説明

燃料の脱硫方法

【課題】温和な条件下でも高い脱硫効果(脱硫率)を得ることができる燃料の脱硫方法を提供すること、及びFCCガソリンの脱硫を、温和な条件下でも高い脱硫効果を得ることができるとともに、脱硫して得られた脱硫FCCガソリンのオクタン価の低下を抑制することができる脱硫方法を提供すること。
【解決手段】硫黄化合物を含有する燃料を原料とし、該原料を、脱硫温度が100℃以下、かつ、水素流量〔(水素)/(原料)〕が、0.001L/cc以上の条件下で、ニッケル、或いはニッケルと、マンガン、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ビスマス、アルミニウム、セリウム、及びランタンの中から選ばれる一種又は二種以上の金属とを含むニッケル含有脱硫剤と接触させることを特徴とする燃料の脱硫方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物を含有する燃料から硫黄化合物を効率よく除去する脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する意識がますます高まってきており、硫黄化合物を含有する燃料、例えば、天然ガス、都市ガス等のガス体燃料、LPG、ガソリンやガソリン基材、灯油、軽油、軽油基材等の石油系燃料やアルコールやエーテル等の含酸素燃料等に含まれる硫黄化合物の更なる低減が求められている。
従来、これら石油系燃料等に含まれる硫黄化合物を除去する方法としては、種々のものが知られている。例えば、
(1)LPGやガソリンについて、悪臭原因となるメルカプタンや硫化水素などを除去するスイートニング法が行われており、酸化法、抽出法、抽出酸化法、吸着法などが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
しかし、この方法は脱硫効果が不充分であり、灯油や軽油などを脱硫する場合特に問題である。また、この方法は苛性ソーダなどの有害な薬品を使用する必要もある。
(2)ナフサ〜軽油留分に対して、アルミナなどの多孔質担体に、コバルト、ニッケルなどのVIII族遷移金属及びモリブデン、バナジウムなどを担持した触媒の存在下で水素化脱硫する方法が行われている。しかし、この脱硫方法は、通常、高温、例えば、300〜400℃、常圧〜5MPaという過酷な条件で実施する必要がある。そのため、多大なエネルギーを消費し、脱硫装置も高価であり、水素等の用役を多く使用するという欠点があった。
また、接触分解ガソリン(FCCガソリン)に対しては、上記と同様に、過酷な条件で水素化脱硫法が行われるため、多大なエネルギーを消費する等の欠点があると共に、FCCガソリン中に含まれるオクタン価の高いオレフィンや芳香族も同時に水素化されてしまい、結果として、脱硫FCCガソリンのオクタン価が大きく低下するという問題もあった(例えば、特許文献1段落〔0003〕参照)。
【0003】
このようなことから、温和な条件、すなわち常温、常圧又は、それに近い温度、圧力下で、効果的に脱硫が行える脱硫方法が模索されている。
例えば、特許文献2は、イオウ含有炭化水素液体をスポンジニッケル金属合金から構成される充填床触媒組成物と20℃〜150℃の温度および大気圧〜1MPaの圧力で接触させて、イオウ含量が低減した炭化水素液体を生成させる方法を開示している(請求項1〜3)。しかもその具体例(実施例)において、温度25℃においてもイオウを低減する方法が記載されている。
しかし、この脱硫方法は、脱硫過程で水素を用いていない。このような脱硫方法は、その脱硫効果は不充分であって、さらに改良の余地があることを、本発明の発明者は確認している。
したがって、脱硫条件が温和で、かつ脱硫効果(脱硫率)が高い脱硫方法の出現が期待されている。
また、FCCガソリンなどのガソリン基材の脱硫については、脱硫条件が温和で、脱硫効果が高いとともに、脱硫によるオクタン価の低下を抑制することができる脱硫方法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「新石油精製プロセス」、発行所:幸書房、編者:石油学会、発行日:昭和59年12月、442−450頁
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−291146号公報
【特許文献2】特表2005−509043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記観点からなされたもので、温和な条件下でも高い脱硫効果(脱硫率)を得ることができる燃料の脱硫方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、FCCガソリンの脱硫を、温和な条件下でも高い脱硫効果を得ることができるとともに、脱硫して得られたFCCガソリンのオクタン価の低下を抑制することができる脱硫方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、硫黄化合物を含む燃料を常温もしくはその近傍の低い温度下でも、特定の低濃度の水素の存在下で、ニッケル含有脱硫剤と接触させることにより、高い脱硫効果が得られること、及びFCCガソリンを脱硫する場合、常温もしくはその近傍の低い温度下等前記条件下で、前記ニッケル含有脱硫剤と接触させることにより、高い脱硫効果を得ることができるとともに、脱硫して得られたFCCガソリンのオクタン価の低下を抑制することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕硫黄化合物を含有する燃料を原料とし、該原料を、脱硫温度100℃以下、かつ、水素流量〔(水素)/(原料)〕が、0.001L/cc以上の条件下で、ニッケル、或いはニッケルと、マンガン、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ビスマス、アルミニウム、セリウム、及びランタンの中から選ばれる一種又は二種以上の金属とを含むニッケル含有脱硫剤と接触させることを特徴とする有機化合物の脱硫方法、
〔2〕前記ニッケル含有脱硫剤のニッケルの含有量が酸化ニッケル(NiO)の換算量として、50質量%以上である上記〔1〕に記載の脱硫方法、
〔3〕前記ニッケル含有脱硫剤がスポンジニッケル合金である上記〔1〕又は〔2〕に記載の脱硫方法、
〔4〕脱硫温度が−20〜50℃である上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の脱硫方法、
〔5〕脱硫圧力が1.5MPa以下である上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の脱硫方法、
〔6〕硫黄化合物を含有する燃料が、炭化水素系燃料もしくは含酸素系燃料であるの上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の脱硫方法、
〔7〕炭化水素系燃料及び含酸素系燃料が、灯油、軽油、ジェット燃料、ナフサ、ガソリン、分解ガソリン、バイオフューエル、LNG、LPG、天然ガス、都市ガス、ジメチルエーテル、メタノール、及びエタノールから選ばれる一種又は二種以上の混合物である上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の脱硫方法、
〔8〕硫黄化合物を含有する燃料が、リサーチオクタン価がRの接触分解ガソリンであり、脱硫した接触分解ガソリンのリサーチオクタン価が、R−3以上である上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の脱硫方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温和な条件下でも高い脱硫効果が得られる燃料の脱硫方法を提供することができる。
また、本発明によれば、FCCガソリンの脱硫を、温和な条件下で実施しても高い脱硫効果が得られるとともに、脱硫して得られたFCCガソリンのオクタン価の低下を抑制することができる脱硫方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のガソリンの脱硫実験の結果
【図2】比較例1のガソリンの脱硫実験の結果
【図3】実施例2及び比較例2のガソリンの脱硫実験の結果
【図4】実施例3及び比較例3の灯油の脱硫実験の結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、硫黄化合物を含有する燃料を原料とし、該原料を、温和な脱硫条件下で、ニッケル含有脱硫剤と接触させることを特徴とする燃料の脱硫方法である。
以下、「原料」、「ニッケル含有脱硫剤」、「脱硫条件」等について、説明する。
【0012】
〔原料〕
本発明の原料は、硫黄化合物を含有する燃料である。該燃料としては、特に制限はないが、ガス体燃料、燃料油又は燃料油の基材として用いられる石油留分などの炭化水素系燃料やアルコール、エーテル等の含酸素燃料が含まれる。
具体的には、例えば、灯油、軽油、ジェット燃料、ナフサ、ガソリン、分解ガソリン、バイオフューエル、LNG、LPG、天然ガス、都市ガス、ジメチルエーテル、メタノール、及びエタノールが挙げられる。これらの中でも、1.5MPa以下で液体であるものがより好ましく、特に、LPG、ガソリン、灯油及び軽油が好ましい。
本発明の原料は、これらの中から選ばれる一種を用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
本発明で用いる原料である硫黄化合物を含有する燃料における硫黄化合物の含有量は、硫黄含有量として、500質量ppm以下のものが好ましい。硫黄含有量が500質量ppmを超える場合は、脱硫剤の寿命が短くなり、脱硫剤を頻繁に交換または再生する必要があるため好ましくない。したがって硫黄含有量は200質量ppm以下であるものがより好ましく、50質量ppm以下のものがさらに好ましい。
燃料に含まれる硫黄化合物としては、例えば、硫化水素、硫化カルボニル、メルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類などが挙げられる。
【0014】
〔ニッケル含有脱硫剤〕
本発明では、ニッケル含有脱硫剤を用いる。
本発明で用いるニッケル含有脱硫剤は、ニッケル、或いはニッケルと、マンガン、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ビスマス、アルミニウム、セリウム、及びランタンの中から選ばれる一種又は二種以上の金属とを含むニッケル含有脱硫剤である。
前記ニッケル含有脱硫剤の、ニッケル成分としては、通常酸化ニッケル、これを還元して得られる金属ニッケルが好ましく、ニッケル成分の60質量%以上が金属ニッケルであることが好ましい。金属ニッケルが60質量%以上であると、脱硫剤表面の活性点の数が多く、特に高い脱硫性能が得られる。
また、ニッケルの含有量としては、脱硫剤全量に基づいて、酸化ニッケル(NiO)換算量として、50〜95質量%の範囲であることが好ましい。NiO含有量が50質量%以上であると高い脱硫活性が得られる。また、95質量%以下であると、担体の含有量が確保されることによって、脱硫剤の表面積が十分となり脱硫性能が低下することがない。こうした観点からNiO含有量としては、共沈系脱硫剤においては、さらに60〜85質量%の範囲であることが好ましく、特に65〜80質量%の範囲であることが好ましい。また、スポンジニッケル脱硫剤においては、70〜95質量%の範囲であることが好ましく、特に75〜85質量%の範囲であることが好ましい。
【0015】
ニッケル含有脱硫剤は、上記ニッケル等の金属を多孔質無機酸化物の担体に担持した形態のものを用いることができる。ニッケル等の金属を多孔質無機酸化物の担体に担持した形態のものは、ニッケル等を高分散状態に保持するため、金属のみからなる脱硫剤より、脱硫効果を高めることがある。
前記多孔質無機酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、珪藻土、粘土、酸化亜鉛などが挙げられる。中でも、脱硫効果及び入手性の点で、シリカ担体、アルミナ担体、シリカ−アルミナ担体が好ましい。
これらの多孔質無機酸化物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明で用いる前記ニッケル含有脱硫剤としては、いわゆる、スポンジニッケル合金を用いることができる。
ここで「スポンジニッケル合金」とは、触媒活性を有するニッケルと、ニッケルが溶解しない酸やアルカリで溶解除去される金属(例えば、アルミニウム)との合金であるラネー(登録商標)合金を、前記酸やアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)で、後者の金属を溶解除去して得られる表面がスポンジ状になったニッケルを主体とする触媒をいう。
したがって、スポンジニッケル合金の代表例としては、ニッケルとアルミニウムとの合金を水酸化ナトリウム水溶液でアルミニウムを溶解除去した触媒が挙げられる。
【0017】
上記ニッケル含有脱硫剤の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
例えば、ニッケル等の金属を多孔質無機酸化物の担体に担持したニッケル含有脱硫剤は、上述した金属成分の水溶性化合物と多孔質無機酸化物とを、共沈法などにより接触させ、水などで適宜洗浄後に乾燥して焼成することにより得られる。
【0018】
具体的には、シリカを担体としたニッケル含有脱硫剤の調製は、例えば、以下に示すように調製することができる。
まず、ニッケル源および銅源を含む酸性の水溶液または水分散液と、珪素源および無機塩基を含む塩基性水溶液とを調製する。
酸性の水溶液または水分散液に用いられるニッケル源としては、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、およびこれらの水和物などが挙げられる。
また、銅源としては、例えば、塩化銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅、およびこれらの水和物などが挙げられる。
なお、これらニッケル源や銅源は、それぞれ単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
塩基性水溶液に用いられる珪素源としては、アルカリ水溶液に可溶であって、焼成によりシリカになるものであれば特に制限されない。例えば、オルト珪酸、メタ珪酸、およびこれらのナトリウム塩やカリウム塩、水ガラスなどが挙げられる。そして、珪素源としては、これらを単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、珪酸ナトリウム水和物の一種である水ガラスが好適である。
塩基性水溶液に用いられる無機塩基としては、アルカリ金属の炭酸塩や水酸化物などが好ましい。例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、炭酸ナトリウム単独、または炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの組み合わせが好適である。この無機塩基の使用量は、次工程で酸性の水溶液または水分散液とこの塩基性水溶液とを混合した場合に、混合液が実質上で中性から塩基性になるように設定する。
なお、無機塩基は、全量をこの塩基性水溶液の調製に用いてもよく、またその一部を次工程で上記酸性の水溶液または水分散液と塩基性水溶液との混合液に加えてもよい。
【0020】
上述したように調製した酸性の水溶液または水分散液と塩基性水溶液とを、それぞれ50℃〜90℃程度に加温した後に混合する。そして混合後、必要に応じて、50℃〜90℃に加温された無機塩基を含む水溶液をさらに加えた後、混合液を50℃〜90℃程度の温度に維持しつつ0.5〜3時間程度攪拌して反応を完結させる。
この後、生成した固形物を十分に洗浄した後に固液分離を実施、または生成した固形物を固液分離した後に十分に洗浄し、得られた固形物を80℃〜150℃程度で乾燥する。そして、得られた乾燥固形物を、好ましくは200℃〜400℃の範囲で焼成し、担体上にニッケルおよび銅が担持されたニッケル−銅系脱硫剤を得ることができる。
【0021】
なお、このシリカを担体としたニッケル−銅系脱硫剤では、脱硫性能および脱硫剤の機械的強度などの点から、担持した総金属含有量(酸化物換算)が50質量%〜95質量%で、かつ担体が50質量%〜5質量%の範囲が好ましい。
【0022】
また、スポンジニッケル合金触媒の場合は、ラネー合金を水酸化ナトリウム水溶液で展開し、アルミニウムを溶解除去すればよいことは、前述したとおりである。
【0023】
〔脱硫方法〕
本発明の脱硫方法は、前記ニッケル含有脱硫剤を用いて、前記燃料に含まれる硫黄化合物を除去するものであり、その脱硫方法は以下の条件を満たすことを要する。
脱硫温度については、100℃以下であることを要し、−20〜100℃であることが好ましい。脱硫温度が100℃を超えると、硫黄成分がニッケルと不可逆的に吸着し、再生操作が困難となる。そのため、脱硫温度は低温ほど好ましい。また、脱硫温度が−20℃未満では、高価な冷凍機を導入する必要があり、処理コストが増加する。このようなことから、脱硫温度は、−20〜50℃であることがさらに好ましく、−20〜30℃であることが特に好ましい。したがって、本発明においては、脱硫の目的を達成するために、必ずしも加熱を必要としない。
【0024】
また、脱硫における水素流量は、〔(水素)/(原料)〕比で、0.001L/cc以上であることを要する。水素流量が0.001L/cc未満では、硫黄化合物以外の物質が吸着点を覆うため、脱硫剤寿命の点で不都合である。一方で、水素流量が0.1L/cc以上は水素経済上好ましくない。したがって、水素流量は原料1ccあたり0.001〜0.05L、さらに好ましくは0.001〜0.1Lである。
さらに、本発明における脱硫圧力は、常圧〜1.5MPaが好ましく、脱硫温度で液体状態であれば、必ずしも加圧する必要はない。
液空間速度(LHSV)については1〜30hr-1の範囲であることが好ましい。
なお、脱硫器は固定床、流動床、移動床のいずれでも良い。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0026】
製造例1〔ニッケル系脱硫剤Iの調製〕
硫酸ニッケル・6水和物(特級、和光純薬株式会社製)438.9gおよび硫酸銅・5水和物(特級、和光純薬株式会社製)10.7gを、50℃に加温したイオン交換水4Lに溶解し、調製液Aを得た。
一方、50℃に加温したイオン交換水4Lに炭酸ナトリウム300.0gを溶解し、水ガラス108.4g(JIS−3号、Si濃度29質量%、日本化学工業株式会社製)を加え、調製液Bを別途用意した。
次いで、調製液A、Bの温度をそれぞれ50℃に保持しつつ、内径10mm、長さ10cmのステンレス鋼製の反応管内に導入し、沈殿ケーキを得た。
この後、イオン交換水100Lを用いて沈殿ケーキを洗浄して濾過し、120℃送風乾燥機にて12時間乾燥させた。そして、得られた乾燥物をめのう乳鉢を用いて粉砕し、平均粒径0.8mmとし、350℃で3時間焼成してニッケル含有脱硫剤Iを得た。
得られたニッケル含有脱硫剤Iのニッケル含有量(NiO換算)は78.0質量%、銅含有量(CuO換算)は1.9質量%、珪素含有量(SiO2換算)は20.1質量%であった。
【0027】
実施例1
上記ニッケル含有脱硫剤I、5mLを、メスシリンダで秤量し、SUS製の円筒型反応器(内径9.4mm)に充填した。反応器に大気圧下、100cc/分で水素ガスを供給し、室温から120℃まで昇温し、1時間保持したのち、さらに350℃まで昇温し、15時間保持することで、ニッケル含有脱硫剤Iを反応器内で還元した。
この後、水素供給を継続しつつ、160℃まで降温した。次に、表1に示す性状のガソリンを液空間速度(LHSV)3h-1の供給速度で、0.02L/ccの水素と共に供給し、160℃で1,900時間脱硫反応を行った。その後、反応器の温度を室温まで降温し、さらに350時間脱硫反応を継続した。脱硫時間と脱硫ガソリンの硫黄濃度の関係を図1に示した。また、原料ガソリンのリサーチオクタン価は90.0であったが、2,250時間脱硫反応後の脱硫ガソリンのリサーチオクタン価は88.5であった。
なお、原料および脱硫ガソリンの硫黄分濃度は、紫外蛍光式微量硫黄分析装置(商標“TS−100型”、 株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定した。
【0028】
【表1】

【0029】
比較例1
脱硫開始時の反応器の温度を室温にし、水素の供給を停止したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。
【0030】
実施例2
ニッケル含有脱硫剤Iに替えてニッケル含有脱硫剤II〔川研ファインケミカル製(商品名「TM200」〕を実施例1と同様にSUS製の円筒型反応器(内径9.4mm)に充填し、常圧、室温下、表1記載の原料ガソリンを液空間速度(LHSV)3h-1の供給速度で、0.02L/ccの水素と共に供給した。脱硫時間と脱硫ガソリンの硫黄濃度の関係を図3に示した。
用いたニッケル含有脱硫剤IIは、ニッケル含有量(NiO換算)は92.8質量%、アルミニウム含有量(Al23換算)は7.2質量%であった。また、原料ガソリンのリサーチオクタン価は90.0であったが、80時間の脱硫反応後の脱硫ガソリンのリサーチオクタン価は87.9であった。
【0031】
比較例2
脱硫反応時に水素を供給しなかったこと以外は実施例2と同様に行った。結果を図3に示す。
【0032】
実施例3
表1に示す性状の灯油を供給したこと以外は実施例2と同様の方法で脱硫反応を行った。脱硫時間と脱硫灯油の硫黄濃度の関係を図4に示す。なお、脱硫時間312時間以降はLHSVを1.5h-1とした。
【0033】
比較例3
脱硫反応時に水素を供給しなかったこと以外は実施例3と同様に行った。結果を図4に示す。なお、比較例3では、脱硫時間85時間以降はLHSVを1.5h-1で行った。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、温和な条件下であっても高い脱硫効果が得られる燃料の脱硫方法を提供することができる。
また、本発明によれば、FCCガソリンの脱硫を、温和な条件下であっても高い脱硫効果が得られるとともに、脱硫して得られたFCCガソリンのオクタン価の低下を抑制することができる脱硫方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0035】
11: 実施例1の脱硫時間と硫黄濃度の関係
12: 比較例1の脱硫時間と硫黄濃度の関係
21: 実施例2の脱硫時間と硫黄濃度の関係
22: 比較例2の脱硫時間と硫黄濃度の関係
31: 実施例3の脱硫時間と硫黄濃度の関係
32: 比較例3の脱硫時間と硫黄濃度の関係

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含有する燃料を原料とし、該原料を、脱硫温度100℃以下、かつ、水素流量〔(水素)/(原料)〕が、0.001L/cc以上の条件下で、ニッケル、或いはニッケルと、マンガン、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ビスマス、アルミニウム、セリウム、及びランタンの中から選ばれる一種又は二種以上の金属とを含むニッケル含有脱硫剤と接触させることを特徴とする燃料の脱硫方法。
【請求項2】
前記ニッケル含有脱硫剤のニッケルの含有量が、触媒全量基準で、酸化ニッケル(NiO)の換算量として、50質量%以上である請求項1に記載の脱硫方法。
【請求項3】
前記ニッケル含有脱硫剤がスポンジニッケル合金である請求項1又は2に記載の脱硫方法。
【請求項4】
脱硫温度が−20〜50℃である請求項1〜3のいずれかに記載の脱硫方法。
【請求項5】
脱硫圧力が1.5MPa以下である請求項1〜4のいずれかに記載の脱硫方法。
【請求項6】
硫黄化合物を含有する燃料が、炭化水素系燃料もしくは含酸素系燃料である請求項1〜5のいずれかに記載の脱硫方法。
【請求項7】
炭化水素系燃料及び含酸素系燃料が、灯油、軽油、ジェット燃料、ナフサ、ガソリン、分解ガソリン、バイオフューエル、LNG、LPG、天然ガス、都市ガス、ジメチルエーテル、メタノール、及びエタノールの中から選ばれる一種又は二種以上の混合物である請求項1〜6のいずれかに記載の脱硫方法。
【請求項8】
硫黄化合物を含有する燃料が、リサーチオクタン価がRの接触分解ガソリンであり、脱硫した接触分解ガソリンのリサーチオクタン価が、R−3以上である請求項1〜7のいずれかに記載の脱硫方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−256215(P2011−256215A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129151(P2010−129151)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】