説明

熱電半導体材料の製造方法

【課題】性能の高い熱電半導体材料を高い歩留りで得ることが可能な熱電半導体材料の製造方法を提供する。
【解決手段】熱電半導体の原材料からなり、比重が5以上のインゴットを粉砕して、原材料の特定の結晶面を表面に有する板状の板状粉砕粒子を得る板状粉砕粒子作製工程S1と、得られた板状粉砕粒子と、バインダーと、分散媒とを混合して、板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上となるスラリーを調製するスラリー調製工程S2と、得られたスラリーを、テープ状に成形して成形体を得る成形工程S3と、得られた成形体を、不活性雰囲気で熱処理して、脱脂体を得る脱脂工程S4と、得られた脱脂体を還元処理して脱脂還元体を得る還元工程S5と、得られた脱脂還元体を焼結して焼結体を得る焼結工程S6と、得られた焼結体を切断加工して熱電半導体材料を得る切断加工工程S7と、を含む熱電半導体材料の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電半導体材料の製造方法に関する。更に詳しくは、性能の高い熱電半導体材料を高い歩留りで得ることが可能な熱電半導体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電半導体材料は、熱から直接電力を発生させたり、熱電半導体自身に電流を流すことで冷却を行うことが可能な材料である。この熱電半導体材料は、構造が簡単で小型化及び軽量化が容易であり、更に、無音及び無振動で動作し、メンテナンスが不要であることから、特殊な用途向けの小型冷蔵庫、半導体レーザ等の半導体装置内部の温度調節器及び発電装置等、様々な分野への適用が検討されている。
【0003】
このような熱電半導体材料としては、例えば、テルル化ビスマスを配向させた焼結材を挙げることができる。このような熱電半導体材料に用いられるテルル化ビスマスの配向プロセスとしては、例えば、テルル化ビスマスを焼結させた後に、熱間すえこみ鍛造による熱間塑性加工が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
また、板状の原料粉末を、バインダーをともにスラリー化し、せん断力のかかるドクターブレード法などで100μm以下レベルのシート状に展開することで、酸化物の熱電半導体材料を製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−151751号公報
【特許文献2】特開2004−211125号公報
【特許文献3】特開2003−034576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した熱間塑性加工を行う従来の熱電半導体材料の製造方法においては、得られる熱電半導体材料の配向度を高める目的で、加工時の塑性変形量を大きくすると、残留応力が大きくなり、その後のスライシング加工やダイシング加工において、カケ及び割れなどによる破損が起こり易いという問題があった。また、これに対し、加工時の塑性変形量を小さくすると配向度が低下することは勿論であるが、得られる熱電半導体材料の配向度の均質性が下がってしまい、歩留り低下の原因となってしまう。
【0007】
また、上記した特許文献3の製造方法は、酸化物の熱電半導体材料を製造するための方法であり、例えば、テルル化ビスマスのような酸化に弱い熱電半導体材料を製造することには適しておらず、また、上記したテルル化ビスマスは融点が580℃程度とその他の熱電半導体材料と比較して融点が比較的低く、その融点よりも低い温度にて処理されて製造されるため、炭素成分の残留が多くなり、得られる熱電半導体材料の性能が低下してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、性能の高い熱電素子を高い歩留りで得ることが可能な熱電半導体材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、熱電半導体材料の原材料からなるインゴットを粉砕した板状粉砕粒子を含むスラリーをテープ成形した成形体を、所定の前処理工程の後に焼結して焼結体を得、得られた焼結体を切断加工して熱電半導体材料を製造することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の熱電半導体材料の製造方法が提供される。
【0011】
[1] 熱電半導体の原材料からなり、比重が5以上のインゴットを粉砕して、前記原材料の特定の結晶面を表面に有する板状の板状粉砕粒子を得る板状粉砕粒子作製工程と、得られた前記板状粉砕粒子と、バインダーと、分散媒とを混合して、前記板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上となるスラリーを調製するスラリー調製工程と、得られた前記スラリーを、テープ状に成形して成形体を得る成形工程と、得られた前記成形体を、不活性雰囲気で熱処理して、脱脂体を得る脱脂工程と、得られた前記脱脂体を還元処理して脱脂還元体を得る還元工程と、得られた前記脱脂還元体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、得られた前記焼結体を切断加工して熱電半導体材料を得る切断加工工程と、を含む熱電半導体材料の製造方法。
【0012】
[2] 前記原材料として、少なくともテルル及びビスマスを用いる前記[1]に記載の熱電半導体材料の製造方法。
【0013】
[3] 前記焼結工程において、ホットプレスにより前記脱脂還元体を焼結する前記[1]又は[2]に記載の熱電半導体材料の製造方法。
【0014】
[4] 前記板状粉砕粒子は、長径が20〜70μmであり、アスペクト比が3〜20の粒子である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱電半導体材料の製造方法。
【0015】
[5] 前記バインダーとして、熱ゲル化特性又は熱硬化特性を有する物質を用いる前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱電半導体材料の製造方法。
【0016】
[6] 前記成形工程において、テープ状に成形した前記成形体を複数作製し、複数の前記成形体を積層して、前記成形体の積層体を得る前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱電半導体材料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱電半導体材料の製造方法によれば、性能の高い熱電素子を高い歩留りで得ることができる。即ち、本発明の熱電半導体材料の製造方法は、従来の熱間塑性加工によって製造された熱電半導体材料と同程度又はそれ以上の配向性を有する熱電半導体材料を簡便且つ低コストに製造することができる。
【0018】
更に、本発明の熱電半導体材料の製造方法は、熱電半導体材料自体に塑性変形等の応力を加えることなく熱電半導体材料を製造するため、得られた熱電半導体材料には応力の残留(残留応力)がなく、その後のスライシング加工やダイシング加工において、カケ及び割れなどによる破損が生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0020】
[1]熱電半導体材料の製造方法:
本発明の熱電半導体材料の製造方法は、図1に示すように、熱電半導体の原材料からなり、比重が5以上のインゴットを粉砕して、前記原材料の特定の結晶面を表面に有する板状の板状粉砕粒子を得る板状粉砕粒子作製工程(S1)と、得られた板状粉砕粒子と、バインダーと、分散媒とを混合して、板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上となるスラリーを調製するスラリー調製工程(S2)と、得られたスラリーを、テープ状に成形して成形体を得る成形工程(S3)と、得られた成形体を、不活性雰囲気で熱処理して、脱脂体を得る脱脂工程(S4)と、得られた脱脂体を還元処理して脱脂還元体を得る還元工程(S5)と、得られた脱脂還元体を焼結して焼結体を得る焼結工程(S6)と、得られた焼結体を切断加工して熱電半導体材料を得る切断加工工程(S7)と、を含む熱電半導体材料の製造方法である。
【0021】
ここで、図1は、本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態を示すフローチャートである。
【0022】
本発明の熱電半導体材料の製造方法によれば、熱電半導体材料の原材料からなるインゴットを粉砕した、原材料の特定の結晶面を表面に有する板状粉砕粒子を含む比較的高濃度な(具体的には、板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上の)スラリーをテープ状に成形(以下、「テープ成形」ということがある)した成形体を、上記所定の前処理工程(脱脂工程(S4)、及び還元工程(S5))の後に焼結して焼結体を得、得られた焼結体を切断加工することによって熱電半導体材料を製造することができ、従来の熱間すえこみ鍛造による熱間塑性加工によって製造された熱電半導体材料と同程度又はそれ以上の配向性を有する、性能の高い熱電半導体材料を高い歩留りで得ることができる。
【0023】
更に、本発明の熱電半導体材料の製造方法は、熱電半導体材料自体に塑性変形等の応力を加えることなく熱電半導体材料を製造するため、得られた熱電半導体材料には応力の残留(残留応力)がなく、その後のスライシング加工やダイシング加工において、カケ及び割れなどによる破損が生じ難い。また、従来の製造方法と比較して、製造設備を簡素化することができる。
【0024】
熱電半導体材料の性能は、性能指数Zにより比抵抗(抵抗率)ρ、熱伝導率κ、ゼーベック係数αを用いて、下記式(1)のように表される。なお、上記ゼーベック係数は、P型半導体材料においては正の値をとり、N型半導体材料においては負の値をとる。熱電半導体材料としては、性能指数Zの大きいものが望まれる。
【0025】
Z=α/ρκ ・・・(1)
【0026】
本発明の熱電半導体材料の製造方法により製造される熱電半導体材料は、板状粉砕粒子を含むスラリーをテープ成形した成形体において、各板状粉砕粒子が、原材料の結晶面が揃うように配列して成形体を形成するため、脱脂、還元、及び焼結を経て得られた焼結体(熱電半導体材料)が高配向のものとなり、上記性能指数Zに優れた熱電半導体材料を得ることができる。
【0027】
また、不活性雰囲気による脱脂工程(S4)により、成形体に含まれるバインダーを適切に除去し、更に、板状粉砕粒子を構成する結晶粒の酸化を、還元工程(S5)によって取除くことができるため、得られる熱電半導体材料の炭素及び酸素の残留を有効に防止することができ、上記性能指数Zをより向上させることができる。
【0028】
以下、本発明の熱電半導体材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ということがある)の各工程(S1)〜(S7)について、更に詳細に説明する。
【0029】
[1−1]板状粉砕粒子作製工程(S1):
板状粉砕粒子作製工程(S1)は、熱電半導体の原材料からなり、比重が5以上のインゴットを粉砕して、上記原材料の特定の結晶面を表面に有する板状の粉砕粒子を得る工程である。即ち、インゴットの粉砕面に上記特定の結晶面が現れ、板状粉砕粒子の表面を構成することとなる。
【0030】
より具体的には、まず、図1に示すように、インゴットを作製するための原材料を秤量する(S1a)。使用する原材料については、熱電半導体材料の製造に用いることが可能な材料であり、その比重が5以上となるものであれば特に制限はなく、公知の熱電半導体材料用の原材料を、製造する熱電半導体材料の化学量論比となるように適宜秤量して用いることができる。
【0031】
なお、本発明の製造方法においては、上記原材料として、少なくともテルル及びビスマスを用いることが好ましい。即ち、本発明の製造方法は、熱電半導体材料としてテルル化ビスマスを製造する方法として好適である。例えば、P型熱電半導体材料の原材料としては、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、及びアンチモン(Sb)を、Bi0.4Sb1.6Teとなるように秤量して用いることができる。なお、上記テルル化ビスマスの比重は6.5以上のものがある。
【0032】
上述したテルル化ビスマスは、酸化雰囲気に弱く、また、その融点が580℃と他の公知の熱電半導体材料と比べて比較的に低温であるため、スラリーを利用した成形による製造は従来行われていなかったが、本発明の製造方法においては、スラリーを用いた成形工程(S3)後に、脱脂工程(S4)及び還元工程(S5)を行うことにより、スラリー中の炭素成分(主として、スラリー中のバインダー)の除去が可能となり、性能指数Zに優れた熱電半導体材料の製造を実現することができる。
【0033】
次に、このようして秤量した原材料からインゴットを作製するために、この原材料を混合し、溶融する(S1b)。原材料を溶融する際には、溶解した原材料が酸化しないように、不活性雰囲気にて溶融することが好ましい。具体的には、アルゴンガス雰囲気を好適例として挙げることができる。また、溶融温度については特に制限はなく、使用する原材料に応じて適宜決定することができる。
【0034】
次に、溶融した原材料を冷却して凝固させてインゴットを作製する(S1c)。原材料の溶融(S1b)とインゴットの作製(S1c)は、例えば、以下のような方法によって実現することができる。
【0035】
秤量した原材料を、石英管のアンプルに導入し、内部の雰囲気をアルゴン雰囲気に置換する。次に、このアンプルの導入口を封止し、アンプル内に原材料を封入する。次に、このアンプルを、溶融温度まで加熱した炉内に入れて、アンプル内の原材料を溶融する。次に、溶融した原材料を攪拌するため、アンプル又は炉を回転又は揺動させ、その後、溶融した原材料を冷却してインゴットを作製する。
【0036】
本発明の製造方法においては、上記原材料からなる結晶がへき開性を有するものであることが好ましい。例えば、テルル化ビスマスの結晶は六方晶系であり、このC面において、Te−Teのファンデルワールス力で結合している面が、へき開面となるへき開性を有している。このため、インゴットを粉砕した際に良好に板状粉砕粒子を得ることができる。
【0037】
次に、作製されたインゴットを粉砕し、板状粉砕粒子を得る(S1d)。インゴットの粉砕は、ボールミル、スタンプミル、インパクトミル、ジェットミル、ボールミル、チューブミル、ポットミル等の公知の粉砕機を好適に用いることができる。
【0038】
上述したように作製されたインゴットは、上記粉砕によって板状粉砕粒子となる。本発明の製造方法においては、このようにして得られた板状粉砕粒子を篩にかけ、長径が20〜70μmであり、アスペクト比が3〜20の粒子を選別して用いることが好ましい。このような粒子を用いることによって、得られる熱電半導体材料における配向性を向上させるとともに、配向性の場所ムラを少なくすることができる。例えば、長径が20μm未満の板状粉砕粒子では、成形時の配列性が悪くなり、配向性を低下させるおそれがあり、長径が70μmを超える板状粉砕粒子では、場所ムラの原因となるおそれがある。また、アスペクト比が3未満であると、成形時の配列性が悪くなり、配向性を低下させるおそれがあり、アスペクト比が20を超えると、場所ムラの原因となるおそれがある。
【0039】
なお、板状粉砕粒子における特定の結晶面は、インゴットを粉砕した際に形成される板状粉砕粒子の粉砕面のことであり、特に、原材料からなる結晶が一定方向に割れて形成された平滑な表面であることが好ましい。例えば、上記したように、原材料からなる結晶がへき開性を有するものである場合には、原材料からなる結晶のへき開面を挙げることができる。このようなへき開面は、電子伝導性の高い面となるため、配向させることで、配向面に平行な方向の熱電特性を向上させることができる。
【0040】
なお、特に限定されることはないが、板状粉砕粒子は、長径が20〜50μmであり、アスペクト比が5〜20の粒子を用いることが更に好ましく、長径が20〜40μmであり、アスペクト比が10〜20の粒子を用いることが特に好ましい。
【0041】
[1−2]スラリー調製工程(S2):
次に、得られた板状粉砕粒子と、バインダーと、分散媒とを混合して、板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上となるスラリーを調製する(S2)。
【0042】
上記スラリーの全体体積に対する板状粉砕粒子の体積割合が30体積%未満であると、この後の成形工程によって得られる成形体において、各板状粉砕粒子の配列が不均一となり、得られる熱電半導体材料の性能指数Zが著しく低下してしまう。
【0043】
特に、テルル化ビスマスのような比重が5以上の熱電半導体材料は、板状粉砕粒子の体積割合を上記範囲(30体積%以上)としなければ、スラリー中の板状粉砕粒子の挙動(即ち、粒子の配向)を制御することができず、成形体中の各板状粉砕粒子が均一に配列せず、良好な性能指数Zの熱電半導体材料を得ることはできない。本発明の製造方法は、このような比重が5以上の熱電半導体材料を、テープ成形を用いて高い歩留りで得ることができる。
【0044】
なお、スラリーの全体体積に対する板状粉砕粒子の体積割合については、成形工程における成形性と、板状粉砕粒子の配列の均一性とを考慮して、30〜70体積%であることが好ましく、30〜60体積%であることが更に好ましく、40〜50体積%であることが特に好ましい。例えば、上記板状粉砕粒子の体積割合が70体積%を超えると、スラリー中の板状粉砕粒子の濃度が高くなり過ぎて、スラリーのテープ成形が困難になるおそれがある。
【0045】
スラリーの調製に用いられるバインダーについては特に制限はなく、例えば、従来公知のセラミックスのテープ成形に用いられるスラリーに含まれるバインダーを好適に用いることができる。
【0046】
なお、本発明の製造方法においては、このスラリーのバインダーとして、熱ゲル化特性又は熱硬化特性を有する物質を用いることが好ましい。このような物質を用いることによって、調製したスラリーが、熱ゲル化特性又は熱硬化特性を有するものとなり、従来のゲルキャスト法を応用した熱電半導体材料の成形体の成形が可能となる。これにより、成形体の乾燥収縮が極めて小さくなり、成形体の破損を防止することができ、成形工程(S3)において厚さの厚い成形体の成形が実現可能となる。
【0047】
熱ゲル化特性又は熱硬化特性を有する物質としては、溶媒中で、イソシアネート及びポリオール(これらはウレタン反応によりウレタン樹脂となる)と、ウレタン反応を促進させる触媒が添加された混合物を挙げることができる。
【0048】
イソシアネートとしては、イソシアネート基を官能基として有する物質であれば特に限定されないが、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、或いは、これらの変性体等を用いることができる。なお、分子内おいて、イソシアネート基以外の反応性官能基が含有されていてもよく、更には、ポリイソシアネートのように、反応官能基が多数含有されていてもよい。
【0049】
ポリオールとしては、イソシアネート基と反応し得る官能基、例えば、水酸基、アミノ基等を有する物質であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリヘキサメチレングリコール(PHMG)、ポリビニルブチラール(PVB)等を用いることができる。
【0050】
触媒としては、ウレタン反応を促進させる物質であれば特に限定されないが、例えば、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール等を用いることができる。
【0051】
バインダーの添加量は、板状粉砕粒子100体積部に対して、5〜50体積部であることが好ましく、10〜40体積部であることが更に好ましい。このように構成することによって、成形体の乾燥時における破損を有効に防止することができる。
【0052】
スラリーの調製に用いられる分散媒についても、例えば、従来公知のセラミックスのテープ成形に用いられるスラリーに含まれる分散媒、例えば、有機溶媒を好適に用いることができる。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、イソプロパノール等を好適例として挙げることができる。なお、これらの分散媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
また、スラリーを構成する際には、これまでに説明した板状粉砕粒子、バインダー、及び分散媒以外にも、従来公知のセラミックスのテープ成形に用いられるスラリーに含まれるその他の成分を更に添加してもよい。具体的には、例えば、可塑剤、及び分散剤等を挙げることができる。
【0054】
可塑剤は、スラリーに可塑性を与え、加工性をよくするための添加剤である。このような可塑剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)等を挙げることができる。
【0055】
可塑剤の添加量は、板状粉砕粒子100質量部に対して、0.5〜5質量部であることが好ましく、1〜3質量部であることが更に好ましい。5質量部を超えると、成形体が柔らかくなり過ぎて変形し易くなることがあり、一方、0.5質量部未満では、可塑剤を添加した効果が発現し難く、成形体が硬くなってしまうことがある。
【0056】
分散剤は、スラリーに板状粉砕粒子を均一に分散させるための添加剤である。このような分散剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系又は両性の界面活性剤のいずれでも使用することができるが、好ましくはノニオン系界面活性剤である。
【0057】
分散剤の添加量は、板状粉砕粒子100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることが更に好ましい。5質量部を超えて添加したとしても、板状粉砕粒子の分散性の更なる向上が得られず、逆に不純物を増加させてしまうおそれがある。一方、一方、0.1質量部未満では、分散剤を添加した効果が発現し難く、成形体にクラックが生じ易くなってしまうことがある。
【0058】
スラリー調製工程(S2)においては、板状粉砕粒子、バインダー、分散媒、及び必要に応じて各種添加を混合して、板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上となるスラリーを調製するものである。予め、上記体積割合となるように分散媒の量を調節して各成分を混合してもよいが、例えば、過剰量の分散媒を使用し、スラリーの調製時において、例えば80℃程度で湯煎した後に、減圧下で撹拌しながら分散媒を揮発させる作業を繰り返すことによって、板状粉砕粒子の体積割合を30体積%以上に調節してもよい。この場合には、各成分の仕込み量から分散媒の揮発量を差し引いて板状粉砕粒子の体積割合を算出することができる。
【0059】
[1−3]成形工程(S3):
次に、得られたスラリーを、図2Aに示すように、テープ状に成形して成形体12を得る(S3)。成形方法については特に制限はなくドクターブレード等の一般的なテープ成形機によりテープ状に成形することができる。ここで、図2Aは、本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における成形工程の一例を説明する斜視図である。
【0060】
本発明の製造方法において、上記板状粉砕粒子作製工程(S1)によって得られた特定形状の板状粉砕粒子を30体積%以上含むスラリーを用いて成形体12を成形するため、得られる成形体12を構成する板状粉砕粒子が、各板状粉砕粒子における結晶面の配向が揃うように配列する。このため、焼結後に得られる熱電半導体材料は、配向性に優れたものとなる。
【0061】
なお、従来の熱電半導体材料の製造においては、例えば、特開2006−040963号公報や特開平10−173110号公報に記載されているように、基板上の所定領域に、熱電材料粒子を含むスラリー(又はペースト)を印刷する技術が提案されているが、これらに開示された製造方法では、十分な配向性が得られず、熱間塑性加工でつくったものに比べ、低い特性のものしか得られなかった。本発明の製造方法においては、所定形状の板状粉砕粒子を特定の体積割合で含むスラリーをテープ成形した成形体を用いて熱電半導体材料を製造するため、性能の高い熱電半導体材料を高い歩留りで得ることができる。
【0062】
なお、成形体12の厚さについては特に制限はないが、板状粉砕粒子における結晶面の配向が良好に揃うようなものとするためには、5〜500μmの厚さとすることが好ましく、10〜300μmの厚さとすることが更に好ましく、50〜200μmの厚さとすることが特に好ましい。成形体の厚さが500μmを超えると、成形体の厚さ方向に含まれる粉砕粒子の数が多くなり、粉砕粒子の配列が乱れるおそれがある。
【0063】
また、本発明の製造方法においては、上記した成形工程によって成形体を得た後、得られた成形体を乾燥することが好ましい。乾燥方法については特に制限はなく、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を用いることができる。
【0064】
なお、本発明の製造方法においては、この成形工程(S3)において、図3Aに示すように、テープ状に成形した成形体22を複数作製し、複数の成形体22を積層して、成形体22の積層体23を得ることができる。単一のテープ成形では、得られる成形体の厚さには限界があるが、このように得られる成形体を積層体とすることによって、厚さの厚い成形体を得ることが可能となる。ここで、図3Aは、本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における成形工程の他の例を説明する斜視図である。
【0065】
なお、図3Aにおいては、成形体22を4枚作製し、この4枚の成形体22を積層して積層体23を形成した場合の例を示しているが、成形体を積層する枚数については特に制限はなく、製造する熱電半導体材料の厚さに応じて適宜選択することができる。
【0066】
また、複数の成形体を積層して積層体を形成する場合には、積層した各成形体の積層界面を互いに密着させ、積層体が一つの熱電半導体材料となるように積層体を厚さ方向に押圧又は加熱押圧して一体化させることが好ましい。
【0067】
[1−4]脱脂工程(S4):
次に、得られた成形体を不活性雰囲気で熱処理して、脱脂体を得る。脱脂工程(S4)は、成形体のスラリーに含まれるバインダー及び必要に応じて添加された可塑剤や分散剤等の添加物等の脂肪分を熱処理して取除く工程である。
【0068】
脱脂工程(S4)における熱処理温度については、バインダー及び添加物等の脂肪分の種類によっても異なるが、例えば、300〜650℃であることが好ましく、350〜600℃であることが更に好ましく、400〜550℃であることが特に好ましい。このように構成することによって、脂肪分を良好に除去することができ、得られる熱電半導体材料における炭素の残留を極めて少なくすることができる。
【0069】
[1−5]還元工程(S5):
次に、得られた脱脂体を還元処理して脱脂還元体を得る(S5)。脱脂体又は脱脂を行う前の成形体は、これまでに説明した製造過程において、その一部が酸化されていることがある。このような状態の脱脂体から熱電半導体材料を製造した場合、熱電半導体材料を構成する結晶粒の一部が酸化されたものとなり、熱電半導体材料の純度が低下し、熱電半導体材料の性能が低下してしまう。本発明の製造方法においては、脱脂体を還元することによって、酸素の残留の少ない熱電半導体材料を製造することができる。
【0070】
還元処理の方法としては、例えば、水素炉にて所定の温度で熱処理し、脱脂体を水素還元する方法を挙げることができる。熱処理の温度については、使用した原材料の種類に応じて適宜決定することができるが、原材料の融点よりも低い温度、例えば、原材料としてテルル及びビスマスを用いたテルル化ビスマスを製造する場合には、250〜550℃であることが好ましく、300〜450℃であることが更に好ましく、300〜400℃であることが特に好ましい。このように構成することによって、脱脂体を良好に還元することができる。例えば、還元処理の温度が低すぎると、酸化された結晶粒の還元が十分に行われないことがあり、一方、還元処理の温度が高すぎると、還元が行われる前に、脱脂体を構成する結晶粒の焼結が生じてしまうことがある。
【0071】
[1−6]焼結工程(S6):
次に、得られた脱脂還元体を焼結して焼結体を得る(S6)。焼結の方法としては、従来公知のセラミックシートの成形体を焼結する方法と同様の方法、例えば、ホットプレス法等を好適に用いることができる。
【0072】
なお、この焼結工程は、不活性雰囲気、例えば、アルゴンガス雰囲気にて行うことが好ましい。また、焼結温度については、使用した原材料の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、原材料としてテルル及びビスマスを用いたテルル化ビスマスを製造する場合には、350〜580℃であることが好ましく、400〜550℃であることが更に好ましく、450〜550℃であることが特に好ましい。
【0073】
また、ホットプレスによって脱脂還元体を焼結する場合には、テープ状の脱脂還元体の厚さ方向に対して圧力をかけながら、脱脂還元体を加熱して焼結する。ホットプレスにおける圧力については特に制限はないが、例えば、15〜100MPaであることが好ましく、20〜80MPaであることが更に好ましく、30〜60MPaであることが特に好ましい。このように構成することによって、配向性に優れた熱電半導体材料を良好に得ることができる。
【0074】
[1−7]切断加工工程(S7):
次に、図2B及び図2Cに示すように、得られた焼結体14を所定の形状に切断加工して熱電半導体材料16を得る。このように構成することによって、性能の高い熱電半導体材料を高い歩留りで得ることができる。特に、本発明の製造方法においては、従来の製造方法のように熱間塑性加工等の操作を行っていないため、焼結体14には不要な応力の残留がなく、上記切断加工工程において、カケ及び割れなどによる破損が生じ難くなっている。
【0075】
なお、図2B及び図2Cにおいては、テープの成形体を脱脂、還元、及び焼結して得られたテープ状の焼結体14を、長手軸方向に沿って3等分し、且つ長手軸方向に対して垂直方向に10等分して切断することによって、合計30個の直方体形状の熱電半導体材料16を製造した場合の例について示しているが、切断の方法については特に制限はなく、製造する熱電半導体材料の形状に応じて適宜決定することができる。
【0076】
また、図3Aに示すように、複数の成形体22を積層して積層体23からなる成形体を作製した場合には、図3B及び図3Cに示すように、これまでに説明した脱脂工程(S4)、還元工程(S5)、及び焼結工程(S6)を経て得られた焼結体24を所定の形状に切断加工して熱電半導体材料26を得る。
【0077】
ここで、図2B及び図2Cは、本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における切断加工工程の一例を説明する斜視図であり、図3B及び図3Cは、本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における切断加工工程の他の例を説明する斜視図である。
【0078】
焼結体を切断する方法については特に制限はなく、例えば、ダイサーによるダイシング加工、スライサーによるスライシング加工、ワイヤーソーによるワイヤーソー加工等(機械加工)の他、YAGレーザ、エキシマレーザ等によるレーザ加工、電子ビーム加工等を好適例として挙げることができる。
【0079】
[2]熱電半導体材料:
本発明の熱電半導体材料の製造方法によって製造される熱電半導体材料は、インゴットの製造に用いられる原材料の組成を調整することによって、P型熱電半導体材料又はN型熱電半導体材料とすることができる。
【0080】
このような熱電半導体材料は、ペルチェ効果を利用した電子冷却及びゼーベック効果を利用した熱電発電等に使用される熱電モジュールの熱電素子として利用することができる。具体的に、上記熱電モジュールは、例えば、半導体レーザ等の半導体装置内部の温度調節器、発電装置、小型冷蔵庫等に用いることができる。
【0081】
このような熱電モジュールは、例えば、図4に示すように、P型又はN型の熱電半導体材料である熱電素子102p,102nを、下基板106a及び上基板106bによって挟持して構成された熱電モジュール100である。
【0082】
P型の熱電素子102p、及びN型の熱電素子102nは、これまでに説明した本発明の熱電半導体材料の製造方法において、各熱電素子となる熱電半導体材料の化学量論比に応じた原材料を用いることによって製造することができる。なお、各熱電素子の上面及び下面には、各基板106との電気的接合を行うために、例えば、Niめっきを施してNiめっき層を形成してもよい。
【0083】
また、上記下基板106a及び上基板106bは、例えば、図5に示すように、1対のセラミックス基板112(図5においては、1対のセラミックス基板のうち下基板を構成するセラミックス基板を示す)を用意し、これらのセラミックス基板112上の熱電素子搭載部分に電極114を形成し、形成した電極114上に、Niめっき層116を形成することによって製造することができる。なお、上記電極114は、例えば、銅メタライズ等の公知の方法によって形成することができる。
【0084】
ここで、図5は、熱電モジュールに用いられる基板の断面の構成を模式的に示す概略断面図である。
【0085】
図4に示すような電子モジュール100を製造する際には、まず、下側基板106aの電極上に、P型熱電素子102p及びN型熱電素子102nを交互に載置し、載置したP型熱電素子102p及びN型熱電素子102nのNiめっき層形成面(即ち、熱電素子の下面)と、下側基板106aの電極とを電気的に接合する。
【0086】
次に、P型熱電素子102p及びN型熱電素子102nのNiめっき層が形成された他の面(即ち、熱電素子の上面)に、上基板106bを載置し、載置した上基板106bの電極と、P型熱電素子102p及びN型熱電素子102nのNiめっき層形成面(上面)とを電気的に接合する。このようにして図4に示すような電子モジュール100を製造することができる。なお、電極と熱電素子との電気的接合は、例えば、はんだ付けによって行うことができる。
【0087】
このような熱電モジュール100は、例えば、下基板106a及び上基板106bの各電極により接続されたP型熱電素子102p及びN型熱電素子102nに電流を流すと、電流はN型熱電素子102n下側から、上基板106bの電極を通ってP型熱電素子102pの下側へ流れる。一方、エネルギーはP型熱電素子102pでは電流と同じ方向に、N型熱電素子102nでは電流と逆の方向へ移動するため、上基板106bの電極側ではエネルギーが不足して温度が低下し、下基板106aの電極側ではエネルギーが放出されて温度が上昇する。
【0088】
これまでに説明した本発明の熱電半導体材料の製造方法によって製造された熱電半導体材料は、性能指数Zに優れたものであるため、熱電モジュールの上面と下面とに良好に温度差を生じさせることができる。
【0089】
なお、熱電モジュールは、図4に示すような一段の熱電モジュール、即ち、単一平面上に熱電素子が配列した一段モジュールに限定されることはなく、例えば、図示は省略するが、例えば、二段以上にモジュールが積層した多段モジュールであってもよい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、各実施例及び比較例によって製造された熱電半導体材料(熱電素子)の諸特性の評価方法を以下に示す。
【0091】
<性能指数Zの測定>
各実施例及び比較例によって製造された熱電半導体材料(熱電素子)について、ゼーベック係数α(μV/K)、熱伝導率κ(W/mK)、比抵抗ρ(×10−5Ωm)を測定し、上述した式(1)より性能指数Zを算出した。性能指数Zが大きい程、熱電半導体材料として優れている。
【0092】
<歩留りの測定>
各実施例及び比較例によって、長さ6mm、長軸に垂直な断面が縦横2mm正方形の直方体の熱電半導体材料を10個製造し、得られた熱電半導体材料のうち、割れ、欠けが発生した個数を測定した。なお、割れ、欠けとしては、実体顕微鏡にて確認される、0.3mm以上の破損又は欠損部分とした。
【0093】
(実施例1)
まず、P型熱電素子の原材料として、ビスマス(Bi)、テルル(Te)及びアンチモン(Sb)の各粉末を化学量論比がBi0.4Sb1.6Teとなるように秤量した。次に、秤量した原材料を、Ar雰囲気700℃にて溶融させた後、凝固させ、インゴットを作製した。なお、得られたテルル化ビスマスのインゴットの比重は7であった。
【0094】
次に、得られたインゴットを、乳鉢及びボールミルにて粗粉砕し、100メッシュの篩にかけ、粒径が150μm以下となるようにした。その後、シングルノズル式ジェットミル装置(商品名:スターバースト、スギノマシン社製)によって、板状粒子化するように粉砕した。得られた粉砕片を、微粒子除去工程として500メッシュの篩にかけ、メッシュを通らなかった粒子(約20μm以上)を選別して、板状粉砕粒子とした(板状粉砕粒子作製工程(S1))。
【0095】
なお、得られた板状粉砕粒子は、長径が20〜70μmの範囲で、且つアスペクト比が3〜20の範囲のものであった。
【0096】
次に、この板状粉砕粒子を用いて、テープ成形用のスラリーを調製した(スラリー調製工程(S2))。具体的には、分散媒としてのトルエン、イソプロパノールを等量混合したものに、上記の板状粉砕粒子と、バインダーとしてポリメタクリル酸n−ブチル(商品名:ハイパール M−6003、根上工業社製)、可塑剤(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、黒金化成社製)と、分散剤(商品名:SP−O30、花王社製)とを混合してスラリーを調製した。
【0097】
各成分の配合処方は、板状粉砕粒子100質量部に対して、分散媒50質量部、バインダー4質量部、可塑剤2質量部、及び分散剤1質量部とした。スラリーの調製の際には、上記割合で混合した混合物を80℃で湯煎した後に、減圧下で撹拌しながら分散媒を揮発させる作業を繰り返し、板状粉砕粒子の体積濃度を35体積%になるようにスラリーを調製した。板状粉砕粒子の体積濃度は、各成分の仕込み量から分散媒の揮発量を差し引いて算出した。
【0098】
次に、得られたスラリーをドクターブレード法によってPETフィルムの上にテープ状に成形して成形体を作製した(成形工程(S3))。得られた成形体は、乾燥後の厚さが30μmであった。
【0099】
次に、得られたテープ状の成形体を、直径30mmに打ち抜いたものを100層積層し、加熱圧着し、ペレット(複層の成形体)を作製した。
【0100】
次に、得られたペレットを、Ar雰囲気下で、450℃で5時間加熱することによって脱脂した(脱脂工程(S4))。次に、脱脂した脱脂体を水素炉にて、350℃で10時間熱処理して水素還元した(還元工程(S5))。
【0101】
次に、得られた脱脂還元体を、ホットプレス装置にて、Ar雰囲気下で、450℃で1時間焼結して焼結体を得た(焼結工程(S6))。
【0102】
次に、得られた焼結体の積層面に平行な表面(上下面)を研磨して、厚さを2mmとした。その後、ダイサーにて、長さ6mm、長軸に垂直な断面が縦横2mm正方形の直方体に切断して熱電半導体材料(熱電素子)を製造した(切断加工工程(S7))。
【0103】
得られた熱電半導体材料の性能指数Zを測定した。また、熱電半導体材料を10個製造し、上述した歩留りの測定を行った。熱電半導体材料の性能指数Z、及び歩留りの測定結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
(実施例2)
スラリー調製工程(S2)において、板状粉砕粒子の体積濃度を30体積%になるようにスラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法によって熱電半導体材料を製造した。
【0106】
(実施例3)
スラリー調製工程(S2)において、板状粉砕粒子の体積濃度を40体積%になるようにスラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法によって熱電半導体材料を製造した。
【0107】
(実施例4)
実施例1と同様に作製された板状粉砕粒子100質量部と、分散媒としてのトリアセチン及び有機二塩基酸エステルの混合物(混合比が1:9)20質量部と、分散剤としてのポリカルボン酸系共重合体3質量部とを、ボールミルを用いて3時間混合し、スラリーの前駆体を作製した。
【0108】
次に、このスラリーの前駆体に、バインダーとして、イソシアネート及びポリオールから生成され、且つ、イソシアネートに対するポリオールの官能基比率(即ち、イソシアネート基に対する水酸基のモル比率)が2/11.5となり、更に繰り返し単位分子量が290となるウレタン樹脂を7質量部、イソシアネート及びポリオールを混合した。
【0109】
イソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用い、ポリオールとしては、トリアセチン及び有機二塩基酸エステルの混合物(混合比が1:9の溶媒)にポリビニルブチラールを10質量%溶解した溶解液を用いた。
【0110】
更に、このスラリーの前駆体に、触媒として6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール0.05質量部を混合し、その混合物を真空脱泡して、スラリーを調製した。調製したスラリーの仕込み量から計算されるスラリー中の板状粉砕粒子の濃度は40体積%であった。
【0111】
得られたスラリーをドクターブレード法によってPETフィルムの上にシート状に成形し、シート成形の成形機内にて、加熱により40℃で2時間に亘って固化乾燥した。その後、室内にて、常温で12時間に亘って更に固化乾燥し、厚さ60μmの成形体を得た。
【0112】
次に、得られたテープ状の成形体を、直径30mmに打ち抜いたものを50層積層し、加熱圧着し、ペレット(複層の成形体)を作製した。
【0113】
得られたペレット(複層の成形体)を、実施例1と同様の方法によって、脱脂、還元、焼結、切断して、長さ6mm、長軸に垂直な断面が縦横2mm正方形の直方体に切断して熱電半導体材料(熱電素子)を製造した。
【0114】
(比較例1)
スラリー調製工程(S2)において、板状粉砕粒子の体積濃度を20体積%になるようにスラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法によって熱電半導体材料を製造した。
【0115】
(比較例2)
比較例2においては、従来の熱間すえこみ鍛造による熱間塑性加工(熱間押出)によって熱電半導体材料を製造した。まず、実施例1と同様に作製された板状粉砕粒子を還元処理し、この板状粉砕粒子をペレット上に一軸成形した後、Ar雰囲気下で、500℃、40MPaの条件でホットプレスした。
【0116】
上記ホットプレスの後、一軸成形した成形体を熱間押出した。熱間押出に使用した金型は、焼結体投入側が直径30mmの円柱状で、押出側が直径6mmの円柱状、その間はテーパー角45度のものである。熱間押出は、金型を450℃に保ち、Ar雰囲気下で押し出しを行った。
【0117】
得られた焼結押出体を、押し出し方向に長さ6mmとなるように切断し、更に押し出し方向に垂直な断面が縦横2mm正方形となるようにダイサーにて切断して熱電半導体材料を製造した。
【0118】
実施例2〜4、及び比較例1、2の各熱電半導体材料について性能指数Zを測定した。また、各実施例及び比較例において、熱電半導体材料を10個製造し、上述した歩留りの測定を行った。熱電半導体材料の性能指数Z、及び歩留りの測定結果を表1に示す。
【0119】
(結果)
所定の板状粉砕粒子を特定の体積割合で含有するスラリーをテープ成形して成形体を得、脱脂、還元、焼成、切断の各工程を経て製造された熱電半導体材料(実施例1〜4)は、性能指数Zが熱間押出を用いた従来の製造方法(比較例2)と同程度であるとともに、熱電半導体材料のクラックの発生が抑制されていた。特に、バインダーとして、熱ゲル化特性又は熱硬化特性を有する物質を用いた実施例4にて得られた熱電半導体材料は、性能指数Zに優れるとともに、割れ、欠けも確認されなかった(歩留り向上)。
【0120】
比較例1においては、板状粉砕粒子の体積割合が30体積%未満(具体的には、20体積%)であったため、熱電半導体材料の性能指数Zが低くなっていた。また、比較例2においては、熱間押出によって成形体が形成されるため、熱電半導体材料に押出時の応力が残留し、割れ、欠けが多く発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の熱電半導体材料の製造方法は、性能の高い熱電半導体材料を製造する方法として利用することができる。本発明の熱電半導体材料の製造方法によって得られる熱電半導体材料は、例えば、小型冷蔵庫、半導体レーザ等の半導体装置内部の温度調節器及び発電装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態を示すフローチャートである。
【図2A】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における成形工程の一例を説明する斜視図である。
【図2B】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における切断加工工程の一例を説明する斜視図である。
【図2C】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における切断加工工程の一例を説明する斜視図である。
【図3A】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における成形工程の他の例を説明する斜視図である。
【図3B】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における切断加工工程の他の例を説明する斜視図である。
【図3C】本発明の熱電半導体材料の製造方法の一の実施形態における切断加工工程の他の例を説明する斜視図である。
【図4】熱電半導体材料を用いた熱電モジュールを模式的に示す斜視図である。
【図5】熱電モジュールに用いられる基板の断面の構成を模式的に示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0123】
12:成形体、14:焼結体、16:熱電半導体材料、22:成形体、23:積層体、24:焼結体、26:熱電半導体材料、100:熱電モジュール、102n:熱電素子(N型熱電素子)、102p:熱電素子(P型熱電素子)、106:基板、106a:下基板、106b:上基板、112:セラミックス基板、114:電極、116:Niめっき層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電半導体の原材料からなり、比重が5以上のインゴットを粉砕して、前記原材料の特定の結晶面を表面に有する板状の板状粉砕粒子を得る板状粉砕粒子作製工程と、
得られた前記板状粉砕粒子と、バインダーと、分散媒とを混合して、前記板状粉砕粒子の体積割合が30体積%以上となるスラリーを調製するスラリー調製工程と、
得られた前記スラリーを、テープ状に成形して成形体を得る成形工程と、
得られた前記成形体を、不活性雰囲気で熱処理して、脱脂体を得る脱脂工程と、
得られた前記脱脂体を還元処理して脱脂還元体を得る還元工程と、
得られた前記脱脂還元体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、
得られた前記焼結体を切断加工して熱電半導体材料を得る切断加工工程と、を含む熱電半導体材料の製造方法。
【請求項2】
前記原材料として、少なくともテルル及びビスマスを用いる請求項1に記載の熱電半導体材料の製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程において、ホットプレスにより前記脱脂還元体を焼結する請求項1又は2に記載の熱電半導体材料の製造方法。
【請求項4】
前記板状粉砕粒子は、長径が20〜70μmであり、アスペクト比が3〜20の粒子である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱電半導体材料の製造方法。
【請求項5】
前記バインダーとして、熱ゲル化特性又は熱硬化特性を有する物質を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱電半導体材料の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程において、テープ状に成形した前記成形体を複数作製し、複数の前記成形体を積層して、前記成形体の積層体を得る請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱電半導体材料の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−289911(P2009−289911A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139741(P2008−139741)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】