説明

燃料、燃料電池システム及び燃料電池車輌

【課題】耐久性能が維持された燃料電池システムを提供する。
【解決手段】直接型燃料電池1を備える燃料電池システムにおいて、炭化水素と抗酸化剤とからなる燃料を使用する。抗酸化剤は可逆的な酸化還元能を有し、炭素酸素,窒素の4元素より構成される炭化水素系化合物である。燃料中に抗酸化剤を含有させることによって、副反応により活性酸素化合物が発生する状態であっても、抗酸化剤が活性酸素化合物を消去し、固体高分子電解質膜4の劣化を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料、燃料電池システム及び燃料電池車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のエネルギー資源問題、CO排出に伴う地球温暖化問題の解決する手段として、燃料電池技術が注目されている。燃料電池は、電池内で水素、メタノール、又はその他の炭化水素等の燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。このため、燃料電池は、火力発電、自動車等の内燃機関において燃料の燃焼によるNOやSO等の発生がなく、クリーンなエネルギー源として注目されている。
【0003】
燃料電池にはいくつかの種類がある。中でも固体高分子型燃料電池(以下、PEFCとする。)が最も注目され開発が進められている。PEFCは、(1)低温作動性であるため起動・停止が容易、(2)理論電圧や理論変換効率が高い、(3)電解質に液相が存在しないためセル構造が縦型等の柔軟な設計が可能である、(4)イオン交換膜/電極界面では反応場である三相界面の確保により電流を多く取り出せることができ高出力密度が得られる、等の様々な利点を有している。
【0004】
PEFCの中でも液体メタノール、又はその他の炭化水素燃料を直接供給して電気を得る直接型燃料電池は、高圧で大きな燃料貯蔵容器を必要とする水素型に比べて圧倒的に小さなサイズで代替でき、また改質ガス型と異なり燃料改質器関連機器が一切不要であるため、システム全体の構造が簡略化される。また、起動とメンテナンスが容易となるため、小型移動(動力)電源、携帯機器用電源としても最適である。
【0005】
このように、PEFCは最も注目されているにも拘らず、未だ多くの課題が山積みされている。中でも高分子電解質膜の技術は最重要課題の一つである。現在、最も広く使われている電解質膜であり、米国デュポン社から市販されているナフィオン(登録商標)膜に代表されるパーフルオロスルホン酸系ポリマーは、燃料電池の空気極(正極)で発生する活性酸素に対して耐性をもつ膜として開発された経緯がある。しかし、長期に渡る耐久試験の結果によると、まだ十分な耐性があるとは言えない状況である。
【0006】
燃料電池の作動原理は、燃料極(負極)でのH酸化と、式(A1)に示す空気極での分子状酸素(O)の4電子還元による水の生成という2つの電気化学的過程から成り立っている。
【0007】
2+4H++4e-→2H2O ・・・式(A1)
しかしながら、実際には副反応が同時に起こっている。その代表的なものは、式(A2)に示す空気極におけるOの2電子還元による過酸化水素(H)の生成である。
【0008】
+2H+2e→H ・・・式(A2)
過酸化水素は酸化力は弱いが、安定していて寿命が長い。そして、過酸化水素は以下に示す反応式(A3)、(A4)に従って分解し、分解する際にヒドロキシラジカル(・OH)、ヒドロペルオキシラジカル(・OOH)などのラジカルが生成する。これらのラジカル、特にヒドロキシラジカルは強い酸化力を有しており、電解質膜として使用されているパーフルオロスルホン化ポリマーでさえも長期の使用により分解する可能性がある。
【0009】
→2・OH ・・・式(A3)
→・H+・OOH ・・・式(A4)
また、Fe2+、Ti3+、Cu+などの遷移金属の低原子価のイオンが存在する場合には、過酸化水素がこれらの金属イオンにより1電子還元されてヒドロキシラジカルを生じるハーバーワイス(Haber-Weiss)反応が起こる。ヒドロキシラジカルは、活性酸素の中で最も反応性に富み、酸化力が非常に強いことが知られている。なお、金属イオンが鉄イオンの場合には、ハーバーワイス反応は式(A5)に示すフェントン(Fenton)反応として知られている。
【0010】
Fe2++H→Fe3++OH- +・OH ・・・式(A5)
このように、電解質膜中に金属イオンが混入すると、ハーバーワイス反応により電解質膜の中で過酸化水素がヒドロキシラジカルへと変化し、このヒドロキシラジカルにより電解質膜が劣化するおそれがある(非特許文献1参照。)。この反応は、水素型燃料電池に関わらず、メタノール等の直接型燃料電池でも懸念事項であることが報告されている。(非特許文献2参照。)。
【0011】
そこで、ヒドロキシラジカルによる電解質膜の酸化を阻止する方法として、例えば、フェノール性水酸基を有する化合物を電解質膜に配合し、過酸化物ラジカルをトラップして不活性化する方法が提案されている(特許文献1参照。)。また、電解質膜に、フェノール化合物、アミン化合物、イオウ化合物、燐化合物等を酸化防止剤として配合することにより、発生したラジカルを消去する方法が提案されている(特許文献2参照。)。更に、炭素−フッ素結合より小さい結合エネルギーを有する分子を電解質膜に隣接するように配置された触媒層に含有させ、この分子がヒドロキシラジカルに対して優先的に反応することにより電解質膜を保護する方法が提案されている(特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2000−223135号公報
【特許文献2】特開2004−134269号公報
【特許文献3】特開2003−109623号公報
【非特許文献1】新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託先 京都大学工学研究科,「平成13年度成果報告書、固体高分子形燃料電池の研究開発、固体高分子形燃料電池の劣化要因に関する研究、劣化要因に関する基礎研究(1)電極触媒/電解質界面の劣化要因」,平成14年3月,p.13、24、27
【非特許文献2】科学技術振興機構 平成15年度戦略的創造研究推進事業研究年報, 研究領域:資源循環・エネルギーミニマム型システム技術 山梨大学「高温運転メタノール直接型燃料電池の開発」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ヒドロキシラジカルが発生する可能性が最も高い空気極の三相界面付近には酸素及び電極触媒である白金が存在して化合物が酸化されやすい環境であるため、上記のように電解質膜に酸化を防止する化合物を含有させるだけの方法では、その化合物もヒドロキシラジカルの有無に関わらず酸化されて消失する可能性があり効率が悪い。また、化合物がヒドロキシラジカルとの反応により不安定なラジカルまたは過酸化物となって新たな酸化反応のイニシエータとなり、電解質膜劣化を引き起こす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る燃料は、直接型燃料電池に供給する燃料において、燃料は炭化水素と抗酸化剤とからなることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料電池システムは、本発明に係る燃料を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る燃料電池車輌は、本発明に係る燃料電池システムを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抗酸化性の燃料が提供される。
【0017】
本発明によれば、耐久性能が維持された燃料電池システムが提供される。
【0018】
本発明によれば、長時間連続運転に耐えうる燃料電池車輌が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る燃料、燃料電池システム及び燃料電池車輌の詳細を実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明に係る燃料電池システムの実施の形態を説明する概略的な説明図である。本実施の形態に係る燃料電池システムは、図1に示すように、直接型燃料電池1と、直接型燃料電池1の外部に配置されており、直接型燃料電池1に燃料を供給する燃料供給手段11とから大略構成されている。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係る燃料電池システムを構成する直接型燃料電池1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2を単独で用いることができる他、必要に応じて複数積層して構成しても良く、積層後に両端部にエンドフランジ(不図示)を配置し、外周部を締結ボルト(不図示)により締結して構成された燃料電池スタック(不図示)を含む。単セル2は、固体高分子電解質膜4の一方の面に空気極5、他方の面に燃料極6を有する膜電極接合体3と、この膜電極接合体3の空気極5側に配置され膜電極接合体3との間に空気流路8を画成する空気極側セパレータ7と、膜電極接合体3の燃料極6側の面に配置され、膜電極接合体3との間に液体燃料流路10を画成する燃料極側セパレータ9と、を備えている。
【0022】
単セル2に用いる固体高分子電解質膜4としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(商品名;ナフィオン(登録商標)117、米国デュポン社)等を使用することができる。そして、固体高分子電解質膜4の一方の面に空気極5、他方の面に燃料極6として白金触媒担持カーボン、または白金ベースの合金触媒担持カーボンの触媒層がそれぞれ接合されて膜電極接合体3が形成されている。
【0023】
空気極側セパレータ7及び燃料極側セパレータ9は、カーボンや金属をプレート状に成形し、その表面にガス流路及び冷却水流路が形成されたものである。空気流路8は空気極5と空気極側セパレータ7との間に画成されており、空気極5に反応ガスである空気の供給を行う。液体燃料流路10は燃料極6と燃料極側セパレータ9との間に画成されており、燃料極6に液体燃料の供給を行う。なお、液体燃料流路10は燃料の補給通路として機能する。なお、各セパレータ7、9と各電極5、6との間には、カーボンペーパやカーボン不織布等により形成された拡散層を適宜配置する。
【0024】
上記構成の直接型燃料電池1の各単セル2において、空気流路8及び液体燃料流路10に空気及び液体燃料が各々供給されると、空気及び燃料がそれぞれ空気極5及び燃料極6側に供給され、以下に示す式(B1)及び(B2)反応が起こる。
【0025】
(6)、(7)式は、炭化水素燃料としてメタノールを用いた場合を示している。
【0026】
燃料極側:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- ・・・式(B1)
空気極側:(3/2)O2+6H++6e-→3H2O ・・・式(B2)
図3に示すように、燃料極6側にメタノールと水が供給されると、式(B1)の反応が進行してH+(プロトン) とe-(電子)とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜4内を移動して空気極5側に流れ、空気極5側では、H+とe-と供給された空気中の酸素ガスとにより式(B2)の反応が進行して水が生成する。この際に、燃料極6で生成した電子が図3に示す外部回路17を介して空気極5へ移動することにより起電力が得られる。
【0027】
このように、空気極5での反応は、分子状酸素(O)の4電子還元による水の生成である。この酸素の4電子還元の他に副反応が同時に起こり、酸素の1電子還元体であるスーパーオキシド(O)、スーパーオキシドの共役酸であるヒドロペルオキシラジカル(・OOH)、2電子還元体である過酸化水素(H)、3電子還元体であるヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素が発生する。各活性酸素の発生メカニズムは、それぞれ下記式(B3)〜(B7)に示す複数の素反応過程を経由する複合反応と推察される。
【0028】
+e→O ・・・式(B3)
+H→・OOH ・・・式(B4)
+2H+2e→H ・・・式(B5)
+H+e→HO+・OH ・・・式(B6)
→2・OH ・・・式(B7)
発生した活性酸素は、下記式(B8)〜(B10)の素反応過程を経由し、最終的には水に還元されると推察される。なお、Eは標準酸化還元電位(Normal Hydrogen Electrode;NHE)で表している。
【0029】
・OOH+H+e→H=1.50[V] ・・・式(B8)
+2H+2e→2HO E=1.77[V] ・・・式(B9)
・OH+H+e→HO E=2.85[V] ・・・式(B10)
ここで問題となるのは、酸化還元電位が2.85[V]と高く、酸化力の強いヒドロキシラジカルである。ヒドロキシラジカルは、活性酸素の中で最も反応性が高く寿命が百万分の一秒と非常に短い。また、酸化力も強い。このため、速やかに還元しないとヒドロキシラジカルは他の分子と反応する。燃料電池で問題となっている酸化劣化のほとんどが、このヒドロキシラジカルが原因であると推察されている。このヒドロキシラジカルは、燃料電池が発電している間、上記(B3)〜(B7)を経由して発生し続ける。一方、ヒドロペルオキシラジカル及び過酸化水素は、ヒドロキシラジカルと比較すると酸化力が弱いが、水に還元される過程でヒドロキシラジカルを経由する可能性がある。このように、ヒドロキシラジカルの発生は、直接型燃料電池で発電している限り半永久的に続くものである。このため、ヒドロキシラジカルを分解する還元剤、または還元によりヒドロキシラジカルに至る活性酸素を分解する化合物を連続的に直接型燃料電池に供給しなければ、発生し続けるヒドロキシラジカルにより固体高分子電解質膜が劣化するおそれがある。
【0030】
本実施の形態に係る燃料電池システムでは、燃料として炭化水素と抗酸化剤とからなる抗酸化性の燃料を外部に設けた燃料供給手段11により直接型燃料電池1に供給するため、直接型燃料電池1で発電を続け、活性酸素が発生し続けている状態であっても、燃料中に含まれる抗酸化剤が活性酸素を分解して消去することができる。このため、固体高分子電解質膜の劣化を防ぎ、耐久性能が維持された燃料電池システムが提供される。また、抗酸化剤が酸化されやすい環境であっても外部から抗酸化剤が常に補給されるため、活性酸素を分解する効率が落ちない。
【0031】
抗酸化剤を燃料極9側から供給する場合には、例えば、図1に示すように、燃料供給手段11を、燃料として炭化水素と抗酸化剤溶液が封入されている燃料タンク12と、燃料を燃料電池スタック1の燃料極6側へ供給する送液ポンプ13と、燃料タンク12と送液ポンプ13とを接続する管路14と、送液ポンプ13と燃料流路10とを接続するた燃料供給管路15とから構成する。
【0032】
上記したように、直接型燃料電池1の空気極側セパレータ7及び燃料極側セパレータ9の表面には、反応ガスである空気や液体燃料の供給を行うための空気流路8及び液体燃料流路10がそれぞれ画成されている。反応ガス及び液体燃料は、図2に示す単セルの分解斜視図のように空気流路8及び液体燃料流路10を通過する。液体燃料流路10に供給された抗酸化剤を含む燃料は、図3の単セルを構成する膜電極接合体における物質の移動を説明する説明図に示すように、燃料は電極にて酸化され、燃料電池反応に関与しない抗酸化剤は濃度勾配に従って均一に空気極5に分散される。
【0033】
空気極側セパレータ7の空気流路8は生成した水の除去通路としても機能する。このため、過剰に供給され不用となった抗酸化剤や、活性酸素を分解して酸化体となった抗酸化剤を三相界面上の触媒によって酸化させてCO、HO又はN等とした後に、生成水と同時に図1に示す排出管16より排出させることができる。このため、抗酸化剤が活性酸素との反応により酸化体、不安定なラジカル又は過酸化物となり、新たな酸化反応のイニシエータとなって電解質膜劣化を引き起こすことを防ぐことができる。
【0034】
なお、抗酸化剤は、空気極に均一に分散させるため炭化水素に難溶でもかまわないが炭化水素に溶解しなければならない。不溶の場合には、抗酸化剤が充分に供給されず活性酸素を分解する効果が充分に発揮されない。このため、必要以上の濃度で抗酸化剤が燃料中に含まれている必要がある。抗酸化剤は、燃料に対する濃度が10−4〜10[%]であることが好ましく、燃料に対する濃度が10−3〜1[%]であることがより好ましい。なお、必要に応じて燃料として用いる炭化水素とは異なる有機溶媒を、燃料電池の反応を阻害しない程度に加えることも可能である。
【0035】
抗酸化剤は、炭素、酸素、窒素及び水素の4元素から構成される炭化水素系化合物であることが好ましい。炭素、酸素、窒素及び水素以外の他の元素は、電極中の白金を被毒して燃料電池の発電性能を阻害する可能性がある。また、卑金属元素の場合には、ヒドロキシラジカルの発生を促進させる可能性がある。さらに、抗酸化剤を空気極で酸化させて排出させる場合を考慮すると、炭素、酸素、窒素及び水素の4元素のみから構成され、CO、HOやNに分解される炭化水素系化合物であることが好ましい。
【0036】
ヒドロキシラジカルの酸化還元電位は非常に高いため、上記4元素から構成される炭化水素系化合物の大部分は、熱力学的にヒドロキシラジカルに対して還元剤として働くと考えられる。また、各化合物は、速度論的に還元能力に差があると考えられる。そして、ヒドロキシラジカルの高い反応性を考慮すると、抗酸化剤の還元能力は速度論的に速い方が好ましい。また、抗酸化剤が酸化された酸化体、すなわち、活性酸素により酸化されて得られる化合物の安定性も重要である。抗酸化剤の酸化体が不安定であると、酸化された物質が新たな副反応の開始剤となり、電解質膜の劣化を促進する可能性があるためである。このため、比較的速度論的に速く、酸化体が化学的に安定な化合物として、イソプロパノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール等ヒドロキシル基を有する第二級アルコール系化合物、フェノール類、フェノール、クレゾール、ピクリン酸、ナフトール、ヒドロキノン等ヒドロキシル基を有する芳香族、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンジルメチルエーテル等のエーテル系化合物、プロピルアミン、ジエチルアミン、アセトアミド、アニリン、N−ヒドロキシ系化合物等の含窒素系化合物があげられる。
【0037】
このような化合物を選択するにあたり重要なことは、化合物の安定性、耐久性、耐熱性である。特に、化合物の安定性及び耐久性は、活性酸素を分解し続けて燃料電池を長期にわたって使用する意味において最も重要である。また、抗酸化剤の酸化体の加水分解された加水分解物も化学的に安定であることがより好ましい。抗酸化剤の安定性は、抗酸化剤を燃料極に供給して空気極で排出される間安定であれば活性酸素を分解する効果を得ることが可能である。一方、上記したように活性酸素を分解して不用となった場合に生成水と同時に排出させることを考慮すると、抗酸化剤の加水分解物がラジカルを生成することがなく安定している方がシステムを長期間運転させる上で好ましい。また、燃料電池の定常状態の運転温度が80〜90[℃]、将来電解質膜の耐熱性が向上することを考慮すると、抗酸化剤は120[℃]位の温度まで安定である耐熱性を有する必要がある。
【0038】
抗酸化剤の標準酸化還元電位(NHE)が、0.68[V]より大きくかつ2.85[V]より小さいことが好ましい。0.68[V]は過酸化水素の標準酸化還元電位であり、標準酸化還元電位が0.68[V]より大きい化合物で酸化力を有する化合物は過酸化水素に対して酸化剤として働く。この際、過酸化水素は酸化して酸素となる。そして、標準酸化還元電位が0.68[V]より大きい化合物は、過酸化水素により還元される。2.85[V]はヒドロキシラジカルの標準酸化還元電位であり、2.85[V]以上の高い標準酸化還元電位を有する化合物は、ヒドロキシラジカルに対する還元剤として作用しにくいため、ヒドロキシラジカルの効率的な還元が困難となり好ましくない。過酸化水素により還元された還元体が本実施の形態に係る燃料電池システムで使用される抗酸化剤である場合には、抗酸化剤はヒドロキシラジカルを還元して分解して酸化体となった後に、過酸化水素により元の形に戻る酸化還元サイクル(電子移動触媒機能=メディエーター機能)を有する有機メディエータであることがより望ましい。
【0039】
このように、抗酸化剤が可逆的な酸化還元能を有する場合には、抗酸化剤を何度も利用することができる。このため、長期に渡ってヒドロキシラジカルをはじめとする活性酸素を分解することができ、また、少ない添加量で効果が得られる利点もあり、効率的である。また、抗酸化剤の酸化力を低減させるため酸化還元電位が1.00[V]以下であることがより好ましい。電解質膜としてフッ素系膜を使用する場合は、フッ素系電解質膜が酸化を受ける電位は2.5[V]以上であるため1.00[V]の酸化力では電解質膜は酸化されず問題はない。一方、電解質膜として炭化水素系電解質膜を使用する場合には、燃料中に含まれる抗酸化剤の酸化還元電位が1.00[V]より高くなると、炭化水素系電解質膜が酸化される可能性がある。代表的な有機化合物で代用して考えてみると、ベンゼンは2.00[V]、トルエンは1.93[V]、キシレンは1.58[V]で酸化され、フッ素系電解質膜に比較すると低い酸化還元電位で酸化される。このため、抗酸化剤の酸化還元電位を1.00[V]以下とすることにより、炭化水素系電解質膜を使用した場合にも電解質膜が酸化されることがなく長期に渡って使用が可能となる。なお、実際の酸化還元電位(Real Hydrogen Electrode;RHE)はpH、温度などの諸条件によって変化するので、それに合わせた範囲のものを用いることが好ましい。
【0040】
上記抗酸化剤は、次の一般式(I)
【化1】

【0041】
(式中、R1及びR2は同一又は異なる任意の置換基を、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を表す。)で表される化合物であることが好ましく、更には、R1及びR2は互いに結合して二重結合、芳香環、又は非芳香族性の環を形成していることが好ましい。
【0042】
さらに、この抗酸化剤が、下記の一般式(II)
【化2】

【0043】
(式中環Y1は、二重結合を有する、芳香族性又は非芳香族性の5〜12員環のうちいずれか一種類の環を表す。)で表されるイミド化合物であることが好ましい。
【0044】
上記した化合物を抗酸化剤として直接型燃料電池1に供給すると、式(B11)に示す素反応により、効率的にヒドロキシラジカルを水へと還元して電解質膜の酸化を抑制する。
【0045】
>NOH+・OH →>NO・+HO ・・・式(B11)
また、水素供給により発生したN−オキシルラジカル(>NO・)は、過酸化水素から水素ラジカルを引き抜き、元のヒドロキシアミン(>NOH)の形に回復する。
【0046】
2(>NO・)+H→2(>NOH)+O ・・・式(B12)
図5に、ヒドロキシイミド基を有する化合物の代表例としてN−ヒドロキシフタルイミド(NHPI20)を、また、NHPI20がラジカル化したNHPI20の1電子酸化体としてフタルイミドN−オキシル(PINO21)及びNHPI20の2電子酸化体であるPINO22を示し、活性酸素であるヒドロキシラジカルや過酸化水素を分解するメカニズムを表す。図5に示すように、NHPI20はヒドロキシラジカルに対して還元剤として作用してPINO21、或いは、2分子のヒドロキシラジカルが反応しPINO21、PINO22と水、または水酸イオンを生成し、PINO21、PINO22はそれぞれ過酸化水素と反応してNHPI20に戻る。この際、PINO21、PINO22は過酸化水素に対して酸化剤として作用して、過酸化水素を酸素に分解する。このように、NHPI20とPINO21、PINO22との間で酸化還元サイクルが回ることにより、抗酸化剤として何度でも使用することができるため、長期に渡り活性酸素を分解することができ、耐久性能が維持された燃料電池システムを実現することが可能となる。さらには、酸化還元サイクルが回ることにより、ヒドロキシラジカルを還元した後に抗酸化剤が新たな副反応を引き起こす開始剤となることがない。
【0047】
さらに、上記抗酸化剤は、次の一般式(III)
【化3】

【0048】
(式中、R3及びR4は同一又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基又はアシル基を、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を、nは1〜3の整数を表す。)で表されるイミド化合物であることが好ましい。
【0049】
また、一般式(III)で表される化合物において、置換基R3及びR4のうちハロゲン原子は、ヨウ素、臭素、塩素及びフッ素が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基などの炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。好ましくは炭素数1〜6程度、より好ましくは炭素数1〜4程度の低級アルキル基があげられる。
【0050】
また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などが含まれる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜10程度、好ましくは炭素数1〜6程度、より好ましくは炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基が含まれる。
【0051】
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部分の炭素数が1〜10程度のアルコキシカルボニル基が含まれる。好ましくはアルコキシ部分の炭素数が1〜6程度、より好ましくは炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基があげられる。
【0052】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル基などの炭素数1〜6程度のアシル基があげられる。
【0053】
なお、置換基R3及びR4は、同一であっても又は異なっていてもよい。また、上記一般式(III)で示される化合物において、R3及びR4は互いに結合して二重結合、芳香環、又は非芳香族性の環を形成していてもよい。そのうち、芳香環、又は非芳香族性の環は、5〜12員環のうちいずれか一種類の環を形成していることが好ましく、より好ましくは6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が好ましい。
【0054】
このような環としては、例えば、シクロヘキサン環などのシクロアルカン環、シクロヘキセン環などのシクロアルケン環などの非芳香族性炭化水素環、5−ノルボルネン環などの橋かけ式炭化水素環など非芳香族性橋かけ環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環が含まれる。なお、これらの環は、置換基を有していても良い。
【0055】
抗酸化剤が、特に化合物の安定性、耐久性、電解質膜への溶解性の観点から、次の一般式(IVa)〜(IVf)
【化4】

【0056】
(式中、R3〜R6は同一又は異なって、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表し、nは1〜3の整数を表す。)で表されるイミド化合物であることが好ましい。
【0057】

置換基R3〜R6において、アルキル基には前述のアルキル基と同様のアルキル基のうち特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、アルコキシ基には前術と同様のアルコキシ基のうち特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基が含まれ、アルコキシカルボニル基には前術と同様のアルコキシカルボニル基のうち特にアルコキシ部分の炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。
【0058】
また、アシル基としては、前述と同様のアシル基のうち特に炭素数1〜6程度のアシル基が例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示される。なお、置換基R3〜R6は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
【0059】
さらに、より好ましいイミド化合物の形態としては、化合物の入手性、合成の容易性、コストの観点から、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド及びN,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミドからなる群から選択される少なくとも一種のイミド化合物であることが好ましく、この化合物を触媒として電解質膜中に共存させて用いることができる。なお、これらのイミド化合物は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンNHOHとを反応させて酸無水物基を開環した後、閉環してイミド化することにより調製することができる。
【0060】
一般式(II)で示される抗酸化剤が、6員環のN−置換環状イミド骨格を有する次の一般式(V)
【化5】

【0061】
(式中、R7〜R12は同一又は異なり、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を表し、R7〜R12のうち少なくとも二つが互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、この環のうち少なくとも一つがN−置換環状イミド基を有していても良い。)で表される化合物でもよい。N−置換環状イミド骨格において、式(B13)及び式(B14)に示すように5員環及び6員環共に加水分解するが、5員環よりも6員環の方が加水分解が遅く、耐加水分解性が高い。
【化6】

【化7】

【0062】
このため、N−置換環状イミド骨格を有する化合物が6員環の環状イミドの場合には、酸化還元触媒として何度も使用可能であるため、さらに触媒使用量を減らすことが可能となる。
【0063】
なお、アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基などの炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基があげられる。好ましくは炭素数1〜6程度、より好ましくは炭素数1〜4程度の低級アルキル基があげられる。
【0064】
また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などがあげられ、シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などがあげられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜10程度、好ましくは炭素数1〜6程度、より好ましくは炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基があげられる。
【0065】
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部分の炭素数が1〜10程度のアルコキシカルボニル基があげられる。好ましくはアルコキシ部分の炭素数が1〜6程度、より好ましくは炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基があげられる。
【0066】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル基などの炭素数1〜6程度のアシル基があげられる。
【0067】
また、上記一般式(V)で示される化合物において、R7〜R12のうち少なくとも二つが互いに結合して二重結合又は芳香環若しくは非芳香族性の環を形成していてもよい。そのうち、芳香環又は非芳香族性の環は、5〜12員環のうちいずれか一種類の環を形成していることが好ましく、より好ましくは6〜10員環程度であり、この環は複素環又は縮合複素環であってもよい。このような環としては、例えば、シクロヘキサン環に代表されるシクロアルカン環、シクロヘキセン環などのシクロアルケン環などの非芳香族性炭化水素環、5−ノルボルネン環に代表される橋かけ式炭化水素環など非芳香族性橋かけ環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環が含まれる。なお、これらの環は、置換基を有していても良い。
【0068】
抗酸化剤が、特に化合物の安定性、耐久性などの観点から、次の式(VIa)又は(VIb)
【化8】

【0069】
(式中、R13〜R18は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0070】
一般式(V)、(VIa)、又は(VIb)で示される化合物が、N−ヒドロキシグルタル酸イミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N’−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸イミド、N,N’−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸イミド及びN,N’,N’’−トリヒドロキシイソシアヌル酸からなる群から選択される少なくとも一種のイミド化合物であることが好ましい。5員環、6員環にかかわらず、上記イミド化合物は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミン(NHOH)とを反応させて酸無水物基を開環した後、閉環してイミド化することにより調製することができる。
【0071】
抗酸化剤が、次の一般式(VII)
【化9】

【0072】
(式中、R19〜R21はアルキル基、又は一部が任意の基で置換されたアルキル基であり、R19〜R21は鎖状、環状、又は分岐状でもよく、R19〜R21が互いに結合して環を形成していてもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物である化合物であっても良い。一般式(VII)で示される化合物を連続的に供給することにより、連続的に発生する活性酸素を分解し、電解質膜の酸化を抑制する。この一般式(VII)で表される化合物において、置換基R20及びR21として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基などの炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基があげられる。好ましくは炭素数1〜6程度、より好ましくは炭素数1〜4程度の低級アルキル基があげられる。
【0073】
抗酸化剤が、次の一般式(VIII)
【化10】

【0074】
(式中、R19〜R24はアルキル基、又は一部が任意の基で置換されたアルキル基であり、R19〜R24は鎖状、環状、又は分岐状であってもよく、R20とR21、又はR23とR24とが互いに結合して環を形成していてもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることが好ましい。この一般式(VIII)で表される化合物において、置換基R19〜R24として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基などの炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基があげられる。好ましくは炭素数1〜6程度、より好ましくは炭素数1〜4程度の低級アルキル基があげられる。
【0075】
抗酸化剤が、次の一般式(IX)
【化11】

【0076】
(式中、環Y2は、R19とR22とが結合して5員環又は6員環のいずれかの環を形成している。)で表される化合物であることが好ましい。このような環としては、例えば、例えばシクロヘキサン環に代表されるシクロアルカン環、シクロヘキセン環に代表されるシクロアルケン環などの非芳香族性炭化水素環、5−ノルボルネン環に代表される橋かけ式炭化水素環など非芳香族性橋かけ環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環が含まれる。なお、これらの環は、置換基を有していても良い。
【0077】
一般式(IX)で示される化合物が、下記の一般式(X)
【化12】

【0078】
(式中、Zはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基及び水素原子を含む置換基からなる群から選択される一種の置換基を示す。Zがアルキル基の場合には、一部が任意の基で置換されたアルキル基であってもよく、一部の基が鎖状、環状、または分岐状であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。Zがアリール基の場合には、一部が任意の基で置換されたアリール基であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることが好ましい。一般式(X)で表される化合物は加水分解しにくいため、この化合物を連続的に供給することにより、連続的に発生する活性酸素を分解し、電解質膜の酸化を抑制することが可能となる。
【0079】
置換基Zにおいて、アルキル基には前述のアルキル基と同様のアルキル基のうち特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、アリール基としてはフェニル基、ナルチル基があげられる。アルコキシ基としては、前述のアルキル基と同様のアルコキシ基のうち特に炭素数1〜6程度のアルコキシ基が含まれ、カルボキシル基としては、例えば、炭素数1〜4程度のカルボキシル基があげられる。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部分の炭素数が1〜10程度のアルコキシカルボニル基があげられる。好ましくはアルコキシ部分の炭素数が1〜6程度、より好ましくは炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基があげられる。
【0080】
この一般式(X)で示される化合物の一例として、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)があげられる。TEMPO及び一般式(X)で示される化合物の例を図6に示す。図6(i)に示すTEMPOは、可逆的な酸化還元サイクルを有するN−ヒドロキシイミド誘導体であり、最終的には酸素を水まで還元する。
【0081】
一般式(IX)で示される化合物が、次の一般式(XI)
【化13】

【0082】
(式中、Zはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基及び水素原子を含む置換基からなる群から選択される一種の置換基を示す。Zがアルキル基の場合には、一部が任意の基で置換されたアルキル基であってもよく、一部の基が鎖状、環状、または分岐状であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。Zがアリール基の場合には、一部が任意の基で置換されたアリール基であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であってもよく、一般式(IX)で示される化合物が、次の一般式(XII)
【化14】

【0083】
(式中、Zはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基及び水素原子を含む置換基からなる群から選択される一種の置換基を示す。Zがアルキル基の場合には、一部が任意の基で置換されたアルキル基であってもよく、一部の基が鎖状、環状、または分岐状であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。Zがアリール基の場合には、一部が任意の基で置換されたアリール基であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であってもよい。これらの化合物も一般式(X)で示される化合物と同様に加水分解しにくいため、この化合物を連続的に供給することにより、連続的に発生する活性酸素を分解し、電解質膜の酸化を抑制することが可能となる。抗酸化剤が一般式(XI)又は一般式(XII)で示される場合、各置換基は上記一般式(X)で示される化合物の置換基と同様のものが使用可能である。
【0084】
一般式(XI)及び一般式(XII)で示される化合物の例を図7〜図9に示す。一般式(XI)及び一般式(XII)で示される化合物の一例として、PROXYL(2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル)や、DOXYL(4, 4-ジメチルオキサゾリジン-3-オキシル)があげられる。これらの化合物もTEMPO同様に可逆的な酸化還元サイクルを有し、酸素を水へ還元する。
【0085】
図10に、本実施の形態における燃料電池システムで使用する抗酸化剤の別の例における酸化還元のメカニズムを示す。ここでは、上記抗酸化剤としてTEMPO30の酸化還元サイクルを示し、TEMPO30により過酸化水素及びヒドロキシラジカルの分解のメカニズムを示す。
【0086】
過酸化水素は(B9)及び式(B15)に示すように、過酸化水素よりも酸化還元電位の高い物質に対しては還元剤として働く一方、過酸化水素よりも酸化還元電位の低い物質に対しては酸化剤として働くことが知られている。
【0087】
→O+2H+2e=0.68[V] ・・・式(B15)
TEMPO30は、可逆的な酸化還元サイクルを有するN−ヒドロキシイミド誘導体であり、式(B16)、(B17)に示す素反応により酸化還元し、その酸化還元電位は0.81[V]である。
【0088】
TEMPO+e→TEMPO E=0.81[V] ・・・式(B16)
TEMPO→TEMPO+e=0.81[V] ・・・式(B17)
TEMPO30の酸化還元電位は過酸化水素の酸化還元電位より高く、ヒドロキシラジカルの酸化還元電位より低い。このため、還元体であるTEMPOのN−オキシルラジカル体(TEMPO30)は、ヒドロキシラジカルに対して還元剤として作用して電解質膜内で発生したヒドロキシラジカルに電子(e)を供給してOHへ還元する。
【0089】
TEMPO+・OH→TEMPO+OH ・・・式(B18)
一方、酸化体であるTEMPO31は過酸化水素に対して酸化剤として作用して過酸化水素に対して酸化剤として作用して水素を引き抜き、過酸化水素を酸素へと酸化してTEMPO51は還元体(TEMPO30)の形に回復する。この反応は、式(B19)に示すように直接TEMPO30に回復する経路と、式(B20)及び式(B21)に示すようにTEMPO−H32を経由してTEMPO30に回復する二つの反応経路があると考えられる。
【0090】
2TEMPO+H→2TEMPO+2H+O ・・・式(B19)
TEMPO+H→TEMPO−H+H+O・・・式(B20)
TEMPO−H+・OH→TEMPO+H ・・・式(B21)
TEMPO31は還元体、すなわちTEMPO30に回復した後、再びヒドロキシラジカルを還元する。このようにして、TEMPO30が還元体と酸化体との間で酸化還元サイクルがまわると同時に、ヒドロキシラジカルや過酸化酸素を不活性化し、電解質の酸化を防止する。
【0091】
TEMPO30を燃料電池の燃料極から供給すると、TEMPO30の一部は燃料極触媒上で式(B17)に示す電解酸化が起こり、酸化体であるTEMPO31となって電解質内に拡散する可能性がある。この場合には、TEMPO31は過酸化水素を還元剤としてTEMPO30又はTEMPO−H32の形となり、再びヒドロキシラジカルを還元できる酸化剤としての機能を有することになる。
【0092】
このように、抗酸化剤としてTEMPOを使用した場合においても、TEMPO30、TEMPO31とTEMPO−H32との間で酸化還元サイクルが回ることにより抗酸化剤として何度でも使用することができるため、活性酸素を長期に渡り分解することができ、耐久性能が維持された燃料電池システムを実現することが可能となる。さらには、酸化還元サイクルが回ることにより、ヒドロキシラジカルを還元した後に抗酸化剤が新たな副反応を引き起こす開始剤となることがない。このように、本実施の形態に係る燃料電池システムでは、確実に活性酸素を分解して消去することができる。
【0093】
なお、本実施の形態に係る燃料電池システムでは、メタノールを燃料とした場合を説明したが、燃料種メタノールに限定されることはなく、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、蟻酸、ジメチルエーテル、シクロヘキサン等の液体炭化水素の他、固体の炭化水素を溶解したアスコルビン酸水溶液等、燃料極で酸化し、水素イオンを放出することが可能な燃料であれば適用可能である。
【0094】
また、本実施の形態に係る燃料電池システムは、その用途として燃料電池車輌に搭載することが可能である。この燃料電池車輌では、本実施の形態に係る燃料電池システムを搭載することにより長時間連続運転に耐える。
【0095】
この燃料電池システムの用途としては、燃料電池車輌に限定されることは無く、燃料電池コージェネレーション発電システム、燃料電池家電機器、燃料電池携帯機器、定置型燃料電池、燃料電池輸送用機器に適用することが可能である。これらに適用した場合にも、長時間連続運転に耐えうる燃料電池コージェネレーション発電システム等が提供される。
【実施例】
【0096】
以下、実施例1〜実施例12、比較例1及び比較例2により本発明の実施の形態に係る燃料及び燃料電池システムを更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。これらの実施例は、本発明の実施の形態に係る燃料及び燃料電池システムの有効性を調べたものであり、異なる抗酸化剤を用いた燃料及び燃料電池システムの例を示したものである。
【0097】
<試料の調製>
実施例1
固体高分子電解質膜としてデュポン社のナフィオン(登録商標)117膜(厚さ175[μm])を1[cm]角に切り出して用いた。ナフィオン(登録商標)膜の前処理は、NEDO PEFC R&Dプロジェクト標準処理に従い、3[%]過酸化水素水中で1[時間]煮沸した後、蒸留水中1[時間]煮沸し、続いて、1[M]硫酸水溶液中で1[時間]煮沸し、最後に蒸留水中で1[時間]煮沸の順に行った。
【0098】
次に、耐久試験において劣化防止判断を容易にするため、前処理した後にナフィオン(登録商標)膜にイオン交換処理を施した。イオン交換処理は、前処理を施したナフィオン(登録商標)膜を100[mM]のFeSO水溶液に一晩以上浸漬した後、蒸留水中で15[分間]超音波洗浄を用い、膜に付着したイオンを取り除くことにより、ナフィオン(登録商標)の対イオンをHからFe2+に交換した。なお、試薬は、和光純薬特級FeSO・7HOを用いた。
【0099】
次に、イオン交換処理電解質膜の燃料極側に白金−ルテニウム担持カーボン(Johnson Matthey社製Pt-Ru担持カーボン触媒(型番:HiSPEC7000))、空気極側に白金担持カーボン(Cabot 社製 20wt%Pt/Vulcan XC-72)を塗布して膜−電極接合体(MEA)を作製した。触媒の塗布量は、白金量で1.0[g/cm]となるように調製した。作製したMEAを単セルの中に組み込み、PEFC用単セルとした。なお、単セルは5[cm]単セルとした。
【0100】
燃料は、50[ppm]のN−ヒドロキシフタル酸イミド(NHPI)をメタノール10[重量%]の水溶液に溶解したものを用いた。また、セル温度は70[℃]に保った。
【0101】
実施例2
抗酸化剤として、NHPI水溶液の代わりにN−ヒドロキシマレイン酸イミド(NHMI)を用い、実施例1と同様の処理を施したものを実施例2とした。
【0102】
実施例3
抗酸化剤として、NHPI水溶液の代わりにN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHSI)を用い、実施例1と同様の処理を施したものを実施例3とした。
【0103】
実施例4
抗酸化剤として、NHPI水溶液の代わりにN−ヒドロキシグルタル酸イミド(NHGI)を用い、実施例1と同様の処理を施したものを実施例4とした。
【0104】
実施例5
抗酸化剤として、NHPI水溶液の代わりにN,N’,N’’−トリヒドロキシイソシアヌル酸(THICA)を用い、実施例1と同様の処理を施したものを実施例5とした。
【0105】
比較例1
実施例1において、抗酸化剤を使用しない場合を比較例1とした。
【0106】
実施例6〜実施例12では、固体高分子電解質膜としてスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)膜を用いた。S−PES膜については、新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成14年度成果報告書「固体高分子形燃料電池システム技術開発事業 固体高分子形燃料電池要素技術開発等事業 固体高分子形燃料電池用高耐久性炭化水素系電解質膜の研究開発」P31に記載されている相当品を入手し、これを用いた。
【0107】
実施例6
S−PES膜(厚さ170[μm])を1[cm]角に切り出し、電解質膜の燃料極側に白金−ルテニウム担持カーボン(Johnson Matthey 社製Pt-Ru担持カーボン触媒(型番:HiSPEC7000))、空気極側に白金担持カーボン(Cabot 社製 20wt%Pt/Vulcan XC-72)を塗布して膜−電極接合体(MEA)を作製した。触媒の塗布量は、白金量で1.0[g/cm]となるように調製した。作製したMEAを単セルの中に組み込み、PEFC用単セルとした。なお、単セルは5[cm]単セルとした。
【0108】
燃料は、50[ppm]のTEMPO−OHをメタノール10[重量%]の水溶液に溶解したものを用いた。また、セル温度は70[℃]に保った。
【0109】
実施例7
抗酸化剤として、TEMPO−OH水溶液の代わりにTEMPO−COOH(Aldrich社)を用い、実施例6と同様の処理を施したものを実施例7とした。
【0110】
実施例8
抗酸化剤として、TEMPO−OH水溶液の代わりにTEMPO(Aldrich社)を用い、実施例6と同様の処理を施したものを実施例8とした。
【0111】
実施例9
抗酸化剤として、TEMPO−OH水溶液の代わりにPROXYL−CONH(Aldrich社)を用い、実施例6と同様の処理を施したものを実施例9とした。
【0112】
実施例10
抗酸化剤として、TEMPO−OH水溶液の代わりにPROXYL−COOH(Aldrich社)を用い、実施例6と同様の処理を施したものを実施例10とした。
【0113】
実施例11
抗酸化剤として、TEMPO−OH水溶液の代わりに3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−イルオキシ(Aldrich社)を用い、実施例6と同様の処理を施したものを実施例11とした。
【0114】
実施例12
抗酸化剤として、TEMPO−OH水溶液の代わりにジ−t−ブチルニトロキシド(DTBN:Aldrich社)を用い、実施例6と同様の処理を施したものを実施例12とした。
【0115】
比較例2
実施例6において、燃料に抗酸化剤を使用しない場合を比較例2とした。
【0116】
ここで、上記方法にて得られた試料は、以下に示す方法によって評価した。
【0117】
<酸化還元電位の測定>
実施例に用いる化合物の酸化還元電位は、作用極にグラッシーカーボン、対極に白金、参照極に飽和カロメル電極(SCE)を用い、電解液に1[M]硫酸を用いて測定した。イミド系の代表的化合物であるNHPIとTEMPO系の代表的な化合物であるTEMPOの測定例を図11、図12にそれぞれ示す。酸化還元電位E(SCE)と標準電位Eとの関係は、式(C1)に示す通りである。
【0118】
(NHE)=E(SCE)+ 0.24[V] ・・・式(C1)
図11に示すように、NHPIの酸化還元電位は1.10[V]付近に存在し、図12よりTEMPOの酸化還元電位は0.57[V]付近に存在する。この電位により、NHPI及びTEMPOは、ヒドロキシラジカルに対して還元剤として機能する化合物であり、かつ、過酸化水素に対して酸化剤として機能する化合物であることが示され、本目的に適した化合物であることが分かる。
【0119】
<起動停止繰り返し耐久試験>
燃料極側を開回路状態で30[分]保持した後、試験を開始した。試験は、単セルに各実施例の燃料を0.1[ml/min]の速度で供給し、放電開回路状態から電流密度を増加させ、端子電圧が0.15[V]以下になるまで放電を行った。そして、端子電圧が0.15[V]以下になった後、再び開回路状態として5[分]間保持した。この操作を繰り返し行い、0.3[mA/cm]の電流密度で発電したときの電圧が0.1[V]以下になった回数をもって耐久性能を比較した。図13に、一例として実施例1で作製した燃料電池単セルの起動停止繰り返し耐久試験の電流−電圧曲線の初期値と、耐久後の電流−電圧曲線のグラフを示す。このグラフにおいて、0.3[mA/cm]の電流密度で発電したときの電圧が0.1[V]以下になった回数が起動停止繰り返し回数である。
【0120】
<空気極で発生する物質の解析>
膜の劣化解析は、ナフィオン(登録商標)膜では膜の分解に伴い発生するフッ化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を、S−PES膜では分解に伴い発生する硫酸イオン濃度を測定することにより行なった。溶出イオンの検出は、空気極より排出された液体を回収しイオンクロマトグラフで測定した。イオンクロマトグラフは、ダイオネック社製(機種名 CX−120)を用いた。具体的な試験方法としては、各実施例、比較例共に、上記起動停止試験において、100回終了時に空気極から排出された液体を採取し比較した。
【0121】
表1に実施例1〜実施例5及び比較例1を、表2に実施例6〜実施例12及び比較例2における電解質膜の種類、使用した抗酸化剤、抗酸化剤の酸化還元電位、起動停止繰り返し回数、空気極におけるフッ化物イオン及び硫酸イオンの発生の有無を示す。
【表1】

【表2】

【0122】
実施例1〜実施例12に用いた化合物の酸化還元電位は、過酸化水素が還元剤となる電位0.68[V](NHE)、かつ過酸化水素が酸化剤として働く電位1.77[V](NHE)の範囲であり、本目的に適した化合物であることが分かった。
【0123】
起動停止繰り返し耐久試験の結果、抗酸化剤を供給していない比較例1では、起動停止繰り返し回数が80回で電圧が0.1[V]以下に低下した。これに対し、抗酸化剤を供給した実施例1〜実施例5では起動停止繰り返し回数220〜350回であり、抗酸化剤を添加したことにより固体高分子電解質膜の劣化が抑制され、耐久性が向上していることが確認された。炭化水素系電解質膜を用いた比較例2は、起動停止繰り返し回数が50回で電圧が0.1[V]以下に低下した。実施例6〜実施例12では、起動停止繰り返し回数130〜180回に向上であり抗酸化剤を添加したことにより固体高分子電解質膜の劣化が抑制され、耐久性が向上していることが確認された。
【0124】
また、イオンクロマトグラフでの分析結果より、比較例1ではフッ化物イオン及び硫酸イオンが検出され、比較例2では硫酸イオンが検出され電解質膜が分解により劣化したことが確認された。これに対し、実施例1〜実施例5で発生したフッ化物イオン及び硫酸イオンは検出限界以下であり、抗酸化剤を導入したことによりナフィオン(登録商標)膜の分解が抑制されたことが確認された。また、実施例6〜実施例12で発生した硫酸イオンは検出限界以下であり、抗酸化剤を導入したことによりS−PES膜の分解が抑制されたことが確認された。
【0125】
以上示したように、現在最も広く使われている電解質膜であるナフィオン(登録商標)膜に代表されるパーフルオロスルホン酸系ポリマー及びS−PESに示されるハイドロカーボン系ポリマーは、燃料電池の空気極で発生する活性酸素により十分な耐性があるとは言えない状況であったが、上記化合物を抗酸化剤として供給することにより、連続的に発生する活性酸素を不活性化して電解質膜の劣化を防止することが可能となり、燃料電池システムの耐久性能が向上した。
【0126】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明に係る燃料電池システムの実施の形態を説明する概略的な説明図である。
【図2】燃料電池スタックの要部展開図である。
【図3】単セルを構成する膜電極接合体における物質の移動を説明する説明図である。
【図4】空気極における三相界面を示す模式図である。
【図5】NHPIにより活性酸素を消失するメカニズムを表す説明図である。
【図6】抗酸化剤の一例を示す模式図である。
【図7】抗酸化剤の一例を示す模式図である。
【図8】抗酸化剤の一例を示す模式図である。
【図9】抗酸化剤の一例を示す模式図である。
【図10】TEMPOにより活性酸素を消失するメカニズムを表す説明図である。
【図11】NHPIの電極反応におけるサイクリックボルタモグラムである。
【図12】TEMPOの電極反応におけるサイクリックボルタモグラムである。
【図13】起動停止繰り返し耐久試験の結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0128】
1 直接型燃料電池
2 単セル
3 膜電極接合体
4 固体高分子電解質膜
5 空気極
6 燃料極
7 空気極側セパレータ
8 空気流路
9 燃料極側セパレータ
10 液体燃料流路
11 燃料供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接型燃料電池に供給する燃料において、前記燃料は炭化水素と抗酸化剤とからなることを特徴とする燃料。
【請求項2】
前記抗酸化剤は、可逆的に酸化還元する有機メディエータであることを特徴とする請求項1に記載の燃料。
【請求項3】
前記抗酸化剤は、炭素、酸素、窒素及び水素の4元素から構成される炭化水素系化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料。
【請求項4】
前記抗酸化剤は可逆的な酸化還元能を有し、前記抗酸化剤の酸化体は化学的に安定であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項5】
前記抗酸化剤の酸化体を加水分解した加水分解物が化学的に安定であることを特徴とする請求項4に記載の燃料。
【請求項6】
前記抗酸化剤は、標準酸化還元電位が0.68[V](NHE)より大きくかつ2.85[V](NHE)より小さい範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項7】
前記抗酸化剤は、前記燃料に対する濃度が10−4〜10[%]であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項8】
前記抗酸化剤は、前記燃料に対する濃度が10−3〜1[%]であることを特徴とする請求項7に記載の燃料。
【請求項9】
前記抗酸化剤は、次の一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2は同一又は異なる任意の置換基を、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項10】
前記R1及びR2は互いに結合して二重結合、芳香環、又は非芳香族性の環を形成していること特徴とする請求項9に記載の燃料。
【請求項11】
前記化合物は、次の一般式(II)
【化2】

(式中、環Y1は、二重結合を有する、芳香族性又は非芳香族性の5〜12員環のうちいずれか一種類の環を表す。)で表されるイミド化合物であることを特徴とする請求項10に記載の燃料。
【請求項12】
前記一般式(II)で表される化合物は、次の一般式(III)
【化3】

(式中、R3及びR4は同一又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基又はアシル基を、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を、nは1〜3の整数を表す。)で表されるイミド化合物であることを特徴とする請求項11に記載の燃料。
【請求項13】
前記R3及びR4は互いに結合して二重結合、芳香環、又は非芳香族性の環を形成していること特徴とする請求項12に記載の燃料。
【請求項14】
前記R3及びR4が互いに結合して芳香族性又は非芳香族性の5〜12員環のうちいずれかの環を形成していることを特徴とする請求項13に記載の燃料。
【請求項15】
前記R3及びR4が互いに結合して、シクロアルカン、シクロアルケン、橋かけ式炭化水素環、芳香環、及びそれらの置換体から選択されるいずれかの環を形成していることを特徴とする請求項14に記載の燃料。
【請求項16】
前記一般式(III)で表される化合物が、次の一般式(IVa)〜(IVf)
【化4】

(式中、R3〜R6は同一又は異なって、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表し、nは1〜3の整数を表す。)で表されるイミド化合物であることを特徴とする請求項12乃至請求項15のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項17】
前記イミド化合物が、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタルイミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド及びN,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミドからなる群から選択されるイミド化合物であることを特徴とする請求項16に記載の燃料。
【請求項18】
前記一般式(II)で表される化合物が、次の一般式(V)
【化5】

(式中、R7〜R12は同一又は異なり、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を表し、R7〜R12のうち少なくとも二つが互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、この環のうち少なくとも一つがN−置換環状イミド基を有していても良い。)で表される化合物であることを特徴とする請求項11に記載の燃料。
【請求項19】
前記一般式(V)で表される化合物が、次の式(VIa)又は(VIb)
【化6】

(式中、R13〜R18は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基又はアミノ基を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項18に記載の燃料。
【請求項20】
前記一般式(V)、(VIa)、又は(VIb)で表される化合物が、N−ヒドロキシグルタル酸イミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N’−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸イミド、N,N’−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸イミド及びN,N’,N’’−トリヒドロキシイソシアヌル酸からなる群から選択されるイミド化合物であることを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の燃料。
【請求項21】
前記化合物は、標準酸化還元電位が0.68[V](NHE)より大きくかつ1.00[V](NHE)より小さいことを特徴とする請求項9に記載の燃料。
【請求項22】
前記一般式(I)で表される化合物が、次の一般式(VII)
【化7】

(式中、R19〜R21はアルキル基、又は一部が任意の基で置換されたアルキル基であり、R19〜R21は鎖状、環状、又は分岐状でもよく、R19〜R21が互いに結合して環を形成していてもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることを特徴とする請求項21に記載の燃料。
【請求項23】
前記一般式(VII)で表される化合物が、次の一般式(VIII)
【化8】

(式中、R19〜R24はアルキル基、又は一部が任意の基で置換されたアルキル基であり、R19〜R24は鎖状、環状、又は分岐状であってもよく、R20とR21、又はR23とR24とが互いに結合して環を形成していてもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることを特徴とする請求項22に記載の燃料。
【請求項24】
前記一般式(VIII)で表される化合物が、次の一般式(IX)
【化9】

(式中、環Y2は、R19とR22とが結合して5員環又は6員環のいずれかの環を形成している。)で表される化合物であることを特徴とする請求項23に記載の燃料。
【請求項25】
前記一般式(IX)で表される化合物が、次の一般式(X)
【化10】

(式中、Zはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基及び水素原子を含む置換基からなる群から選択される置換基を表す。Zがアルキル基の場合には、一部が任意の基で置換されたアルキル基であってもよく、一部の基が鎖状、環状、または分岐状であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。Zがアリール基の場合には、一部が任意の基で置換されたアリール基であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることを特徴とする請求項24に記載の燃料。
【請求項26】
前記一般式(IX)で表される化合物が、次の一般式(XI)
【化11】

(式中、Zはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基及び水素原子を含む置換基からなる群から選択される一種の置換基を表す。Zがアルキル基の場合には、一部が任意の基で置換されたアルキル基であってもよく、一部の基が鎖状、環状、または分岐状であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。Zがアリール基の場合には、一部が任意の基で置換されたアリール基であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることを特徴とする請求項24に記載の燃料。
【請求項27】
前記一般式(IX)で表される化合物が、次の一般式(XII)
【化12】

(式中、Zはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基及び水素原子を含む置換基からなる群から選択される一種の置換基を表す。Zがアルキル基の場合には、一部が任意の基で置換されたアルキル基であってもよく、一部の基が鎖状、環状、または分岐状であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。Zがアリール基の場合には、一部が任意の基で置換されたアリール基であってもよく、酸素及び窒素原子含んでもかまわない。)で表される化合物であることを特徴とする請求項24に記載の燃料。
【請求項28】
請求項1乃至請求項27のいずれかに係る燃料を備えることを特徴とする直接型燃料電池システム。
【請求項29】
前記抗酸化剤又は前記抗酸化剤の酸化体を、空気極が含有する触媒により酸化してCO、HO又はNに変える排出手段を有することを特徴とする請求項28に記載の直接型燃料電池システム。
【請求項30】
請求項28又は29に係る直接型燃料電池システムを備えることを特徴とする燃料電池車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−165197(P2007−165197A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362185(P2005−362185)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】