説明

熱間鍛造用圧延棒鋼

【課題】0.47以上の耐久比とを備える高強度熱間鍛造部品の素材として好適な熱間鍛造用圧延棒鋼を提供する。
【解決手段】C:0.27〜0.37%、Si:0.30〜0.75%、Mn:1.00〜1.45%、S:0.008%以上で0.030%未満、Cr:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、V:0.200〜0.320%、N:0.0080〜0.0200%を含み、残部はFe及び不純物からなり、〔1.05≦C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S≦1.18〕である熱間鍛造用圧延棒鋼。Feの一部に代えてCu、Ni及びMoの1種以上を含んでもよい。その場合は〔1.05≦C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S+(1/5)Cu+(1/5)Ni+(1/4)Mo≦1.18〕を満たす必要がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造用圧延棒鋼に関する。詳しくは、自動車、産業機械等の高強度非調質熱間鍛造部品の素材として好適に使用できる、熱間鍛造用圧延棒鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2削減の観点から燃費向上のニーズが高まっており、自動車、産業機械等に用いる機械構造用部品においては部品の小型化を目的に、部品の高強度化が望まれている。
【0003】
また、製造コスト削減の観点から、熱間圧延で製造された棒鋼(以下、熱間圧延で製造された熱間圧延ままの状態の棒鋼を、「圧延棒鋼」という。)に、熱間鍛造で成形加工を行い、その後、焼入れおよび焼戻しの熱処理、つまり、「調質処理」を施さずとも所望の強度を与えられる熱間鍛造部品(以下、調質処理を施さずに製造した熱間鍛造部品を、「非調質熱間鍛造部品」という。)の適用が主流となっている。
【0004】
熱間鍛造部品には、主に素材である圧延棒鋼の軸方向に圧下して成形加工されるものが多い。
【0005】
しかしながら、一部には圧延棒鋼の軸方向にはほとんど圧下を施さず、主に圧延棒鋼の軸の垂直方向、すなわち圧延方向と垂直方向に圧下して成形加工される熱間鍛造部品もある。このような方向に圧下して成形加工される熱間鍛造部品では、熱間圧延で形成された介在物または/および析出物の分布状態、すなわち軸方向に延伸された介在物または/および析出物の圧延棒鋼での分布状態が、熱間鍛造後も引き継がれてしまう。そのため、熱間鍛造部品の軸の垂直方向の応力に対する疲労強度(以下、熱間鍛造部品の軸の垂直方向の応力に対する疲労強度を、「横目の疲労強度」という。)が低くなる傾向にある。
【0006】
熱間鍛造部品の引張強度を高くすれば、横目の疲労強度も高くすることができる。しかしながら、調質処理を施さずに製造した非調質熱間鍛造部品の引張強度を高めるということは、熱間鍛造後に施される切削工程において、工具寿命の低下を招いてしまう。このため、切削コストが上昇するとともに切削時間が長くなるという問題が生じる。
【0007】
したがって、引張強度を高めることにより熱間鍛造部品の横目の疲労強度を向上させるのは必ずしも望ましいことではない。
【0008】
このような状況の下、特許文献1および特許文献2にそれぞれ、次の「熱間鍛造用高強度高靱性非調質鋼とその製造方法」および「高強度熱間鍛造用非調質鋼」が開示されている。
【0009】
すなわち、特許文献1に、
質量%で、Si:2%以下(0%を含まない)、S:0.10%以下(0%を含まない)、N:0.02%以下(0%を含まない)、O:0.010%以下(0%を含まない)および不可避的不純物を含む鋼において、さらに、C:0.10〜0.6%、Mn:0.3〜2.5%、Cr:0.05〜2.5%、V:0.03〜0.5%、Al:0.060%以下(0%を含まない)、Ti:0.005〜0.03%を含有するとともに、必要に応じてさらに、Pb:0.3%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Te:0.3%以下(0%を含まない)、Bi:0.3%以下(0%を含まない)、Zr:0.1%以下(0%を含まない)、Hf:0.1%以下(0%を含まない)、Y:0.1%以下(0%を含まない)、希土類元素:0.1%以下(0%を含まない)、Mg:0.1%以下(0%を含まない)のうちから選ばれる1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなるとともに、平均結晶粒径が0.1〜5μmである介在物を1×102〜1×106個/mm2含有し、
上記介在物がTi酸・窒化物、MnS、および該Ti酸・窒化物とMnSを主体とする複合化合物である「熱間鍛造用高強度高靱性非調質鋼」およびその製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献2に、
質量%で、C:0.25〜0.50%、Si:0.40〜2.00%、Mn:0.50〜2.50%、Cr:0.10〜1.00%、S:0.03〜0.10%、V:0.05〜0.30%、N:0.0050〜0.0200%、さらにAl:0.005〜0.050%とTi:0.002〜0.050%の1種または2種を含み、必要に応じてさらに、Ca:0.0004〜0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
Ceq.(%)=%C+(%Si)/20+(%Mn)/5+(%Cr)/9+1.54(%V)
の式で表される炭素当量Ceq.(%)が0.83〜1.23%、
Bt=31.2−100(%C)−6.7(%Si)+9.0(%Mn)+4.9(%Cr)−81(%V)
の式で表されるベイナイト変態指数Btが0以下、
である高強度熱間鍛造用非調質鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−92687号公報
【特許文献2】特開平6−287677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示されている技術によって、非調質熱間鍛造部品に90kgf/mm2(882.6MPa)以上の引張強度を具備させることができる。しかしながら、特許文献1で提案された技術のように、必須元素として0.005%以上のTiを含有している鋼の場合、単に、平均結晶粒径が0.1〜5μmである、Ti酸・窒化物、MnS、および該Ti酸・窒化物とMnSを主体とする複合化合物である介在物を、1×102〜1×106個/mm2含有するだけでは、圧延棒鋼を軸の垂直方向に圧下して熱間鍛造により成形加工して使用される場合には、熱間鍛造部品の軸方向に並んだTi窒化物によって横目の疲労強度が低下してしまう。
【0013】
特許文献2に開示されている技術によって、非調質熱間鍛造部品に900MPa以上の引張強度を具備させることができる。しかも、その非調質熱間鍛造部品は、ベイナイトの生成を回避したフェライトとパーライトの混合組織(以下、「フェライト・パーライト」という。)からなるため、被削性に優れている。しかしながら、特許文献2に具体的に開示されている鋼には、Sが少なくとも0.033%含有されている。このように鋼に多量のSを含有させた場合には、圧延棒鋼を軸の垂直方向に圧下して熱間鍛造により成形加工して使用される場合には、熱間鍛造部品の軸方向に並んだ粗大なMnSによって横目の疲労強度が低下してしまう。
【0014】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、900MPa以上の引張強度および0.47以上の横目の耐久比(疲労強度/引張強度)を有する高強度非調質熱間鍛造部品を得ることができる熱間鍛造用圧延棒鋼を提供することを目的とする。
【0015】
なお、横目の耐久比とは、熱間鍛造部品の軸の垂直方向の応力に対する疲労強度を、熱間鍛造部品の軸の垂直方向の引張強度で除した値である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記した課題を解決するために種々の検討を実施した。その結果、下記(a)〜(f)の知見を得た。
【0017】
(a)非調質熱間鍛造部品において、高い横目の耐久比を得るためには、内部組織、つまり、熱間鍛造時の加熱段階で脱炭層の生成する可能性がある表層部分を除いた組織を、フェライト・パーライトにする必要がある。一方、内部組織にベイナイトとマルテンサイトのいずれかまたは双方が混在する場合は、高い横目の耐久比を得ることができない。
【0018】
(b)熱間鍛造後にベイナイトの生成を避け、なおかつ、非調質熱間鍛造部品において900MPa以上の引張強度を確保するためには、焼入れ性を向上させる元素の含有量を厳密に管理する必要がある。
【0019】
(c)圧延棒鋼の軸の垂直方向に圧下して成形加工される熱間鍛造部品において高い横目の疲労強度を得るためには、析出強化元素を含有させることが有効である。しかしながら、凝固時に粗大な窒化物を形成しやすいTiを添加することは好ましくない。
【0020】
(d)一方、Vは、Tiのように凝固時に粗大な窒化物を形成しない。したがって、Nの含有量も増やすことができる。それにより、熱間鍛造時の冷却過程でVの炭化物、窒化物または炭窒化物を析出させ、高い横目の疲労強度を付与することができる。
【0021】
(e)微量のSを含有させることにより、横目の疲労強度に悪影響を及ぼすと考えられていたMnSを粗大化させずに棒鋼中に微細に分散させることで、熱間鍛造後のオーステナイト粒内にもフェライトの生成核を増やし、ベイナイトの生成を抑制することができる。
【0022】
(f)その結果、熱間鍛造後に引張強度900MPa以上、横目の耐久比0.47以上の熱間鍛造部品を得ることができる。
【0023】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す熱間鍛造用圧延棒鋼にある。
【0024】
(1)質量%で、C:0.27〜0.37%、Si:0.30〜0.75%、Mn:1.00〜1.45%、S:0.008%以上で0.030%未満、Cr:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、V:0.200〜0.320%およびN:0.0080〜0.0200%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.030%以下、Ti:0.0040%以下およびO:0.0020%以下であり、かつ、下記の<1>式で表わされるY1が1.05〜1.18の化学組成であることを特徴とする熱間鍛造用圧延棒鋼。
Y1=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S・・・<1>
ただし、上記<1>式におけるC、Si、Mn、Cr、VおよびSは、それぞれの元素の質量%での含有量を表す。
【0025】
(2)質量%で、C:0.27〜0.37%、Si:0.30〜0.75%、Mn:1.00〜1.45%、S:0.008%以上で0.030%未満、Cr:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、V:0.200〜0.320%およびN:0.0080〜0.0200%を含むとともに、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下およびMo:0.10%以下から選択される1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.030%以下、Ti:0.0040%以下およびO:0.0020%以下であり、かつ、下記の<2>式で表わされるY2が1.05〜1.18の化学組成であることを特徴とする熱間鍛造用圧延棒鋼。
Y2=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S+(1/5)Cu+(1/5)Ni+(1/4)Mo・・・<2>
ただし、上記<2>式におけるC、Si、Mn、Cr、V、S、Cu、NiおよびMoは、それぞれの元素の質量%での含有量を表す。
【0026】
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
【発明の効果】
【0027】
本発明の熱間鍛造用圧延棒鋼を素材として用いることにより、900MPa以上の引張強度および0.47以上の横目の耐久比を有する高強度非調質熱間鍛造部品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0029】
C:0.27〜0.37%
Cは、鋼を強化する元素であり、0.27%以上含有させなくてはならない。一方、Cの含有量が0.37%を超えると、熱間鍛造後の引張強度は高くなるものの、横目の耐久比の低下を招いてしまう場合がある。したがって、Cの含有量を0.27〜0.37%とした。Cの含有量は0.29%以上とすることが好ましく、0.35%以下とすることが好ましい。
【0030】
Si:0.30〜0.75%
Siは、脱酸元素であるとともに、固溶強化によってフェライトを強化し、熱間鍛造後の引張強度を高めるのに必要な元素である。こうした効果を確保するには、Siを0.30%以上含有させる必要がある。一方、Siの含有量が0.75%を超えると、その効果が飽和するばかりか、圧延棒鋼の表面脱炭が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.30〜0.75%とした。Siの含有量は0.35%以上とすることが好ましく、0.70%以下とすることが好ましい。
Mn:1.00〜1.45%
Mnは、固溶強化によってフェライトおよびパーライトを強化し、熱間鍛造後の引張強度を高めるのに必要な元素であり、1.00%以上含有させなくてはならない。一方、Mnの含有量が1.45%を超えると、その効果が飽和するばかりか、焼入れ性が高くなり、熱間鍛造後にベイナイトが生成してしまい、横目の疲労強度の低下を招いてしまう場合がある。したがって、Mnの含有量を1.00〜1.45%とした。Mnの含有量は1.10%以上とすることが好ましく、1.40%以下とすることが好ましい。
【0031】
S:0.008%以上で0.030%未満
Sは、本発明における重要な元素である。Sは、Mnと結合してMnSを形成し、熱間鍛造後のオーステナイト粒内にもフェライトの生成核を増やすので、ベイナイトの生成を抑制することができる。さらには、MnSによって被削性も向上する。そのため、Sを0.008%以上含有しなくてはならない。一方、S含有量が0.030%以上になると、MnSは延伸された粗大な形態となるため、横目の疲労強度が低下し、横目の耐久比が低下してしまう。したがって、Sの含有量は厳しく管理する必要があり、0.008%以上で0.030%未満とした。Sの含有量は0.010%以上であることが望ましく、0.027%以下であることが望ましい。
【0032】
Cr:0.05〜0.30%
Crは、Mnと同様に、固溶強化によってフェライトおよびパーライトを強化し、熱間鍛造後の引張強度を高める元素であり、0.05%以上含有させなければならない。一方、Crの含有量が0.30%を超えると、その効果が飽和するばかりか、焼入れ性が高くなり、熱間鍛造後にベイナイトが生成してしまい、横目の疲労強度の低下を招いてしまう場合がある。したがって、Crの含有量を0.05〜0.30%とした。Crの含有量は0.08%以上とすることが好ましく、0.20%以下とすることが好ましい。Crの含有量は0.20%未満とすることがより好ましい。
【0033】
Al:0.005〜0.050%
Alは、脱酸作用を有するだけでなく、Nと結合してAlNを形成し、そのピンニング効果により熱間鍛造時のオーステナイト粒の成長を抑制し、ベイナイト生成を抑制する作用を有する。このため、Alは0.005%以上含有させなくてはならない。一方、Alの含有量が0.050%を超えると、その効果が飽和してしまう。したがって、Alの含有量を0.005〜0.050%とした。Alの含有量は0.010%以上とすることが好ましい。
【0034】
V:0.200〜0.320%
Vは、CおよびNと結合して、炭化物、窒化物または炭窒化物を形成して、熱間鍛造部品の横目の耐久比を有効に高める作用を有する。このため、0.200%以上のVを含有させる。一方、Vの含有量が0.320%を超えると、その効果が飽和するばかりか、コストの上昇を招く。したがって、Vの含有量を0.200〜0.320%とした。Vの含有量は0.220%以上とすることが好ましく、0.300%以下とすることが好ましい。
【0035】
N:0.0080〜0.0200%
Nは、本発明における重要な元素である。Nは、Vと結合して窒化物または炭窒化物を形成して、熱間鍛造部品の横目の耐久比を有効に高める作用を有するだけでなく、Alと結合してAlNを形成し、そのピンニング効果により熱間鍛造時のオーステナイト粒の成長を抑制し、ベイナイト生成を抑制する作用を有する。このため、0.0080%以上のNを含有させる必要がある。しかしながら、Nの含有量が多くなって、特に0.0200%を超えると、鋼中にピンホールが形成される場合がある。したがって、Nの含有量は0.0080〜0.0200%とした。Nの含有量は0.0090%以上とすることが好ましく、0.0150%以下とすることが好ましい。
【0036】
本発明の熱間鍛造用圧延棒鋼は、上述のCからNまでの元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.030%以下、Ti:0.0040%以下およびO:0.0020%以下であり、かつ、前記の<1>式で表わされるY1が1.05〜1.18である化学組成の鋼である。
【0037】
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
【0038】
以下、本発明において、不純物中のP、TiおよびOの含有量をそれぞれ、上記の範囲に限定する理由について説明する。
【0039】
P:0.030%以下
Pは、鋼中に不純物として含まれる元素であり、特に、その含有量が0.030%を超えると、偏析が著しくなり、疲労強度の低下を招く場合がある。したがって、不純物中のPの含有量を0.030%以下とした。不純物中のPの含有量は0.025%以下とすることが好ましい。不純物として含まれるPの含有量は、製鋼工程でのコスト上昇をきたさない範囲で、できる限り少なくすることが望ましい。
【0040】
Ti:0.0040%以下
本発明において、Tiは、その含有量を制限しなければならない元素である。しかしながら、Tiは鉱石、スクラップ等からの混入を避けることができない。特に原料価格の抑制を重視して、スクラップの配合比率を増すと、不純物とはいえTiの混入量が高くなる。Tiの混入量が増えて、粗大なTi窒化物が形成されると、該Ti窒化物が熱間鍛造部品の軸方向に並んでしまい、特に0.0040%を上回ると、横目の疲労強度が低下し、0.47以上の横目の耐久比を得ることができない。そのため、不純物中のTiの含有量は、0.0040%以下とした。不純物中のTiの含有量は0.0035%以下とすることが好ましく、0.0030%未満とすることがより好ましい。
【0041】
O:0.0020%以下
O(酸素)は、鋼中において、主として酸化物系介在物として存在し、横目の疲労強度の低下を招く不純物元素である。Oの含有量が多くなって、特に0.0020%を超えると、粗大な酸化物の発生頻度が高くなり、横目の疲労強度が低下し、横目の耐久比の低下を招く。したがって、不純物中のOの含有量を0.0020%以下とした。なお、不純物中のOの含有量は0.0015%以下とすることが好ましい。
【0042】
<1>式で表わされるY1の限定理由については、<2>式で表わされるY2の限定理由とともに後述する。
【0043】
本発明の熱間鍛造用圧延棒鋼は、そのFeの一部に代えて、必要に応じて、Cu、NiおよびMoから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。その場合は、前記の<2>式で表わされるY2が1.05〜1.18である。
【0044】
以下、任意元素であるCu、NiおよびMoの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
【0045】
Cu:0.30%以下
Cuは、固溶強化によってフェライトおよびパーライトを強化する元素である。このため、Cuを含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が0.30%を超えると、その効果が飽和するばかりか、焼入れ性が高くなり、熱間鍛造後にベイナイトが生成してしまい、横目の疲労強度の低下を招いてしまう場合がある。したがって、含有させる場合のCuの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のCuの量は0.20%以下であることが好ましい。
【0046】
一方、前記したCuの効果を安定して得るためには、Cuの量は0.03%以上であることが好ましく、0.05%以上であれば一層好ましい。
【0047】
Ni:0.30%以下
Niは、固溶強化によってフェライトおよびパーライトを強化する元素である。このため、Niを含有させてもよい。しかしながら、Niの含有量が0.30%を超えると、その効果が飽和するばかりか、焼入れ性が高くなり、熱間鍛造後にベイナイトが生成してしまい、横目の疲労強度の低下を招いてしまう場合がある。したがって、含有させる場合のNiの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のNiの量は0.20%以下であることが好ましい。
【0048】
一方、前記したNiの効果を安定して得るためには、Niの量は0.03%以上であることが好ましく、0.05%以上であれば一層好ましい。
【0049】
Mo:0.10%以下
Moは、固溶強化によってフェライトおよびパーライトを強化する元素である。このため、Moを含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が0.10%を超えると、熱間鍛造後にベイナイトが生成してしまい、横目の疲労強度の低下を招いてしまう場合がある。したがって、含有させる場合のMoの量に上限を設け、0.10%以下とした。含有させる場合のMoの量は0.08%以下であることが好ましい。
【0050】
一方、前記したMoの効果を安定して得るためには、含有させる場合のMoの量は0.03%以上であることが好ましい。
【0051】
上記のCu、NiおよびMoは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。Cu、NiおよびMoの合計の含有量は、0.30%以下であることが好ましい。
【0052】
Y1またはY2:1.05〜1.18
非調質熱間鍛造部品に、900MPa以上の引張強度を具備させるためには、該非調質熱間鍛造部品の素材である熱間鍛造用圧延棒鋼は、
Cu、NiおよびMoを含まない場合には、前記<1>式で表わされるY1〔=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S〕が、
また、Cu、NiおよびMoのうちの1種以上を含む場合には、前記<2>式で表わされるY2〔=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S+(1/5)Cu+(1/5)Ni+(1/4)Mo〕が、
それぞれ、1.05〜1.18でなければならない。
【0053】
Y1またはY2が1.18を超えると、熱間鍛造後の硬さが高くなって、切削性の低下を招いてしまう場合がある。さらには焼入れ性が高くなって、熱間鍛造後にベイナイトが生成し、横目の耐久比が低下してしまう可能性がある。一方、Y1またはY2が1.05を下回ると、その熱間鍛造用圧延棒鋼を素材とする非調質熱間鍛造部品に900MPa以上の引張強度を確保させることができない。
【0054】
Y1またはY2は、1.08以上であることが好ましく、1.16以下であることが好ましい。
【0055】
本発明の熱間鍛造用圧延棒鋼は、本発明で規定された化学組成を有する鋳片を、例えば、1200〜1300℃で120〜180分加熱した後、分塊圧延して180mm×180mmの鋼片を作製し、その後、該鋼片を1150〜1250℃で90〜150分加熱して、1100〜1000℃の温度域で所定のサイズ、例えば、直径40mmに棒鋼圧延することで得ることができる。
【0056】
そして、上記所定のサイズ、例えば、直径40mmにした本発明の熱間鍛造用圧延棒鋼を、例えば、長さ100mmに切断し、高周波加熱装置にて1200〜1250℃に加熱した後、1150〜1100℃の温度域で熱間鍛造機を用いて、厚さ18mmまで圧延棒鋼の軸の垂直方向にプレス鍛造して、800〜550℃の温度域を30〜50℃/分の冷却速度で冷却することによって、容易に900MPa以上の引張強度と0.47以上の横目の耐久比を有する非調質熱間鍛造部品を得ることができる。
【0057】
なお、上記の鋳片および鋼片の「加熱温度」は、鋳片および鋼片を熱する際の炉内の温度を意味する。
【0058】
棒鋼圧延温度は、被圧延材の表面温度を指す。
【0059】
高周波加熱装置を用いた棒鋼の「加熱温度」は、棒鋼の表面温度を意味する。熱間鍛造機を用いたプレス鍛造温度、鍛造後に30〜50℃/分の冷却速度で冷却する温度も被鍛造材の表面温度を指す。
【0060】
鍛造後の800〜550℃の温度域における「冷却速度」は、温度差としての250℃を、被鍛造材の表面温度が800℃から550℃まで低下するのに要した時間で除した値を指す。
【0061】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Uからなる断面が300mm×400mmの鋳片を、1250℃で120分加熱した後、分塊圧延して180mm×180mmの鋼片を作製した。その後、該鋼片を1200℃で90分加熱して、1100〜1000℃の温度域で熱間圧延し、直径40mmの棒鋼を製造した。
【0063】
表1における鋼A〜Jは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼K〜Uは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
【0064】
【表1】

【0065】
次に、上記直径40mmの各棒鋼を素材として、熱間鍛造により厚さ18mmの鍛造品を作製した。
【0066】
具体的には、先ず、直径40mmの各棒鋼を長さ110mmに切断した。
【0067】
次いで、直径40mmで長さ110mmの棒鋼を、高周波加熱装置にて1250℃に加熱した後、1150〜1100℃で、プレスにより棒鋼の軸の垂直方向に圧下する熱間鍛造を行って厚さ18mmの鍛造品に仕上げ、大気中で放冷して室温まで冷却した。なお、800〜550℃の温度域における冷却速度は30℃/分であった。
【0068】
上記の鍛造品について、下記〈1〉〜〈3〉の方法でミクロ組織、引張特性および疲労特性を調査した。
【0069】
〈1〉鍛造品のミクロ組織の調査:
上記厚さ18mmの鍛造品の、幅方向1/2の位置で、かつ厚さ方向1/2の位置から、10mm×10mmの横断面を有する試料を切り出した。次いで、上記の横断面が被検面になるように樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、3%硝酸アルコール(ナイタル)で腐食してミクロ組織を現出させた。その後、倍率を500倍として光学顕微鏡を用いて5視野についてミクロ組織画像を撮影し、「相」を同定した。
【0070】
〈2〉鍛造品の引張特性の調査:
上記厚さ18mmの鍛造品の厚さ方向1/2の位置から、試験片の長手方向が鍛造品の幅方向、すなわち鍛造品の軸の垂直方向となり、また試験片の平行部の中心が鍛造品の幅方向1/2になるように、2011年1月21日に財団法人日本規格協会発行のJISハンドブック[1]鉄鋼IのJIS Z 2201(1998)に規定される14A号試験片(ただし、平行部直径:5mm)を採取した。そして、標点距離を25mmとして室温で引張試験を実施し、引張強度を求めた。鍛造品の引張強度の目標は、900MPa以上であることとした。
【0071】
〈3〉鍛造品の疲労特性の調査:
また、上記厚さ18mmの鍛造品の幅の両端をフライス加工して、スケールを除去するとともに平面に仕上げた。次いで、上記のフライス加工した鍛造品の両端とJIS G 4051(2009)に規定された市販のS10Cを電子ビーム溶接によって溶接し、幅130mmの板材を作製した。その後、上記板材の厚さ方向1/2の位置から、試験片の長手方向が板材の幅方向、すなわち鍛造品の軸の垂直方向となるように、また試験片の平行部の中心が板材の幅方向1/2になるように、平行部の直径が8mm、長さが106mmの小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。
【0072】
そして、試験数を8として、室温、大気中で、応力比が−1となる条件で回転曲げ疲労試験を実施した。繰り返し数が1.0×107以上で耐久した応力振幅の最低値を疲労強度とした。さらに、この疲労強度を引張強度で除して横目の耐久比を求めた。鍛造品の横目の耐久比の目標は、0.47以上であることとした。
【0073】
表2に、上記の各試験結果をまとめて示す。表2の「評価」欄における「○」印は、鍛造品の引張強度と横目の耐久比が、いずれも上述した目標を満たしていることを示し、「×」印は少なくとも1つの特性が目標に達していないことを示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2から、本発明で規定する条件を満たす試験番号1〜10の場合、その評価は「○」である。すなわち、各棒鋼を素材とする鍛造品のミクロ組織はいずれも、フェライト・パーライトであって、目標とする900MPa以上の引張強度と0.47以上の横目の耐久比を有していることが明らかである。
【0076】
これに対して、本発明で規定する化学組成を満たさない試験番号11〜21の場合、鍛造品の引張強度と横目の耐久比のうちのいずれかが目標に達していない。
【0077】
試験番号11は、用いた鋼KのVの含有量が0.177%であり、本発明で規定する範囲を下回っている。このため、鍛造品の横目の耐久比が0.44と低い。
【0078】
試験番号12は、用いた鋼Lの個々の元素の含有量は本発明で規定する条件を満たすものの、Y1が1.24と高く、本発明で規定する範囲を外れている。このため、鍛造品のミクロ組織にはフェライトとパーライトに加えてベイナイトが認められ、横目の耐久比が0.41と低い。
【0079】
試験番号13は、用いた鋼MのNiの含有量が0.35%であり、本発明で規定する範囲を上回っている。このため、鍛造品のミクロ組織にはフェライトとパーライトに加えてベイナイトが認められ、横目の耐久比が0.40と低い。
【0080】
試験番号14は、用いた鋼NのTiの含有量が0.0098%であり、本発明で規定する範囲を上回っている。このため、鍛造品の横目の耐久比が0.44と低い。
【0081】
試験番号15は、用いた鋼OのMnの含有量が1.53%であり、本発明で規定する範囲を上回っている。このため、鍛造品のミクロ組織にはフェライトとパーライトに加えてベイナイトが認められ、横目の耐久比が0.41と低い。
【0082】
試験番号16は、用いた鋼Pの個々の元素の含有量は本発明で規定する条件を満たすものの、Y2が1.23と高く、本発明で規定する範囲を外れている。このため、鍛造品のミクロ組織にはフェライトとパーライトに加えてベイナイトが認められ、横目の耐久比が0.41と低い。
【0083】
試験番号17は、用いた鋼Qの個々の元素の含有量は本発明で規定する条件を満たすものの、Y1が0.96と低く、本発明で規定する範囲を外れている。このため、鍛造品の引張強度が868MPaと低い。
【0084】
試験番号18は、用いた鋼RのSの含有量が0.043%であり、本発明で規定する範囲を上回っている。このため、鍛造品の横目の耐久比が0.42と低い。
【0085】
試験番号19は、用いた鋼Sの個々の元素の含有量は本発明で規定する条件を満たすものの、Y2が0.99と低く、本発明で規定する範囲を外れている。このため、鍛造品の引張強度が874MPaと低い。
【0086】
試験番号20は、用いた鋼TのOの含有量が0.0031%であり、本発明で規定する範囲を上回っている。このため、鍛造品の横目の耐久比が0.42と低い。
【0087】
試験番号21は、用いた鋼UのCの含有量が0.45%であり、本発明で規定する範囲を上回っている。このため、鍛造品の横目の耐久比が0.45と低い。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の熱間鍛造用圧延棒鋼を素材として用いることにより、900MPa以上の引張強度および0.47以上の横目の耐久比を有する高強度非調質熱間鍛造部品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.27〜0.37%、Si:0.30〜0.75%、Mn:1.00〜1.45%、S:0.008%以上で0.030%未満、Cr:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、V:0.200〜0.320%およびN:0.0080〜0.0200%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.030%以下、Ti:0.0040%以下およびO:0.0020%以下であり、かつ、下記の<1>式で表わされるY1が1.05〜1.18の化学組成であることを特徴とする熱間鍛造用圧延棒鋼。
Y1=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S・・・<1>
ただし、上記<1>式におけるC、Si、Mn、Cr、VおよびSは、それぞれの元素の質量%での含有量を表す。
【請求項2】
質量%で、C:0.27〜0.37%、Si:0.30〜0.75%、Mn:1.00〜1.45%、S:0.008%以上で0.030%未満、Cr:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.050%、V:0.200〜0.320%およびN:0.0080〜0.0200%を含むとともに、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下およびMo:0.10%以下から選択される1種以上を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.030%以下、Ti:0.0040%以下およびO:0.0020%以下であり、かつ、下記の<2>式で表わされるY2が1.05〜1.18の化学組成であることを特徴とする熱間鍛造用圧延棒鋼。
Y2=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S+(1/5)Cu+(1/5)Ni+(1/4)Mo・・・<2>
ただし、上記<2>式におけるC、Si、Mn、Cr、V、S、Cu、NiおよびMoは、それぞれの元素の質量%での含有量を表す。

【公開番号】特開2013−108129(P2013−108129A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253412(P2011−253412)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】