説明

熱間孔型圧延方法

【課題】 圧延材の先端部が圧延ロールに噛み込む前に潤滑油の供給を開始しても、圧延材の通材性を確保しつつ圧延ロールの肌荒れ起因による表面疵を低減させることができるようにすると共に歩留も向上できるようにする。
【解決手段】外周部にカリバー11が形成された圧延ロール9にて圧延材2を熱間圧延する熱間孔型圧延方法であって、圧延ロール9の入側で潤滑剤を供給して圧延することとし、カリバー11へ向けて潤滑油15を供給する供給領域Eを、入側の圧延材2の幅をdとしたとき、圧延ロール9の胴長方向にカリバーの中心から0.4×(d/2)離れた位置よりも外側の領域とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材、棒鋼、条鋼などの圧延材をカリバーを有する圧延ロールにて圧延する熱間孔型圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線材、棒鋼、条鋼などの圧延材の熱間圧延では、近年、ユーザーサイドから圧延材の表面疵の低減に対して強く注目されるようになってきており、このことが寸法精度の高精度化と共に、製品の高品質化を図る二大要素となっている。
この圧延材の表面疵を低減させるためには、圧延に用いられる孔型ロール(カリバーを有する圧延ロール)のロール肌荒れを低減させる必要があるため、ロール肌荒れによる微細疵をいかに防止するかが急務となっている。
【0003】
また一方で、このロール肌荒れの防止措置をとることでカリバー替えが頻繁化しこれを原因として生産性が低下する、といったことは避けなければならず、従って高生産性の維持という面も重要な課題となっている。
線材、棒鋼、条鋼などの熱間圧延を行う際にロール肌荒れを防止するものとして特許文献1に示すものがある。この特許文献1では、孔型におけるセンター振り分けとして、孔型ロールに対して潤滑剤を供給する領域をスタンド入り側での材料幅と孔型ロールの孔型幅から求まる範囲内に潤滑を供給することによってロール肌荒れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−66288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、孔型ロール中央からある幅に対して潤滑を行うという内容であったが、潤滑開始のタイミングは、噛み込み性を考慮して、孔型ロールに対して材料が噛み込んだ時点以降に供給を開始するように提示されている。しかしながら、この方法では材料先端部から潤滑を供給しないため、材料先端で発生するロール肌荒れ起因の表面疵を抑制することが出来ず、歩留が低下する問題が生じる。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、潤滑剤を供給して圧延する熱間孔型圧延方法であって、圧延材の先端部が圧延ロールに噛み込む前に潤滑油の供給を開始しても、圧延材の通材性を確保しつつ圧延ロールの肌荒れ起因による表面疵を低減させ、歩留まり向上も期待することができる熱間孔型圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
本発明の技術的手段は、外周部にカリバーが形成された圧延ロールにて圧延材を熱間圧延する熱間孔型圧延方法であって、前記圧延ロールの入側で潤滑剤を供給して圧延することとし、前記カリバーへ向けて潤滑油を供給する供給領域を、入側の圧延材の幅をdとしたとき、前記圧延ロールの胴長方向に前記カリバーの中心から0.4×(d/2)離れた位置よりも外側の領域とする点にある。
【0008】
前記供給領域は、カリバーの中心からd/2離れた位置よりも内側の領域とすることが好ましい。
このように、供給領域を圧延ロールの胴長方向にカリバーの中心から0.4×(d/2)離れた位置よりも外側の領域としているため、カリバー内に潤滑油を供給する部分と潤滑油を供給しない部分ができる。そのため、圧延材の先端部が圧延ロールに噛み込む前に潤滑油の供給を開始しても、潤滑油を供給していない部分を利用して圧延材をカリバーに確実に噛み込ませることができ、従来のように潤滑油を供給することによってミスロールを発生させるという虞を無くすことができる。加えて、潤滑油の供給により圧延材の先端部における表面疵を低減させることができる。
【0009】
しかも、単に潤滑油を供給する部分と潤滑油を供給しない部分とに分けているのではなく、圧延ロールの肌荒れが圧延材の表面疵へ影響し易い領域、即ち、上述した領域に潤滑油を供給しているため、圧延材の表面疵を効率よく低減させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧延材の先端部が圧延ロールに噛み込む前に潤滑油の供給を開始しても、圧延材の通材性を確保しつつ圧延ロールの肌荒れ起因による表面疵を低減させることができ、歩留も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】圧延設備の概略図である。
【図2】カリバーを示す図である。
【図3】潤滑油を供給していない場合の肩部及び天地部におけるカリバーの平均粗さと圧延材(素材)の平均粗さとの関係図である。
【図4】潤滑油を供給した場合の肩部及び天地部におけるカリバーの平均粗さと圧延材(素材)の平均粗さとの関係図である。
【図5】潤滑油の供給例を示す図である。
【図6】潤滑油の供給範囲とカリバーとの関係を示す図である。
【図7】圧延材を角形から菱形に変形させたときの相対速度の変化図である。
【図8】圧延材を角形からオーバルに変形させたときの相対速度の変化図である。
【図9】入側圧延材の比率と相対速度比率との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の熱間孔型圧延方法を以下に説明する。
図1は、本発明の熱間孔型圧延方法を行う圧延設備を示したものである。
圧延設備1は、例えば、ビレットなどの鋼材からなる圧延材2を連続圧延して条鋼を製造するものであり、上流側から下流側に向けて、圧延材2を加熱する加熱炉3、デスケーラ4、粗圧延機5、中間圧延機6、仕上げ圧延機7、巻き取り機8が順番に配設されている。なお、図1の圧延設備1は、条鋼を製造するものであるが、圧延設備は、これに限定されず、圧延材2を連続圧延して線材、棒鋼を製造するものであってもよい。
【0013】
以下の説明において、図1の左側を上流側、図1の右側を下流側とする。
加熱炉3は圧延材2を1000〜1200℃程度に加熱する装置であり、加熱炉3で加熱された圧延材2はデスケーラ4に送られる。デスケーラ4は加熱後の圧延材2の表面に形成されたサブスケールを水蒸気の作用、高圧洗浄水の噴き付け、又はメカニカルブラシなどで除去する装置であり、デスケーラ4でサブスケールが除去された圧延材2は粗圧延機5に送られる。粗圧延機5、中間圧延機6及び仕上げ圧延機7は、圧延材2を所定の大きさに圧延するもので、仕上げ圧延機7で所定の大きさに圧延された圧延材2は巻き取り機8に送られて、圧延材2がリング状に巻き取られる。
【0014】
粗圧延機5、中間圧延機6、及び仕上げ圧延機7は、対になった圧延ロール9、9を備えた複数の圧延スタンド10を備えている。各圧延スタンド10には、圧延ロール9が様々な方向を向けて配置されている。各圧延スタンド10に圧延材2が通材されると、圧延ロール9は圧延材2に対して水平方向、垂直方向等様々な角度から圧延し、当該圧延材2を角、楕円、丸等に変形させつつ当該圧延材2の断面を順次減少させることにより、圧延材2を所定の大きさに圧延する。
【0015】
圧延ロール9は円筒状や円柱状に形成されたもので、その外周面(外周部)には様々な形状のカリバー11が形成されている。カリバー11には、菱孔型(ダイヤ)、角孔型(スクエア)、楕円孔型(オーバル)、丸孔型(ラウンド)などの断面形状と呈したものであって、圧延材2の材質、又は条鋼の種類や用途などに合わせてこれらの形状の圧延ロール9が圧延スタンド11に組み合わせられる。
【0016】
さて、このような圧延ロール9にて圧延材2を圧延すると、圧延ロール9の外周部に設けられたカリバー11の肌荒れに起因し、圧延材2に表面疵が生じる場合がある。そこで、発明者らは、圧延材2に表面疵を発生させないようにするために様々な角度から検証を行った。
具体的には、まず、図2に示すように、オーバル形状のカリバー11について、カリバー11の幅方向の中心部付近を天地部12(最も凹んでいる部分)とし、カリバー11の幅方向の端部付近をオーバル部13、天地部12とオーバル部13との間を肩部14として、各部位の表面粗さを測定した。即ち、オーバル形状のカリバーを用いて圧延材2の圧延を行った後において、各部位の表面のRz(10点平均粗さ)、Ry(最大粗さ)、Ra(平均粗さ)を測定した。
【0017】
表1は、各部位の粗さをまとめたものである。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すように、圧延を行った後の状態を見ると、カリバー11における各部位の粗さは、他の部分に比べ肩部14が大きいことが分かる。圧延ロール9を回転させて圧延を行ったときに、回転している圧延ロール9(カリバー11の表面)と圧延材2との相対的なすべりが天地部12よりも肩部14が大きくなっている可能性があると考えられる。そこで、天地部12及び肩部14における表面粗さと、圧延材2に生じる表面疵との関係を調べた。
【0020】
具体的には、オーバル形状のカリバー11を通過した後に、丸孔状のカリバー11を通過後の圧延材2について、カリバー11の天地部12及び肩部14の表面の平均粗さと圧延材の表面の平均粗さとの相関関係を調査した。
図3に示すように、カリバー11の平均粗さの増減と圧延材2の平均粗さの増減とが比例関係にあって、カリバー11の表面粗さと圧延材2の表面粗さとには相関関係があると考えられる。図3に示すように、この調査のように圧延したときにカリバー11に潤滑油15を供給しなかった場合、肩部14の表面が粗く、その肩部14の表面の粗い部分が圧延材2の表面に転写されている。
【0021】
そこで、発明者らは、圧延材2をカリバー11にて圧延するときに、肩部14の肌荒れを低減することができれば、圧延材2に形成されてしまう表面疵を低減できるのではないかと考え、圧延する際にカリバー11の肩部14に潤滑油15を供給することによって肩部14の肌荒れの低減を試みた。図4は、カリバー11の肩部14に潤滑油15を供給しながら圧延を行った後における天地部12及び肩部14における表面の平均粗さと圧延材2に生じる表面の平均疵との結果をまとめたものである。図4に示すように、圧延したときにカリバー11の肩部14に潤滑油15を供給した場合、肩部14の表面の粗さが低減され、その結果、圧延材2の表面に形成された表面疵も低減されている。
【0022】
したがって、本発明では、圧延材2を圧延するにあたって、圧延材2の先端部がカリバー11に噛み込む(圧延ロール9に噛み込む)直前に、肩部14に向けて潤滑油15を供給して圧延を行うこととしている。
詳しくは、図5に示すように、圧延材2を圧延するときに、当該圧延材2の先端部がカリバー11に噛み込む直前に、圧延ロール9の入側からノズル等を用いて潤滑油15をカリバー11に向けて供給する。図6に示すように、カリバー11へ向けて潤滑油15を供給する供給領域Eは、入側の圧延材2の幅をd(mm)としたとき、圧延ロール9の胴長方向にカリバー11の中心CからAmm[A=0.4×(d/2)]離れた位置から外側の領域とする。即ち、供給領域Eは、カリバーのセンター振り分けとしてA(mm)よりも外側となる領域と言える。また、言い換えるとすると、カリバー11を正面から見たとき、カリバー11の中心から圧延ロール9の胴長方向にA(mm)離れた位置が潤滑油15を供給する供給領域Eと潤滑油15を供給しないの境界となっている。
【0023】
また、供給領域Eは、カリバーの中心からd/2(mm)離れた位置よりも内側としている。言い換えれば、供給領域Eは、図6に示す開始位置からカリバー11が形成されている部分とカリバー11が形成されてない部分(圧延ロール9の胴長方向におけるカリバー11の端部)までの終了位置までの領域である。なお、供給領域Eの説明では、カリバーの中心から離れる方向を外側とし、カリバーの中心に近づく方向を内側としている。
【0024】
さて、圧延ロール9の表面(カリバー11の表面)が粗くなり易いのは、圧延したときにカリバー11と圧延材2の相対速度が大きい箇所であると考えられる。そこで、コンピュータシミュレーション等の解析を用いて幅方向における圧延ロール9と圧延材2との相対速度を求めた。図7は、圧延材2が圧延ロール9に対して凸型接触する(圧延材2が上下方向に変形する)圧延であって、角形から菱形に変形したときの結果(角→菱孔型系列)を示している。図8は、圧延材2が圧延ロール9に対して凹型接触する(圧延材2が幅方向に変形する)圧延であって、角形からオーバルに変形したときの結果(角→オーバル型系列)を示している。
【0025】
図7、8に示すように、凸型接触、凹型接触共に入側の圧延材のコーナ部付近にて相対速度が大きくなっている。ここで、カリバー11の幅方向の位置と入側の圧延材の幅との関係を調べると図9に示すものとなる。図9の横軸は、カリバーの幅方向の座標/(圧延材の幅方向幅d/2)の値であって、入側圧延材の比率を示している。図9の縦軸は、各位置相対速度/平均相対速度の比率(相対速度比率)を示したものである。
【0026】
図9に示すように、入側圧延材の比率[カリバーの幅方向の座標/(圧延材の幅方向幅d/2)]が0.4以上になると凸型接触、凹型接触に相対速度が増加している。即ち、カリバーの中心から0.4×(d/2)以上離れた位置では相対速度が増加していることとなり、この範囲は、カリバー11の肌荒れに起因して圧延材の表面疵が発生しやすいと言える。
【0027】
したがって、上述したように、カリバー11へ向けて潤滑油15を供給する供給領域Eは、圧延ロール9の胴長方向にカリバー11の中心CからA[A=0.4×(d/2)]離れた位置よりも外側の領域とし、圧延材の表面疵の発生を低減している。
なお、実操業下においては圧延ロール9の隙間の調整や入側の圧延材の形状の変化などを要因とする変位が存在するため、供給領域Eは、図6に示す範囲の全体として潤滑剤を行き渡らせるようにするのがよいが、場合によっては0.3×(d/2)位置からカリバー11の端部側(d/2)、或いは0.6×(d/2)離れた位置からカリバー11の端部側(d/2)にしてもよい。
【0028】
表2は、本発明の熱間孔型圧延方法にて圧延を行った実施例と、本発明の熱間孔型圧延方法以外の方法にて圧延を行った比較例とを示したものである。
【0029】
【表2】

【0030】
比較例1では、潤滑油15の供給を行わずに圧延を行い、比較例2では、潤滑油15の供給をカリバー11の全体に行ったものの潤滑油15の供給開始は圧延材2がカリバー11に噛み込んだ後とした。比較例3では、潤滑油15の供給をカリバー11の全体に行ったものの潤滑油15の供給開始は圧延材2の先端部がカリバー11に噛み込む前に行った。一方、実施例1では、潤滑油15の供給を上述した供給範囲とし、潤滑油15の供給開始は圧延材2の先端部がカリバー11に噛み込む前に行った。比較例及び実施例では、圧延後の圧延材2に生じた最大表面疵深さおよび歩留を調査した。圧延材2の表面に深さが0.03mm以上の疵が発生すると、その部分については切断しなければならず歩留が低下する。
【0031】
表2に示すように、比較例1や比較例2に示すように、圧延材2の噛み込み後にカリバー全体に潤滑をした場合では、圧延材2の先端部の最大表面深さは無潤滑時とほぼ等しいが、先端部には0.03mm以上の表面疵が発生してしまうことがあるため、歩留が低下する。また、比較例3に示すように、カリバー11の全体に潤滑を開始した場合(噛み込む直前)、ミスロールが発生した。これは、天地部12に噛み込み時から潤滑がされた影響である。一方、実施例1に示すように、圧延材2の先端部が噛み込む前に、潤滑油15の供給範囲を限定して潤滑した場合、圧延材2の先端部の母大表面疵深さはカリバー全体に潤滑した場合よりも低減することができると共に、圧延材2の先端部でも表面疵の深さを0.03mm未満にすることができるため歩留を向上させることができる。しかも、実施例1では、圧延材2の先端部が噛み込む前に、潤滑油15の供給範囲を限定して潤滑しているためミスロールも無かった。
【0032】
以上、本発明によれば、圧延材2の先端部が圧延ロール9に噛み込む前に潤滑油15の供給を開始しても、圧延材2の通材性を確保しつつ圧延ロール9の肌荒れ起因による表面疵を低減させることができ、歩留も向上させることができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0033】
1 圧延設備
2 圧延材
3 加熱炉
4 デスケーラ
5 粗圧延機
6 中間圧延機
7 仕上げ圧延機
8 巻き取り機
9 圧延ロール
10 圧延スタンド
11 カリバー
12 天地部
13 オーバル部
14 肩部
15 潤滑油
C カリバーの中心
E 供給領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部にカリバーが形成された圧延ロールにて圧延材を熱間圧延する熱間孔型圧延方法であって、
前記圧延ロールの入側で潤滑剤を供給して圧延することとし、前記カリバーへ向けて潤滑油を供給する供給領域を、入側の圧延材の幅をdとしたとき、前記圧延ロールの胴長方向に前記カリバーの中心から0.4×(d/2)離れた位置よりも外側の領域とすることを特徴とする熱間孔型圧延方法。
【請求項2】
前記供給領域は、カリバーの中心からd/2離れた位置よりも内側の領域とすることを特徴とする請求項1に記載の熱間孔型圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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