説明

燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造

【課題】燃料の透過量の管理性が向上する燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造を提供する。
【解決手段】内側にバリア層8が形成され、外側に熱溶着層7が形成された筒状部材6を、樹脂製のタンク本体1の開口部2周りに熱溶着により取り付ける構造であって、バリア層8の一部がタンク本体1の外面における開口部2よりもタンク内側に挿入され、開口部2とバリア層8との隙間Lが熱溶着層7により閉塞される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の燃料タンクにおいて、筒状部材を熱溶着によってタンク本体に取り付ける構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載される燃料タンクは、防錆性や軽量化等の観点から近年ではブロー成形による樹脂製のタイプのものが主流である。通常、燃料タンクには、液面上の空間の燃料蒸発ガスをタンク外へ導出してタンク内圧を一定に保つためのベントバルブや、フィラーチューブに接続される逆流防止バルブ等、各種の筒状の構成部材が取り付けられており、これらの筒状部材は製造工程の簡略化等の点から熱溶着方式で取り付けられることが多い。
【0003】
図3は燃料タンクにおける筒状部材の従来の取り付け構造を示す断面説明図である。筒状部材6は、燃料タンクのタンク本体1に穿孔された開口部2周りに取り付けられる。タンク本体1の断面構造は、例えば、HC(炭化水素)の不透過性に優れたEVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)に代表されるバリア層(筒状部材側との混同を避けるため、以降タンクバリア層という)3を、PE(ポリエチレン)に代表される熱溶着が可能な熱溶着層(同様にタンク熱溶着層という)4、5で挟んだ多層構造からなる。
【0004】
一方、筒状部材6は、外周面として形成される熱溶着層7と、その内側に形成されるバリア層8とを備える。熱溶着層7、バリア層8の材質としては、それぞれPE、EVOHが挙げられる。なお、仮想線で示すように、バリア層8の内側には、例えば図示しないバルブ等を支持する筒状筐体9が適宜に形成される場合もある。筒状筐体9の材質としてはPOM(ポリアセタール)が挙げられる。
【0005】
開口部2周りに突き当てられる筒状部材6の端部は拡径したジョイント部6aとして形成されている。このジョイント部6aの突き当て部周りだけは熱溶着層7のみから構成されており、ジョイント部6aの端部が開口部2周りに突き当てられて熱溶着処理を受けることで、筒状部材6がタンク本体1に固定される。なお、以上と同様の取り付け構造が特許文献1の図2に記載されている。
【特許文献1】特開2005−82013号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した筒状部材6の取り付け構造では、バリア層8とタンクバリア層3との間に燃料の透過を許容する領域が形成され、その領域はジョイント部6aの端部周りとタンク熱溶着層4から構成される。図3にその領域の高さ寸法を符号Hにて示す。つまり、図3の取り付け構造では、燃料の透過量に関する品質が高さ寸法Hによって決まる。しかしながら、燃料タンクの多量生産において高さ寸法Hを常に一定に維持するには、熱溶着時における筒状部材6の押し付け力や溶着温度等の各条件を厳密に管理する必要があり、場合によっては僅かな条件の違いで高さ寸法Hが変わるおそれがある。
【0007】
なお、バリア層8をジョイント部6aの下端まで形成すれば前記問題は解消されるかに思えるが、バリア層8は熱溶着性が考慮されていない材質であるため、変形率の少ないバリア層8の下端部が、熱溶着層7とタンク熱溶着層4との突き当て部に影響を及ぼすおそれがある。このことから、タンク熱溶着層4への突き当ては、図3に示すように熱溶着層7のみとすることが望ましい。
【0008】
本発明は、このような問題を解消するために創作されたものであり、燃料の透過量の管理性が向上する燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するため、内側にバリア層が形成され、外側に熱溶着層が形成された筒状部材を、樹脂製のタンク本体の開口部周りに熱溶着により取り付ける構造であって、前記バリア層の一部が前記タンク本体の外面における開口部よりもタンク内側に挿入され、前記開口部と前記バリア層との隙間が前記熱溶着層により閉塞される構成としたことを特徴とする燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造とした。
【0010】
この取り付け構造によれば、筒状部材の軸方向に関する燃料の透過領域については、タンク側の熱溶着層の厚み分の領域のみとなり、筒状部材の径方向に関する燃料の透過領域については、その総面積が常に等しくなることから、燃料の透過量のばらつきを低減できる。
【0011】
また、本発明は、前記バリア層の一部が前記タンク本体のタンクバリア層よりもタンク内側に挿入されることを特徴とする燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造とした。
【0012】
この取り付け構造によれば、燃料の透過領域が、筒状部材の径方向に関する燃料の透過領域のみとなる。この筒状部材の径方向に関する燃料の透過領域は、その総面積が常に等しいので、燃料の透過量が一定となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料の透過量に関する管理性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1および図2は本発明の説明図であり、図1(a)、(b)は、それぞれタンク本体に対する筒状部材の取り付け前、取り付け後の状態を示す断面図、図2はタンク本体の開口部と筒状部材(バリア層)との隙間状態を示す平面図である。
【0015】
図1において、筒状部材6は、燃料タンクのタンク本体1に穿孔された開口部2周りに取り付けられる。タンク本体1の断面構造は、図3に示したものと同じであり、例えば、HC(炭化水素)の不透過性に優れたEVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)に代表されるタンクバリア層3を、PE(ポリエチレン)に代表される熱溶着が可能なタンク熱溶着層4、5で挟んだ多層構造からなる。なお、具体的には、タンクバリア層3とタンク熱溶着層4、5との間にそれぞれ接着材層や場合によっては再生層などが介在しているが、図では省略している。これらの接着材層や再生層などは透過燃料に対するバリア機能を有さない。
【0016】
一方、筒状部材6は、外周面として形成される熱溶着層7と、その内側に形成されるバリア層8とを備える。熱溶着層7、バリア層8の材質としては、それぞれPE、EVOHが挙げられる。熱溶着層7とバリア層8とは、例えば二色成形によって一体的に形成される。バリア層8の内側には、図3に示したPOM等で成形された筒状筐体9が設けられる場合もある。
【0017】
開口部2周りに突き当てられる筒状部材6の端部は拡径したジョイント部6aとして形成される。このジョイント部6aにおいて、バリア層8は、熱溶着層7の下端よりも下方まで延設されている。バリア層8の外径は、タンク本体1の開口部2の直径よりも小さく設計されている。
【0018】
以上の構成からなる筒状部材6は、図1(b)に示すように、バリア層8の一部(下端周り)がタンク本体1の外面における開口部2よりもタンク内側に挿入され、熱溶着層7のみがタンク本体1の外面に突き当たる。この状態で突き当て部を熱溶着すると、筒状部材6の径方向に関する開口部2とバリア層8との隙間Lが熱溶着層7により閉塞される。図1(b)では、バリア層8の下端をタンク本体1の内面レベルに位置させた場合を示している。
【0019】
本発明によれば、バリア層8の下端が、少なくともタンク本体1の外面における開口部2よりもタンク内側に挿入されることで、高さ方向(筒状部材6の軸方向)における燃料の透過を許容する領域はタンク熱溶着層4の厚み分の領域のみとなり、図3に示した高さ寸法Hのばらつきの問題が低減される。好ましくは、バリア層8の一部(下端)がタンクバリア層3よりもタンク内側に挿入される構成が良く、この場合は高さ方向に関してタンク熱溶着層4がバリア層8によって全て覆われることになるので、図3に示した高さ寸法Hのばらつきの問題が生じない。また、筒状部材6の径方向に関する燃料の透過領域の問題については以下の通りである。
【0020】
本発明において、筒状部材6の組み付け性を考慮した場合、バリア層8を開口部2に圧入嵌合する構造ではなく、図1(b)に示すように、筒状部材6の径方向に関して開口部2とバリア層8との間に十分な隙間Lが設けられるようにして、筒状部材6を容易にタンク本体1に仮組み付けできる構造とすることが望ましい。このように大きな隙間Lを形成した場合、仮組み付けの際、図2(a)のようにバリア層8が開口部2に対して同心状に位置する他に、図2(b)、(c)のように、バリア層8が開口部2に対して偏心して位置することがある。
【0021】
しかし、筒状部材6の軸方向から見た場合の、バリア層8と開口部2との隙間Lの総面積(図2に斜線にて示す)の値は、いずれの場合であっても同じであるから、燃料の透過量はいずれの場合でも等しく保たれる。
【0022】
以上のように、バリア層8の一部(下端周り)がタンク本体1の外面における開口部2よりもタンク内側に挿入され、開口部2とバリア層8との隙間Lが熱溶着層7により閉塞される構成とすれば、筒状部材6の軸方向に関する燃料の透過領域については、タンク熱溶着層4の厚み分の領域のみとなり、筒状部材6の径方向に関する燃料の透過領域(隙間L)については、その総面積が常に等しくなることから、燃料タンクを多数製造するに当たり、燃料の透過量のばらつきを低減できる。これにより、燃料の透過量に関する管理性が向上する。
【0023】
さらに、バリア層8の一部(下端)がタンクバリア層3よりもタンク内側(厳密に言えば、タンク熱溶着層4とタンクバリア層3の境界面よりもタンク内側)に挿入される構造とすれば、燃料の透過領域は、筒状部材6の径方向に関する燃料の透過領域である前記隙間Fのみとなるので、燃料の透過量が一定となる。
【0024】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、熱溶着層とバリア層とを有した筒状部材であれば、燃料タンクに取り付けられるあらゆる部材に対して適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る説明図であり、(a)、(b)は、それぞれタンク本体に対する筒状部材の取り付け前、取り付け後の状態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る説明図であり、タンク本体の開口部と筒状部材(バリア層)との隙間状態を示す平面図である。
【図3】燃料タンクにおける筒状部材の従来の取り付け構造を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 タンク本体
2 開口部
6 筒状部材
7 熱溶着層
8 バリア層
L 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側にバリア層が形成され、外側に熱溶着層が形成された筒状部材を、樹脂製のタンク本体の開口部周りに熱溶着により取り付ける構造であって、
前記バリア層の一部が前記タンク本体の外面における開口部よりもタンク内側に挿入され、
前記開口部と前記バリア層との隙間が前記熱溶着層により閉塞される構成としたことを特徴とする燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造。
【請求項2】
前記バリア層の一部が前記タンク本体のタンクバリア層よりもタンク内側に挿入されることを特徴とする請求項1に記載の燃料タンクにおける筒状部材の取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−207761(P2008−207761A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48723(P2007−48723)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【Fターム(参考)】