応容器内にて2種類以上の試薬を混合する工程と、サンプル熱流センサからは試薬の化学反応により生じた温度変化に対応した信号電圧を測定す
る工程と、同時にリファレンス熱流センサに生じているリファレンス電圧を測定する工程と、信号電圧と前記リファレンス電圧との差分を演算する工程とを有することで、化学反応を検出することを特徴とする。
【0018】
そしてペルチェ素子を用い第1のヒートシンクを介してサンプル熱流センサとリファレンス熱流センサを所定の温度に保つ工程に続き、ペルチェ素子への通電を停止すると良く、サンプル熱流センサの反応容器内にて2種類以上の試薬を混合する工程までを恒温槽内部において行うとさらに効果的である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱量計は、断熱シールド内部を一定温度に制御した後、外部から機械的な結合を有せず、間接的に内部の試料と反応液とを混合することが出来る。つまり、断熱シールド内部の試料を混合するために、金属の軸やガラス管などの比較的熱伝導の良いものがシールド外部から侵入していないため、外部からの温度的外乱が非常に小さい。そのため、シールド内部の温度変化を非常に小さく保て、微少な反応熱量でも高精度に検出することが可能である。
【0020】
また、熱量を測定するセンサも高密度で小さなサーモモジュールを利用できるため、余分な熱容量が小さく少量の試料を分析することが出来る。
【0021】
また、全体の構成要素が少なく、複雑な形状がないため、非常に小さく安価な熱量計を構築できる。
【0022】
混合装置の中でも液体吐出装置を用いると、反応液を複数回混合することが出来るため、滴定反応のような連続的な試験も可能である。
【0023】
このような熱量計を利用することにより、バイオ分野や製薬分野などにおいて、非常に貴重で少ない試料を効率よく分析することが可能である。さらに本熱量計は反応熱を直接的に捉えられることから、従来の分析装置のような標識物質を導入したり、2次反応を解析するような煩雑な操作が不要になる。
【0024】
以上から本発明の熱量計は、今後免疫診断やウィルス診断、環境分析や環境汚染物質の細胞への影響、新薬の生体適合性など非常に広範囲の分野にわたって、分析装置として利用されることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の熱量計の最適な実施形態を説明する。まず図1には本発明の熱量計の断面図を示している。
【0026】
図1に示したように本発明の熱量計の中心であるセンサとして、サンプル熱流センサ11とリファレンス熱流センサ12が設置されている。両者の熱流センサは熱電対を多数集積化したサーモモジュールであり、基本的な構造は温度制御用のペルチェ素子と同じである。ただし、本発明では微量試料から発せられる微少熱量を検出するために、従来よりかなり熱電対が高集積化されたマイクロサーモモジュールを利用している。試料の量にもよるが、たとえば3mm角の大きさであり、柱の対数が18対〜98対のものを用いている。
【0027】
サンプル熱流センサ11とリファレンス熱流センサ12は図1の上下方向の熱流を検出するが、上側の片面には反応容器21が設置されている。反応容器21はその中に評価用の試料を入れ置くためにあるが、ガラスなどを利用して作られている。
【0028】
サンプル熱流センサ11とリファレンス熱流センサ12の下側の片面には第1のヒートシンク31が設置されている。第1のヒートシンク31は2つの熱流センサの温度変化を極力抑えるために設置されている。そのため第1のヒートシンク31は銅などの熱伝導が良くかつ熱容量もある程度大きな金属製ものを用いている。
【0029】
第1のヒートシンク31の下にはペルチェ素子51が設置されている。ペルチェ素子51は直流電流を流すことで上下方向に熱を移動させることが出来ることから、外部から適当な制御装置によりコントロールすることで接している第1のヒートシンク31の温度を精密に制御できる。ペルチェ素子51は熱流の増減しかできないため、この温度を制御するためには温度センサ41からの温度情報をもとに制御する。ここで温度センサ41にはサーミスタ温度計あるいは白金測温体などを利用している。
【0030】
ペルチェ素子51の下には第2のヒートシンク32が設置されている。第2のヒートシンクはペルチェ素子51から移動してきた熱を吸収したり、あるいはペルチェ素子51に熱を供給したりする熱だめの役目をしており、一般的に第1のヒートシンク31よりは大きいものを利用する。材料はやはり銅などの金属を用いる。なお、これまで述べた反応容器21、サンプル熱流センサ11とリファレンス熱流センサ12、第1のヒートシンク31、ペルチェ素子51、第2のヒートシンク32のそれぞれが接している界面は、熱の伝搬がスムーズに行われる必要があることから、金属やセラミックスの粒子を混入した熱伝導性グリースあるいは接着剤を介在させた方がよい。
【0031】
さらに本発明の熱量計では内部の雰囲気温度を安定化させるために、第1の断熱シールド61と第2の断熱シールド62を設けている。どちらもその外部の空気を伝わっての熱伝導を遮断するために設けられている。両者の断熱シールドにもやはり銅などの熱伝導の良い金属を利用している。また、第2の断熱シールド62を安定に設置するために基台70も設けているが、場合によってはなくても良い。
【0032】
そして基台70の下には混合装置80を設けている。混合装置80には各種のものが利用できるが、その一つは磁気撹拌装置85である。磁気撹拌装置85の簡単な断面構造を図2に示した。内部にはモーター90とその回転軸につながった磁石91が取り付けられている。電力を投入することでモーター90が回転し、それに伴った回転があらかじめ磁化されている磁石91に伝えられる。
【0033】
一方、反応容器21の中には微小な撹拌子81が納められている。撹拌子81は鉄などの磁性体で出来ており、その大きさは太さ0.5mm、長さ2mmほどである。化学物質の影響を受けにくいように撹拌子81はガラスやテフロン(登録商標)などの樹脂によりコーティングされている。つまり、磁気撹拌装置85内部での磁石91からの磁力で撹拌子81は磁石91と同じように回転することから、反応容器21内部にある試薬を撹拌混合することが可能となる。
【0034】
このように磁気撹拌装置85を利用することで、2つの断熱シールドの外部から間接的に運動エネルギーを投入でき、内部にて試料の撹拌混合が可能となる。つまり断熱シールド内部の試料を混合するために、金属の軸やガラス管などの比較的熱伝導の良いものが断熱シールド外部から侵入していないため、外部からの温度的外乱が非常に小さくコントロールされた内部の温度に変動を与えることがない。この効果は後述の撹拌装置80を用いても同様である。なお図1は磁気撹拌装置85を想定しているため撹拌子81が置かれているが、後述する他の撹拌装置を用い、磁気撹拌装置85を用いない場合には撹拌子81は必要ない。
【0035】
混合装置80の第2の例を図3に示した。図3にあるのは超音波振動撹拌装置86であり、その簡略断面図を示している。装置の中にはまず超音波振動子92が装置の上面近傍に備えられている。超音波振動子92は電圧を加えると歪みが生じる圧電素子材料からなっている。そして、超音波振動子92に電圧を供給する高周波電源93が装置内には備えられている。
【0036】
この高周波電源93のエネルギーにより起きる超音波振動子92の振動運動は、基台70やヒートシンクなどを介して反応容器21に伝えられる。つまりその振動で反応容器21内の試料は撹拌混合されることになる。この装置においても撹拌エネルギーは装置を伝わって伝えられるため、内部の温度には何の影響もない。
【0037】
混合装置80の第3の例を図4に示した。図4には揺動型撹拌装置87の簡略断面図を示している。装置の中にはまずモーター90が備えられている。モーター90の回転は円盤94に伝えられ大きな円周の回転になる。この円盤94の回転は機械変換装置95により一次元的な前後あるいは左右の運動に変換され、それは架台96を揺り動かす。熱量計は架台96の上に設置されているため、熱量計全体が揺り動かされ内部にある試料は撹拌されることになる。この揺動型撹拌装置87には、このような一次元的な動きもあるが、回転運動や楕円運動あるいは傾斜運動など様々な方法がある。
【0038】
図5には混合装置80の第4の例である、液体吐出型の装置を搭載した熱量計の断面図を示している。これは前記3つの装置と異なり、試料と反応させる反応液に強制的に運動エネルギーを与え、混合する装置である。液体吐出型の混合装置80は図のように第1の断熱シールド61の内部に接触し設置されており、内部の温度と均一化されている。この混合装置80の詳細は図6に示した。
【0039】
セラミックスに微細な溝100を形成した下板97には、圧電素子からなる上板98が接着されている。上板98はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料からなり、図示はしていないが上板98には駆動用の薄膜電極が施されている。上下貼り合わせた板の端部には薬液タンク99が備えられており、薬液タンク99内部には反応に使う反応液が貯められている。タンク内部の液体の温度も安定化させるため、薬液タンク99も熱伝導の良い金属やセラミックス製になっている。基本的にこのような構成で液体吐出装置88となっている。
【0040】
薬液タンク99内部の液体は下板97の溝100に供給され、上板98に電圧を加えると上板98は変形し溝100内の液体に圧力を与えるため、パルス的に電圧を供給することで、液体を少量吐出させることが出来る。この原理は基本的には一部のインクジェットプリンターなどに利用されている方法であり、非常にコンパクトに組み立てることが出来る。本発明では1cm以下の大きさで液体吐出装置88を利用している。なお液体吐出装置88に電圧を与えるためには電線が必要であるが、今回は図示していない。基本的に電線は第2の断熱シールド62の外部まで引き出されており、制御は外部から行う。
【0041】
液体吐出型の混合装置80について異なった形状のものを利用した場合の熱量計の断面図を図7に示した。混合装置80は熱量計の第2の断熱シールド62の外部に設置されている。この混合装置80の中にはポンプが搭載されており、ポンプの流体出口から配管101がのびている。配管101は第2のヒートシンク32や第1のヒートシンクなどを経由して反応容器21の近くまで達している。このポンプの圧力により配管101にある反応液102が吐出し、その力により反応容器21内の試料と混合することが出来る。
【0042】
ここで特徴的なのは反応液102は配管101の先端近辺にのみあり、それよりポンプに近い配管101内には空気が入っていることである。また、図には示していないが配
管101は部分的に材質が異なり先端部は金属製でありポンプに近い側はプラスチック製になっている。配管101の先端部は第1のヒートシンク31の中を経由あるいは密着しており、また第1の断熱シールド61にも接している。このため、熱伝導性の良い金属製の配管101の先端部は熱流センサとほぼ同じ温度になることから、吐出させる反応液102も同じ温度に制御される。
【0043】
配管101のポンプ近傍はプラスチック製であり、また空気で満たされていることから外部からの熱伝達はほとんどなくなることから、熱ノイズを非常に小さくして試料と反応液102を混合することが可能である。以上2つの液体吐出装置88を用いた場合は、反応液102をパルス状に数回にわたり混合させることが出来るので、滴定のような連続的な反応解析を実現することが出来る。またすでに述べた磁気撹拌装置85、超音波振動撹拌装置86、揺動型撹拌装置87などを併用することも可能である。
【0044】
それでは熱量計を用いた分析方法について図1を用いて説明する。まず評価用の試料を2つの反応容器21に等量ずつ滴下する。そして、サンプル熱流センサ11側の反応容器21には試料と化学反応を起こすであろう反応液をまた滴下しておく。このとき試料と反応液とは混合しないよう、量と滴下位置をあらかじめ決めておく。
【0045】
続いて第1の断熱シールド61と第2の断熱シールド62をかぶせることで、外気の出入りをほぼ遮断する。このとき完全に密封してしまうと、内部温度が変化したときに内部圧力が変わってしまうため、わずかな出入りは残しておく。そしてペルチェ素子51に電流を投入し、温度センサ41からの温度情報によって第1のヒートシンク31を所定の温度と温度変動幅に制御されるまで時間をおく。
【0046】
第1のヒートシンク31には第1の断熱シールド61が乗っているため、第1の断熱シールド61も第1のヒートシンク31とほぼ同じ温度に制御される。つまり第1の断熱シールド61内部は均一の温度に設定される。このときサンプル熱流センサ11とリファレンス熱流センサ12の出力電圧を測定すると、センサの上下にて、つまりは熱電対の両端にて温度差がほとんどないため、電圧は非常に小さい。
【0047】
第1のヒートシンク31が所定の温度に設定されたのち、撹拌装置80(ここでは磁気撹拌装置)を作動させる。すると反応容器21にあらかじめ設置された撹拌子81の回転が生じ、試料と反応液は混合される。混合に従い、両者間に反応性があれば反応熱の発生あるいは吸収が起こることから、サンプル熱流センサ11の上下に温度差が生じ電圧出力に変動が起きる。この出力変動の有無から試料と反応液とのあいだに反応性があることが確かめられる。
【0048】
また撹拌子81を回転させることで多少の物理的な熱変動が生じる可能性はある。リファレンス熱流センサ12には反応液はないため、物理的な熱変動による出力変動が生じるのみである。つまりサンプル熱流センサ11とリファレンス熱流センサ12の信号電圧の差分を計算することで、真の反応熱に従う熱量を計算することが出来る。また、電圧変動が生じた時からなくなるまで電圧を時間で積分することで、発生電力が得られる。つまり試料と反応液の濃度や量が分かっていると、反応系の単位反応熱量も計算が可能となる。
【0049】
ここでは熱量計の使用条件について特に制限していないが、より精密な分析を行うためには、恒温槽や恒温室など温度制御された雰囲気内で使用すると良い。また、第1のヒートシンク31が所定の温度に達した後、ペルチェ素子51への電流投入を停止して試料と反応液とを混合しても良い。ペルチェ素子51で制御している限り少なからず設定温度の近辺において周期的な温度の上下が生じる。しかし電流を停止することによってヒートシンクの温度は低下あるいは上昇するのみであるので、周期的なノイズ成分を除去すること
が可能である。
【0050】
さらに第1のヒートシンク31は図8に示したように、3層構造にする方法もある。第1のヒートシンク31は2枚の金属板35のあいだにガラス板36を積層した構造になっている。この様な構造で一度第1のヒートシンク31の温度が制御されると、熱伝導の低いガラス板36によって熱量センサに接している金属板35からの熱の戻りが抑えられるため、温度の安定性がさらに良くなる。
【0051】
さらにペルチェ素子51のほかに補助温調装置52を設ける方法もある。補助温調装置52を用いた熱量計の断面図を図9に示した。この図ではペルチェ素子51の下の第2のヒートシンク32のさらに下に補助温調装置52が設置されている。ここではこの補助温調装置52にもやはり熱電素子を利用している。そして補助温調装置52も第3のヒートシンク33の上に乗っており、それらを囲むように第3の断熱シールド63も設置してある。補助温調装置52は第2のヒートシンク32に取り付けた第2の温度センサ42の温度をフィードバックして第2のヒートシンク32を所定の温度に設定する。この温度は設定したい第1のヒートシンク31の温度かそれよりも若干高い温度にする。
【0052】
すでに第2のヒートシンク32とそれに接している第2の断熱シールド62内部の温度は安定した状態に保たれているため、第1のヒートシンク31の温度調節では外乱が非常に小さい状態になり、さらに温度変動幅を小さく制御できる。ここでは補助温調装置52に熱電素子を利用しているが、ヒーターを用いてもかまわない。また第2のヒートシンク32の下に設置する以外に、第2の断熱シールド62や第3の断熱シールド63にヒーターを接触させることも可能である。
【0053】
以上のような方法により、本発明の熱量計をもちいると各種の化学反応が微量な試料にて測定可能である。たとえば、熱流センサに3mm角で98対のビスマステルル系材料の熱電対を含むマイクロサーモモジュールを利用し、ガラス製の反応容器21を用い、血液中の血糖値を測定する場合を述べる。
【0054】
標準的な血糖値つまりグルコース量は1mg/mL程度である。この試料を1μLとり反応容器21に入れ、さらにグルコース酸化酵素液も入れる。酵素反応であるため、第1のヒートシンク31の温度は40℃ほどに設定する。グルコースの単位発熱量からこの濃度での発熱量は0.44mJであり、反応容器21の熱容量・約60mJ/K、液体の熱容量・約10mJ/Kなどからサンプル熱流センサ11の温度は約6mK上昇する。これによってセンサから出力される電圧は約0.2mVであり、特別な装置を必要とせず、通常の電圧計で容易に測れる値である。
【0055】
このように本発明の熱量計を用いると、生体関連物質などもμLオーダーの非常に少ない量で反応試験が可能であり、貴重なサンプルなどにも十分対応できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態における熱量計の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における磁気撹拌装置の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における超音波振動型撹拌装置の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における揺動型撹拌装置の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における液体吐出装置を搭載した熱量計の構造を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態における液体吐出装置の構造を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態における第2の構造の液体吐出装置を搭載した熱量計の構造を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態におけるヒートシンクの構造を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態における異なる構造の熱量計を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
11 サンプル熱流センサ
12 リファレンス熱流センサ
21 反応容器
31 第1のヒートシンク
32 第2のヒートシンク
33 第3のヒートシンク
35 金属板
36 ガラス板
41 温度センサ
42 第2の温度センサ
51 ペルチェ素子
52 補助温調装置
61 第1の断熱シールド
62 第2の断熱シールド
63 第3の断熱シールド
70 基台
80 混合装置
81 撹拌子
85 磁気撹拌装置
86 超音波振動撹拌装置
87 揺動型撹拌装置
88 液体吐出装置
90 モーター
91 磁石
92 超音波振動子
93 高周波電源
94 円盤
95 機械変換装置
96 架台
97 下板
98 上板
99 薬液タンク
100 溝
101 配管
102 反応液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモモジュールを用いたサンプル熱流センサとサーモモジュールを用いたリファレンス熱流センサと、前記サンプル熱流センサおよびリファレンス熱流センサである2つの熱流センサそれぞれの片面に接する2つの反応容器と、前記2つの熱流センサの反対面に接する第1のヒートシンクと、該第1のヒートシンクの温度を測定する温度センサと、前記第1のヒートシンクの下面に接する温度制御用のペルチェ素子と、該ペルチェ素子の下面に接する第2のヒートシンクと、少なくとも2つの前記熱流センサを内包する断熱シールドを有している熱量計であり、前記サンプル熱流センサの反応容器内部において所定の試薬を混合する混合装置を有する熱量計。
【請求項2】
前記混合装置は前記断熱シールドの外部に有し、機械的結合を有せずに間接的に前記断熱シールド内部にエネルギーを供給することで、所定の試薬を混合することを特徴とする請求項1に記載の熱量計。
【請求項3】
前記混合装置には磁気撹拌装置、超音波振動撹拌装置、揺動型撹拌装置または液体吐出装置から選ばれる少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱量計。
【請求項4】
前記第1のヒートシンクは相対的に熱伝導率の異なる材料を積層した構造を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱量計。
【請求項5】
前記断熱シールドを複数有し、前記第1のヒートシンクの温度を間接的に調節する補助温調装置を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱量計。
【請求項6】
ペルチェ素子を用い第1のヒートシンクを介してサンプル熱流センサとリファレンス熱流センサを所定の温度に保つ工程と、混合装置を用いて前記サンプル熱流センサの反応容器内にて2種類以上の試薬を混合する工程と、前記サンプル熱流センサからは試薬の化学反応により生じた温度変化に対応した信号電圧を測定する工程と、前記リファレンス熱流センサに生じているリファレンス電圧を測定する工程と、前記信号電圧と前記リファレンス電圧との差分を演算する工程とを有する熱量計を用いた分析方法。
【請求項7】
前記ペルチェ素子を用い第1のヒートシンクを介してサンプル熱流センサとリファレンス熱流センサを所定の温度に保つ工程に続き、前記ペルチェ素子への通電を停止する工程を有することを特徴とする請求項6に記載の熱量計を用いた分析方法。
【請求項8】
前記ペルチェ素子を用い第1のヒートシンクを介してサンプル熱流センサとリファレンス熱流センサを所定の温度に保つ工程と、混合装置を用いて前記サンプル熱流センサの反応容器内にて2種類以上の試薬を混合する工程とを恒温槽内部において行うことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の熱量計を用いた分析方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−275713(P2006−275713A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94092(P2005−94092)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】