説明

熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板

【課題】優れた耐酸化性を有する熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】めっき処理を施した鋼板の両面に、厚さが10nm以上であり、3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)を含有する酸化物層を形成した亜鉛系めっき鋼板である。例えば、鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、調質圧延を施した後、アルカリ性溶液に接触させて、めっき表面を活性化し、その後、Znイオンおよび硫酸イオンを含有しpH緩衝作用を有する酸性溶液に接触させ、酸性溶液接触後、1〜90秒保持した後、水洗することで、上記酸化物層は形成される。そして、酸化物層被覆後の鋼板をAc3変態点以上に加熱し熱間プレス成形をした場合、外観不良が抑制され、めっき層剥離は観察されず、優れた耐酸化性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化性に優れた熱間プレス用めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体の軽量化のため、鋼板の高強度化(例えば、780Mpa級)を図り、使用する鋼板の厚みを減ずる努力が行われている。しかし、鋼板をプレス加工する場合、例えば、絞り加工を行う場合、鋼板の強度が高くなると、絞り加工時に金型との接触圧力が高まることに起因して、鋼板のかじりや破断が発生する。また、そのような問題を少しでも軽減するために、鋼板の絞り加工時の材料の金型内への流入を高めるためのブランク押さえ圧を下げた場合、成形後の形状がばらつく等の問題点がある。
また、形状安定性いわゆるスプリングバックの問題も発生する。これに対しては潤滑剤を使用することにより改善する方法があるが、780Mpa級の高強度鋼板ではその効果は小さい。
【0003】
このような現状に対して、780Mpa以上の高強度鋼板のような難プレス成形材料をプレス成形する技術として、成形すべき材料を予め加熱して成形する方法が考えられる。いわゆる熱間プレス成形および温間プレス成形である(以下、熱間プレス成形および温間プレス成形をまとめて熱間プレス成形と称する)。
【0004】
しかしながら、熱間プレス成形は、加熱した鋼板を加工する成形方法であるため、表面酸化は避けられず、たとえ鋼板を非酸化性雰囲気中で加熱しても、例えば、加熱炉からプレス成形のために取り出すときに大気にふれると表面に鉄系酸化物が形成される。この鉄系酸化物はプレス時に脱落して金型に付着して生産性を低下させる。あるいは、プレス後の製品に残存して外観不良の原因となる。さらには、次工程で塗装する場合に鋼板と塗膜との密着性が劣ることになる。
【0005】
そこで、熱間プレス成形後は、ショットブラストを行ってそのような鉄系酸化物から成るスケールを除去することが必要になる。しかし、これはコスト増を免れない。
【0006】
このような問題を解決するべく、特許文献1では熱間成形時に母材鋼板の耐酸化抵抗性を持たせるためにアルミニウムを被覆し、所定の組成および組織とした鋼板を提案している。しかしながら、このような鋼板は普通鋼と比較した場合、大幅なコスト増となる。
以上のように、高強度の鋼板に熱間プレス成形を行った場合、生成した鉄系酸化物を除去する工程が必要であること、そして、大幅なコスト増なしに該酸化物を除去する工程を省略できないのが現状である。
【特許文献1】特開2000−38640号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、優れた耐酸化性を有する熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板を大幅なコスト増を伴うことなく提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
【0009】
熱間プレス前に酸性溶液に鋼板(亜鉛系めっき層)を接触させ、めっき層の表面に3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)を含有する酸化物層を形成させることで、熱間プレス後に外観を損ねることなく、また大幅なコスト増を伴うことなく、耐酸化性に顕著な改善が見られることを見出した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]亜鉛系めっき鋼板の両面に、厚さが10nm以上であり、3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)を含有する酸化物層を有することを特徴とする熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板である。
【0011】
なお、本発明においては、亜鉛を主体とするめっき層を有する鋼板を総称して亜鉛系めっき鋼板と呼称する。したがって、めっき処理後に合金化処理を施す、施さないにかかわらず、亜鉛を50質量%超含有するめっき層を有していれば本発明の亜鉛系めっき鋼板である。すなわち、本発明における亜鉛系めっき鋼板とは、合金化処理を施していない溶融亜鉛めっき鋼板、合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウムめっき鋼板など、いずれも含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた耐酸化性を有する熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板が得られる。そして、本発明の熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板を用いて熱間プレス成形を行うことにより、鋼板のかじりや破断が発生することなく加工が可能となり、ショットブラストなどのスケール除去を行う必要がないためコスト低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、亜鉛系めっき鋼板の両面に、厚さが10nm以上であり、3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)を含有する酸化物層を有することを特徴とする。このように、両面に前記酸化物層を有することで、熱間プレス成形時にめっき層からのZnの蒸発が抑制されるとともに、この酸化物層が鋼のバリア層となり、耐酸化性が改善される。3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)はZn単体と比較して高融点であるため、前記効果が得られるからである。
【0014】
また、めっき表層に形成する3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)を有する酸化物層の厚さは10nm以上とする。10nm以上とすることにより、Ac3変態点以上の温度においてもこの酸化物層がバリア層となり、スケールの発生を抑制することができる。
一方、厚さが100nm超えでは、前記効果が飽和する上に、100nm超えの厚さを有する層をめっき層表層に形成するためのライン長さが必要になるなど、製造設備上の問題も生じる。よって、上限は、好ましくは100nm以下とする。
以上より、耐酸化性に優れた熱間プレス用めっき鋼板とするために、酸化物層の厚さは10nm以上とする。好ましくは20nm以上100nm以下である。
【0015】
なお、本発明における酸化物層とは、膜厚が既知のシリカ皮膜のO(酸素)のKα蛍光X線強度により作成した検量線を用いて求めたシリカ換算の膜厚で10nm以上となるものである。
【0016】
また、本発明において、両面に有する酸化物層とは、3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)を含有する10nm以上の酸化物層であればよく、連続層であっても、断続的な層であってもどちらでもよい。また、酸化物層中に3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)が存在する割合も酸化物層全体で均一である必要はなく不均一であってもよい。さらにその他の酸化物を含んでいてもよい。酸化物は金属Znと比較して高融点であり、3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)と同様の効果が得られるからである。
【0017】
また、表面に3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)が存在するかどうかは、薄膜X線回折法を用いてX線回折パターンを測定し、表面に前記酸化物層を形成していない亜鉛系めっき鋼板のX線回折パターンとの差を求め、ICDDカードの標準パターンと照合して調査することで確認することができる。
【0018】
亜鉛系めっき鋼板の両面に3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)を有する酸化物層を形成させる方法としては、めっき層の水溶液による反応を利用する方法が最も効果的である。中でもZnイオンおよび硫酸イオンを含有する溶液の液膜をめっき層表面に形成させ、所定時間放置し、反応させることで、前述した3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)を含有する酸化物層を形成することができる。
【0019】
例えば、鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施し、調質圧延を施した後、アルカリ性溶液に接触させてめっき層表面を活性化し、その後、Znイオンおよび硫酸イオンを含有し、好ましくはpH緩衝作用を有する酸性溶液に接触させ、酸性溶液接触後、1〜90秒保持した後、水洗する。
【0020】
この時、Znイオンのみを含有する酸性溶液を用いた場合は3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)は形成されないが、酸性溶液中にZnイオンおよび硫酸イオンを含有することで、めっき鋼板表層に3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)が形成される。Znイオンおよび硫酸イオンを含有する溶液では、硫酸イオンの濃度が高くなるにつれ、3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)の形成が促される傾向にある。また、Znイオンおよび硫酸イオンの濃度が高くなるほど、形成される酸化物層も厚くなる傾向にある。
【0021】
使用する酸性溶液は、pH=0.5〜6.0の領域においてpH緩衝作用を有するものが好ましい。これは、前記pH範囲でpH緩衝作用を有する酸性溶液を使用すると、酸性溶液に接触後、所定時間保持することで、酸性溶液とめっき層の反応によりZnの溶解とZnを含む酸化物の形成反応が十分に生じ、鋼板表面に本発明の目的とする酸化物層を安定して得ることができるためである。
【0022】
また、このようなpH緩衝作用の指標として、1リットルの酸性溶液のpHを2.0〜5.0まで上昇させるのに要する1.0mol/l水酸化ナトリウム水溶液の量(l)で定義するpH上昇度で評価でき、この値が0.05〜0.5の範囲にあるとよい。pH上昇度が0.05以上とすると、pHの上昇が速やかに起こって酸化物層の形成に十分な亜鉛の溶解が得られないことがないため、十分な酸化物層の形成が生じる。一方で、0.5以下とすると、亜鉛の溶解が促進されすぎることがなく、酸化物層の形成に長時間を有することがないだけでなく、めっき層の損傷も激しくなく、本来のZnの鋼に対する犠牲防食の役割も失うことがないと考えられるためである。ここで、pHが2.0を超える酸性溶液のpH上昇度は、酸性溶液に硫酸などのpH=2.0〜5.0の範囲でほとんど緩衝性を有しない無機酸を添加してpHを一旦2.0に低下させて評価することとする。
【0023】
このようなpH緩衝性を有する酸性溶液としては、酢酸ナトリウム(CH3COONa)などの酢酸塩やフタル酸水素カリウム((KOOC)2C6H4)などのフタル酸塩、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)やクエン酸二水素カリウム(KH2C6H5O7)などのクエン酸塩、コハク酸ナトリウム(Na2C4H4O4)などのコハク酸塩、乳酸ナトリウム(NaCH3CHOHCO2)などの乳酸塩、酒石酸ナトリウム(Na2C4H4O6)などの酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩のうち少なくとも1種類以上を、前記各成分含有量を5〜50g/lの範囲で含有する水溶液を使用することができる。前記濃度が5g/l以上とすると、亜鉛の溶解とともに溶液のpH上昇が比較的すばやく生じることがないため、耐酸化性の向上に十分な酸化物層を形成することができる。また50g/l以下とすると、亜鉛の溶解が促進されすぎることがなく、酸化物層の形成に長時間を有することがないだけでなく、めっき層の損傷も激しくなく、本来のZnの鋼に対する犠牲防食の役割も失うことがないと考えられるためである。
【0024】
酸性溶液のpHは0.5〜6.0の範囲にあることが望ましい。pHを6.0以下とすると、溶液中でZnの溶解が十分に生じるため、酸化物層の形成が十分となる。一方、pHを0.5以上とすると、亜鉛の溶解が促進されすぎることがなく、めっき付着量の減少がないだけでなく、めっき皮膜に亀裂が生じることがなく加工時に剥離が生じやすくならないので、望ましい。
【0025】
酸性溶液の温度については、20〜70℃の範囲であることが好ましい。20℃以上とすると、酸化物層の生成反応に長時間を有することがなく、生産性の低下を招くことがない。一方、70℃以下とすると、鋼板表面に処理ムラを発生することがなく、反応を比較的すばやく進行させることができる。
【0026】
めっき鋼板を酸性溶液に接触させる方法には特に制限はなく、めっき鋼板を酸性溶液に浸漬する方法、めっき鋼板に酸性溶液をスプレーする方法、塗布ロールを介して酸性溶液をめっき鋼板に塗布する方法等がある。
【0027】
めっき鋼板を以上からなる溶液に接触させた後に、その溶液が薄い液膜状で鋼板表面に存在することが望ましい。これは、鋼板表面に存在する溶液の量が多すぎると、亜鉛の溶解が生じても溶液のpHが上昇しにくく、目的とする酸化物層を形成するまでに長時間を有するためである。一方、少ないと酸化物形成量が少なくなり、耐酸化性が向上しない。以上から、鋼板表面に形成する溶液膜の量は、3〜30g/mに調整することが好ましい。なお、溶液膜量の調整は、絞りロール、エアワイピング等で行うことができる。
また、酸性溶液に接触後、水洗までの時間(水洗までの保持時間)は、1〜90秒間必要である。これは水洗までの時間が1秒未満であると、溶液のpHが上昇し目的とする酸化物層が形成される前に酸性溶液が洗い流されるために、耐酸化性の向上効果が得られない。一方、90秒を超えても、酸化物層の形成量に変化が見られないためである。
【0028】
なお、酸性溶液に接触させる前に、表面活性化処理を施すことが好ましい。そして、表面活性化処理に用いる薬液がpH11以上であるアルカリ性溶液であることが好ましい。この処理目的は、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板の場合では、表面に形成したZn系酸化物を除去し、表面に新生面を露出させることにより、新生面が露出された部分で反応を活性化させ、新たに酸化物層の形成を容易にするためである。
【0029】
また、この表面活性化処理の前に調質圧延を行ってもよい。さらに、めっき処理後表面活性化処理を行い、調質圧延を行い、その後、酸性溶液に接触させるようにしてもよい。これは、調質圧延の際に使用する調圧ロールなどにより、めっき鋼板表面に存在するZn系酸化物層の一部を破壊することもでき、表面活性化処理を組み合わせることによりZn系酸化物層を効果的に除去できる。
【0030】
表面活性化処理に用いる水溶液はpHが11以上、浴温を30℃以上とし、該液との接触時間を1〜30秒とすることが好ましい。1秒以下の場合はZn系酸化物を十分溶解できない為、その後に引き続く酸性溶液との反応性を高めることが出来ず、酸化物層が十分に形成しない。一方、30秒より多くても構わないが、長時間処理することは生産性を低下するため好ましくない。より好ましくはpH11以上、浴温50℃以上である。上記範囲内のpHであれば溶液の種類に制限はなく、水酸化ナトリウムや水酸化ナトリウム系の脱脂剤などを用いることができる。
表面活性化処理は酸性溶液に接触する前に実施することが好ましいが、必要に応じて行われるめっき処理後に行われる調質圧延の前、後いずれで実施しても良い。ただし、調質圧延の後、表面活性化処理を施すと、圧延ロールにより押しつぶされ凸部となった部分でZn系酸化物が機械的に破壊されるため、凸部以外の凹部とZn系酸化物の除去量が異なる傾向がある。このため、表面活性化処理後のZn系酸化物量が、面内で不均一となり、引き続き行われる酸化処理が不均一となり十分な特性を得られない場合がある。このため、より好ましくはめっき処理後、表面活性化処理を施し、面内で均一にZn系酸化物を適正量除去した後、調質圧延を実施し、引き続き酸性溶液に接触させる処理とするプロセスが好ましい。
表面活性化処理の方法については、特に限定しない。浸漬法、スプレー法、ロール塗布法などが挙げられる。
【0031】
また、酸性溶液接触処理などに使用する処理液中に不純物が含まれることによりS、N、Pb、Cl、Na、Mn、Ca、Mg、Ba、Srなどが酸化物層中に取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0032】
なお、本発明にかかる素地鋼材は、特に限定はしないが、めっき処理時のめっき濡れ性、めっき後のめっき密着性が良好となる鋼組成とすることが好ましい。また、熱間プレス成形を行う場合を考慮して、その特性として、熱間プレス成形後に急冷して高強度、高硬度となる焼入れ鋼、例えば高張力鋼板が実用上は特に好ましい。
【0033】
また、本発明において、めっき法に特に限定はないが、溶融亜鉛めっき法がコストの点で好ましい。もちろん、所定の酸化物層をめっき表面に形成できるものであれば良く、例えば、電気めっき、溶射めっき、蒸着めっき等その他いずれの方法でめっき層を設けても良い。
また、熱間プレス成形の方法については特に限定しない。例えば、本発明の熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板に対して、1〜100℃/秒の加熱速度にてAc3変態点以上に加熱し、5〜6000秒間の保持後、400〜800℃の温度域で熱間プレス成形することにより、本発明の耐酸化性の効果を最大限に得ることができる。
また、熱間プレス成形中に、ダイとパンチを用いて10〜200℃/sの冷却速度にて部材を冷却したり、熱間プレス成形後に、熱間プレス成形した部材を金型より取り出し、液体または気体を用いて冷却することも可能である。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0035】
鋼成分として、C:0.23mass%、Si:0.12mass%、Mn:1.5mass%、Cr:0.50mass%、B:0.0020mass%を含有する鋼板に対して、溶融亜鉛めっき処理、合金化溶融亜鉛めっき処理および電気亜鉛めっき処理を各々行い、板厚1.2mmの溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)および電気亜鉛めっき鋼板(EG)を作製した。なお、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板および電気亜鉛めっき鋼板のいずれもめっき付着量は45g/m2である。GIに対しては、酸性溶液接触処理前に表面活性化処理を行った。
【0036】
次いで、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板および電気亜鉛めっき鋼板に対して、酸性溶液接触処理を行った。なお、酸性溶液処理は、緩衝性を持つ酢酸ナトリウム40g/lの酸性水溶液を作成し、次いで、pHを硫酸で調整した酸性溶液に3秒浸漬した。その後、ロール絞りを行い、液量を調整した後、1〜90秒間大気中、室温にて放置し、十分水洗を行った後、乾燥を実施し、めっき鋼板表層に、厚さが10nm以上の3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)を有する酸化物層を形成した。なお、詳細な条件は、表1〜表3に示す。また、比較例として、上記酸性溶液接触処理を行わないものも作製した。
【0037】
以上により作製した鋼板について、めっき表層の酸化物層厚さの測定を行うとともに、自動車用外板として十分な熱間プレス成形性(成形後の外観)を有するか判定した。
また、3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)の確認は、薄膜X線回折法を用いて酸化物層のX線回折パターンを測定し、該酸化物層を形成していない亜鉛系めっき鋼板のX線回折パターンとの差を求め、ICDDカードの標準パターンと照合して行った。その結果、酸性溶液処理を行った実施例では、全てにおいて、3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)が確認された。一方、酸性溶液処理を行わない比較例では、3Zn(OH)・ZnSO・nHO(n=0〜5)は確認されなかった。
酸化物層厚さの測定方法及び熱間プレス成形性の評価方法の詳細は以下の通りである。
・ 酸化物層厚さ
膜厚が96nmの熱酸化SiO2膜が形成されたSiウエハを参照物質として用い、蛍光X線分析装置でO・Kα X線を測定することで、SiO2換算の酸化物層の平均厚さを求めた。分析面積は30mmφである。
・ 熱間プレス成形性(外観評価)
加熱炉内で、大気雰囲気下で900℃まで加熱し、900℃で5分間保持後加熱炉より取り出し、円筒絞りの熱間プレス成形を行った。熱間プレス成形は、絞り高さ:25mm、肩R:5mm、ブランク直径:90mm、パンチ直径:50mm、ダイ直径:53mmの条件の下で実施した。成形後の試験片のめっき層密着状態として、めっき層の剥離の有無を目視で観察して、熱間プレス成形性として2段階で評価した。
○:剥離なし、×剥離あり
以上により得られた結果を条件と併せて表1〜表3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
本発明例では、熱間プレス成形時のめっきの蒸発抑制およびスケール発生防止による外観不良が抑制され、めっき層剥離は観察されず、耐酸化性に優れるため、熱間プレス成形性が良好であった。
【0042】
一方で、酸性溶液処理を行っていない比較例では、酸化物層が形成されず、熱間プレス成形時後にスケール発生に起因するめっき層剥離が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の熱間プレス用めっき鋼板は、耐酸化性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板の両面に、厚さが10nm以上であり、3Zn(OH)・ZnSO・nH2O(n=0〜5)を含有する酸化物層を有することを特徴とする熱間プレス用亜鉛系めっき鋼板。

【公開番号】特開2010−77498(P2010−77498A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247320(P2008−247320)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】