説明

燃料タンク装置

【課題】インレットパイプ内が負圧になった場合でも蒸発燃料の放出を防止できる燃料タンク装置を得る。
【解決手段】ダイヤフラム弁部28の背圧室38とインレットパイプ16の給油ガン挿入口18の近傍とを接続する連通配管46の接続部分に開口48が形成され、通常は、連通配管46内の弁部材50で閉塞されている。インレットパイプ16内が負圧になった場合でも、開口48が弁部材50で閉塞されているので負圧がダイヤフラム弁部28の背圧室38に作用せず、燃料タンク本体14内の蒸発燃料の排出が抑制される。燃料タンク本体14への給油時には、移動片60が給油ガン20に押され、押圧突起64が弁部材50を押圧して、開口48が開放されるので、ダイヤフラム弁部28の背圧室38が大気圧となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク本体内の蒸発燃料の外部放出を防止した燃料タンク装置には、たとえば特許文献1に示されるように、ダイヤフラムで分離されたタンク室と背圧室を有する差圧弁を燃料タンク本体に設け、ダイヤフラムに形成した連通孔を通じて、背圧室に流入した液体燃料をタンク室に戻せるようにしたものがある。この構造では、背圧室は、インレットパイプと連通管により連通されている。
【0003】
ところで、このように背圧室をインレットパイプと連通すると、たとえば車両旋回時等にインレットパイプ内の燃料液面が低下してインレットパイプ内が負圧になると、この負圧が連通管を通じて背圧室にも及ぶため、ダイヤフラムが開弁されてしまい、燃料タンク本体内の蒸発燃料がタンク室、給油時ベーパラインを通りキャニスタへ一度に多量に流出するおそれがある。
【特許文献1】特開2001−180308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、インレットパイプ内が負圧になった場合でも蒸発燃料の放出を防止できる燃料タンク装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明では、燃料が収容される燃料タンク本体と、前記燃料タンク本体に接続されたインレットパイプと、前記燃料タンク本体に連通する主室と、この主室と弁体で隔てられた副室とを備え主室が副室よりも高圧になると主室を開放する差圧弁と、前記差圧弁の副室と前記インレットパイプとを連通する連通管と、前記連通管と前記インレットパイプの接続部分に設けられて閉弁状態を維持すると共に燃料タンク本体への給油状態で開弁してインレットパイプと連通管とを連通させる弁機構と、を有することを特徴とする。
【0006】
この燃料タンク装置では、差圧弁の副室とインレットパイプとは連通管で連通されているが、これらの接続部分に設けられた弁機構は、燃料タンク本体への給油状態以外では閉弁状態を維持している。したがって、インレットパイプ内が負圧になっても、この負圧が連通管を介して差圧弁に作用することはない。差圧弁の不用意な開弁が阻止されるため、蒸発燃料の放出も防止できる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記弁機構が、給油時と非給油時で前記インレットパイプ内の存在状態を変化させるインレット内部部材に押圧されて移動する移動片と、前記連通管の前記インレットパイプへの開口部分に設けられ、前記移動片の移動によって開口部分を開放又は閉塞する開閉片と、を有することを特徴とする。
【0008】
ここでいう「インレット内部部材」としては、給油時にはインレットパイプ内に存在し、非給油時にはインレットパイプ内に存在しなくなる部材(たとえば、給油ガン)や、この逆に、非給油時にインレットパイプ内に存在し、給油時にインレットパイプ内に存在しなくなる部材(たとえばフューエルキャップの一部分)を挙げることができる。また、これら以外に、給油時と非給油時とで、インレットパイプ内の位置が変わる部材であってもよい。
【0009】
したがって、給油時と非給油時とでインレット内部部材がインレットパイプ内の存在状態を変化させると、このインレット内部部材に押圧されて移動片が移動する。そして、移動片の移動により、連通管のインレットパイプへの開口部分に設けられた開閉片が、この開口部分を開放又は閉塞する。
【0010】
このように、移動片及び開閉片を備えた機械的且つ簡易な構造で、弁機構を構成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記構成としたので、インレットパイプ内が負圧になった場合でも蒸発燃料の放出を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1には、本発明の第一実施形態の燃料タンク装置12が示されている。この燃料タンク装置12は、燃料が収容される略箱状の燃料タンク本体14を有している。燃料タンク本体14の1つの側面14Sの上部(上面14Tとの境界部分)には、インレットパイプ16の下部が挿入されている。インレットパイプ16の上端の開口部分は給油ガン挿入口18とされており、給油ガン20(図2及び図3参照)が挿入されて燃料タンク本体14に給油される。なお、給油ガン挿入口18には、フューエルキャップ22がねじ込まれて閉塞されるようになっている。
【0013】
燃料タンク本体14の上面14Tには、差圧弁24が取り付けられている。差圧弁24は、下部のフロートバルブ部26と、上部のダイヤフラム弁部28とが一体化されて構成されており、図示しない連通部によって、フロートバルブ部26は燃料タンク本体14と連通されている。
【0014】
フロートバルブ部26と、上部のダイヤフラム弁部28との間には、中央に連通孔32が形成された壁体30が設けられている。また、フロートバルブ部26には、燃料タンク本体14の燃料液面の上昇に伴って上昇するフロート34が備えられている。通常は、フロート34は連通孔32を閉塞していないが、燃料タンク本体14の燃料液面の上昇に伴ってフロート34が上昇すると、上昇したフロート34によって連通孔32が閉塞される。
【0015】
ダイヤフラム弁部28は、ダイヤフラム36によって、背圧室38とタンク室40とに分割されている。タンク室40には、図示しないキャニスタと接続されたキャニスタ連通管42の一端が連結されており、この一端の開口部42Aがダイヤフラム36と対向している。また、背圧室38のバネ44によって、ダイヤフラム36は開口部42Aに付勢されている。したがって、通常は開口部42Aはダイヤフラム36で塞がれているが、燃料給油時にはタンク室40が背圧室38よりも相対的に高圧になり、バネ44の付勢力に抗してダイヤフラム36が図1に二点鎖線で示すように変形すると、開口部42Aが開放される。これにより、燃料タンク本体14内の蒸発燃料が、フロートバルブ部26からダイヤフラム弁部28(タンク室40及び背圧室38)、さらにキャニスタ連通管42を経て、図示しないキャニスタへ移動可能となる。
【0016】
ダイヤフラム弁部28の背圧室38とインレットパイプ16の給油ガン挿入口18の近傍とは、連通配管46で接続されている。図2及び図3に詳細に示すように、インレットパイプ16には、連通配管46の接続部分に開口48が形成されている。また、連通配管46内には、連通配管46の長手方向に移動可能に、弁部材50が収容されている。連通配管46内にはバネ支持部52が形成されており、このバネ支持部52で支持されたバネ54によって、弁部材50はインレットパイプ16に接近する方向に付勢されている。したがって、通常は、このバネ54の付勢力を受けた弁部材50によって、開口48は閉塞されている。なお、バネ支持部52には連通配管46の長手方向に沿って複数の貫通孔52Hが形成されており、連通配管46内の気体の移動を妨げないようになっている。
【0017】
インレットパイプ16内には、開閉機構56が配置されている。開閉機構56は、支軸58を中心として一体的に回動する移動片60と開閉片62を有している。開閉片62の先端近傍には、開口48を通じて弁部材50を押圧可能な押圧突起64が形成されている。
【0018】
図2に示すように、移動片60は、その先端部分が通常状態でインレットパイプ16の中心近傍に位置しており、インレットパイプ16内に挿入された給油ガン20によって押されるようになっている。
【0019】
また、開閉片62は、インレットパイプ16内に給油ガン20が挿入されていないか、挿入されていても移動片60を押圧していない状態では、押圧突起64が弁部材50を押圧しない位置及び形状とされている。
【0020】
そして、図3に示すように、インレットパイプ16内に挿入された給油ガン20によって移動片60が押されると、移動片60と開閉片62とが支軸58周りに矢印R1方向に回動する。この回動により、押圧突起64が弁部材50を押圧するため、弁部材50がバネ54の付勢力に抗して矢印R1方向に移動し、開口48が開放される。
【0021】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0022】
図2に示すように、通常状態、すなわち、インレットパイプ16内に給油ガン20が挿入されていないか、挿入されていても移動片60を押圧していない状態では、押圧突起64は弁部材50を押圧しておらず、開口48はバネ54の付勢力を受けた弁部材50によって閉塞されている。このため、図1に実線で示すように、ダイヤフラム弁部28の背圧室38の圧力が不用意に変動することはなく、開口部42Aが開放されてしまうこともない。
【0023】
ここで、たとえば車両の旋回等によって、燃料タンク本体14内の燃料が一旦インレットパイプ16内に移動し、直後にこの燃料が燃料タンク本体14内に戻った場合等には、インレットパイプ16内が負圧になることがある。
【0024】
このようにインレットパイプ16内が負圧になった場合に、たとえば連通配管46がインレットパイプ16に単に接続されている構成、すなわち、本実施形態の弁部材50がなく、開口48が常に開放されている構成では、インレットパイプ16内の負圧が連通配管46を介してダイヤフラム弁部28の背圧室38に作用することがある。そしてこれにより、ダイヤフラム36が図1に二点鎖線で示すように変形して、開口部42Aが開放されてしまうおそれがある。
【0025】
これに対し本実施形態では、インレットパイプ16内が負圧になった場合でも、開口48が弁部材50で閉塞された状態が維持されるので、インレットパイプ16内の負圧がダイヤフラム弁部28の背圧室38に作用しない。このため、ダイヤフラム弁部28の開口部42Aも閉塞された状態に維持され、燃料タンク本体14内の蒸発燃料の排出が抑制される。
【0026】
燃料タンク本体14への給油時には、インレットパイプ16からフューエルキャップ22を外し、図3に示すように、給油ガン20をインレットパイプ16内に挿入する。移動片60が給油ガン20に押されるので、開閉機構56が全体として矢印R1方向に回動し、押圧突起64が弁部材50を押圧する。そして、弁部材50がバネ54の付勢力に抗してインレットパイプ16から離間する方向に移動し、開口48が開放されるので、ダイヤフラム弁部28の背圧室38が大気圧となる。
【0027】
この状態で給油が開始されると、燃料タンク本体14の内圧が上昇する。ダイヤフラム弁部28のタンク室40の圧力も高くなるので、背圧室38との差圧によってダイヤフラム36が図1に二点鎖線で示すように変形し、ダイヤフラム弁部28が開弁される(開口部42Aが開放される)。これにより、燃料タンク本体14内の気体(蒸発燃料)を図示しないキャニスタへと移動させて、給油を行うことが可能となる。なお、給油によって燃料タンク本体14内の燃料液面が上昇すると、フロート34も上昇する。上昇したフロート34が連通孔32を閉塞すると、以降は燃料タンク本体14内の気体がキャニスタに移動しなくなるので、燃料がインレットパイプ16内を上昇して給油ガン20に達する。そして、給油ガン20のセンサが燃料を検知することで、給油が停止される。
【0028】
このように、本実施形態では、通常状態、すなわち、燃料タンク本体14に給油していない非給油状態で、連通配管46のインレットパイプ16との接続部分の開口48を弁部材50が閉塞しており、インレットパイプ16内に負圧が生じても、この負圧がダイヤフラム弁部28の背圧室38に作用しないようにしている。そして、給油時には、開口48を開放することで、背圧室38を大気圧とし、給油に影響が出ないようにしている。
【0029】
上記のように、通常状態で連通配管46とインレットパイプ16との接続部分を閉塞し、給油時には開放する構成は、上記実施形態に限定されず、たとえば、以下の第二実施形態の構成とすることも可能である。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同一の構成要素、部材等は同一符号を付して、詳細な説明を省略する。また、第二実施形態の燃料タンク装置の全体的構成は第一実施形態と同様であるので、図示を省略する。
【0030】
図4及び図5に示すように、第二実施形態では、第一実施形態の弁部材50及び開閉機構56に代えて、開閉板74及び接触板76を有する弁部材72が設けられている。開閉板74及び接触板76は支軸80によって回動可能にインレットパイプ16に取り付けられている。そして、開閉板74及び接触板76が矢印R2方向及びその反対方向に一体的に回動することで、開閉板74が開口48を直接的に開閉する。
【0031】
支軸80周りにはバネ78が配設されており、開閉板74及び接触板76を矢印R2方向、すなわち開閉板74が開口48を開放する方向に付勢している。
【0032】
接触板76は、インレットパイプ16の給油ガン挿入口18にねじ込まれたフューエルキャップ22に接触する位置に形成されている。このようにフューエルキャップ22が接触板76に接触した状態で、開閉板74が開口48を閉塞するように、開閉板74の位置及び形状が決められている。これに対し、フューエルキャップ22を緩めて矢印M1方向に移動させると、バネ78の付勢力を受けて開閉板74及び接触板76が矢印R2方向に回動し、開口48を開放する。
【0033】
なお、開閉板74及び接触板76は、給油時にインレットパイプ16内に挿入された給油ガン20には接触しない位置及び形状とされている。
【0034】
このように第二実施形態では、通常状態(非給油時)にはフューエルキャップ22がインレットパイプ16の給油ガン挿入口18にねじ込まれ、給油時には取り外される(緩められる)ことを利用して、連通配管46とインレットパイプ16との接続部分を開閉するようにしている。
【0035】
上記から分かるように、本発明のいずれの実施形態においても、給油時と非給油時とでインレットパイプ16内での存在状態を変化させる部材、すなわち、給油時にはインレットパイプ16内に存在し、非給油時にはインレットパイプ16内に存在しなくなる部材である給油ガン20や、この逆に、非給油時にインレットパイプ16内に存在し、給油時にインレットパイプ16内に存在しなくなる部材であるフューエルキャップ22を利用し、弁部材50や弁部材72を移動させて、連通配管46のインレットパイプ16との接続部分(開口48)を開閉するようにしている。本発明の弁機構としては、このような機械的構造によるものだけに限定されない。すなわち、たとえば、インレットパイプ16内で給油ガン20有無を検知するセンサを設け、電気的に開閉する弁をこのセンサからの信号で制御することで、連通配管46のインレットパイプ16との接続部分を開閉するような構成を排除するものでない。ただし、このような電気的な開閉構造では、構造の複雑化や部品点数の増大、あるいはコスト高を招くおそれがある。これに対し、上記各実施形態では、機械的且つ簡易な構造で、連通配管46のインレットパイプ16との接続部分(開口48)を開閉可能となり、さらには、低コスト化を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第一実施形態の燃料タンク装置の全体構成を概略的に示す正面図である。
【図2】本発明の第一実施形態の燃料タンク装置において連通配管とインレットパイプとの接続部分を通常状態(非給油状態)で示す断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態の燃料タンク装置において連通配管とインレットパイプとの接続部分を給油状態で示す断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態の燃料タンク装置において連通配管とインレットパイプとの接続部分を通常状態(非給油状態)で示す断面図である。
【図5】本発明の第二実施形態の燃料タンク装置において連通配管とインレットパイプとの接続部分を給油状態で示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
12 燃料タンク装置
14 燃料タンク本体
14T 上面
14S 側面
16 インレットパイプ
18 給油ガン挿入口
20 給油ガン
22 フューエルキャップ
24 差圧弁
26 フロートバルブ部
28 ダイヤフラム弁部
30 壁体
32 連通孔
34 フロート
36 ダイヤフラム(弁体)
38 背圧室(副室)
40 タンク室(主室)
42 キャニスタ連通管
42A 開口部
44 バネ
46 連通配管(連通管)
48 開口
50 弁部材(開閉片、弁機構)
52 バネ支持部
52H 貫通孔
54 バネ
56 開閉機構(移動片、弁機構)
58 支軸
60 移動片
62 開閉片
64 押圧突起
72 弁部材(弁機構)
74 開閉板(開閉片)
76 接触板(移動片)
78 バネ
80 支軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が収容される燃料タンク本体と、
前記燃料タンク本体に接続されたインレットパイプと、
前記燃料タンク本体に連通する主室と、この主室と弁体で隔てられた副室とを備え主室が副室よりも高圧になると主室を開放する差圧弁と、
前記差圧弁の副室と前記インレットパイプとを連通する連通管と、
前記連通管と前記インレットパイプの接続部分に設けられて閉弁状態を維持すると共に燃料タンク本体への給油状態で開弁してインレットパイプと連通管とを連通させる弁機構と、
を有することを特徴とする燃料タンク装置。
【請求項2】
前記弁機構が、
給油時と非給油時で前記インレットパイプ内の存在状態を変化させるインレット内部部材に押圧されて移動する移動片と、
前記連通管の前記インレットパイプへの開口部分に設けられ、前記移動片の移動によって開口部分を開放又は閉塞する開閉片と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料タンク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−105640(P2008−105640A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292680(P2006−292680)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】