説明

燃料の製造方法

【課題】塩ビ含有廃プラスチックを熱分解させず、塩素だけを分離し、且つ、粉砕しやすく、利用しやすい固形燃料を、廃熱を利用しやすい低温で、効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】塩ビ含有廃プラスチックを、攪拌しながら水蒸気を充満させたキルン、二軸パドルミキサー及び多段式乾燥機から選ばれる外熱式処理装置内で、220〜300℃で処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩ビ含有廃プラスチックから、燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックは、ボイラーやセメントキルン等の炉で代替燃料として利用されているが、塩ビを含む廃プラスチックは、ボイラーの腐食、セメント品質への悪影響などから、使用量が制限されてきた。このため、自動車シュレッダーダスト(ASR)や、建設系廃プラスチック等、大量の廃プラスチックが埋め立てられたり、焼却されたりしている。
しかしながら、埋立地の確保は年々難しくなっている。また、温暖化ガス排出量制限のためには、廃プラスチックは、焼却せず、燃料として利用し、化石燃料の使用量を削減するのが望ましい。
【0003】
従来、このような塩素含有量の高い廃プラスチックのサーマルリサイクルを推進するため、過熱脱塩やガス化プロセスの適用が検討されている。しかし、これらの技術は、事業化された例はあるが、どれも普及していないのが実情である。また、過熱脱塩やガス化プロセスでは、350℃以上の高い温度で運転するため、化石燃料などを熱源として利用するのが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1には、塩ビ含有廃プラスチック等の高分子材料を、過飽和水蒸気雰囲気内において、150〜350℃の温度範囲で加熱して炭化する方法が記載され、乾留ガスを燃やさずに回収除去できることが記載されている。
しかしながら、高分子材料を炭化するには、この温度範囲では時間がかかりすぎるため、高分子材料を遠赤外線によって直接加熱する必要があり、遠赤外線の効果を前処理として5cm以下に破砕したり、発泡体を予め加熱減容処理しておく必要があった。
また、一般に、高分子材料を炭化すると、乾留ガスが炭化装置の排ガスダクト内で凝縮したり、重合したりして、タール状に付着してトラブルとなることが多い。
さらには、炭化するため、乾留ガス、炭化物、熱分解油、タール状物、廃液等、多くの種類の産物が発生するため、それらを有効利用するためには多額の設備や費用が必要となるという問題点がある。
【0005】
特許文献2には、塩ビを含む廃プラスチックを脱塩した炭化燃料の内部に、揮発分の少ない微粉燃料が分散して一体化した固体燃料が記載され、当該固体燃料は、塩ビを含む廃プラスチックと微粉燃料を掻き上げて落下させることで混合しながら300〜380℃に加熱して製造されることが記載されている。
この方法は、一般に加熱脱塩で脱塩反応が生じる300℃以上において、溶融した廃プラスチックと粉体を混合して、粉砕しやすい固体を回収し、燃料化するものである。混合する微粉燃料については、熱分解によってガス化する量が少ないことが必要とされている。これは、300〜380℃ではガス化が少なからず起こるためであり、材料や温度によっては、固体燃料の回収率が低下するとともに、発生したガスの処理のための設備が大きくなるという問題がある。
【0006】
特許文献3には、融着防止剤として、有機物を燃焼した後の燃焼ガスに同伴するダスト又は微粉炭を、廃プラスチックとともに加熱炉に供給し、大気圧より低い圧力下で及び/又は酸素含有ガスを供給しながら加熱・熱分解を行う固体原燃料の製造方法が記載されている。
しかしながら、この方法においては、圧力調整や酸素ガスの供給などの設備や、高温での加熱処理が必要であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−15555号公報
【特許文献2】特開2009−235215号公報
【特許文献3】特開2009−269965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、塩ビ含有廃プラスチックを熱分解させず、塩素だけを分離し、且つ、粉砕しやすく、利用しやすい固形燃料を、廃熱を利用しやすい低温で、効率良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、水蒸気を充満させた熱処理装置内で、220〜300℃で被処理物を処理することにより、塩素を効率良く除去し、燃料を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、塩ビ含有廃プラスチックを、攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処理装置内で、220〜300℃で処理することを特徴とする燃料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少ないエネルギーで塩ビ含有廃プラスチックを分解し、塩素を効率良く除去することができ、常圧で連続処理して、燃料を効率良く製造することができる。また、得られる燃料は、総発熱量が高く、粉砕性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる塩ビ含有廃プラスチックとしては、例えば、ASR、建設系廃プラスチック、パルパーかす、容器包装廃プラ選別残渣等が挙げられる。
【0013】
本発明においては、前記のような塩ビ含有廃プラスチックを、水蒸気が充満した220〜300℃のほぼ大気圧の熱処理装置に連続的に投入し、攪拌しながら処理を行う。
熱処理装置としては、例えば、キルン、二軸パドルミキサー、多段式乾燥機等の外熱式処理装置を用いることができる。
【0014】
また、これらの装置に水蒸気を導入する方法としては、(a)原料の水分として処理装置に導入する、(b)直接処理装置に飽和水蒸気を導入する、(c)処理装置の摺動部シールガスとして導入する、(d)過熱水蒸気を導入する方法が挙げられる。
更に、220〜300℃の過熱水蒸気雰囲気とするには、(a)〜(c)の場合、処理装置を外熱式として水蒸気と原料を過熱する方式をとることができる。また、(d)の場合、過熱水蒸気のみで原料を熱処理することが可能であるが、外熱式加熱との併用によって原料を熱処理することもできる。
導入される水蒸気の量は、熱処理装置の形状、充填率、処理する廃プラスチックの塩素含有量、含水率、性状等によって異なり、特に限定されない。例えば、流通させる水蒸気量が少ないと、熱処理装置の加熱されていない部分において水蒸気が凝縮し、濃い塩酸となって処理物に混じる可能性があるため、注意が必要である。一方、水蒸気量が多いと、水蒸気を製造するためのエネルギーが膨大となり、エネルギー効率が低下するので、好ましくない。
【0015】
処理温度は、220〜300℃であるが、特に250〜280℃が好ましく、30〜60分程度処理するのが好ましい。
熱処理装置の熱源としては、セメントキルン、廃棄物焼却炉等の低温の廃熱を効率的に使用することができ、安価に処理できるほか、爆発等の心配がなく、安全に処理することができる。
【0016】
本発明においては、塩ビ含有廃プラスチックを処理する際、有機物含有粉粒体を混合して処理することができる。
上記のような処理により、廃プラスチック中の塩ビから塩素が分離し、HClとして水蒸気といっしょに排気される。しかし、廃プラスチックの種類等によっては、処理中に溶融し、処理装置に付着してトラブルを起こしやすい場合があり、また、一度溶融した廃プラスチックは、排出されるときには塊となってしまい、粉砕されにくくなる場合もある。
そのような場合に、有機物含有粉粒体を混合して処理すると、粉粒体が廃プラスチックの融着防止効果を発揮して、安定した処理が可能になるとともに、被粉砕性の良い処理物を得ることができる。
【0017】
かかる有機物含有粉粒体としては、例えば、乾燥下水汚泥、下水汚泥炭化物、コークスダスト、木くず等が挙げられる。
有機物含有粉粒体は、廃プラスチック由来の灰分と有機物含有粉体との合計で、全処理物中に20〜60質量%、特に30〜50質量%となるよう、混合されるのが好ましい。
なお、特許文献2には、溶融したプラスチックと混合する粉体として、揮発分の少ない微粉燃料を用いるとしている。これは、300〜380℃では、プラスチックの熱分解・ガス化が多くなることから、固体燃料の回収率低下防止と発生するガス量の抑制およびガス・廃水処理設備費用の抑制のために規定されているものである。
本発明においては、熱分解が殆ど起こらない低い温度で処理するため、溶融したプラスチックに混合する粉体について、揮発分を制限する必要がない。
【0018】
熱処理装置内で分解・気化した塩素は、水蒸気とともに装置外に導出される。
排出された塩素を含む水蒸気は、アルカリ成分を含む水を用いたスクラバー等で塩素を除去したり、塩酸回収設備で塩酸を回収後、残留した少量のガスはセメントキルン燃焼用空気として利用したり、脱塩設備の熱源において燃焼脱臭したりして、利用することが可能である。
【0019】
一方、処理後に得られる固形分は、再生固形燃料として使用される。
この固形分は、塩素濃度が0.5質量%程度まで低減され、そのまま、燃料として利用可能なものである。
また、廃プラスチックに含まれていた塩素は十分に除去されつつ、燃料となり得る他の化学成分(炭素、水素等)は、ほとんど除去されていないので、固形燃料として用いた際の総発熱量も高いものである。
【0020】
また、本発明により得られる燃料は、被粉砕性も良好なものである。
例えば、固形燃料をセメントキルンで好適に使用できる条件として、粒度が1.5mm以下の割合を90%以上とするのが好ましいが、本発明の燃料は、このような粒度に粉砕することが可能である。
【実施例】
【0021】
実施例1
原料の温度が所定の処理温度になるよう、外熱式キルン(プロパンガスを熱源とした外熱式ロータリーキルン(内径500mm×長さ4950mm(加熱部分長3000mm))を加熱し、外熱式キルンのフードから水蒸気を送入した。滞留時間は、キルンの回転数により調整した。自動車シュレッダーダスト、建設系混合廃プラスチックを処理したときの処理温度と滞留時間、塩素残量を、表1に示す。
【0022】
なお、塩素濃度は、エシュカ法により測定した値を用い、脱塩率は、次式により算出した。
【0023】
【数1】

【0024】
また、歩留まりは、次式のより算出した。
【0025】
【数2】

【0026】
【表1】

【0027】
処理温度が220〜300℃では、十分な脱塩効果が得られるとともに、歩留まりも良好である。
これに対し、200℃では、十分な脱塩効果が得られず、350℃では、歩留まりが低下する。
歩留まりは、原料が本来有する水分の蒸発による低下の他、粉塵の散逸、有機物の揮発・熱分解ガス化によっても低下する。300℃では、有機物の揮発・熱分解ガス化が始まるものと考えられ、熱量の損失に繋がるほか、排ガスの処理に負荷をかけるため、300℃を超える加熱は好ましくない。
【0028】
実施例2
原料の温度が所定の処理温度になるよう、外熱式キルン(プロパンガスを熱源とした外熱式ロータリーキルン(内径500mm×長さ4950mm(加熱部分長3000mm))を加熱し、外熱式キルンのフードから水蒸気を送入した。滞留時間は、キルンの回転数により調整した。容器包装胚プラスチック再商品化残渣(以下、容リ残渣という)及び乾燥下水汚泥を、以下の条件で処理し、歩留まり、塩素残量及び脱塩率を、実施例1と同様にして求めた。結果を表2に示す。
【0029】
(1)処理条件:
処理温度:250℃
滞留時間:60分
(2)材料:
容リ残渣:比重分離残渣(重質残渣) 塩素=3.2%、水分8%
粉粒体:乾燥下水汚泥 塩素0.06%、水分1.2%
【0030】
【表2】

【0031】
容リ残渣は、主に塩ビ、あるいはオレフィン系樹脂にアルミが付着したもので構成されており、容リ残渣のみを処理すると、溶融した樹脂がキルンに付着し、排出不良となる傾向があった。
これに対し、容リ残渣80質量部に乾燥下水汚泥を20〜60質量部の割合で配合した場合、キルンへの付着は解消された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩ビ含有廃プラスチックを、攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処理装置内で、220〜300℃で処理することを特徴とする燃料の製造方法。
【請求項2】
塩ビ含有廃プラスチックと有機物含有粉粒体を、混合して処理する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
全処理物における有機物含有粉粒体の質量割合が、20〜60質量%である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
熱処理装置が、キルン、二軸パドルミキサー及び多段式乾燥機から選ばれる外熱式処理装置である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
水蒸気を、(a)原料の水分として処理装置に導入、(b)直接処理装置に飽和水蒸気を導入、(c)処理装置の摺動部シールガスとして導入、(d)過熱水蒸気を導入のいずれかにより処理装置に導入する請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−31283(P2012−31283A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172040(P2010−172040)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】